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特許7339879レーザ加工機の制御装置及びレーザ加工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】レーザ加工機の制御装置及びレーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/382 20140101AFI20230830BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20230830BHJP
   H05K 3/00 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
B23K26/382
B23K26/082
H05K3/00 N
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019231736
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2021098214
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】奥平 恭之
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/125597(WO,A1)
【文献】特開2015-223591(JP,A)
【文献】特開2009-056474(JP,A)
【文献】特開2019-076919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
H05K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源からパルスレーザ発振器の放電電極に高周波電力を供給し、前記パルスレーザ発振器から出力されたパルスレーザビームが加工対象物の複数の被加工点に順番に入射するようにビーム走査器でパルスレーザビームを走査し、レーザ加工を行うレーザ加工機の制御装置であって、
次にレーザ加工する加工対象物の被加工点の分布が、直前にレーザ加工を行った加工対象物の被加工点の分布と異なるとき、次に加工する加工対象物のレーザ加工を行う前に、前記放電電極に供給する高周波電力の電圧が電圧目標値になるように前記電源を制御するレーザ加工機の制御装置。
【請求項2】
前記ビーム走査器を動作させて、パルスレーザビームの入射位置を次の被加工点まで移動させる制御と、
パルスレーザビームの入射位置の位置決めが完了した後に、前記パルスレーザ発振器からレーザパルスを出力させる制御と
を繰り返す機能を、さらに備えた請求項1記載のレーザ加工機の制御装置。
【請求項3】
加工対象物に定義されている複数の被加工点の位置に依存する情報に基づいて、前記電圧目標値を決定する請求項1または2に記載のレーザ加工機の制御装置。
【請求項4】
前記複数の被加工点の位置に依存する情報は、パルスレーザビームが加工対象物に到達しない状態で、パルスレーザビームの入射位置が加工対象物の複数の被加工点を順番に辿るように前記ビーム走査器を動作させ、入射位置の位置決め完了後に仮想的にレーザパルスを入射させる場合の、仮想的な複数のレーザパルスの繰り返し周波数の統計量を含む請求項3に記載のレーザ加工機の制御装置。
【請求項5】
加工対象物のレーザ加工中におけるパルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数の統計量に基づいて、前記電圧目標値を修正する機能を、さらに備えた請求項1乃至4のいずれか1項に記載のレーザ加工機の制御装置。
【請求項6】
前記複数の被加工点の位置に依存する情報は、複数の被加工点の各々から次に加工する被加工点までの距離に関する情報を含み、
前記複数の被加工点の各々から次に加工する被加工点までの距離の統計量、及びパルスレーザビームの入射位置の移動速度に基づいて前記電圧目標値を決定する機能を、さらに備えた請求項1乃至5のいずれか1項に記載のレーザ加工機の制御装置。
【請求項7】
パルスレーザ発振器の放電電極に高周波電力を供給してパルスレーザビームを出力させ、ビーム走査器を動作させることによって加工対象物の表面上でパルスレーザビームの入射位置を移動させ、複数の被加工点にパルスレーザビームを入射させるレーザ加工方法であって、
直前に加工された加工対象物の複数の被加工点の分布と、次に加工すべき加工対象物の複数の被加工点の分布とが異なるときに、前記放電電極に供給する高周波電力の電圧を変えて、次に加工すべき加工対象物を加工するレーザ加工方法。
【請求項8】
次に加工すべき加工対象物の加工を行う前に、パルスレーザビームの入射位置が次に加工すべき加工対象物の複数の被加工点を順番に辿るように前記ビーム走査器を動作させ、入射位置の位置決め完了後に仮想的にレーザパルスを入射させる場合の仮想的な複数のレーザパルスの繰り返し周波数の統計量を求め、求められた統計量に基づいて、前記放電電極に供給する高周波電力の電圧を決定する請求項7に記載のレーザ加工方法。
【請求項9】
加工対象物の加工中におけるパルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数の統計量を求め、次に加工すべき加工対象物の複数の被加工点の分布が、直前に加工した加工対象物の複数の被加工点の分布と同一である場合、直前に加工した加工対象物の加工によって求められたパルスの繰り返し周波数の統計量に基づいて、前記放電電極に供給する高周波電力の電圧を修正する請求項7または8に記載のレーザ加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工機の制御装置及びレーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光をガルバノミラーで反射させ、集光レンズにより集光して基板等の加工対象物に照射させることで加工を行うレーザ加工機が知られている(特許文献1)。例えば、このレーザ加工機はプリント基板への穴あけ加工に用いられる。特許文献1に開示されたレーザ加工機においては、ガルバノミラーを目標回転角度に位置決めし、ガルバノミラーの位置決め完了後にレーザ光を被加工物に照射する。レーザ光源として、パルスレーザビームを出力する炭酸ガスレーザ発振器が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2004-66300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、直前にレーザビームが入射した被加工点から、次にレーザビームを入射すべき被加工点までの距離が一定ではないため、ガルバノミラーの動作開始から位置決め完了までの時間がばらつく。その結果、レーザ発振器から出力されるパルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数が変動する。パルスの繰り返し周波数の変動は、パルスエネルギの安定性の低下をもたらす。
【0005】
本発明の目的は、パルスの繰り返し周波数の変動があっても、パルスエネルギの安定性の低下を抑制することが可能なレーザ加工機の制御装置及びレーザ加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、
電源からパルスレーザ発振器の放電電極に高周波電力を供給し、前記パルスレーザ発振器から出力されたパルスレーザビームが加工対象物の複数の被加工点に順番に入射するようにビーム走査器でパルスレーザビームを走査し、レーザ加工を行うレーザ加工機の制御装置であって、
次にレーザ加工する加工対象物の被加工点の分布が、直前にレーザ加工を行った加工対象物の被加工点の分布と異なるとき、次に加工する加工対象物のレーザ加工を行う前に、前記放電電極に供給する高周波電力の電圧が電圧目標値になるように前記電源を制御するレーザ加工機の制御装置が提供される。
【0007】
本発明の他の観点によると、
パルスレーザ発振器の放電電極に高周波電力を供給してパルスレーザビームを出力させ、ビーム走査器を動作させることによって加工対象物の表面上でパルスレーザビームの入射位置を移動させ、複数の被加工点にパルスレーザビームを入射させるレーザ加工方法であって、
直前に加工された加工対象物の複数の被加工点の分布と、次に加工すべき加工対象物の複数の被加工点の分布とが異なるときに、前記放電電極に供給する高周波電力の電圧を変えて、次に加工すべき加工対象物を加工するレーザ加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
被加工点の分布が異なる基板を加工する場合、パルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数の平均値等も異なる。上記レーザ加工機の制御装置を用いると、被加工点の分布が異なる基板種別の基板の加工を行う場合に、基板種別ごと(すなわち、パルスの繰り返し周波数の平均値等ごと)に高周波電力の電圧目標値を設定することが可能になる。基板種別ごとに好ましい電圧目標値を設定することにより、パルスエネルギのばらつきの度合いを低減させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本実施例によるレーザ加工機のブロック図である。
図2図2は、パルスレーザ発振器の断面図である。
図3図3は、高周波電源の等価回路図である。
図4図4Aは、基板の表面に定義されている複数の被加工点の分布の一例を示す図であり、図4Bは、複数の被加工点の加工順の一例を示す図である。
図5図5は、ビーム走査器の動作と、パルスレーザビームの出力との時間的な関係を示すタイミングチャートである。
図6図6は、複数の基板を加工するときの基板種別ごとの加工期間、基板ごとの加工期間、及び制御装置が電源に電圧目標値を設定するタイミングの時間的な関係を示すタイミングチャートである。
図7図7は、実施例によるレーザ加工方法の工程を示すフローチャートである。
図8図8は、他の実施例によるレーザ加工方法の工程を示すフローチャートであり、図7のステップSA3に代わるものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1図7を参照して、実施例によるレーザ加工機及びレーザ加工方法について説明する。
【0011】
図1は、本実施例によるレーザ加工機のブロック図である。電源30が、パルスレーザ発振器10の放電電極11にパルス的に高周波電圧Pを印加する。電源30は、出力電圧可変の直流電源32及び高周波電源31を含む。パルスレーザ発振器10には、例えば炭酸ガスレーザ発振器が用いられる。レーザ制御装置41が、加工機制御装置42から指令される電圧目標値V1に基づき、高周波電源31が放電電極11に供給する高周波電力の電圧が電圧目標値V1になるように、直流電源32を制御する。さらに、レーザ制御装置41は、加工機制御装置42からの出力タイミング指令STに基づき、高周波電源31を制御する。
【0012】
電源30から放電電極11に高周波電力が供給されると、放電電極11の間にプラズマが励起され、パルスレーザ発振器10からパルスレーザビームLpが出力される。パルスレーザ発振器10から出力されたパルスレーザビームLpが、部分反射鏡61により透過ビームと反射ビームとに分岐される。反射ビームが光検出器62に入射する。光検出器62は、入射した光の光強度に応じた検出値Dvを出力する。検出値Dvはレーザ制御装置41に入力される。
【0013】
部分反射鏡61を透過した透過ビームは、導光光学系63及びアパーチャ64を通って、音響光学素子(AOD)65に入射する。導光光学系63は、例えばビームエキスパンダ等を含む。音響光学素子65は、加工機制御装置42からの指令により、入射したパルスレーザビームを第1経路70A、第2経路70B、及びビームダンパ71に向かう経路のいずれか1つに振り向ける。第1経路70Aに振り向けられたパルスレーザビームは、ビーム走査器67A及び集光レンズ68Aを通って、加工対象物である基板90に入射する。第2経路70Bに振り向けられたパルスレーザビームは、折り返しミラー66で反射され、ビーム走査器67B及び集光レンズ68Bを通って、加工対象物である他の基板90に入射する。2枚の基板90にそれぞれパルスレーザビームが入射することにより、穴あけ加工が行われる。基板90は、例えばプリント配線基板である。
【0014】
ビーム走査器67A、67Bとして、例えば一対の揺動ミラーを含むガルバノスキャナが用いられる。ビーム走査器67A、67Bは、加工機制御装置42からの指令により、
それぞれ2枚の基板90の表面においてパルスレーザビームの入射位置を移動させる。集光レンズ68A、68Bとして、例えばfθレンズが用いられる。
【0015】
2枚の基板90は可動ステージ80の水平な支持面に支持されている。可動ステージ80は、加工機制御装置42からの指令により、2枚の基板90を支持面に平行な二次元方向に移動させる。
【0016】
入力装置45から加工機制御装置42に、レーザ加工機に対する動作指令、レーザ加工に必要な種々のデータが入力される。
【0017】
図2は、パルスレーザ発振器10の断面図である。レーザチャンバ19の内部に、送風機18、一対の放電電極11、熱交換器17、及びレーザ媒質ガスが収容されている。一対の放電電極11の間に放電空間14が画定される。放電空間14で放電が生じることにより、レーザ媒質ガスが励起される。図2では、放電電極11の長さ方向に直交する断面が示されている。放電電極11の各々は、導電部材12とセラミック部材13とを含む。セラミック部材13は、導電部材12と放電空間14とを隔離する。
【0018】
送風機18から、放電空間14及び熱交換器17を経由して送風機18に戻る循環経路が、レーザチャンバ19内に形成されている。熱交換器17は放電によって高温になったレーザ媒質ガスを冷却する。
【0019】
一対の端子15が、レーザチャンバ19の壁面に取り付けられている。放電電極11の導電部材12が、それぞれチャンバ内電流路16により端子15に接続されている。端子15は、チャンバ外電流路20により、電源30に接続されている。
【0020】
図3は、高周波電源31の等価回路図である。高周波電源31は、2本のブリッジアーム35A、35Bを有するHブリッジ回路を含む。ブリッジアーム35A、35Bの各々は、相互に直列に接続された2つのスイッチング素子を含む。放電電極11が、変圧器35Cを介して、2本のブリッジアーム35A、35Bの中間点に接続されている。直流電源32がHブリッジ回路に直流電圧を印加する。レーザ制御装置41が、直流電源32から出力される直流電圧の電圧値を制御するとともに、スイッチング素子のオンオフの制御を行う。スイッチング素子のオンオフを制御することにより、放電電極11に高周波電力が供給される。高周波電力の電圧は、直流電源32の出力電圧に依存する。
【0021】
図4Aは、基板90の表面に定義されている複数の被加工点93の分布の一例を示す図である。図4Aでは、複数の被加工点93のうち一部のみを示している。可動ステージ80(図1)に支持された2枚の基板90に定義されている複数の被加工点93の分布は同一である。基板90の外形は、例えば長方形である。
【0022】
長方形の基板90の四隅に、それぞれアライメントマーク91が設けられている。基板90の表面に、複数の被加工点93が定義されている。図4Aでは、被加工点93を円形の記号で示しているが、実際には、基板90の表面に何らかのマークが付されているわけではなく、複数の被加工点93の位置を定義する位置データが加工機制御装置42に格納される。
【0023】
基板90の表面に複数のスキャンエリア92が定義されている。スキャンエリア92の各々の形状は正方形であり、その大きさは、ビーム走査器67A、67B(図1)の各々を動作させてパルスレーザビームを移動させることができる範囲の大きさとほぼ等しい。複数のスキャンエリア92は、基板90上のすべての被加工点93をいずれかのスキャンエリア92内に包含するように配置される。複数のスキャンエリア92は部分的に重なる場合があり、被加工点93が分布していない領域にはスキャンエリア92が配置されない場合もある。
【0024】
1つのスキャンエリア92を集光レンズ68A、68B(図1)の一方の直下に移動させて、そのスキャンエリア92内の複数の被加工点93にパルスレーザビームを順番に入射させることにより、そのスキャンエリア92の加工が行われる。1つのスキャンエリア92の加工が終了すると、可動ステージ80(図1)を動作させて、次に加工すべきスキャンエリア92を、集光レンズ68A、68Bの一方の直下に移動させる。1つのスキャンエリア92の加工中には、可動ステージ80は静止している。図4Aにおいて、1つのスキャンエリア92の加工順を矢印で示している。
【0025】
図4Bは、複数の被加工点93の加工順の一例を示す図である。複数の被加工点93に通し番号が付されている。ビーム走査器67A、67B(図1)を動作させて、通し番号の順に、複数の被加工点93にパルスレーザビームを入射させることにより、1つのスキャンエリア92の加工を行う。図4Bにおいて、複数の被加工点93の加工順を矢印で示している。被加工点93の加工順は、例えば、パルスレーザビームの入射位置の移動経路が最短になるように決められる。
【0026】
1つのスキャンエリア92内に存在し、同一条件で加工する複数の被加工点93の任意の集合を「ブロック」という。上記通し番号は、ブロックごとに、複数の被加工点93に対して付される。1つのブロックのすべての被加工点93に順番に同一の照射条件でレーザパルスを入射させる処理を、「スキャン」という。1つのブロックの被加工点93の加工を行うときの照射条件の数を「サイクル数」という。
【0027】
同一条件で加工する複数の被加工点93の全てを1つのブロックに含めてもよいし、同一条件で加工する複数の被加工点93の一部の被加工点93を1つのブロックに含めてもよい。被加工点93の一部を1つのブロックに含める場合に、当該ブロックに含まれない他の複数の被加工点93の任意の集合を他の1つのブロックに含めるようにしてもよい。1つのブロックに含まれる複数の被加工点93の組み合わせは、複数の基板90(図4A)で同一にしてもよいし、基板90ごとに異ならせてもよい。
【0028】
例えば、1サイクル1スキャンの加工では、1つの照射条件で1回のスキャンを行う。1サイクル2スキャンの加工では、同一の照射条件で2回のスキャンを行う。このとき、1つの被加工点93には、レーザパルスが合計で2回入射する。2サイクルの加工では、第1照射条件でのスキャンと、第1照射条件とは異なる第2照射条件でのスキャンとを行う。第1照射条件と第2照射条件とでは、用いるパルスレーザビームのパルス幅が異なる。例えば、1サイクル目2スキャン、2サイクル目1スキャンの加工では、第1照射条件で2回のスキャンを行い、次に第2照射条件で1回のスキャンを行う。
【0029】
図5は、ビーム走査器67A、67B(図1)の動作と、パルスレーザビームLpの出力との時間的な関係を示すタイミングチャートである。加工機制御装置42がビーム走査器67A、67Bの動作を開始させる(時刻t)。パルスレーザビームの入射位置の位置決めが完了する(時刻t)と、ビーム走査器67A、67Bから整定完了が加工機制御装置42に通知される。加工機制御装置42は、この整定完了の通知を受けると、レーザ制御装置41に出力タイミング指令ST(図1)を送出する。
【0030】
レーザ制御装置41は、出力タイミング指令STを検知すると、所定のパルス幅に相当する時間だけ高周波電源31を動作させて、放電電極11に高周波電力を供給する。これにより、パルスレーザビームLpのレーザパルスが立ち上がり、所定のパルス幅に相当する時間が経過した時点でレーザパルスが立ち下がる(時刻t)。加工機制御装置42は、音響光学素子65を動作させて、1つのレーザパルスから、第1経路70A(図1)に向かうレーザパルスLpAと、第2経路70B(図1)に向かうレーザパルスLpBとを切り出す。1つのレーザパルスから2つのレーザパルスLpA、LpBが切り出される時間帯以外の時間帯のレーザビームはビームダンパ71(図1)に向かう。
【0031】
レーザパルスが立ち下がると(時刻t)、加工機制御装置42はビーム走査器67A、67B(図1)の動作を開始させ、パルスレーザビームLpの入射位置を、次に加工すべき被加工点93(図4B)の位置まで移動させる。例えば、立ち上がり時刻tから、予め決められているパルス幅に相当する時間が経過した時点を、レーザパルスの立ち下がり時刻tとすればよい。このように、制御装置40は、パルスレーザビームLpの入射位置を、次の被加工点まで移動させる制御と、パルスレーザ発振器10(図1)からレーザパルスを出力させる制御とを繰り返すことにより、1つのスキャンエリア92(図4A)の加工を行う。
【0032】
直前に加工した被加工点93から、次に加工すべき被加工点93までの距離は一定ではないため、パルスレーザビームの入射位置の移動に要する時間も一定ではない。このため、レーザパルスの出力周期も一定ではない。すなわち、パルスレーザビームLpのパルスの繰り返し周波数は一定ではない。本明細書において、「パルスレーザビームのパルスの繰り返し周波数」を、単に「パルスレーザビームの周波数」という場合がある。
【0033】
図6は、複数の基板を加工するときの基板種別ごとの加工期間、基板ごとの加工期間、及び制御装置40が電源30に電圧目標値V1を設定するタイミングの時間的な関係を示すタイミングチャートである。基板種別Aの複数の基板A、A、A、・・・Aを順番に加工し、その後、基板種別Bの複数の基板B、B、B、・・・Bを順番に加工する。なお、図1に示したレーザ加工機においては、第1経路70Aと第2経路70Bとで2枚の基板が同時に加工される。同一の基板種別の複数の基板については、複数の被加工点93(図4A)の分布が同一である。基板種別が異なる基板間では、複数の被加工点93(図4A)の分布が異なっている。
【0034】
ある基板種別の最初の基板、例えば基板種別Aの基板A、基板種別Bの基板Bの加工を行う前に空運転を行う。空運転においては、パルスレーザ発振器10を動作させず、次に加工すべき基板の被加工点93の分布を定義する位置データに基づいて、ビーム走査器67A、67Bを動作させる。空運転中にパルスレーザビームは出力されないが、ビーム走査器67A、67Bの位置決め完了時点(図5の時刻t)から、ビーム走査器67A、67Bの次の動作の開始時点(図5の時刻t)までは、パルス幅に相当する時間だけ遅延させる。これにより、パルスレーザビームが出力されている場合と同一の条件でパルスレーザビームの入射位置を移動させることができる。従って、空運転中は、仮想的にパルスレーザビームが出力されていると考えることができる。この空運転は、基板90に定義されたすべてのスキャンエリア92(図4A)に対して行うが、可動ステージ80を動作させる必要はない。
【0035】
制御装置40は、空運転が終了すると、仮想的なパルスレーザビームの周波数の平均値等に基づいて電圧目標値V1を求める。仮想的なパルスレーザビームの周波数の平均値と、電圧目標値V1との関係は、予め制御装置40に記憶されている。この関係は、例えば離散的な数値テーブル形式で記憶されている。仮想的なパルスレーザビームの周波数の平均値と数値テーブルとから補間演算を行うことにより、電圧目標値V1を求めることができる。制御装置40は、放電電極11に供給される高周波電力の電圧が電圧目標値V1になるように、直流電源32に対して電圧目標値V1の設定を指令する。
【0036】
図7は、実施例によるレーザ加工方法の工程を示すフローチャートである。
まず、加工対象物である基板90を可動ステージ80(図1)に支持させる(ステップSA1)。具体的には、未加工の複数の基板90がストックされたカートからローダ(図示せず)が基板90を搬出し、可動ステージ80の上まで搬送し、可動ステージ80の支持面に載せる。その後、可動ステージ80が基板90を吸着する。吸着後、基板90のアライメントマーク91(図4A)を検出し、可動ステージ80を基準とした基板90の位置を求める。
【0037】
次に、加工機制御装置42がビーム走査器67A、67Bを動作させて空運転(図6)を行い、複数の被加工点93の位置に依存する情報に基づいて、電圧目標値V1を決定する(ステップSA2)。この空運転は、図6の基板種別Aの基板Aの加工を行う前の空運転に相当する。複数の被加工点93の位置に依存する情報として、例えば、空運転期間中の仮想的なパルスレーザビームの周波数の平均値を採用する。
【0038】
ここで、パルス間隔が一定でない場合の「パルスレーザビームの周波数」は、レーザパルスの立ち上がりから次のレーザパルスの立ち上がりまでの経過時間の逆数を意味し、時間軸上に並ぶ2つのレーザパルスに対して1つの周波数が決定される。「パルスレーザビームの周波数の平均値」は、例えば、空運転中におけるビーム走査器67A、67Bの動作時間の合計値(すなわち、パルスレーザビームの入射位置の移動時間の合計値)、パルス幅、及び被加工点93の個数に基づいて計算することができる。
【0039】
パルスレーザビームの周波数の平均値と、電圧目標値V1との関係は、予め加工機制御装置42に記憶されている。電圧目標値V1が決定すると、電源30から放電電極11に供給される高周波電力の電圧が電圧目標値V1になるように、レーザ制御装置41が直流電源32を制御する。
【0040】
電圧目標値V1の電圧の高周波電力が放電電極11に供給されるように、電源30を設定した状態で、制御装置40が高周波電源31、音響光学素子65、ビーム走査器67A、67B、及び可動ステージ80を制御することにより、基板90の加工を行う(ステップSA3)。この処理は、図6に示した基板Aの加工に相当する。基板90の加工が終了すると、加工機制御装置42が、同一種別の未加工の基板90が残っているか否かを判定する(ステップSA4)。
【0041】
同一種別の未加工の基板90が残っている場合には、加工機制御装置42がアンローダ(図示せず)を動作させて、加工済の基板90を可動ステージ80から搬出し、ローダ(図示せず)を動作させて、未加工の同一種別の基板90を可動ステージ80まで搬入し、可動ステージ80に支持させる(ステップSA5)。この処理は、例えば図6に示した基板Aを搬出して、基板Aを搬入する処理に相当する。その後、基板90の加工を実行する(ステップSA3)。
【0042】
同一種別の未加工の基板90が残っていない場合には、加工機制御装置42は、異なる種別の未加工の基板90が残っているか否かを判定する(ステップSA6)。未加工の基板がなくなったら、レーザ加工機の動作を終了させる。異なる種別の未加工の基板90が残っている場合には、加工機制御装置42がアンローダ(図示せず)を動作させて、加工済の基板90を可動ステージ80から搬出し、ローダ(図示せず)を動作させて、未加工の異なる種別の基板90を可動ステージ80まで搬送し、可動ステージ80に支持させる(ステップSA7)。この処理は、例えば図6に示した基板Aを搬出し、基板Bを搬入する処理に相当する。
【0043】
その後、加工機制御装置42は、次に加工すべき基板90の複数の被加工点93の位置データを用いて空運転を行い、電圧目標値V1を決定する。この空運転は、図6に示した基板Bの加工を行う前の空運転に相当する。
【0044】
次に、上記実施例の優れた効果について説明する。
本実施例と異なる方法として、一定のパルスの繰り返し周波数でパルスレーザビームを出力させておき、ビーム走査器67A、67Bによる位置決めが完了していない期間のレーザパルスはビームダンパ71に入力させる方法(以下、比較例による方法という。)が知られている。この方法では、ビーム走査器67A、67Bによる位置決め完了と、次のレーザパルスの立ち上がりとが同期していないため、位置決め完了からレーザパルスの立ち上がりまでに無駄な時間が発生する。
【0045】
これに対して本実施例では、図5に示したように、ビーム走査器67A、67Bによるパルスレーザビームの入射位置の位置決め完了を契機として、レーザパルスが立ち上がる。このため、位置決め完了からレーザパルスの立ち上がりまでに無駄な時間が発生しない。その結果、上記比較例による方法と比べて、加工時間の短縮を図ることができる。
【0046】
パルスの繰り返し周波数が一定ではない場合、パルスの繰り返し周波数を一定にする場合と比べて、パルス幅一定の条件下でパルスエネルギのばらつきが大きくなる傾向がある。パルスエネルギのばらつきは、加工品質の低下をもたらす要因になる。本願発明者は、種々の評価実験を行うことにより、パルスエネルギのばらつきの度合いが、放電電極11(図1)に供給する高周波電力の電圧に依存することを新たに発見した。高周波電力の電圧を変えて複数回の評価実験を行うことにより、パルスエネルギのばらつきの度合いが小さくなる好ましい電圧を見つけ出すことができる。
【0047】
ところが、パルスエネルギのばらつきの度合いが小さくなる好ましい電圧は、パルスの繰り返し周波数の平均値等に依存して変化することが判明した。パルスの繰り返し周波数の平均値は、基板90に定義されている複数の被加工点93(図4A)の分布に依存するため、基板種別が異なると、高周波電力の好ましい電圧も異なる。
【0048】
本実施例においては、ステップSA2(図7)でパルスの繰り返し周波数の平均値を計測し、その結果に基づいて高周波電力の電圧目標値V1を決定している。このため、基板90に定義された複数の被加工点93の分布が異なる基板種別ごとに、その基板種別の基板の加工に適した電圧目標値V1を設定することができる。これにより、パルスレーザビームのパルスエネルギのばらつきの度合いを低減させ、加工品質を高めることが可能になる。
【0049】
次に、上記実施例の変形例について説明する。
上記実施例では、ステップSA2(図7)で求める被加工点93の位置に依存する情報として、パルスレーザビームの周波数の平均値を採用した。その他に、パルスレーザビームの周波数の平均値以外の統計量を、被加工点93の位置に依存する情報として採用してもよい。例えば、中央値、最頻値等を採用してもよい。
【0050】
上記実施例では、パルスレーザビームの周波数の平均値が、空運転中におけるパルスレーザビームの入射位置の移動時間の合計値、パルス幅、及び被加工点93の個数に基づいて計算される。空運転中におけるパルスレーザビームの入射位置の移動時間に比べてパルス幅が十分短い場合には、パルス幅を考慮せず、空運転中におけるパルスレーザビームの入射位置の移動時間の合計値と、被加工点93の個数とにより、パルスレーザビームの周波数の平均値を計算してもよい。
【0051】
上記実施例では、ステップSA2(図7)の空運転中に、パルスレーザ発振器10からパルスレーザビームを出力させていないが、空運転中にパルスレーザビームを出力させ、ビームダンパ71(図1)に入射させることにより、パルスレーザビームが基板90まで到達しない状態を実現してもよい。この場合、空運転が、パルスレーザ発振器10の暖機運転を兼ねることになる。
【0052】
上記実施例では、空運転を行うことにより仮想的なパルスレーザビームの周波数の平均値を求めたが、空運転を行うことなく、複数の被加工点93の位置データに基づいてパルスレーザビームの周波数の平均値を求めてもよい。例えば、複数の被加工点93の位置データを用いて、複数の被加工点の各々から次に加工する被加工点までの距離に関する情報を計算することができる。この距離の平均値と、パルスレーザビームの入射位置の移動速度とに基づいて、パルスレーザビームの周波数の平均値を計算することができる。なお、平均値に代えて、中央値、最頻値等の統計量を計算することも可能である。
【0053】
上記実施例では、音響光学素子65によってパルスレーザビームを第1経路70Aと第2経路70Bとに振り向けて、2枚の基板90を同時に加工するが、1本の経路のみで1枚の基板90を加工する構成としてもよい。
【0054】
上記実施例では、基板種別ごとにパルスレーザビームの周波数の平均値を求めたが、スキャンエリア92(図4A)ごとにパルスレーザビームの周波数の平均値を求めてもよい。この場合には、スキャンエリア92ごとに、最適な電圧目標値V1を設定することができる。例えば、可動ステージ80(図1)を動作させて次に加工するスキャンエリア92を集光レンズ68A、68Bの一方の直下に移動させるのに必要な時間に比べて、直流電源32(図2)の出力電圧を変化させるのに必要な時間が短い場合には、スキャンエリア92ごとに、最適な電圧目標値V1を設定することができる。
【0055】
次に、図8を参照して他の実施例によるレーザ加工機及びレーザ加工方法について説明する。以下、図1図7に示した実施例と共通の構成については説明を省略する。
【0056】
図7に示した実施例では、同一種別の複数の基板の加工(ステップSA3、SA4、SA5の繰り返し)を行っている限り、高周波電力の電圧目標値V1は一定である。これに対して図8に示した実施例では、同一種別の基板の加工を行っている期間にも、高周波電圧の電圧目標値V1を修正する。
【0057】
図8は、本実施例によるレーザ加工方法の工程を示すフローチャートであり、図7のステップSA3に代わるものである。まず、1枚の基板90の加工を行う(ステップSB1)。このとき、現時点で設定されている高周波電力の電圧目標値V1に基づいて電源30(図1)を制御する。
【0058】
1枚の基板90の加工が終了すると、実際の加工に用いたパルスレーザビームの周波数の平均値を求める(ステップSB2)。例えば、スキャンエリア92ごとの加工時間を求め、全てのスキャンエリア92について加工時間を合計する。加工時間の合計値と、被加工点93の個数とに基づいて、パルスレーザビームの周波数の平均値を計算することができる。
【0059】
求められたパルスレーザビームの周波数の平均値に基づいて、高周波電力の電圧目標値V1を修正する(ステップSB3)。例えば、加工機制御装置42(図1)が電圧目標値V1を計算し、電源30が修正後の電圧目標値V1の高周波電力を出力するように、レーザ制御装置41(図1)が電源30を制御する。
【0060】
次に、本実施例の優れた効果について説明する。本実施例では、加工中に計測されたパルスレーザビームの周波数の平均値に基づいて電圧目標値V1を修正するため、より適切な電圧目標値V1の高周波電力を放電電極11に供給することができる。その結果、加工品質をより高めることが可能になる。
【0061】
次に、本発明の変形例について説明する。本実施例では、パルスレーザビームの周波数の統計量として平均値を用いたが、その他に中央値、最頻値等を用いてもよい。
【0062】
各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0063】
10 パルスレーザ発振器
11 放電電極
12 導電部材
13 セラミック部材
14 放電空間
15 端子
16 チャンバ内電流路
17 熱交換器
18 送風機
19 レーザチャンバ
20 チャンバ外電流路
30 電源
31 高周波電源
32 直流電源
35A、35B ブリッジアーム
35C 変圧器
40 制御装置
41 レーザ制御装置
42 加工機制御装置
45 入力装置
61 部分反射鏡
62 光検出器
63 導光光学系
64 アパーチャ
65 音響光学素子(AOD)
66 折り返しミラー
67A、67B ビーム走査器
68A、68B 集光レンズ
70A 第1経路
70B 第2経路
71 ビームダンパ
80 可動ステージ
90 基板
91 アライメントマーク
92 スキャンエリア
93 被加工点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8