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特許7339714マイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥藍葉の製造方法、装置およびその用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】マイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥藍葉の製造方法、装置およびその用途
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20230830BHJP
   A61K 8/02 20060101ALI20230830BHJP
   A61Q 5/06 20060101ALI20230830BHJP
   D06P 1/34 20060101ALI20230830BHJP
   D06P 5/20 20060101ALI20230830BHJP
   C09B 61/00 20060101ALI20230830BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20230830BHJP
   A23L 5/43 20160101ALI20230830BHJP
   A23L 3/54 20060101ALI20230830BHJP
   A61K 36/70 20060101ALI20230830BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K8/02
A61Q5/06
D06P1/34
D06P5/20 D
C09B61/00 D
A23L19/00 A
A23L5/43
A23L3/54 A
A61K36/70
A61P17/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018161295
(22)【出願日】2018-08-30
(65)【公開番号】P2019043942
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2021-08-23
(31)【優先権主張番号】P 2017165028
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000180313
【氏名又は名称】四国計測工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】599073917
【氏名又は名称】公益財団法人かがわ産業支援財団
(73)【特許権者】
【識別番号】507356132
【氏名又は名称】有限会社藍色工房
(74)【代理人】
【識別番号】100102314
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 阿佐子
(74)【代理人】
【識別番号】100123984
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 晃伸
(74)【代理人】
【識別番号】100206689
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 恵理子
(72)【発明者】
【氏名】曽我 博文
(72)【発明者】
【氏名】國井 勝之
(72)【発明者】
【氏名】香川 英二
(72)【発明者】
【氏名】坂東 未来
(72)【発明者】
【氏名】坂東 純一
(72)【発明者】
【氏名】加藤 俊作
(72)【発明者】
【氏名】朝日 信吉
【審査官】田中 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-274379(JP,A)
【文献】特開2003-305425(JP,A)
【文献】特開2013-113448(JP,A)
【文献】特開2009-149596(JP,A)
【文献】特開2001-327857(JP,A)
【文献】国際公開第2014/104301(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00- 90/00
A61K 36/00- 36/9068
A61P 1/00- 43/00
C09B 1/00- 69/10
D06P 1/00- 7/00
A23L 19/00- 19/20
A23L 3/36- 3/54
A23L 5/00- 5/49
A23L 29/00- 29/10
A23L 31/00- 33/29
C07D 477/00-491/22
C07D 243/00-247/02
C07D 209/00-209/96
B01J 10/00- 12/00
B01J 14/00- 19/32
F26B 1/00- 25/22
H05B 6/00- 6/10
H05B 6/14- 6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波照射により生藍葉中の酵素の活性を調節して、通常の低温乾燥藍葉またはマイクロ波減圧乾燥藍葉に比べ、乾燥藍葉中の機能性物質量を高く保持あるいは増加させる、生藍葉のマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥方法であって、生藍葉中の酵素の活性の調節が、生藍葉中の酵素活性を制御することであり、生藍葉にマイクロ波を真空圧5kPa以下、温度30℃以下の条件で照射して、インジカン含有量を高く保持したまま活性な酵素を含有する乾燥藍葉を製造することを特徴とする方法。
【請求項2】
生藍葉中の酵素の活性の調節が、生藍葉中のインジカン分解酵素の働きを制御することであり、刈りとった後、氷を加えて30℃以下に冷却した藍葉を用いることにより行われる、請求項1に記載の生藍葉のマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥方法。
【請求項3】
生藍葉中の酵素の活性の調節が、生藍葉中のインジカン分解酵素の働きを制御することであり、刈りとった後、ブドウ糖、砂糖または酒の粕を含有する水溶液に2分~30分浸漬した藍葉を用いることにより行われる、請求項1に記載の生藍葉のマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥方法。
【請求項4】
マイクロ波照射により生藍葉中の酵素の活性を調節して、通常の低温乾燥藍葉またはマイクロ波減圧乾燥藍葉に比べ、乾燥藍葉中の機能性物質量を高く保持あるいは増加させる、生藍葉のマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥方法であって、生藍葉中の酵素の活性の調節が、藍葉内の酵素を活性化するとともに酵素反応を促進することであり、生藍葉を30~40℃に制御しながらマイクロ波を間欠的に所定時間照射し、藍葉内の酵素を活性化するとともに酵素反応を促進し、その後10kPa、40℃以下の温度でマイクロ波減圧乾燥して、機能性物質量が増加した熟成乾燥藍葉を製造することを特徴とする方法。
【請求項5】
前記の所定時間が5~30分である、請求項4に記載の生藍葉のマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥方法。
【請求項6】
生藍葉がみじん切りした生藍葉である、請求項4または5に記載の生藍葉のマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥方法。
【請求項7】
藍葉を大気圧下、70℃以上で1~30分間加熱し、酵素を失活させた後、減圧して室温まで冷やして酵素を失活させた藍葉を得、その藍葉に重量比で1/5~1/10の生藍葉を加えて、請求項4ないし6のいずれかに記載の方法を適用する、機能性物質量が増加した熟成乾燥藍葉および藍葉中の酵素が失活している乾燥藍葉の混合物からなる乾燥藍葉組成物の製造方法。
【請求項8】
機能性物質量が増加した熟成乾燥藍葉が、インジカン分解酵素活性、イサチン含有量、およびトリプタントリン含有量からなる群のいずれか一以上が、自然乾燥葉に比べて高いものである、請求項7に記載した乾燥藍葉組成物の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし6のいずれかに記載の方法で得られたマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥葉そのもの、または請求項7または8の方法で得られた乾燥藍葉組成物そのもの、または該マイクロ波乾燥あるいは該熟成乾燥葉または該乾燥藍葉組成物を水、溶媒で抽出したエキスを食品素材用、化粧品素材、または医薬品素材として用いる方法。
【請求項10】
請求項1ないし6のいずれかに記載の方法で得られたマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥葉、または請求項7または8に記載の方法で得られた乾燥藍葉組成物に、2~20倍の水を加えてペースト状にし、髪に塗布した後洗髪すること特徴とする染毛方法。
【請求項11】
請求項1ないし6のいずれかに記載の方法で得られたマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥葉、または請求項7または8に記載の方法で得られた乾燥藍葉組成物に、5~50倍の水を加え、良くもみ、色素を水に抽出した後、藍葉をろ別した溶液中に、布を入れ、染色することを特徴とする染色方法。
【請求項12】
請求項1ないし6のいずれかに記載の方法で得られたマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥葉、または請求項7または8に記載の方法で得られた乾燥藍葉組成物を水に懸濁した水溶液に、石灰を加え、空気酸化させることを特徴とする、医薬品用、化粧品用、石鹸用、染色用、または機能性食品用沈殿藍の調製方法。
【請求項13】
請求項1ないし6のいずれかに記載の方法で得られたマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥葉、または請求項7または8に記載の方法で得られた乾燥藍葉組成物を水に懸濁した水溶液に、タンパク質及び/または糖を加え、空気酸化させることを特徴とする、医薬品用、化粧品用、石鹸用、染色用、または機能性食品用藍顔料の調製方法。
【請求項14】
さらに、上記医薬品用、化粧品用、石鹸用、染色用、または機能性食品用藍顔料を、腸溶性物質でコーティングする工程を含む、請求項13に記載の医薬品用、化粧品用、石鹸用、染色用、または機能性食品用藍顔料の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥藍葉の製造方法、装置およびその用途に関する。
本発明において、マイクロ波熟成乾燥藍葉の「熟成」とは、生藍葉中の酵素がマイクロ波で活性化され、酵素反応が促進され、および/または酵素活性が高まることを、「熟成乾燥藍葉」とは、生藍葉中の酵素反応が促進され、および/または酵素活性が高まることにより、インジカン分解酵素活性、イサチン含有量、およびトリプタントリン含有量からなる群のいずれか一以上が、自然乾燥葉に比べて高い乾燥藍葉を、意味する。
【背景技術】
【0002】
天然色素である藍を用いた染毛剤として、2種類の乾燥藍葉のみを用いた染毛剤が開発されている(特許文献1)。生藍葉を加熱してインジカン分解酵素を失活させたインジカンを含有する乾燥藍葉粉末と、インジカン分解酵素を失活させることなく、50℃以下で低温乾燥させた藍葉粉末の二つの乾燥粉末の組み合わせからなる染毛剤である。インジカンを含有する乾燥藍葉粉末と酵素活性のある低温乾燥藍葉粉末および水を混合すると、乾燥藍葉中のインジカンが酵素分解されインドキシルとなって水に溶解する。このインドキシルが酸化されてインジゴになり、条件によってはインジルビン(赤色)などが副生成するので、赤、青、黄色が任意の組み合わせで混じった茶、藍、紫、黒色に染毛させることができる。酵素分解されたインドキシルが毛髪に結合して、洗髪後にインドキシルが酸化されたインジゴが、徐々に濃厚な色に変化し、染毛が定着される。
【0003】
また、藍はタデ藍ともいわれ、古来から薬用植物として使用されていることが古文書(非特許文献1)に記載されているが、近年藍葉中に含まれる有用成分であるトリプタントリン(特許文献2)、イサチン(非特許文献2)の抗アレルギー活性、抗真菌活性、神経活性物質としての効能が注目されている。
【0004】
一方、マイクロ波は、極性基を持つ分子や双極子モーメントの大きな化合物を直接加熱する。例えば、農作物の乾燥・蒸留では、マイクロ波が農産物の内部の水を直接加熱し、細胞壁を内部から破砕することで、乾燥効率や有用成分の抽出の点で優れていることや、熱影響が小さく、例えば、内部のビタミンC等の栄養成分の分解が少なく、栄養価にとんだ乾燥葉を得ることが可能である。また、植物内部が加熱されるために、成分の抽出が容易で、例えば、藍葉中に含まれる有用成分、トリプタントリンをマイクロ波照射下で溶媒抽出すると迅速に抽出できる(特許文献2)。
【0005】
酵素の活性部位はアミノ酸などであり、マイクロ波で容易に加熱され、活性化される。例えば、イースト菌を用いたパン生地を電子レンジに入れ、100~200Wで30秒程度加熱して、濡らしたペーパータオルで包み、10分程度放置すると発酵し、大きく膨らみ、オーブンで焼くとパンが簡単にできることが知られている(非特許文献3)。
【0006】
また、マイクロ波照射装置として、釜の内部構造を対象物の性状、量にあわせて変更可能とし、撹拌機能を有することで多用途に用いることができるマイクロ波照射装置(特許文献3)が知られており、さらに、互いに向かい合わない複数方向からマイクロ波を照射し、回転反射盤を使用することで、マイクロ波の干渉を抑制し、高い均熱性を確保したマイクロ照射装置(特許文献4)では、被照射物の温度を測定することが可能な複数のセンサの検出値に基づき、3個の照射部から照射されるマイクロ波の出力を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2014/104301号
【文献】特開2009-149596号公報
【文献】特開2014-196896号公報
【文献】国際公開第2015/199005号
【非特許文献】
【0008】
【文献】医色同源:岩城完三他、日本文教出版株式会社
【文献】日薬理誌(1999)Vol.114,補冊1.p.186-191
【文献】ブックマン社「村上祥子の電子レンジで楽々パン作り」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
乾燥藍葉の主要な用途に染毛剤がある。染毛剤として使用するには、染色成分を含む乾燥葉と酵素を含む自然乾燥葉の2種類の藍葉が必要となる。酵素を含む乾燥葉の作成には、主として自然乾燥、場合により低温乾燥が用いられていたが、いずれにしても乾燥に時間を要し、かつ、酵素活性が弱く、染毛に時間がかかるなどの問題があった。酵素活性が維持された、あるいは高められた乾燥藍葉の乾燥時間を短縮して提供することが求められる。
そこで、本発明は、酵素活性が高い状態で酵素を含む乾燥藍葉を提供すること、該乾燥藍葉を効率よく製造する方法を開発することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、インジカン分解酵素の活性が高められた状態で維持された乾燥藍葉に着目して、その用途を開発することを目的とする。より詳細には、染毛、染色用、沈殿藍用または藍顔料に適した乾燥藍葉を提供することを目的とする。
【0011】
さらにまた、本発明は、インジカン分解酵素の活性が高められるだけでなく、タデ藍の主要な生理活性物質に着目して、その用途を開発することを目的とする。より詳細には、医薬品用、化粧品用、石鹸用、染色用、または機能性食品用の沈殿藍または藍顔料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
藍葉中のインジカンは、刈りとられると、脱グルコース酵素の作用で、インドキシルとなり、次いで酸化されてインジゴとなる。本発明では、この酵素反応をマイクロ波で調節しながら乾燥させるもので、
(a)生藍葉中の活性な酵素を保持したまま乾燥し、インジカンと活性な酵素を含有するマイクロ波乾燥藍葉とする、および
(b)生藍葉中の酵素を活性化し、酵素反応を促進し、および/または酵素活性を高め、トリプタントリン等の機能性成分を多量に含有するマイクロ波熟成乾燥藍葉とする、
の二つの態様で生藍葉中の酵素の活性を調節する。
【0013】
より詳細には、上記(a)において、マイクロ波照射法では、生藍葉にマイクロ波を真空圧5kPa以下、温度30℃以下の条件で照射して、酵素活性を保持し、インジカンを保持したまま乾燥することができる。インジカン分解酵素は、30~40℃では、マイクロ波照射すると、活性化し、迅速にインジカンを分解するので、マイクロ波低温減圧乾燥する際に、あらかじめ氷水等に浸漬し、冷やしておいて5kPa以下の低温で迅速乾燥する。さらに、酵素の働きを鈍らせるために、ブドウ糖、砂糖などを共存させておいて迅速乾燥することによりインジカンの分解を低減できることを見いだし、本発明に至った。
【0014】
藍葉を加熱してインジカン分解酵素を失活させたインジカンを含有する乾燥藍葉粉末と、インジカン分解酵素を失活させることなく、50℃以下で乾燥させた藍葉粉末の二つの乾燥粉末の組み合わせからなる染毛剤を製造するに際し、50℃以下の低温乾燥として自然乾燥あるいは定温乾燥機を用いると、乾燥に数日要し、また、得られた乾燥藍葉のインジカン分解酵素の活性がいずれも低く、染毛時に発色時間が長くなり、また、発色がばらつくなどの問題があった。
藍葉を低温乾燥させる前に、大気圧下、マイクロ波照射下、50℃以下、好ましくは40℃以下の条件で熟成すると、藍葉が緑色から濃緑色に変化し、インジカンが無くなり、インジゴとなっていることを認め、この熟成藍葉を低温マイクロ波減圧乾燥した結果、本乾燥藍葉にはインジカン分解酵素(β-グルコシダーゼ)の高い活性度を保持したまま乾燥藍葉が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
上記(b)において、生藍葉に30~50℃、望ましくは40℃以下の低温下でマイクロ波を照射することにより、藍葉中の酵素を活性化、酵素反応を促進させ、酵素活性が高まった熟成藍葉を50℃以下の温度でマイクロ波減圧乾燥し、酵素活性が高まった状態を維持して乾燥することを特徴とする藍葉の低温マイクロ波熟成乾燥方法、およびマイクロ波熟成乾燥藍葉またはその粉末や抽出物とその用途に関する。
【0015】
酵素活性を高め、機能性成分を作らせる条件として、酵素とインジカンの接触機会を増やすこと、みじん切り、水の存在、マイクロ波の低出力間欠照射が高出力連続照射より望ましい。5kPa以下で迅速乾燥させる場合は、高出力のマイクロ波を短時間に照射し、水分量の低下とともに出力を下げることが望ましい。この場合、藍植物の軸があると、マイクロ波が集中し、焦げが生じることがあるため、軸を除いておいた方が安全である。なお、棚あるいはカゴの上に藍葉を置き、下部に水を下部に於いて置く方が、余剰のマイクロ波を水に吸収させ、焦がさずに乾燥できるため、安全である。
このように低温マイクロ波熟成藍葉は、インジカン分解酵素の活性が高められるだけでなく、タデ藍の主要な生理活性物質であり、抗菌活性、抗アレルギー活性を有するトリプタントリンおよび神経活性物質であるイサチンが自然乾燥葉の1.5~66倍以上もの高濃度で含有することが確認された。
よって、本発明は、そのままの状態ではもちろんのこと、水等の溶媒で抽出した藍エキスや沈殿藍、藍顔料として、機能性食品、化粧品、染毛素材、染色素材、石鹸および医薬品としての用途にも用いられる高機能性乾燥藍葉、その粉末およびその抽出物を提供するに至った。
【0016】
本発明は以下の(1)ないし()の生藍葉のマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥方法を要旨とする。
(1)マイクロ波照射により生藍葉中の酵素の活性を調節して、通常の低温乾燥藍葉またはマイクロ波減圧乾燥藍葉に比べ、乾燥藍葉中の機能性物質量を高く保持あるいは増加させる、生藍葉のマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥方法であって、生藍葉中の酵素の活性の調節が、生藍葉中の酵素活性を制御することであり、生藍葉にマイクロ波を真空圧5kPa以下、温度30℃以下の条件で照射して、インジカン含有量を高く保持したまま活性な酵素を含有する乾燥藍葉を製造することを特徴とする方法。
)生藍葉中の酵素の活性の調節が、生藍葉中のインジカン分解酵素の働きを制御することであり、刈りとった後、氷を加えて30℃以下に冷却した藍葉を用いることにより行われる、上記(1)に記載の生藍葉のマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥方法。
)生藍葉中の酵素の活性の調節が、生藍葉中のインジカン分解酵素の働きを制御することであり、刈りとった後、ブドウ糖、砂糖または酒の粕を含有する水溶液に2分~30分浸漬した藍葉を用いることにより行われる、上記(1)に記載の生藍葉のマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥方法。
マイクロ波照射により生藍葉中の酵素の活性を調節して、通常の低温乾燥藍葉またはマイクロ波減圧乾燥藍葉に比べ、乾燥藍葉中の機能性物質量を高く保持あるいは増加させる、生藍葉のマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥方法であって、生藍葉中の酵素の活性の調節が、藍葉内の酵素を活性化するとともに酵素反応を促進することであり、生藍葉を30~40℃に制御しながらマイクロ波を間欠的に所定時間照射し、藍葉内の酵素を活性化するとともに酵素反応を促進し、その後10kPa、40℃以下の温度でマイクロ波減圧乾燥して、機能性物質量が増加した熟成乾燥藍葉を製造することを特徴とする方法。
)前記の所定時間が5~30分である、上記()に記載の生藍葉のマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥方法。
)生藍葉がみじん切りした生藍葉である、上記()または()に記載の生藍葉のマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥方法。
【0017】
また、本発明は以下の()および()の乾燥藍葉組成物の製造方法を要旨とする。
)藍葉を大気圧下、70℃以上で1~30分間加熱し、酵素を失活させた後、減圧して室温まで冷やして酵素を失活させた藍葉を得、その藍葉に重量比で1/5~1/10の生藍葉を加えて、上記()ないし()のいずれかに記載の方法を適用する、機能性物質量が増加した熟成乾燥藍葉および藍葉中の酵素が失活している乾燥藍葉の混合物からなる乾燥藍葉組成物の製造方法。
)機能性物質量が増加した熟成乾燥藍葉が、インジカン分解酵素活性、イサチン含有量、およびトリプタントリン含有量からなる群のいずれか一以上が、自然乾燥葉に比べて高いものである、上記()に記載した乾燥藍葉組成物の製造方法。
【0018】
また、本発明は以下の()の食品素材用、化粧品素材、または医薬品素材として用いる方法を要旨とする。
)上記(1)ないし()のいずれかに記載の方法で得られたマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥葉そのもの、または上記()または()の方法で得られた乾燥藍葉組成物そのもの、または該マイクロ波乾燥あるいは該熟成乾燥葉または該乾燥藍葉組成物を水、溶媒で抽出したエキスを食品素材用、化粧品素材、または医薬品素材として用いる方法。
【0019】
また、本発明は以下の(10)の染毛方法を要旨とする。
10)上記(1)ないし()のいずれかに記載の方法で得られたマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥葉、または上記()または()に記載の方法で得られた乾燥藍葉組成物に、2~20倍の水を加えてペースト状にし、髪に塗布した後洗髪すること特徴とする染毛方法。
【0020】
また、本発明は以下の(11)の染色方法を要旨とする。
11)上記(1)ないし()のいずれかに記載の方法で得られたマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥葉、または上記()または()に記載の方法で得られた乾燥藍葉組成物に、5~50倍の水を加え、良くもみ、色素を水に抽出した後、藍葉をろ別した溶液中に、布を入れ、染色することを特徴とする染色方法。
【0021】
また、本発明は以下の(12)の医薬品用、化粧品用、石鹸用、染色用、または機能性食品用沈殿藍の調製方法を要旨とする。
12)上記(1)ないし()のいずれかに記載の方法で得られたマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥葉、または上記()または()に記載の方法で得られた乾燥藍葉組成物を水に懸濁した水溶液に、石灰を加え、空気酸化させることを特徴とする、医薬品用、化粧品用、石鹸用、染色用、または機能性食品用沈殿藍の調製方法。
【0022】
また、本発明は以下の(13)または(14)の医薬品用、化粧品用、石鹸用、染色用、または機能性食品用藍顔料の調製方法を要旨とする。
13)上記(1)ないし()のいずれかに記載の方法で得られたマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥葉、または上記()または()に記載の方法で得られた乾燥藍葉組成物を水に懸濁した水溶液に、タンパク質及び/または糖を加え、空気酸化させることを特徴とする、医薬品用、化粧品用、石鹸用、染色用、または機能性食品用藍顔料の調製方法。
14)さらに、上記医薬品用、化粧品用、石鹸用、染色用、または機能性食品用藍顔料を、腸溶性物質でコーティングする工程を含む、上記(13)に記載の医薬品用、化粧品用、石鹸用、染色用、または機能性食品用藍顔料の調製方法。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】低温マイクロ波熟成乾燥葉と自然乾燥葉中に含まれるインジゴ濃度/イサチン濃度の関係の測定結果をグラフにしたものである。横軸は実施例1、2の実験例の番号で、縦軸はインジゴ濃度/イサチン濃度。
図2】本発明に係るマイクロ波加熱装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
藍はタデ藍ともいわれ、タデ科イヌタデ属の一年生植物であり、水耕または露地栽培される。藍葉にはグルコースの付いたインジカンが含まれており、葉に水が供給されなくなると、インジカン分解酵素が働き、インドキシルとして溶解してくる。このインドキシルが酸化されインジゴになる。条件によってはインジルビン(赤色)などが副生成する。インドキシルは、空気にさらすなど穏やかに酸化すると、インドキシルの2分子が酸化的に結合してインジゴ(青色)に変換される。一方、インジルビンはインジゴの異性体であり、インドキシルが単分子的に酸化されてイサチンができると、未酸化のインドキシルと結合してインジルビンができる。一般に、インドキシルからインジルビンを多く生成させる条件は、pH10~12のアルカリ性条件や高温が好ましい。紫色は、このインジゴとインジルビンが混ざった色であり、単一の紫色素ではない。赤味か青味の紫になるかは、インドキシルから、ニ方向の酸化のどちらが起こりやすいかによって決まる。
【0026】
特許文献1に記載の2種類の乾燥藍葉とは、素早く酵素を失活させてインジカンを閉じ込めた乾燥藍葉粉末に、酵素活性を有する乾燥藍葉粉末中の酵素を作用させて染毛するものである。藍葉中に存在する酵素のうち、インジカンを分解してインドキシルを生成するインジカン分解酵素の活性が染毛のために重要である。酵素活性を有する藍葉の50℃以下での乾燥法として、室温で乾燥する自然乾燥法や定温乾燥機による低温乾燥法を用いているが、時間がかかるうえ、酵素活性を測定した結果、低温乾燥法で得られた乾燥藍葉のインジカン分解酵素の活性が低かった。
【0027】
本発明では、マイクロ波を照射しながら、インジカン分解酵素の働きを制御しながら、低温で迅速乾燥して、インジカンと活性な酵素を含有する乾燥藍葉を一段で迅速乾燥して製造する。
刈りとった藍葉を低温に保持した後、マイクロ波減圧蒸留装置に投入し、5kPa以下の高真空下で迅速乾燥する。なお、酵素の働きを制御するために、1~5%ブドウ糖、砂糖、酒の粕、次亜塩素酸水溶液に数分浸漬した後、5kPa以下、30℃以下の温度で迅速乾燥することにより、インジカンの分解を押さえ、インジカンと活性な酵素を含有する乾燥藍葉を調整する。
【0028】
さらに、生藍葉とマイクロ波加熱ブランチング葉を1:5~1:10の割合で混ぜて5kPa、30℃以下で迅速乾燥し、インジカン濃度の高い、活性酵素を含有した乾燥藍葉を製造できる。
【0029】
本発明の生藍葉のマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥方法は、生藍葉に温度を30~50℃、望ましくは40℃以下に制御しながらマイクロ波照射して、酵素を活性化するとともに、酵素反応を促進、熟成して藍葉を熟成させた後、50℃以下の温度で乾燥する方法である。活性化される酵素には、インジカン分解酵素だけでなく、藍葉中に含まれる有用成分であるトリプタントリンやイサチンを合成する酵素が含まれる。藍葉あるいは沈殿藍からトリプタントリンを抽出することは特許文献2に示されているが、本発明のマイクロ波熟成乾燥藍葉はそのような抽出法の原料として最適である。
【0030】
低温マイクロ波熟成乾燥は、まず、生藍葉の温度を30~50℃に温度制御しながら、1~60分間マイクロ波照射して、生藍葉中のインジカン分解酵素を活性化させて、酵素反応を促進して藍葉を熟成させる。藍葉中の酵素は30~40℃で活発化し、50℃を超えると活性が落ちるので、40℃以下の温度がよく、好ましくは35℃~40℃に温度制御する。
またマイクロ波照射は連続照射より、間欠的に照射しながら熟成することが望ましい。生藍葉の温度は、光ファイバー温度計で測定し、特許文献4に記載の被照射物の温度を測定することが可能な複数のセンサを有するマイクロ波照射装置を用い、空気を移動させて測定する。
【0031】
マイクロ波照射熟成の間、藍葉の重量はほとんど変化しない。マイクロ波照射は、大気圧下か、微減圧下でマイクロ波照射する。微減圧下では気流が確保されて均一に加熱されるというメリットがある。なお、低温でマイクロ波加熱する場合、マイクロ波出力および加熱時間(デューティ比を下げ)を低く抑え、低温・均一加熱下で熟成処理する。また、熟成処理は減圧下ではなく、酸素が多く存在する大気圧近辺で処理する。生成したインドキシルの酸化によるインジゴの生成は酸素が必要である。逆に、真空中もしくは不活性ガス雰囲気下で熟成処理をすることで、インジルビンを多く含む熟成乾燥藍葉も作成可能である。
【0032】
さらに、マイクロ波照射の前に、生藍葉をみじん切りにして葉の面積を増やすことにより、酵素と基質(インジカン)の接触効率が高まり、酵素反応が活発化するので好ましい。生藍葉をみじん切りにした場合には、生藍葉重量の約10%程度の水を加えて、酵素とインジカンとの接触をさらに効率的に行わせながら、マイクロ波照射するとよい。
【0033】
マイクロ波照射による熟成後、活性化酵素を含有する藍葉を50℃以下の温度で、マイクロ波減圧乾燥法で素早く乾燥させ、酵素活性を維持した状態にする。酵素は水が少なくなると活動を停止し、活性なまま閉じ込められるので、マイクロ波減圧乾燥法で素早く乾燥させることが望ましい。葉の重量が60%程度まで減少するまでマイクロ波減圧乾燥を行う。なお、マイクロ波熟成後、40℃以下の定温乾燥あるいは自然乾燥でもよいが、若干酵素活性が低下する。
【0034】
マイクロ波熟成、減圧乾燥後、さらに乾燥藍葉の重量減少がなくなるまで完全に乾燥して、水分をなくして酵素の活動を停止させて粉末化する。乾燥方法は、たとえば、自然乾燥、40℃でのマイクロ波減圧乾燥、40℃での定温乾燥が適用できる。
【0035】
製造したマイクロ波乾燥あるいは熟成乾燥の藍葉を染毛に用いる場合には、インジカンと酵素を同時に保持した乾燥葉粉末を作り、それを用い2~10倍の水を加えてペースト状にして、良くもんで、インドキシルを生成させた後、髪に塗布して5~15分以上経過後、洗髪する。染色に用いる場合には、5~6倍の水を加えて良くもんで色素を水に抽出させてから、藍葉をろ別して染色溶液とし、布を入れて染色する。必要に応じ、インジカンと酵素を同時に保持した乾燥葉粉末を熟成乾燥藍葉粉末、あるいはそれらのいずれかと酵素を失活させてインジカンを閉じ込めた乾燥藍葉粉末の2種類の乾燥藍葉粉末に代えて用いることもできる。
【0036】
沈殿藍用とする場合には、インジゴと酵素を含有する乾燥藍葉を水に懸濁し、インドキシルが溶出した水溶液に、あるいは、機能性物質量が増加した熟成乾燥藍葉粉末と酵素を失活させてインジカンを閉じ込めた乾燥藍葉粉末の2種類の乾燥藍葉粉末を水に懸濁した水溶液に、石灰を加えてアルカリ性して、空気酸化によりインジゴを生成させ、そのまま静置してインジゴを沈殿させて上澄み液を除去して、藍色の沈殿藍を調製する。そのまま、あるいは乾燥して藍染め染色に用いるだけでなく、青色の着色料として、かつ、抗菌活性、抗アレルギー活性を有するトリプタントリンおよび神経活性物質であるイサチンが多く含まれているので、そのまま食する青色の機能性食品として、または石鹸、化粧品および抗菌、抗アレルギー、神経活性物質としての医薬品とすることが可能である。低酸素もしくは不活性ガス雰囲気下で同様の処理をすると、インジルビンを多く含む沈殿藍の調製も可能である。
さらに、マイクロ波熟成乾燥藍葉または抽出物には青色でないが、抗菌活性、抗アレルギー活性を有するトリプタントリンや神経活性物質であるイサチンが高濃度で含有されているので、高機能性乾燥藍葉またはその抽出物は、機能性食品素材、化粧品素材および抗菌、抗アレルギー、またはパーキンソン病等に効果のある神経活性物質としての医薬品素材として使用できる。
【0037】
本発明の機能性食品は、特定の疾病などを予防する健康食品、予防医薬品の分野の利用に適している。特定の疾病を予防する健康食品においては、必須成分である乾燥藍葉またはその抽出物の他に、任意的成分として、通常食品に添加されるビタミン類、炭水化物、色素、香料など適宜配合することができる。食品は液状または固形の任意の形態で食することができる。ゼラチンなどで外包してカプセル化した軟カプセル剤として食することができる。カプセルは、例えば、原料ゼラチンに水を加えて溶解し、これに可塑剤(グリセリン、D-ソルビトールなど)を加えることにより調製したゼラチン皮膜でつくられる。
【0038】
本発明の医薬品、薬剤においては、乾燥藍葉粉末または抽出物を単独で製剤として用いることができるほか、製薬上使用できる担体もしくは希釈剤を加えた製剤組成物に加工したものを用いることもできる。このような製剤または薬剤組成物は、経口または非経口の経路で投与することができる。例えば、経口投与用の固体または流体(ゲルおよび液体)の製剤または薬剤組成物は、タブレット、カプセル、錠剤、丸剤、粉末、顆粒もしくはゲル調製品の形態をとる。製剤または薬剤組成物の正確な投与量は、その目的とする使用形態および処置時間により変化するため、担当の医師または獣医が適当であると考える量になる。服用および投与用量は製剤形態によって適宜調整できる。錠剤などの経口固形製剤、経口液剤などとして1日服用量を1回ないし数回に分けて服用してもよい。また、例えばシロップやトローチ、チュアブル錠などの幼児頓服として、局所で作用させるとともに内服による全身性作用をも発揮させる製剤形態では1日服用量の1/2~1/10を1回量として配合し服用すればよく、この場合全服用量が1日量に満たなくてもよい。
逆に、製剤形態からみて無理な服用容量とならなければ1日服用量に相当する量を1回分として配合してもよい。製剤の調製にあたっては、通常使用される充填剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、表面活性剤、滑沢剤、コーティング剤、徐放化剤など、希釈剤や賦形剤を用いることができる。この他、必要に応じて溶解補助剤、緩衝剤、保存剤、可溶化剤、等張化剤、乳化剤、懸濁化剤、分散剤、増粘剤、ゲル化剤、硬化剤、吸収剤、粘着剤、弾性剤、可塑剤、吸着剤、香料、着色剤、矯味剤、抗酸化剤、保湿剤、遮光剤、光沢剤、帯電防止剤などを使用することができる。
【0039】
本発明の乾燥藍葉に多く含まれるトリプタントリンの抗アレルギー作用、抗真菌作用を利用する皮膚外用剤、すなわち治療薬、皮膚外用剤、化粧料等が知られている肌荒れ、荒れ性に対して改善・予防効果を有する皮膚外用剤を提供することができる。本発明の皮膚外用剤には、乾燥藍葉または抽出物を必須成分とし、それ以外に、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば水性成分、油性成分、粉末成分、アルコール類、保湿剤、増粘剤、紫外線吸収剤、美白剤、防腐剤、酸化防止剤、界面活性剤、香料、色剤、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。その他、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、カフェイン、タンニン、ベラバミル、甘草抽出物、グラブリジン、カリンの果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸、トラネキサム酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸クルコシド、アルブチン、コウジ酸、D-グルコース、D-フルクトース、トレハロース等の糖類なども適宜配合することができる。本発明の皮膚外用剤は、例えば軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤等、従来の皮膚外用剤に用いられる形態であればいずれでもよく、剤型は特に問わない。
【0040】
藍顔料とする場合には、インジカン及び酵素を含む乾燥藍葉粉末を水に懸濁した後ろ過したろ液か、あるいは、それぞれの乾燥藍葉粉末の水抽出液をろ過してから混合した混合液に、タンパク質及び/または糖を加えてよく撹拌することにより、空気酸化によりインジゴを生成させ、タンパク質及び/または糖に生成したインジゴを吸着させるか、あるいはインジゴを凝集させることができる。その後、ろ過してから乾燥し、藍顔料を調製する。この藍顔料は、青色の着色料としてだけでなく、抗菌活性、抗アレルギー活性を有するトリプタントリンおよび神経活性物質であるイサチンが多く含まれているので、そのまま食する青色の機能性食品として、または石鹸、化粧品および抗菌、抗アレルギー、神経活性物質としての医薬品とすることが可能である。低酸素もしくは不活性ガス雰囲気下で同様の処理をすると、インジルビンを多く含む藍顔料の調製も可能である。
【0041】
特に、医薬品として用いる場合には、腸溶性物質で藍顔料をコーティングする工程を付加することにより藍顔料を製剤化すると、腸までそのままの状態で藍顔料を送達することができるので有効である。
腸溶性物質としては、小林ツエイン(小林香料(株))などの腸溶性タンパク質や、酢酸フタル酸セルロース、カルボキシメチルエチルセルロースなどのセルロース誘導体、メタクリル酸・アクリル酸エチル共重合体、ポリ酢酸フタル酸ビニル、ポリビニルアセテートフタル酸エステル、ヒプロメロースフタル酸エステルなどのポリマーを用いることができる。
【0042】
藍顔料の調製に使用するタンパク質としては、疎水性のタンパク質であれば、インジゴを吸着することができ、例えば、トウモロコシタンパク質のゼイン、小麦タンパク質のグルテン、牛乳由来のカゼインやラクトフェリンなどを用いる。添加するタンパク質の量は、多すぎると粘性が高くなり、インジゴの均一な沈着を阻害し、少なすぎると、タンパク質に吸着しないインジゴが増えることになる。
【0043】
藍顔料の調製に使用する糖としては、疎水性、水溶性の糖のどちらも用いることができる。
疎水性の糖であればインジゴを吸着することができるが、β-シクロデキストリンが入手し易く便利である。添加する疎水性の糖の量は、多すぎると粘性が高くなり、インジゴの均一な沈着を阻害し、少なすぎると、タンパク質に吸着しないインジゴが増えることになる。
【0044】
水溶性の糖は、インジゴを吸着できない代わりに、インジカン溶液に添加すると、酵素作用により生成されたインジゴを沈降させ、凝集させることができる。例えば、グルコース、ショ糖、α-シクロデキストリン等をインジカン溶液に添加すると、水溶性の糖が凝集剤の役割を果たして、生成したインジゴが沈降する。この酵素は高い糖濃度でも安定であるため、0.5%~20%の糖濃度でもインジゴの生成反応が進行するが、糖の添加量が多すぎると粘性が高くなるので、1~5%の糖濃度になるように糖を添加するとよい。
【0045】
また、マイクロ波熟成乾燥藍葉、または、水および/または溶媒で抽出した抽出物には青色でないが、抗菌活性、抗アレルギー活性を有するトリプタントリンや神経活性物質であるイサチンが高濃度で含有されている。よって、高機能性乾燥藍葉またはその抽出物は、機能性食品素材、化粧品素材および抗菌、抗アレルギー、またはパーキンソン病等に効果のある神経活性物質としての医薬品素材(原料)として使用できる。
【0046】
乾燥藍葉、または、水および/または溶媒で抽出した抽出物を飲食品用、化粧品用、医薬品用に用いることは、すべて公知の用途であり、マイクロ波熟成乾燥藍葉に機能性成分が多いことを考慮する以外は、同様に普通の使い方がなされる。医薬品の場合、カプセルや粉末、錠剤などとして経口投与することができ、投与量は症状の度合いや体重、年齢、性別などにより異なるものであり、使用に際して適当な量を症状に応じて決めることが望ましい。医薬品における配合量は特に制限はされないが、なお、本発明の藍葉は漢方薬の原料として用いられており、安全性が高いものである。
【0047】
本発明の機能性食品は、特定の疾病などを予防する健康食品、予防医薬品の分野の利用に適している。特定の疾病を予防する健康食品においては、必須成分である乾燥藍葉またはその抽出物の他に、任意的成分として、通常食品に添加されるビタミン類、炭水化物、色素、香料など適宜配合することができる。食品は液状または固形の任意の形態で食することができる。ゼラチンなどで外包してカプセル化した軟カプセル剤として食することができる。
【0048】
本発明の医薬品、薬剤においては、出願前公知の通常の使用態様を含み、乾燥藍葉粉末または抽出物を単独で製剤として用いることができるほか、製薬上使用できる担体もしくは希釈剤を加えた製剤組成物に加工したものを用いることもできる。このような製剤または薬剤組成物は、経口または非経口の経路で投与することができる。製剤または薬剤組成物の正確な投与量は、その目的とする使用形態および処置時間により変化するため、担当の医師または獣医が適当であると考える量になる。服用および投与用量は製剤形態によって適宜調整できる。
【0049】
本発明の乾燥藍葉に多く含まれるトリプタントリンの抗アレルギー作用、抗真菌作用を利用する皮膚外用剤、すなわち治療薬、皮膚外用剤、化粧料等が知られている。肌荒れ、荒れ性に対して改善・予防効果を有する皮膚外用剤を提供することができる。本発明の皮膚外用剤には、乾燥藍葉または抽出物を必須成分とし、それ以外に、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば水性成分、油性成分、粉末成分、アルコール類、保湿剤、増粘剤、紫外線吸収剤、美白剤、防腐剤、酸化防止剤、界面活性剤、香料、色剤、各種皮膚栄養剤等を必要に応じて適宜配合することができる。本発明の皮膚外用剤は、例えば軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤等、従来の皮膚外用剤に用いられる形態であればいずれでもよく、剤型は特に問わない。
【0050】
図2は、本発明に係るマイクロ波加熱装置の構成図である。この装置は、特許文献3に記載の装置と同様のハードウェア構成であり、加熱容器と、加熱容器の蓋とから構成される加熱釜を備えている。加熱容器および蓋は、それぞれフランジ部を有しており、対向する両フランジ部を狭圧することにより固定される。加熱釜は、例えば、数リットル~数百リットルの容量(最低容量は撹拌羽根の中央固定ノブが隠れる液量、最大容量は攪拌時の液面上昇を加味すれば、釜容量の2/3となる)であり、複数の加熱釜を連結して使用する場合もある。乾燥時、抽出時およびブランチング時には、気化効率を高めるために加熱釜内を減圧する。
加熱容器には、排水バルブが設けられた配管および駆動装置が接続される。駆動装置は、例えばモータであり、接続軸を介して撹拌羽根を回動させる。
【0051】
蓋には、導波管および大気開放バルブが設けられた配管が接続される。大気開放バルブは、圧力逃し弁(ベント)として機能するものであるが、必須の構成ではない。
【0052】
温度センサは、容器の内容物の温度を測定する接触型の光ファイバー型温度センサである。光ファイバー型温度センサの感温部である先端にはアルミナ製あるいはガラス製の保護管が被せられ、保護管を容器に挿入される。光ファイバー型温度センサは、光検出器と接続されており、光検出器が測定した温度に基づきマイクロ波発振器の出力が制御される。
例示の光ファイバー型温度センサに代え、或いは、光ファイバー型温度センサと共に放射型温度センサを設けてもよい。放射型温度センサは、例えば、赤外線や可視光線の強度を測定する非接触型の温度センサである。
【0053】
導波管が接続される蓋の開口部には、マイクロ波を吸収しないマイクロ波透過性材からなる照射窓(図示せず)を設けることが好ましい。この照射窓は、例えば、石英、セラミックス、テフロン(登録商標)などにより構成することができる。導波管の接続位置は図示する空間照射の態様に限定されず、液中照射するものでもよい。また、導波管は、複数本設けてもよく、空間照射と液中照射を組み合わせてもよい。
【0054】
導波管の蓋とは逆側の端部は、マイクロ波発振器と接続されている。マイクロ波発振器は、制御装置と信号線で接続されており、制御装置からの制御信号(例えば、デューティ制御またはPWM制御)に基づいてマイクロ波を照射するマイクロ波源(例えば、マグネトロンまたは半導体発振器)を備えている。制御装置は、演算装置と、温度センサからの信号に基づき本発明のマイクロ波熟成乾燥藍葉の製造方法を実行するための制御プログラムが格納された記憶装置とを備えている。
熟成は低出力のマイクロ波(例えば、1L容器であれば10~50Wでの連続照射相当、100L容器であれば1~5kWでの連続照射相当)で行う必要があるところ、マイクロ波源に半導体発振器を使えば、低出力で安定した発信が可能となる。マイクロ波源がマグネトロンの場合、デューティまたはPWM制御をすることで、低温で安定した制御が可能となる。例えば、1.5kWのマグネトロンの最大出力を15%に制限し、デューティ比を20%で出力すれば、マイクロ波出力は連続照射時の45Wに相当する(1.5kWのマグネトロンを用いて45Wで安定的に連続照射することはできない。)。
【0055】
以下、本発明の詳細を実施例に基づき説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されない。
【0056】
乾燥藍葉粉末に含まれるインジカン分解酵素の酵素活性と各染色成分等の濃度を、以下の測定方法、測定キットを用いて測定する。
【0057】
[酵素活性測定]
乾燥葉抽出液のβ-グルコシダーゼ活性(インジカン分解酵素活性)は、以下の手順で測定する。測定値は、3回の平均値を求めて結果の値とした(n=3)。
(1)乾燥葉粉末0.5gにイオン精製水40mlを加え、室温で3時間以上撹拌し、藍葉抽出液を得る。
【0058】
(2)p-ニトロフェニル β-D-グルコピラノシド(β-NPG)75.31mgにイオン精製水を加えて10mlにして25mM β-NPG溶液を調製する。
(3)25mM β-NPG基質水溶液8μlを200μlのバッファー溶液に溶かして基質反応溶液を調製する。
【0059】
(4)測定試料は、ウエルに20μl注入し、基質反応溶液200μlを加える。陽性対照試料は、イオン精製水20μlに、タートラジンからなる標準溶液10ml(250U/L相当)200μlを加える。陰性対照試料は、イオン精製水220μlをウエルに注入する。
【0060】
(5)加える試料と試薬類を37℃でインキュベーションしておき、各試料をウエルに仕込んだ後(37℃)、マイクロプレートリーダーを用いて、0分後と20分後の吸光度(405nm)を測定する。
【0061】
(6)20分後のODから0分後のODを差し引いた値を、陽性対照試料のODから陰性対照試料のODを差し引いた値で割り、250(U/L)を掛けた値が、酵素活性値(U/L)となる。酵素活性値(U/kg)は、酵素活性値(U/L)に80を乗じて計算する。
【0062】
[染色成分等の定量]
乾燥葉に含まれる染色成分は、乾燥葉粉末0.5gに、DMSO 40mlを加え、MW出力500W、60℃、15分間撹拌して抽出する。得られた抽出液をシリンジフィルターでろ過し、インジカン、イチサン、インジゴ、インジルビン、トリプタトリンのHPLC分析による定量を行う。
【0063】
HPLC分析では、Inertsil ODS-3Vカラムを使用する。溶離液は、アセトニトリル水溶液を40℃、1.0ml/分の流量で流す。溶離液のグラジエントプログラムは、15%(0分);85%(15分);85%(20分)である。測定波長は、インジカン測定時に215~230nm、イサチン、インジゴ、インジルビン、トリプタントリン測定時に290~310nmを使用する。
【実施例1】
【0064】
水耕栽培していたタデ藍の品種「千本」を刈り取りって、藍葉の軸を取ってから脱水のためによく水切りした。その生藍葉を、(1)室内でそのまま数日間乾燥した(自然乾燥葉)、(2)定温乾燥機に入れ、40℃で1~2日乾燥した(定温乾燥葉)、(3)図2(特許文献3)に記載の撹拌機能付の大量処理のできるマイクロ波照射装置(四国計測工業株式会社製)に入れ、40℃で30分間0.09MPaの減圧下でマイクロ波を照射して熟成し、マイクロ波減圧乾燥により葉の重量を約60%減少させた後、定温乾燥機に入れ40℃で乾燥した(マイクロ波熟成乾燥葉)。
【0065】
これら3種類の乾燥葉を、それぞれピンミルで粉砕し、粉末化した乾燥葉粉末0.5gにイオン精製水40mlを加え、室温で3時間以上撹拌し、藍葉抽出液を得、抽出液中の酵素活性を測定した。また、3種類の乾燥粉末の一定量にそれぞれDMSOを加えて、マイクロ波法で溶解し、各乾燥葉に含まれるトリプタントリンの濃度をHPLCで分析した。乾燥藍葉粉末中の酵素活性(U/kg)とトリプタントリンの濃度(ppm)の測定結果を表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
マイクロ波熟成乾燥葉のインジカン分解酵素活性は、自然乾燥葉の14倍高くなっており、トリプタントリン濃度も、自然乾燥葉および定温乾燥葉の10倍以上高くなっていた。
【実施例2】
【0068】
マイクロ波熟成乾燥葉の酵素活性、トリプタントリン濃度が、自然乾燥葉や定温乾燥葉のものに比べて大幅に増加することがわかった。次に、生藍葉に傷をつけたり、マイクロ波熟成乾燥の条件や使用するマイクロ波照射装置により、酵素活性、トリプタントリン濃度、さらには、インジカン、イサチン、インジゴ、インジルビン濃度がどのように変化するかについて実験した。
【0069】
刈り取った藍葉の軸を取ってから、脱水のためによく水切りした。対照は、自然乾燥のみの室温乾燥(比較例1)とした。
【0070】
まず、マイクロ波照射装置として、撹拌機能のないキャビティ型装置(SMW107、最大出力1.5kw)を用い、キャビティ内に1~2lの容量のガラス容器を入れて、その中に50gほどの生藍葉と若干量の水を入れてマイクロ波照射した。温度40℃のマイクロ波照射による熟成時間と40~45℃のマイクロ波減圧乾燥による加熱時間を変化させた。加熱後の乾燥は、40℃の定温乾燥で行った(実験例1~6)。
水耕藍葉の品種千本を、水耕場所の3つの異なる場所から刈り取った。(水耕1~3)
実験例1 水耕1の藍葉、熟成 15分、加熱 20分
実験例2 水耕1の藍葉、熟成 30分、加熱 20分
実験例3 水耕2の藍葉、熟成 30分、加熱 なし
実験例4 水耕2の藍葉、熟成 30分、加熱 20分
実験例5 水耕3の藍葉、熟成 60分、加熱 10分
実験例6 水耕3の藍葉、熟成 30分、加熱 7分
比較例1 水耕1の藍葉 室温乾燥
【0071】
次に、図2(特許文献3)に記載の撹拌機能付の大量処理のできるマイクロ波照射装置(四国計測工業株式会社製)を用いた。容量が最大160lの釜の中に直接マイクロ波を照射でき、1回の処理で生藍葉4~5kgをマイクロ波処理可能であり、最大出力は、18kWである。
【0072】
刈り取った生藍葉の軸を取って水切りした後、藍葉はザルに2、3kg入れて多段にセットし、12rpmでゆっくり回転させながら、36~40℃の温度で30分間マイクロ波照射して熟成させた。熟成後、40~45℃で0.01MPaの減圧下でマイクロ波減圧乾燥させた後、定温乾燥機に入れて40℃で乾燥した。実験例7~10は、同じ条件で日を変えて4回マイクロ波熟成乾燥させたものである。
【0073】
比較例2は、熟成なしで、40~45℃で0.01MPaの減圧下でマイクロ波減圧乾燥させた後、定温乾燥機に入れて40℃で乾燥したものである。
【0074】
実験例11は、刈り取った藍葉の軸を取ってから、脱水のためによく水切りして、カッターでみじん切りにしてから、実験例7~10と同じ条件で、熟成乾燥させたものである。
【0075】
実験例1~11および比較例1、2の乾燥藍葉の、酵素活性、トリプタントリン、インジカン、イサチン、インジゴ、インジルビン濃度は、以下の表2のとおりである。
【0076】
【表2】
【0077】
実験例1~10では、比較例1、2に比べ、インジカン分解酵素活性が1.3倍以上高くなり、特に、撹拌機能付の大量に処理できるマイクロ波照射装置を使用すると、酵素活性が顕著に高まった。インジカン分解酵素活性は、室温乾燥のものの1040(U/kg)に比べ、1389~13851(U/kg)にもなっており、1.3倍から13倍以上高くなっている。また、トリプタントリンおよびイサチンを合成する酵素の活性も高まったことから、実験例7~10ではトリプタントリン濃度は、熟成工程のない比較例2の245(ppm)に比べ、376~2124(ppm)になっており、1.5倍から9倍高くなっている。
【0078】
同様に、イサチン濃度も実験例1~11の全てで、顕著に高くなる。比較例1の56(ppm)に比べ、283~3688(ppm)と高くなり、5倍から66倍高くなる。その結果、インジカンが酵素分解されたインドキシルが酸化されて生成されるインジゴおよびイサチンの量比も変化し、インジゴ濃度/イサチン濃度は、比較例1の自然乾燥葉では112であるのに対して、実験例1~11では、いずれも40以下となっている。図1は、インジゴ濃度/イチサン濃度を縦軸にして、実験例の番号を横軸に示したものである。比較例1を室温乾燥としてプロットした。
また、実験例11のように、生藍葉にみじん切り等の物理的処理を施して藍葉を傷つけてから熟成すると、酵素活性がより高まることが確認された。
【実施例3】
【0079】
生藍葉として、露地栽培の品種「小上粉」を使用した。刈り取った藍葉をよく洗って軸をとり、脱水のためによく水切りした。実施例2と同様に、藍葉はザルに2.3kg入れて多段にセットし、12rpmでゆっくり回転させながら、36~40℃の温度で30分間マイクロ波照射して熟成させた。熟成後、40~45℃で0.01MPaの減圧下でマイクロ波減圧乾燥させた後、定温乾燥機に入れて40℃で乾燥した。対照として、熟成なしで、40~45℃で0.01MPaの減圧下でマイクロ波減圧乾燥させた後、定温乾燥機に入れて40℃で乾燥した。
マイクロ波照射により熟成させた乾燥藍葉粉末中の酵素活性は、対照のものより高く、トリプタントリン濃度も高かった。
【実施例4】
【0080】
生葉として水耕栽培「千本」を、マイクロ波減圧乾燥装置を使用し、藍葉を前処理なしで、5kPa以下、30℃で迅速乾燥した。実験aは採取したものを常温で運搬、そのままマイクロ波減圧乾燥したものである。実験bは藍葉を採取した後、氷を上に載せて運搬し、乾燥したものである。実験cはマイクロ波を大気圧下で照射し、85℃、5分間加熱ブランチング処理したものである。実験dはマイクロ波を照射して大気圧下85℃、5分加熱ブランチングしたものに、ブランチング処理葉に、1/5量の生葉を加え、5kPa、30℃で迅速乾燥したものである。いずれの場合もマイクロ波減圧乾燥で60~70%の水分を回収した後、40℃で定温乾燥したものである。インジカン等の分析結果を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
実験aは藍葉を採取した後、前処理なしで5kPa以下、30℃の条件で迅速乾燥したが、インジカンはほぼなく分解され、検出できなかった。実験bの藍葉を採取後、氷の入った保冷箱にいれて運搬して、保冷箱から出して直ぐ、5kPa、30℃の条件でマイクロ波蒸留乾燥した。インジカン濃度はかなり減少したが、1/5程度残っていた。インジルビン濃度がかなり高くなった。実験cは、マイクロ波ブランチング処理したものである。すなわち、大気圧下、マイクロ波を照射して85℃、5分間処理して、酵素を失活させた後、成分濃度を分析した結果、インジカン濃度が高く、インジゴの生成量は1/10程度であった。実験dは藍葉をブランチング処理(85℃、5分)したものに、生の藍葉を添加し、混ぜ合わせたのち、5kPa、30℃でマイクロ波減圧乾燥した。インジカンがほぼ残っており、生成したインジゴが少なく、その他の成分もほとんど生成しないことが分かった。なおこの粉末乾燥葉を水でペースト状にして毛束を処理した結果、良好に染毛できた。
【実施例5】
【0083】
水耕栽培藍葉「千本」を採取した後、マイクロ波減圧乾燥前に、ブドウ糖、砂糖、酒の粕、次亜塩素酸の1%程度の水溶液に藍葉を10分程度浸漬した後、5kPa、30℃以下で迅速マイクロ波減圧蒸留乾燥した。インジカン等の分析結果を表4に示す。
【0084】
【表4】
【0085】
マイクロ波減圧乾燥する前に、酵素の働きを鈍くすることを目的に各種の水溶液に浸漬し、もみ10分程度放置した後、5kPa、30℃以下で迅速乾燥した結果、表4に示すようにインジカンがかなりの濃度で残存し、処理藍葉を水に懸濁し、毛束を処理した。若干薄いが染毛できた。ブランチング葉(酵素失活)に比べていずれもインジカン濃度は1/2~1/3程度残存した。
【実施例6】
【0086】
ブランチング藍葉粉末20gに水250mlを加え、80℃、30分間加熱抽出した後、8,000rpm,20分間遠心分離することにより、インジカン溶液を作成した。酵素溶液は熟成藍葉粉末4gに水100mlを加え、室温で30分間撹拌した後、8,000rpm,20分間遠心分離することにより作成した。遠心分離後、上清を1μmのメンブレンフィルターで上記液体を濾過し、両者を混合した。タンパク質として小林ツエイン(小林香料(株))10gを混合溶液に添加し、室温で半日撹拌した。生成物は濾過し、室温で乾燥した。
得られた生成物は濃い藍色で、藍の色素がタンパク質に結合していると推測された。
【実施例7】
【0087】
ブランチング藍葉粉末20gに水250mlを加え、80℃、30分間加熱抽出した後、8,000rpm,20分間遠心分離することにより、インジカン溶液を作成した。酵素溶液は熟成藍葉粉末4gに水100mlを加え、室温で30分間撹拌した後、8,000rpm,20分間遠心分離することにより作成した。遠心分離後、上清を1μmのメンブレンフィルターで上記液体を濾過し、両者を混合した。糖としてβ-シクロデキストリン(和光純薬)10gを混合溶液に添加し、室温で半日撹拌した。生成物は濾過し、室温で乾燥した。
得られた生成物は濃い藍色で、藍の色素が糖に結合していると推測された。
【実施例8】
【0088】
ブランチング藍葉粉末2gに水50mlを加え、80℃、30分間加熱抽出した後、8,000rpm,20分間遠心分離することにより、インジカン溶液を作成した。酵素溶液は熟成藍葉粉末0.4gに水10mlを加え、室温で30分間撹拌した後、8,000rpm,20分間遠心分離することにより作成した。遠心分離後、上清を1μmのメンブレンフィルターで上記液体を濾過し、両者を混合した。水溶性の糖としてグルコース(和光純薬)1gを混合溶液に添加し、室温で半日撹拌した後、静置した。凝集物は濾過し、室温で乾燥した。
【実施例9】
【0089】
ブランチング藍葉粉末20gに水250mlを加え、80℃、30分間加熱抽出した後、8,000rpm,20分間遠心分離することにより、インジカン溶液を作成した。酵素溶液は熟成藍葉粉末4gに水100mlを加え、室温で30分間撹拌した後、8,000rpm,20分間遠心分離することにより作成した。遠心分離後、上清を1μmのメンブレンフィルターで上記液体を濾過し、両者を混合した。タンパク質として小林ツエイン(小林香料(株))10gおよびグルコース10gを混合溶液に添加し、室温で半日撹拌した。生成物は濾過し、室温で乾燥した。得られた生成物は濃い藍色で、藍の色素がタンパク質に結合していると推測された。
【0090】
水溶性の糖を添加することにより、インジゴがタンパク質表面で反応するだけでなく、凝集したより多くの有効成分がタンパク質(または糖)表面に沈着すると推測される。
【実施例10】
【0091】
ブランチング藍葉粉末20gに水250mlを加え、80℃、30分間加熱抽出した後、8,000rpm,20分間遠心分離することにより、インジカン溶液を作成した。酵素溶液は熟成藍葉粉末4gに水100mlを加え、室温で30分間撹拌した後、8,000rpm,20分間遠心分離することにより作成した。遠心分離後、上清を1μmのメンブレンフィルターで上記液体を濾過し、両者を混合した。タンパク質として上述の小林ツエイン(小林香料(株))10g、カゼイン10gまたはグルテン10gを混合溶液に添加し、室温で半日撹拌した。生成物は濾過し、室温で乾燥した。得られた生成物はいずれも濃い藍色で、藍の色素がタンパク質に結合していると推測された。
また、添加するタンパク質を変えることにより、タンパク質に吸着する藍成分の割合が変わることが確認できた。その分析結果を表5に示す。
【0092】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、藍葉を低温マイクロ波熟成乾燥することにより、高機能性乾燥藍葉およびその粉末を製造でき、藍葉粉末を多くの有益な用途に用いることができるという付加価値を与えるものである。
【0094】
生藍葉にマイクロ波照射することで、藍葉中の酵素を活性化するとともに、酵素反応を促進・熟成して藍葉を熟成させることのできるマイクロ波熟成乾燥法を完成させることができた。この方法によれば、熟成乾燥が短時間で行え、しかも、インジカン分解酵素の活性が高められるだけでなく、タデ藍の主要な生理活性物質であり、抗菌活性、抗アレルギー活性、抗腫瘍活性を有するトリプタントリン、イサチンが1.5~66倍以上の高濃度で含有することが確認された。本発明は、そのまま食することもできる機能性食品、化粧品、石鹸および医薬品としての用途にも用いられる高機能性乾燥藍葉粉末を提供し、さらに、藍葉中の酵素を失活させた乾燥藍葉粉末と混合した組成物は、染毛剤、染色剤としてだけでなく、沈殿藍用または藍顔料としてそれを添加した石鹸、クリーム等の化粧品は、アトピー性皮膚炎に効くことが期待され、また、青色に着色され、かつ生薬としての機能を有する機能性食品も製造できる。
【0095】
また、熟成乾燥藍葉をアルコールなどで抽出すると、高機能成分を多く含んだ藍エキスが得られ、多方面に利用可能となる。
さらに、高トリプタントリン含量により、沈殿藍で染色した布は、アトピー性皮膚炎に効能のある布となり、また、染毛時には頭皮を保護するという効果も生じる。トリプタントリン含有量が高い乾燥藍葉を沈殿藍用として用いると、それを添加した石鹸、クリーム等の化粧品は、アトピー性皮膚炎に効き目があるので効能が高まる。
また、イサチン含量も高いため、パーキンソン病等に効果のある神経活性物質として用いられる可能性もある。
図1
図2