(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】液滴センサ
(51)【国際特許分類】
G01N 21/17 20060101AFI20230830BHJP
【FI】
G01N21/17 E
(21)【出願番号】P 2019178497
(22)【出願日】2019-09-30
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】黒沢 英生
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/130844(WO,A1)
【文献】特開2019-120567(JP,A)
【文献】米国特許第04274705(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0043270(US,A1)
【文献】特開2017-161820(JP,A)
【文献】特開2018-017546(JP,A)
【文献】特開2014-238383(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/61
G01W 1/14
B60S 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転楕円体の一部であ
る楕円面
と、曲率が前記楕円面よりも大きい曲面と、を有する光学カバーと、
前記楕円面の第1焦点又はその近傍に配置された光源と、
前記楕円面の第2焦点又はその近傍に配置された光検出器と、
を有し、
前記楕円面は、前記光源から出力された光を前記光検出器に向けて反射し、前記楕円面への液滴の付着により反射光量が変化する有効検出エリアであり、
前記曲面は、前記楕円面の長軸上の点を中心とする球体の表面の一部であり、
前記
曲面は、前記有効検出エリアの外側
に接線接続されていることを特徴とする液滴センサ。
【請求項2】
前記光学カバーは、前記回転楕円体及び前記球体を、前記長軸を含む平面で切断した形状であることを特徴とする請求項
1に記載の液滴センサ。
【請求項3】
前記光学カバーには、
前記光源が配置される前記第1焦点を中心
とした半球状の第1空間と、
前記光検出器が配置される前記第2焦点を中心
とした半球状の第2空間とが形成されていることを特徴とする請求項
2に記載の液滴センサ。
【請求項4】
前記第2空間は、前記光学カバーとの界面において、前記光学カバーの外部から前記
曲面に入射して前記第2焦点に向かう外来光の光路を変更する光路変更部を有することを特徴とする請求項
3に記載の液滴センサ。
【請求項5】
前記光路変更部は、前記外来光を屈折又は反射させる少なくとも1つの平面からなることを特徴とする請求項
4に記載の液滴センサ。
【請求項6】
前記光路変更部は、前記外来光を屈折又は反射させる第1平面及び第2平面を有し、前記第1平面と前記第2平面とは互いに交わっていることを特徴とする請求項
4に記載の液滴センサ。
【請求項7】
前記光路変更部は、前記外来光を屈折又は反射させる第1平面、第2平面、及び第3平面を有し、前記第1平面及び前記第2平面は、それぞれ前記第3平面と交わっていることを特徴とする請求項
4に記載の液滴センサ。
【請求項8】
前記光学カバーには、前記長軸を含む下部から外側に延出した鍔部が形成されていることを特徴とする請求項
2ないし
7いずれか1項に記載の液滴センサ。
【請求項9】
回転楕円体の一部であ
る楕円面
と、曲率が前記楕円面よりも大きい曲面と、を有する光学カバーと、
前記楕円面の第1焦点又はその近傍に配置された光源と、
前記楕円面の第2焦点又はその近傍に配置された光検出器と、
を有し、
前記楕円面は、前記光源から出力された光を前記光検出器に向けて反射し、前記楕円面への液滴の付着により反射光量が変化する有効検出エリアであり、
前記光学カバーには、
前記光源が配置される前記第1焦点を中心
とした半球状の第1空間と、
前記光検出器が配置される前記第2焦点を中心
とした半球状の第2空間とが形成されており、
前記第2空間は、前記光学カバーとの界面において、前記光学カバーの外部から前記
曲面に入射して前記第2焦点に向かう外来光の光路を変更する光路変更部を有することを特徴とする液滴センサ。
【請求項10】
前記光路変更部は、前記外来光を屈折又は反射させる少なくとも1つの平面からなることを特徴とする請求項
9に記載の液滴センサ。
【請求項11】
前記光路変更部は、前記外来光を屈折又は反射させる第1平面及び第2平面を有し、前記第1平面と前記第2平面とは互いに交わっていることを特徴とする請求項
9に記載の液滴センサ。
【請求項12】
前記光路変更部は、前記外来光を屈折又は反射させる第1平面、第2平面、及び第3平面を有し、前記第1平面及び前記第2平面は、それぞれ前記第3平面と交わっていることを特徴とする請求項
9に記載の液滴センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨滴、水滴等の液滴を感知する液滴センサに関する。
【背景技術】
【0002】
透明板の雨滴検出エリアに雨滴が付着したときの反射率の変化を利用して、雨滴を検出する装置が知られている(たとえば、特許文献1、2参照)。これらの装置では、発光素子から放射された光が透明板の表面で反射されて、受光部で受光される。雨滴検出エリアに雨滴が付着すると、透明板の界面で反射率が変化し、受光量が変化して雨滴の存在が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6094354号
【文献】特許第6167799号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に記載の装置で用いられている光学素子は、形状が複雑であるため作製が容易でないという問題がある。
【0005】
そこで、本出願人は、構成が簡単で、かつ製造が容易である新規な液滴センサを提案している(特願2017-254956)。この液滴センサは、例えば、回転楕円体を、その長軸を含む平面で切断した形状を有する光学カバーと、回転楕円体の第1焦点位置に配置された光源と、回転楕円体の第2焦点位置に配置された光検出器とを有する。
【0006】
この液滴センサは、構成が簡単で製造が容易であるだけでなく、回転楕円体の離心率を調整することにより、気体(例えば空気)との界面で全反射条件を満たし、かつ液体(例えば水)との界面で全反射条件を満たさないという2つの条件が成立するエリア(以下、有効検出エリアという)を最大にすることで、広い検出エリアを有する高感度な液滴センサを実現するものである。
【0007】
この液滴センサを屋外で使用する等の場合には、太陽光など外来光が有効検出エリア外から光学カバー内に侵入し、光検出器に入射する可能性がある。このような外来光の入射はノイズの原因となり、必要なダイナミックレンジが確保できない場合には、液滴センサとして使い難いため、本出願人は、光学カバーの表面の有効検出エリアではない領域に、光吸収膜又は光反射膜からなるコーティング膜を形成することを提案している。
【0008】
このようなコーティング膜の形成は、外来光に起因するノイズ対策として効果的であるが、コーティング膜を形成するための製造工程を追加する必要があるため、高コスト化を招いてしまう。
【0009】
本発明は、上述したようなコーティング膜を用いることなく、低コストで、かつ光検出器への外来光の入射を抑制することを可能とする液滴センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本液滴センサは、回転楕円体の一部である楕円面と、曲率が前記楕円面よりも大きい曲面と、を有する光学カバーと、前記楕円面の第1焦点又はその近傍に配置された光源と、前記楕円面の第2焦点又はその近傍に配置された光検出器と、を有し、前記楕円面は、前記光源から出力された光を前記光検出器に向けて反射し、前記楕円面への液滴の付着により反射光量が変化する有効検出エリアであり、前記曲面は、前記楕円面の長軸上の点を中心とする球体の表面の一部であり、前記曲面は、前記有効検出エリアの外側に接線接続されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、低コストで、かつ光検出器への外来光の入射を抑制することを可能とする液滴センサが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係るレインセンサの側面図である。
【
図2】第1実施形態に係るレインセンサの斜視図である。
【
図5】発光素子から出力されて受光素子に入射する光の光路を示す図である。
【
図6】有効検出エリアに雨滴が付着することによる光路の変化を例示する図である。
【
図7】第1実施形態に係るレインセンサの効果を説明する図である。
【
図8】第2焦点に仮想的光源を配置した場合における光路を示すシミュレーション図である。
【
図9】第2実施形態に係るレインセンサの構成を示す断面図である。
【
図10】第2実施形態に係る第2空間の拡大図である。
【
図11】第2焦点に仮想的光源を配置した場合における光路を示すシミュレーション図である。
【
図12】第3実施形態に係るレインセンサの構成を示す断面図である。
【
図13】第3実施形態に係る第2空間の拡大図である。
【
図14】第3実施形態に係る第2空間を示す斜視図である。
【
図15】第2焦点に仮想的光源を配置した場合における光路を示すシミュレーション図である。
【
図16】第2焦点に仮想的光源を配置した場合における光路を、長軸に平行な方向から見たシミュレーション図である。
【
図17】第4実施形態に係るレインセンサの構成を示す断面図である。
【
図18】第4実施形態に係る第2空間6bの拡大図である。
【
図19】第4実施形態に係る第2空間を示す斜視図である。
【
図20】第2焦点に仮想的光源を配置した場合における光路を示すシミュレーション図である。
【
図21】第2空間が有する第1平面、第2平面、及び第3平面の設定条件を説明する図である。
【
図22】第1平面の傾斜角度の設定条件を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態では、気体と液体の屈折率の差異による光学カバーとの境界面における反射率の変化を利用して、液滴の存在を光学的に検出する。液滴センサは、雨滴以外にも、結露、水滴、インク等の液滴の検出に適用可能である。以下の各実施形態では、液滴センサをレインセンサに適用した例を説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係るレインセンサ10の側面図である。
図2は、第1実施形態に係るレインセンサ10の斜視図である。レインセンサ10は、雨滴の付着を検出する。雨滴の検出結果からたとえば単位時間当たり、及び/又は単位面積あたりの雨量を計測することができる。
【0014】
レインセンサ10は、光学カバー2と、発光素子3と、受光素子4とを有する。光学カバー2は、楕円面2aと、球面2b,2cと、鍔部2dとを有する。発光素子3は、楕円面2aの第1焦点F1又はその近傍に配置されている。受光素子4は、楕円面2aの第2焦点F2又はその近傍に配置されている。ここで、発光素子3は光源の一例であり、受光素子4は光検出器の一例である。
【0015】
光学カバー2は、固体のカバーであり、発光素子3の出力光の波長に対して透明な材料で形成されている。光学カバー2は、ポリカーボネート、アクリル等の樹脂の他、透明セラミック、ガラス、高屈折率のプラスチック等で形成されてもよい。
【0016】
楕円面2aは、後述する有効検出エリアDに対応する領域である。球面2b,2cは、楕円面2aの長軸方向における外側に、楕円面2aと滑らかに傾きが連続するように接続されている。具体的には、楕円面2aと球面2bとは、両者の境界線5aにおいて接線が一致するように接続(接線接続)されている(
図3参照)。同様に、楕円面2aと球面2cとは、両者の境界線5bにおいて接線が一致するように接続(接線接続)されている。
【0017】
楕円面2aは、X方向に長軸(
図1に示すLa)、Y方向に短軸を持つ楕円を、長軸Laの周りに回転させることにより得られる回転楕円体の表面の一部である。球面2bは、長軸La上の点を中心C1とする球体の表面の一部である。同様に、球面2cは、長軸La上の点を中心C2とする球体の表面の一部である。
【0018】
光学カバー2は、鍔部2d以外の部分については、楕円面2a及び球面2b,2cを有する平面形状を、長軸Laを軸として回転させることにより得られる回転体を、長軸Laを含むXY平面と水平な面で切り取った立体形状を有する。
図1及び
図2では、便宜上、光学カバー2の高さ方向をZ方向としている。
【0019】
鍔部2dは、光学カバー2の下部からXY平面方向に延出した部分であり、平面形状は例えば、円形である。なお、鍔部2dの平面形状は、これに限定されず、楕円形、四角形状、その他形状であってもよい。鍔部2dは、Z方向に一定の厚みWを有する。鍔部2dの厚みWは、例えば、光学カバー2の高さHの約25%である。鍔部2dは、光学カバー2を本体側等に固定するための取り付け部として機能する。鍔部2dの厚みWは、例えば、取り付け部をネジ止めして光学カバーを固定する際にネジ止めの締め付けによって破損しないなど、固定にかかる応力に対する強度を確保することが可能であれば、光学カバー2の高さHの25%以下であってもよい。
【0020】
発光素子3は、たとえば近赤外光を出力する発光ダイオードである。受光素子4は、たとえば近赤外領域の光に感度を有する量子井戸型の受光素子である。発光素子3は、光学カバー2の楕円面2aに向けて光を出力する。受光素子4は、発光素子3から出力され、光学カバー2の楕円面2aで反射された光を受光する。発光素子3及び受光素子4は、図示しない基板に実装されている。
【0021】
図1においてドット状のハッチングで示した有効検出エリアDは、光学カバー2の周囲が空気である場合に、発光素子3からの出力された光を全反射する領域であり、楕円面2aに対応する。この有効検出エリアDは、雨滴が付着したときだけ全反射条件が崩れるように形状が決定されている。すなわち、有効検出エリアDは、気体との界面で全反射条件を満たし、かつ液体との界面で全反射条件を満たさない領域である。これを実現する有効検出エリアDは、光学カバー2の屈折率、及び楕円面2aの離心率に依存する。
【0022】
光学カバー2の曲面部が単一の楕円で形成されている場合、屈折率が1.57の樹脂(例えば、ポリカーボネート)を用いて形成した場合には、光学カバー2で雨滴の付着を検出できる検出可能エリアの入射角θmの範囲は、およそ、39.6°<θm<57.9°に存在するが、本実施形態においては、44.3°<θi<51.4°を満たす入射角θiの範囲を有効検出エリアDとして使用している。
図1において、上記の入射角θiを満たす範囲を楕円面2aとし、その外側に球面2b,2cを接線接続している。
【0023】
離心率とは、楕円面2aの中心から焦点までの距離と長軸半径との比で決まる値である。光学カバー2の屈折率が1.57の場合には、検出可能エリアとして機能する面積は、離心率0.781で最大となる。検出可能エリアの形状については、本出願人により出願された先願(特願2017-254956号)において、詳述されている。
【0024】
上述したように鍔部2dは、光学カバー2を本体側や基板等に取り付けるための取り付け部として機能する。光学カバー2の高さHの約25%以下の領域から反射される光は、受光素子4で検出することがほとんどできないことから、この高さHの約25%以下の領域を、取り付け部としての鍔部2dとしている。これは、受光素子4は、受光面が上側になるように配置した場合に、上方向からの光に対する検出感度が高く、横方向(XY方向)からの光に対する検出感度が低いためである。この感度の低い領域を鍔部として使用することで、上方向からの滴下が想定されるレインセンサとして、上方向からの雨滴付着の検出面積をほとんど損なうことなく、雨滴の滴下有無や雨滴付着量の収集に影響を与えることはないため、検出感度をほとんど低下させることなく、取り付け部としての鍔部2dを形成することができる。
【0025】
図3は、レインセンサ10を、長軸Laを含むXZ平面で切断した断面図である。
図4は、光学カバー2を底面2e側から見た斜視図である。
【0026】
図3及び
図4に示すように、光学カバー2の内部には、第1空間6a及び第2空間6bが形成されている。第1空間6aは、発光素子3が配置される第1焦点F1を中心とした半球状の空間であり、光学カバー2との界面は透過鏡面(滑らかで凹凸がなく、光が散乱なく通過する面)である。第2空間6bは、受光素子4が配置される第2焦点F2を中心とした半球状の空間であり、光学カバー2との界面は透過鏡面又は透過散乱面(砂面などの凹凸があって、光が散乱して通過する面)である。
【0027】
本実施形態では、第1空間6a及び第2空間6bの半径は、鍔部2dの厚みWとほぼ同一である。
【0028】
このように、第1空間6aは表面が球面状であるので、発光素子3から出力された光を屈折させることなく光学カバー2の内部へ入射させる。同様に、第2空間6bは表面が球面状であるので、楕円面2a(有効検出エリアD)において反射された光を屈折させることなく第2空間6bへ入射させる。これにより、楕円の一方の焦点から出力された光を、他方の焦点で集光するという回転楕円体の基本性質を利用したレインセンサが実現できる。
【0029】
図5は、発光素子3から出力されて受光素子4に入射する光の光路を示す図である。
図6は、有効検出エリアDに雨滴が付着することによる光路の変化を例示する図である。
【0030】
図5に示すように、有効検出エリアDに雨滴が付着していない場合には、発光素子3から出力され、有効検出エリアDに入射した光はすべて全反射されて、受光素子4へ導かれる。一方、
図6に示すように、有効検出エリアDに雨滴が付着すると、雨滴が付着した部分において、有効検出エリアDの界面における全反射条件が崩れることによって反射率が変化し、発光素子3からの入射光が透過する。これにより、受光素子4での受光量が低減する。受光素子4での受光量の変化をモニタすることで、雨滴の存在と量を検出することができる。
【0031】
図7は、第1実施形態に係るレインセンサ10の効果を説明する図である。
図7(A)は、比較例として、光学カバーの有効検出エリアD外の領域が楕円面である場合を示している。
図7(A)に示される有効検出エリアD外の楕円面2fと、有効検出エリアDを構成する楕円面2aとは、同一の回転楕円体の表面の一部である。有効検出エリアD外の楕円面2fは、全反射条件を満たさない領域が存在するため、太陽光など外来光が楕円面2fから光学カバー内へ入射して受光素子4に到達する光路が存在する。
【0032】
図7(B)は、光学カバーの有効検出エリアD外の領域が球面である場合を示している。
図7(B)に示すように、本実施形態では、有効検出エリアD外の球面2cの曲率が上記楕円面2fの曲率より大きいので、球面2cから光学カバー2内へ入射する外来光の光路は、
図7(A)に示す比較例の場合と比べて、光学カバー2の内部方向へずれるので、受光素子4への外来光の入射が抑制される。
【0033】
図8は、外来光の侵入経路を確認するために、第2焦点F2に仮想的な光源(以下、仮想的光源という。)を配置した場合における光路をシミュレーションにより求めた結果を示す図である。これは、光線逆進の原理に基づき、受光素子4の位置に配置された仮想的光源から出射した光が、外部へと漏れ出る光が存在するのであれば、それは外部から逆方向に進行する光が受光素子4に入射する光路が存在することを意味し、逆に、外部へ漏れ出る光が存在しないのであれば(例えば、最終的に光学カバーの下側方向へ全て光線が進むのであれば)、光学カバーの上方向からの光には受光素子4に入射するような光路は存在しないことを意味する。ここで、光学カバーの屈折率を1.57とし、光学カバーの周囲を空気(屈折率1.0)としている。仮想的光源から出力された光が光学カバーと空気との界面で全反射され、光学カバーの外部の上方向に漏れ出ないことにより、外来光が第2焦点F2に配置される受光素子4に入射することはないことを確認することができる。
【0034】
図8(A)は、比較例として、光学カバーの有効検出エリアD外の領域が楕円面である場合を示している。
図8(A)に示すように、有効検出エリアD外の楕円面2fでは、仮想的光源から出力された光が光学カバー外の上方向に漏れ出る光路が多数存在する。すなわち、楕円面2fには、外来光を第2焦点F2に導く領域が広く存在する。
【0035】
図8(B)は、光学カバー2の有効検出エリアD外の領域が球面である場合を示している。
図8(B)に示すように、本実施形態では、仮想的光源から出力され、球面2cに入射した光は、ほとんどが全反射され、領域A付近を除き、光学カバー2の外部(上方向)に漏れ出る光路は存在していない。すなわち、球面2cには、外来光を第2焦点F2に導く領域は殆ど存在しない。但し、球面2cの鍔部2dとの接続部付近には、仮想的光源から出力された光が光学カバー外に漏れ出る領域(
図8(B)に示す領域A)が僅かながら存在する。この領域Aから第2焦点F2に向けて外来光が入射する可能性があるが、第2実施形態以降で具体的に詳述するが、鍔部2dの厚みWや空間6bの半径の変更等により、領域Aを減少させることが可能である。
【0036】
以上のように、本実施形態に係るレインセンサ10は、有効検出エリアDである楕円面2aの長軸方向の外側を球面2b,2cとした光学カバー2を有するので、受光素子4への外来光の入射が抑制される。また、本実施形態に係るレインセンサ10は、受光素子4への外来光の入射を抑制するために光学カバー2に入射光を制限するための遮光コーティング膜を形成する必要がなく、製造工程を追加する必要がないため、低コストで製造することができる。光学カバー2は、例えば、金型を用いた樹脂射出成形により製造することが可能である。
【0037】
また、楕円面2aと球面2b,2cとが接線接続されていることにより、光学カバー2の表面に付着した水滴が、当該表面に沿って自然に流れ落ちるという性質が維持される。
【0038】
上記第1実施形態において、
図8(B)の領域Aから第2焦点F2に向けて外来光が入射する可能性について述べたが、以下に、領域Aからの外来光の入射をも防止するための各種実施形態について説明する。
<第2実施形態>
図9は、第2実施形態に係るレインセンサ10aの構成を示す断面図である。本実施形態に係るレインセンサ10aは、受光素子4が配置される第2空間6bの構成が異なること以外は、第1実施形態に係るレインセンサ10と同様の構成である。
【0039】
図10は、本実施形態に係る第2空間6bの拡大図である。
図10に示すように、本実施形態では、第2空間6bは、第2焦点F2を中心とする球体を、第2焦点F2を含むXY平面で切断することにより得られる半球体を、YZ平面で切断することにより得られる形状である。したがって、第2空間6bと光学カバー2との間には、球面60と、平面61とが形成される。この平面61は、第2焦点F2よりも外側(
図11に示す鍔部2d側)に位置している。すなわち、第2焦点F2は、第2空間6b内に位置している。
【0040】
また、
図9に示すように、本実施形態では、第2空間6bの大きさである球面60の半径を、第1実施形態の第2空間6bよりも小さい値に設定しており、鍔部2dの厚みWよりも小さい。
【0041】
球面60は、発光素子3から出射した光を楕円面2aにより反射して第2焦点F2へ光を導くため、第1実施形態と同様に透過鏡面又は透過散乱面である。平面61は、外部から入射して第2焦点F2に向かう光を全反射又は屈折させることによって、光が受光素子4へ到達することを回避する機能を担う。平面61と、球面60の半径の縮小化によって、第1実施形態で説明した領域Aを消滅させる作用を有する。
【0042】
図11は、外来光の侵入経路を確認するために、第2焦点F2に仮想的光源を配置した場合における光路をシミュレーションにより求めた結果を示す図である。本実施形態では、仮想的光源から出力される光路を、領域Aよりも右側の鍔部2dへ、鍔部2d内で全反射条件が満たされる方向に光路を変更させることで領域Aを消滅させている。
図11に示すように、第2焦点F2に配置された仮想的光源から出力され平面61に入射する光は、平面61で屈折されて鍔部2dへ向かう。
図10にも示されるように、平面61の下端点K1は、焦点F2よりも右側に位置されている。つまり、第1実施形態において仮想的光源から球面2cの領域Aに向かっていた光(
図8(B)参照)は、
図10の平面61で屈折することにより、球面2cの外側に位置する鍔部2dへ向かい、鍔部2d内で全反射条件が満たされるような方向へ光路が変更されていることから、外来光が受光素子4へ到達することが回避されていることが確認できる。なお、平面61で屈折した光をすべて球面2cの外側へ導くには、第2空間6bの大きさ(球面60の半径)及び平面61の位置を適切に設定する必要がある。
【0043】
一方、第2焦点F2に配置された仮想的光源から出力され球面60に入射する光は、球面60を通過し、楕円面2a(有効検出エリアD)又は球面2cで全反射される。
【0044】
このように、本実施形態では、球面2cの領域Aから入射して第2焦点F2に向かう外来光は、光路変更部として機能する平面61によって光路が変更され、第2焦点F2に位置する受光素子4に入射することが防止される。
<第3実施形態>
図12は、第3実施形態に係るレインセンサ10bの構成を示す断面図である。本実施形態に係るレインセンサ10bは、受光素子4が配置される第2空間6bの構成が異なること以外は、第1実施形態に係るレインセンサ10と同様の構成である。
【0045】
図13は、本実施形態に係る第2空間6bの拡大図である。
図14は、本実施形態に係る第2空間6bを示す斜視図である。
図13及び
図14に示すように、本実施形態では、第2空間6bは、第2焦点F2を中心とする球体を、第2焦点F2を含むXY平面で切断することにより得られる半球体に楔形の切り込みを形成することにより得られる形状である。
【0046】
したがって、第2空間6bと光学カバー2との間には、球面70と、第1平面71と、第2平面72とが形成される。第1平面71及び第2平面72は、それぞれXZ平面に直交している。第1平面71と第2平面72との交線は、Y方向に平行である。第2焦点F2は、第2空間6b内に位置している。
【0047】
本実施形態では、第2空間6bの大きさである球面70の半径は、第1実施形態と同様に鍔部2dの厚みWと同一としている。
【0048】
球面70は、発光素子3から出射した光を楕円面2aにより反射して第2焦点F2へ導くため、第1実施形態と同様に透過鏡面又は透過散乱面である。第1平面71及び第2平面72は、外部から入射して第2焦点F2に向かう光を全反射又は屈折させることによって、光が受光素子4へ到達することを回避する機能を担う。第1平面71及び第2平面72は、第1実施形態で説明した領域Aを消滅させる作用を有する。
【0049】
図15は、外来光の侵入経路を確認するため、第2焦点F2に仮想的光源を配置した場合における光路をシミュレーションにより求めた結果を示す図である。本実施形態では、仮想的光源から出力される光路を、領域Aよりも左側(楕円面2aの方向)へ光路を変更させることで領域Aを消滅させている。
図15に示すように、第2焦点F2に配置された仮想的光源から出力され第1平面71に入射する光は、第1平面71で屈折されて球面2cへ向かう。
図13にも示されるように、平面72を延長した面と長軸Laとの交点K2は、焦点F2よりも左側に位置されている。つまり、第1実施形態において仮想的光源から球面2cの領域Aに向かっていた光(
図8(B)参照)は、第1平面71で屈折することにより、球面2cの領域Aより内側の領域の楕円面2aや球面2cに対して全反射条件を満たす角度で入射するように光路が変更されていること(すなわち、外来光が受光素子4へ到達する光路が回避されていること)が確認できる。また、第1平面71で屈折された光の一部は、第2平面72に向かい、第2平面72により全反射される。第2平面72で反射された光は、球面2cの領域Aより内側の領域へ向かう。
【0050】
このように、本実施形態では、球面2cの領域Aから入射して第2焦点F2に向かう外来光は、光路変更部として機能する第1平面71及び第2平面72によって光路が変更され、第2焦点F2に位置する受光素子4に入射することが防止される。なお、球面70の半径、第1平面71及び第2平面72の傾斜角度等は、楕円の屈折率、離心率、第1及び第2空間6a,6bの半径、鍔部2dの高さ等の条件に応じて、遮光性能が最も有効に作用するように、適宜変更してよい。
【0051】
図16は、第2焦点F2に仮想的光源を配置した場合における光路を、長軸Laに平行な方向から見たシミュレーション図である。
図16に示すように、XZ平面に平行な光路に限られず、XZ平面に平行でない光路についても、球面2cから光が上方向に漏れ出る光路が存在しないことから、外来光が第2焦点F2に配置された受光素子4へ入射する光路が存在しないことが確認できる。
<第4実施形態>
図17は、第4実施形態に係るレインセンサ10cの構成を示す断面図である。本実施形態に係るレインセンサ10cは、受光素子4が配置される第2空間6bの構成が異なること以外は、第1実施形態に係るレインセンサ10と同様の構成である。本実施形態は、上記の実施形態の特徴と有効性を踏まえ、より形成し易く実現性の高い実施形態である。
【0052】
図18は、本実施形態に係る第2空間6bの拡大図である。
図19は、本実施形態に係る第2空間6bを示す斜視図である。本実施形態では、仮想的光源から出力される光の光路を、領域Aよりも左側(楕円面2aの方向)へ変更することで、領域Aを消滅させている。
図18及び
図19に示すように、本実施形態では、第2空間6bは、第2焦点F2を中心とする球体を、第2焦点F2を含むXY平面で切断することにより得られる半球体に、先端が平坦な楔形の切り込みを形成することにより得られる形状である。
【0053】
したがって、第2空間6bと光学カバー2との間には、球面80と、第1平面81と、第2平面82と、第3平面83とが形成される。第1平面81、第2平面82、及び第3平面83は、それぞれXZ平面に直交している。第3平面83は、例えばXY平面に平行である。第3平面83は第1平面81と交わっており、その交線はY方向に平行である。第3平面83は第2平面82と交わっており、その交線はY方向に平行である。第2焦点F2は、第2空間6b内に位置している。
【0054】
本実施形態では、第2空間6bの大きさである球面80の半径は、鍔部2dの厚みWと同一としている。
【0055】
球面80は、発光素子3から出射した光を楕円面2aにより反射して第2焦点F2へ導くため、第1実施形態と同様に透過鏡面又は透過散乱面である。第1平面81、第2平面82第3平面83は、第3実施形態の第1平面71及び第2平面72と同様に、外部からの光が第2焦点F2に向かう光を全反射又は屈折させることによって、光が受光素子へ到達するのを回避する機能を担う。第1平面81、第2平面82、第3平面は、第1実施形態で説明した領域Aを消滅させる作用を有する。
【0056】
図20は、外来光の侵入経路を確認するために、第2焦点F2に仮想的光源を配置した場合における光路をシミュレーションにより求めた結果を示す図である。
図20に示すように、第2焦点F2に配置された仮想的光源から出力され第1平面81に入射する光は、第1平面81で屈折されて球面2cへ向かう。同様に、第2焦点F2に配置された仮想的光源から出力され第3平面83に入射する光は、第3平面83で僅かに屈折されて球面2cへ向かう。
図18にも示されるように、平面81を延長したLaとの交点K3は、焦点F2よりも左側に位置されている。つまり、第1実施形態において仮想的光源から球面2cの領域Aに向かっていた光(
図8(B)参照)は、第1平面81又は第3平面83で屈折することにより、球面2cの領域Aより内側の領域へ、全反射条件を満たす角度で入射するように光路が変更されていることから、外来光が受光素子4へ到達する光路が回避されていることが確認できる。
【0057】
このように、本実施形態では、球面2cの領域Aから入射して第2焦点F2に向かう外来光は、光路変更部として機能する第1平面81、第2平面82、及び第3平面83によって光路が変更され、第2焦点F2に位置する受光素子4に入射することが防止される。なお、球面80の半径、第1平面81、第2平面82、及び第3平面83の傾斜角度等は、楕円の屈折率、離心率や第1及び第2空間6a,6bの半径、鍔部2dの高さ等の条件に応じて、遮光性能が最も有効に作用するように、適宜変更してよい。
【0058】
次に、第1平面81、第2平面82、及び第3平面83の設定条件について説明する。
図21は、第2空間6bが有する第1平面81、第2平面82、及び第3平面83の設定条件を説明する図である。
【0059】
図21に示すように、XZ平面において、球面2cと鍔部2dとが交わる交点をP1とし、交点P1と第2焦点F2とを結ぶ直線をL1とする。第1平面81は、点P2と球面80上の点P3とを結ぶ直線を含むXZ平面に直交する平面である。
【0060】
なお、点P2から第2焦点F2までの距離は、球面80の半径よりも小さい。また、点P3は、直線L1よりも鍔部2d側に位置している。すなわち、点P3と第2焦点F2とを結ぶ直線L2と長軸Laとがなす角度αは、直線L1と長軸Laとがなす角度βよりも小さい。
【0061】
第3平面83は、点P2を含むXY平面に平行な面である。第2平面82は、長軸La側へ延長した仮想的な延長線L3と長軸Laとが交わる交点P4が、第2焦点F2よりも内側(鍔部2dとは反対側)に位置するように設定されている。
【0062】
また、
図22に示すように、第1平面81とXY平面とのなす角度γは、少なくとも0より大きい値である必要がある。
<その他の実施形態>
上記実施形態では、光学カバーの有効検出エリアDとしての楕円面2aの外側に、球面2b,2cを接線接続しているが、球面以外の形状を有する曲面を接線接続してもよい。この曲面は、楕円面2aの長軸Laを中心軸とする回転体の表面の一部であって、曲率が楕円面2aよりも大きければよい。
【0063】
また、受光素子4が配置される第2空間6bに、上記第2~第4実施形態で示したような光路変更部を形成する場合には、光学カバーの有効検出エリアD外の領域を楕円面(
図7(A)に示す楕円面2f)としてもよい。楕円面2aと楕円面2fとは、同一の回転楕円体の表面の一部である。この場合、屈折率や離心率、鍔部2dの高さ等の条件によっては、光路変更部が外来光の光路を変更することで、受光素子4への外来光の入射を抑制するだけでなく、外来光の入射を防止することができる可能性もある。
【0064】
また、上記各実施形態では、発光素子3の発光面及び受光素子4の受光面は、それぞれ第1焦点F1及び第2焦点F2に存在するとして単純化して光路を説明してきたが、実際に機能する発光素子3の発光面及び受光素子4の受光面は有限の大きさを有するため、発光面や受光面の実際の大きさを考慮して、必要な遮光性能が得られるように、光路変更部を形成することが好ましい。
【0065】
本発明に係る液滴センサは、発光素子3及び受光素子4は、それぞれ第1焦点F1及び第2焦点F2又はその近傍に配置されるが、発光素子3の発光部の形状や大きさ、出射光プロファイル、及び受光素子4の受光部の形状や大きさに応じて配置することが好ましい。
【0066】
また、レインセンサ、結露センサ等にも適用することができる。レインセンサは、たとえば、街路樹、街灯等に設置して局所的な雨量分布の測定や天候情報の収取や、車両のワイパー制御に用いることができる。結露センサは、コピー機、サーバ装置等のオフィスオートメーション機器に用いることができる。さらに、レインセンサを環境センサに組み込んで、他のセンサ(温度センサ、風向風量センサ等)と組み合わせて用いることもできる。
【符号の説明】
【0067】
2 光学カバー、2a 楕円面、2b,2c 球面、2d 鍔部、2e 底面、2f 楕円面、3 発光素子、4 受光素子、5a,5b 境界線、6a 第1空間、6b 第2空間、10,10b,10c レインセンサ、60 球面、61 平面、70 球面、71 第1平面、72 第2平面、80 球面、81 第1平面、82 第2平面、83 第3平面