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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】巻上機および巻上機の駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
   B66D 3/18 20060101AFI20230830BHJP
   B66D 3/20 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
B66D3/18 E
B66D3/20 G
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021554146
(86)(22)【出願日】2020-09-10
(86)【国際出願番号】 JP2020034316
(87)【国際公開番号】W WO2021079642
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2022-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2019192225
(32)【優先日】2019-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000129367
【氏名又は名称】株式会社キトー
(74)【代理人】
【識別番号】100120101
【弁理士】
【氏名又は名称】畑▲崎▼ 昭
(72)【発明者】
【氏名】西川 和弘
【審査官】三宅 達
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-052007(JP,A)
【文献】特開2019-119550(JP,A)
【文献】特公平08-029920(JP,B2)
【文献】特公昭54-034980(JP,B2)
【文献】特開昭51-027259(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66D 3/18
B66D 3/20
B66F 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上機本体からロードチェーンまたはロープの巻き上げおよび巻き下げを行うことで、荷の昇降を行う巻上機であって、
前記巻上機本体に配置され、前記ロードチェーンまたは前記ロープが掛け回されていると共に、回転に応じて前記ロードチェーンまたは前記ロープの巻き上げおよび巻き下げを行う巻き上げ手段と、
前記巻き上げ手段を回転させる駆動力を生じさせる駆動モータと、
前記駆動モータの駆動を制御するモータ制御手段と、
前記荷を吊り下げる前記ロードチェーンまたは前記ロープにより前記巻き上げ手段に掛かる負荷トルク及び操作者が前記荷を巻き上げ・巻き下げ方向に操作する操作力を検知する負荷検知手段と、
を備え、
前記モータ制御手段は、前記負荷トルクに基づいてトルク制御を行うバランサモードで前記駆動モータの駆動を制御可能であると共に、当該バランサモードにおいて、
前記操作力をアシストするアシストトルクを加えた第1トルク指令値に基づいて前記駆動モータの駆動を制御する第1バランサモードと、
前記操作力をアシストしない第2トルク指令値に基づいて前記駆動モータの駆動を制御する第2バランサモードと、を有し、
前記操作力の向きが巻き上げ・巻き下げ方向のいずれの向きでも、前記第1バランサモードで制御する第1位置範囲と、
前記操作力の向きが巻き上げ・巻き下げ方向の向きに応じて、前記第1バランサモードとするか前記第2バランサモードとするかを選択的に制御する第2位置範囲と、
に昇降位置範囲を設定する、
ことを特徴とする巻上機
【請求項2】
請求項1記載の巻上機であって、
前記第1位置範囲は、前記バランサモードにおけるバランサ上限位置とバランサ下限位置との間のバランス位置範囲とし、
前記第2位置範囲は、前記バランサ上限位置以上の位置範囲及び、または前記バランサ下限位置以下の位置範囲としている、
ことを特徴とする巻上機。
【請求項3】
請求項1または2記載の巻上機であって
前記第1バランサモードの前記第1トルク指令値は、前記巻き上げ手段で巻き上げる巻き上げ対象負荷に基づき前記巻き上げ手段に掛かる負荷トルクを設定登録し、該設定登録した負荷トルクに前記操作力をアシストするアシストトルクを加えたトルク指令値とし、
前記第2バランサモードの第2トルク指令値は、前記設定登録した負荷トルクから前記操作力をキャンセルするキャンセルトルクを加えたトルク指令値とする、
ことを特徴とする巻上機。
【請求項4】
請求項2記載の巻上機であって、
前記モータ制御手段は、前記バランサ上限位置および前記バランサ下限位置を、任意の高さ位置に設定可能としている、
ことを特徴とする巻上機。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の巻上機であって、
動作モード切替スイッチと、操作手段とを有すると共に、当該操作手段の操作に応じて前記駆動モータを駆動させる操作装置を備え、
前記モータ制御手段は、前記動作モード切替スイッチのスイッチ操作に応じて、前記バランサモードと、スイッチ動作モードとを切り替え可能としていると共に、
前記スイッチ動作モードでは、前記モータ制御手段は、前記操作手段の操作に基づいて前記駆動モータの駆動を制御する、
ことを特徴とする巻上機。
【請求項6】
請求項5記載の巻上機であって、
前記駆動モータは、エンコーダを備えるサーボモータであり、
前記モータ制御手段は、制御に関する指令値を出力する制御部と、前記指令値に基づいて制御された電力を前記駆動モータに供給するサーボドライバを備え、
前記操作手段は、スライド可能なスライド範囲内でスライドするスライド手段を備えると共に、
前記モータ制御手段は、前記スライド手段のスライド量に応じて、前記駆動モータの速度を制御する速度制御を行う、
ことを特徴とする巻上機。
【請求項7】
巻上機本体からロードチェーンまたはロープの巻き上げおよび巻き下げを行うことで、荷の昇降を行う巻上機の駆動制御方法であって、
前記巻上機は、
前記巻上機本体に配置され、前記ロードチェーンまたは前記ロープが掛け回されていると共に、回転に応じて前記ロードチェーンまたは前記ロープの巻き上げおよび巻き下げを行う巻き上げ手段と、
前記巻き上げ手段を回転させる駆動力を生じさせる駆動モータと、
前記駆動モータの駆動を制御するモータ制御手段と、
前記荷を吊り下げる前記ロードチェーンまたは前記ロープにより前記巻き上げ手段に掛かる負荷トルク及び操作者が前記荷を巻き上げ・巻き下げ方向に操作する操作力を検知する負荷検知手段と、
スイッチ手段を有し、当該スイッチ手段のスイッチ操作に応じて前記駆動モータを駆動する操作装置と、
を備え、
前記負荷検知手段で負荷トルクを検知する負荷トルク検知ステップと、
前記負荷トルク検知ステップで検知された前記負荷トルクに基づいて、予め設定された昇降位置範囲において前記モータ制御手段で前記駆動モータの駆動を制御するトルク制御ステップと、
を備え、前記トルク制御ステップでは、前記負荷トルクに基づいてトルク制御を行うバランサモードで前記駆動モータの駆動を制御可能であると共に、
前記バランサモードは、
前記操作力をアシストするアシストトルクを加えた第1トルク指令値に基づいて前記駆動モータの駆動を制御する第1バランサモードと、
前記操作力をアシストしない第2トルク指令値に基づいて前記駆動モータの駆動を制御する第2バランサモードと、を有し、
前記昇降位置範囲は、
前記操作力の向きが巻き上げ・巻き下げ方向のいずれの向きでも、前記第1バランサモードで制御する第1位置範囲と、
前記操作力の向きが巻き上げ・巻き下げ方向の向きに応じて、前記第1バランサモードとするか前記第2バランサモードとするかを選択的に制御する第2位置範囲と、
を有している、
ことを特徴とする巻上機の駆動制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻上機および巻上機の駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
巻上機は、一般的には、フックに荷を掛けて、操作スイッチ等を操作することで、荷の昇降を行っている。これに対し、巻上機の中には、操作スイッチではなく、荷に手を当てつつ、荷に対して少しの力を作用させることにより、あたかも自分の手で重い荷を軽く持ち上げたり降ろしたりする感覚で、重い荷を昇降させる操作を行えるものがある。このような巻上機としては、たとえば特許文献1に示すものがある。
【0003】
特許文献1には、制御部が重量検出部に係止部材と荷役物の重量の和が加わっていることを検出して荷役物をバランスするようにモータ部を制御しているとき、制御部は、係止部材の繰出し長さを予め可変設定可能な第1の長さ以下に制限している。それにより、急な外力が加わっても、荷役物が床面に衝突することを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-052007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に示す構成では、第1の長さL1を超えるような低い位置に、荷役物が位置すると、第1の長さL1に収まるように、荷役物が上昇させられる。しかしながら、特許文献1では、バランスするようにモータ部を制御する制御部において、具体的にどのようにして荷役物の下限位置制限を行うのかが、一切開示されていない。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みなされたもので、バランサモードにおいて、釣り合い状態の維持、操作力に応じたアシストを行うことを可能とすると共に、バランサ上限位置およびバランサ下限位置で、駆動モータのトルク制御を中断することなく巻き上げ下げの向きを規制することが可能な巻上機および巻上機の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の観点によると、巻上機本体からロードチェーンまたはロープの巻き上げおよび巻き下げを行うことで、荷の昇降を行う巻上機であって、巻上機本体に配置され、ロードチェーンまたはロープが掛け回されていると共に、回転に応じてロードチェーンまたはロープの巻き上げおよび巻き下げを行う巻き上げ手段と、巻き上げ手段を回転させる駆動力を生じさせる駆動モータと、駆動モータの駆動を制御するモータ制御手段と、荷を吊り下げるロードチェーンまたはロープにより巻き上げ手段に掛かる負荷トルク及び操作者が荷を巻き上げ・巻き下げ方向に操作する操作力を検知する負荷検知手段と、を備え、モータ制御手段は、負荷トルクに基づいてトルク制御を行うバランサモードで駆動モータの駆動を制御可能であると共に、当該バランサモードにおいて、操作力をアシストするアシストトルクを加えた第1トルク指令値に基づいて駆動モータの駆動を制御する第1バランサモードと、操作力をアシストしない第2トルク指令値に基づいて駆動モータの駆動を制御する第2バランサモードと、を有し、操作力の向きが巻き上げ・巻き下げ方向のいずれの向きでも、第1バランサモードで制御する第1位置範囲と、操作力の向きが巻き上げ・巻き下げ方向の向きに応じて、第1バランサモードとするか第2バランサモードとするかを選択的に制御する第2位置範囲と、に昇降位置範囲を設定する、ことを特徴とする巻上機が提供される。
【0008】
また、上述の発明において、第1位置範囲は、バランサモードにおけるバランサ上限位置とバランサ下限位置との間のバランス位置範囲とし、第2位置範囲は、バランサ上限位置以上の位置範囲及び、またはバランサ下限位置以下の位置範囲としている、ことが好ましい。
【0009】
また、上述の発明において、第1バランサモードの第1トルク指令値は、巻き上げ手段で巻き上げる巻き上げ対象負荷に基づき巻き上げ手段に掛かる負荷トルクを設定登録し、該設定登録した負荷トルクに操作力をアシストするアシストトルクを加えたトルク指令値とし、第2バランサモードの第2トルク指令値は、設定登録した負荷トルクから操作力をキャンセルするキャンセルトルクを加えたトルク指令値とする、ことが好ましい。
【0010】
また、上述の発明において、モータ制御手段は、バランサ上限位置およびバランサ下限位置を、任意の高さ位置に設定可能としている、ことが好ましい。
【0011】
また、上述の発明において、動作モード切替スイッチと、操作手段とを有すると共に、当該操作手段の操作に応じて駆動モータを駆動させる操作装置を備え、モータ制御手段は、動作モード切替スイッチのスイッチ操作に応じて、バランサモードと、スイッチ動作モードとを切り替え可能としていると共に、スイッチ動作モードでは、モータ制御手段は、操作手段の操作に基づいて駆動モータの駆動を制御する、ことが好ましい。
【0012】
また、上述の発明において、駆動モータは、エンコーダを備えるサーボモータであり、モータ制御手段は、制御に関する指令値を出力する制御部と、指令値に基づいて制御された電力を駆動モータに供給するサーボドライバを備え、スイッチ手段は、スライド可能なスライド範囲内でスライドするスライド手段を備えると共に、モータ制御手段は、スライド手段のスライド量に応じて、駆動モータの速度を制御する速度制御を行う、ことが好ましい。
【0013】
また、本発明の第2の観点によると、巻上機本体からロードチェーンまたはロープの巻き上げおよび巻き下げを行うことで、荷の昇降を行う巻上機の駆動制御方法であって、巻上機は、巻上機本体に配置され、ロードチェーンまたはロープが掛け回されていると共に、回転に応じてロードチェーンまたはロープの巻き上げおよび巻き下げを行う巻き上げ手段と、巻き上げ手段を回転させる駆動力を生じさせる駆動モータと、駆動モータの駆動を制御するモータ制御手段と、荷を吊り下げるロードチェーンまたはロープにより巻き上げ手段に掛かる負荷トルク及び操作者が荷を巻き上げ・巻き下げ方向に操作する操作力を検知する負荷検知手段と、スイッチ手段を有し、当該スイッチ手段のスイッチ操作に応じて駆動モータを駆動する操作装置と、を備え、負荷検知手段で負荷トルクを検知する負荷トルク検知ステップと、負荷トルク検知ステップで検知された負荷トルクに基づいて、予め設定された昇降位置範囲においてモータ制御手段で駆動モータの駆動を制御するトルク制御ステップと、を備え、トルク制御ステップでは、負荷トルクに基づいてトルク制御を行うバランサモードで駆動モータの駆動を制御可能であると共に、バランサモードは、操作力をアシストするアシストトルクを加えた第1トルク指令値に基づいて駆動モータの駆動を制御する第1バランサモードと、操作力をアシストしない第2トルク指令値に基づいて駆動モータの駆動を制御する第2バランサモードと、を有し、昇降位置範囲は、操作力の向きが巻き上げ・巻き下げ方向のいずれの向きでも、第1バランサモードで制御する第1位置範囲と、操作力の向きが巻き上げ・巻き下げ方向の向きに応じて、第1バランサモードとするか第2バランサモードとするかを選択的に制御する第2位置範囲と、を有している、ことを特徴とする巻上機の駆動制御方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、バランサモードにおいて、釣り合い状態の維持、操作力に応じたアシストを行うことを可能とすると共に、バランサ上限位置および/またはバランサ下限位置では、駆動モータのトルク制御を中断すること無く巻き上げ・巻き下げの向きを規制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施の形態に係る巻上機の全体構成を示す斜視図である。
図2図1に示す巻上機の制御的な構成を示す図である。
図3図1に示す巻上機のシリンダ操作装置の構成を示す図である。
図4図1に示す巻上機の制御フローの一部を示す図であり、ステップS01からステップS10までを示す図である。
図5図1に示す巻上機の制御フローの一部を示す図であり、ステップS11からステップS15までを示す図である。
図6図1に示す巻上機の制御フローの一部を示す図であり、ステップS16からステップS23までを示す図である。
図7図1に示す巻上機の制御フローの一部を示す図であり、ステップS30からステップS40までを示す図である。
図8図1に示す巻上機において、上限長さおよび下限長さを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態に係る巻上機10および巻上機10の駆動制御方法について、図面に基づいて説明する。
【0017】
<1.巻上機10の構成について>
図1は、巻上機10の全体構成を示す斜視図である。図2は、巻上機10の制御的な構成を示す図である。図1に示すように、巻上機10は、巻上機本体部20と、上フック30と、シリンダ操作装置150と、巻き上げ済みのロードチェーンC1を保持するチェーンバケット170とを主要な構成要素としている。
【0018】
巻上機本体部20は、上フック30を介して、天井等の所定の部位に吊り下げることが可能となっている。この巻上機本体部20は、ハウジング21の内部に、各種の構成が収納されている。具体的には、ハウジング21の内部には、駆動モータ40と、減速機構50と、ブレーキ機構60と、ロードチェーンC1を巻き上げるロードシーブ70と、上限リミットスイッチ80と、下限リミットスイッチ81と、負荷センサ90と、制御部100と、ドライバ110とが設けられている。なお、ロードチェーンC1とロードシーブ70に代えて、図示しないロープと巻き取りドラムからなる巻上機本体とすることができる。この場合、巻き取り済みのロープは巻き取りドラムで保持するのでチェーンバケット170は不要となる。なお、ロードシーブ70および巻き取りドラムは、巻き上げ手段に対応する。
【0019】
駆動モータ40は、ロードシーブ70を駆動する駆動力を与えるモータである。本実施の形態では、駆動モータ40は、位置(図示しないロータの回転位置)を検出するための検出器(エンコーダ41)を備えるサーボモータであり、その中でも交流サーボモータであることが好ましい。なお、交流サーボモータとしては、同期モータが好ましいが、誘導形モータであっても良い。
【0020】
また、減速機構50は、駆動モータ40の回転を減速して、ロードシーブ70側に伝達する部分である。また、ブレーキ機構60は、駆動モータ40の作動時には、電磁力によりブレーキ力を解放可能な部分であるものの、駆動モータ40が作動していない状態でも、荷Pを保持するように、ブレーキ力を生じさせる部分である。
【0021】
ロードシーブ70は、ロードチェーンC1を巻き上げおよび巻き下げする部分であり、その外周に沿って、ロードチェーンC1の金属環が入り込むチェーンポケットが複数設けられている。
【0022】
上限リミットスイッチ80は、ロードチェーンC1の巻き上げにおける限界位置(機械的・構造的に設定された上限位置)を検出するためのスイッチである。また、下限リミットスイッチ81は、ロードチェーンC1の巻き下げにおける限界位置(機械的・構造的に設定された下限位置)を検出するためのスイッチである。
【0023】
負荷センサ90は、上フック30に掛かる荷重負荷を測定する負荷センサである。すなわち、負荷センサ90は、巻上機本体部20の荷重負荷と、ロードチェーンC1の荷重負荷(床等に着地していない部分)と、荷Pの荷重負荷との合計荷重負荷を測定・検知するセンサである。この負荷センサ90を用いて測定・検知された合計荷重負荷から、本体自重等を差し引くことで、ロードチェーンC1を介してロードシーブ70に掛かる荷重負荷を検知(算出)することができる。負荷センサ90は、たとえば上フック30を巻上機本体部20に取り付けるための取付軸に取り付けられている。
【0024】
なお、負荷センサ90としては、歪みゲージを備えるロードセルを用いることができる。負荷センサ90の配置位置は、上記の他に、上フック30とクレーントロリの間、下フック160と荷Pの間、ロードチェーンC1の端末と下フック160の間など、荷Pを吊り下げるロードチェーンC1によりロードシーブ70に掛かる負荷を検知・測定できる位置であればいずれでも良い。また負荷センサ90は、ロードセルの他、クレーンスケールなどを流用することが可能であるが、バランサ制御に利用可能な精度と応答性を有するものである必要がある。負荷センサ90と負荷センサ90からの信号からロードシーブ70に掛かる負荷トルクを演算する制御部100の一部の機能が、負荷検知手段に対応する。
【0025】
制御部100は、ドライバ110に対し、制御モード(速度制御モード、トルク制御モード)、位置、速度、トルク等の指令値を与える部分である。この制御部100とドライバ110とは、モータ制御手段に対応する。制御部100としては、たとえば、CPU(Central Processing Unit)、メモリ101(RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、内部ストレージ、外部記憶装置等)、入出力インターフェース等を備えるコンピュータが挙げられる。メモリ101には、後述するようなスイッチ動作モードと、バランサモードとで動作させるための制御プログラムが記憶されている。
【0026】
また、ドライバ110は、駆動モータ40の電流値とエンコーダ41の出力及び制御部100から与えられるモータ駆動制御のための指令値などに基づいて、外部から供給される電源を適切な電力にコントロールし、その電力を駆動モータ40に与えて当該駆動モータ40を回転させる部分である。なお、本実施の形態では、駆動モータ40がサーボモータであるので、ドライバ110は、サーボドライバであり、少なくとも速度制御モードとトルク制御モードを有し、制御部100の指令に基づき、速度制御またはトルク制御を選択的に実行するようになっている。
【0027】
また、シリンダ操作装置150は、作業者が手で握った状態で操作を行うための操作装置であり、ロードチェーンC1の下端側に連結されている。また、シリンダ操作装置150には、荷Pを掛けるための下フック160が連結されている。図3は、シリンダ操作装置150の構成を示す図である。図3に示すように、シリンダ操作装置150は、動作モード切替スイッチ151と、可動グリップ152と、変位センサ153とを備えている。なお、操作装置としては、下フック160に連結された操作装置に限定されず、巻上機の本体部等からケーブルで吊り下げられた操作装置(ペンダントスイッチ)であっても良く、無線式リモコン装置であっても良い。
【0028】
動作モード切替スイッチ151(スイッチ手段に対応)は、駆動モータ40の動作モードを切り替えるためのスイッチであり、その動作モード切替スイッチ151のスイッチ信号が制御部100に出力される。本実施の形態では、動作モードには、スイッチ動作モードと、バランサモードの少なくとも2つが存在している。そして、動作モード切替スイッチ151を押すことで、制御部100は、駆動モータ40の動作モードを、スイッチ動作モードと、バランサモード、またはその他のモードに切り替えることが可能となっている。制御部100は、ドライバ110(サーボドライバ)に対し、スイッチ動作モードでは速度制御、バランサモードではトルク制御で駆動モータ40を制御するように速度制御指令またはトルク制御指令を出力する。
【0029】
また、可動グリップ152は、スイッチ動作モードで動作する際に操作する部分である。この可動グリップ152は、上下方向にスライド可能に設けられていて、中立位置にバネ等の付勢手段により保持されており、中立位置から上側および下側に可動グリップ152を付勢手段に抗してスライドさせることができる。変位センサ153は、そのスライド量に応じた検出信号を、制御部100に出力する。それにより、制御部100は、上記の検出信号に基づいて、駆動モータ40の速度を制御する。なお、シリンダ操作装置150は操作装置に対応すると共に、可動グリップ152は操作手段およびスライド手段に対応する。
【0030】
また、チェーンバケット170は、ロードシーブ70を挟んで下フック160とは反対側に存在する無負荷側(巻き取り済み)のロードチェーンC1を蓄え保持する部分である。
【0031】
<2.駆動モータ40の制御フローについて>
次に、上述した構成の巻上機10における、本実施の形態に係る駆動モータ40の制御フロー(駆動制御)について、図4から図7に基づいて説明する。なお、以下の各ステップは、制御部100が実行または判断する部分である。
【0032】
制御部100は、上限リミットスイッチ80が作動されているか否かを判断する(ステップS01)。ここで、上限リミットスイッチ80が作動されている場合、シリンダ操作装置150、下フック160および荷Pは、上限位置まで巻き上げられている状態となる。
【0033】
したがって、上記のステップS01の判断で、上限リミットスイッチ80が作動されていないと判断される場合(Noの場合)、巻き上げが可能であるとして、駆動モータ40の巻き上げ方向への駆動を「可」に設定(所定のメモリ101に書き込み)する(ステップS02)。一方、ステップS01の判断で、上限リミットスイッチ80が作動されていると判断される場合(Yesの場合)、これ以上の巻き上げが不可であるとして、駆動モータ40の巻き上げ方向への駆動を「不可」に設定(所定のメモリ101に書き込み)する(ステップS03)。
【0034】
ステップS02,S03の処理の後に、制御部100は、下限リミットスイッチ81が作動されているか否かを判断する(ステップS04)。ここで、下限リミットスイッチ81が作動されている場合、シリンダ操作装置150、下フック160および荷Pは、下限位置まで巻き下げられている状態となる。そこで、このステップS04の判断で、下限リミットスイッチ81が作動されていないと判断される場合(Noの場合)、巻き下げが可能であるとして、駆動モータ40の巻き下げ方向の駆動を「可」に設定(所定のメモリ101に書き込み)する(ステップS05)。一方、ステップS04の判断で、下限リミットスイッチ81が作動されていると判断される場合(Yesの場合)、これ以上の巻き下げが不可であるとして、駆動モータ40の巻き下げ方向への駆動を「不可」に設定(所定のメモリ101に書き込み)する(ステップS06)。
【0035】
上記のステップS05、S06の後に、制御部100は、負荷センサ90で測定された荷重負荷を読み込む(ステップS07)。このステップS07では、読み込んだ荷重負荷の値を、適宜フィルタ処理などをして所定のメモリ101に書き込むようにしている。フィルタ処理は、制御部100で行わず、負荷センサ90に備えられたアンプ等で行うようにしても良く、または、両者で行うようにしても良い。なお、このステップS07は、負荷トルク検知ステップに対応する。次に、制御部100は、ドライバ110(サーボドライバ)から出力される位置情報を読み込む(ステップS08)。なお、この位置情報は、ドライバ110(サーボドライバ)が駆動モータ40を、速度制御モードまたはトルク制御モードで制御するために駆動モータ40の回転を検知するエンコーダ41からの情報を基に、ドライバ110が出力するロードチェーンC1の繰り出し量を示す位置情報である。エンコーダ41の出力を直接制御部100に入力し、ロードチェーンC1の繰り出し量を演算するようにしても良い。
【0036】
繰り出し量は昇降位置に対応し、繰り出し量が多くなる方向は巻き下げ方向で、繰り出し量が少なくなる方向が巻き上げ方向となり、繰り出し量が多いと昇降位置は下方となり、繰り出し量が少ないと昇降位置は上方となる。
【0037】
次に、制御部100は、ステップS07で読み込まれた荷重負荷が、予め設定されている過負荷であるか否かを判断する(ステップS09)。この判断で、上記の読み込まれた荷重負荷が、過負荷ではない(定格負荷の範囲)と判断される場合(Noの場合)、後述するステップS11に移行する。一方、ステップS09の判断で、上記の読み込まれた荷重負荷が、過負荷であると判断される場合(Yesの場合)、過負荷の状態であるとして、過負荷(異常)処理を実行する(ステップS10)。なお、過負荷(異常)処理とは、駆動モータ40の駆動を禁止する処理であり、動作中においては緊急停止させる処理である。また、同時に過負荷であることをブザー、表示またはその他の手段により警告・報知する。ステップS10の処理の後に、後述するステップS23の判断へと移行する。
【0038】
ステップS09で、上記の読み込まれた荷重負荷が、過負荷ではない(定格荷重の範囲)と判断される場合(Noの場合)、動作モード切替スイッチ151の確認処理を行う(ステップS11)。このステップS11では、動作モード切替スイッチ151からの信号により、動作モードメモリ(メモリ101)を「バランサモード」「スイッチ動作モード」にフリップフロップ方式で書き換える。この確認処理を行う状態となった後に、制御部100は、バランサモードであるか否かを、動作モードメモリ(メモリ101)を読み込み判断する(ステップS12)。かかる判断において、バランサモードであると判断される場合(Yesの場合)、次のステップS13に進行する。一方、ステップS12の判断で、バランサモードでなくスイッチ動作モードであると判断される場合(Noの場合)、後述するステップS30へと移行する。
【0039】
ステップS12で、バランサモードであると判断される場合(Yesの場合)、ステップS02,03における設定情報(メモリ101)を参照して、駆動モータ40の巻き上げ方向への駆動が「可」であるか否かを判断する(ステップS13)。この判断において、駆動モータ40の巻き上げ方向への駆動が行えないと判断される場合(Noの場合)、駆動モータ40の巻き上げおよび巻き下げを伴うバランサモード(トルク制御)は実行できないので、バランサモードを停止させる停止処理を行う(ステップS14)。なお、この停止処理の後に、後述するステップS23へと進行する(図7参照)。
【0040】
一方、ステップS13の判断において、駆動モータ40の巻き上げ方向への駆動が行えると判断される場合(Yesの場合)、ステップS05,06における設定情報(メモリ101)を参照して、駆動モータ40の巻き下げ方向への駆動が「可」であるか否かを判断する(ステップS15)。この判断において、駆動モータ40の巻き下げ方向への駆動が行えないと判断される場合(Noの場合)、駆動モータ40の巻き上げおよび巻き下げを伴うバランサモード(トルク制御)は実行できないので、ステップS14の停止処理を行う。この停止処理には、動作モードメモリを「バランサモード」から「スイッチ動作モード」に切り換える処理が含まれる。
【0041】
ステップS15で巻き下げ方向への駆動が「可」であると判断される場合(Yesの場合)、制御部100はドライバ110(サーボドライバ)にトルク制御モードの指令を出力すると共に、バランサモードで駆動制御を実行(継続)する(ステップS16)。このバランサモードの実行に当たっては、下記のようなモータトルクTm0、作業者による操作力Wsおよび増減モータトルクThの各値を演算する。この演算は、下記のような式に基づいてなされる。なお、下記における単位は、適宜、変換可能である。なお、ステップS16~ステップS22は、トルク制御ステップに対応するが、これら以外の駆動モータ40の駆動制御に関するステップがトルク制御ステップに含まれても良い。また、ステップS16は、設定ステップにも対応する。
【0042】
まず、巻取済みのロードチェーンC1の重量をwcm(kg)、ロードチェーンC1の単位重量をwc0(kg)、ロードチェーンC1の繰り出し長さをL(m)、ロードチェーンC1の全長をL0(m)とする。すると、wcmは、以下のようにして算出される。
wcm=wc0×(L0-L) …(式1)
【0043】
また、巻上機本体部20の重量をwh(kg)とする。なお、このwhには、ロードチェーンC1の重量は含まれていない。また、負荷センサ90(ロードセル)で測定された荷重負荷をWl(N)、重力加速度をgとする。すると、式1を用いて、巻き上げ対象荷重wは、次のように算出される。
w=Wl/g-(wh+wcm) …(式2)
【0044】
バランサモード開始時にメモリ101に記憶させる負荷センサ90の荷重負荷の値(セット値)をWl0(N)とすると、巻き上げ対象セット荷重w0は、次のように算出される。設定ステップのうち、荷重負荷の値(セット値)Wl0をバランサモード開始時にメモリに書き込むステップが、セット荷重設定ステップであり、前述のステップS11において動作モード切替スイッチ151からの信号を確認した時に、すなわちステップ16でバランサモードに切り換える前に、荷重負荷の値(セット値)WL0をメモリに書き込むようにしても良く、セット荷重設定ステップも設定ステップとしても良い。
w0=Wl0/g-(wh+wcm) …(式3)
【0045】
ここで、巻き上げ対象セット荷重のw0は、(式1)より、ロードチェーンC1の繰り出し長さLに応じて変動してしまう。そこで、巻き上げ対象セット荷重のw0が、ロードチェーンC1の繰り出し長さLによって変動しないように、(A)荷重が変動する部分である「ロードチェーンC1のうち繰り出し長さLに対応する部分」と(B)残りの部分の2つに分けてメモリ101に記憶するようにしても良い。なお、(A)「ロードチェーンC1のうち繰り出し長さLに対応する部分」の重量が、巻き上げ対象荷重のw0と比較して無視できる程度に小さい場合には、この(A)の重量を無視するようにしても良い。
【0046】
ここで、作業者が荷P、シリンダ操作装置150または下フック160に対し、持ち上げたり、押し下げたりする力を操作力Ws(N)とする。この操作力のWsは、次のようにして算出される。
Ws=Wl0-Wl …(式4)
なお、(式4)では、操作者が荷Pなどを持ち上げようとすることで、負荷センサ90で測定された荷重負荷Wlはセット値WL0より小さく(軽く)なるので、操作力Wsはプラスとなる。一方、操作者が荷Pなどを押し下げようとすることで、負荷センサ90で測定された荷重負荷WlはWL0より大きく(重く)なるので、操作力Wsはマイナスとなる。
【0047】
ここで、バランサモードでは、巻き上げ対象セット荷重w0(kg)と釣り合う(バランスする)駆動モータ40のモータトルクTm0(Nm)は、減速機構50の減速比をi、ロードシーブ70の作用半径をr(m)とすると、以下の式により算出される。なお、モータトルクTm0は、バランストルクに対応する。
Tm0=(1/i)×r×g×w0…(式5)
【0048】
また、操作力Wsから駆動モータ40の増減モータトルクTh(Nm)を求める式は、以下のようになる。
Th=(1/i)×r×Ws…(式6)
【0049】
以上のように、バランスモードを開始した時点で設定登録した巻き上げ対象セット荷重w0とバランスするモータトルクTm0、操作力Wsおよび増減モータトルクThを求めた後に、ロードチェーンC1のロードシーブ70から繰り出された長さLが、バランサ上限長さUL以下(昇降位置基準では、バランサ上限位置以上)であるか否かを判断する(ステップS17)。ここで、ロードチェーンC1のロードシーブ70から繰り出された長さLおよびバランサ上限長さULとは、図8に示すように、上限リミットスイッチ80が作動する上限位置MT1と、シリンダ操作装置150の上端までの長さ(距離)をL、同じく上限位置MT1と、バランサモードの上限位置であるバランサ上限位置MT2との間の長さ(距離)がULである。なお、バランサ上限位置MT2は、シリンダ操作装置150(下フック160および荷P)の上昇における、ソフト的な上限位置である。かかるバランサ上限位置MT2は、ユーザの設定によって定められても良く、所定の演算式によって算出されても良い。ユーザ設定によって都度定める場合は、後述するスイッチ動作モードで設定可能としている。
【0050】
上記のステップS17の判断において、ロードチェーンC1の繰り出し長さLが、バランサ上限長さUL以下であると判断される場合(Yesの場合)、次に(式4)により求められた作業者の操作力Wsが0よりも大きい(プラスである)か否かを判断する(ステップS18)。
【0051】
すなわち、上記の(式4)で述べたように、操作力Wsがプラスの場合、荷Pに対し、作業者が荷Pを持ち上げる向き(巻き上げ方向)に力を加えていることになる。そのため、ステップS18で、作業者の操作力Wsが0よりも大きい(プラスである)と判断される場合には、制御部100は、次の式(7)で示すトルク指令Tmを作成する(ステップS19)。
Tm=Tm0-Kl×Th…(式7)
【0052】
このように、荷Pの昇降位置範囲を、バランサ上限位置MT2以上の位置範囲を設定し、この設定した位置範囲においては操作力Wsの向きに応じて、規制制御するか否かを判断し、規制が必要な場合には、式(7)により算出したトルク指令Tmを制御部100からドライバ110(サーボドライバ)に出力し駆動モータ40をトルク制御するようにしている。
【0053】
そして、制御部100は、作成されたトルク指令Tmをドライバ110に向けて出力し、ドライバ110は、かかるトルク指令Tmに基づく電力にて駆動モータ40を駆動させる。なお、(式7)で算出されるトルク指令Tmは第2トルク指令値に対応し、(式7)における「-Kl×Th」の値は、キャンセルトルクに対応する。ここで、上記の(式4)においても述べたように、「-Kl×Th」の値は、作業者が荷Pを持ち上げる向きの力を加えたときにマイナスの値となり、作業者が荷Pを押し下げる向きの力を加えたときにプラスの値となり、巻き上げ対象セット荷重w0とバランスするモータトルクTm0にキャンセルトルク「-Kl×Th」を加えることにより、荷Pの昇降を規制することができる。
【0054】
上記の式では、Klは増幅率を表すゲインであるが、ゲインKlの値が機械効率(η)未満となる場合には、作業者の操作力Wsに対し、駆動モータ40が生じさせるトルク指令Tmのうち「-Kl×Th」の部分のトルク指令に対応したモータトルクの値が小さくなり操作力Wsに負けてしまい、位置規制として不十分となる虞がある。そのため、ゲインKlの値は機械効率(η)以上の例えば「1」とすることが好ましく確実である。
【0055】
なお、(式7)においては、バランス状態にある、駆動モータ40のモータトルクTm0から、作業者の操作力Wsに対応した増減モータトルクThを減算している。そのため、作業者が操作力Wsで荷Pを持ち上げようとしても、駆動モータ40には、その操作力Wsをキャンセルした状態のトルク指令Tmで駆動される。したがって、荷Pは、作業者が持ち上げようとしているにも拘わらず、持ち上げ方向には移動しない状態となる。
【0056】
なお、巻上機10の仕様によっては、「-Kl×Th」の値を、上限側および下限側で、作業者がバランサ上限位置MT2またはバランサ下限位置MB2に到達したことを認識できる程度、すなわち、操作感が重くなる程度或いはそれ以上のそれぞれ固定値としても良い。
【0057】
なお、ステップS19の後に、制御部100は、後述するステップS23の判断を行う。
【0058】
また、ステップS17の判断において、ロードチェーンC1の繰り出し長さLが、上限長さULよりも大きい(昇降位置基準では、バランサ上限より下)と判断される場合(Noの場合)、次に、ロードチェーンC1の繰り出し長さLが、バランサ下限長さLL以上(昇降位置基準では、バランサ下限以下)であるか否かを判断する(ステップS20)。ここで、バランサ下限長さLLとは、図8に示すように、上限リミットスイッチ80が作動する上限位置MT1と、バランサモードの下限位置であるバランサ下限位置MB2との間の長さ(距離)である。なお、バランサ上限位置MT2とバランサ下限位置MB2の間の範囲は、第1位置範囲およびバランサ中間位置範囲に対応する。また、上限位置MT1とバランサ上限位置MT2の間、および下限位置MB1とバランサ下限位置MB2の間は、第2位置範囲に対応する。
【0059】
上記のバランサ下限位置MB2は、バランサ上限位置MT2と同様に、シリンダ操作装置150(下フック160および荷P)の巻き下げ(ロードチェーンC1の繰り出し)における、ソフト的な下限位置である。かかるバランサ下限位置MB2は、下限リミットスイッチ81が作動する下限位置MB1よりも上方に位置している。このバランサ下限位置MB2は、ユーザの設定によって定められても良く、所定の演算式によって算出されても良い。また、上限リミットスイッチ80または下限リミットスイッチ81のいずれか一方の信号を、ロードチェーンC1の繰り出し長さ(昇降位置)の基準位置のリセット信号とするようにすることが好ましいが、巻上機10の仕様によっては、上限リミットスイッチ80および下限リミットスイッチ81のいずれも必須の構成要素ではなく、バランサ上限位置MT2またはバランサ下限位置MB2のいずれか一方のみを設定するようにしても良い。
【0060】
上記のステップS20の判断において、ロードチェーンC1の繰り出し長さLが、バランサ下限長さLL以上(昇降位置基準では、バランサ下限位置以下)であると判断される場合(Yesの場合)、次に作業者の操作力Wsが0よりも小さい(マイナスである)か否かを判断する(ステップS21)。
【0061】
すなわち、上記の(式4)で述べたように、操作力Wsがマイナスの場合、荷Pに対し、作業者が荷を押し下げる向きに力を加えていることになる。そのため、ステップS21で、作業者の操作力Wsが0よりも小さい(マイナスである)と判断される場合には、制御部100は、上述したステップS19に進行する。すなわち、(式7)で示すトルク指令Tmを作成する。
【0062】
そして、制御部100は、作成されたトルク指令Tmをドライバ110に向けて出力し、ドライバ110は、かかるトルク指令Tmに基づく電力にて駆動モータ40を駆動させる。
【0063】
なお、荷を押し下げる場合には、Thの符号は、荷を持ち上げる場合とは反対となる。そのため、(式7)において、バランス状態にある、駆動モータ40のモータトルクTm0に、作業者の操作力Wsに対応した「-Kl×Th」を加算したとき、その荷を押し下げる操作力Wsをキャンセルした状態のトルク指令Tmにて、駆動モータ40が駆動される。したがって、荷Pは、作業者が押し下げようと(荷を巻き下げようと)しているにも拘わらず、押し下げ方向には移動しない状態となる。
【0064】
このように、荷Pの昇降位置範囲を、バランサ上限位置MT2以上またはバランサ下限位置MB2以下の位置範囲をそれぞれ、またはいずれか一方を設定し、この設定した位置範囲にあるか無きかをステップS17およびステップS20で判断する(昇降位置範囲確認ステップに対応)。そして、この設定した位置範囲において操作力Wsの向きに応じて、規制制御するか否かをステップS18およびステップS21で判断し、規制が必要な場合には、ステップS19で(式7)により算出したトルク指令Tmを制御部100からドライバ110(サーボドライバ)に出力し駆動モータ40をトルク制御するようにしている(第1、第2バランサモード選択ステップに対応)。
【0065】
また、巻上機10の仕様によっては、「-Kl×Th」の値を、上限側および下限側で、作業者がバランサ上限位置MT2またはバランサ下限位置MB2に到達したことを認識できる程度、すなわち、操作感が重くなる程度にそれぞれ固定値とするようにしても良い。
【0066】
また、上記のステップS20の判断において、ロードチェーンC1の繰り出し長さLが、バランサ下限長さLLよりも小さい(昇降位置基準ではバランサ下限位置MB2より上)と判断される場合(Noの場合)、制御部100は、次の(式8)で示すようなトルク指令Tmを作成し、ドライバ110に送信する(ステップS22)。なお、下記の(式8)のトルク指令Tmは、第1トルク指令値に対応する。また、このステップS22は、バランス制御ステップに対応する。
Tm=Tm0+Kh×Th…(式8)
なお、上述したステップS21の判断において、操作力Wsが、0以上(0またはプラスの値)と判断される場合(Noの場合)にも、上記のステップS22の処理が実行される。また、上記の(式8)において、「Kh×Th」は、アシストトルクに対応する。
【0067】
また、上記の式では、Khは、増幅率を表すゲインであり、駆動モータ40等の機械効率、加速度等を考慮し、実験的に求められる。このゲインKhは、バランサモードでの操作性を良好とするために、1よりも十分に大きな値、例えばTm0に対するKh×Thの値の比が5~20%程度となるように設定されている。なお、巻き上げ時のKhと、巻き下げ時のKhとを異なる値、例えば、巻き上げKhuを巻き下げKhdより小さくするようにしても良い。
【0068】
かかる(式8)から明らかなように、制御部100は、巻き上げ対象セット荷重w0と釣り合う(バランスする)駆動モータ40のモータトルクTm0に、操作力Wsに対応したモータトルクThに対して所定のゲインKhを乗算したアシストトルク「Kh×Th」を加算し、トルク指令Tmを算出している。そのため、荷Pは、軽い力で上下方向に移動させることが可能となっている。
【0069】
このように、トルク指令Tmは、アシストする場合は(式8)あるいは後述する(式9)により算出する第1バランサモードと、アシストしない場合は(式7)により算出する第2バランサモードで制御部100からドライバ110にトルク指令Tmを出力するようにしている。また、第1バランサモードと第2バランサモードで制御する昇降位置範囲を設定登録できるようにしているので、バランサ上限位置MT2および/またはバランサ下限位置MB2で、駆動モータ40のトルク制御を中断すること無く、巻き上げ下げの向きを規制することが可能となる。
【0070】
そして、上記のステップS14、ステップS22、および上述したステップS19の処理を実行した後に、制御部100は、異常信号、または図示しない指令の入力により、バランサモード、スイッチ動作モードからなる駆動モータ40の駆動制御を停止させるか否かを判断する(ステップS23)。この判断において、駆動制御を停止させると判断される場合(Yesの場合)には、各指令等に基づく図示しない、例えばメンテナンスモードなどの処理に移行させると共に、駆動制御である本プログラムを終了する。一方、ステップS23の判断において、本駆動制御を停止させない(継続する)と判断される場合(Noの場合)には、上述したステップS01の判断に戻り駆動制御を継続する。
【0071】
次に、スイッチ動作モードについて説明する。上記のステップS12において、バランサモードではないと判断される場合(Noの場合)、スイッチ動作モードを実行(継続)する(ステップS30)。すなわち、メモリ101からスイッチ動作モードの実行プログラムが読み込まれ、ドライバ110(サーボドライバ)に速度制御モードの指令を出力する。
【0072】
次に、制御部100は、シリンダ操作装置150が備える変位センサ153の確認を行う(ステップS31)。すなわち、可動グリップ152が、どの位置に位置しているのかを、変位センサ153にて確認する。そして、可動グリップ152のスライド位置に基づく、巻き上げおよび巻き下げのセット状態となる。
【0073】
次に、ステップS02,03における設定情報(メモリ101)を参照して、駆動モータ40の巻き上げ方向への駆動が「可」であるか否かを判断する(ステップS32)。すなわち、ステップS13と同様の判断を行う。このステップS32の判断で、駆動モータ40の巻き上げ方向への駆動が行えないと判断される場合(Noの場合)、制御部100は、巻き上げを行う指令があるか否かを判断する(ステップS33)。すなわち、ステップ31の可動グリップ152が、巻き上げ方向にスライドさせられているか否かの確認結果(メモリ101)から判断する。
【0074】
ここで、既にステップS32にて、巻き上げ側の駆動モータ40の駆動が行えない「不可」と判断されている。このため、上記のステップS33の判断で、巻き上げを行う指令があると判断される場合(Yesの場合)、次に、駆動モータ40の巻き上げ方向への駆動停止と、ブレーキ機構60を作動させる処理を行う(ステップS34)。
【0075】
一方、上記のステップS32で駆動モータ40の巻き上げ方向への駆動が行えると判断される場合(Yesの場合)、およびステップS33で巻き上げを行う指令がないと判断される場合(Noの場合)、次に、ステップS05,06における設定情報(メモリ101)を参照して、駆動モータ40の巻き上げ方向への駆動が「可」であるか否かを判断する(ステップS35)。すなわち、ステップS15と同様の判断を行う。このステップS35の判断で、駆動モータ40の巻き上げ方向への駆動が行えない「不可」と判断される場合(Noの場合)、制御部100は、巻き上げを行う指令があるか否かを判断する(ステップS36)。すなわち、ステップS31で可動グリップ152が、巻き上げ方向にスライドさせられているか否かの判断結果(メモリ101)から判断する。
【0076】
ここで、既にステップS35にて、巻き上げ側の駆動モータ40の駆動が行えない「不可」と判断されている。このため、上記のステップS36の判断で、巻き上げを行う指令があると判断される場合(Yesの場合)、次に、駆動モータ40の巻き上げ方向への駆動停止と、ブレーキ機構60を作動させる処理を行う(ステップS37)。
【0077】
一方、上記のステップS35で、駆動モータ40の巻き上げ方向への駆動が行えると判断される場合(Yesの場合)、制御部100は、速度指令を作成して、ドライバ110に出力する(ステップS38)。この速度指令は、ステップS31で可動グリップ152のスライド位置を検出する変位センサ153からの検出信号を記憶したメモリ101の値に基づいて、作成される。
【0078】
次に、駆動モータ40の駆動範囲に関して、図8に示すような、上限長さULおよび下限長さLLをセットする必要(要求)があるか否かを判断する(ステップS39)。すなわち、シリンダ操作装置150の操作環境によっては、ソフト的な上限位置、下限位置の設定を変更した方が好ましい場合がある。そこで、ステップS39にて、上限長さULおよび下限長さLLをセットする(再設定する要求がある)か否かを、例えば切換スイッチからのON信号の長さによって判断している。
【0079】
上記のステップS39の判断で、上限長さULおよび下限長さLLをセットする必要があると判断される場合(Yesの場合)、上限長さULおよび下限長さLLのセットを行う(ステップS40)。すなわち、シリンダ操作装置150の作動範囲がソフト的に定められる。なお、このステップS40の処理の後に、制御部100は、上述したステップS23で説明したように、駆動モータ40の駆動制御を停止させるか否か(継続するか)を判断する。
【0080】
また、ステップS39の判断で、上限長さULおよび下限長さLLをセットする必要がないと判断される場合(Noの場合)にも、制御部100は、上述したステップS23で説明したように、駆動モータ40の駆動制御を停止させるか否か(継続するか)を判断する。
【0081】
以上のような制御フローが、巻上機10の駆動モータ40を駆動させる際に、実行される。
【0082】
<3.効果について>
以上のように、巻上機本体部20からロードチェーンC1の巻き上げおよび巻き下げを行うことで、荷Pの昇降を行う巻上機10および巻上機10の制御方法では、巻上機本体部20に配置され、ロードチェーンC1が掛け回されていると共に、回転に応じてロードチェーンC1を巻き上げおよび巻き下げするロードシーブ70と、巻上機本体部20に配置され、ロードシーブ70を回転させる駆動力を生じさせる駆動モータ40と、巻上機本体部20に配置され、駆動モータ40の駆動を制御するモータ制御手段(制御部100およびドライバ110)と、荷Pを吊り下げるロードチェーンC1によりロードシーブ70に掛かる負荷トルクおよび操作者が荷を巻き上げ・巻き下げ方向に操作する操作力を検知する負荷検知手段(負荷センサ90および制御部100の一部)とを備える。そして、モータ制御手段(制御部100およびドライバ110)は、負荷検知手段(負荷センサ90および制御部100の一部)で検知した負荷トルクに基づいてトルク制御を行うバランサモードで駆動モータ40の駆動を制御可能であると共に、当該バランサモードにおいて、操作力Wsをアシストするアシストトルク(Kh×Th)を加えた第1トルク指令値(上記の(式8)により算出されるトルク指令値(Tm))に基づいて駆動モータ40の駆動を制御する第1バランサモードと、操作力Wsをアシストしない第2トルク指令値(上記(式7)により算出されるトルク指令値(Tm))に基づいて駆動モータ40を制御する第2バランサモードとを、有し、操作力Wsの向きが巻き上げ・巻き下げ方向のいずれの向きでも、第1バランスモードで制御する第1位置範囲と、操作力Wsの向きに応じて、第位置バランサモードで制御するか、第2バランサモードで制御をするかを選択的に制御する第2位置範囲に、昇降位置範囲を設定することを特徴としている。
【0083】
このため、駆動モータ40に対するトルク制御により、バランサモードにおいて、釣り合い状態の維持、操作力に応じたアシストを行うことを可能となる。また、トルク制御を行うバランサモードで駆動モータ40を制御していても、トルク制御を中断することなく、昇降位置によって巻き上げ・巻き下げを規制することが可能となる。
【0084】
また、駆動モータ40のトルク制御では、バランス位置範囲においては、第1トルク指令値は、(式8)に基づいて算出している。このため、荷Pのバランス位置範囲内において、荷Pの位置を問わずに第1トルク指令値のみで制御するので、制御が複雑化せずに済む。また、かかる第1トルク指令値に基づくトルク制御は、バランサ上限位置MT2およびバランサ下限位置MB2以外は、荷Pの位置を問わないバランス状態を最適に維持することが可能となる。
【0085】
また、バランサ上限位置MT2およびバランサ下限位置MB2においては、第2トルク指令値は、(式7)に基づいて算出している。このため、バランサ上限位置MT2およびバランサ下限位置MB2においても、操作力Wsをキャンセルする向きのトルク成分を含んだトルク指令値に基づいて駆動モータ40を駆動するので、駆動モータ40の制御指令が複雑化せずに済む。また、駆動モータ40がバランサ上限位置MT2およびバランサ下限位置MB2で停止する際に、トルク指令値以上の力が掛からないので、巻上機本体部20等の構造部位に、余分な衝撃が加わるのを防止することが可能となる。
【0086】
また、本実施の形態では、第1位置範囲は、バランサモードにおけるバランサ上限位置MT2とバランサ下限位置MB2との間のバランス位置範囲(バランサ中間位置)とし、第2位置範囲は、バランサ上限位置MT2以上の位置範囲および/またはバランサ下限位置MB2以下の位置範囲に設定可能としている。これによって、バランサ上限位置MT2以上の範囲では、操作力Wsの向きが巻き下げ方向の場合にのみアシストトルクを加えたトルク指令Tmにより巻き下げ運転が可能となり、バランサ下限位置MB2以下の範囲では、操作力Wsの向きが巻き上げ方向の場合にのみアシストトルクを加えたトルク指令Tmにより巻き上げ運転が可能となる。したがって、それぞれの場合において、操作力Wsが逆向きの場合には巻き上げ・巻き下げ運転がそれぞれ規制されるので、トルク制御においても中断することなくバランサ上限・下限を規制する制御が可能となる。なお、バランサ上限・下限を規制する制御は、両方で有効とすることが可能であるが、いずれか一方、例えば、バランサ上限でのみ規制する制御を行うことも可能である。
【0087】
また、本実施の形態では、第1バランサモードの第1トルク指令値Tmは、巻き上げ手段(ロードシーブ70)で巻き上げる巻き上げ対象負荷(g×w0)に基づき巻き上げ手段(ロードシーブ70)に掛かる負荷トルク(Tm0)を設定登録し、該設定登録した負荷トルクに操作力をアシストするアシストトルク(Kh×Th)を加えたトルク指令(Tm)とし、第2バランサモードの第2トルク指令値は、設定登録した負荷トルク(Tm0)から操作力Wsをキャンセルするキャンセルトルク(-Kl×Th)を加えたトルク指令値とする制御を行うことが可能である。
【0088】
このため、バランサモードにおいて、釣り合い状態の維持、操作力に応じたアシストを行うことを可能となる。また、トルク制御を行うバランサモードで駆動モータ40を制御していても、トルク制御を中断することなく、昇降位置によって巻き上げ・巻き下げを規制することが可能となる。
【0089】
また、本実施の形態では、モータ制御手段(制御部100およびドライバ110)は、バランサ上限位置MT2およびバランサ下限位置MB2を、任意の高さ位置に設定可能としている。このため、作業者が巻上機10を用いる環境に応じて、バランス位置範囲を適切な範囲に設定することができるので、たとえば荷Pが作業者の手が届く範囲を超えて上昇し過ぎたり、作業者が屈んだ姿勢を取らないと荷Pを持ち上げられない範囲まで荷Pが降下せずに済む。そのため、作業の効率を向上させることができる。
【0090】
また、本実施の形態では、巻上機10は、操作装置(シリンダ操作装置150)を備えるが、このシリンダ操作装置150は、動作モード切替スイッチ151と、操作手段(可動グリップ152)とを有すると共に、操作手段(可動グリップ152)の操作に応じて駆動モータ40を駆動させる。また、モータ制御手段(制御部100およびドライバ110)は、動作モード切替スイッチ151のスイッチ操作に応じて、バランサモードと、スイッチ動作モードとを切り替え可能としている。また、スイッチ動作モードでは、モータ制御手段(制御部100およびドライバ110)は、操作手段(可動グリップ152)の操作に基づいて駆動モータ40を制御している。
【0091】
このため、動作モード切替スイッチ151のスイッチ操作により、駆動モータ40の動作モードを、バランサモードとスイッチ動作モードとの間で切り替えることができる。すなわち、作業者が、作業内容に応じて、駆動モータ40の駆動を適切な動作モードに切り替えられるので、作業性を向上させることが可能となる。なお、スイッチ動作モードに切り替えた場合には、操作手段(可動グリップ152)の操作によって、荷Pを所望の位置に昇降させることが可能となる。
【0092】
また、本実施の形態では、駆動モータ40は、エンコーダ41を備えるサーボモータであり、モータ制御手段は、制御に関する指令値を出力する制御部100と、指令値に基づいて制御された電力を駆動モータ40に供給するサーボドライバ110を備える。また、操作手段は、スライド可能なスライド範囲内でスライドするスライド手段(可動グリップ152)を備えると共に、モータ制御手段(制御部100およびサーボドライバ110)は、スライド手段(可動グリップ152)のスライド量に応じて、駆動モータ40の速度を制御する速度制御を行う。
【0093】
このため、スライド手段(可動グリップ152)のスライド量に応じて、駆動モータ40を適切な駆動速度に調整することができる。それにより、荷Pを昇降させる際の作業性を向上させることが可能となる。
【0094】
<変形例>
以上、本発明の各実施の形態について説明したが、本発明はこれ以外にも種々変形可能となっている。以下、それについて述べる。
【0095】
上述の実施の形態では、(式1)から(式8)の各式において、必要に応じて、算出される各値の補正を行うようにしても良い。たとえば、駆動モータ40を使用すると発熱するが、モータを構成する磁石やコイルの導線は、温度によって特性が変化する。そこで、これら温度による特性の変化を加味して、上記の(式1)から(式8)の各式に対し、所定の補正を行うようにしても良い。
【0096】
また、上述の実施の形態においては、制御部100は、(式5)に基づいて、巻き上げ対象セット荷重w0と釣り合う駆動モータ40のモータトルクTm0を求めている。なお、上記のように、巻き上げ対象セット荷重w0は、(式3)において説明したように、バランサモード開始時にメモリ101に記憶させる負荷センサ90の荷重(負荷)Wl0から算出した値となっている。しかしながら、バランサモード開始時ではなく、たとえば現在を含む所定の測定タイミングにおいて、負荷センサ90で測定される荷重(負荷)Wlから算出した巻き上げ対象荷重wにより、モータトルクTm0を求めるようにしても良い。
【0097】
かかる巻き上げ対象荷重wを用いる場合、モータトルクTm0を求める式は、以下のようになる。
Tm0=(1/i)×r×g×w…(式9)
この(式9)で算出したモータトルクTm0を、前述の(式7)(式8)に代入してトルク指令Tmを算出するようにしても良い。
【0098】
また、上述の実施の形態では、制御部100は、(式7)に基づいて、バランサ上限位置MT2およびバランサ下限位置MB2での駆動モータ40の駆動を制御している。しかしながら、巻き上げ対象荷重wを基に(式9)により算出したモータトルクTm0は、操作力Wsを含めてバランスさせているので、(式7)において、ゲインKlを0としても良い。このようにゲインKlを0としても、機械効率(伝達効率)の関係により、荷Pの昇降を停止させることができる。
【0099】
また、前述の(式8)では、モータトルクTm0にアシストトルク「Kh×Th」を加算してトルク指令Tmを算出するようにしているが、操作力WsとモータトルクTm0に比例してトルク指令が増減するようにトルク指令Tmを算出(式10)するようにしても良い。
Tm=Khr×Ws×Tm0…(式10)
(式10)のトルク指令Tmは、モータトルクTm0にモータトルク「(Khr×Ws-1)×Tm0」を加算したものであり、モータトルク「(Khr×Ws-1)×Tm0」はアシストトルクに対応する。Khrは増幅率を表すゲインであり、巻上機の仕様により予め決められる係数である。
【0100】
トルク指令Tmを、(式10)を用いて算出することにより、荷Pの荷重の大きさに係わらず、駆動モータ40の仕様が許す範囲で、操作力Wsに比例した加速度で荷Pを昇降させることができる。荷Pの昇降作業の内容、または荷Pの荷重に応じて、(式8)または(式10)を選択または組み合わせてバランサモードによる駆動制御を行えば良い。なお、駆動モータ40の最大回転数(巻き上げ速度)は、予め所定の値に設定登録されている。ゲインKhrもゲインKhと同様に巻き上げと巻き下げで異なる値に設定してもよく、荷Pの荷重の大小によっても増減、例えば荷重が所定以上の場合の加速度の伸びを小さくするなど、巻上機が使用される作業環境に応じて設定するようにしても良い。
【符号の説明】
【0101】
10…巻上機、20…巻上機本体部、21…ハウジング、30…上フック、40…駆動モータ、41…エンコーダ、50…減速機構、60…ブレーキ機構、70…ロードシーブ、80…上限リミットスイッチ、81…下限リミットスイッチ、90…負荷センサ、100…制御部(モータ制御手段の一部に対応)、101…メモリ、110…ドライバ(モータ制御手段の一部に対応)、150…シリンダ操作装置(操作装置に対応)、151…動作モード切替スイッチ(スイッチ手段に対応)、152…可動グリップ(操作手段およびスライド手段に対応)、153…変位センサ、160…下フック、170…チェーンバケット、C1…ロードチェーン、LL…下限長さ、MT1…上限位置、MT2…バランサ上限位置、MB1…上限位置、MB2…バランサ下限位置、P…荷、UL…上限長さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8