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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】医療シミュレータ
(51)【国際特許分類】
   G09B 23/30 20060101AFI20230830BHJP
   G09B 9/00 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
G09B23/30
G09B9/00 Z
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020554014
(86)(22)【出願日】2019-10-30
(86)【国際出願番号】 JP2019042700
(87)【国際公開番号】W WO2020090945
(87)【国際公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-10-27
(31)【優先権主張番号】P 2018204819
(32)【優先日】2018-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504150461
【氏名又は名称】国立大学法人鳥取大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149696
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 俊夫
(72)【発明者】
【氏名】下田 智大
(72)【発明者】
【氏名】松岡 正晃
(72)【発明者】
【氏名】檜山 康明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】大田 廉
(72)【発明者】
【氏名】植木 賢
(72)【発明者】
【氏名】上原 一剛
(72)【発明者】
【氏名】藤井 政至
【審査官】宇佐田 健二
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-196075(JP,A)
【文献】特開2018-120205(JP,A)
【文献】特開2003-199700(JP,A)
【文献】特開2011-028293(JP,A)
【文献】Kazumichi Moriyama,“挿管手技トレーニング用シミュレータ 「mikoto」 (株)MICOTOテクノロジー”,YouTube,日本,YouTube,LLC,2018年04月20日,全図(Pages 1-6),https://www.youtube.com/watch?v=SPRVmqtPSq0,[2020年1月17日検索]
【文献】諸岡 健一、外3名,“複数のニューラルネットワークによる胃変形シミュレータの開発”,「電子情報通信学会技術研究報告 信学技報 Vol.111 No.49 MI2011-1-MI2011-31 医用画像」,日本,社団法人電子情報通信学会,2011年05月12日,第111巻,第49号,Pages 81-86,ISSN:0913-5685
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 9/00,23/28-23/34
A61B 17/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柔軟性を有し少なくとも一つの管腔臓器を模した形状を有する管腔臓器モデルであって、一つの管腔臓器の一端部又は二つの管腔臓器の接合部に相当する部位を含む第一特定領域に、管腔断面積が周囲よりも小さい狭窄壁部を有する管腔臓器モデルと、
前記管腔臓器モデルの少なくとも前記第一特定領域の外側周囲を周回状に覆い、前記第一特定領域の外側周囲に第一密閉空間を形成する第一空間形成部と、
前記第一密閉空間内の被制御流体の流体圧を制御して、前記管腔臓器モデルの前記狭窄壁部の管腔断面積を拡大又は縮小させる流体制御手段と、
を備える医療シミュレータ。
【請求項2】
前記管腔臓器モデルにおける前記特定領域以外の領域の一部である第二特定領域の外側周囲を周回状に覆い、該第二特定領域の外側周囲に前記第一密閉空間とは別に区画された第二密閉空間を形成する第二空間形成部、
を更に備え、
前記流体制御手段は、前記第一密閉空間内の前記被制御流体の流体圧及び前記第二密閉空間内の前記被制御流体の流体圧を個別に制御して、前記管腔臓器モデルにおける前記狭窄壁部の管腔断面積と前記第二特定領域の管腔断面積とを個別に変化させ得る、
請求項1に記載の医療シミュレータ。
【請求項3】
前記第二空間形成部は、内腔に前記管腔臓器モデルの前記第二特定領域が挿通される筒状部を含み、
前記第一空間形成部の主部は、前記第二空間形成部の前記筒状部よりも低硬度である、
請求項2に記載の医療シミュレータ。
【請求項4】
前記管腔臓器モデルは、前記管腔臓器モデルの外面から周回状に突設された柔軟性のあるフランジ蓋部を含み、
前記第一密閉空間と前記第二密閉空間とは、前記フランジ蓋部を隔てて隣接している、
請求項3に記載の医療シミュレータ。
【請求項5】
前記第二空間形成部は、前記筒状部の一端縁に前記筒状部の外周面から周回状に突設されたフランジ部を更に含み、
前記第一空間形成部は、前記管腔臓器モデルの前記フランジ蓋部と連設されており、前記第二空間形成部の前記フランジ部の外周面を全周にわたって密着状態で覆う、
請求項4に記載の医療シミュレータ。
【請求項6】
所定の液体を前記管腔臓器モデルの管腔に送り込むための送液チューブ、
を更に備え、
前記管腔臓器モデルは、前記送液チューブの内腔と前記管腔臓器モデルの管腔とを連通させるためのチューブ連結孔を更に含む、
請求項1から5のいずれか一項に記載の医療シミュレータ。
【請求項7】
前記管腔臓器モデルは、胃の形状を模した胃モデル領域を含み、
前記管腔臓器モデルの前記狭窄壁部は、噴門を模しており、
前記管腔臓器モデルの前記チューブ連結孔は、前記管腔臓器モデルの前記胃モデル領域における胃の小彎部に相当する位置に設けられている、
請求項6に記載の医療シミュレータ。
【請求項8】
前記管腔臓器モデルの管腔内の気圧を検出可能な気圧センサ
を更に備え、
前記管腔臓器モデルは、胃の形状を模した胃モデル領域を含み、
前記管腔臓器モデルの前記狭窄壁部は、噴門を模しており、
前記気圧センサは、前記胃モデル領域の管腔内の気圧を検出し、
前記流体制御手段は、前記気圧センサにより検出された前記胃モデル領域の管腔内の気圧に基づいて、前記第一密閉空間内の前記被制御流体の流体圧を制御して、前記管腔臓器モデルの前記狭窄壁部の管腔断面積を拡大させて、曖気を模擬する、
請求項1から7のいずれか一項に記載の医療シミュレータ。
【請求項9】
前記管腔臓器モデルの少なくとも一部を内部空間内に収容する収容部、
を更に備え、
前記管腔臓器モデルは、食道の少なくとも一部の形状を模した食道モデル領域及び該食道モデル領域から連設されており胃の形状を模した胃モデル領域を更に含み、
前記第一特定領域は、前記食道モデル領域と前記胃モデル領域との接合部を含み、
前記第二特定領域は、前記食道モデル領域の一部であり、
前記収容部は、前記内部空間から外部空間に向けて貫通しており、前記第一空間形成部又は前記第二空間形成部が挿入される貫通孔、及び前記内部空間方向に向けて突設された臓器繋止部を含み、
前記管腔臓器モデルは、前記胃モデル領域の外面から外側に向けて突設されており前記臓器繋止部と連結される突状部を更に含み、
前記管腔臓器モデルの前記胃モデル領域は、前記突状部が前記臓器繋止部と連結することで、前記収容部の前記内部空間内で位置決めされている、
請求項2から5のいずれか一項に記載の医療シミュレータ。
【請求項10】
前記管腔臓器モデルは、前記胃モデル領域から連設されており十二指腸の形状を模した十二指腸モデル領域を更に含み、
前記収容部は、少なくとも前記管腔臓器モデルの前記胃モデル領域及び前記十二指腸モデル領域を前記内部空間内に収容し、
前記管腔臓器モデルの前記胃モデル領域は、前記十二指腸モデル領域よりも前記内部空間内で前記収容部との連結点が少ない、
請求項9に記載の医療シミュレータ。
【請求項11】
前記管腔臓器モデルの前記胃モデル領域では、胃角部の大彎部の少なくとも一部又は前庭部の大彎部の少なくとも一部に相当する部位を含む胃モデル特定領域が他の領域よりも高硬度に形成されている、
請求項9又は10に記載の医療シミュレータ。
【請求項12】
前記管腔臓器モデルの前記第二特定領域は、管腔断面積が前記第一特定領域に向かって漸次縮小するテーパ状の管腔壁面を有する、
請求項9から11のいずれか一項に記載の医療シミュレータ。
【請求項13】
経鼻内視鏡の手技の訓練又は経口内視鏡の手技の訓練が指定された訓練モード情報を取得するモード取得手段、
を更に備え、
前記流体制御手段は、前記取得された訓練モード情報による指定が経口内視鏡か経鼻内視鏡かに基づいて、前記第一密閉空間内の被制御流体の流体圧を制御して、前記管腔臓器モデルの前記狭窄壁部の管腔断面積を拡大又は縮小させる、
請求項1から12のいずれか一項に記載の医療シミュレータ。
【請求項14】
被訓練者の発話情報を取得する発話情報取得手段、
を更に備え、
前記流体制御手段は、前記取得された発話情報に基づいて、前記第一密閉空間内の被制御流体の流体圧を制御して、前記管腔臓器モデルの前記狭窄壁部の管腔断面積を拡大又は縮小させる、
請求項1から13のいずれか一項に記載の医療シミュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療シミュレータに関し、特に、内視鏡手技の訓練を可能とするシミュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の医学の進歩及び医療技術の高度化に伴い、医療従事者にも高度な技能が求められるようになってきており、医療従事者に対する教育の充実が求められている。中でも、生体を模擬したモデルを用いたシミュレーション教育は、実践さながらの技術習得及び訓練が可能となるため、特に注目されている。
【0003】
下記特許文献1には、管腔器官の内視鏡検査及び治療のためのトレーニングモデルが開示されている。このトレーニングモデルは、管腔器官を収容するチャンバと、管腔器官と結合する結合装置によりそのチャンバの室壁に固定される入口と、チャンバ内で負圧を発生させるための吸引ポンプを接続可能な接続部と、管腔器官の外形に適合し管腔器官を挿入可能な空洞を含むチャンバ内のモールディングとを有している。このモデルでは、上記入口から内視鏡を管腔器官内に導入可能となっており、入口に設けられた支持装置(弾性ゴム隔膜)で開口部に挿入される内視鏡を保持し、吸引ポンプによりチャンバ内を負圧にすることで、管腔器官が拡張される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2009-519476号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のモデルでは、弾性ゴム隔膜である支持装置で内視鏡が保持されるものの、内視鏡が挿入される前後で特に変形するわけでもなく、実際の生体の挙動が再現できているとは言えない。
例えば、食道と胃との接合部である噴門部は、実際の生体では、息を吸うことで閉じ、脱力することで開くなど、開閉挙動を行う。
更に言えば、経口内視鏡と経鼻内視鏡とでは、体内に挿入される挿入部の径が2倍程度異なる。このため、上述のモデルでは、両方の内視鏡の手技を訓練することはできない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、内視鏡検査や内視鏡治療等の内視鏡手技に関して、実践に即した高精度の訓練を可能とする医療シミュレータを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面に係る医療シミュレータは、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。即ち、当該一側面に係る医療シミュレータは、柔軟性を有し少なくとも一つの管腔臓器を模した形状を有する管腔臓器モデルであって、一つの管腔臓器の一端部又は二つの管腔臓器の接合部に相当する部位を含む第一特定領域に、管腔断面積が周囲よりも小さい狭窄壁部を有する管腔臓器モデルと、その管腔臓器モデルの少なくとも当該第一特定領域の外側周囲を周回状に覆い、当該第一特定領域の外側周囲に第一密閉空間を形成する第一空間形成部と、その第一密閉空間内の被制御流体の流体圧を制御して、当該管腔臓器モデルの狭窄壁部の管腔断面積を拡大又は縮小させる流体制御手段と、を備える。
【0008】
ここで、管腔臓器モデルの管腔断面積とは、管腔臓器モデルにおける管腔を食物が流れる方向、長手方向、又は軸心方向に直交する管腔断面の面積を意味する。
また、管腔臓器モデルの管腔とは、内側が空洞になっている筒状又は袋状の管腔臓器モデルの内側の空洞を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、内視鏡検査や内視鏡治療等の内視鏡手技に関して、実践に即した高精度の訓練を可能とする医療シミュレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る医療シミュレータの外観を示す図である。
図2】体内造形部を下方から見た斜視図である。
図3】上部消化管モデル及びその周囲の主な構造を示す図である。
図4】臓器収容部の主な構造を示す図である。
図5】上部消化管モデルの主な構造を正面側から見た図である。
図6】上部消化管モデルの主な構造を背面側から見た図である。
図7】上部消化管モデルの主な構造の分解図である。
図8】上部消化管モデルの断面を示す模式図である。
図9】本実施形態に係る医療シミュレータにおける制御構成を概念的に示す図である。
図10】制御部により実現されるソフトウェア構成を概念的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。以下に挙げる実施形態は例示であり、本発明は以下の実施形態の構成に限定されない。
【0012】
図1は、本実施形態に係る医療シミュレータの外観を示す図である。
本実施形態に係る医療シミュレータ1は、機器搭載台3、入出力パネル5、人体模型10などを有し、経鼻及び経口気管挿管、経鼻及び経口内視鏡検査/治療、喀痰吸引などの挿管に関する手技の訓練を可能とする。
以下の説明では、主に、上部消化管内視鏡検査の手技の訓練を可能とする構成について説明するものとする。但し、医療シミュレータ1により訓練可能な医療手技は、大腸内視鏡検査、小腸内視鏡検査、胆・膵内視鏡検査、これらの内視鏡治療の手技も含まれるし、その他の挿管に関する手技も含まれ得る。
【0013】
機器搭載台3は、人体模型10を載置し、かつ、人体模型10を制御するための各種機器を内部に収容する。具体的には、機器搭載台3は、人体模型10を載置可能な台座部4を上面に有し、台座部4を脚部と収容部とで下方から支持する構成を有しており、各種機器を収容する収容部は内部が遮蔽されている。収容される機器としては、コンプレッサ等のようなアクチュエータの動力源や、後述するシミュレータ制御部80、気圧制御装置7、スピーカ6などがある。台座部4の高さは、訓練目的となる医療手技を医療現場で行う際に、患者を寝かせる台の高さに設定されることが望ましく、台座部4は高さ調節可能となっていてもよい。
【0014】
入出力パネル5は、機器搭載台3の上方に設置されており、訓練メニュー、医療シミュレータ1の動作モード、実施内容、評価結果などを表示する表示装置、及び表示装置に表示された画面を操作するための入力装置を含む。図1の例では、入出力パネル5は、表示装置と入力装置とが一体化されたタッチパネルとして実現されている。
本実施形態では、入出力パネル5に表示される内容は何ら制限しない。本実施形態では、例えば、経鼻及び経口気管挿管手技、経鼻及び経口内視鏡手技、喀痰吸引手技のいずれか一つを訓練対象手技として選択するメニュー、選択された手技に対応する生体反応の要否を選択するメニュー、麻酔中か否かを選択するメニュー、評価結果などが表示される。
【0015】
人体模型10は、訓練を受ける人(以降、被訓練者と表記する)により操作される人型モデルであり、人体模型10は、人体外形及び内臓を模した形状を有している。
図1の例では、人体模型10は、人体全体の外形を模擬していると共に、内臓として、口腔、鼻腔、咽頭、喉頭、気管、食道、気管支、胃、及び十二指腸といった管腔臓器の形状を内部で模擬している。但し、訓練対象とする医療手技に応じて、人体模型10は、上半身だけの人体外形を模擬していてもよいし、大腸、小腸、胆嚢、胆管等の消化管や、尿管、膀胱、尿道等の尿路系などの他の管腔臓器の形状を内部で模擬していてもよい。
ここで、「人体外形」とは、人体の外観形状を意味する。この「人体外形」に対して、口腔、鼻腔、咽頭、喉頭、気管、食道、気管支、胃、十二指腸などの管腔臓器の形状を「臓器形状」と表記する。
人体模型10は、訓練目的の手技に対応する姿勢で台座部4上に載置される。例えば、気管挿管の訓練時には、人体模型10は仰向け姿勢で台座部4上に載置され、内視鏡手技の訓練時には、図1に示されるように、人体模型10は横向き姿勢で台座部4上に載置される。
【0016】
医療シミュレータ1に関する以降の説明において、各構成要素の相対的な位置関係を特定するために、人体の解剖学などで利用される方向を用いて、便宜的に上下方向、前後方向、左右方向、正面、背面などを設定している。具体的には、前額面と直交する方向を「前後方向」とし、矢状面と直交する方向を「左右方向」とし、横断面(水平面)と直交する方向を「上下方向」とし、人体の腹側を前又は正面、背側を後ろ又は背面、左手側を左、右手側を右、頭側を上、足側を下と表記する。
本明細書で表記する方向は、重力方向の上下とは一致しない場合もあるし、医療シミュレータ1の使用態様を限定するものでもない。
また、人体の表面のうち外界に直接触れている表面を「体外表面」と表記し、管腔臓器の表面を「体内表面」と表記する場合がある。更に、「体外表面」から体内側を「内側」又は「内部」と表記し、「体内表面」から管腔臓器の管腔とは反対側を「内側」又は「内部」と表記する場合がある。
【0017】
人体模型10の体外表面は、人体外形を模した皮膚シートに覆われており、頭部にはウィッグが装着されている。
皮膚シートは、シリコーンゴム等の柔軟性を有する素材により形成されている。
本明細書において「柔軟性」とは、折り曲げたとしても破断、損傷などを生じ難い特性を意味し、伸縮性及び弾性のいずれか一方又は両方の特性を含んでいてもよい。
【0018】
人体模型10における皮膚シートの内側の内部構造は、体内器官構造や骨格ベース部などにより構成される。 骨格ベース部は、人体模型10の形状の基礎となる骨組みを形成する構成要素群であり、金属や合成樹脂などの被訓練者による操作に耐え得る強度及び硬度を有する材質で形成される。骨格ベース部には、頭蓋骨、頸椎等に相当する骨格部材が含まれる。
体内器官構造は、管腔臓器を模した形状を有する構成要素群である。図2には、体内器官構造としての体内造形部20が示されている。
【0019】
図2は、体内造形部20を下方から見た場合の斜視図である。
体内造形部20は、図2に示されるとおり、口腔、鼻腔、口腔、咽頭、喉頭、気管、及び食道を模擬した口腔部21、鼻腔部22、咽頭部23、喉頭部24、気管部25、及び食道部26を含み、柔軟性材料を用いて一体成形されている。
体内造形部20は、例えば、コンピュータ断層撮影(CT)や核磁気共鳴画像法(MRI)などを用いてスキャンニングされた体内器官の三次元情報を入手し、その三次元情報に基づいて製作された型を用いて成形することもできるし、三次元プリンタを用いて成形することもできる。このような体内造形部20の成形手法は制限されない。
【0020】
体内造形部20を形成する柔軟性材料は、シリコーンゴム等の柔軟性を有する材料であれば、特に制限されない。体内造形部20は、模擬対象となる体内器官と同様に、引っ張り力の印加に応じて形状がその方向に伸び、引っ張り力の消失により形状がおおよそ元に戻る伸縮性及び弾性を有することが好ましい。
このように体内造形部20を柔軟性材料を用いて一体成形することで、繋ぎ目をなくし、体内造形部20で再現する管腔臓器を実物により近付けることができ、ひいては、リアルな医療シミュレーションが可能となる。
【0021】
体内造形部20は、骨格ベース部の咽頭壁プレート30と連結することで、固定されている。
咽頭壁プレート30は、骨格ベース部における第二頸椎に相当する部材(図示せず)に連結されており、その部材との連結点から下方に延びる板状の部材である。
咽頭壁プレート30は、その前面で、体内造形部20の咽頭部23を背面側から支持する。咽頭壁プレート30には、前後方向(厚み方向)に貫通した挿嵌孔(図示せず)が設けられており、この挿嵌孔に、体内造形部20の背面側に設けられたプレート連結部(図示せず)が挿嵌されることで、咽頭壁プレート30と体内造形部20とが連結固定される。
【0022】
更に、咽頭壁プレート30は、前面下端部の幅方向の両端縁から前方に立設された側壁部31a及び31bを有している。
側壁部31a及び31bは、咽頭壁プレート30と体内造形部20とが連結されている状態で、体内造形部20における梨状窩を模した部位を形成する梨状窩形成部28の背面形状に沿うような形状を有する上端面をそれぞれ有している。これにより、咽頭壁プレート30と体内造形部20とが連結されている状態において、側壁部31a及び31bの各上端面は、左右の梨状窩形成部28の背面に当接又は近接状態で対向する位置に配置される。
【0023】
加えて、体内造形部20の梨状窩に相当する部位が体内表面から押されたときの圧力を検知するための圧力センサ(図示せず)が設けられている。この圧力センサは、例えば、側壁部31a及び31bの上端面又は内部に設けられる。但し、当該圧力センサは、体内造形部20の梨状窩形成部28の背面側に設けられてもよい。
内視鏡を挿入する際には一般的には左梨状窩から内視鏡を滑り込ませる方法が採られる。その方法において、内視鏡を強く左梨状窩に押し当て過ぎると損傷を与えてしまう可能性があるところ、上記圧力センサで圧力検知をすることで、内視鏡手技における内視鏡の挿入操作の良否を評価することができる。
【0024】
このため、圧力センサは、左梨状窩を形成する左側の梨状窩形成部28の背面側にのみ設けられてもよい。即ち、咽頭壁プレート30の側壁部31bにのみ圧力センサが設けられてもよい。但し、左右両方の梨状窩形成部28の背面側に圧力センサを設けることで、右梨状窩側から内視鏡を滑り込ませる操作を誤操作として判定することもできる。
更に、側壁部31a及び31bが咽頭壁プレート30に対して下方にスライド自在となるような機構が設けられていてもよい。
【0025】
〔上部消化管モデル〕
人体模型10は、上部消化管内視鏡検査のシミュレーションを可能とするべく、体内器官構造として、上述の体内造形部20に加えて、食道、胃及び十二指腸の形状を模擬した上部消化管モデル40を更に有している。ここでは、上部消化管内視鏡検査の手技の訓練を可能とする管腔臓器モデル(上部消化管モデル40)を中心に説明するが、人体模型10は、内視鏡検査の手技の訓練を可能とするために、大腸や小腸等の他の管腔臓器モデルを有していてもよいし、他の体内器官を模擬した内部構造を有していてもよい。
【0026】
以下、図3から図8を用いて、上部消化管モデル40及びその周囲の構造について説明する。
図3は、上部消化管モデル40及びその周囲の主な構造を示す図であり、図4は、臓器収容部70の主な構造を示す図であり、図5は、上部消化管モデル40の主な構造を正面側から見た図であり、図6は、上部消化管モデル40の主な構造を背面側から見た図であり、図7は、上部消化管モデル40の主な構造の分解図であり、図8は、上部消化管モデル40の断面を示す模式図である。
【0027】
人体模型10は、体内器官構造として、図3に示されるような上部消化管モデル40を有している。上部消化管モデル40は、食道、胃及び十二指腸を模擬しているため、管腔臓器モデルということもできる。
上部消化管モデル40は、シリコーンゴム等の柔軟性を有する素材により形成されている。本実施形態は、上部消化管モデル40の素材を限定するものではないが、上部消化管モデル40は食道、胃、十二指腸等の実際の生体の管腔臓器に近い柔軟性を有するように形成されることが望ましい。
【0028】
上部消化管モデル40は、食道、胃及び十二指腸の各形状を模擬した領域である食道モデル41、胃モデル42及び十二指腸モデル43から構成されている。本実施形態では、食道モデル41、胃モデル42及び十二指腸モデル43は、繋ぎ目なく一体的に成形されている。これにより、内視鏡を上部消化管モデル40の管腔に挿入した際の感触を実物に近づけることができ、ひいては、リアルな内視鏡手技シミュレーションが可能となる。なお、食道モデル41、胃モデル42及び十二指腸モデル43は、食道モデル領域、胃モデル領域及び十二指腸モデル領域ということもできる。
【0029】
また、上部消化管モデル40は、食道モデル41の一方の端部が体内造形部20の食道部26に連結されることで、体内造形部20と接続する。食道モデル41と食道部26との連結は、相互の管腔壁(体内表面)の間が段差や切れ目なく滑らかに連なるように構成される。
【0030】
上部消化管モデル40において食道モデル41と胃モデル42との境界部には、図7に示されるように、狭窄壁部45が設けられている。狭窄壁部45は、管腔断面積が周囲よりも小さくなっている部位であり、管腔壁(体内表面)が狭窄されている部位である。本実施形態では、狭窄壁部45は、胃と食道との接合部である噴門を模擬する。
本明細書において、上部消化管モデル40における「管腔断面」とは、上部消化管モデル40の管腔を食物が流れる方向、上部消化管モデル40の長手方向或いは軸心方向に直交する管腔断面を意味し、「管腔断面積」とは管腔断面の面積を意味するものとする。また、この管腔断面と平行な方向を管腔断面方向と表記し、管腔断面と直交する方向を管腔断面直交方向と表記する場合もある。
狭窄壁部45は、食道モデル41の一端部に設けられているということもできるし、胃モデル42の一端部に設けられているということもできる。
【0031】
食道モデル41は、狭窄壁部45から口腔方向に向かって略直線状に延びる形状を有しており、食道モデル41には、外面から周回状に突設された柔軟性のあるフランジ蓋部411及び412が設けられている。
フランジ蓋部411は、食道モデル41における胃モデル42側の端部であって狭窄壁部45よりも少し口腔側に設けられており、フランジ蓋部412は、フランジ蓋部411から更に口腔側に所定距離離間した位置に設けられている。フランジ蓋部411及び412は、後述する食道空間102を画定する。
フランジ蓋部411及び412は、上部消化管モデル40と一体成形されてもよいし、上部消化管モデル40と同一の又は異なる柔軟性のある素材で形成され食道モデル41に接着されてもよい。
【0032】
上部消化管モデル40における狭窄壁部45の外側周囲には、狭窄壁部45との間に密閉空間を形成する噴門空間形成部50が設けられている。より具体的には、噴門空間形成部50は、上部消化管モデル40における狭窄壁部45を挟んだ胃モデル42の端部から食道モデル41の端部までの特定領域の外側周囲を周回状に覆い、その特定領域の外側周囲に密閉空間を形成する。
更に言えば、本実施形態において、噴門空間形成部50は、胃モデル42における食道側の端部の外面から食道モデル41のフランジ蓋部411まで、上部消化管モデル40の外面を密閉空間を介在させて周回状に覆う壁部材であると換言できる。
【0033】
噴門空間形成部50は、上部消化管モデル40とは別体成形されており、胃モデル42における食道側の端部の外面及び食道モデル41のフランジ蓋部411に接着剤等で接着されてもよいし、上部消化管モデル40と一体成形されていてもよい。なお、図8の断面図は、噴門空間形成部50と上部消化管モデル40とが別体成形されている例が示されている。
また、噴門空間形成部50は、上部消化管モデル40と同一素材により形成されていてもよいし、上部消化管モデル40よりも高硬度の素材により形成されていてもよい。但し、噴門空間形成部50は、柔軟性のある素材で形成されることが好ましい。
噴門空間形成部50により形成される密閉空間は、図8で示される噴門空間101である。
噴門空間形成部50は、第一空間形成部に相当し、噴門空間101は、第一密閉空間に相当する。
【0034】
噴門空間形成部50は、チューブ連結部52を含む。
チューブ連結部52は、後述する気圧制御装置7に接続されるエアチューブを噴門空間形成部50に連結させ、エアチューブの内腔と噴門空間101とを連通させる。これにより、噴門空間101内の気圧が後述するようにシミュレータ制御部80によって制御可能となる。
【0035】
食道モデル41における上述の噴門空間形成部50により覆われた領域とは別領域の外側周囲に、更に、噴門空間101とは別に区画された密閉空間を形成する食道空間形成部60が設けられている。食道空間形成部60は、食道モデル41における上述の噴門空間形成部50により覆われた領域とは別領域の外側周囲を周回状に覆い、当該別領域の外側周囲に噴門空間101とは別に区画された密閉空間を形成する。
本実施形態では、食道空間形成部60は、内腔に、食道モデル41におけるフランジ蓋部411からフランジ蓋部412までの間の領域が挿通される筒状部61を含み、図8に示されるように、この筒状部61の内腔壁と食道モデル41の外周面との間の隙間(空間)がフランジ蓋部411及び412により管腔断面直交方向の両端から蓋をされることで、当該密閉空間が形成される。
食道空間形成部60により形成される密閉空間は、図8で示される食道空間102である。
食道空間形成部60は、第二空間形成部に相当し、食道空間102は、第二密閉空間に相当する。
【0036】
食道空間形成部60は、チューブ連結部62及びセンサ収容部64を含んでいる。
チューブ連結部62は、後述する気圧制御装置7に接続されるエアチューブを食道空間形成部60に連結させ、エアチューブの内腔と食道空間102とを連通させる。これにより、食道空間102内の気圧が後述するようにシミュレータ制御部80によって制御可能となる。
【0037】
センサ収容部64は、食道モデル41の管腔に挿入される内視鏡の存在を検出するための物体検出センサを内部に収容する。この物体検出センサによる検出信号は、後述するように、食道空間102又は噴門空間101内の気圧制御に利用される。
センサ収容部64に収容される物体検出センサには、例えば、光電センサが利用される。但し、当該物体検出センサは、食道モデル41の管腔断面方向の外側から食道モデル41の管腔内を通過する内視鏡の存在を検出することができれば、その具体的な種類は限定されない。
【0038】
上記構成により、本実施形態において、噴門空間101と食道空間102とは、食道モデル41のフランジ蓋部411を隔てて隣接しているということができる。
このように食道モデル41のフランジ蓋部411という一部材で、食道モデル41の外側周囲に二つの密閉空間(噴門空間101及び食道空間102)を形成することができるため、製造コストや開発コストを低減することができる。
【0039】
また、食道空間形成部60の筒状部61は、上述した噴門空間形成部50の主部51(チューブ連結部52を除く、噴門空間101を形成する主な壁部材)よりも高硬度とされることが好ましい。例えば、食道空間形成部60の筒状部61は、プラスチック等の硬い素材で形成され、噴門空間形成部50の主部51が、シリコーンゴム等の、筒状部61よりも低硬度の素材で形成される。
食道空間形成部60の筒状部61は、噴門空間形成部50で覆われる部位よりも内視鏡検査で変形し難い食道モデル41の略直線状の部位を挿通するため、噴門空間形成部50よりも高硬度であっても問題ない。更に言えば、食道空間形成部60を噴門空間形成部50よりも高硬度とすることで、食道空間形成部60と噴門空間形成部50との連結強度を上げることができる。
【0040】
食道空間形成部60は、更に、筒状部61の両端縁に筒状部61の外周面から周回状に突設されたフランジ部65及び66を含む。
食道空間形成部60の口腔側の一端では、フランジ部66の外周面(上端面)と食道モデル41のフランジ蓋部412の外周面(上端面)とが略面一とされており、フランジ部66及びフランジ蓋部412の両方を覆う密閉蓋68が装着されている。
一方で、食道空間形成部60の他方の端では、フランジ部65の外周面(上端面)と食道モデル41のフランジ蓋部411の外周面(上端面)とが略面一とされており、噴門空間形成部50が、フランジ蓋部411と連設されつつ、フランジ部65の外周面を全周にわたって密着状態で覆う密閉カバー部54を有している。図8の例では、密閉カバー部54(噴門空間形成部50)の断面が密閉カバー部54と上部消化管モデル40とが別部材として示されているが、密閉カバー部54は上部消化管モデル40と一体成形されており、密閉カバー部54とフランジ蓋部411とが一連なりとされていてもよい。
このような構造により、噴門空間101と食道空間102とを別々の密閉空間として隣接させながら、しっかりと密閉することができる。
【0041】
このような食道空間形成部60で覆われる食道モデル41の領域は、図8に示されるように、管腔断面積が狭窄壁部45に向かって漸次縮小するテーパ状の管腔壁面を有している。
このような構造により、食道空間102の気圧を制御することで、食道モデル41の管腔断面積の収縮又は拡張の程度を部位によって変えることができ、結果として、食道の蠕動運動を模擬することができる。
【0042】
上部消化管モデル40の胃モデル42には、チューブ連結孔421が設けられている。
チューブ連結孔421は、胃モデル42の外側から管腔(内腔)に貫通しており、送液チューブ(図示せず)の内腔と胃モデル42の管腔(内腔)とを連通させる。チューブ連結孔421には、送液チューブの端部と連結するチューブ連結部(図示せず)が装着されてもよい。
送液チューブは、所定の液体を胃モデル42の管腔(内腔)に送り込むためのチューブである。
本実施形態では、当該所定の液体として、胃モデル42の管腔内の滑りをよくする潤滑液が利用され、例えば、揮発性のシリコン離型剤が利用される。
【0043】
ここでは、このような潤滑液を外部から注入するためのチューブ連結孔421が胃モデル42に設けられる例を挙げたが、当該チューブ連結孔は、十二指腸モデル43にも設けられてもよいし、食道モデル41にも設けられてもよい。
このように上部消化管モデル40に外部からシリコン離型剤のような潤滑液を注入可能とすることで、上部消化管モデル40の管腔内を実物により近付けることができ、内視鏡を挿入した際の感触をリアルに再現することができる。更に、注入する潤滑液として揮発性の離型剤を用いることで、利用時のみ注入すれば利用後には揮発するため、人体模型10のメンテナンス負荷を低減することができる。
【0044】
更に、本実施形態では、チューブ連結孔421は、胃モデル42における胃の胃角部又は胃体部の小彎部に相当する位置に設けられている。
これにより、チューブ連結孔421から注入された潤滑液が、胃モデル42の管腔内における、チューブ連結孔421が設けられた位置に対向する部位、即ち胃の胃角部又は胃体部の大彎部に相当する部位に塗布することができる。結果、胃モデル42の管腔内において内視鏡が当接し易い部位を潤滑液で滑らかにすることができるため、内視鏡の操作感をリアルに再現できると共に、胃モデル42の破損を防ぐことができる。
【0045】
また、胃モデル42では、胃角部の大彎部の少なくとも一部又は前庭部の大彎部の少なくとも一部に相当する部位を含む特定領域が他の領域よりも高硬度に形成されている。例えば、異なる硬度(硬さ)のシリコンを注型成形することで、このような部位ごとに硬度の異なる胃モデル42を成形することができる。
このように柔軟性を有する胃モデル42において、当該特定領域を他の領域よりも硬くすることにより、当該特定領域の内壁の摩擦抵抗を他の領域よりも低減することができ、内視鏡を挿入した際の操作感をリアルに再現することができる。加えて、それにより、胃モデル42の形状を適切に保持することができる。
【0046】
このような上部消化管モデル40の一部は、臓器収容部70に収容されている。
本実施形態において臓器収容部70は、直方体状の箱体であり、上部消化管モデル40の一部を内部空間に収容しながら、上部消化管モデル40が、模擬する管腔臓器と近似する形及び配置となるように、上部消化管モデル40を繋ぎ止める。
臓器収容部70は、図4に示されるように、内部空間から外部空間に向けて貫通している収容開口部71、並びに、内部空間方向に向けて突設された胃繋止部72及び十二指腸係止部75を有している。
【0047】
収容開口部71は、臓器収容部70の上壁(頭部側の壁)に設けられており、胃繋止部72は、臓器収容部70の右壁(人体右側の壁)の内面に設けられており、十二指腸係止部75は、臓器収容部70の後壁(後ろ側の壁)の内面に設けられている。
本実施形態において上部消化管内視鏡検査の手技の訓練は、臨床時と同様に、図1に示されるように、台座部4上で人体模型10を左側を下にした横向きに寝かせた状態で行われるため、胃繋止部72は、重力方向の上方の壁の内面に設けられている状態となる。
臓器収容部70の形状は、図3及び図4に例示される形状に限定されず、内部空間に食道モデル41の一部を収容しつつ上部消化管モデル40を繋ぎ止めることができるのであれば、角丸直方体、円柱、球形といった他の形状であってもよい。
【0048】
食道モデル41及び食道モデル41を覆う食道空間形成部60は、臓器収容部70の収容開口部71に挿入された状態で臓器収容部70に繋ぎ止められている。
食道空間形成部60の筒状部61には、更に、フランジ部65よりも中央寄りに固定フランジ部67が固設されており、この固定フランジ部67が、臓器収容部70の内部空間側から収容開口部71を塞いだ状態で、収容開口部71が開設されている壁面に固着されている。
【0049】
胃モデル42は、胃モデル42の外面の胃の前庭部に相当する位置に外側に向けて突設された突状片422を更に有している。突状片422も胃モデル42と同様に柔軟性を有しており、胃モデル42と一体成形されている。
この突状片422が胃繋止部72と連結することで、胃モデル42は、臓器収容部70の内部空間内で位置決めされている。具体的には、突状片422には、厚み方向に穿設された貫通孔が設けられており、胃繋止部72の壁面に突状に設けられた胃係止部73がこの貫通孔に挿嵌されることで、突状片422と胃繋止部72とが連結し、胃モデル42が臓器収容部70に繋ぎ止められる。
【0050】
十二指腸モデル43は、胃モデル42と幽門部を介して連設されている。
十二指腸モデル43には、図6に示されるように、十二指腸球部より先の領域の外面に、十二指腸モデル43を挟んだ両側からそれぞれ外側に向けて延設される第一プレート431及び第二プレート432が設けられている。
これら第一プレート431及び第二プレート432が臓器収容部70の十二指腸係止部75と係合することで、十二指腸モデル43が臓器収容部70の内部空間に繋ぎ止められる。本実施形態では、第一プレート431に厚み方向に貫通した2つの貫通孔が設けられており、第二プレート432に厚み方向に貫通した1つの貫通孔が設けられており、これら3つの貫通孔に3つの十二指腸係止部75が挿嵌されることで、第一プレート431及び第二プレート432と十二指腸係止部75とが係合する。
【0051】
このように、本実施形態では、胃モデル42は、胃の前庭部に相当する位置に設けられた突状片422のみで臓器収容部70の内部空間に繋ぎ止められているのに対して、十二指腸モデル43は、十二指腸球部の先に設けられた第一プレート431及び第二プレート432で臓器収容部70の内部空間に繋ぎ止められている。
即ち、胃モデル42は、十二指腸モデル43よりも臓器収容部70の内部空間で臓器収容部70との連結点が少ないということができる。
これは、生体における、後腹膜臓器である十二指腸が固定されているのに対して、胃は十二指腸よりも可動性を有している点をリアルに再現しているということができる。
【0052】
更に、胃モデル42の突状片422と連結する胃繋止部72は、上述したとおり、台座部4上で人体模型10が左側を下にした横向きに寝かせられた状態では、重力方向の上方の壁の内面に設けられた状態となるため、胃モデル42は、胃の前庭部に相当する位置で吊るされた状態となり、かつ、高硬度に形成された特定領域により形状維持される。このように、胃モデル42は、人体が左側を下にした横向きに寝かせられた状態の胃の形状等をリアルに再現することができている。
また、胃モデル42が可動性を有した状態で突状片422で繋ぎ止められているため、胃モデル42は、内視鏡の操作に応じて動き、更に、その操作後に元の位置に戻ることができる。
【0053】
図3等には、十二指腸モデル43よりも先の構成が図示されていないが、十二指腸モデル43の末端には貫通孔が設けられ、その貫通孔にエアチューブが装着されてもよい。そして、そのエアチューブに排気弁が設けられてもよい。このようにすれば、胃モデル42及び十二指腸モデル43の管腔内の気圧が上昇し過ぎた場合に、排気弁で迅速に排気することができるため、胃モデル42及び十二指腸モデル43の破裂や損傷を防ぐことができる。
【0054】
〔制御構成〕
次に、医療シミュレータ1における制御構成について図9を用いて説明する。
図9は、本実施形態に係る医療シミュレータ1における制御構成を概念的に示す図である。
図9に示されるように、医療シミュレータ1は、入出力パネル5、スピーカ6、気圧制御装置7、センサ群9、シミュレータ制御部(以降、制御部と略称する)80等を有する。但し、図9には、上部消化管内視鏡検査手技に関する訓練のための制御構成が例示されており、医療シミュレータ1は、人体模型10の各部を動作させるアクチュエータの動力源等、図9に図示されていない他の制御構成を有していてもよい。
【0055】
制御部80は、ハードウェア構成として、CPU(Central Processing Unit)81、メモリ82、入出力インタフェース(I/F)ユニット83等を有する。
CPU81は、一般的な一以上のCPU又はMPU(Micro Processing Unit)であってもよいし、それに替え又はそれと共に、特定用途向け集積回路(ASIC)、DSP(Digital Signal Processor)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)等であってもよい。
メモリ82は、RAM(Random Access Memory)及びROM(Read Only Memory)であり、補助記憶装置(ハードディスク等)を含んでもよい。
入出力I/Fユニット83は、CPU81で処理すべき又は処理された信号の入力又は出力を制御する機器であり、入出力パネル5等のユーザインタフェース装置、スピーカ6、気圧制御装置7、センサ群9等に接続される。また、入出力I/Fユニット83は、他のコンピュータや機器との通信を行う通信ユニットを含んでもよく、可搬型記録媒体等にも接続され得る。
制御部80は、図9に図示されていないハードウェア要素を含んでもよく、制御部80のハードウェア構成は制限されない。
【0056】
気圧制御装置7は、エアチューブにより噴門空間101及び食道空間102と連通しており、制御部80により動作制御され、噴門空間101内及び食道空間102内の気圧を減圧又は加圧する。気圧制御装置7は、密閉空間である噴門空間101内及び食道空間102内の気圧を個別に変化させることができれば、その具体的構成は何ら制限されない。気圧制御装置7は、例えば、圧縮空気を吐出するコンプレッサと、陰圧及び陽圧の切り替え機能を有するエジェクタ装置と、バルブ等から構成され得る。また、気圧制御装置7は、吸気及び排気が可能なエアポンプ等により構成されてもよい。
【0057】
センサ群9は、人体模型10の内部又は外部に設けられた複数の各種センサであり、各位置での内視鏡手技の状態を検知する。本実施形態では、食道入口部、食道下部(センサ収容部64)、及び十二指腸モデル43(図示せず)に設けられた物体検出センサ、胃モデル42における胃の大彎部に相当する位置及び咽頭部23に設けられた圧力センサ、胃モデル42の管腔(内腔)内の気圧を検知する気圧センサ等がセンサ群9として設けられている。
【0058】
CPU81によりメモリ82に格納される制御プログラムが実行されることにより、制御部80は、センサ群9からの入力信号を受けつつ、気圧制御装置7の制御、スピーカ6からの音声出力制御等を行う。
当該制御プログラムは、出荷時に予め格納されてもいてもよいし、CD(Compact Disc)、メモリカード等のような可搬型記録媒体やネットワーク上の他のコンピュータから入出力I/Fユニット83を介してインストールされ、メモリ82に格納されてもよい。
【0059】
図10は、制御部80により実現されるソフトウェア構成を概念的に示すブロック図である。
CPU81によりメモリ82に格納される制御プログラムが実行されることにより、制御部80は、図10に示されるようなソフトウェア構成を実現する。具体的には、制御部80は、ソフトウェア構成として、流体制御モジュール91、モード取得モジュール92、発話情報取得モジュール93、反射制御モジュール94等を有している。
但し、図10に示される各ソフトウェア構成要素は、説明の便宜のために概念的にそれぞれ分けて示したものであるため、制御部80で実現されるソフトウェア構成は、図10に示されるような各構成要素に明確に区分けされていなくてもよい。
【0060】
流体制御モジュール91は、気圧制御装置7に指示を出すことで、気圧制御装置7とエアチューブを介して連通する噴門空間101内及び食道空間102内の気圧を個別に制御する。例えば、流体制御モジュール91は、予め決められた圧力となるようにその圧力に対応する指示信号を気圧制御装置7に送る。予め決められた圧力は、大気圧、大気圧よりも陰圧の第一段階圧力、第一段階圧力よりも更に陰圧の第二段階圧力のように設定される。
【0061】
モード取得モジュール92は、経鼻内視鏡の手技の訓練又は経口内視鏡の手技の訓練が指定された訓練モード情報を取得する。例えば、モード取得モジュール92は、入出力パネル5からの信号を入出力I/Fユニット83を介して受信することで、入出力パネル5に対する操作で経鼻内視鏡の手技の訓練が指定されたのか或いは経口内視鏡の手技の訓練が指定されたのかを当該訓練モード情報として取得することができる。
【0062】
発話情報取得モジュール93は、被訓練者の発話情報を取得する。例えば、発話情報取得モジュール93は、マイクロフォン(図示せず)から得られる音声信号を入出力I/Fユニット83を介して受信し、その音声信号に対して音声認識処理を適用することで、その音声信号が予め決められた発話を示すかどうかを判定することができる。
具体的には、上部消化管内視鏡検査では、噴門に腫瘍等がないかを確認するために、医師により、「息を吸ってください」といった噴門を閉じさせるための声かけが行われる。また、噴門から胃に内視鏡を挿入するために、医師により、「楽にしてください」といった噴門を緩めるための声かけが行われる。このため、発話情報取得モジュール93は、受信された音声信号が「息を吸ってください」、「楽にしてください」といった予め決められた発話を示すか否かを判定する。
発話情報取得モジュール93は、予め決められた発話を示すと判定した場合には、その発話情報を特定する。
但し、噴門を閉じさせるための発話や噴門を緩めるための発話として、発話情報取得モジュール93は、様々なバリエーションを保持するようにしてもよい。音声認識処理は、既存のあらゆる認識手法を用いた処理とすることができる。
【0063】
反射制御モジュール94は、胃モデル42における胃の大彎部に相当する位置及び咽頭部23に設けられた圧力センサからの検出信号に基づいて、スピーカ6に苦しい状態を示すうなり音声(例えば「ウーッ」という音声)を出力させたり、スピーカ6に嘔気発話を出力させることもできる。
具体的には、反射制御モジュール94は、胃モデル42における胃の大彎部に相当する位置に設けられた圧力センサからの検出信号に基づいて、検出された圧力値が所定値を超えた場合に、メモリ82に予め格納されているうなり音声データを読み出し、その音声データを再生することにより、スピーカ6にうなり音声を出力させる。
【0064】
また、反射制御モジュール94は、胃モデル42における胃の大彎部に相当する位置に設けられた圧力センサ及び咽頭部23に設けられた圧力センサからの各検出信号に基づいて、両方の圧力値が所定値を超えた場合に、メモリ82に予め格納されている嘔気発話の音声データを読み出し、その音声データを再生することにより、スピーカ6に嘔気発話を出力させる。
このように胃モデル42と咽頭部23との両方で所定値を超える圧力が検出された場合にのみ嘔気発話を出力させることで、嘔気発話が連続して出力することで、被訓練者に煩わしさを感じさせるのを防ぐことができる。
うなり音声の出力時又は嘔気発話の出力時には、反射制御モジュール94は、更に、アクチュエータを動作させることで、人体模型10の骨格を動かすようにすることもできる。
【0065】
以下、制御部80の具体的処理内容について説明する。但し、以下に説明する内容は例示であるため、制御部80は、その他の処理を実行してもよい。
【0066】
制御部80(流体制御モジュール91)は、気圧制御装置7の制御により噴門空間101内及び食道空間102内の気圧を個別に制御することができる。これにより、噴門空間101内の気圧を変化させることで、狭窄壁部45の管腔断面積、即ち噴門の大きさ(面積)を拡大又は縮小させることができ、食道空間102内の気圧を変化させることで、食道モデル41の食道空間102で覆われる領域の管腔断面積を拡大又は縮小させることができる。
噴門は下部食道括約筋により閉鎖されており、胃の内容物が食道に逆流するのを防いでいる。また、食道は食物を胃まで送るための蠕動運動を行う。
本実施形態によれば、制御部80(流体制御モジュール91)による気圧制御装置7の制御により、噴門の開閉及び食道の蠕動運動を模擬することができるため、食道及び噴門の挙動をリアルに再現し、高精度な医療手技訓練が可能となる。
【0067】
(噴門の大きさの制御)
ここで、経鼻内視鏡と経口内視鏡とでは、挿入部における長手方向と直交する断面の直径が2倍程度異なる。例えば、或る製品ラインナップでは、経口内視鏡の断面直径が10.8mmであり、経鼻内視鏡の断面直径が5.6mmである。
このため、上部消化管モデル40で模擬される噴門の大きさ(狭窄壁部45の管腔断面積)が経鼻内視鏡の直径に合わせて設定された場合、経口内視鏡を噴門を通過させる際に不自然な抵抗感が生じてしまい、高精度な訓練とはならなくなってしまう。
そこで、本実施形態では、流体制御モジュール91は、モード取得モジュール92により取得された訓練モード情報による指定が経口内視鏡か経鼻内視鏡かに基づいて、噴門空間101内の気圧を制御して、狭窄壁部45の管腔断面積を拡大又は縮小させる。具体的には、取得された訓練モード情報が経口内視鏡を示す場合には、流体制御モジュール91は、噴門空間101内の気圧を制御して、経口内視鏡の断面積に合うように狭窄壁部45の管腔断面積を拡大し、取得された訓練モード情報が経鼻内視鏡を示す場合には、流体制御モジュール91は、噴門空間101内の気圧を制御して、経鼻内視鏡の断面積に合うように狭窄壁部45の管腔断面積を縮小させる。
【0068】
本実施形態では、狭窄壁部45が大気圧下(通常状態)においてその管腔断面積が経鼻内視鏡の断面積に合うように形成されているため、流体制御モジュール91は、訓練モード情報が経口内視鏡を示す場合には、噴門空間101内を陰圧にすることで狭窄壁部45の管腔断面積を経口内視鏡の断面積に合わせ、訓練モード情報が経鼻内視鏡を示す場合には、噴門空間101内を大気圧に戻すことで狭窄壁部45の管腔断面積を経鼻内視鏡の断面積に合わせる。
これにより、経鼻内視鏡手技及び経口内視鏡手技のいずれにおいても、臨床に近い高精度な訓練が可能となる。
【0069】
ここで、経鼻内視鏡及び経口内視鏡のそれぞれの断面積に狭窄壁部45の管腔断面積を合わせる場合に、内視鏡の断面積よりも狭窄壁部45の管腔断面積がわずかに小さくされることが好ましい。このようにすれば、内視鏡を挿入する際の違和感を生じさせることなく、内視鏡を胃に挿入させた状態で内視鏡により噴門を閉塞することができるため、内視鏡の送気機能及び吸引機能を用いた手技を臨床と近似した状態で訓練することができる。
更に、狭窄壁部45の管腔断面積を制御することで、下部食道括約筋の緩みや、食道裂孔ヘルニア等の状態を再現することもできる。
【0070】
(食道の蠕動運動の再現)
また、流体制御モジュール91は、センサ収容部64に収容される物体検出センサが内視鏡を検出するまでは、食道空間102内の気圧を所定の周期で増減させることで、食道モデル41の管腔断面積の拡大及び縮小を繰り返す。そして、流体制御モジュール91は、当該物体検出センサが内視鏡を検出すると、食道空間102内の気圧を大気圧に戻す。
これにより、内視鏡が食道を通過する際に食道の蠕動運動を再現することができるため、リアルな訓練が可能となる。更に、内視鏡が食道を通過してしまった後は、食道の蠕動運動を止めることで、不必要な動きを抑えることができる。
ここで、食道空間102内の気圧を増減させる上記所定の周期は、例えば、2秒間隔といった予め定められた一定の周期とされてもよいし、人間の呼吸の換気周期に合わせ多少変動も持たさせた周期(例えば2.3秒±0.3秒)とされてもよい。
【0071】
(噴門の挙動の再現)
加えて、流体制御モジュール91は、発話情報取得モジュール93により取得された発話情報に基づいて、噴門空間101内の気圧を制御して、狭窄壁部45の管腔断面積を拡大又は縮小させる。具体的には、流体制御モジュール91は、発話情報が「息を吸ってください」といった発話内容を示す場合には、噴門空間101内の気圧を下げることで、狭窄壁部45の管腔断面積を縮小させ、発話情報が「楽にしてください」といった発話内容を示す場合には、噴門空間101内の気圧を上げる(例えば大気圧とする)ことで、狭窄壁部45の管腔断面積を拡大する。
これにより、上部消化管内視鏡検査時における患者への声かけに対応する噴門の挙動をリアルに再現することができるため、高精度の訓練が可能となる。
【0072】
(曖気の再現)
更に、流体制御モジュール91は、気圧センサにより検出された胃モデル42の管腔内の気圧情報に基づいて、噴門空間101内の気圧を制御して、狭窄壁部45の管腔断面積を拡大させて、曖気を模擬する。具体的には、流体制御モジュール91は、胃モデル42の管腔内の気圧が所定気圧を超えた場合に、噴門空間101内を陰圧にして、狭窄壁部45の管腔断面積を拡大させる。これにより、噴門が内視鏡で閉鎖されることで密閉されていた胃モデル42の管腔内の空気を一気に噴門から食道側へ放出し、曖気を模擬することができる。
【0073】
[変形例]
上述の実施形態は、医療シミュレータ1の一例である。医療シミュレータ1は、上述の構成のみに限定されるわけではなく、上述の少なくとも一部の構成を有していれば、部分的に適宜変形されてもよい。
【0074】
例えば、上述の実施形態では、管腔臓器モデルとして、食道、胃及び十二指腸を模した形状を有する上部消化管モデル40が例示されたが、食道と胃のみを模した形状を有する管腔臓器モデルが設けられてもよい。
また、大腸を模した形状を有する管腔臓器モデルが設けられてもよい。この場合、大腸の一端に周囲よりも管腔断面積が小さい狭窄壁部を設けることで、その狭窄壁部で肛門を模擬することができる。そして、上述と同様に、大腸の一端の外側周囲に一つの密閉空間を形成し、大腸のその他の領域の外側周囲に他の密閉空間を形成することで、大腸の蠕動運動及び肛門の開閉挙動を模擬することができる。
同様に、尿管、膀胱及び尿道のいずれか複数を模した管腔臓器モデルが設けられてもよい。この場合にも、それらのどこかに周囲よりも管腔断面積が小さい狭窄壁部が設けられればよい。
また、管腔臓器の外側周囲の密閉空間内の流体制御により、管腔臓器の蠕動運動及び開閉挙動のみならず、脈動等の挙動を模擬することもできる。
【0075】
また、上述の実施形態では、第一密閉空間である噴門空間101内及び第二密閉空間である食道空間102内の気圧(空気圧)が制御された。即ち、被制御流体は空気であり、その気圧が制御されて、管腔臓器モデルの管腔断面積が拡大又は縮小された。
しかしながら、被制御流体は、空気以外の気体や液体であってもよく、噴門空間101及び食道空間102にはそのような流体が充填されており、その流体の圧力が制御されてもよい。
【0076】
更に、食道モデル41の外側周囲に二つの密閉空間(噴門空間101及び食道空間102)が形成されたが、一つの管腔臓器に対応する管腔臓器モデルの外側周囲には三つ以上の密閉空間が形成され、別々に各密閉空間内の流体圧が制御されてもよい。このようにすれば、例えば、食道の蠕動運動をよりリアルに再現することができる。
【0077】
また、上述の実施形態では、臓器収容部70は、上部消化管モデル40の一部を収容しかつ上部消化管モデル40を繋ぎ止める役割で設けられていたが、臓器収容部70の内部空間も密閉空間とされ、その内部空間内の流体圧(気圧)が制御されてもよい。このようにすれば、胃モデル42の挙動を再現することができる。また、大気圧下においては自重により潰れた状態となる軟性及び壁厚を有する胃モデル42として、臓器収容部70の内部空間内の流体圧を下げることで、胃モデル42の形状を維持させるようにしてもよい。
【0078】
また、上述の実施形態において、臓器収容部70の内部空間内に胃モデル42及び十二指腸モデル43の外形を切り抜いた緩衝材(例えば、発砲プラスチック材)を配置するようにしてもよい。これによれば、内視鏡の操作により臓器収容部70の内壁に胃モデル42や十二指腸モデル43が当接するのを防ぐことができるため、内視鏡操作に伴う違和感をなくし、かつ胃モデル42や十二指腸モデル43の損傷を防ぐことができる。
【0079】
実際の内視鏡手技において、内視鏡を十二指腸から引き抜く際には、内視鏡の挿入部及び湾曲部を可能な限り直線化する方法が採られる。この方法が採られる場合、胃モデル42の管腔内壁の摩擦で内視鏡を引き抜き難くなる可能性がある。
そこで、胃モデル42において、胃体部の小彎部の噴門に近い位置の外面から噴門空間形成部50の外面まで延設される突状片を設け、その突状片を右方向(臓器収容部70における胃繋止部72が設けられている右壁に向かう方向)にワイヤで引っ張るアクチュエータを設けてもよい。
そして、制御部80が、十二指腸モデル43に設けられた物体検出センサにより内視鏡が検出された場合に、当該アクチュエータを起動させてワイヤを引っ張ることで、胃モデル42の胃体部の小彎部を右方向に引き寄せることができる。結果、胃モデル42において幽門から噴門までの間が直線状になるため、内視鏡の直線化が行われた場合でも不自然な抵抗なく、内視鏡を引き抜くことができるようになる。
【0080】
更に、体内造形部20で模擬されている食道部26の食道入口部に相当する位置に食道部26の管腔断面積を縮小させることができる機構を更に設けてもよい。この機構は、上述のように密閉空間内の流体圧の制御により実現されてもよいし、ワイヤをアクチュエータで引っ張るような構成で実現されてもよい。後者の場合、例えば、咽頭壁プレート30にそのような構成を付加することができる。この場合、制御部80は、上述のような機構を制御することで、内視鏡が挿入されている際には、食道部26の食道入口部に相当する位置の管腔断面積を縮小させておき、曖気の再現の際には、噴門空間101内を陰圧にして狭窄壁部45の管腔断面積を拡大させると共に、食道部26の食道入口部に相当する位置の管腔断面積も合せて拡大させるようにしてもよい。
【0081】
上述した各実施形態及び変形例の内容は、次のように特定することもできる。
(付記1)
柔軟性を有し少なくとも一つの管腔臓器を模した形状を有する管腔臓器モデルであって、一つの管腔臓器の一端部又は二つの管腔臓器の接合部に相当する部位を含む第一特定領域に、管腔断面積が周囲よりも小さい狭窄壁部を有する管腔臓器モデルと、
前記管腔臓器モデルの少なくとも前記第一特定領域の外側周囲を周回状に覆い、前記第一特定領域の外側周囲に第一密閉空間を形成する第一空間形成部と、
前記第一密閉空間内の被制御流体の流体圧を制御して、前記管腔臓器モデルの前記狭窄壁部の管腔断面積を拡大又は縮小させる流体制御手段と、
を備える医療シミュレータ。
(付記2)
前記管腔臓器モデルにおける前記特定領域以外の領域の一部である第二特定領域の外側周囲を周回状に覆い、該第二特定領域の外側周囲に前記第一密閉空間とは別に区画された第二密閉空間を形成する第二空間形成部、
を更に備え、
前記流体制御手段は、前記第一密閉空間内の前記被制御流体の流体圧及び前記第二密閉空間内の前記被制御流体の流体圧を個別に制御して、前記管腔臓器モデルにおける前記狭窄壁部の管腔断面積と前記第二特定領域の管腔断面積とを個別に変化させ得る、
付記1に記載の医療シミュレータ。
(付記3)
前記第二空間形成部は、内腔に前記管腔臓器モデルの前記第二特定領域が挿通される筒状部を含み、
前記第一空間形成部の主部は、前記第二空間形成部の前記筒状部よりも低硬度である、
付記2に記載の医療シミュレータ。
(付記4)
前記管腔臓器モデルは、前記管腔臓器モデルの外面から周回状に突設された柔軟性のあるフランジ蓋部を含み、
前記第一密閉空間と前記第二密閉空間とは、前記フランジ蓋部を隔てて隣接している、
付記3に記載の医療シミュレータ。
(付記5)
前記第二空間形成部は、前記筒状部の一端縁に前記筒状部の外周面から周回状に突設されたフランジ部を更に含み、
前記第一空間形成部は、前記管腔臓器モデルの前記フランジ蓋部と連設されており、前記第二空間形成部の前記フランジ部の外周面を全周にわたって密着状態で覆う、
付記4に記載の医療シミュレータ。
(付記6)
所定の液体を前記管腔臓器モデルの管腔に送り込むための送液チューブ、
を更に備え、
前記管腔臓器モデルは、前記送液チューブの内腔と前記管腔臓器モデルの管腔とを連通させるためのチューブ連結孔を更に含む、
付記1から5のいずれか一つに記載の医療シミュレータ。
(付記7)
前記管腔臓器モデルは、胃の形状を模した胃モデル領域を含み、
前記管腔臓器モデルの前記狭窄壁部は、噴門を模しており、
前記管腔臓器モデルの前記チューブ連結孔は、前記管腔臓器モデルの前記胃モデル領域における胃の小彎部に相当する位置に設けられている、
付記6に記載の医療シミュレータ。
(付記8)
前記管腔臓器モデルの管腔内の気圧を検出可能な気圧センサ
を更に備え、
前記管腔臓器モデルは、胃の形状を模した胃モデル領域を含み、
前記管腔臓器モデルの前記狭窄壁部は、噴門を模しており、
前記気圧センサは、前記胃モデル領域の管腔内の気圧を検出し、
前記流体制御手段は、前記気圧センサにより検出された前記胃モデル領域の管腔内の気圧に基づいて、前記第一密閉空間内の前記被制御流体の流体圧を制御して、前記管腔臓器モデルの前記狭窄壁部の管腔断面積を拡大させて、曖気を模擬する、
付記1から7のいずれか一つに記載の医療シミュレータ。
(付記9)
前記管腔臓器モデルの少なくとも一部を内部空間内に収容する収容部、
を更に備え、
前記管腔臓器モデルは、食道の少なくとも一部の形状を模した食道モデル領域及び該食道モデル領域から連設されており胃の形状を模した胃モデル領域を更に含み、
前記第一特定領域は、前記食道モデル領域と前記胃モデル領域との接合部を含み、
前記第二特定領域は、前記食道モデル領域の一部であり、
前記収容部は、前記内部空間から外部空間に向けて貫通しており、前記第一空間形成部又は前記第二空間形成部が挿入される貫通孔、及び前記内部空間方向に向けて突設された臓器繋止部を含み、
前記管腔臓器モデルは、前記胃モデル領域の外面から外側に向けて突設されており前記臓器繋止部と連結される突状部を更に含み、
前記管腔臓器モデルの前記胃モデル領域は、前記突状部が前記臓器繋止部と連結することで、前記収容部の前記内部空間内で位置決めされている、
付記2から5のいずれか一つに記載の医療シミュレータ。
(付記10)
前記管腔臓器モデルは、前記胃モデル領域から連設されており十二指腸の形状を模した十二指腸モデル領域を更に含み、
前記収容部は、少なくとも前記管腔臓器モデルの前記胃モデル領域及び前記十二指腸モデル領域を前記内部空間内に収容し、
前記管腔臓器モデルの前記胃モデル領域は、前記十二指腸モデル領域よりも前記内部空間内で前記収容部との連結点が少ない、
付記9に記載の医療シミュレータ。
(付記11)
前記管腔臓器モデルの前記胃モデル領域では、胃角部の大彎部の少なくとも一部又は前庭部の大彎部の少なくとも一部に相当する部位を含む胃モデル特定領域が他の領域よりも高硬度に形成されている、
付記9又は10に記載の医療シミュレータ。
(付記12)
前記管腔臓器モデルの前記第二特定領域は、管腔断面積が前記第一特定領域に向かって漸次縮小するテーパ状の管腔壁面を有する、
付記9から11のいずれか一つに記載の医療シミュレータ。
(付記13)
経鼻内視鏡の手技の訓練又は経口内視鏡の手技の訓練が指定された訓練モード情報を取得するモード取得手段、
を更に備え、
前記流体制御手段は、前記取得された訓練モード情報による指定が経口内視鏡か経鼻内視鏡かに基づいて、前記第一密閉空間内の被制御流体の流体圧を制御して、前記管腔臓器モデルの前記狭窄壁部の管腔断面積を拡大又は縮小させる、
付記1から12のいずれか一つに記載の医療シミュレータ。
(付記14)
被訓練者の発話情報を取得する発話情報取得手段、
を更に備え、
前記流体制御手段は、前記取得された発話情報に基づいて、前記第一密閉空間内の被制御流体の流体圧を制御して、前記管腔臓器モデルの前記狭窄壁部の管腔断面積を拡大又は縮小させる、
付記1から13のいずれか一つに記載の医療シミュレータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10