(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】衝撃吸収機構
(51)【国際特許分類】
B60R 19/34 20060101AFI20230830BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20230830BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
B60R19/34
F16F7/00 K
F16F7/12
(21)【出願番号】P 2019097575
(22)【出願日】2019-05-24
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 豪軌
(72)【発明者】
【氏名】水谷 義輝
(72)【発明者】
【氏名】三浦 寿久
(72)【発明者】
【氏名】西村 拓也
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-7598(JP,A)
【文献】国際公開第2013/080863(WO,A1)
【文献】実開昭56-111046(JP,U)
【文献】特開2015-155704(JP,A)
【文献】特開2003-127896(JP,A)
【文献】特開2012-132552(JP,A)
【文献】特開2002-13575(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 7/00,
B60R 19/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に加わる衝突荷重を軽減するための衝撃吸収機構であって、
衝突荷重を受ける荷重受け部材と前記衝突荷重が前記荷重受け部材から伝達される被伝達部材の間に設けられ、
部材軸方向の一方の端部が前記荷重受け部材と前記被伝達部材のうち一方の部材の内部空間に挿入された木製の柱状の衝撃吸収材と、
前記一方の部材の内部空間を横断するように前記一方の部材に連結された第1の連結材と、
を具備し、
衝突時に前記第1の連結材が前記衝撃吸収材の前記一方の端部の端面の一部を押圧し、
前記衝撃吸収材の側面が被覆され、前記側面のうち前記第1の連結材の横断方向に直交する面の被覆に、前記衝撃吸収材の部材軸方向と直交する方向の第1の切込みが設けられ
、
前記第1の切込みは、前記第1の連結材の横断方向に直交し、且つ前記衝撃吸収材の部材軸方向と直交する方向において、前記衝撃吸収材の部材軸方向から見た時に前記第1の連結材と重なる一部の位置のみで設けられることを特徴とする衝撃吸収機構。
【請求項2】
車両に加わる衝突荷重を軽減するための衝撃吸収機構であって、
衝突荷重を受ける荷重受け部材と前記衝突荷重が前記荷重受け部材から伝達される被伝達部材の間に設けられ、
部材軸方向の一方の端部が前記荷重受け部材と前記被伝達部材のうち一方の部材の内部空間に挿入された木製の柱状の衝撃吸収材と、
前記一方の部材の内部空間を横断するように前記一方の部材に連結された第1の連結材と、
を具備し、
衝突時に前記第1の連結材が前記衝撃吸収材の前記一方の端部の端面の一部を押圧し、
前記衝撃吸収材の側面が被覆され、前記側面のうち前記第1の連結材の横断方向に直交する面の被覆に、前記衝撃吸収材の部材軸方向と直交する方向の第1の切込み
と、前記衝撃吸収材の部材軸方向の第2の切込みとが設けられることを特徴とする衝撃吸収機構。
【請求項3】
車両に加わる衝突荷重を軽減するための衝撃吸収機構であって、
衝突荷重を受ける荷重受け部材と前記衝突荷重が前記荷重受け部材から伝達される被伝達部材の間に設けられ、
部材軸方向の一方の端部が前記荷重受け部材と前記被伝達部材のうち一方の部材の内部空間に挿入された木製の柱状の衝撃吸収材と、
前記一方の部材の内部空間を横断するように前記一方の部材に連結された第1の連結材と、
を具備し、
衝突時に前記第1の連結材が前記衝撃吸収材の前記一方の端部の端面の一部を押圧し、
前記衝撃吸収材の側面が被覆され、前記側面のうち前記第1の連結材の横断方向に直交する面の被覆に、前記衝撃吸収材の部材軸方向と直交する方向の第1の切込みが設けられ
、
前記第1の切込みの長手方向の形状が、波状であることを特徴とする衝撃吸収機構。
【請求項4】
前記第1の連結材は、前記荷重受け部材と前記被伝達部材のうち他方の部材に面した平面部または凹面部を有し、
前記平面部または凹面部の両側に当たる位置で前記第2の切込みが設けられ、
前記第1の切込みは、前記第2の切込みの間で設けられることを特徴とする請求項
2記載の衝撃吸収機構。
【請求項5】
前記第1の切込みの深さ方向の断面形状が、三角形、矩形、半円形のいずれかであることを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれかに記載の衝撃吸収機構。
【請求項6】
前記衝撃吸収材の部材軸方向の他方の端部は、前記荷重受け部材と前記被伝達部材のうち他方の部材の内部空間に挿入され、
前記他方の部材の内部空間を、前記第1の連結材の横断方向と同じ横断方向に横断するように前記他方の部材に連結された第2の連結材を更に具備し、
衝突時に前記第2の連結材が前記衝撃吸収材の前記他方の端部の端面の一部を押圧し、
前記第1、第2の連結材は、前記衝撃吸収材の部材軸方向から見た時に異なる位置に配置され、
前記第1の切込みが、前記衝撃吸収材の前記一方の端部側と前記他方の端部側に設けられることを特徴とする請求項
2または請求項3記載の衝撃吸収機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に加わる衝撃を吸収する衝撃吸収機構に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の衝突時の衝突荷重を受けてその衝撃を吸収できるように構成された衝撃吸収機構に関する技術が、特許文献1、2に記載されている。
【0003】
特許文献1、2には、車両前方衝突時にバンパーリインフォースがサイドメンバ側に押された際に、バンパーリインフォースとサイドメンバの間に設けた木材がボルト等の連結材に押されて圧縮するかまたはせん断が生じることで衝撃が吸収される衝撃吸収機構について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2014/077314号
【文献】特開2017-7598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されているように、上記の木材の側面は筒状に被覆されることがあるが、本発明者が鋭意検討したところ、衝突時にこのような被覆が連結材によって圧縮され、不規則に座屈した被覆が連結材と木材の間に深く入り込んで固まりとなると、木材の圧縮が想定通りにされず、意図した衝撃吸収効果が得られない恐れがあることがわかった。
【0006】
本発明は前述した問題点に鑑みてなされたものであり、好適に衝撃吸収を行うことのできる衝撃吸収機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するための第1の発明は、車両に加わる衝突荷重を軽減するための衝撃吸収機構であって、衝突荷重を受ける荷重受け部材と前記衝突荷重が前記荷重受け部材から伝達される被伝達部材の間に設けられ、部材軸方向の一方の端部が前記荷重受け部材と前記被伝達部材のうち一方の部材の内部空間に挿入された木製の柱状の衝撃吸収材と、前記一方の部材の内部空間を横断するように前記一方の部材に連結された第1の連結材と、を具備し、衝突時に前記第1の連結材が前記衝撃吸収材の前記一方の端部の端面の一部を押圧し、前記衝撃吸収材の側面が被覆され、前記側面のうち前記第1の連結材の横断方向に直交する面の被覆に、前記衝撃吸収材の部材軸方向と直交する方向の第1の切込みが設けられ、前記第1の切込みは、前記第1の連結材の横断方向に直交し、且つ前記衝撃吸収材の部材軸方向と直交する方向において、前記衝撃吸収材の部材軸方向から見た時に前記第1の連結材と重なる一部の位置のみで設けられることを特徴とする衝撃吸収機構である。
第2の発明は、車両に加わる衝突荷重を軽減するための衝撃吸収機構であって、衝突荷重を受ける荷重受け部材と前記衝突荷重が前記荷重受け部材から伝達される被伝達部材の間に設けられ、部材軸方向の一方の端部が前記荷重受け部材と前記被伝達部材のうち一方の部材の内部空間に挿入された木製の柱状の衝撃吸収材と、前記一方の部材の内部空間を横断するように前記一方の部材に連結された第1の連結材と、を具備し、衝突時に前記第1の連結材が前記衝撃吸収材の前記一方の端部の端面の一部を押圧し、前記衝撃吸収材の側面が被覆され、前記側面のうち前記第1の連結材の横断方向に直交する面の被覆に、前記衝撃吸収材の部材軸方向と直交する方向の第1の切込みと、前記衝撃吸収材の部材軸方向の第2の切込みとが設けられることを特徴とする衝撃吸収機構である。
第3の発明は、車両に加わる衝突荷重を軽減するための衝撃吸収機構であって、衝突荷重を受ける荷重受け部材と前記衝突荷重が前記荷重受け部材から伝達される被伝達部材の間に設けられ、部材軸方向の一方の端部が前記荷重受け部材と前記被伝達部材のうち一方の部材の内部空間に挿入された木製の柱状の衝撃吸収材と、前記一方の部材の内部空間を横断するように前記一方の部材に連結された第1の連結材と、を具備し、衝突時に前記第1の連結材が前記衝撃吸収材の前記一方の端部の端面の一部を押圧し、前記衝撃吸収材の側面が被覆され、前記側面のうち前記第1の連結材の横断方向に直交する面の被覆に、前記衝撃吸収材の部材軸方向と直交する方向の第1の切込みが設けられ、前記第1の切込みの長手方向の形状が、波状であることを特徴とする衝撃吸収機構である。
【0008】
本発明では、衝撃吸収材の側面のうち連結材の横断方向に直交する面の被覆に、衝撃吸収材の部材軸直交方向の切込みを設けることにより、衝突時に連結材によって圧縮された被覆が不規則に座屈するのを避け、被覆を所望の座屈状態で座屈させることができる。これにより被覆を浅く折り畳んで衝撃吸収材と連結材の間への被覆の固まりの侵入を最小限に留めることができ、意図した衝撃吸収を実現することが可能になる。
【0009】
切込みの位置は被覆の圧縮が生じる位置を考慮して設定するが、被覆の圧縮は連結材に対応する位置で生じることが多いので、第1の発明のように切込みを連結材に重なる位置に設けるのが好適である。
【0010】
第2の発明では、前記側面のうち前記第1の連結材の横断方向に直交する面の被覆に、前記衝撃吸収材の部材軸方向の第2の切込みが設けられる。
衝突時、衝撃吸収材のうち連結材によって押圧されない部分は上記の内部空間に進入し、この時に被覆が当該部分に引っ張られて切込みにより所望の座屈状態を実現する妨げとなる恐れがある。このような恐れのあるケースでは、衝撃吸収材の部材軸方向の別の切込みを被覆に設けて当該別の切込みの位置で被覆を早期に破断させ、被覆の引張りを防ぐことが望ましい。
【0011】
例えば、前記第1の連結材は、前記荷重受け部材と前記被伝達部材のうち他方の部材に面した平面部または凹面部を有し、前記平面部または凹面部の両側に当たる位置で前記第2の切込みが設けられ、前記第1の切込みは、前記第2の切込みの間で設けられる。
この場合、連結材の平面部や凹面部によって大きな衝突荷重を安定して受けとめることができ、衝撃吸収効果が大きくなる。また衝撃吸収材の被覆を、平面部や凹面部の両側の部材軸方向の切込みの位置で早期に破断させ、その間に設けられた部材軸直交方向の切込みにより被覆を所望の座屈状態とできる。この時、連結材によって被覆が座屈する部分は連結材に対応する位置に限定され、木材の圧縮に与える影響を小さくできる。
【0012】
第3の発明では、前記第1の切込みの長手方向の形状が、波状である。また前記第1の切込みの深さ方向の断面形状が、三角形、矩形、半円形のいずれかであることも望ましい。
部材軸直交方向の切込みの長手方向の形状や深さ方向の断面形状は、被覆を所望の状態に座屈させることができるように選定される。例えば被覆の厚さが一様とならないケースでは、切込みの長手方向の形状を波状とすることにより、そのような被覆厚のバラツキに対してロバストに所望の座屈状態を実現できる可能性がある。また、被覆の材質に応じて座屈特性が異なり、それらの座屈特性によって切込みの深さ方向の断面形状は三角形、矩形、半円形などと好ましいものにすることができる。
【0013】
前記衝撃吸収材の部材軸方向の他方の端部は、前記荷重受け部材と前記被伝達部材のうち他方の部材の内部空間に挿入され、前記他方の部材の内部空間を、前記第1の連結材の横断方向と同じ横断方向に横断するように前記他方の部材に連結された第2の連結材を更に具備し、衝突時に前記第2の連結材が前記衝撃吸収材の前記他方の端部の端面の一部を押圧し、前記第1、第2の連結材は、前記衝撃吸収材の部材軸方向から見た時に異なる位置に配置され、前記第1の切込みが、前記衝撃吸収材の前記一方の端部側と前記他方の端部側に設けられることも望ましい。
この場合、衝撃吸収材のせん断による衝撃吸収が可能になるが、せん断による衝撃吸収を行うケースでは、上記のように部材軸直交方向の切込みを設けることで、衝撃吸収材の両端部において被覆を所望の座屈状態で座屈させることが可能である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、好適に衝撃吸収を行うことのできる衝撃吸収機構を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3】衝突荷重が加わった状態の衝撃吸収機構2を示す図。
【
図5】バンパーリインフォース11の変位と衝撃吸収機構2が受ける荷重の関係を示す図。
【
図13】衝突荷重が加わった状態の衝撃吸収機構2cを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
[第1の実施形態]
図1は本発明の実施形態に係る衝撃吸収機構2の配置を示す概略図である。衝撃吸収機構2は車両10に設けられ、衝突時に車両10に加わる衝撃を吸収して衝突荷重を軽減するためのものである。衝撃吸収機構2は、フロントバンパー(不図示)のバンパーリインフォース11と車両10のサイドメンバ9の間に配置される。
【0018】
図1の左右は車両前後方向に対応し、
図1の上下は車両幅方向に対応する。以下、「前」というときは車両10の前側を指し、
図1の左側に対応する。「後」は車両10の後側を指し、
図1の右側に対応する。
【0019】
バンパーリインフォース11は車両前方衝突時の衝突荷重を受ける荷重受け部材であり、車両10の前部で車両幅方向に延びるように配置される。
【0020】
サイドメンバ9はバンパーリインフォース11で受けた衝突荷重が伝達される被伝達部材である。サイドメンバ9は車両幅方向の左右に配置され、各サイドメンバ9とバンパーリインフォース11の間に衝撃吸収機構2が設けられる。
【0021】
図2は衝撃吸収機構2を示す図である。
図2(a)は衝撃吸収機構2の鉛直方向の断面を示す図であり、
図2(b)、(c)は衝撃吸収機構2の水平方向の断面を示す図である。
図2(a)は
図2(c)の線b-bに沿った断面であり、
図2(b)、(c)はそれぞれ
図2(a)の線a1-a1、a2-a2に沿った断面である。
【0022】
図2に示すように、衝撃吸収機構2は、衝撃吸収材1、ボルト3等を有する。
【0023】
衝撃吸収材1は木製の柱状部材であり、部材軸方向を車両前後方向(
図2(a)~(c)の左右方向に対応する)として、部材軸方向の両端部がそれぞれバンパーリインフォース11側、サイドメンバ9側となるように配置される。本実施形態ではこの部材軸方向が木材の年輪の軸心方向(木材の繊維方向)に対応しているが、これに限ることはない。
【0024】
衝撃吸収材1は、全面が樹脂により被覆される。すなわち、衝撃吸収材1の部材軸方向の側面および両端面が被覆され、被覆1aにより衝撃吸収材1が外界から保護される。なお、衝撃吸収材1の端面は部材軸方向と直交する面である。
【0025】
被覆された衝撃吸収材1の前端部はバンパーリインフォース11に当接する。一方、サイドメンバ9の前端部は筒状となっており、被覆された衝撃吸収材1の後端部(一方の端部)はサイドメンバ9(一方の部材)の筒状部分の内部空間に挿入される。
【0026】
図2の例では、衝撃吸収材1の前端部に被覆1aから外側に張出すようにフランジ部13が設けられており、ボルト等(不図示)を用いて当該フランジ部13がバンパーリインフォース11に固定される。一方、サイドメンバ9側についても、サイドメンバ9の前端部に外側に張出すフランジ部(不図示)を設けるとともに、衝撃吸収材1の部材軸方向の途中に上記と同様のフランジ部を設け、両フランジ部をボルト等により連結することが可能である。
【0027】
ボルト3は金属製の頭付ボルトであり、衝撃吸収材1の後方に配置される。ボルト3はサイドメンバ9の前端部に連結される棒状の連結材であり、サイドメンバ9の内部空間を横断するように配置される。ボルト3は車両幅方向(
図2(b)、(c)の上下方向に対応する)に2本配置されるが、その配置や本数は特に限定されない。例えば
図2の例ではボルト3がサイドメンバ9の内部空間を鉛直方向に横断しているが、水平方向に横断するように配置することも勿論可能である。
【0028】
なお、衝撃吸収材1の部材軸方向から見た時(
図2(b)、(c)の矢印参照)に、ボルト3とバンパーリインフォース11(他方の部材)の間では、ボルト3と重複する位置にサイドメンバ9に連結された他のボルト3等が存在せず、このボルト3が衝撃吸収に大きく寄与することとなる。
【0029】
ボルト3の軸部はサイドメンバ9の下面からサイドメンバ9を貫通し、軸部の先端がナット4によってサイドメンバ9の上面に固定される。これによりボルト3がサイドメンバ9の前端部に連結固定される。
【0030】
ボルト3の軸部には、バンパーリインフォース11側に面した平面部5が形成される。本実施形態では、ボルト3の軸部の長手方向と直交する断面(以下、単に断面ということがある)が円の一部を直線で切取った形状となっており、平面部5は当該直線部分に形成される。平面部5はボルト3の軸部を加工して軸部と一体に形成されるが、これに限ることはない。例えば平面部5を有する別部品をボルトの軸部に別途取付けてもよい。
【0031】
衝撃吸収材1の側面のうち、ボルト3の横断方向に直交する面の被覆1aには、切込み7(第1の切込み)が設けられる。
【0032】
切込み7は、衝撃吸収材1の部材軸方向と直交する方向(以下、部材軸直交方向ということがある)に沿って形成され、衝撃吸収材1の部材軸方向から見た時にボルト3と重なる位置に設けられる。切込み7の長手方向の形状は直線状であり、深さ方向の断面は三角形状である。
【0033】
切込み7は、衝撃吸収材1の部材軸方向に間隔を空けて複数平行に設けられる。このうち最もボルト3に近い切込み7は、被覆された衝撃吸収材1の後端面から距離d1の位置に設けられる。距離d1は、例えば衝撃吸収材1の後端面の被覆1aの厚さ以上とする。一方、部材軸方向に隣り合う切込み7の間の距離d2は、例えば衝撃吸収材1の側面の被覆1aの厚さ以上とする。切込み7の部材軸方向の形成範囲Aは特に限定されず、衝撃吸収材1の部材軸方向の全長に亘って形成することも可能である。
【0034】
図3(a)、(b)は衝突荷重が加わった状態の衝撃吸収機構2をそれぞれ
図2(a)、(c)と同様に示したものであり、
図3(c)は
図3(a)の切込み7付近の被覆1aを拡大したものである。
【0035】
本実施形態では、
図3(a)、(b)の矢印Bに示す方向に衝突荷重が加わりバンパーリインフォース11がサイドメンバ9側に押されると、ボルト3の平面部5が衝撃吸収材1の後端面の一部を前方に押圧し、衝撃吸収材1に局所的な圧縮が発生して木材が硬化し、圧縮部15が形成される。このように、本実施形態では衝撃吸収材1の圧縮により衝突荷重が吸収される。衝撃吸収材1のその他の部分(平面部5によって押圧されない部分)は、ボルト3の平面部5によってせん断変形しながらサイドメンバ9の内部空間に進入する。
【0036】
上記の衝突過程では、衝撃吸収材1の側面のうち、ボルト3の横断方向に直交する面(
図3(a)の上面と下面)の被覆1aもボルト3によって押圧されて圧縮する。仮に被覆1aに切込み7が無い場合、被覆1aが圧縮された時に
図4に示すように不規則に座屈し、座屈した被覆1aがボルト3と衝撃吸収材1の間に深く入りこんで固まりとなり、圧縮部15の形成範囲が減少し衝撃吸収効果が損なわれる恐れがある。
【0037】
一方、本実施形態の衝撃吸収機構2では前記のように被覆1aに切込み7を形成していることにより、
図3(c)に示すように圧縮された被覆1aが規則的に座屈する。すなわち、被覆1aは切込み7の位置を山や谷として座屈し、距離d2(
図2(b)参照)の幅で浅く折り畳まれる。従って、
図4の例のように圧縮部15の形成が妨げられることがない。
【0038】
図5は、上記の衝突過程におけるバンパーリインフォース11の変位とボルト3が受ける荷重(衝撃吸収材1の圧縮によって吸収される荷重)の関係を、縦軸を荷重、横軸をバンパーリインフォース11のサイドメンバ9側への変位として示した図である。
【0039】
実線21は本実施形態のように衝撃吸収材1の側面の被覆1aに切込み7を設けた場合(
図3参照)であり、上記したように座屈した被覆1aにより圧縮部15の形成が妨げられないので、大きな衝突荷重を安定して受け止めることができる。
【0040】
一方、点線23は切込み7を設けない場合(
図4参照)であり、不規則に座屈した被覆1aにより圧縮部15の形成が妨げられると、低荷重で変位が進み、意図した衝撃吸収効果が得られない恐れがある。
【0041】
以上説明したように、本実施形態では、衝撃吸収材1の側面のうちボルト3の横断方向に直交する面の被覆1aに、衝撃吸収材1の部材軸直交方向の切込み7を設けることにより、衝突時にボルト3によって圧縮された被覆1aが不規則に座屈するのを避け、被覆1aを所望の座屈状態で座屈させることができる。これにより被覆1aを浅く折り畳んで衝撃吸収材1とボルト3の間への被覆1aの固まりの侵入を最小限に留めることができ、意図した衝撃吸収を実現することができる。
【0042】
切込み7の位置は被覆1aの圧縮が生じる位置を考慮して設定するが、被覆1aの圧縮はボルト3に対応する位置で生じることが多いので、本実施形態のように、衝撃吸収材1の部材軸方向から見た時にボルト3に重なる位置に切込み7を設けるのが好適である。
【0043】
しかしながら本発明はこれに限らない。例えば本実施形態ではボルト3を衝撃吸収材1の後方に配置したが、ボルト3が衝撃吸収材1を貫通していてもよい。また本実施形態では金属製のボルト3を連結材として用いているが、連結材はサイドメンバ9に連結されたものであればよく、ボルト3に限らずピン等でもよい。その材質も金属に限らず、セラミックなどでもよい。
【0044】
また本実施形態では連結材(ボルト3)の断面を円の一部を直線で切取った形状としているが、連結材の断面形状もこれに限らない。例えば
図6(a)は半円形と矩形とを組み合わせた形状であり、矩形部分に平面部5を有する。また
図6(b)、(c)のように断面を多角形状(
図6(b)は四角形状、
図6(c)は六角形状)として連結材に平面部5を設けることも可能である。このように連結材に平面部5を設けることで大きな衝突荷重を安定して受けとめることができ、衝撃吸収効果が大きくなる。
【0045】
また平面部5の代わりに凹面部を設けてもよく、平面部5を設けた場合と同様の効果が得られる。例えば
図7(a)のように円の一部を円弧で切り取った断面形状としたり、
図7(b)のように矩形の一部を円弧で切り取った断面形状とするなどして凹面部6を設けることができる。また凹面部6は円弧状に限らず、例えば
図7(c)のように矩形の一部を楔形に切り取った断面形状とし、直線によって楔状に形成された凹面部6を設けてもよい。
【0046】
あるいは、連結材の断面を例えば円形とし、平面部5や凹面部6を設けなくてもよい。この場合、既往のボルトをそのまま連結材として利用することができる。
【0047】
また本実施形態では被覆1aで衝撃吸収材1の側面および両端面を被覆したが、衝撃吸収材1の側面のみを被覆してもよい。また被覆1aは樹脂に限らず、金属によるものであってもよい。
【0048】
また本実施形態では切込み7の深さ方向の断面を三角形状としているが、切込み7の断面形状もこれに限らない。例えば
図8(a)の切込み7aのように矩形断面としたり、
図8(b)の切込み7bのように半円形の断面としたりすることが可能である。
【0049】
また、本実施形態では切込み7の長手方向の形状を直線状としているが、切込み7の長手方向の形状もこれに限らない。例えば
図9(a)の切込み7cのように長手方向に不連続となるミシン目状とすることも可能である。また、
図9(b)の切込み7dのように半円を波状に繰り返したものとしたり、
図9(c)の切込み7eのように三角波形状としたり、
図9(d)の切込み7fのように矩形波状としたりすることが可能である。
【0050】
切込みの長手方向の形状や深さ方向の断面形状は、被覆1aを所望の状態に座屈させることができるように選定される。例えば衝撃吸収材1は木製であるため表面が木目等で不均質であり、被覆1aに樹脂等を用いる場合には成形時の圧力で凹凸が発生し、被覆1aの厚さが一様にならないケースがある。この場合、例えば切込みの長手方向の形状を波状とすることで、そのような被覆厚のバラツキに対してロバストに所望の座屈状態を実現できる可能性がある。また被覆1aの材質に応じて座屈特性は異なり、それらの座屈特性によって切込み7の深さ方向の断面形状を例えば三角形(
図2(a)参照)、矩形(
図8(a)参照)、半円形(
図8(b)参照)などと好ましいものに定めることができる。
【0051】
また本実施形態では切込み7を複数本平行に設けているが、切込み7は平行に設けるものに限らず、また場合によっては切込み7を1本のみ設けることも可能である。
【0052】
以下、本発明の別の例について、第2から第4の実施形態として説明する。各実施形態は第1の実施形態と異なる点について説明し、同様の構成については図等で同じ符号を付すなどして説明を省略する。また、第1の実施形態も含め、各実施形態で説明する構成は必要に応じて組み合わせることができる。
【0053】
[第2の実施形態]
図10(a)は第2の実施形態に係る衝撃吸収機構2aを
図2(b)と同様に示す図である。
【0054】
この衝撃吸収機構2aは、切込み7の形成位置が第1の実施形態と異なる。すなわち、衝撃吸収機構2aでは2本のボルト3が近接しており、このようなケースでは、ボルト3の間で衝撃吸収材1と被覆1aの圧縮が生じる可能性が有る。そこで本実施形態では、ボルト3の間で前記した被覆1aの不規則な座屈が問題となる場合に、切込み7をボルト3に重なる位置とボルト3の間の位置とで連続するように設けている。
図10の例では切込み7の両端部が各ボルト3の全幅と重なっているが、切込み7の両端部が各ボルト3の幅方向の一部と重なるような配置でもよい。また場合によっては、ボルト3の間の位置のみで切込み7を設けることも可能である。
【0055】
[第3の実施形態]
図11(a)は第3の実施形態に係る衝撃吸収機構2bを
図2(b)と同様に示す図である。
【0056】
この衝撃吸収機構2bは、衝撃吸収材1の側面のうちボルト3の横断方向に直交する面に、前記した部材軸直交方向の切込み7に加え、部材軸方向の切込み8(第2の切込み)をさらに設けた点で第1の実施形態と異なる。切込み8は、ボルト3の平面部5の両側に当たる位置で1本ずつ設けられる。
【0057】
図11(b)は被覆1aを示す斜視図である。図に示すように、切込み8は、衝撃吸収材1の後端面(
図11(b)の手前側の面に対応する)の被覆1aではボルト3の横断方向(
図11(b)の上下方向に対応する)に沿って設けられ、
図11(a)の切込み8は後端面の被覆1aの切込み8を側面の被覆1aに延長して設けたものである。
【0058】
図3(b)等で説明したように、衝突時、衝撃吸収材1のうちボルト3で押圧されない部分はサイドメンバ9の内部空間に進入するが、この時に被覆1aが当該部分に引っ張られて切込み7により所望の座屈状態を実現する妨げとなる恐れがある。そこで、本実施形態では部材軸方向の切込み8を被覆1aに設けて当該切込み8の位置で被覆1aを早期に破断させ、上記のような被覆1aの引張りを防ぐことができる。
【0059】
特に本実施形態では、衝撃吸収材1の被覆1aを、ボルト3の平面部5の両側の切込み8の位置で早期に破断させ、その間に設けられた切込み7により被覆1aを所望の座屈状態とできる。この時、ボルト3によって被覆1aが座屈する部分は、ボルト3に対応する位置に限定され、木材の圧縮に与える影響を小さくできる。ただし、切込み8の配置や本数はこれに限定されない。
【0060】
[第4の実施形態]
図12は第4の実施形態に係る衝撃吸収機構2cを示す図である。
図12(a)、(b)は衝撃吸収機構2cをそれぞれ
図2(b)、(c)と同様に示す図であり、
図12(c)、(d)はそれぞれ
図12(b)の線c-c、d-dに沿った鉛直方向の断面を示したものである。
【0061】
この衝撃吸収機構2cは、衝撃吸収材1のせん断による衝撃吸収を行う点で第1の実施形態と異なる。
【0062】
すなわち、衝撃吸収機構2cでは、被覆された衝撃吸収材1の前端部(他方の端部)が筒状のバンパーリインフォース11aの後壁に設けられた開口110からバンパーリインフォース11a(他方の部材)の内部空間に挿入される。衝撃吸収材1の被覆された前端面とバンパーリインフォース11aの前壁の間には隙間が設けられる。
【0063】
衝撃吸収機構2cは、第1の実施形態の衝撃吸収機構2の構成に加え、バンパーリインフォース11aに連結されるボルト3(連結材)を更に有する。当該ボルト3は衝撃吸収材1の前方に設けられ、バンパーリインフォース11aの内部空間を横断するように配置される。その横断方向は、衝撃吸収材1の後方のボルト3と同じ方向である。
【0064】
衝撃吸収材1の前方のボルト3の軸部は、
図2(a)の例と同様、バンパーリインフォース11aの下面からバンパーリインフォース11aを貫通し、軸部の先端がナット4によってバンパーリインフォース11aの上面に固定される。当該ボルト3はサイドメンバ9側に平面部5が位置するように配置される。
【0065】
また、部材軸方向から見た時(
図12(a)、(b)の矢印参照)に、衝撃吸収材1の前後のボルト3は異なる位置に配置され、これらの平面部5同士が向き合わないようになっている。さらに、部材軸方向から見た時に、衝撃吸収材1の前方のボルト3とサイドメンバ9の間では、衝撃吸収材1の前方のボルト3と重複する位置にバンパーリインフォース11aに連結された他のボルト3等が存在しない。
【0066】
なお、バンパーリインフォース11aの前壁において、部材軸方向から見た時に衝撃吸収材1の後方のボルト3と重なる位置には開口111が形成される。
【0067】
そして本実施形態では、衝撃吸収材1の後端部側の被覆1aだけでなく、衝撃吸収材1の前端部側の被覆1aにも第1の実施形態と同様に切込み7が設けられる。
【0068】
本実施形態では、
図13の矢印Bに示すように衝突荷重が加わりバンパーリインフォース11aがサイドメンバ9側に押されると、衝突初期に衝撃吸収材1の後方のボルト3がその平面部5により衝撃吸収材1の後端面の一部を前方に押圧し、衝撃吸収材1の前方のボルト3がその平面部5により衝撃吸収材1の前端面の一部を後方に押圧することで、衝撃吸収材1のせん断が誘発される。
【0069】
そして、部材軸方向から見た時に衝撃吸収材1の前方のボルト3に重なる位置の衝撃吸収材1-1は、サイドメンバ9の内部空間を後方に進む。一方、衝撃吸収材1の後方のボルト3に重なる位置の衝撃吸収材1-2は、バンパーリインフォース11a内を開口111に向かって前方に進む。
【0070】
第4の実施形態では、せん断の発生によって衝撃が吸収され、サイドメンバ9側に伝達される衝突荷重を軽減することができる。この場合も、衝撃吸収材1の側面のうち前後のボルト3の横断方向と直交する面の被覆1aは、衝撃吸収材1の両端部において切込み7によって所望の座屈状態とでき、意図した衝撃吸収が実現できる。
【0071】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0072】
例えば前記の各実施形態では車両10のバンパーリインフォースとサイドメンバの間に衝撃吸収機構を設置しているが、衝撃吸収機構は車両10において衝突時の荷重を受ける荷重受け部材と当該荷重が伝達される被伝達部材の間に設ければよく、バンパーリインフォースとサイドメンバの間に設けるものに限らない。例えば車両側突時の衝突荷重を軽減することを目的として、車両側部のボディー本体と車両内部のバッテリーケース等の間に設けてもよい。また車両10の種類も特に限定されない。
【符号の説明】
【0073】
1:衝撃吸収材
1a:被覆
2、2a、2b、2c:衝撃吸収機構
3:ボルト
4:ナット
5:平面部
6:凹面部
7、7a、7b、7c、7d、7e、7f、8:切込み
9:サイドメンバ
10:車両
11:バンパーリインフォース
11a:バンパーリインフォース
13:フランジ部
15:圧縮部