(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】製品の置場管理方法
(51)【国際特許分類】
G05B 19/418 20060101AFI20230830BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20230830BHJP
【FI】
G05B19/418 Z
G06Q50/04
(21)【出願番号】P 2020056009
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 豊大
【審査官】石川 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-207671(JP,A)
【文献】特開2020-017117(JP,A)
【文献】特開2000-090171(JP,A)
【文献】特開2006-309572(JP,A)
【文献】特開2019-020875(JP,A)
【文献】特開平06-143106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/418
G06Q 50/04
G06Q 10/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
製造プロセスにおいて、生産スケジュールにしたがって、第1の工程にて処理された製品を貯蔵する第1の置場から、第2の工程にて処理される製品を貯蔵する第2の置場へ搬送する際の製品の置場管理方法であって、
前記第1の工程は、複数の第1処理ラインを有し、
前記第1の置場は、前記第1処理ラインそれぞれに対応して設けられた複数の第1貯蔵エリアを有し、
前記第2の工程は、複数の第2処理ラインを有し、
前記第2の置場は、前記第2処理ラインそれぞれに対応して設けられた複数の第2貯蔵エリアからなり、
予測開始時点から第1の予測終了時点までの第1の予測期間の前記生産スケジュールについて、前記第1の予測期間に設定された複数の予測時点それぞれにおいて、前記第1の工程にて処理される製品数、前記第2の工程にて処理される製品数、及び、前記第1の置場及び前記第2の置場に貯蔵されている合計製品数に基づき、前記第1の工程または前記第2の工程での休止の発生有無を予測する第1の予測ステップと、
前記第1の予測ステップにて休止が発生しないと予測された生産スケジュールについて、前記第1の予測期間よりも短い、前記予測開始時点から第2の予測終了時点までの第2の予測期間に設定された複数の予測時点それぞれにおいて、
前記第1処理ラインそれぞれについて、前記第1処理ラインにて処理される製品数、当該第1処理ラインに対応する第1貯蔵エリアから前記各第2貯蔵エリアへ搬送される製品数、及び、前記予測開始時点での当該第1貯蔵エリアの製品在庫数に基づき、前記第1処理ラインでの休止の発生有無を予測し、
前記第2処理ラインそれぞれについて、前記第2処理ラインにて処理される製品数、前記各第1貯蔵エリアから当該第2処理ラインに対応する前記第2貯蔵エリアへ搬送される製品数、及び、前記予測開始時点での当該第2貯蔵エリアの製品在庫数に基づき、前記第2処理ラインでの休止の発生有無を予測する、第2の予測ステップと、
前記第1の予測ステップまたは前記第2の予測ステップにて休止が発生すると予測された場合に、生産スケジュールを調整する調整ステップと、
を含む、製品の置場管理方法。
【請求項2】
前記第1の予測ステップでは、前記第1の予測終了時点での、前記第1の工程にて処理される製品数から前記第2の工程にて処理される製品数を減じた値と、前記第1の置場及び前記第2の置場に貯蔵されている合計製品数とに基づき、前記第1の置場及び前記第2の置場の前記製品の過不足を算出し、前記第1の工程または前記第2の工程での休止の発生有無を予測する、請求項1に記載の製品の置場管理方法。
【請求項3】
前記第2の予測ステップでは、
前記第1処理ラインそれぞれについて、処理される製品数から、当該第1処理ラインに対応する第1貯蔵エリアから各前記第2貯蔵エリアへ搬送される製品数を減じた値と、前記予測開始時点での当該第1貯蔵エリアの製品在庫数とに基づき、前記第1貯蔵エリアに貯蔵される前記製品の過不足を算出して、前記第1処理ラインでの休止の発生有無を予測し、
前記第2処理ラインそれぞれについて、処理される製品数から、各前記第1貯蔵エリアから当該第2処理ラインに対応する前記第2貯蔵エリアへ搬送される製品数を減じた値と、前記予測開始時点での当該第2貯蔵エリアの製品在庫数とに基づき、前記第2貯蔵エリアに貯蔵される前記製品の過不足を算出して、前記第1処理ラインでの休止の発生有無を予測する、請求項1または2に記載の製品の置場管理方法。
【請求項4】
前記第1の予測ステップにて休止が発生すると予測された場合、
前記調整ステップにて、前記生産スケジュールのうち、各工程の各処理ラインの製品単位の処理開始時間及び処理終了時間を表すスケジュール情報を変更し、
その後、前記第1の予測ステップを再度実行する、請求項1~3のいずれか1項に記載の製品の置場管理方法。
【請求項5】
前記第2の予測ステップにて休止が発生すると予測された場合、
前記調整ステップにて、前記第1の置場から前記第2の置場への製品の搬送能力を表す搬送能力情報を変更し、
その後、前記第2の予測ステップを再度実行する、請求項1~4のいずれか1項に記載の製品の置場管理方法。
【請求項6】
前記第1の予測ステップまたは前記第2の予測ステップにて休止が発生すると予測された場合に、予測結果をユーザに通知する通知ステップを含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の製品の置場管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の上流工程で処理した製品を、製品置場を介して複数の下流工程でさらに処理する製造プロセスにおける、製品の置場管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製品を生産する製造プロセス、例えば鉄鋼製造プロセスでは、複数の処理ラインを有する上流工程で処理した製品を一旦製品置場に貯蔵した後に、複数の処理ラインを有する下流工程でさらに処理することが一般に行われている。例えば、複数の酸洗ラインで酸洗処理された製品は、それぞれ、酸洗ラインにて処理された製品を貯蔵する置場にそれぞれ貯蔵された後、下流工程である冷間圧延工程の置場に搬送され、生産順番を待って冷間圧延工程で冷間圧延される。なお、冷間圧延工程も複数の冷間圧延ラインを有しており、生産する製品の板厚や製品種類に応じて一の冷間圧延ラインが指定され、製品が処理されることが多い。
【0003】
上記のような製造プロセスでは、生産性の観点から、上流工程及び下流工程の処理が滞りなく効率的に実施されることが求められている。生産効率は、上流工程及び下流工程の処理能力だけでなく、各工程に設けられる製品の置場の在庫状況や、工程間で製品を搬送する搬送装置の搬送能力等の影響も受ける。上流工程及び下流工程の効率的な生産を阻害するケースとして、例えば、上流工程の後面置場の最大貯蔵能力を超える製品貯蔵が要求されるような生産計画を実行すると、仕掛調整休止により処理を停止せざるを得ない事態が上流工程に発生する。また、例えば、下流工程の前面置場から下流工程で処理する製品が無くなるような生産計画を実行すると、材欠休止により処理を停止せざるを得ない事態が下流工程に発生する。
【0004】
このような仕掛調整休止や材欠休止等の休止は、生産計画を作成した段階では発生しないものとされているが、実生産は計画通りにならない場合がある。従来は、生産実績や生産実績予測を踏まえて生産計画を都度再作成することで休止を回避している。
【0005】
例えば特許文献1には、予め定められた生産計画に従って材料供給源と複数の工程と少なくとも一つの置場との間で被運搬材を運搬し、複数の工程において被運搬材を処理して、被運搬材から製品を生産する、被運搬材の物流管理を支援する物流管理支援装置が開示されている。特許文献1に記載の技術では、工程や置場の間の物流量に着目し、実際の物流量の予測値が物流量の上限を超える場合に警報を発して生産計画見直しを促したり、生産計画と生産実績との実態が乖離した場合には、今後生じる物流量の計画物流量からの変動を予測し、予測した変動に基づいて生産計画を見直して、置場間等の物流の滞りに起因する休止の発生を低減させたりする。
【0006】
また、例えば特許文献2には、複数の作業工程を介して製品を生産する生産ラインの少なくとも一つの作業工程に設けられ、自作業工程の生産スケジュール、後作業工程の生産スケジュール及び自作業工程で生産された部品の現在の在庫量を記憶し、自作業工程で将来生産される部品の生産スケジュールを模擬実行した結果から生産スケジュールの修正案を作成し、当該修正案を模擬実行した結果、将来自作業工程で生産される部品が在庫切れになるかを判断し、その修正案を採用するか否かを表示する、生産計画修正システムが開示されている。特許文献2に記載の技術では、生産計画における上工程及び下工程の処理量を基に下工程の仕掛量を予測し、下工程の仕掛量が0にならないように生産計画の見直しを行うことで、下工程の材欠休止の発生を低減させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-020875号公報
【文献】特開平6-143106号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上記特許文献1は、生産計画の手法を開示しておらず、生産計画が実態を踏まえていない内容である場合には、生産計画と生産実績との実態の乖離が極めて大きくなる。この場合、生産実績の実態が判明した時点で生産計画の見直しや物流の修正を実施しても修正タイミングが遅すぎるため、休止の発生の頻度を低減することはできない。
【0009】
また、上記特許文献2では、材欠休止の頻度は低減できると考えられるものの、置場の最大在庫能力を想定した予測も、上工程の後面置場から下工程の前面置場への輸送を踏まえた予測も実施していない。このため、上記特許文献2に記載の技術では、仕掛調整休止の抑制ができず、輸送能力の不足等により発生し得る休止の抑制ができない。
【0010】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、製品の製造プロセスにおいて、仕掛調整休止や材欠休止の発生頻度を減少させ、効率的な生産を実現することが可能な、製品の置場管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、製造プロセスにおいて、生産スケジュールにしたがって、第1の工程にて処理された製品を貯蔵する第1の置場から、第2の工程にて処理される製品を貯蔵する第2の置場へ搬送する際の製品の置場管理方法であって、第1の工程は、複数の第1処理ラインを有し、第1の置場は、第1処理ラインそれぞれに対応して設けられた複数の第1貯蔵エリアを有し、第2の工程は、複数の第2処理ラインを有し、第2の置場は、第2処理ラインそれぞれに対応して設けられた複数の第2貯蔵エリアからなり、予測開始時点から第1の予測終了時点までの第1の予測期間の生産スケジュールについて、第1の予測期間に設定された複数の予測時点それぞれにおいて、第1の工程にて処理される製品数、第2の工程にて処理される製品数、及び、第1の置場及び第2の置場に貯蔵されている合計製品数に基づき、第1の工程または第2の工程での休止の発生有無を予測する第1の予測ステップと、第1の予測ステップにて休止が発生しないと予測された生産スケジュールについて、第1の予測期間よりも短い、予測開始時点から第2の予測終了時点までの第2の予測期間に設定された複数の予測時点それぞれにおいて、第1処理ラインそれぞれについて、第1処理ラインにて処理される製品数、当該第1処理ラインに対応する第1貯蔵エリアから各第2貯蔵エリアへ搬送される製品数、及び、予測開始時点での当該第1貯蔵エリアの製品在庫数に基づき、第1処理ラインでの休止の発生有無を予測し、第2処理ラインそれぞれについて、第2処理ラインにて処理される製品数、各第1貯蔵エリアから当該第2処理ラインに対応する第2貯蔵エリアへ搬送される製品数、及び、予測開始時点での当該第2貯蔵エリアの製品在庫数に基づき、第2処理ラインでの休止の発生有無を予測する、第2の予測ステップと、第1の予測ステップまたは第2の予測ステップにて休止が発生すると予測された場合に、生産スケジュールを調整する調整ステップと、を含む、製品の置場管理方法が提供される。
【0012】
第1の予測ステップでは、第1の予測終了時点での、第1の工程にて処理される製品数から第2の工程にて処理される製品数を減じた値と、第1の置場及び第2の置場に貯蔵されている合計製品数とに基づき、第1の置場及び第2の置場の製品の過不足を算出し、第1の工程または第2の工程での休止の発生有無を予測してもよい。
【0013】
第2の予測ステップでは、第1処理ラインそれぞれについて、処理される製品数から、当該第1処理ラインに対応する第1貯蔵エリアから各第2貯蔵エリアへ搬送される製品数を減じた値と、予測開始時点での当該第1貯蔵エリアの製品在庫数とに基づき、第1貯蔵エリアに貯蔵される製品の過不足を算出して、第1処理ラインでの休止の発生有無を予測し、第2処理ラインそれぞれについて、処理される製品数から、各第1貯蔵エリアから当該第2処理ラインに対応する第2貯蔵エリアへ搬送される製品数を減じた値と、予測開始時点での当該第2貯蔵エリアの製品在庫数とに基づき、第2貯蔵エリアに貯蔵される製品の過不足を算出して、第1処理ラインでの休止の発生有無を予測してもよい。
【0014】
第1の予測ステップにて休止が発生すると予測された場合、調整ステップにて、生産スケジュールのうち、各工程の各処理ラインの製品単位の処理開始時間及び処理終了時間を表すスケジュール情報を変更し、その後、第1の予測ステップを再度実行してもよい。
【0015】
第2の予測ステップにて休止が発生すると予測された場合、調整ステップにて、第1の置場から第2の置場への製品の搬送能力を表す搬送能力情報を変更し、その後、第2の予測ステップを再度実行してもよい。
【0016】
また、製品の置場管理方法は、第1の予測ステップまたは第2の予測ステップにて休止が発生すると予測された場合に、予測結果をユーザに通知する通知ステップを含んでもよい。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように本発明によれば、製品の製造プロセスにおいて、仕掛調整休止や材欠休止の発生頻度を減少させ、効率的な生産を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】製造プロセスにおいて、上流工程から下流工程への製品の移動を説明する説明図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る置場管理装置を備える管理システムの一構成例を示す機能ブロック図である。
【
図3】第1の予測期間の生産スケジュールの一例を示す説明図である。
【
図4】置場a、bの各貯蔵エリアa1~an、b1~bmの最大在庫数及び実績在庫数を含む在庫管理情報の一例を示す説明図である。
【
図6】同実施形態に係る製品の置場管理方法を示すフローチャートである。
【
図7】第1の判定ステップにて仕掛調整休止が発生すると判定されたときの製品の在庫状況を示す説明図である。
【
図8】第1の判定ステップにて欠材休止が発生すると判定されたときの製品の在庫状況を示す説明図である。
【
図9】生産スケジュールの調整の一例を示す説明図である。
【
図10】第2の予測期間の生産スケジュールの一例を示す説明図である。
【
図11】置場aの各後面置場a1~anの製品の在庫状況の一例を示す説明図である。
【
図12】置場bの各前面置場b1~bmの製品の在庫状況の一例を示す説明図である。
【
図13】第2の判定ステップにて休止が発生すると判定されたときの製品の在庫状況を示す説明図である。
【
図14】搬送能力情報の調整の一例を示す説明図である。
【
図15】製造プロセスの一例として、酸洗工程、冷延工程、焼鈍工程、めっき工程、梱包工程からなる鉄鋼製造プロセスを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0020】
[1.プロセス概要]
まず、
図1に基づいて、本発明の一実施形態に係る製品の製造プロセスの一例を説明する。
図1は、製造プロセスにおいて、上流工程Aから下流工程Bへの製品の移動を説明する説明図である。
【0021】
図1に示す製造プロセスでは、複数の上流処理ラインA1~Anを有する上流工程Aにて処理された製品を、トラック等の搬送装置10により、複数の下流処理ラインB1~Bmを有する下流工程Bへ搬送し、処理する。上流処理ラインA1~Anの出側には、後面置場a(単に「置場a」とも示す。)として、各上流処理ラインA1~Anにて処理された製品を貯蔵する後面貯蔵エリアa1~anが設けられている。同様に、下流処理ラインB1~Bmの入側には、前面置場b(単に「置場b」とも示す。)として、各下流処理ラインB1~Bmにて処理される製品を貯蔵する前面貯蔵エリアb1~bmが設けられている。なお、n、mは、2以上の自然数である。
【0022】
例えば、製造プロセスが鉄鋼製造プロセスであり、上流工程Aを酸洗工程、下流工程Bを冷間圧延工程とする。この場合、酸洗工程の複数の酸洗ラインにて酸洗処理されたコイルCは、各酸洗ラインの出側に設けられた後面貯蔵エリアにそれぞれ貯蔵された後、搬送装置によって後面置場の後面貯蔵エリアから前面置場の前面貯蔵エリアへ搬送される。そして、前面貯蔵エリアに貯蔵されたコイルCは、各前面貯蔵エリアに対応した冷間圧延ラインにて冷間圧延される。
【0023】
このような製造プロセスにおいて、上流工程及び下流工程の処理が滞りなく効率的に実施されるためには、上流工程及び下流工程の処理能力に加え、各工程に設けられる製品の置場の在庫状況や、工程間で製品を搬送する搬送装置の搬送能力等を考慮した生産計画が必要である。一方で、上記をすべて詳細に考慮すると、生産計画の調整に時間を要することとなる。そこで、本実施形態に係る製品の置場管理方法により、上流工程及び下流工程の処理能力に加え、製品の置場の在庫状況及び搬送装置の搬送能力等を考慮して、効率的な処理を実現する生産計画を、調整負荷の増加も抑制しつつ立案する。以下、本実施形態に係る製品の置場管理方法について詳細に説明する。
【0024】
[2.製品の置場管理方法]
[2-1.システム構成]
まず、
図2に基づいて、本実施形態に係る製品の置場管理方法を実行する置場管理装置120を備える管理システム100の構成について説明する。
図2は、本実施形態に係る置場管理装置120を備える管理システム100の一構成例を示す機能ブロック図である。
【0025】
本実施形態に係る管理システム100は、製造プロセスにおいて、第1の工程にて処理された製品を貯蔵する第1の置場から、第2の工程にて処理される製品を貯蔵する第2の置場へ搬送する工程で、第1の置場及び第2の置場の製品の在庫状況を管理するシステムである。具体的には、管理システム100は、第1の工程及び第2の工程で製品を処理するにあたり、生産計画に基づき予め生成された生産スケジュールを実施した場合に、製品の過不足が生じて生産性が低下する可能性の有無を判定し、生産性が低下する場合には生産スケジュールを再調整し、生産効率の低下を抑制する。以下では、
図1に示した製造プロセスにおける製品の在庫状況を管理する場合について説明する。
図1において、上流工程Aは第1の工程、下流工程Bは第2の工程、後面置場aは第1の置場、前面置場bは第2の置場、コイルCは製品に対応する。また、上流工程Aの複数の上流処理ラインA1~Anは第1処理ライン、下流工程Bの複数の下流処理ラインB1~Bmは第2処理ライン、前面貯蔵エリアa1~anは第1貯蔵エリア、後面貯蔵エリアb1~bmは第2貯蔵エリアに対応する。
【0026】
管理システム100は、
図2に示すように、入力装置110と、置場管理装置120と、出力装置130と、生産スケジュール記憶部140とを有して構成される。
【0027】
入力装置110は、ユーザが情報を入力するための装置であって、例えばマウス、キーボード、タッチパネル、ボタン、スイッチ及びレバー等の、ユーザが情報を入力するために操作する装置である。入力装置110から入力された情報は、置場管理装置120へ出力される。例えば、ユーザは、入力装置110を用いて、生産計画に基づき予め生成された生産スケジュールについて、置場a、bにおける製品の在庫状況を予測する期間を入力する。入力装置110は、入力された情報を置場管理装置120へ出力する。
【0028】
置場管理装置120は、生産計画に基づき予め生成された生産スケジュールを実施した場合に、製品の過不足が生じて生産性が低下する可能性の有無を判定し、判定結果に基づいて生産スケジュールを調整する。置場管理装置120は、第1の判定部121と、第2の判定部123と、調整処理部125とを有する。
【0029】
第1の判定部121は、後述の生産スケジュール記憶部140に記録されている第1の予測期間の生産スケジュールに基づき、製品の移動状況及び貯蔵状況を大局的に予測する。第1の判定部121は、第1の予測期間に設定された複数の予測時点それぞれにおいて、上流工程A(第1の工程)にて処理される製品数、下流工程B(第2の工程)にて処理される製品数、及び、後面置場a(第1の置場)及び前面置場b(第2の置場)に貯蔵されている合計製品数に基づき、置場a、bにおける製品の過不足を判定する。第1の予測期間は、予測開始時点から第1の予測終了時点までの期間であり、例えば2~3週間程度に設定される。
【0030】
上流工程A及び下流工程Bは複数の処理ラインをそれぞれ有しており、置場a、bも複数の処理ラインにそれぞれ対応した複数の貯蔵エリアを有する。このため、置場a、bにおける製品の過不足を正しく判定するには、処理ライン単位、貯蔵エリア単位で詳細に予測することが望ましい。しかし、第1の予測期間すべてにおいて詳細に予測すると、計算負荷が高くなる。そこで、第1の判定部121は、複数の処理ライン、複数の貯蔵エリアをそれぞれ1つのまとまりとみなした工程単位、置場単位で製品の在庫状況を予測する。なお、第1の判定部121での予測処理についての詳細は後述する。
【0031】
第1の判定部121は、置場a、bにおいて製品の過不足が発生すると判断した場合には、出力装置130に対し、製品の過不足の発生をユーザに通知するよう指示する。また、第1の判定部121は、調整処理部125に生産スケジュールの調整を指示する。そして、第1の判定部121は、調整後の生産スケジュールに基づき、製品の在庫状況を再度予測する。置場a、bにおいて製品の過不足は発生しないと判断した場合には、第1の判定部121は、この時点での生産スケジュールを設定候補とし、第2の判定部123に対して予測開始指示を行う。
【0032】
第2の判定部123は、第1の判定部121にて調整された生産スケジュールに基づいて、第2の予測期間における各貯蔵エリアでの製品の過不足を判定する。第2の予測期間は、予測開始時点から第2の予測終了時点までの期間であり、第1の予測期間よりも短く設定される。第2の予測期間を長く設定しすぎると生産スケジュールの調整負荷が増加する一方、短く設定しすぎると予測精度が低下する。このため、第2の予測期間は、過去の実績に基づき設定されたり、シミュレーションにより適切な期間を求めて設定されたりする。第2の予測期間は、例えば2、3日程度に設定される。
【0033】
具体的には、第2の判定部123は、上流工程Aの上流処理ラインA1~Anそれぞれについて、上流処理ラインAa~Anにて処理される製品数、当該上流処理ラインA1~Anに対応する後面貯蔵エリアa1~anから各前面貯蔵エリアb1~bmへ搬送される製品数、及び、予測開始時点での当該後面貯蔵エリアa1~anの製品在庫数に基づき、第1貯蔵エリアa1~anに貯蔵される製品の過不足を判定する。また、第2の判定部123は、下流工程Bの下流処理ラインB1~Bmそれぞれについて、下流処理ラインB1~Bmにて処理される製品数、各後面貯蔵エリアa1~anから当該下流処理ラインB1~Bmに対応する前面貯蔵エリアb1~bmへ搬送される製品数、及び、予測開始時点での当該前面貯蔵エリアb1~bmの製品在庫数に基づき、前面貯蔵エリアb1~bmに貯蔵される製品の過不足を判定する。なお、第2の判定部123での予測処理についての詳細は後述する。
【0034】
このように、第2の判定部123では、第1の予測期間より短い期間について、貯蔵エリア単位で詳細に製品の過不足を判定する。第2の判定部123は、いずれかの貯蔵エリアa1~an、b1~bmにおいて製品の過不足が発生すると判断した場合には、出力装置130に対し、製品の過不足の発生をユーザに通知するよう指示する。また、第2の判定部123は、調整処理部125に生産スケジュールの調整を指示する。そして、第2の判定部123は、調整後の生産スケジュールに基づき、製品の在庫状況を再度予測する。一方、すべての貯蔵エリアa1~an、b1~bmで製品の過不足は発生しないと判定した場合には、第2の判定部123は、この時点での生産スケジュールにて生産を実施することを決定する。
【0035】
調整処理部125は、置場に製品の過不足が発生すると予測された場合に、製品の過不足が生じなくなるように生産スケジュールを調整する。置場に製品の過不足が発生するケースとして、例えば、上流工程の後面置場の最大貯蔵能力を超える製品が後面置場に貯蔵される場合や、下流工程の前面置場から下流工程で処理する製品が無くなる場合等がある。調整処理部125は、それぞれのケースに応じて、製品の処理時期を変更したり、処理対象の製品の品種を変更したり、製品の搬送能力を変更したりすることにより、生産スケジュールを調整する。調整処理部125による生産スケジュール調整についての詳細は後述する。調整処理部125は、第1の判定部121及び第2の判定部123の指示を受けて生産スケジュールを調整し、調整後の生産スケジュールを第1の判定部121及び第2の判定部123に出力する。
【0036】
出力装置130は、置場管理装置120の第1の判定部121及び第2の判定部123の判定結果を受けて、置場における製品の過不足の発生をユーザに通知する。出力装置130は、例えば、CRTディスプレイ装置、液晶ディスプレイ装置、プラズマディスプレイ装置、ELディスプレイ装置等の情報をユーザに視覚的に通知する表示装置であってもよく、プリンターや移動通信端末等であってもよい。あるいは、出力装置130は、スピーカー等のように、情報を音声として出力する音声出力装置であってもよい。
【0037】
生産スケジュール記憶部140は、生産計画に基づき生成された生産スケジュールを記憶する。生産スケジュールは、当初、生産計画に基づき予め設定されており、生産スケジュール記憶部140に記録される。その後、所定のタイミングで置場管理装置120による生産スケジュールの見直しが行われ、調整処理部125により再調整された生産スケジュールが、第2の判定部123によりすべての貯蔵エリアa1~an、b1~bmで製品の過不足は発生しないと判定されると、生産スケジュール記憶部140の生産スケジュールは調整後の生産スケジュールに更新される。また、生産スケジュール記憶部140は、上流工程Aから下流工程Bへ製品を搬送する搬送能力情報も記憶してもよい。
【0038】
以上、本実施形態に係る管理システム100の一構成例について説明した。
【0039】
なお、管理システム100の置場管理装置120は、例えばCPU(Central Processing Unit)やDSP(Digital Signal Processor)等の各種のプロセッサによって構成され、置場管理装置120の機能は、当該プロセッサが所定のプログラムにしたがって動作されることにより実現され得る。なお、置場管理装置120は、上述のように各種のプロセッサであってもよいし、プロセッサとメモリ等の記憶装置とが一体的に構成されたいわゆるマイコンであってもよい。あるいは、置場管理装置120は、PC(Personal Computer)やサーバ等の各種の情報処理装置であってもよい。
【0040】
また、生産スケジュール記憶部140は、RAM(Random Access Memory)等のメモリであってもよく、データ格納用のストレージ装置であってもよい。RAM等のメモリは、例えば置場管理装置120に内蔵されてもよい。ストレージ装置は、例えば、HDD(Hard Disk Drive)等の磁気記憶デバイス、半導体記憶デバイス、光記憶デバイスまたは光磁気記憶デバイス等により構成可能である。
【0041】
[2-2.置場管理処理]
次に、
図3~
図14に基づいて、本実施形態に係る製品の置場管理方法を説明する。
図3は、第1の予測期間の生産スケジュールの一例を示す説明図である。
図4は、置場a、bの各貯蔵エリアa1~an、b1~bmの最大在庫数及び実績在庫数を含む在庫管理情報の一例を示す説明図である。
図5は、搬送能力情報の一例を示す説明図である。
図6は、本実施形態に係る製品の置場管理方法を示すフローチャートである。
図7は、第1の判定ステップにて仕掛調整休止が発生すると判定されたときの製品の在庫状況を示す説明図である。
図8は、第1の判定ステップにて欠材休止が発生すると判定されたときの製品の在庫状況を示す説明図である。
図9は、生産スケジュールの調整の一例を示す説明図である。
図10は、第2の予測期間の生産スケジュールの一例を示す説明図である。
図11は、置場aの各後面置場a1~anの製品の在庫状況の一例を示す説明図である。
図12は、置場bの各前面置場b1~bmの製品の在庫状況の一例を示す説明図である。
図13は、第2の判定ステップにて休止が発生すると判定されたときの製品の在庫状況を示す説明図である。
図14は、搬送能力情報の調整の一例を示す説明図である。
【0042】
本実施形態に係る製品の置場管理方法では、置場a、bの在庫数予測と各貯蔵エリアの在庫数予測との2段階で在庫予測し、ある程度先の生産スケジュールの調整を踏まえて、直近の物流状況を考慮した生産スケジュールの調整を行う。これにより、従来と比べて仕掛調整休止や材欠休止の発生頻度を減少させる。
【0043】
まず、本実施形態に係る製品の置場管理方法を実行するにあたり、生産スケジュール記憶部140には、生産スケジュールが記憶されている。生産スケジュールは、顧客からの受注に基づき計画され、各工程の各処理ラインについて製品単位の処理開始時間及び処理終了時間を示したスケジュール情報と各置場の各貯蔵エリアの最大在庫数及び実績在庫数を示した在庫管理情報とを含んでいる。
【0044】
スケジュール情報は、例えば
図3に示すように、上流工程Aの各上流処理ラインA1~Anそれぞれの、処理するコイルの製造番号とその処理開始時間及び処理終了時間を含んでいる。下流工程Bも同様に、下流工程Bの各下流処理ラインB1~Bmそれぞれの、処理するコイルの製造番号とその処理開始時間及び処理終了時間を含んでいる。
図3では、スケジュール情報を時系列に並べて表している。
図3を見ると、スケジュール情報から、例えば上流処理ラインA1で処理するコイル1001は、下流処理ラインB2で処理し、上流処理ラインA1で処理するコイル1002は、下流処理ラインB1で処理する、といったように、上流工程Aから下流工程Bへの移動先を特定できる。
【0045】
また、在庫管理情報は、例えば
図4に示すように、置場a、bの各貯蔵エリアai、bjの最大在庫数及び実績在庫数を含む。最大在庫数は、貯蔵可能な最大の製品数を表す。実績在庫数は、ある時点において貯蔵されている製品数を表す。以下、各置場a、b及び各貯蔵エリアai、bjの最大在庫数及び実績在庫数を以下のように表す。なお、i、jは自然数であり、i=1~n、j=1~mとする。
【0046】
Nai:貯蔵エリアaiの最大在庫数
Nbj:貯蔵エリアbjの最大在庫数
N0ai:貯蔵エリアaiの予測開始時点(T0)での実績在庫数
N0bj:貯蔵エリアbjの予測開始時点(T0)での実績在庫数
ΣNai:置場aの最大在庫数
ΣNbj:置場bの最大在庫数
ΣN0ai:置場aの予測開始時点(T0)での実績在庫数
ΣN0bj:置場bの予測開始時点(T0)での実績在庫数
Nab:置場a、bの合計最大在庫数(=ΣNai+ΣNbj)
N0ab:置場a、bの予測開始時点(T0)での合計実績在庫数
(=ΣN0ai+ΣN0bj)
【0047】
例えば、
図4に示す例では、貯蔵エリアa1のコイルの最大在庫数Na1は100個、予測開始時点(T0)での実績在庫数N0a1は80個である。貯蔵エリアb1のコイルの最大在庫数Nb1は70個、予測開始時点(T0)での実績在庫数N0b1は50個である。置場aの最大在庫数ΣNaiは800個、予測開始時点(T0)での実績在庫数は700個である。置場bの最大在庫数ΣNbiは700個、予測開始時点(T0)での実績在庫数は650個である。そして、置場a、bの合計最大在庫数Nabは1500個、予測開始時点(T0)での合計実績在庫数N0abは1350個である。
【0048】
さらに、生産スケジュール記憶部140は、上流工程Aから下流工程Bへ製品を搬送する搬送能力情報を生産スケジュールとして記憶している。搬送能力情報は、例えば
図5に示すように、後面貯蔵エリアaiから前面貯蔵エリアbjへの1時間当たりの標準運搬量Kaibj(個/h)により表すことができる。例えば、
図5に示す例では、後面貯蔵エリアa1から前面貯蔵エリアb1への標準運搬量Ka1b1は2個/hであり、後面貯蔵エリアa2から前面貯蔵エリアb2への標準運搬量Ka2b2は3個/hである。搬送能力情報は、搬送装置10の搬送能力や上流工程A及び下流工程Bの処理能力等を考慮して、予め設定されている。なお、搬送能力情報は、後述するように、生産スケジュールの見直しが必要な場合に変更することも可能である。
【0049】
(S100:第1の予測ステップ)
本実施形態に係る製品の置場管理方法は、
図6に示すように、置場管理装置120の第1の判定部121により、第1の予測期間において、置場単位で、製品の在庫数を予測し、製品の過不足による休止の発生有無が予測される(S100)。第1の予測ステップでは、現時点での製造状況から、現在の生産スケジュールに基づき製品の製造を続けた場合に、休止が発生する可能性を大局的に予測する。すなわち、第1の予測ステップでは、予測開始時点から第1の予測終了時点までの第1の予測期間に設定された複数の予測時点それぞれにおいて、上流工程Aにて処理される製品数、下流工程Bにて処理される製品数、及び、置場a、bに貯蔵されている合計製品数に基づき、置場a、bにおける製品の過不足を算出し、休止が発生する可能性を予測する。
【0050】
第1の予測ステップを具体的に説明すると、まず、第1の判定部121は、
図3に示すように、第1の予測期間T1をp個に分割し、複数の予測時点T1_u(u=1~p、pは2以上の自然数。T1_p=T1)を設定する。ここで、予測開始時T0及び第1の予測期間T1は、予め設定されていてもよく、ユーザが入力装置110を用いて指定してもよい。
図3では、予測開始時T0は現時点からk日後の午前0時に設定され、第1の予測期間T1は15日に設定されている。また、第1の予測期間T1を分割する間隔は、適宜設定可能であり、例えば
図3では1時間に設定されている。つまり、
図3に示す例では、第1の予測期間T1を360分割している。
【0051】
第1の判定部121は、予測開始時T0から各予測時点T1_uに到達した時点での、上流工程A全体で処理される製品数から下流工程B全体で処理される製品数を減じた値(以下、「処理差分数」ともいう。)を算出する。また、第1の判定部121は、置場a、bの予測開始時点(T0)での合計実績在庫数N0abを算出する。そして、第1の判定部121は、処理差分数と合計実績在庫数N0abとの和を、合計在庫数として、各予測時点T1_uについて算出する。合計在庫数は、休止発生の可能性の有無を判定するために用いられる。
【0052】
各予測時点T1_uにおける合計在庫数が、置場a、bの合計最大在庫数Nabを超過する場合は、製品を置場a、bに貯蔵できず、仕掛調整休止が発生する可能性がある。例えば、
図7に示すケースでは、予測時点T1_180に到達した時点で、上流工程A全体で処理される製品数は15000個、下流工程B全体で処理される製品数は14700個と見積もられ、処理差分数は300個となる。合計実績在庫数N0abは1350個であることから、このときの合計在庫数は1650個となり、合計最大在庫数Nab1500個を超えている。このような場合には、仕掛調整休止が発生する可能性があると判定される。
【0053】
また、各予測時点T1_uにおける処理差分数が0以下となる場合は、製品が不足し、材欠休止が発生する可能性がある。例えば、
図8に示すケースでは、予測時点T1_80に到達した時点で、上流工程A全体で処理される製品数は600個、下流工程B全体で処理される製品数は970個と見積もられ、処理差分数は-20個となる。このような場合には、下流工程Bでの処理能力に対して前面置場bの製品の在庫数が不足しており、材欠休止が発生する可能性があると判定される。
【0054】
このように、第1の判定部121は、予測開始時点から第1の予測終了時点までの第1の予測期間に設定された複数の予測時点それぞれにおいて、上流工程Aにて処理される製品数、下流工程Bにて処理される製品数、及び、置場a、bに貯蔵されている合計製品数に基づき、置場a、bにおける製品の過不足を算出し、休止が発生する可能性を予測する。
【0055】
(S110:通知ステップ)
ステップS100の第1の予測ステップにより、休止が発生する可能性があると判定されると、第1の判定部121は、出力装置130に対して、休止が発生する可能性があることを通知する指示を行う。出力装置130は、当該指示を受けて、仕掛調整休止や材欠休止等の休止が発生する可能性があることをユーザに通知する(S110)。例えば出力装置130がディスプレイであれば、ディスプレイに通知内容を表示したり、ディスプレイの表示色を警告を表す色にしたりする。また、例えば出力装置130がスピーカーであれば、通知内容あるいはそれを表す音を出力する。このようにして、ユーザに対してこのまま操業を続けた場合に休止が発生する可能性があることが通知される。
【0056】
(S120:第1の調整ステップ)
ステップS100の第1の予測ステップにより、休止が発生する可能性があると判定されると、調整処理部125により、生産スケジュールの見直しが行われる(S120)。例えば、調整処理部125は、第1の予測ステップの結果に基づいて、製品の生産時期を変更する等、工程A、Bで処理する製品数を増減して、休止が回避されるように生産スケジュールのスケジュール情報を調整する。
【0057】
例えば、調整前のスケジュール情報が
図3であり、
図7に示した仕掛調整休止が発生する可能性があるケースを考える。このとき、調整処理部125は、例えば
図9に示すように、予測時点T1_180に到達した時点での上流工程A全体で処理される製品数を減らし、下流工程B全体で処理される製品数を増やすように、予測開始時T0から予測時点T1_180までのスケジュール情報を調整する。これにより、合計在庫数が合計最大在庫数Nab以下となるようにして、仕掛調整休止の発生を回避する。
【0058】
工程A、Bにて処理される製品数の増減は、スケジュール情報を変更することにより可能である。例えば、
図9下側に示すように、予測時点T1_180に到達した時点での上流工程A全体で処理される製品数を減らすために、例えば、予測開始時T0から予測時点T1_180までに処理予定であった製品が、より後で処理されるように変更される。
図9の例では、上流処理ラインA1のコイル1003及び上流処理ラインA1のコイル2511の処理時期が変更されている。また、予測時点T1_180に到達した時点での下流工程B全体で処理される製品数を増やすために、例えば、予測開始時T0から予測時点T1_180までに処理予定であった製品が、より単位時間当たりの製品処理数が多い品種に変更される。例えば、当初、下流処理ラインB1で処理予定のコイル0003が、
図9では、コイル0003よりも単位時間当たりの製品処理数が多いコイル0515、0516に変更されている。
【0059】
このように、休止が回避されるように調整処理部125によりスケジュール情報が調整されると、第1の判定部121は、調整後のスケジュール情報に基づき、再度ステップS100の処理を実行する。そして、ステップS100の第1の予測ステップにより、休止が発生する可能性はないと判定されると、ステップS130の処理が実行される。
【0060】
(S130:第2の予測ステップ)
次いで、置場管理装置120の第2の判定部123により、第2の予測期間において、貯蔵エリア単位で、製品の在庫数を予測し、製品の過不足による休止の発生有無が予測される(S130)。第2の予測ステップでは、現時点での製造状況から、現在の生産スケジュールに基づき製品の製造を続けた場合に、休止が発生する可能性を、搬送装置10による製品の搬送能力も考慮して詳細に予測する。このとき、生産スケジュールは、第1の予測ステップにて休止が発生する可能性はないと判定されたときのものを用いる。
【0061】
第2の予測ステップでは、第2の予測期間に設定された複数の予測時点それぞれにおいて、上流処理ラインにて処理される製品数、当該上流処理ラインに対応する後面貯蔵エリアから各前面貯蔵エリアへ搬送される製品数、及び、予測開始時点での当該後面貯蔵エリアの製品在庫数に基づき、各後面貯蔵エリアにおける製品の過不足を算出し、休止が発生する可能性を予測する。また、第2の予測期間に設定された複数の予測時点それぞれにおいて、下流処理ラインにて処理される製品数、各後面貯蔵エリアから当該下流処理ラインに対応する前面貯蔵エリアへ搬送される製品数、及び、予測開始時点での当該前面貯蔵エリアの製品在庫数に基づき、各後面貯蔵エリアにおける製品の過不足を算出し、休止が発生する可能性を予測する。
【0062】
第2の予測ステップを具体的に説明すると、まず、第2の判定部123は、
図10に示すように、第2の予測期間T2をq個に分割し、複数の予測時点T2_v(v=1~q、qは2以上の自然数。T2_q=T2)を設定する。ここで、第2の予測期間T2は、予め設定されていてもよく、ユーザが入力装置110を用いて指定してもよい。
図10では、第2の予測期間T2は4日に設定されている。また、第2の予測期間T2を分割する間隔は、適宜設定可能であり、例えば
図10では1時間に設定されている。つまり、
図10に示す例では、第2の予測期間T2を96分割している。なお、第2の予測期間T2の分割数qは、第1の予測期間T1の分割数pと同一であってもよく、異なってもよい。
【0063】
次いで、第2の判定部123は、後面貯蔵エリアaiに着目し、予測開始時T0から各予測時点T2_vに到達した時点での、上流処理ラインAiで処理される製品数から、後面貯蔵エリアaiから前面貯蔵エリアb1~bmへ搬送される製品数ΣKaibj×T2_v(j=1→m)を減じた値(以下、「残後面貯蔵数」ともいう。)を算出する。また、第2の判定部123は、予測開始時T0から各予測時点T2_vに到達した時点での残後面貯蔵数に、予測開始時点(T0)での実績在庫数N0aiを加えた後面貯蔵エリアaiの過不足評価値をそれぞれ算出する。そして、第2の判定部123は、各予測時点T2_vにおける過不足評価値と、各後面貯蔵エリアaiの最大在庫数Naiとを比較する。
【0064】
各予測時点T2_vにおける過不足評価値が各後面貯蔵エリアaiの最大在庫数Naiを超過している場合は、製品を後面貯蔵エリアaiに貯蔵できず、仕掛調整休止が発生する可能性がある。例えば、
図11に示すケースでは、後面貯蔵エリアa1において、予測時点T2_50に到達した時点で、上流処理ラインA1で処理される製品数は90個、後面貯蔵エリアa1から前面貯蔵エリアb1~bmへ搬送される製品数(ΣKa1bj×T2_50)は50個と見積もられ、残後面貯蔵数は40個となる。このときの後面貯蔵エリアa1の過不足評価値は120個であり、後面貯蔵エリアa1の最大在庫数Na1の100個を超えている。このような場合には、仕掛調整休止が発生する可能性があると判定される。
【0065】
また、各予測時点T2_vにおける過不足評価値が0以下となる場合は、製品が不足し、材欠休止が発生する可能性がある。例えば、
図11に示すケースでは、後面貯蔵エリアanにおいて、予測時点T2_50に到達した時点で、上流処理ラインA1で処理される製品数は600個、後面貯蔵エリアanから前面貯蔵エリアb1~bmへ搬送される製品数(ΣKanbj×T2_50)は700個と見積もられ、残後面貯蔵数は-100個となる。このとき、後面貯蔵エリアanの最大在庫数Nanの50個であることから、後面貯蔵エリアanの過不足評価値は-50個となる。さらに、予測時点T2_96に到達した時点でも、後面貯蔵エリアanの過不足評価値は-50個であり、後面貯蔵エリアanの過不足評価値は-50個のままである。このような場合には、下流工程Bの各下流処理ラインの処理能力に対して、後面貯蔵エリアanの製品の在庫数が不足する結果、前面貯蔵エリアb1~bmへ必要な製品を搬送することができず、材欠休止が発生する可能性があると判定される。
【0066】
さらに、第2の判定部123は、前面貯蔵エリアbjに着目し、予測開始時T0から各予測時点T2_vに到達した時点での、後面貯蔵エリアa1~anから前面貯蔵エリアbjへ搬送される製品数ΣKaibj×T2_v(i=1→n)から、下流処理ラインBjで処理される製品数を減じた値(以下、「残前面貯蔵数」ともいう。)を算出する。また、第2の判定部123は、予測開始時T0から各予測時点T2_vに到達した時点での残後面貯蔵数に、予測開始時点(T0)での実績在庫数N0bjを加えた後面貯蔵エリアbjの過不足評価値をそれぞれ算出する。そして、第2の判定部123は、各予測時点T2_vにおける過不足評価値と、各後面貯蔵エリアbjの最大在庫数Nbjとを比較する。
【0067】
各予測時点T2_vにおける過不足評価値が各前面貯蔵エリアbjの最大在庫数Nbjを超過している場合は、製品を前面貯蔵エリアbjに貯蔵できず、仕掛調整休止が発生する可能性がある。例えば、
図12に示すケースでは、前面貯蔵エリアb2において、予測時点T2_50に到達した時点で、後面貯蔵エリアa1~anから前面貯蔵エリアb2へ搬送される製品数(ΣKaib2×T2_50)は1020個、下流処理ラインB2で処理される製品数は1000個と見積もられ、残前面貯蔵数は20個となる。このときの前面貯蔵エリアb2の過不足評価値は110個であり、前面貯蔵エリアb2の最大在庫数Nb2の100個を超えている。このような場合には、仕掛調整休止が発生する可能性があると判定される。
【0068】
また、各予測時点T2_vにおける過不足評価値が0以下となる場合は、製品が不足し、材欠休止が発生する可能性がある。例えば、
図12に示すケースでは、前面貯蔵エリアb1において、予測時点T2_50に到達した時点で、後面貯蔵エリアa1~anから前面貯蔵エリアb1へ搬送される製品数(ΣKaib1×T2_50)は700個、下流処理ラインB1で処理される製品数は750個と見積もられ、残前面貯蔵数は-50個となる。このとき、予測開始時点(T0)での前面貯蔵エリアb1の実績在庫数N0b1の50個であることから、前面貯蔵エリアb1の過不足評価値は0個となる。このような場合には、下流工程Bの各下流処理ラインの処理能力に対して、後面貯蔵エリアa1~anから前面貯蔵エリアbjに搬送され貯蔵される製品が不足しており、材欠休止が発生する可能性があると判定される。
【0069】
このように、第2の判定部123は、予測開始時点から第2の予測終了時点までの第2の予測期間に設定された複数の予測時点それぞれにおいて、搬送装置による搬送能力も考慮して、各貯蔵エリアai、bjにおける製品の過不足を算出し、休止が発生する可能性を予測する。
【0070】
(S140:通知ステップ)
ステップS130の第2の予測ステップにより、休止が発生する可能性があると判定されると、第2の判定部123は、出力装置130に対して、休止が発生する可能性があることを通知する指示を行う。出力装置130は、当該指示を受けて、仕掛調整休止や材欠休止等の休止が発生する可能性があることをユーザに通知する(S140)。ステップS140の通知処理は、ステップS110の処理と同様に行えばよい。これにより、ユーザに対してこのまま操業を続けた場合に休止が発生する可能性があることが通知される。
【0071】
(S150:第2の調整ステップ)
ステップS130の第2の予測ステップにより、休止が発生する可能性があると判定されると、調整処理部125により、上流工程Aから下流工程Bへ製品を搬送する搬送能力情報の見直しが行われる(S150)。例えば、調整処理部125は、第2の予測ステップの結果に基づいて、上流工程Aから下流工程Bへの製品の搬送能力を変更する等して、搬送する製品数を増減し、休止が回避されるように生産スケジュールの搬送能力情報を調整する。
【0072】
例えば、調整前の搬送能力情報が
図5のように設定されているときに、
図11に示したように、上流処理ラインA1で仕掛調整休止が発生する可能性があり、上流処理ラインAnで材欠休止が発生する可能性があるケースを考える。このとき、調整処理部125は、例えば
図13に示すように、上流処理ラインA1については予測時点T2_50までの後面貯蔵エリアa1から前面貯蔵エリアb1~bmへ搬送される製品数を増やし、上流処理ラインAnについては予測時点T2_96までの後面貯蔵エリアanから前面貯蔵エリアb1~bmへ搬送される製品数を減らすように、搬送能力情報を変更する。これにより、上流処理ラインA1については合計在庫数が合計最大在庫数Na1以下となるようにして仕掛調整休止の発生を回避し、上流処理ラインAnについては合計在庫数が0より大きくなるようにして材欠休止の発生を回避する。
【0073】
搬送能力情報の変更は、例えば、
図14に示すように、生産スケジュール記憶部140に記録されている搬送能力情報の数値を変更することにより可能である。具体的には、置場aから置場bへ製品を搬送する搬送装置10の1台当たりの搬送量を増やしたり、搬送装置10の台数を増やしたりすることで、置場aから置場bへ搬送される製品数を増やすことができる。同様に、置場aから置場bへ製品を搬送する搬送装置10の1台当たりの搬送量を減らしたり、搬送装置10の台数を減らしたりすることで、置場aから置場bへ搬送される製品数を減らすことができる。
【0074】
例えば
図14の搬送能力情報では、上流処理ラインA1については、後面貯蔵エリアa1から前面貯蔵エリアb1~bmへ搬送される製品数を増やすために、搬送元を後面貯蔵エリアa1とする製品の搬送能力が大きくなるよう変更されている。また、上流処理ラインAnについては、後面貯蔵エリアa1から前面貯蔵エリアb1~bmへ搬送される製品数を減らすために、搬送元を後面貯蔵エリアanとする製品の搬送能力が小さくなるよう変更されている。このとき、置場aから置場bへ製品を搬送する搬送装置10の数が限られている場合には、使用可能な搬送装置10の配分を変更して、搬送能力が調整される。
【0075】
このように、休止が回避されるように調整処理部125により搬送能力情報が変更されると、第2の判定部123は、変更後の搬送能力情報に基づき、第1の予測ステップにて調整された生産スケジュールのスケジュール情報について再度ステップS130の処理を実行する。そして、ステップS130の第2の予測ステップにより、休止が発生する可能性はないと判定されると、第2の判定部123は、現時点での生産スケジュールを確定し、
図6に示す処理を終了する。
【0076】
以上、本実施形態に係る製品の置場管理方法について説明した。本実施形態によれば、置場a、bの在庫数予測と各貯蔵エリアの在庫数予測との2段階で在庫予測し、ある程度先の生産スケジュールの調整を踏まえて、直近の物流状況を考慮した生産スケジュールの調整を行う。これにより、従来と比べて仕掛調整休止や材欠休止の発生頻度を減少させることができる。
【実施例】
【0077】
製造プロセスにおいて、上述の本発明の一実施形態に係る製品の置場管理方法と従来の製品の置場管理方法を適用し置場の在庫数を管理したときの、休止の発生頻度及び生産スケジュールの調整負荷を比較した。ここでは、製造プロセスの一例として、
図15に示すような、酸洗工程、冷延工程、焼鈍工程、めっき工程、梱包工程からなる鉄鋼製造プロセスについて検討した。各工程は、いずれも3つの処理ラインを有しているものとして、2週間分の生産計画を策定した。各処理ラインの前面置場にある製品は、生産計画に従い、対応する処理ラインで処理された後、後面置場へ貯蔵され、さらに生産計画に従い、後工程の処理ラインの前面置場へ運搬されるものとした。このとき、酸洗工程の各処理ラインでは、材欠休止及び仕掛調整休止は発生しないものとした。
【0078】
実施例では、上述の本実施形態に係る製品の置場管理方法を適用し、以下のように2段階の在庫予測を、1日1回実行した。
(第1の予測)予測期間:当日~2週間先
前工程の後面貯蔵エリアと後工程の前面貯蔵エリアとを集約した置場単位で、製品の在庫数を予測した。予測の結果、休止が発生する可能性があると予測された場合は、休止が発生する可能性がなくなるまで生産スケジュールのスケジュール情報を調整した。
(第2の予測)予測期間:当日~3日間先
貯蔵エリア単位で製品の在庫数を予測した。予測の結果、休止が発生する可能性があると予測された場合は、休止が発生する可能性がなくなるまで搬送能力情報を調整した。
【0079】
一方、比較例1として、上記特許文献1の手法により、予測期間を当日~3日間先までとして、1日1回の頻度で、置場単位で製品の在庫数を予測した。予測の結果、休止が発生する可能性があると予測された場合は、休止が発生する可能性がなくなるまで搬送能力情報を調整した。
【0080】
また、比較例2として、予測期間を当日~2週間先までとして、1日1回の頻度で、貯蔵エリア単位に在庫量を予測した。予測の結果、休止が発生する可能性があると予測された場合は、休止が発生する可能性がなくなるまで生産スケジュールのスケジュール情報及び搬送能力情報を調整した。
【0081】
実施例及び比較例1、2について、休止の発生頻度及び生産スケジュールの調整負荷を比較した結果を下記表1に示す。
【0082】
【0083】
比較例1は、仕掛調整休止及び材欠休止ともに、実施例及び比較例に比べて発生回数が多かった。これは、生産計画と生産実績との実態の乖離が極めて大きくなった場合には、生産スケジュールを見直すタイミングが3日前であるのは遅すぎであり、休止発生の抑制効果が低下するためと考えられる。これに対し、実施例及び比較例2は、仕掛調整休止及び材欠休止ともに、休止回数が半減した。
【0084】
実施例と比較例2とは休止回数は同等の結果であるが、生産スケジュールの調整に要する調整負荷は大きく異なり、実施例の調整負荷は、比較例2の40%程度であった。比較例2では、予測期間すべてにおいて貯蔵エリア単位で在庫予測を実施したため、休止の発生が予測される場合には生産スケジュールを貯蔵エリア単位で調整せねばならない。このため、比較例2では、生産スケジュールの調整負荷が実施例に比べて極めて大きくなったと考えられる。
【0085】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0086】
10 搬送装置
100 管理システム
110 入力装置
120 置場管理装置
121 第1の判定部
123 第2の判定部
125 調整処理部
130 出力装置
140 生産スケジュール記憶部