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  • 特許-遺伝子改変細胞作製システム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】遺伝子改変細胞作製システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20230830BHJP
   C12M 1/12 20060101ALI20230830BHJP
   C12N 15/64 20060101ALI20230830BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALN20230830BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M1/12
C12N15/64 Z
C12N5/0783
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019194061
(22)【出願日】2019-10-25
(65)【公開番号】P2021065178
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】517107531
【氏名又は名称】ノイルイミューン・バイオテック株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】米田 健二
(72)【発明者】
【氏名】出口 直也
(72)【発明者】
【氏名】西村 典朗
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-100318(JP,A)
【文献】特開平01-171646(JP,A)
【文献】国際公開第2004/114378(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/058104(WO,A1)
【文献】特表2018-510660(JP,A)
【文献】国際公開第2019/156926(WO,A1)
【文献】特開2020-000194(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞に核酸を導入して、遺伝子を改変した遺伝子改変細胞を作製する、遺伝子改変細胞作製システムであって、
内部が無菌状態に維持されて培養容器に細胞を播種する細胞処理アイソレータと、上記細胞処理アイソレータに無菌状態を維持したまま接離可能に構成され、細胞が播種された培養容器を収容して当該細胞の移送を行う細胞収容庫と、
内部が無菌状態に維持されて上記細胞に導入する核酸を調製する核酸調製アイソレータと、上記核酸調製アイソレータに無菌状態を維持したまま接離可能に構成され、調製された核酸を収容して移送を行う核酸収容庫と、
内部が無菌状態に維持されて、上記細胞収容庫および上記核酸収容庫が同時に無菌状態を維持したまま接離可能に構成され、上記細胞収容庫から搬入された細胞に上記核酸収容庫から搬入された核酸を導入する核酸導入アイソレータとを備えたことを特徴とする遺伝子改変細胞作製システム。
【請求項2】
上記核酸導入アイソレータとして、
上記細胞収容庫で培養された細胞に最初に核酸を導入する第1の核酸導入アイソレータと、
上記第1の核酸導入アイソレータで処理された細胞に上記核酸を再度導入する第2の核酸導入アイソレータとを備えることを特徴とする請求項1に記載の遺伝子改変細胞作製システム。
【請求項3】
上記各アイソレータの内部を除染する除染装置を備えたことを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の遺伝子改変細胞作製システム。
【請求項4】
上記細胞収容庫を複数接続可能であり、各細胞収容庫を接続したときにその内部を除染する除染ステーションを備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の遺伝子改変細胞作製システム。
【請求項5】
上記細胞がT細胞であり、
上記核酸調製アイソレータでは、キメラ抗原受容体(CAR)をコードする核酸を有するウイルスが調整され、
上記核酸導入アイソレータでは、上記T細胞に上記ウイルスを感染させることによって、上記T細胞に上記核酸が導入され、遺伝子改変細胞としてのCAR-T細胞を作製することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の遺伝子改変細胞作製システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は遺伝子改変細胞作製システムに関し、詳しくは細胞に核酸を導入して、遺伝子を改変した遺伝子改変細胞を作製する遺伝子改変細胞作製システムに関する。
【背景技術】
【0002】
今日、がん等の治療を目的として、キメラ抗原受容体(CAR)を発現させたT細胞からなるCAR-T細胞を患者に投与することが行われている。
このようなCAR-T細胞を作製するためには、細胞に核酸を導入して、遺伝子を改変した遺伝子改変細胞を作製する方法が利用されており、具体的には患者より採取したT細胞を、CARをコードする遺伝子を含む核酸を有するウイルスに感染させることで、T細胞に核酸を導入してCARを発現させる作業が必要となっている(特許文献1)。
このような細胞に核酸を導入して遺伝子改変細胞を作製する方法は、様々な細胞の作製にも応用されており、他にも幹細胞や前駆細胞に核酸を導入することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許6161098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
細胞に核酸を導入して作製した遺伝子改変細胞を用いた治療は、今後需要が拡大するものと予想されるが、現在はこのような遺伝子改変細胞を作製する作業は一つのアイソレータ内で人手によって行っているため、時間がかかるとともに大量の培養には適さないものとなっている。
このような問題に鑑み、本発明は効率的かつ大量に核酸の導入された遺伝子改変細胞を作製することが可能な遺伝子改変細胞作製システムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち請求項1の発明にかかる遺伝子改変細胞作製システムは、細胞に核酸を導入して、遺伝子を改変した細胞を作製する、遺伝子改変細胞作製システムであって、
内部が無菌状態に維持されて培養容器に細胞を播種する細胞処理アイソレータと、上記細胞処理アイソレータに無菌状態を維持したまま接離可能に構成され、細胞が播種された培養容器を収容して当該細胞の移送を行う細胞収容庫と、
内部が無菌状態に維持されて上記細胞に導入する遺伝子を含む核酸を調製する核酸調製アイソレータと、上記核酸調製アイソレータに無菌状態を維持したまま接離可能に構成され、調製された核酸を収容して移送を行う核酸収容庫と、
内部が無菌状態に維持されて、上記細胞収容庫および上記核酸収容庫が同時に無菌状態を維持したまま接離可能に構成され、上記細胞収容庫から搬入された細胞に上記核酸収容庫から搬入された核酸を導入する核酸導入アイソレータとを備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0006】
上記発明によれば、培養容器に細胞を播種して培養する作業、遺伝子を含む核酸を調製する作業、培養された細胞に核酸を導入する作業を、それぞれ内部が無菌状態に維持されたアイソレータを用いて並行して行うことが可能となり、効率的かつ大量に遺伝子改変細胞を作製することが可能となる。
また、上記細胞収容庫や核酸収容庫を備えることで、アイソレータ間での細胞や核酸の移送を無菌状態を維持したまま行うことが可能となっている。
さらに、核酸導入アイソレータには、上記細胞収容庫および核酸収容庫を同時に接続することができるため、核酸導入アイソレータにおいて細胞収容庫からの細胞の取り出しと核酸収容庫からの核酸の取り出しとを同時に行うこともでき、効率的な作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】遺伝子改変細胞作製システムが設置された細胞加工施設の平面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下図示実施例について説明すると、図1は本発明にかかる遺伝子改変細胞作製システム1が設置された細胞加工施設2の平面図を示している。
本実施例の遺伝子改変細胞作製システム1では、遺伝子改変細胞としてのCAR-T細胞を作製するものとなっており、ここでCAR-T細胞とは、キメラ抗原受容体(CAR)が発現したT細胞であって、近年、がんなどの治療に用いられている。
このCAR-T細胞の作製方法には、細胞に核酸を導入して、遺伝子を改変した遺伝子改変細胞を作製する方法を用い、具体的には上記特許文献1に記載されているため詳細な説明は省略するが、患者から採取した細胞としてのT細胞を培養し、一方でCARをコードする(発現させる)遺伝子を含む核酸を有するウイルスを培養容器としてのウェルプレートに供給し、その後培養したT細胞を、上記ウイルスを供給した培養容器としてのウェルプレートに播種する。
これによりT細胞がウイルスに感染し、ウイルスからT細胞に核酸(遺伝子)が導入されてキメラ抗原受容体を発現させることが可能となっており、いわゆるウイルスベクターによる遺伝子導入法として知られた方法を用いている。
また本実施例では、上記患者より採取したT細胞を上記ウェルプレートに播種する際、当該ウェルプレートに予め活性化因子を供給しておくことにより、T細胞の活性化を促すようになっている。
ここで、本実施例で使用するウェルプレートは、凹状のウェルが複数形成された樹脂製の容器となっており、各ウェルにはそれぞれ細胞が播種されて、培養が行われるようになっている。また、本遺伝子改変細胞作製システムにおいては、シャーレやフラスコ等のウェルプレート以外の培養容器に対応することも可能である。
【0009】
なお、本実施例の遺伝子改変細胞作製システム1を用いることで、以下に説明するCAR-T細胞の作製手順と同様の作業を行えば、その他の遺伝子改変細胞を作製することが可能である。
ここで遺伝子改変細胞とは、外来の核酸が導入された細胞をいい、内在性の遺伝子配列を編集するものに限らず、内在性の遺伝子配列を変更せずに一過性にタンパク質やペプチドを発現させる核酸や、タンパク質等の転写や発現を調節する機能的な核酸が導入された細胞を含む。また、発現させる受容体についてはキメラ抗原受容体の他に、ホルモン受容体、光受容体等が考えられる。
上記遺伝子改変細胞作製システム1で扱うことが可能な細胞としては、上記T細胞に加えて、その他のリンパ球系細胞(ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、B細胞等)、抗原提示細胞(単球、マクロファージ、樹状細胞等)、顆粒球(好中球、好酸球、好塩基球、肥満細胞等)等の免疫細胞が考えられる。
そのほかにも、細胞としては上記免疫細胞の他、幹細胞(造血幹細胞、体性幹細胞、全能性幹細胞、多分化能幹細胞、胎児幹細胞、胚性幹細胞、間葉系幹細胞、および人工多能性幹細胞等)、前駆細胞(衛星細胞、神経前駆細胞、骨髄間質細胞、膵前駆細胞、血管芽細胞、および内皮前駆細胞等)、分化細胞(上皮細胞、心筋細胞、線維芽細胞、および軟骨細胞等)等が考えられる。
一方、核酸としては天然由来でも人工合成でもよく、具体的にはDNA、RNA、siRNA、miRNA、ami-RNA、shRNA、及びdsRNA等が考えられる。また核酸としては、例えば、タンパク質やポリペプチドをコードするDNAとすることができる。さらに核酸としては、siRNA、miRNA、ami-RNA、shRNA、dsRNA等をコードするDNAとしてもよい。
そして、本実施例ではT細胞にウイルスを感染させて上記CAR-T細胞を作製するウイルスベクターによる遺伝子導入法を用いているが、細胞に核酸(遺伝子)を導入するその他の方法として、トランスフェクション法(リン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法)、マイクロインジェクション法を採用することができる。
【0010】
そして本実施例の細胞加工施設2は、CAR-T細胞の作製に使用する資材を準備するための資材供給室2Aと、上記CAR-T細胞を作製する細胞操作室2Bと、培養されたCAR-T細胞を回収するための細胞回収室2Cとを備えている。
これら資材供給室2A、細胞操作室2B、細胞回収室2Cの内部空間は、細胞加工施設2の外部空間に対して気密を保った状態で区画されており、また外部空間よりも高い清浄度に保たれており、このうち細胞操作室2Bは資材供給室2Aおよび細胞回収室2Cよりも高度な清浄度に維持され、かつ陽圧に維持されている。
そして上記細胞操作室2Bでは、外部雰囲気の流入を阻止し、また外部へのウイルスの流出を防止する必要があり、上記細胞操作室2Bと資材供給室2Aとの間、および細胞操作室2Bと細胞回収室2Cとの間には、後述する資材を収容した移送容器12を受け渡すための資材用パスルーム2D、2Eと、細胞を収容した細胞培養庫14を受け渡すための細胞用パスルーム2F、2Gが設けられている。
【0011】
上記資材用パスルーム2Dには資材供給室2Aおよび細胞操作室2Bと連通する開閉可能な開閉扉が設けられ、当該資材用パスルーム2Dの内部は上記資材供給室2Aよりも気圧が高く、細胞操作室2Bよりも気圧が低く設定されている。
これと同様、上記資材用パスルーム2Eには細胞操作室2Bおよび細胞回収室2Cと連通する開閉可能な開閉扉が設けられ、当該資材用パスルーム2Eの内部は上記細胞操作室2Bよりも気圧が低く、細胞回収室2Cよりも気圧が高く設定されている。
さらに資材用パスルーム2D、2Eには、これらの内部空間を過酸化水素蒸気などの除染媒体によって除染するための除染手段を備えており、これにより上記移送容器12の外面を除染することが可能となっている。
【0012】
上記細胞用パスルーム2Fは資材供給室2Aおよび細胞操作室2Bと連通する開閉可能な開閉扉を備え、また内部には開閉扉を備えた隔壁が設けられ、資材供給室2A側の空間2Faと細胞操作室2B側の空間2Fbとに区画されている。
上記資材供給室2A側の空間2Faは上記資材供給室2Aよりも気圧が高く設定され、これに対し細胞操作室2B側の空間2Fbは、当該資材供給室2A側の空間2Faよりも気圧が高く、かつ細胞操作室2Bよりも気圧が低く設定されている。
これと同様、細胞用パスルーム2Gも隔壁によって区画されており、細胞回収室2C側の空間2Gaは上記細胞回収室2Cよりも気圧が高く設定され、これに対し細胞操作室2B側の空間2Gbは、当該細胞回収室2C側の空間2Gaよりも気圧が高く、かつ細胞操作室2Bよりも気圧が低く設定されている。
【0013】
そして、上記資材供給室2Aには、CAR-T細胞の作製に使用する資材を準備するための資材供給アイソレータ3と、培養するT細胞を準備するための細胞準備アイソレータ4とが設けられている。
上記細胞操作室2Bには、ウェルプレートに接着因子やウイルスを供給する核酸調製アイソレータとしてのウイルス処理アイソレータ5と、ウェルプレートに活性化因子を供給しT細胞を播種する細胞処理アイソレータ6と、ウイルスの供給されたウェルプレートにT細胞を播種する核酸導入アイソレータとしての第1のウイルス感染アイソレータ7とが設けられている。
本実施例では、第1のウイルス感染アイソレータ7におけるウイルス感染が不十分であった場合に備えて、第1のウイルス感染アイソレータで処理されたT細胞を再度ウイルスの供給されたウェルプレートに播種するための、核酸導入アイソレータとしての第2のウイルス感染アイソレータ8も設けられているが、ウイルス感染アイソレータは一つでもよい。
また上記細胞操作室2Bには、T細胞を培養するための培養ステーションS1と、ウイルスを供給したウェルプレートを保管するための保管ステーションS2と、使用済みの核酸収容庫としてのウイルス保管庫13や細胞培養庫14を除染するための除染装置として除染ステーションS3とが設けられている。
そして、上記細胞回収室2Cには、作製されたCAR-T細胞を回収するための細胞回収アイソレータ9と、使用した資材を回収して廃棄するための資材回収アイソレータ10とが設けられている。
上記構成を有する遺伝子改変細胞作製システム1の細胞操作室2については、図示しない制御手段によって上記各アイソレータ内に設けられた各種処理手段を制御するようになっており、各アイソレータ内における作業を自動的に行うことが可能となっている。
【0014】
本実施例において、上記各アイソレータは内部が無菌状態に維持されて構成され、CAR-T細胞を作製する作業を無菌環境下で行うことが可能となっている。
アイソレータ自体は従来公知であるため詳細な説明は省略するが、内部空間の無菌状態が維持されるように構成され、また側面には作業者が装着して内部空間での作業を行うためのグローブが設けられている。
さらに、各アイソレータには過酸化水素蒸気等の除染媒体によってその内部空間を除染するための除染装置11が設けられており、ある患者についてのCAR-T細胞の作製が完了したら、内部空間を除染装置11によって除染することが可能となっている。
【0015】
また本実施例の遺伝子改変細胞作製システム1では、アイソレータとアイソレータとの間でT細胞やウイルスを無菌環境下で受け渡すため、各アイソレータに対して無菌状態を維持したまま接離可能に構成された移送容器12、ウイルス保管庫13、細胞培養庫14が複数備えられている。
上記移送容器12は、上記資材供給アイソレータ3で準備した資材やウイルスを他の各アイソレータに移送するために用いられ、当該移送容器12は上記資材供給アイソレータ3およびウイルス処理アイソレータ5、細胞処理アイソレータ6、第1、第2のウイルス感染アイソレータ7、8に接続されるようになっている。
上記ウイルス保管庫13は、本発明にかかる核酸収容庫として用いられ、上記ウイルス処理アイソレータ5でウイルスが供給されたウェルプレートを保管するとともに他の各アイソレータに移送するために用いられ、収容したウェルプレートを所要の低温で保管する温度調節機能を有している。
そして当該ウイルス保管庫13は上記ウイルス処理アイソレータ5、第1、第2ウイルス感染アイソレータ7、8に接続されるとともに、上記保管ステーションS2及び除染ステーションS3に接続されるようになっている。
上記細胞培養庫14は、本発明にかかる細胞収容体として用いられ、細胞処理アイソレータ6で細胞が播種されたウェルプレートを保管するとともに他のアイソレータに移送するために用いられる。後述するようにT細胞を培養するインキュベータとして構成され、温度、湿度、炭酸ガス濃度等の調節機能を有している。
そして細胞培養庫14は上記細胞準備アイソレータ4、上記細胞処理アイソレータ6および第1、第2ウイルス感染アイソレータ7、8、上記細胞回収アイソレータ9に接続されるとともに、上記培養ステーションS1及び除染ステーションS3に接続されるようになっている。
そして上記細胞操作室2B内で用いる上記ウイルス保管庫13、細胞培養庫14については、細胞操作室2Bの内部を自走可能な構成とし、これを上記制御手段によって制御することにより、自動的に資材の移送を行うことが可能となっている。
【0016】
上記移送容器12、ウイルス保管庫13、細胞培養庫14を各アイソレータに接続するための接続手段は従来公知であり、詳細な説明については省略するが、ここでは一例として資材供給アイソレータ3および移送容器12を接続する接続手段について説明する。
資材供給アイソレータ3および移送容器12には、開閉扉によって開閉可能な開口部が形成されるとともに、当該開口部を囲繞するように連結部材が設けられている。
上記連結部材と連結部材とを連結すると、開口部と開口部との間に外部より区画された空間が形成され、当該空間に除染装置11から除染媒体を供給して当該空間を除染することが可能となっている。
上記除染が終了したら、資材供給アイソレータ3および移送容器12の開閉扉を開放することで、資材供給アイソレータ3の内部空間と移送容器12の内部空間とが無菌状態を維持したまま連通し、資材等の移動を行うことが可能となっている。
【0017】
以下、各アイソレータおよび各アイソレータで行う作業を説明しながら、CAR-T細胞の作製手順を説明する。
まず、上記資材供給室2Aに設けられた上記資材供給アイソレータ3は、CAR-T細胞の作製に必要な資材や、細胞に導入する核酸を有するウイルスを、上記細胞操作室2Bのウイルス処理アイソレータ5、細胞処理アイソレータ6、第1、第2のウイルス感染アイソレータ7、8に分配するための準備作業を行うアイソレータとなっている。そして、資材供給アイソレータ3には上記移送容器12が無菌状態を維持したまま接離可能となっている。
上記資材としては、ウェルプレートの他、液体を収容する容器や、分注装置やアスピレータ等で用いるピペット等がある。
【0018】
資材供給アイソレータ3から他のアイソレータへと資材を受け渡す作業を説明すると、まず、作業者は資材を細胞加工施設2の外部より資材供給室2Aの内部に搬入し、当該資材供給室2Aの扉を閉鎖した後、当該資材を資材供給アイソレータ3内に収容する。
続いて、資材が包装されていた場合にはこれを取り除き、資材供給アイソレータ3に設けられた除染装置11により、アイソレータ内部を除染媒体で充満させ、これにより資材の外面を除染する。
このようにして資材の除染が終了したら、これらの資材を予め接続させた移送容器12に収容し、その後移送容器12を資材供給アイソレータ3より離脱させ、上記資材供給室2Aと細胞操作室2Bとの間に設けられた資材用パスルーム2D内に載置する。資材用パスルーム2Dの細胞操作室2B側の扉は最初から閉鎖しておき、資材用パスルーム2D内に移送容器12を載置した後、資材供給室2A側の扉も閉鎖する。
そして、資材用パスルーム2Dの内部空間に除染媒体を充満させ、これにより移送容器12の外面を除染する。その後資材用パスルーム2Dの細胞操作室2B側の扉を開放すれば、当該移送容器12を細胞操作室2B内に移動させて、所要のアイソレータに接続することができる。
【0019】
次に、上記資材供給室2Aに設けられた上記細胞準備アイソレータ4は、CAR-T細胞の作製に使用する細胞を、上記細胞操作室2Bの細胞処理アイソレータ6に搬入するための作業を行うアイソレータとなっている。そして、細胞準備アイソレータ4には上記細胞培養庫14が無菌状態を維持したまま接離可能となっている。
【0020】
細胞準備アイソレータ4から細胞処理アイソレータ6へとT細胞を受け渡す作業を説明すると、まず、T細胞を収容した容器等を細胞加工施設2の外部より搬入し、当該容器等を細胞準備アイソレータ4内に収容し、細胞準備アイソレータ4内で懸濁液として調製され遠沈管に収容する。
上記細胞培養庫14に上記遠沈管を収容させると、細胞培養庫14を細胞準備アイソレータ4より離脱させ、上記資材供給室2Aと細胞操作室2Bとの間に設けられた細胞用パスルーム2F内に載置する。
最初に上記資材供給室2A側の空間2Faに細胞培養庫14を収容し、空間2Faの資材供給室2A側の開閉扉と、空間2Fb側の開閉扉を閉鎖した状態でこの細胞培養庫14の外面をアルコール等を用いて清拭する。
すなわち、除染に要する時間に対する細胞への影響を考慮して、細胞培養庫4については過酸化水素蒸気のような除染媒体を用いた除染を行わず、アルコール等の殺菌剤により外面を殺菌するようにしている。
その後、空間2Faの空間2Fb側の開閉扉を開放して当該細胞培養庫14を細胞操作室2B側の空間2Fbに移動させて、当該開閉扉を閉鎖してから、空間2Fbの細胞操作室2B側の開閉扉を開放して空間2Fbから細胞操作室2Bへと細胞培養庫14を移動させる。
ここで、これらの作業において開閉扉の開閉がなされるものの、各部屋に差圧を設けていることから、細胞操作室2Bへの外部雰囲気の進入を可及的に防止することが可能となっている。
【0021】
上記細胞操作室2Bに設けられたウイルス処理アイソレータ5は、細胞に導入する遺伝子を含んだ核酸を調製する核酸調製アイソレータとして用いられ、本実施例では、ウェルプレートの各ウェルに接着因子および核酸を有するウイルスを供給するためのアイソレータとなっている。
そして、ウイルス処理アイソレータ5には上記移送容器12およびウイルス保管庫13が、無菌状態を維持したまま接離可能となっている。なお、核酸調製アイソレータにおける調製作業としては、核酸を調製する作業や、細胞に導入する核酸をウイルスに導入する調製作業も行うこともできる。
ウイルス処理アイソレータ5の内部には、ウェルプレートのウェルに接着因子を供給する接着因子供給手段20と、ウェルプレートのウェルにウイルスを供給するウイルス供給手段21とが設けられている。
上記接着因子供給手段20の構成についての詳細な説明は省略するが、以下に説明する作業を自動的に行うため、上記ウェルプレートの各ウェルに接着因子を所定量ずつ分注する分注手段、ウェル内の液体を除去するアスピレータ手段、ウェルに洗浄液を供給する洗浄液供給手段や、これらの手段とウェルプレートとを相対移動させる移動手段等を備えており、これらは上記制御手段によって制御されるようになっている。
また上記ウイルス供給手段21もこれと同様、以下に説明する作業を自動的に行うため、ウェルプレートの各ウェルにウイルスを所定量ずつ分注する分注手段、ウイルスの分注されたウェルプレートごと遠心分離する遠心分離機、ウェル内の液体を除去するアスピレータ手段、ウェルに洗浄液を供給する洗浄液供給手段や、これらの手段とウェルプレートとを相対移動させる移動手段等を備えており、これらも制御手段によって制御されるようになっている。
【0022】
以下、ウイルス処理アイソレータ5によりウェルプレートにウイルスを供給するための作業について説明する。
まず、予め上記ウイルス処理アイソレータ5の接着因子供給手段20によってウェルプレートに接着因子を供給する作業を行う。
最初に、ウイルス処理アイソレータ5に移送容器12が接続されて、ウェルプレートやその他の資材が搬入され、また、接着作用を有する接着因子を収容した容器が供給される。
続いて、上記接着因子供給手段20が作動し、上記接着因子を収容した容器から接着因子を吸引するとともに、当該接着因子を上記ウェルプレートの各ウェルに分注し、その後所定時間保持する。これにより各ウェルに接着因子が供給される。
【0023】
次に、上記ウイルス処理アイソレータ5のウイルス供給手段21が、接着因子の供給されたウェルプレートにウイルスを供給する。
上記接着因子供給手段20が上記接着因子を供給すると、当該接着因子供給手段20が備えるアスピレータ手段と洗浄液供給手段との間で交互にウェルプレートを移動させ、各ウェル内の不要な接着因子の除去および洗浄を行う。
このようにして得られた接着因子が供給されたウェルプレートは、上記ウイルス供給手段21に移動され、ウイルス供給手段21は、ウイルスを収容した容器からウイルスを吸引して、ウェルプレートの各ウェルに所定量ずつ分注する。
その後、当該ウェルプレートは上記ウェルにウイルスが分注された状態のまま遠心分離機に投入され、当該ウェルプレートを2時間程度遠心分離することで、各ウェルにウイルスを定着させる。
続いて、上記ウェルプレートをアスピレータ手段と洗浄液供給手段との間で交互に移動させ、各ウェル内の接着因子を除去するとともに、さらにウェルへの洗浄液の供給と除去を繰り返すことで、ウェルの洗浄を行う。
これにより各ウェルに核酸を有するウイルスが吸着されたウェルプレートが得られ、換言すると核酸調製アイソレータ内において核酸が調製されたこととなる。
その後、各ウェルに再び洗浄液を分注してウイルスの乾燥を防止するとともに、当該洗浄液の分注されたウェルプレートをウイルス処理アイソレータ5に接続したウイルス保管庫13に収容させる。
【0024】
その後、上記ウイルス保管庫13はウイルス処理アイソレータ5より分離され、隣接して設けられた保管ステーションS2へと移動して接続される。上述したようにウイルス保管庫13は温度調節機能を有しており、保管ステーションS2ではウイルス保管庫13に対して必要な電力等の供給を行う。
そしてウイルス保管庫13の内部は所定の低温に維持され、ウェルプレートに供給したウイルスが必要以上に活性化しないように保管するようになっている。
【0025】
上記細胞操作室2Bに設けられた細胞処理アイソレータ6は、T細胞をウェルプレートに播種する作業を行うためのアイソレータとなっており、上記移送容器12および細胞培養庫14が接離可能となっている。
細胞処理アイソレータ6の内部には、ウェルプレートに活性化因子を供給する活性化因子供給手段22と、T細胞をウェルプレートに播種する第1播種手段23とが設けられている。
上記活性化因子供給手段22は上記ウイルス処理アイソレータ5に設けた接着因子供給手段20と同様の構成を有しているため、詳細な説明を省略する。
上記第1播種手段23は、T細胞懸濁液中のT細胞の細胞数をカウントするカウント手段、T細胞懸濁液を培養液で希釈するための培養液供給手段、希釈されたT細胞懸濁液を上記ウェルプレートに分注する分注手段、ウェル内の液体を除去するアスピレータ手段、ウェルに洗浄液を分注する洗浄液供給手段や、これらの手段とウェルプレートとを相対移動させる移動手段等を備えており、これらは制御手段によって制御されるようになっている。
【0026】
この細胞処理アイソレータ6により上記T細胞をウェルプレートに播種するための作業について説明する。
まず細胞処理アイソレータ6に上記移送容器12が接続され、ウェルプレートやその他の資材が搬入され、また細胞培養庫14が接続され、T細胞懸濁液を収容した遠沈管が搬入される。
そして、まず上記活性化因子供給手段22が作動し、ウェルプレートに活性化因子を供給する。
このようにしてウェルプレートに活性化因子を供給すると、上記第1播種手段23のアスピレータ手段および洗浄液供給手段は、上記ウェルプレートのウェルに対して洗浄液の供給および除去を行い、ウェルプレートの洗浄を行う。
次に分注手段は、上記T細胞懸濁液を収容した遠沈管からT細胞懸濁液を少量吸引して細胞数をカウントし、細胞数に応じて、当該T細胞懸濁液を培養液によって希釈した場合における、T細胞の濃度が所定濃度となるのに必要な培養液の量を算定する。
そして培養液供給手段が算定された量の培養液を所要の遠沈管に分注すると、分注手段は上記T細胞懸濁液を収容した遠沈管からT細胞懸濁液を吸引して、上記培養液の収容された遠沈管に供給し、所定濃度のT細胞懸濁液を作製する。
その後、上記分注手段は作製したT細胞懸濁液を活性化因子が供給されたウェルプレートのウェルに分注し、これによりT細胞が播種されたT細胞ウェルプレートが得られることとなる。
【0027】
このようにしてT細胞の播種されたウェルプレートは、上記細胞処理アイソレータ6に接続された上記細胞培養庫14に収容された後、細胞操作室2Bに設けられた培養ステーションS1まで移動されて接続される。
ここで、細胞培養庫14はインキュベータとして構成されており、当該細胞培養庫14を培養ステーションS1に接続すると、細胞培養庫14には電力や炭酸ガスの供給が行われる。
本実施例では、上記細胞培養庫14内でウェルプレートに播種されたT細胞を72時間程度培養し、その間、播種されたT細胞はウェルに供給されている活性化因子によってウェルに密着しながら活性化するようになっている。
【0028】
上記細胞操作室2Bに設けられた第1ウイルス感染アイソレータ7は、上記細胞培養庫14で培養された細胞に最初に核酸を導入するために用いられ、具体的には上記ウェルプレートで培養されたT細胞を回収し、これを上記ウイルスが供給されたウェルプレートに播種する作業を行うアイソレータとなっており、上記移送容器12、ウイルス保管庫13、細胞培養庫14が接続可能となっている。
第1ウイルス感染アイソレータ7の内部には、T細胞を培養しているウェルプレートからT細胞を取り出し、当該T細胞をウイルスが供給されたウェルプレートに播種してT細胞をウイルスに感染させる第2播種手段24が設けられている。
当該第2播種手段24の構成についての詳細な説明は省略するが、基本的に上記細胞処理アイソレータ6の第1播種手段23と同様の構成を有しており、上記制御手段によって制御されるようになっている。
【0029】
この第1ウイルス感染アイソレータ7を用いてT細胞にウイルスを感染させる作業について説明する。
最初に、上記第1ウイルス感染アイソレータ7に上記細胞培養庫14が接続されて、T細胞が培養されているウェルプレートが搬入され、また上記ウイルス保管庫13が接続されて、上記ウイルスが供給されたウェルプレートが搬入される。
特に第1ウイルス感染アイソレータ7には、細胞培養庫14が接続する接続部と、ウイルス保管庫13が接続する接続部とが設けられており、細胞培養庫14とウイルス保管庫13を同時に接続することも、異なるタイミングで接続することも可能となっている。
このとき、上記細胞培養庫14および上記ウイルス保管庫13を第1ウイルス感染アイソレータ7に同時に接続することにより、これらを接続した際の除染や、これらに保管された細胞やウイルスのウェルプレートの取り出しを同時に行うことが可能となり、効率的な作業を行うことが可能となっている。
そして、上記第2播種手段24は、上記T細胞を培養しているウェルプレートの各ウェルからT細胞を回収してT細胞懸濁液を遠沈管に調製し、この遠沈管から少量をサンプリングして細胞数をカウントする。
次に、細胞数のカウント結果に基づいて、T細胞懸濁液中のT細胞を所定濃度とするのに必要な培養液の量を算定し、算定した量の培養液を別の遠沈管に収容してから、ウェルプレートのT細胞懸濁液を当該遠沈管に追加する。
続いて、上記ウイルス保管庫13より搬入したウイルスが供給されたウェルプレートの各ウェルから洗浄液を除去した後、T細胞懸濁液を当該ウェルプレートの各ウェルに分注する。
【0030】
このようにしてT細胞がウイルスを供給したウェルプレートに播種されると、上記第1ウイルス感染アイソレータ7に上記細胞培養庫14を接続してウェルプレートを収容させ、さらに当該細胞培養庫14を第1ウイルス感染アイソレータ7から離脱させて、上記培養ステーションS1まで移動させて接続する。
そして培養ステーションS1では、上記インキュベータとして構成されている細胞培養庫14を作動させるための電力や炭酸ガスの供給が行われ、上記細胞培養庫14内でウェルプレートを所定時間保持することにより、T細胞がウイルスに感染する。
【0031】
上記細胞操作室2Bに設けられた第2ウイルス感染アイソレータ8は、第1ウイルス感染アイソレータ7で処理された細胞に上記核酸を再度導入するために用いられ、具体的には第1ウイルス感染アイソレータで処理されたT細胞を再度ウイルスが供給されたウェルプレートに播種するためのアイソレータとなっており、上記移送容器12、ウイルス保管庫13、細胞培養庫14が接続可能となっている。
当該第2ウイルス感染アイソレータ8も、細胞培養庫14の接続部とウイルス保管庫13の接続部とを有するので、上記細胞培養庫14および上記ウイルス保管庫13を同時に接続することが可能となっており、効率的な作業を行うことが可能となっている。
第2ウイルス感染アイソレータ8の内部には、ウェルプレートからウイルスに感染したT細胞を回収し、当該T細胞をウイルスが供給されたウェルプレートに播種して、再度T細胞をウイルスに感染させるようになっている。
当該第3播種手段25の構成についての詳細な説明は省略するが、基本的には上記細胞処理アイソレータ6の第1播種手段23や上記第1ウイルス感染アイソレータ7の第2播種手段24と同様の機構を有しており、上記制御手段によって制御されるようになっている。
【0032】
この第2ウイルス感染アイソレータ8によって上記ウイルスに感染したT細胞をウイルスが調製されたウェルプレートに再度播種する作業について説明する。
最初に、上記第2ウイルス感染アイソレータ8に細胞培養庫14を接続して、T細胞がウイルスに感染しているウェルプレートを搬入するとともに、上記ウイルス保管庫13を接続してウイルスが供給されたウェルプレートを搬入する。
すると、第3播種手段25が、上記T細胞がウイルスに感染しているウェルプレートからT細胞を回収し、これを上記ウイルス保管庫13から搬入したウイルスが供給されたウェルプレートの各ウェルに分注して、再度T細胞にウイルスを感染させるようになっている。
【0033】
このようにして再びT細胞がウイルスを供給したウェルプレートに播種されると、上記第2ウイルス感染アイソレータ8に接続されている細胞培養庫14に当該ウェルプレートを収容させ、そのまま2時間程度静置してT細胞にさらにウイルスを感染させるようになっている。
次に、上記細胞培養庫14を第2ウイルス感染アイソレータ8から離脱させ、これを上記細胞回収室2Cの細胞回収アイソレータ9へと移動させる。
【0034】
上記細胞回収室2Cに設けられた細胞回収アイソレータ9は、上記第2ウイルス感染アイソレータ8を用いてウイルス感染され遺伝子が導入されてキメラ抗原受容体(CAR)が発現したT細胞、すなわちCAR-T細胞を回収するためのアイソレータとなっており、上記細胞培養庫14を接続することが可能となっている。
細胞回収アイソレータ9の内部には、細胞培養庫14より搬入したウェルプレートからCAR-T細胞を回収する分注装置やアスピレータなどからなる細胞回収手段26が設けられ、以下の作業を自動的に行うようになっている。
【0035】
この細胞回収アイソレータ9によって上記CAR-T細胞をウェルプレートから回収する作業について説明する。
最初に、上記細胞操作室2Bの培養ステーションS1からウェルプレートを収容した細胞培養庫14を離脱させ、当該細胞培養庫14を細胞操作室2Bと細胞回収室2Cとの間に設けた細胞用パスルーム2Gに収容する。
最初に、空間2Gbの空間2Ga側の開閉扉を閉鎖しておき、細胞培養庫14を細胞操作室2B側の空間2Gbに収容した後、空間2Gbの細胞操作室2B側の開閉扉も閉鎖して、上記細胞用パスルーム2Fと同様の手順で、細胞培養庫14の外面をアルコール等を用いて清拭する。
その後、空間2Gbの空間2Ga側の開閉扉を開放し、細胞培養庫14を細胞回収室2C側の空間2Gaに移動させ、さらに細胞回収室2Cに移動させて、これを上記細胞回収アイソレータ9に接続する。
細胞回収アイソレータ9にウェルプレートが搬入されると、上記細胞回収手段26は各ウェルからCAR-T細胞を回収するとともに、これを一つの回収容器に集約する作業を行う。
そして、CAR-T細胞が一つの容器に集約されると、当該容器が密閉され、その後作業者が細胞回収アイソレータ9から当該容器を取り出すとともに、細胞回収室2Cより細胞加工施設2の外部へと搬出する。このように作製されたCAR-T細胞は、外部の施設でさらに拡大培養することができる。
【0036】
上記細胞回収室2Cに設けられた資材回収アイソレータ10は、上記各アイソレータで使用されたウェルプレートやその他の容器といった資材を廃棄するため、廃棄用の袋等に回収するためのアイソレータとなっており、上記移送容器12を接続することが可能となっている。
ここで、上記移送容器12は、細胞操作室2Bの各アイソレータに接続されると、上記資材供給アイソレータ3で収容された資材をこれらのアイソレータに受け渡すとともに、使用済みの資材を受け取るようになっている。
各アイソレータでの処理が終了すると、移送容器12は各アイソレータより離脱し、その後細胞操作室2Bと細胞回収室2Cとの間に設けた資材用パスルーム2Eに収容され、除染媒体によってその外面が除染される。
その後、移送容器12を細胞回収室2Cに移動させ、これを上記資材回収アイソレータ10に接続したら、作業者は移送容器12内の使用済みの資材を廃棄用の袋などに回収し、回収終了後には上記袋の外面を改めて除染する。
そして、所定量の資材が袋に回収されると、当該袋が密閉され、その後作業者が資材回収アイソレータ10から当該袋を取り出すとともに、細胞回収室2Cより細胞加工施設2の外部へと搬出する。
【0037】
そして、上記CAR-T細胞を作製する際に使用した移送容器12、ウイルス保管庫13、細胞培養庫14については、それぞれの使用後に上記細胞操作室2Bに設けた除染ステーションS3に接続されるようになっている。
除染ステーションS3は、これら移送容器12、ウイルス保管庫13、細胞培養庫14が接続されると、これらの内部空間に過酸化水素蒸気等の除染媒体を供給して除染を行うようになっている。
また、各アイソレータについても、除染装置11により内部の除染を行う。
【0038】
本実施例によれば、複数の手順によって構成されるCAR-T細胞の作製作業を複数のアイソレータを用いて並行して行うことができるため、大量かつ効率的にCAR-T細胞を作製することができる。
特に上記第1、第2ウイルス感染アイソレータ7、8は、上記ウイルス保管庫13および細胞培養庫14を同時に接続することが可能な構成を有しているため、無菌状態を維持したままウイルス保管庫13や細胞培養庫14からウイルスや細胞を収容したウェルプレートを取り出すことができ、効率的な作業を行うことが可能となっている。
【0039】
なお、操作ミスを防止するため、上記細胞培養庫14は上記T細胞を培養するためのものとし、これとは別に、ウイルスに感染したCAR-T細胞を収容するためにインキュベータからなる別の細胞収容庫を準備して、上記第1ウイルス感染アイソレータ7には、上記細胞培養庫14とは異なる位置に、このCAR-T細胞用の細胞収容庫を接続するような構成としてもよい。
なお、上記実施例では上記細胞収容庫をインキュベータとして構成しているが、細胞収容庫は単なる収納容器として上記培養ステーションS1をインキュベータとして構成してもよい。
その場合、培養ステーションS1と細胞収容庫とを、アイソレータと細胞収容庫とを接続するような上述した接続手段を用いて、無菌状態を維持したまま接離可能に構成し、細胞収容庫を介して各アイソレータから培養ステーションS1に培養容器を受け渡して培養するようにする。
また、細胞収容庫にHEPAフィルタ等の清浄化フィルタを設けて、内部の無菌状態を維持しつつ外部との通気を可能に構成し、培養容器を細胞収容庫に収納したままインキュベータである培養ステーションS1に搬入して、細胞を培養するようにすることもできる。
また同様に、上記実施例では上記核酸収容庫を保管庫として構成しているが、核酸収容庫は単なる収納容器として上記保管ステーションS2を保管庫として構成してもよい。
その場合、保管ステーションS2と核酸収容庫とを、アイソレータと核酸収容庫とを接続するような上述した接続手段を用いて、無菌状態を維持したまま接離可能に構成し、核酸収容庫を介して各アイソレータから保管ステーションS2に培養容器を受け渡して保管するようにする。
【0040】
また、上記説明において、各アイソレータ内で行うCAR-T細胞を作製する手順については、当該CAR-T細胞を作製するという目的の範囲内において、異なる手順や操作を行うことも可能であり、またこれにあわせて各アイソレータ内に設ける各手段についても、これらの手順や操作に適したものを用いることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 遺伝子改変細胞作製システム 2 細胞加工施設
3 資材供給アイソレータ 4 細胞準備アイソレータ
5 ウイルス処理アイソレータ(核酸調製アイソレータ)
6 細胞処理アイソレータ
7 第1ウイルス感染アイソレータ(核酸導入アイソレータ)
8 第2ウイルス感染アイソレータ(核酸導入アイソレータ)
9 細胞回収アイソレータ 11 除染装置
12 移送容器 13 ウイルス保管庫(核酸収容庫)
14 細胞培養庫(細胞収容庫) 20 接着因子供給手段
21 ウイルス供給手段 22 活性化因子供給手段
23 第1播種手段 24 第2播種手段
25 第3播種手段 26 細胞回収手段
図1