(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】金属-繊維強化樹脂材料複合体
(51)【国際特許分類】
B32B 15/08 20060101AFI20230830BHJP
B29C 65/48 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
B32B15/08 N
B32B15/08 105Z
B29C65/48
(21)【出願番号】P 2021543066
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2020032685
(87)【国際公開番号】W WO2021039994
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2021-10-22
(31)【優先権主張番号】P 2019156828
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(72)【発明者】
【氏名】中井 雅子
(72)【発明者】
【氏名】茨木 雅晴
(72)【発明者】
【氏名】禰宜 教之
(72)【発明者】
【氏名】臼井 雅史
【審査官】深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-149350(JP,A)
【文献】特開昭62-199501(JP,A)
【文献】特開2018-140637(JP,A)
【文献】特開2016-221999(JP,A)
【文献】特表2012-515667(JP,A)
【文献】特開2015-196326(JP,A)
【文献】特開昭62-160901(JP,A)
【文献】特開2019-077199(JP,A)
【文献】特開2010-185034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 63/00-63/48、65/00-65/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属層と、
マトリックス樹脂で構成される層中に強化繊維材料が保持された繊維強化樹脂材料層と、
前記金属層と前記繊維強化樹脂材料層との間に位置する樹脂層と、
を少なくとも備える、3層以上の積層構造を有し、
前記樹脂層は、常温硬化接着剤で構成される単層構造を有しているか、又は、所定の樹脂と常温硬化接着剤とで構成される複層構造を有しており、
前記常温硬化接着剤は、未硬化部分を有しない常温硬化接着剤であり、
前記樹脂層が前記単層構造を有している場合においては、
前記常温硬化接着剤の室温における貯蔵弾性率は、0.1MPa超1000MPa以下であり、
前記常温硬化接着剤の厚みが、前記金属層の厚みに対して、0.005倍以上7.500倍未満であり、
前記樹脂層が前記複層構造を有している場合においては、
前記所定の樹脂の室温における貯蔵弾性率は、0.1MPa超1000MPa以下であり、
前記所定の樹脂の厚みが、前記金属層の厚みに対して、0.005倍以上7.500倍未満である、金属-繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項2】
前記樹脂層が前記単層構造を有している場合における前記常温硬化
接着剤の室温における貯蔵弾性率、及び、前記樹脂層が前記複層構造を有している場合における前記所定の樹脂の室温における貯蔵弾性率は、それぞれ、1MPa以上500MPa以下である、請求項1に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項3】
前記樹脂層が前記単層構造を有している場合における前記常温硬化
接着剤の室温における貯蔵弾性率、及び、前記樹脂層が前記複層構造を有している場合における前記所定の樹脂の室温における貯蔵弾性率は、それぞれ、10MPa以上100MPa以下である、請求項1又は2に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項4】
前記樹脂層は、前記複層構造を有しており、
前記所定の樹脂は、硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂からなる、請求項1~3の何れか1項に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項5】
前記樹脂層は、前記複層構造を有しており、
前記所定の樹脂は、硬化性樹脂からなる、請求項1~4の何れか1項に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項6】
前記樹脂層は、前記複層構造を有しており、
前記所定の樹脂は、前記常温硬化接着剤により前記金属層と接合されている、請求項1~5の何れか1項に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項7】
前記樹脂層は、前記複層構造を有しており、
前記所定の樹脂は、前記常温硬化接着剤により前記繊維強化樹脂材料層と接合されている、請求項1~6の何れか1項に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項8】
前記金属層は、鉄鋼材料、ステンレス材料、チタン材料、アルミニウム合金材料、又は、マグネシウム合金材料で形成されている、請求項1~7の何れか1項に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
【請求項9】
前記金属層は、鋼板で形成されている、請求項1~8の何れか1項に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属-繊維強化樹脂材料複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の軽量化ニーズと安全性向上の両立に向けて、金属材料と炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastic:CFRP)とを組み合わせた自動車用材料の開発が行われてきている。CFRP単体を自動車部材として用いる場合には、金属部材用に設けられた既存の自動車製造設備を使用する際の課題や、CFRPの加工性、圧縮強度、脆さ、コスト面などに問題点がある。そこで、金属部材とCFRPとの組み合わせが、これらの課題解決に期待されており、その多くは、金属板とCFRPとを貼り合わせた構造を有している。かかる金属部材とCFRPとの組み合わせにより、金属部材、CFRP各々単独では達成できない、優れた材料の開発が実現され得る。
【0003】
自動車製造工程に着目すると、一般に、金属部材用に設けられた工程では、自動車用素材の表面に電着塗装を行う塗装工程と、かかる電着塗装を焼き付ける焼付工程とを含む。金属材料とCFRPとを接着剤で貼り合わせた自動車用材料が上記の工程を経る場合、焼付工程において接着剤を硬化させている。
【0004】
しかしながら、焼付工程での加熱により金属材料とCFRPとが異なる線膨張係数で体積変化し、かかる状態で接着剤が硬化する。そのため、室温に冷却した後、上記の線膨張係数の差に起因する熱歪が発生して、異種材料間に生じた熱応力により材料全体に反りや凹凸などの変形が生じてしまう。その結果、例えば自動車の外板パネルとして用いる際には外観を損ねてしまう他、接着界面にかかる応力により十分な接着強度を確保できない可能性がある。
【0005】
例えば以下の特許文献1では、金属層と繊維強化プラスチック(FRP、繊維強化樹脂材料ともいう。)層との間に熱可塑性エラストマー層からなる仲介層を設け、これらの層を1段階で加熱圧着することで、仲介層が熱応力差を調整する技術を提案している。
【0006】
また、特許文献2では、金属製アウターパネル外縁部にヘミング加工を施し、加工部を常温で硬化する接着剤にてCFRP製のインナーパネルと接合することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2012-515667号公報
【文献】特開2015-196326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らが短冊試験片を用いて、上記特許文献を参考に実験を行ったところ、塗装焼付工程条件である180℃,20分の雰囲気下に短冊試験片を暴露してみると、取り出した短冊試験片には、単純貼りつけ材料よりも変形が改善されているとはいえ、未だ変形が残っていることが多かった。
【0009】
本発明者らが、このように変形を抑制できない要因を考察したところ、特許文献1の条件で作製した短冊試験片を180℃20分という過酷な環境下に暴露すると、熱可塑性エラストマーの一部あるいは大半が試験片外部に流出し、その結果、熱可塑性エラストマーによる熱応力調整効果が薄くなるために、材料変形が生じるものと考察された。上記特許文献1では、自動車表面部品に対する課題解決に向けたものと記載されている。しかしながら、上記特許文献1では、塗装焼付工程については言及されておらず、180℃,20分という過酷な環境下において熱可塑性エラストマー層が流動することについて、何ら言及がない。
【0010】
一方、上記特許文献2は、外縁部を常温硬化接着剤で接合することで、加熱硬化型接着剤を用いた場合に生じる接着過程での熱応力の発生を防止して、塗装焼付を行った場合であっても、常温状態で変形を抑制することができる接合パネルに関するものである。しかしながら、かかる特許文献2の手法は、以下で詳述する本発明とは、貼りつけ形態が異なるものである。
【0011】
上記特許文献2の手法は、金属製アウターパネル外縁部にヘミング加工を施し、加工部を常温硬化接着剤にてCFRP製インナーパネルと接合する製造方法である。すなわち、上記特許文献2の手法では、金属製アウターパネルとほぼ同形状のCFRP製インナーパネルが必要とされる。先にも述べたように、CFRPには加工性やコスト面に問題点があり、上記特許文献2の手法では、それらの問題を解決し得るような、金属層に対して局所的にCFRP層を貼りつける形態を取ることができない。また、単純にCFRP層の全面に接着剤を塗布し、金属層に貼り付けるだけでは、塗装焼付工程で接着剤が流動し、金属が膨張した状態で接着剤が固まってしまう。そのため、室温まで冷却した後には、貼り合わせ材料に熱応力が生じてしまう。かかる現象は、接着剤に常温硬化型のものを用いた場合であっても同様であり、常温硬化接着剤中の未硬化部分が加熱により流動してしまうため、上記のように熱応力が生じてしまう。
【0012】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、自動車外板パネルとして用いる際であっても良好な外観を有し、かつ、塗装焼付工程を経ても変形が生じない、金属-繊維強化樹脂材料複合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の課題解決に必要な条件を鋭意検討した。その結果、接着時に加熱を要しない常温硬化接着剤で極力熱応力を発生させずに異種材料を貼り合わせるだけでなく、塗装焼付工程において各種材料が流動することを考慮して、樹脂層に関する条件を規定することが有効であることを見出した。かかる樹脂層の条件は、樹脂層の流動のみならず、接着剤の常温硬化後における未硬化部分の流動性をも考慮した特殊な範囲であり、単純に材料を組み合わせるだけでは成し得ないものである。
かかる知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
【0014】
[1]金属層と、マトリックス樹脂で構成される層中に強化繊維材料が保持された繊維強化樹脂材料層と、前記金属層と前記繊維強化樹脂材料層との間に位置する樹脂層と、を少なくとも備える、3層以上の積層構造を有し、前記樹脂層は、常温硬化接着剤で構成される単層構造を有しているか、又は、所定の樹脂と常温硬化接着剤とで構成される複層構造を有しており、前記常温硬化接着剤は、未硬化部分を有しない常温硬化接着剤であり、前記樹脂層が前記単層構造を有している場合においては、前記常温硬化接着剤の室温における貯蔵弾性率は、0.1MPa超1000MPa以下であり、前記常温硬化接着剤の厚みが、前記金属層の厚みに対して、0.005倍以上7.500倍未満であり、前記樹脂層が前記複層構造を有している場合においては、前記所定の樹脂の室温における貯蔵弾性率は、0.1MPa超1000MPa以下であり、前記所定の樹脂の厚みが、前記金属層の厚みに対して、0.005倍以上7.500倍未満である、金属-繊維強化樹脂材料複合体。
[2]前記樹脂層が前記単層構造を有している場合における前記常温硬化接着剤の室温における貯蔵弾性率、及び、前記樹脂層が前記複層構造を有している場合における前記所定の樹脂の室温における貯蔵弾性率は、それぞれ、1MPa以上500MPa以下である、[1]に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
[3]前記樹脂層が前記単層構造を有している場合における前記常温硬化接着剤の室温における貯蔵弾性率、及び、前記樹脂層が前記複層構造を有している場合における前記所定の樹脂の室温における貯蔵弾性率は、それぞれ、10MPa以上100MPa以下である、[1]又は[2]に記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
[4]前記樹脂層は、前記複層構造を有しており、前記所定の樹脂は、硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂からなる、[1]~[3]の何れか1つに記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
[5]前記樹脂層は、前記複層構造を有しており、前記所定の樹脂は、硬化性樹脂からなる、[1]~[4]の何れか1つに記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
[6]前記樹脂層は、前記複層構造を有しており、前記所定の樹脂は、前記常温硬化接着剤により前記金属層と接合されている、[1]~[5]の何れか1つに記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
[7]前記樹脂層は、前記複層構造を有しており、前記所定の樹脂は、前記常温硬化接着剤により前記繊維強化樹脂材料層と接合されている、[1]~[6]の何れか1つに記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
[8]前記金属層は、鉄鋼材料、ステンレス材料、チタン材料、アルミニウム合金材料、又は、マグネシウム合金材料で形成されている、[1]~[7]の何れか1つに記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
[9]前記金属層は、鋼板で形成されている、[1]~[8]の何れか1つに記載の金属-繊維強化樹脂材料複合体。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように本発明によれば、自動車外板パネルとして用いる際であっても良好な外観を有し、かつ、塗装焼付工程を経ても変形が生じない金属-繊維強化樹脂材料複合体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る金属-繊維強化樹脂材料複合体の断面構造の一例を模式的に示した説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る金属-繊維強化樹脂材料複合体の断面構造の一例を模式的に示した説明図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る金属-繊維強化樹脂材料複合体の断面構造の一例を模式的に示した説明図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る金属-繊維強化樹脂材料複合体の断面構造の一例を模式的に示した説明図である。
【
図5】未硬化部分を有する常温硬化接着剤の動的粘弾性の測定結果の一例を示したグラフ図である。
【
図6】未硬化部分を有しない常温硬化接着剤の動的粘弾性の測定結果の一例を示したグラフ図である。
【
図7】厚みの測定方法について説明するための説明図である。
【
図8】作製した短冊試験片の形状について模式的に示した説明図である。
【
図9】曝露後の短冊試験片の変形量の測定方法について模式的に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0018】
<金属-繊維強化樹脂材料複合体の概要>
本発明者らは、先だって言及したように、通常は加熱による熱応力を避けるために使用される常温硬化接着剤により金属材料と繊維強化樹脂材料(FRP)とを接着した部材であっても、常温硬化後に接着後の部材を加熱処理することで常温硬化接着剤中の未硬化部分が流動することを見出した。かかる場合、加熱処理により金属材料が膨張した状態で、接着剤の未硬化部分が追加硬化するために、金属材料とFRPとの間で熱応力のミスフィットが生じ、部材が変形してしまう。
【0019】
上記のような知見に関して、本発明者らが鋭意検討を行った結果、接着剤に未硬化部分がありながらも変形を抑制するためには、異種材料界面(すなわち、金属材料とFRPとの界面)に、弾性率が特定の範囲内である樹脂層を挿入しなければ、良好な変形抑制効果が得られないことを明らかにした。なお、上記のような樹脂層に関する知見は、未硬化部分が無い常温接着剤を用いた場合においても、同様に成立するものである。
【0020】
また、本発明者らは、以下の知見を見出した。
樹脂層に含まれる樹脂は、金属よりも線膨張係数が大きい。樹脂層の熱応力は厚みに応じて増加するため、上記樹脂層の厚みが特定範囲より厚い場合には、樹脂層の熱応力と金属材料との熱応力の差が、大きくなりすぎてしまう。このため、樹脂層の厚みが特定範囲より厚くなると、金属-繊維強化樹脂材料複合体に変形が生じてしまうことを見出した。また、上記樹脂層の厚みが特定範囲よりも薄い場合には、十分な熱応力緩和効果が得られないことを見出した。
【0021】
本発明者により得られた知見の概要をより具体的に示すと、以下の通りである。
以下で詳述する、本発明の実施形態に係る金属-繊維強化樹脂材料複合体(以下、「金属-FRP複合体」ともいう。)は、
図1~4に示すように金属層11、樹脂層12、繊維強化樹脂材料(FRP)層13を少なくとも含む。すなわち、本発明の実施形態における金属-FRP複合体は3層以上の積層構造を有し、金属層11とFRP層13との間に樹脂層12を有する、サンドウィッチ構造を有する。
【0022】
ここで、本発明の実施形態に係る樹脂層12は、常温硬化接着剤からなるものでもよく、1又は複数の樹脂と、常温硬化接着剤と、で構成されるものであってもよい。すなわち、硬化後の弾性率が特定範囲内となる常温硬化接着剤であれば、かかる常温硬化接着剤を、単独で金属層11とFRP層13間に特定の厚み範囲内で挿入することで、常温硬化接着機能を有する樹脂層12とすることも可能である。また、1又は複数の樹脂を、常温硬化接着剤を用いて金属層11に接合させることで、1又は複数の樹脂と常温硬化接着剤とで構成される樹脂層12とすることも可能である。
【0023】
ここで、上記の「常温硬化接着剤」つまり常温で硬化する接着剤とは、加熱することなく硬化して材料を接合可能な接着剤のことをいう。また、かかる接着剤が硬化することで生じる層は、樹脂層12の役割を兼ね備えるものであってもよい。なお、かかる常温硬化接着剤は、着目する部材を仮固定できる程度の粘着力で保持して時間が経過しても硬化しない物質である粘着剤とは、異なるものである。なお、常温硬化接着剤の具体的な例については、説明の便宜上後述する。
【0024】
金属層11の材質、形状、厚み等については、プレス等による成形加工が可能であれば特に限定されるものではないが、形状は薄板状が好ましい。金属層11の材質としては、例えば、鉄、チタン、アルミニウム、マグネシウム及びこれらの合金などが挙げられる。ここで、合金の例としては、例えば、鉄系合金(ステンレス鋼含む。)、Ti系合金、Al系合金、Mg合金などが挙げられる。金属層11の材質は、鉄鋼材料、鉄系合金、チタン及びアルミニウムであることが好ましく、他の金属種に比べて弾性率が高い鉄鋼材料であることがより好ましい。そのような鉄鋼材料としては、例えば、自動車に用いられる薄板状の鋼板として日本産業規格(JIS)等で規格された一般用、絞り用あるいは超深絞り用の冷間圧延鋼板、自動車用加工性冷間圧延高張力鋼板、一般用や加工用の熱間圧延鋼板、自動車構造用熱間圧延鋼板、自動車用加工性熱間圧延高張力鋼板をはじめとする鉄鋼材料があり、一般構造用や機械構造用として使用される炭素鋼、合金鋼、高張力鋼等も薄板状に限らない鉄鋼材料として挙げることができる。
【0025】
鉄鋼材料には、任意の表面処理が施されていてもよい。ここで、表面処理とは、例えば、亜鉛めっき(溶融亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛めっき等)及びアルミニウムめっきなどの各種めっき処理、クロメート処理及びノンクロメート処理などの化成処理、並びに、サンドブラストのような物理的もしくはケミカルエッチングのような化学的な表面粗化処理が挙げられるが、これらに限られるものではない。また、めっきの合金化や複数種の表面処理が施されていてもよい。表面処理としては、少なくとも防錆性の付与を目的とした処理が行われていることが好ましい。
【0026】
また、FRP層13と金属層11との接着性を高めるために、金属層11の表面は、プライマーにより処理されていることが好ましい。この処理で用いるプライマーとしては、例えば、シランカップリング剤やトリアジンチオール誘導体が好ましい。シランカップリング剤としては、エポキシ系シランカップリング剤やアミノ系シランカップリング剤、イミダゾールシラン化合物が例示される。トリアジンチオール誘導体としては、6-ジアリルアミノ-2,4-ジチオール-1,3,5-トリアジン、6-メトキシ-2,4-ジチオール-1,3,5-トリアジンモノナトリウム、6-プロピル-2,4-ジチオールアミノ-1,3,5-トリアジンモノナトリウム及び2,4,6-トリチオール-1,3,5-トリアジンなどが例示される。
【0027】
本発明の実施形態に係る樹脂層12の弾性率Eは、0.1MPa超1000MPa以下である。樹脂層12の弾性率Eが、上記の特定範囲よりも高い場合には、樹脂層12が変形しにくく、熱応力差を調整する効果が小さいため、金属-FRP複合体に大きな変形が生じてしまう。また、樹脂層12の弾性率Eが上記の範囲よりも低い場合には、樹脂層12を薄く使用しても効果的であるようにも思われる。しかしながら、弾性率0.1MPaという値は、固体として存在するのも難しい値であり、構造用材料として用いるには不適である。
【0028】
樹脂層12として選定される樹脂は、硬化性樹脂、又は、熱可塑性樹脂であることが好ましい。また、本発明の実施形態に係る樹脂層12は、上記のような特定範囲の弾性率Eを有する弾性層としての機能と、金属層11とFRP層13とを接合する接着剤としての機能と、を両立するものであってもよい。樹脂層12として用いられる樹脂の具体的な例については、説明の便宜上、後述する。
【0029】
本発明は、以下で詳述するように、金属-FRP複合体の成形時に常温硬化接着剤を用い、加熱をせずに複合体を成形した後、塗装焼付工程での熱処理工程を経ることを特徴としており、成形時に加熱を必要とする上記特許文献1とは異なる。従って、上記特許文献1では、成形時の加熱によるエラストマーの流動が見られ、その後の塗装焼付工程で再びエラストマーが流動するために変形抑制効果が低下してしまったが、本発明は、常温硬化接着剤で成形した後に加熱するため、そのような大幅な樹脂層12の流動は発生しない。また、たとえ部分的に樹脂層12が流動したとしても、以下で詳述するような厚み範囲を満たしていれば、残留した樹脂層12で十分に効果を発揮する。
【0030】
FRP層13は、マトリックス樹脂132と強化繊維材料131とを含有する層であり、所定のマトリックス樹脂で構成される層中に、所定の強化繊維材料が保持されている。なお、本実施形態における「保持されている」とは、強化繊維材料131がマトリックス樹脂132と複合している状態を示す。具体的には、「マトリックス樹脂中に強化繊維材料が分散」した状態や「方向性を持たせたまま配置した繊維に樹脂を含ませた状態」や「連続繊維が樹脂によって束ねられている状態」を示すが、その態様は特定されず、繊維の長さや繊維の方向性、樹脂中の繊維の比率などにより、適宜設定可能である。マトリックス樹脂は、硬化性樹脂、又は、熱可塑性樹脂の少なくとも1種類以上を含有するものである。本発明の実施形態では、FRP層13について特に制限はなく、自動車部材の一部として使用するに現実的な特性の範囲内であれば、本発明の効果が得られる。
【0031】
ここで、本発明の実施形態において、樹脂層12及びマトリックス樹脂132として用いられる硬化性樹脂とは、加熱された状態又は常温にて架橋反応を起こす樹脂であり、一度硬化した後に加熱処理を施しても、硬化済みの部位が流動や加熱による変形を生じないものである。このような硬化性樹脂として、例えば、エポキシ系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、熱硬化性ポリイミド系樹脂、マレイミド系樹脂、ビニルエステル系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、不飽和ポリエチレン系樹脂、シアネート系樹脂、硬化性エラストマー、シリコーンゴム、等を挙げることができる。
【0032】
また、本発明の実施形態において、樹脂層12及びマトリックス樹脂132として用いられる熱可塑性樹脂とは、その樹脂のガラス転移点又は融点まで加熱すると軟化するが、再びガラス転移点又は融点より低温になると固化する樹脂である。このような熱可塑性樹脂として、例えば、フェノキシ樹脂、ポリオレフィン及びその酸変性物、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、塩化ビニル、アクリル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル及びその変性物、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイドといったスーパーエンジニアリングプラスチック、ポリオキシメチレン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ナイロン、熱可塑性エラストマー、等から選ばれる1種以上を挙げることができる。
【0033】
本発明の実施形態における強化繊維材料とは、FRP複合体の強化材として作用する繊維である。強化繊維材料は、特に限定されるものではなく、各種の繊維材料を用いることが可能である。このような強化繊維材料として、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、スチール繊維、PBO繊維、アルミナ繊維、高強度ポリエチレン繊維等を挙げることができる。炭素繊維の種類については、例えば、PAN系、ピッチ系のいずれも使用でき、目的や用途に応じて選択すればよい。また、これら強化繊維材料の形態は、特に限定されるものではなく、強化繊維材料の基材となる強化繊維基材として、例えば、チョップドファイバーを使用した不織布基材や連続繊維を使用したクロス材、一方向強化繊維基材(UD材)などを使用したものを適宜利用することが可能である。
【0034】
なお、以下で詳述するような本発明の実施形態では、加熱による流動の無い樹脂層12や、未硬化部分が無い常温硬化接着剤を用いた場合であっても同様に、塗装焼付工程後に変形が生じない積層構造体を得ることが可能である。
【0035】
<金属-繊維強化樹脂材料複合体の詳細な説明>
以下では、上記で概要を説明した金属-FRP複合体について、
図1~
図6を参照しながら、より詳細に説明する。
【0036】
図1~
図4に、本発明の実施形態に係る金属-FRP複合体の断面構造の一例を、模式的に示した。
図1は、本発明の実施形態に係る3層構造の金属-FRP複合体1の断面模式図を示したものであり、
図2及び
図3は、4層構造の金属-FRP複合体2,3の断面模式図を示したものであり、
図4は、5層構造の金属-FRP複合体4の断面模式図を示したものである。
【0037】
図1~
図4に示したように、金属-FRP複合体1、金属-FRP複合体2、金属-FRP複合体3、及び、金属-FRP複合体4は、金属層11と、樹脂層12と、FRP層13と、を備える。
【0038】
図1に示したような3層構造の金属-FRP複合体1の場合、金属層11とFRP層13とは、樹脂層12により接合される。この場合、樹脂層12は、特定範囲の弾性率Eを有することで金属層11とFRP層13との間で生じる熱応力のミスフィットを緩和する機能と、常温で硬化する接着剤の機能と、の両方を実現する。すなわち、
図1に示した例は、樹脂層12が、特定範囲の弾性率Eを有する常温硬化接着剤そのもので構成される例を示している。
【0039】
ここで、常温で硬化する接着剤とは、加熱することなく硬化して材料を接合可能な接着剤として、広く知られている。JIS Z 8703によると、常温とは20℃±15℃とされており、その温度範囲においても加熱することなく硬化する接着剤である。
【0040】
また、
図2に示したような4層構造の金属-FRP複合体2の場合、金属層11と樹脂層12とは、常温硬化接着剤に由来する接着剤層14により接合される。また、
図3に示した4層構造の金属-FRP複合体3の場合、樹脂層12とFRP層13とは、常温硬化接着剤に由来する接着剤層15により接合される。
図2及び
図3に例示した場合では、樹脂層12は、上記のような特定範囲の弾性率Eを有していればよく、常温硬化接着剤としての機能を有していなくともよい。
【0041】
また、
図4に示したような5層構造の金属-FRP複合体4の場合では、金属-FRP複合体2で示した構造に加え、樹脂層12とFRP層13との間が、接着剤層15により接合されている。
図4に示した例においても、樹脂層12は、上記のような特定範囲の弾性率Eを有していればよく、常温硬化接着剤としての機能を有していなくともよい。
【0042】
上記のような形態で、金属層11、樹脂層12、FRP層13、更に必要に応じて接着剤層14及び接着剤層15が、加工や変形の際に一体として動くものを、金属-FRP複合体1、金属-FRP複合体2、金属-FRP複合体3、又は、金属-FRP複合体4とする。換言すれば、本発明の実施形態において、「複合体」とは、金属層11、樹脂層12、FRP層13、更に必要に応じて接着材層14及び接着剤層15が、互いに張り合わされて(接合されて)一体化したものを意味する。また、「一体化」とは、金属層11、樹脂層12、FRP層13、更に必要に応じて接着材層14及び接着剤層15が、加工や変形の際に一体として動くことを意味する。
【0043】
本発明の実施形態に係る金属-FRP複合体1、金属-FRP複合体2、金属-FRP複合体3、又は、金属-FRP複合体4において、金属層11は、特に制限されるものではなく、上記概要に示したような素材を用いることが可能である。
【0044】
また、上記金属層11には、上記概要にて説明したように、任意の表面処理が施されていてもよい。表面処理手法は、特に規定するものではなく、防錆性の付与を目的とした処理が施されていてもよいし、樹脂層12や接着剤層14との接着性を高めるために、プライマー処理が施されていてもよい。
【0045】
本発明の実施形態に係る金属-FRP複合体1、金属-FRP複合体2、金属-FRP複合体3、又は、金属-FRP複合体4において、樹脂層12は、弾性率Eが0.1MPa超1000MPa以下の範囲内である樹脂で構成される層である。
【0046】
かかる樹脂層12は、好ましくは、弾性率Eが1MPa以上の樹脂で構成される層であり、より好ましくは、弾性率Eが10MPa以上の樹脂で構成される層である。樹脂層12が、このような弾性率Eを有する樹脂で構成されることで、より確実に金属層11とFRP層13との間で生じる熱応力のミスフィットを緩和することが可能となる。
【0047】
一方、かかる樹脂層12は、好ましくは、弾性率Eが500MPa以下の樹脂で構成される層であり、より好ましくは、弾性率が100MPa以下の樹脂で構成される層である。樹脂層12が、このような弾性率Eを有する層で構成されることで、例えば鉄鋼材料のような、より大きな線膨張係数を有する金属層11と、FRP層13とを接合する場合であっても、より確実に熱応力のミスフィットを緩和することが可能となる。
【0048】
樹脂層12として選定される樹脂は、硬化性樹脂であっても熱可塑性樹脂であってもよいが、特に好ましくは、高温でも流動し難い硬化性樹脂である。かかる硬化性樹脂や熱可塑性樹脂の具体例については、上記概要にて説明した通りである。
【0049】
本発明の実施形態に係る金属-FRP複合体1、金属-FRP複合体2、金属-FRP複合体3、又は、金属-FRP複合体4において、樹脂層12の厚みは、金属層11の厚みに対して、0.005倍以上7.500倍未満である。樹脂層12の厚みが、金属層11の厚みに対して0.005倍以上7.500倍未満であることにより、金属層11とFRP層13との熱応力差を緩和させることが可能となる。一方、樹脂層12の厚みが金属層11の厚みに対して、0.005倍未満であると、樹脂層12の厚さが薄すぎるため金属層11とFRP層13との熱応力の差を十分に緩和することができない。また、樹脂層12の厚みが金属層11の厚みに対して7.500倍以上となると、樹脂層12が厚すぎるため金属-FRP複合体の厚みが大きくなりすぎるうえ、樹脂層の熱応力と金属材料との熱応力の差が大きくなりすぎてしまい金属-繊維強化樹脂材料複合体に変形が生じてしまう。
【0050】
樹脂層12の厚みは、金属層11の厚みに対して、好ましくは0.050倍以上であり、より好ましくは0.060倍以上である。金属層11の厚みに対する樹脂層12の厚みが上記のような範囲内となることで、樹脂層12の変形により金属層11とFRP層13との熱応力差を十分に緩和させることができる。このため、当該熱応力差による、金属-FRP複合体に生じうる変形をより確実に抑制することが可能となる。一方、樹脂層12の厚みは、金属層11の厚みに対して、好ましくは5.000倍以下であり、より好ましくは2.000倍以下である。金属層11の厚みに対する樹脂層12の厚みが上記のような範囲内となることで、金属-FRP複合体の厚みを抑えつつ、樹脂層12による金属層11とFRP層13との熱応力差の緩和の効果を得ることができる。
【0051】
このように、金属層11の厚みに対する樹脂層12の厚みが上記のような範囲内となることで、金属-FRP複合体に生じうる変形をより確実に抑制することが可能となる。なお、FRP層13の線膨張係数は、金属層11の線膨張係数に比べて十分に小さいため、FRP層13の厚みは考慮しないでよく、樹脂層12の厚みが金属層11に対して如何なるものであるかが重要となる。
【0052】
FRP層13は、強化繊維材料131とマトリックス樹脂132とを含有する層であり、
図1~
図4に模式的に示したように、マトリックス樹脂132で構成される層中に、強化繊維材料131が保持されている。強化繊維材料131としては、上記概要にて説明したように、炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、スチール繊維、PBO繊維、アルミナ繊維、高強度ポリエチレン繊維等を挙げることができ、これら強化繊維材料131の形態は問わない。なお、本実施形態における「保持されている」とは、強化繊維材料131がマトリックス樹脂132と複合している状態を示す。具体的には、「マトリックス樹脂中に強化繊維材料が分散」した状態や「方向性を持たせたまま配置した繊維に樹脂を含ませた状態」や「連続繊維が樹脂によって束ねられている状態」を示すが、その態様は特定されず、繊維の長さや繊維の方向性、樹脂中の繊維の比率などにより、適宜設定可能である。
【0053】
マトリックス樹脂132としては、硬化性樹脂、又は、熱可塑性樹脂を用いることが可能である。一般的にFRPのマトリックス樹脂として要求される性質を満たす樹脂であれば、マトリックス樹脂132の素材は、特に限定するものではない。
【0054】
上記の硬化性樹脂、及び、熱可塑性樹脂の具体例については、上記概要にて例示した通りであり、以下では詳細な説明は省略する。
【0055】
また、マトリックス樹脂132には、その接着性や物性を損なわない範囲において、例えば、天然ゴム、合成ゴム、エラストマー等や、種々の無機フィラー、溶剤、体質顔料、着色剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、難燃剤、難燃助剤等その他添加物が配合されていてもよい。
【0056】
金属-FRP複合体2、又は、金属-FRP複合体4の形態をとる場合、準備した金属層11もしくは樹脂層12の何れか、又は、金属層11及び樹脂層12の双方に接着剤を塗布し、金属層11と樹脂層12とを重ね合わせて接着剤層14により接合する。接着剤層14には、常温で硬化する接着剤(すなわち、常温硬化接着剤)を使用し、金属層11と樹脂層12とを常温で貼り合わせる。金属-FRP複合体3、又は、金属-FRP複合体4の形態をとる場合における、FRP層13と樹脂層12との接合についても、上記と同様である。
【0057】
主剤と硬化剤との拡散不良による未硬化部分の発生を防止するために、このような常温硬化接着剤は、塗布前に事前に混合して均一に拡散した2液以上の混合型常温硬化接着剤か、又は、1液のみで硬化する一液型常温硬化接着剤であることが好ましい。このような常温硬化接着剤として、例えば、エポキシ系常温硬化接着剤、アクリル系常温硬化接着剤、シリル化ウレタン系常温硬化接着剤、ポリウレタン系常温硬化接着剤、クロロプレン系常温硬化接着剤、シリコーン系常温硬化接着剤等がある。常温硬化接着剤は、加熱をせずに常温で硬化するものであれば、種類を問わない。ただし、かかる常温硬化接着剤として、未硬化部分を有しない常温硬化接着剤を用いることが、好ましい。未硬化部分を有しない常温硬化接着剤を用いることで、未硬化部分の追加硬化による熱応力の発生をより確実に抑制することができ、より一層優れた応力緩和効果を発現させることが可能となる。
【0058】
上記の未硬化部分を有しない常温硬化接着剤としては、例えば、溶剤同士の混合不足が生じ得ない、一液硬化型の常温硬化接着剤が候補として挙げられる。接着剤の未硬化部分の有無は、下記条件で動的粘弾性測定を実施することで得られる貯蔵弾性率E’から、確認することができる。
【0059】
すなわち、かかる動的粘弾性測定では、JIS K7244に則した動的機械分析(Dynamic Thermal Mechanical Analysis)装置を用い、着目する物質のDTMA曲線を測定することで、貯蔵弾性率E’を特定する。この際、貯蔵弾性率E’は、窒素気流中、引張モード、1Hz、3℃/分の昇温条件、-100~200℃の範囲で測定する。試験片は、硬化前の接着剤を厚み0.5mmになるように広げ、常温で24時間静置硬化させた後、幅10mm、長さ40mm、厚み0.5mmに切り出したものを用いる。
【0060】
未硬化部分を有する常温硬化接着剤の貯蔵弾性率E’は、加熱1サイクル目の曲線と、加熱2サイクル目の曲線と、が一致しない。未硬化部分を有する常温硬化接着剤の一例として、セメダイン株式会社製Y600の動的粘弾性測定結果を、
図5に示す。
図5に示したセメダイン株式会社製Y600の動的粘弾性測定結果から明らかなように、温度サイクルによる繰り返し加熱により、ヒステリシスが確認できる。つまり、接着剤の弾性率が変化しており、このことから、Y600には未硬化部分が残留していることが確認できる。
【0061】
一方、未硬化部分を有しない常温硬化接着剤では、加熱1サイクル目と加熱2サイクル目の貯蔵弾性率曲線との不一致が20℃以内となるか、又は、加熱1サイクル目と加熱2サイクル目の貯蔵弾性率曲線が一致する。未硬化部分の無い常温硬化接着剤の一例として、セメダイン株式会社製スーパーXGの動的粘弾性測定結果を、
図6に示す。
図6に示したセメダイン株式会社製スーパーXGの動的粘弾性測定結果から明らかなように、温度サイクルによる繰り返し加熱を行ってもヒステリシスは見られず、未硬化部分が存在しないことが確認できる。このように、未硬化部分の有無は、
図5及び
図6を比較すると明らかなように、動的粘弾性測定結果から明らかである。
【0062】
このように、接着剤の未硬化部分の有無は、動的粘弾性測定により確認することができ、加熱1サイクル目と加熱2サイクル目の貯蔵弾性率E’曲線の不一致が20℃以内であれば、未硬化部分を有しない常温硬化接着剤とみなすことができる。
【0063】
また、既に硬化した状態にある接着剤について、未硬化部分を有する常温硬化接着剤であるか否かを判断する際、着目する接着剤に未硬化部分が残存している場合には、上記の方法により確認することが可能である。
【0064】
以下の実施例に示すように、金属層11の厚みやFRP層13の厚みが変化しても、金属層11とFRP層13との貼り合わせに未硬化部分を有しない常温硬化接着剤を用いれば、如何なる条件においても反りは生じない。これは、未硬化部分を有しない常温硬化接着剤が樹脂層12を兼ねる場合であっても同様である。
【0065】
なお、樹脂層12とFRP層13とは、樹脂層12が常温硬化接着剤からなる場合には直接接着されたものであってもよいし、接着剤層15によって貼り合わせられたものであってもよい。金属層11と樹脂層12との間の接着は、常温硬化接着剤によらなければ十分な効果を発揮し得ない。これは、FRP層13を複数枚の金属層11でサンドイッチする等、複数の金属層11を用いて金属-FRP複合体1,2,3を作製する場合でも同様である。
【0066】
接着剤層15を構成するための接着剤は、接着材層14の場合と同様の常温硬化接着剤を使用してもよい。また、接着剤層15は、熱硬化型の接着剤、又は、熱可塑性樹脂による加熱融着によって形成されてもよい。熱硬化型の接着剤、又は、熱可塑性樹脂による加熱融着の場合には、接着剤層15を介して樹脂層12とFRP層13とを予め接合しておき、その後、樹脂層12、接着剤層15及びFRP層13と、金属層11と、を常温で接合する。
【0067】
上述した実施形態によれば、熱応力が生じていない金属-FRP複合体1、金属-FRP複合体2、金属-FRP複合体3、又は、金属-FRP複合体4が提供される。なお、本件は、FRP層13を複数枚の金属層11でサンドイッチする等、複数の金属層11を用いて金属-FRP複合体1,2,3,4を作製する場合でも、同様に成立する。
【0068】
かかる金属-FRP複合体を、電着塗装後に焼付工程に供した場合、加熱中は、金属が膨張し、更に、樹脂層12や接着剤層14,15の未硬化部分が流動したうえで追加硬化されるため、金属-FRP複合体を冷却後、一時的に金属-FRP複合体には熱応力が生じる。しかしながら、樹脂層12が変形することで金属層11とFRP層13との熱応力のミスマッチが調整される結果、かかる熱応力差は解消され、金属-FRP複合体に変形は生じない。また、樹脂層12、接着剤層14,15の形成に際して、未硬化部分を有しない常温硬化接着剤を使用した場合には、焼付工程を経た後も熱応力が発生せず、金属-FRP複合体に生じる変形を、より確実に抑制することが可能となる。
【0069】
<厚みの測定方法について>
金属層11、樹脂層12、FRP層13、接着剤層14,15の厚みは、以下のようにJIS K 5600-1-7、5.4項の光学的方法の断面法に準拠して、測定することができる。すなわち、試料に有害な影響を及ぼさずに、隙間なく埋め込める常温硬化樹脂を用い、リファインテック株式会社製の低粘性エポマウント27-777を主剤に、27-772を硬化剤に用い、試料を埋め込む。切断機にて観察すべき箇所において、厚さ方向と平行となるように試料を切断して断面を出し、JIS R 6252又は6253で規定する番手の研磨紙(例えば、280番手、400番手又は600番手)を用いて研磨して、観察面を作製する。研磨材を用いる場合は、適切な等級のダイヤモンドペースト又は類似のペーストを用いて研磨して、観察面を作製する。また、必要に応じてバフ研磨を実施して、試料の表面を観察に耐えられる状況まで平滑化してもよい。
【0070】
最適な像のコントラストを与えるのに適切な照明システムを備えた顕微鏡で、1μmの精度の測定が可能な顕微鏡(例えば、オリンパス社製BX51など)を用い、視野の大きさは300μmとなるように選択する。なお、視野の大きさは、それぞれの厚みが確認できるように変えてもよい(例えば、FRP層13の厚みが1mmであれば、厚みが確認できる視野の大きさに変えてもよい)。例えば、
図7に示したような金属-FRP複合体1の樹脂層12の厚みを測定するときは、観察視野内を
図7に示したように4等分して、各分画点の幅方向中央部において、樹脂層12の厚みを計測し、その平均の厚みを当該視野における厚みとする。この観察視野は、異なる箇所を5箇所選んで行い、それぞれの観察視野内で4等分して、各分画にて厚みを測定し、平均値を算出する。隣り合う観察視野同士は、3cm以上離して選ぶとよい。この5箇所での平均値を更に平均した値を、樹脂層12の厚みとすればよい。また、金属層11、FRP層13、接着剤層14,15の厚みの測定においても、上記樹脂層12の厚みの測定と同様に行えばよい。
【0071】
なお、金属層11、樹脂層12、FRP層13、接着剤層14,15の互いの境界面が比較的明瞭な場合には、上記の方法によって樹脂層12の厚みを測定することができる。しかし、樹脂層12とFRP層13との境界面は、常に明瞭であるとは限られない。境界面が不明瞭な場合、以下の方法で境界面を特定してもよい。すなわち、ダイヤモンド砥石が付着したグラインダーなどを用いて、金属-FRP複合体を金属層11側から削り落としていく。そして、切削面を上記顕微鏡で観察し、強化繊維材料を構成する繊維部分の面積率(観察視野の総面積に対する繊維部分の面積率)を測定する。なお、複数の観察視野で面積率を測定し、それらの算術平均値を繊維部分の面積率としてもよい。そして、繊維部分の面積率が10%を超えた際の切削面を樹脂層12とFRP層13との境界面としてもよい。
【実施例】
【0072】
以下に、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る金属-FRP複合体について具体的に説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明に係る金属-FRP複合体のあくまでも一例にすぎず、本発明に係る金属-FRP複合体が下記の例に限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
図8に、本実施例で作製した短冊試験片の大きさを模式的に示した模式図を示した。
図8では、短冊試験片の大きさを誇張して示しており、正確な値を反映したものではない。
【0074】
図8に模式的に示したような大きさを有する短冊試験片を作製するため、金属層11として、0.40mm厚の鋼板(日本製鉄株式会社製GA鋼板)を準備するとともに、FRP層13として、1.00mm厚のCFRP(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製:マトリックス樹脂としてフェノキシ樹脂を用いたクロス材(Vf60))を準備した。また、樹脂層12として、0.50mm厚のポリウレア樹脂(日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製:ポリウレアパテFU-Z)からなる層を準備した。粘弾性測定装置(株式会社日立ハイテクサイエンス製DMA7100)を用い、上記の条件に即して樹脂層の動的粘弾性測定を実施した結果、樹脂層の弾性率は、50MPaであった。
【0075】
上記鋼板に対し、常温硬化接着剤(セメダイン株式会社製スーパーXG)を塗布して、上記樹脂層と貼り合わせた。更に、鋼板とは逆側の樹脂層の表面に対し、常温硬化接着剤(セメダイン株式会社製スーパーXG)を塗布して、上記CFRPと貼り合わせた。その後、得られた積層体について、室温で12時間保持することで常温硬化接着剤を硬化させ、短冊試験片を得た。次に、焼付工程を模擬し、180℃の雰囲気下で20分間、得られた短冊試験片を暴露した。
【0076】
用いた常温硬化接着剤である、セメダイン株式会社製スーパーXGの動的粘弾性測定結果は、
図6に示した通りである。かかる常温硬化接着剤が未硬化部分を有していない常温硬化接着剤であることは、
図6に示した動的粘弾性測定結果において、繰り返し加熱によるヒステリシスが存在しない(換言すれば、貯蔵弾性率曲線の不一致が20℃以内である)ことからも確認できる。また、得られた動的粘弾性測定結果から、セメダイン株式会社製スーパーXGの弾性率を求めたところ、10MPaであった。
【0077】
焼付工程を模擬した上記条件での暴露後の短冊試験片について、
図9に模式的に示したように、短冊試験片の一方の端部を支持台に固定し、短冊試験片全体の変形量を、端部の跳ね上がり変位として評価した。得られた結果を、以下の表1に示した。
【0078】
なお、以下の表1では、変形量の絶対値が0.250mm以下であった場合を変形無しとし、評点「B」と評価した。また、変形量が0.100mm未満と、特に変形が小さかったものについては、評点「A」と評価した。一方、変形量の絶対値が0.250mm超であった場合を変形有とし、評点「C」と評価した。
【0079】
また、樹脂層架橋構造の有無について、以下のように検証を行った。
すなわち、動的粘弾性測定から得られるDTMA曲線において、樹脂層12に用いる樹脂のガラス転移点あるいは融点以上、分解温度未満の温度領域において、損失係数が1を超えるか否かに着目する。かかる場合において、損失係数が1を超える場合には、架橋構造を有しておらず、上記温度領域にて損失係数が1を超えない場合には架橋構造有している、と判断することができる。上記の方法により、架橋構造が存在すると判定されたものについては、評点「A」と評価し、架橋構造が存在しないと判定されたものについては、評点「B」と評価した。
【0080】
(実施例2)
用いたCFRPの厚みを0.50mmとした以外は実施例1と同様にして、短冊試験片を作製した。得られた短冊試験片について、実施例1と同様に暴露を行った後、実施例1と同様に評価を行った。
【0081】
(実施例3)
実施例1と同様の0.40mm厚の鋼板に対し、硬化後の厚みが0.50mmとなるように常温硬化接着剤(セメダイン株式会社製スーパーXG)を塗布し、実施例1と同様の1.00mm厚のCFRPと張り合わせた。得られた積層体を、室温で12時間保持することで、常温硬化接着剤を硬化させて、3層構造の短冊試験片を作製した。用いた常温硬化接着剤について、動的粘弾性測定結果から得られた弾性率は、上記のように10MPaであったため、かかる常温硬化接着剤からなる層は、樹脂層としての機能と、接着機能と、の双方を満足するものである。得られた短冊試験片について、実施例1と同様にして評価を行った。
【0082】
(実施例4)
用いた鋼板の厚みを1.60mmと変更した以外は実施例1と同様にして、短冊試験片を作製した。得られた短冊試験片について、実施例1と同様に暴露を行った後、実施例1と同様に評価を行った。
【0083】
(実施例5)
用いた常温硬化接着剤を、未硬化部分を有する常温硬化接着剤(セメダイン株式会社製Y600)に変更した以外は実施例1と同様にして、短冊試験片を作製した。得られた短冊試験片について、実施例1と同様に暴露を行った後、実施例1と同様に評価を行った。なお、本実施例で用いた常温硬化接着剤の動的粘弾性測定結果は、
図5に示した通りである。かかる常温硬化接着剤が未硬化部分を有する常温硬化接着剤であることは、
図5に示した動的粘弾性測定結果において、繰り返し加熱によるヒステリシスが存在することからも確認できる。
【0084】
(実施例6)
樹脂層として、ポリエステルエラストマー(東レ・デュポン株式会社製、ハイトレル4057WL20)からなる層を用いた以外は実施例1と同様にして、短冊試験片を作製した。得られた短冊試験片について、実施例1と同様に暴露を行った後、実施例1と同様に評価を行った。なお、用いたポリエステルエラストマーについて、動的粘弾性測定を実施したところ、その弾性率は、90MPaであった。
【0085】
(実施例7)
実施例6と同様に、短冊試験片を作製した。ただし、実施例6とは異なり、樹脂層とFRP層とをあらかじめ加熱融着にて接合させた後、得られた接合体と鋼板とを、常温硬化接着剤にて接合した。これにより、樹脂層とCFRPとの間に接着剤層が存在しない、4層構造の短冊試験片を作製した。その後、得られた短冊試験片について、実施例1と同様に暴露を行った後、実施例1と同様に評価を行った。
【0086】
(実施例8)
金属層として、0.40mm厚のアルミニウム合金(JIS H4000:2014に規定されたA6061)を使用した以外は実施例1と同様にして、短冊試験片を作製した。得られた短冊試験片について、実施例1と同様に暴露を行った後、実施例1と同様に評価を行った。
【0087】
(実施例9)
樹脂層として、SIS(スチレン・イソプレン・スチレン、JSR株式会社製SIS5229)からなる層を用いた以外は実施例1と同様にして、短冊試験片を作製した。得られた短冊試験片について、実施例1と同様に暴露を行った後、実施例1と同様に評価を行った。なお、用いたSISについて、動的粘弾性測定を実施したところ、その弾性率は、1MPaであった。
【0088】
(実施例10)
樹脂層として、ポリウレタン樹脂(株式会社イーテック製MG5000)からなる層を用いた以外は実施例1と同様にして、短冊試験片を作製した。得られた短冊試験片について、実施例1と同様に暴露を行った後、実施例1と同様に評価を行った。なお、用いたポリウレタン樹脂について、動的粘弾性測定を実施したところ、その弾性率は、950MPaであった。
【0089】
(実施例11)
樹脂層として、メタクリル樹脂(Illinois Tool Works株式会社製PLEXUS MA530)からなる層を用いた以外は実施例1と同様にして、短冊試験片を作製した。得られた短冊試験片について、実施例1と同様に暴露を行った後、実施例1と同様に評価を行った。なお、用いたメタクリル樹脂について、動的粘弾性測定を実施したところ、その弾性率は、414~483MPaであった。
【0090】
(実施例12)
樹脂層として、ポリエステルエラストマー(東レ・デュポン株式会社製、ハイトレル4057WL20)からなる層を用い、その厚みを、2.50mmとした以外は実施例1と同様にして、短冊試験片を作製した。得られた短冊試験片について、実施例1と同様に暴露を行った後、実施例1と同様に評価を行った。なお、用いたポリエステルエラストマーについて、動的粘弾性測定を実施したところ、その弾性率は、90MPaであった。
【0091】
(実施例13)
厚み0.10mmのチタン合金(日本製鉄株式会社製)に対し、樹脂層として、厚み0.10mmのポリエステルエラストマー(東レ・デュポン株式会社製、ハイトレル4057WL20)からなる層を用いた以外は実施例1と同様にして、短冊試験片を作製した。得られた短冊試験片について、実施例1と同様に暴露を行った後、実施例1と同様に評価を行った。なお、用いたポリエステルエラストマーについて、動的粘弾性測定を実施したところ、その弾性率は、90MPaであった。
【0092】
(実施例14)
厚み0.10mmのマグネシウム合金(株式会社ニラコ製)に対し、樹脂層として、厚み0.10mmのポリエステルエラストマー(東レ・デュポン株式会社製、ハイトレル4057WL20)からなる層を用いた以外は実施例1と同様にして、短冊試験片を作製した。得られた短冊試験片について、実施例1と同様に暴露を行った後、実施例1と同様に評価を行った。なお、用いたポリエステルエラストマーについて、動的粘弾性測定を実施したところ、その弾性率は、90MPaであった。
【0093】
(実施例15)
用いた常温硬化接着剤を、未硬化部分を有しない常温硬化接着剤(セメダイン株式会社製ハイスーパー30)に変更した以外は実施例1と同様にして、短冊試験片を作製した。得られた短冊試験片について、実施例1と同様に暴露を行った後、実施例1と同様に評価を行った。なお、本実施例で用いた常温硬化接着剤の動的粘弾性を別途測定することで、かかる常温硬化接着剤が未硬化部分を有しない旨を確認している。
【0094】
(比較例1)
常温硬化接着剤を用いずに、樹脂層の加熱融着により金属層、樹脂層、CFRPを互いに複合化した以外は実施例7と同様にして、3層構造の短冊試験片を作製した。得られた短冊試験片について、実施例1と同様に暴露を行った後、実施例1と同様に評価を行った。
【0095】
(比較例2)
樹脂層として、酸変性ポリプロピレン(三井化学株式会社製QE060)からなる層を用いた以外は実施例1と同様にして、短冊試験片を作製した。得られた短冊試験片について、実施例1と同様に暴露を行った後、実施例1と同様に評価を行った。なお、用いた酸変性ポリプロピレン(以下、「酸変性PP」と略記することがある。)について、動的粘弾性測定を実施したところ、その弾性率は、1100MPaであった。
【0096】
(比較例3)
ポリエステルエラストマー(東レ・デュポン株式会社製、ハイトレル4057WL20)からなる、厚み3.0mmの樹脂層を形成した以外は実施例1と同様にして、短冊試験片を作製した。得られた短冊試験片について、実施例1と同様に暴露を行った後、実施例1と同様に評価を行った。
【0097】
実施例1~実施例15、比較例1~比較例3の短冊試験片の作製条件と得られた検証結果について、以下の表1-1、表1-2にまとめて示した。
【0098】
【0099】
【0100】
(結果と考察)
金属層と樹脂層との界面を常温で接合することで、熱応力を発生させずに金属層、樹脂層、CFRPを互いに接合させた後、焼付工程で常温硬化接着剤中の未硬化部分が加熱により流動すると、金属が膨張した状態で接着剤が追加硬化して、冷却後に熱応力の差が発生する。しかしながら、上記表1-1、表1-2からも明らかなように、実施例1~15の場合、熱応力の差を樹脂層が調整するため、短冊試験片全体では変形が極めて小さかったと考えられる。
【0101】
一方、比較例1では、焼付工程で熱可塑性樹脂からなる接着剤が大きく流動し、冷却すると金属層が膨張したまま固化するため、実施例1~15に比べて大きく変形したと考えられる。また、弾性率の高い樹脂層を用いた比較例2では、樹脂層が変形しにくく、熱応力差を調整する効果が低かったために、大きな変形が生じたと考えられる。また、比較例3では、適切な弾性率の樹脂層を挿入しているものの、樹脂層の厚みが厚すぎて金属層の厚みに対する樹脂層の厚みの比率の関係が満たされなくなった結果、樹脂層の収縮の影響が大きくなり、大きな変形が生じたものと考えられる。
【0102】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0103】
1,2,3,4 金属-繊維強化樹脂材料複合体(金属-FRP複合体)
11 金属層
12 樹脂層
13 FRP層
14,15 接着剤層
131 強化繊維材料
132 マトリックス樹脂