(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】制御装置、および、コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20230830BHJP
B41J 2/165 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
B41J2/01 303
B41J2/01 305
B41J2/01 401
B41J2/165 207
(21)【出願番号】P 2019062229
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2022-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001058
【氏名又は名称】鳳国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】荒金 覚
【審査官】山本 一
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-180565(JP,A)
【文献】特開2000-071540(JP,A)
【文献】特開2014-028483(JP,A)
【文献】特開2014-151514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/175
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出する複数個のノズルを有する印刷ヘッドと、印刷媒体に対して主走査方向に沿って前記印刷ヘッドを移動させる主走査を実行する主走査部と、前記印刷ヘッドに対して前記主走査方向と交差する搬送方向に沿って前記印刷媒体を搬送させる搬送部と、を備える印刷実行部であって、前記主走査を行いつつ前記印刷ヘッドによって前記印刷媒体にドットを形成する部分印刷と、前記印刷媒体の搬送と、を複数回実行することで印刷を行う、前記印刷実行部のための制御装置であって、
対象画像データを取得する取得部と、
特定条件が満たされるか否かを判断する判断部であって、前記特定条件が満たされる場合には前記特定条件が満たされない場合と比較して印刷中の前記印刷媒体が変形しやすい、前記判断部と、
前記対象画像データを用いて前記印刷実行部に複数枚の印刷媒体に対する印刷を実行させる印刷制御部と、
を備え、
前記印刷制御部は、
第1の前記印刷媒体に対する最後の前記部分印刷である第1の部分印刷を実行させ、
前記第1の部分印刷の後に、前記第1の印刷媒体の搬送と、前記第1の印刷媒体の次に印刷される第2の前記印刷媒体の搬送と、を実行させ、
前記第2の印刷媒体の搬送後に、第2の前記印刷媒体に対する最初の前記部分印刷である第2の部分印刷を実行させ、
前記印刷制御部は、
印刷中の前記第1の印刷媒体について前記特定条件が満たされない第1の場合には、前記第1の部分印刷の後に、前記印刷ヘッドが移動可能な前記主走査方向の特定範囲のうち、前記第1の印刷媒体が位置する媒体範囲内に前記複数個のノズルが位置する状態で、前記第1の印刷媒体の搬送を開始し、
前記媒体範囲外に前記複数個のノズルが位置するように前記印刷ヘッドを移動させず、
前記特定条件が満たされる第2の場合には、前記第1の部分印刷の後に、前記特定範囲のうち、前記媒体範囲外に前記複数個のノズルが位置するように前記印刷ヘッドを移動させた後に、前記第1の印刷媒体の搬送を開始
し、
前記搬送部は、前記複数個のノズルよりも前記搬送方向の下流側で前記印刷媒体を保持する下流側保持部と、前記複数個のノズルよりも前記搬送方向の上流側で前記印刷媒体を保持する上流側保持部と、を備え、
前記第1の部分印刷が、前記下流側保持部によって前記印刷媒体が保持され、かつ、前記上流側保持部によって前記印刷媒体が保持される状態で実行される場合に、前記判断部は、前記特定条件が満たされないと判断する、制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置であって、さらに、
前記第1の部分印刷によって印刷される第1の部分画像の第1端と、前記第2の部分印刷によって印刷される第2の前記部分画像の第2端と、を特定する特定部であって、前記第1端と前記第2端とは、前記第1の部分印刷の印刷方向の下流端である、前記特定部と、
前記第1端と前記第2端とに基づいて、前記第1端と前記第2端よりも前記第1の部分印刷の印刷方向側であって、かつ、前記媒体範囲内である位置に、前記印刷ヘッドの停止位置を決定する決定部と、
を備え、
前記印刷制御部は、
前記第1の場合には、前記第1の部分印刷の後に、前記停止位置に前記印刷ヘッドを停止させ、
前記停止位置から前記印刷ヘッドを前記第1の部分印刷の印刷方向とは反対方向に移動させる前記主走査を、前記第2の部分印刷のための前記主走査として実行させる、制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の制御装置であって、
前記印刷制御部は、前記第2の場合には、前記第1の部分印刷の後に、前記媒体範囲外に前記印刷ヘッドの全体が位置するように前記印刷ヘッドを移動させた後に、前記第1の印刷媒体の搬送を開始する、制御装置。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれかに記載の制御装置であって
、
前記第1の部分印刷が、前記下流側保持部によって前記印刷媒体が保持され、かつ、前記上流側保持部によって前記印刷媒体が保持されない状態で実行される場合に、前記特定条件が満たされると判断する、制御装置。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載の制御装置であって、
前記印刷制御部は、前記第2の場合には、前記第1の部分印刷の後に、前記媒体範囲よりも前記第1の部分印刷の印刷方向側に前記複数個のノズルが位置するように前記印刷ヘッドを移動させた後に、前記第1の印刷媒体の搬送を開始し、
前記第2の部分印刷の印刷方向は、前記第1の部分印刷の印刷方向の反対方向である、制御装置。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載の制御装置であって、
前記印刷実行部は、前記媒体範囲よりも特定方向側に配置されたインク受部を備え、
前記特定方向は、前記主走査方向に沿う2つの方向のうちの一方であり、
前記印刷制御部は、
フラッシング実行条件が満たされる場合であって、かつ、前記第1の部分印刷の印刷方向が前記特定方向である場合に、前記第1の部分印刷の後に、前記インク受部にインクを吐出させるフラッシングを実行させ、
フラッシング実行条件が満たされる場合であって、かつ、前記第1の部分印刷の印刷方向が前記特定方向とは反対方向である場合に、前記第2の部分印刷の後と前記第1の部分印刷の前とのいずれかに、前記インク受部にインクを吐出させるフラッシングを実行させる、制御装置。
【請求項7】
インクを吐出する複数個のノズルを有する印刷ヘッドと、印刷媒体に対して主走査方向に沿って前記印刷ヘッドを移動させる主走査を実行する主走査部と、前記印刷ヘッドに対して前記主走査方向と交差する搬送方向に沿って前記印刷媒体を搬送させる搬送部と、を備える印刷実行部であって、前記主走査を行いつつ前記印刷ヘッドによって前記印刷媒体にドットを形成する部分印刷と、前記印刷媒体の搬送と、を複数回実行することで印刷を行う、前記印刷実行部を制御するためのコンピュータプログラムであって、
対象画像データを取得する取得機能と、
特定条件が満たされるか否かを判断する判断機能であって、前記特定条件が満たされる場合には前記特定条件が満たされない場合と比較して印刷中の前記印刷媒体が変形しやすい、前記判断機能と、
前記対象画像データを用いて前記印刷実行部に複数枚の印刷媒体に対する印刷を実行させる印刷制御機能と、
をコンピュータに実現させ、
前記印刷制御機能は、
第1の前記印刷媒体に対する最後の前記部分印刷である第1の部分印刷を実行させ、
前記第1の部分印刷の後に、前記第1の印刷媒体の搬送と、前記第1の印刷媒体の次に印刷される第2の前記印刷媒体の搬送と、を実行させ、
前記第2の印刷媒体の搬送後に、第2の前記印刷媒体に対する最初の前記部分印刷である第2の部分印刷を実行させ、
前記印刷制御機能は、
印刷中の前記第1の印刷媒体について前記特定条件が満たされない第1の場合には、前記第1の部分印刷の後に、前記印刷ヘッドが移動可能な前記主走査方向の特定範囲のうち、前記第1の印刷媒体が位置する媒体範囲内に前記複数個のノズルが位置する状態で、前記第1の印刷媒体の搬送を開始し、
前記媒体範囲外に前記複数個のノズルが位置するように前記印刷ヘッドを移動させず、
前記特定条件が満たされる第2の場合には、前記第1の部分印刷の後に、前記特定範囲のうち、前記媒体範囲外に前記複数個のノズルが位置するように前記印刷ヘッドを移動させた後に、前記第1の印刷媒体の搬送を開始
し、
前記搬送部は、前記複数個のノズルよりも前記搬送方向の下流側で前記印刷媒体を保持する下流側保持部と、前記複数個のノズルよりも前記搬送方向の上流側で前記印刷媒体を保持する上流側保持部と、を備え、
前記第1の部分印刷が、前記下流側保持部によって前記印刷媒体が保持され、かつ、前記上流側保持部によって前記印刷媒体が保持される状態で実行される場合に、前記判断機能は、前記特定条件が満たされないと判断する、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、主走査を行いつつドットを形成する部分印刷と印刷媒体の搬送とを複数回実行することで印刷を行う印刷実行部のための制御に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されるシリアルプリンタは、プリントヘッドを主走査させるとともに、印刷記録媒体を副走査させることによって印刷を行う。該シリアルプリンタは、次の主走査で印刷されるべき印刷ブロックと、更に次の主走査で印刷されるべき印刷ブロックと、の主走査方向の位置に基づいて、これらの印刷ブロックを印刷するための主走査パターンを決定する。これによって印刷時間を短縮できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術では、複数枚の印刷媒体に対する印刷について、十分な考慮が成されているとは言えなかった。このために、例えば、複数枚の印刷媒体に対する印刷速度の低下を抑制できない可能性があった。
【0005】
本明細書は、複数枚の印刷媒体に対する印刷において、印刷媒体が印刷ヘッドのノズルに触れる不具合を抑制しつつ、印刷速度の低下を抑制できる技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示された技術は、以下の適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]インクを吐出する複数個のノズルを有する印刷ヘッドと、印刷媒体に対して主走査方向に沿って前記印刷ヘッドを移動させる主走査を実行する主走査部と、前記印刷ヘッドに対して前記主走査方向と交差する搬送方向に沿って前記印刷媒体を搬送させる搬送部と、を備える印刷実行部であって、前記主走査を行いつつ前記印刷ヘッドによって前記印刷媒体にドットを形成する部分印刷と、前記印刷媒体の搬送と、を複数回実行することで印刷を行う、前記印刷実行部のための制御装置であって、対象画像データを取得する取得部と、特定条件が満たされるか否かを判断する判断部であって、前記特定条件が満たされる場合には前記特定条件が満たされない場合と比較して印刷中の前記印刷媒体が変形しやすい、前記判断部と、前記対象画像データを用いて前記印刷実行部に複数枚の印刷媒体に対する印刷を実行させる印刷制御部と、を備え、前記印刷制御部は、第1の前記印刷媒体に対する最後の前記部分印刷である第1の部分印刷を実行させ、前記第1の部分印刷の後に、前記第1の印刷媒体の搬送と、前記第1の印刷媒体の次に印刷される第2の前記印刷媒体の搬送と、を実行させ、前記第2の印刷媒体の搬送後に、第2の前記印刷媒体に対する最初の前記部分印刷である第2の部分印刷を実行させ、前記印刷制御部は、印刷中の前記第1の印刷媒体について前記特定条件が満たされない第1の場合には、前記第1の部分印刷の後に、前記印刷ヘッドが移動可能な前記主走査方向の特定範囲のうち、前記第1の印刷媒体が位置する媒体範囲内に前記複数個のノズルが位置する状態で、前記第1の印刷媒体の搬送を開始し、前記特定条件が満たされる第2の場合には、前記第1の部分印刷の後に、前記特定範囲のうち、前記媒体範囲外に前記複数個のノズルが位置するように前記印刷ヘッドを移動させた後に、前記第1の印刷媒体の搬送を開始する、制御装置。
【0008】
第1の印刷媒体に対する最後の部分印刷が完了した後に行われる搬送は、第1の印刷媒体にインクが付着している状態での搬送になるので、該搬送時には印刷媒体の変形が生じ得る。印刷媒体の変形が発生すると、印刷媒体が印刷ヘッドのノズルに触れる不具合が発生し得る。上記構成によれば、特定条件が満たされる場合には、媒体範囲外に複数個のノズルが位置するように印刷ヘッドを移動させた後に、第1の印刷媒体の搬送を開始するので、印刷媒体の変形が発生しやすい場合に、印刷媒体が印刷ヘッドのノズルに触れる不具合を抑制できる。また、特定条件が満たされない場合には、媒体範囲内に複数個のノズルが位置する状態で、第1の印刷媒体の搬送を開始するので、印刷媒体の変形が発生し難い場合に、速やかに第1の印刷媒体の搬送を開始でき、ひいては、速やかに第2の印刷媒体の印刷を開始できる。この結果、複数枚の印刷媒体に対する印刷において、印刷媒体が印刷ヘッドのノズルに触れる不具合を抑制しつつ、印刷速度の低下を抑制できる。
[適用例2]
適用例1に記載の制御装置であって、さらに、
前記第1の部分印刷によって印刷される第1の部分画像の第1端と、前記第2の部分印刷によって印刷される第2の前記部分画像の第2端と、を特定する特定部であって、前記第1端と前記第2端とは、前記第1の部分印刷の印刷方向の下流端である、前記特定部と、
前記第1端と前記第2端とに基づいて、前記第1端と前記第2端よりも前記第1の部分印刷の印刷方向側であって、かつ、前記媒体範囲内である位置に、前記印刷ヘッドの停止位置を決定する決定部と、
を備え、
前記印刷制御部は、
前記第1の場合には、前記第1の部分印刷の後に、前記停止位置に前記印刷ヘッドを停止させ、
前記停止位置から前記印刷ヘッドを前記第1の部分印刷の印刷方向とは反対方向に移動させる前記主走査を、前記第2の部分印刷のための前記主走査として実行させる、制御装置。
[適用例3]
適用例1または2に記載の制御装置であって、
前記印刷制御部は、前記第2の場合には、前記第1の部分印刷の後に、前記媒体範囲外に前記印刷ヘッドの全体が位置するように前記印刷ヘッドを移動させた後に、前記第1の印刷媒体の搬送を開始する、制御装置。
[適用例4]
適用例1~3のいずれかに記載の制御装置であって、
前記判断部は、
前記第1の部分印刷にて使用されるインク量に関する指標値を算出し、
前記指標値が、前記第1の部分印刷にて使用されるインク量が基準以上であることを示す場合に、前記特定条件が満たされると判断する、制御装置。
[適用例5]
適用例1~4のいずれかに記載の制御装置であって、
前記搬送部は、前記複数個のノズルよりも前記搬送方向の下流側で前記印刷媒体を保持する下流側保持部と、前記複数個のノズルよりも前記搬送方向の上流側で前記印刷媒体を保持する上流側保持部と、を備え、
前記第1の部分印刷が、前記下流側保持部によって前記印刷媒体が保持され、かつ、前記上流側保持部によって前記印刷媒体が保持されない状態で実行される場合に、前記特定条件が満たされると判断する、制御装置。
[適用例6]
適用例1~5のいずれかに記載の制御装置であって、
前記印刷制御部は、前記第2の場合には、前記第1の部分印刷の後に、前記媒体範囲よりも前記第1の部分印刷の印刷方向側に前記複数個のノズルが位置するように前記印刷ヘッドを移動させた後に、前記第1の印刷媒体の搬送を開始し、
前記第2の部分印刷の印刷方向は、前記第1の部分印刷の印刷方向の反対方向である、制御装置。
[適用例7]
適用例1~6のいずれかに記載の制御装置であって、
前記印刷実行部は、前記媒体範囲よりも特定方向側に配置されたインク受部を備え、
前記特定方向は、前記主走査方向に沿う2つの方向のうちの一方であり、
前記印刷制御部は、
フラッシング実行条件が満たされる場合であって、かつ、前記第1の部分印刷の印刷方向が前記特定方向である場合に、前記第1の部分印刷の後に、前記インク受部にインクを吐出させるフラッシングを実行させ、
フラッシング実行条件が満たされる場合であって、かつ、前記第1の部分印刷の印刷方向が前記特定方向とは反対方向である場合に、前記第2の部分印刷の後と前記第1の部分印刷の前とのいずれかに、前記インク受部にインクを吐出させるフラッシングを実行させる、制御装置。
[適用例8]
適用例1~7のいずれかに記載の制御装置であって、
前記判断部は、
前記印刷媒体の種類を特定し、
前記印刷媒体の種類が、特定の種類である場合に、前記特定条件が満たされると判断する、制御装置。
[適用例9]
インクを吐出する複数個のノズルを有する印刷ヘッドと、印刷媒体に対して主走査方向に沿って前記印刷ヘッドを移動させる主走査を実行する主走査部と、前記印刷ヘッドに対して前記主走査方向と交差する搬送方向に沿って前記印刷媒体を搬送させる搬送部と、を備える印刷実行部であって、前記主走査を行いつつ前記印刷ヘッドによって前記印刷媒体にドットを形成する部分印刷と、前記印刷媒体の搬送と、を複数回実行することで印刷を行う、前記印刷実行部を制御するためのコンピュータプログラムであって、
対象画像データを取得する取得機能と、
特定条件が満たされるか否かを判断する判断機能であって、前記特定条件が満たされる場合には前記特定条件が満たされない場合と比較して印刷中の前記印刷媒体が変形しやすい、前記判断機能と、
前記対象画像データを用いて前記印刷実行部に複数枚の印刷媒体に対する印刷を実行させる印刷制御機能と、
をコンピュータに実現させ、
前記印刷制御機能は、
第1の前記印刷媒体に対する最後の前記部分印刷である第1の部分印刷を実行させ、
前記第1の部分印刷の後に、前記第1の印刷媒体の搬送と、前記第1の印刷媒体の次に印刷される第2の前記印刷媒体の搬送と、を実行させ、
前記第2の印刷媒体の搬送後に、第2の前記印刷媒体に対する最初の前記部分印刷である第2の部分印刷を実行させ、
前記印刷制御機能は、
印刷中の前記第1の印刷媒体について前記特定条件が満たされない第1の場合には、前記第1の部分印刷の後に、前記印刷ヘッドが移動可能な前記主走査方向の特定範囲のうち、前記第1の印刷媒体が位置する媒体範囲内に前記複数個のノズルが位置する状態で、前記第1の印刷媒体の搬送を開始し、
前記特定条件が満たされる第2の場合には、前記第1の部分印刷の後に、前記特定範囲のうち、前記媒体範囲外に前記複数個のノズルが位置するように前記印刷ヘッドを移動させた後に、前記第1の印刷媒体の搬送を開始する、コンピュータプログラム。
【0009】
なお、本明細書に開示された技術は、種々の形態で実現可能であり、例えば、印刷装置、印刷実行部の制御方法、印刷方法、これらの装置および方法の機能を実現するためのコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した記録媒体、等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例のプリンタ200の構成を示すブロック図である。
【
図3】-Z側から見た印刷ヘッド110の構成を示す図である。
【
図5】搬送部140の概略構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
A.実施例:
A-1:プリンタ200の構成
次に、実施の形態を実施例に基づき説明する。
図1は、実施例のプリンタ200の構成を示すブロック図である。
【0012】
プリンタ200は、例えば、印刷機構100と、プリンタ200のコントローラとしてのCPU210と、ハードディスクドライブなどの不揮発性記憶装置220と、RAMなどの揮発性記憶装置230と、ユーザによる操作を取得するためのボタンやタッチパネルなどの操作部260と、液晶ディスプレイなどの表示部270と、通信部280と、を備えている。通信部280は、ネットワークNWに接続するための有線または無線のインタフェースを含む。プリンタ200は、通信部280を介して、外部装置、例えば、端末装置300と通信可能に接続される。
【0013】
揮発性記憶装置230は、CPU210が処理を行う際に生成される種々の中間データを一時的に格納するバッファ領域231を提供する。不揮発性記憶装置220には、コンピュータプログラムPGが格納されている。コンピュータプログラムPGは、本実施例では、プリンタ200を制御するための制御プログラムである。コンピュータプログラムPGは、プリンタ200の出荷時に不揮発性記憶装置220に格納されて提供され得る。これに代えて、コンピュータプログラムPGは、サーバからダウンロードされる形態で提供されても良く、DVD-ROMなどに格納される形態で提供されてもよい。CPU210は、コンピュータプログラムPGを実行することにより、例えば、後述する印刷処理を実行する。これによって、CPU210は、印刷機構100を制御して印刷媒体(例えば、用紙)上に画像を印刷する。
【0014】
印刷機構100は、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、ブラック(K)のそれぞれのインク(液滴)を用いてドットを用紙M上に形成可能であり、これによってカラー印刷を行う。印刷機構100は、印刷ヘッド110とヘッド駆動部120と主走査部130と搬送部140とインク供給部150とを備えている。
【0015】
図2は、印刷機構100の概略構成を示す図である。
図2に示すように、主走査部130は、キャリッジ133と、摺動軸134と、ベルト135と、複数個のプーリ136、137と、を備えている。キャリッジ133は、印刷ヘッド110を搭載する。摺動軸134は、キャリッジ133を主走査方向(
図2のX軸方向)に沿って往復動可能に保持する。ベルト135は、プーリ136、137に巻き掛けられ、一部がキャリッジ133に固定されている。プーリ136は、図示しない主走査モータの動力によって回転する。主走査モータがプーリ136を回転させると、キャリッジ133が摺動軸134に沿って移動する。これによって、用紙Mに対して主走査方向に沿って印刷ヘッド110を往復動させる主走査が実現される。
【0016】
図2には、印刷ヘッド110が移動可能な主走査方向の範囲(移動可能範囲とも呼ぶ)MRが図示されている。移動可能範囲MRは、用紙範囲PRと、ホーム側範囲HRと、フラッシング側範囲FRと、を含む。用紙範囲PRは、搬送部140によって搬送される用紙Mが位置する範囲である。ホーム側範囲HRとフラッシング側範囲FRとは、用紙範囲PRの外側の範囲である。
【0017】
ホーム側範囲HRは、用紙範囲PRよりも-X側の範囲であり、印刷ヘッド110のホームポジションを含む範囲である。印刷ヘッド110のホームポジションは、印刷指示の待ち受け期間などにおいて印刷ヘッド110が待機する位置である。印刷ヘッド110がホームポジションにある場合には、印刷ヘッド110のノズル形成面111は、図示しないノズルキャップで覆われる。
【0018】
フラッシング側範囲FRは、用紙範囲PRよりも+X側の範囲であり、後述するフラッシングの際に印刷ヘッド110から吐出されるインクを受けるインク受部170(
図2では図示省略)が配置される範囲である。
【0019】
図2には、移動可能範囲MRの+X側の端まで移動した状態のキャリッジ133および印刷ヘッド110が、符号133L、110Lが付された破線で図示されている。移動可能範囲MRの-X側の端まで移動した状態のキャリッジ133および印刷ヘッド110が、符号133L、110Lが付された破線で図示されている。これから解るように、キャリッジ133は、印刷ヘッド110の全体が用紙範囲PRよりも+X側に位置するように移動可能であり、かつ、印刷ヘッド110の全体が用紙範囲PRよりも-X側に位置するように移動可能である。
【0020】
インク供給部150は、印刷ヘッド110にインクを供給する。インク供給部150は、カートリッジ装着部151と、チューブ152と、を備えている。カートリッジ装着部151には、内部にインクが収容された容器である複数個のインクカートリッジMC、CC、YC、KCが着脱可能に装着され、これらのインクカートリッジからインクが供給される。各インクカートリッジ内のインクは、カートリッジ装着部151とチューブ152とを介して、印刷ヘッド110に供給される。
【0021】
図3は、-Z側から見た印刷ヘッド110の構成を示す図である。
図3に示すように、印刷ヘッド110のノズル形成面111は、搬送部140によって搬送される用紙Mと対向する面である。ノズル形成面111には、複数のノズルNZからなる複数のノズル列、すなわち、上述したC、M、Y、Kの各インクを吐出するノズル列NK、NY、NC、NMが形成されている。各ノズル列は、複数個のノズルNZを含んでいる。複数個のノズルNZは、搬送方向(-Y方向)の位置が互いに異なり、搬送方向に沿って所定のノズル間隔NTで並ぶ。ノズル間隔NTは、複数のノズルNZの中で搬送方向に隣り合う2個のノズルNZ間の搬送方向の長さである。これらのノズル列を構成するノズルのうち、最も上流側(+Y側)に位置するノズルNZを、最上流ノズルNZuとも呼ぶ。また、これらのノズルのうち、最も下流側(-Y側)に位置するノズルNZを、最下流ノズルNZdと呼ぶ。最上流ノズルNZuから最下流ノズルNZdまでの搬送方向の長さに、さらに、ノズル間隔NTを加えた長さを、ノズル長Dとも呼ぶ。
【0022】
ノズル列NK、NY、NC、NMの主走査方向の位置(X方向の位置)は、互いに異なり、副走査方向の位置は、互いに重複している。例えば、
図3の例では、X方向の上流側から下流側に向かって、ノズル列NK、NY、NC、NMの順で配置されている。
【0023】
各ノズルNZは、印刷ヘッド110の内部に形成されたインク流路(図示省略)に接続されている。印刷ヘッド110の内部の各インク流路に沿ってインクを吐出させるためのアクチュエータ(図示省略、本実施例では、圧電素子)が設けられている。
【0024】
ヘッド駆動部120(
図1)は、主走査部130による主走査中にCPU210から供給される印刷データに従って印刷ヘッド110内の各アクチュエータを駆動する。これによって、搬送部140によって搬送される用紙M上に印刷ヘッド110のノズルNZからインクが吐出されて、ドットが形成される。ヘッド駆動部120は、アクチュエータに供給する駆動電圧を変更することで、複数種類のサイズのドットを用紙M上に形成できる。
【0025】
搬送部140は、用紙Mを保持しつつ、搬送方向(
図2の-Y方向)に用紙Mを搬送する。
図4、
図5は、搬送部140の概略構成を示す図である。
図4(A)に示すように、搬送部140は、用紙台141と、用紙を保持して搬送するための上流ローラ対147と、下流ローラ対148と、複数個の押さえ部材146と、を備えている。なお、
図4(A)において、ノズル領域NAは、ノズル列NK、NY、NC、NMが形成されている領域である。
【0026】
上流ローラ対147は、印刷ヘッド110よりも搬送方向の上流側(+Y側)に設けられ、下流ローラ対148は、印刷ヘッド110よりも搬送方向の下流側(-Y側)に設けられている。上流ローラ対147は、図示しない搬送モータによって駆動される駆動ローラ147aと、駆動ローラ147aの回転に従って回転する従動ローラ147bと、を含む。同様に、下流ローラ対148は、駆動ローラ148aと従動ローラ148bと、を含む。なお、従動ローラに代えて、板部材を採用し、駆動ローラと板部材とによって用紙を保持する構成を採用しても良い。
【0027】
用紙台141は、上流ローラ対147と、下流ローラ対148と、の間の位置であって、かつ、印刷ヘッド110のノズル形成面111と対向する位置に配置されている。複数個の押さえ部材146は、上流ローラ対147と、印刷ヘッド110と、の間に配置されている。
【0028】
図5(A)、
図5(B)には、用紙台141と複数個の押さえ部材146との斜視図が示されている。
図5(A)は、用紙Mが支持されていない状態を示し、
図5(B)は、用紙Mが支持された状態を示している。用紙台141は、複数個の高支持部材142と、複数個の低支持部材143と、平板144と、備えている。
【0029】
平板144は、主走査方向(X方向)と搬送方向(-Y方向)とにほぼ平行な板部材である。平板144の+Y側の端は、上流ローラ対147の近傍に位置している。平板144の-Y側の端は、下流ローラ対148の近傍に位置している。
【0030】
図5(A)に示すように、複数個の高支持部材142と複数個の低支持部材143は、平板144上に、X方向に沿って交互に並んでいる。すなわち、各低支持部材143は、該低支持部材に隣接する2個の高支持部材142の間に配置されている。各支持部材142、143は、Y方向に沿って延びるリブである。
図4(A)に示すように、各高支持部材142の+Y側の端は、平板144の+Y側の端に位置している。各高支持部材142の-Y側の端部は、平板144のY方向の中央部に位置している。各低支持部材143のY方向の両端の位置は、高支持部材142のY方向の両端の位置と同じである。
【0031】
複数個の押さえ部材146は、複数個の低支持部材143の+Z側の位置に配置されている。複数個の押さえ部材146のX方向の位置は、複数個の低支持部材143のX方向の位置と同じである。すなわち、各押さえ部材146のX方向の位置は、該押さえ部材に隣接する2個の高支持部材142の間に位置している。複数個の押さえ部材146は、-Y方向に向かうほど低支持部材143に近づくように傾斜した板部材である。複数個の押さえ部材146の-Y側の端部は、印刷ヘッド110の+Y側の端部と、上流ローラ対147と、の間に位置している。
【0032】
図5(B)に示すように、用紙Mの搬送時には、複数個の高支持部材142と、複数個の低支持部材143は、印刷面とは反対側の面Mb側から、用紙Mを支持し、複数個の押さえ部材146は、印刷面Ma側から、用紙Mを支持する。このように、複数個の高支持部材142と、複数個の低支持部材143と、複数個の押さえ部材146と、は、印刷ヘッド110のノズル形成面111と対向する位置において用紙MをX方向に沿って波状に変形させた状態で保持する(
図5(B))。そして、用紙Mは、波状に変形された状態で、搬送方向(-Y方向)に搬送される。用紙Mを波状に変形させると、Y方向に沿った変形に対する用紙Mの剛性を高めることができる。この結果、用紙MがY方向に沿って反るように変形して、用紙Mが用紙台141から印刷ヘッド110側へ浮き上がることや、用紙Mが用紙台141側へ垂れさがることを抑制することができる。用紙Mが浮き上がると、あるいは、用紙Mが垂れさがると、ドットの形成位置のずれによって、印刷画像の画質低下、例えば、バンディングによる画質低下が引き起こされ得る。また、用紙Mが浮き上がると、印刷ヘッド110に用紙が接触して、用紙Mが汚れ得る。
【0033】
なお、
図4には、2種類の用紙Mの保持状態、具体的には、両側保持状態(
図2(A))と片側保持状態(
図2(B))とが図示されている。1枚の用紙Mに対して画像を印刷する際に、用紙Mの搬送方向の上流端(+Y側の端)の近傍を印刷する際に、用紙Mの保持状態は、
図4(A)の両側保持状態から、
図4(B)の片側保持状態へと遷移する。
【0034】
図4(A)の下流ローラ対148は、印刷ヘッド110のノズルNZよりも下流側(-Y側)で用紙Mを保持する下流側保持部と言うことができる。
図4(A)の上流ローラ対147、および、押さえ部材146と低支持部材143は、印刷ヘッド110のノズルNZよりも上流側(+Y側)で用紙Mを保持する上流側保持部と言うことができる。
【0035】
図4(A)の両側保持状態は、用紙Mが、下流側保持部によって保持され、かつ、上流側保持部によって保持される状態である。
図4(B)の片側保持状態は、用紙Mが、下流側保持部によって保持され、かつ、上流保持部によって保持されない状態である。
【0036】
A-2.退避位置とフラッシング位置
ここで、印刷ヘッド110が移動可能な主走査方向の位置のうち、退避位置とフラッシング位置とについて説明する。以下では、単に、印刷ヘッド110の位置と言う場合には、印刷ヘッド110の主走査方向の位置(X方向の位置)を意味する。
【0037】
図6は、印刷ヘッド110の位置の説明図である。なお、
図6では、図の煩雑を避けるために、印刷ヘッド110と用紙Mとインク受部170とだけが図示され、キャリッジ133などの他の構成の図示は省略されている。
図6(A)には、フラッシング側退避位置FEPにある印刷ヘッド110が図示されている。フラッシング側退避位置FEPでは、印刷ヘッド110は、用紙範囲PRより+X側のフラッシング側範囲FRに、印刷ヘッド110の全体が位置している。
図6(B)には、ホーム側退避位置HEPにある印刷ヘッド110が図示されている。ホーム側退避位置HEPでは、印刷ヘッド110は、用紙範囲PRより-X側のホーム側範囲HRに、印刷ヘッド110の全体が位置している。退避位置FEP、HEPに印刷ヘッド110が位置している場合には、インクの染みこみなどに起因して用紙Mの撓みや曲がりが発生したとしても用紙Mの一部が印刷ヘッド110のノズル形成面111やノズルNZに接触することを抑制できる。用紙Mの一部がノズル形成面111やノズルNZに接触すると、用紙Mにインクが付着して用紙Mが汚れる不具合やノズルNZに傷などの損傷が生じる不具合が発生する。
【0038】
図6(C)には、フラッシング停止位置FLPにある印刷ヘッド110が図示されている。フラッシング停止位置FLPは、フラッシング可能な印刷ヘッド110の位置のうち、最も+X側の位置である。ここで、フラッシングは、複数個のノズルNZのそれぞれからインク受部170の吐出範囲FA内の部分にインクを吐出する処理である。これにより、ノズルNZの詰まりが抑制される。ノズルNZの詰まりは、インクがノズルNZから吐出されない不具合、あるいは、想定より少量しか吐出されない不具合を引き起こす。
【0039】
インク受部170は、
図6(C)に示すように、+X側が低く、-X側が高くなるように傾斜した部材である。吐出範囲FA内に吐出されたインクIk(
図6(C))は、インク受部170の表面に沿って下方(-Z方向)に流れ落ちる。吐出範囲FAより+X側にインクIkが吐出されると、ノズルNZからインク受部170までの距離が過度に長くなるので、インクIkがインク受部170に到達するまでに空気抵抗によって減速して、プリンタ200の筐体内を浮遊する不具合が発生し得る。吐出範囲FAより-X側にインクIkが吐出されると、ノズルNZからインク受部170までの距離が過度に短くなるので、吐出されたインクIkが跳ね返り等によってノズル形成面111に付着する不具合が発生し得る。このために、吐出範囲FAは比較的狭い範囲となっている。
図6(C)のフラッシング停止位置FLPでは、ノズル列NK、NY、NC、NMのうち、最も-X側に位置するノズル列NKがフラッシングを行うことができる。
【0040】
図6(D)には、主走査フラッシング中の位置にある印刷ヘッド110の一例が示されている。主走査フラッシングは、主走査を行いつつ、吐出範囲FAにインクIkを吐出可能な位置にあるノズルNZからインクIkを吐出してフラッシングを行う処理である。
図6(D)の位置では、ノズル列NK、NY、NC、NMのうち、最も+X側に位置するノズル列NMがフラッシングを行うことができる。例えば、
図6(C)のフラッシング停止位置FLPから
図6(D)の位置までの-X方向の主走査の最中に、ノズル列NK、NY、NC、NMの順で全てのノズルについて、フラッシングを行うことができる。もしくは、
図6(D)の位置から、
図6(C)のフラッシング停止位置FLPまでの+X方向の主走査の最中に、ノズル列NM、NC、NY、NKの順で全てのノズルについて、フラッシングを行うことができる。前者を-X方向の主走査中フラッシングとも呼び、後者を+X方向の主走査中フラッシングとも呼ぶ。
【0041】
なお、インク受部170は、フラッシング側範囲FRのうち、用紙範囲PRの近傍に位置している。このために、
図6(D)の印刷ヘッド110の位置では、印刷ヘッド110のうち、ノズル列NMを含む+X側の部分はフラッシング側範囲FRに位置し、ノズル列NKを含む-X側の部分は、用紙範囲PRに位置している。このために、
図6(D)の印刷ヘッド110の位置では、印刷ヘッド110は、ノズル列NMからインク受部170にインクIkを吐出するフラッシングを行いつつ、ノズル列NKから用紙MにインクIkを吐出して用紙M上にドットを形成することができる。
【0042】
A-3.印刷の概要
CPU210は、ヘッド駆動部120と、主走査部130と、搬送部140と、を制御して、部分印刷SPとシート搬送TRとを、交互に繰り返し複数回に亘って実行させることによって印刷を行う。1回の部分印刷SPでは、用紙Mをプラテン上に停止した状態で、1回の主走査MSが行われている最中に、印刷ヘッド110のノズルNZから用紙M上にインクが吐出されることによって、印刷すべき画像の一部分が用紙Mに印刷される。1回のシート搬送TRは、所定の搬送量(例えば、ノズル長D)だけ用紙Mを搬送方向ARに移動させる搬送である。
【0043】
図7は、印刷機構100による印刷の説明図である。
図7には、1ページ目の第1印刷画像OI1と、2ページ目の第2印刷画像OI2と、が図示されている。第1印刷画像OI1は、第1の用紙M1に印刷される。第2印刷画像OI2は、第1印刷画像OI1が第1の用紙M1に印刷された後に、第2の用紙M2に印刷される。
図7には、さらに、第1の用紙M1の印刷領域IA1と、第2の用紙M2の印刷領域IA2と、が図示されている。印刷領域IA1、IA2は、用紙M1、M2上の印刷可能な領域を示す。
【0044】
第1印刷画像OI1は、複数個の部分画像PI1~PI3を含んでいる。第2印刷画像OI2は、複数個の部分画像PI4、PI5を含んでいる。各部分画像は、1回の部分印刷SPによって印刷される画像である。部分印刷SPの印刷方向は、フラッシング位置方向(FL方向とも呼ぶ)と、その反対のホームポジション方向(HP方向とも呼ぶ)と、のいずれかである。FL方向は、ホーム側範囲HRの側からフラッシング側範囲FRの側に向かって用紙範囲PRを横断する方向である。HP方向は、フラッシング側範囲FRの側からホーム側範囲HRの側に向かって用紙範囲PRを横断する方向である。部分印刷SPは、FL方向(
図7の+X方向)の主走査を行いつつドットを形成する部分印刷SPと、HP方向(
図7の-X方向)の主走査を行いつつドットを形成する部分印刷SPと、のいずれかである。
【0045】
図7の部分画像PIk(kは、1~5の整数)を印刷する部分印刷SPを部分印刷SPkと呼ぶ。部分印刷SPkと、部分印刷SP(k+1)と、の間に行われるシート搬送TRを、シート搬送TRkと呼ぶ。部分印刷SPkによって印刷可能な領域を部分領域PAkと呼ぶ。
【0046】
図7には、部分印刷SP1~SP5にて行われる主走査MS1~MS5がX方向の矢印で示されている。主走査MS1~MS5を示す矢印の方向は、主走査の方向を示し、FL方向(+X方向)とHP方向(-X方向)とのうちのいずれかである。
【0047】
図7には、さらに、部分印刷SP1~SP4の後に行われるシート搬送TR1~TR4が-Y方向の矢印で示されている。シート搬送TR1、TR2、TR4の搬送量は、ノズル長Dである。
図4には、さらに、部分印刷SP1~SP5に対応する部分領域PA1~PA5が示されている。
【0048】
ここで、本明細書では、部分画像PIkは、用紙M1、M2上にドットで形成される画像を意味する。このために、用紙M1、M2の色を有する部分、例えば、白色の背景は、部分画像PIkには含まれない。
図7では、図の煩雑を避けるために、部分領域PAkのうち、部分画像PIkの-X側の端から+X側の端までの矩形の領域が、部分画像PIkとしてハッチングで示されている。
【0049】
部分画像PI3を印刷する部分印刷SP3は、第1の用紙M1に対する最後の部分印刷SPである。部分印刷SP3の後に行われるシート搬送TR3は、第1の用紙M1の搬送(排紙)と、第1の用紙M1の次に印刷される第2の用紙M2の搬送(給紙)とを含む。部分画像PI4を印刷する部分印刷SP4は、第2の用紙M2に対する最初の部分印刷SPである。
【0050】
図7に示す主走査MS1~MS5の方向から解るように、本実施例の印刷は、FL方向で行われる部分印刷SP1、SP3、SP5と、HP方向で行われる部分印刷SP2、SP4と、を含む、いわゆる双方向印刷である。双方向印刷は、例えば、FL方向の部分印刷のみが繰り返し実行される片方向印刷よりも印刷時間を短縮できる。片方向印刷では、FL方向の部分印刷の後、次の部分印刷も必ずFL方向で行われるために、部分印刷を行うことなく、印刷ヘッド110をHP方向に移動させる必要があるが、双方向印刷では、その移動を省略可能であるためである。
【0051】
A-4.印刷処理
図8は、実施例の印刷処理のフローチャートである。プリンタ200のCPU210は、例えば、端末装置300(
図1)から印刷指示を受信した場合に、印刷処理を開始する。
【0052】
S100では、CPU210は、端末装置300から印刷データを受信することによって、印刷データを取得する。印刷データは、例えば、色成分ごと、かつ、画素ごとに、ドットの形成状態を示すデータ(ドットデータ)である。ドットの形成状態は、例えば、「ドット有り」と「ドット無し」とのいずれかである。これに代えて、ドットの形成状態は、「大ドット」、「中ドット」、「小ドット」、「ドット無し」のいずれかであっても良い。本実施例では、印刷データは、複数の用紙Mに印刷すべき複数のページ分の画像を示すドットデータを含む。
【0053】
S105では、CPU210は、搬送部140を制御して、給紙を実行させる。給紙では、図示しない印刷トレイから1枚の用紙Mが、所定の初期位置まで搬送される。
【0054】
S110では、CPU210は、次に実行すべき部分印刷SP(注目部分印刷とも呼ぶ)が、現在の印刷中の用紙に対する最後の部分印刷SPであるか否かを判断する。例えば、注目部分印刷が、
図7の部分画像PI3を印刷する部分印刷SP3である場合には、注目部分印刷が、最後の部分印刷SPであると判断される。
【0055】
注目部分印刷が最後の部分印刷SPである場合には(S110:YES)、S140にて、CPU210は、現在印刷中の用紙Mに対する印刷の後に、次の用紙Mに対する印刷を行うか否かを判断する。すなわち、例えば、注目部分印刷が、
図7の部分画像PI3を印刷する部分印刷SP3である場合には、続いて、第2の用紙M2に対して第2印刷画像OI2を印刷すべきであるので、次の用紙に対する印刷を行うと判断される。
【0056】
次の用紙に対する印刷を行う場合には(S140:YES)、S145にて、CPU210は、用紙間処理を実行する。用紙間処理によって、現在印刷中の用紙M(例えば、第1の用紙M1)に対する最後の部分印刷SPと、次の用紙M(例えば、第2の用紙M2)に対する最初の部分印刷SPと、が実行される。用紙間処理については、後述する。
用紙間処理が終了すると、CPU210は、S110に戻る。
【0057】
注目部分印刷が最後の部分印刷SPでない場合(S110:NO)、および、次の用紙に対する印刷を行わない場合には(S140:NO)、CPU210は、S115に処理を進める。S115では、CPU210は、注目印刷方向を、直前の部分印刷の印刷方向とは反対方向に決定する。
【0058】
S120では、CPU210は、注目部分印刷の主走査の停止位置を決定する。具体的には、CPU210は、注目部分印刷の主走査範囲SRの注目印刷方向の下流端を特定する。主走査範囲SRは、部分印刷において、部分画像PIを印刷するために実行することが必要となる主走査MSの範囲である。注目主走査範囲の-X側の端の位置は、注目部分画像の-X側の端よりも所定長PD分-X側の位置である。注目主走査範囲の+X側の端の位置は、注目部分画像の+X側の端よりも所定長さPD分だけ+X側の位置である。
図7には、部分画像PI1~PI5を印刷するための主走査範囲SR1~SR5が図示されている。点Pl1~Pr5は、主走査範囲SR1~SR5の+X側の端を示し、点Pr1~Pr5は、主走査範囲SR1~SR5の-X側の端を示す。例えば、
図7に示すように、部分画像PI1を印刷するための主走査範囲SR1は、部分画像PI1よりも所定長PD分ずつ両側に広い。所定長PDは、停止中の印刷ヘッド110が主走査の開始時に部分印刷に要する速度まで加速するために必要な移動距離であり、主走査中の印刷ヘッド110が部分印刷を終えてから停止するまでに必要な移動距離でもある。
【0059】
注目部分印刷の主走査範囲SRが
図7の主走査範囲SR1である場合には、注目印刷方向はFL方向(+X方向)であるので、主走査範囲SR1の+X側の端Pl1が特定される。CPU210は、注目部分印刷の次の部分印刷の主走査範囲SRの注目印刷方向の下流端を特定する。注目部分印刷の主走査範囲SRが
図7の主走査範囲SR1である場合には、主走査範囲SR2の+X側の端Pl2が特定される。CPU210は、2つの端のうち、注目印刷方向の下流側の端の位置を注目部分印刷の主走査の停止位置として決定する。注目部分印刷の主走査範囲SRが
図7の主走査範囲SR1である場合には、主走査範囲SR1の+X側の端Pl1は、主走査範囲SR2の端Pl2よりもFL方向の下流側(+X側)にある。このために、この場合には、主走査範囲SR1の+X側の端Pl1のX方向の位置が、主走査MS1の停止位置として決定される。
【0060】
注目部分印刷の主走査範囲SRが
図7の主走査範囲SR2である場合には、主走査範囲SR2の-X側の端Pr2と、主走査範囲SR3の-X側の端Pr3と、が比較される。そして、主走査範囲SR3の-X側の端Pr3は、主走査範囲SR2の-X側の端Pr2よりもHP方向の下流側(-X側)にあるので、主走査範囲SR3の-X側の端Pr3のX方向の位置が、主走査MS2の停止位置として決定される。
【0061】
S125では、CPU210は、印刷データのうち、注目部分印刷にて印刷すべき部分画像を示すドットデータを用いて、印刷機構100に注目部分印刷を実行させる。この時点で、印刷ヘッド110は、前回の部分印刷SPの主走査の停止位置に停止している。このために、印刷機構100は、前回の部分印刷SPの主走査の停止位置から注目部分印刷の主走査の停止位置まで、注目印刷方向に印刷ヘッド110を移動させる主走査を行いつつ、ノズルNZからインクIkを吐出することによって、注目部分印刷を実行する。S130では、CPU210は、印刷機構100にノズル長Dだけ用紙Mを搬送させる。例えば、注目部分印刷が、
図7の部分画像PI1を印刷する部分印刷SP1である場合には、S125にて、主走査MS1を実行しつつ、部分画像PI1が印刷され、その後のS130にて、シート搬送TR1が実行される。
【0062】
S135では、CPU210は、全ての部分印刷が終了して印刷が完了したか否かを判断する。印刷が完了していない場合には(S135:NO)、CPU210は、S110に戻る。印刷が完了した場合には(S135:YES)、CPU210は、印刷処理を終了する。
【0063】
A-5.用紙間処理
次に
図8のS145の用紙間処理について説明する。
図9、
図10は、用紙間処理のフローチャートである。
図9のS205では、CPU210は、注目部分印刷の印刷方向(注目印刷方向)を、直前の部分印刷の印刷方向とは反対方向に決定する。
【0064】
S210では、CPU210は、印刷データのうち、注目部分印刷にて印刷すべき部分画像を示すドットデータを用いて、ドット形成数DNを算出する。ドット形成数DNは、注目部分印刷にて形成すべきCMYKの各ドットの総数である。ドット形成数DNは、注目部分印刷にて使用されるインク量を示す指標値である、と言うことができる。
【0065】
S215では、注目印刷方向は、FL方向であるか否かを判断する。注目印刷方向がFL方向でない場合、すなわち、注目印刷方向がHP方向である場合には(S215:NO)、
図10のS305に処理を進める。注目印刷方向がFL方向である場合には(S215:YES)、S220に処理を進める。
【0066】
S220では、CPU210は、フラッシング実行条件が満たされる否かを判断する。例えば、前回のフラッシングの実行時からの経過時間が基準時間以上(例えば、10秒以上)である場合には、フラッシング実行条件が満たされると判断される。これに代えて、例えば、前回のフラッシングの実行時からのインクの使用量が基準以上である場合や、前回のフラッシングの実行時からの印刷枚数が基準以上である場合に、フラッシング実行条件が満たされると判断されても良い。フラッシング実行条件が満たされる場合には(S220:YES)、CPU210は、フラッシングを行うS225~S240の処理を実行する。
【0067】
フラッシング実行条件が満たされない場合には(S220:NO)、S245、S250にて、注目部分印刷後のシート搬送TR時における印刷ヘッド110の退避を行うか否かが判断される。印刷ヘッド110の退避は、印刷ヘッド110を用紙範囲PR外に移動させることである。印刷ヘッド110を退避させることによって、インクIkの染みこみに起因して用紙Mの過度な変形が生じた場合に、変形した用紙Mが印刷ヘッド110のノズル形成面111に接触することを抑制できる。このために、用紙Mが変形しやすい場合には、印刷ヘッド110を退避させることが好ましく、用紙Mが変形し難い場合には、印刷ヘッド110を退避させる必要はない。
【0068】
S245では、CPU210は、現在の用紙Mの保持状態、すなわち、注目部分印刷が行われる際の用紙Mの保持状態が、片側保持状態(
図4(B))であるか、両側保持状態(
図4(A))であるか、を判断する。例えば、印刷中の用紙Mの搬送方向ARの上流側(例えば、
図7の下側)の余白が基準よりも大きい場合には、印刷中の用紙Mに対する最後の部分印刷は、両側保持状態で行われ、該余白が基準以下である場合には、片側保持状態で行われる。用紙Mの保持状態が片側保持状態である場合には(S245:YES)、インクIkの吐出量によっては用紙Mの変形が発生すると考えられる。このために、この場合には、S250にて、CPU210は、S210にて算出済みのドット形成数DNが閾値THd以上であるか否かを判断する。ドット形成数DNが閾値THd以上である場合には(S250:YES)、インクIkの染みこみに起因して用紙Mが変形しやすいと考えられる。したがって、この場合には、CPU210は、印刷ヘッド110の退避を行い、フラッシングを行わないS255~S270の処理を実行する。
【0069】
用紙Mの保持状態が両側保持状態である場合には(S245:NO)、インクIkの吐出量に拘わらずに、用紙Mは変形し難い。また、用紙Mの保持状態が片側保持状態であっても(S245:YES)、ドット形成数DNが閾値THd未満である場合には(S250:NO)、用紙Mは変形し難いと考えられる。したがって、これらの場合には、CPU210は、印刷ヘッド110の退避もフラッシングも行わないS275~S290の処理を実行する。
【0070】
以上の説明から解るように、印刷ヘッド110を退避させるか否かを判断するためにS245、S250にて判断される特定条件は、該特定条件が満たされる場合には、該特定条件が満たされない場合と比較して、印刷中の用紙Mが変形しやすいことを示す条件である。
【0071】
図11は、用紙間処理の第1の説明図である。
図11(A)には、フラッシングを行う
図9のS225~S240の処理が図示されている。S225では、CPU210は、注目部分印刷の主走査の停止位置をフラッシング停止位置FLP(
図6(C))に決定する。S230では、CPU210は、注目部分印刷、すなわち、印刷中の用紙Mに対する最後の部分印刷SPを印刷機構100に実行させる。
図11(A)の例では、印刷機構100は、FL方向の主走査MS3を行いつつ、第1の用紙M1の最後の部分印刷SP3を実行する。主走査MS3の停止位置は、
図11(A)に示すように、フラッシング停止位置FLPである。
【0072】
S235では、CPU210は、排紙と給紙とを印刷機構100に実行させる。
図11(A)の例では、シート搬送TR3として示すように、印刷機構100は、印刷が完了した第1の用紙M1を排紙するとともに、次の第2の用紙M2を給紙する。S240では、CPU210は、フラッシングと次の用紙Mに対する最初の部分印刷SPとを印刷機構100に実行させる。
図11(A)の例では、フラッシング停止位置FLPからHP方向に向かって主走査MS4が実行され、フラッシング(
図6(C)、
図6(D))と、部分画像PI4を印刷する部分印刷SP4と、が実行される。
【0073】
なお、
図9のフローチャートから解るように、フラッシングが実行されると判断される場合(S220にてYES)には、印刷ヘッド110を退避するか否かの判断(S245、S250)の判断は行われていない。これは、フラッシングが実行される場合には、印刷ヘッド110をフラッシング停止位置FLPまで移動させるので、印刷ヘッド110は、用紙範囲PR外に退避していることになるためである。
【0074】
図11(B)には、印刷ヘッド110の退避を行い、フラッシングを行わないS255~S270の処理が図示されている。S255では、CPU210は、注目部分印刷の主走査の停止位置をフラッシング側退避位置FEP(
図6(A))に決定する。S260では、CPU210は、注目部分印刷、すなわち、印刷中の用紙Mに対する最後の部分印刷SPを印刷機構100に実行させる。
図11(B)の例では、印刷機構100は、FL方向の主走査MS3を行いつつ、第1の用紙M1の最後の部分印刷SP3を実行する。主走査MS3の停止位置は、
図11(B)に示すように、フラッシング側退避位置FEPである。
【0075】
S265では、S235と同様に、CPU210は、排紙と給紙とを印刷機構100に実行させる。
図11(B)の例では、シート搬送TR3が、当該給紙と排紙を示している。S270では、CPU210は、次の用紙Mに対する最初の部分印刷SPを印刷機構100に実行させる。
図11(B)の例では、フラッシング側退避位置FEPからHP方向に向かって主走査MS4が実行され、部分画像PI4を印刷する部分印刷SP4が実行される。
【0076】
S255~S270の処理では、フラッシング側退避位置FEPがフラッシング停止位置FLPよりも-X側にある分だけ、主走査MS3、MS4における印刷ヘッド110の移動距離が短くできる。したがって、フラッシングを行うS225~S240の処理を行う場合よりも印刷時間を短くできる。
【0077】
図7には、印刷ヘッド110の退避もフラッシングも行わないS275~S290の処理が図示されている。S275では、CPU210は、主走査範囲SRのFL方向の端の位置に基づいて、主走査の停止位置を決定する。
【0078】
具体的には、CPU210は、注目部分印刷にて印刷される部分画像PIのFL方向の端(+X側)の端を特定し、当該部分画像PIの端より所定長PD分だけFL方向の位置を、注目部分印刷の主走査範囲SRのFL方向の端として特定する。CPU210は、次の部分印刷にて印刷される部分画像PIのFL方向の端(+X側)の端を特定し、当該部分画像PIの端より所定長PD分だけFL方向の位置を、次の部分印刷の主走査範囲SRのFL方向の端として特定する。そして、CPU210は、注目部分印刷の主走査範囲SRのFL方向の端と、次の部分印刷の主走査範囲SRのFL方向の端と、のうち、FL方向側(+X側)の位置に、主走査の停止位置を決定する。
【0079】
図7の例では、注目部分印刷、すなわち、第1の用紙M1に対する最後の部分印刷SP3の主走査範囲SR3の+X側の端Pl3は、第2の用紙M2に対する最初の部分印刷SP4の主走査範囲SR4の+X側の端Pl4よりも+X側にある。このために、主走査の停止位置は、主走査範囲SR3の+X側の端Pl3に決定される。S280では、CPU210は、注目部分印刷、すなわち、印刷中の用紙Mに対する最後の部分印刷SPを印刷機構100に実行させる。
図7の例では、印刷機構100は、FL方向の主走査MS3を行いつつ、第1の用紙M1の最後の部分印刷SP3を実行する。主走査MS3の停止位置は、
図7に示すように、主走査範囲SR3の+X側の端Pl3である。
【0080】
S285では、S235と同様に、CPU210は、排紙と給紙とを印刷機構100に実行させる。
図7の例では、シート搬送TR3が、当該給紙と排紙を示している。S290では、CPU210は、次の用紙Mに対する最初の部分印刷SPを印刷機構100に実行させる。
図7の例では、主走査範囲SR3の+X側の端Pl3からHP方向に向かって主走査MS4が実行され、部分画像PI4を印刷する部分印刷SP4が実行される。
【0081】
S275~S290の処理では、注目部分印刷にて印刷ヘッド110をフラッシング側退避位置FEPよりも-X側の位置で停止させる分だけ、主走査MS3、MS4における印刷ヘッド110の移動距離が短くできる。したがって、印刷ヘッド110の退避を行うS255~S270の処理を行う場合よりも印刷時間を短くできる。
【0082】
図10のS305~S405の処理は、注目印刷方向がHP方向である場合(S215:NO)、すなわち、印刷中の用紙Mに対する最後の部分印刷SPの印刷方向がHP方向である場合に実行される処理である。
【0083】
S305では、
図9のS220と同様に、CPU210は、フラッシング実行条件が満たされるか否かを判断する。フラッシング実行条件が満たされる場合には(S305:YES)、CPU210は、
図9のS245、S250と同様に、S310、S315にて、注目部分印刷後のシート搬送TR時における印刷ヘッド110の退避を行うか否かが判断される。このように、注目印刷方向がFL方向である場合と異なり、フラッシングを実行する場合であっても印刷ヘッド110の退避を行うか否かが判断される。これは、注目印刷方向がHP方向である場合には、後述するようにフラッシングが実行されるのは、次の用紙Mに対する最初の部分印刷SPにおいて印刷ヘッド110がフラッシング停止位置FLPに向かって移動するときであるので、注目部分印刷にて印刷ヘッド110をフラッシング停止位置FLPまで移動しておく必要はないためである。
【0084】
S310では、CPU210は、現在の用紙Mの保持状態、すなわち、注目部分印刷が行われる際の用紙Mの保持状態が、片側保持状態(
図4(B))であるか、両側保持状態(
図4(A))であるか、を判断する。用紙Mの保持状態が片側保持状態である場合には(S310:YES)、S315にて、CPU210は、ドット形成数DNが閾値THd以上であるか否かを判断する。ドット形成数DNが閾値THd以上である場合には(S315:YES)、CPU210は、印刷ヘッド110の退避を行い、かつ、フラッシングを行うS320~S335の処理を実行する。
【0085】
用紙Mの保持状態が両側保持状態である場合(S310:NO)、および、ドット形成数DNが閾値THd未満である場合には(S315:NO)、CPU210は、印刷ヘッド110の退避を行わず、フラッシングを行うS340~S355の処理を実行する。
【0086】
フラッシング実行条件が満たされない場合には(S305:NO)、CPU210は、S310、S315と同様に、S360、S365にて、注目部分印刷後のシート搬送TR時における印刷ヘッド110の退避を行うか否かが判断される。
【0087】
S360では、CPU210は、現在の用紙Mの保持状態、すなわち、注目部分印刷が行われる際の用紙Mの保持状態が、片側保持状態(
図4(B))であるか、両側保持状態(
図4(A))であるか、を判断する。用紙Mの保持状態が片側保持状態である場合には(S360:YES)、S365にて、CPU210は、ドット形成数DNが閾値THd以上であるか否かを判断する。ドット形成数DNが閾値THd以上である場合には(S360:YES)、CPU210は、印刷ヘッド110の退避を行い、フラッシングを行わないS370~S385の処理を実行する。
【0088】
用紙Mの保持状態が両側保持状態である場合(S360:NO)、および、ドット形成数DNが閾値THd未満である場合には(S365:NO)、CPU210は、印刷ヘッド110の退避もフラッシングも行わないS390~S405の処理を実行する。
【0089】
図12は、用紙間処理の第2の説明図である。
図12(A)には、印刷ヘッド110の退避を行い、かつ、フラッシングを行うS320~S335の処理が図示されている。S320では、CPU210は、注目部分印刷の主走査の停止位置をホーム側退避位置HEP(
図6(B))に決定する。S325では、CPU210は、注目部分印刷、すなわち、印刷中の用紙Mに対する最後の部分印刷SPを印刷機構100に実行させる。
図12(A)の例では、印刷機構100は、HP方向の主走査MS3を行いつつ、第1の用紙M1の最後の部分印刷SP3を実行する。主走査MS3の停止位置は、
図12(A)に示すように、ホーム側退避位置HEPである。
【0090】
S330では、
図9のS235と同様に、CPU210は、排紙と給紙とを印刷機構100に実行させる。
図12(A)の例では、シート搬送TR3が、当該給紙と排紙を示している。S335では、CPU210は、次の用紙Mに対する最初の部分印刷SPとフラッシングとを印刷機構100に実行させる。
図12(A)の例では、ホーム側退避位置HEPからフラッシング停止位置FLPまでFL方向に向かって主走査MS4が実行される。主走査MS4の最中に、部分画像PI4を印刷する部分印刷SP4と、フラッシング(
図6(D)、
図6(C))と、が実行される。
【0091】
図12(B)には、印刷ヘッド110の退避を行わず、フラッシングを行うS340~S355の処理が図示されている。S340では、CPU210は、主走査範囲SRのHP方向の端の位置に基づいて、主走査の停止位置を決定する。具体的には、CPU210は、注目部分印刷の主走査範囲SRのHP方向の端(-X側の端)と、次の部分印刷の主走査範囲SRのHP方向の端と、のうち、HP方向側(-X側)の位置に、主走査の停止位置を決定する。
図12(B)の例では、注目部分印刷、すなわち、第1の用紙M1に対する最後の部分印刷SP3の主走査範囲SR3の-X側の端Pr3は、第2の用紙M2に対する最初の部分印刷SP4の主走査範囲SR4の-X側の端Pr4よりも-X側にある。このために、主走査の停止位置は、主走査範囲SR3の-X側の端Pr3に決定される。S345では、CPU210は、注目部分印刷、すなわち、印刷中の用紙Mに対する最後の部分印刷SPを印刷機構100に実行させる。
図12(B)の例では、印刷機構100は、HP方向の主走査MS3を行いつつ、第1の用紙M1の最後の部分印刷SP3を実行する。主走査MS3の停止位置は、
図12(B)に示すように、主走査範囲SR3の-X側の端Pr3である。
【0092】
S350では、S235と同様に、CPU210は、排紙と給紙とを印刷機構100に実行させる。
図12(B)の例では、シート搬送TR3が、当該給紙と排紙を示している。S355では、CPU210は、次の用紙Mに対する最初の部分印刷SPとフラッシングとを印刷機構100に実行させる。
図12(B)の例では、主走査範囲SR3の-X側の端Pr3からフラッシング停止位置FLPまでFL方向に向かって主走査MS4が実行される。主走査MS4の最中に、部分画像PI4を印刷する部分印刷SP4と、フラッシング(
図6(D)、
図6(C))と、が実行される。
【0093】
S340~S355の処理では、主走査MS3においてホーム側退避位置HEPまで印刷ヘッド110を移動させない分だけ、主走査MS3、MS4における印刷ヘッド110の移動距離が短くできる。したがって、印刷ヘッド110の退避を行い、かつ、フラッシングを行うS320~S335の処理を行う場合よりも印刷時間を短くできる。
【0094】
図13は、用紙間処理の第3の説明図である。
図13(A)には、印刷ヘッド110の退避を行い、フラッシングを行わないS370~S385の処理が図示されている。S370では、S320と同様に、CPU210は、注目部分印刷の主走査の停止位置をホーム側退避位置HEP(
図6(B))に決定する。S375では、CPU210は、注目部分印刷、すなわち、印刷中の用紙Mに対する最後の部分印刷SPを印刷機構100に実行させる。
図13(A)の例では、印刷機構100は、HP方向の主走査MS3を行いつつ、第1の用紙M1の最後の部分印刷SP3を実行する。主走査MS3の停止位置は、
図12(A)に示すように、ホーム側退避位置HEPである。
【0095】
S380では、S235と同様に、CPU210は、排紙と給紙とを印刷機構100に実行させる。
図13(A)の例では、シート搬送TR3が、当該給紙と排紙を示している。S385では、CPU210は、次の用紙Mに対する最初の部分印刷SPを印刷機構100に実行させる。
図13(A)の例では、ホーム側退避位置HEPから主走査範囲SR4の+X側の端Pl4までFL方向に向かって主走査MS4が実行され、部分画像PI4を印刷する部分印刷SP4が実行される。
【0096】
図13(B)には、印刷ヘッド110の退避もフラッシングも行わないS390~S405の処理が図示されている。S390では、S340と同様に、CPU210は、主走査範囲SRのHP方向の端の位置に基づいて、主走査の停止位置を決定する。
図13(B)の例では、主走査MS3の停止位置は、主走査範囲SR3の-X側の端Pr3に決定される。S395では、CPU210は、注目部分印刷、すなわち、印刷中の用紙Mに対する最後の部分印刷SPを印刷機構100に実行させる。
図13(B)の例では、印刷機構100は、HP方向の主走査MS3を行いつつ、第1の用紙M1の最後の部分印刷SP3を実行する。主走査MS3の停止位置は、
図13(B)に示すように、主走査範囲SR3の-X側の端Pr3である。
【0097】
S400では、S235と同様に、CPU210は、排紙と給紙とを印刷機構100に実行させる。
図13(B)の例では、シート搬送TR3が、当該給紙と排紙を示している。S405では、CPU210は、次の用紙Mに対する最初の部分印刷SPを印刷機構100に実行させる。
図13(B)の例では、主走査範囲SR3の-X側の端Pr3から主走査範囲SR4の+X側の端Pl4までFL方向に向かって主走査MS4が実行され、部分画像PI4を印刷する部分印刷SP4が実行される。
【0098】
図9のS240、S270、S290、
図10のS335、S355、S385、S405にて、次の用紙Mに対する最初の部分印刷SPが実行された後には、
図9のS410にて、CPU210は、ノズル長Dだけ用紙Mを搬送する。該搬送は、例えば、
図7、
図11~
図13の例では、該搬送は、シート搬送TR4で示されている。
【0099】
以上説明した上記実施例によれば、CPU210は、特定条件が満たされる場合には特定条件が満たされない場合と比較して印刷中の用紙Mが変形しやすいことを示す特定条件が満たされるか否かを判断する(
図9のS245、S250、
図10のS310、S315、S360、S365)。CPU210は、印刷機構100に、第1の用紙M1に対する最後の部分印刷SP3を実行させ、部分印刷SP3の後に、第1の用紙M1の搬送(排紙)と、第2の用紙M2の搬送(給紙)と、を実行させ、第2の用紙M2の搬送後に、第2の用紙M2に対する最初の部分印刷SP4を実行させる(
図7、
図11~
図13)。CPU210は、第1の用紙M1について特定条件が満たされない第1の場合には(
図9のS245、S250、
図10のS310、S315、S360、S365のいずれかにてNO)、部分印刷SP3の後に、印刷ヘッド110を退避させることなく、換言すれば、移動可能範囲MR(
図1)のうち、用紙範囲PR内に複数個のノズルNZが位置する状態で、第1の用紙M1の搬送を開始する(
図7、
図12(B)、
図13(B)のシート搬送TR3)。CPU210は、第1の用紙M1について特定条件が満たされる第2の場合には(
図9のS245およびS250にてYES、または、
図10のS310およびS315にてYES、または、S360およびS365にてYES)、部分印刷SP3の後に、印刷ヘッド110を退避位置FEP、HEPに退避させた後に、換言すれば、移動可能範囲MRのうち、用紙範囲PR外に複数個のノズルNZが位置するように印刷ヘッド110を移動させた後に、第1の用紙M1の搬送を開始する(
図11(A)、
図11(B)、
図12(A)、
図13(A))。
【0100】
第1の用紙M1に対する最後の部分印刷SPが完了した後に行われるシート搬送TR3は、第1の用紙M1にインクIkが付着している状態での搬送になるので、シート搬送TR3には第1の用紙M1の変形が生じ得る。第1の用紙M1の変形が発生すると、仮に印刷ヘッド110のノズルNZが用紙範囲PRにある場合には、第1の用紙M1が印刷ヘッド110のノズルNZに触れる不具合が発生し得る。上記構成によれば、特定条件が満たされる場合には、用紙範囲PR外に複数個のノズルNZが位置するように印刷ヘッドを移動(退避)させた後に、第1の用紙M1の搬送(シート搬送TR3)を開始するので、用紙M1の変形が発生しやすい場合に、第1の用紙M1が印刷ヘッド110のノズルNZに触れる不具合を抑制できる。また、特定条件が満たされない場合には、用紙範囲PR内に複数個のノズルNZが位置する状態で、第1の用紙M1の搬送を開始するので、印刷媒体の変形が発生し難い場合に、速やかに第1の用紙M1の搬送を開始できる。この結果、複数枚の用紙M1、M2に対する印刷において、第1の用紙M1が印刷ヘッド110のノズルNZに触れる不具合を抑制しつつ、印刷速度の低下を抑制できる。
【0101】
さらに、上記実施例によれば、第1の用紙M1について特定条件が満たされない第1の場合には、例えば、
図7の例では、CPU210は、S275にて、以下のように、主走査MS3の停止位置を決定する。CPU210は、部分画像PI3のFL方向の端(すなわち、部分印刷SP3の印刷方向の下流端)と、部分画像PI4のFL方向の端と、を特定する。CPU210は、これらの端よりもFL方向側であって、かつ、用紙範囲PR内である位置(具体的には、
図7の主走査範囲SR3の+X側の端Pl3)に、印刷ヘッドの停止位置を決定する(
図9のS275、
図7)。そして、CPU210は、部分印刷SP3の後に、該停止位置に印刷ヘッド110を停止させ(
図9のS280、
図7)、該停止位置から印刷ヘッド110を部分印刷SP3の印刷方向とは反対方向であるHP方向に移動させる主走査MS4を、部分印刷SP4のための主走査として実行させる(
図9のS290、
図7)。
【0102】
同様に、
図12(B)、
図13(B)の例では、CPU210は、S340、S390にて、例えば、部分画像PI3のHP方向の端(すなわち、部分印刷SP3の印刷方向の下流端)と部分画像PI4のHP方向の端よりもHP方向側であって、かつ、用紙範囲PR内である位置(具体的には、
図12(B)、
図13(B)の主走査範囲SR3の-X側の端Pr3)に、印刷ヘッドの停止位置を決定する。
【0103】
この結果、部分画像PI3の印刷方向の下流端と部分画像PI4の印刷方向の下流端とに基づいて、印刷ヘッド110の停止位置が決定されるので、第1の用紙M1について特定条件が満たされない場合、すなわち、第1の用紙M1が変形発生し難い場合に、無駄な印刷ヘッド110の移動が行われることを抑制して印刷速度を向上できる。例えば、仮に、第1の用紙M1の変形が発生し難いにも関わらずに、印刷ヘッド110を退避させるとすれば、主走査MS3、MS4の移動量が過度に長くなり、印刷速度が低下し得るが、本実施例では、そのような印刷速度の低下を抑制することができる。
【0104】
さらに、上記実施例によれば、
図6(A)、
図6(B)に示すように、フラッシング側退避位置FEPおよびホーム側退避位置HEPは、複数個のノズルNZだけでなく、印刷ヘッド110の全体が用紙範囲PR外に位置するように、印刷ヘッド110を退避させる位置である。この結果、印刷ヘッド110が退避された状態で、第1の用紙M1が、印刷ヘッド110のノズル形成面111に接触することを抑制できる。
【0105】
さらに、上記実施例によれば、CPU210は、部分印刷SP3にて使用されるインク量に関する指標値として、ドット形成数DNを算出し(
図9のS210)、ドット形成数DNが閾値THd以上である場合に、特定条件が満たされると判断される(
図9のS250、
図10のS315、S365)。部分印刷SP3によって第1の用紙M1に吐出されるインクIkの量が多いほど第1の用紙M1の搬送方向ARの上流端の近傍は変形しやすい。本実施例によれば、ドット形成数DNを用いて、特定条件が満たされるか否かを適切に判断することができる。
【0106】
さらに、上記実施例によれば、CPU210は、部分印刷SP3が片側保持状態で実行される場合に(
図9のS245、
図10のS310、S360のいずれかにてYES)、特定条件が満たされると判断する。部分印刷SP3が片側保持状態で実行される場合には、第1の用紙M1の搬送方向ARの上流端の余白が比較的小さく、第1の用紙M1の搬送方向ARの上流端の近傍までインクIkが付着する。部分印刷SP3が両側保持状態で実行される場合には、主走査範囲SR3の実行直後に用紙Mが変形することを抑制できる。また、部分印刷SP3が両側保持状態で実行される場合には、第1の用紙M1の搬送方向ARの上流端の余白が比較的大きく、第1の用紙M1の搬送方向ARの上流端の近傍にはインクIkが付着しない。このために、部分印刷SP3が片側保持状態で実行される場合には、部分印刷SP3が両側保持状態で実行される場合よりも第1の用紙M1の搬送方向ARの上流端の近傍が変形しやすい。上記実施例によれば、第1の用紙M1の保持状態に応じて、特定条件が満たされるか否かを適切に判断することができる。
【0107】
さらに、上記実施例によれば、部分印刷SP3の印刷方向がFL方向である場合には、フラッシング側退避位置FEPに、印刷ヘッド110を退避させ(
図9のS255、
図11(B))、部分印刷SP3がHP方向である場合には、ホーム側退避位置HEPに、印刷ヘッド110を退避させる(
図10のS320、S370、
図12(A)、
図13(A))。すなわち、印刷ヘッド110を退避させる場合には、部分印刷SP3の後に、用紙範囲PRよりも部分印刷SPの印刷方向側に、印刷ヘッド110を退避させた後に、シート搬送TR3が開始され、次の部分印刷SP4の印刷方向は、部分印刷SP3の印刷方向の反対方向である。この結果、印刷ヘッド110の退避を行う場合でも、無駄な印刷ヘッド110の移動が行われることを抑制できる。例えば、仮に、退避位置がフラッシング側退避位置FEPだけであり、部分印刷SP3がHP方向である場合にもフラッシング側退避位置FEPに印刷ヘッド110を移動させる必要があるとする。この場合には、部分印刷SP3と部分印刷SP4との間に、FL方向の主走査を行って、印刷ヘッド110をフラッシング側退避位置FEPまで移動させる必要があるため、無駄な印刷ヘッド110の移動が発生する。本実施例では、このような無駄な印刷ヘッド110の移動が発生しない。
【0108】
さらに、上記実施例によれば、印刷機構100は、用紙範囲PRよりもFL方向側に配置されたインク受部170(
図6(A)、
図6(C)、
図6(D))を備える。CPU210は、フラッシング実行条件が満たされる場合(
図9のS220にてYES)であって、かつ、部分印刷SP3の印刷方向がFL方向である場合に(
図9のS215にてYES)、部分印刷SP3の後に、フラッシングを実行させる(
図9のS240、
図11(A))。フラッシング実行条件が満たされる場合(
図9のS305にてYES)であって、かつ、部分印刷SP3の印刷方向がHP方向ある場合に(
図9のS215にてNO)、部分印刷SP4の後に、フラッシングを実行させる(
図10のS335、S355、
図12(A)、(B))。この結果、フラッシングを行うために、無駄な印刷ヘッドの移動が行われることを抑制できる。例えば、仮に、部分印刷SP3の印刷方向がHP方向ある場合に、部分印刷SP3の後にフラッシングを実行させるとする。この場合には、部分印刷SP3の後に、フラッシングのためだけに、FL方向に印刷ヘッド110を移動させる必要があるため、無駄な印刷ヘッド110の移動が発生する。本実施例では、このような無駄な印刷ヘッド110の移動が発生しない。
【0109】
以上の説明から解るように、上記実施例の部分印刷SP3は、第1の部分印刷の例であり、部分印刷SP4は、第2の部分印刷の例である。また、移動可能範囲MRは、特定範囲の例であり、用紙範囲PRは、媒体範囲の例である。また、上流ローラ対147と、支持部材142、143と押さえ部材146とは、上流側保持部の例であり、下流ローラ対148は、下流側保持部の例である。
【0110】
B.変形例
(1)上記実施例では、印刷ヘッド110を退避させるか否かを判断するための特定条件は、用紙Mの保持状態とドット形成数DNとに基づいて判断される。これに代えて、他の特定条件が採用されても良い。
図14は、変形例の特定条件の一例を示す図である。
【0111】
図14(A)に示すように、
図9のS245、
図10のS310、S360に代えて、S245B、S310B、S360Bが実行されても良い。S245B、S310B、S360Bでは、CPU210は、印刷中の用紙Mの種類を特定し、印刷中の用紙Mは、普通紙であるか否かを判断する。用紙Mの種類は、例えば、予めユーザによって入力される用紙情報に基づいて特定される。用紙Mなどの印刷媒体の種類によって変形しやすさは異なる。例えば、普通紙は、光沢紙や上質紙と比較して薄いため、光沢紙や上質紙と比較してインクIkの染みこみによって変形しやすい。このために、本変形例では、印刷中の用紙Mが普通紙である場合に(S245B、S310B、S360B:YES)、特定条件が満たされると判断され、印刷中の用紙Mが普通紙とは異なる紙(光沢紙や上質紙)である場合に(S245B、S310B、S360B:NO)、特定条件が満たされると判断されない。印刷媒体の種類によって変形しやすさは異なる。本変形例によれば、用紙Mの種類に応じて、特定条件が満たされるか否かを適切に判断することができる。
【0112】
図14(B)に示すように、
図9のS245、
図10のS310、S360に代えて、S245C、S310C、S360Cが実行されても良い。S245C、S310C、S360Cでは、CPU210は、印刷中の用紙Mの上流側の余白は、基準以下であるか否かを判断する。換言すれば、印刷中の用紙Mに印刷されるべき画像の搬送方向ARの上流端から用紙Mの上流端までの長さが、基準以下であるか否かが判断される。上流側の余白が基準以下である場合には、用紙Mの上流端の近傍にインクIkが付着するので、用紙Mの上流端の近傍が変形しやすく、用紙Mの上流端が印刷ヘッド110に接触しやすい。上流側の余白が基準より大きい場合には、用紙Mの上流端の近傍にインクIkが付着しないので、用紙Mの上流端の近傍が変形し難い。このために、本変形例では、印刷中の用紙Mの上流側の余白が基準以下である場合に(S245C、S310C、S360C:YES)、特定条件が満たされると判断され、該余白が基準より大きい場合に(S245C、S310C、S360C:NO)、特定条件が満たされると判断されない。
【0113】
なお、上記実施例および変形例に示した用紙Mの保持状態、ドット形成数DN、用紙Mの種類、上流側の余白に関する条件のうち、1つだけが特定条件として採用されても良い。また、これらの条件のうち、2以上の任意の条件を必要条件や十分条件として組合わせた条件が特定条件として採用されても良い。一般的には、特定条件は、特定条件が満たされる場合には特定条件が満たされない場合と比較して印刷中の印刷媒体(例えば、用紙M)が変形しやすいことを示す条件であることが好ましい。
【0114】
(2)なお、上記実施例では、特定条件が満たされない場合に、主走査範囲SR3の端と、主走査範囲SR4の端と、の位置に基づいて、部分印刷SP3の停止位置が決定される(
図9のS275、
図10の340、S390)。すなわち、部分画像PI3と部分画像PI4との端の位置に応じて部分印刷SP3の停止位置は、可変である。これに代えて、部分画像PI3と部分画像PI4とに関わらずに、印刷領域IAの端の固定された位置に、部分印刷SP3の停止位置が決定されても良い。
【0115】
(3)なお、上記実施例では、
図6(A)、(B)に示すように、上記実施例の退避位置FEP、HEPでは、印刷ヘッド110の全体が用紙範囲PR外に位置している。これに代えて、退避位置では、印刷ヘッド110のうち、ノズル列NK、NY、NC、NMが用紙範囲PR外に位置しているが、印刷ヘッド110のうち、ノズル列NK、NY、NC、NMよりも用紙範囲PR側の端が用紙範囲PR内に位置しても良い。この場合であっても、少なくとも変形した用紙Mがノズル列NK、NY、NC、NMに接触することを抑制することができる。
【0116】
また、フラッシング側退避位置FEPとフラッシング停止位置FLPとは、同じ位置であっても良い。
【0117】
(4)上記実施例では、第1の用紙M1の最後の部分印刷SP3の印刷方向がHP方向であり、かつ、フラッシングを実行する場合に、部分印刷SP4の後にフラッシングを実行している(
図10のS335、S355、
図12(A)、
図12(B))。これに代えて、第1の用紙M1の最後の部分印刷SP3の印刷方向がHP方向であり、かつ、フラッシングを実行する場合に、部分印刷SP3の前に、フラッシングを実行しても良い。この場合には、部分印刷SP2の主走査の停止位置をフラッシング停止位置FLPとすることによって、部分印刷SP3の前に、印刷ヘッド110をフラッシング停止位置FLPに移動させておく。
【0118】
(5)上記実施例では、第1の用紙M1の最後の部分印刷SP3と第2の用紙M2の最初の部分印刷SP4との間に、フラッシングを実行する場合がある。これに代えて、例えば、フラッシングは、例えば、印刷指示を受信して印刷を開始する前にのみ実行することとし、第1の用紙M1の最後の部分印刷SP3と第2の用紙M2の最初の部分印刷SP4との間には常にフラッシングを行わないこととしても良い。この場合には、
図9のS220~S240と、
図10のS305~355と、を省略しても良い。この場合には、CPU210は、注目印刷方向がFL方向である場合には(S215:YES)、常に、S245に処理を進め、注目印刷方向がHP方向である場合には(S215:NO)、常に、S360に処理を進める。
【0119】
(6)ドット形成数DNに代えて、部分印刷にて使用されるインク量に関する別の指標値が採用されても良い。例えば、該指標値は、CPU210がCMYK画像データを取得可能である場合には、部分画像分のCMYK画像データの各インクに対応する成分値の積算値であっても良い。また、該指標値は、部分画像に含まれる総画素数(ドットが形成可能な位置の総数)に占めるドットが形成される画素の割合であっても良い。
【0120】
(7)インク受部170の構成は、一例であり、これに限られない。インク受部170は、例えば、印刷ヘッド110がフラッシング停止位置FLPにある場合に、ノズル列NK、NY、NC、NMの全体の下方に位置するスポンジなどのインク吸収部材であっても良い。この場合には、主走査を行うことなく、印刷ヘッド110がフラッシング停止位置FLPに停止した状態で、フラッシングが実行されても良い。
【0121】
(8)上記実施例の搬送部140の構成は一例である。例えば、搬送部140は、用紙Mを波状に変形させた状態で保持して、用紙Mを搬送している。これに代えて、搬送部140は、用紙Mを波状に変形させることなく、平坦な状態で用紙Mを搬送しても良い。具体的には、搬送部140は、支持部材142、143と押さえ部材146とを備えていなくても良い。
【0122】
(9)また、上記実施例では、双方向印刷が採用されているが、例えば、FL方向のみの部分印刷が実行される片方向印刷、あるいは、HP方向のみの部分印刷が実行される片方向印刷が採用されても良い。この場合であっても、特定条件が満たされない場合には、第1の用紙M1に対する最後の部分印刷の後に、印刷ヘッド110を退避位置まで移動させずに、用紙範囲PR内に停止させ、特定条件が満たされる場合には、該最後の部分印刷の後に、印刷ヘッド110を退避位置まで移動させることが好ましい。この場合であっても、特定条件が満たされない場合には、第1の用紙M1に対する最後の部分印刷および第2の用紙M2に対する最初の部分印刷における主走査の移動距離を短くでき、特定条件が満たされる場合には、印刷ヘッド110のノズルに用紙Mが触れる不具合を抑制できる。したがって、この場合にも、印刷媒体が印刷ヘッドのノズルに触れる不具合を抑制しつつ、印刷速度の低下を抑制できる。
【0123】
(10)印刷媒体として、用紙Mに代えて、他の変形し得る媒体、例えば、OHP用のフィルムなどが採用されても良い。
【0124】
(11)上記各実施例では、
図8の印刷処理を実行する装置は、プリンタ200のCPU210である。これに代えて、印刷処理を実行する装置は、他の種類の装置、例えば、端末装置300であっても良い。この場合には、例えば、端末装置300は、ドライバプログラムを実行することによってプリンタドライバとして動作し、該プリンタドライバとしての機能の一部として印刷実行部としてのプリンタ200を制御して、印刷を実行させる。この場合には、端末装置300は、例えば、印刷ヘッド110の停止位置を示す主走査コマンドや用紙Mの搬送量を示す搬送コマンドやフラッシングを指示するコマンドを部分印刷データとともにプリンタ200に送信することによってプリンタ200の制御を実現する。
【0125】
以上の説明から解るように、上記実施例では、CPU210が制御装置の例であり、印刷機構100が印刷実行部の例である。そして、本変形例のように端末装置300が印刷処理を実行する場合には、端末装置300が制御装置の例であり、印刷を実行するプリンタ200の全体が印刷実行部の例である。
【0126】
(12)
図8の印刷処理を実行する装置は、例えば、プリンタ200や端末装置300から画像データを取得して、該画像データを用いて上述した搬送コマンドや印刷データを生成し、これらのコマンドや印刷データをプリンタ200に送信するサーバであっても良い。このようなサーバは、ネットワークを介して互いに通信可能な複数個の計算機であっても良い。
【0127】
(13)上記各実施例において、ハードウェアによって実現されていた構成の一部をソフトウェアに置き換えるようにしてもよく、逆に、ソフトウェアによって実現されていた構成の一部あるいは全部をハードウェアに置き換えるようにしてもよい。例えば、
図8の印刷処理のうち、一部の処理は、CPU210の指示に従って動作する専用のハードウェア回路(例えば、ASIC)によって実現されてもよい。
【0128】
以上、実施例、変形例に基づき本発明について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれる。
【符号の説明】
【0129】
100…印刷機構、110…印刷ヘッド、111…ノズル形成面、120…ヘッド駆動部、130…主走査部、133…キャリッジ、134…摺動軸、135…ベルト、136…プーリ、140…搬送部、141…用紙台、142…支持部材、142…高支持部材、143…低支持部材、144…平板、146…押さえ部材、147…上流ローラ対、148…下流ローラ対、150…インク供給部、151…カートリッジ装着部、152…チューブ、170…インク受部、200…プリンタ、210…CPU、220…不揮発性記憶装置、230…揮発性記憶装置、231…バッファ領域、260…操作部、270…表示部、280…通信部、300…端末装置、M…用紙、PG…コンピュータプログラム、PI…部分画像、NK、NM、NC、NY…ノズル列、NW…ネットワーク、NZ…ノズル、Ik…インク