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▶ 平岡織染株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】消臭抗菌性シート状物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61L 9/00 20060101AFI20230830BHJP
   A61L 9/014 20060101ALI20230830BHJP
   A61L 9/18 20060101ALI20230830BHJP
   B01J 20/26 20060101ALI20230830BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20230830BHJP
   D06M 13/503 20060101ALI20230830BHJP
   D06M 13/477 20060101ALI20230830BHJP
   D06M 11/46 20060101ALI20230830BHJP
   D06M 13/513 20060101ALI20230830BHJP
   D06M 13/507 20060101ALI20230830BHJP
   D06M 11/44 20060101ALI20230830BHJP
   D06M 11/48 20060101ALI20230830BHJP
   D06M 11/47 20060101ALI20230830BHJP
   D06M 11/49 20060101ALI20230830BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20230830BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
A61L9/00 C
A61L9/014
A61L9/18
B01J20/26 A
B01J20/30
D06M13/503
D06M13/477
D06M11/46
D06M13/513
D06M13/507
D06M11/44
D06M11/48
D06M11/47
D06M11/49
B01J35/02 J
B01J37/04
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020045110
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021145698
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000239862
【氏名又は名称】平岡織染株式会社
(72)【発明者】
【氏名】狩野 俊也
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/021944(WO,A1)
【文献】特開2019-088499(JP,A)
【文献】特開2014-028792(JP,A)
【文献】特開2018-176036(JP,A)
【文献】特開2012-254398(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 9/00 - 9/22
B01J 21/00 - 38/74
B01J 20/00 - 20/34
D06M 13/00 - 15/715
D06M 10/00 - 11/84
D06M 16/00
D06M 19/00 - 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート基材の少なくとも1面に多孔性配位高分子層が設けられたシート状物であって、前記多孔性配位高分子層が、有機錯体ユニット及び架橋性有機化合物とで構成され、この両者が多方向に交互に連結して成る立体格子群を有し、かつ、シラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体、またはチタノール基含有有機チタン化合物のゾルゲル縮合体を含み、前記有機錯体ユニットが2~4価の金属イオン1~6個、及びカルボキシル基を2~4個有する化合物からなり、また前記架橋性有機化合物が、構造中に2~4個の窒素原子を有する有機配位子、または構造中に1~2個のカルボキシル基及び1~2個の窒素原子を有する有機配位子であり、さらに前記多孔性配位高分子層表面、及び前記立体格子群に光触媒性金属酸化物粒子を担持していることを特徴とする消臭抗菌性シート状物。
【請求項2】
前記光触媒性金属酸化物粒子が、酸化チタン、過酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化ビスマス、及び酸化鉄、から選ばれた1種以上である請求項に記載の消臭抗菌性シート状物。
【請求項3】
前記シート基材が織物を芯材として含み、前記織物が、1)経糸及び緯糸からなる織物、または2)経糸及び左上バイアス糸/右上バイアス糸からなる三軸織物、または3)経糸、緯糸及び左上バイアス糸/右上バイアス糸からなる四軸織物、の何れかである請求項1または2に記載の消臭抗菌性シート状物。
【請求項4】
1)シート基材の少なくとも1面に、立体格子群を構造中に含む多孔性配位高分子、及び、シラノール基含有有機シラン化合物またはチタノール基含有有機チタン化合物、を含む組成物を塗布する工程、
2)この塗布した組成物を、シラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体、またはチタノール基含有有機チタン化合物のゾルゲル縮合体、を含む多孔性配位高分子層に転化する工程、
3)多孔性配位高分子層上に、光触媒性金属酸化物粒子を含む溶液を塗布し、前記多孔性配位高分子の前記立体格子群に前記光触媒性金属酸化物粒子を担持させる工程、を含むことを特徴とする消臭抗菌性シート状物の製造方法。
【請求項5】
前記多孔性配位高分子が、有機錯体ユニット及び架橋性有機化合物とで構成され、この両者が多方向に交互に連結して成る立体格子群を有し、前記有機錯体ユニットが2~4価の金属イオン1~6個、及びカルボキシル基を2~4個有する化合物からなり、また前記架橋性有機化合物が、構造中に2~4個の窒素原子を有する有機配位子、または構造中に1~2個のカルボキシル基及び1~2個の窒素原子を有する有機配位子である請求項に記載の消臭抗菌性シート状物の製造方法。
【請求項6】
前記シート基材が織物を芯材として含み、前記織物が、1)経糸及び緯糸からなる織物、または2)経糸及び左上バイアス糸/右上バイアス糸からなる三軸織物、または3)経糸、緯糸及び左上バイアス糸/右上バイアス糸からなる四軸織物、の何れかを含ませる請求項に記載の消臭抗菌性シート状物の製造方法。
【請求項7】
1)光触媒性金属酸化物粒子を含む溶液中で、立体格子群を構造中に含む多孔性配位高分子を攪拌処理し、この多孔性配位高分子表面、及び前記立体格子群に前記光触媒性金属酸化物粒子を担持させる工程、
2)光触媒性金属酸化物粒子を担持する多孔性配位高分子、及び、シラノール基含有有機シラン化合物またはチタノール基含有有機チタン化合物、を含む組成物をシート基材の少なくとも1面に塗布する工程、
3)この塗布した組成物を、シラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体、またはチタノール基含有有機チタン化合物のゾルゲル縮合体、を含む多孔性配位高分子層に転化する工程、を含むことを特徴とする消臭抗菌性シート状物の製造方法。
【請求項8】
前記多孔性配位高分子が、有機錯体ユニット及び架橋性有機化合物とで構成され、この両者が多方向に交互に連結して成る立体格子群を有し、前記有機錯体ユニットが2~4価の金属イオン1~6個、及びカルボキシル基を2~4個有する化合物からなり、また前記架橋性有機化合物が、構造中に2~4個の窒素原子を有する有機配位子、または構造中に1~2個のカルボキシル基及び1~2個の窒素原子を有する有機配位子である請求項に記載の消臭抗菌性シート状物の製造方法。
【請求項9】
前記シート基材が織物を芯材として含み、前記織物が、1)経糸及び緯糸からなる織物、または2)経糸及び左上バイアス糸/右上バイアス糸からなる三軸織物、または3)経糸、緯糸及び左上バイアス糸/右上バイアス糸からなる四軸織物、の何れかを含ませる請求項に記載の消臭抗菌性シート状物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、悪臭成分、及びVOC成分などの不快臭気成分全般に対して臭気濃度を効果的に減少させる消臭効果、並び抗菌効果を安定的に持続可能なシート状物と、その製造方法の発明に関する。本発明の消臭抗菌性シート状物は、フィルム、シート、テープ、ターポリン、メッシュシート、帆布、布帛などの原反で流通し、天井膜、空間仕切り、巻上昇降式シートシャッター、カーテン、敷物、カバー、ブラインド、日用雑貨など加工されて使用される。
【背景技術】
【0002】
以前、本出願人は遮熱機能の減衰を招く原因となる煤塵付着汚れを防ぐ機能を有し、遮熱機能を効率的に持続させることができる採光性の遮熱膜材に関する発明として、光触媒物質、及び熱制御性物質を用いた膜材(特許文献1)を提案した。特に光触媒物質の態様(段落〔0063〕の1つとして、酸化チタンなどの光触媒物質を、シリカ、(合成)ゼオライト、チタンゼオライト、リン酸ジルコニウム、リン酸カルシウム、リン酸亜鉛カルシウム、ハイドロタルサイト、ヒドロキシアパタイト、シリカアルミナ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイソウ土などの無機系多孔質微粒子に担持させたものを使用すること、そして光触媒物質を無機系多孔質微粒子に担持させる手段として、光触媒物質を含有する金属アルコラートによるゾル-ゲル薄膜製造工程を応用した表面処理を用いることを例示した。特許文献1の膜材の発明において光触媒物質を担持する無機系多孔質微粒子は、テント膜材への煤塵付着汚れを防ぐための存在で、無機系多孔質微粒子内に既に酸化チタンなどの光触媒物質を担持した状態にあり、さらに臭気分子を効果的に吸着できるような状態にはなかった。
【0003】
また、本出願人は、減臭効果と遮熱効果とを有する建築養生メッシュシートの発明として、無機多孔性物質、酸化・還元性物質、及び光触媒性物質などの臭気分子不活性化粒子を用いたメッシュシート(特許文献2)を提案した。特に、無機多孔性物質や酸化・還元性物質などと共に光触媒性物質を用いることで、建築養生メッシュシートが太陽光の照射を受け続ける限り、光触媒性物質を活性化し、それによって臭気分子を吸着した無機多孔性物質や、臭気分子が配位した酸化・還元性物質に常時作用し、この光触媒性物質の作用によって物理吸着や化学配位により捕捉した臭気分子を分解し、無臭化することで、無機多孔性物質や酸化・還元性物質を吸着や配位前の初期状態にリセットし、新たな臭気分子を捕捉できるようになることを段落〔0014〕に開示し、また無機多孔性物質として、活性炭、添着活性炭、白竹炭、活性白土、ゼオライト、ベントナイト、セピオライト、シラス、シリカ、シリカ-マグネシア、モレキュラーシーブなどを用いることを段落〔0023〕に開示した。しかしながら特許文献2のメッシュシートでは、臭気分子を吸着する無機多孔性物質と、臭気分子を分解する光触媒性物質とが別個に存在することで、臭気分子の分解効率が劣ることが後の検討で明らかとなった。
【0004】
金属イオン(2つ以上の有機配位子と結合可能)と有機配位子(配位結合可能な部位を2つ以上有する)が交互に連結して形成され内部に多数の立体網目状空間を持つ多孔性配位高分子が種々知られ、有機配位子のサイズをコントロールすること、すなわち特定の有機化合物を用いることで任意の立体網目状空間に調整し、この立体網目状空間に特定のガス(メタンガス、二酸化炭素など)を大量貯蔵させる検討(特許文献3、特許文献4)がなされている。その他、多孔性配位高分子の立体網目状空間サイズのコントロールによって、ガスの分離フィルターとする試み、イオン電導性を付与した個体電解質の応用、未反応イオン部位を触媒とする試み、などが検討されている。また、この多孔性配位高分子のガス吸着性、金属イオンの抗菌性を利用した生活臭(タバコ臭、動物臭、排泄臭、生ごみ臭、汗臭)用消臭剤、成形品(繊維、繊維製品、フィルター)、抗ウイルス剤(特許文献5)が提案されている。多孔性配位高分子はシリカやゼオライトなどの無機多孔質粒子よりも吸着能及び吸着容量が大きいことで、消臭剤として用いた場合、より短時間で多くの臭気物質を吸着、貯蔵すること、すなわち効果的な消臭が可能となる。しかしながら、多孔性配位高分子の種類、立体網目状空間サイズの設計によっては、熱、静電気、摩擦などの刺激によって臭気物質が多孔性配位高分子や成形品から逆戻り放出される可能性があった。従って多孔性配位高分子の種類、立体網目状空間サイズの設計に無関係に、優れた消臭効果、及び抗菌効果を安定持続する成形品(例えば、フィルム、シート、テープ、ターポリン、メッシュシート、帆布、布帛などのシート状物)が存在すれば、各種産業分野、及び家庭において、さらに消臭用途、衛生用途での利便性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-251728号公報
【文献】特開2015-014093号公報
【文献】特開2001-348361号公報
【文献】特開2016-193957号公報
【文献】特開2019-088499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、悪臭成分、及びVOC(揮発性有機化合物)などの不快臭気成分全般に対して臭気濃度を効果的に減少させる消臭効果、並び抗菌効果を安定的に持続可能なシート状物と、その製造方法の提供を課題とする。この課題解決によって、フィルム、シート、テープ、ターポリン、メッシュシート、帆布、布帛などのシート状物の原反で流通し、天井膜、空間仕切り、カーテン、敷物、カバー、ブラインド、日用雑貨などに加工されて使用される。これらは安定持続した消臭効果を発現するので、特に食肉加工、水産物加工、畜産施設、醸造・発酵、などの現場、病院、保育園、介護施設、葬祭施設、などの現場、ごみ集積場、公衆トイレ、公衆浴場、などの現場に広く利用できるようになる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はかかる点を考慮し種々検討を行った結果、シート基材の少なくとも1面に多孔性配位高分子層が設けられたシート状物において、多孔性配位高分子層が、有機錯体ユニット及び架橋性有機化合物とで構成され、この両者が多方向に交互に連結を成して立体格子群を有し、この立体格子群が光触媒性金属酸化物粒子を担持することによって、悪臭成分、及びVOC成分などの不快臭気成分全般に対して臭気濃度を効果的に減少させる消臭効果、並び抗菌効果を安定的に持続し可能なシート状物が得られることを見出して本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明の消臭抗菌性シート状物は、シート基材の少なくとも1面に多孔性配位高分子層が設けられたシート状物であって、前記多孔性配位高分子層が、有機錯体ユニット及び架橋性有機化合物とで構成され、この両者が多方向に交互に連結して成る立体格子群を有し、かつ、シラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体、またはチタノール基含有有機チタン化合物のゾルゲル縮合体を含み、前記有機錯体ユニットが2~4価の金属イオン1~6個、及びカルボキシル基を2~4個有する化合物からなり、また前記架橋性有機化合物が、構造中に2~4個の窒素原子を有する有機配位子、または構造中に1~2個のカルボキシル基及び1~2個の窒素原子を有する有機配位子であり、さらに前記多孔性配位高分子層表面、及び前記立体格子群に光触媒性金属酸化物粒子を担持していることが好ましい。有機錯体ユニット同士が、架橋性有機化合物を介在して多方向に規則的に連結することで形成された立体幾何学形状の空間(立方体格子状に限定されないジャングルジム状)が立体格子群となる。この立体格子群が、悪臭成分、及びVOC成分などの不快臭気成分を短時間で効率的に吸着することで、臭気濃度を効果的に減少させる安定持続的な消臭効果、並び安定持続的な抗菌効果を発現する。そして多孔性配位高分子層は有機錯体ユニット部を有することで、多孔性配位高分子層を付帯する物品に帯電防止性を付与する。架橋性有機化合物は有機錯体ユニット同士が、架橋性有機化合物を介在して多方向に規則的に連結することで形成された立体幾何学形状の空間が立体格子群となる。従って架橋性有機化合物の分子量が大きい程、あるいは分子鎖の分岐が多い程、あるいは有機錯体ユニットの体積が大きい程、あるいは有機錯体ユニットと有機錯体ユニットとの結合角が大きい程、得られる立体格子のサイズ(すなわち多孔性配位高分子の孔)が広大となる。また化学構造中の配座2~4個の選択によって幾何学的形状の結晶構造(立体格子の形状、及びサイズ)が任意設計される。この結晶構造の設計によって、吸着(捕捉)可能な臭気成分(化学物質)をコントロールできる。
【0009】
本発明の消臭抗菌性シート状物は、前記多孔性配位高分子層が、シラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体、またはチタノール基含有有機チタン化合物のゾルゲル縮合体を含むことが好ましい。これによって多孔性配位高分子層の屈曲強度及び摩耗強度を増強することができる。
【0010】
本発明の消臭抗菌性シート状物は、前記光触媒性金属酸化物粒子が、酸化チタン、過酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化ビスマス、及び酸化鉄、から選ばれた1種以上であることが好ましい。多孔性配位高分子の有する立体格子構造が光触媒性金属酸化物粒子を担持することにより、光触媒性金属酸化物粒子の光触媒活性が発現し、多孔性配位高分子の有する立体格子構造内に捕捉した有機系臭気ガスを逐次分解し、さらに有機系臭気ガスを取り込めるように立体格子の状態を空にリセットする。このリセットにより、吸着/分解リセット/吸着・・・のサイクルを繰り返すことを可能とする。またウイルス、菌、黴などの増殖を抑止可能とする抗菌性を有するので腐敗臭、黴臭の防止にもなる。特に光触媒性金属酸化物粒子が可視光応答型光触媒であると屋内使用も可能とする。可視光応答型光触媒は、助触媒添加(担持)型光触媒、アニオンドープ型光触媒、カチオンドープ型光触媒、アニオンとカチオンの両方をドープした共ドープ型光触媒、金属ハロゲン化物担持型光触媒、酸素欠損型光触媒、などが例示できる。本発明において光触媒性金属酸化物粒子の担持とは、立体格子構造への担持の他、多孔性配位高分子層の表面に露出存在する立体格子群に接しての担持も包含する。
【0011】
本発明の消臭抗菌性シート状物は、前記シート基材が織物を芯材として含み、前記織物が、1)経糸及び緯糸からなる織物、または2)経糸及び左上バイアス糸/右上バイアス糸からなる三軸織物、または3)経糸、緯糸及び左上バイアス糸/右上バイアス糸からなる四軸織物、の何れかであることが好ましい。これによってターポリン、メッシュシート、帆布の産業用シート材を得ることができ、特に三軸織物、四軸織物などを使用すれば、糸条同士の交絡が複雑化し、多軸方向に拡がるネットワークによって産業用シート材に加えられる屈曲、はためきなどの外力ストレスの拡散伝播性が増し、ストレスを広域に分散させることで産業用シート材へのダメージを緩和し、同時に引裂などの外力に対する抵抗力を増強させることができる。ターポリンの態様は、日除けテント、テント倉庫、防音シート、建築養生シート、天井膜、間仕切りシート、横断幕、懸垂幕、電飾看板シート、巻上昇降式シートシャッター、フレキシブルコンテナ、フロアシート、屋上防水シート、などの加工用原反に、メッシュシートの態様は、建築養生シート、吸音膜、間仕切りシート、横断幕、懸垂幕、などの加工用原反に、帆布の態様は、テント倉庫、屋形テント、トラック幌、トラック荷台カバー、野積シートカバー、などの加工用原反に用いることができる。
【0012】
本発明の消臭抗菌性シート状物の製造方法は、
1)シート基材の少なくとも1面に、立体格子群を構造中に含む多孔性配位高分子、及び、シラノール基含有有機シラン化合物またはチタノール基含有有機チタン化合物、を含む組成物を塗布する工程、
2)この塗布した組成物を、シラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体、またはチタノール基含有有機チタン化合物のゾルゲル縮合体、を含む多孔性配位高分子層に転化する工程、
3)多孔性配位高分子層上に、光触媒性金属酸化物粒子を含む溶液を塗布し、前記多孔性配位高分子の前記立体格子群に前記光触媒性金属酸化物粒子を担持させる工程、を含むことが好ましい。
【0013】
本発明の消臭抗菌性シート状物の製造方法は、前記多孔性配位高分子が、有機錯体ユニット及び架橋性有機化合物とで構成され、この両者が多方向に交互に連結して成る立体格子群を有し、前記有機錯体ユニットが2~4価の金属イオン1~6個、及びカルボキシル基を2~4個有する化合物からなり、また前記架橋性有機化合物が、構造中に2~4個の窒素原子を有する有機配位子、または構造中に1~2個のカルボキシル基及び1~2個の窒素原子を有する有機配位子であることが好ましい。
【0014】
本発明の消臭抗菌性シート状物の製造方法は、前記シート基材が織物を芯材として含み、前記織物が、1)経糸及び緯糸からなる織物、または2)経糸及び左上バイアス糸/右上バイアス糸からなる三軸織物、または3)経糸、緯糸及び左上バイアス糸/右上バイアス糸からなる四軸織物、の何れかを含ませることが好ましい。
【0015】
本発明の消臭抗菌性シート状物の製造方法は、
1)光触媒性金属酸化物粒子を含む溶液中で、立体格子群を構造中に含む多孔性配位高分子を攪拌処理し、この多孔性配位高分子表面、及び前記立体格子群に前記光触媒性金属酸化物粒子を担持させる工程、
2)光触媒性金属酸化物粒子を担持する多孔性配位高分子、及び、シラノール基含有有機シラン化合物またはチタノール基含有有機チタン化合物、を含む組成物をシート基材の少なくとも1面に塗布する工程、
3)この塗布した組成物を、シラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体、またはチタノール基含有有機チタン化合物のゾルゲル縮合体、を含む多孔性配位高分子層に転化する工程、を含むことが好ましい。
【0016】
本発明の消臭抗菌性シート状物の製造方法は、前記多孔性配位高分子が、有機錯体ユニット及び架橋性有機化合物とで構成され、この両者が多方向に交互に連結して成る立体格子群を有し、前記有機錯体ユニットが2~4価の金属イオン1~6個、及びカルボキシル基を2~4個有する化合物からなり、また前記架橋性有機化合物が、構造中に2~4個の窒素原子を有する有機配位子、または構造中に1~2個のカルボキシル基及び1~2個の窒素原子を有する有機配位子であることが好ましい。
【0017】
本発明の消臭抗菌性シート状物の製造方法は、前記シート基材が織物を芯材として含み、前記織物が、1)経糸及び緯糸からなる織物、または2)経糸及び左上バイアス糸/右上バイアス糸からなる三軸織物、または3)経糸、緯糸及び左上バイアス糸/右上バイアス糸からなる四軸織物、の何れかを含ませることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明により、悪臭成分、及びVOC成分などの不快臭気成分全般に対して臭気濃度を効果的に減少させる減臭効果、並び消臭効果を安定的に持続可能なシート状物が得られる。多孔性配位高分子層のみでも消臭性(減臭性)は発現可能であるが、本願発明のように多孔性配位高分子層の有する立体格子群に光触媒性金属酸化物粒子を担持することで光触媒性金属酸化物粒子の光触媒活性により、多孔性配位高分子の立体格子群に捕捉した有機系臭気ガスを逐次分解し、さらに有機系臭気ガスを取り込めるように立体格子の状態を空にリセットすることができる。このリセットにより、吸着/分解リセット/吸着・・・のサイクルを繰り返すことを可能とする。またウイルス、菌、黴などの増殖を抑止する抗菌性を有するので腐敗臭、黴臭の防止にもなる。特に光触媒性金属酸化物粒子は可視光応答型光触媒が屋内用途に適している。また本発明のシート状物は、多孔性配位高分子層にゾルゲル縮合体を含有することで屈曲強度及び摩耗強度を強化する。本発明の消臭抗菌性シート状物は、フィルム、シート、テープ、ターポリン、メッシュシート、帆布、布帛などの原反で流通し、天井膜、空間仕切り、カーテン、敷物、カバー、ブラインド、日用雑貨などに加工され、工場、醸造、農場、畜産場、水産加工場、下水道、マンホール、廃棄物処理場、汚水汚泥処理施設、病院、介護施設、葬儀施設、動物園、公共浴場、公衆トイレ、飲食店、などの任意の場所、及び家庭(トイレ、浴室、キッチン、ベッド、シューズボックス、タンス、クローゼット、ペットケージ、などに任意のカットサイズで使用)などに広く使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の消臭抗菌性シート状物は、シート基材の少なくとも1面に多孔性配位高分子層が設けられたシート状物であって、多孔性配位高分子層が、有機錯体ユニット及び架橋性有機化合物とで構成され、この両者が多方向に交互に連結して成る立体格子群を有し、有機錯体ユニットが2~4価の金属イオン1~6個、及びカルボキシル基を2~4個有する化合物からなり、また架橋性有機化合物が、構造中に2~4個の窒素原子を有する有機配位子、または構造中に1~2個のカルボキシル基及び1~2個の窒素原子を有する有機配位子であり、さらに前記多孔性配位高分子層表面、及び立体格子群に光触媒性金属酸化物粒子を担持している態様で、また多孔性配位高分子層が、シラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体、またはチタノール基含有有機チタン化合物のゾルゲル縮合体をバインダー成分に含む態様であり、さらに光触媒性金属酸化物粒子が、酸化チタン、過酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化ビスマス、及び酸化鉄、から選ばれた1種以上である態様であり、またシート基材が織物を芯材として含み、織物が、1)経糸及び緯糸からなる織物、または2)経糸及び左上バイアス糸/右上バイアス糸からなる三軸織物、または3)経糸、緯糸及び左上バイアス糸/右上バイアス糸からなる四軸織物の何れかである態様である。
【0020】
多孔性配位高分子粒子層は、有機錯体ユニット及び架橋性有機化合物とで構成され、両者が多方向に交互に連結してジャングルジム状(立方体格子状に限定されない)の立体格子群を有する結晶構造を成すものである。有機錯体ユニットは2~4価の金属イオン1~6個、及び2~4個のカルボキシル基を有する化合物からなる立体的な複合構造体で、架橋性有機化合物をピラー部に例えた場合、有機錯体ユニットはジョイント部に相当する。多孔性配位高分子層の多孔は結晶構造内の立体格子群に該当し、多孔性配位高分子層を形成する多孔性配位高分子粒子の粒子径は001μm~10μmである。有機錯体ユニットには2~4価の金属イオンを有し、1つの錯体部に1つの金属イオン、もしくは同一金属イオンによる2~4つの金属イオン集合体、または同一金属イオンによる5~6つの金属イオン集合体による錯体構造物が挙げられる。2価の金属イオンは、マンガンイオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン、鉄イオン、マグネシウムイオン、モリブデンイオン、パラジウムイオンなどが挙げられる。また3価イオンは、クロムイオン、鉄イオン、アルミニウムイオンなどが挙げられる。また4価イオンは、チタンイオン、ジルコニウムイオンなどが挙げられる。特に規則的な結晶構造を形成するために2価イオン(特にコバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン)、または3価イオン(特にクロムイオン、鉄イオン)の使用が好ましい。多孔性配位高分子層を構成する金属イオンは複数種の併用であってもよいが、立体格子群の規則性を整えるために単独使用が好ましい。3種以上用いた場合、結合の規則性が乱れ、得られる多孔性配位高分子層の立体格子の構造解析を困難とすることがある。
【0021】
有機錯体ユニットを形成する2~4個のカルボキシル基を有する化合物は、上記金属イオンと錯体を形成し、ZnO(CO 、ZnO(CO 、CrO(CO 、FeO(CO 、CuO(CO 、ZnO(CO 、CrO(CO 、CoO(CO 、FeO(CO 、Zr(OH)(CO 12、Zr(CO 、Zn(CO 、Co(CO 、Ni(CO 、などのパーツを構造中に有する複数の金属イオンの集合体となって4個、6個、8個、または12個の錯部を形成し、架橋性有機化合物と連結することによってピラー部を形成する。従って、分子設計的、構造解析的に1種、多くて2種のカルボキシル基を有する化合物を用いることが好ましい。3種以上用いた場合、結合の規則性が乱れ、得られる多孔性配位高分子層の立体格子群の構造解析が困難となることがある。
【0022】
有機錯体ユニットを形成する2~4個のカルボキシル基を有する化合物は、構造中に2個のカルボキシル基を有する化合物として、フマル酸、トランス,トランスムコン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ビフェニル4,4’-ジカルボン酸、2-ヒドロキシテレフタル酸、9,10-アントラセンジカルボン酸、2,5-ジアミノテレフタル酸、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸、2,6-ナフテレンテレフタル酸、5-シアノ-1,3-ベンゼンジカルボン酸、2-アミノテレフタル酸、3,5-ピリジンジカルボン酸、2,3-ピラジンジカルボン酸、2,2’-ジアミノ-4,4’-スチルベンジカルボン酸、2,2’-ジニトロ-4,4’-スチルベンジカルボン酸、などが挙げられる。また構造中に3個のカルボキシル基を有する化合物としては、1,3,5-ベンゼントリカルボン酸、ビフェニル-3,4’,5-トリカルボン酸、1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4’-カルボキシ[1,1’-ビフェニル]-4-イル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4-カルボキシフェニル)トリアジン、などが挙げられる。また構造中に4個のカルボキシル基を有する化合物としては、ビフェニル-3,3’,5,5’-テトラカルボン酸、3,3’,5,5’-テトラカルボキシジフェニルメタン、[1,1’,4’1”]ターフェニル-3,3”,5,5”-テトラカルボン酸、1,2,4,5-テトラキス(4-カルボキシフェニル)ベンゼン、などが挙げられる。これらはピラー部となる架橋性有機化合物とのジョイント部を形成するので、分子設計的、構造解析的に1種、多くて2種の有機配位子を用いることが好ましい。3種以上用いた場合、結合の規則性が乱れ、得られる多孔性配位高分子層の立体格子群の構造解析を困難とすることがある。この有機錯体ユニット同士が、架橋性有機化合物を介在して多方向に規則的に連結することで形成された立体幾何学形状(立方体格子状に限定されないジャングルジム状)の空間が立体格子群を形成する。従って有機錯体ユニットの分子量が大きい程、あるいは分子鎖の分岐が多い程、あるいは有機錯体ユニットの体積が大きい程、あるいは有機錯体ユニットと有機錯体ユニットとの結合角が大きい程、得られる立体格子のサイズが広大となる。立体格子のサイズは3nm~12nmが好ましい。
【0023】
架橋性有機化合物は、構造中に2~4個の窒素原子を有する有機配位子、または構造中に1~2個のカルボキシル基及び1~2個の窒素原子を有する有機配位子から任意に選択使用することができる。構造中に2個以上の窒素原子を有する架橋性有機化合物としては、例えば、ピリジン及びピリジン誘導体、アゾピリジン及びアゾピリジン誘導体、ピラジン及びピラジン誘導体、ビピリジン及びビピリジン誘導体、ピペリジン及びピペリジン誘導体、ジピリジル及びジピリジル誘導体、トリアジン及びトリアジン誘導体、イミダゾール及びイミダゾール誘導体、1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン、などのヘテロ原子を両末端に有する環状構造化合物が挙げられる。また構造中に1~2個のカルボキシル基、及び1~2個の窒素原子を有する架橋性有機化合物としては、ピリジンジカルボン酸及びピリジンジカルボン酸誘導体、ビピリジンジカルボン酸及びビピリジンジカルボン酸誘導体、ピラジンジカルボン酸及びピラジンジカルボン酸誘導体、ピラゾリンジカルボン酸及びピラゾリンジカルボン酸誘導体、ピラゾールジカルボン酸及びピラゾールジカルボン酸誘導体、キノキサリンジカルボン酸及びキノキサリンジカルボン酸誘導体、イミダゾリンジカルボン酸及びイミダゾリンジカルボン酸誘導体、イミダゾールジカルボン酸及びイミダゾールジカルボン酸誘導体、ジイミドジカルボン酸及びジイミドジカルボン酸誘導体、キノリンジカルボン酸及びキノリンジカルボン酸誘導体、ビキノリンジカルボン酸及びビキノリンジカルボン酸誘導体、ピリジン誘導体トリカルボン酸、ビピリジン誘導体トリカルボン酸、ピラジン誘導体トリカルボン酸、ピラゾリン誘導体トリカルボン酸、ピラゾール誘導体トリカルボン酸、キノキサリン誘導体トリカルボン酸、イミダゾリン誘導体トリカルボン酸、イミダゾール誘導体トリカルボン酸、ジイミド誘導体トリカルボン酸、キノリン誘導体トリカルボン酸、ビキノリン誘導体トリカルボン酸、ピリジン誘導体テトラカルボン酸、ビピリジン誘導体テトラカルボン酸、ピラジン誘導体テトラカルボン酸、ピラゾリン誘導体テトラカルボン酸、ピラゾール誘導体テトラカルボン酸、キノキサリン誘導体テトラカルボン酸、イミダゾリン誘導体テトラカルボン酸、イミダゾール誘導体テトラカルボン酸、ジイミド誘導体テトラカルボン酸、キノリン誘導体テトラカルボン酸、ビキノリン誘導体テトラカルボン酸、などが挙げられる。これらは架橋性有機化合物によるピラー部を形成するので、分子設計的、構造解析的に1種、多くて2種の有機配位子を用いることが好ましい。3種以上用いた場合、結合の規則性が乱れ、得られる多孔性配位高分子層の構造解析を困難とすることがある。有機錯体ユニット同士は、これらの架橋性有機化合物を介在して多方向に規則的に連結することで形成された立体幾何学形状(立方体格子状に限定されないジャングルジム状)の空間が立体格子群を形成する。従って架橋性有機化合物の分子量が大きい程、あるいは分子鎖の分岐が多い程、あるいは架橋性有機化合物の体積が大きい程、得られる立体格子のサイズが広大となる。立体格子のサイズは3nm~15nmが好ましい。
【0024】
多孔性配位高分子粒子は有機錯体ユニット部を有することで、多孔性配位高分子層を付帯する物品に帯電防止性を付与することができる。そして多孔性配位高分子層の有する立体格子群は、悪臭成分、及びVOC成分などの不快臭気成分を短時間で効率的に吸着することで、臭気濃度を効果的に減少させる安定持続的な消臭効果、並び安定持続的な抗菌効果を発現するが、さらにこの立体格子群の一部または全部に光触媒性金属酸化物粒子を担持することにより、光触媒性金属酸化物粒子の光触媒活性によって、立体格子群に捕捉した有機系臭気ガスを逐次分解し、さらに有機系臭気ガスを取り込めるように立体格子の状態を空にリセットすることができる。(ここで、立体格子群の一部または全部、とは立体格子の数に対する一部または全部であって、立体格子体積に対する一部または全部の意味ではない。)光触媒性金属酸化物粒子は、酸化チタン、過酸化チタン、酸化亜鉛、酸化錫、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、酸化ビスマス、及び酸化鉄、から選ばれた1種以上の粒子径3~15nmの粒子が挙げられ、1つの立体格子単位に担持する粒子は1個、または複数、または多数であってもよく特に限定はない。また多孔性配位高分子層の表面の立体格子群に接しての担持であってもよい。紫外線励起による光触媒性金属酸化物粒子の光触媒活性によって、多孔性配位高分子層の有する立体格子群に捕捉した有機系臭気ガスを分解し、またウイルス、菌、黴などの増殖を抑止する抗菌性を有するので腐敗臭、黴臭の防止にもなる。また光触媒性金属酸化物粒子は、紫外線励起以外に波長400nmから800nmの可視光励起で活性を示すものが好ましく、これらは、1)上記の光触媒性金属酸化物に、銀、プラチナ、金、銅、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、イリジウムなどの金属およびそれらの金属の化合物を助触媒として添加(担持)した助触媒添加(担持)型光触媒、2)上記の光触媒性金属酸化物に、窒素、炭素、硫黄、リン、ホウ素、フッ素などをドープしたアニオンドープ型光触媒、3)上記の光触媒性金属酸化物に、クロム、ニオブ、マンガン、コバルト、バナジウム、鉄、ニッケルなどの遷移金属イオンをドープしたカチオンドープ型光触媒、4)上記の光触媒性金属酸化物に、アニオンとカチオンの両方をドープした共ドープ型光触媒、5)上記の光触媒性金属酸化物に、白金、パラジウム、ロジウムなど貴金属のハロゲン化物を担持させた金属ハロゲン化物担持型光触媒、6)上記の光触媒性金属酸化物から部分的に酸素を引き抜いた酸素欠損型光触媒、などを用いることができる。光触媒性金属酸化物粒子は、上記より1種、または2種以上を併用して用いることができ、特に紫外線励起型光触媒性金属酸化物粒子と可視光励起型光触媒性金属酸化物粒子との併用系とすることで屋内外において効果的な光触媒活性を発現し、この効果によってより消臭性、及び抗菌性の効果を発現させる。
【0025】
多孔性配位高分子層の有する立体格子群の一部または全部、さらに多孔性配位高分子層表面に光触媒性金属酸化物粒子を担持させる方法、及びシート基材に、光触媒性金属酸化物粒子を担持する多孔性配位高分子層を形成する方法1)は、シート基材の少なくとも1面に、立体格子群を構造中に含む多孔性配位高分子、及び、シラノール基含有有機シラン化合物またはチタノール基含有有機チタン化合物、を含む組成物を塗布する工程、この塗布した組成物を、シラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体、またはチタノール基含有有機チタン化合物のゾルゲル縮合体、を含む多孔性配位高分子層に転化する工程、多孔性配位高分子層上に、光触媒性金属酸化物粒子を含む溶液を塗布し、多孔性配位高分子の立体格子群に光触媒性金属酸化物粒子を担持させる工程、を含むことにより達成される。この方法によれば、光触媒性金属酸化物粒子は、多孔性配位高分子層の表面、及び多孔性配位高分子層の有する立体格子群の一部または全部に担持された態様となる。ここで、立体格子群の一部または全部、とは立体格子の数に対する一部または全部であって、立体格子体積に対する一部または全部の意味ではない。また多孔性配位高分子層表面に対する光触媒性金属酸化物粒子の担持とは、多孔性配位高分子層の表面に露出存在する立体格子群に接しての担持を意味する。また方法1)では、有機錯体ユニット(2~4価の金属イオン1~6個、及びカルボキシル基を2~4個有する化合物)、及び架橋性有機化合物(構造中に2~4個の窒素原子を有する有機配位子、または構造中に1~2個のカルボキシル基及び1~2個の窒素原子を有する有機配位子)を多方向に交互に反応させて薄膜状に連続した多孔性配位高分子層を形成させることもできるが、反応完結までの時間を要するため連続生産には向かず、この方法はバッチ生産に適している。
【0026】
同様に、多孔性配位高分子層の有する立体格子群の一部または全部、さらに多孔性配位高分子層表面に光触媒性金属酸化物粒子を担持させる方法、及びシート基材に、光触媒性金属酸化物粒子を担持する多孔性配位高分子層を形成する方法2)は、光触媒性金属酸化物粒子を含む溶液中で、立体格子群を構造中に含む多孔性配位高分子を攪拌処理し、この多孔性配位高分子表面、及び立体格子群に光触媒性金属酸化物粒子を担持させる工程、光触媒性金属酸化物粒子を担持する多孔性配位高分子、及び、シラノール基含有有機シラン化合物またはチタノール基含有有機チタン化合物、を含む組成物をシート基材の少なくとも1面に塗布する工程、この塗布した組成物を、シラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体、またはチタノール基含有有機チタン化合物のゾルゲル縮合体、を含む多孔性配位高分子層に転化する工程、を含む方法により、光触媒性金属酸化物粒子を担持する多孔性配位高分子層が形成される。この方法によれば、光触媒性金属酸化物粒子は多孔性配位高分子層の有する立体格子群の一部または全部に担持された態様となる。ここで、立体格子群の一部または全部、とは立体格子の数に対する一部または全部であって、立体格子体積に対する一部または全部の意味ではない。また多孔性配位高分子層表面に対する光触媒性金属酸化物粒子の担持とは、多孔性配位高分子層の表面に露出存在する立体格子群に接しての担持を意味する。上記1)及び2)の製造方法において、光触媒性金属酸化物粒子を担持する多孔性配位高分子層では、立体格子群に臭気物質を取り込む空間余裕が大きいほど、消臭効果の発現が迅速、かつ絶大となるため、個々の立体格子内が多量の光触媒性金属酸化物粒子で充填されない状態(立体格子の体積の50%以上が余裕空間となる状態)、多孔性配位高分子層の表面に集中して光触媒性金属酸化物粒子を担持させ、多孔性配位高分子層内部の立体格子群を温存してもよい。多孔性配位高分子層と光触媒性金属酸化物粒子との質量比は、50:1~1:1、特に10:1~3:2が好ましい。
【0027】
本発明の消臭抗菌性シート状物において、多孔性配位高分子層にアルコキシシラン化合物の加水分解物が結合していることで、多孔性配位高分子層内に含むゾルゲル縮合体との密着性を向上させ、多孔性配位高分子層の屈曲強度及び摩耗強度を増大させる。アルコキシシラン化合物は、一般式:XR-Si(Y)で表される分子中に2個以上の異なった反応基を有する化合物で、例えば、X=アミノ基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アクリル基、クロル基、メルカプト基、イソシアヌレート基、イソシアネート基、など(R=アルキル鎖)、Y=メトキシ基、エトキシ基などである。シランカップリング剤は、アミノシラン、ビニルシラン、エポキシシラン、メタクリルシラン、アクリルシラン、クロルシラン、メルカプトシラン、イソシアヌレートシラン、イソシアネートシラン、などが挙げられる。多孔性配位高分子層にアルコキシシラン化合物の加水分解物を結合させる処理は、多孔性配位高分子(光触媒性金属酸化物粒子を担持させる前でも、担持させた後、の何れでも可)を1種以上のアルコキシシラン化合物を1~5質量%濃度で含む水溶液中で処理し、アルコキシシラン化合物の加水分解物:XR-Si(OH)(X、Yは上記と同じ)を多孔性配位高分子の未反応のカルボキシ基、金属イオンなどに結合させる処理である。また、この処理溶液は直接シート基材にグラビアコート法などの公知の塗工方法で塗布し、加熱乾燥することもできる。また、アルコキシシラン化合物の加水分解物が結合した多孔性配位高分子は、オルガノシリケート化合物、シラノール基含有有機シラン化合物、チタノール基含有有機チタン化合物、などのゾルゲル縮合体を生成可能な成分と共に使用し、ゾルゲル縮合体中に多孔性配位高分子粒子が密集した態様が好ましい。アルコキシシラン化合物の加水分解物が結合した多孔性配位高分子は、ゾルゲル縮合体中の結合の一部に何らかの形で取り込まれ、シート基材との密着強さ、表面摩耗強さを向上させるものと考察する。
【0028】
本発明の消臭抗菌性シート状物において、多孔性配位高分子層には、シラノール基含有有機シラン化合物のゾルゲル縮合体層、またはチタノール基含有有機チタン化合物のゾルゲル縮合体をバインダー成分に含む態様が好ましい。これにより多孔性配位高分子層内にゾルゲル縮合体の網目構造が形成され多孔性配位高分子層の耐屈曲性、耐摩耗性を増強させる。シート基材の片面、もしくは表裏に多孔性配位高分子層が存在することで、多孔性配位高分子層内の広大な表面積を有する立体格子群に、多量の空気やガスを取り込むことができる。この多孔性配位高分子層自体の吸着消臭効果、さらに多孔性配位高分子層の立体格子群が光触媒性金属酸化物粒子を担持することで立体格子内に吸着した有機系化学物質ガスが光触媒活性により逐次分解され、立体格子内を空の状態にリセットする。この吸着/分解リセット/吸着・・・のサイクルを繰り返すことで本発明の消臭抗菌性シート状物の消臭効果を迅速、かつ絶大なものとし、さらに持続的なものとする。多孔性配位高分子層に含むゾルゲル縮合体の量は、多孔性配位高分子層に対して25~50質量%、特に30~40質量%が好ましい。ゾルゲル縮合体と多孔性配位高分子との質量比だと、4:1~1:2、特に2:1~2:3とする仕込み配合が好ましい。また上記ゾルゲル縮合体と多孔性配位高分子(光触媒性金属酸化物粒子を担持)との質量比は、4:1~1:2、特に2:1~2:3とする仕込み配合が好ましい。また上記ゾルゲル縮合体と多孔性配位高分子(光触媒性金属酸化物粒子を担持し、かつアルコキシシラン化合物の加水分解物が結合)との質量比は、4:1~1:2、特に2:1~2:3とする仕込み配合が好ましい。
【0029】
シラノール基含有有機シラン化合物は、化学式:SiO(OR)で表される4官能加水分解性シラン化合物であり、式中、Rは炭素原子数1~10のアルキル基(特に炭素数1~3の低級アルキル基)、またはアリール基(特にフェニル基)で具体的に、テトラメトキシシラン(Si(OCH):別名テトラメチルシリケート)、テトラエトキシシラン(Si(OC):別名テトラエチルシリケート)、テトラプロポキシシラン(Si(OC):別名テトラプロピルシリケート)、テトラブトキシシラン(Si(OC):別名テトラブチルシリケート)、テトラフェノキシシラン(Si(OC):別名テトラフェニルシリケート)、ジメトキシジエトキシシラン(Si(OCH)(OC):別名ジメチルジエチルシリケート)などである。シラノール基含有有機シラン化合物の多量体は、化学式:Sin-1(OR)2(n+1)で表される縮合体であり、式中、Rは炭素原子数1~10のアルキル基(特に炭素数1~3の低級アルキル基)、またはアリール基(特にフェニル基)、nは4官能加水分解性シラン化合物の縮合分子数を表す多量化度(所謂n量体)で、nが2以上のシラノール基含有有機シラン化合物多量体は、4官能加水分解性シラン化合物が加水分解して生成するシラノール基同士の反応で2分子以上が縮合して生成する多量体であり、nの表す多量化度は多量体1分子中に含有するSi原子数を意味する。本発明においては多量化度2~10、好ましくは4~6のシラノール基含有有機シラン化合物多量体(Sin-1(OR)2(n+1))によるゾルゲル縮合体層であることが好ましい。このゾルゲル縮合体層の原子配列はヨコ軸とタテ軸からなる四角格子網目をモデルとすれば、ヨコ軸とタテ軸の交点にSi原子が配置され、上下左右に隣接するSi-Si原子間にO原子が配置されたイメージである。
【0030】
チタノール基含有有機チタン化合物は、化学式:TiO(OR)で表される4官能加水分解性チタン化合物であり、式中、Rは炭素原子数1~10のアルキル基(特に炭素数1~3の低級アルキル基)、またはアリール基(特にフェニル基)で具体的に、テトラメトキシチタン(Ti(OCH):別名テトラメチルチタネート)、テトラエトキシチタン(Ti(OC):別名テトラエチルチタネート)、テトラプロポキシチタン(Ti(OC):別名テトラプロピルチタネート)、テトラブトキシチタン(Ti(OC):別名テトラブチルチタネート)、テトラフェノキシチタン(Ti(OC):別名テトラフェニルチタネート)、ジメトキシジエトキシチタン(Ti(OCH)(OC):別名ジメチルジエチルチタネート)などのチタニウムアルコキシド化合物、さらにはトリブトキシチタンステアレート、イソプロポキシチタントリステアレートなどのチタニウムアシレート化合物:Ti(OOCR)、またさらにジイソプロポキシチタンビスアセチルアセトナト、ジイソプロポキシチタンビスエチルアセトアセテートなどのチタニウムキレート化合物:(ROO)Ti(OR)錯体、その他、イソプロポキシチタントリイソステアレート、イソプロポキシチタンジメタクリレートイソステアレート、イソプロポキシチタントリスジオクチルホスフェート、ビスジオクチルホスフェートエチレングリコラートチタン、ジブトキシビストリエタノールアミナトチタンなどが例示できる。チタノール基含有有機チタン化合物の多量体は、化学式:Tin-1(OR)2(n+1)で表される縮合体であり、式中Rは炭素原子数1~10のアルキル基(特に炭素数1~3の低級アルキル基)、またはアリール基(特にフェニル基)、nは4官能加水分解性チタン化合物の縮合分子数を表す多量化度(所謂n量体)で、nが2以上のチタノール基含有有機チタン化合物多量体は、4官能加水分解性チタン化合物が加水分解して生成するチタノール基同士の反応で2分子以上が縮合して生成する多量体であり、nの表す多量化度は多量体1分子中に含有するTi原子数を意味する。本発明においては多量化度2~10、好ましくは4~6のチタノール基含有有機チタン化合物多量体(Tin-1(OR)2(n+1))によるゾルゲル縮合体層が好ましい。このゾルゲル縮合体層の原子配列はヨコ軸とタテ軸からなる四角格子網目をモデルとすれば、ヨコ軸とタテ軸の交点にTi原子が配置され、上下左右に隣接するTi-Ti原子間にO原子が配置されたイメージである。
【0031】
多孔性配位高分子層に含むゾルゲル縮合体は、ゾルゲル縮合体形成用組成物(水/アルコール溶媒)の態様で含み、この組成物中に多孔性配位高分子も含んでいる。そしてこの組成物中に含有する、シラノール基含有有機シラン化合物、またはチタノール基含有有機チタン化合物などの加水分解生成物の濃度は0.01~30質量%、特に0.1~5質量%の範囲が好ましい。加水分解促進には、アルミニウム、チタニウム、ジルコニウムなどの金属類にアルコキシ基が結合した金属アルコキシド、又はこれらの金属アルコキシドにケト・エノール互変異性体を構成しうる金属キレート化合物、無機酸(塩酸、硝酸、リン酸など)、有機酸(ギ酸、酢酸、ベンゼンスルホン酸など)、アンモニア、有機アミン、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクチエートなどの化合物を加水分解触媒として任意量使用することができる。
【0032】
また多孔性配位高分子層には帯電防止性を付与する目的で金属酸化物コロイドを含むことができ、金属酸化物コロイドとして例えば、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化錫、酸化ジルコニウム、酸化モリブデン、酸化インジウム、酸化タングステン、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、酸化ニオブ、酸化ビスマス、から選ばれた1種以上の金属酸化物によるコロイド粒子、または複合コロイド粒子が例示できる。複合コロイド粒子は上記2~3種のコロイド粒子が化学的結合により一体化した態様で、具体的に酸化錫と酸化タングステン、酸化錫と酸化亜鉛、酸化亜鉛と五酸化アンチモン、五酸化アンチモンと酸化インジウムなどの複合コロイド粒子が挙げられる。これらのコロイド粒子、及び複合コロイド粒子はリン酸をドープした複合体が帯電防止効果により優れている。これらのコロイド粒子、及び複合コロイド粒子は、段落〔0027〕に記載したアルコキシシラン化合物による表面修飾がなされた、あるいは表面修飾がなされていない、10~50nmの一次粒子径のものが使用できる。多孔性配位高分子層に含む金属酸化物コロイドは、1~20質量%、特に3~15質量%が好ましい。この含有量範囲で金属酸化物コロイドの含有量が多ほど帯電防止性は比例的に向上する。これらの金属酸化物コロイドは、ゾルゲル縮合体を形成させる溶液組成物中(段落〔0031〕)に分散させて用いることができる。
【0033】
本発明の消臭抗菌性シート状物はシート基材が織物を芯材として含んでいてもよい。織物として、1)経糸及び緯糸からなる織物、または2)経糸及び左上バイアス糸/右上バイアス糸からなる三軸織物、または3)経糸、緯糸、及び左上バイアス糸/右上バイアス糸からなる四軸織物、である。また上記織物は、平織物(二軸織物、三軸織物、四軸織物)、斜子織物(2×2、3×3、4×4などの正則斜子織、3×2、4×2、4×3、5×3、2×3、2×4、3×4、3×5などの不規則斜子織)、綾織物(経糸、緯糸とも最少3本ずつ用いた最小構成単位を有する:3枚斜文、4枚斜文、5枚斜文、6枚斜文など)、朱子織物(経糸、緯糸とも最少5本ずつ用いた最小構成単位を有する:2飛び、3飛び、4飛び、5飛びなどの正則朱子)、及び変化平織物、変化綾織物、変化朱子織物など、さらに蜂巣織物、梨子地織物、破れ斜文織物、昼夜朱子織物、もじり織物(紗織物、絽織物)、縫取織物、二重織物などの織物が使用できる。織物の目付量は100~500g/m、空隙率は0~25%、が適している。これらの織物には精練、漂白、染色、柔軟化、撥水、防黴、防炎、カレンダー、などの公知の染色整理加工を施したものを使用することもできる。
【0034】
織物を構成する糸条は、合成繊維、天然繊維(綿、ケナフ)、半合成繊維(レーヨン)、無機繊維(ガラス、シリカ、アルミナ)及びこれらの2種以上から成る混合繊維など、何れの繊維も使用できるが、汎用的には、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート:PET、ポリブチレンテレフタレート:PBT、ポリナフタレンテレフタレート:PNTなど)繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維及び、これらの混用繊維(混撚・合撚)などの合成繊維による、1)マルチフィラメント糸条、2)短繊維紡績糸条、3)及びカバリング糸条、から選ばれた1種以上の糸条が使用できる。マルチフィラメント糸条は、ナイロン、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂を紡糸口金から押出して紡糸した長繊維紡原糸を3~5倍に延伸した長繊維紡糸束(50~500本のフィラメント束)のまま無撚、または1~200回/m撚りを掛けた、繊度125~2000デニール(139~2222dtex)の糸条が好ましい。これらのマルチフィラメント糸条には、タスラン糸条、ウーリー糸条などの嵩高加工糸条を包含する。短繊維紡績糸条は、ナイロン、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂を紡糸口金から押出して紡糸した長繊維紡糸束(延伸していてもよい)を3.8~5.8mm長程度に切断したステープルを開繊練条したスライバを引き伸ばしたロービング(粗糸)とし、これに所定の番手太さにドラフトと撚りを掛けてトウ紡績したものが好ましい。撚糸は単糸または単糸2本を引き揃えてS(右)撚りもしくはZ(左)撚りしたもの、また単糸または単糸2本を引き揃えて下撚りした加撚糸を2本引き揃えて上撚りを掛けてなる双糸が挙げられる。これらの撚糸の撚り回数は200~2000回/m程度である。またカバリング糸条は、上記マルチフィラメント糸束の外周に上記短繊維を巻き付けたカバリング糸条が挙げられ、芯鞘複合糸条もカバリング糸条に包含される。
【0035】
本発明の消臭抗菌性シート状物において、シート基材は熱可塑性樹脂組成物による厚さ0.1mm~0.29mmのフィルム、または厚さ0.3mm~5mmのシートであることが好ましい。熱可塑性樹脂組成物の熱可塑性樹脂は、軟質塩化ビニル樹脂(可塑剤配合)、塩化ビニル系共重合体樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、オレフィン樹脂(PE,PP)、オレフィン系共重合体樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、エチレン-(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル系共重合体樹脂、スチレン系共重合体樹脂、ポリエステル系共重合体樹脂、フッ素含有共重合体樹脂など、ショアA硬度35~85程度の熱可塑性樹脂、またはエラストマーであり、これらにはウレタンゴム、アクリルゴム、ブタジエンゴム、クロルスルホン化ポリエチレン、SBR、EPDM、EPMなどを含み、ゴム弾性を強化させたものでもよい。エラストマーとは2種以上のモノマーからなるブロック共重合体樹脂で、個々のブロック成分がハードセグメント、及びソフトセグメントを構成する樹脂である。これらの熱可塑性樹脂、エラストマーのうち、特に高周波溶着性を有する軟質塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系共重合体樹脂、塩素化塩化ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)、エチレン-(メタ)アクリル酸(エステル)共重合体樹脂、ウレタン樹脂、及びフッ素含有共重合体樹脂などを高周波溶着性付与成分として被覆層に対し50質量%以上含有することが好ましい。熱可塑性樹脂組成物は、上記熱可塑性樹脂を主体に、安定剤、フィラー、着色剤、顔料、メタリック顔料、蓄光顔料、難燃剤、防炎剤、紫外線吸収剤、光安定剤、防黴剤、抗菌剤、帯電防止剤、架橋剤などの公知の添加剤を任意に組み合わせ配合したものである。
【0036】
本発明の消臭抗菌性シート状物が、シート基材に織物を芯材として含む場合、その製造方法は、熱可塑性樹脂組成物(特に好ましくは塩化ビニル樹脂/可塑剤など)を熱混練し、カレンダー法、またはTダイス押出法で溶融圧延したフィルム、またはシートを使用し、これを織物の表裏に熱ラミネートで積層することで得られる。この熱ラミネートは例えば、熱ロール/ゴムロールの連続圧着ユニットを1~2と、冷却ロールユニット、及び巻取ユニットを有するラミネーターを用い、ラミネーターの1回通しまたは2回通しの工程により熱溶融圧着する方法が挙げられる。また、シート基材に織物を芯材として含む態様として、織物の表裏に溶液状の熱可塑性樹脂組成物(特に好ましくは塩化ビニル樹脂/可塑剤などによるペースト)をナイフコート、クリアランスコート、グラビアコートなどのコーティング法により塗工し、これを熱乾燥、または加熱ゲル化によって、樹脂被覆層を形成したもの、または溶液状の熱可塑性樹脂組成物(特に好ましくは塩化ビニル樹脂ペースト)を充填した液浴中に織物を浸漬し、これを引き上げると同時に1対のゴムロール間で圧搾し、直後に熱乾燥、または加熱ゲル化させるディッピング法によって、織物の表裏に樹脂被覆層を形成したものが挙げられる。
【0037】
本発明を下記の実施例及び比較例を挙げて更に説明するが、本発明の態様はこれらの例の範囲に限定されるものではない。実施例及び比較例において、試験シートの消臭性、抗菌性は下記の試験方法により測定し、評価した。
<消臭性>
容積5LのTedlar(登録商標)ガスバリヤーバッグを4個用意し、各々のバッグに濃度10ppmに調整した4種の化学物質ガス、1)アンモニア(塩基性)、2)イソ吉草酸(酸性)、3)硫化水素(酸性)、4)トルエン(VOC)を各々3L封入した4バッグを3セット準備した。
10cm×10cmサイズの試験シート状物(片面に多孔性配位高分子層を形成)を、1)→2)→3)→4)の順にバッグ内に入れ、各々ブラックライト(ピーク365nm)照射(多孔性配位高分子層形成面に照射:照射距離2.5cm:テドラーバッグ内に密封静置)の環境下、各々25℃×30分、25℃×60分、25℃×120分、の3水準を室内静置した後の各々のガス濃度をガス検知管(ガステック)で測定した。
※ブラックライト 機種SL-B01A5(オーム電機株式会社)
W55mm×H160mm×D25mm
<抗菌性>
抗菌性(JIS Z2801:2010年準拠)
シート状物試験片(実施例1~5,比較例1~5)の表面に菌液を滴下して植菌し(植菌数10)、試験片が菌液に接するように、菌液と試験片シートを密着させ、35℃、相対湿度90%以上の環境下、ブラックライト(ピーク365nm)照射(多孔性配位高分子層形成面に照射:照射距離2.5cm)条件下で24時間培養した。培養後、試験片シートを洗い流し1cmあたりの生菌数を測定し、抗菌活性値(対象区における菌数対数値から実施例または比較例の試験片シートにおける菌数対数値を差し引いた値)を算出した。なお、対象区は多孔性配位高分子層を形成しないシート基材とした。
また実施例1~5のシート状物試験片にブラックライトの照射を行わず、ブラックライトの有無による抗菌効果の対比試験を行った結果を参考例1~5の扱いとした。
表中の数値は試験片1cm当たりの生菌数であり、「ND」は生菌の不検出(Not Detected)とする。菌液調整溶液は1/200NB培地を用いた。使用した菌種を以下に示す。
黄色ぶどう球菌「Staphylococcus aureus subsp. aureus 12732」
大腸菌「Escherichia coli NBRC 3972」
※ブラックライト 機種SL-B01A5(オーム電機株式会社)
W55mm×H160mm×D25mm
<防黴性:JIS Z2911培養試験>
幅3cm×長さ3cmのシート状物(実施例1~5,比較例1~5)に、下記試験用黴の胞子を接種し、ポテト・デキストロース寒天培地上に置き、ブラックライト(ピーク365nm)照射(多孔性配位高分子層形成面に照射:照射距離2.5cm)条件下、28℃×7日間、及び14日間、黴の発生状況を観察し、以下の判定基準で評価した。
また実施例1~5のシート状物試験片にブラックライトの照射を行わず、ブラックライトの有無による防黴効果の対比試験を行った結果を参考例1~5の扱いとした。
1:接種部分に菌糸の発育が認められない
2:接種部分に認められる菌糸の発育部分の面積が全面積の1/3を超えない
3:接種部分に認められる菌糸の発育部分の面積が全面積の1/3を超える
〈試験用黴〉(A)+(B)+(C)の混合黴
(A)Aspergillus niger NBRC 105649(黒黴)
(B)Penicillium citrinum NBRC 6352(青黴)
(C)Cladosporium cladosporioides NBRC 6348(クロカワ黴)
※ブラックライト 機種SL-B01A5(オーム電機株式会社)
W55mm×H160mm×D25mm
【0038】
[実施例1]
織物
1000デニール(1111dtex)のポリエチレンテレタレート(PET)繊維(フィラメント数192本)からなり、S撚50T/mを施したPETマルチフィラメント糸条を経糸群及び緯糸群に用い、経糸群は1インチ間16本の織組織とし、また緯糸群は1インチ間16本の織組織とする平織物を用いた。この織物の質量は150g/m、空隙率(目抜け部総和)は14%であった。
<シート基材>
この織物を基材として、その両面に下記〔配合1〕の軟質塩化ビニル樹脂組成物からなる厚さ0.2mmのカレンダー成型フィルムを表裏の被覆層として、ラミネーターでの熱圧着による溶融ラミネートを施して、厚さ0.7mm、質量830g/mのシート基材を得た。
〔配合1〕:軟質塩化ビニル樹脂組成物(コンパウンド)
塩化ビニル樹脂(K値71.5) 100質量部
4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸ビス(2-エチルヘキシル)(可塑剤)
55質量部
リン酸トリクレジル(防炎可塑剤) 10質量部
エポキシ化大豆油(安定剤兼可塑剤) 5質量部
バリウム/亜鉛複合安定剤 2質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
ルチル型酸化チタン(白顔料) 5質量部
ベンゾトリアゾール骨格化合物(紫外線吸収剤) 0.3質量部
<多孔性配位高分子層(1)>
下記有機錯体ユニット及び架橋性有機化合物との多軸交互連結体による粒子径0.5~1μmの結晶粒子
有機錯体ユニット:テレフタル酸銅「Cu(CCO)
架橋性有機化合物:1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン「C12
〈光触媒性金属酸化物粒子の担持〉
多孔性配位高分子粒子(1)、酸化チタンゾル(1次粒子径5nm)、水(50質量%)/エタノール(50質量%)をこの順番に質量比率、2(固形分):1(固形分):10で配合した溶液を密閉容器内、80℃で2時間攪拌した後、ろ過物を乾燥し、光触媒性金属酸化物粒子を表面及び内部に担持する多孔性配位高分子(1a)を得た。
アルコキシシラン化合物による処理
多孔性配位高分子粒子(1a)、アルコキシシラン化合物(エポキシシラン:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、水をこの順番に質量比率、10(固形分):1(固形分):100で配合した溶液を密閉容器内、30℃で2時間攪拌した後、ろ過物を乾燥し、エポシシラン化合物の加水分解物が結合した多孔性配位高分子(1b)を得た。
<多孔性配位高分子層形成用組成物>
下記〔配合2〕の多孔性配位高分子層形成用組成物(1)を配合した。
次にシート基材の片表面上に、この多孔性配位高分子層形成用組成物(1)を100メッシユのグラビアロールによりグラビア塗工し、120℃の熱風炉で2分間加熱乾燥し、多孔性配位高分子層形成用組成物(1)のゾルゲル硬化を完結させて多孔性配位高分子層(1)に転化し、厚さ0.7mm、質量833g/mの消臭抗菌性シート状物(1)を得た。
〔配合2〕多孔性配位高分子層形成用組成物(1))
エチルシリケート(Si(OC):SiO換算40質量%)5質量%、及び
[Si(OC)12]のテトラエトキシシラン5量体が95質量%の混合体
25質量部
加水分解触媒:2%塩酸 1質量部
多孔性配位高分子(1b) 10質量部
水(50質量%)/エタノール(50質量%) 100質量部
【0039】
[実施例2]
実施例1の多孔性配位高分子層(1)を多孔性配位高分子層(2)に変更した以外は実施例1と同様として、厚さ0.7mm、質量833g/mの消臭抗菌性シート状物(2)を得た。
<多孔性配位高分子層(2)>
下記有機錯体ユニット及び架橋性有機化合物との多軸交互連結体による粒子径0.5~1μmの結晶粒子
有機錯体ユニット:テレフタル酸亜鉛「ZnO(CCO)
架橋性有機化合物:1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン「C12
〈光触媒性金属酸化物粒子の担持〉
多孔性配位高分子(2)を用い、実施例1の多孔性配位高分子(1a)の製造プロセスと同様に行い、光触媒性金属酸化物粒子を表面及び内部に担持する多孔性配位高分子(2a)を得た。
アルコキシシラン化合物による処理
多孔性配位高分子(2a)を用い、実施例1の多孔性配位高分子(1b)の製造プロセスと同様に行い、エポキシシラン化合物の加水分解物が結合した多孔性配位高分子(2b)を得た。
【0040】
[実施例3]
実施例1の多孔性配位高分子層(1)を多孔性配位高分子層(3)に変更した以外は実施例1と同様として、厚さ0.7mm、質量833g/mの消臭抗菌性シート状物(3)を得た。
<多孔性配位高分子層(3)>
下記有機錯体ユニット及び架橋性有機化合物との多軸交互連結体による粒子径0.5~1μmの結晶粒子
有機錯体ユニット:2,6-ナフタレンジカルボン酸銅「Cu(C10CO)
架橋性有機化合物:1,4-ジアザビシクロ[2,2,2]オクタン「C12
〈光触媒性金属酸化物粒子の担持〉
多孔性配位高分子(3)を用い、実施例1の多孔性配位高分子(1a)の製造プロセスと同様に行い、光触媒性金属酸化物粒子を表面及び内部に担持する多孔性配位高分子(3a)を得た。
アルコキシシラン化合物による処理
多孔性配位高分子(3a)を用い、実施例1の多孔性配位高分子(1b)の製造プロセスと同様に行い、エポキシシラン化合物の加水分解物が結合した多孔性配位高分子(3b)を得た。
【0041】
[実施例4]
実施例1の多孔性配位高分子層(1)を多孔性配位高分子層(4)に変更した以外は実施例1と同様として、厚さ0.7mm、質量833g/mの消臭抗菌性シート状物(4)を得た。
<多孔性配位高分子層(4)>
下記有機錯体ユニット及び架橋性有機化合物との多軸交互連結体による粒子径0.5~1μmの結晶粒子
有機錯体ユニット:2,3-ピラジンジカルボン酸銅「Cu(CCO)
架橋性有機化合物:ピリジン「CN」
〈光触媒性金属酸化物粒子の担持〉
多孔性配位高分子(4)を用い、実施例1の多孔性配位高分子(1a)の製造プロセスと同様に行い、光触媒性金属酸化物粒子を表面及び内部に担持する多孔性配位高分子(4a)を得た。
アルコキシシラン化合物による処理
多孔性配位高分子(4a)を用い、実施例1の多孔性配位高分子(1b)の製造プロセスと同様に行い、エポキシシラン化合物の加水分解物が結合した多孔性配位高分子(4b)を得た。
【0042】
[実施例5]
実施例1の多孔性配位高分子層(1)を多孔性配位高分子層(5)に変更した以外は実施例1と同様として、厚さ0.7mm、質量833g/mの消臭抗菌性シート状物(5)を得た。
<多孔性配位高分子層(5)>
下記有機錯体ユニット及び架橋性有機化合物との多軸交互連結体による粒子径0.5~1μmの結晶粒子
有機錯体ユニット:1,3,5-ベンゼントリカルボン酸銅「Cu(CCO)
架橋性有機化合物:ピリジン「CN」
〈光触媒性金属酸化物粒子の担持〉
多孔性配位高分子(5)を用い、実施例1の多孔性配位高分子(1a)の製造プロセスと同様に行い、光触媒性金属酸化物粒子を表面及び内部に担持する多孔性配位高分子(5a)を得た。
アルコキシシラン化合物による処理
多孔性配位高分子(5a)を用い、実施例1の多孔性配位高分子(1b)の製造プロセスと同様に行い、エポキシシラン化合物の加水分解物が結合した多孔性配位高分子(5b)を得た。
【0043】
[実施例6]
実施例1の0.7mm、質量830g/mのシート基材を用い、それ以降の実施例1の製造プロセスを変更した。
アルコキシシラン化合物による多孔性配位高分子の処理
実施例1の多孔性配位高分子(1)、アルコキシシラン化合物(エポキシシラン:3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)、水をこの順番に質量比率、10(固形分):1(固形分):100で配合した溶液を密閉容器内、30℃で2時間攪拌した後、ろ過物を乾燥し、エポシシラン化合物の加水分解物が結合した多孔性配位高分子(1c)を得た。
<多孔性配位高分子層形成用組成物>
下記〔配合3〕の多孔性配位高分子層形成用組成物(2)を配合した。
次にシート基材の片表面上に、この多孔性配位高分子形成用組成物(2)を100メッシユのグラビアロールによりグラビア塗工し、120℃の熱風炉で2分間加熱乾燥し、多孔性配位高分子層形成用組成物(2)のゾルゲル硬化を完結させて多孔性配位高分子層に転化し、厚さ0.7mm、質量832g/mの消臭抗菌性シート状物(6)を得た。
〔配合3〕多孔性配位高分子層形成用組成物(2)
エチルシリケート(Si(OC):SiO換算40質量%)5質量%、及び
[Si(OC)12]のテトラエトキシシラン5量体が95質量%の混合体
25質量部
加水分解触媒:2%塩酸 1質量部
多孔性配位高分子粒子(1c) 10質量部
水(50質量%)/エタノール(50質量%) 100質量部
多孔性配位高分子層への光触媒性金属酸化物粒子担持
酸化チタンゾル(1次粒子径5nm)、水(50質量%)/エタノール(50質量%)をこの順番に質量比率、1(固形分):10で配合した溶液を、多孔性配位高分子層上に、100メッシユのグラビアロールによりグラビア塗工し、120℃の熱風炉で2分間加熱乾燥し、厚さ0.7mm、質量833g/mの光触媒性金属酸化物粒子を表面及び内部に担持する多孔性配位高分子層(1d)を有する消臭抗菌性シート状物(6)を得た。
【0044】
[実施例7]
実施例6において、多孔性配位高分子(1)を多孔性配位高分子(2)に変更した以外は実施例6と同様の製造プロセスとして、厚さ0.7mm、質量833g/mの光触媒性金属酸化物粒子を表面及び内部に担持する多孔性配位高分子層(2d)を有する消臭抗菌性シート状物(7)を得た。
【0045】
[実施例8]
実施例6において、多孔性配位高分子(1)を多孔性配位高分子(3)に変更した以外は実施例6と同様の製造プロセスとして、厚さ0.7mm、質量833g/mの光触媒性金属酸化物粒子を表面及び内部に担持する多孔性配位高分子層(3d)を有する消臭抗菌性シート状物(8)を得た。
【0046】
[実施例9]
実施例6において、多孔性配位高分子(1)を多孔性配位高分子(4)に変更した以外は実施例6と同様の製造プロセスとして、厚さ0.7mm、質量833g/mの光触媒性金属酸化物粒子を表面及び内部に担持する多孔性配位高分子層(4d)を有する消臭抗菌性シート状物(9)を得た。
【0047】
[実施例10]
実施例6において、多孔性配位高分子粒子(1)を多孔性配位高分子粒子(5)に変更した以外は実施例6と同様の製造プロセスとして、厚さ0.7mm、質量833g/mの光触媒性金属酸化物粒子を表面及び内部に担持する多孔性配位高分子層(5d)を有する消臭抗菌性シート状物(10)を得た。
【0048】
[実施例11~15]
実施例1~5で使用した光触媒性金属酸化物粒子としての酸化チタンゾル(1次粒子径5nm)を、可視光応答型酸化チタンゾル(Si,N共ドープ:Feイオン担持)、及び可視光応答型酸化タングステンゾル(Cu/Ptイオン共担持)を50質量%:50質量%のブレンドにて、等量置換して用いた以外は、個々実施例1~10と同様として、多孔性配位高分子層(1e)~(5e)を有する、厚さ0.7mm、質量833g/mの消臭抗菌性シート状物(11)~(20)を得た。この2種類の可視光応答型の光触媒性金属酸化物粒子の併用によって、より広範囲の可視光領域の波長に対する光触媒活性を効果的とすることができる。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例1~5の消臭抗菌性シート状物(1)~(5)は、シート基材の表面に多孔性配位高分子層を設けたシート状物で、多孔性配位高分子層が光触媒性金属酸化物粒子を担持する態様で、光触媒性金属酸化物粒子を多孔性配位高分子層に担持させる製造プロセスと、光触媒性金属酸化物粒子を担持する多孔性配位高分子層をゾルゲル縮合形成する製造プロセスを含むものである。アンモニア、イソ吉草酸、硫化水素、トルエンの各々のガスの減少傾向は異なるものの、ブラックライト照射条件、試験時間30分、60分、120分と時間経過を増す毎に、ガス濃度に減少傾向にあり、120分後にはほぼ全てが1ppm未満となった。またブラックライト照射条件での抗菌性及び防黴性の効果も優れて十分なものであった。参考例1~5として実施例1~5の消臭抗菌性シート状物(1)~(5)にブラックライトの照射を行わなかった場合、消臭・減臭効果、及び抗菌性及び防黴性の効果は明らかに劣るものとなったが、しかし、光触媒性金属酸化物粒子の活性、不活性に係わらず、多孔性配位高分子層の存在のみでも十分な消臭・減臭効果、及び抗菌性及び防黴性の効果を示した。この理由は多孔性配位高分子層も光触媒性金属酸化物粒子も含まないシート基材(ブランク)における消臭・減臭試験、及び抗菌試験及び防黴試験の対比結果が、アンモニア、イソ吉草酸、硫化水素、トルエンの各々のガスにおいて、試験120分後にも9~10ppmとほぼ変化せず、また大腸菌数10以上、黄色ブドウ球菌数10以上に増殖したことから、部分的に金属錯体である多孔性配位高分子層の存在のみによっても相当な消臭・減臭効果、及び抗菌性及び防黴性が発現可能であることが明らかとなった。従ってさらに光触媒性金属酸化物粒子を担持する多孔性配位高分子層を用いることで、本願発明の消臭抗菌性シート状物は、この多孔性配位高分子層自体の消臭・減臭効果、及び抗菌性及び防黴性の有効性を凌駕する発明であることは瞭然である。
【0051】
【表2】
【0052】
また実施例6~10の消臭抗菌性シート状物(6)~(10)は、シート基材の表面に多孔性配位高分子層を設けたシート状物で、多孔性配位高分子層が光触媒性金属酸化物粒子を担持する態様で、多孔性配位高分子層をゾルゲル縮合形成する製造プロセスと、多孔性配位高分子層の表面上に光触媒性金属酸化物粒子を塗工する製造プロセスを含むものである。実施例6~10の消臭抗菌性シート状物(6)~(10)は、実施例1~5の消臭抗菌性シート状物(1)~(5)同様、試験時間30分、60分、120分と時間経過を増す毎に、ガス濃度の減少効果を示し、120分後にはほぼ全てが1ppm未満となった。
【0053】
【表3】
【0054】
また実施例11~15の消臭抗菌性シート状物(11)~(15)は、シート基材の表面に多孔性配位高分子層を設けたシート状物で、多孔性配位高分子層が可視光応答型の光触媒性金属酸化物粒子を担持する態様で、光触媒性金属酸化物粒子を多孔性配位高分子層に担持させる製造プロセスと、可視光応答型の光触媒性金属酸化物粒子を担持する多孔性配位高分子層をゾルゲル縮合形成する製造プロセスを含むものである。実施例11~15の消臭抗菌性シート状物(11)~(15)は、実施例1~5の消臭抗菌性シート状物(1)~(5)同様、試験時間30分、60分、120分と時間経過を増す毎に、ガス濃度の減少効果を示し、120分後にはほぼ全てが1ppm未満となった。特に可視光応答型の光触媒性金属酸化物粒子を担持する多孔性配位高分子層の使用により、屋内露光による消臭効果、及び抗菌・防黴効果にも優れていた。
【0055】
[比較例1]
実施例1の消臭抗菌性シート状物(1)に用いる多孔性配位高分子層(1)から、酸化チタンゾルによる光触媒性金属酸化物粒子の担持を省略し、光触媒性金属酸化物粒子を担持しない多孔性配位高分子層(1´)とした以外は実施例1と同様の製造プロセスとしてシート状物(21)を得た。得られたシート状物(21)は、光触媒性金属酸化物粒子の担持を省略したことで、実施例1の消臭抗菌性シート状物(1)と比較して、消臭性、及び抗菌性・防黴性に劣るものであった。
【0056】
[比較例2]
実施例2の消臭抗菌性シート状物(2)に用いる多孔性配位高分子層(2)から、酸化チタンゾルによる光触媒性金属酸化物粒子の担持を省略し、光触媒性金属酸化物粒子を担持しない多孔性配位高分子層(2´)とした以外は実施例2(実施例1)と同様の製造プロセスとしてシート状物(22)を得た。得られたシート状物(22)は、光触媒性金属酸化物粒子の担持を省略したことで、実施例2の消臭抗菌性シート状物(2)と比較して、消臭性、及び抗菌性・防黴性に劣るものであった。
【0057】
[比較例3]
実施例3の消臭抗菌性シート状物(3)に用いる多孔性配位高分子層(3)から、酸化チタンゾルによる光触媒性金属酸化物粒子の担持を省略し、光触媒性金属酸化物粒子を担持しない多孔性配位高分子層(3´)とした以外は実施例3(実施例1)と同様の製造プロセスとしてシート状物(23)を得た。得られたシート状物(23)は、光触媒性金属酸化物粒子の担持を省略したことで、実施例3の消臭抗菌性シート状物(3)と比較して、消臭性、及び抗菌性・防黴性に劣るものであった。
【0058】
[比較例4]
実施例4の消臭抗菌性シート状物(4)に用いる多孔性配位高分子層(4)から、酸化チタンゾルによる光触媒性金属酸化物粒子の担持を省略し、光触媒性金属酸化物粒子を担持しない多孔性配位高分子層(4´)とした以外は実施例4(実施例1)と同様の製造プロセスとしてシート状物(24)を得た。得られたシート状物(24)は、光触媒性金属酸化物粒子の担持を省略したことで、実施例4の消臭抗菌性シート状物(4)と比較して、消臭性、及び抗菌性・防黴性に劣るものであった。
【0059】
[比較例5]
実施例5の消臭抗菌性シート状物(5)に用いる多孔性配位高分子層(5)から、酸化チタンゾルによる光触媒性金属酸化物粒子の担持を省略し、光触媒性金属酸化物粒子を担持しない多孔性配位高分子層(5´)とした以外は実施例5(実施例1)と同様の製造プロセスとしてシート状物(25)を得た。得られたシート状物(25)は、光触媒性金属酸化物粒子の担持を省略したことで、実施例5の消臭抗菌性シート状物(5)と比較して、消臭性、及び抗菌性・防黴性に劣るものであった。
【0060】
[参考例1~5]
実施例1~5の消臭抗菌性シート状物(1~5)の消臭性試験、及び抗菌性・防黴性試験において、共にブラックライトの照射を省略した条件で試験した。ブラックライトの照射を省略したことで、多孔性配位高分子層が担持する光触媒性金属酸化物粒子が不活性となり、消臭、及び抗菌性・防黴性は実施例1~5よりも劣るものとなったが、何れも光触媒性金属酸化物粒子を担持している分、室内露光による光触媒性金属酸化物粒子の活性化が進行したものと考察され、比較例1~5よりも消臭性、及び抗菌性・防黴性は上廻るものであった。
【0061】
【表4】
【0062】
比較例1~5の消臭抗菌性シート状物(21)~(25)は、シート基材の表面に多孔性配位高分子層を設けたシート状物で、多孔性配位高分子層が光触媒性金属酸化物粒子を担持していない態様である。比較例1~5の消臭抗菌性シート状物(21)~(25)は、多孔性配位高分子層が光触媒性金属酸化物粒子を担持していないことによって、初期効果を主体とする多孔性配位高分子層による吸着効果のみに依存する消臭・減臭効果となり、30分以降の消臭・減臭効果は乏しく低調で、また抗菌性・防黴性にも乏しく光触媒性金属酸化物粒子無しでは低調であった。
【0063】
【表5】
【0064】
また参考例1~5の消臭抗菌性シート状物(1)~(5)は、実施例1~5そのものであるが、ブラックライトの照射を省略した試験のため、多孔性配位高分子層が光触媒性金属酸化物粒子を担持していながら、光触媒性金属酸化物粒子を不活性の状態のままとして室内露光のみで試験を行ったことで、比較例1~5のシート状物(21)~(25)同様、多孔性配位高分子層自体の立体格子群による吸着効果に依存する減臭効果となり、30分以降の減臭効果は低調となり、また抗菌性・防黴性もブラックライトの照射無しでは低調となった。但し比較例1~5のシート状物、参考例1~5の消臭抗菌性シート状物ともに多孔性配位高分子層の存在により、シート基材(ブランク:多孔性配位高分子層なし、光触媒性金属酸化物粒子なし)と対比してみれば、ほどほどの消臭・減臭効果、並び抗菌性・防黴性を有していた。従ってこの多孔性配位高分子層に光触媒性金属酸化物粒子を担持させ、さらにブラックライトを照射することによる本願発明の消臭抗菌性シート状物は、多孔性配位高分子層自体の消臭・減臭効果、及び抗菌性・防黴性の効果を一層向上させたものであると結論されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明により、本発明により、悪臭成分、及びVOC成分などの不快臭気成分全般に対して臭気濃度を効果的に減少させる減臭効果、並び消臭効果を安定的に持続可能なシート状物が得られる。多孔性配位高分子層のみでも消臭性(減臭性)は発現可能であるが、本願発明のように多孔性配位高分子層の有する立体格子群に光触媒性金属酸化物粒子を担持することで光触媒性金属酸化物粒子の光触媒活性により、多孔性配位高分子の立体格子群に捕捉した有機系臭気ガスを逐次分解し、さらに有機系臭気ガスを取り込めるように立体格子の状態を空にリセットすることができる。このリセットにより、吸着/分解リセット/吸着・・・のサイクルを繰り返すことを可能とする。またウイルス、菌、黴などの増殖を抑止する抗菌性を有するので腐敗臭、黴臭の防止にもなる。特に光触媒性金属酸化物粒子は可視光応答型光触媒が屋内用途に適している。また本発明のシート状物は、多孔性配位高分子層にゾルゲル縮合体を含有することで屈曲強度及び摩耗強度を強化する。本発明の消臭抗菌性シート状物は、フィルム、シート、テープ、ターポリン、メッシュシート、帆布、布帛などの原反で流通し、天井膜、空間仕切り、カーテン、敷物、カバー、ブラインド、日用雑貨などに加工され、工場、醸造、農場、畜産場、水産加工場、下水道、マンホール、廃棄物処理場、汚水汚泥処理施設、病院、介護施設、葬儀施設、動物園、公共浴場、公衆トイレ、飲食店、などの任意の場所、及び家庭(トイレ、浴室、キッチン、ベッド、シューズボックス、タンス、クローゼット、ペットケージ、などに任意のカットサイズで使用)などに広く使用できる。