(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】シートスライド装置
(51)【国際特許分類】
B60N 2/06 20060101AFI20230830BHJP
【FI】
B60N2/06
(21)【出願番号】P 2019098402
(22)【出願日】2019-05-27
【審査請求日】2022-03-21
(31)【優先権主張番号】P 2019056489
(32)【優先日】2019-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000143639
【氏名又は名称】株式会社今仙電機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100095795
【氏名又は名称】田下 明人
(72)【発明者】
【氏名】鍛代 光智
【審査官】五閑 統一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-245902(JP,A)
【文献】特開2017-053431(JP,A)
【文献】中国実用新案第204383210(CN,U)
【文献】特開平08-156660(JP,A)
【文献】特開2010-047172(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に固定されるロアレールと、
シートに固定されるとともに前記ロアレールに対し摺動自在に設けられるアッパーレールと、
前記アッパーレールの長手方向に沿って回転可能に支持されるスクリューと、
前記ロアレールに固定されて前記スクリューの回転に応じて当該スクリューに対してその長手方向に相対的に移動するナット部材と、
を備えるシートスライド装置であって、
前記ナット部材は、
前記スクリューに螺合する雌ねじが形成され、前記雌ねじに螺合する前記スクリューが一面から他面にかけて挿通するナットと、
前記ロアレールに固定されて、前記一面に対して第1対向面にて対向し、前記他面に対して第2対向面にて対向するホルダーと、
前記一面と前記第1対向面との間及び前記他面と前記第2対向面との間にそれぞれ介在することで、前記ナットを前記ホルダーに対してフローティング支持するための複数のボールと、
前記ナットと前記ホルダーとの間に介在して前記複数のボールを保持するリテーナーと、
を備え
、
前記リテーナーは、
前記一面と前記第1対向面との間に介在して前記複数のボールの一部を保持する第1支持板と、
前記他面と前記第2対向面との間に介在して前記複数のボールの残部を保持する第2支持板と、
前記第1支持板及び前記第2支持板を介して対向する第1側板及び第2側板と、
を備え、
前記第1対向面及び前記第2対向面には、前記ボールの径に合わせて円弧状に凹んで形成される溝部がそれぞれ設けられることを特徴とするシートスライド装置。
【請求項2】
車体に固定されるロアレールと、
シートに固定されるとともに前記ロアレールに対し摺動自在に設けられるアッパーレールと、
前記アッパーレールの長手方向に沿って回転可能に支持されるスクリューと、
前記ロアレールに固定されて前記スクリューの回転に応じて当該スクリューに対してその長手方向に相対的に移動するナット部材と、
を備えるシートスライド装置であって、
前記ナット部材は、
前記スクリューに螺合する雌ねじが形成され、前記雌ねじに螺合する前記スクリューが一面から他面にかけて挿通するナットと、
前記ロアレールに固定されて、前記一面に対して第1対向面にて対向し、前記他面に対して第2対向面にて対向するホルダーと、
前記一面と前記第1対向面との間及び前記他面と前記第2対向面との間にそれぞれ介在することで、前記ナットを前記ホルダーに対してフローティング支持するための複数のボールと、
を備え、
前記雌ねじは、前記一面側及び前記他面側の少なくとも一方が当該雌ねじの中央に対して雌ねじの谷の径及び山の径が大きくなるように形成されることを特徴とす
るシートスライド装置。
【請求項3】
前記第1側板は、スライド方向に伸びる第1内面にて前記ホルダーの第1側面に対向するように形成され、
前記第2側板は、スライド方向に伸びる第2内面にて前記ホルダーの第2側面に対向するように形成されることを特徴とする請求項
1に記載のシートスライド装置。
【請求項4】
車体に固定されるロアレールと、
シートに固定されるとともに前記ロアレールに対し摺動自在に設けられるアッパーレールと、
前記アッパーレールの長手方向に沿って回転可能に支持されるスクリューと、
前記ロアレールに固定されて前記スクリューの回転に応じて当該スクリューに対してその長手方向に相対的に移動するナット部材と、
を備えるシートスライド装置であって、
前記ナット部材は、
前記スクリューに螺合する雌ねじが形成され、前記雌ねじに螺合する前記スクリューが一面から他面にかけて挿通するナットと、
前記ロアレールに固定されて、前記一面に対して第1対向面にて対向し、前記他面に対して第2対向面にて対向するホルダーと、
前記一面と前記第1対向面との間及び前記他面と前記第2対向面との間にそれぞれ介在することで、前記ナットを前記ホルダーに対してフローティング支持するための複数のボールと、
前記ナットと前記ホルダーとの間に介在して前記複数のボールを保持するリテーナー
と、
を備え、
前記リテーナーは、
前記一面と前記第1対向面との間に介在して前記複数のボールの一部を保持する第1支持板と、
前記他面と前記第2対向面との間に介在して前記複数のボールの残部を保持する第2支持板と、
前記第1支持板及び前記第2支持板を連結する連結部と、
を備え、
前記第1支持板には、前記第1対向面に形成される第1凹部に係合する第1係合部が設けられ、
前記第2支持板には、前記第2対向面に形成される第2凹部に係合する第2係合部が設けられることを特徴とす
るシートスライド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートスライド装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、シートの前後方向位置を調整するシートスライド装置として、例えば、特許文献1に開示されるパワーシートスライド装置が知られている。このパワーシートスライド装置は、車両フロアに固定されるロアレールと、このロアレールに対して摺動自在にシートに固定されるアッパーレールと、このアッパーレールの内部においてスライド方向に延びるスクリューと、を備えている。そして、ロアレールに固定されたスライドナットに螺合させたスクリューを回転させることで、アッパーレール及びシートをロアレール及び車両フロアに対して前後にスライドさせる構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記特許文献1に開示されるシートスライド装置では、スクリューが螺合するスライドナットは、略U字状の弾性部材からなるダンパー部材で囲まれた状態でハウジングを介してロアレールに固定されている。また、スクリューは、バラツキを吸収するため、アッパーレールに対して前端側のみリジットに固定されており、この前端側のみの固定に起因するスクリューの振れを、ダンパー部材により抑制している。
【0005】
このように、ダンパー部材を利用してスクリューの振れを抑制する構成では、ダンパー部材が柔らかすぎる場合には、スライドナットとハウジングとのガタ、すなわち、アッパーレールとロアレールのガタが大きくなるという問題がある。その一方で、ダンパー部材が硬すぎる場合には、ダンパー部材の摺動抵抗が大きいために、スクリューの振れをスムーズに抑制できず、異音が発生してしまうという問題がある。
【0006】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、スクリュー方式に起因するバラツキの吸収とガタ取りを実現しつつ、異音の発生を抑制し得る構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、特許請求の範囲に記載の請求項1の発明は、
車体に固定されるロアレール(20)と、
シートに固定されるとともに前記ロアレールに対し摺動自在に設けられるアッパーレール(30)と、
前記アッパーレールの長手方向に沿って回転可能に支持されるスクリュー(40)と、
前記ロアレールに固定されて前記スクリューの回転に応じて当該スクリューに対してその長手方向に相対的に移動するナット部材(60,60a,60b)と、
を備えるシートスライド装置(10)であって、
前記ナット部材は、
前記スクリューに螺合する雌ねじ(71,74)が形成され、前記雌ねじに螺合する前記スクリューが一面(72)から他面(73)にかけて挿通するナット(70,70a)と、
前記ロアレールに固定されて、前記一面に対して第1対向面(81b)にて対向し、前
記他面に対して第2対向面(82b)にて対向するホルダー(80)と、
前記一面と前記第1対向面との間及び前記他面と前記第2対向面との間にそれぞれ介在することで、前記ナットを前記ホルダーに対してフローティング支持するための複数のボール(90)と、
前記ナットと前記ホルダーとの間に介在して前記複数のボールを保持するリテーナーと、
を備え、
前記リテーナーは、
前記一面と前記第1対向面との間に介在して前記複数のボールの一部を保持する第1支持板と、
前記他面と前記第2対向面との間に介在して前記複数のボールの残部を保持する第2支持板と、
前記第1支持板及び前記第2支持板を介して対向する第1側板及び第2側板と、
を備え、
前記第1対向面及び前記第2対向面には、前記ボールの径に合わせて円弧状に凹んで形成される溝部がそれぞれ設けられることを特徴とする。
なお、上記各括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明では、スクリューの回転に応じて当該スクリューに対してその長手方向に相対的に移動するナット部材は、スクリューに螺合する雌ねじが形成され、雌ねじに螺合するスクリューが一面から他面にかけて挿通するナットと、ロアレールに固定されて、一面に対して第1対向面にて対向し、他面に対して第2対向面にて対向するホルダーと、一面と第1対向面との間及び他面と第2対向面との間にそれぞれ介在することで、ナットをホルダーに対してフローティング支持するための複数のボールと、を備えるように構成されている。
【0009】
このように、スクリューに螺合するナットが、ロアレールに固定されるホルダーに対して複数のボールによってボールフローティング支持されるため、スクリューの振れをなくすためにスクリューの前後両端をアッパーレールに対してリジットに固定する構造でも、複数のボールによってバラツキの吸収とガタ取りとを行うことができる。特に、摺動抵抗が小さいボールを利用できるため、バラツキの吸収がスムーズになることから、異音の発生が抑制される。したがって、スクリュー方式に起因するバラツキの吸収とガタ取りを実現しつつ、異音の発生を抑制することができる。
【0010】
請求項2の発明では、雌ねじは、一面側及び他面側の少なくとも一方が当該雌ねじの中央に対して雌ねじの谷の径及び山の径が大きくなるように形成される。これにより、スライド方向に対して斜めになろうとする外力がスクリューに作用する場合でも、その外力が直接ナットに作用し難くなる。このため、要求される強度に見合ったナットとスクリューとの螺合部分を確保しつつ、上記外力等によるナットへの影響を抑制することができる。
【0011】
請求項3の発明では、リテーナーは、一面と第1対向面との間に介在して複数のボールの一部を保持する第1支持板と、他面と第2対向面との間に介在して複数のボールの残部を保持する第2支持板と、第1支持板及び第2支持板を介して対向する第1側板及び第2側板と、を備えている。そして、第1側板は、スライド方向に伸びる第1内面にてホルダーの第1側面に対向するように形成され、第2側板は、スライド方向に伸びる第2内面にてホルダーの第2側面に対向するように形成される。
【0012】
これにより、スクリューの回転に応じてナットが一方向に回転し始めて、第1側板がその第1内面の一部にてホルダーの第1側面に接触するか第2側板がその第2内面の一部にてホルダーの第2側面に接触すると、ナットの上記一方向への回転が規制される。また、スクリューの回転に応じてナットが他方向に回転し始めて、第1側板がその第1内面の他の一部にてホルダーの第1側面に接触するか第2側板がその第2内面の他の一部にてホルダーの第2側面に接触すると、ナットの上記他方向への回転が規制される。このように、第1側板及び第2側板によってナットの回転が規制されるので、スクリューとともに回転したナットがアッパーレールの内壁に押し付けられながらスライドすることを防止することができる。
【0013】
請求項4の発明では、リテーナーは、一面と第1対向面との間に介在して複数のボールの一部を保持する第1支持板と、他面と第2対向面との間に介在して複数のボールの残部を保持する第2支持板と、第1支持板及び第2支持板を連結する連結部と、を備えている。そして、第1支持板には、第1対向面に形成される第1凹部に係合する第1係合部が設けられ、第2支持板には、第2対向面に形成される第2凹部に係合する第2係合部が設けられる。
【0014】
これにより、第1支持板の第1係合部が第1凹部に係合するとともに第2支持板の第2係合部が第2凹部に係合することで、ホルダーに対してリテーナーが相対移動不能となるため、スクリューが回転する場合でも、リテーナーを利用して保持されるナットがホルダーに対して回転することもない。このようなナットの回転規制構造によって、スクリューとともに回転したナットがアッパーレールの内壁に押し付けられながらスライドすることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るシートスライド装置を概念的に示す説明図である。
【
図2】ナット部材等をスクリューに組み付けた状態を示す斜視図である。
【
図3】
図2の状態のスクリュー等を上方から見た平面図である。
【
図4】
図2の状態のスクリュー等を側面から見た側面図である。
【
図5】
図3のナット部材近傍を拡大して示す平面図である。
【
図6】
図4のナット部材近傍を拡大して示す側面図である。
【
図13】
図5のX1-X1断面を示す断面図である。
【
図14】
図6のX2-X2断面を示す断面図である。
【
図15】第2実施形態に係るシートスライド装置の要部となるナットを示す断面図である。
【
図16】第3実施形態に係るシートスライド装置においてナット部材近傍を拡大して示す平面図である。
【
図17】第3実施形態に係るシートスライド装置においてナット部材近傍を拡大して示す側面図である。
【
図18】第3実施形態に係るリテーナーの斜視図である。
【
図22】第4実施形態に係るシートスライド装置においてナット部材近傍を拡大して示す平面図である。
【
図23】第4実施形態に係るシートスライド装置においてナット部材近傍を拡大して示す側面図である。
【
図24】第4実施形態に係るホルダーの斜視図である。
【
図27】第4実施形態に係るリテーナーの斜視図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明に係る車両用のシートスライド装置10の一実施形態について図を参照して説明する。
本実施形態に係るシートスライド装置10は、
図1に示すように、フット11等を介して車体(車両フロア)に固定されるロアレール20と、車両用シートのフレームSに固定されるアッパーレール30と、を備えている。また、シートスライド装置10は、
図1~
図4に示すように、駆動源となるモータ(図示略)からギヤボックス12を介して伝達される駆動力に基づいてアッパーレール30の長手方向に沿う回転軸回りに回転するスクリュー40と、スクリュー40を回動可能にアッパーレール30に支持する支持部材51,52と、ロアレール20に固定されてスクリュー40の回動に応じて当該スクリュー40に対しその長手方向に相対的に移動するナット部材60と、を備えている。なお、シートスライド装置10は、これらの構成部品をそれぞれ一対備えており、
図1には一方のみを図示する。
【0017】
シートスライド装置10は、ナット部材60に螺合するスクリュー40の回転に応じて当該スクリュー40がナット部材60に対してスライド方向(スクリュー40の長手方向)に相対移動することで、アッパーレール30がロアレール20に対してスライド(相対移動)するように構成されている。
【0018】
アッパーレール30は、その断面が下向きに開口した逆U字状でその端部から両外側に向かって鍔部を有するように形成されている。また、ロアレール20は、その断面が上向きに開口しアッパーレールの側壁を巻き込むように形成されている。そして、アッパーレール30及びロアレール20は、図略のスチールボールやローラー等の転動部材の介在により上記スライド方向に摺動自在に組み合わされている。
【0019】
スクリュー40は、
図2~
図4に示すように、前側支持部41にてアッパーレール30の前端側に固定される支持部材51により回転可能に支持されるとともに後側支持部42にてアッパーレール30の後端側に固定される支持部材52により回転可能に支持された状態で、アッパーレール30の長手方向に沿ってアッパーレール30の両側壁間に配置されている。特に、本実施形態では、スクリュー40の振れをなくすため、回転軸中心が変動しないように、スクリュー40の前側支持部41及び後側支持部42が支持部材51及び支持部材52によりアッパーレール30に対してリジットに固定されている。このように配置されるスクリュー40は、その前端部43にてアッパーレール30に取り付けられたギヤボックス12に連結されることで、モータからの回動力が伝達可能な状態となる。
【0020】
スクリュー40の前側支持部41と後側支持部42との間には、ナット部材60が挿通螺合されている。このナット部材60は、
図5及び
図6に示すように、スクリュー40に螺合するナット70と、ナット70をロアレール20に固定するためのホルダー80と、複数のボール90と、各ボールを保持するリテーナー91とを備えている。
【0021】
ナット70は、
図7及び
図8に示すように、スクリュー40に螺合する台形ねじ形状の雌ねじ71が一面72から他面73にかけて貫通するように、略直方体状に形成されている。
【0022】
ホルダー80は、
図9~
図11に示すように、略直方体状の第1固定部81及び第2固定部82と両部材の下端部を連結する連結部83とが一体となることで凹状に形成されている。第1固定部81には、ナット70よりも前側のスクリュー40の部位が挿通する挿通穴81aが形成され、ナット70の一面72に対向する第1対向面81bには、上端近傍から連結部83にかけて、挿通穴81aを介して対向するように一対の溝部81cが設けられている。この溝部81cは、
図10に示すように、ボール90との接触部分を増やすようにボール90の径に合わせて円弧状に凹んで形成されている。また、第1固定部81の下端部には、ロアレール20の底壁に固定するための雌ねじ81dが挿通穴81aに連通するように形成されている。
【0023】
第2固定部82には、ナット70よりも後側のスクリュー40の部位が挿通する挿通穴82aが形成され、ナット70の他面73に対向する第2対向面82bには、上端近傍から連結部83にかけて、挿通穴82aを介して対向するように一対の溝部82cが設けられている。この溝部82cは、溝部81cと同様に、ボール90との接触部分を増やすようにボール90の径に合わせて円弧状に凹んで形成されている。また、第2固定部82の下端部には、ロアレール20の底壁に固定するための雌ねじ82dが挿通穴82aに連通するように形成されている。
【0024】
リテーナー91は、
図6及び
図12に示すように、ナット70の一面72とホルダー80の第1対向面81bとの間に介在する第1支持板92と、ナット70の他面73とホルダー80の第2対向面82bとの間に介在する第2支持板93と、両部材の下端部を連結する連結部94とが一体となることで凹状に形成されている。
【0025】
第1支持板92には、ナット70よりも前側のスクリュー40の部位が挿通する挿通穴92aが形成されるとともに、この挿通穴92aを中心に4つのボール支持穴92bが形成されている。第2支持板93には、ナット70よりも後側のスクリュー40の部位が挿通する挿通穴93aが形成されるとともに、この挿通穴93aを中心に4つのボール支持穴93bが形成されている。各ボール支持穴92b,93bは、嵌め込まれたボール90を回転自在に支持するように形成されている。
【0026】
このように構成されるナット部材60では、
図13及び
図14に示すように、ロアレール20の底面に固定されたホルダー80に対して、各ボール90がそれぞれ溝部81c及び溝部82cに嵌まり込み、挿通穴92aが挿通穴81aに対して同軸的に位置するとともに挿通穴93aが挿通穴82aに対して同軸的に位置するように、リテーナー91が組み付けられる。その際、このリテーナー91に対して、第1支持板92に支持される4つのボール90が一面72に押し付けられるとともに、第2支持板93に支持される4つのボール90が他面73に押し付けられた状態で、雌ねじ71が挿通穴92a,81a及び挿通穴93a,82aに対して同軸的に位置するように、ナット70が組み付けられる。
【0027】
この組み付け状態で、
図5及び
図6に示すように、スクリュー40が雌ねじ71に螺合するとともに挿通穴92a,81a及び挿通穴93a,82aを挿通することで、スクリュー40の回転に応じて当該スクリュー40がナット部材60に対してスライド方向に相対移動可能な状態となる。
【0028】
このような組み付け状態では、各ボール90が、一面72と第1対向面81bとの間及び他面73と第2対向面82bとの間にそれぞれ介在するため、ナット70がホルダー80に対してボールフローティング支持される構造となる。このボールフローティング構造では、摺動抵抗(転がり抵抗)が小さいボール90によってナット70が支持されるため、上述のように、スクリュー40の前後両端がリジットに固定される構成であっても、構成部品の加工精度や組付精度に起因するバラツキがスムーズに吸収されて、摺動時に大きな異音が生じることもない。また、ホルダー80とナット70とにより複数のボール90が挟み込まれる構成となるため、ガタ取りも良好に行うことができる。
【0029】
以上説明したように、本実施形態に係るシートスライド装置10では、スクリュー40の回転に応じて当該スクリュー40に対してその長手方向に相対的に移動するナット部材60は、スクリュー40に螺合する雌ねじ71が形成され、雌ねじ71に螺合するスクリュー40が一面72から他面73にかけて挿通するナット70と、ロアレール20に固定されて、一面72に対して第1対向面81bにて対向し、他面73に対して第2対向面82bにて対向するホルダー80と、一面72と第1対向面81bとの間及び他面73と第2対向面82bとの間にそれぞれ介在することで、ナット70をホルダー80に対してボールフローティング支持するための複数のボール90と、を備えるように構成されている。
【0030】
このように、スクリュー40に螺合するナット70が、ロアレール20に固定されるホルダー80に対して複数のボール90によってボールフローティング支持されるため、スクリュー40の振れをなくすためにスクリュー40の前後両端となる前側支持部41及び後側支持部42をアッパーレール30に対してリジットに固定する構造でも、複数のボール90によってバラツキの吸収とガタ取りとを行うことができる。特に、摺動抵抗が小さいボール90を利用できるため、バラツキの吸収がスムーズになることから、異音の発生が抑制される。したがって、スクリュー方式に起因するバラツキの吸収とガタ取りを実現しつつ、異音の発生を抑制することができる。
【0031】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係るシートレール装置について、
図15を参照して説明する。
本第2実施形態では、ナット部材60におけるナットの雌ねじが段付き形状に形成される点が主に上記第1実施形態と異なる。このため、第1実施形態と実質的に同様の構成部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0032】
本実施形態では、ナット部材60において、ナット70に代えて、ナット74が採用されている。このナット74は、雌ねじ74aの形状がナット70の雌ねじ71に対して異なるように形成されている。具体的には、
図15に示すように、雌ねじ74aは、雌ねじ74aの一面側74b及び他面側74cが中央74dに対して谷の径及び山の径が大きくなることで、雌ねじ74aが段付き形状に形成される。なお、
図15では、説明の便宜上、雌ねじ74aにおける谷の径及び山の径を誇張して図示している。
【0033】
これにより、スライド方向に対して斜めになろうとする外力がスクリュー40に作用する場合でも、スクリュー40が一面側74bや他面側74cに押圧され難くなるため、その外力が直接ナット74に作用し難くなる。このため、要求される強度に見合ったナット74とスクリュー40との螺合部分を確保しつつ、上記外力等によるナット74への影響を抑制することができる。
【0034】
本実施形態の変形例として、雌ねじ74aは、谷の径及び山の径に関して、一面側74b及び他面側74cの双方が中央74dに対して大きくなるように形成されることに限らず、一面側74b及び他面側74cの一方が中央74dに対して大きくなるように形成されてもよい。
【0035】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係るシートレール装置について、
図16~
図21を参照して説明する。
本第3実施形態では、ナット70の回転規制機能を有するリテーナーを採用する点が主に上記第1実施形態と異なる。このため、第1実施形態と実質的に同様の構成部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0036】
スクリュー40の回転に応じてナット70が回転し始めてアッパーレール30の内壁に接触する構造では、スクリュー40とともに回転したナット70がアッパーレール30の内壁に押し付けられながらスライドするためにこすれ音等の異音が発生してしまう可能性がある。
【0037】
そこで、本実施形態では、
図16及び
図17に示すナット部材60aを利用してナット70の回転規制機能を実現する。本実施形態に係るナット部材60aは、上述したナット70及びホルダー80に加えて、リテーナー91aを備えるように構成されている。このリテーナー91aは、
図18~
図21に示すように、上述した第1支持板92、第2支持板93及び連結部94に加えて、第1側板95及び第2側板96が一体となるように形成されている。第1側板95及び第2側板96は、連結部94に対してスライド方向に長く、複数のボール90の一部を保持する第1支持板92と残部を保持する第2支持板93とを介して対向する形成されている。
【0038】
第1側板95は、
図16に示す状態(連結部94の下面と連結部83の上面とが略平行となる状態)では、第1支持板92からスライド方向前側に延出する前側延出部の内面95aと第2支持板93からスライド方向後側に延出する後側延出部の内面95bとでホルダー80に対して隙間G1を介して対向するように形成されている。具体的には、第1側板95は、前側延出部の内面95aにて第1固定部81の側面81eに隙間G1を介して対向し、後側延出部の内面95bにて第2固定部82の側面82eに隙間G1を介して対向するように形成されている。なお、内面95a及び内面95bは、「第1内面」の一例に相当し、側面81e及び側面82eは、「第1側面」の一例に相当し得る。
【0039】
第2側板96は、
図16に示す状態では、第1支持板92からスライド方向前側に延出する前側延出部の内面96aと第2支持板93からスライド方向後側に延出する後側延出部の内面96bとでホルダー80に対して隙間G2を介して対向するように形成されている。具体的には、第2側板96は、前側延出部の内面96aにて第1固定部81の側面81fに隙間G2を介して対向し、後側延出部の内面96bにて第2固定部82の側面82fに隙間G2を介して対向するように形成されている。なお、内面96a及び内面96bは、「第2内面」の一例に相当し、側面81f及び側面82fは、「第2側面」の一例に相当し得る。
【0040】
このようにリテーナー91aが構成されることで、スクリュー40の回転に応じてナット70が一方向に回転し始めて、第1側板95がその内面95a,95bの一部にてホルダー80の側面81e,82eに接触するか第2側板96がその内面96a,96bの一部にてホルダー80の側面81f,82fに接触すると、ナット70の上記一方向への回転が規制される。また、スクリュー40の回転に応じてナット70が他方向に回転し始めて、第1側板95がその内面95a,95bの他の一部にてホルダー80の側面81e,82eに接触するか第2側板96がその内面96a,96bの他の一部にてホルダー80の側面81f,82fに接触すると、ナット70の上記他方向への回転が規制される。このように、第1側板95及び第2側板96によってナット70の回転が規制されるので、スクリュー40とともに回転したナット70がアッパーレール30の内壁に押し付けられながらスライドすることを防止することができる。
【0041】
なお、第1側板95は、前側延出部及び後側延出部の双方にてホルダー80の第1側面(81e,82e)に対向するように形成されることに限らず、前側延出部及び後側延出部のいずれか一方にてホルダー80の第1側面に対向するように形成されてもよい。同様に、第2側板96は、前側延出部及び後側延出部の双方にてホルダー80の第2側面(81f,82f)に対向するように形成されることに限らず、前側延出部及び後側延出部のいずれか一方にてホルダー80の第2側面に対向するように形成されてもよい。
【0042】
なお、ナットの回転規制機能を有するリテーナーを採用する本実施形態の特徴的構成は、他の実施形態等にも適用することができる。
【0043】
[第4実施形態]
次に、本発明の第4実施形態に係るシートレール装置について、
図22~
図30を参照して説明する。
本第4実施形態では、ナット70の回転規制機能を有するリテーナーを採用する点が主に上記第1実施形態と異なる。このため、第1実施形態と実質的に同様の構成部分には同一符号を付して説明を省略する。
【0044】
本実施形態では、上記第3実施形態と異なり、
図22及び
図23に示すナット部材60bを利用してナット70の回転規制機能を実現する。本実施形態に係るナット部材60bは、上述したナット70に加えて、ホルダー80a及びリテーナー91bを備えるように構成されている。
【0045】
ホルダー80aは、
図24~
図26に示すように、上述したホルダー80に対して、第1対向面81bにおける中央の上部から下部にかけて凹部81gが設けられ、第2対向面82bにおける中央の上部から下部にかけて凹部82gが設けられるように形成されている。また、本実施形態では、第1対向面81b及び第2対向面82bにおいて、上述した溝部81c及び溝部82cが廃止されている。なお、凹部81gは、「第1凹部」の一例に相当し、凹部82gは、「第2凹部」の一例に相当し得る。
【0046】
リテーナー91bは、
図27~
図30に示すように、上述した第1支持板92、第2支持板93及び連結部94に加えて、連結部94a及び連結部94bと第1係合部97及び第2係合部98とを一体に備えるように形成されている。リテーナー91bは、第1支持板92、第2支持板93、連結部94、連結部94a及び連結部94bによって上方が矩形状に開口する箱形状に形成されている。
【0047】
第1係合部97は、第1支持板92の下部中央に配置されて、ホルダー80の凹部81gに係合するように凸部状に形成されている。第2係合部98は、第2支持板93の下部中央に配置されて、ホルダー80の凹部82gに係合するように凸部状に形成されている。
【0048】
これにより、第1支持板92の第1係合部97が凹部81gの下部に係合するとともに第2支持板93の第2係合部98が凹部82gの下部に係合することで、ホルダー80aに対してリテーナー91bが相対移動不能となるため、スクリュー40が回転する場合でも、リテーナー91bを利用して保持されるナット70がホルダー80aに対して回転することもない。このようなナット70の回転規制構造によって、スクリュー40とともに回転したナット70がアッパーレール30の内壁に押し付けられながらスライドすることを防止することができる。
【0049】
なお、第1係合部97は、ホルダー80の凹部81gに係合するように凸部状に形成されることに限らず、凹部81gに係合可能な形状であればよい。同様に、第2係合部98は、ホルダー80の凹部82gに係合するように凸部状に形成されることに限らず、凹部82gに係合可能な形状であればよい。
【0050】
なお、ナットの回転規制機能を有するリテーナーを採用する本実施形態の特徴的構成は、他の実施形態等にも適用することができる。
【0051】
[他の実施形態]
なお、本発明は上記各実施形態及び変形例等に限定されるものではなく、例えば、以下のように具体化してもよい。
(1)リテーナー91,91a,91bは、第1支持板92及び第2支持板93のそれぞれに対して、4つのボール90が支持されるように構成されることに限らず、それぞれ2つ又は3つのボール90が支持されてもよいし、それぞれ5つ以上のボール90が支持されてもよい。その際、ホルダー80に設けられる溝部81c及び溝部82cは、ナット70との間に介在するボール90の位置に応じて形成することができる。
【0052】
(2)溝部81c及び溝部82cは、ホルダー80に代えてナット70に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0053】
10…シートスライド装置
20…ロアレール
30…アッパーレール
40…スクリュー
60,60a,60b…ナット部材
70,70a…ナット
71,74…雌ねじ
72…一面
73…他面
80,80a…ホルダー
81b…第1対向面
81e…側面(第1側面)
81f…側面(第2側面)
81g…凹部(第1凹部)
82b…第2対向面
82e…側面(第1側面)
82f…側面(第2側面)
82g…凹部(第2凹部)
90…ボール
91,91a,91b…リテーナー
92…第1支持板
93…第2支持板
94,94a,94b…連結部
95…第1側板
95a,95b…内面(第1内面)
96…第2側板
96a,96b…内面(第2内面)
97…第1係合部
98…第2係合部