(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】チタン合金鋳塊
(51)【国際特許分類】
B22D 11/041 20060101AFI20230830BHJP
B22D 11/00 20060101ALI20230830BHJP
C22C 1/02 20060101ALI20230830BHJP
C22C 14/00 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
B22D11/041 D
B22D11/00 D
C22C1/02 501Z
C22C1/02 503E
C22C14/00 Z
(21)【出願番号】P 2019228932
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】水上 英夫
(72)【発明者】
【氏名】北浦 知之
(72)【発明者】
【氏名】和田 将明
(72)【発明者】
【氏名】武田 宜大
(72)【発明者】
【氏名】梅田 繁
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104846225(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109694968(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/00,11/041,11/11,21/06,27/02
C22B 9/22,34/12
C22C 1/02,14/00
F27D 11/04,11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを含有するチタン合金鋳塊であって、
前記チタン合金鋳塊の鋳造方向と直交する断面としての横断面において、前記チタン合金鋳塊の外周部での前記アルミニウムの濃度をAl
0とし、前記チタン合金鋳塊の外周端
の任意の1点と、前記チタン合金鋳塊の外周端で囲まれた領域の中心とを結んだ線分の中点での前記アルミニウムの濃度をAl
1とした場合に、比(Al
1/Al
0)、前記Al
0、および、前記Al
1が下記の範囲である、チタン合金鋳塊。
比(Al
1/Al
0):1.2~5.0
Al
0:0.2~8.0質量%
Al
1:1.0~10.0質量%
但し、Al
0<Al
1であり、前記チタン合金鋳塊の各部位において、前記アルミニウム、アルミニウム以外の合金元素、チタンおよび不純物の各濃度の合計が100質量%である。
【請求項2】
前記横断面において、前記中心での前記アルミニウムの濃度をAl
2とした場合に、前記Al
2:0.2~8.0質量%であり、Al
1>Al
2である、請求項1に記載のチタン合金鋳塊。
【請求項3】
前記チタン合金鋳塊は、スズおよび銅の少なくとも一方を含有する、請求項1または請求項2に記載のチタン合金鋳塊。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン合金鋳塊に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン合金は、その溶融温度では激しく空気酸化される活性な金属であるため、鉄鋼材料のように耐火物製るつぼを用いて大気雰囲気下で溶解することは難しい。このため、チタン合金鋳塊の製造では、電子ビーム溶解(EBM:Electron Beam melting)技術や、非消耗電極としてプラズマトーチを用いた溶解法であるプラズマ溶解(PAM:Plasma Arc melting)技術が実用化されている。電子ビーム溶解法は、水冷銅ハースを用い、高真空下で、高電圧加速した電子線を被溶解材の表面に照射することにより得られる衝撃熱を利用する。プラズマ溶解法は、非消耗電極としてプラズマトーチを用いた溶解法である。チタン合金鋳塊の製造方法は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
チタン合金を溶解してチタン合金鋳塊を鋳造する際には、溶湯中の成分に起因して、高密度介在物(以下、HDI(High Density Inclusion)という)や低密度介在物(以下、LDI(Low Density Inclusion)という)が不可避的に生成する。上述の溶解技術は、精錬効果が高いことからHDIやLDIの除去も期待され、HDIやLDIの除去に特に厳格な航空機用素材の製造方法として用いられている。
【0004】
製造されたチタン合金鋳塊は、鍛造工程や圧延工程を経て厚板や薄板が製造され、また押出工程を経て型材が製造されそれぞれ航空機用の部材として使用される。鍛造、圧延、押出の工程においては、素材であるチタン合金鋳塊に大きな歪が加わり加工されることになるが、この加工の際に素材に割れを発生させないことが、特に航空機用の部材として用いる場合には不可欠である。また、部材の機械的特性に関して部材の部位によるバラツキが無いようにするためには、素材が均等に加工される必要があり、このためには熱間加工性が良好なことが不可欠である。素材が均等に加工されるためには、素材であるチタン合金鋳塊の機械的特性の制御が重要であり、まず、チタン合金鋳塊の化学成分を最適化することが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
チタン合金鋳塊は、真空容器内で減圧下あるいは不活性ガス雰囲気下で製造されることが多い。このため、チタン合金鋳塊の長さが限定されたバッチ式で操業する半連続鋳造法が用いられる。半連続鋳造法の鋳造速度は小さい。半連続鋳造法では、チタン合金の溶湯を鋳型に注ぎ、この溶湯を凝固させることとなる。そして、鋳型内ではチタン合金の溶湯が凝固されつつ、鋳型からは凝固されたチタン合金鋳塊が断続的に引き抜かれることで、チタン合金鋳塊が鋳型から取り出される。このような製法であるために、チタン合金鋳塊の外表面には、鋳造方向(鋳型からの引き抜き方向)に沿って周期的に凹みが存在する。
【0007】
このチタン合金鋳塊の表面品質を向上するには、鋳造方向への引抜ピッチに起因する表面の凹みを抑制することが重要である。この凹みの深さが大きくなると、鋳造中のブレークアウトを発生する可能性があり、チタン合金鋳塊の表面品質の低下だけでなく、チタン合金鋳塊が鋳型周辺に飛散し、操業の停止を引き起こす。チタン合金鋳塊の鋳造速度を低減するとチタン合金鋳塊の表面の凹みは減少するが、生産効率を上げるためには、鋳造速度を上げる必要がある。ここで、チタン合金として多用されているTi-6Al-4V合金を例にとると、Alの濃度を低下させると延性が向上することから、チタン合金鋳塊の表層近傍のAlの濃度を低下させれば、鋳造速度が高くても表面の凹みを抑制できる。なお、チタン合金鋳塊全体のAlの濃度を低下させると、チタン合金鋳塊が成分の規格から外れてしまい、チタン合金鋳塊はスクラップになってしまう。
【0008】
このような背景を踏まえ、本発明の目的の一つは、表面品質の高いチタン合金鋳塊を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記のチタン合金鋳塊を要旨とする。
【0010】
(1)アルミニウムを含有するチタン合金鋳塊であって、
前記チタン合金鋳塊の鋳造方向と直交する断面としての横断面において、前記チタン合金鋳塊の外周部での前記アルミニウムの濃度をAl0とし、前記チタン合金鋳塊の外周端と中心とを結んだ線分の中点での前記アルミニウムの濃度をAl1とした場合に、比(Al1/Al0)、前記Al0、および、前記Al1が下記の範囲である、チタン合金鋳塊。
比(Al1/Al0):1.2~5.0
Al0:0.2~8.0質量%
Al1:1.0~10.0質量%
但し、Al0<Al1であり、前記チタン合金鋳塊の各部位において、前記アルミニウム、アルミニウム以外の合金元素、チタンおよび不純物の各濃度の合計が100質量%である。
【0011】
(2)前記横断面において、前記中心での前記アルミニウムの濃度をAl2とした場合に、前記Al2:0.2~0.8質量%であり、Al1>Al2である、前記(1)に記載のチタン合金鋳塊。
【0012】
(3)前記チタン合金鋳塊は、スズおよび銅の少なくとも一方を含有する、前記(1)または前記(2)に記載のチタン合金鋳塊。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、表面品質の高いチタン合金鋳塊を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1(A)は、本発明の一実施形態に係るチタン合金鋳塊の斜視図である。
図1(B)は、チタン合金鋳塊のうち当該チタン合金鋳塊の鋳造方向における中心部を鋳造方向と直交する断面で切断した状態を示す横断面図である。
【
図2】
図2は、チタン合金鋳塊の横断面における各部のアルミニウムの濃度の範囲を模式的に示すグラフである。
【
図3】
図3は、本発明に係るチタン合金鋳塊の製造装置を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図4(A)は、
図3のIVA-IVA線に沿う断面図であって、チタン合金鋳塊の周辺の縦断面を示す。
図4(B)は、照射部から溶湯への電子ビームまたはプラズマの照射強度を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<本願発明に想到するに至った経緯>
前述したように、チタン合金鋳塊は、真空容器内で減圧下あるいは不活性ガス雰囲気下で製造されることが多い。このため、チタン合金鋳塊の長さが限定されたバッチ式で操業する半連続鋳造法が用いられる。半連続鋳造法の鋳造速度は小さい。そして、チタン合金鋳塊の溶湯の凝固は、鋳塊の表層部となる箇所においては鋳型への抜熱により鋳塊の表面から内部に向かって進行する。チタン合金の場合、鋳造速度が小さいことから、大部分は、鋳塊の底部から上部へ向けて溶湯の凝固が進行し、いわゆる一方向凝固と同じ凝固組織形態をとる。このような凝固組織の形態は、鋼の連続鋳造で観察される形態と全く異なり、チタン合金鋳塊に特有である。
【0016】
従来、鋳塊の鋳造速度が小さいために、鋳型内の湯面の皮張りを防止するため、湯面には電子ビームあるいはプラズマが照射され、湯面の温度低下を防いでいる。
【0017】
鋳塊の鋳造方向に平行で鋳塊の中心軸線を含む断面(縦断面)、および鋳造方向と直交する断面(横断面)のそれぞれにおける凝固組織の調査結果から、鋳型内の溶湯深さは300mm程度であることが分かった。これは、鋳造中の溶湯の湯面にニッケル粒を添加することで、添加した時点で凝固が完了しておりニッケルを含有していない領域と、添加により溶湯中のニッケル濃度が上昇した領域の界面が、溶湯深さに相当することからこの深さを特定することができた。
【0018】
ところで、チタン合金には、AlやSnやCuなどの合金元素を含有される場合がある。また、これらの合金元素の蒸気圧が高いことから、鋳型内で溶融状態に保持されている間に、蒸発してしまう。逆に、溶融している時間を短くすれば、蒸発量を少なくすることができる。溶融時間を短くするには、溶湯深さを浅くすればよい。前述のように、鋳塊の鋳造方向の断面組織(縦断面組織)は、鋳型への抜熱と、鋳塊の底部への抜熱とで形成される。ここで、鋳造速度が小さいことから、熱の移流拡散による影響は小さく、熱伝導が支配的と考えられる。このため、鋳型内の溶湯の湯面への入熱量を変えることで、溶湯深さと溶湯領域のプール形状を変化させることができる。最終的に、湯面における入熱量を変えることで、蒸発量を変えることができる。
【0019】
以上の結果は、鋳塊の凝固組織を詳細に調査することで初めて明らかにすることができた。
【0020】
ところで、Ti-6Al-4V合金の場合に含有されるAlは、濃度が低い方が硬さは低下する。硬さが低下すると、一般的に、強度は低くなり、延性は向上する。これはベータ相の割合が増大するためである。
【0021】
チタン合金鋳塊の表面品質を向上するには、半連続鋳造法における鋳造方向への引抜ピッチ(1回毎の引き抜き量)に起因する表面の凹みを抑制することが重要である。この凹みの深さが大きくなると、鋳造中のブレークアウトを発生する可能性があり、鋳塊の表面品質の低下だけでなく、操業の停止を引き起こす。鋳造速度を低減すると鋳塊の表面の凹みは減少するが、生産効率を上げるためには、鋳造速度を上げる必要がある。ここで、アルミニウムの濃度を低下させると延性が向上することから、鋳塊の表層近傍のアルミニウムの濃度を低下させれば、鋳造速度が高くても表面の凹みを抑制できる。なお、鋳塊全体のアルミニウムの濃度を低下させると、成分の規格から外れてしまい、鋳塊はスクラップになってしまう。鋳塊の表層のみアルミニウムの濃度を低くした場合、成分の規格から外れたとしても、この表層部を切削すれば製品とすることができる。
【0022】
チタン合金は鍛造加工して使用される場合がある。一般的に、鍛造加工時の歪は素材の厚み中央領域に集中することから、加工量が増えると中央領域で内部割れが発生する場合がある。内部割れを抑制するために、一回当たりの加工量を少なくする必要があり、特に大型の素材を加工する場合は、鍛造回数が増え操業上の課題となっている。Ti-6Al-4V合金の場合、鋳塊の中央領域のアルミニウムの濃度を低下させれば、硬さが低下し延性が増大することから、一回当たりの鍛造量を増やしても内部割れが発生しない。
【0023】
上述のように、鋳塊の表層部または中央領域のアルミニウムの濃度を低下させるだけでなく、鋳塊の表層部と中央領域の双方のアルミニウムの濃度を低下させれば、特に大型の鋳塊においては、表面の凹みと内部割れの抑制効果を発揮できることになる。
【0024】
また、アルミニウムの濃度を大幅に低下させることで、成分の異なる2種類の材料を一つの鋳塊内で両立させることができ、複層鋳塊を製造することも可能である。
【0025】
このように、本発明者は、電子ビーム溶解法あるいはプラズマ溶解法により、成分の異なる複層鋳塊を製造するには、電子ビームあるいはプラズマの単位面積当たりの照射量を、鋳型内湯面の位置により変化させればよいことを想到し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0026】
<実施形態の説明>
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。以降の説明では、化学組成に関する「%」は特に断りがない限り「質量%」を意味する。また、以降の説明では、チタン合金鋳塊の製造装置および製造方法を例にとる。
【0027】
1.本発明により製造されるチタン合金鋳塊1
図1(A)は、本発明の一実施形態に係るチタン合金鋳塊1の斜視図である。
図1(B)は、チタン合金鋳塊1のうち当該チタン合金鋳塊1の鋳造方向D1における中心部を鋳造方向D1と直交する断面で切断した状態を示す横断面図である。
図1(A)および
図1(B)を参照して、チタン合金鋳塊1は、電子ビーム溶解法、または、プラズマ溶解法によって形成された鋳塊である。
【0028】
チタン合金鋳塊1は、チタンを主成分とする合金の鋳塊であり、アルミニウムを含有している。チタン合金鋳塊1は、例えば、円柱形状である。チタン合金鋳塊1は、チタンおよびアルミニウムを含有する原料を溶解した溶湯を鋳型に流し込み、この溶湯を凝固させることで形成されている。チタン合金の溶湯を凝固して形成されたチタン合金鋳塊1は、鋳型から鋳造方向(本実施形態では、下向き方向)に間欠的に引き抜かれる。チタン合金鋳塊1の直径は、例えば、150mm~1100mmである。チタン合金鋳塊1の全長(鋳造方向における長さ)は、例えば、500mm~15000mmである。
【0029】
図1(B)に示すように、本実施形態では、チタン合金鋳塊1のうち当該チタン合金鋳塊1の鋳造方向D1における中心部を鋳造方向D1と直交する断面で切断した切断面(横断面2)において、チタン合金鋳塊1の半径方向の3箇所においてアルミニウムの濃度が規定されている。
図1(B)では、模式的に、横断面2におけるチタン合金鋳塊1の外周部3と、半径方向中間部4と、中心P2を含む中心部5と、が各部別にハッチングの向きを異ならされて示されている。そして、本実施形態では、チタン合金鋳塊1は、当該チタン合金鋳塊1の中心P2から半径方向の距離が同じ箇所は、組成が実質的に同じとなるように構成されている。すなわち、チタン合金鋳塊1においては、組成が実質的に同一である箇所が、同心円状に配置されている。なお、上記の「組成が実質的に同じ」とは、同一組成内での濃度のばらつきが数%以内程度の微小な程度であることにより、同じ組成として扱うことが可能なことをいう。
【0030】
具体的には、チタン合金鋳塊1の外周部3でのアルミニウムの濃度が、Al0として規定されている。外周部3は、横断面2において、チタン合金鋳塊1の外周端6からチタン合金鋳塊1の深さ方向(直径方向)に20mm~50mm進んだ位置までの間の領域をいう。この深さ範囲が、チタン合金鋳塊1の表面の凹凸度合いに大きな影響を及ぼす領域である。また、チタン合金鋳塊1のうち、チタン合金鋳塊1の直径の1/4地点でのアルミニウム濃度が、Al1として規定されている。すなわち、横断面2におけるチタン合金鋳塊1の外周端6と中心P2とを結んだ線分L1の中点P1におけるアルミニウムの濃度が、Al1として規定されている。中点P1は、中間部4内の点である。また、チタン合金鋳塊1のうち、チタン合金鋳塊1の直径の1/2地点でのアルミニウムの濃度が、Al2として規定されている。すなわち、横断面2におけるチタン合金鋳塊1の中心P2におけるアルミニウムの濃度が、Al2として規定されている。中心P2は、中心部5内の点である。
【0031】
なお、中心部5は、中心P2からチタン合金鋳塊1の半径の例えば10%~40%の範囲である。また、中間部4は、外周部3と中心部5との間の領域である。中心部5を上記の深さ範囲とすることで、中心部5の領域を十分に確保できる。さらに、中間部4の領域を十分に確保することでチタン合金鋳塊1における高強度部分を十分に確保できる。
【0032】
チタン合金鋳塊1の鋳造方向の中心における横断面形状は、円形に限らず、長方形等の多角形形状であってもよい。長方形の場合、横断面において、チタン合金鋳塊の外周部でのアルミニウムの濃度Al0は、チタン合金鋳塊の外周端からチタン合金鋳塊の深さ方向(直径方向)に20mm~50mm進んだ位置までの間の領域をいう。また、アルミニウムの濃度Al1は、切断面において、チタン合金鋳塊の短辺および長辺のうちの短辺の外周端から短辺と直交する方向の1/4深さ地点でのアルミニウム濃度をいう。また、アルミニウムの濃度Al2は、横断面の中心点(図心)での濃度をいう。
【0033】
なお、上記横断面形状が長方形の場合、チタン合金鋳塊1は四角柱となる。この四角柱は、上記横断面における短辺が例えば150~500mmであり長辺が例えば150~1500mmである。また、上記四角柱の長さは、例えば、500~15000mmである。
【0034】
チタン合金鋳塊1(チタン合金)の化学組成を以下に例示する。チタン合金鋳塊1は、アルミニウムを含有するチタン合金の鋳塊である。チタン合金鋳塊1は、アルミニウムに加えて、スズおよび銅の少なくとも一方を含有していてもよい。なお、チタン合金鋳塊1の各化学組成の表記のうち、質量%を示す数値は、チタン合金鋳塊1の横断面形状における最も高い数値の箇所での質量%を示す。
【0035】
Ti-1.5Al(JIS50種(JIS H 4600(2012年)チタン及びチタン合金-板及び条))であり、耐食性に優れ、耐水素吸収性および耐熱性に優れる。
【0036】
Ti-6Al-4V(JIS60種(JIS H 4600(2012年)チタン及びチタン合金-板及び条))であり、高強度で汎用性が高い。
【0037】
Ti-3Al-2.5V(JIS61種(JIS H 4600(2012年)チタン及びチタン合金-板及び条))であり、溶接性、成形性が良好で、切削性が良好である。
【0038】
Ti-4Al-22V(JIS80種(JIS H 4600(2012年)チタン及びチタン合金-板及び条))であり、高強度で冷間加工性に優れる。
【0039】
本発明は、上記以外にJISに規定されていない化学成分を有するチタン合金鋳塊1を製造することもできる。このようなチタン合金鋳塊1として、米国のASTM B265、ドイツの DIN 17860を例示できる。また、例えば、以下を例示できる。
【0040】
耐熱性を有する、
Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo-0.08Si,
Ti-6Al-5Zr-0.5Mo-0.2Si,
Ti-8Al-1Mo-1V等を例示できる。
【0041】
また、耐クリープ性に優れるTi-6Al-2Sn-4Zr-6Mo等を例示できる。
【0042】
また、高強度で冷間加工性の良い、
Ti-15V-3Cr-3Sn-3Al,
Ti-20V-4Al-1Sn等を例示できる。
【0043】
また、高強度高靭性の、
Ti-10V-2Fe-3Al,
Ti-5Al-2Sn-2Zr-4Cr-4Mo,
Ti-6Al-6V-2Sn-0.5Fe-0.5Cu等を例示できる。
【0044】
また、高耐摩耗性のTi-6Al-4V-10Cr-1.3C等を例示できる。
【0045】
図2は、チタン合金鋳塊1の横断面2における各部のアルミニウムの濃度Al
0,Al
1,Al
2の範囲を模式的に示すグラフである。
図1(A)、
図1(B)および
図2を参照して、本実施形態では、チタン合金鋳塊1全体の質量%が100%である。そして、比(Al
1/Al
0)、Al
0、および、Al
1が、それぞれ、下記の条件を満たしている。
Al
0:0.2~8.0質量%
Al
1:1.0~10.0質量%
Al
0<Al
1
比(Al
1/Al
0):1.2~5.0
なお、チタン合金鋳塊1の各部位において、アルミニウム、アルミニウム以外の合金元素、チタンおよび不純物の各濃度の合計が100質量%である。
【0046】
Al0が上記の下限未満であると、純チタンにアルミニウムを添加することによる強度向上効果を十分に発揮し難くなる。一方、Al0が上記の上限を超えると、チタン合金鋳塊1の外周部3でのアルミニウム濃度が高くなりすぎ、後述する鋳型16からチタン合金鋳塊1を間欠的に引き抜くときに、外周部3の適度な変形が規制され鋳塊表面の凹深さが大きくなってしまう。さらに、外周部3が硬くなり過ぎることから、チタン合金鋳塊1に鍛造加工を施す際に割れが発生してしまう。
【0047】
Al1が上記の下限未満であると、純チタンにアルミニウムを添加することによる強度向上効果を十分に発揮し難くなる。一方、Al1が上記の上限を超えると、チタン合金鋳塊1の中間部4でのアルミニウム濃度Al1が高くなりすぎ、チタン合金鋳塊1の鋳造時におけるアルミニウムの供給量が過度に多くなる。その結果、チタン合金鋳塊1を鋳造するための溶湯の湯面からのAlの蒸発量が多くなり、チタン合金鋳塊1の溶湯が納められる真空容器の内面に付着するアルミニウムの蒸着物が多くなり、チタン合金鋳塊1の製造装置の操業を妨げてしまう。
【0048】
Al0<Al1であることにより、チタン合金鋳塊1の外周部3におけるアルミニウム濃度Al0を、チタン合金鋳塊1の半径方向中間部4におけるアルミニウム濃度Al1よりも低くできる。これにより、外周部3の硬さを、中間部4の硬さよりも低くできるので、外周部3の延性をより高くできる。さらに、比(Al1/Al0)が上記の範囲内である。これにより、チタン合金鋳塊1の外周部3と半径方向中間部4との間で硬さが極端に変化せずに済む。その結果、鋳型における溶湯の凝固によって形成されたチタン合金鋳塊1を筒状の鋳型から間欠的に鋳造方向D1に引き抜く際に、チタン合金鋳塊1の外周部3が鋳型内表面との摩擦によって適度に変形する。よって、チタン合金鋳塊1の外周面において、鋳造方向D1に沿って周期的に生じる半径方向の凹みの深さをより浅くできるので、鋳造速度が速くても、チタン合金鋳塊1の表面品質を向上できる。さらに、チタン合金鋳塊1の外周部3のアルミニウムの濃度Al0と中間部4のアルミニウム濃度Al1とを異ならせることができる。これにより、成分の異なる2種類の材料を一つのチタン合金鋳塊1内で両立させることができる結果、複層鋳塊を製造することが可能である。
【0049】
上述したように、チタン合金鋳塊1の外周部3と半径方向中間部4とのアルミニウムの濃度の関係Al0,Al1が規定されている。本実施形態では、さらに、好ましい例として、横断面2において、チタン合金鋳塊1の半径方向中間部4でのアルミニウムの濃度Al1と、中心P2でのアルミニウムの濃度Al2との関係が規定されている。
【0050】
具体的には、比(Al2/Al1)、および、Al2が、それぞれ、下記の条件を満たしている。
Al2:0.2~8.0質量%
Al1>Al2
比(Al2/Al1):0.02~0.95
【0051】
Al2が上記の下限未満であると、純チタンにアルミニウムを添加することによる強度向上効果を十分に発揮し難くなる。一方、Al2が上記の上限を超えると、チタン合金鋳塊1の横断面2における中心P2でのアルミニウム濃度Al2が高くなりすぎ、チタン合金鋳塊1を圧延する際に中央領域に付与される変形量が小さく、圧延効率が低下してしまう。
【0052】
Al1>Al2であることにより、チタン合金鋳塊1の中心部5におけるアルミニウム濃度を、チタン合金鋳塊1の半径方向中間部4におけるアルミニウム濃度よりも小さくできる。これにより、中心部5における硬さを、中間部4の硬さよりも低くできるので、中心部5の延性をより高くできる。さらに、比(Al2/Al1)が上記の範囲内である。これにより、チタン合金鋳塊1の半径方向中間部4と中心部5との間で硬さが極端に変化せずに済むとともに、例えば、チタン合金鋳塊1に鍛造加工または圧延加工を施すときに加工装置から外周部3および中間部4を介して中心部5に十分な荷重を伝達できる。よって、チタン合金鋳塊1の中心部5を十分に歪ませることができる。ここで、チタン合金鋳塊1は鍛造加工して使用される場合がある。一般的に、鍛造加工時の歪は素材の厚み中央領域に集中することから、加工量が増えると中央領域で内部割れが発生する場合がある。内部割れを抑制するために、一回当たりの加工量を少なくする必要があり、特に大型の素材を加工する場合は、鍛造回数が増え操業上の課題となっている。一方で、Al1>Al2としていることにより、アルミニウムを含有するチタン合金、特に、Ti-6Al-4V合金の場合、チタン合金鋳塊1の中心部5のアルミニウムの濃度を相対的に低くできる。これにより、チタン合金鋳塊1の中心部5の硬さを適度に低下させて延性が増大することから、一回当たりの鍛造量を増やしても内部割れが発生しない。その結果、1回あたりの鍛造による変形量をより多くでき、コストのかかる鍛造工程をより簡素にできる。
【0053】
さらに、本実施形態の好ましい一例によると、Al0<Al1且つAl2<Al1である。すなわち、チタン合金鋳塊1の外周部3(表層部)のアルミニウム濃度Al0と、中心部5のアルミニウム濃度Al2と、の何れか一方のみを半径方向中間部4のアルミニウム濃度Al1に対して低下させるのではなく、双方を低下させている。これにより、特に大型のチタン合金鋳塊1においては、表面の凹み抑制効果と内部割れの抑制効果の双方を発揮できる。さらに、チタン合金鋳塊1の外周部3のアルミニウムの濃度Al0と半径方向中間部4のアルミニウムの濃度Al1と、中心部5のアルミニウムの濃度Al2とを異ならせることができる。これにより、成分の異なる3種類の材料を一つのチタン合金鋳塊1内で両立させることができる結果、複層鋳塊を製造することができる。
【0054】
なお、本実施形態では、好ましい構成としてAl1>Al2である構成を説明しているけれども、この通りでなくてもよい。例えば、Al1≦Al2であってもよい。
【0055】
本発明に係るチタン合金鋳塊の化学組成としては、例えば、質量%で、Al:1.0~10.0%と、O:0~0.5%、N:0~0.2%、C:0~2.0%、Sn:0~10.0%、Zr:0~20.0%、Mo:0~25.0%、Ta:0~5.0%、V:0~30.0%、Nb:0~40.0%、Si:0~2.0%、Fe:0~5.0%、Cr:0~10.0%、Cu:0~3.0%、Co:0~3.0%、Ni:0~2.0%、白金族元素:0~0.5%、希土類元素:0~0.5%、B:0~5.0%、および、Mn:0~10.0%とを含有するものが例示される。
【0056】
上記以外の残部は、Tiおよび不純物である。不純物としては、目標特性を阻害しない範囲で含有することができ、その他の不純物は主に原料やスクラップから混入する不純物元素及び製造中に混入する元素があり、例としてC、N、O、Fe、H等が代表的な元素で、その他にMg、Cl等原料から混入する元素やSi、S等製造中に混入する元素等がある。これらの元素は、2%程度以下であれば本願の目標特性を阻害しない範囲と考えられる。
【0057】
本発明に係るチタン合金鋳塊の化学組成は、例えば、質量%で、Al:1.0~10.0%と、O:0.01~0.5%、N:0.01~0.2%、C:0.01~2.0%、Sn:0.1~10.0%、Zr:0.5~20.0%、Mo:0.1~25.0%、Ta:0.1~5.0%、V:1.0~30.0%、Nb:0.1~40.0%、Si:0.1~2.0%、Fe:0.01~5.0%、Cr:0.1~10.0%、Cu:0.3~3.0%、Co:0.05~3.0%、Ni:0.05~2.0%、白金族元素:0.01~0.5%、希土類元素:0.001~0.5%、B:0.01~5.0%、および、Mn:0.1~10.0%から選択される一種以上とを含有するものが例示される。
【0058】
本発明に係るチタン合金鋳塊の化学組成は、Al:1.0~8.0%と、O:0.02~0.4%、N:0.01~0.15%、C:0.01~1.0%、Sn:0.15~5.0%、Zr:0.5~10.0%、Mo:0.2~20.0%、Ta:0.1~3.0%、V:2.0~25.0%、Nb:0.15~5.0%、Si:0.1~1.0%、Fe:0.05~2.0%、Cr:0.2~5.0%、Cu:0.3~2.0%、Co:0.05~2.0%、Ni:0.1~1.0%、白金族元素:0.02~0.4%、希土類元素:0.001~0.3%、B:0.1~5.0%、および、Mn:0.2~8.0%から選択される1種以上とを含有するのがより好ましい。
【0059】
本発明に係るチタン合金鋳塊の化学組成は、Al:1.0~8.0%と、O:0.03~0.3%、N:0.01~0.1%、C:0.01~0.5%、Sn:0.2~3.0%、Zr:0.5~5.0%、Mo:0.5~15.0%、Ta:0.2~2.0%、V:5.0~20.0%、Nb:0.2~2.0%、Si:0.15~0.8%、Fe:0.1~1.0%、Cr:0.2~3.0%、Cu:0.3~1.5%、Co:0.1~1.0%、Ni:0.1~0.8%、白金族元素:0.03~0.2%、希土類元素:0.001~0.1%、B:0.2~3.0%、および、Mn:0.2~5.0%から選択される1種以上とを含有するのがさらに好ましい。
【0060】
2.本発明に係るチタン合金鋳塊の製造装置
図3は、本発明に係るチタン合金鋳塊1の製造装置10を模式的に示す斜視図である。
図4(A)は、
図3のIVA-IVA線に沿う断面図であって、チタン合金鋳塊1の周辺の縦断面を示す。
図4(B)は、照射部14から溶湯20への電子ビームまたはプラズマの照射強度を模式的に示す斜視図である。
【0061】
図3、
図4(A)および
図4(B)を参照して、製造装置10は、原料供給部11と、電子ビームまたはプラズマ照射部(以下、単に「照射部」という)12,13,14と、ハース15と、鋳型16と、を有している。
【0062】
製造装置10の各部11~16は、図示しないチャンバー内に収容されている。照射部12,13,14が電子ビームを照射する構成の場合、製造装置10の各部11~16は、真空雰囲気下に置かれ、これらの照射部12,13,14は、電子ビームガン等の公知の電子ビーム発生装置を有している。また、照射部12,13,14がプラズマを照射する構成の場合、製造装置10の各部11~16は、アルゴンガス等の不活性ガス雰囲気下に置かれ、これらの照射部12,13,14は、公知のプラズマ発生装置を有している。
【0063】
原料供給部11は、工業用チタン合金の鋳塊としてのチタン合金鋳塊1を製造するための、チタンを含有する原料18を供給する。原料18としては、チタン合金の原料、チタンと合金元素の混合原料、または、チタンとチタン合金の混合原料が例示される。
【0064】
原料18はチタンブリケットであることが望ましいが、チタンのスクラップ等を混在させてもよい。なお、チタンブリケットとは、チタンを主成分とする原料をプレス加工して、特定の形状に成型したものである。原料供給部11は、原料18を、照射部12による原料18の溶解速度に応じた供給速度で供給することが望ましい。
【0065】
原料供給部11は、原料18が載せ置かれる台座19と、この台座19から原料18をハース15へ落下させる投入装置(図示せず)と、を有している。原料供給部11は、原料18をハース15の上方から供給する。
【0066】
照射部12は、供給された原料18に電子ビームまたはプラズマを照射することにより原料18を溶解する。
【0067】
原料供給部11および照射部12は、この原料18をハース15の上方からハース15へ連続的に供給しながらこの原料18に電子ビームあるいはプラズマを照射することで溶解し、ハース15内に溶湯20を供給する。これにより、ハース15に供給する溶湯温度を安定に保持することができる。
【0068】
なお、原料供給部11は原料18を連続して供給することが望ましく、照射部12は原料18を連続して溶解することが望ましいけれども、このような連続供給および連続溶解は、必須ではない。上述の構成により、原料18の溶融物を含む溶湯20が、ハース15に溜められる。
【0069】
ハース15は、溶湯20を精錬するために設けられている。ハース15に向けて溶湯20の温度調整用の電子ビームまたはプラズマを照射する照射部13が少なくとも1基配置されていることが好ましい。本実施形態では、照射部13は3つ例示されている。
【0070】
ハース15は、原料18が投入され原料18を溶解する。また、ハース15は、一部の溶湯20を冷却凝固し、底部にスカル(溶湯20が急冷されて直ちに凝固した薄い凝固層)を形成しながら、残部の溶湯20を溶湯出口23から鋳型16へ流す。
【0071】
ハース15は、原料18を電子ビームまたはプラズマで溶解し、溶湯20を溜めるための溶解ハース21と、溶解ハース21からの溶湯20を一旦溜めて、底部に不純物を含むスカルを形成する精錬ハース22と、を有している。
【0072】
ハース15では、電子ビームあるいはプラズマの照射によって溶湯20の温度を調節可能であることが好ましい。このため、本実施形態では、照射部13が、ハース15を流れる溶湯20の表面に、電子ビームまたはプラズマを走査しながら照射することにより、溶湯20の温度を調整する。
【0073】
精錬ハース22には、上端側の一部が切り欠かれた形状が設けられている。この切り欠かれた部分が、溶湯出口23を形成している。ハース15内の溶湯20は、溶湯出口23から、鋳型16へ流入する。
【0074】
鋳型16は、ハース15から供給された溶湯20を冷却凝固することで、チタンおよびアルミニウムを含むチタン合金鋳塊(インゴット)1を成形する。鋳型16は、筒状(本実施形態では、円筒状)に形成されている。鋳型16のキャビティ16aは、円柱状の空間を形成しており、鋳型16の上方および下方に開放されている。鋳型16のキャビティ16a内へは、ハース15から溶湯出口23を通じて溶湯20が注入される。
【0075】
鋳型16の下方には、支持台24が配置されており、この支持台24に形成されたダミーブロック(図示せず)に、チタン合金鋳塊1の下端部が支持されている。支持台24は、図示しない移動機構によって上下方向に移動するように構成されている。チタン合金鋳塊1の鋳造時、キャビティ16aへの溶湯20の注入量に応じて、支持台24は、移動機構によって間欠的に一定距離だけ下方へ移動される。そして、鋳型16のキャビティ16aで溶湯20が冷却凝固されることに伴い、チタン合金鋳塊1が円柱状に成形され、このチタン合金鋳塊1が、下方に送り出される。このように、鋳型16内から鋳型16外へチタン合金鋳塊1を下方へ移動させることで、チタン合金鋳塊1が鋳型16から取り出される。
【0076】
なお、鋳型16のキャビティ16a内においては、チタン合金鋳塊1の上方に溶湯20が存在している。そして、この溶湯20の下方における、鋳造最中のチタン合金鋳塊1と溶湯20との界面としての固液界面25において、溶湯20がチタン合金鋳塊1となる。固液界面25には、溶湯20を構成する成分が凝固することで形成される凝固組織であるデンドライトが存在している。そして、この固液界面25では、デンドライト樹間に液相である溶湯20が存在している。固液界面25は、巨視的に見て、鋳型16のキャビティ16aの内周面から鋳型16の中心方向内方に進むに従い下方に進む椀状(bowl状)の面である。
【0077】
照射部14は、鋳型16のキャビティ16aに収容された溶湯20に温度調整用の電子ビームまたはプラズマを走査しながら照射する。このキャビティ16a内の溶湯20に向けて照射部14から電子ビームまたはプラズマが照射されることにより、鋳型16における溶湯20の湯面20aでの皮張り現象が抑制される。また、本実施形態では、照射部14は、鋳型16で囲まれた空間、すなわち、キャビティ16a内の溶湯20の湯面20aの任意の箇所に電子ビームまたはプラズマを照射可能に構成されている。照射部14は、温度調整用の電子ビームまたはプラズマを、鋳型16で囲まれた空間の中心を中心として、同心円状に走査することで、溶湯20の各部に熱を与えることができる。照射部14による電子ビームまたはプラズマの照射の具体的な構成は、後述する。
【0078】
3.本発明に係る製造方法
次に、チタン合金鋳塊1の製造方法を説明する。本実施形態に係るチタン合金鋳塊1の製造方法は、第1~4の工程を有する。
【0079】
第1の工程は、原料供給工程である。この第1の工程では、原料供給部11が原料18をハース15の上方からハース15へ供給する。原料供給工程では、第2の工程での原料18の溶解速度に応じた供給速度で、原料18を供給することが望ましい。
【0080】
第2の工程は、溶解工程である。この第2の工程では、ハース15へ供給された原料18に照射部12が電子ビームまたはプラズマを照射することにより、原料18を溶解する。なお、原料供給工程で原料18を連続して供給し、溶解工程で原料18を連続して溶解することが望ましい。
【0081】
第3の工程は、ハース15において溶湯20を精錬する精錬工程である。この第3の工程では、溶解された原料18の溶湯20がハース15に収容される。そして、溶湯20の一部は、冷却凝固されることでハース15の精錬ハース22の底部にスカルを形成し、溶湯20の残部は、溶湯出口23、すなわち鋳型16への供給口に向かって流れる。精錬工程では、ハース15を流れる溶湯20に、照射部13から電子ビームまたはプラズマを照射することにより、溶湯の温度を調整することが望ましい。
【0082】
第4の工程は、鋳造工程である。この第4の工程では、ハース15で精錬された溶湯20を鋳型16で冷却凝固することで、チタン合金鋳塊1を形成する。この鋳造工程では、鋳型16のキャビティ16aへの溶湯20の流入に伴い支持台24が定期的に一定量(例えば、1.0mm~10.0mm)下方へ移動する。これにより、チタン合金鋳塊1が円柱状に成形されていく。このように、鋳造工程では、鋳型16内から鋳型16外へチタン合金鋳塊1が下方へ移動することで、チタン合金鋳塊1が鋳型16から取り出される。すなわち、チタンおよびアルミニウムを含有する溶湯20を筒状の鋳型16に流し込み、この鋳型16から溶湯20の凝固物を鋳型16の軸方向に沿う鋳造方向D1に間欠的に引き抜くことで、チタン合金鋳塊1が完成する。
【0083】
チタン合金の鋳造工程においては、鋳造速度が鋼板の鋳造速度と比べて小さい。このため、鋳型16内の溶湯20の大部分は、チタン合金鋳塊1の底部から上部へ向けて凝固が進行する。このため、チタン合金鋳塊1は、いわゆる一方向凝固と同じ凝固組織形態をとる。このような凝固組織の形態は、鋼の連続鋳造で観察される形態と全く異なり、チタン合金鋳塊1に特有である。チタン合金鋳塊1の鋳造速度が小さいために、鋳型16内の湯面20aの皮張りを防止するため、湯面20aには照射部14から電子ビームまたはプラズマが照射され、これにより、湯面20aの温度低下を防いでいる。また、チタン合金鋳塊1の鋳造方向D1に平行で中心P2を含む断面(縦断面)、および鋳造方向D1と直交する断面(横断面)における凝固組織の調査結果から、鋳型16内の溶湯深さB1は300mm程度である。
【0084】
本実施形態では、鋳型16用の照射部14は、温度調整用の電子ビームまたはプラズマを、鋳型16で囲まれた空間の中心を中心として、同心円状に走査する。これにより、チタン合金鋳塊1が形成される。鋳型16内の溶湯20のうち、鋳型16の内周面の近傍の外周領域33が、チタン合金鋳塊1の外周部3となる。また、鋳型16内の溶湯20のうち鋳型16で囲まれた空間の中心を含む中心領域35が、チタン合金鋳塊1の中心部5となる。そして、鋳型16内の溶湯20のうち、外周領域33と中心領域35との間の中間領域34が、チタン合金鋳塊1の径方向中間部4となる。
【0085】
ところで、前述したように、チタン合金鋳塊1は、アルミニウム等の合金元素を含有されている。さらに、チタン合金鋳塊1はスズおよび銅の少なくとも一方の合金元素を含有している場合がある。これらの合金元素(Al,Sn,Cu)の蒸気圧が高いことから、鋳型16内で溶湯20の状態に保持されている間に、蒸発してしまう。逆に、溶湯20の溶融している時間を短くすれば、蒸発量を少なくすることができ、濃度を高くできる。溶融時間を短くするには、溶湯深さを浅くすればよい。そして、鋳造方向D1に沿ったチタン合金鋳塊1の断面組織(縦断面組織)は、鋳型16への抜熱と、チタン合金鋳塊1の底部(支持台24)への抜熱で形成される。ここで、チタン合金鋳塊1の鋳造速度は、鋼鉄の連続鋳造における鋳造速度と比べて極めて小さい。このため、溶湯20において、熱の移流拡散による影響は小さく、熱伝導が支配的と考えられる。このため、鋳型16内の溶湯20の湯面20aへの入熱量(エネルギー供給量)を変えることで、溶湯深さB1と鋳型16における溶湯20のプール形状とを変化させることができる。よって、最終的に、湯面20aにおける入熱量を変えることで、蒸発量、すなわち、チタン以外の添加元素の濃度を変えることができる。
【0086】
前述したように、アルミニウムの濃度Al0<Al1であり、また、Al2<Al1である。このように、チタン合金鋳塊1の外周部3、中間部4および中心部5毎にアルミニウムの濃度を設定するためには、電子ビームまたはプラズマによって溶湯20の湯面20aへ与えられるエネルギーを領域33,34,35毎に異ならせればよい。例えば、湯面20aへの電子ビームまたはプラズマの照射時間を、外周領域33>中間領域34とすることで、外周領域33での溶湯20の蒸発時間を中間領域34での溶湯20の蒸発時間よりも長くできる。また、湯面20aへの電子ビームまたはプラズマの照射時間を、中心領域35>中間領域34とすることで、中心領域35での溶湯20の蒸発時間を中間領域34での溶湯20の蒸発時間よりも長くできる。
【0087】
このように、チタン合金鋳塊1の外周部3となる外周領域33でのアルミニウムの蒸発量と、チタン合金鋳塊1の中間部4となる中間領域34でのアルミニウムの蒸発量とを異ならせる。これにより、Al0<Al1であるチタン合金鋳塊1を製造できる。また、チタン合金鋳塊1の中心部5となる中心領域35でのアルミニウムの蒸発量と、中間部4となる中間領域34でのアルミニウムの蒸発量とを異ならせている。これにより、Al2<Al1であるチタン合金鋳塊1を実現できる。
【0088】
なお、照射部14から領域33,34,35への電子ビームまたはプラズマの照射態様は、上述した態様に限定されず、濃度Al0<Al1、且つ、Al2<Al1となるような態様であればよい。例えば、照射部14から領域33,34,35への電子ビームまたはプラズマの照射時間は同じとし、外周領域33への電子ビームまたはプラズマの照射強度を中間領域34への照射強度よりも大きくするとともに、中心領域35への照射強度を中間領域34への照射強度よりも大きくしてもよい。
【0089】
この場合、外周領域33への電子ビームまたはプラズマの照射強度と、中間領域34への電子ビームまたはプラズマの照射強度と、が0.03~0.32kW/cm2異ならされていることが好ましい。領域33,34への上記照射強度の差が上記の下限未満であると、外周領域33においてアルミニウムを十分に蒸発させることができない。また、領域33,34への上記照射強度の差が上記の上限を超えると、外周領域33においてアルミニウム等の添加元素の蒸発量が大きくなり過ぎる。
【0090】
また、中間領域34への電子ビームまたはプラズマの照射強度と、中心領域35への電子ビームまたはプラズマの照射強度と、が0.03~0.32kW/cm2異ならされていることが好ましい。領域34,35への上記照射強度の差が上記の下限未満であると、中心領域35においてアルミニウムを十分に蒸発させることができない。また、領域34,35への上記照射強度の差が上記の上限を超えると、中心領域35においてアルミニウムの蒸発量が大きくなり過ぎる。
【実施例】
【0091】
本発明の効果を確認するため、
図3に示す製造装置10を用いて、チタン合金鋳塊を作製する等、以下に示す試験を実施してその結果を評価した。
(1)溶解および鋳造条件
(1-1)溶湯成分:
本発明例1:Ti-6.4%Al-4.2%V
本発明例2:Ti-6.2%Al-2.0%Sn-4.1%Zr-2.0%Mo
本発明例3:Ti-5.1%Al-1.1%Fe
本発明例4:本発明例1と同じ
比較例1:本発明例1と同じ
比較例2:本発明例2と同じ
比較例3~11:本発明例1と同じ
(1-2)溶湯温度:1700℃(精製ハース22内の溶湯温度)
(1-3)チタン合金鋳塊の直径:650mm、長さ10000mm
(1-4)原料18の溶解量:8000kg
(1-5)原料18の溶解速度:1000kg/時間
(1-6)照射方法:電子ビームあるいはプラズマ
(1-7)ハース:以下の2種類(溶解ハース21および精製ハース22)
(i)溶解ハース21
原料18を電子ビームで溶解することで溶湯20を溜め、精錬ハース15に供給するためのハースである。
寸法は、幅500mm×長1500mm×深100mmである。
(ii)精製ハース22
溶解ハース21からの溶湯20をいったん溜めて、鋳型16に供給するためのハースである。
寸法は、幅500mm×長1000mm×深150mmである。
(1-8)溶解ハース21の湯口から精製ハース22に溶湯が流れる。
(1-9)溶解原料18:スポンジ・チタン、合金成分を混合した100mm角×200mm長のブリケット
(1-10)溶解原料18の溶解方法:ブリケットを溶解速度に合わせて連続供給するか、あるいは、ブリケットを1000kgずつ8回に分けて溶解ハース21内に一括添加する。
(1-11)電子ビーム照射手段:原料の溶解用2機、溶解ハース用2機、精錬ハース用2機、鋳型用1機の合計7機
(2)試験条件
試験条件は、表1に記載の通りである。
【0092】
【0093】
鋳型内湯面への電子ビームあるいはプラズマの照射領域と出力を変えて鋳造を行った。ここでは、湯面を複数の領域に分けて照射を行った。表1における外周部とは、チタン合金鋳塊の鋳造方向中心の横断面における、外周端から半径方向(深さ方向)20mm~50mmの範囲を意味する。また、表1における中心部とは、横断面における、中心から半径の10~40%までの範囲を意味する。また、表1における半径方向中間部とは、横断面における、中心部と外周部との間の領域をいう。
【0094】
(3)評価
アルミニウムの濃度の分析方法について以下に示す。チタン合金鋳塊の鋳造方向の中心部における鋳造方向と直交する横断面内において、中心を通る直線上で、中心から50mm間隔で切粉を採取した。この切粉をICP(Inductively Coupled Plasma)分析装置で分析し、アルミニウムの濃度を求めた。
【0095】
硬さの測定方法について以下に示す。上記の切粉を採取した位置の近傍で、サイズが20×20mmの試料を採取した。この面を鏡面研磨した後、マイクロビッカースを用いて20か所の硬さを測定し、その平均値を求めた。
【0096】
また、チタン合金鋳塊の表面の凹みの深さを測定した。この凹みの深さは、チタン合金鋳塊の表層から鋳造方向に沿う断面試料(縦断面試料)を採取し、この試料の表面を鏡面研磨し、表層の凹凸の差を測定した。この値を凹み深さと定義した。
【0097】
表1に示すように、本発明例では、湯面に照射する電子ビームの出力が高い領域で、すなわち、アルミニウムの蒸発量が多い領域で、アルミニウムの濃度が低く、チタン合金鋳塊の対応する箇所での硬さが低いという結果が得られた。その結果、鋳塊表面の凹みが1mm未満の小さな値となるとともに、鍛造時における鋳塊の一回の加工量を大きくしても中心部の割れが生じることを抑制できる。特に、本発明例1~3では、アルミニウム濃度について、Al1>Al2であった。これにより、鋳塊の中心部における硬さが鋳塊の半径方向中間部の硬さよりも低い。その結果、チタン合金鋳塊を圧延する際に当該鋳塊の中心部に付与される変形量を大きくでき、圧延効率を高くできる。
【0098】
一方、比較例1~3は、Al1/Al0が本発明の下限値未満である結果、チタン合金鋳塊の外周部が硬く、鋳塊表面の凹深さが1mmを超えた。また、比較例4は、Al1/Al0が本発明の上限値を大きく超えている結果、外周部の硬さが半径方向中間部の硬さの50%半分未満となり、チタン合金鋳塊の外周部と半径方向中間部との間で硬さが極端に変化している。このため、チタン合金鋳塊を圧延または鍛造した後の加工品の外周部と内部との強度の差が大きくなりすぎる。
【0099】
比較例5は、外周部と半径方向中間部のアルミニウム濃度が本発明の下限値を下回っている結果、外周部と半径方向中間部におけるビッカース硬さが100程度と、実用的でない低い値となってしまった。比較例6は、外周部のアルミニウム濃度Al1が大きすぎる結果、チタン合金鋳塊の外周部が硬く、鋳塊表面の凹深さが1mmを大きく超えた。比較例7は、半径方向中間部のアルミニウム濃度が本発明の下限値を下回っている結果、半径方向中間部におけるビッカース硬さが100程度と、実用的でない低い値となってしまった。さらに、チタン合金鋳塊の外周部の硬さが半径方向中間部の硬さと比べて2倍以上硬い結果、チタン合金鋳塊の外周部が鋳型内表面との摩擦によって適度に変形できず、鋳塊表面の凹深さが1mmを大きく超える結果となった。
【0100】
比較例8は、半径方向中間部におけるアルミニウム濃度が本発明の上限値を上回っている結果、この中間部でのアルミニウム濃度Al1が高くなりすぎ、チタン合金鋳塊の鋳造時におけるアルミニウムの供給量が過度に多くなる。その結果、チタン合金鋳塊を鋳造するための溶湯の湯面からのAlの蒸発量が多くなり、チタン合金鋳塊の溶湯が納められる真空容器の内面に付着するアルミニウムの蒸着物が多くなり、チタン合金鋳塊の製造装置の操業を妨げてしまう。さらには、チタン合金鋳塊が鋳型から間欠的に引き抜かれる際、中間部が硬すぎることから外周部の適度な変形が許容されず、その結果、鋳塊表面の凹深さが1mmを大きく超えてしまった。比較例9,10は、Al1/Al0が本発明の下限値未満である結果、チタン合金鋳塊の外周部が硬く、鋳塊表面の凹深さが1mmを超えた。
【0101】
比較例11は、半径方向中間部のアルミニウム濃度が本発明の下限値を下回っている結果、半径方向中間部におけるビッカース硬さが100程度と、実用的でない低い値となってしまった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、チタン合金鋳塊として広く適用することができる。
【符号の説明】
【0103】
1 チタン合金鋳塊
2 横断面
3 外周部
6 外周端
D1 鋳造方向
L1 線分
P1 中点
P2 中心