(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】溶接品質判定のための溶接シグネチャ解析
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20230830BHJP
B23K 9/095 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
B23K31/00 K
B23K9/095 515Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019045384
(22)【出願日】2019-03-13
【審査請求日】2022-02-07
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510202156
【氏名又は名称】リンカーン グローバル,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】マシュー エー.オルブライト
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-535936(JP,A)
【文献】特開2001-321949(JP,A)
【文献】特開2011-079434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00
B23K 9/095
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接品質を判定する方法であって、
第1の形状を有する基準溶接シグネチャを提供するステップと、
溶接パラメータの溶接シグネチャを捕捉するステップであって、前記溶接パラメータの前記溶接シグネチャは、第2の形状を有する、ステップと、
前記第1の形状を前記第2の形状と自動的に比較し、且つ前記第1の形状と前記第2の形状との間の溶接シグネチャ形状に関する形状差情報を特定するステップと、
前記形状差情報に基づいて溶接不良状態を判定するステップと
、
溶接ビードの溶接継続時間を特定するステップと、
前記溶接ビードの前記溶接継続時間を不良解析継続時間閾値と比較するステップと、
前記溶接ビードの前記溶接継続時間を前記不良解析継続時間閾値と比較するステップの結果に基づいて、溶接シグネチャ形状に基づく溶接不良解析ルーチン及び溶接パラメータ値に基づく溶接不良解析ルーチンの一方を選択するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記溶接パラメータは、複数の溶接パラメータを含み、及び前記第2の形状は、前記複数の溶接パラメータのそれぞれに基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の形状を前記第2の形状と自動的に比較し、且つ形状差情報を特定する前記ステップは、前記第1の形状と前記第2の形状との間の複数の形状差情報を特定することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記溶接パラメータの前記溶接シグネチャを上限及び下限の少なくとも一方と比較するステップを更に含み、前記溶接不良状態の判定は、前記形状差情報と、前記溶接パラメータの前記溶接シグネチャを前記上限及び前記下限の前記少なくとも一方と比較する前記ステップの結果との両方に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記溶接不良状態は、前記溶接パラメータの前記溶接シグネチャの一部が前記上限及び前記下限の前記少なくとも一方を超える場合に存在すると判定される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記溶接パラメータの前記溶接シグネチャを上限及び下限の両方と比較するステップを更に含み、前記溶接不良状態の判定は、前記形状差情報と、前記溶接パラメータの前記溶接シグネチャを前記上限及び前記下限の両方と比較する前記ステップの結果との両方に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記溶接不良状態は、前記形状差情報が所定の限界を超える場合又は前記溶接パラメータの前記溶接シグネチャの一部が前記上限若しくは前記下限を超える場合のいずれかに存在すると判定される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
溶接ビードを溶接している間に溶接電源によって前記溶接パラメータを監視するステップと、
前記監視される溶接パラメータをコンピューティング装置に送信するステップと
を更に含み、前記コンピューティング装置は、前記第1の形状を前記第2の形状と自動的に比較し、且つ前記第1の形状と前記第2の形状との間の前記形状差情報を特定する前記ステップと、前記形状差情報に基づいて前記溶接不良状態を判定する前記ステップとを実施する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
プロセッサによって実行されたときに、前記プロセッサに請求項1ないし
8のいずれか1項に記載の方法を行わせるように構成されている、コンピュータプログラム。
【請求項10】
溶接品質を判定する方法であって、
不良解析継続時間閾値を提供するステップと、
溶接ビードの溶接シグネチャを取得するステップであって、前記溶接シグネチャは、形状を有する、ステップと、
前記溶接ビードの溶接継続時間を特定するステップと、
前記溶接ビードの前記溶接継続時間を前記不良解析継続時間閾値と比較するステップと、
前記溶接ビードの前記溶接継続時間が前記不良解析継続時間閾値よりも大きい場合、パラメータ値に基づく不良解析ルーチンであって、少なくとも1つの溶接パラメータ値を所定の限界値と比較することを含む、パラメータ値に基づく不良解析ルーチンを実施するステップと、
前記溶接ビードの前記溶接継続時間が前記不良解析継続時間閾値よりも小さい場合、シグネチャ形状に基づく不良解析ルーチンであって、前記溶接シグネチャの前記形状を基準溶接シグネチャ形状と比較することを含む、シグネチャ形状に基づく不良解析ルーチンを実施するステップと
を含む方法。
【請求項11】
前記溶接ビードを溶接している間に溶接電源によって溶接パラメータを監視するステップと、
前記監視される溶接パラメータをコンピューティング装置に送信するステップと
を更に含み、前記コンピューティング装置は、前記溶接ビードの前記溶接継続時間を前記不良解析継続時間閾値と比較するステップを実施し、且つ前記パラメータ値に基づく不良解析ルーチン及び前記シグネチャ形状に基づく不良解析ルーチンの一方を前記溶接ビードに対して実施する、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
前記シグネチャ形状に基づく不良解析ルーチンは、
前記溶接シグネチャの前記形状と前記基準溶接シグネチャ形状との間の溶接シグネチャ形状に関する形状差情報を特定するステップと、
前記形状差情報に基づいて溶接不良状態を判定するステップと
を更に含む、請求項
10に記載の方法。
【請求項13】
前記シグネチャ形状に基づく不良解析ルーチンは、
前記溶接シグネチャを上限及び下限の少なくとも一方と比較するステップと、
前記形状差情報と、前記溶接シグネチャを前記上限及び前記下限の前記少なくとも一方と比較することの結果との両方に基づいて溶接不良状態を判定するステップと
を更に含む、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
前記溶接不良状態は、前記溶接シグネチャの一部が前記上限及び前記下限の前記少なくとも一方を超える場合に存在すると判定される、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
前記シグネチャ形状に基づく不良解析ルーチンは、
前記溶接シグネチャを上限及び下限の両方と比較するステップと、
前記形状差情報と、前記溶接シグネチャを前記上限及び前記下限の両方と比較することの結果との両方に基づいて溶接不良状態を判定するステップであって、前記溶接不良状態は、前記形状差情報が所定の限界を超える場合又は前記溶接シグネチャの一部が前記上限若しくは前記下限を超える場合のいずれかに存在すると判定される、ステップと
を更に含む、請求項
12に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接の品質を判定することに関し、特に溶接の品質を判定するための溶接シグネチャ形状に基づく手法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶接動作中に電圧及び電流などの溶接パラメータが監視され、これらのパラメータを使用して、溶接結果の品質を判定することができる。1つ以上のパラメータの値をそのパラメータの合格レベルと比較することにより、その溶接が合格であるか又は不合格であるかを判定することができる。より高度な溶接品質判定手法では、溶接の全体品質を定量化する全体溶接スコアを生成するために、複数の溶接パラメータを測定し、且つ複数の品質パラメータを計算することが必要である。そのような手法は、参照により本明細書に組み込まれるDanielへの(特許文献1)に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述されたようなパラメータ値に基づく溶接品質又は不良の解析ルーチンの問題は、それらのルーチンが、パラメータを合格又は不合格として正確に特性化するために、溶接パラメータがほぼ安定状態に達することを必要とし得ることである。溶接の継続時間が非常に短い場合(例えば、1秒未満の場合)、パラメータが適切な安定状態に達しない可能性があり、そのため、自動化された溶接品質判定方法は、不正確になるか又は溶接を適正に特性化できない場合がある。そのような短い継続時間の溶接の溶接品質を、監視対象の溶接パラメータの不安定さにほとんど影響されない方法で自動判定することが望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下の概要は、本明細書に記載の装置、システム、及び/又は方法の幾つかの態様の基本的な理解が得られるようにするための簡略化された概要を提示する。この概要は、本明細書に記載の装置、システム、及び/又は方法の包括的な概観ではない。これは、そのような装置、システム、及び/又は方法の重要な要素を明らかにすること又はそれらの範囲を線引きすることを意図していない。その唯一の目的は、後述される詳細な説明の前触れとして幾つかの概念を簡潔に提示することである。
【0006】
本発明の一態様によれば、溶接品質を判定する方法が提供される。本方法は、第1の形状を有する基準溶接シグネチャを提供するステップを含む。溶接パラメータの溶接シグネチャが捕捉され、溶接パラメータの溶接シグネチャは、第2の形状を有する。第1の形状が第2の形状と自動的に比較され、及び第1の形状と第2の形状との間の溶接シグネチャ形状差が特定される。溶接シグネチャ形状差に基づいて溶接不良状態が判定される。
【0007】
本発明の別の態様によれば、コンピュータで実行可能な命令を記憶している非一時的コンピュータ可読記憶媒体が提供され、この命令は、実行されると、第1の形状を有する基準溶接シグネチャを取り出すことを行うようにプロセッサを構成する。この命令は、溶接ビードパラメータの溶接シグネチャを取得することであって、溶接ビードパラメータの溶接シグネチャは、第2の形状を有する、取得することを行うようにプロセッサを更に構成する。この命令は、第1の形状を第2の形状と比較し、且つ第1の形状と第2の形状との間の溶接シグネチャ形状差を特定することと、溶接シグネチャ形状差に基づいて溶接不良状態を判定することとを行うようにプロセッサを更に構成する。
【0008】
別の態様によれば、溶接品質を判定する方法が提供される。この方法は、不良解析継続時間閾値を提供するステップを含む。溶接ビードの溶接シグネチャが取得され、溶接シグネチャは、形状を有する。溶接ビードの溶接継続時間が特定される。溶接ビードの溶接継続時間が不良解析継続時間閾値と比較される。溶接ビードの溶接継続時間が不良解析継続時間閾値よりも大きい場合、パラメータ値に基づく不良解析ルーチンであって、少なくとも1つの溶接パラメータ値を所定の限界値と比較することを含む、パラメータ値に基づく不良解析ルーチンが実施される。溶接ビードの溶接継続時間が不良解析継続時間閾値よりも小さい場合、シグネチャ形状に基づく不良解析ルーチンであって、溶接シグネチャの形状を基準溶接シグネチャ形状と比較することを含む、シグネチャ形状に基づく不良解析ルーチンが実施される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図6】例示的なコンピューティング装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施形態は、溶接の品質を判定するシステム及び方法に関する。ここで、図面を参照しながら、それらの実施形態について説明する。全体を通して、類似の要素を参照するために類似の参照符号を用いる。当然のことながら、各種の図面は、異なる図面間でも所定の図面中でも縮尺が必ずしも正確ではなく、特に、各構成要素のサイズは、図面が理解されやすいように恣意的に描かれている。以下の記述では、説明を目的として、本発明が十分に理解されるようにするために多数の具体的な詳細を示す。しかしながら、それらの具体的な詳細がなくても本発明が実施され得ることは明らかであろう。更に、本発明の別の実施形態も可能であり、本発明は、記載されている様式とは別の様式でも実践及び実施され得る。本発明の説明に用いられる術語及び語句は、本発明の理解を促進する目的で採用されており、限定として解釈されるべきではない。
【0011】
図1は、例示的な溶接システム100を示す。例示的な溶接システム100は、電気アークトーチ104(例えば、アーク溶接トーチ)を操作するロボット102を含む。しかしながら、溶接システム100は、ロボット102を含まなくてもよく、人間が電気アークトーチ104を操作する手動溶接システムでもあり得る。ロボット102は、6軸関節の産業用ロボットであり得、又は別のタイプのロボット、例えば軌道パイプ溶接機などであり得る。
【0012】
説明しやすいように、システム100の態様は、アーク溶接トーチを使用する電気アーク溶接システムに関連して説明される。しかし、当然のことながら、そのような態様は、他のタイプのアーク金属積層システム、例えば積層造形システムなどにも適用可能である。更に、システム100は、特定の溶接法に限定されず、様々な溶接法を実施するために使用され得、そのような溶接法として、ガスタングステンアーク溶接(GTAW)、ガス金属アーク溶接(GMAW)、フラックスコアードアーク溶接(FCAW)、スティック溶接(SMAW)、サブマージアーク溶接(SAW)等がある。
【0013】
トーチ104は、電極106(例えば、消耗ワイヤ電極)を含み得、これによりトーチと被加工物110との間にアーク108が発生して、被加工物に対する溶接動作が実施される。ロボット102が溶接中のトーチ104の動きを制御することにより、被加工物110に対するプログラム溶接動作が実施される。プログラム溶接動作は、継続時間が様々である複数の溶接ビードの溶接を含み得る。
【0014】
システム100は、電源120を含む。電源120は、アーク108を発生させるためにトーチ104に出力される電力を供給する。電源120は、入力される電力(例えば、商用電力)を、被加工物110に対する溶接動作を実施するための適切なアーク波形(例えば、溶接波形)に変換する。電源120は、所望のアーク波形を生成する電子回路(例えば、PWMインバータ、チョッパ等)を含み得る。電源120は、被加工物110に対して実施される動作の様々なパラメータ(例えば、電圧、電流、ワイヤ送り速度、ACバランス等)を調節し、且つ溶接中の溶接波形を制御するためのプロセッサ、メモリ、及びユーザインタフェース122を更に含み得る。
【0015】
システム100は、システムによって実施された溶接の品質を判定することができるコンピューティング装置112を更に含む。コンピューティング装置112は、ユーザインタフェース114を有し、これにより、ユーザは、現在の被加工物110に対して実施された溶接の品質に関する情報又は過去に溶接された被加工物に対して実施された溶接の品質に関する履歴情報を見ることができる。コンピューティング装置112は、溶接の品質に関する情報を、ローカルエリアネットワーク又はワイドエリアネットワークを介してリモート装置(図示せず)に出力又は送信することもでき、そのようなリモート装置として、リモートコンピューティング装置又はヒューマンマシンインターフェース、アラームシステム、モバイル通信装置等がある。
【0016】
電源120は、溶接動作中に様々な溶接パラメータ(例えば、溶接電圧、電流、ワイヤ送り速度等)を監視し、これらの溶接パラメータを有線又は無線の通信リンクでコンピューティング装置112に送信する。特定の実施形態では、溶接パラメータをコンピューティング装置112に伝達することは、リアルタイムで行われ得、これにより、操作者は、不良溶接のアラートをその発生時点で受け取ることができる。コンピューティング装置112は、それらの溶接パラメータの1つ以上を処理して溶接シグネチャを捕捉し、その溶接シグネチャに基づいて溶接不良状態を判定する。コンピューティング装置112はまた、溶接シグネチャを電源120から取得し得る。特定の実施形態では、コンピューティング装置112は、システム100によって行われた溶接の品質に基づいて電源120の設定を調節し得る。後述されるように、コンピューティング装置112は、パラメータ値に基づく不良解析ルーチン(例えば、少なくとも1つの溶接パラメータ値を所定の限界値と比較すること)、及び/又はシグネチャ形状に基づく不良解析ルーチン(例えば、溶接パラメータの溶接シグネチャの形状を基準の溶接シグネチャ形状と比較すること)のいずれかを実施し得る。
【0017】
パラメータ値に基づく溶接品質又は不良の解析ルーチンは、パラメータを正確に特性化し、溶接結果を合格又は不合格として正確に特性化するために、対象のパラメータがほぼ安定した状態に達することを必要とし得る。溶接の継続時間が非常に短い場合(例えば、1秒未満の場合)、パラメータが適切な安定状態に達しない可能性があり、そのため、パラメータ値に基づく溶接品質解析ルーチンは、不正確になるか又は溶接を合格又は不合格として適正に特性化できない場合がある。
【0018】
図2は、「不安定な」溶接パラメータの例を示し、これは、合格の溶接を示しているが、パラメータ値に基づく溶接品質解析ルーチンに対して適切ではないであろう。
図2は、溶接ビードの溶接中の溶接電流の例示的な溶接シグネチャ200を示す。
図2には溶接電流シグネチャが示されているが、溶接シグネチャ200は、溶接シグネチャ形状に基づく不良解析ルーチンで使用され得る任意の数の様々な溶接パラメータを示すことが想定されている。溶接シグネチャ200には、3つの状態:開始ルーチン202、終了ルーチン204、及び溶接部分206がある。溶接電流は、溶接部分中に増加し、ほぼ安定した状態に達しないことが分かり得る。パラメータ値に基づく溶接品質解析ルーチンは、典型的には、開始ルーチン202及び終了ルーチン204を、これらの部分におけるパラメータの値が明らかに不安定であることから破棄し、溶接部分206のみの値(例えば、電流の平均値、電流の中央値等)を解析する。しかしながら、溶接部分206の継続時間が短く、パラメータが、図示されているようなほぼ安定した状態に達しない場合、所定の「正常」な限界値又は限界値範囲からのパラメータのずれを正確に特定することが困難である可能性がある。例えば、溶接部分206の不安定さを吸収するために合格限界値の範囲を広くすると、合格の溶接だけでなく、(例えば、被加工物に対して溶接電極が短すぎることによる)不合格の溶接がその広い範囲に取り込まれる可能性が高くなる。逆に、パラメータの合格限界値の範囲を狭くすると、溶接パラメータが不安定であり、適正な特性化が困難であることから、合格の溶接の一部に不良のフラグが付けられる可能性が高くなる。
【0019】
任意の継続時間の溶接、特に例えば溶接部分206が1秒未満の場合の短い継続時間の溶接について、シグネチャ形状に基づく不良解析ルーチンを用いることにより、合格の溶接であるか又は溶接不良状態であるかを判定し得る。シグネチャ形状に基づく不良解析ルーチンでは、捕捉された溶接シグネチャとの比較のための基準溶接シグネチャがコンピューティング装置112(
図1)によって与えられ、溶接シグネチャの形状が基準溶接シグネチャ形状と比較されて、その2つの間の溶接シグネチャ形状差が特定される。溶接シグネチャ形状差は、基準形状と、捕捉された溶接シグネチャの形状との間の差の度合いである。従って、その溶接シグネチャ形状差に基づいて、溶接不良状態であるか又は合格の溶接であるかが判定される。
【0020】
図3は、捕捉された溶接シグネチャ200の上下に例示的な基準溶接シグネチャ208、210を示す。基準溶接シグネチャは、シグネチャ形状に基づく不良解析ルーチン中に取り出されて使用されるようにコンピューティング装置112(
図1)に記憶され得る。特定の実施形態では、コンピューティング装置112は、機械学習手法及びパターン認識を用い、既知の良好な溶接シグネチャと既知の不良の溶接シグネチャとをトレーニングデータすることにより、基準溶接シグネチャを学習し得る。
【0021】
コンピューティング装置112(
図1)は、捕捉された溶接シグネチャ200の形状を1つ以上の基準溶接シグネチャ208、210の形状と自動的に比較して、溶接シグネチャ形状差を特定する。溶接部分の開始又は終了など、溶接シグネチャ200の重要な特徴を識別することが必要である場合があるため、それは、基準溶接シグネチャの対応する部分と位置合わせされ得る。位置合わせされると、溶接シグネチャ200上及び基準溶接シグネチャ上の複数の点が比較されて複数の形状差が特定され得、そのような形状差は、大きさの差、勾配の差、二次導関数の差等であり得る。溶接シグネチャ200及び基準溶接シグネチャの特定の部分の継続時間の比較も両方の形状比較の一環として行われ得る。例えば、開始ルーチンの最後の電流の一時的減少の継続時間が比較され得、又は溶接部分の継続時間が比較され得る。特定の形状が溶接シグネチャ200内で識別され、対応するコードによるものなど、溶接シグネチャを定義又は記述するためにも使用され得る。このコードが基準溶接シグネチャの同様のコードと比較されて、溶接シグネチャ形状差が特定され得る。更に、溶接シグネチャ200の形状が基準溶接シグネチャの形状と十分に一致しているかどうかを判定することは、形状間の類似性/差異に基づいて一致スコアが生成されるバイオメトリック識別と類似した手法を必要とし得る。一致スコアが所定の閾値より高い場合又は溶接シグネチャ形状差が所定の限界よりも小さい場合、その溶接は、合格とされる。一致スコアが閾値を下回る場合又は溶接シグネチャ形状差が所定の限界を超える場合、溶接不良状態が存在すると判定される。また、溶接シグネチャの特定の部分の形状特性に対し、その溶接シグネチャの他の部分より重い重みが付けられ得る。例えば、開始ルーチン202(
図2)中のピークから溶接部分206中の最小値にかけての溶接電流の勾配は、溶接品質を判定することに関して、終了ルーチン204中の溶接シグネチャの形状よりも重要であり得る。そのため、終了ルーチン中の溶接シグネチャ200の形状は、形状比較時に考慮に入れられて(即ち排除されないで)よいが、溶接シグネチャの他のより情報の多い部分よりも軽い重みが付けられ得る。当業者であれば理解されるように、溶接不良状態の存在を判定する際には様々な形状比較方法が実施され得る。
【0022】
シグネチャ形状に基づく不良解析ルーチンは、溶接ビードの溶接中に捕捉された複数の溶接パラメータ(例えば、溶接の電圧、電流、ワイヤ送り速度等)の形状を解析することを含み得る。捕捉された溶接シグネチャと基準溶接シグネチャとの間の形状差を一緒に検討することにより、全体的な形状差が特定され得、これにより、従って、溶接不良状態が存在するかどうかが判定される。例えば、それらの形状差を合計又は平均することにより、全体的な形状差が特定され得る。特定の実施形態では、様々なパラメータの捕捉された溶接シグネチャは、対応する基準溶接シグネチャと個別に比較される。代替として、複数の監視される溶接パラメータを組み合わせることで多次元溶接シグネチャが形成され得、この多次元溶接シグネチャの形状が多次元基準溶接シグネチャと比較され得る。
【0023】
シグネチャ形状に基づく不良解析ルーチンは、溶接シグネチャ200を上限及び/又は下限の基準溶接シグネチャと比較することを更に含み得る。
図3には、例示的な上限基準溶接シグネチャ208及び下限基準溶接シグネチャ210が示されている。上限基準溶接シグネチャ208及び下限基準溶接シグネチャ210は、捕捉された溶接シグネチャ200との形状比較に関して、その溶接シグネチャと類似した形状又は特徴を有し得る。捕捉された溶接シグネチャ200の一部が限界基準溶接シグネチャ208、210の一方を超える場合、溶接不良が存在すると判定され得る。即ち、捕捉された溶接シグネチャ200の一部が、上限208と下限210とで与えられるシグネチャ窓の外側にあると(例えば、上限208より上方又は下限210より下方にあると)、溶接不良が存在すると判定される。溶接不良状態の判定は、捕捉された溶接シグネチャ200と基準溶接シグネチャ208、210との間の溶接シグネチャの形状差の解析、並びに溶接シグネチャと上限208及び下限210の一方又は両方との比較の両方に基づき得る。形状差試験又は限界試験のいずれも、不良溶接が行われたかどうかの判定につながり得る。例えば、捕捉された溶接シグネチャが上限208と下限210との間にとどまっていても、形状が基準溶接シグネチャとかなり異なっていれば不良と見なされ得る。同様に、捕捉された溶接シグネチャが基準溶接シグネチャと非常に類似した形状であっても、上限208又は下限210のいずれかを超えていれば、たとえそれが形状のみに基づく不良解析では問題がなくても、やはり不良と見なされ得る。
【0024】
特定の実施形態では、溶接シグネチャ形状に基づく溶接不良解析ルーチンは、溶接パラメータ値に基づく溶接不良解析ルーチンと組み合わされ得る。そのような手法は、継続時間が様々である溶接が被加工物に対して実施されるとき、幾つかの溶接が、パラメータ値に基づく不良解析ルーチンが溶接品質を正確に判定するのに十分な長さであり、幾つかの溶接が、パラメータ値に基づく不良解析ルーチンには短すぎる場合に有用となり得る。コンピューティング装置112(
図1)は、個々の溶接ビードに対する溶接継続時間を特定することができる。溶接継続時間は、(例えば、開始ルーチン202から終了ルーチン204までの)溶接ビード全体から計算され得、又は(パラメータ値に基づく不良解析ルーチンでは、開始ルーチン及び終了ルーチンが破棄されることが多いことから)溶接部分206(
図2)のみから計算され得る。コンピューティング装置112は、記憶されている不良解析継続時間閾値(例えば、2秒、1秒、500ミリ秒等)を取り出し得る。従って、溶接継続時間が不良解析継続時間閾値と比較され、この比較の結果に基づいて、シグネチャ形状に基づく溶接不良解析ルーチン及びパラメータ値に基づく溶接不良解析ルーチンのいずれかが選択される。例えば、溶接継続時間(例えば、溶接部分206の継続時間)が不良解析継続時間閾値よりも小さい場合、溶接シグネチャ形状に基づく不良解析が実施される。溶接継続時間が不良解析継続時間閾値よりも大きい場合、パラメータ値に基づく不良解析が実施される。パラメータ値に基づく不良解析ルーチンでは、1つ以上の溶接パラメータのパラメータ値(例えば、平均値、中央値、ピーク値、最小値、RMS値等)が所定の限界値又は値の範囲(合格パラメータレベル)と比較されて、不良溶接が行われたかどうかが判定され得る。パラメータ値に基づく不良解析は、上述のように、溶接ビードについての全体溶接スコアを計算することも含み得る。溶接継続時間が、パラメータ値に基づく不良解析を可能にする場合、溶接シグネチャ形状に基づく不良解析と、パラメータ値に基づく不良解析とが組み合わされることもできる。例えば、平均パラメータ値が合格の値の範囲内であっても、基準溶接シグネチャからの溶接シグネチャ形状のずれが大きすぎる場合、溶接不良状態であると判定され得る。
【0025】
ここで、
図4及び5を参照して、図示されているフロー図に関して方法を説明する。説明される方法は、コンピューティング装置112又は必要に応じて電源120(
図1)によって実施され得る。
図4を参照すると、溶接品質を判定する方法のフロー図が示されている。400では、基準溶接シグネチャが提供される(例えば、メモリ装置から取り出される)。402では、溶接パラメータの溶接シグネチャが捕捉される。404では、基準溶接シグネチャの形状が、捕捉された溶接シグネチャの形状と比較され、基準溶接シグネチャと捕捉された溶接シグネチャとの間の1つ以上の形状差が特定される。406では、捕捉された溶接シグネチャが上限及び下限と比較される。408では、不良溶接が発生したかどうかについて判定が行われる。この判定は、基準溶接シグネチャと捕捉された溶接シグネチャとの間の1つ以上の形状差に基づいて、且つ/又は捕捉された溶接シグネチャと上限及び下限との比較に基づいて行われ得る。溶接不良状態が発生していない場合、溶接動作が通常どおり続行され得る410。溶接不良状態が発生した場合、不良ルーチンが開始され得る412。不良ルーチンは、溶接ビードに不良のフラグを付けること、アラームを発生させること、所定の人員又は装置にメッセージを送信すること、溶接工程を止めること等を含み得る。
【0026】
溶接品質を判定する更なる方法のフロー図を
図5に示す。500では、不良解析継続時間閾値が提供される(例えば、メモリ装置から取り出される)。502では、溶接ビードの溶接シグネチャが捕捉される。504では、溶接ビードの溶接継続時間が特定される。506では、溶接ビードの溶接継続時間が不良解析継続時間閾値と比較される。508では、溶接継続時間が不良解析継続時間閾値よりも大きいかどうかについての判定が行われる。溶接ビードの溶接継続時間が不良解析継続時間閾値よりも大きい場合、パラメータ値に基づく不良解析ルーチンが実施され510、これは、少なくとも1つの溶接パラメータ値を所定の限界値と比較することを含み得る。溶接ビードの溶接継続時間が不良解析継続時間閾値よりも小さい場合、シグネチャ形状に基づく不良解析ルーチンが実施され512、これは、溶接シグネチャの形状を基準溶接シグネチャ形状と比較することを含み得る。
【0027】
図6は、コンピューティング装置112(
図1)の例示的な実施形態を示す。コンピューティング装置112は、バスサブシステム812を介して幾つかの周辺装置と通信する少なくとも1つのプロセッサ814を含む。これらの周辺装置は、記憶サブシステム824(これは、例えば、メモリサブシステム828及びファイル記憶サブシステム826を含む)、ユーザインタフェース入力装置822、ユーザインタフェース出力装置820、及びネットワークインタフェースサブシステム816を含み得る。入力装置及び出力装置は、ユーザとコンピューティング装置112との対話を可能にする。ネットワークインタフェースサブシステム816は、外部ネットワークに対するインタフェースを提供し、他のコンピュータシステム又はプログラマブル装置における対応するインタフェース装置と結合され得る。
【0028】
ユーザインタフェース入力装置822は、キーボード、ポインティングデバイス(例えば、マウス、トラックボール、タッチパッド、グラフィックスタブレット等)、スキャナ、ディスプレイに組み込まれたタッチスクリーン、音声入力装置(例えば、音声認識システム、マイクロホン)、及び/又は他のタイプの入力装置を含み得る。一般に、「入力装置」という用語の使用は、情報をコンピューティング装置112又は通信ネットワークに入力するためのあらゆる可能なタイプの装置及び方法を包含することを意図している。
【0029】
ユーザインタフェース出力装置820は、ディスプレイサブシステム、プリンタ、ファクス機、又は音声出力装置などの非視覚ディスプレイ等を含み得る。ディスプレイサブシステムは、ブラウン管(CRT)、液晶ディスプレイ(LCD)等のフラットパネル装置、投影装置、又は可視画像を生成する他の何らかの機構を含み得る。ディスプレイサブシステムは、音声出力装置による場合など、非視覚ディスプレイを提供し得る。一般に、「出力装置」という用語の使用は、情報をコンピューティング装置112からユーザ又は別の機械若しくはコンピュータシステムに出力するためのあらゆる可能なタイプの装置及び方法を包含することを意図している。
【0030】
記憶サブシステム824は、本明細書に記載の動作の一部又は全ての機能性を与えるプログラミング及びデータ構造を記憶する非一時的コンピュータ可読記憶媒体を提供する。例えば、記憶サブシステム824は、コンピューティング装置112が上述の溶接品質解析ルーチンを実行することを可能にするプログラミング命令を含み得る。
【0031】
プログラミング命令を有するファームウェアモジュール又はソフトウェアモジュールは、一般に、プロセッサ814単独で又は他のプロセッサとの組み合わせで実行される。記憶サブシステム824で使用されるメモリサブシステム828は、幾つかのメモリを含み得、それらには、プログラムの実行中に命令及びデータを記憶する主ランダムアクセスメモリ(RAM)830と、固定命令が記憶されている読み出し専用メモリ(ROM)832とが含まれる。ファイル記憶サブシステム826は、プログラムファイル及びデータファイルを永続的に記憶することができ、ハードディスクドライブ、フロッピーディスクドライブ及びその専用リムーバブルメディア、CD-ROMドライブ、光学式ドライブ、又はリムーバブルメディアカートリッジを含み得る。特定の実施形態の機能性を実施するモジュールは、記憶サブシステム824、又はプロセッサ814からアクセス可能な他の機械にあるファイル記憶サブシステム826に記憶され得る。
【0032】
バスサブシステム812は、コンピューティング装置112の様々なコンポーネント及びサブシステムが意図されたように互いに通信することを可能にする仕組みを提供する。バスサブシステム812は、概略的に単一のバスとして示されているが、バスサブシステムの代替実施形態は、複数のバスを使用し得る。
【0033】
メモリサブシステム824に記憶され、プロセッサ814によって実行されるプログラミング命令は、溶接シグネチャ解析エンジン834を実装するか又は含むことをプロセッサに行わせ得る。溶接シグネチャ解析エンジン834は、上述の様々な溶接品質判定方法を実施することが可能である。
【0034】
特定の実施形態では、コンピューティング装置112は、溶接中のロボット102(
図1)の動きを制御する制御命令をロボットに与えるロボット制御装置の一部であり得る。
【0035】
当然のことながら、本開示は、例示的であり、本開示に含まれる教示の適正な範囲から逸脱しない限り、細部を追加、修正、又は除去することによって様々な変更形態がなされ得る。従って、本発明は、後述の請求項が必然的にそのように限定されている範囲を除き、本開示の特定の細部に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0036】
100 溶接システム
102 ロボット
104 電気アークトーチ
106 電極
108 アーク
110 被加工物
112 コンピューティング装置
114 ユーザインタフェース
120 電源
122 プロセッサ、メモリ、及びユーザインタフェース
200 溶接シグネチャ
202 開始ルーチン
204 終了ルーチン
206 溶接部分
208 基準溶接シグネチャ
210 基準溶接シグネチャ
812 バスサブシステム
814 プロセッサ
816 ネットワークインタフェースサブシステム
820 ユーザインタフェース出力装置
822 ユーザインタフェース入力装置
824 記憶サブシステム
826 ファイル記憶サブシステム
828 メモリサブシステム
830 RAM
832 ROM
834 溶接シグネチャ解析エンジン