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  • 特許-速度測定装置および速度測定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】速度測定装置および速度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01P 3/38 20060101AFI20230830BHJP
   A63B 69/00 20060101ALN20230830BHJP
   A63B 69/36 20060101ALN20230830BHJP
【FI】
G01P3/38
A63B69/00 505G
A63B69/36 541S
A63B69/36 541W
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019145577
(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公開番号】P2021025943
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】502418930
【氏名又は名称】中村 眞次
(73)【特許権者】
【識別番号】319004124
【氏名又は名称】株式会社Semilla
(74)【代理人】
【識別番号】100111224
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 攻治
(72)【発明者】
【氏名】中村 眞次
(72)【発明者】
【氏名】清宮 貞雄
【審査官】岡田 卓弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-152219(JP,A)
【文献】特開2012-245066(JP,A)
【文献】特開平2-281145(JP,A)
【文献】特開昭62-201365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P 3/00 - 3/80
A63B69/00 -69/40
G08G 1/052- 1/054
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動する物体の移動速度を移動方向の側方から測定する速度測定装置において、
当該速度測定装置は、複数のカメラが所定距離離間して配置され複数のステレオ画像を連続して撮像可能な複眼カメラと、該複眼カメラによる2回の撮像で得られた2つのステレオ画像を処理して前記移動する物体の移動速度を演算する画像処理機能とを備えた撮像装置と、からなり、
前記画像処理機能が、前記2回の撮像で得られた夫々のステレオ画像から前記撮像装置と前記移動する物体との間の距離を検出し、1回目と2回目の各撮像時における当該距離と、両撮像の間の時間差と、前記移動する物体の両ステレオ画像上の移動量とに基づいて、前記移動する物体の移動速度を測定するよう構成されていることを特徴とする速度測定装置。
【請求項2】
移動する物体の移動速度を移動方向の側方から測定する速度測定装置において、
当該速度測定装置は、複数の画像を連続して撮像可能なカメラと、該カメラと連動して前記移動する物体と該カメラとの間の距離を各撮像時に測定する距離計と、前記カメラによる2回の撮像で得られた2つの画像、及び前記距離計により得られた2回の撮像時の各距離を基に前記移動する物体の移動速度を演算する画像処理機能とを備えた撮像装置と、からなり、
前記画像処理機能が、前記距離計により得られた前記2回の撮像時における前記カメラと前記移動する物体との間の距離と、前記2回の撮像時の間の時間差と、前記移動する物体の両画像上の移動量とに基づいて、前記移動する物体の移動速度を測定するよう構成されていることを特徴とする速度測定装置。
【請求項3】
前記速度測定装置がさらに、前記撮像装置による速度測定結果を有線もしくは無線により受信して画像表示するモニタ、該測定結果を印字するプリンタのいずれか一方もしくは双方からなるアウトプット装置を備えている、請求項1または請求項2に記載の速度測定装置。
【請求項4】
前記速度測定装置が、前記移動する物体が所定の撮像位置に至ったことを検知するセンサをさらに備え、当該センサの信号をトリガとして前記撮像装置が2回の撮像を行い、得られた画像の画像処理を行うよう構成されている、請求項1から請求項3のいずれか一に記載の速度測定装置。
【請求項5】
前記画像処理機能がさらに、撮像されたいずれかのステレオ画像から前記撮像装置と前記移動する物体の前端と後端との間の各距離を検出し、当該各距離と、前記ステレオ画像上の前記前端と後端との間の幅とに基づいて、当該前端から後端までの寸法を測定するよう構成されている、請求項1に記載の速度測定装置。
【請求項6】
道路走行中の速度違反車両を取締まるため、道路の上流側に配置されて走行車両を撮像する前記撮像装置と、当該撮像装置から所定距離離れて道路の下流側に設けられた検問ステーションに配置された前記アウトプット装置と、から構成されている、請求項3に記載の速度測定装置。
【請求項7】
移動する物体の移動速度を移動方向の側方から測定する速度測定方法において、
複数の画像を連続して撮像可能なカメラ、または複数のカメラが所定距離離間して配置され、複数の画像を連続して撮像可能な複眼カメラのいずれかを用い、時間間隔を設けて前記移動する物体の画像を2回撮像し、
該カメラと連動して前記移動する物体と該カメラとの間の距離を各撮像時に測定する距離計により、または前記複眼カメラで撮像された2つのステレオ画像内で画像上のずれ量により、前記2回の撮像時における前記移動する物体と前記カメラまたは複眼カメラの間の各距離を検出し、
前記両画像上における前記移動する物体の移動量を測定し、
検出された前記移動する物体と前記カメラまたは複眼カメラとの間の各距離から求まる平均距離と、前記測定された移動する物体の移動量と、2回の撮像時の前記時間間隔とを基に、前記移動する物体の移動速度を測定することを特徴とする速度測定方法。
【請求項8】
前記移動する物体が道路を走行する車両であるとき、当該車両を被写体とする前記画像の撮像と当該車両の速度測定を当該車両が走行する道路の上流側で行い、当該測定結果を有線もしくは無線で前記道路下流側に送信し、道路下流側で当該測定結果を速度違反車両の取締まりに供する、請求項7に記載の速度測定方法。
【請求項9】
前記移動する物体が前記カメラまたは複眼カメラに所定距離まで接近したことを検知し、該検知結果をトリガとして撮像および画像処理を行う、請求項7に記載の速度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動する物体の移動速度を測定するための速度測定装置、および同速度測定方法に関する。より具体的に、車両等の移動物体の移動速度を移動方向真正面や背後からではなく、移動方向の側方から捉えて測定することを特徴とする移動物体の速度測定装置および速度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
移動物体の一つとして道路を走行する車両を例にとれば、昨今の道路整備の進展に伴って車両走行速度が高速化する傾向にあり、スピード違反がより大きな災害原因につながり兼ねないことから、かかる事故を未然に防ぐ対策の1つとして従来より速度違反取締まりが行われている。この速度違反車両の取締まりに使用される速度測定装置として、従来技術において最も一般に使用されているのがレーダー式速度測定装置であった(例えば、特許文献1参照。)。この方式は、マイクロ波と呼ばれる周波数の高い電波を測定対象車両に向けて照射するもので、照射された電波が対象車両にぶつかり、跳ね返ってくる電波を受信し、電波が跳ね返る際に周波数が変化する性質(ドプラー効果)を利用し、照射した電波と跳ね返る電波との周波数の差を検出して速度を測定している。
【0003】
従来技術における車両走行速度を測定する他の装置として、光電式と呼ばれる方式も知られている(例えば、特許文献2参照)。この方式は、車両の進行方向に沿う2箇所において、道路の一方の側に赤外線照射器を、他方の側にこれを検知する受光器をそれぞれ配置し、車両の走行によって2箇所で赤外線が遮光されるタイミングを把握して当該2点間の車両の通過時間から走行速度を割り出している。またループコイル式と呼ばれるものでは、走行路内の複数箇所にコイルを埋め込み、同様に当該区間を何秒で通過したかによって走行速度を割り出している(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
車両以外の速度測定に関して、運動球技における球速を測定する技術が知られている。例えば野球におけるピッチャーの投球速度を測定する装置(スピードガン)、ゴルフにおける打球の初速度を測定する装置などの例を挙げることができる。これらには一般に上述したドプラー式の測定手段が用いられている(例えば、特許文献4,5参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭57-34470号公報
【文献】特開昭53-27081号公報
【文献】特開昭52-138977号公報
【文献】特開2013-223791号公報
【文献】特開2013-176581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながらこれら従来技術で知られた速度測定装置には未だ改善の余地があった。
まず、レーダー式速度測定装置ではレーダー照射装置と跳ね返り電波を受信する受信機が必要となり、全体で装置そのものが大型化し、高価なものとなった。また、二車線の道路脇に装置を配置する場合には、二車線を車両が同時に並行して走行する際には一方の車両が他方の障害になることがあって測定が困難になる事態もあり得た。これを避けるために道路上にある柱状または門型の構造物に測定装置を固定する対策が考えられるが、その際にはその配置に手間と時間を要するものとなった。また、検問に当ってはレーダー照射装置のみでは測定対象車両を特定する証拠能力に欠けるため、当該装置に連動させたカメラを同時に配置する必要があった。
【0007】
次に光電式あるいはループコイル式の速度測定装置においては、複数セットのセンサを道路脇に配置し、あるいは道路内に埋め込む必要があり、こちらも同様に装置が大掛かりで高価なものとなって設置の手間と時間を要するものとなった。証拠能力を確保するために装置に連動させたカメラを同時に配置する必要があるのも同様であった。さらにドプラー方式を利用する球技の球速測定においては、測定器の配置場所が球の移動方向に制約され、測定の自由度に欠けるなどの問題があった。
【0008】
以上より、本発明は従来技術にあるこれらの課題を解消し、安価、簡便で設置、移動も容易であり、移動する物体の移動方向正面からではなくその側方からの測定を可能にする新たな速度測定装置、同測定方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、移動する物体の移動方向の側方から移動物体を撮像する複眼カメラまたは距離計に連動したカメラ(単眼カメラ)と、前記複眼カメラまたはカメラの2回の撮像結果から得られる各画像を解析する画像処理装置とからなる撮像装置を利用して移動する物体の移動速度を算出することにより上記従来技術にある課題を解消するもので、具体的には以下の内容を含む。なお、本明細書にいう「カメラ」または「複眼カメラ」は、いずれもデジタルカメラである。また、「複眼カメラ」に対し、単に「カメラ」という場合には「単眼カメラ」を意味している。
【0010】
本発明に係る1つの態様は、移動する物体の移動速度を移動方向の側方から測定する速度測定装置であって、複数のカメラが所定距離離間して配置され複数のステレオ画像を連続して撮像可能な複眼カメラと、該複眼カメラによる2回の撮像で得られた2つのステレオ画像を処理して前記移動する物体の移動速度を演算する画像処理機能とを備えた撮像装置を利用して速度測定を行うことを特徴としている。当該画像処理機能は、前記2回の撮像で得られた夫々のステレオ画像から前記撮像装置と前記移動する物体との間の距離を検出し、1回目と2回目の各撮像時における当該距離と、両撮像の間の時間差と、前記移動する物体の両ステレオ画像上の移動量とに基づいて、前記移動する物体の移動速度を測定するよう構成されている。
【0011】
本発明に係る他の態様は、移動する物体の移動速度を移動方向の側方から測定する速度測定装置であって、当該速度測定装置は、複数の画像を連続して撮像可能なカメラと、該カメラに連動して前記移動する物体と該カメラとの間の距離を各撮像時に測定する距離計と、前記カメラによる2回の撮像で得られた2つの画像、及び前記距離計により得られた2回の撮像時の各距離を基に前記移動する物体の移動速度を演算する画像処理機能とを備えた撮像装置とからなる速度測定装置に関する。前記画像処理機能は、前記距離計によって得られた2回の撮像時におけるカメラと移動する物体との間の距離と、前記2回の撮像時の間の時間差と、前記移動する物体の両画像上の移動量とに基づいて、当該移動する物体の移動速度を測定するよう構成されている。
【0012】
前記いずれの態様の速度測定装置も、前記撮像装置による速度測定結果を有線もしくは無線により受信して画像表示するモニタ、該測定結果を印字するプリンタのいずれか一方もしくは双方のアウトプット装置を備えることができる。また前記いずれの態様の速度測定装置も、前記移動する物体が所定の撮像位置に至ったことを検知するセンサをさらに備え、当該センサの信号をトリガとして前記撮像装置が2回の撮像を行い、得られたステレオ画像の画像処理を行うよう構成することができる。
【0013】
複眼カメラを利用する前記画像処理機能では、撮像されたいずれかのステレオ画像から前記撮像装置と前記移動する物体の前端と後端との間の各距離を検出し、当該各距離と、前記ステレオ画像上の前記前端と後端との間の幅とに基づいて、当該前端から後端までの寸法を測定するよう構成することができる。
【0014】
前記各速度測定装置は、道路走行中の速度違反車両を取締まるため、前記撮像装置を道路の上流側に配置して走行車両を撮像し、当該撮像装置から所定距離離れて道路の下流側に設けられた検問ステーションに前記アウトプット装置を配置するよう構成することができる。
【0015】
本発明の他の態様は、移動する物体の移動速度を移動方向の側方から測定する速度測定方法にであって、複数の画像を連続して撮像可能なカメラ、または複数のカメラが所定距離離間して配置され、複数の画像を連続して撮像可能な複眼カメラのいずれかを用い、時間間隔を設けて前記移動する物体の画像を2回撮像し、該カメラと連動して前記移動する物体と該カメラとの間の距離を各撮像時に測定する距離計により、または前記複眼カメラで撮像された2つのステレオ画像内で画像上のずれ量により、前記2回の撮像時における前記移動する物体と前記カメラまたは複眼カメラの間の各距離を検出し、前記両画像上における前記移動する物体の移動量を測定し、検出された前記移動する物体と前記カメラまたは複眼カメラとの間の各距離から求まる平均距離と、前記測定された移動する物体の移動量と、2回の撮像時の前記時間間隔とを基に、前記移動する物体の移動速度を測定することを特徴とする速度測定方法に関する。
【0016】
前記移動する物体が道路を走行する車両であるとするとき、前記画像の撮像と速度測定を走行する道路の上流側で行い、当該測定結果を有線もしくは無線で前記道路下流側に送信し、道路下流側で当該測定結果を速度違反車両の取締まりに供することができる。その際、前記移動する物体が前記カメラまたは複眼カメラに所定距離まで接近したことを検知し、該検知結果に基づいて撮像および画像処理を行うよう構成することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る物体の移動速度を測定する速度測定装置ならびに同速度測定方法の実施により、小型、軽量で取扱いが簡便な装置を用いた速度測定が可能であり、これまで測定困難であった領域においても幅広い測定を可能にするなど応用範囲が広く、利便性の高い速度測定装置ならびに同測定方法が入手可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態にかかる速度測定装置の一例を示す説明図である。
図2図1に示す速度測定装置に含まれる複眼カメラにより撮像された各画像(a)と、該画像のエッジ検出を行うことによって得られた各線画像(b)である。
図3図2に示す一対の線画像を重ねてずれ量(視差)を把握する画像処理の状況を示す説明図である。
図4図3に示す処理を2回の撮像画像で行い、その結果から車両の移動距離を把握する画像処理の状況を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第1の実施の形態に係る速度測定装置について、図面を参照して説明する。なお、以下の説明では移動対象として車両を例にとり、特には走行する車両の走行速度を道路脇にて検出する測定装置を例にして本発明を説明している。ただし、本発明の適用対象は車両に限定されることなく、目前を通過するあらゆる物体の移動速度を測定することが可能である。図1は、本実施の形態に係る速度測定装置10の一例を示している。速度測定装置10は、移動物体を撮像して画像処理を行う撮像装置11と、撮像装置11から得られた結果をモニタ12aに表示し、あるいはプリンタ12bで印字するなどのオプションとしてのアウトプット装置12とから構成されている。ここではスピード違反車両を取り締るために用いる速度測定装置を想定しているため、測定結果の証拠保全のためにモニタ12a、プリンタ12bを表示しているが、速度測定のみが目的であれば、撮像装置11のみでも十分にその機能を果たすことができる。なお、モニタ12aは、パーソナルコンピュータとすることもできる。
【0020】
図1において撮像装置11は、複眼カメラ(ステレオカメラとも呼ばれる。)と、該複眼カメラで撮像された画像の処理を行う画像処理機能とを内蔵している。図1に示す撮像装置11では、複眼カメラとしてその典型例である二眼カメラが使用されているが、二眼以上のカメラを内蔵したものであってもよい。二眼カメラは、各カメラのレンズが所定距離離間して配置された2基のカメラを内蔵するもので、同一の被写体(測定対象物)を2基同時に撮像するよう構成されている。ここでいう「所定距離」は、測定すべき被写体の大きさや要求される測定精度によっても異なり、一般的に50mmから200mm程度とされるが、より精度を高めるにはより大きな二眼間の距離を設けてもよい。同一被写体を同時に撮像した2つの画像であっても、離間した位置から撮像されることによって両画像間には僅かなずれ(視差)が生ずる。本明細書ではこれを「ステレオ画像」と呼ぶが、撮像装置11はこのように複眼カメラより得られるステレオ画像に存在する判別可能な同型の図形又は模様を識別し、画像内のそれらのずれ量を基にカメラから被写体への距離を算出することができる。これは人間が一対の眼で対象物を認識してその距離感を把握することになぞらえることができる。
【0021】
本実施の形態に係る撮像装置11の最大の特徴の1つは、測定対象を移動方向の側方から測定することにある。ここでいう側方とは、移動方向に対して真横となる位置であることが好ましくはあるが、要求される誤差の程度にもよるが、ある程度傾斜した位置での測定であっても可能である。特徴の他の1つは、従来技術にある各種の走行車両等の速度測定装置と比較すると格段に小さくなることで、通常のカメラと差がないほどの大きさでしかなく、これにより携帯可能で手に持って容易に撮像可能となるなどの利便性が向上することにある。ただし測定精度を高めるためには手持ちでの撮像よりも三脚等で撮像装置11を固定して撮像することが推奨される。
【0022】
上述した画像処理の手順の例としては、まず撮像装置11の複眼カメラから得られたステレオ画像からエッジ検出を行って線画像を得る。「エッジ検出」とは、画像の明るさが鋭敏に、すなわち不連続に変化している箇所を検出することをいい、被写体の輪郭や特徴を抽出したり、画像のセグメンテーション(領域分割)等の画像解析を行ったりする画像処理技術の1つである。図2は二眼カメラを使用したときの概要を示しており、図2(a)は二眼カメラの各カメラによって得られた被写体である車両の画像を並べて表示したもの、図2(b)はこの画像をエッジ検出することによって得られた2つの線画像を示している。
【0023】
つぎに、エッジ検出により得られた両線画像を、画像フレームの左端(または右端)を基準線として重ね合わせる。相互に離間した2基のカメラで撮像されたことから両線画像を重ねてもピッタリ一致することはなく、前端、後端においてずれ量wが生ずる。図3はこの様子を示したもので、同図において、車両の後端側でずれ量w1、前端側でずれ量w2がそれぞれ生じた状態を示している。この両ずれ量w1とw2の差異は撮像装置11から被写体までの距離の差を反映したものとなり、被写体が撮像装置11から離れるほどこのずれ量wは小さくなる。撮像装置11と車両走行方向が並行で、かつ車両の中心位置が丁度撮像装置11に正対した時に撮像された場合にはw1=w2となる。
【0024】
以下の説明では、車両の後端を被写体の基準点として定め、基準点におけるずれ量w1を被写体のずれ量wと定める。すると、撮像装置11から基準点までの距離zは、二眼カメラ間の離間距離gと、カメラの焦点距離fとの間に成り立つ相関関係式:z =f(w,g)から、ずれ量wを把握することによって撮像装置11と前記基準点との間の距離zが把握される。ずれ量wは、画像内でその間に含まれるピクセル数によって把握可能であり、また、画像の一ピクセル当りに相当する被写体の長さdpは距離zに応じてカメラ固有の特性によって一意的に定まる。
【0025】
以上述べた撮像操作と撮像されたステレオ画像に基づく画像処理操作は1回のシャッタ操作によって得られる画像と演算結果に関するものである。車両の走行速度を測定するためには2回のシャッタ操作によってこの撮像と画像処理を2度行うことになる。図4はその状況を示している。同図において、1回目のシャッタ操作によって撮像された破線で示すステレオ画像の処理によって基準点となる車両後端のずれ量waが検出され、Δt時間後に2回目のシャッタ操作が行われて実線で示す2回目のステレオ画像における基準点のずれ量wbが検出されたものとする。同時に、ステレオ画像上においてΔtの間における車両の移動量dも検出される。
【0026】
ずれ量waとwbとの差異は、上述したように撮像装置と車両の基準点との距離の差異によって生じている。これは主に、車両の移動に伴う距離の差と、撮像装置と車両走行方向が非平行であること(撮像装置が傾いていること、あるいは走行車両を斜めに撮像していること)に起因している。そして1回目のずれ量waからその1回目の撮像時の撮像装置と車両との距離zaが算出され、同様にずれ量wbから2回目の撮像時の距離zbが算出される。画像の一ピクセル当りの長さdpは上述の通り距離zに応じてカメラ固有の特性によって一意的に定まるが、撮像の状況からΔtの間における距離zaから距離zbへの変化はリニアであると想定できる。したがってこの間における車両までの平均的距離zmはこの両者の平均である(za+zb)/2=zmと置き換えることができ、当該距離zmにおいて一意的に定まる一ピクセル当りの長さdpが求められる。すると、画像上での移動量d間にあるピクセル数Kを把握すれば、実際の車両の移動距離Dは、D=K×dpによって算出可能となる。これにより、この時の車両の走行速度Sは、S=D/Δtによって算出される。
【0027】
以上は厳密な測定をする場合であって、実際には撮像装置11と車両走行方向との平行度の誤差が極端なものになるとは想定されず、また走行する車両を極端に斜めから撮像することがない限り、距離zの測定は1回目のシャッタ操作におけるずれ量waのみを用いて簡便に演算することによってもそれほど大きな誤差は生じないであろう。
【0028】
複眼カメラで撮像したステレオ画像を処理して被写体までの距離を算出可能する機能を備えた撮像装置は既に市場で見ることができる。一例として、2基のカメラ間の離間距離を158mmとしたLeica(登録商標)BLK3Dがある。しかしながら、これを上述したような速度測定までが可能な撮像装置とするためには幾つかの改変が必要となる。1つは連写機能の追加である。速度測定のためには短時間に少なくとも2度の撮像が必要となり、これをマニュアル操作で行うことも可能ではあるが、精度良く測定するにはできれば撮像装置が連写機能を備えていることが好ましい。この場合、マニュアル操作をする場合も含めて、1回目と2回目のシャッタ操作の時間差Δtを記憶し、画像処理機能による速度算出時の演算にはこの時間差Δtを反映させるよう構成されていなければならない。
【0029】
対象物の移動速度が速まるほど早いシャッタ速度と短い時間差での連続撮像が当然要求されるようになり、使用目的に応じてこれに対応できるものであることが望まれる。高速連写機能では現在でも1秒間に30枚撮像可能なカメラも見られるが、できればシャッタ操作間隔が調整できるものであればより好ましい。また高速シャッタスピードとしては1/1000秒のものは既に一般に使用されているが、目的によっては1/2000秒、1/4000秒、あるいはそれ以上高速のシャッタスピードを備えていることが好ましい。
【0030】
画像処理機能に関してはさらに、2度の撮像とその間の移動距離の算出、速度の算出を可能とする上述したロジックが組まれた演算回路を備えたものに改変されていなければない。これには既存のハードウェアまでに手を掛けるまでもなく、ソフトウェアの改変のみで十分に対応可能である。そして算出された速度測定結果は、撮像装置11自身のモニタ画面に表示できるものであることが望ましく、さらには図1に示すモニタ12a、プリンタ12bのアウトプット装置12に送信ができるものであることが望ましい。演算回路が適切に組まれている限り、撮像後数秒以内の瞬時に測定結果がモニタ画面に表示するよう構成することができる。
【0031】
図面には示していないが、速度測定装置10にはさらに車両などの測定対象物が撮像装置11の最適な撮像位置に至ったことを検知する位置センサを配置し、当該位置センサによる信号をトリガとして2回の撮像を行うよう構成することができる。センサの検知位置を適切に定めることにより、測定に最適なステレオ画像の撮像が可能となり、あるいは操作ミスによる撮像洩れをなくすことができる。
【0032】
以上の説明は本実施の形態に係る速度測定を実施するための撮像装置の基本構成や必要要件を述べたものであるが、これらの構成には必ずしも拘束されない。例えば複眼カメラが静止画像ではなく動画撮像機能を備えた撮像装置であっても当該機能を同様に利用することができる。この場合は動画の内から任意の2つのタイミングでステレオ画像を捉え、上述したものと同様に画像処理することで速度測定が可能となる。また、連続撮像機能を備えた撮像装置においては、必ずしも1回目と2回目のシャッタ操作時の画像を利用する必要はない。例えば連続撮像の内のn回目とn+1回目の画像を使用するとか、あるいはn回目とn+m回目のような、速度測定のために好ましい画像が得られたときの複数のシャッタ操作時のステレオ画像を用いることでもよい。ステレオ画像上に対象物の基準点が写っている限り、できるだけ離れた位置に基準点を捉えた2つのステレオ画像を利用することが精度を高めるものとなる。また複眼カメラは2眼以外のそれ以上の数のレンズを備えたものが利用されてもよい。この場合、カメラの離間距離が大きなものを利用することが測定精度を高めるものとなる。
【0033】
なお、図2、3では二眼カメラで撮像した画像をエッジ検出により線画像とし、両線画像の間のずれ量を把握する前処理の例を示している。エッジ検出することによって両線画像間での同型の部分を識別し易くなる点で好ましくはあるが、必ずしもこのような処理を必要とするものではない。その他の処理を行うことによって、例えば撮像された画像を直接比較して同様にずれ量を把握することも可能であり、要は複眼カメラを用いて撮像された複数画像内で同じ形状あるいは模様を識別することができ、それらの間のずれ量が求められるものであればよい。
【0034】
図1に戻って、同図の速度測定装置10は撮像装置11の外にオプションとなるアウトプット装置12としてモニタ12aとプリンタ12bを示している。速度測定結果を速度違反車の取締まりに用いる場合には出力結果をその場で違反者に提示して確認させることが望ましい。具体的対応としては、道路の上流側で走行車両を撮像装置11で撮像して画像処理し、その結果を撮像場所から所定距離離れた道路の下流側に位置する検問ステーションのアウトプット装置12へと有線もしくは無線で送信する。検問ステーションではその結果に基づいて違反車を特定し、停止・検問することができる。モニタ12aに表示され、またプリンタ12aにより印刷された違反結果には、違反者による必要な確認や結果の同意サインを入手することなどもできる。
【0035】
以上述べた本実施の形態に係る速度測定装置10を従来技術で知られた速度測定装置と比較した場合、以下のような利点を挙げることができる。
1.装置全体が極めて小型、軽量化され、設置、撤収、移動やその他の取扱いが極めて容易となる。また速度測定装置の設置位置の自由度が高まる。
2.カメラを使用した測定となることから、例えば速度違反車両取締まり等においては車両や場合によっては運転者までが画像により特定されるため、撮像を伴わない特許文献1~5に示す速度測定装置に対して証拠能力が高まる。
3.本撮像装置を逆に車両等の移動体に搭載して移動し、道路脇などの外部に設けた基準点等を連続撮像することで、大掛かりな速度測定装置を準備することなく、容易に走行速度を測定することが可能となる。従来技術に係る大型の測定装置ではこのような対応は困難であった。
4.車両の速度測定に限らず、従来技術における野球、ゴルフなどの球技におけるボールの速度測定は、特許文献3,4に示すようにドプラー効果を利用するものが主であり、この際には基本的に測定装置をボールの移動方向に沿ってセットする必要があった。本実施の形態に係る速度測定装置では移動方向の横に配置することが可能となり、測定位置の選択自由度が高まる。
5.特許文献1~5に示す従来技術による速度測定装置では、垂直方向に上昇し、あるいは落下・反発する物体の移動速度の測定は不可能もしくは測定装置を特殊な状態に配置する等の手間が必要であった。移動方向の側方から測定する本発明に係る速度測定装置はこれが容易に可能となる。この際、好ましは複眼カメラの配列を縦方向にして撮像することでより高い測定精度を得ることができる。
6.さらに、従来では特殊な測定装置が必要とされた水の流れの速度、気体の流れの速度などであっても、例えば水や気体の流れの中に識別容易な異物を浮遊させたり混入させたりしてこれを基準点として連続撮像することで容易に速度測定が可能となるなど、応用範囲を広げることができる。
【0036】
次に、本発明の第2の実施の形態に係る車両等測定装置について説明する。道路保全、交通安全のための検問においては走行速度違反の取締まりの外にも車両寸法、特には商用車の荷物を含む荷台寸法が所定の基準内にあるかを測定する検問が実施されている。過積載による走行不安定によって生ずる交通事故や、車両の不当な改造に伴う事故を未然に防ぐことを目的としている。車両が満たすべき寸法上の要求条件に関しては、道路法、道路交通法、道路運送車両法、その他の関連法規によって各種の制限が設けられている。
【0037】
本実施の形態にかかる速度測定装置は、先の実施の形態に示す速度測定装置に加え、走行中の車両を複眼カメラで側方から撮像したステレオ画像に基づいて車両の全長もしくは車両の荷台の長さを同時に測定することができる。本実施の形態にかかる速度測定装置の概要は、図1に示す先の実施の形態に係る速度撮像装置10と同様である。すなわち、移動物体を撮像して画像処理を行う撮像装置11と、撮像装置11から得られた結果をモニタ12aに表示し、あるいはプリンタ12bで印字するなどのオプションのアウトプット装置12とから構成することができる。
【0038】
撮像された画像に基づいて車両寸法を測定する画像処理手順は、基本的に先の実施の形態で説明したものと同様である。すなわち、撮像装置11の複眼カメラで2回撮像したステレオ画像のいずれか一方の画像を使用し、図3に示すようにエッジ検出により得られた両線画像を重ね合わせ、車両の全後端側でのずれ量w1、w2を把握する。このずれ量と、二眼カメラ間の離間距離gと、カメラの焦点距離fとの間に成り立つ相関関係式:z =f(w,g)から、ずれ量w1、w2に応じた撮像装置11から車両の前後端までの距離z1、z2が把握される。平均値としてz=(z1+z2)/2から、距離zにおけるステレオ画像の一ピクセル当りの長さdpはカメラ固有の特性によって一意的に定まるので、画像中の車両長さ間にあるピクセルの数Kを求めれば車両長さLはL=K×dpにより算出可能となる。
【0039】
速度測定に用いたステレオ画像をそのまま利用して車両長さ測定も同時に可能となり、測定結果は速度測定結果と共に複眼カメラのモニタ画像に瞬時に表示できるほか、モニタ12aもしくはプリンタ12bからなるアウトプット装置12に送信して記録保持することもできる。撮像装置11に内蔵されている画像処理機能に僅かな改変を加えるだけで、これまでの取締まりで速度測定と寸法測定に別々に対応していた2つの目的を同時に果たすことが可能な速度測定装置を提供することができる。
【0040】
なお、以上の本発明の各実施の形態に係る説明では、速度測定装置について主に述べてきたが、以下に述べる本発明に係る第3の実施の形態では、上述した速度測定の同じロジックを用いて可能となる速度測定方法を対象としている。すなわち、本発明の第3の実施の形態に係る移動する物体の移動速度測定方法は、複数のカメラが所定距離離間して配置された複眼カメラを利用し、同一の移動物体のステレオ画像を2回撮像する。この2回の撮像によって得られた2つのステレオ画像のそれぞれにおける移動物体に設けた基準点のずれ量wa,wbを把握する。1回目と2回目の撮像時点における複眼カメラと基準点までのそれぞれの距離z1,z2と、両画像内における基準点の移動量dを把握し、両者の平均距離zmをzm=(z1+z2)/2としてその距離zmにおいて一意的に定まる画像ピクセル当りの長さdpを求める。移動量dの間にあるピクセル数Kを把握し、対象車両の実際の移動距離LがL=K×dpから求められ、さらにその時の移動速度Sは、S=L/Δtにより算出することができる。ここでΔtは2回の撮像時の間の時間間隔である。
【0041】
本実施の形態に係る速度測定方法にはさらに、撮像されたいずれか1つのステレオ画像を基に、同様なロジックを用いることで移動する物体の長さを測定する手順を追加することができる。
【0042】
以上述べてきた本願発明に係る速度測定装置では、複眼カメラを利用した撮像装置を用いるものであった。複眼カメラを用いる唯一の理由は、ステレオ画像を得ることによって両画像間のずれ量が検出でき、これを基に撮像装置と被写体との間の距離が画像処理によって撮像装置自身で把握できることによる。この距離の把握は、図像上の一ピクセル当りの長さ(dp)を求めるために必要とされている。しかしながら、この際に上述のように複眼カメラを用いることのメリットはあるが、もしこの距離の把握を他の手段により行うことができれば、わざわざ複眼カメラではなくて通常のカメラ(単眼カメラ)を使用することであっても同様な速度測定をすることは可能である。例えば、レーザ距離計を単眼カメラに連動させ、単眼カメラによる複数回の撮像と同時にそれぞれの前記距離を距離計により把握し、これと複数回の撮像画像を基に画像処理を行えば、上述したものと全く同様のロジックで速度測定を行うことが可能である。したがって本発明は、このように距離計、カメラ(単眼カメラ)、画像処理機能を備えた撮像装置からなる速度測定装置、ならびに同速度測定方法をも包含するものとする。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る車両等寸法測定装置、同方法は、車両検査、検問、事故検証に関与する産業分野において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0044】
10.速度測定装置、 11.撮像装置、 12.アウトプット装置、 12a.モニタ12a、 12b.プリンタ12b、 w.ずれ量、 z.距離、 g.離間距離、 f.焦点距離、 dp.一ピクセル当りの長さ、 Δt.シャッタ間隔、 g:移動幅、 D.移動距離、 K.ピクセル数、 S.速度、 L.車両長さ。
図1
図2
図3
図4