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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】窒化部品
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/26 20060101AFI20230830BHJP
   C23C 8/32 20060101ALI20230830BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230830BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230830BHJP
   C21D 1/06 20060101ALI20230830BHJP
   C21D 9/00 20060101ALN20230830BHJP
   C21D 8/06 20060101ALN20230830BHJP
【FI】
C23C8/26
C23C8/32
C22C38/00 301N
C22C38/60
C21D1/06 A
C21D9/00 A
C21D8/06 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021511834
(86)(22)【出願日】2019-04-02
(86)【国際出願番号】 JP2019014682
(87)【国際公開番号】W WO2020202472
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-04-15
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100120499
【弁理士】
【氏名又は名称】平山 淳
(72)【発明者】
【氏名】祐谷 将人
(72)【発明者】
【氏名】梅原 崇秀
【審査官】萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-141217(JP,A)
【文献】特開2011-080099(JP,A)
【文献】国際公開第2016/098143(WO,A1)
【文献】特開2013-227674(JP,A)
【文献】国際公開第2016/153009(WO,A1)
【文献】特開2017-066460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 8/00-12/02
C22C 38/00-38/60
C21D 1/02-1/84
C21D 9/00-9/44
C21D 9/50
C21D 7/00-8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
C:0.08~0.25%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:1.50~3.00%、
S:0.001~0.100%、
Cr:0.30~2.00%、
Al:0.001~0.080%、
N:0.0030~0.0250%、
P:0.050%以下、
Ti:0.010%以下、
Nb:0.010%以下、及び
V:0.05%以下、
Mo:0.50%以下、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Ca:0.0050%以下及び
Bi:0.30%以下を含有し、残部Fe及び不純物からなる芯部と、
前記芯部の外側に位置する拡散層と、
前記拡散層の外側に位置する化合物層と、を含み、
前記拡散層上に前記化合物層を0超~5.0μm残すように前記化合物層を除去し、除去後の表面を被検面としてCrのKα線によるX線回折で定量した場合に、bcc相に対するfcc相の積分強度比が8%以下であり、
前記化合物層の厚さが5.0~25.0μmであることを特徴とする、窒化部品。
【請求項2】
前記芯部において、面積率で、焼き戻しベイナイトと焼き戻しマルテンサイトの合計が、前記芯部の組織の50%以上であることを特徴とする、請求項1に記載に記載の窒化部品。
【請求項3】
前記芯部の化学組成が、質量%で、
C:0.08~0.19%、
Ti:0.005%以下、
Nb:0.005%以下、
を含有し、
前記芯部において、面積率で、焼き戻しベイナイトと焼き戻しマルテンサイトの合計が、前記芯部の組織の50%以下であることを特徴とする、請求項1に記載に記載の窒化部品。
【請求項4】
前記芯部が、質量%で、
Mo:0.03~0.50%、
Cu:0.03~0.50%、
Ni:0.03~0.50%、
Ca:0.0005~0.0050%及び
Bi:0.03~0.30%、
のうちの少なくとも1種以上をさらに含む、請求項1~3のうちいずれか1項に記載の窒化部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化部品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車、産業機械及び建設機械などに用いられる機械部品には、耐摩耗性を向上させる目的で、窒化処理が施されることがある。鋼により構成された機械部品を窒化すると、その表面には、鉄と窒素とを主体とする化合物層が形成されるとともに、この化合物層の直下には、母相が固溶窒素と微細な窒化物とにより強化された拡散層が形成される。
【0003】
化合物層は硬さが高いことから、その厚さを十分に確保することで、耐摩耗性を高めることができる。しかしながら、このように耐摩耗性に優れる化合物層は延性が低いため、衝撃が加わると脆性破壊することがある。また、固溶窒素と窒化物とにより強化された拡散層は、窒化されていない鋼と比べて靭性が低い。化合物層で脆性的なき裂が生じると、そのき裂は拡散層へ伝播しやすく、部品全体としての耐衝撃性を損ないやすかった。窒化部品の耐衝撃性を高めるために、種々の技術が提案されている。
【0004】
特許文献1には、窒化の影響の無い芯部の耐衝撃性を高めることで、窒化部品全体の対衝撃性を高める技術が開示されている。この技術によれば、大型部品の窒化層でき裂が発生しても、未窒化層においてき裂の進展を抑制し、部品全体の耐衝撃性を高めることができる。
【0005】
また、特許文献2には、窒素との親和力の大きな合金元素の含有量を制御して疲労強度を高めた窒化用鋼材が開示されている。
【0006】
特許文献3には、冷間鍛造前のフェライトの面積率が50面積%以上であり、軟窒化処理後に十分な耐ピッチング性を得るためにCuを含有し、且つフェライトの平均粒径が40μm以下である軟窒化用鋼が開示されている。
【0007】
特許文献4には、軟窒化処理前の鋼組織がベイナイト相を主体とする軟窒化用鋼が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平8-193242号公報
【文献】特開2013-194301号公報
【文献】特開平10-306343号公報
【文献】特開2018-3076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、小型部品のように部品全体の体積に対して窒化層の占める割合が大きい場合は、相対的に芯部の領域が小さくなる。そのため、窒化の影響が及ばない芯部を強化する方法によって部品全体として耐衝撃性を確保することが難しい。
【0010】
例えば、特許文献2に開示された鋼材では、窒化処理にあたって芯部を時効硬化により硬化することによって、窒化処理部品の耐衝撃性を向上させている。特許文献2では表層の窒化層の靱性を高めることに着目していない。すなわち、特許文献2が開示する窒化部品には、耐衝撃性を向上させる余地が見込まれる。
【0011】
この点、特許文献3および4においても同様である。すなわち、特許文献3,4はいずれも軟窒化用鋼を開示するが、表層の窒化層の靱性を高めることに着目していない。すなわち、窒化層の靱性を向上させることにより、一層の耐衝撃性の向上が見込まれる。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、小型部品のように部品全体の体積に対して窒化層の占める割合が大きい場合であっても、高い耐衝撃性を実現した窒化部品を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討し、耐衝撃性を向上させるべく、窒化層自体の耐衝撃性の向上に着目した。
【0014】
そして、本発明者らは、様々な組成の合金からなる試料に対して種々の条件で窒化処理を行い、次いでこれらの試料に対してシャルピー試験を実施することで、以下の(a)、(b)の知見を得た。
【0015】
(a)耐衝撃性を高めるためには、Mn、Cr等の合金元素を含有させ、鋼の焼き入れ性を高めて微細化を図ればよいが、MnとCrの含有量が過度に高い場合は、かえって耐衝撃性が劣化する場合がある。
【0016】
(b)MnとCrの含有量が過度に高いことによる耐衝撃性の劣化は、化合物層の直下に位置する拡散層における残留オーステナイト量の増大が原因である。窒化時に生成する残留オーステナイトは、マルテンサイトと複合したマルテンサイト/オーステナイト複合体(MA)として存在し、き裂の進展を促進する。MnとCrの含有量が過度に高くなると、残留オーステナイトが安定化してその量が増えるため、耐衝撃性が劣化する。
【0017】
従来技術では、窒化処理によって最表層に生じる残留オーステナイトの作用が明確にされていなかった。これに対して、本発明は、残留オーステナイトに関する上記の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、下記に示す窒化部品にある。
【0018】
(1)質量%で、
C:0.08~0.25%、
Si:0.01~0.50%、
Mn:1.50~3.00%、
S:0.001~0.100%、
Cr:0.30~2.00%、
Al:0.001~0.080%、
N:0.0030~0.0250%、
P:0.050%以下、
Ti:0.010%以下、
Nb:0.010%以下、
V:0.05%以下、
Mo:0.50%以下、
Cu:0.50%以下、
Ni:0.50%以下、
Ca:0.0050%以下及び
Bi:0.30%以下を含有し、残部Fe及び不純物からなる芯部と、
前記芯部の外側に位置する拡散層と、
前記拡散層の外側に位置する化合物層と、を含み、
前記拡散層上に前記化合物層を0超~5.0μm残すように前記化合物層を除去し、除去後の表面を被検面としてCrのKα線によるX線回折で定量した場合に、bcc相に対するfcc相の積分強度比が8%以下であり、
前記化合物層の厚さが5.0~25.0μmであることを特徴とする、窒化部品。
【0019】
(2)前記芯部において、面積率で、焼き戻しベイナイトと焼き戻しマルテンサイトの合計が、前記芯部の組織の50%以上であることを特徴とする、(1)に記載に記載の窒化部品。
【0020】
(3)前記芯部の化学組成が、質量%で、
C:0.08~0.19%、
Ti:0.005%以下、
Nb:0.005%以下、
を含有し、
前記芯部において、面積率で、焼き戻しベイナイトと焼き戻しマルテンサイトの合計が、前記芯部の組織の50%以下であることを特徴とする、(1)に記載に記載の窒化部品。
【0021】
(4)前記芯部が、質量%で、
Mo:0.03~0.50%、
Cu:0.03~0.50%、
Ni:0.03~0.50%、
Ca:0.0005~0.0050%及び
Bi:0.03~0.30%、
のうちの少なくとも1種をさらに含む、(1)~(3)のうちいずれかに記載の窒化部品。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る窒化部品では、芯部の成分組成、芯部の組織、拡散層の所定箇所における組織、及び化合物層の厚さについて、それぞれ好適化を図っている。その結果、本発明に係る窒化部品によれば、小型部品のように部品全体の体積に対して窒化層の占める割合が大きい場合であっても、高い耐衝撃性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】化合物層の深さの測定方法を説明する図である。
図2】化合物層と拡散層の組織写真の一例である。
図3】回転曲げ疲労強度を評価するための試験片の形状である。
図4】丸棒10から正方形断面試験片作成用の角棒20を採取する方法を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る窒化部品及びその製造方法についての、各構成要件について詳細に説明する。なお、以下では、各元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
【0025】
<窒化部品>
まず、本発明の窒化部品について詳述する。
【0026】
[芯部の化学組成]
(必須元素)
C:0.08%以上0.25%以下
Cは、窒化部品芯部の硬さを制御するうえで重要な元素である。また、Cは化合物層を硬質なε相とするための元素であり、ひいては耐摩耗性を向上させる効果を持つ。この効果を十分に得るためには、Cの含有量を0.08%以上とする必要がある。これに対し、Cの含有量が0.25%を超えると、熱間鍛造後の硬さが大きくなり過ぎ、被削性が劣化するとともに、表層の残留オーステナイト量が増大する。従って、Cの含有量は0.25%以下とする必要がある。なお、C含有量は0.10%以上であることが好ましく、0.12%以上であることが一層好ましい。また、C含有量は、0.23%以下であることが好ましく、0.21%以下であることが一層好ましい。
【0027】
Si:0.01%以上0.50%以下
Siは鋼を脱酸するだけでなく、化合物層の硬さを高めて耐摩耗性を強化する効果を持つ。Si含有量が低過ぎれば、上記効果が得られない。一方、Si含有量が高過ぎれば、窒化処理時における窒素の拡散が阻害され、十分な厚さの窒化層が得られなくなる。従って、Si含有量は0.01%以上0.50%以下とする必要がある。なお、Si含有量は0.05%以上であることが好ましく、0.10%以上であることが一層好ましい。また、Si含有量は、0.30%以下であることが好ましく、0.25%以下であることが一層好ましい。
【0028】
Mn:1.50%以上3.00%以下
Mnは、組織を微細化させ、母相と拡散層の靭性を高める効果を持つ。また、Mnは、化合物層の硬さを高め耐摩耗性を向上させる効果も持つ。さらに、Mnは、鋼材中でMnSを形成して鋼材の被削性を高める効果も持つ。Mn含有量が低すぎれば、これらの効果が得られない。一方、Mn含有量が高すぎれば、化合物層直下の残留オーステナイト量が増大し靭性が劣化する。従って、Mn含有量は1.50%以上3.00%以下とする必要がある。なお、Mn含有量は1.60%以上であることが好ましく、1.70%以上であることが一層好ましい。また、Mn含有量は、2.80%以下であることが好ましく、2.65%以下であることが一層好ましい。
【0029】
S:0.001%以上0.100%以下
Sは、鋼材中でMnと結合してMnSを形成し、鋼材の被削性を高める。この効果を得るためには、Sの含有量を0.001%以上とする必要がある。一方、Sの含有量が0.100%を超えると、粗大なMnSが形成され、疲労強度が劣化する。従って、S含有量は0.001以上0.100%以下とする必要がある。なお、S含有量は0.005%以上であることが好ましく、0.010%以上であることが一層好ましい。また、S含有量は、0.080%以下であることが好ましく、0.070%以下であることが一層好ましい。もっとも、Sは通常の鋼材には不可避的不純物として含有される元素である。Sの含有量を必要以上に低減することは製造コストの増大につながる。本発明が想定するような窒化部品においては、Sは、通常、0.001%以上、もしくは、0.005%以上含有される。
【0030】
Cr:0.30%以上2.00%以下
Crは、組織を微細化させ、母相と拡散層の靭性を高める効果を持つ。また、Crは、化合物層の硬さを高め耐摩耗性を向上させる。これらの効果を十分に得るためには、Crの含有量を0.30%以上とする必要がある。一方、Crの含有量が2.00%を超えると、化合物層直下の残留オーステナイト量が増大して靭性が劣化する。従って、Cr含有量は0.30%以上2.00%以下とする必要がある。なお、Cr含有量は0.35%以上であることが好ましい。また、Cr含有量は、1.60%以下であることが好ましく、1.30%以下であることが一層好ましい。
【0031】
Al:0.001%以上0.080%以下
アルミニウムは鋼を脱酸する。この効果を得るためには、Alの含有量を0.001%以上とする必要がある。一方、Al含有量が高過ぎれば、鋼中に粗大な酸化物が形成され易くなり、疲労強度が劣化する。従って、Al含有量は0.001%以上0.080%以下とする必要がある。なお、Al含有量は0.005%以上であることが好ましく、0.010%以上であることが一層好ましい。また、Al含有量は、0.060%以下であることが好ましく、0.050%以下であることが一層好ましい。
【0032】
N:0.0030%以上0.0250%以下
Nは、粒界の移動度を低減し結晶粒を細粒化することで、鋼材の靭性を高める。N含有量が低過ぎれば、上記効果が得られない。一方、N含有量が高すぎれば、鋼材中に気泡が生成され、この気泡が欠陥となるため好ましくない。従って、N含有量は0.0030%以上0.0250%以下とする必要がある。なお、N含有量は0.0050%以上であることが好ましく、0.0070%以上であることが一層好ましい。また、N含有量は0.0200%以下であることが好ましく、0.0180%以下であることが一層好ましい。
【0033】
P:0.050%以下
Pは結晶粒界に偏析し、粒界脆化を引き起こす。従って、P含有量はなるべく低い方が好ましく、本発明においては0.050%以下とする必要がある。また、P含有量は、0.030%以下であることが好ましく、0.020%以下であることが一層好ましい。もっとも、Pは通常の鋼材には不可避的不純物として含有される元素である。Pの含有量を必要以上に低減することは製造コストの増大につながる。本発明が想定するような窒化部品においては、Pは、通常、0.001%以上、もしくは、0.005%以上含有される。
【0034】
Ti:0%以上0.010%以下
Tiは、鋼中で粗大な酸化物、炭窒化物等の化合物を形成し、靭性を劣化させる。従って、Ti含有量はなるべく低いほうが好ましく、本発明においては0.010%以下とする必要がある。また、Ti含有量は、0.005%以下であることが好ましく、0.002%以下であることが一層好ましい。
【0035】
Nb:0%以上0.010%以下
Nbは、鋼中で粗大な酸化物、炭窒化物等の化合物を形成し、靭性を劣化させる。従って、Nb含有量はなるべく低いほうが好ましく、本発明においては0.010%以下とする必要がある。また、Nb含有量は、0.005%以下であることが好ましく、0.002%以下であることが一層好ましい。
【0036】
V:0%以上0.05%以下
Vは固溶強化、又は微細な炭窒化物を形成し、靭性を劣化させる。従って、V含有量は0.05%以下とする必要がある。なお、V含有量は0.03%以下であることが好ましく、0.02%以下であることが一層好ましい。
【0037】
(残部)
本発明に係る窒化部品の芯部の化学組成の残部は、Fe及び不純物である。ここで、不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本発明に係る窒化部品用材料に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0038】
(任意元素)
本発明に係る窒化部品は、Mo、Cu及びNiといった元素をさらに含有してもよい。
【0039】
Mo:0%以上0.50%以下
Moは、組織を微細化させ、母相と拡散層の靭性を高める効果を持つため、鋼に含有させてもよい。また、Moは、化合物層の硬さを増大させて耐摩耗性を向上させる。このような効果を得るためには、Moは、0.03%以上を含有させることが好ましい。一方、Mo含有量が高過ぎれば、母相が過度に強化され被削性が劣化する場合がある。従って、Mo含有量は0.50%以下とすることが好ましい。なお、Mo含有量は0.35%以下であることがさらに好ましく、0.25%以下であることがさらに一層好ましい。
【0040】
Cu:0%以上0.50%以下
Cuは、組織を微細化させ、母相と拡散層の靭性を高める効果を持つため、鋼に含有させてもよい。このような効果を得るためには、Cuは、0.03%以上を含有させることが好ましい。一方、Cu含有量が高過ぎれば、熱間鍛造時に鋼の粒界に偏析して熱間割れを誘起する。従って、Cu含有量は0.50%以下とすることが好ましい。なお、Cu含有量は0.30%以下であることがさらに好ましく、0.20%以下であることがさらに一層好ましい。
【0041】
Ni:0%以上0.50%以下
Niは、組織を微細化させ、母相と拡散層の靭性を高める効果を持つため、鋼に含有させてもよい。また、Niは、鋼材がCuを含有する場合に、Cuに起因する熱間割れを抑制する。このような効果を得るためには、Niは、0.03%以上を含有させることが好ましい。しかしながら、Ni含有量が高過ぎればその効果が飽和し、製造コストが高くなる。従って、Ni含有量は0.50%以下とすることが好ましい。なお、Ni含有量は0.35%以下であることが好ましく、0.25%以下であることが一層好ましい。
【0042】
また、本発明に係る窒化部品は、Ca及びBiといった元素をさらに含有してもよい。
【0043】
Ca:0%以上0.0050%以下
Caは、工具寿命を長寿命化する作用を有する。このため、必要に応じてCaを含有させてもよい。工具寿命を長寿命化する効果を安定して得るためには、Caの含有量は、0.0005%以上とすることが望ましい。しかしながら、Caの含有量が多過ぎると、粗大な酸化物を形成し、靱性を劣化させる。従って、Ca含有量は0.0050%以下とすることが好ましい。なお、Ca含有量は0.0035%以下とすることがさらに好ましい。
【0044】
Bi:0%以上0.30%以下
Biは、切削抵抗を低下させて工具寿命を長寿命化させる作用を有する。このため、必要に応じてBiを含有させてもよい。工具寿命を長寿命化する効果を安定して得るためには、含有させる場合のBiの量は、0.03%以上とすることが望ましい。しかしながら、Biの含有量が多過ぎると、熱間加工性が低下する。従って、Biの含有量は0.30%以下とすることが好ましい。なお、Biの含有量は、0.20%以下とすることがさらに好ましい。
【0045】
ここまで述べたMo,Cu,Ni,Ca,Biは、いずれも、本発明の目的達成において必須ではない任意元素である。任意元素は、必ずしも含有させる必要がないため、その下限は0%である。しかしながら、本発明にかかる窒化部品がこれらの元素を含むことで、さらに、ここまで述べた各作用を得ることができる。すなわち、本発明にかかる窒化部品は、以下に示す各元素を、少なくとも1種以上さらに含む、ものであってもよい。
Mo:0.03%以上0.50%以下、
Cu:0.03%以上0.50%以下、
Ni:0.03%以上0.50%以下、
Ca:0.0005%以上0.0050%以下及び
Bi:0.03%以上0.30%以下。
【0046】
[構造]
本発明に係る窒化部品は、芯部と、この芯部を包み込むようにその外側に位置する拡散層と、この拡散層を包み込むようにその外側に位置する化合物層と、から構成される。
【0047】
本発明に係る窒化部品において、芯部と拡散層との境界は、深さ方向への硬さプロファイルを測定した場合、硬さが深さとともに連続的に減少する領域(拡散層)と、硬さが深さによらず一定となる領域(芯部)と、の境とする。また、本発明において、拡散層と化合物層との境界は、ナイタールでエッチングしてから光学顕微鏡で観察した際に、表面に沿って層状に生成している白色の層(化合物層)と、粒界により区画され、かつ、炭化物を含む鋼組織が見られる領域(拡散層)との境とする。
【0048】
[化合物層と拡散層との界面付近の組織]
本発明に係る窒化部品においては、拡散層における、化合物層との界面付近の組織に関しX線回折測定を行うと、bcc相のピーク積分強度に対するfcc相のピーク積分強度の比率が5%以下である。
【0049】
化合物層と拡散層との界面付近に残留オーステナイトが存在すると、耐衝撃性が劣化する。十分な耐衝撃性を得るためには、上記界面付近においてbcc相のピーク積分強度(非・残留オーステナイト相による回折強度)に対するfcc相のピーク積分強度(残留オーステナイト相による回折強度)の比率が5%以下になるまで、残留オーステナイトの生成が抑制されることが必要である。以下、“bcc相のピーク積分強度に対するfcc相のピーク積分強度の比率”を“bcc相に対するfcc相の積分強度比”と略す。上記界面付近においてbcc相に対するfcc相の積分強度比はいくら少なくともよく、0%でもよい。なお、bcc相に対するfcc相の積分強度比は3%以下であることが好ましく、1%以下であることが一層好ましく、0.5%以下であることがより一層好ましい。
【0050】
化合物層直下の情報をX線回折によって得るため、化合物層の厚さが5.0μm以上ある場合には、前記拡散層上に前記化合物層を0超~5.0μm残すように前記化合物層を除去し、除去後の表面を被検面として、X線回折によって、bcc相に対するfcc相の積分強度比を測定する。
【0051】
X線回折の情報の信号強度を強くするには、X線の侵入深さが十分に深ければ、化合物層の厚さに関わらずbcc相に対するfcc相の積分強度比は一定になる。前記化合物層の厚さが20.0μmのときのbcc相に対するfcc相の積分強度比は、前記化合物層の厚さが8.0μmのときのbcc相に対するfcc相の積分強度比に比べて小さい。しかし、前記化合物層の厚さが3.8μmのときのS/N比は、前記化合物層の厚さが6.0μmのときのbcc相に対するfcc相の積分強度比に対して差異が小さかった。
【0052】
すなわち、化合物層の厚さが過度に厚い(20.0μm程度)と適切な測定ができないが、化合物層の厚さを適正な範囲内とすることで、およそ一定の結果が得られる。そのため、前記拡散層上における前記化合物層の厚さが5.0μm以下となるまで化合物層を除去することが好ましい。より好ましくは、前記拡散層上における前記化合物層の厚さが4.0μm以下となるまで化合物層を除去する。
【0053】
一方、化合物層を過度に除去すると、拡散層が露出して拡散層の除去が進行し、残留オーステナイトの割合に影響を与える可能性がある。また、図1に示すように、化合物層の厚さにはプラスマイナス1μm程度の変動がある。拡散層まで除去が進行する可能性を避けるため、本発明の一実施形態においては、化合物層の厚さが3.0μmとなるように化合物層を電解研磨により除去する。このようにすることで、化合物層が厚い部分であっても厚さを5.0μm以下としつつ、化合物層が完全に除去された部分が生じないようにする。
【0054】
フェライト本発明の一実施形態では、フェライトの(211)面のピーク積分強度が前記bcc相のピーク積分強度で近似され、残留オーステナイトの(220)面のピーク積分強度が前記fcc相のピーク積分強度で近似される。フェライトの(211)面のピークの積分強度は、回折角2θが145.6°~166.2°の範囲内にあるピークより算出される。また、残留オーステナイトの(220)面のピークの積分強度の算出は、123~136.8°の範囲内にあるピークのデータより算出される。
【0055】
[化合物層の厚さ]
本発明に係る窒化部品においては、化合物層厚さが5.0~25.0μmである。
化合物層は、拡散層よりも延性が低いため、母相(芯部)と比べて低い力で容易に割れる。さらに、化合物層は耐衝撃性が低いため、その割れは瞬時に化合物層の厚さ全体に進展する。部品全体の破断を抑制するためには、この化合物層の割れの進展を、化合物層と拡散層の界面で止める必要がある。そのためには、化合物層の厚さを薄くして、化合物層が割れた場合のき裂先端の応力拡大係数を小さくすることが必要である。
【0056】
但し、化合物層は耐摩耗性に優れており、化合物層が薄すぎると耐摩耗性が劣化する。十分な耐摩耗性を得るためには、他の部品と接触し耐摩耗性が必要となる部位(例えば、ギアの歯面)として使用される化合物層厚さが5.0μm以上であることが必要である。また、耐摩耗性に代えて疲労強度が求められる窒化部品においても、十分な疲労強度を実現できる程度に窒化処理を行うと、化合物層厚さは5.0μm以上となる。
【0057】
しかし、化合物層厚さが25.0μmを超えると、前述の理由により靭性が劣化する。従って、化合物層厚さは25.0μm以下とする必要がある。なお、化合物層厚さは7.0μm以上であることが好ましく、9.0μm以上であることが一層好ましい。また、化合物層厚さは、20.0μm以下であることが好ましく、18.0μm以下であることが一層好ましい。
【0058】
化合物層の厚さは、ガス窒化処理後、供試材の垂直断面を研磨し、エッチングして走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)で観察して測定する。エッチングは、3%ナイタール溶液で20~30秒間行う。化合物層は、低合金鋼の表層に存在し、未腐食の層として観察される。1000倍で撮影した組織写真10視野(視野面積:6.6×10μm)から化合物層を観察し、図1に示すように、それぞれ水平方向に10μm毎に20点で化合物層の厚さを測定する。そして、測定された20点の平均値を化合物層厚さ(μm)と定義する。図1に測定方法の概略を、図2に化合物層と窒素拡散層の組織写真の一例を示す。図2に示す通り、エッチングで腐食されない化合物層と、腐食された窒素拡散層とは明確にコントラストが異なり、判別可能である。
【0059】
窒化処理により窒素が侵入した窒素拡散層と、侵入が及ばなかった鋼芯部との間には、化合物層-窒素拡散層間の界面のような明確なコントラストの差は生じず、窒素拡散層と鋼芯部との境界を特定することは困難である。深さ方向への硬さプロファイルを測定したときに、硬さが深さとともに連続的に減少する領域は窒素拡散層であり、硬さが深さによらず一定となる領域は鋼芯部である。窒化処理部品において、ある地点Aにおけるビッカース硬さの値と、地点Aよりも表面から50μmさらに深い地点Bにおけるビッカース硬さの値との差が1%以内であれば、地点Aと地点Bとの両方が鋼芯部内にあると判断してもよい。もしくは、通常の窒化条件であれば窒素は表面から5.0mm以上侵入しないため、表面から5.0mm深い地点は鋼芯部であるとしてもよい。
【0060】
<窒化部品の製造方法>
次に、本発明の窒化部品の製造方法の一例を示す。
本発明に係る窒化部品の製造方法は、少なくとも素材準備工程、熱間加工工程、切削工程、及び窒化処理工程を含む。以下、それぞれの工程を説明する。
【0061】
[素材準備工程]
上述した窒化部品芯部の化学組成を満たす溶鋼を製造する。製造された溶鋼を用いて、鋳造法により鋳片(スラブ又はブルーム)を得る。或いは、溶鋼を用いて、造塊法によりインゴットを得る。鋳片又はインゴットを熱間加工して、ビレットを製造する。熱間加工は、熱間圧延でもよいし、熱間鍛造でもよい。次工程(熱間加工)で使用される素材は、上記の鋳片又はインゴットでもよいし、ビレットでもよい。
【0062】
[熱間加工工程]
製造された上記素材を加熱する。加熱温度が低過ぎれば、熱間加工装置に過度の負荷が掛かる一方、加熱温度が高すぎれば、スケールロスが大きくなる。従って、熱間加工における加熱温度は1000~1300℃とすることが必要である。加熱後の素材に対して、熱間加工を実施する。
【0063】
熱間加工として、例えば熱間鍛造を採用することができる。但し、熱間鍛造の仕上げ温度が低過ぎれば、熱間鍛造装置の金型への負担が大きくなる一方、仕上げ温度が高過ぎれば、組織が粗大化し、靭性が劣化する場合がある。従って、熱間鍛造の仕上げ温度は900℃以上1250℃以下とする必要がある。
【0064】
[熱処理工程]
熱間加工工程後、切削工程前に、必要に応じて、組織を調整するための熱処理を施したり、ひずみを開放するための熱処理を施したりしてもよい。例えば、焼ならし、焼入れ・焼戻し、又は低温焼なましを施すことができる。
【0065】
[切削工程]
次に、熱間加工を経た鋼材に対して、切削加工を施して所定の形状とする。
【0066】
[窒化処理工程]
切削加工された鋼材に対して、窒化処理を実施する。本発明では、周知の窒化処理が採用される。窒化処理は、例えば、ガス窒化、塩浴窒化、イオン窒化等を採用することができる。窒化中に炉内に導入するガスは、NHのみであってもよいし、NHと、N及び/又はHと、を含有する混合気であってもよい。また、これらのガスに、浸炭性のガスを含有して、軟窒化処理を実施してもよい。従って、本明細書における「窒化」とは「軟窒化」も含む概念である。
【0067】
Mnを多量に含む鋼の窒化層には残留オーステナイトが生成し易い。このため、残留オーステナイトを低減するにあたり、窒化処理を2段階に分けて、2段目の窒化処理に低温で行うことによって、残留オーステナイトの生成を抑制する必要がある。
【0068】
1段目窒化処理は580℃以上600℃以下で行い、2段目窒化処理は1段目窒化処理よりも10℃以上低い温度にて、10分間~30分間、窒素雰囲気下で行う。また、2段目窒化処理は、1段目窒化処理の温度から40℃~80℃低い温度にて行うことが好ましい。
【0069】
一度冷却した後に大気中、真空中、または窒素ガス等の不活性ガス中で再加熱すると、化合物層の分解と、窒素の脱離が生じ、窒化部品の表面はポーラス状になり、疲労強度が悪くなる。
【0070】
従来文献では、窒化処理によって生じる残留オーステナイトについて言及するものがなかった。しかし、本発明者らは、窒化処理を2段階にし、1段階目の窒化温度に比べて2段階目での窒化温度を低く設定することで、従来の窒化処理に比べて残留オーステナイト量を低減できることを知見した。本発明によれば、1段目窒化処理を高い温度で行うことで、短時間で十分な窒化深さを達成しつつ、より低い温度での2段目窒化処理により、残留オーステナイト量を抑制し、より高い耐衝撃性を持つ窒化部品を実現できる。
【0071】
残留オーステナイトの生成を抑制できる窒化条件であれば、三段以上の多段階で窒化処理を行っても本発明の窒化部品を作ることができる。この場合は、最終段以外の段階に、二段階の場合の一段目の条件が含まれ、かつ、最終段の条件が、二段階の場合の二段目の条件に合っていればよい。
【0072】
以上の製造工程により製造された窒化部品は、芯部の成分組成、芯部の組織、拡散層の所定箇所における組織、及び化合物層の厚さについて、それぞれ適正化が図れることとなる。その結果、このように製造された窒化部品によれば、小型部品のように部品全体の体積に対して窒化層の占める割合が大きい場合であっても、特に高い耐衝撃性を実現することができる。
【0073】
次に、本発明の好ましい実施形態について説明する。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の実施形態のみに制限されない。
【0074】
[第1実施形態]
本発明は、特に窒化層(化合物層および拡散層)の耐衝撃性を改善することを目的とする。特に、芯部をベイナイト系の組織(主として焼き戻しベイナイトと焼き戻しマルテンサイトからなる組織)とすることにより、優れた耐衝撃性に加え、高い耐摩耗性を実現できる。第1実施形態では、この窒化部品について説明する。
【0075】
第1実施形態に係る窒化部品においては、焼き戻しベイナイトと焼き戻しマルテンサイトの面積率の合計が、前記芯部の組織の50%以上である。
前記ベイナイトは、フェライトやパーライトよりも微細なため、耐衝撃性に優れる。十分な耐衝撃性を得るためには、窒化部品の芯部組織に占める焼き戻しベイナイトの面積率を50%以上にすることが必要である。焼き戻しベイナイトの面積率に上限はなく、100%であってもよい。なお、焼き戻しベイナイトの面積率は60%以上であることが好ましく、70%以上であることが一層好ましく、80%以上であることがより一層好ましい。
【0076】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態に係る窒化部品は、初析フェライトやパーライトが主体の組織を有しており、優れた耐衝撃性に加えて、優れた疲労特性と被削性とを実現することができることを特徴とする。
【0077】
第2実施形態に係る窒化部品においては、面積率で、焼き戻しベイナイトと焼き戻しマルテンサイトの合計が、芯部の組織の50%以下である。芯部組織が硬質なベイナイトやマルテンサイト主体となると切削抵抗が上昇し、被削性が劣化するためである。なお、焼き戻しベイナイトと焼き戻しマルテンサイトの合計が、芯部の組織の40%以下であることが好ましく、30%以下であることが一層好ましい。
【0078】
このように、面積率で、焼き戻しベイナイトと焼き戻しマルテンサイトの合計が、芯部の組織の50%以下であるということは、即ち、面積率で、初析フェライトとパーライトの合計が、芯部の組織の50%以上であるということと同義である。初析フェライトやパーライトは、マルテンサイトやベイナイトと比べて硬さが低い。このため、初析フェライトやパーライトが主体であると、被削性が向上する。なお、面積率で、初析フェライトとパーライトの合計が、60%以上であることが一層好ましい。
【0079】
第2実施形態においては、被削性を良好にするために、Cの含有量を0.19%以下とすることが好ましい。また、C含有量は、0.17%以下であることが好ましく、0.16%以下であることが一層好ましい。ほかに、Tiの含有量を0.005%以下とすることが好ましい。また、Nbの含有量を0.005%以下とすることが好ましい。
【0080】
初析フェライトを生成することができれば、熱処理条件は特に限定されない。しかし、第2実施形態に係る窒化部品の製造において、熱間鍛造後の組織に多量のベイナイトやマルテンサイトが混在してしまった場合には、A3点よりも30~70℃高い温度で焼きならしや焼きなましを行うことにより、初析フェライト率を高めることができる場合がある。
【0081】
また、熱間加工工程後に熱処理を施さないで第2実施形態に係る窒化部品を製造する場合は、熱間加工(例えば、熱間鍛造)後の冷却工程で初析フェライトを生成させる。初析フェライトを生成させることができれば、熱間鍛造後の冷却条件は特に限定されない。しかし、初析フェライトを生成させるためには、冷却中の700℃~500℃までの温度域において、冷却速度を0.2℃/s以下とすることが好ましい。代替的に、初析フェライトを生成させるためには、冷却中の700℃~500℃の温度域において、15分以上保持することが好ましい。
【0082】
第2実施形態に係る窒化部品は、芯部の成分組成、芯部の組織、及び拡散層の所定箇所における組織について、それぞれ適正化が図れることとなる。その結果、第2実施形態に係る窒化部品によれば、優れた疲労特性と被削性とを実現することができることは勿論、衝撃が加わって軽微なき裂が導入されたとしても、このき裂が直ちには進展せず、全体の大規模な破壊を招来しない程度の、優れた耐衝撃性も実現することができる。
【実施例
【0083】
次に、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明するが、以下の実施例は本発明を限定するものではない。
【0084】
[実施例1]
<丸棒の作成>
表1に示す化学成分の鋼種A~Qのインゴットを1250℃に加熱し、加熱されたインゴットを熱間鍛伸して、1片が75mmの正方形の断面を持つ角棒を得た。次いで、この角棒の一部を1250℃に再度加熱し、仕上げ温度1000℃の条件で35mmの直径を有する丸棒に熱間鍛造し、最後に室温まで放冷することにより、丸棒A~Qを得た。前記丸棒A~Qのそれぞれの組成は、鋼種A~Qのそれぞれに対応する。なお、本発明が想定する化学組成からなる直径35mmの丸棒は、室温大気中で放冷することにより、主としてベイナイト系の組織を有することとなる。
【0085】
【表1】
【0086】
各丸棒A~Qの横断面のR/2位置(R:丸棒の半径)と試験片の横断面の中心をそろえるように、1辺が13mmの正方形断面を持つ長さ50mmの試験片作成用の角棒A~Qをそれぞれ作成し、前記角棒A~Qに対して表2の条件で軟窒化処理を行った。具体的には、図4に示すように、素材となる丸棒10から、角棒20の中心P1が、丸棒10の横断面のR/2位置を示す円11上となるように位置を設定し、切削加工により前記角棒20を採取した。なお、軟窒化は一段階、又は二段階で行い、一段目と二段目における窒化処理温度及び窒化処理時間は、表2に示すとおりとした。
【0087】
また、窒化処理中は、アンモニアと窒素と二酸化炭素を、流量比が60:15:2となるように流し、窒化温度から室温までの冷却は油冷とした。表2中、第一段階と第二段階とにおいて温度が異なる場合の降温速度は、約2℃/分とした。以上のようにして、正方形断面試験片No.1~25を得た。
【0088】
【表2】
【0089】
<正方形断面試験片の諸特性の確認>
次に、上述のようにして得られた、正方形断面試験片No.1~25のそれぞれについての諸特性の調査のため、(A)化合物層の厚さ測定、(B)芯部の組織観察、及び(C)化合物層と拡散層との界面付近の、拡散層側の残留オーステナイト量測定、をそれぞれ行った。
【0090】
[(A)化合物層の厚さ測定]
正方形断面試験片No.1~25のそれぞれについて、長手方向端部から5mm位置を、断面が長手方向に垂直となるように切断し、端部側切断片を、断面を観察できるように樹脂にマウントした。試料を2%ナイタールでエッチングし、組織を現出させることで断面観察用試料を作成した。エッチング後の試料を観察し、化合物層の厚さを測定した。その結果を表3に示す。
【0091】
[(B)芯部の組織観察]
次に、(A)で作製した断面観察用試料から、倍率500倍の光学顕微鏡写真を撮影し、画像解析から、芯部における各組織の面積率を求めた。その結果を表3に示す。なお、表3の「ベイナイト」は、焼き戻しベイナイトである。
【0092】
[(C)化合物層と拡散層との界面付近の残留オーステナイト量測定]
さらに、正方形断面試験片1~25のうち、断面観察用の試料を採取した残りの試験片から、残留オーステナイト量測定用の試料を作成した。切断後の試験片において、化合物層の残る表面の一部を、化合物層の厚さが3.0μmとなるまで電解研磨した。すなわち、上記(A)で算出された化合物層の厚さから、3.0μmを引いた値だけ電解研磨により除去される条件(浸漬する溶液の種類・濃度、電圧、浸漬時間)を設定し、その条件の下で電解研磨を行った。
【0093】
電解研磨後の表面に対してXRDを用いて、母相のフェライト(bcc相)と残留オーステナイト(fcc相)のピークの積分強度比(%)を測定した。なお、X線源としてはCrのKα線を用い、管電圧は40kV、管電流は40mAとした。測定に用いたピークは、フェライトの(211)面と残留オーステナイトの(220)面である。フェライトの(211)面のピークの積分強度は、回折角2θが145.6°~166.2°の範囲のデータより算出した。残留オーステナイトの(220)面のピークの積分強度の算出は、γ’-FeNの(220)面のピーク(約116°)の影響を除去するために、123~136.8°の範囲のデータより算出した。その結果を表3の「bcc相に対するfcc相の積分強度比」の項目に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
以下に、上述のようにして得られた、丸棒A~Qをそれぞれ用いて、摩耗試験及び衝撃試験を実施した結果をそれぞれ示す。
【0096】
<摩耗試験>
[摩耗試験片の作製]
各丸棒A~Qの横断面のR/2位置(R:丸棒の半径)と試験片の横断面の中心が揃うように、幅7.0mm、長さ15.75mmの被検面を持つ、高さ10.5mmのブロック状の試験片用の角柱(ブロック状角柱A~Q)を切削加工により作成した。これらのブロック状角柱A~Qを、表2に示す種々の条件で軟窒化して、ブロック試験片No.1~27を得た。なお、軟窒化は一段階、又は二段階で行い、一段目と二段目における窒化処理温度及び窒化処理時間は、同表に示すとおりとした。この窒化処理によって各ブロック試験片に形成された拡散層および化合物層は、前記正方形断面試験片に形成されたものと同一様態であるとの前提にて摩耗試験を行った。
【0097】
そして、ブロック試験片No.1~25のそれぞれについて、幅が6.35mm、高さが10.16mmとなるように、両側面と底面を研磨した。
【0098】
また、摩耗試験に用いる相手材として、SCM435(炭素量0.33~0.38質量%のクロムモリブデン鋼)を用いて外径φ35.19mm、幅9.14mmのリング試験片を作成した。リング試験片はガス浸炭した後、外径φ34.99mm、幅8.74mmの形状に仕上げた。
【0099】
[摩耗試験]
上述のようにして得た摩耗試験片(ブロック試験片No.1~25及びリング試験片)を用いて、ブロックオンリング型の摩耗試験を行った。リング試験片を回転数700rpmで回転させながら、回転方向とブロック試験片の長さ方向が同一平面上になるように、これらの試験片を接触させた。
【0100】
具体的には、ブロック試験片No.1~25のそれぞれを、荷重200Nでリング試験片の被検面中央部に押し付けながら回転させ、5h保持した後に除荷した。次いで、試験後のブロック試験片の接触部の断面曲線を接触型の粗さ計で測定した。なお、測定方向は、ブロック試験片の長さ方向と平行な方向とした。また、測定位置は、ブロック試験片の幅方向の中心で、接触痕とその両端の非接触部とを含む位置とした。そして、この両端の非接触部の断面曲線の近似線をブロック試験片表面とした。接触部の断面曲線の凹状の底部付近を二次曲線で近似し、近似曲線の変曲点の位置を最大摩耗部とした。ブロック試験片の表面に対する最大摩耗部の深さを摩耗量と定義し、摩耗量が15.0μm以下である場合、耐摩耗性に優れると判断した。その結果を表4に示す。
【0101】
【表4】
【0102】
表4の試験片No.16は、鋼種LのCr含有量が少ないため、化合物層に含有されるCr含有量が少ない。また、試験片No.17は、鋼種MのMn含有量が少ないために、化合物層に含有されるMn含有量が少ない。そのため、これらの試験片では、化合物層においてCrまたはMnによる硬化が不十分となり、表4の試験片No.16及び17は、摩耗量が増えた。これらの試験片は、耐摩耗性が不十分である。また、試験片No.23及び25は、化合物層が薄いため、芯部まで摩耗した。
【0103】
表3及び表4から明らかなように、組成(鋼種)、化合物層厚さ、芯部の組織構成、及び化合物層と拡散層との界面付近の組織に関する残留オーステナイト量が適切な範囲であれば、耐摩耗性に優れることが判る。
【0104】
<衝撃試験>
[耐衝撃性評価用試験片の作成]
上述した各丸棒A~Qから、幅が29mm、高さが10mmの断面を持ち、長さが55mmであって、長さ方向の中心にノッチ深さ2mm及びノッチ底半径1mmのUノッチが幅方向に沿って付いた試験片(ノッチ付き試験片)用の棒材A~Qを作成した。なお、各ノッチ付き試験片の中心が丸棒の中心となるように、前記棒材A~Qの採取位置を選択した。前記棒材A~Qを表2に示す種々の条件で軟窒化して、ノッチ付き試験片No.1~25を得た。なお、軟窒化は一段階、又は二段階で行い、一段目と二段目における窒化処理温度及び窒化処理時間は、同表に示すとおりとした。
【0105】
この窒化処理によって各ノッチ付き試験片No.1~25に形成される拡散層および化合物層は、前記正方形断面試験片、および前記ブロック試験片に形成されたものと同一様態であるとの前提にて耐衝撃性評価試験を行った。
【0106】
そして、ノッチ付き試験片No.1~25のそれぞれを10mm×55mmの面と平行な方向に切断し、各ノッチ付き試験片から、二つの幅10mmのシャルピー衝撃試験片を作成した。このときシャルピー衝撃試験片の幅方向の中心が、素材であるノッチ付き試験片の幅方向の一方の端部から、8mm位置、および21mm位置となるようにした。このようにして作成されたシャルピー衝撃試験片No.1~25を用いて、試験温度23℃でシャルピー衝撃試験を行った。吸収エネルギーが50J以上の場合、耐衝撃性に優れると判断した。その結果を表5に示す。
【0107】
【表5】
【0108】
表3及び表5から明らかなように、組成(鋼種)、化合物層厚さ、芯部の組織構成、及び化合物層と拡散層との界面付近の組織に関する残留オーステナイト量が適切な範囲であれば、耐衝撃性に優れることが判る。
【0109】
[実施例2]
<丸棒の作成>
表6に示す化学成分の鋼種A2~Q2のインゴットを1250℃に加熱し、加熱されたインゴットを熱間鍛伸して、1片が75mmの正方形の断面を持つ角棒を得た。次いで、この角棒を1250℃に再度加熱し、仕上げ温度1000℃の条件で60mmの直径を有する丸棒に熱間鍛造した。鍛造後の丸棒は、冷却中にシート状のセラミックファイバーでくるんで、室温まで冷却することで丸棒A2~Q2を得た。セラミックファイバーでくるんだ時の丸棒の表面温度は900℃であった。700℃~500℃までの平均冷却速度は、0.06℃/sであった。
【0110】
なお、実施例1で説明した通り、本発明が想定する化学組成からなる丸棒を室温において放冷すると、特に径が細い場合(35mm程度)には、主としてベイナイト系の組織を形成してしまう。本実施例においては、フェライト‐パーライト系の組織を形成するためにセラミックファイバーシートにより保温し、冷却速度を遅くした。
【0111】
【表6】
【0112】
<丸棒の諸特性の確認>
次に、上述のようにして得られた、丸棒A2~Q2のそれぞれについての諸特性の調査のため、(A)硬さ測定及び(B)組織体積率測定をそれぞれ行った。
【0113】
[(A)硬さの測定]
各丸棒A2~Q2を、長手方向に垂直な断面で輪切りにして、直径60mm、厚さ5mmの円盤状の試験片No.101~117を作成した。試験片の横断面のR/2位置について任意の7点でJIS Z 2244に基づくビッカース硬度(HV)を測定した。試験力は9.8Nとし、得られた7つのビッカース硬度の平均値を、各試験片の窒化前硬さと定義した。そして、硬さが220HV以下である場合、被削性に優れると判断した。その結果を表7に示す。
【0114】
[(B)組織面積率測定]
硬さ測定後のサンプルを、ナイタールで腐食して組織を現出させた。その後、倍率500倍の光学顕微鏡写真を撮影し、画像解析から各組織の面積分率を求めた。その結果を表7に併記する。特に、ベイナイトとマルテンサイトの割合が少ないことが、被削性の観点からは好ましい。表7の結果から、ベイナイトとマルテンサイトの合計が、芯部の組織の50%以下である場合に、被削性に優れる傾向があると判断される。
【0115】
【表7】
【0116】
表7から、窒化前硬さに関し、試験片番号111~114が被削性に優れず、それ以外の試験片番号101~110、115~117については被削性に優れると判断できる。また、同表から、組織に関し、試験片番号111~113が被削性に優れず、それ以外の試験片番号101~110、114~117については被削性に優れると判断できる。以上より、これら2つの測定から、被削性に優れるのは、試験片番号101~110、115~117であると判断される。
【0117】
[(C)回転曲げ疲労強度の測定]
次に、各丸棒A2~Q2から、図3に示すように、平行部の直径が10mmで当該平行部の中央に環状の切欠きのついた小野式回転曲げ疲労試験片101~108、109-1~109-5、110~117を作成した。前記疲労試験片のそれぞれの切欠き部の曲率半径は1mmであり、切欠き底での試験片横断面の直径は8mmであった。前記疲労試験片のそれぞれに対して、表8に示す温度と時間の条件で一段階、又は二段階の軟窒化処理を行った。軟窒化後の疲労試験片101~108、109-1~109-5、110~117を用いて、回転数3000rpmの条件で小野式回転曲げ疲労試験を行った。10E+07回の負荷によっても破断しなかった応力のうち最大の応力を疲労強度と見なした。そして、疲労強度が400MPa以上である場合、疲労強度に優れると判断した。その結果を表8に併記する。
【0118】
【表8】
【0119】
表8から、疲労強度に関し、試験片番号109-5、115、116が疲労特性に優れず、それ以外の試験片番号101~109-3、109-4、110~114、117については疲労特性に優れると判断できる。
【0120】
[(D)耐衝撃性測定]
前記丸棒A2~Q2からそれぞれ、幅が37mm×高さが10mmの断面を持ち、長さが55mmであって、長さ方向の中心に、ノッチ深さ2mmおよびノッチ底半径1mmのUノッチが幅方向に沿って付いたノッチ付き試験片を作成した。前記ノッチ付き試験片の採取位置は、それぞれ、その中心が丸棒A2~Q2のR/2になるように選択された。前記ノッチ付き試験片のそれぞれに対して、表9に示す温度と時間の条件で二段階の軟窒化処理を行った。軟窒化後のノッチ付き試験片の10×55mmの面を1.5mmずつ切削除去し、残部を幅方向に3つに切断して、それぞれの幅を10mmとして、シャルピー衝撃試験片No.101~117を作成した。これらのシャルピー衝撃試験片No.101~117を用いて、試験温度23℃でシャルピー衝撃試験を行った。そして、吸収エネルギーが30J以上の場合を耐衝撃性に優れると判断した。その結果を表9に併記する。
【0121】
[(E)化合物層と拡散層との界面付近の残留オーステナイト量の測定]
実施例1と同様の手順にて、化合物層と拡散層との界面付近の残留オーステナイト量を測定した。すなわち、前記丸棒A2~Q2の横断面のR/2位置(R:丸棒の半径)と前記シャルピー衝撃試験片No.101~117の横断面の中心をそろえるように、1辺が13mmの正方形断面を持つ長さ50mmの正方形断面試験片No.101~117を作成し、表9に示す温度と時間の条件で一段階、又は二段階の軟窒化処理を行った。処理後の正方形断面試験片No.101~117の表面の一部を、化合物層の厚さが3.0μmとなるまで電解研磨した。尚、前記シャルピー衝撃試験片及びNo.前記101~117、正方形断面試験片No.101~117と鋼種A2~Q2との関係は、表9に示す。
【0122】
電解研磨後の表面に対してXRDを用いて、母相のフェライト(bcc)と残留オーステナイト(fcc)のピークの積分強度を測定した。なお、X線源としてはCrのKα線を用い、管電圧は40kV、管電流は40mAとした。測定に用いたピークは、フェライトの(211)面と残留オーステナイトの(220)面である。フェライトの(211)面のピークの積分強度は、回折角2θが145.6°~166.2°の範囲のデータより算出した。残留オーステナイトの(220)面のピークの積分強度の算出は、γ’-FeNの(220)面のピーク(約116°)の影響を除去するために、123~136.8°の範囲のデータより算出した。この算出値を表9の「bcc相に対するfcc相の積分強度比」の項目に示す。
【0123】
そして、残留オーステナイト量の観点から、前記(211)面に対する前記(220)面のピーク積分強度比が5%以下である試験片を耐衝撃性に優れると判断した。その結果を表9に併記する。
【0124】
[(F)化合物層の厚さ測定]
その後、正方形断面試験片No.101~117のそれぞれについて、実施例1と同様の手順にて、化合物層の厚さを測定した。すなわち、正方形断面試験片No.101~117のそれぞれについて、長手方向端部から5mm位置を横断し、断面を観察できるように樹脂にマウントした。試料を2%ナイタールでエッチングし、組織を現出させることで断面観察用試料を作成した。エッチング後の試料を観察し、化合物層の厚さを測定した。その結果を表9に示す。
【0125】
【表9】
【0126】
表9から、吸収エネルギーに関し、シャルピー衝撃試験片番号110、112~117、109-4が耐衝撃性に優れず、それ以外のシャルピー衝撃試験片番号101~109-3、109-5、111については耐衝撃性に優れると判断できる。また、同表から、化合物層と拡散層との界面付近における、フェライトに対する残留オーステナイトの体積比率に関し、試験片番号112、113、109-4が耐衝撃性に優れず、それ以外の試験片番号101~111、114~117、109-5については耐衝撃性に優れると判断できる。以上より、これら2つの測定から、耐衝撃性に優れるのは、試験片番号101~109-3、109-5、111であると判断される。
【0127】
なお、試験片番号111は、実施例2における基準においては被削性が不十分であるため比較例としている。しかしながら、実施例1における基準においては耐衝撃性の観点から十分な性能を有するものであり、本発明の範囲に含まれる。
【0128】
試験片番号109-5は、1段目窒化処理が580℃未満で行われ、2段目窒化処理が行われなかったため、化合物層の形成が不十分であった。化合物層が薄いと耐衝撃性が向上するので、試験片番号109-5は耐衝撃性に関して優れる。しかし、前述した通り、試験片番号109-5は、窒化処理が不十分であるため、十分な疲労強度を確保できなかった。さらに、試験片番号109-5は、表4の試験片番号23及び25と同様に、耐摩耗性に劣ると考えられる。
【0129】
以上説明したとおり、表6~表9によれば、組成(鋼種)、芯部の組織構成、及び化合物層と拡散層との界面付近の組織に関する残留オーステナイト量が適切な範囲であれば、被削性及び疲労特性に優れるだけでなく、耐衝撃性にも優れることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明によれば、耐衝撃性を著しく改善した窒化部品を提供することができる。このため、本発明は、広範な機械部品に適用することができるため、有望である。
図1
図2
図3
図4