(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】溶融めっき鋼板
(51)【国際特許分類】
C23C 2/26 20060101AFI20230830BHJP
C22C 18/00 20060101ALI20230830BHJP
C22C 18/04 20060101ALI20230830BHJP
C22C 21/10 20060101ALI20230830BHJP
C23C 2/06 20060101ALI20230830BHJP
C23C 2/12 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
C23C2/26
C22C18/00
C22C18/04
C22C21/10
C23C2/06
C23C2/12
(21)【出願番号】P 2019216684
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】鳥羽 哲也
(72)【発明者】
【氏名】金藤 泰平
(72)【発明者】
【氏名】東新 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】森下 敦司
(72)【発明者】
【氏名】橋本 茂
(72)【発明者】
【氏名】安井 裕人
(72)【発明者】
【氏名】中川 雄策
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/001662(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/002358(WO,A1)
【文献】特開2001-279416(JP,A)
【文献】特開2006-265630(JP,A)
【文献】特開2017-218647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/26
C23C 2/06
C22C 18/00
C22C 18/04
C23C 2/12
C22C 21/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、前記鋼板の表面に形成された溶融めっき層と、を備え、
前記溶融めっき層は、平均組成で、Al:0~90質量%、Mg:0~10質量%を含有し、残部がZnおよび不純物を含み、
前記溶融めっき層に、所定の形状となるように配置されたパターン部と、非パターン部とが形成され、
前記パターン部が、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた意図的な形状となるように配置され、
前記パターン部及び前記非パターン部は、それぞれ、下記決定方法によって規定される第1領域または第2領域のうちの一方または両方を含み、
前記パターン部における前記第1領域の面積率と、前記非パターン部における前記第1領域の面積率との差が、絶対値で30%以上であることを特徴とする溶融めっき鋼板。
[決定方法] 前記溶融めっき層の表面に1mm間隔で仮想格子線を描き、次いで、前記仮想格子線によって区画される複数の領域毎に、各領域の重心点Gを中心とする円Sを描く。前記円Sは、前記円Sの内部に含まれる前記溶融めっき層の表面境界線の合計長さが10mmとなるように直径Rを設定する。複数の領域の円Sの直径Rのうち最大の直径Rmaxと最小の直径Rminとの平均値を基準直径Raveとし、直径Rが基準直径Rave未満の円Sを有する領域を第1領域とし、直径Rが基準直径Rave以上の円Sを有する領域を第2領域とする。
前記表面境界線は、めっき層の表面の明度の高い部分と明度の低い部分との境界とする。
【請求項2】
前記溶融めっき層が、平均組成で、Al:4~22質量%、Mg:0~10質量%を含有し、残部がZnおよび不純物を含むことを特徴とする請求項1に記載の溶融めっき鋼板。
【請求項3】
前記溶融めっき層が、更に、平均組成で、Si:0.0001~2質量%を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の溶融めっき鋼板。
【請求項4】
前記溶融めっき層が、更に、平均組成で、Ni、Ti、Zr、Sr、Fe、Sb、Pb、Sn、Ca、Co、Mn、P、B、Bi、Cr、Sc、Y、REM、Hf、Cのいずれか1種または2種以上を、合計で0.001~2質量%含有することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載の溶融めっき鋼板。
【請求項5】
前記溶融めっき層の付着量が前記鋼板両面合計で30~600g/m
2であることを特徴とする請求項1乃至請求項
4のいずれか一項に記載の溶融めっき鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融めっき鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融めっき鋼板は、耐食性に優れており、その中でもZn-Al-Mg系溶融めっき鋼板は、特に優れた耐食性を備えている。このような溶融めっき鋼板は、建材、家電、自動車分野等種々の製造業において広く使用されており、近年、その使用量が増加している。
【0003】
ところで、溶融めっき鋼板の溶融めっき層の表面に、文字、模様、デザイン画などを現すことを目的として、溶融めっき層に印刷や塗装などの工程を施すことにより、文字、模様、デザイン画などを溶融めっき層の表面に現す場合がある。
【0004】
しかし、溶融めっき層に印刷や塗装などの工程を行うと、文字やデザイン等を施すためのコストや時間が増大する問題がある。更に、印刷や塗装によって文字やデザイン等をめっき層の表面に現す場合は、需要者から高い支持を得ている金属光沢外観が失われるだけでなく、塗膜自体の経時劣化や塗膜の密着性の経時劣化の問題から、耐久性が劣り、時間とともに文字やデザイン等が消失してしまう恐れがある。また、インクをスタンプすることで文字やデザイン等をめっき層の表面に現す場合は、コストや時間は比較的抑えられるものの、インクによって、溶融めっき層の耐食性が低下する懸念がある。更に、溶融めっき層の研削によって意匠等を現す場合は、意匠等の耐久性は優れるものの、研削箇所の溶融めっき層の厚みが大幅に減少することから耐食性低下が必然であり、めっき特性の低下が懸念される。
【0005】
下記特許文献に示されるように、Zn-Al-Mg系溶融めっき鋼板に対する様々な技術開発がなされているが、めっき層の表面に文字やデザイン等を現した場合にその耐久性を向上させる技術は知られていない。
【0006】
Zn-Al-Mg系溶融めっき鋼板に関し、Zn-Al-Mg系溶融めっき鋼板にみられる梨地状のめっき外観をより美麗とすることを目的とする従来技術は存在する。
例えば、特許文献1は、キメが細かく、かつ平滑な光沢部が多い梨地状の外観を有するZn-Al-Mg系溶融めっき鋼板、すなわち、単位面積当たりの白色部の個数が多く、そして、光沢部の面積の割合が大きいという良好な梨地状の外観を有するZn-Al-Mg系溶融めっき鋼板が記載されている。また、特許文献1においては、好ましくない梨地の状態を、不定形な白色部と円形状の光沢部とが混在して表面に点在した表面外観を呈している状態であることが記載されている。
また、特許文献4は、Al/MgZn2/Znの三元共晶組織を微細化させることで、全体的にめっき層の光沢度が増し、外観均一性が向上した高耐食性溶融亜鉛めっき鋼板が記載されている。
しかしながら、めっき層の表面に文字等を現した場合に、その耐久性を向上させ、かつ、耐食性を低下させないようにする技術は、従来から知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5043234号公報
【文献】特許第5141899号公報
【文献】特許第3600804号公報
【文献】国際公開第2013/002358号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、めっき層の表面に文字やデザイン等を現すことができ、それらの耐久性に優れ、また、耐食性にも優れた溶融めっき鋼板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は以下の通りである。
[1] 鋼板と、前記鋼板の表面に形成された溶融めっき層と、を備え、
前記溶融めっき層は、平均組成で、Al:0~90質量%、Mg:0~10質量%を含有し、残部がZnおよび不純物を含み、
前記溶融めっき層に、所定の形状となるように配置されたパターン部と、非パターン部とが形成され、
前記パターン部が、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた意図的な形状となるように配置され、
前記パターン部及び前記非パターン部は、それぞれ、下記決定方法によって規定される第1領域または第2領域のうちの一方または両方を含み、
前記パターン部における前記第1領域の面積率と、前記非パターン部における前記第1領域の面積率との差が、絶対値で30%以上であることを特徴とする溶融めっき鋼板。
[決定方法] 前記溶融めっき層の表面に1mm間隔で仮想格子線を描き、次いで、前記仮想格子線によって区画される複数の領域毎に、各領域の重心点Gを中心とする円Sを描く。前記円Sは、前記円Sの内部に含まれる前記溶融めっき層の表面境界線の合計長さが10mmとなるように直径Rを設定する。複数の領域の円Sの直径Rのうち最大の直径Rmaxと最小の直径Rminとの平均値を基準直径Raveとし、直径Rが基準直径Rave未満の円Sを有する領域を第1領域とし、直径Rが基準直径Rave以上の円Sを有する領域を第2領域とする。前記表面境界線は、めっき層の表面の明度の高い部分と明度の低い部分との境界とする。
[2] 前記溶融めっき層が、平均組成で、Al:4~22質量%、Mg:0~10質量%を含有し、残部がZnおよび不純物を含むことを特徴とする[1]に記載の溶融めっき鋼板。
[3] 前記溶融めっき層が、更に、平均組成で、Si:0.0001~2質量%を含有することを特徴とする[1]または[2]に記載の溶融めっき鋼板。
[4] 前記溶融めっき層が、更に、平均組成で、Ni、Ti、Zr、Sr、Fe、Sb、Pb、Sn、Ca、Co、Mn、P、B、Bi、Cr、Sc、Y、REM、Hf、Cのいずれか1種または2種以上を、合計で0.001~2質量%含有することを特徴とする[1]乃至[3]の何れか一項に記載の溶融めっき鋼板。
[5] 前記溶融めっき層の付着量が前記鋼板両面合計で30~600g/m2であることを特徴とする[1]乃至[4]のいずれか一項に記載の溶融めっき鋼板。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、溶融めっき層の表面を、溶融めっき層の表面に現れる境界線の密度が比較的高い部分に含まれる第1領域と、溶融めっき層の表面に現れる境界線の密度が比較的低い部分に含まれる第2領域とに区分し、パターン部における第1領域の面積率と、非パターン部における第1領域の面積率との差を絶対値で30%以上とすることで、パターン部と非パターン部とを境界線の密度の違いによって肉眼で判別できるようになる。これにより、溶融めっき層の表面に文字やデザイン等を現した場合に、それらの耐久性に優れ、また、耐食性にも優れた溶融めっき鋼板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本実施形態の溶融めっき鋼板における第1領域及び第2領域の決定方法を説明する模式図である。
【
図2】
図2は、本実施形態の溶融めっき鋼板における第1領域及び第2領域の決定方法を説明する模式図である。
【
図3】
図3は、実施例のNo.1の溶融めっき層の表面の撮像データに2値化処理を行って得た境界線を示す模式図である。
【
図4】
図4は、実施例のNo.1の第1領域の走査型電子顕微鏡による拡大写真である。
【
図5】
図5は、実施例のNo.1の第2領域の走査型電子顕微鏡による拡大写真である。
【
図6】
図6は、本実施形態の一例である溶融めっき鋼板の表面を示す拡大平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態である溶融めっき鋼板について説明する。
本実施形態の溶融めっき鋼板は、鋼板と、鋼板の表面に形成された溶融めっき層と、を備え、溶融めっき層は、平均組成で、Al:0~90質量%、Mg:0~10質量%を含有し、残部がZnおよび不純物を含み、溶融めっき層に、所定の形状となるように配置されたパターン部と、非パターン部とが形成され、パターン部及び非パターン部は、それぞれ、下記決定方法によって規定される第1領域または第2領域のうちの一方または両方を含み、パターン部における第1領域の面積率と、非パターン部における第2領域の面積率との差が、絶対値で30%以上である溶融めっき鋼板である。
【0013】
決定方法は、次の通りである。溶融めっき層の表面に1mm間隔で仮想格子線を描き、次いで、仮想格子線によって区画される複数の領域毎に、各領域の重心点Gを中心とする円Sを描く。前記円Sは、前記円Sの内部に含まれる溶融めっき層の表面境界線の合計長さが10mmとなるように直径Rを設定する。複数の領域の円Sの直径Rのうち最大の直径Rmaxと最小の直径Rminとの平均値を基準直径Raveとし、直径Rが基準直径Rave未満の円Sを有する領域を第1領域とし、直径Rが基準直径Rave以上の円Sを有する領域を第2領域とする。
【0014】
溶融めっき層に現れる境界線は、例えば、めっき表面に現れる結晶粒界や、めっき表面の明度の高い部分と明度の低い部分との境界を例示できる。
【0015】
めっき表面に現れる結晶粒界の密度が高い部分に含まれる領域、または、結晶粒界の密度が低い部分に含まれる領域が、めっき表面において直線部や文字のような形状となるように配置されると、めっき表面に直線部や文字があると認識される。
【0016】
同様に、めっき表面の明暗の境界密度が高い部分に含まれる領域、または、めっき表面の明暗の境界密度が低い部分に含まれる領域が、めっき表面において直線部や文字のような形状となるように配置されると、めっき表面に直線部や文字があると認識される。
【0017】
そこで、本発明者らは、めっき表面に現れる境界線の密度によって、溶融めっき層の表面を第1領域と第2領域に区分することを試みた。
【0018】
本実施形態の溶融めっき鋼板では、溶融めっき層の表面に1mm間隔で仮想格子線を描いた場合、仮想格子線によって区画される複数の領域をそれぞれ、各区画領域を中心とした近傍における溶融めっき層の表面境界線の密度に応じて、第1領域または第2領域のいずれかに区分する。
【0019】
第1領域は、溶融めっき層の表面に現れる境界線の密度が高い部分に含まれる領域である。また、第2領域は、溶融めっき層の表面に現れる境界線の密度が低い部分に含まれる領域である。溶融めっき層において第1領域が集まった箇所と、第2領域が集まった箇所とは、境界線の密度が異なるため、第1領域及び第2領域が異なって見える。
【0020】
溶融めっき層の表面に、文字、図形、線、ドットなどが視認できるようにするためには、これらの文字等を構成するパターン部と、それ以外の非パターン部とが、識別できるようになればよい。そのためには、パターン部における第1領域の面積割合と、非パターン部おける第1領域の面積割合とが、異なっていればよい。
【0021】
具体的には、パターン部における第1領域の面積率と、非パターン部における第1領域の面積率との差が、絶対値で30%以上であるとよい。これにより、パターン部と非パターン部とが識別可能になる。
【0022】
例えば、パターン部に第1領域が多く含まれる場合、パターン部には境界線が多く見える。この場合、非パターン部における第1領域の面積割合を小さくする。非パターン部は、第1領域の面積割合が小さいため、相対的に第2領域の面積割合が高くなり、これにより非パターン部は、境界線が少なく見える。これにより、境界線が多く見えるパターン部と、境界線が少なく見える非パターン部とを肉眼で識別できるようになる。
【0023】
また、パターン部に第2領域が多く含まれる場合、パターン部には境界線が少なく見える。この場合、非パターン部における第2領域の面積割合を小さくし、第1領域の面積割合を多くする。非パターン部は、第1領域の面積割合が多いため、非パターン部は境界線が多く見える。これにより、境界線が少なく見えるパターン部と、境界線が多く見える非パターン部とを肉眼で識別できるようになる。
【0024】
このように、パターン部における第1領域の面積率と非パターン部における第1領域の面積率との差が絶対値で30%以上になると、パターン部と非パターン部の外観が異なるようになるため、パターン部を明確に識別できるようになる。すなわち、めっき層表面の可視光像において、パターン部及び非パターン部の色相、明度、彩度等の差が大きくなるため、パターン部と非パターン部が識別可能になる。
【0025】
一方、パターン部における第1領域の面積率と非パターン部における第1領域の面積率との差が絶対値で30%未満になると、パターン部と非パターン部の外観の差がなくなり、パターン部を明確に識別できなくなる。すなわち、めっき層表面の可視光像において、パターン部及び非パターン部の色相、明度、彩度等の差が小さくなるため、パターン部と非パターン部を識別できなくなる。
【0026】
以上のように、パターン部及び非パターン部における第1領域の存在割合の一例を示したが、パターン部における第1領域の面積率と非パターン部における第1領域の面積率との差が絶対値で30%以上であれば、パターン部及び非パターン部のそれぞれにおける第1領域の存在割合を限定する必要はない。
【0027】
以下、本発明の実施形態を溶融めっき鋼板について説明する。
【0028】
溶融めっき層の下地となる鋼板は、材質に特に制限はない。詳細は後述するが、材質として、一般鋼などを特に制限はなく用いることができ、Alキルド鋼や一部の高合金鋼も適用することも可能であり、形状にも特に制限はない。鋼板に対して後述する溶融めっき法を適用することで、本実施形態に係る溶融めっき層が形成される。
【0029】
次に、溶融めっき層の化学成分について説明する。
溶融めっき層は、平均組成で、Al:0~90質量%、Mg:0~10質量%を含有し、残部としてZnおよび不純物を含む。より好ましくは、平均組成で、Al:4~22質量%、Mg:1~10質量%を含有し、残部としてZnおよび不純物を含む。更に好ましくは、平均組成で、Al:4~22質量%、Mg:1~10質量%を含有し、残部としてZnおよび不純物からなる。また、溶融めっき層は、平均組成で、Si:0.0001~2質量%を含有していてもよい。更に、溶融めっき層は、平均組成で、Ni、Ti、Zr、Sr、Fe、Sb、Pb、Sn、Ca、Co、Mn、P、B、Bi、Cr、Sc、Y、REM、Hf、Cのいずれか1種または2種以上を合計で、0.001~2質量%含有していてもよい。
【0030】
Alの含有量は、平均組成で0~90質量%、好ましくは4~22質量%の範囲である。Alは、耐食性を確保するために含有させるとよい。溶融めっき層中のAlの含有量が4質量%以上であれば、耐食性を向上させる効果がより高まる。90%以下であれば、めっき層を安定して形成できる。22質量%を超えると耐食性を向上させる効果が飽和する。耐食性の観点から、好ましくは5~18質量%とする。より好ましくは6~16質量%とする。
【0031】
Mgの含有量は、平均組成で0~10質量%、好ましくは1~10質量%の範囲である。Mgは、耐食性を向上させるために含有させるとよい。溶融めっき層中のMgの含有量が1質量%以上であれば、耐食性を向上させる効果がより高まる。10質量%を超えるとめっき浴でのドロス発生が著しくなり、安定的に溶融めっき鋼板を製造するのが困難となる。耐食性とドロス発生のバランスの観点から、好ましくは1.5~6質量%とする。より好ましくは2~5質量%の範囲とする。
【0032】
Al及びMgはそれぞれ0%であってもよい。すなわち、本実施形態の溶融めっき鋼板の溶融めっき層は、Zn-Al-Mg系溶融めっき層に限定されるものではなく、Zn-Al系溶融めっき層であってもよく、溶融亜鉛めっき層であってもよく、合金化溶融亜鉛めっき層であってもよい。
【0033】
また、溶融めっき層は、Siを0.0001~2質量%の範囲で含有していてもよい。
Siは、溶融めっき層の密着性を向上させる場合があるので、含有させてもよい。Siを0.0001質量%以上含有させることで密着性を向上させる効果が発現するため、Siを0.0001質量%以上含有させることが好ましい。一方、2質量%を超えて含有させてもめっき密着性を向上させる効果が飽和するため、Siの含有量は2質量%以下とする。めっき密着性の観点からは、0.0010~1質量%の範囲としてもよく、0.0100~0.8質量%の範囲としてもよい。
【0034】
溶融めっき層中には、平均組成で、Ni、Ti、Zr、Sr、Fe、Sb、Pb、Sn、Ca、Co、Mn、P、B、Bi、Cr、Sc、Y、REM、Hf、Cの1種又は2種以上を合計で0.001~2質量%を含有していてもよい。これらの元素を含有することで、さらに耐食性を改善することができる。REMは、周期律表における原子番号57~71の希土類元素の1種または2種以上である。
【0035】
溶融めっき層の化学成分の残部は、亜鉛及び不純物である。不純物には、亜鉛ほかの地金中に不可避的に含まれるもの、めっき浴中で、鋼が溶解することによって含まれるものがある。
【0036】
なお、溶融めっき層の平均組成は、次のような方法で測定できる。まず、めっきを浸食しない塗膜剥離剤(例えば、三彩化工社製ネオリバーSP-751)で表層塗膜を除去した後に、インヒビター(例えば、スギムラ化学工業社製ヒビロン)入りの塩酸で溶融めっき層を溶解し、得られた溶液を誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析に供することで求めることができる。また、表層塗膜を有しない場合は、表層塗膜の除去作業を省略できる。
【0037】
次に、溶融めっき層の組織について説明する。以下に説明する組織は、溶融めっき層が平均組成で、Al:4~22質量%、Mg:1~10質量%、Siを0~2質量%を含有する場合の組織である。
【0038】
Al、Mg及びZnを含有する溶融めっき層は、〔Al相〕と、〔Al/Zn/MgZn2の三元共晶組織〕とを含んでいる。〔Al/Zn/MgZn2の三元共晶組織〕の素地中に、〔Al相〕が包含された形態を有している。更に、〔Al/Zn/MgZn2の三元共晶組織〕の素地中に、〔MgZn2相〕や〔Zn相〕が含まれていてもよい。また、Siを添加した場合には、〔Al/Zn/MgZn2の三元共晶組織〕の素地中に、〔Mg2Si相〕が含まれていても良い。
【0039】
ここで、〔Al/Zn/MgZn2の三元共晶組織〕とは、Al相と、Zn相と金属間化合物MgZn2相との三元共晶組織であり、この三元共晶組織を形成しているAl相は例えばAl-Zn-Mgの三元系平衡状態図における高温での「Al″相」(Znを固溶するAl固溶体であり、少量のMgを含む)に相当するものである。この高温でのAl″相は常温では通常は微細なAl相と微細なZn相に分離して現れる。また、該三元共晶組織中のZn相は少量のAlを固溶し、場合によってはさらに少量のMgを固溶したZn固溶体である。該三元共晶組織中のMgZn2相は、Zn-Mgの二元系平衡状態図のZn:約84質量%の付近に存在する金属間化合物相である。状態図で見る限りそれぞれの相にはその他の添加元素を固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられるがその量は通常の分析では明確に区別できないため、この3つの相からなる三元共晶組織を本明細書では〔Al/Zn/MgZn2の三元共晶組織〕と表す。
【0040】
また、〔Al相〕とは、前記の三元共晶組織の素地中に明瞭な境界をもって島状に見える相であり、これは例えばAl-Zn-Mgの三元系平衡状態図における高温での「Al″相」(Znを固溶するAl固溶体であり、少量のMgを含む)に相当するものである。この高温でのAl″相はめっき浴のAlやMg濃度に応じて固溶するZn量やMg量が相違する。この高温でのAl″相は常温では通常は微細なAl相と微細なZn相に分離するが、常温で見られる島状の形状は高温でのAl″相の形骸を留めたものであると見てよい。状態図で見る限りこの相にはその他の添加元素を固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられるが通常の分析では明確に区別できないため、この高温でのAl″相に由来し且つ形状的にはAl″相の形骸を留めている相を本明細書では〔Al相〕と呼ぶ。この〔Al相〕は前記の三元共晶組織を形成しているAl相とは顕微鏡観察において明瞭に区別できる。
【0041】
また、〔Zn相〕とは、前記の三元共晶組織の素地中に明瞭な境界をもって島状に見える相であり、実際には少量のAlさらには少量のMgを固溶していることもある。状態図で見る限りこの相にはその他の添加元素を固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられる。この〔Zn相〕は前記の三元共晶組織を形成しているZn相とは顕微鏡観察において明瞭に区別できる。本発明のめっき層には、製造条件により〔Zn相〕が含まれる場合も有るが、実験では加工部耐食性向上に与える影響はほとんど見られなかったため、めっき層に〔Zn相〕が含まれても特に問題はない。
【0042】
また、〔MgZn2相〕とは、前記の三元共晶組織の素地中に明瞭な境界をもって島状に見える相であり、実際には少量のAlを固溶していることもある。状態図で見る限りこの相にはその他の添加元素を固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられる。この〔MgZn2相〕は前記の三元共晶組織を形成しているMgZn2相とは顕微鏡観察において明瞭に区別できる。本発明のめっき層には、製造条件により〔MgZn2相〕が含まれない場合も有るが、ほとんどの製造条件ではめっき層中に含まれる。
【0043】
また、〔Mg2Si相〕とは、Siを添加した場合のめっき層の凝固組織中に明瞭な境界をもって島状に見える相である。状態図で見る限りZn、Al、その他の添加元素は固溶していないか、固溶していても極微量であると考えられる。この〔Mg2Si相〕はめっき中では顕微鏡観察において明瞭に区別できる。
【0044】
次に、溶融めっき層の表層におけるパターン部、非パターン部、第1領域及び第2領域について説明する。
【0045】
本実施形態の溶融めっき層の表層には、所定の形状となるように配置されたパターン部と、非パターン部とが形成される。パターン部は、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状となるように配置されていることが好ましい。また、非パターン部は、パターン部以外の領域である。また、パターン部の形状は、ドット抜けのように一部が欠けていても、全体として認識できれば許容される。また、非パターン部は、パターン部の境界を縁取るような形状であってもよい。
【0046】
溶融めっき層表面に、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状が配置されている場合に、これらの領域をパターン部とし、それ以外の領域を非パターン部とすることができる。パターン部と非パターン部の境界は、肉眼で把握することができる。パターン部と非パターン部の境界は、光学顕微鏡や拡大鏡などによる拡大像から把握してもよい。
【0047】
パターン部は、肉眼、拡大鏡下または顕微鏡下でパターン部の存在を判別可能な程度の大きさに形成されるとよい。また、非パターン部は、溶融めっき層(溶融めっき層の表面)の大部分を占める領域であり、非パターン部内にパターン部が配置される場合がある。パターン部は、非パターン部内において所定の形状に配置されている。具体的には、パターン部は、非パターン部内おいて、直線部、曲線部、図形、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状となるように配置されている。パターン部の形状を調整することによって、溶融めっき層の表面に、直線部、曲線部、図形、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状が現される。例えば、溶融めっき層の表面には、パターン部からなる文字列、数字列、記号、マーク、線図、デザイン画あるいはこれらの組合せ等が現される。この形状は、後述する製造方法によって意図的若しくは人工的に形成された形状であり、自然に形成されたものではない。
【0048】
このように、パターン部及び非パターン部は、溶融めっき層の表面に形成された領域である。パターン部及び非パターン部には、それぞれ、第1領域または第2領域のうちの1種または2種が含まれる。
【0049】
第1領域は、溶融めっき層の表面に現れる境界線の密度が高い部分に含まれる領域である。また、第2領域は、溶融めっき層の表面に現れる境界線の密度が低い部分に含まれる領域である。溶融めっき層において第1領域が集まった箇所と、第2領域が集まった箇所とは、境界線の密度が異なるため、識別可能である。
【0050】
次に、第1領域及び第2領域の決定方法について、
図1を参照して説明する。
図1に示すように、溶融めっき層の表面に1mm間隔で仮想格子線Kを描く。
図1では仮想格子線を一点鎖線で示している。なお、
図1には、溶融めっき層の現れる境界線は図示していない。次いで、仮想格子線Kによって区画される複数の領域Mを設定する。各領域Mの形状は、1辺が1mmの正方形である。ここで設定した領域が、第1領域または第2領域のいずれかになる。次いで、仮想格子線Kによって区画される複数の領域M毎に、各領域の重心点Gを設定する。次いで、重心点Gを中心とする円Sを描く。円Sの直径Rは、円Sの内部に含まれる溶融めっき層の表面境界線の合計長さが10mmとなるように設定する。
【0051】
図2(a)及び
図2(b)には、任意の領域Mに対応する円Sを示す。
図2(a)及び
図2(b)では、溶融めっき層の表面に現れる境界線を示している。
図2(a)及び
図2(b)に示す境界線は、いずれも合計長さが10mmとなっている。本実施形態では、円S内に含まれる境界線Lの合計長さが10mmになるように円Sの直径を調整する。そのため、
図2(a)に示すように、領域M及びその近傍に境界線Lが多く存在する場合は、円Sの直径Rは比較的小さくなる。一方、
図2(b)に示すように、領域M及びその近傍に境界線Lが比較的少ない場合は、円Sの直径Rは比較的大きくなる。すべての領域について円Sを描き、それぞれの円Sの直径Rを決定する。
【0052】
そして、複数の領域Mの円Sのうち最大の直径Rmaxと最小の直径Rminとの平均値を基準直径Raveとし、直径Rが基準直径Rave未満の円Sを有する領域を第1領域とし、直径Rが基準直径Rave以上の円Sを有する領域を第2領域とする。第1領域は、
図2(a)に示すような、境界線Lが多く存在する部分に含まれる領域となり、一方、第2領域は、
図2(b)に示すような、境界線Lが少なく存在する部分に含まれる領域となる。
【0053】
溶融めっき層に現れる境界線は、例えば、めっき表面に現れる結晶粒界や、めっき表面の明度の高い部分と明度の低い部分との境界を例示することができる。なお、明度の高い部分と明度の低い部分との境界は、めっき表面の撮像を2値化処理することによって得られる境界線としてもよい。
【0054】
パターン部には、仮想格子線によって区画された複数の領域が含まれており、各領域は、第1領域または第2領域の何れかに分類される。また、非パターン部にも、仮想格子線によって区画された複数の領域が含まれており、各領域は、第1領域または第2領域の何れかに分類される。すなわち、パターン部は、第1領域または第2領域のいずれかのみを含んでいてもよく、第1領域、第2領域の両方を含んでいてもよい。同様に、非パターン部は、第1領域または第2領域のいずれかのみを含んでいてもよく、第1領域、第2領域の両方を含んでいてもよい。
【0055】
ここで、パターン部においては、第1領域及び第2領域のそれぞれの面積分率を求めることができる。そして、第1領域の面積分率が高くなると、パターン部には比較的多くの境界線が含まれる。一方、パターン部における第2領域の面積分率が高くなると、パターン部には比較的少ない境界線が含まれる。このように、パターン部の外観は、第1領域、第2領域の面積率に依存する。
【0056】
一方、非パターン部においても、第1領域及び第2領域のそれぞれの面積分率を求めることができる。パターン部と同様、非パターン部の外観は、第1領域、第2領域の面積分率に依存する。
【0057】
そして、パターン部における第1領域の面積割合と、非パターン部における第1領域の面積割合との差が、絶対値で30%以上の場合に、パターン部と非パターン部とを識別できるようになる。面積割合の差が30%未満では、パターン部における第1領域の面積割合と、非パターン部における第1領域の面積割合との差が小さく、パターン部及び非パターン部の外観が似たような外観になり、パターン部を識別することが困難になる。面積割合の差は、大きければ大きいほどよく、40%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましい。
【0058】
パターン部及び非パターン部は、肉眼で識別可能であってもよく、拡大鏡下または顕微鏡下で識別可能であってもよい。拡大鏡下または顕微鏡下で識別可能とは、例えば、パターン部で構成される形状が50倍以下の視野で識別可能であればよい。50倍以下の視野であれば、パターン部と非パターン部は、その外観の違いにより、識別可能である。パターン部と非パターン部は、好ましくは20倍以下、さらに好ましくは10倍以下、より好ましくは5倍以下で識別可能である。
【0059】
本実施形態に係る溶融めっき鋼板は、溶融めっき層の表面に化成処理皮膜層や塗膜層を有してもよい。ここで、化成処理皮膜層や塗膜層の種類は特に限定されず、公知の化成処理皮膜層や塗膜層を用いることができる。
【0060】
次に、本実施形態の溶融めっき鋼板の製造方法を説明する。
本実施形態の溶融めっき鋼板は、製鋼、鋳造、熱間圧延を経て製造された鋼板に対して、溶融めっきを行う。鋼板を製造する際には、更に、酸洗、熱延板焼鈍、冷間圧延、冷延板焼鈍を行ってもよい。溶融めっきは、鋼板を溶融めっき浴に連続通板させる連続式溶融めっき法でもよく、鋼板を所定の形状に加工した鋼材または鋼板自体を、溶融めっき浴に浸漬してから引き上げるどぶ付け式めっき法でもよい。
【0061】
溶融めっき浴は、Al:0~90質量%、Mg:0~10質量%を含有し、残部としてZnおよび不純物を含むことが好ましい。また、溶融めっき浴は、Al:4~22質量%、Mg:1~10質量%を含有し、残部がZnおよび不純物を含むものでもよい。更に、溶融めっき浴は、Si:0.0001~2質量%を含有してもよい。更にまた、溶融めっき浴は、Ni、Ti、Zr、Sr、Fe、Sb、Pb、Sn、Ca、Co、Mn、P、B、Bi、Cr、Sc、Y、REM、Hf、Cのいずれか1種または2種以上を、合計で0.001~2質量%含有してもよい。なお、本実施形態の溶融めっき層の平均組成は、溶融めっき浴の組成とほぼ同じである。
【0062】
溶融めっき浴の温度は、組成によって異なるが、例えば、400~500℃の範囲が好ましい。溶融めっき浴の温度がこの範囲であれば、所望の溶融めっき層を形成できるためである。
また、溶融めっき層の付着量は、溶融めっき浴から引き上げられた鋼板に対してガスワイピング等の手段で調整すればよい。溶融めっき層の付着量は、鋼板両面の合計の付着量が30~600g/m2の範囲になるように調整することが好ましい。付着量が30g/m2未満の場合、溶融めっき鋼板の耐食性が低下するので好ましくない。付着量が600g/m2超の場合、鋼板に付着した溶融金属の垂れが発生して、溶融めっき層の表面を平滑にすることができなくなるため好ましくない。
【0063】
溶融めっき浴から引き上げた直後の鋼板または鋼材に対して、めっきの最終凝固温度以上の非酸化性ガスを溶融状態の金属にガスノズルによって局所的に吹き付ける。非酸化性ガスとしては、窒素やアルゴンを用いるとよい。また、組成によって最適な温度域は異なるが、溶融金属の温度が(最終凝固温度-5)℃~(最終凝固温度+5)℃の範囲にあるときに、非酸化性ガスの吹き付けを行うとよい。更に、非酸化性ガスの温度は、最終凝固温度以上とすることが好ましい。例えば、Al:11%、Mg:3%のめっき組成においては、溶融金属の温度が330~340℃のときにガス温度が最終凝固温度以上である非酸化性ガスの吹き付けを行うとよい。非酸化性ガスが吹き付けられた周辺では、溶融金属の冷却速度が低下し、これにより、表面に現れる境界または結晶粒界が粗大になる。従って、非酸化性ガスの吹き付け量と範囲を調整することによって、表面に現れる境界または結晶粒界の大きさを任意に調整できるようになる。これにより、パターン部及び非パターン部の形状を任意に調整でき、かつ、パターン部及び非パターン部を肉眼で判別できるようになる。
【0064】
溶融めっき層の表面に化成処理層を形成する場合には、溶融めっき層を形成した後の溶融めっき鋼板に対して、化成処理を行う。化成処理の種類は特に限定されず、公知の化成処理を用いることができる。
また、溶融めっき層の表面や化成処理層の表面に塗膜層を形成する場合には、溶融めっき層を形成した後、又は、化成処理層を形成した後の溶融めっき鋼板に対して、塗装処理を行う。塗装処理の種類は特に限定されず、公知の塗装処理を用いることができる。
【0065】
本実施形態の溶融めっき鋼板は、溶融めっき層の表面を、溶融めっき層の表面に現れる境界線の密度が比較的高い部分に存在する第1領域と、溶融めっき層の表面に現れる境界線の密度が比較的低い部分に存在する第2領域とに区分し、パターン部における第1領域の面積率と、非パターン部における第1領域の面積率との差を30%以上とすることで、パターン部と非パターン部とを識別できるようになる。形成されたパターン部及び非パターン部は、印刷や塗装によって形成されたものではないため、耐久性が高くなっている。また、パターン部及び非パターン部が印刷や塗装によって形成されたものではないため、溶融めっき層の耐食性への影響もない。更に、パターン部及び非パターン部は、溶融めっき層の表面を研削等によって形成したものではない。従って、パターン部における溶融めっき層の厚みと、非パターン部における溶融めっき層の厚みとの差はみられない。よって、本実施形態の溶融めっき鋼板は、耐食性に優れたものとなる。
【0066】
本実施形態によれば、所定の形状に成形したパターン部の耐久性が高く、耐食性等の好適なめっき特性を有する溶融めっき鋼板を提供できる。特に本実施形態では、めっき浴から引き上げ後の溶融金属の温度が(最終凝固温度-5)℃~(最終凝固温度+5)℃の範囲にあるときに、溶融めっき層の表面に非酸化性ガスをガスノズルによって局所的に吹き付けることで、凝固後の溶融めっき層の表面に現れる境界または結晶粒界の大きさを任意に調整して、パターン部または非パターン部の範囲を意図的若しくは人工的な形状にすることができ、直線部、曲線部、ドット部、図形、数字、記号、模様若しくは文字のいずれか1種またはこれらのうちの2種以上を組合せた形状となるようにパターン部を配置できる。これにより、溶融めっき層の表面に、印刷、塗装または研削を行うことなく様々な意匠、商標、その他の識別マークを表すことができ、鋼板の出所の識別性やデザイン性等を高めることができる。また、パターン部によって、工程管理や在庫管理などに必要な情報や需要者が求める任意の情報を、溶融めっき鋼板に付与することもできる。これにより、溶融めっき鋼板の生産性の向上にも寄与することができる。
【実施例】
【0067】
次に、本発明の実施例を説明する。鋼板を脱脂、水洗した後に、還元焼鈍、めっき浴浸漬、付着量制御、冷却を行うことで、表2に示すNo.1~32のZn-Al-Mg系溶融めっき鋼板を製造した。めっき浴から鋼板を引き上げた際に、溶融金属の温度が(最終凝固温度-5)℃~(最終凝固温度+5)℃の範囲にあるときに、鋼板表面の溶融金属に、非酸化性ガスの一種である窒素ガスを加熱した状態でガスノズルから吹き付けた。窒素ガスの吹き付け条件は表1に示す通りとした。表1に示すガス温度は、いずれも、最終凝固温度以上であった。その後、冷却して溶融金属を完全に凝固させた。窒素ガスの吹き付けによって、一辺が50mmの正方形パターンが現れるように制御した。ただし、No.30については、溶融金属の温度が(最終凝固温度-5)℃~(最終凝固温度+5)℃の範囲よりも高い温度にあるときに、窒素ガスをガスノズルによって吹き付けた。
【0068】
また、上記と同様にしてZn-Al-Mg系溶融めっき鋼板を製造した。その後、溶融めっき層の表面に、インクジェット法により、一辺が50mmの正方形パターンを印刷した。この結果をNo.33として表2に示す。
【0069】
更に、上記と同様にしてZn-Al-Mg系溶融めっき鋼板を製造した。その後、溶融めっき層の表面を研削して、一辺が50mmの正方形パターンを形成した。この結果をNo.34として表2に示す。
【0070】
得られた溶融めっき鋼板について、パターン部及び非パターン部に含まれる第1領域及び第2領域の面積率を求めた。まず、パターン部及び非パターン部の境界は、溶融めっき層の表面を肉眼で観察することにより特定した。肉眼での境界の特定が難しい場合は、拡大鏡や光学顕微鏡の拡大像を利用した。境界の判別が難しい例では、窒素ガスの吹き付け範囲に基づき境界を設定し、第1領域及び第2領域の面積率を評価した。
【0071】
次に、正方形のパターン(表2ではパターン部と表記)及びそれ以外の領域(表2では非パターン部と表記)に含まれる各領域の面積率は、下記の決定方法により求めた。
図1に示すように、溶融めっき層の表面に1mm間隔で仮想格子線Kを描いた。なお、
図1には、溶融めっき層の現れる境界線は図示していない。次いで、仮想格子線Kによって区画される複数の領域Mを設定した。各領域Mの形状は、1辺が1mmの正方形であった。次いで、仮想格子線Kによって区画される複数の領域M毎に、各領域の重心点Gを設定した。次いで、重心点Gを中心とする円Sを描いた。円Sの直径Rは、溶融めっき層の表面に現れる境界線の合計長さが10mmとなるように調整した。
【0072】
そして、複数の領域Mの円Sのうち最大の直径Rmaxと最小の直径Rminとの平均値を基準直径Raveとし、直径Rが基準直径Rave未満の円Sを有する領域を第1領域とし、直径Rが基準直径Rave以上の円Sを有する領域を第2領域とした。
【0073】
溶融めっき層に現れる境界線は、めっき表面の明度の高い部分と明度の低い部分との境界とした。この境界は、めっき表面の撮像データにおいて、明度の値を2値化処理することによって得た境界線とした。溶融めっき層の表面の2値化処理後の境界線の一例を
図3に示す。
【0074】
そして、正方形のパターン及びそれ以外の部分における第1領域及び第2領域の面積率をそれぞれ求め、第1領域の面積率の差の絶対値を求めた。
【0075】
[識別性]
正方形状のパターン部を施した試験板の、製造した直後の初期状態のものと、6ヶ月間屋外暴露した経時状態のものを対象に、下記の判定基準に基づいて目視評価した。初期状態、経時状態とも、◎~△を合格とした。
【0076】
◎:5m先からでもパターン部を視認できる。
○:5m先からはパターン部を視認できないが、3m先からの視認性は高い。
△:3m先からはパターン部を視認できないが、1m先からの視認性は高い。
×:1m先からパターン部を視認できない。
【0077】
[耐食性]
試験板を150×70mmに切断し、JASO-M609に準拠した腐食促進試験CCTを30サイクル試験した後、錆発生状況を調査し、下記の判定基準に基づいて評価した。◎~△を合格とした。
【0078】
◎:錆発生がなく、パターン部と非パターン部ともに美麗な意匠外観を維持している。
○:錆発生はないが、パターン部と非パターン部にごくわずかな意匠外観変化が認められる。
△:意匠外観がやや損なわれているが、パターン部と非パターン部が目視で区別できる。
×:パターン部と非パターン部の外観品位が著しく低下しており、目視で区別できない。
【0079】
表2に示すように、No.1~No.29の本発明例のZn-Al-Mg系溶融めっき鋼板は、識別性及び耐食性の両方に優れていた。
図4に、No.1のパターン部の走査型電子顕微鏡による観察結果を示し、
図5に、No.1の非パターン部の走査型電子顕微鏡による観察結果を示す。パターン部は非パターン部に比べて、第1領域の面積率が大きく異なっており、パターン部と非パターン部との識別が可能であることがわかる。
【0080】
No.30については、溶融金属の温度が(最終凝固温度-5)℃~(最終凝固温度+5)℃の範囲よりも高い温度にあるときに、窒素ガスをガスノズルによって吹き付けたため、パターン部における第1領域の面積率と、非パターン部における第1領域の面積率との差が30%未満になり、パターン部の識別性が低下した。
また、No.31及びNo.32は、溶融めっき層の組成が本発明の範囲から外れており、6ヶ月間屋外暴露した後の識別性が低下した。
【0081】
一方、インクジェット法で正方形状のパターン部を印刷したNo.33は、6ヶ月間の屋外暴露によってパターン部が薄くなり、意匠性が低下した。
また、研削によって碁盤目状のパターンを形成したNo.34は、研削した箇所のめっき層の厚みが低下し、研削箇所での耐食性が低下した。
なお、No.1~6、10~34のめっき層には、Al相と、Al/Zn/MgZn2の三元共晶組織とを含んでいた。
【0082】
図6には、文字列(アルファベット)をパターン部によって表した溶融めっき鋼板の表面を示す。
本発明によれば、溶融めっき鋼板の表面に、文字やマークからなるパターン部を任意に表すことができるようになる。
【0083】
【0084】