(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】熱延鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230830BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20230830BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20230830BHJP
B21B 1/26 20060101ALI20230830BHJP
B22D 11/00 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/38
C21D9/46 T
B21B1/26 E
B22D11/00 A
(21)【出願番号】P 2022519926
(86)(22)【出願日】2021-04-21
(86)【国際出願番号】 JP2021016148
(87)【国際公開番号】W WO2021225074
(87)【国際公開日】2021-11-11
【審査請求日】2022-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2020082656
(32)【優先日】2020-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】桜田 栄作
(72)【発明者】
【氏名】安富 隆
(72)【発明者】
【氏名】虻川 玄紀
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/188966(WO,A1)
【文献】特開2012-062558(JP,A)
【文献】特開2016-050335(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0046654(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/00- 8/10
C21D 9/46- 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C :0.060~0.170%、
Si:0.030~1.700%、
Mn:1.20~3.00%、
Al:0.010~0.700%、
Nb:0.005~0.050%、
P :0.0800%以下、
S :0.0100%以下、
N :0.0050%以下、
Ti:0~0.1800%、
Mo:0~0.150%、
V :0~0.3000%、
Cr:0~0.500%、および
B :0~0.0030%
を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
表面から板厚方向に1/4位置および前記表面から板厚方向に1/2位置の金属組織において、体積%で、
ベイナイトおよびマルテンサイトが合計で80.0%以上であり、
フェライトが20.0%以下であり、
セメンタイトおよび残留オーステナイトが合計で0~10.0%であり、
前記表面~前記表面から板厚方向に100μm位置の領域の金属組織において、
旧オーステナイト粒の平均粒径が30.00μm未満であり、
前記表面の法線と前記法線に近傍する(011)極点との回転角が5°以下となる領域が、板厚で規格化した板厚方向位置で、前記表面から0.150以下であり、
前記表面の前記法線と前記法線に近傍する前記(011)極点との前記回転角が20°以上となる領域が、前記板厚で規格化した前記板厚方向位置で、前記表面から0.250以上であり、
引張強さが880MPa以上である
ことを特徴とする熱延鋼板。
【請求項2】
前記化学組成が、質量%で、
Ti:0.0200~0.1800%、
Mo:0.030~0.150%、
V :0.0500~0.3000%、
Cr:0.050~0.500%、および
B :0.0001~0.0030%
からなる群のうち一種または二種以上を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の熱延鋼板。
【請求項3】
請求項1または2に記載の熱延鋼板の製造方法であって、
請求項1に記載の化学組成を有するスラブを連続鋳造するにあたり、メニスカス~前記メニスカスから1.0mの領域における平均表面温度勾配が300~650℃/mとなるように連続鋳造して前記スラブを得る鋳造工程と、
前記スラブを1200℃以上に加熱して、30分以上保持する加熱工程と、
前記スラブを粗圧延した後、870~980℃の温度域における合計圧下率が80%以上、870~980℃の前記温度域における圧延スタンド間の経過時間が0.3~5.0秒、870℃未満の温度域における合計圧下率が10%未満となるように仕上げ圧延する熱間圧延工程と、
前記仕上げ圧延後、30.0秒以下冷却することにより、300℃未満の温度域まで冷却する冷却工程と、
前記冷却後、巻取り温度が300℃未満となるように巻取る巻取り工程と、を備える
ことを特徴とする熱延鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記巻取り後、200℃以上、450℃未満の温度域で90~80000秒保持する熱処理工程と、を更に備える
ことを特徴とする請求項3に記載の熱延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱延鋼板およびその製造方法に関する。
本願は、2020年5月8日に、日本に出願された特願2020-082656号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や各機械部品の軽量化が進められている。部品形状を最適な形状に設計することで剛性を確保することにより、自動車や各機械部品の軽量化が可能である。さらに、プレス成形部品等のブランク成形部品では、部品材料の板厚を減少させることで軽量化が可能となる。しかしながら、板厚を減少させながら静破壊強度および降伏強度を確保しようとした場合、高強度材料を用いることが必要となる。特に、ロアアーム、トレールリンクあるいはナックルなどの自動車足回り部品では780MPa級超の鋼板の適用が検討され始めている。これらの自動車足回り部品は、鋼板に曲げ加工等を施して製造されるため、これらの自動車足回り部品に適用される鋼板は成形性に優れることが要求される。
【0003】
例えば、特許文献1には、熱間圧延工程において、仕上げ圧延温度および圧下率を所定の範囲内とすることで、旧オーステナイトの結晶粒径およびアスペクト比を制御し、異方性を低減した熱延鋼板が開示されている。
【0004】
特許文献2には、熱間圧延工程において、所定の仕上げ圧延温度範囲において、圧延率および平均ひずみ速度を適正範囲内とすることで、靱性を向上させた冷延鋼板が開示されている。
【0005】
自動車や各機械部品等の更なる軽量化のために、冷延鋼板を前提とした板厚の鋼板が自動車足回り部品に適用される見込みもある。特許文献1および特許文献2に記載の技術は高強度鋼板を適用した自動車足回り部品を製造するにあたり、有効なものである。
【0006】
しかしながら、本発明者らは、特許文献1および特許文献2に記載の技術を適用した鋼板であっても、部品形状に成形した後の疲労特性(耐久性および耐衝撃特性)が十分でない場合があることを知見した。これは、曲げ成形を施した後に使用環境を模擬した負荷を与えずとも、曲げ成形部の曲げ内側(以下、単に「曲げ内」と記す)断面において微き裂のような先鋭化した凹部が形成されていたことが原因と考えられる。この凹部が、鋭いき裂のような切欠きの効果をもたらし、部品の耐久性を低下させたと考えられる。発明者らは、曲げ内での微き裂のような先鋭化した凹部は、鋼板が高強度であるほど形成されやすいことを知見した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特許第5068688号公報
【文献】日本国特許第3858146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者らは、高強度鋼板でありながら、曲げ成形時に発生する曲げ内での先鋭化した凹部を改善した鋼板の提供を可能とすべく、曲げ内に形成される凹部について調査した。その結果、本発明者らは、曲げ内での微き裂のような先鋭化した凹部(以下、曲げ内で形成される微き裂のような先鋭化した凹部を「曲げ内凹部」と記す)は、微き裂でなく、曲げ成形時に鋼板の表層がミクロな領域で面外に塑性座屈することで形成した凹凸によるものであることを知見した。また、本発明者らは、曲げ内凹部の深さがある一定の値を超えた場合に、熱延鋼板の疲労特性が顕著に劣化することを知見した。
【0009】
本発明は、高い強度および優れた成形性を有し、且つ曲げ成形時に形成される曲げ内凹部の深さを低減できる、熱延鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、創意検討の結果、高い強度を得るための適正な化学組成および金属組織とし、さらに、特に板厚方向の特定の結晶方位の回転度を制御することで、部品性能を劣化させない範囲まで、曲げ成形時に形成された曲げ内凹部の深さを低減できることを知見した。なお、本実施形態において高い強度とは、引張(最大)強さが880MPa以上であることをいう。また、成形性に優れるとは、穴広げ率が35%以上であることをいう。
【0011】
上記知見に基づいてなされた本発明の要旨は以下の通りである。
(1)本発明の一態様に係る熱延鋼板は、化学組成が、質量%で、
C :0.060~0.170%、
Si:0.030~1.700%、
Mn:1.20~3.00%、
Al:0.010~0.700%、
Nb:0.005~0.050%、
P :0.0800%以下、
S :0.0100%以下、
N :0.0050%以下、
Ti:0~0.1800%、
Mo:0~0.150%、
V :0~0.3000%、
Cr:0~0.500%、および
B :0~0.0030%
を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、
表面から板厚方向に1/4位置および前記表面から板厚方向に1/2位置の金属組織において、体積%で、
ベイナイトおよびマルテンサイトが合計で80.0%以上であり、
フェライトが20.0%以下であり、
セメンタイトおよび残留オーステナイトが合計で0~10.0%であり、
前記表面~前記表面から板厚方向に100μm位置の領域の金属組織において、
旧オーステナイト粒の平均粒径が30.00μm未満であり、
前記表面の法線と前記法線に近傍する(011)極点との回転角が5°以下となる領域が、板厚で規格化した板厚方向位置で、前記表面から0.150以下であり、前記表面の前記法線と前記法線に近傍する前記(011)極点との前記回転角が20°以上となる領域が、前記板厚で規格化した前記板厚方向位置で、前記表面から0.250以上であり、
引張強さが880MPa以上である。
(2)上記(1)に記載の熱延鋼板は、前記化学組成が、質量%で、
Ti:0.0200~0.1800%、
Mo:0.030~0.150%、
V :0.0500~0.3000%、
Cr:0.050~0.500%、および
B :0.0001~0.0030%
からなる群のうち一種または二種以上を含有してもよい。
(3)本発明の別の態様に係る熱延鋼板の製造方法は、上記(1)または(2)に記載の熱延鋼板の製造方法であって、
上記(1)に記載の化学組成を有するスラブを連続鋳造するにあたり、メニスカス~前記メニスカスから1.0mの領域における平均表面温度勾配が300~650℃/mとなるように連続鋳造して前記スラブを得る鋳造工程と、
前記スラブを1200℃以上に加熱して、30分以上保持する加熱工程と、
前記スラブを粗圧延した後、870~980℃の温度域における合計圧下率が80%以上、870~980℃の前記温度域における圧延スタンド間の経過時間が0.3~5.0秒、870℃未満の温度域における合計圧下率が10%未満となるように仕上げ圧延する熱間圧延工程と、
前記仕上げ圧延後、30.0秒以下冷却することにより、300℃未満の温度域まで冷却する冷却工程と、
前記冷却後、巻取り温度が300℃未満となるように巻取る巻取り工程と、を備える。
(4)上記(3)に記載の熱延鋼板の製造方法は、前記巻取り後、200℃以上、450℃未満の温度域で90~80000秒保持する熱処理工程と、を更に備えてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る上記態様によれば、高い強度および優れた成形性を有し、且つ曲げ成形時に形成される曲げ内凹部の深さを低減できる、熱延鋼板およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例における、鋼板表面の法線とその法線に近傍する(011)極点との回転角が5°以下となる領域の板厚で規格化した板厚方向位置と、曲げ内凹部の深さとの関係を示す図である。
【
図2】実施例における、鋼板表面の法線とその法線に近傍する(011)極点との回転角が20°以上となる領域の板厚で規格化した板厚方向位置と、曲げ内凹部の深さとの関係を示す図である。
【
図3】実施例における、鋼板表面の法線とその法線に近傍する(011)極点との回転角が5°以下となる領域の板厚で規格化した板厚方向位置と、鋼板表面の法線とその法線に近傍する(011)極点との回転角が20°以上となる領域の板厚で規格化した板厚方向位置と、曲げ内凹部の評価結果との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態に係る熱延鋼板(単に鋼板と記載する場合がある)について、詳細に説明する。ただし、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
なお、以下に記載する「~」を挟んで記載される数値限定範囲には、下限値および上限値がその範囲に含まれる。「未満」、「超」と示す数値には、その値が数値範囲に含まれない。化学組成についての「%」は全て「質量%」のことを指す。
【0015】
本実施形態に係る熱延鋼板は、質量%で、C:0.060~0.170%、Si:0.030~1.700%、Mn:1.20~3.00%、Al:0.010~0.700%、Nb:0.005~0.050%、P:0.0800%以下、S:0.0100%以下、N:0.0050%以下、並びに、残部:Feおよび不純物を含む。以下、各元素について詳細に説明する。
【0016】
C:0.060~0.170%
Cは、熱延鋼板の強度を決める元素の一つである。C含有量が0.060%未満であると、880MPa以上の引張強さを得ることができない。そのため、C含有量は0.060%以上とする。好ましくは、0.080%以上である。
一方、C含有量が0.170%超では、熱延鋼板の穴広げ性が劣化し、35%以上の穴広げ率を得ることができない。穴広げ率が35%未満である熱延鋼板は、部品に適用することができない。そのため、C含有量は0.170%以下とする。好ましくは、0.150%以下である。
【0017】
Si:0.030~1.700%
Siは固溶強化によって熱延鋼板の強度を向上する元素である。また、Siは、炭化物の生成を抑制する効果を有し、熱処理中の軟化を抑制する元素でもある。これらの効果を得るために、Si含有量は0.030%以上とする。好ましくは、0.050%以上である。
一方、Siは酸化物形成能が高いため、Si含有量が過剰であると、溶接部において酸化物を形成したり、残留オーステナイトの体積率が10%超となり、熱延鋼板の穴広げ性が劣化する。そのため、Si含有量は1.700%以下とする。焼戻し中の軟化をより抑制するためには、Si含有量は1.300%以下とすることが好ましい。
【0018】
Mn:1.20~3.00%
Mnは、熱延鋼板の強度を向上させるために必要な元素である。Mn含有量が1.20%未満であると、880MPa以上の引張強さを得ることができない。そのため、Mn含有量は1.20%以上とする。好ましくは、1.50%以上である。
一方、Mn含有量が、3.00%を超えると、鋳造スラブの靱性が劣化し、熱間圧延することができない。そのため、Mn含有量は3.00%以下とする。好ましくは、2.70%以下である。
【0019】
Al:0.010~0.700%
Alは、脱酸剤として作用し、鋼の清浄度を向上させる元素である。この効果を得るために、Al含有量は0.010%以上とする。好ましくは、0.100%以上である。
一方、Al含有量が0.700%超では、鋳造が困難となる。そのため、Al含有量は、0.700%以下とする。Alは酸化性元素であり、連続鋳造性をより向上する効果、およびコスト低減効果を得るためには、Al含有量は0.300%以下が好ましい。
【0020】
Nb:0.005~0.050%
熱間圧延工程で旧オーステナイト粒の平均粒径を30.00μm未満とするために、Nb含有量は0.005%以上とする必要がある。Nb含有量が0.005%未満であると、熱間圧延工程で旧オーステナイト粒の平均粒径を30.00μm未満とすることができず、最終的に所望の金属組織を得ることができない。そのため、Nb含有量は0.005%以上とする。好ましくは、0.010%以上、0.020%以上である。
一方、Nb含有量が0.050%超であると、鋳造スラブの靱性が劣化し、熱間圧延することができない。そのため、Nb含有量は0.050%以下とする。好ましくは、0.040%以下である。
【0021】
P:0.0800%以下
Pは、熱延鋼板の製造過程で不可避的に混入する不純物元素である。P含有量が多くなる程、熱延鋼板が脆化する。熱延鋼板を自動車足回り部品に適用する場合には、P含有量は0.0800%まで許容できる。そのため、P含有量は0.0800%以下とする。好ましくは、0.0500%以下である。なお、P含有量を0.0005%未満に低減すると、脱Pコストが著しく増加するため、P含有量は0.0005%以上としてもよい。
【0022】
S:0.0100%以下
Sが溶鋼中に多量に含まれる場合、MnSを形成し、熱延鋼板の穴広げ性および靱性を劣化させる。そのため、S含有量は0.0100%以下とする。好ましくは、0.0080%以下である。なお、S含有量を0.0001%未満に低減すると、脱Sコストが著しく増加するため、S含有量は0.0001%以上としてもよい。
【0023】
N:0.0050%以下
Nは、熱延鋼板の製造過程で不可避的に混入する不純物元素である。N含有量が0.0050%超となると、熱延鋼板の残留オーステナイト量が多くなり、熱延鋼板の穴広げ性が劣化する場合、およびスラブ靱性が劣化する場合がある。そのため、N含有量は0.0050%以下とする。好ましくは、0.0040%以下である。なお、N含有量を0.0001%未満に低減すると、製鋼コストが著しく増加するため、N含有量は0.0001%以上としてもよい。
【0024】
本実施形態に係る熱延鋼板の化学組成の残部は、Feおよび不純物であってもよい。本実施形態において、不純物とは、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境等から混入されるものであって、本実施形態に係る熱延鋼板に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0025】
本実施形態に係る熱延鋼板は、Feの一部に代えて、Ti、Mo、V、CrおよびBからなる群のうち、一種または二種以上を任意元素として含んでもよい。上記任意元素を含有させない場合の含有量の下限は0%である。以下、各任意元素について説明する。
【0026】
Ti:0~0.1800%
Tiは、鋼中に微細な炭化物として析出することで、熱延鋼板の強度を高める元素であるため、含有させてもよい。上記効果を確実に得るためには、Ti含有量は0.0200%以上とすることが好ましい。一方、0.1800%を超えて含有させても、上記効果が飽和する。そのため、Ti含有量は0.1800%以下とすることが好ましい。
【0027】
Mo:0~0.150%
Moは、鋼の焼入れ性を高める元素であり、熱延鋼板の強度を調整する元素として含有させてもよい。上記効果を確実に得るためには、Mo含有量は0.030%以上とすることが好ましい。一方、0.150%を超えて含有させても、上記効果は飽和する。そのため、Ti含有量は0.150%以下とすることが好ましい。
【0028】
V:0~0.3000%
Vは、Tiと類似した効果を発現する元素である。微細な炭化物の形成による析出強化の効果を確実に得るには、V含有量は0.0500%以上とすることが好ましい。しかし、Vを過度に含有させると、鋼中に窒化物を形成することで、スラブ靱性が劣化して通板が困難となる。そのため、V含有量は、0.3000%以下とすることが好ましい。
【0029】
Cr:0~0.500%
Crは、Mnと類似した効果を発現する元素である。熱延鋼板の強度向上効果を確実に得るためには、Cr含有量は0.050%以上とすることが好ましい。一方、0.500%を超えてCrを含有させても、上記効果は飽和する。そのため、Cr含有量は0.500%以下とすることが好ましい。
【0030】
B:0~0.0030%
Bは、Mоと類似した効果を発現する元素であり、焼入れ性を向上する効果、および熱延鋼板の強度を高める元素である。上記効果を確実に得るためには、B含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。一方、0.0030%を超えてBを含有させても上記効果は飽和するため、B含有量は0.0030%以下とすることが好ましい。
【0031】
上述した熱延鋼板の化学組成は、スパーク放電発光分光分析装置などを用いて、分析すればよい。なお、CおよびSはガス成分分析装置などを用いて、酸素気流中で燃焼させ、赤外線吸収法によって測定することで同定された値を採用する。また、Nは、熱延鋼板から採取した試験片をヘリウム気流中で融解させ、熱伝導度法によって測定することで同定された値を採用する。
【0032】
次に、本実施形態に係る熱延鋼板の金属組織について説明する。金属組織の特徴は、熱延鋼板の強度および成形性を向上する効果に加え、曲げ内凹部の深さを低減する効果を得ることができる範囲に限定される。
【0033】
本実施形態に係る熱延鋼板は、表面から板厚方向に1/4位置および前記表面から板厚方向に1/2位置の金属組織において、体積%で、ベイナイトおよびマルテンサイトが合計で80.0%以上であり、フェライトが20.0%以下であり、セメンタイトおよび残留オーステナイトが合計で0~10.0%であり、前記表面~前記表面から板厚方向に100μm位置の領域の金属組織において、旧オーステナイト粒の平均粒径が30.00μm未満であり、前記表面の法線と前記法線に近傍する(011)極点との回転角が5°以下となる領域が、板厚で規格化した板厚方向位置で、前記表面から0.150以下であり、前記表面の法線と前記法線に近傍する前記(011)極点との前記回転角が20°以上となる領域が、板厚で規格化した板厚方向位置で、前記表面から0.250以上である。
以下、各規程について説明する。
【0034】
ベイナイトおよびマルテンサイト:合計で80.0%以上
ベイナイトおよびマルテンサイトの体積率が合計で80%未満の場合、880MPa以上の引張強さおよび/または35%以上の穴広げ率を得ることができない。そのため、ベイナイトおよびマルテンサイトの体積率は合計で80.0%以上とする。好ましくは83.0%以上である。
なお、マルテンサイトは焼戻しをされていてもよく、また、マルテンサイト中には、セメンタイトおよび残留オーステナイトが含まれていてもよい。セメンタイトおよび残留オーステナイトの体積率は、合計で10.0%以下としてもよい。
【0035】
フェライト:20.0%以下
フェライトの体積率が20.0%超であると、ベイナイトおよびマルテンサイトの体積率が合計で80.0%以上とならず、所望の引張強さを得ることができない。そのため、フェライトの体積率は20.0%以下とする。強度をより向上させるために、フェライトの体積率は、好ましくは17.0%以下であり、より好ましくは15.0%以下である。フェライトの体積率は、穴広げ性確保の観点から、10.0%以上としてもよい。
【0036】
セメンタイトおよび残留オーステナイト:0~10.0%
上述の通り、マルテンサイト中には、セメンタイトおよび残留オーステナイトが含まれる場合がある。セメンタイトおよび残留オーステナイトの体積率が合計で10.0%超であると、局所的な変形能の低下により、熱延鋼板の穴広げ性が低下する。そのため、セメンタイトおよび残留オーステナイトの体積率は10.0%以下とする。好ましくは7.0%以下であり、より好ましくは5.0%以下である。セメンタイトおよび残留オーステナイトの体積率は少ない方が好ましいため、下限は0%である。
【0037】
フェライトの体積率の測定方法
フェライトの体積率は、金属組織写真を組織観察することで求めた、鉄系炭化物が生成していない結晶粒の面積率とする。熱延鋼板の圧延方向と直行する板厚断面が観察できるようにサンプルを採取し、3~5%の濃度のナイタール腐食液を用いて断面を腐食してフェライトを現出させ、熱延鋼板の表面から板厚方向に1/4位置および表面から板厚方向に1/2位置を500~1000倍の倍率でそれぞれ撮影した金属組織写真を用いて組織観察を行う。金属組織写真は、1鋼種あたり、表面から板厚方向に1/4位置、および表面から板厚方向に1/2位置についてそれぞれ3視野以上を準備する。各金属組織写真において観察されるフェライトの面積率を求め、これらの平均値を算出することで、フェライトの体積率を得る。なお、鉄系炭化物は金属組織写真において、円相当直径1μm以下の黒い粒状のコントラストとして認められ、結晶粒内で観察されるものである。
【0038】
ベイナイトおよびマルテンサイトの体積率の測定方法
本実施形態におけるベイナイトおよびマルテンサイトの体積率の合計は、100.0%から、フェライトの体積率と、後述の方法で測定されるセメンタイトおよび残留オーステナイトの体積率との合計を差し引いた値とする。
【0039】
残留オーステナイトの体積率の測定方法
残留オーステナイトの体積率は、EBSPによって測定する。EBSPによる解析は、上述のフェライトの体積率を測定する際の同一のサンプル採取位置で採取されたサンプルを用い、熱延鋼板の表面から板厚方向に1/4位置、および表面から板厚方向に1/2位置について行う。サンプルは、#600から#1500の炭化珪素ペーパーを使用して研磨した後、粒度1~6μmのダイヤモンドパウダーをアルコール等の希釈液や純水に分散させた液体を使用して鏡面に仕上げた後、測定断面のひずみを十分に除去することを目的に電解研磨によって仕上げられたものとする。なお、電解研磨では、観察面の機械研磨ひずみを除去するため、最小でも20μmを研磨すればよく、最大で50μm研磨すればよい。端部のダレを考慮すると30μm以下が好ましい。
EBSPでの測定は、加速電圧を15~25kVとし、少なくとも0.25μm以下の間隔で測定し、板厚方向に150μm以上、圧延方向に250μm以上の範囲における各々の測定点の結晶方位情報を得る。得られた結晶構造のうち、EBSP解析装置に付属のソフトウェア「OIM Analysis(登録商標)」に搭載された「Phase Map」機能を用いて、結晶構造がfccであるものを残留オーステナイトと判定する。残留オーステナイトと判定された測定点の比率を求めることで、残留オーステナイトの面積率を得る。得られた残留オーステナイトの面積率を、残留オーステナイトの体積率とみなす。
ここで、測定点数は多いほど好ましいため、測定間隔は狭く、また、測定範囲は広い方が良い。しかし、測定間隔が0.01μm未満の場合、隣接点が電子線の広がり幅に干渉する。そのため、測定間隔は0.01μm以上とする。また、測定範囲は最大でも板厚方向に200μm、板幅方向に400μmとすればよい。また、測定には、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡(JEOL製JSM-7001F)とEBSD検出器(TSL製DVC5型検出器)とで構成された装置を用いる。この際、装置内の真空度は9.6×10-5Pa以下、照射電流レベルは13、電子線の照射レベルは62とする。
【0040】
セメンタイトの体積率の測定方法
セメンタイトの体積率の測定は、上述のフェライトの体積率を測定する際の同一のサンプル採取位置で採取されたサンプルを用い、熱延鋼板の表面から板厚方向に1/4位置、および表面から板厚方向に1/2位置について行う。板厚断面を研磨紙やアルミナ砥粒で研磨して鏡面仕上げした後、3%ナイタール溶液およびピクラールで腐食して、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて観察する。続いて、SEM付属の写真撮影装置を用い、倍率2000倍で、総観察視野面積が1.6×107μm2以上となるように複数視野撮影し、粒子解析ソフトウェアなどの画像解析ソフトウェアを用いて、セメンタイトの面積率の測定を行う。これにより、セメンタイトの面積率を得る。得られたセメンタイトの面積率を、セメンタイトの体積率をみなす。
【0041】
旧オーステナイト粒の平均粒径:30.00μm未満
曲げ内凹部は、熱延鋼板表層の結晶粒の塑性座屈によるものであり、変形能の低いベイナイトおよびマルテンサイトの組織の大きさの影響を受ける。これらの組織の大きさは、旧オーステナイト粒の大きさを最大の単位とする(すなわち、旧オーステナイト粒より大きくなることは無い)。ベイナイトおよびマルテンサイトは、いくつかのブロックと呼ばれる組織単位に分割される形態であることが特徴である。曲げ内凹部の深さを30.0μm未満とするために、本実施形態に係る熱延鋼板の主相(体積率が80.0%以上)である、ベイナイトおよびマルテンサイトの組織単位の最大の大きさとなる旧オーステナイト粒の平均粒径は、30.00μm未満とする。曲げ内凹部に起因する疲労特性の低下をより抑制するために、旧オーステナイト粒の平均粒径は20.00μm未満とすることが好ましい。また、曲げ内凹部に起因する疲労特性の低下は、表層領域における旧オーステナイト粒の平均粒径に影響を受けるため、旧オーステナイト粒の平均粒径を30.00μm未満とするのは、表層領域(熱延鋼板の表面~表面から板厚方向に100μm位置の領域)で十分である。
【0042】
旧オーステナイト粒の平均粒径の測定方法
旧オーステナイト粒の平均粒径を測定するためには、熱延鋼板の圧延方向と直行する板厚断面が観察できるようにサンプルを採取し、ピクリン酸飽和水溶液およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム腐食液によって板厚断面の組織を現出させたサンプルを用いる。このサンプルの表層領域(熱延鋼板の表面~表面から板厚方向に100μm位置の領域)において、走査型電子顕微鏡を用いて500倍の倍率で撮影した組織写真を用いて、旧オーステナイト粒の円相当直径を測定する。なお、走査型電子顕微鏡は、2電子検出器を装備しているものとする。組織写真の撮影は、9.6×10-5Pa以下の真空において、加速電圧15kV、照射電流レベル13にて試料に電子線を照射し、表層領域(熱延鋼板の表面~表面から板厚方向に100μm位置の領域)の二次電子像を撮影する。撮影視野数は10視野以上とする。撮影した二次電子像においては、旧オーステナイト粒界が明るいコントラストとして撮像される。観察視野に含まれる旧オーステナイト粒の1つについて、円相当直径を算出する。撮影視野の端部等、結晶粒の全体が撮影視野に含まれていない旧オーステナイト粒を除き、観察視野に含まれる全ての旧オーステナイト粒について上記操作を行い、当該撮影視野における全ての旧オーステナイト粒の円相当直径を求める。各撮影視野において得られた旧オーステナイト粒の円相当直径の平均値を算出することで、旧オーステナイト粒の平均粒径を得る。
【0043】
表面の法線と前記法線に近傍する(011)極点との回転角が5°以下となる領域:板厚で規格化した板厚方向位置で、前記表面から0.150以下、および
表面の法線と前記法線に近傍する(011)極点との回転角が20°以上となる領域:前記板厚で規格化した前記板厚方向位置で、前記表面から0.250以上
熱延鋼板表面の法線と、法線に近傍する(011)極点との回転角が5°以下となる領域を、板厚で規格化した板厚方向位置で、表面から0.150以下とし、回転角が20°以上となる領域を、板厚で規格化した板厚方向位置で、表面から0.250以上とすることで、任意の板面方向での曲げ内凹部の深さを低減できることを本発明者らは見出した。なお、板厚で規格化した板厚方向位置は、板厚方向深さをdとし、板厚をtとしたとき、d/tで表される。
【0044】
前述の通り、曲げ内凹部は熱延鋼板における微視的な表層の塑性座屈現象に起因する。本発明者らは、この塑性座屈現象を、微視な塑性流動と考え、結晶粒の回転によって発生する基本的な挙動によるものととらえた。曲げ変形の場合、結晶粒の回転量は、中立軸から板厚表面への変形勾配に依存する。本発明者らは、板厚方向において結晶回転の挙動が異なる方位群が分布することで、局所的な変形の不釣り合いが生じ、熱延鋼板表層での座屈が助長されると考えた。
【0045】
そこで、発明者らは、曲げ内凹部の深さと板厚方向での結晶方位との関係に着目し、調査をした。代表的な結晶方位として(011)極点を板厚方向で描いたところ、回転角が5゜以下で結晶方位が変化しない領域と、回転角が20゜以上で結晶方位が変化しない領域とに分かれる。本発明者らは、結晶方位が変化しない範囲の厚さが板厚方向での変形不均一を生むと考え、それぞれの範囲の板厚方向の深さの比率と曲げ内凹部の深さとの関係を調査した。その結果、
図1および
図2のように、熱延鋼板表面の法線と、その法線に近傍する(011)極点との回転角が5゜以下となる領域が、板厚で規格化した板厚方向位置(板厚方向深さd/板厚t)で0.150超となると、曲げ内凹部の深さが30.0μm以上となることを見出した。また、熱延鋼板表面の法線とその法線に近傍する(011)極点との回転角が20゜以上となる領域が、板厚で規格化した板厚方向位置で0.250未満となっても同様に、曲げ内凹部の深さが30.0μm以上となることを知見した。なお、
図1は、後述する実施例により得られた図であり、鋼板表面の法線とその法線に近傍する(011)極点との回転角が5°以下となる領域の板厚で規格化した板厚方向位置と、曲げ内凹部の深さとの関係を示す図である。
図2は、後述する実施例により得られた図であり、表面の法線とその法線に近傍する(011)極点との回転角が20°以上となる領域の板厚で規格化した板厚方向位置と、曲げ内凹部の深さとの関係を示す図である。
【0046】
以上の調査から、本発明者らは、曲げ内凹部の深さを低減するためには、熱延鋼板表面の法線と(011)極点とのなす角度が5°以下となる領域および回転角が20°以上となる領域の深さ比率の最良な範囲があることを知見した。
図3のように、熱延鋼板表面の法線と法線に近傍する(011)極点との回転角が5°以下となる領域を、板厚で規格化した板厚方向位置において、表面から0.150以下とし、回転角が20°以上となる領域を、板厚で規格化した板厚方向位置で表面から0.250以上とすることで、曲げ内凹部の深さを30.0μm未満とすることができる。なお、
図3は、後述する実施例により得られた図であり、表面の法線とその法線に近傍する(011)極点との回転角が5°以下となる領域の板厚で規格化した板厚方向位置と、表面の法線とその法線に近傍する(011)極点との回転角が20°以上となる領域の板厚で規格化した板厚方向位置と、曲げ内凹部の評価結果との関係を示す図である。
【0047】
以下に、鋼板表面の法線と前記法線に近傍する(011)極点との所定の回転角を有する領域の測定方法について説明する。
前述の旧オーステナイト粒の体積率を測定したサンプルと同様の方法で断面を鏡面仕上げしたサンプルを用いて、EBSPによって測定を行う。サンプルは、測定断面のひずみを十分に除去することを目的に電解研磨によって仕上げられたものとする。なお、電解研磨では、観察面の機械研磨ひずみを除去するため、最小でも20μmを研磨すればよく、最大で50μm研磨すればよい。端部のダレを考慮すると30μm以下が好ましい。
EBSPでの測定は、加速電圧を15~25kVとして、測定範囲を板厚全厚とし、圧延方向に1000μm以上の範囲を測定範囲とすればよい。また、結晶方位の平均的な特徴を測定することが目的であるため、測定間隔は5μm以上でよい。測定されない結晶粒が多くなることを避けるため、測定間隔は30μm以下とする。なお、結晶方位データは測定座標系と合わせて記録されたものとする。得られた結晶方位データから、鋼板表面の法線とその法線に近傍する(011)極点との回転角は、以下の方法により測定する。
【0048】
熱延鋼板表面の法線と、その法線に近傍する(011)極点との回転角は、EBSP測定により得られた結晶方位データを正極点図上にプロットして計測される値である。正極点図上に結晶方位をプロットする際、正極点図の座標系は、法線(原点ND)は熱延鋼板の板面の法線、水平軸TDを板幅方向とし、水平軸に直交する軸RDが圧延方向となるように、(011)方位の極点を表示する。
上述のように結晶方位は、圧延方向に1000μm以上、測定範囲を板厚全厚の範囲を所定の間隔で測定した点群である。この点群を板厚方向に20分割し、(011)極点図を描く。このようにして描いた鋼板表面からそれぞれの深さ方向位置における(011)極点図において、原点ND(熱延鋼板表面の法線)と最も近接する(011)極点との角度を測定する。この測定値を表面の法線と法線に近傍する(011)極点との回転角と定義する。それぞれの深さ方向位置を板厚で除した値を、板厚で規格化された板厚方向位置(板厚方向深さd/板厚t)と定義し、この板厚で規格化された板厚方向位置において、回転角が5°以下となる領域、および回転角が20°以上となる領域を求める。
【0049】
引張強さ:880MPa以上
本実施形態に係る熱延鋼板は、引張強さが880MPa以上である。引張強さが880MPa未満では、自動車の足回り部品に適用することが困難となる。引張強さは、900MPa以上としてもよい。引張強さは高い程好ましいが、熱延鋼板の高強度化による軽量化効果の観点から1500MPa以下としてもよい。
引張強さは、JIS Z 2241:2011の5号試験片を用いて、JIS Z 2241:2011に準拠して引張試験を行うことで、測定する。引張試験片の採取位置は、板幅方向中央位置とし、圧延方向に垂直な方向を長手方向とする。
【0050】
穴広げ率:35%以上
本実施形態に係る熱延鋼板は、穴広げ率が35%以上である。穴広げ率が35%未満では、バーリング部の成形破断を生じ、自動車の足回り部品に適用することが困難となる。バーリング部のしごき率を低減させ、プレス工程での金型への負荷を低減させるために穴広げ率は、50%以上としてもよい。なお、穴広げ率を80%以上とした場合には、しごきをなくし、十分なバーリング高さを得て、部品の剛性を高めることができる。そのため、穴拡げ率は80%以上としてもよい。
穴拡げ率は、穴拡げ試験をJIS Z 2256:2010準拠して行うことで、測定する。
【0051】
次に、本実施形態に係る熱延鋼板の好ましい製造方法について説明する。以下に説明する鋳造工程および熱間圧延工程は、曲げ内凹部の深さを低減するために要件である、板厚方向の結晶方位分布および旧オーステナイト粒の平均粒径を制御する重要な工程である。
【0052】
本実施形態に係る熱延鋼板の好ましい製造方法は、以下の工程を備える。
所定の化学組成を有するスラブを連続鋳造するにあたり、メニスカス~前記メニスカスから1.0mの領域における平均表面温度勾配が300~650℃/mとなるように連続鋳造して前記スラブを得る鋳造工程、
前記スラブを1200℃以上に加熱して、30分以上保持する加熱工程、
前記スラブを粗圧延した後、870~980℃の温度域における合計圧下率が80%以上、870~980℃の前記温度域における圧延スタンド間の経過時間が0.3~5.0秒、870℃未満の温度域における合計圧下率が10%未満となるように仕上げ圧延する熱間圧延工程、
前記仕上げ圧延後、30.0秒以下冷却することにより、300℃未満の温度域まで冷却する冷却工程、
前記冷却後、巻取り温度が300℃未満となるように巻取る巻取り工程。
なお、本実施形態に係る熱延鋼板の好ましい製造方法では、前記巻取り後、200℃以上、450℃未満の温度域で90~80000秒保持する熱処理工程を更に備えてもよい。
以下、各工程について説明する。
【0053】
鋳造工程
上述の化学組成を有するスラブを連続鋳造するにあたり、メニスカス~メニスカスから1.0mの領域における平均表面温度勾配は300~650℃/mとする。この凝固初期における表面温度勾配は、熱延鋼板表面の法線と法線に近傍する(011)極点との回転角に影響を及ぼす。なお、本実施形態において、平均表面温度勾配とは、凝固シェルに接するモールド内の温度をメニスカスからの距離で除した温度勾配のことをいう。温度の測定はモールドに埋設された熱電対により測温する。熱電対は、スラブ長辺面の幅方向中央部で、メニスカス下で0mm位置且つモールドの外面(凝固シェル)から0.010mm以内の位置、およびメニスカス下で1.0mm位置且つモールドの外面(凝固シェル)から0.010mm以内の位置に埋設する。メニスカス下で0mm位置に埋設する熱電対は、メニスカスからの距離(鋳造方向)で0.040mm以内であればよく、このましくは0.005mm以内であればよい。各測定温度を区間距離で除した値を平均表面温度勾配とする。
【0054】
メニスカス~メニスカスから1.0mの領域における平均表面温度勾配が300℃/m未満では、熱延鋼板表面の法線と法線に近傍する(011)極点との回転角が5°以下である領域が、板厚で規格化した板厚方向位置において、表面から0.150超となる。一方、上記領域における平均温度勾配が650℃/m超では、熱延鋼板表面の法線と法線に近傍する(011)極点との回転角が20°以上である領域が、板厚で規格化した板厚方向位置において、表面から0.250未満となる。したがって、メニスカス~メニスカスから1.0mの領域における平均表面温度勾配を300~650℃/mとして、スラブを製造する。平均表面温度勾配の下限は350℃/m、400℃/mが好ましく、平均表面温度勾配の上限は600℃/m、550℃/mが好ましい。
【0055】
鋳造工程での平均鋳造速度は、一般的な範囲でよく、0.8m/min以上でも、1.2m/min以上でもよい。コスト削減の観点からは、鋳造工程での平均鋳造速度は1.2m/min以上とすることが好ましい。一方、平均鋳造速度が2.5m/min超では、鋳造速度の増加に伴うスラブ厚さ方向での冷却温度勾配が高まり、凝固過程でのスラブ内部応力が高まることで欠陥が生じ易くなる。そのため、平均鋳造速度は2.5m/min以下が好ましい。また、平均鋳造速度が0.6m/min以下では、スラブ厚さ方向での冷却温度勾配は下がるが経済性を著しく損ねる。したがって、平均鋳造速度は0.6~2.5m/minが好ましい。
【0056】
加熱工程
連続鋳造により得られたスラブを、スラブ表面温度が1200℃以上となるように加熱し、1200℃以上の温度域で30分以上保持することで、溶体化する。加熱温度が1200℃未満では、溶体化処理による均質化や炭化物溶解が進まず、フェライト変態が進むことで熱延鋼板の強度が低下する。スラブがTiを含有する場合、Tiをより確実に固溶させるために、加熱温度は1230℃以上とすることが好ましい。また、加熱前のスラブ温度は、室温まで冷却されたスラブでもよく、熱応力等による割れが懸念される場合、連続鋳造後の高温のままとしてもよい。加熱工程における加熱は、所定の温度に制御された炉内へ装入することで行うが、スラブ表面温度が1200℃以上となる時間を30分以上とすれば十分である。1200℃以上の温度域での保持時間が30分未満では、所望量のベイナイトおよびマルテンサイトを得ることができない。保持時間は、40分以上、60分以上、100分以上が好ましい。例えば、加熱温度は1400℃以下とすればよく、加熱時間は300分以下とすればよい。
また、スラブがTiを含有する場合、スラブ表面温度が1230℃以上となる時間を60分以上とすれば十分である。炉内では、無機物のスキッド上にスラブが配置されるが、この際に無機物と鉄との反応によって加熱されたスラブが溶解しない温度以下で加熱して溶体化すればよい。
【0057】
熱間圧延工程
スラブを加熱した後は、粗圧延を施し、その後、以下に説明する範囲で仕上げ圧延を行う。仕上げ圧延は、870~980℃の温度域における合計圧下率が80%以上となるように行う。合計圧下率は、好ましくは85%以上である。870~980℃の温度域における合計圧下率が80%未満の場合、オーステナイト粒の平均粒径が30.00μm以上となる。ここでいう合計圧下率とは、噛込み温度が870~980℃となる圧延スタンドのそれぞれの圧下率を足し合わせた値である。仕上げ圧延温度が980℃超では、圧延スタンドでの合計圧下率に関わらず、オーステナイト粒の平均粒径が大きくなり、曲げ内凹部の深さを30.0μm未満に制御できない。870~980℃の温度域における合計圧下率は98%以下としてもよい。
また、870℃未満での合計圧下率が10%以上では、鋼板表面の法線と法線に近傍する(011)極点との回転角が5°以下となる領域が、板厚で規格化した板厚方向位置において、表面から0.150超となる。そのため、870℃未満での合計圧下率は10%未満とする。870℃未満での合計圧下率は、好ましくは7%未満である。
【0058】
熱間圧延工程において、粗圧延後の板厚t0と仕上げ圧延後の製品板厚tとの比である総板減率((1-t/t0)×100)が80%未満では、どのように圧延温度を制御しても、870~980℃の温度域における合計圧下率を80%以上とすることができない。そのため、総板減率は80%以上に制限される。この総板減率が高いほど歩留りが高まるため好ましいが、98%を超える場合、圧延機への負荷が高まり、ロール交換等のコストが高まる。したがって、粗圧延後の板厚と仕上げ圧延後の製品板厚との比である総板減率は80%以上に制限される。また、総板減率は98%以下が望ましい。
【0059】
全圧延スタンド数は特に制限されないが、圧延機の耐荷重あるいはトルクなどの能力に応じて決めてよい。噛込み温度が870~980℃となる圧延スタンドの数が2スタンド以上となり、各スタンド間の経過時間が5.0秒を超える場合、その区間でオーステナイト粒が成長し、オーステナイト粒の平均粒径が30.00μm以上となるため、好ましくない。そのため、870~980℃の温度域において、各圧延スタンド間の経過時間は5.0秒以下とする。好ましくは4.0秒以下である。一方、各圧延スタンド間の時間が0.3秒未満の場合、圧延ロールへの負荷が高まる。したがって、各圧延スタンド間の時間は0.3秒以上とする。好ましくは1.0秒以上、2.0秒以上である。この噛込み温度は、各圧延スタンドに設置された放射温度計などの温度計にて計測された鋼板表面温度で求めればよい。
【0060】
冷却工程
仕上げ圧延後は、300℃未満の温度域まで冷却した後、引張強さを880MPa以上とするため、巻取り温度が300℃未満となるように巻取る。好ましくは、巻取り温度は280℃以下である。巻取り温度は、20℃以上としてもよい。仕上げ圧延後の冷却は、所望量のベイナイトおよびマルテンサイトを得て、熱延鋼板の強度を880MPa以上にするために、仕上げ圧延後の冷却時間(仕上げ圧延完了から巻取り開始までの時間)が30.0秒以下となるように冷却する。好ましくは、25.0秒以下である。仕上げ圧延後の冷却は、ランアウトテーブル上で水冷または空冷等、所望の冷却時間になるように冷却方法を選択すればよい。
【0061】
巻取り温度は、冷却後、冷却装置から巻取り機までの区間に設置された温度計でコイル全長にわたって測定された、コイル全長にわたる鋼板表面温度の平均値を用いればよい。コイル全長にわたる鋼板表面温度の平均値は、コイル状に巻取られた後のコイル温度と同等であるためである。しかし、コイル内での材質ばらつきを低減させるためには、コイルの任意のポイントでの巻取り温度は、最大でも450℃以下とすることが好ましい。すなわち、コイル全長にわたって、鋼板表面温度は450℃以下とすることが好ましい。
【0062】
以上の方法で製造された熱延鋼板は、室温になるまで放冷されても、コイル状に巻取られた後に水冷されてもよい。室温まで冷却された場合は、再度巻き開いて、酸洗されてもよく、残留応力や形状を整えるためのスキンパス圧延が施されてもよい。スキンパス圧延の圧下率は、0.5%以下とすればよい。
【0063】
熱処理工程
上述の工程によって製造した熱延鋼板に対して、穴広げ性をより向上させるために、200℃以上、450℃未満の温度域で90~80000秒保持する熱処理を施してもよい。熱処理温度が200℃未満では、材質の変化はほとんど認められず、工程が増えることによって製造コストが高まるため好ましくない。また、熱処理温度が450℃以上では、保持時間によらず熱延鋼板のセメンタイトおよび残留オーステナイトの体積率が高まり、熱延鋼板の穴広げ性が劣化する場合がある。熱処理工程における平均昇温速度は特に制限されるものではないが、熱処理効率を下げないため、0.01℃/秒以上であればよい。また、熱処理中の雰囲気は酸化雰囲気でもよく、Nなどで置換された雰囲気でもよい。熱処理はコイル状の熱延鋼板に対して行ってもよいが、この場合はコイル内でのばらつきを低減させるため、保持時間は120秒以上とすることが好ましい。保持時間が80000秒超では、ほとんど材質の変化が無く、熱処理による経済性を損ねるため、保持時間は80000秒以下としてもよい。熱処理方法は特に限定はされないが、2000秒以内の熱処理時間では、均熱性の観点からコイルを巻き開いて熱処理を実施することが望ましい。熱処理を施した熱延鋼板は、室温まで冷却した後、必要に応じて、熱間圧延あるいは熱処理で生成したスケールを除去するための酸洗を施してもよい。
【実施例】
【0064】
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用する一条件例である。本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得る。
【0065】
表1に示す化学組成を有するスラブを連続鋳造により製造した。鋳造速度は0.9m/minであった。また、モールドを冷却することによって、メニスカス~メニスカスから1.0mの領域における平均表面温度勾配を変化させ、熱延鋼板を得た。なお、表2および表3中のスタンド間最大時間は、仕上げ圧延時の、870~980℃の温度域における各圧延スタンド間の経過時間の最大値である。いずれの例においても、870~980℃の温度域における各圧延スタンド間の経過時間は0.3秒以上であった。表2および表3中の「ROT冷却時間」は、仕上げ圧延完了から巻取り開始までの時間を示す。また、仕上げ圧延後は、表2および表3中の「ROT冷却後の巻取り温度」まで冷却してから巻き取った。
【0066】
表2の試験No.24および表3のNo.37については、スラブにき裂が認められたため、鋳造後の試験は実施できなかった。また、表3の試験No.30については連続鋳造中のノズル詰まりが著しく、酸化物の堆積物の混入等が懸念されたため、鋳造後の試験は実施していない。表2の試験No.14~18、No.20~23、並びに表3のNo.38および48については、熱間圧延後に熱処理を施した。
得られた熱延鋼板から試験片を採取し、上述の方法により金属組織の測定を行った。また、同鋼板から、以下の方法により、引張強さおよび穴広げ率を測定した。また、以下の方法により、曲げ内凹部を評価した。
【0067】
引張強さの測定方法および合否の判定基準
JIS Z 2241:2011の5号試験片を用いて、JIS Z 2241:2011に準拠して引張試験を行うことで、引張強さを得た。引張試験片の採取位置は、板幅方向中央位置とし、圧延方向に垂直な方向を長手方向とした。
引張強さが880MPa以上である場合、高い強度を有するとして合格と判定し、880MPa未満である場合、高い強度を有しないとして不合格と判定した。
【0068】
穴広げ率の測定方法および合否の判定基準
穴拡げ試験をJIS Z 2256:2010準拠して行うことで、穴広げ率を得た。
穴広げ率が35%以上の場合、優れた成形性を有するとして合格と判定し、35%未満の場合、成形性に劣るとして不合格と判定した。
【0069】
成形後の曲げ内凹部の評価方法と合否の判定基準
曲げ内凹部による高強度鋼板の足回り部品への適用時の劣化の抑制とは、以下の方法で評価が可能である。鋼板の曲げ内凹部は、曲げ成形の曲げ内側で、金型と接触しない部分で生ずる。これは、プレス成形部品で複雑な部品形状のもので、縦壁部を成形するような場合でも、非接触部が発生する。このような曲げ内部での非接触状態の再現は、例えば、JIS Z 2248:2014などに規定されたVブロック法の負荷であってよいが、ポンチについてはV中央部に非接触部が設けられるように、開口部を設ければよい。
【0070】
なお、プレス部品の形状が複雑な場合には、特定の板面内の方向の特性でなく、任意の方向で曲げ内凹部を抑制することが必要となる。そのため、鋼板コイルの通板方向Lに対して、L方向、それに直交するC方向に加えて、L-C内で15゜刻みの5方向のV曲げ試験を実施した。これらの方向(全7方向)の曲げ試験を実施し、曲げ内での最大凹部深さを評価の指標とした。足回り部品のような複雑な形状のプレス部品では、設計に応じて曲げ部の半径(曲げ半径)は異なるが、実際の適用を想定すると、曲げ半径Rと板厚tとの比であるR/tで1.5を最小曲げ半径とすればよい。これより大きな曲げ半径では、板厚方向の曲げ変形勾配が小さくなり、安全側の評価とならない。したがって、本実施例では、R/tを1.5とした曲げ半径で曲げ試験を行って得られた最大凹部深さによって合否を判定した。曲げ内凹部の深さが30.0μm未満であると、部品疲労特性の劣化は認められない。そのため、得られた曲げ内凹部の深さが30.0μm未満の場合、曲げ成形時に形成される曲げ内凹部の深さを低減できたとして合格と判定した。一方、曲げ内凹部の深さが30.0μm以上の場合、曲げ成形時に形成される曲げ内凹部の深さを低減できなかったとして不合格と判定した。
【0071】
部品の曲げ内凹部の評価において、一般的に採用される染色浸透探傷法での検出可能な最小深さは30.0μmである。曲げ内凹部の深さは、曲げ試験片のポンチに非接触の箇所を曲げ軸に直交する断面で切断し、切断によるバリを除去できる程度の研磨を実施し、その断面を観察することで、測定した。き裂の深さ(曲げ内凹部の深さ)は、この断面において曲げ内の接線から板厚中心に向かった深さ方向の距離を計測して得られた値とした。非破壊法として、一般的に採用される染色浸透探傷法でも、凹部の有無が判断はできるが、通常その精度は30.0μm程度であるため、適さない。
【0072】
以上の測定結果を表4および5に示す。また、実施例において得られた結果を
図1~
図3に示す。
図1は、鋼板表面の法線とその法線に近傍する(011)極点との回転角が5°以下となる領域の板厚で規格化した板厚方向位置と、曲げ内凹部の深さとの関係を示す図である。
図2は、鋼板表面の法線とその法線に近傍する(011)極点との回転角が20°以上となる領域の板厚で規格化した板厚方向位置と、曲げ内凹部の深さとの関係を示す図である。
図3は、鋼板表面の法線とその法線に近傍する(011)極点との回転角が5°以下となる領域の板厚で規格化した板厚方向位置と、鋼板表面の法線とその法線に近傍する(011)極点との回転角が20°以上となる領域の板厚で規格化した板厚方向位置と、曲げ内凹部の評価結果との関係を示す図である。
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
鋼板表面の法線とその法線に近傍する(011)極点との回転角が5°以下となる領域が、板厚で規格化した板厚方向位置で、表面から0.150以下でない試験No.2、8、13、17および41は、曲げ内凹部の深さが30.0μm以上となった。また、鋼板表面の法線とその法線に近傍する(011)極点との回転角が20°以上となる領域が、板厚で規格化した板厚方向位置で、表面から0.250以上でない試験No.5、12および23でも、曲げ内凹部の深さが30.0μm以上となった。
【0079】
旧オーステナイト粒の平均粒径が30.00μm以上であった試験No.9、22、29および35は結晶方位の特徴を有するにも関わらず、曲げ内凹部の深さが30.0μm以上となった。すなわち、曲げ内凹部の深さを30.0μm未満とするため、旧オーステナイト粒の平均粒径の制御は、結晶方位の板厚方向の制御による効果を得るための前提条件となっていることが分かる。
【0080】
結晶方位の特徴は、メニスカス~メニスカスから1.0mの領域における平均表面温度勾配によって整理することができる。
試験No.2、8、17および41では、メニスカス~メニスカスから1.0mの領域における平均表面温度勾配はいずれも300℃/m未満である。一方、試験No.5、12および23では、メニスカス~メニスカスから1.0mの領域における平均表面温度勾配は650℃/m超であった。
【0081】
なお、メニスカス~メニスカスから1.0mの領域における平均表面温度勾配が313℃/mであって、仕上げ圧延時の870℃未満の温度域における合計圧下率が10%を超えた試験No.13では、鋼板表面の法線とその法線に近傍する(011)極点との回転角が5°以下となる領域の、板厚で規格化した板厚方向位置が表面から0.156となり、曲げ内凹部の深さを低減できなかったことが分かる。
【0082】
メニスカス~メニスカスから1.0mの領域における平均表面温度勾配が313℃/mに近く、仕上げ圧延時の870℃未満の温度域における合計圧下率が異なる試験No.3および10では、鋼板表面の法線とその法線に近傍する(011)極点との回転角が5°以下となる領域の、板厚で規格化した板厚方向位置が表面から0.150以下となっている。これらの例から、仕上げ圧延時の870℃未満の温度域における合計圧下率を10%未満とすることが、適切な条件であると判断される。
【0083】
熱延鋼板の金属組織分率は圧延後の冷却条件~巻取り条件に依存しており、これと適正な化学組成によって、優れた引張強さおよび穴広げ性が得られることが分かる。
【0084】
以上から、本発明の要旨とする範囲で、引張強さが880MPa以上であり、穴広げ性に優れ、かつ部品適用時に問題となっていた曲げ内凹部の改善が可能となることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明に係る上記態様によれば、高い強度および優れた成形性を有し、且つ曲げ成形時に形成される曲げ内凹部の深さを低減できる、熱延鋼板およびその製造方法を提供することができる。