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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】食材用ミキサーの回転刃構造
(51)【国際特許分類】
   A47J 43/07 20060101AFI20230830BHJP
   A47J 43/046 20060101ALI20230830BHJP
   B02C 18/08 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
A47J43/07
A47J43/046
B02C18/08 B
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019175093
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021049234
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-08-11
(73)【特許権者】
【識別番号】591150052
【氏名又は名称】株式会社愛工舎製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100114568
【弁理士】
【氏名又は名称】北島 恒之
(72)【発明者】
【氏名】栗原 博美
(72)【発明者】
【氏名】宮下 徹
【審査官】柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許第02225981(EP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2012/0091245(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0368519(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0203123(US,A1)
【文献】米国特許第04878627(US,A)
【文献】実公昭46-014681(JP,Y1)
【文献】米国特許第04004786(US,A)
【文献】欧州特許出願公開第00799593(EP,A1)
【文献】特開昭60-194916(JP,A)
【文献】登録実用新案第3191159(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47J 43/07
A47J 43/046
B02C 18/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
食材用ミキサーに装着される回転刃の構造であって、
被撹拌食材の撹拌・混練を行う第1の回転刃と、ミキサーの撹拌容器内における被撹拌食材の対流移動を促す第2の回転刃とを備え、
前記第1の回転刃は、被撹拌食材を破砕・撹拌してその流体化を担い、回転中心軸から半径方向の放射状に伸びた複数の回転羽を有し、
前記第2の回転刃は、流体化された被撹拌食材に対流を生じさせ、回転中心軸から半径方向の放射状に伸びた複数の回転羽を有し、
前記第1の回転刃に設けられた回転羽の羽面は、格子状若しくは多孔状であり、かつ回転水平面に対して所定の傾斜角を有し、
前記第1の回転刃に設けられた回転羽における傾斜角の範囲は、20度ないし60度であり、
前記第2の回転刃に設けられた回転羽は、その断面形状が翼型に成形され、かつ当該翼型には所定の迎角が設けられており、
前記第2の回転刃に設けられた回転羽翼の迎角の範囲は、5度ないし30度である、ことを特徴とする食材用ミキサーの回転刃構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は食材用ミキサーに関するものであり、より詳細には、被撹拌食材を撹拌・混練する第1の回転刃と、撹拌容器内における被撹拌食材の対流移動を促す第2の回転刃とを、多層的に備えた食材用ミキサーの回転刃の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
食品製造業界においては、添付の図9に示すような、ミキサーの撹拌容器の底部中央に回転刃を有する大型の食材用縦型ミキサーが使用されることが多い。このようなミキサーは、主に、被撹拌食材の撹拌・混練が行われる撹拌容器a、撹拌容器aの底部略中央に設けられ回転刃b、回転刃bを回転駆動させる電動機や減速ギア機構などが収められた駆動部c、及びミキシングの動作をコントロールする各種の電子回路や操作パネルなどが設けられた制御部dから構成されている。なお、係る食材用ミキサーの各部位には、その強度性や耐腐食性、更には食品食材に対する衛生面の観点から、主にステンレス鋼材が使用されている。
【0003】
当該ミキサーにおいて、回転刃bは、被撹拌食材を粉砕・破断・細切りして被撹拌食材を直接に撹拌・混練する役目を担うものであり、各種の形状のものが用いられている。すなわち、被撹拌食材の種類や食品用途に応じて適当な形状の回転刃が選択され、撹拌容器aの底部略中央から撹拌容器の内部に突出している回転部分a2にアタッチメントとして装着される。因みに、回転刃bの具体的な形状事例の一つを添付の図10に示す。
【0004】
当該ミキサーを用いて、クリームやケーキ生地などの各種食材のミキシングを行う場合、先ず、各種食材を撹拌容器aに投入後、撹拌容器上部の開閉蓋a1を閉じた後に制御部dから所定の操作指示を行う。これによって、撹拌容器aの内部では、回転刃bが駆動部cに内蔵された電動機や減速ギア等により回転駆動され、所定の時間に亘り、所定のプロセスに基づいて被撹拌食材の撹拌・混練処理が実施されることになる。
【0005】
このようなミキサーによる撹拌・混練処理においては、撹拌刃bによる被撹拌食材に対する直接的な撹拌・混練動作と共に、図9の撹拌容器内の実線矢印の流れに示すような、撹拌容器aの内部に生ずる被撹拌食材自体の対流形成が大きく影響する。すなわち、回転刃bによる撹拌・混練処理の進捗に伴って、撹拌容器aの内部における被撹拌食材の流動体化・乳化が進み、回転刃bの回転に伴い流体化された被撹拌食材が撹拌容器aの内部で対流運動を開始する。
【0006】
そして、係る対流の発生により被撹拌食材の撹拌・混練処理が更に促進されることになる。なお、撹拌容器内に発生する対流の流路や流動方向は、回転刃bの形状や、その回転方向、或いはその回転パターンなどによっても変化するものであり、図9に示された矢印の方向・流路に一義的に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0007】
ところで、回転刃bは、被撹拌食材の破砕や細切りをメイン機能として想定されているため、撹拌・混練動作時における撹拌容器底面と回転刃との干渉防止や、回転負荷の増加を軽減させるべく、図9に示すように撹拌容器の底面から、ある程度、鉛直方向の離れた位置に設けられている。
【0008】
そのため、被撹拌食材が例えば、パン生地やケーキ生地のように粉末成分の多い場合は、撹拌容器の底部やその側壁部に未撹拌の粉末が付着する、いわゆる粉だまりが生ず易く、また、被撹拌食材が果物や野菜などのようにその固形性が高い場合は、撹拌容器の底部に撹拌・混練の不十分な固形の未撹拌食材が堆積しやすいという欠点が有った。
【0009】
このような粉だまりの発生や、未撹拌食材の堆積を防ぐには、ミキサーにおける撹拌時間を延長させ、或いは回転刃の回転速度を増加させるなどの対策が講じられてきた。しかしながら、被撹拌食材が、例えば、スポンジケーキ生地のように食感等がデリケートな食材の場合、ミキシング時間やミキシング速度の増加は、食材自体の劣化、或いは完成食品の味覚や食感の低下を招くおそれがあった。
【0010】
係る欠点を改善すべく、例えば、特許文献1や特許文献2に示すような発明が開示されている。このような開示発明においては、食材用ミキサーの回転容器の底部中央に刃の屈曲方向や屈曲角度、或いは刃形状の異なる複数の回転刃を多層的に設け、これらの複数の回転刃によるミキシングによって、食材用ミキサーにおける撹拌・混練性の向上を目的とするものである。
【0011】
【文献】特開2004-305539号公報
【文献】特表2012-531245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、例えば、特許文献1に示された従来技術は、回転刃の屈曲角度を工夫して豆類や氷片などの比較的に硬度の高い被撹拌食材に対する破砕性の向上を主目的としたものである。また、特許文献2に示された従来技術は、被撹拌食材に対し均一なカッティングを施すような回転刃の配置構成を達成することを主眼としたものである。したがってこれらの従来技術は、大型の縦型食材用ミキサーにおいて、撹拌容器内の流動体化・乳化された被撹拌食材に対する対流運動の促進に関し、抜本的な解決手段を示唆するものではなかった。
【0013】
本発明は、このような課題を解決することを目的とするものであって、大型の縦型食材ミキサーの撹拌容器内において、ミキシング時に流動体化・乳化された被撹拌食材の対流運動を促進させ、短時間の内に被撹拌食材の完全な撹拌・混練処理を達成し得る、食材用ミキサーの回転刃の構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の第1の観点による食材用ミキサーに装着された回転刃の構造は、
被撹拌食材の撹拌・混練を行う第1の回転刃と、ミキサーの撹拌容器内における被撹拌食材の対流移動を促す第2の回転刃とを備え、
前記第1の回転刃は、被撹拌食材を破砕・撹拌してその流体化を担い、回転中心軸から半径方向の放射状に伸びた複数の回転羽を有し、
前記第2の回転刃は、流体化された被撹拌食材に対流を生じさせ、回転中心軸から半径方向の放射状に伸びた複数の回転羽を有し、
前記第1の回転刃に設けられた回転羽の羽面は、格子状若しくは多孔状であり、かつ回転水平面に対して所定の傾斜角を有し、
前記第1の回転刃に設けられた回転羽における傾斜角の範囲は、20度ないし60度であり、
前記第2の回転刃に設けられた回転羽は、その断面形状が翼型に成形され、かつ当該翼型には所定の迎角が設けられており、
前記第2の回転刃に設けられた回転羽翼の迎角の範囲は、5度ないし30度である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
以上の解決手段を備えた本発明によれば、ミキシング時間やミキシング速度の増加を要することなく、食材用ミキサーの撹拌容器の底面や壁面に生ずる、いわゆる粉だまりや、未撹拌食材の滞留を効果的に解消し得る、大型の食材用ミキサーの回転刃構造を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実現するための最良の形態である実施例に関し、明細書に添付した各々の図面に基づいて以下に説明を行う。
【0019】
(1)本発明による食材用ミキサーの回転刃の構造
先ず、本発明に基づく食材用ミキサーの回転刃(以下、単に「本回転刃」と言う。)1の構造を添付図1の斜視図に示す。
【0020】
同図に示すように、本回転刃1は、主に、第1の回転刃11、第2の回転刃12、及びホルダー13から構成されている。なお、本回転刃1の各構成部分における使用部材に関しては、その強度性や耐腐食性、更には被撹拌食材である食品に対する衛生面などの観点から、主にステンレス鋼材を使用することが好ましい。
【0021】
続いて、第1の回転刃11単体の斜視図を添付の図2に示す。第1の回転刃11は、主に被撹拌食材の粉砕・破断・撹拌を主目的としたものであり、その中心軸の周りに半径方向の放射状に複数の回転羽を有している。因みに、図2に示す事例では、第1の回転刃11には、回転中心軸に対して120度の間隔で3枚の回転羽が設けられている。なお、第1の回転刃11に設ける回転羽の本数は、係る事例に限定されるものではなく、実際の実施態様に応じて任意の羽数を設定することが可能である。
【0022】
但し、第1の回転刃11に設ける回転羽の数が増えると、それに伴い、撹拌時における回転負荷が増加する。これによって、ミキサーに設置された回転駆動用の電動機(図示せず)の回転トルクを増加させる必要があり、その結果、電動機の消費電力の増大や大型機への装換などの問題を招くおそれがある。このため、第1の回転刃11について回転羽の羽数の設定に関しては、これらの問題を考慮して総合的に決定する必要がある。
【0023】
図2に示すように、第1の回転刃11における回転羽の構造は、回転羽の枠に対して梯子状の格子111を回転半径方向に亘り複数段に設けた、いわゆる格子状に形成されている。なお、同図では、格子111は回転翼の枠に対し斜交して設けられているが、係る斜交角について、本発明では特に限定されるものではなく、実際の実施態様に応じて任意の斜交角度を取り得るものとする。
【0024】
第1の回転刃11の回転羽の構造をこのような格子状とした理由は、主に、第1の回転刃11が食材を撹拌・混練する際に、その回転羽が被撹拌食材の中を移動するとき、被撹拌食材の分散/粉砕が促進されることを考慮したものである。また、副次的効果としては、撹拌・混練時における第1の回転刃11の回転負荷の低減も図っている。
【0025】
なお、第1の回転刃11における回転羽の格子状構造は、図2に示された形状に限定されるものではなく、例えば、添付の図3に示すような種々のバリエーションを採用することも可能である。例えば、図3(a)に示すように、格子111の架設方向を回転羽の枠と平行にするようにしても良い。或いは、図3(b)に示すように、格子111を回転羽の枠内にタテ・ヨコに設け、文字通りの格子状に構成するようにしても良い。
【0026】
更には、図3(c)に示すように回転羽の枠内全域にステンレス鋼の薄板112を張り、その薄板全体に多数の孔を穿った、いわゆる多孔状の回転羽としても良い。この場合、回転羽の面内に穿つ孔の形状に関しては、同図に示すような単純な丸孔ではなく、それ以外の任意の形状(例えば、星形やハート形など)を取り得ることは言うまでもない。
【0027】
また、第1の回転刃11に設けられた回転羽には、添付の図4に示すように回転刃の回転水平面に対して所定の傾斜角θが設けられている。被撹拌食材に対する撹拌効果を考えた場合、回転羽の羽面が、第1の回転刃11の回転水平面に対し直交している状態、すなわち、θ=90度の状態が最も効果的であると考えられる。
【0028】
何故なら、回転羽が回転水平面と直交していれば、撹拌時に回転羽が被撹拌食材中を回転して移動する際、被撹拌食材は回転羽の羽面に垂直方向から当接されることになり、回転羽の枠や格子による被撹拌食材への破断/破砕/分散効果が最も高まるためである。一方、回転羽が回転水平面に対して傾斜していると、被撹拌食材が回転羽の羽面に対して垂直方向からぶつからず、羽面に斜交しつつ羽面上を滑るような形となり、回転羽の被撹拌食材への破断・破砕効果が低下してしまう。
【0029】
しかしながら、第1の回転刃11の回転羽を回転刃の回転水平方向に対し直交して設けた場合は、撹拌時における回転羽の回転負荷が極めて大きくなり、第1の回転刃11を駆動するためには回転電動機(図示せず)のトルクを増大させる必要がある。そして回転トルクの増大は、電動機の消費電力の増加や大型機への装換など様々の問題を引き起こすことになる。
【0030】
すなわち、傾斜角θの値は一義的に定めることできず、上記の撹拌効果と実際の経済性のトレードオフの関係から経験的に定める必要がある。本実施例においては、係る傾斜角θを約35度に設定している。因みに、本発明による傾斜角θの角度は、実際の使用態様に基づいて、
20度 < θ < 60度
程度の範囲に設定することが好ましい。
【0031】
なお、第1の回転刃11の回転翼を構成する枠、並びに格子などに用いるステンレス鋼材の棒状部材の断面形状に関し、本発明では特に限定はないが、素材の汎用性や加工の容易性に鑑みれば、これらの棒状部材の断面形状として単純な角材或いは丸材を用いることが好ましい。
【0032】
次に、第2の回転刃12単体の斜視図を添付の図5に示す。第2の回転刃12は、ミキサーの撹拌容器内において、ミキシングの進捗により流動体化・乳化された被撹拌食材について、その対流・流動の促進を主目的としたものである。
【0033】
同図に示すように、第2の回転刃12は回転刃の回転水平方向において、その中心軸の周りに半径方向の放射状に複数の回転羽を有している。因みに、図5に示す事例では、第2の回転刃12には、回転中心軸に対して120度の間隔で3枚の回転羽が設けられている。これは、比喩的に譬えれば、レシプロエンジン航空機のプロペラ・ブレードにおける三翔構造の回転羽と言える。もっとも、本発明において、第2の回転刃12における回転羽の数は係る三翔構造に限定されるものではない。
【0034】
一般に、プロペラ・ブレードにおいては、回転中心軸に加わる回転トルクが増大すると、その回転トルクを効率的に吸収するため、トルクの大きさに応じた数の回転羽を設ける必要がある。それ故、本発明においても回転電動機のパワー(回転トルク)に応じて、二翔或いは四翔以上の回転羽を設けた構造を採用することも可能である。但し、回転電動機のパワーとは無関係に、実際の実施態様に即して、すなわち被撹拌食材の種類やその性質に応じて、第2の回転刃12に設ける回転羽の翔数を任意に決定し得ることは言うまでもない。
【0035】
また、第2の回転刃12に設けた回転羽の断面は、いわゆる「翼型」に形成されている。そのため、このような翼型の回転羽が流体中を運動すると、係る回転羽の翼面の上下を流れる流体に対して翼面から力学的な反作用が及ぶことになる。係る、流体に対する翼面からの力学的な反作用によって、翼型回転羽の周囲を流れる流体(被撹拌食材)中に対流運動が促進されることになる。
【0036】
第2の回転刃12に設けた回転羽は、このように翼型に成形されているので、その効果を十二分に生かすため、回転羽の翼には、いわゆる「迎角」(翼の前縁と後縁とを結んだ線が流体の運動方向、即ち回転刃の回転水平方向と為す角度)が設けられている。図5に示す事例では、この迎角αとしてα=15度の角度が設定されている。係る迎角の値は、一義的に決定することは困難であり、実際の使用態様における経験値によって定まるものであって、本発明においては、
5度 < α < 30度
程度の範囲に設定することが好ましいと考えられる。
【0037】
また、各々の回転羽におけるアスペクト比(回転羽の縦方向長さ:回転羽の横幅)は約3.2に設定されている。但し、アスペクト比の大きさは係る値に限定されるものではなく、実際の実施態様に応じて任意の値を取り得ることができる。
【0038】
また、各々の回転羽には、回転中心軸に近い回転羽の根元から、その先端に行くほど横幅が狭まるような直線テーバーが施されており、図5に示す事例では、そのテーパー比(回転羽の付け根の横幅:回転羽先端の横幅)は約1.5に設定されている。なお、前述のアスペクト比と同様に、このテーパー比の大きさも、係る値に限定されるものでないことは言うまでもない。
【0039】
一方、添付の図2及び図5からも明らかなように、第1の回転刃11及び第2の回転刃12の中心軸部分は中空軸構造となっている。係る中空軸部分に、ホルダー13の鉛直方向下部に伸張された棒状部材(図示せず)が挿通され、両回転刃が共締めされて固定される形となる。そして、係るホルダー13の下端部分が、ミキサー撹拌容器の底部中央から撹拌容器内に突出されているミキサーの回転部分(図示せず)に結合される。
【0040】
(2)本発明による食材用ミキサーの回転刃構造の動作
次に、本発明に基づく食材用ミキサーの回転刃構造のミキシング時における動作について説明を行う。本発明の特徴は、食材用ミキサーの回転刃を破砕撹拌用と対流促進用の2つの用途を有する各々の回転刃に分離して、ミキシング時の被撹拌食材に対する撹拌・混練処理効果をより一層高めたものである。
【0041】
ミキサーにおける撹拌・混練時には、先ず、第1の回転刃11による被撹拌食材の破砕・細切り・撹拌が行われ、これによって、被撹拌食材が流動体化、乳化される。係る流体化された被撹拌食材は、さらなるミキシング動作の進展に伴いミキサーの撹拌容器の下部に滞留する。そして、第2の回転刃12に備えられた翼型の回転羽は、撹拌容器の下部に溜まった流体の中を運動することになる。
【0042】
このような、第2の回転刃12の回転羽と、周囲の流体化された被撹拌食材との相対的な動きを模式的に表したものが添付の図6である。前述のように、第2の回転刃12の回転羽の翼型断面には迎角αが付されている。係る迎角の付された翼が流体中を運動すると、翼型断面の前縁に衝突した流体は翼面の上側と下側を通る流れに分断され、翼面を流れる際に、迎角によって生ずる翼面からの反作用を受けることになる。
【0043】
すなわち、翼面の上側を通過する流体は、図中における実線の矢印に示されるように、翼面に沿って翼の後縁から翼の下側方向に向かって導かれる。一方、翼面の下側を通過する流体は、同じく図中における実線の矢印に示すように、翼の前縁から翼の下側方向に向かって導かれる。
【0044】
それ故、第2の回転刃12の回転羽の翼面が回転羽周囲の流体(被撹拌食材)中を高速で回転移動すると、ちょうど、レシプロエンジン航空機のプロペラ・ブレードの回転時に、その回転面から後方に向かって流れる、いわゆる「プロペラ後流」が発生するように、これに相当する強力な流体(被撹拌食材)の流れが第2の回転刃12の下側に向かって発生する。
【0045】
係る流体の流れは、ミキサーの撹拌容器の底部に向かう強力な下降流を生じさせ、この下降流が、ミキサーの撹拌容器の底部に生じた前述の「粉だまり」や、未撹拌食材の堆積を吹き上げる。これによって、撹拌容器全体に亘る流体(被撹拌食材)の強力な対流が発生し、被撹拌食材の均一な攪拌・混練が達成されることになる。
【0046】
(3)本発明による食材用ミキサーの回転刃構造の効果
続いて、本発明に基づく回転刃の構造による具体的な効果を記載する。先ず、縦型の食材用ミキサーの撹拌容器内にケーキ生地を投入し、図10に示したような従来型の回転刃を用い、ミキサーの回転速度750rpmで30秒間のミキシングを行った。その結果であるミキサー撹拌容器内の写真を添付の図7に示す。
【0047】
同図の写真に示されるように、撹拌容器内部の底面近傍の側壁において、特に写真中の支持棒の先に示す辺りに、ベルト状に付着した粉だまり(内部が未だ未撹拌の粉末状であり、その表面を乳化された被撹拌食材で覆われた部分)が残ることが確認された。因みに、このような粉だまりを解消するためには、同じ回転速度で2倍の時間ミキシングを継続する必要が有った。
【0048】
次に、従来の回転刃に替え、本発明による回転刃構造をミキサーに装着して、上記と同一の条件でミキシングを行った。すなわち、被撹拌食材は上記と同量のケーキ生地であり、ミキサーの回転速度は750rpm、同じくミキシング時間は30秒間としている。
【0049】
その結果であるミキシング終了後のミキサー撹拌容器内の写真を添付の図8に示す。同図の写真からも明らかなように、ミキサー撹拌容器内に粉だまりが発生することは無かった。なお、本発明による回転刃構造の場合は、ミキサーの回転速度を上記の半分以下の300rpmに低下させ30秒間のミキシングを行っても、粉だまりの発生は認められなかった。
【0050】
(4)本発明のその他の実施例
本発明による回転刃構造の一つの実施例を以上に説明したが、本発明は、係る実施例に限定されるものではない。例えば、被撹拌食材の種類やその状態に応じて、回転刃の上下の組み合わせ、即ち、第1の回転刃と第2の回転刃との組み合わせを上下逆にするようにしても良い。或いは、上下の回転刃の間に垂直方向のスペーサーを挿入して、上下の刃間距離を適宜調整するようにしても良い。
【0051】
さらに、第1の回転刃や第2の回転刃を各々一つずつではなく、回転軸の垂直方向について各々複数の第1の回転刃や第2の回転刃を備える構造としても良い。この場合、それぞれの回転刃の数や種別は、実際の実施態様に応じて任意に組み合わせることが可能であることは言うまでもない。
【0052】
以上に説明したように、本発明による回転刃構造を用いれば、高速若しくは長時間の撹拌・混練を行うことなく、低速かつ短時間のミキシングにより被撹拌食材の撹拌・混練処理が完了するため、食品の風味や食感を損なう事が無い。また、ミキシング時における消費電力の低減や、作業効率の向上にも貢献することができる。
【0053】
なお、本発明の実施形態は、以上に説明した実施例に限定されるものではなく、例えば、各々の実施例を構成する各部位の形状や配置或いはその素材等は、本発明の趣旨を逸脱することなく、現実の実施態様に即して適宜変更ができるものであることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の構成は、乳製品業界や製菓業界をはじめとして、食材の撹拌・混練を必要とする各種の食品業界においてもその利用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0055】
図1】本発明による食材用ミキサーにおける回転刃の構造を示す斜視図である。
図2】本発明を構成する第1の回転刃の構造を示す斜視図である。
図3第1の回転刃に備えられた回転羽の変形例を示す図である。
図4第1の回転刃の回転刃回転軸への取り付け角度を示した模式図である。
図5】本発明を構成する第2の回転刃の構造を示す斜視図である。
図6】流体(被撹拌食材)中における第2の回転刃の働きを示した模式図である。
図7】従来の回転刃を用いて撹拌を行った場合の結果例写真である。
図8】本発明による回転刃を用いて撹拌を行った場合の結果例写真である。
図9】大型の縦型食材用ミキサーの事例を示す説明図である。
図10】食材用ミキサーにおける実際の回転刃の一例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
1 …本発明に基づく回転刃構造
11 …第1の回転刃
12 …第2の回転刃
13 …ホルダー
111 …第1の回転刃羽格子
112 …第1の回転刃羽面
a …撹拌容器
b …回転刃
c …回転駆動部
d …回転制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10