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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20230830BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20230830BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20230830BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
C08L9/00
C08L1/02
C08K5/20
B60C1/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019226296
(22)【出願日】2019-12-16
(65)【公開番号】P2021095473
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】張 迪
【審査官】武貞 亜弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-095012(JP,A)
【文献】特開2013-043926(JP,A)
【文献】特開2021-001292(JP,A)
【文献】特開2009-191198(JP,A)
【文献】特開2009-191197(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0282770(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
B60C 1/00- 19/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴムと、ナノセルロースと、下記式(I)で表される化合物と、を含むタイヤ用ゴム組成物。
【化1】
(式(I)中、R1およびR2は水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルケニル基または炭素数1~20のアルキニル基を表し、R1およびR2は同一であっても異なっていても良い。また、M+はナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを表す。)
【請求項2】
前記ナノセルロースが、セルロースナノクリスタルである、請求項1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記ナノセルロースを0.1~80質量部、および前記式(I)で表される化合物を0.1~4質量部含む、請求項1または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記式(I)で表される化合物が、下記式(II)で表される化合物である、請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【化2】
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のタイヤ用ゴム組成物を用いたタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤを構成するゴム組成物は、弾性率(伸び)、硬度(硬さ)などの特性が優れたものが求められている。そして、このような特性を向上させるために、ゴム組成物中にカーボンブラックやシリカなどの充填剤を配合する技術が知られている。
【0003】
また、カチオン性基を有する化学変性ミクロフィブリルセルロースをゴム組成物中に分散して含有させることによって、加工性に優れ、剛性、破断特性、および低燃費性にバランスよく優れるゴム組成物を提供する技術(特許文献1)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6353169号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、化学変性ミクロフィブリルセルロースなどのナノセルロースは、ゴム成分に添加、混合した際の分散性について、さらなる改善の余地がある。特に、ナノセルロースのうち、セルロースナノクリスタルは粉体状のままゴム成分に添加、混合が可能であるが、ゴム成分中における分散性が非常に悪く、得られるゴム組成物のバウンドラバー量が極めて低いという課題がある。そして、ゴム組成物のバウンドラバー量が低いと、その力学特性などにも影響する場合がある。
【0006】
そこで本発明は、ナノセルロースが均質に分散されてバウンドラバー量が増加し、且つ引張応力および引張強さが優れるタイヤ用ゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明者は鋭意検討し、ジエン系ゴムと、ナノセルロースと、後述する式(I)で表される化合物と、を含むタイヤ用ゴム組成物が、ナノセルロースが均質に分散されてバウンドラバー量が増加し、且つ引張応力および引張強さが優れていることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は次の<1>~<5>である。
<1>ジエン系ゴムと、ナノセルロースと、式(I)で表される化合物と、を含むタイヤ用ゴム組成物。
(式(I)中、R1およびR2は水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルケニル基または炭素数1~20のアルキニル基を表し、R1およびR2は同一であっても異なっていても良い。また、M+はナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを表す。)
<2>前記ナノセルロースが、セルロースナノクリスタルである、<1>に記載のタイヤ用ゴム組成物。
<3>前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記ナノセルロースを0.1~80質量部、および前記式(I)で表される化合物を0.1~4質量部含む、<1>または<2>に記載のタイヤ用ゴム組成物。
<4>前記式(I)で表される化合物が、式(II)で表される化合物である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のタイヤ用ゴム組成物。
<5><1>~<4>のいずれか1つに記載のタイヤ用ゴム組成物を用いたタイヤ。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ナノセルロースが均質に分散されてバウンドラバー量が増加し、且つ引張応力および引張強さが優れたタイヤ用ゴム組成物を得ることができる。そして、このタイヤ用ゴム組成物を用いることにより、引張応力および引張強さが優れたタイヤを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について説明する。
本発明は、ジエン系ゴムと、ナノセルロースと、後述する式(I)で表される化合物と、を含むタイヤ用ゴム組成物、およびこのタイヤ用ゴム組成物を用いたタイヤである。以下においては、これらを「本発明のタイヤ用ゴム組成物」、および「本発明のタイヤ」ともいう。
【0011】
なお、本発明において「~」を用いて表される数値範囲は、特段の断りがない限り、「~」の前に記載される数値を下限値、および「~」の後に記載される数値を上限値とする数値範囲を意味する。
【0012】
まず、本発明のタイヤ用ゴム組成物に使用するジエン系ゴムは、ポリマー主鎖に二重結合を有するゴム成分であり、具体的には、天然ゴム(NR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリルニトリル-ブタジエン共重合体ゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、イソプレンゴム(IR)などが例示される。そして、このようなジエン系ゴムを単独であるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0013】
特に、本発明においては、ジエン系ゴム中に天然ゴム(NR)およびスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)を合計で60質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上含有するのが好適であり、天然ゴム(NR)および/またはスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR)からなるジエン系ゴムであっても良い。そして、このジエン系ゴムの重量平均分子量は、50,000~3,000,000であることが好ましく、100,000~2,000,000であることがより好ましい。
【0014】
なお、本発明において「重量平均分子量」とは、テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定したものを意味する。
【0015】
次に、本発明のタイヤ用ゴム組成物に使用するナノセルロースは、セルロースミクロフィブリルからなる平均繊維径が1~1000nmの極細繊維であり、平均繊維長さが0.5~5μmであるセルロースナノファイバー(CNF)と、平均繊維長さが0.1~0.5μmである結晶性のセルロースナノクリスタル(CNC)とを包含するものである。そして、本発明のタイヤ用ゴム組成物に使用するナノセルロースには、機械的解繊や化学変性などがされたナノセルロースも包含される。
【0016】
なお、本発明のタイヤ用ゴム組成物では、ナノセルロースとして結晶性であるセルロースナノクリスタルを使用すると、粉末状であるセルロースナノクリスタルを、水などの溶媒に分散させることなくそのままジエン系ゴム中に添加、混合することができるため好適である。特に、化学変性されていないセルロースナノクリスタルは、化学変性セルロースナノクリスタルよりも耐熱性が高いため、より好適である。そして、本発明では、ナノセルロースとしてセルロースナノクリスタルを使用する場合であっても、上記構成とすることにより、セルロースナノクリスタルが均質に分散されてバウンドラバー量が増加し、且つ引張応力および引張強さが優れた本発明のタイヤ用ゴム組成物を得ることができるのが特徴である。
【0017】
このナノセルロースの原料となるセルロースは、木材由来または非木材(バクテリア、藻類、綿など)由来のいずれでも良く、特段限定されないが、綿由来セルロースから得られたナノセルロース(特にセルロースナノクリスタル)は、結晶化度が高く熱安定性がより高いため好適である。ナノセルロースの作製方法としては、例えば、セルロース原料を酸などにより加水分解し、得られた結晶性のセルロースをアセトンやトルエンなどの低誘電率有機溶媒中に懸濁し、固形分を低誘電率有機溶媒中において粉砕し、粉砕後に低誘電率有機溶媒を乾燥除去してナノセルロース(セルロースナノクリスタル)を得る方法が示される。さらに、この得られた粉末をふるいなどによって分粒して、微粒子(例えば、JIS Z 8801に準拠して150μmふるいにかけたときの通過画分の質量割合が90質量%以上である微粒子)を得ても良い。
【0018】
なお、本発明においては、ナノセルロース分子内のOH基に変性基が導入された化学変性ナノセルロースを使用しても良い。化学変性ナノセルロースとしては、ナノセルロース分子内のOH基にアクリル基が導入されたアクリル変性ナノセルロース(アクリル変性セルロースナノクリスタル等)、アセチル基が導入されたアセチル変性ナノセルロース、アルケニル無水コハク酸(Alkenyl Succinic Anhydride:ASA)が導入されたASA変性ナノセルロースなどが例示される。なお、アクリル変性ナノセルロースは、ナノセルロースにアクリレート変性処理を施すことにより得ることができ、アセチル変性ナノセルロースは、ナノセルロースにアセチル化処理を施すことにより得ることができ、ASA変性ナノセルロースは、ナノセルロースにASA処理を施すことにより得ることができる。また、これら以外の変性基としては、アミノ基、スルホン基、リン酸基などが例示される。
【0019】
そして、このナノセルロースの平均繊維径は1~1000nmであり、好ましくは1~200nmである。またナノセルロースの平均アスペクト比(平均繊維長さ/平均繊維径)は好ましくは10~1000、より好ましくは50~500である。平均繊維径が上記範囲未満および/または平均アスペクト比が上記範囲を超えると、ナノセルロースの分散性が低下する可能性がある。また平均繊維径が上記範囲を超過および/または平均アスペクト比が上記範囲未満であるとナノセルロースの補強性能が低下する可能性がある。
【0020】
ここで、本発明においてナノセルロースの「平均繊維径」および「平均繊維長さ」とは、TEM観察またはSEM観察により、構成する繊維の大きさに応じて適宜倍率を設定して電子顕微鏡画像を得て、この画像中の少なくとも50本以上において測定したときの繊維径および繊維長さの平均値を意味する。そして、このようにして得られた平均繊維長さおよび平均繊維径から、平均アスペクト比を算出する。
【0021】
そして、本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、ジエン系ゴム100質量部に対して、このナノセルロースを好ましくは0.1~80質量部、より好ましくは0.5~50質量部、さらに好ましくは1.0~40質量部、さらに好ましくは3.0~30質量部、さらに好ましくは5.0~20質量部、さらに好ましくは5.0~15質量部含有させるのが好適である。ジエン系ゴムに対するナノセルロースの質量が少なすぎると、得られるタイヤ用ゴム組成物の力学特性が高まりにくい傾向がある。また、ジエン系ゴムに対するナノセルロースの質量が多すぎると、得られるタイヤ用ゴム組成物のコストが高くなる可能性があり、さらに、ナノセルロースの分散性も低下する傾向がある。
【0022】
さらに、本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、ジエン系ゴムおよびナノセルロースとともに、このナノセルロースのタイヤ用ゴム組成物における分散性(特にジエン系ゴム中における分散性)を高めるために、下記式(I)で表される化合物を使用する。
【0023】
【化1】
(式(I)中、R1およびR2は水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルケニル基または炭素数1~20のアルキニル基を表し、R1およびR2は同一であっても異なっていても良い。また、M+はナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンを表す。)
【0024】
上記式(I)で表される化合物のR1およびR2における炭素数1~20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などを挙げることができる。また、炭素数1~20のアルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、1-メチルエテニル基などを挙げることができる。さらに、炭素数1~20のアルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロパルギル基などを挙げることができる。これらは、上記したようにR1およびR2において同一であっても異なっていても良い。なお、これらの炭素数は1~10であることがより好ましく、1~5であることがさらに好ましい。特に、R1およびR2としては、水素原子または炭素数1~5のアルキル基であるのが好ましく、水素原子またはメチル基であるのがより好ましく、水素原子であるのがさらに好ましい。つまり、上記式(I)で表される化合物中の-NR12は、-NH2、-NHCH3、または、-N(CH32であることが好ましく、より好ましくは-NH2である。
【0025】
また、上記式(I)で表される化合物中のM+は、ナトリウムイオン、カリウムイオンまたはリチウムイオンであり、好ましくはナトリウムイオンである。したがって、本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、ジエン系ゴムおよびナノセルロースとともに、上記式(I)で表される化合物として、下記式(II)で表される化合物、つまり(2Z)-4-[(4-アミノフェニル)アミノ]-4-オキソ-2-ブテン酸ナトリウムを含有させるのが特に好適である。
【0026】
【化2】
【0027】
そして、本発明のタイヤ用ゴム組成物においては、ジエン系ゴム100質量部に対して、上記式(I)で表される化合物を好ましくは0.1~4質量部、より好ましくは0.3~3質量部、さらに好ましくは0.5~2.5質量部含有させるのが好適である。ジエン系ゴムに対する上記式(I)で表される化合物の質量が少なすぎると、タイヤ用ゴム組成物中におけるナノセルロースの分散性が向上しにくい傾向がある。また、ジエン系ゴムに対する上記式(I)で表される化合物の質量が多すぎると、タイヤ用ゴム組成物中におけるナノセルロースの分散性や、得られるタイヤ用ゴム組成物の力学特性が向上しにくい傾向がある。
【0028】
このように、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴムおよびナノセルロースとともに、上記式(I)で表される化合物を含有することにより、タイヤ用ゴム組成物(特にジエン系ゴム中)におけるナノセルロースの分散性が非常に高まり、そのバウンドラバー量が増加する。このメカニズムは定かではないが、現在までのところ、次のように考えられる。
【0029】
すなわち、上記式(I)で表される化合物の末端のアミンとナノセルロース分子表面のOH基が反応し、また上記式(I)で表される化合物のアミド基とカルボン酸塩との間に位置する炭素-炭素二重結合部分がポリマーであるジエン系ゴムと反応することにより、ジエン系ゴム中におけるナノセルロースの分散性が高まり、バウンドラバー量が増加するものと推察される。
【0030】
そして、この上記式(I)で表される化合物は、ナノセルロースの分散性がより高まることから、タイヤ用ゴム組成物中において、ナノセルロースとの質量比(ナノセルロース:上記式(I)で表される化合物)を1:0.03~0.5とするのが好ましく、1:0.04~0.3とするのがより好ましく、1:0.05~0.2とするのがさらに好ましい。特に、ナノセルロースとしてセルロースナノクリスタルを使用する場合には、セルロースナノクリスタルと上記式(I)で表される化合物との質量比をこの範囲とすると非常に好適である。
【0031】
なお、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ナノセルロース以外の各種充填剤をさらに配合することができる。そして、この充填剤は、単数あるいは複数を組み合わせて配合しても良い。
【0032】
さらに、本発明のタイヤ用ゴム組成物は、本発明の効果に大きな影響を与えない範囲において、酸化亜鉛(亜鉛華)、ステアリン酸、加硫剤(例えば、硫黄)、加硫促進剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種添加剤を適量配合することができ、これらの添加剤を公知の方法で混練してタイヤ用ゴム組成物とし、さらには加硫、架橋などを行うのに使用することができる。
【0033】
例えば、本発明のタイヤ用ゴム組成物における酸化亜鉛の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して0.2~10.0質量部であることが好ましく、0.4~5.0質量部であることがより好ましく、1.0~4.0質量部であることがさらに好ましい。また、加硫剤の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して0.3~3.0質量部であることが好ましく、0.5~2.5質量部であることがより好ましい。さらに、加硫促進剤の含有量は、一次促進剤単独もしくは二次とのブレンドでジエン系ゴム100質量部に対して0.5~4.0質量部であることが好ましく、1.0~2.5質量部であることがより好ましい。そして、ステアリン酸の含有量は、ジエン系ゴム100質量部に対して0.1~5.0質量部であることが好ましく、0.2~4.0質量部であることがより好ましい。
【0034】
本発明のタイヤ用ゴム組成物の製造方法は、常法にしたがえば良く、特段限定はされない。製造方法の一例としては、ジエン系ゴム、ナノセルロース、上記式(I)で表される化合物、および他の成分を、バンバリーミキサーやニーダー、ロール等の混錬機を用いて混練、混合することによりタイヤ用ゴム組成物を製造することができる。なお、加硫系成分(硫黄、加硫促進剤など)を使用する場合には、これ以外の成分を先に高温で混合し、冷却してから加硫系成分を混合するのが好ましい。
【0035】
以上のようにして得られた本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ナノセルロースが均質に分散されてバウンドラバー量が増加し、さらに、ナノセルロースの補強性能により、引張応力および引張強さが優れている。
一例としては、JIS K6251:2010に準拠した20℃における引張速度500mm/分での引張試験において、100%モジュラスが0.65~1.0MPa、さらには0.7~0.9MPa、300%モジュラスが2.0~4.0MPa、さらには2.5~3.5MPa、TBが2.5~5.0MPa、さらには3.5~4.5MPaであるタイヤ用ゴム組成物を得ることができる。
【0036】
そして、この本発明のタイヤ用ゴム組成物を用いて、引張応力および引張強さが優れた本発明のタイヤを得ることができる。なお、本発明のタイヤは、空気入りタイヤであることが好ましく、この空気入りタイヤに充填する気体としては、例えば、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、およびその他の気体を使用することができる。
【0037】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において様々な変形が可能である。
【実施例
【0038】
<バウンドラバー量の確認>
下記表1に示す組成のゴム組成物サンプル(未加硫)を作製した。
具体的には、実施例1~8および比較例1~2として、下記表1に示す質量部のスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR;日本ゼオン株式会社製、NIPOL 1502)、セルロースナノクリスタル粉末(CNC;フィラーバンク株式会社製)、およびスミリンク200(sumilink200;住友化学株式会社製、登録商標、(2Z)-4-[(4-アミノフェニル)アミノ]-4-オキソ-2-ブテン酸ナトリウム(上記式(II)で表される化合物)からなる製剤、実施例のみ)を密閉式バンバリーミキサーで混練りし、所定時間の経過後、ミキサーから放出して室温冷却させた。
【0039】
これとは別に、比較例3~5として、下記表1に示す質量部のスチレン-ブタジエン共重合体ゴムおよびセルロースナノクリスタル粉末(実施例1~8、および比較例1~2において使用したものと同じ製品)と、スミリンク100(sumilink100;住友化学株式会社製、登録商標、S-(3-アミノプロピル)チオ硫酸からなる製剤)、またはアミノシラン系のシランカップリング剤(KBM-903、あるいはKBE-903;いずれも信越化学工業株式会社製)を密閉式バンバリーミキサーで混練りし、所定時間の経過後、ミキサーから放出して室温冷却させた。
【0040】
そして、得られた実施例1~8および比較例1~5の各ゴム組成物サンプル(未加硫)0.5gを金網かごに入れ、室温で300mLのトルエン中に72時間浸漬した。その後、トルエン中からサンプルを取り出して乾燥し、乾燥後のサンプル質量を測定して、バウンドラバー量(Bound rubber(%))を下記式から算出した。
バウンドラバー量(%)=(トルエン浸漬処理、乾燥後のサンプル質量)/(ゴム組成物サンプル(未加硫)の質量)×100
この結果を、下記表1下段に示した。
【0041】
【表1】
【0042】
この結果から、実施例1~8のゴム組成物サンプルは、ジエン系ゴムであるスチレン-ブタジエン共重合体ゴム、およびセルロースナノクリスタルとともに、(2Z)-4-[(4-アミノフェニル)アミノ]-4-オキソ-2-ブテン酸ナトリウムを含むことにより、ゴム組成物中にセルロースナノクリスタルが均質に分散し、バウンドラバー量が増加することが明らかとなった。
一方、比較例1~5のゴム組成物サンプルは、バウンドラバー量がなく、つまりゴム組成物中にセルロースナノクリスタルが均質に分散していないことが示唆された。特に、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムおよびセルロースナノクリスタルとともに、S-(3-アミノプロピル)チオ硫酸を含む比較例3や、アミノシラン系のシランカップリング剤を含む比較例4、5のゴム組成物においても、バウンドラバー量が0であった。
【0043】
さらに、下記表2に示す組成のゴム組成物サンプル(未加硫)も作製した。
具体的には、実施例9~13および比較例6~8として、下記表2に示す質量部の天然ゴム(NR;TECK BEE HANG CO.,LTD.(TBH)製、STR-20)、セルロースナノクリスタル粉末(CNC;フィラーバンク株式会社製)、およびスミリンク200(sumilink200;住友化学株式会社製、登録商標、(2Z)-4-[(4-アミノフェニル)アミノ]-4-オキソ-2-ブテン酸ナトリウム(上記式(II)で表される化合物)からなる製剤、実施例のみ)を密閉式バンバリーミキサーで混練りし、所定時間の経過後、ミキサーから放出して室温冷却させた。
【0044】
そして、得られた実施例9~13および比較例6~8の各ゴム組成物サンプル(未加硫)について、上記と同様の方法によりバウンドラバー量(Bound rubber(%))を測定、算出した。
この結果を、下記表2下段に示した。
【0045】
【表2】
【0046】
この結果から、実施例9~13のゴム組成物サンプルは、ジエン系ゴムである天然ゴム、およびセルロースナノクリスタルとともに、(2Z)-4-[(4-アミノフェニル)アミノ]-4-オキソ-2-ブテン酸ナトリウムを含むことにより、SBRを使用した場合と同様に、ゴム組成物中にセルロースナノクリスタルが均質に分散し、バウンドラバー量が増加することが明らかとなった。
一方、比較例6~8のゴム組成物サンプルは、いずれもバウンドラバー量がなく、つまりゴム組成物中にセルロースナノクリスタルが均質に分散していないことが示唆された。
【0047】
<タイヤ用ゴム組成物の作製および評価>
下記表3に示す組成のタイヤ用ゴム組成物を作製した。
具体的には、下記表3に示す質量部のスチレン-ブタジエン共重合体ゴム(SBR;日本ゼオン株式会社製、NIPOL 1502)、セルロースナノクリスタル粉末(CNC;フィラーバンク株式会社製)、スミリンク200(sumilink200;住友化学株式会社製、登録商標、(2Z)-4-[(4-アミノフェニル)アミノ]-4-オキソ-2-ブテン酸ナトリウム(上記式(II)で表される化合物)からなる製剤)またはスミリンク100(sumilink100;住友化学株式会社製、登録商標、S-(3-アミノプロピル)チオ硫酸からなる製剤)、ステアリン酸(日油株式会社製)、および亜鉛華(酸化亜鉛(ZnO);正同化学工業株式会社製)を密閉式バンバリーミキサーで混練りし、所定時間の経過後、ミキサーから放出して室温冷却させた。次に、オープンロールを用いて、硫黄(四国化成工業株式会社製,ミュークロン OT-20)および加硫促進剤(大内新興化学工業株式会社製,ノクセラーNS-P)を混合して混錬し、これを15cm×10cm×0.1cmの金型中において160℃30分間プレス加硫して、実施例1~5および比較例1~3のタイヤ用ゴム組成物を得た。
【0048】
なお、この実施例1~5、比較例1~3のタイヤ用ゴム組成物におけるスチレン-ブタジエン共重合体ゴム、セルロースナノクリスタル、ならびにスミリンク200またはスミリンク100の組成は、上記したバウンドラバー量の確認に用いた実施例1~5、比較例1~3のゴム組成物サンプル(未加硫)の組成と同じである。
【0049】
そして、得られた実施例1~5および比較例1~3のタイヤ用ゴム組成物について、引張速度500mm/分での引張試験をJIS K6251:2010に準拠して行い、100%モジュラス(M100:MPa)、300%モジュラス(M300:MPa)および破断時引張強さ(TB:MPa)を室温(20℃)にて測定した。
これらの結果を、下記表3下段に示した。
【0050】
【表3】
【0051】
これらの結果から、スチレン-ブタジエン共重合体ゴムと、セルロースナノクリスタルと、(2Z)-4-[(4-アミノフェニル)アミノ]-4-オキソ-2-ブテン酸ナトリウム(上記式(II)で表される化合物)とを含む実施例1~5のタイヤ用ゴム組成物は、引張応力および引張強さが優れたものであることが明らかとなった。特に、実施例1~3のタイヤ用ゴム組成物は、引張応力および引張強さがいずれも特に優れていた。