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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】歯間清掃具
(51)【国際特許分類】
   A61C 15/02 20060101AFI20230830BHJP
【FI】
A61C15/02 501
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018208286
(22)【出願日】2018-11-05
(65)【公開番号】P2019118798
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2021-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2017254578
(32)【優先日】2017-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503109640
【氏名又は名称】サンスター スイス エスエー
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【弁理士】
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】小松 和弘
(72)【発明者】
【氏名】加藤 啓介
(72)【発明者】
【氏名】ブッツ ユルゲン
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-119095(JP,A)
【文献】特開2017-109019(JP,A)
【文献】国際公開第2016/199835(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/076373(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/176297(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細長い軸状の芯基材部を備え、前記芯基材部を歯間部に挿入することにより、歯間部を清掃する歯間清掃具であって、
前記芯基材部が、熱可塑性樹脂および無機充填剤を含む樹脂組成物からなり、前記熱可塑性樹脂の重量平均分子量が40万以上であり、かつ数平均分子量が78000以上である、歯間清掃具。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂は、重量平均分子量が42万以上であり、かつ数平均分子量が80000以上である、請求項1に記載の歯間清掃具。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂が、オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、およびポリエステル系樹脂よりなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1または2に記載の歯間清掃具。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂がオレフィン系樹脂であり、前記オレフィン系樹脂がプロピレン系樹脂である、請求項1~のいずれか1項に記載の歯間清掃具。
【請求項5】
前記芯基材部の一端に連設されたハンドル基材部をさらに備える、請求項1~のいずれか1項に記載の歯間清掃具。
【請求項6】
前記樹脂組成物よりも軟質な材料からなり、前記芯基材部の表面を被覆する軟質部をさらに備える、請求項1~のいずれか1項に記載の歯間清掃具。
【請求項7】
前記樹脂組成物が、前記熱可塑性樹脂に相溶するエラストマをさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の歯間清掃具。
【請求項8】
前記エラストマが、スチレン系エラストマ、オレフィン系エラストマ、塩化ビニル系エラストマ、及びアミド系エラストマよりなる群から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性エラストマ(TPE)である、請求項に記載の歯間清掃具。
【請求項9】
前記無機充填剤が、繊維状無機充填剤、薄片状無機充填剤、および粒状無機充填剤よりなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1~のいずれか1項に記載の歯間清掃具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯間清掃具に関する。
【背景技術】
【0002】
歯間清掃具は、例えば、歯間部に挟まった食べ物滓や、主に歯の根元に付着し易い歯石の原因となる歯垢などを取り除き、虫歯や歯周病の予防を図るために広く用いられている。歯間清掃具としては、例えば、細長い軸状の芯基材部と、芯基材部の一端に連設されたハンドル基材部と、芯基材部の表面を被覆する軟質部と、を備えた歯間清掃具が実用化されている(特許文献1~3参照)。歯間清掃具のハンドル基材部を指で把持し、軟質部で被覆された芯基材部を歯間部に挿入し、主にその軸方向に往復動させることにより、歯垢や食べ物滓を除去し、歯ぐきや歯肉をマッサージして炎症を緩和する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4236571号公報
【文献】特許第3002668号公報
【文献】特表2001-506514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~3に記載された歯間清掃具も含めた、従来の歯間清掃具では、芯基材部を合成樹脂から構成し、かつ歯間部と直接接触する軟質部を合成樹脂よりも軟質のエラストマから構成することが一般的である。芯基材部を構成する合成樹脂には、機械特性、柔軟性、量産性などの観点から熱可塑性樹脂が主に使用されている。また、熱可塑性樹脂の機械特性を一層高めるために、繊維状や薄片状などの所定の形状を有する無機充填剤を配合した樹脂組成物が用いられることもある。以下、芯基材部とその表面を被覆する軟質部とを併せて「清掃部」とも呼ぶ。
【0005】
芯基材部を構成する合成樹脂の機械特性を高める理由としては、例えば、歯間清掃時に清掃部に負荷される力により、細長い軸状の芯基材部が折れやすいことが挙げられる。例えば、清掃部を歯間部に挿入するときには、清掃部の軸方向に対して大きな圧縮力が作用する。また、臼歯(特に大臼歯)や下顎側の前歯裏側の歯間部を清掃するときには、歯間部に挿入された清掃部は、その先端部から途中部が歯間清掃具の軸芯に対して60°~90°も湾曲した状態で出し入れすることから、清掃部には大きな曲げ力が作用する。このため、高い機械特性を有する合成樹脂からなる芯基材部でも、歯間清掃時に芯基材部や清掃部の折れ、復元性のない変形などが比較的頻繁に起こる。
【0006】
従来から、芯基材部は歯間部に挿入可能な極細径に成形されることから、芯基材部が見掛け上十分な柔軟性や弾力性を有すると認識されてきた。そして、芯基材部の折れを防止するためには、柔軟性や弾力性の増強よりもむしろ、芯基材部を構成する合成樹脂の機械強度を高めることが必要であると考えられてきた。このため、芯基材部の折れ対策として、ポリプロピレン系樹脂などの合成樹脂に、ガラス繊維などの無機充填剤を添加した樹脂組成物により芯基材部を構成することが、主に実施されてきた。
【0007】
本発明者らは、芯基材部の折れ防止の研究過程において、従来の技術常識に反し、合成樹脂の柔軟性や弾力性に繋がる特性として、合成樹脂の粘り気に着目し、合成樹脂の粘り気と芯基材部の折れとの関係について、さらに研究を重ねてきた。
【0008】
本発明の目的は、歯間清掃時に芯基材部が折れ難く、良好な耐用性を有し、歯間部への挿入性にも優れた歯間清掃具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、好ましい実施形態として、下記(1)~(10)の歯間清掃具を提供する。
(1)細長い軸状の芯基材部を備え、芯基材部を歯間部に挿入することにより、歯間部を清掃する歯間清掃具であって、芯基材部が、熱可塑性樹脂および無機充填剤を含む樹脂組成物からなり、熱可塑性樹脂の重量平均分子量が40万以上である、歯間清掃具。
(2)熱可塑性樹脂は、重量平均分子量が40万以上であり、かつ数平均分子量が78000以上である、上記(1)の歯間清掃具。
(3)熱可塑性樹脂は、重量平均分子量が42万以上であり、かつ数平均分子量が80000以上である、上記(1)または(2)の歯間清掃具
(4)熱可塑性樹脂が、オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、およびポリエステル系樹脂よりなる群から選ばれた少なくとも1種である、上記(1)~(3)のいずれかの歯間清掃具。
(5)熱可塑性樹脂がオレフィン系樹脂であり、オレフィン系樹脂がプロピレン系樹脂である、上記(1)~(4)のいずれかの歯間清掃具。。
(6)芯基材部の一端に連設されたハンドル基材部をさらに備える、上記(1)~(5)のいずれかの歯間清掃具。
(7)樹脂組成物よりも軟質な材料からなり、芯基材部の表面を被覆する軟質部をさらに備える、上記(1)~(6)のいずれかの歯間清掃具。
(8)樹脂組成物が、熱可塑性樹脂に相溶するエラストマをさらに含む、上記(1)~(7)のいずれかの歯間清掃具。
(9)エラストマが、スチレン系エラストマ、オレフィン系エラストマ、塩化ビニル系エラストマ、及びアミド系エラストマよりなる群から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性エラストマ(TPE)である、上記(8)の歯間清掃具。
(10)無機充填剤が、繊維状無機充填剤、薄片状無機充填剤、および粒状無機充填剤よりなる群から選ばれた少なくとも1種である、上記(1)~(9)のいずれかの歯間清掃具。
【0010】
本明細書において、数平均分子量および重量平均分子量はいずれもポリスチレン標準の
GPC(ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー)法により測定される、ポリスチレン換算値である。この測定は、たとえば、GPC装置およびGPCカラムを用い、測定溶媒:o-ジクロロベンゼン、オーブン温度:135℃、試料濃度:0.2%(w/v)の条件下、示差屈折率計で検出することにより行われる。GPC装置としては、たとえば、商品名:HLC-8121GPC/HT(東ソー(株)製)や、商品名;Prominence GPCシステム((株)島津製作所製)を使用できる。また、GPCカラムとしては、たとえば、商品名:Shodex GPC HT-806M(昭和電工(株)製)を使用できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の歯間清掃具は、歯間清掃時に芯基材部が折れ難く、良好な耐用性を有し、歯間部への挿入性にも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の歯間清掃具の一形態の外観を模式的に示す図面である。
図2】本実施形態の歯間清掃具の他形態の外観を模式的に示す図面である。
図3】曲げ疲労性試験における疲労試験の試験方法を示す側面図である。
図4】曲げ疲労性試験における片持ち曲げ試験の試験方法を示す側面図である。
図5】曲げ疲労性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態の歯間清掃具は、歯間部に挿入してこれを清掃する、細長い軸状の芯基材部を有し、該芯基材部が、重量平均分子量40万以上の熱可塑性樹脂、および無機充填剤を含む樹脂組成物から構成されたものである。すなわち、本実施形態では、芯基材部を構成する材料として、重量平均分子量40万以上の熱可塑性樹脂および無機充填剤を含む樹脂組成物を用いる。本実施形態の歯間清掃具は、該芯基材部を有するものであれば特に限定されず、従来から公知の種々の形態を採ることができる。
【0014】
例えば、第1実施形態の歯間清掃具は、芯基材部から構成される。例えば、芯基材部の基端側端部を指で把持できるように構成してもよい。芯基材部の基端側を手指で把持すれば、芯基材部の先端部を歯間部に容易に挿入および出し入れできる。また、芯基材部と、芯基材部の基端側端部を着脱可能な挿入機構を設けた軸状または板状の支持部と、を有する形態でもよい。ここで、支持部は、芯基材部の基端側端部を着脱可能な機構(または構造)を設ける以外は、後述するハンドル基材部と同じ形状、寸法を有していてもよい。機構(または構造)とは、例えば、芯基材部の基端側端部を挿入する孔、嵌合機構、ねじ機構などである。嵌合機構やねじ機構では、芯基材部の基端側端部および支持部に設けられる機構の両方をそれぞれ所定の構造とする。
【0015】
第2実施形態の歯間清掃具は、芯基材部と、芯基材部の一端に連設されたハンドル基材部と、を有する。第3実施形態の歯間清掃具は、芯基材部と、芯基材部の一端に連設されたハンドル基材部と、芯基材部の表面を被覆する軟質部と、を有する。第4実施形態の歯間清掃具は、芯基材部と、芯基材部の一端に連設されたハンドル基材部と、芯基材部の表面を被覆する軟質部と、軟質部表面から外方に突出する単又は複数の突起部と、を有する。軟質部は、例えば歯間部の清掃機能や歯肉部のマッサージ機能を高める観点などから、その表面に単又は複数の突起部を有する。突起部は、成形加工の容易さなどの観点から、軟質部と同じ材料で構成されることが好ましい。複数の突起部を設けた場合、その配列は規則的でも不規則的でもよく、突起部の立体形状が同一でも異なっていてもよい。第3、第4実施形態の歯間清掃具において、軟質部は、芯基材部表面の一部または全体を被覆することができる。また、第4実施形態の歯間清掃具において、突起部は軟質部の全面に設けてもよく、または、歯間部を往復動する先端部などの軟質部の一部に設けてもよい。本発明の歯間清掃具は、第1~第4の実施形態に限定されず、従来公知の歯間清掃具の形態を含むことができる。
【0016】
芯基材部、軟質部で被覆された芯基材部、および表面に突起部を有する軟質部で被覆された芯基材部は、いずれも、歯間部に挿入し、その軸方向に往復動させることにより、歯間部に挟まった食べ物滓や、歯垢などを取り除く機能と、歯肉をマッサージする機能とを有する。以下、軟質部または突起部を有する軟質部で被覆された芯基材部を「清掃部」とも呼ぶ。ハンドル基材部を手指で把持することにより、芯基材部または清掃部を支持する。ハンドル基材部を指で把持した状態で、芯基材部または清掃部を歯間部に挿入し、軸方向に往復動させることにより、歯間部を清掃し、歯肉マッサージをする。
【0017】
本発明者らは、芯基材部の折れ防止の研究過程で、熱可塑性樹脂の中でも重量平均分子量が40万以上のもの、好ましくは重量平均分子量が40万以上でありかつ数平均分子量が78000以上のものは、相対的に低分子量の熱可塑性樹脂に比べて機械特性や剛性が高いだけでなく、粘り気が高まることに着目した。そして、本発明者らはさらに研究を重ねた結果、極細径を有する軸体という特有の形状に成形される芯基材部の折れを防止するためには、芯基材部を構成する材料の機械特性や剛性だけでなく、所定以上の粘り気を有することが重要であるとの知見を得た。すなわち、合成樹脂の粘り気が、芯基材部先端方向からの圧縮力や芯基材部軸方向に対して垂直な方向からの曲げの力に対する極細の軸体としての芯基材部の耐久性を高め、耐折れ性が向上することが、本発明者らの研究により明らかになった。
【0018】
ここでの粘り気とは、粘着性ではなく、例えば、芯基材部がその軸方向に交差する方向に破断する際の閾値を高める、粘弾性のような特性であると考えられる。重量平均分子量40万以上の熱可塑性樹脂を用いた結果として、本実施形態の歯間清掃具は、芯基材部の歯間部への挿入性を実質的に損なうことなく、芯基材部の歯間清掃時の折れを大幅に低減でき、耐用性の良好なものとなる。
【0019】
芯基材部は、熱可塑性樹脂を細長い軸状に成形したものであることから、見掛け上十分な柔軟性および/または弾力性を有すると考えられきた。従来の芯基材部において、芯基材部先端方向からの圧縮力や芯基材部軸方向に対して垂直な方向からの曲げの力などが外部から負荷されたときに折れ曲がり易くまたは折れ易いのは、芯基材部が前述の見掛け上の弾力性および/または柔軟性を有することから、これらの力に耐え得る機械特性的な閾値が低いためであると考えられてきた。そして、該閾値を高めるために、ガラス繊維等の無機充填剤を熱可塑性樹脂に添加して機械強度を高めることが行なわれてきた。すなわち、芯基材部を構成する材料の柔軟性や弾力性と、芯基材部の耐折れ性との間には、特別な相関関係はないものと考えられてきた。しかしながら、本発明者らの研究により、芯基材部を構成する材料の機械特性だけでなく、柔軟性、弾力性や粘り気が芯基材部の耐折れ性に関与することが判明した。
【0020】
本実施形態の歯間清掃具の詳細は、次の通りである。芯基材部の構造および芯基材部を構成する材料について説明する。
【0021】
細長い軸状の芯基材部は、上記第1~第4実施形態およびその他の実施形態の歯間清掃具に共通する部材である。本実施形態の芯基材部は、例えば図1に示すように軸がほぼ直線状に延びる形態(例えばI型歯間清掃具)、軸の途中部から先端部にかけて湾曲する形態、例えば図2に示すようにハンドル基材部に連設された根元(以下「基端部」ともいう)から先端部にかけて軸全体が湾曲する形態(例えばカーブ型歯間清掃具)、軸の途中部から所定の角度を有して線状に折れ曲がった形態(例えばL字型歯間清掃具)、先端部を先細に構成した形態、先端部に行くにしたがって縮径する、緩やかなテーパ形状に成形された形態、芯基材部の途中部から指で把持する側または支持部側またはハンドル基材部側に向けて次第に拡径する形態などを含む。なお、図1および図2に示す歯間清掃具は、第3実施形態の歯間清掃具に包含される。
【0022】
芯基材部は、細長い軸状に形成され、重量平均分子量40万以上の熱可塑性樹脂(以下特に断らない限り単に「熱可塑性樹脂」と呼ぶこともある)、および無機充填剤を含有し、エラストマを含有することがある樹脂組成物(A)からなる。さらに、樹脂組成物(A)は、歯間清掃具用の熱可塑性樹脂組成物に含まれる公知の添加剤を含むことができる。
【0023】
樹脂組成物(A)中の熱可塑性樹脂は、重量平均分子量が40万以上であり、芯基材部の耐折れ性の観点から、好ましくは重量平均分子量が40万以上であり、かつ数平均分子量が78000以上であり、より好ましくは重量平均分子量が42万以上であり、かつ数平均分子量が80000以上であり、さらに好ましくは重量平均分子量が45万以上であり、かつ数平均分子量が85000以上である。なお、重量平均分子量および数平均分子量の上限は、それぞれ、射出成形可能な値とすることができるが、一例を挙げれば、重量平均分子量が60万以下または65万以下であり、数平均分子量が12万以下または15万以下である。
【0024】
熱可塑性樹脂としては、重量平均分子量が40万以上の熱可塑性樹脂であれば、歯間清掃具の分野で常用される熱可塑性樹脂を特に限定なく使用でき、例えば、オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル、プロピオン酸セルロース、熱可塑性ポリウレタン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)系樹脂などが挙げられ、これらの1種又は2種以上を使用できる。これらの熱可塑性樹脂の中から、所定の重量平均分子量または所定の重量平均分子量および所定の数平均分子量を有するものを選択して使用すればよい。なお、数平均分子量および/または重量平均分子量は、たとえば、重合度、モノマー成分、重合方法などを選択することにより、当業者が容易に調整できる。
【0025】
上記した熱可塑性樹脂の中でも、芯基材部の耐折れ性の向上の観点や、成形加工性や機械特性などの観点から、オレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、およびポリエステル系樹脂よりなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましく、オレフィン系樹脂がより好ましい。オレフィン系樹脂の具体例としては、例えば、プロピレン系重合体(ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー)、エチレン系重合体(ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー)などが挙げられる。また、ポリエステル系樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートなどの飽和ポリエステル系樹脂が挙げられる。
【0026】
上記したオレフィン系樹脂の中でも、芯基材部や清掃部の折れを防止する観点、成形加工性の観点、および経済性の観点から、プロピレン系重合体(又はプロピレン系樹脂)がより好ましく、融点が150℃以上でありかつ少なくとも一部が結晶性であるプロピレン系重合体がさらに好ましい。プロピレン系重合体は、成形温度が低く、サイクルタイムを短縮して生産性を向上できるとともに、成形設備に対する熱負荷が少ないことから特に好ましい。融点150℃以上の熱可塑性樹脂を歯間清掃具の材料として用いると、中間成形品(芯基材部およびそれに連設したハンドル基材部)の成形時間、特に成形後の冷却時間を短縮して生産効率を高めることができる。その結果、本実施形態の歯間清掃具の生産性の向上や、生産コストの低減化などを図ることができる。
【0027】
プロピレン系重合体(又はプロピレン系樹脂)は、前述のように、ホモポリマー(プロピレンの単独重合体)、ランダムコポリマーおよびブロックコポリマーよりなる群から選ばれた少なくとも1種を含む。ランダムコポリマーとは、プロピレンとそれに共重合可能な化合物との共重合体であり、例えば、プロピレンとα-オレフィンとの共重合体などがある。プロピレンとα-オレフィンとの共重合体とは、例えば、プロピレン由来の構成単位を50重量%以上含有する、プロピレンとエチレンおよび/または炭素数4~12のα-オレフィンとの共重合体であり、好ましくはプロピレン-エチレンランダム共重合体などである。ブロックコポリマーとしては、例えば、プロピレン-エチレンブロック共重合体などが挙げられる。同様に、エチレン系重合体は、エチレンの単独重合体、エチレンと炭素数4~12のα-オレフィンとのランダムコポリマー、ブロックコポリマーなどである。
【0028】
樹脂組成物(A)中の無機充填剤としては、繊維状無機充填剤(以下「繊維状充填剤」ともいう)、薄片状無機充填剤(以下「薄片状充填剤」ともいう)、および粒状無機充填剤(以下「粒状充填剤」ともいう)よりなる群から選ばれた少なくとも1種を好ましく使用できる。なお、これらの無機充填剤の形状は、走査型電子顕微鏡による顕微鏡観察により判別できる。
【0029】
繊維状充填剤とは、一方向に長い寸法(長さ寸法)を有する無機化合物である。その形状は、繊維状以外にも柱状又はウィスカー状と呼ばれ、長さ寸法がmmオーダー乃至μmオーダー、繊維径寸法が主にμmオーダーである。繊維状充填剤のアスペクト比(繊維長/繊維径)は好ましくは2以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上である。繊維状充填剤としては特に限定されないが、人体に対する安全性や入手容易性の観点から、ガラス繊維、ワラストナイト、二酸化チタン繊維、チタン酸カリウム繊維等を好ましく使用でき、更に価格の観点等を加味すると、ガラス繊維及びワラストナイトがより好ましく、ガラス繊維が更に好ましい。繊維状充填剤は、芯基材部の剛性、特に芯基材部の軸方向の剛性を高める観点からは、薄片状充填剤よりも好ましい。繊維状充填剤は、1種を単独で又は必要に応じて2種以上を組み合わせて使用できる。
【0030】
薄片状充填剤とは、一方向に薄い寸法(厚さ寸法)を有する無機化合物である。その形状は、薄片状以外にも鱗片状または板状とも呼ばれ、寸法はμmオーダーである。薄片状充填剤としては特に限定されないが、人体に対する安全性、入手容易性等の観点から、例えば、ガラスフレーク、マイカ、クレー、タルクなどが好ましく、クレー、タルクがより好ましく、タルクがさらに好ましい。薄片状充填剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0031】
粒状充填剤とは、顕微鏡観察にて繊維状や薄片状に属さない、ほぼ球状、ほぼ楕円球状などの規則的な形状や、不規則な形状を有する無機化合物である。その寸法はμmオーダー~mmオーダーの範囲であるが、本実施形態の芯基材部に適用する上では、μmオーダーの寸法を有するものを好ましい。粒状充填剤としては特に限定されないが、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ、溶融シリカ、ゼオライト、水酸化アルミニウム、酸化チタンなどが挙げられる。粒状充填剤は1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0032】
無機充填剤の好ましい形態として、繊維状充填剤の単独使用、繊維状充填剤と薄片状充填剤との併用などが挙げられる。繊維状充填剤を単独使用すると、繊維状充填剤と所定重量平均分子量の熱可塑性樹脂との協働により、芯基材部または清掃部の耐折れ性が顕著に向上する。繊維状充填剤と薄片状充填剤との併用では、繊維状充填剤及び薄片状充填剤の芯基材部中での配向方向が異なることから、これらの使用割合を適宜選択することによって、芯基材部の機械特性と撓み性(弾力性)とを高水準で両立させ、芯基材部の耐折れ性の向上に寄与する場合がある。該併用の具体例としては、例えば、ガラス繊維とタルクとの併用等が挙げられる。
【0033】
樹脂組成物(A)において、無機充填剤の含有量は特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂と無機充填剤との合計量の5~40重量%、10~40重量%、20~40重量%または25~38重量%の範囲とし、残部を熱可塑性樹脂とすることができる。無機充填剤の含有量が前記範囲内であると、熱可塑性樹脂との協働により、芯基材部の耐折れ性が向上する。無機充填剤の含有量が少なすぎると、芯基材部の歯間部への挿入性が低下するおそれがあり、また、芯基材部の耐折れ性の向上が不十分になるおそれがある。無機充填剤の含有量が多すぎると、樹脂組成物(A)中での無機充填剤の分散性が低下し、芯基材部に局所的な耐折れ性の低下が発生するおそれがある。本発明では、数平均分子量40万以上の熱可塑性樹脂にガラス繊維などの無機充填剤を配合した市販のコンパウンドを使用することができる。
【0034】
樹脂組成物(A)に含まれる任意成分であるエラストマとしては、特に限定されず、スチレン系、オレフィン系、塩化ビニル系、ポリアミド系などの熱可塑性エラストマ(TPE)や、シリコーン系、ウレタン系、フッ素系などの熱硬化性エラストマなどが挙げられる。特に、芯基材部を構成する樹脂組成物(A)中の熱可塑性樹脂と相溶性を有するエラストマが好ましく、オレフィン系樹脂と相溶性を有するエラストマがより好ましい。オレフィン系樹脂と相溶性を有するエラストマとしては、上記した熱可塑性エラストマが好ましく、スチレン系、オレフィン系のエラストマがより好ましく、スチレン系がさらに好ましい。エラストマは、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
【0035】
樹脂組成物(A)におけるエラストマの含有量は、熱可塑性樹脂や無機充填剤の種類、各含有量、エラストマ自体の種類などに応じて、芯基材部の耐折れ性が改善される量を適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。エラストマの含有量が適量であると、上記した本実施形態の効果(芯基材部の耐折れ性の向上、使用感の顕著な向上、中間成形品の芯基材部相当部分における反りの発生の著しい低減化など)を得ることができる。エラストマの含有量が少なすぎると、エラストマの添加による芯基材部の耐折れ性の向上が不十分になり、エラストマの含有量が多すぎると、芯基材部または清掃部の歯間部への挿入性や使用感などが低下する傾向がある。したがって、予備実験などによりエラストマの含有量を選択することは容易である。
【0036】
エラストマの含有量の具体例として、例えば、プロピレン系重合体、熱可塑性エラストマおよびガラス繊維を含有する一実施形態の樹脂組成物では、プロピレン系重合体とガラス繊維との合計量100重量部に対して、熱可塑性エラストマの配合量を30重量部以下、25重量部、20重量部以下、15重量部以下または10重量部以下とすることができる。なお、エラストマは任意成分であるから、下限を設定する必要はないが、例えば、下限を0.1重量部、0.5重量部、1重量部、1.5重量部、2重量部、3重量部または5重量部とすることができる。なお、これらの数値範囲は、プロピレン系重合体以外の数平均分子量40万以上の熱可塑性樹脂および/またはガラス繊維以外の無機充填剤を用いた場合にも、適用できる場合がある。
【0037】
本実施形態では、芯基材部の耐折れ性を損なわない範囲で、数平均分子量78000以上の熱可塑性樹脂に相溶性を有する、数平均分子量78000未満の熱可塑性樹脂を、樹脂組成物(A)に含有させることができる。
【0038】
本実施形態の芯基材部の軸寸法(径)および長さ寸法は特に限定されないが、歯間清掃具全体としての操作を容易にする観点から、例えば、軸寸法(径)を0.3mm~2mmまたは0.4mm~2mmの範囲から選択し、長さ寸法を20~75mmまたは20~50mmの範囲から選択する。また、芯基材部の先端部を先細にした形態では、例えば、先端部の軸寸法を0.3mm~0.6mmの範囲から選択し、先端部以外の軸寸法を0.8mm~2mmの範囲から選択する。芯基材部が途中部または根元から湾曲する場合、その角度(芯基材部が直線状に延びると仮定したときの仮想軸線と、湾曲部分における該仮想軸線に降ろした垂線が最も長い位置と該仮想軸線における芯基材部とハンドル基材部との境界位置を結んだ直線と、がなす角度)は当該歯間清掃具の設計に応じて適宜選択できる。
【0039】
第2~第4実施形態およびその他の実施形態の歯間清掃具で用いられるハンドル基材部は、芯基材部を支持しつつ、ハンドル基材部を指で把持して芯基材部を歯間部に挿入して清掃を行なうものである。このため、ハンドル基材部と芯基材部との接合強度などの観点から、ハンドル基材部は芯基材部と一体成形されることが好ましい、芯基材部と一体成形されたハンドル基材部は、芯基材部と同様に樹脂組成物(A)で構成されている。しかし、これに限定されず、ハンドル基材部を、樹脂組成物(A)以外の樹脂材料などで構成してもよい。なお、本明細書において、芯基材部とハンドル基材部とを併せて、基材部と呼ぶこともある。
【0040】
本実施形態のハンドル基材部の立体形状は、指で容易に把持できる形状であれば、歯間清掃具の分野で常用される形状を適宜採用できるが、例えば、板状、軸状などである。軸状のハンドル基材部の断面形状としては、例えば、円形、オーバル形状(楕円形、長円形、角丸長方形、卵形、小判形、俵形など)、涙滴形、多角形、角丸正方形などが挙げられる。ハンドル基材部の軸方向(芯基材部の軸方向)の長さ寸法、軸方向に垂直な幅方向の長さ寸法および厚み寸法は特に限定されないが、例えば、軸方向の長さ寸法を10mm~25mm、幅方向の長さ寸法を4mm~10mm、厚さ寸法(軸状である場合は軸径寸法)を0.5mm~3mmといった各範囲から適宜選択できる。
【0041】
第3~第4実施形態およびその他の実施形態の歯間清掃具で用いられる軟質部は、例えば、芯基材部の少なくとも1部の表面または芯基材部の歯間部に挿入する先端部を被覆するものであり、樹脂組成物(A)よりも軟質な材料(以下単に「軟質材料」とも呼ぶ)から構成される。軟質材料としては特に限定されないが、例えば、エラストマの含有量を増加させかつ無機充填剤の含有量を減少させた樹脂組成物(A)からなる第1形態、熱可塑性樹脂とエラストマとの混合物からなる第2形態、単独種または2種以上のエラストマからなる第3形態、単独種または2種以上のゴムからなる第4形態、エラストマとゴムとの混合物からなる第5形態などが挙げられる。ここで、ゴムとしては、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、イソプレンゴム、プチルゴム、エチレンプロピレンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、シリコーンゴム、ふっ素ゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、多硫化ゴム、塩素化ブチルゴム、エビクロルヒドリンゴムなどの合成ゴムや、天然ゴムが挙げられる。
【0042】
第2形態の軟質材料で用いられる熱可塑性樹脂は、樹脂組成物(A)に含まれる熱可塑性樹脂、または、オレフィン系樹脂およびポリアミド樹脂から選ばれる少なくとも1種、または、オレフィン系樹脂、または、プロピレン系重合体である。エラストマは、樹脂組成物(A)に含まれるエラストマ、または熱可塑性樹脂に相溶性を要するエラストマ、またはオレフィン系樹脂に相溶性を有するエラストマ、またはスチレン系エラストマ、オレフィン系エラストマ、塩化ビニル系エラストマ及びアミド系エラストマよりなる群から選ばれた少なくとも1種の熱可塑性エラストマ、またはスチレン系エラストマである。
【0043】
第3形態および第5形態の軟質材料で用いられるエラストマとしては、特に限定されず、スチレン系、オレフィン系、塩化ビニル系、ポリアミド系などの熱可塑性エラストマ(TPE)や、シリコーン系、ウレタン系、フッ素系などの熱硬化性エラストマなどが挙げられる。
【0044】
第3~第4形態の歯間清掃具において、芯基材部がエラストマを含有する樹脂組成物(A1)からなる場合、第1~第3、第5形態の軟質材料に含まれるエラストマを、樹脂組成物(A1)中のエラストマとは異種のエラストマや、樹脂組成物(A1)中のエラストマよりも軟質なエラストマとすることができる。このように構成することにより、軟質部表面の硬さ(使用時の柔らかさ)が独立して強調され、使用感が一層優れたものとなる。
【0045】
第1~第5形態の軟質材料からなる軟質部は、芯基材部の表面全体を被覆してもよいが、芯基材部の先端部から途中部までの所定の領域を被覆することが好ましい。具体的には、例えば、芯基材部の先端から10mm~25mmまたは12mm~22mmの範囲を軟質部で被覆することが好ましい。軟質部の厚みは、例えば、0.05mm~0.5mmまたは0.1mm~0.3mmまたは0.1mm~0.2mmの範囲から選択される。
【0046】
また、第4実施形態の歯間清掃具に用いられる、第1~第5(または第3または第4)の軟質材料からなりかつ表面に立設された複数の突起部を有する軟質部では、複数の突起部が軟質部の長さ方向および周方向にそれぞれ相互に間隔を空けて設けられる。突起部の軟質部表面での断面積は、例えば、0.03mm~1.5mmの範囲から選択される。突起部の軟質部表面からの高さは、例えば、0.5mm~4.0mmの範囲から選択される。軟質部における突起部の個数は、例えば、20個~100個の範囲から選択されるが、前記範囲よりも少なくても多くてもよい。一の突起部とそれに隣り合う他の突起部との間隔は、例えば、0.5mm~1.5mmの範囲から選択されるが、前記範囲よりも少なくても多くてもよい。突起部の立体形状としては特に限定されないが、円錐状、角錐状、円柱状、角柱状、軸方向に扁平な板状でかつ先細り形状のものなどが挙げられる。また、突起部の断面形状としては、円形、オーバル形状、涙滴形状、多角形状などが挙げられる。
【0047】
また、別形態の軟質部は、芯基材部の全表面を被覆し、芯基材部のハンドル基材部と連設する側を表面に突起を有しない被覆軟質部とし、被覆軟質部のハンドル基材部と反対側の端部から芯基材部の先端までを表面に突起部を有する突状軟質部と、することができる。この形態の軟質部は、第3~第4実施形態の歯間清掃具に用いることができる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の歯間清掃具は、少なくとも芯基材部が樹脂組成物(A)からなるものであり、芯基材部および歯間清掃具の構造的特徴には特に限定はない。歯間清掃具の具体例として、図1~2に示す歯間清掃具1、2などが挙げられる。歯間清掃具1、2は、それぞれ、樹脂組成物(A)からなる芯基材部10A、10Bと、芯基材部10A、10Bの一端に連設されたハンドル基材部11A、11Bと、芯基材部10A、10Bの表面を被覆する軟質部12A、12Bと、軟質部12A、12B表面から外方に突出する複数の突起部13A、13Bと、を有する第4実施形態の歯間清掃具である。いずれの形態の歯間清掃具でも、芯基材部10A、10Bが樹脂組成物(A)から構成されることにより、芯基材部10A、10Bの耐折れ性が顕著に向上し、歯間への挿入性にも優れている。なお、歯間清掃具1は、一方向に延びる芯基材部10Aを有するものであり、歯間清掃具2は、湾曲して延びる芯基材部10Bを有するものである。
【0049】
本実施形態の歯間清掃具は、例えば、樹脂組成物(A)および従来の歯間清掃具成形用の第1、第2金型を用いた2色成形により製造される。より具体的には、例えば、樹脂組成物(A)を溶融混練し、得られた溶融混練物を第1成形金型内に供給して、中間成形品(例えば、芯基材部とそれにするハンドル基材部とからなる第2実施形態の歯間清掃具)を得、更に必要に応じて該中間成形品を第2成形金型内に装着し、第1~第4形態のいずれかの軟質材料の溶融混練物を第2成形金型内に供給することにより、芯基材部の表面に軟質部を有する第3~第4実施形態の歯間清掃具を得ることができる。なお、第1~第2実施形態の歯間清掃具を得る場合は、2色成形を実施する必要はなく、1度の成形でも製造することができる。
【0050】
本実施形態の歯間清掃具(第1~第4実施形態およびその他の実施形態)では、例えば複数の歯間清掃具を幅方向に、一つずつ取り外し可能に連設した、複数の歯間清掃具の集合体の形態としてもよく、または、複数の歯間清掃具をばらばらな状態(個々に独立した状態)で容器や袋に収納した形態としてもよい。
【0051】
(試験例1)
歯間清掃具の評価試験を実施した。
[歯間清掃具の作製]
下記の数平均分子量および重量平均分子量を有するポリプロピレン樹脂を用意した。
(a)重量平均分子量458000、数平均分子量87700
(b)重量平均分子量565000、数平均分子量111000
(c)重量平均分子量427000、数平均分子量85000
(d)重量平均分子量406000、数平均分子量85200
(e)重量平均分子量349000、数平均分子量73200
(f)重量平均分子量397000、数平均分子量75900
【0052】
上記した(a)~(f)の各ポリプロピレン樹脂と無機充填剤としてガラス繊維またはタルクを乾式混合し、ガラス繊維またはタルクの含有量が全体の15~30重量%であり、かつ残部が上記した所定の重量平均分子量および数平均分子量を有するポリプロピレン樹脂である樹脂組成物を作製した。
【0053】
得られた各樹脂組成物を用い、全長48mm、ハンドル基材部の寸法が15mm(最大幅)×6.5mm、芯基材部のハンドル基材部と連設された側を第1軸部、第1軸部のハンドル基材部とは離反する側の端部から芯基材部先端までを第2軸部とした。第1軸部の寸法は長さ18mm、径1.2mmである。第2軸部は先端側に向けて徐々に縮径するテーパ形状とし、先端部の径を0.45mmとした。芯基材部の全周にわたってポリスチレン系エラストマを被覆し、厚み0.2mmの軟質部を形成した。なお、軟質部の第1軸部を覆う部分には突起を形成せず、第2軸部を覆う部分には複数の突起(高さ1mmの円錐状)を設けた。こうして第3実施形態の歯間清掃具を作製した。
【0054】
得られた各歯間清掃具を下記の評価試験に供した。試験結果を表1に示す。
[90°曲げ可能回数試験]
(1)歯間清掃具のハンドル基材部を1対の固定器具で挟持し、歯間清掃具を清掃部の先端が鉛直方向上方を向くように鉛直支持する。清掃部の根元を曲げの支点とする。
(2)清掃部先端を一方向に90°曲げて3秒間維持する。この動作を1カウントとする。
(3)清掃部の先端を元に戻した後、他方向に90°曲げて3秒間維持する。この動作を1カウントとする。なお、(2)の一方向とここでの他方向は、ほぼ一直線上になるように調整する。
(4)(2)および(3)の動作を交互に繰り返し実施し、清掃部が折れるか又は元に戻らなくなるまでのカウント数を数える。
(5)この試験を10回実施し、各回のカウント数を算術平均し、小数点第2位を四捨五入した値を表1に示す。なお、表1において、Mwは重量平均分子量、Mnは数平均分子量を示すものとする。また、ポリプロピレン系樹脂をPP系樹脂とする。
【0055】
[垂直方向曲げ試験強度]
得られた各歯間清掃具の清掃部の先端が上を向き、かつ該先端が圧縮治具に垂直に当接するように、歯間清掃具および圧縮治具を配置する。そして、オートグラフ((株)島津製作所製)にて、圧縮速度10mm/分にて圧縮試験を行ない、清掃部が屈曲破断する際の最大強度を測定した。試験は、各水準にて5検体の測定を行い、その算術平均値を当該歯間清掃具の垂直方向曲げ強度とした。結果を表1に示す。
【0056】
[曲げ疲労性試験]
清掃部の曲げ疲労性を次の試験で評価した。実施例1~5および比較例1~4で得られた各歯間清掃具に下記(イ)の疲労試験を施した後、下記(ロ)の片持ち曲げ試験を実施した。
【0057】
(イ)疲労試験
(1)図3に示す疲労試験のモデルを作製した。試験機30を設置し、試験機30の下方に上部が開口した底の浅い治具収納ケース35を設置し、治具収納ケース35の底面に径10mmの円柱状治具31を横に3つ並べて挟持および固定し、歯間部モデル33を作製した。歯間清掃具20のハンドル基材部21を試験機30の2つに分かれた下端部32で挟持および固定し、歯間清掃具20の清掃部22の先端から試験機30の下端部32までの長さが35mmになり、かつ清掃部22の先端から5mmの領域が歯間部モデル33の真ん中の円柱状治具31に当接するように、歯間清掃具20を鉛直方向に吊り下げた。
(2)試験機30を紙面左側に回転させて、歯間清掃具20を鉛直方向に対して左45°の位置Aに固定した。
(3)(2)の状態から紙面右側に回転させて、歯間清掃具20を位置Aから鉛直方向右45°の位置Bまで移動させた後、試験機30を紙面左側に回転させて、歯間清掃具20を位置Aまで復帰させた。歯間清掃具20の、位置Aから位置Bおよび位置Bから位置Aまでの移動を1サイクルとし、所定回数繰り返した。試験機30の回転速度は30±3サイクル/1分とした。
【0058】
(ロ)片持ち曲げ試験
図4に示す試験装置40を用いた。試験装置40は、固定治具41と、支点治具42と、加圧装置43と、を備える。固定治具41は、支持板50に立設され、歯間清掃具20の清掃部22が露出するように、歯間清掃具20を水平方向に支持する。支点治具42は、幅方向に直交する長手方向の断面視が、頂角が鋭角である三角形状である四角柱状部材である。支点治具42は、その頂点(または稜線=鋭角状の先端部)51が、固定治具40で固定された歯間清掃具20の清掃部22の先端から7mmの位置でその下面に当接するように、支持板50から突設される。加圧装置43は、図示しない支持部材により上下動可能に支持され、固定治具41で固定された歯間清掃具20の清掃部22の先端から3mmの位置を上方から押圧しつつ、清掃部22に負荷された圧力を数値として表示可能に設けられている。本試験では、加圧装置43の降下速度を20mm/分とした。
【0059】
上記(イ)の疲労試験を未実施の歯間清掃具20(以下「未実施品」とする)および上記(イ)の疲労試験を実施の歯間清掃具20(以下「実施品」とする)について、図4に示す試験装置40を用いて、清掃部22が破断するかまたは復元不可能に曲がる直前の圧力(加圧装置43による清掃部22への負荷圧力)を測定し、当該清掃部22の強度とした。そして、実施品の、未実施品に対する強度維持率(%)を下記式から算出した。なお、実施品は、上記(イ)(3)の1サイクルを、3回、5回および10回実施したものについて、それぞれ強度維持率を求め、図5にその結果をグラフとして示し、また、10回実施したものの結果を下記表1に示した。
実施品の強度維持率(%)=(実施品の強度/未実施品の強度)×100
【0060】
[繰り返し使用による折れ耐性および歯間挿入性]
得られた各歯間清掃具の口腔内全歯間部への繰り返し使用による折れ耐性および歯間挿入性につき、専門パネラー10人で評価した。各専門パネラーによる評価基準は次の通りである。
【0061】
<繰り返し使用による折れ耐性の評価基準>
◎…5回以上の繰り返し使用可能
〇…3回~4回の繰り返し使用
×…1回使用において破断
【0062】
<歯間挿入性の評価基準>
◎…10名のパネラーにて挿入時の屈曲発生なし
〇…10名のパネラーにて挿入時の屈曲発生が3名以下
×…10名のパネラーにて挿入時の屈曲発生が5名以上
【0063】
【表1】
【0064】
表1から、重量平均分子量40万未満のポリプロピレン系樹脂(PP系樹脂)を用いた場合には、芯基材部、特に清掃部の耐折れ性が非常に低いことがわかる。また、重量平均分子量40万以上のポリプロピレン系樹脂を用いた場合には、概ね耐折れ性の顕著な向上が得られることに加えて、垂直方向曲げ強度(N)、90°折り曲げ回数(回)、清掃部の曲げ疲労性、歯間挿入性といった各特性がいずれも向上し、特に歯間挿入性の向上が顕著であることがわかる。
【符号の説明】
【0065】
1、2、20 歯間清掃具
10A、10B 芯基材部
11A、11B、21 ハンドル基材部
12A、12B 軟質部
13A、13B 突起部
22 清掃部
30 試験機
31 円柱状治具
32 試験機下端部
33 歯間部モデル
35 治具収納ケース
40 試験装置
41 固定治具
42 支点治具
43 加圧装置
50 支持板
51 支点治具頂点(先端部)
図1
図2
図3
図4
図5