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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】液滴センサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/17 20060101AFI20230830BHJP
【FI】
G01N21/17 E
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019178498
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021056063
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006220
【氏名又は名称】ミツミ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】黒沢 英生
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/130844(WO,A1)
【文献】特開2009-150808(JP,A)
【文献】特表2004-511757(JP,A)
【文献】特開2014-238383(JP,A)
【文献】特開2018-017546(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0043270(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0347797(US,A1)
【文献】特開2011-255028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/61
G01W 1/14
B60S 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転楕円体の一部であって楕円面を有する光学カバーと、
前記楕円面の第1焦点又はその近傍に配置された光源と、
前記楕円面の第2焦点又はその近傍に配置された光検出器と、
を有し、
前記楕円面は、前記光源から出力された光を前記光検出器に向けて反射し、前記楕円面への液滴の付着により反射光量が変化する有効検出エリアを含み、
前記光学カバーには、前記光検出器が配置される前記第2焦点を中心とした半球状の空間が形成されており、
前記光学カバーと前記半球状の空間との界面において、前記有効検出エリアからの光が入射する領域に透過散乱面が形成されており、
前記透過散乱面は、表面粗さが異なる複数の領域を有することを特徴とする液滴センサ。
【請求項2】
前記複数の領域は、それぞれ前記楕円面の長軸を回転軸とした回転対称の領域であることを特徴とする請求項に記載の液滴センサ。
【請求項3】
前記複数の領域は、前記有効検出エリアにおいて放射照度が大きいエリアからの光が入射する領域ほど表面粗さが大きいことを特徴とする請求項に記載の液滴センサ。
【請求項4】
前記界面のうち、前記透過散乱面以外の領域は、透過鏡面である請求項1ないしいずれか1項に記載の液滴センサ。
【請求項5】
前記光学カバーは、前記回転楕円体を、長軸を含む平面で切断した形状であることを特徴とする請求項1ないしいずれか1項に記載の液滴センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雨滴、水滴等の液滴を感知する液滴センサに関する。
【背景技術】
【0002】
透明板の雨滴検出エリアに雨滴が付着したときの反射率の変化を利用して、雨滴を検出する装置が知られている(たとえば、特許文献1、2参照)。これらの装置では、発光素子から放射された光が透明板の表面で反射されて、受光部で受光される。雨滴検出エリアに雨滴が付着すると、透明板の界面で反射率が変化し、受光量が変化して雨滴の存在が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6094354号
【文献】特許第6167799号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1、2に記載の装置で用いられている光学素子は、形状が複雑であるため作製が容易でないという問題がある。
【0005】
そこで、本出願人は、構成が簡単で、かつ製造が容易である新規な液滴センサを提案している(特願2017-254956)。この液滴センサは、例えば、回転楕円体を、その長軸を含む平面で切断した形状を有する光学カバーと、回転楕円体の第1焦点位置に配置された光源と、回転楕円体の第2焦点位置に配置された光検出器とを有する。
【0006】
この液滴センサは、構成が簡単で製造が容易であるだけでなく、回転楕円体の離心率を調整することにより、気体(例えば空気)との界面で全反射条件を満たし、かつ液体(例えば水)との界面で全反射条件を満たさないという2つの条件が成立するエリア(以下、有効検出エリアという)を最大にすることで、広い検出エリアを有する高感度な液滴センサを実現するものである。
【0007】
液滴の検出感度は、有効検出エリアに液滴が付着している場合と付着していない場合とにおける光検出器による受光量の比で表される。このため、液滴の検出感度は、光源から有効検出エリアに照射される光の放射照度分布に依存する。
【0008】
有効検出エリア上の放射照度は、「光源に起因する出射光の放射プロファイル」、「光源から有効検出エリア内の各領域までの距離」、および「光源から有効検出エリア内の各領域への入射角度」の各要因に主に依存する。
【0009】
「光源に起因する出射光の放射プロファイル」は、一般に発光素子の発光プロファイルは角度依存性を有しているために、出射角度によって放射照度が異なることによる。
【0010】
「光源から有効検出エリア内の各領域までの距離」は、光が光源を中心に放射状に進むために、光線に垂直な面の放射照度は光源からの距離の2乗に反比例して小さくなることによる。
【0011】
「光源から有効検出エリア内の各領域への入射角度」は、光が照射する面への入射角をθとおくと、入射角が大きくなるに従い照射面上の放射照度はcosθに従って小さくなることによる。
【0012】
上記の光学カバーでは有効検出エリアは楕円面であり、光源からの距離は有効検出エリア内の領域によって異なるので、たとえ光源の放射プロファイルが一様であっても有効検出エリア面の放射照度は均一ではなく、一般に検出感度が不均一となる。具体的には、放射プロファイルが一様である場合には、有効検出エリアのうち光源に近い領域は、放射照度が大きいので検出感度が高くなる。一方、離心率によって、有効検出エリアのうち光源から遠い領域は、放射照度が小さいので検出感度が低くなりやすい。
【0013】
本発明は、検出感度を均一化またはコントロール(制御)することを可能とする液滴センサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の課題を解決するために、本液滴センサは、回転楕円体の一部であって楕円面を有する光学カバーと、前記楕円面の第1焦点又はその近傍に配置された光源と、前記楕円面の第2焦点又はその近傍に配置された光検出器と、を有し、前記楕円面は、前記光源から出力された光を前記光検出器に向けて反射し、前記楕円面への液滴の付着により反射光量が変化する有効検出エリアを含み、前記光学カバーには、前記光検出器が配置される前記第2焦点を中心とした半球状の空間が形成されており、前記光学カバーと前記半球状の空間との界面において、前記有効検出エリアからの光が入射する領域に透過散乱面が形成されており、前記透過散乱面は、表面粗さが異なる複数の領域を有する
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、検出感度を均一化することを可能とする液滴センサが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態に係るレインセンサの側面図である。
図2】第1実施形態に係るレインセンサの斜視図である。
図3】レインセンサの断面図である。
図4】光学カバーを底面側から見た斜視図である。
図5】発光素子から出力されて受光素子に入射する光の光路を示す図である。
図6】有効検出エリアに雨滴が付着することによる光路の変化を例示する図である。
図7】発光素子の放射プロファイルを一様とした場合における光路のシミュレーション図である。
図8図7に示すシミュレーション結果を受光素子で受光した光成分による有効検出エリアの放射照度分布として表した図である。
図9】第2空間と光学カバーとの界面を示す斜視図である。
図10】透過散乱面と有効検出エリアとの関係を示す図である。
図11】透過散乱面の各領域を反射光が通過したきの強度分布を例示する図である。
図12図11に示す強度分布を有する透過散乱面を第2空間の境界面に適用した場合における受光素子で受光した光成分による有効検出エリアの放射照度分布のシミュレーション結果である図である。
図13】発光素子の放射プロファイルが極めて強い指向性を有する場合の光路のシミュレーション図である。
図14図13に示すシミュレーション結果を受光素子で受光した光成分による有効検出エリアの放射照度分布として表した図である。
図15】変形例に係る第2空間と光学カバーとの界面を示す斜視図である。
図16】変形例における受光素子の第2焦点に対する位置関係を示す図である。
図17】透過散乱面を透過した透過散乱光の強度分布を例示する図である。
図18】透過散乱面及び受光素子による作用を考慮した受光素子で受光した光成分による有効検出エリアの放射照度分布のシミュレーション結果である図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態では、気体と液体の屈折率の差異による光学カバーとの境界面における反射率の変化を利用して、液滴の存在を光学的に検出する。液滴センサは、雨滴以外にも、結露、水滴、インク等の液滴の検出に適用可能である。以下の各実施形態では、液滴センサをレインセンサに適用した例を説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係るレインセンサ10の側面図である。図2は、第1実施形態に係るレインセンサ10の斜視図である。レインセンサ10は、雨滴の付着を検出する。雨滴の検出結果から、たとえば単位時間当たり、及び/又は単位面積あたりの雨量を計測することができる。
【0018】
レインセンサ10は、光学カバー2と、発光素子3と、受光素子4とを有する。光学カバー2は、楕円面2aと、鍔部2bとを有する。発光素子3は、楕円面2aの第1焦点F1又はその近傍に配置されている。受光素子4は、楕円面2aの第2焦点F2又はその近傍に配置されている。ここで、発光素子3は光源の一例であり、受光素子4は光検出器の一例である。
【0019】
光学カバー2は、回転楕円体の一部を形成する固体のカバーであり、発光素子3の出力光の波長に対して透明な材料で形成されている。図1の例では、X方向に長軸、Y方向に短軸を持つ楕円を長軸Laの周りに回転させることにより得られる回転楕円体を、長軸Laを含むXY平面と水平な面で切り取った形状を有する。図1では、便宜上、光学カバー2の高さ方向をZ方向とする。
【0020】
光学カバー2は、ポリカーボネート、アクリル等の樹脂の他、透明セラミック、ガラス、高屈折率のプラスチック等で形成されてもよい。
【0021】
鍔部2bは、光学カバー2の下部からXY平面方向に延出した部分であり、平面形状は例えば、円形や楕円形である。なお、鍔部2bの平面形状は、これに限定されず、四角形状やその他形状であってもよい。鍔部2bは、Z方向に一定の厚みWを有する。鍔部2bの厚みWは、例えば、光学カバー2の高さHの約25%である。鍔部2bは、光学カバー2を本体側等に固定するための取り付け部として機能する。鍔部2bの厚みWは、例えば、取り付け部をネジ止めして光学カバーを固定する際にネジ止めの締め付けによって破損しないなど、固定にかかる応力に対する強度を確保することが可能であれば、光学カバー2の高さHの25%以下であってもよい。
【0022】
発光素子3は、たとえば近赤外光を出力する発光ダイオードである。受光素子4は、たとえば近赤外領域の光に感度を有する量子井戸型の受光素子である。発光素子3は、光学カバー2の楕円面2aに向けて光を出力する。受光素子4は、発光素子3から出力され、光学カバー2の楕円面2aで反射された光を受光する。発光素子3及び受光素子4は、図示しない基板に実装されている。
【0023】
図1においてドット状のハッチングを施した領域Dは、有効検出エリアであり、楕円面2aに含まれる。有効検出エリアDは、光学カバー2の周囲が空気である場合に、発光素子3からの出力された光を全反射する楕円面2a上の領域である。この有効検出エリアDは、雨滴が付着したときだけ全反射条件が崩れるように形状が決定されている。すなわち、有効検出エリアDは、気体との界面で全反射条件を満たし、かつ液体との界面で全反射条件を満たさない領域である。これを実現する有効検出エリアDの面積は、光学カバー2の屈折率、及び楕円面2aの離心率に依存する。
【0024】
光学カバー2を、屈折率が1.57の樹脂(例えば、ポリカーボネート)を用いて形成した場合には、雨滴の付着を検出できる検出可能エリアの入射角θmの範囲は、およそ、39.6°<θm<57.9°に存在するが、本実施形態においては、離心率を0.781とし、44.3°<θi<51.4°を満たす入射角θiの範囲を有効検出エリアDとして使用している。
【0025】
39.6<θ<44.3を有効検出エリアとして使用しないのは、光学カバー2の成形誤差や熱膨張などその他要因による変形、光学素子の波長ばらつきによって、全反射条件を利用した雨滴検出できなくなる可能性があるエリアだからである。
【0026】
有効検出エリアDの外側(θi<44.3°)のエリアは検出可能エリアを含んでいるため、受光素子4は有効検出エリアD以外の検出可能エリアからの反射光も検出してしまう。このため、有効検出エリアDからの反射光に有効検出エリアD以外の検出可能エリアの反射光が混在して受光素子4は受光してしまうため、有効検出エリアDの雨滴検出結果に影響を与えてしまう。そこで、有効検出エリアDの外側に遮光コートを施して、有効検出エリアDの外側の検出可能エリアからの反射光を一定の光量とすることで有効検出エリアDの水滴付着を正確に検出することができる。また、遮光コートすることによって検出可能エリア外からの外来光ノイズの侵入をも防止することができる。
【0027】
離心率とは、楕円面2aの中心から焦点までの距離と長軸半径との比で決まる値である。光学カバー2の屈折率が1.57の場合には、検出可能エリアとして機能する面積は、離心率0.781で最大となる。検出可能エリアの形状については、本出願人により出願された先願(特願2017-254956号)において、詳述されている。
【0028】
上述したように鍔部2bは光学カバー2を本体側や基板等に取り付けるための取り付け部として機能する。光学カバー2の高さHの約25%以下の領域から反射される光は、受光素子4で検出することがほとんどできないことから、この高さHの約25%以下の領域を、取り付け部としての鍔部2bとしている。これは、受光素子4は、受光面が上側になるように配置した場合に、上方向からの光に対する検出感度が高く、横方向(XY方向)からの光に対する検出感度が低いためである。この感度の低い領域を鍔部として使用することで、上方向からの滴下が想定されるレインセンサとして、雨滴付着の情報に寄与する検出面積を殆ど損なうことなく、雨滴の滴下有無や雨滴付着量の収集にも影響を与えることは殆どない。そのため、検出感度をほとんど低下させることなく、取り付け部としての鍔部2bを形成することができる。
【0029】
図3は、レインセンサ10を、長軸Laを含むXZ平面で切断した断面図である。図4は、光学カバー2を底面2c側から見た斜視図である。
【0030】
図3及び図4に示すように、光学カバー2の内部には、第1空間5a及び第2空間5bが形成されている。第1空間5aは、発光素子3が配置される第1焦点F1を中心とした半球状の空間であり、光学カバー2との界面(球面)は透過鏡面(滑らかで凹凸がなく、光が散乱なく通過する面)である。第2空間5bは、受光素子4が配置される第2焦点F2を中心とした半球状の空間であり、光学カバー2との界面(球面)は透過散乱面(砂面などの凹凸があって、光が散乱して通過する面)及び透過鏡面を有する。第2空間5bと光学カバー2との界面の詳細については後述する。
【0031】
本実施形態では、第1空間5a及び第2空間5bの半径は、鍔部2bの厚みWとほぼ同一である。
【0032】
このように、第1空間5aは球面を有するので、発光素子3から出力された光を屈折させることなく光学カバー2の内部へ入射させる。同様に、第2空間5bは球面を有するので、楕円面2aにより反射された光を屈折させることなく第2空間5bへ入射させる(第2空間5bが透過散乱面の場合には、光は第2空間5bに入射した際に散乱するが、その強度分布の中心の光が屈折されることなく第2空間5bへ入射する)。これにより、楕円の一方の焦点から出力された光を、他方の焦点で集光するという回転楕円体の基本性質を利用したレインセンサが実現できる。
【0033】
図5は、発光素子3から出力されて受光素子4に入射する光の光路を示す図である。図6は、有効検出エリアDに雨滴が付着することによる光路の変化を例示する図である。
【0034】
図5に示すように、有効検出エリアDに雨滴が付着していない場合には、発光素子3から出力され、有効検出エリアDに入射した光はすべて全反射されて、受光素子4へ導かれる。一方、図6に示すように、有効検出エリアDに雨滴が付着すると、雨滴が付着した部分において、有効検出エリアDの界面における全反射条件が崩れることによって反射率が変化し、発光素子3からの入射光が殆ど透過する。これにより、受光素子4での受光量が低減する。受光素子4での受光量の変化を、受光素子4の出力を監視する監視回路によりモニタすることで、雨滴の存在と量を検出することができる。
【0035】
図7は、発光素子3の放射プロファイルを一様(等方的)とした場合における光路のシミュレーション図である。図7では、発光素子3の放射プロファイルが一様に出力されていることを等間隔の角度の光線によって表し、受光素子4で受光されるまでの光路を表している。
【0036】
図8は、図7に示すシミュレーション結果を有効検出エリアDの放射照度として表した図である。図8(A)は側面図であり、図8(B)は平面図である。図8では、放射照度を濃淡によって表しており、白色に近い領域ほど放射照度が高いことを表している。また、この放射照度分布は、周りが空気である場合に発光素子3から出射した光が有効検出エリアDで反射され、受光素子4で受光される光成分のみによって表された放射照度分布である。なお、放射照度の濃淡が斑状になっているが、これはシミュレーション時に設定する光線の本数等の条件に依存するもので、より光線の本数を増やすなど実際の使用環境の条件に近いシミュレーションを行うことで、斑状が薄くなり濃淡が滑らかになる。
【0037】
図7に示すように、発光素子3の放射プロファイルを一様(すなわち発光素子3からの放射光が角度依存性が少ない)とした場合には、XZ面でみると、有効検出エリアD中の光線密度は、発光素子3に近い(第1焦点F1に近い)ほど大きくなる。これは、放射照度は距離の二乗に反比例することに対応しており、図8に示すように、発光素子3に近い(第1焦点F1に近い)ほど放射照度が大きくなる。
【0038】
なお、上述したように光が検出面へ入射する角度によっても放射照度は変化するが、距離による影響が支配的となっている。より具体的には、本実施形態で想定している液滴センサの検出面は回転楕円体を有しているので、光源から有効検出エリアまでの距離は、光源に近い領域と遠い領域とで約2.8倍の違いがあることで光線に垂直な面での放射照度の差は7.8倍になる。一方、光源から有効検出面への入射角度は、短軸上の頂点が51.4°で最も大きく、両側の長軸側の頂点に近づくにつれて小さくなり有効検出エリア端部における最小入射角度は44.3°となり、この影響による放射照度の差は1.15倍である。
【0039】
また、図8によれば、有効検出エリアD中の放射照度は、La軸に垂直な面で比較すると、鍔部2bに近いほど(長軸LaからY方向に離れるほど)低くなっていることがわかる。これは、受光素子4の受光面がXY面に平行であって、+Z方向を向いているためである。
【0040】
本実施形態において、受光面を+Z方向に向けている理由は、雨滴は有効検出エリアDに対して上方向(垂直方向)から降雨し付着する量が多く、側面から付着する量が少ないため、側面の雨滴付着により得られる情報に優先して上方向(垂直方向)からの雨滴付着時の変化情報を取集することを目的としているからである。なお、長軸に垂直な面内における感度の均一化を図りたい場合には、例えば受光素子4の受光面を-X方向に向けて配置してもよい。
【0041】
次に、第2空間5bと光学カバー2との界面について説明する。
【0042】
図9は、第2空間5bと光学カバー2との界面6を示す斜視図である。図9に示すように、球面状の界面6には、入射光を散乱させる透過散乱面7が形成されている。なお、本実施形態では、界面6のうち、透過散乱面7以外の領域は、透過鏡面であるが、透過散乱面であっても良い。または、その他の表面処理が施されていても良い。
【0043】
透過散乱面7は、微小な凹凸構造が形成された、いわゆる砂面である。透過散乱面7には、表面粗さが異なる複数の領域が形成されている。本実施形態では、透過散乱面7は、第1領域7a、第2領域7b、及び第3領域7cからなる。
【0044】
第1領域7a、第2領域7b、及び第3領域7cは、それぞれ長軸Laを回転軸とした回転対称の領域である。表面粗さは、第1領域7aが最も大きく、第3領域7cが最も小さい。
【0045】
図10は、透過散乱面7と有効検出エリアDとの関係を示す図である。図10に示すように、本実施形態では、透過散乱面7の第1領域7aが第1検出エリアD1に対応し、第2領域7bが第2検出エリアD2に対応し、第3領域7cが第3検出エリアD3に対応している。第1検出エリアD1、第2検出エリアD2、及び第3検出エリアD3は、それぞれ長軸Laを回転軸とした回転対称の領域である。
【0046】
発光素子3からの距離は、第1検出エリアD1が最も近く、第3検出エリアD3が最も遠い。このため、第1検出エリアD1、第2検出エリアD2、第3検出エリアD3の順に放射照度が小さくなる(図8参照)。
【0047】
第1領域7aは、発光素子3から出力され、第1検出エリアD1で反射された光が入射する領域である。第2領域7bは、発光素子3から出力され、第2検出エリアD2で反射された光が入射する領域である。第3領域7cは、発光素子3から出力され、第3検出エリアD3で反射された光が入射する領域である。
【0048】
有効検出エリアDから透過散乱面7に入射する光は、透過時に透過散乱面7で散乱することにより、その表面粗さに応じて出射角(散乱角)が分散し、中心強度が低下する。透過散乱光の中心強度の低下量は、透過散乱面7における表面粗さが大きいほど大きくなる。
【0049】
図11は、透過散乱面7の各領域を反射光が通過したきの強度分布を例示する図である。砂面での散乱光は、散乱角は面粗さに依存するが、そのプロファイルはガウス分布(正規分布)に近い性質を示す場合が多いことから、ここでは散乱光がガウス分布に従うと想定している。
【0050】
図11において、S1,S2,S3は、それぞれ第1領域7a、第2領域7b、第3領域7cに対応し、それぞれの領域に同光量を入射させたときの散乱時の強度分布(放射照度)の相対値を示したものである。第1領域7a、第2領域7b、及び第3領域7cは、例えば、散乱角度の標準偏差σが、順に15°、12°、10°となるように表面粗さが設定されている。したがって、透過散乱光の中心強度を低下させる作用は、第1領域7aが最も大きく、第3領域7cが最も小さい。
【0051】
以上の構成により、放射照度の最も大きい第1検出エリアD1からの光は、第1領域7aで中心強度が大きく低下して受光素子4に入射する。一方、放射照度の最も小さい第3検出エリアD3からの光は、第3領域7cで中心強度が低下して受光素子4に入射するが、中心強度の低下量は第1検出エリアD1からの光よりも小さい。
【0052】
このように、有効検出エリアDからの光は、放射照度の大きい検出エリアからの光ほど、透過散乱面7を透過することによる中心強度の低下量が大きいので、受光素子4の検出面上で生じていた放射照度の差異が、透過散乱面7を通過後の受光素子4上で相殺され、受光素子4による受光量のエリア依存性が低減する。これにより、長軸方向に沿った検出面上(例えば、長軸Laを含むXZ平面上に存在する検出面)に対して、液滴の検出感度が均一化される。
【0053】
図12は、図11に示す強度分布を有する透過散乱面を第2空間の境界面に適用した場合における受光素子4で受光された光成分による検出面上の放射照度のシミュレーション結果を示した図である。図12(A)は側面図であり、図12(B)は平面図である。このように、図12図8と比較すると、透過散乱面7の作用により長軸方向に沿った液滴の検出感度が均一化されることがわかる。
【0054】
なお、上記実施形態では、透過散乱面7を、表面粗さが異なる3つの領域に分割しているが、この分割数は3つに限られず、分割数や各領域の大きさは適宜変更可能である。
【0055】
本実施形態では、垂直(上方向から)に落下する雨滴を想定し、効率的に雨滴付着情報が収集できると考えられる長軸方向の頂点に沿った、感度の均一化に関して説明してきたが、±Y方向にも表面粗さの変化を設定することで、短軸方向側(±Y方向)に対しても感度の均一化、またはコントロールを行うことも可能である。ただし、この場合には、受光素子4の受光面が+Z方向に配置されているため、受光面の入射角度が90度に近いような光は受光効率が極めて低くなり、散乱面の調整で均一化を図ることが困難になることに注意する必要がある。受光面の入射角度が90度に近いような雨滴付着の情報収集に殆ど寄与しない検出面は、遮光コートを設ける、または鍔の高さを高くするなどし、予め検出面の対象から外すようにし、カバーの固定用の部位として利用してもよい。
【0056】
また、上述したように、放射プロファイルが一様(すなわち発光素子3からの放射光の角度依存性が少ない)な発光素子3を実装することで、強度中心が長軸Laに対して上下左右方向に角度がずれたとしても、角度ずれよって発生する有効検出エリアDへ入射される発光素子3の放射プロファイルの変化が小さいため、検出誤差が抑制できる。
<変形例>
次に、上記実施形態の変形例について説明する。
【0057】
図13は、発光素子3の放射プロファイルが極めて強い指向性を有する場合の光路のシミュレーション図である。具体的には、図13では、発光素子3の放射角を狭くし、発光素子3からの光の出力方向を、矢印Aで示すように、長軸Laに平行で、かつ第2焦点F2に向けている。なお、図13では、発光素子3から出力され、受光素子4で受光される光の光路を示している。発光素子3の放射プロファイルを極めて強い指向性を有する場合、XZ面でみると、有効検出エリアD中の光線密度は、発光素子3に近い(第2焦点F2に近い)ほど大きくなる。
【0058】
図14は、図13に示すシミュレーション結果を有効検出エリアDの放射照度として表した図である。図13(A)は側面図であり、図13(B)は平面図である。図12では、放射照度を濃淡によって表しており、白色に近い領域ほど放射照度が高いことを表している。なお、この放射照度は、発光素子3から出力され、有効検出エリアDで反射されて受光素子4で受光される光を対象とした有効検出エリアD上における放射照度である。
【0059】
図13に示すように、発光素子3の放射プロファイルが極めて強い指向性を有する場合には、発光素子3の中心強度が極めて大きいため有効検出エリアD中の光線密度は、長軸Laに沿って、発光素子3から遠い検出エリアで大きくなっている。この場合には、図14に示すように、長軸Laに沿って、発光素子3から遠い検出エリアの方が近い検出エリアのよりも放射照度が大きくなっている。
【0060】
図15は、本変形例に係る第2空間5bと光学カバー2との界面6を示す斜視図である。図15に示すように、本変形例では、界面6には、入射光を散乱させる透過散乱面8が形成されている。なお、界面6のうち、透過散乱面8以外の領域は、透過鏡面であるが、透過散乱面であっても良い。または、その他の表面処理が施されていても良い。
【0061】
上記実施形態のように、透過散乱面8を、表面粗さが異なる複数の透過散乱面とすることにより検出感度の均一化を図ることが可能であるが、本変形例では、図15に示すように、透過散乱面8の表面粗さを一様としている。透過散乱面8は、発光素子3から出力され、有効検出エリアDで反射された光が入射する領域である。透過散乱面8を透過した透過散乱光の強度分布は、例えば、図11に示す強度分布S3となる。
【0062】
図16は、本変形例における受光素子4の第2焦点F2に対する位置関係を示す図である。本変形例では、図16に示すように、受光素子4の位置を第2焦点F2から長軸Laに沿って、-X方向に変位させている。図16において、Δは変位量を表している。
【0063】
上記実施形態のように受光素子4を第2焦点F2に配置した場合には、受光素子4は、透過散乱面8を透過した透過散乱光のうち、散乱角度が0°の光を中心に受光することになるが、受光素子4を第2焦点F2から変位させることにより、散乱角度が0°以外の光を中心に受光することになる。
【0064】
また、このように受光素子4を第2焦点F2から変位させた場合には、受光素子4が受光する透過散乱光の散乱角度は、有効検出エリアDからの反射光が透過散乱面8を透過する位置によって異なる。図16に示すように受光素子4を第2焦点F2から変位させた場合には、透過散乱面8の上端部8aを透過した透過散乱光については、散乱角度θa付近の光が受光素子4によって選択的に受光され、透過散乱面8の下端部8bを透過した透過散乱光については、散乱角度θb付近の光が受光素子4によって選択的に受光される。ここで、θa>θbである。
【0065】
図17は、透過散乱面8を透過した透過散乱光の強度分布を例示する図である。図17において、実線は上端部8aから入射する光の強度であり、二点鎖線は下端部8bから入射するの光の強度である。図17に示すように、θa>θbであることにより、散乱角度θa付近の光の強度は、散乱角度θb付近の光の強度よりも小さい。したがって、受光素子4により受光される光の強度は、散乱角度が大きいほど、すなわち透過散乱面8中の透過領域が上端部8aに近いほど小さくなる。
【0066】
上述したように、本変形例では、発光素子3から遠い方が、有効検出エリアDの放射照度は大きくなっている。このため、本変形例では、放射照度が大きいエリアから光が、透過散乱面8中の上端部8aに近い領域を透過し、発光素子3により受光される光の強度が低下するので、有効検出エリアD上における放射照度の差異が相殺され、液滴の検出感度が均一化される。
【0067】
図18は、透過散乱面8及び受光素子4による作用を考慮した放射照度のシミュレーション結果である図である。図18(A)は側面図であり、図18(B)は平面図である。このように、図18図14と比較すると、透過散乱面8及び受光素子4の作用により液滴の検出感度が均一化されることがわかる。
【0068】
なお、図16では、第2焦点F2に対して受光素子4を-X方向に変位させているが、+X方向に変位させてもよい。また、本変形例とは逆に検出面の左側の放射照度が右側に比べて大きい場合には、受光素子4を±Z方向に変位させることによって、感度の均一化を図ることができる。
【0069】
本発明に係る液滴センサは、発光素子3及び受光素子4は、それぞれ第1焦点F1及び第2焦点F2又はその近傍に配置されるが、発光素子3の発光部の形状や大きさ、出射光プロファイル、及び受光素子4の受光部の形状や大きさを考慮して最適な位置に調整する必要があり、有効検出エリアD上における感度特性ができるだけ均一化、またはコントロールできるようにそれぞれ配置することが好ましい。
【0070】
また、本発明に係る液滴センサは、レインセンサ、結露センサ等に適用することができる。レインセンサは、たとえば、街路樹、街灯等に設置して局所的な雨量分布の測定や天候情報の収取や、車両のワイパー制御に用いることができる。結露センサは、コピー機、サーバ装置等のオフィスオートメーション機器に用いることができる。さらに、レインセンサを環境センサに組み込んで、他のセンサ(温度センサ、風向風量センサ等)と組み合わせて用いることもできる。
【符号の説明】
【0071】
2 光学カバー、2a 楕円面、2b 鍔部、2c 底面、3 発光素子(光源)、4 受光素子(光検出器)、5a 第1空間、5b 第2空間、6 界面(球面)、7 透過散乱面、7a 第1領域、7b 第2領域、7c 第3領域、8 透過散乱面、8a 上端部、8b 下端部、10 レインセンサ
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