(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】豆滓食品の製造方法及び豆滓食品及び加工食品
(51)【国際特許分類】
A23L 11/00 20210101AFI20230830BHJP
A23L 5/10 20160101ALI20230830BHJP
A23L 7/157 20160101ALI20230830BHJP
A23L 13/00 20160101ALN20230830BHJP
【FI】
A23L11/00 F
A23L11/00 301Z
A23L5/10 E
A23L7/157
A23L13/00 Z
(21)【出願番号】P 2023028881
(22)【出願日】2023-02-27
【審査請求日】2023-02-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502270110
【氏名又は名称】株式会社豆子郎
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】矢野 美文
(72)【発明者】
【氏名】矢野 雅之
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-320962(JP,A)
【文献】特開2001-061430(JP,A)
【文献】特開平05-103603(JP,A)
【文献】特開昭59-095856(JP,A)
【文献】特開2021-141819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
FSTA/AGRICOLA/BIOSIS/BIOTECHNO/CABA/CAplus/SCISEARCH/TOXCENTER(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油を用いて加熱調理する際に食材の表面上に付加される衣として用いられる豆滓食品の製造方法であって、
白いんげん豆と水を加熱して軟化豆を得る第1の工程と、
前記軟化豆を濾してデンプン質を分離除去して豆滓を得る第2の工程と、
前記豆滓を脱水・乾燥して粉粒状の乾燥豆滓を得る第3の工程を備えることを特徴とする豆滓食品の製造方法。
【請求項2】
前記第3の工程は、
前記豆滓に圧力を加えて脱水豆滓を得る脱水工程と、
前記脱水豆滓を50~100℃の温度条件下で乾燥する乾燥工程を備えていることを特徴とする請求項1に記載の豆滓食品の製造方法。
【請求項3】
前記第3の工程は、
前記豆滓に圧力を加えて脱水豆滓を得る脱水工程と、
前記脱水豆滓を70~100℃の温度条件下で乾燥する乾燥工程を備えていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の豆滓食品の製造方法。
【請求項4】
前記白いんげん豆は、手亡豆であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の豆滓食品の製造方法。
【請求項5】
加熱処理済白いんげん豆からデンプン質が分離除去された餡滓である豆滓を乾燥してなる粉粒体であり、
油を用いて加熱調理する際に食材の表面上に付加される衣であることを特徴とする豆滓食品。
【請求項6】
前記白いんげん豆は、手亡豆であることを特徴とする請求項5に記載の豆滓食品。
【請求項7】
食材と、
前記食材の表面上に付加されるとともに、一部又は全部が請求項5又は請求項6に記載の豆滓食品である衣、を備え、
油ちょう又は揚げ焼きによる調製品であることを特徴とする加工食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製菓材料である白餡の製造時に生じる残渣である豆滓を用いてなる豆滓食品の製造方法及び豆滓食品及びそれを用いてなる加工食品に関する。
【0002】
一般に、製菓材料である白餡は、以下に示す手順にて製造されている。
まず、白いんげん豆(例えば手亡豆(てぼうまめ)等)の乾物(以下、単に「豆」という。)を水とともに加熱して軟化させて、容易につぶせる程度にした軟化豆にする(工程I)。なお、この工程Iに先立って、必要に応じて白いんげん豆を予め水に浸漬して吸水させてもよい。
次に、得られた軟化豆を目の細かい網目で濾して、豆の皮を分離してデンプン質(餡)を得る(工程II)。
この後、得られた餡を水にさらして、餡を沈殿させるとともに、上澄み液を除去する(工程III)。なお、この工程は、必要に応じて複数回行ってもよい。
そして、沈殿した餡を布等で漉しつつ圧力を加えて余分な水分を除去する(工程IV)。
この後、脱水した餡に砂糖を加えて撹拌しながら加熱処理(工程V)することで、製菓用の餡を得ることができる。
【0003】
そして、上述のような製餡工程(工程I~V)における工程IIで生じる豆滓(餡滓)は、従来、産業廃棄物として廃棄することを余儀なくされていた。
その一方で、この豆滓を有効に活用すべく、家畜の飼料や堆肥として用いたり、あるいはキノコ栽培時に用いる菌床や混釈紙として活用したりする事例も知られている。
しかしながら、いずれの場合も豆滓を活用するために別途手間やコストがかかるため、その大半は焼却処分されているという実情がある。
このような状況下において、豆滓を食品として有効利用することを目的とする先願として、例えば以下に示すような特許文献1が知られている。
【0004】
特許文献1には「雑豆粕加工食材の製造方法および雑豆粕加工食材」という名称で、こしあんなどの雑豆食品を製造する際に、大量に排出される雑豆粕を有効利用する雑豆粕加工食材の製造方法及び雑豆粕加工食材に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示される発明である雑豆粕加工食材の製造方法は、雑豆粕に、水及び雑豆粕に含まれる植物繊維を分解する植物組織分解酵素を添加して溶液中で磨砕処理することを特徴とする。
上述のような特許文献1に開示される発明によれば、雑豆粕を溶液中で磨砕及び酵素分解処理することで、固形物である雑豆粕の磨砕と酵素分解反応が同時に行われ、磨砕という機械的な剪断作用と植物組織分解酵素反応との相乗作用の効果により、短時間のうちに効率よく雑豆粕を単細胞レベルまで分解させることができる。
このため、人体に有用な植物繊維及び各種のミネラルが含まれた雑豆粕をすべて有効に活用することができ、食した際の舌触りや、のど越しなどが良い高品質の雑豆粕加工食材を、安価に提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の特許文献1に開示される発明の場合は、従来廃棄を余儀なくされていた豆滓を人が食することができる食材として有効活用できるというメリットを有するものの、その製造時には酵素処理等が必要になる。そして、そのための設備や酵素等を入手するための費用がかかるため、実際に実施する際には製品の製造コストが嵩むという課題があった。
また、特許文献1に開示される雑豆粕加工食材を餡の嵩増し材として使用する場合は、その餡の本来の風味や口当たりが損なわれるのを防ぐために、多量に添加することが難しいという別の課題を有していた。
さらに、特許文献1に開示される雑豆粕加工食材の製造には、上述のように新たな設備を設けたり、酵素等を調達したりするための様々なコストが発生すると考えられる。その一方で、特許文献1に開示される発明を餡の嵩増し材として使用するにあたり、これらのコストを最終製品である菓子の価格に転嫁することが難しいという課題もあった。
【0007】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものでありその目的は、白餡を製造する際に生じる餡滓(豆滓)を、コストの投入を極力抑制しつつ、人が食することができる食材として有効利用可能にする豆滓食品の製造方法及び豆滓食品及びそれを用いてなる加工食品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための第1の発明である豆滓食品の製造方法は、油を用いて加熱調理する際に食材の表面上に付加される衣として用いられる豆滓食品の製造方法であって、乾物の白いんげん豆又は必要に応じて水に浸漬して吸水させた白いんげん豆と、水を加熱して軟化豆を得る第1の工程と、上記軟化豆を濾してデンプン質を分離除去して豆滓を得る第2の工程と、上記豆滓を脱水・乾燥して粉粒状の乾燥豆滓を得る第3の工程を備えることを特徴とする。
上記構成の第1の発明において、第1の工程は白いんげん豆と水から軟化豆を得るという作用を有する。また、第2の工程は、軟化豆を濾してデンプン質を分離除去して豆滓を得るという作用を有する。さらに、第3の工程は、上記豆滓を脱水・乾燥することで、油を用いて加熱調理する際に食材の表面上に付加される衣として用いられる豆滓食品を得るという作用を有する。
【0009】
第2の発明は、上述の第1の発明であって、豆滓に圧力を加えて脱水豆滓を得る脱水工程と、脱水豆滓を50~100℃の温度条件下で乾燥する乾燥工程を備えていることを特徴とする。
上記構成の第2の発明は、上述の第1の発明による作用と同じ作用を有する。さらに、第2の発明において、第3の工程における脱水工程は、豆滓中に含有される水分を効率良く除去して、続く乾燥工程における豆滓の乾燥を促進するという作用を有する。
また、脱水された豆滓を50~100℃の温度条件下で乾燥することで、最終製品である豆滓食品を、加工食品である揚げ物の揚げ衣の代替品として用いる際に、熱した油による加熱調理時(油ちょう又は揚げ焼き)に揚げ衣である豆滓食品が過度に褐変するのを抑制するという作用を有する。
【0010】
第3の発明は、上述の第1又は第2の発明であって、第3の工程は、豆滓に圧力を加えて脱水豆滓を得る脱水工程と、得られた脱水豆滓を70~100℃の温度条件下で乾燥する乾燥工程を備えていることを特徴とする。
上記構成の第3の発明は、上述の第1又は第2の発明による作用と同じ作用を有する。また、上述の第3の発明において、第3の工程における脱水工程は、豆滓中に含有される水分を効率良く除去して、続く乾燥工程における豆滓の乾燥を促進するという作用を有する。
また、脱水された豆滓を70~100℃の温度条件下で乾燥することで、最終製品である豆滓食品中におけるn-ヘキサナールの含有量を極力少なくするという作用を有する。なお、このn-ヘキサナールは、豆類を原料とする食品においていわゆる青臭さの原因物質である。
【0011】
第4の発明は、上述の第1乃至第3のいずれか1項に記載の発明であって、白いんげん豆は、手亡豆であることを特徴とする。
上記構成の第4の発明は、上述の第1乃至第3のそれぞれの発明における白いんげん豆を手亡豆に特定したものであり、その作用は上述の第1乃至第3のそれぞれの発明による作用と同じである。
【0012】
第5の発明である豆滓食品は、白いんげん豆からデンプン質が分離除去された餡滓である豆滓を乾燥してなる粉粒体であり、油を用いて加熱調理する際に食材の表面上に付加される衣であることを特徴とする。
上記構成の第5の発明は、先の第1の発明(製法)により得られる豆滓食品を物の発明として特定したものである。
上述のような第5の発明によれば、そのままでは人が食することが難しかった白いんげん豆の豆滓(白餡の製造時に生じる残渣である餡滓)を、人が美味しく食することができる食材として使用可能にするという作用を有する。
【0013】
第6の発明は、上述の第5の発明であって、白いんげん豆は、手亡豆であることを特徴とする。
上記構成の第6の発明は、上述の第5の発明における白いんげん豆を手亡豆に特定したものである。
上述のような第6の発明によれば、そのままでは人が食することが難しかった手亡豆滓(白餡の製造時に生じる残渣である豆滓)を、人が美味しく食することができる食材として使用可能にするという作用を有する。
【0014】
第7の発明である加工食品は、食材と、この食材の表面上に付加されるとともに、一部又は全部が上述の第5又は第6の発明である豆滓食品からなる衣、を備え、油ちょう又は揚げ焼きによる調製品であることを特徴とする。
上記構成の第7の発明において、豆滓食品は、食材の表面上に付加されるとともに、油を用いて加熱調理(油ちょう又は揚げ焼き)されることで、従来公知のパン粉からなる揚げ衣を有する加工食品と比較して、同等あるいはそれ以上に美味しく食することができる新規な加工食品(揚げ物又は揚げ焼きした食品)を提供するという作用を有する。
つまり、第7の発明によれば、第5又は第6の発明である豆滓食品を用いて、従来公知のパン粉を用いた揚げ衣を用いてなる加工食品と比較して、外観や食味等において全く遜色のない加工食品を提供するという作用を有する。
【発明の効果】
【0015】
上述のような第1の発明によれば、従来そのままでは人が食することが難しかった白いんげん豆の豆滓(白餡の製造時に生じる餡滓)を、従来公知のパン粉の代替品として使用することが可能になる。
また、その際の外観、食味や食感等を、つまり第1の発明により製造された豆滓食品を用いてなる加工食品(揚げ物)の外観、食味や食感等を、従来公知のパン粉と比較して全く遜色のないものにすることができる。
このことは、従来白餡を製造する際に生じていた産業廃棄物である餡滓(豆滓)を、人が食することができる食材として有効活用できることを意味している。
つまり、従来白餡を製造する際に生じる産業廃棄物を無くす、あるいは大幅に削減することができる。
また、第1の発明によれば、白いんげん豆の豆滓を、人が食することができる食材にするにあたり、例えば先の特許文献1に開示される発明の場合のように、酵素処理を行ったり、溶液中で磨砕処理を行ったりする必要がない。
このため、第1の発明によれば、それを実際に実施するための設備を極めて簡素にできる。
つまり、第1の発明によれば、本発明に係る豆滓食品を、大幅な設備投資等を伴うことなく容易に製造することができる。
このことは、本発明に係る豆滓食品を廉価に市場に供給できることを意味している。これにより、第1の発明により製造される豆滓食品の消費を促進できる。
さらに、白いんげん豆の豆滓は、従来公知のパン粉の原材料である小麦等に含まれるような主要なアレルゲンを含まない。したがって、第1の発明によれば、主要なアレルゲン28品目不使用の新規なパン粉代替品を製造して市場に提供することができる。
【0016】
第2の発明は、上述の第1の発明による効果と同じ効果を有する。さらに、第2の発明によれば、揚げ衣として第2の発明により製造された豆滓食品を用いることで、熱した油による加熱調理時に揚げ衣である豆滓食品が過度に褐変するのを好適に抑制できる。
よって、第2の発明によれば、豆滓食品を揚げ衣の代替品として用いた揚げ物の外観を、熱した油による加熱調理時の温度管理を注意深く行わなくとも、健康的で美味しそうな状態にすることができる。
【0017】
第3の発明は、上述の第1又は第2の発明による効果と同じ効果を有する。さらに、第3の発明によれば、乾燥工程の温度条件が70℃を下回る場合に比べて、豆類を用いた加工食品特有の青臭さの原因物質であるn-ヘキサナールの含有量を減らすことができる。
よって、第3の発明によれば、人が食した際に豆類を用いた加工食品特有の青臭さを感じにくい豆滓食品を提供することができる。
この場合、第3の発明により製造された豆滓食品を従来公知のパン粉の代替品として用いる際に、パン粉と比較して風味の点で一層遜色のないものを提供することができる。
【0018】
第4の発明は、上述の第1乃至第3のそれぞれの発明による効果と同じ効果を奏する。
一般に、製菓材料である白餡の原材料は白いんげん豆である。また、この白いんげん豆としては、手亡豆、大福豆(おおふくまめ)、白金時豆などが知られており、その中でも白餡の原材料の主流は手亡豆である。
したがって、白餡を製造する場合は、餡滓である手亡豆滓の処理が課題になり易い。
よって、第4の発明によれば、白餡を製造する際に生じる残渣であり従来廃棄を余儀なくされていた、あるいは食材として用いる際には多大なコストを要していた手亡豆滓(白餡の製造時に生じる餡滓)を、人が食することができる食材として有効活用することができる。
【0019】
第5の発明は、上述の第1の発明により製造された物(豆滓食品)を、物の発明として捉えたものである。
第5の発明によれば、従来そのままで食材として使用することができなかった白いんげん豆の豆滓(白餡の製造時に生じる餡滓)を、従来公知のパン粉の代替品として用いることができる。
また、その際に加工食品の外観、食味や食感等を、従来公知のパン粉と比較して全く遜色のないものにすることができる。
つまり、第5の発明によれば、従来白餡を製造する際に生じていた産業廃棄物である餡滓(豆滓)を、人が美味しく食することができる食材に転用できる。よって、第5の発明によれば、従来白餡を製造する際に生じていた産業廃棄物を無くす、あるいは大幅に削減することができる。
さらに、白いんげん豆の豆滓は、従来公知のパン粉の原材料である小麦等に含まれるような主要なアレルゲンを含まない。
このため、第5の発明によれば、主要なアレルゲン28品目不使用の新規なパン粉代替品を製造して市場に提供することができる。
【0020】
第6の発明は、上述の第5の発明における白いんげん豆を手亡豆に特定したものである。
上述の通り、白餡を製造する際に用いられる原材料は、手亡豆が主流である。
よって、第6の発明によれば、白餡を製造する際に生じる残渣である手亡豆滓の排出量を無くす、あるいは大幅に削減することができる。
【0021】
第7の発明における豆滓食品は、上述の第5又は第6の発明による効果と同じ効果を有する。
また、第7の発明によれば、白餡を製造する際に生じる残渣(餡滓)である豆滓を、例えば揚げ物等の加工食品における揚げ衣の少なくとも一部又は全部として使用することができる。
この場合、豆滓を、従来公知のパン粉や、その代替品として知られる乾燥おからを揚げ衣として用いた加工食品と同様に又はそれ以上美味しく食することができる。
また、餡滓である豆滓は従来公知のパン粉の原材料である小麦等に含まれるような主要なアレルゲンを含まない。
したがって、第7の発明において、揚げ衣の全てに上述の第5又は第6の発明である豆滓食品を用い、かつそれ以外の全ての食材についても主要なアレルゲンを含まないものを用いることで、主要なアレルゲン28品目不使用の加工食品(揚げ衣を備え、油ちょう又は揚げ焼きによる調製品)を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態に係る豆滓食品の製造方法における各工程を示すフローチャートである。
【
図2A】原材料である白いんげん豆(手亡豆)の外観を示す画像である。
【
図2C】本実施形態に係る豆滓食品の外観を示す画像である。
【
図3A】サンプルP1(市販品のパン粉;比較例)の表面のマイクロスコープ画像である。
【
図3B】サンプルP1(市販品のパン粉;比較例)の断面のマイクロスコープ画像である。
【
図4A】サンプルP2(市販品のパン粉;比較例)の表面のマイクロスコープ画像である。
【
図4B】サンプルP2(市販品のパン粉;比較例)の断面のマイクロスコープ画像である。
【
図5A】サンプルT1(市販品のパン粉;比較例)の表面のマイクロスコープ画像である。
【
図5B】サンプルT1(市販品のパン粉;比較例)の断面のマイクロスコープ画像である。
【
図6A】サンプルT2(市販品のパン粉;比較例)の表面のマイクロスコープ画像である。
【
図6B】サンプルT2(市販品のパン粉;比較例)の断面のマイクロスコープ画像である。
【
図7A】サンプルQ(乾燥おから;比較例)の表面のマイクロスコープ画像である。
【
図7B】サンプルQ(乾燥おから;比較例)の断面のマイクロスコープ画像である。
【
図8A】サンプルR1-70(手亡豆滓;発明品)の表面のマイクロスコープ画像である。
【
図8B】サンプルR1-80(手亡豆滓;発明品)の断面のマイクロスコープ画像である。
【
図9】脱水豆滓の乾燥温度を様々に変えて乾燥させた各サンプル、及び乾燥前の脱水豆滓、の乾燥重量2g当たりのn-ヘキサナールのにおい強度を示すグラフである。
【
図10A】揚げ衣としてサンプルP1(市販のパン粉;比較例)を用いた加工食品(とんかつ)の画像である。
【
図10B】揚げ衣としてサンプルQ(乾燥おから;比較例)を用いた加工食品(とんかつ)の画像である。
【
図10C】揚げ衣としてサンプルR2(本実施形態に係る豆滓食品;発明品)を用いた加工食品(とんかつ)の画像である。
【
図10D】揚げ衣としてサンプルS(乾燥おから;比較例)を用いた加工食品(とんかつ)の画像である。
【
図11A】官能試験Cに用いたサンプルP1(市販のパン粉;比較例)の画像である。
【
図11B】官能試験Cに用いたサンプルQ(乾燥おから;比較例)の画像である。
【
図11C】官能試験Cに用いたサンプルR2(本実施形態に係る豆滓食品;発明品)の画像である。
【
図11D】官能試験Cに用いたサンプルS(小豆滓;比較例)の画像である。
【
図12】表11-A1に示す評点の平均値をサンプル毎にレーダーチャートで示したものである。
【
図13】表14-B1に示す評点の平均値をサンプル毎にレーダーチャートで示したものである。
【
図14】表15-C1に示す評点の平均値を、サンプル毎にレーダーチャートで示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態に係る豆滓食品の製造方法及び豆滓食品及び加工食品について
図1乃至
図14を参照しながら詳細に説明する。
【0024】
[1;本発明の豆滓食品の製造方法について]
はじめに、
図1乃至
図2Cを参照しながら本発明の実施形態(以下、単に「本実施形態」という。)に係る豆滓食品の製造方法の基本構成について説明する。
図1は本実施形態に係る豆滓食品の製造方法における各工程を示すフローチャートである。また、
図2Aは原材料である白いんげん豆(手亡豆)の外観を示す画像であり、
図2Bは脱水された豆滓の外観を示す画像である。さらに、
図2Cは本実施形態に係る豆滓食品の外観を示す画像である。
本実施形態に係る豆滓食品6は、製菓材料である白餡を製造する際に生じる豆滓を脱水・乾燥させたものであり、油を用いて加熱調理する際に食材の表面上に付加される衣(揚げ衣)として用いられる。
また、本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1は、原材料である乾物の白いんげん豆2(
図2Aを参照)から豆滓を得る工程を含む。
【0025】
より詳細には、本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1における第1の工程(ステップS01)は、例えば
図1に示すように、原材料である乾物の白いんげん豆2、又はこの乾物の白いんげん豆2を所望時間水に浸漬して吸水させたもの、を十分な量の水とともに加熱して軟化豆3を得る工程である。
なお、この軟化豆3の柔らかさの目安は、例えばこの軟化豆3を手指で軽く押した際に容易につぶれる、又はこの軟化豆3を撹拌した際に容易にその形が崩れる、程度であればよい。
【0026】
続く、第2の工程(ステップS02)は、先のステップS01において得られた軟化豆3を、網目構造等を用いて濾して、餡として用いられるデンプン質を分離除去して、残渣である豆滓4(餡滓)を得る工程である(
図1を参照)。
なお、このステップS02では、例えば従来公知のうらこし器(裏ごし器)等を用いて軟化豆3を濾して、デンプン質を分離除去してその残渣である豆滓4(餡滓)を得てもよい。
あるいは、例えば軟化豆3をその煮汁とともに撹拌してその形を崩しつつ流動化させたものを、網目構造を備えた遠心分離機構を用いるなどしてデンプン質を分離除去して、その残渣である豆滓4(餡滓)を得てもよい。
【0027】
さらに、第3の工程(ステップS03)は、先のステップS02において得られた豆滓4を、脱水・乾燥して粉粒状の豆滓食品6(乾燥豆滓)を得る工程である。
なお、このステップS03において得られる豆滓食品6の含水率は10%以下であればよい。また、本実施形態に係る豆滓食品6の含水率を上記のように設定する場合は、豆滓食品6の保存時の衛生状態を良好に維持できる。
より詳細には、このステップS03は、先のステップS02において得られた豆滓4を、例えば圧搾機等を用いるなどして圧力を加えて脱水して脱水豆滓5を得る脱水工程(ステップS031)と、このステップS031により得られた脱水豆滓5を従来公知の食品乾燥機を用いて含水率が10%以下になるように乾燥させる乾燥工程(ステップS032)からなる。
より具体的には、上記ステップS032では、従来公知の食品乾燥機(棚式通風乾燥機)を用い、乾燥温度を50~100℃の範囲内に設定して、含水率が10%以下になるまで乾燥すればよい。
なお、上述のステップS032では、食品乾燥機を使用することに代えて、大きな鍋や釜等を用いて脱水豆滓5を乾煎りして、含水率が10%以下である豆滓食品6を得てもよい。
また、ステップS031において得られた塊状の脱水豆滓5を適度にほぐした状態の画像が
図2Bである。
さらに、ステップS032を経て得られた豆滓食品6の画像が
図2Cである。
図2Cに示す本実施形態に係る豆滓食品6を適度にほぐしたものの外観は、色及び粒子の形状が従来公知のパン粉と見分けがつかないほど似通っている。
【0028】
[2;本発明に用いる豆滓の栄養成分分析結果について]
以下に示す表1は、先の
図1に示す本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1におけるステップS031において得られる脱水豆滓5(手亡豆滓)の栄養成分分析結果である。
また、比較例として同じく製菓材料である黒餡を製造する際に生じる残渣である小豆滓(原材料が小豆で、製法は先の
図1におけるステップS01~ステップS031と同じ)の栄養成分分析結果を表2に示した。
なお、表1及び表2に示す栄養成分分析結果はいずれも、公益財団法人山口県予防保健協会によるものである。
さらに、これらとは別に下記表3に、従来公知のパン粉(後段に示す官能試験A~Cに用いたものと同一のもの)の栄養成分分析結果、及び乾燥おから(後段に示す官能試験A~Cに用いたものと同一のもの)栄養成分分析結果を参考データとして示した。
なお、表3の「パン粉」の栄養成分分析結果は、後段に示す官能試験A~Cに用いた市販品のパン粉の包装容器に表示されていたものであり、同表3中における「乾燥おから」の栄養成分分析結果は、「日本食品成分表2020年版(八訂)」(URL;https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_01110.html)に掲載されているものからの転載である。
【0029】
【0030】
【0031】
【0032】
上表1~3から明らかなように、白餡の製造時に生じる餡滓である豆滓4(=手亡豆滓;本実施形態に係る豆滓食品6の水分以外の構成成分)や、黒餡の製造時に生じる小豆滓は、一般に食物繊維の含有量が多いとされているおから(乾燥おから)よりもより多くの食物繊維を含有している。
なお、本発明では、白いんげん豆2の品種や産地の違い等による品質のばらつき、豆滓4の製造工程(先の
図1を参照)において生じる不可避な品質のばらつき(例えばデンプン質の分離除去の程度のばらつき等)、並びに業務上の経験を考慮して白いんげん豆2を、その豆滓4(脱水豆滓5)を常圧加熱乾燥法により乾燥した試料100g中に、食物繊維を70~80g含有するものとして特定する。
【0033】
[3;本発明に係る豆滓食品及び加工食品について]
また、本実施形態に係る豆滓食品6は、下記のように特定することができる。
先の
図2Cに示すような本実施形態に係る豆滓食品6は、白いんげん豆2からデンプン質が分離除去された餡滓である豆滓4を乾燥してなる粉粒体であり、かつ油を用いて加熱調理する際に食材の表面上に付加される衣である。
なお、上述のような本実施形態に係る豆滓食品6は、先の
図1及び[1]に示す各工程により製造することができる。
【0034】
また、本実施形態に係る加工食品(図示せず)は、例えば野菜や食肉、魚介類、あるいは食肉又は魚介類の加工品(例えば魚肉練り製品など)の食材と、この食材の表面上に付加されるとともに、一部又は全部が本実施形態に係る豆滓食品6である衣(揚げ衣)、を備えた、油ちょう又は揚げ焼きによる調製品である。
つまり、本実施形態に係る加工食品は、揚げ衣の一部又は全部に本実施形態に係る豆滓食品6を用いたいわゆる「揚げ物」(フライ)又は揚げ焼きした食品である。
なお、本実施形態に係る加工食品の概念には、加熱した油に浸漬して加熱調理したものに加えて、食材の厚みの一部が浸漬する程度の量の加熱した油で揚げ焼きにしたものも含まれる。
また、上述のような本実施形態に係る加工食品(揚げ物)の製造方法は、従来公知の揚げ物の調理方法において使用される揚げ衣(例えばパン粉)の一部又は全部に代えて本実施形態に係る豆滓食品6を用いるだけで良く、加熱調理時間も従来公知のパン粉を用いる場合と同じである。
つまり、本実施形態に係る加工食品(揚げ物等)の製造方法は、上述の食材に、一部又は全部が本実施形態に係る豆滓食品6である衣(揚げ衣)を衣付けして、油ちょう又は揚げ焼きにすることを特徴とする。
【0035】
ここで、本実施形態に係る加工食品の製造方法(調理手順)の一例を説明する。
まず、食しやすいサイズに切り分けた、例えば野菜や食肉、魚介類、あるいは食肉又は魚介類の加工品(例えば魚肉練り製品など)の食材を準備する。
次に、この食材の表面の全域に小麦粉をまぶし、必要に応じて余分な小麦粉を軽く食材をはたいて落としておく。
続いて、小麦粉をまぶした食材をさらに、撹拌した卵(全卵)、又は撹拌した卵(全卵)に少量の水を加えたもの、に浸漬して引き上げる。なお、この撹拌した卵(全卵)、又は撹拌した卵(全卵)に少量の水を加えたものは、次の工程において食材の表面上に揚げ衣をまぶして付加する際の「つなぎ」として作用する。
この後、表面上に上記「つなぎ」をまぶした食材の表面上にさらに、揚げ衣である本実施形態に係る豆滓食品6(単体)をまぶして付加するとともに、余分な揚げ衣を軽くはたいて落とす。
その後、適度に熱した油(植物油又は動物脂)に浸漬して、必要に応じて表裏を反転させながら、揚げ衣が適度なきつね色になるまで加熱調理(油ちょう)する。この時、食材が、生食に適しない場合は、食材が摂食可能になるまで十分に加熱調理する必要がある。なお、この加熱調理時の温度条件は、170℃前後が一般的である。
なお、上記「つなぎ」の代替品として従来公知のマヨネーズを用いてもよい。
また、表面上に上記「つなぎ」をまぶした食材の表面上にまぶす揚げ衣は、本実施形態に係る豆滓食品6(単体)のみからなるものでもよいし、本実施形態に係る豆滓食品6に従来公知のパン粉、又はこのパン粉代替品である乾燥おからを、単独であるいは適宜組み合わせて混合したものでもよい。
さらに、上記述の加熱調理手段は、油ちょうに代えて揚げ焼きにしてもよい。
【0036】
[4;本発明による作用・効果について]
<4-1;本発明の豆滓食品の製造方法による作用・効果について>
上述のような本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1によれば、従来そのままで食材として使用することができなかった白いんげん豆2の豆滓4(白餡の製造時に生じる残渣である餡滓)を、従来公知のパン粉の代替品として用いることが可能になる。
また、その場合の食味や食感を、つまり本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1により製造された豆滓食品6を用いてなる加工食品(揚げ物)の食味や食感を、従来公知のパン粉と比較して全く遜色のないものにすることができる。
このことは、従来白餡を製造する際に生じていた産業廃棄物である餡滓(豆滓4)を、人が食することができる食材に転用できることを意味している。
つまり、従来白餡を製造する際に生じていた産業廃棄物を無くす、又は大幅に削減することができる。
【0037】
また、本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1によれば、白いんげん豆2の豆滓4を、人が摂食可能な食材にするにあたり、例えば先の特許文献1に開示される発明の場合のように、酵素処理を行ったり、溶液中で磨砕処理を行ったりする必要がない。
このため、本実施形態に係る豆滓食品6を製造するための設備を極めて簡素にできる。
より具体的には、製菓用の餡を製造する設備を有する事業所では、先の
図1に示す本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1におけるステップS01~ステップS031を実施するための設備を既に保有していると考えられる。
このため、本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1を実施するには、先の
図1に示すステップS032を実施する設備、すなわち従来公知の食品乾燥機や、脱水豆滓5を乾煎りするための加熱設備を新たに導入するだけでよい。
このため、本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1によれば、本実施形態に係る豆滓食品6を、大幅な設備投資を伴うことなく簡易に製造することができる。
このことは、本実施形態に係る豆滓食品6を廉価に市場に供給できることを意味する。
この結果、本実施形態に係る豆滓食品6の消費を促進することができる。
【0038】
さらに、白いんげん豆2の豆滓4(餡滓)は、従来公知のパン粉の原材料である小麦等に含まれるような主要なアレルゲンを含まない。
したがって、本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1によれば、主要なアレルゲン28品目不使用の新規なパン粉代替品を製造して市場に供給することができるという効果も奏する。
【0039】
<4-2;本発明の豆滓食品による作用・効果について>
本実施形態に係る豆滓食品6は、先の
図1に示す本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1により製造されたものを物の発明として特定したものである。
このため、本実施形態に係る豆滓食品6は、本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1による効果と同じ効果を奏する。
さらに、本実施形態に係る豆滓食品6は、先の表1~3から明らかなように、食物繊維を豊富に含有している。また、その含有量は、一般に食物繊維の含有量が多いとされている乾燥おからを上回っている。
したがって、本実施形態に係る豆滓食品6によれば、従来公知のパン粉を揚げ衣として用いる場合に比べて、またこの揚げ衣の代替品として知られる乾燥おからを用いる場合に比べて、食物繊維の摂取量を増やすことができる。
一般に、食物繊維は小腸で消化・吸収されずに、大腸まで達する食品成分として知られている。また、食物繊維は、便秘の予防をはじめとする整腸効果のみならず、血糖値の上昇抑制、血液中のコレステロール濃度を低下させるなど、多くの生理機能を有していることも明らかになっている。その一方で、昨今、日本人はこのような食物繊維の摂取量が恒常的に不足しているとされている。
よって、本実施形態に係る豆滓食品6を揚げ衣として用いることで、食物繊維の摂取量の増加に寄与することができ、これにより、上述のような生理機能の改善効果も期待できる。
【0040】
<4-3;本発明の加工食品による作用・効果について>
本実施形態に係る加工食品によれば、白餡を製造する際に生じる残渣である豆滓4(餡滓;
図1を参照)を、例えば揚げ物等の加工食品における揚げ衣の少なくとも一部又は全部として使用することで美味しく食することができる。
この場合、本実施形態に係る加工食品を、従来公知のパン粉や、その代替品として知られる乾燥おからを揚げ衣として用いた加工食品と同等又はそれ以上美味しく食することができる。
また、白いんげん豆2に由来する豆滓4(餡滓)は、食物繊維の含有量がとりわけ多く、しかもパン粉の原材料である小麦等に含まれるような主要なアレルゲンを含まない。
したがって、本実施形態に係る加工食品において、揚げ衣の全てを本実施形態に係る豆滓食品6とし、かつ揚げ衣(豆滓食品6)以外の全ての食材に主要なアレルゲンを含まないものを用いることで、食物繊維の含有量が多く、かつ主要なアレルゲン28品目不使用であり、しかも揚げ衣として従来公知のパン粉を用いる場合と比較して全く遜色のない外観、食味や食感等を有する加工食品(揚げ衣を備え、油を用いて加熱調理した加工食品)を提供できる。
【0041】
[5;本発明の任意付加的事項等について]
以下に、本実施形態に係る発明の基本形態に必要に応じて付加可能な任意付加的事項等について説明する。
<5-1;脱水豆滓の乾燥温度について>
先の
図1に示す本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1において、ステップS032(乾燥工程)における乾燥温度は、50~100℃の範囲内に設定してもよい(任意選択構成要素)。
この場合、本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1により製造された豆滓食品6を揚げ物の揚げ衣の代替品として用いた際に、従来公知のパン粉やその代替品を用いた場合に比べて、加熱した油で加熱調理した際の揚げ衣の褐変を抑制するという効果が期待できる。
よって、本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1において、ステップS032(乾燥工程)における乾燥温度を50~100℃の範囲内に設定する場合は、最終製品である豆滓食品6を揚げ衣として用いて揚げ物をつくった際に、その外観が過度に褐変しておらず、見た目が健康的で美味しそうな揚げ物を提供することができる。
【0042】
さらに、先の
図1に示す本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1において、ステップS032(乾燥工程)における乾燥温度は、70~100℃の範囲内に設定してもよい(任意選択構成要素)。
後段に示す試験結果から明らかなように、ステップS032(乾燥工程)における温度条件が70℃を下回ると、豆類を用いた加工食品特有の青臭さの原因物質であるn-ヘキサナールの含有量(残存量)が多くなる。
したがって、本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1において、ステップS032(乾燥工程)における乾燥温度を70~100℃の範囲内に設定することで、本実施形態に係る豆滓食品6を揚げ衣として用いた加工食品(例えば揚げ物等)を人が食した際に、豆類を用いた加工食品特有の青臭さを感じにくくすることができる。
つまり、本実施形態に係る加工食品を食した際の風味(香味)を、より従来公知の揚げ衣であるパン粉に近づけることができる。
この結果、本実施形態に係る加工食品を食した際の美味しさを一層向上させることができる。
【0043】
<5-2;原材料について>
一般に、製菓材料である白餡を製造する際の原材料には白いんげん豆2が用いられている。
この白いんげん豆2は、豆全体がほぼ白色、あるいはわずかにクリーム色を呈するインゲン属の豆の総称であり、複数の品種がある。
また、本実施形態ではこの白いんげん豆2として特に「手亡豆」(単に「手亡」ということもある)を用いる場合を例に挙げて説明しているが、製菓材料(和菓子用)の原材料として用いられる白いんげん豆2は上述の「手亡豆」以外にも、例えば「大福豆」、「白金時豆」、「白花豆」等が知られている。
本実施形態では、白いんげん豆2が特に「手亡豆」である場合を例に挙げて説明しているが、この「手亡豆」と同様に白餡の原材料として用いられる他の白いんげん豆2、つまり「大福豆」、「白金時豆」及び「白花豆」を用いて豆滓食品6を製造する場合も、「手亡豆」を用いる場合と同様の作用・効果を奏する蓋然性が高い。
【0044】
[6;本発明に関する試験結果等について]
<6-1;発明品及び比較例のデジタルマイクロスコープ画像について>
以下の表4に示す各サンプルから粒子を取り分けて、デジタルマイクロスコープ(株式会社ハイロックス製、型番;KH-7700)を用いて、その表面の様子及び断面の様子を観察した。
さらに、
図3AはサンプルP1(市販品のパン粉;比較例)の表面のマイクロスコープ画像であり、
図3BはサンプルP1(市販品のパン粉;比較例)の断面のマイクロスコープ画像である。
図4AはサンプルP2(市販品のパン粉;比較例)の表面のマイクロスコープ画像であり、
図4BはサンプルP2(市販品のパン粉;比較例)の断面のマイクロスコープ画像である。
図5AはサンプルT1(市販品のパン粉;比較例)の表面のマイクロスコープ画像であり、
図5BはサンプルT1(市販品のパン粉;比較例)の断面のマイクロスコープ画像である。
図6AはサンプルT2(市販品のパン粉;比較例)の表面のマイクロスコープ画像であり、
図6BはサンプルT2(市販品のパン粉;比較例)の断面のマイクロスコープ画像である。
図7AはサンプルQ(乾燥おから;比較例)の表面のマイクロスコープ画像であり、
図7BはサンプルQ(乾燥おから;比較例)の断面のマイクロスコープ画像である。
図8AはサンプルR1-70(手亡豆滓;発明品)の表面のマイクロスコープ画像であり、
図8BはサンプルR1-80(手亡豆滓;発明品)の断面のマイクロスコープ画像である。
【0045】
【0046】
図3A~
図6Bに示すように、市販品のパン粉(サンプルP1、P2、T1、T2;いずれも比較例)は、吸油性に関する特徴の有無にかかわらず、パン粉の表面及び断面に、その製造工程(特に発酵時)において形成されたと考えられる気泡の痕跡が認められた。
これに対して、
図7A及び
図7Bに示すように、乾燥おから(サンプルQ;比較例)は、繊維物が押し固められたような緻密な固形状の粒子であった。
他方、本実施形態に係る豆滓食品6(サンプルR1-70、R1-80;発明品)は、
図8A及び
図8Bに示すように、薄膜状の物体がミルフィーユ状に積層しており、市販品のパン粉(サンプルP1、P2、T1、T2;いずれも比較例)や乾燥おから(サンプルQ;比較例)とは全く異なる形態を有していた。
【0047】
<6-2;発明品及び比較例の吸油率について>
発明品と比較例の各サンプルについて、以下に示す計算方法により吸油率を求めて、以下に示す表5に示した。
【0048】
【0049】
また、上表5に示す吸油率の測定は、全国パン粉工業協同組合連合会の「パン粉の吸油率簡易測定法」(URL; http://panko.jp/information002p.html)を参考にして実施した。より具体的には以下に示す手順にて実施した。
なお、この吸油率の測定にあたり、温度計(油の温度の確認)、電子天秤、電気恒温槽(水分含量測定のための試料乾燥)を使用した。
1)試料
試料の粒度は、均一化することが望ましいため、4メッシュパス6メッシュオンの処理を施したものを使用する旨規定されているが、上記規定のふるいを用いて発明品に係る試料を分級したところ、試料のほとんどがふるいの目から落ちてしまった。このため、上記既定よりもやや小さい6メッシュパス18メッシュオンの試料を用いた。
2)水分含量
常圧加熱乾燥法にて各試料の水分含量を測定した。
より具体的には、110℃にて乾燥後秤量したアルミカップに試料を一定量秤量し、110℃にて3時間加熱乾燥し、この後デシケーター内で1時間放冷した後の重量を測定し、水分量を求めた(下表5における「水分(g/100g)」の欄を参照)。
3)試験手順
3-1)天ぷら鍋(容積1.9L)に1.1kgのサラダオイル(日清オイリオグループ株式会社製)を入れ、180℃に調温した。
3-2)試料を、茶こし(直径65mmで30メッシュ)に5.00g正確にはかりとり2分間油揚げ後、3分間空中で茶こしのまま油切りした。
3-3)油切りした、試料を吸油紙(キムタオル)上に均一に広げ、15分間放置し、余分な油を取り除き、正確に試料の重量を測定した。
〔注1〕油揚げ用の鍋として、試料の浸漬による温度低下が起こらないよう、十分量の大きさの天ぷら鍋を使用した。
〔注2〕揚げ網は、試料5gが漏れないよう十分な大きさの茶こしを使用した。
〔注3〕吸油紙には規定にあるキムタオルを使用した。
4)吸油率の算出法
試料がどのくらい油を吸収するかを実量で把握するために、下記の含水試料換算〔計算式I〕を適用して計算した。
〔計算式I〕
・吸油率(%)=含水試料吸油率(%) =(SF―SD)/SW×100
ただし、
・SF:油揚後試料重量(g)
・SW:乾燥前試料重量(g)
・SD:乾燥後試料重量(g)
【0050】
上表5から明らかなように、発明品(本実施形態に係る豆滓食品6)の乾燥温度は、吸油率に対して一定の傾向を示さなかった。
一般に、従来公知の吸油が少ないタイプでないパン粉の吸油率は70~80%である。このことは比較例のパン粉(サンプルP1、T1)の吸油率の測定結果と一致する(上表5を参照)。
また、発明品(本実施形態に係る豆滓食品6)の吸油率は、従来公知の吸油が少ないタイプでないパン粉(サンプルP1、T1)の吸油率に比べて10%近く低かった。
さらに、発明品(本実施形態に係る豆滓食品6)の吸油率は、従来公知の吸油が少ないタイプのパン粉(サンプルP2、T2、U)と比較して同程度であった。
よって、乾燥時の温度が50~100℃の範囲内に設定されて得られた発明品(本実施形態に係る豆滓食品6)は、吸油率に関して、従来公知の吸油が少ないタイプのパン粉と同程度の品質を有している。
また、上表5から明らかなように、比較例の乾燥おから(サンプルQ)の吸油率が最も低かった。これは、先の
図7A及び
図7Bの画像に示されるように、乾燥おからが緻密な固形状の粒子であることに起因すると考えられる。
【0051】
さらに、特に図示しないが、表5に示す各サンプルを油で揚げた後の色味は、比較例のパン粉(サンプルP1、P2、T1、T2、U、V)に比べて発明品(サンプルR1-50~サンプルR1-100)の方が薄い(より明るい又はより白色に近い)色味を呈する傾向が認められた。
また、乾燥温度が60℃以上の各サンプル(サンプルR1-60、R1-70、R1-80、R1-100)では、油で揚げた後のサンプルの色味に目視で区別できるほどの差異は認められなかった。
したがって、乾燥時の温度が50~100℃の範囲内に設定された本実施形態に係る豆滓食品6(発明品)によれば、油で揚げた際に又は油で揚げ焼きにした際に、揚げ衣の褐変を抑制するという効果が期待できる。
つまり、本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1において、ステップS032(先の
図1を参照)における乾燥温度を50~100℃の範囲内に設定することで、油で揚げた際に又は油で揚げ焼きにした際に、褐変し難い揚げ衣代替品である豆滓食品6を製造して提供することができる。
【0052】
<6-3;発明品及び比較例のn-ヘキサナールにおい強度について>
本実施形態に係る豆滓食品6は、白いんげん豆2から得られる豆滓4の乾燥物である(先の
図1を参照)。このため、本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1により得られる最終産物である豆滓食品6は、豆類を原料とする食品特有の青臭さを有する。
このため、本実施形態に係る豆滓食品6を食する際の上記青臭さを低減する目的で、豆滓4(脱水豆滓5)の乾燥時の温度条件を様々に変えた際に、最終産物(豆滓食品6)中に含まれるn-ヘキサナール(豆類を原料とする食品特有の青臭さの原因物質)の含有率がどのように変化するかを調べた。
また、この試験では、上表5に示すサンプルR1-50~サンプルR1-100に加えて、乾燥前の脱水豆滓5(原材料の白いんげん豆2として手亡豆を用い、先の
図1に示すステップS01~ステップS031により製造した脱水豆滓5)を用いた。
【0053】
上述の各サンプル中に含まれるn-ヘキサナールの香り強度について、ガスクロマトグラフ分析装置を用いて評価した。
1)分析手順等について
n-ヘキサナールの香り強度の分析には、アルファ・モス・ジャパン株式会社製、製品名;フラッシュGCノーズ HERACLES IIを用いた。測定では乾燥重量2gのサンプルを、20mL容バイアル瓶にはかりとり、60℃で10分間加熱した後、揮発成分を当該装置に導入した。
2)カラム、分析条件、データ解析方法について
・MXT-5カラム(10m×0.18mmI.D. 0.25μm;レステック社製)
・分析条件;オーブン温度は初期温度40℃で10秒間保持し、その後毎秒1.5℃で250℃まで加熱し、250℃で30秒間保持した。キャリアガスとしてH2を使用し、イオン化法FIDで検出を行った。
・データ解析方法;アルファ・モス・ジャパン株式会社製のAlpha Softを使用し、クロマトグラフ中の各ピーク値の積分及び検索(AroChemBase)を行った。検索は、n-ヘキサナールとの一致率が高い成分を当該成分とし、当該成分のピーク面積(無次元量である)をn-ヘキサナールの香り強度とし、当該成分のピーク面積(無次元量である)をn-ヘキサナールの香り強度としている。
【0054】
図9は脱水豆滓の乾燥温度を様々に変えて乾燥させた各サンプル、及び乾燥前の脱水豆滓の乾燥重量2g当たりのn-ヘキサナールの香り強度を示すグラフである。
図9に示されるように、本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1において、乾燥工程(ステップS032;
図1を参照)を行う際の乾燥温度が70℃を超えて高くなるにつれてサンプル中のn-ヘキサナールのにおい強度が低下する傾向が認められた。
よって、本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1では、乾燥工程(ステップS032;
図1を参照)を行う際の乾燥温度を70~100℃の範囲内に設定することで、最終産物である豆滓食品6中に含有される青臭さの原因物質であるn-ヘキサナールの含有量を相対的に減らすことができる。
この場合、本実施形態に係る豆滓食品6を揚げ衣として用いた加工食品の風味を良好にできるという効果が期待できる。
【0055】
<6-4;発明品及び比較例のサンプルを用いた加工食品の官能試験について>
発明品及び比較例のサンプルを揚げ衣とした加工食品(揚げ物;とんかつ)を用いた官能試験を実施した。
ここで、この度の官能試験の概要について説明する。
まず、後段に示す官能試験A~Cに用いた試食サンプルの食材及び調理手順、並びに各官能試験の内容、評価方法等について説明する。
1)試食サンプルの調理に用いた食材について
・国産豚肉(部位;ロース)
・1枚当たりの重量が100g程度で、厚み約10mm程度のもの20枚
・つなぎ
・小麦粉(株式会社ニップン製、商品名「フラワー薄力小麦粉」)500g
・卵(全卵;有限会社よしわエッグファーム製、商品名「みんなの毎日たまご」)
・水道水(卵3個当たり大匙2)
・調味料
・株式会社ダイショー製、商品名「味塩こしょう」を上述の肉1枚あたり表裏各1振り程度を添加した
・揚げ油
・株式会社J-オイルミルズ製、商品名「コープ一番搾りキャノーラ油」適量(容量1000mLの油鍋に600mLの油を入れて用いた)
・揚げ衣
・下表6に示す通り
【0056】
【0057】
2)試食サンプルの調理方法について
2-1)各豚肉の表面に調味料を添加してから小麦粉をまぶし、過剰な小麦粉は軽くはたいて落とした。
2-2)小麦粉をまぶした豚肉を卵液にくぐらせた後、揚げ衣として上表6に示すサンプルP1、Q、R2、Sのいずれかをまぶし、過剰な揚げ衣は軽くはたいて落とした。
2-3)170℃に熱した油に揚げ衣をまぶした豚肉を入れ、2分30秒経過したら表裏を反転させて、さらに2分加熱した後に、油から引き揚げた。
2-4)揚げた豚肉は、網に載せて6~12分間程度油切りした。また、油は揚げ衣の種類が変わる際に新しいものに交換した。
2-5)油切りした豚肉を一口大(15mm×60mm程度)に切り分けた後、別々の小皿に盛り付けて試験に供試した。
なお、
図10A乃至
図10Dはいずれも、以下に説明する官能試験A、Bに用いた試食サンプルの画像である。
また、
図11A乃至
図11Dはいずれも、以下に説明する官能試験Cに用いた試食サンプルの画像である。
【0058】
3)官能試験A~Cについて
3-1)官能試験A
揚げ衣として上表6に示すサンプルP1、Q、R2、Sを使用した揚げ物(とんかつ)の揚げ衣が何であるかをパネラーに知らせないで各試食サンプル(
図10A~
図10Dに示すものを一口大に切り分けたもの)を試食してもらい、下表7に示す各評価項目について下記(i)~(iii)を回答してもらった。なお、下表7に示す評価項目における「油っぽさ」については、食した際に「あっさり(油っぽくない)」と感じた試食サンプルを高く評価することにした。
(i)各評価項目についてマイナス3からプラス3の範囲で評点を付してもらった
(ii)パネラー自身がより好ましいと感じた順に順位を回答してもらった
(iii)各試食サンプルについて具体的な感想を記載してもらった
【0059】
3-2)官能試験B
上記官能試験Aを済ませたパネラーに対してサンプルP1が市販品のパン粉であることを告げた上で、残りの試食サンプル(サンプルQ、R2、Sを使用した揚げ物)について、サンプルP1を使用した揚げ物との比較結果(評点及び順位;下表8を参照)を回答してもらった。なお、下表8に示す評価項目における「油っぽさ」についても、食した際に「あっさり(油っぽくない)」と感じた試食サンプルを高く評価することにした。
また、官能試験Bでは、残りの試食サンプル(サンプルQ、R2、Sを使用した揚げ物)の揚げ衣が何であるかはパネラーには告げていない。
【0060】
3-3)官能試験C
揚げ衣(上表6に示すサンプルP1、Q、R2、S;
図11A~
図11Dを参照)のそれぞれをそのまま、それぞれが何であるのかを知らされないでパネラーに食してもらい、下表9に示す各評価項目について下記(i)~(iii)を回答してもらった。
(i)各評価項目についてマイナス3からプラス3の範囲で評点を付してもらった
(ii)パネラー自身がより好ましいと感じた順に順位を回答してもらった
(iii)各試食サンプルについて具体的な感想を記載してもらった
【0061】
3-4)官能試験A~Cにおける評点と評価内容の関係について
上記官能試験A~Cでは、評点と評価内容の関係を以下に示すように設定した。
・評点(-3)→ 非常に悪い
・評点(-2)→ かなり悪い
・評点(-1)→ やや悪い
・評点(0) → ふつう
・評点(+1)→ やや良い
・評点(+2)→ かなり良い
・評点(+3)→ 非常に良い
【0062】
3-5)官能試験A~Cにおける評価項目は下表7~9に示す通りである。
【表7】
【0063】
【0064】
【0065】
4)官能試験A~Cのパネラーについて
官能試験A~Cのパネラーとして10~70代の男女20名を、性別や年代に偏りが出ないよう配慮しながら選定した。
また、官能試験A、Bのパネラーは共通である一方で、官能試験A、Bのパネラーと官能試験Cのパネラーは一部が共通する。
また、官能試験A~Cのパネラーの概要を下表10に示した。
【表10】
【0066】
5)官能試験Aの結果について
先の表7に示す各評価項目について、上表10に示す各パネラーにより付された評点及び順位を平均してまとめたものが以下に示す表11である。
また、
図12は表11-A1に示す評点の平均値を、サンプル(サンプルP1、Q、R2、S)毎にレーダーチャートで示したものである。
なお、官能試験Aでは上表10に示す20名のパネラーから得られた回答のうち、未記入箇所があったパネラーの回答を除いたものを有効な回答とみなして結果を集計した。より詳細には、官能試験Aにおいて評点と順位の両方が有効とみなされた回答数は17だった。また、官能試験Aにおいて評点又は順位いずれか一方が有効とみなされた回答数は17~19だった。
下表11-A1では、表内の数値(評点の平均値)が大きいほど、パネラーによる評価が高いことを意味している。
その一方で、表11-A2では、表内の数値(順位の平均値)が小さいほど、パネラーによる評価が高いことを意味している。
なお、
図12に示すレーダーチャートでは、レーダーチャートの中央に向かうほどその項目の評点の平均値が低いことを、またレーダーチャートの周縁に向かうほどその項目の平均値が高いことを意味している。つまり、レーダーチャート内の多角形の面積が大きいほどそのサンプルの評価が高いことになる。
さらに、以下に示す表12は官能試験Aを行った際の各サンプル(サンプルP1、Q、R2、S)を揚げ衣として用いた加工食品を食した際の各パネラーの感想をまとめた表である。
【0067】
【0068】
【0069】
上表11及び
図12から明らかなように、官能試験Aにおいて、本実施形態に係る豆滓食品6を揚げ衣として用いた加工食品(サンプルR2;発明品)は、市販品のパン粉(サンプルP1;比較例)や乾燥おから(サンプルQ;比較例)と比較して同等又はそれ以上の良い評価を得た。
また、黒餡の餡滓(小豆滓、サンプルS;比較例)の評価が最も低かった。
さらに、表12に示すように、乾燥おから(サンプルQ;比較例)を用いた加工食品について、多くのパネラーが他のサンプルを用いた加工食品よりも歯ごたえがある、あるいはサクサク感があると記載していた。これは、先の
図7A及び
図7Bの画像に示されるように、乾燥おから(サンプルQ;比較例)が緻密な固形状の粒子であることに起因すると考えられる。
【0070】
また、先の表5に示す吸油率の測定結果では、乾燥おから(サンプルQ)の吸油率が最も低かった。
それにも関わらず、官能試験Aの結果(上表11及び
図12を参照)では、「脂っぽさ」に関して、乾燥おから(サンプルQ;比較例)は他のサンプルと比較して評点や順位が最も優れているという評価が得られていなかった。
このため、官能試験Aの「脂っぽさ」の項目についてパネラーによる評価の傾向を確認するために、サンプル毎にパネラーが付した順位の頻度を調べるとともに、順位毎の評点の平均を調べて下表13にまとめた。
【0071】
【0072】
上表13に示すように、揚げ衣としてサンプルP1(市販品のパン粉;比較例)を用いた場合は、高順位としたパネラーが多数いたのに対し、低順位としたパネラーもある程度存在したことから、パネラーにより好みが分かれる結果となった。
他方、揚げ衣としてサンプルQ(乾燥おから;比較例)を用いた場合は、上表13に示すように、多数のパネラーが第2~第3位と評価しており、パネラー全体から概ね好まれる傾向が認められた。
さらに、揚げ衣としてサンプルR2(手亡豆滓;発明品)を用いた場合は、上表13に示すように、多数のパネラーが第1~第3位と評価しており、パネラー全体から好まれる傾向が認められた。
そして、揚げ衣としてサンプルS(小豆滓;比較例)を用いた場合は、上表13に示すように、大多数のパネラーが最下位と評価しており、パネラー全体に好まれていない傾向が認められた。
【0073】
なお、先の表11-A1及び表11-A2に示す結果と、上表13に示す結果は完全に一致していない。これは、先の表11-A1や表11-A2に示す結果を集計する際は、パネラーによる評点又は順位の評価に抜け(記入漏れ)がないものを全て有効な回答とみなしたのに対し、先の表13に示す結果を集計する際は、パネラーによる評点及び順位の評価の両方に抜け(記載漏れ)がないもののみを有効な回答としてみなしたためである。
【0074】
なお、官能試験A(上表11及び
図12を参照)の「油っぽさ」の項目に関して、乾燥おから(サンプルQ;比較例)が他のサンプルと比較して評点や順位の点で最も優れているとの評価を得られなかった理由として下記の点が考えられる。
先の<6-2>で説明した吸油率の試験では、熱した油で所定時間素揚げされた各サンプルは、素揚げ後に吸油紙であるキムタオル上に所定時間載置して余剰な油分が除去された後、それぞれのサンプルの重量が測定されている。
これに対して、官能試験Aに用いられた各試食サンプルは、熱した油により加熱調理された後に網上にて6~12分間載置して油切りをしただけで、先の<6-2>の試験の場合のように、キムタオル等の吸油紙用いて余分な油を除去することを積極的に行っていない。
このため、官能試験Aでは、乾燥おから(サンプルQ;比較例)の粒子内に吸油されなかった揚げ油が粒子の表面に付着したまま残存し、パネラーが食した際に油っぽさをより強く感じた可能性がある。
【0075】
6)官能試験Bの結果について
先の表8に示す各評価項目について、上表10に示す各パネラーにより付された評点及び順位を平均してまとめたものが以下に示す表14である。
また、
図13は表14-B1に示す評点の平均値を、サンプル(サンプルQ、R2、S)毎にレーダーチャートで示したものである。
なお、官能試験Bでも上表10(左側)に示す20名のパネラーから得られた回答のうち、未記入箇所があったパネラーの回答を除いたものを有効な回答とみなして結果を集計した。より詳細には、官能試験Bにおいて評点又は順位いずれかが有効とみなされた回答数は17~19だった。
下表14-B1では、表内の数値(評点の平均値)が大きいほど、パネラーによる評価が高いことを意味している。
その一方で、表14-B2では、表内の数値(順位の平均値)が小さいほど、パネラーによる評価が高いことを意味する。
なお、
図13に示すレーダーチャートでも、レーダーチャートの中央に向かうほどその項目の評点の平均値が低いことを、またレーダーチャートの周縁に向かうほどその項目の平均値が高いことを意味している。つまり、レーダーチャート内の多角形の面積が大きいほどそのサンプルの評価が高いことになる。
【0076】
【0077】
上表14及び
図13から明らかなように、官能試験Bにおいても本実施形態に係る豆滓食品6を揚げ衣として用いた加工食品(サンプルR2;発明品)は、乾燥おから(サンプルQ;比較例)と比較して同等又はそれ以上の評価を得ていた。
また、官能試験Bにおいても黒餡の餡滓(小豆滓、サンプルS;比較例)を揚げ衣として用いた加工食品の評価が最も低かった。
【0078】
7)官能試験Cの結果について
先の表9に示す各評価項目について、上表10(右側)に示す各パネラーにより付された評点及び順位を平均してまとめたものが以下に示す表15である。
また、
図14は表15-C1に示す評点の平均値を、サンプル(サンプルP1、Q、R2、S)毎にレーダーチャートで示したものである。
なお、官能試験Cでは、上表10(右側)に示す20名のパネラー全員の回答を有効な回答とみなしてその結果を集計した。
下表15-C1では、表内の数値(評点の平均値)が大きいほど、パネラーによる評価が高いことを意味している。
その一方で、下表15-C2では、表内の数値(順位の平均値)が小さいほど、パネラーによる評価が高いことを意味する。
なお、
図14に示すレーダーチャートでも、レーダーチャートの中央に向かうほどその項目の評点の平均値が低いことを、またレーダーチャートの周縁に向かうほどその項目の平均値が高いことを意味している。つまり、レーダーチャート内の多角形の面積が大きいほどそのサンプルの評価が高いことになる。
さらに、以下に示す表16は官能試験Cを行った際の各サンプル(サンプルP1、Q、R2、S)をそのまま食した際の各パネラーの感想をまとめた表である。
【0079】
【0080】
【0081】
上表15、16及び
図14に示されるように、各サンプル(サンプルP1、Q、R2、S)を調理することなくそのままパネラーに食してもらった官能試験Cでは、サンプルP1(市販品のパン粉;比較例)が全ての評価項目で評点及び順位が最高であった。また、次点がサンプルQ(乾燥おから;比較例)であった。
また、全ての評価項目で評点及び順位が第3位であったサンプルR2(手亡豆滓;発明品)は、全ての評価項目で評点及び順位が最下位であったサンプルS(小豆滓;比較例)と比較して大差がなかった。
したがって、官能試験Cでは、サンプルP1、Q、R2、Sのうち、サンプルP1(市販品のパン粉;比較例)とサンプルQ(乾燥おから;比較例)については、そのままでもある程度摂食可能とされる傾向が認められた。
これに対して、サンプルR2(手亡豆滓;発明品)とサンプルS(小豆滓;比較例)はともに、そのまま(乾物)では摂食には向かないとされる傾向が認められた。
【0082】
8)官能試験のまとめ
よって、上述のような官能試験A~Cにより、そのまま(乾物)では摂食には向かない豆滓食品6を揚げ衣として用いることで、従来公知のパン粉(例えばサンプルP1)やこのパン粉代用品として知られる乾燥おから(サンプルQ)と同等又はそれ以上においしいと感じられる加工食品を提供できることが確認された。
よって、本実施形態に係る豆滓食品の製造方法1によれば、揚げ物の揚げ衣として用いた際に、従来公知のパン粉と比較して外観、食味や風味等が全く遜色のない代替品である豆滓食品6を提供することができる。
【0083】
なお、本明細書の本文及び表中に記載される、「K&K」、「国分の」、「くらし良好」、「キムタオル」、「フラワー」、「味塩こしょう」はいずれも登録商標である。
また、上述の各試験に用いた機器の製造元は、製品販売時の企業名を記載している。
【産業上の利用可能性】
【0084】
以上説明したように本発明は、白餡を製造する際に生じる豆滓(餡滓)を食材として有効利用可能にする豆滓食品の製造方法及び豆滓食品及びそれを用いてなる加工食品であり、食品の製造技術及び加工食品に関する技術分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0085】
1…豆滓食品の製造方法 2…白いんげん豆 3…軟化豆 4…豆滓 5…脱水豆滓 6…豆滓食品
【要約】
【課題】白餡を製造する際に生じる豆滓(餡滓)を食材として有効利用可能にする豆滓食品の製造方法を提供する。
【解決手段】油を用いて加熱調理する際に食材の表面上に付加される衣として用いられる豆滓食品の製造方法であって、乾物又は必要に応じて水に浸漬して吸水させた白いんげん豆2と水を加熱して軟化豆3を得る第1の工程(ステップS01)と、上記軟化豆3を濾してデンプン質を分離除去して豆滓4(餡滓)を得る第2の工程(ステップS02)と、上記豆滓4を脱水・乾燥して粉粒状の乾燥豆滓6を得る第3の工程(ステップS031及びステップS032)を備える豆滓食品の製造方法1による。
【選択図】
図1