(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】アキシャルギャップ型回転電機用の電機子コア、アキシャルギャップ型回転電機用の電機子コアの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/02 20060101AFI20230830BHJP
H02K 1/14 20060101ALI20230830BHJP
H02K 1/18 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
H02K1/02 A
H02K1/14 Z
H02K1/18 E
(21)【出願番号】P 2020067493
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390022806
【氏名又は名称】日本ピストンリング株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112689
【氏名又は名称】佐原 雅史
(74)【代理人】
【識別番号】100128934
【氏名又は名称】横田 一樹
(72)【発明者】
【氏名】堀江 直輝
(72)【発明者】
【氏名】藤井 功隆
(72)【発明者】
【氏名】竹口 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】井口 邦浩
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】栗田 洋敬
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-045241(JP,A)
【文献】特開2014-017904(JP,A)
【文献】特開2008-245503(JP,A)
【文献】特表2017-535238(JP,A)
【文献】特開2009-142095(JP,A)
【文献】特開2009-124794(JP,A)
【文献】特開2008-131784(JP,A)
【文献】特開2007-028855(JP,A)
【文献】特開2017-229191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/02
H02K 1/14
H02K 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アキシャルギャップ型の回転電機に用いられる電機子のコアであって、
電機子の回転軸方向(以下、電機子軸方向)に対して、径方向(以下、電機子径方向)及び周方向(以下、電機子周方向)に延在する円盤体と、
前記円盤体と組み合わされて、該円盤体の表面から電機子軸方向に突出するように配置される複数の突出体と、を備えてなり、
前記突出体は、鉄粉を圧縮形成することで得られる圧粉鉄心であり、
前記突出体は、
電機子軸方向の先端側に向く先端面と、
電機子軸方向の基端側に向く基端面と、
前記先端面と前記基端面をつなぐ周壁と、を有し、
前記突出体における前記先端面の周縁には、該先端面よりも基端側に退避する先端側退避面が形成され、
前記先端側退避面の縁に、前記先端面側に突出するバリが形成されることを特徴とする、
アキシャルギャップ型回転電機用の電機子コア。
【請求項2】
前記先端面を基準とした前記先端側退避面の電機子軸方向の退避距離は、前記バリの突出量よりも大きく設定されることを特徴とする、
請求項1に記載のアキシャルギャップ型回転電機用の電機子コア。
【請求項3】
アキシャルギャップ型の回転電機に用いられる電機子のコアであって、
電機子の回転軸方向(以下、電機子軸方向)に対して、径方向(以下、電機子径方向)及び周方向(以下、電機子周方向)に延在する円盤体と、
前記円盤体と組み合わされて、該円盤体の表面から電機子軸方向に突出するように配置される複数の突出体と、を備えてなり、
前記突出体は、
電機子軸方向の先端側に向く先端面と、
電機子軸方向の基端側に向く基端面と、
前記先端面と前記基端面をつなぐ周壁と、
前記先端面の周縁において、該先端面よりも基端側に退避する先端側退避面と、が、鉄粉から一度の圧縮によってまとめて形成された圧粉鉄心であり、
前記先端面を基準とした前記先端側退避面の電機子軸方向の退避距離は、0.2mm以上となることを特徴とする、
アキシャルギャップ型回転電機用の電機子コア。
【請求項4】
アキシャルギャップ型の回転電機に用いられる電機子のコアであって、
電機子の回転軸方向(以下、電機子軸方向)に対して、径方向(以下、電機子径方向)及び周方向(以下、電機子周方向)に延在する円盤体と、
前記円盤体と組み合わされて、該円盤体の表面から電機子軸方向に突出するように配置される複数の突出体と、を備えてなり、
前記突出体は、鉄粉を圧縮形成することで得られる圧粉鉄心であり、
前記突出体は、
電機子軸方向の先端側に向く先端面と、
電機子軸方向の基端側に向く基端面と、
前記先端面と前記基端面をつなぐ周壁と、を有し、
前記突出体における前記基端面の周縁には、該基端面よりも先端側に退避する基端側退避面が形成され、
前記基端側退避面の縁に、前記基端面側に突出するバリが形成されることを特徴とする、
アキシャルギャップ型回転電機用の電機子コア。
【請求項5】
前記基端面を基準とした前記基端側退避面の電機子軸方向の退避距離は、前記バリの突出量よりも大きく設定されることを特徴とする、
請求項4に記載のアキシャルギャップ型回転電機用の電機子コア。
【請求項6】
アキシャルギャップ型の回転電機に用いられる電機子のコアであって、
電機子の回転軸方向(以下、電機子軸方向)に対して、径方向(以下、電機子径方向)及び周方向(以下、電機子周方向)に延在する円盤体と、
前記円盤体と組み合わされて、該円盤体の表面から電機子軸方向に突出するように配置される複数の突出体と、を備えてなり、
前記突出体は、
電機子軸方向の先端側に向く先端面と、
電機子軸方向の基端側に向く基端面と、
前記先端面と前記基端面をつなぐ周壁と、
前記基端面の周縁において、該基端面よりも先端側に退避する基端側退避面と、が、鉄粉から一度の圧縮によってまとめて形成された圧粉鉄心であり、
前記基端面を基準とした前記基端側退避面の電機子軸方向の退避距離は、0.2mm以上となることを特徴とする、
アキシャルギャップ型回転電機用の電機子コア。
【請求項7】
アキシャルギャップ型の回転電機に用いられる電機子のコアの製造方法であって、
前記コアは、
電機子の回転軸方向(以下、電機子軸方向)に対して、径方向(以下、電機子径方向)及び周方向(以下、電機子周方向)に延在する円盤体と、
前記円盤体と組み合わされて、該円盤体の表面から電機子軸方向に突出するように配置される複数の突出体と、を備えてなり、
前記突出体は、ダイ及びパンチを有する金型のキャビティーに鉄粉を充填して圧縮形成する際に、
電機子軸方向の先端側に向く先端面と、
電機子軸方向の基端側に向く基端面と、
前記先端面と前記基端面をつなぐ周壁と、
前記先端面の周縁において、該先端面よりも基端側に退避する先端側退避面と、をまとめて形成することを特徴とする、
アキシャルギャップ型回転電機用の電機子コアの製造方法。
【請求項8】
アキシャルギャップ型の回転電機に用いられる電機子のコアの製造方法であって、
前記コアは、
電機子の回転軸方向(以下、電機子軸方向)に対して、径方向(以下、電機子径方向)及び周方向(以下、電機子周方向)に延在する円盤体と、
前記円盤体と組み合わされて、該円盤体の表面から電機子軸方向に突出するように配置される複数の突出体と、を備えてなり、
前記突出体は、ダイ及びパンチを有する金型のキャビティーに鉄粉を充填して圧縮形成する際に、
電機子軸方向の先端側に向く先端面と、
電機子軸方向の基端側に向く基端面と、
前記先端面と前記基端面をつなぐ周壁と、
前記基端面の周縁において、該基端面よりも先端側に退避する基端側退避面と、をまとめて形成することを特徴とする、
アキシャルギャップ型回転電機用の電機子コアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機や発電機となるアキシャルギャップ型回転電機に用いられる電機子等に関する。
【背景技術】
【0002】
発電機や電動機となるアキシャルギャップ型回転電機は、ロータとステータが、回転軸の軸方向に対向状態で配置される。ロータとステータの一方は、巻き線(コイル)を有する電機子となり、この電機子に電流を流すことで回転磁界を発生する。ロータとステータの他方は、電機子と対向する対向子(界磁子)となり、例えば永久磁石を有して構成されて、電機子の回転磁界との相互作用によって回転力(トルク)を生じさせる。なお、アキシャルギャップ型回転電機の場合、一般的に、ステータ側が電機子となる場合が多い。
【0003】
電機子は、インサート成形によって、電機子コアと巻き線が樹脂で一体化される。電機子コア(鉄心)は、円盤状(円盤状にはリング状の概念を含む)に構成される円盤体(ヨーク)と、この円盤体に対して突出するように配置される突出体(ティース)を備える。突出体は、円盤体に対して周方向に複数配置される。巻き線は、コアの各突出体の周囲に巻き付けられる。
【0004】
電機子コアは、主に、軟磁性鋼板(電磁鋼板)を積層して構成される。この軟磁性鋼板は、板の面方向に磁路を形成しやすい特性を有する。巻き線によって生成する磁界を、対向子に効果的に伝えるために、円盤体(ヨーク)は、電機子の回転軸に対して直交方向(径方向及び周方向)に広がる円盤状の軟磁性鋼板を、電機子の軸方向に積層して構成される。突出体は、電機子の軸方向及び周方向に広がる矩形の軟磁性鋼板を、電機子の径方向に積層することでブロック形状に構成される。
【0005】
以上の通り、アキシャルギャップ型回転電機の電機子コアを軟磁性鋼板によって製造しようとすると、複雑な積層構造となり、製造コストが増大する。そこで、電機子コアを圧粉鉄心にすることが行われている。具体的には、磁性を有する金属粉に絶縁被膜を形成して単磁区化しておき、この金属粉に潤滑材等を混合して金型を用いて加圧(プレス)成形する。この成形品を焼鈍することで、圧粉鉄心の電機子コアが製造される。
【0006】
電機子コア全体を、圧粉鉄心によって一体成形しようとすると、そのサイズが大きいために成形荷重が大きくなり、プレス機械の制約を受けやすい。そこで、電機子コアを周方向に分割した分割コアとし、この分割コアを圧粉鉄心で成形する試みがなされている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
複数の分割コアを組み合わせて一体化した電機子コアを構成すると、全体の剛性が低下する。特に、アキシャルギャップ型回転電機の電機子コアには、軸方向の反力(スラスト反力)が作用するので、電機子コアが変形しやすい。電機子コアが変形すると、対向子と干渉する可能性があることから、エアギャップを大きく確保しなければならず、回転電機が大型化してしまう。
【0009】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、剛性と製造の容易性を合理的に両立させることが可能なアキシャルギャップ型回転電機用の電機子コア等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成する本発明は、アキシャルギャップ型の回転電機に用いられる電機子のコアであって、電機子の回転軸方向(以下、電機子軸方向)に対して、径方向(以下、電機子径方向)及び周方向(以下、電機子周方向)に延在する円盤体と、前記円盤体と組み合わされて、該円盤体の表面から電機子軸方向に突出するように配置される複数の突出体と、を備えてなり、前記突出体は、鉄粉を圧縮形成することで得られる圧粉鉄心であることを特徴とする、アキシャルギャップ型回転電機用の電機子コア。
【0011】
上記電機子コアに関連して、前記円盤体は、円盤状の軟磁性鋼板を電機子軸方向に積層した積層鋼板であることを特徴とする。
【0012】
上記電機子コアに関連して、前記突出体は、電機子軸方向から視た場合に略台形形状となることを特徴とする。
【0013】
上記電機子コアに関連して、前記突出体は、電機子軸方向の先端側に向く先端面と、電機子軸方向の基端側に向く基端面と、前記先端面と前記基端面をつなぐ周壁と、を有することを特徴とする。
【0014】
上記電機子コアに関連して、前記周壁は、電機子径方向内側に向く内壁面と、電機子径方向外側に向く外壁面と、電機子周方向に向く一対の側壁面と、を有することを特徴とする。
【0015】
上記電機子コアに関連して、前記突出体における前記先端面の周縁には、該先端面よりも基端側に退避する先端側退避面が形成されることを特徴とする。
【0016】
上記電機子コアに関連して、前記突出体における前記基端面の周縁には、該基端面よりも先端側に退避する基端側退避面が形成されることを特徴とする。
【0017】
上記電機子コアに関連して、前記突出体における前記周壁には、電機子軸方向に係合可能な係合段部が形成されることを特徴とする。
【0018】
上記電機子コアに関連して、前記突出体における前記周壁には、電機子軸方向に延在する周壁側溝部又は周壁側凸部が形成されることを特徴とする。
【0019】
上記電機子コアに関連して、前記突出体における前記基端面には、電機子軸方向に突出する基端側凸部が形成されることを特徴とする。
【0020】
上記電機子コアに関連して、前記基端側凸部は、電機子径方向に沿って複数形成されることを特徴とする。
【0021】
上記電機子コアに関連して、前記周壁は、電機子軸方向に向かうに連れて、電機子径方向及び/又は電機子周方向に変位する傾斜面を含むことを特徴とする。
【0022】
上記電機子コアに関連して、前記突出体は、電機子軸方向に貫通する貫通孔が形成されることを特徴とする。
【0023】
上記電機子コアに関連して、前記円盤体は、前記突出体の基端側の少なくとも一部収容する収容部を有することを特徴とする。
【0024】
上記目的を達成する本発明は、上記電機子コアと、前記突出体を取り囲むように配置される巻き線部と、前記電機子コア及び前記巻き線部をまとめて覆う樹脂部と、を備えることを特徴とする、アキシャルギャップ型回転電機用の電機子である。
【0025】
上記目的を達成する本発明は、上記電機子と、前記電機子に対して電機子軸方向に対向して配置される対向子と、を備えることを特徴とするアキシャルギャップ型回転電機である。
【0026】
上記目的を達成する本発明は、上記電機子のインサート成形用金型であって、キャビティーには、複数の前記突出体の先端面が同一位置となるように保持する基準面が形成されることを特徴とする電機子のインサート成形用金型である。
【0027】
上記インサート成形用金型に関連して、前記キャビティーには、前記円盤体を、前記突出体の基端近傍に保持する円盤体保持部が形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、剛性と製造の容易性を合理的に両立させることが可能なアキシャルギャップ型回転電機用の電機子コア等を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の実施の形態における電機子の電機子コアの(A)平面図であり、(B)正面図である。
【
図3】(A)は同電機子コアの突出体の平面図であり、(B)は同突出体単体の六面図である。
【
図4】(A)は同突出体の平面図であり、(B)及び(C)は同突出体をプレス成形する状態を説明する断面図及び部分拡大図である。
【
図5】(A)は、同電機子の平面図であり、(B)は、同電機子の正面図であり、(C)は、同電機子をインサート成形する際の金型の状態を示す(A)のC-C矢視断面図である。
【
図6】(A)は同電機子の一部を拡大して示す平面図であり、(B)は(A)のB-B矢視断面図であり、(C)は、(A)のC-C矢視断面図である。
【
図7】(A)は、本実施形態の変形例となる電機子の突出体単体の六面図であり、(B)ないし(E)は同電機子の一部を拡大して径方向外周側から視た断面図である。
【
図8】(A)は、本実施形態の変形例となる電機子の突出体単体の六面図であり、(B)および(C)は同突出体を円盤体に係合させる工程を示す部分拡大した断面図及び平面図であり、(D)は同電機子の一部を拡大して周方向から視た断面図である。
【
図9】(A)は、本実施形態の変形例となる電機子の突出体単体の六面図であり、(B)は同電機子の一部を拡大して径方向外周側から視た断面図であり、(C)は同突出体単体の正面図及び側面図である。
【
図10】(A)は、本実施形態の変形例となる電機子の突出体単体の六面図であり、(B)および(C)は同電機子の一部を拡大して周方向側面側から視た断面図である。
【
図11】(A)は、本実施形態の変形例となる電機子の突出体単体の六面図であり、(B)は、(A)のB-B矢視方向から同電機子の一部を拡大して径方向外周側から視た断面図であり、(C)は(A)及び(B)のC-C矢視断面図であり、(D)は(A)及び(B)のD-D矢視断面図である。
【
図12】(A)は、本実施形態の変形例となる電機子の突出体単体の六面図であり、(B)は同電機子の一部を拡大して周方向側面側から視た断面図である。
【
図13】(A)は、本実施形態の変形例となる電機子の突出体単体の六面図であり、(B)は同電機子の一部を拡大して径方向外周側から視た断面図である。
【
図14】(A)は、本実施形態の変形例となる電機子の突出体単体の六面図であり、(B)は同電機子の一部を拡大して径方向外周側から視た断面図である。
【
図15】(A)は、本実施形態の変形例となる電機子コアの円盤体の平面図であり、(B)は(A)のB-B矢視断面図であり、(C)は同円盤体を用いた電機子コアの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。添付図面は発明を実施する形態の一例であって、図中、同一の符号を付した部分は同一物を表わす。また、各図における各部の形状や寸法比は、必ずしも正確なものではない。
【0031】
図1に、本実施形態の電機子コア1の全体構造を示す。電機子コア1は、アキシャルギャップ型の回転電機(発電機又は電動機)の電機子に用いられるものであり、ここではステータとなる場合を例示する。電機子コア1は、円盤体(ヨーク)10と突出体(ティース)30を有する。円盤体10は、電機子の軸方向(以下、電機子軸方向Z)に対して直交するプレート形状であって、径方向(以下、電機子径方向K)及び周方向(以下、電機子周方向S)に延在する。なお、本実施形態の円盤体10は、リング形状となっており、軸心側に円形開口12が形成される。この円形開口12内に、回転電機の回転軸が収容される。
【0032】
円盤体10は、平面視(軸方向視)する場合に同一外形となる円盤状の軟磁性鋼板を、電機子軸方向Zに積層した積層鋼板となる。円盤体10は、この積層鋼板によってスラスト力に対して高い剛性が確保される。
【0033】
同一形状となる複数(ここでは12個)の突出体30は、この円盤体10に組み合わされる。
図1(B)に示すように、突出体30は、円盤体10の表面10Aから、電機子軸方向Zに突出するように配置される。複数の突出体30は、周方向に等間隔(ここでは15度間隔)で配置される。
【0034】
突出体30は、鉄粉を圧縮形成することで得られる圧粉鉄心となる。具体的に、磁性を有する金属粒子(粉末)の表面を絶縁被膜した原材料を用い、この粉末を金型圧縮工程(プレス工程)によって成形し、熱処理(焼鈍)を行うことで製作される。なお、原材料の一部に樹脂を含ませることもできる。
【0035】
図2に示すように、円盤体10は、突出体30を収容するための収容部14を、周方向に一定の間隔で複数備えている。本実施形態において、収容部14は軸方向に貫通する開口となっており、突出体30の外形と近似形状となる。円盤体10は、この収容部14を取り囲むようにして、円弧又は部分円弧となる内側リング部20と、円弧又は部分円弧となる外側リング部21と、径方向延在部22を有する。内側リング部20は、収容部14の径方向内側縁を形成する環状部材となり、外側リング部21は、収容部14の径方向外側縁を形成する環状部材となる。径方向延在部22は、内側リング部20と外側リング部21を繋ぐように径方向に延びる帯状部材となり、収容部14の両側縁を形成する。
【0036】
外側リング部21には、隔離スリット24が形成される。この隔離スリット24は、円盤体10の内側縁と収容部14を貫く空隙となる。隔離用スリット24は、収容部14の周囲(内側リング部20、外側リング部21、径方向延在部22)を周回する渦電流の発生を抑制する役割を担う。なお、隔離スリット24は、収容部14の周縁に形成されていればその場所は問わない。例えば、径方向延在部22に形成されても良い。
【0037】
更に隔離スリット24には、後述するインサート成形時に樹脂を流し込むことで、突出体30を樹脂で固定する役割も担う。
【0038】
図3(A)に、12個の突出体30を示す。各突出体30は、
図3(B)に示すように、電機子軸方向Z(
図1B参照)から視た場合に、略台形形状となる。突出体30を台形形状とすることによって、円盤体10の限られたスペース内に、できる限り緻密に、多くの突出体30を配置できる。なお、本実施形態では24個の突出体30を配置する場合を例示するが、本発明はこれに限定されない。例えば、6個以上の突出体30を配置することが好ましく、好ましくは12個以上配置する。さらに望ましくは、18個以上配置する。
【0039】
各突出体30を略台形形状とすることで、特に内周側において、突出体30に巻き付けられる巻き線の巻き付け角を緩くすることができる。
【0040】
図3(B)に示すように、突出体30は、電機子軸方向Zの先端側に向く先端面32と、電機子軸方向Zの基端側に向く基端面34と、先端面32と基端面34をつなぐ周壁36を有する。この周壁36は、電機子径方向Kの内側に向く内壁面36Aと、電機子径方向Kの外側に向く外壁面36Bと、電機子周方向Sに向く一対の側壁面36Cを有する。この結果、突出体30は六面体構造となる。内壁面36Aと一対の側壁面36Cの境界(角部)は、平面視部分円弧状の湾曲面となる。同様に、外壁面36Bと一対の側壁面36Cの境界(角部)も、平面視部分円弧状の湾曲面となっている。湾曲面とすることで、巻き線に傷が付くことを回避する。これらの湾曲面の曲率半径は0.5mm以上が好ましく、さらに好ましくは1.0mm以上に設定する。
【0041】
内壁面36Aは、電機子径方向Kの外側に凹む湾曲状の平面とすることができ、外壁面36Bは、電機子径方向Kの外側に凸となる湾曲状の平面とすることができる。また、内壁面36Aの最大の幅W1は、外壁面36Bの最大の幅W2よりも小さく設定される。一方、幅W1はできる限り大きいことが望ましく、幅W2の1/10以上に設定される。内壁面36Aの幅W1が大きいほど、これに巻き付けられる巻き線の巻き付け角を緩くすることができるからである。
【0042】
図4(A)に拡大して示すように、突出体30における先端面32の周縁には、この先端面32よりも基端側に退避する先端側退避面32Aが形成される。
図4(B)に示すように、突出体30をプレス成形する場合、突出体30の周壁36を成形するダイ300と、先端面32(又は基端面34)を形成するパンチ310を利用する。なお、
図4(B)の右側拡大図はパンチ310(上パンチ)が、突出体30(鉄粉)と接触する直前を示す模式図である。ダイ300とパンチ310の内部空間となるキャビティーに鉄粉を充填した後、
図4(C)に示すように、パンチ310を下降させて鉄粉を圧縮する。その際、右側拡大図に示すように、パンチ310とダイ300の隙間によって軸方向に突出するバリ38が形成される。本実施形態では、バリ38の最大突出量(突出想定量)L1よりも大きい距離となるL2で、先端側退避面32Aを先端面32から基端側に退避させている。結果、バリ38の先端が、先端面32よりも突出することがない。なお、バリ38の突出量は、例えば、0.1mm~0.2mmとなるので、先端側退避面32Aの退避距離は0.2mm以上であることが好ましく、より好ましくは0.5mm以上に設定する。ちなみにバリ38が、先端面32よりも電機子軸方向Zに突出すると、後述するインサート成形時において突出体30の位置決め精度が悪化したり、対向子(例えばロータ)と接触して不具合を起こしたりする可能性がある。
【0043】
なお、上記先端側退避面32Aと同様の趣旨の下、
図4(B)および(C)の左側拡大図に示すように、突出体30における基端面34の周縁にも、この基端面34よりも先端側に退避する基端側退避面34Aが形成されることが好ましい。
【0044】
図5(A)及び(B)に、この電機子コア1と巻き線50を、樹脂60によって組み合わせた状態でインサート成形された電機子100を示す。巻き線50は、突出体30に巻き付けられる。樹脂60は、巻き線50や突出体30を包み込むことで、全体を一体化する。説明の便宜上、樹脂60の外形を点線で示している。
図5(A)に示すように、電機子コア1の円盤体10において、外側リング部21(
図2参照)の表面10Aの一部は、樹脂60によって覆われずに露出している。換言すると、樹脂60には逃げ部60Aが形成されており、これにより円盤体10の表面10Aが部分的に露出している。これは、インサート成形の際に、円盤体10をキャビティー内に位置決めする際に利用された部分となる。
【0045】
図5(C)に、電機子100のインサート成形用の金型200を示す。金型200のキャビティーの鉛直方向の底面には、複数の突出体30の先端面32を同一位置に保持する基準面210が形成される。この基準面210によって、複数の突出体30の先端面32の電機子軸方向Z位置を、互いに高精度に一致させることができる。さらにキャビティー内には、基準面210によりも鉛直方向の上方側において、円盤体10を鉛直下側から保持する円盤体保持部220が形成される。この円盤体保持部220によって、基準面210を基準とした円盤体10の電機子軸方向Zの位置及び電機子軸方向Zに対する直交度を高精度に決定する。円盤体保持部220と円盤体10の接触部分には樹脂が流れ込まないため、成形後における樹脂60の逃げ部60Aとなる。なお、キャビティーの天井面230と突出体30の基端面34の間、及び、キャビティーの天井面230と円盤体10の裏面10Bの間には隙間が形成される。結果、この隙間に樹脂60が流れ込むので、
図5(B)に示すように、インサート成形後の突出体30の基端面34及び円盤体10の裏面10Bの全部または一部は、樹脂60によって覆われる。結果、円盤体10や突出体30に、電機子軸方向Zにおける基端側に向かうスラスト力が作用しても、樹脂60がそのスラスト力を受け止めることができる。
【0046】
突出体30を圧粉鉄心とする場合、成形工程や熱処理工程で寸法変化が生じやすい。すなわち、突出体30の電機子軸方向Zの寸法に誤差が生じやすい。そこで本実施形態の金型200のように、複数の突出体20の先端面32を保持する基準面210を設けることで、突出体30の寸法誤差を、基端面34側に集約させる。また、円盤体10の位置決めも、突出体30を利用することなく、円盤体保持部220によって行うことで、高精度化できる。なお、この金型200によってインサート成形した場合、先端面32は樹脂60から露出した状態となる。
【0047】
図6(A)に示すように、円盤体10には、隔離スリット24が形成される。結果、インサート成形後は、
図6(B)に示すように、樹脂60が、隔離スリット24に流れ込む。結果、円盤体10の収容部14と突出体30の隙間にも、樹脂60が充填されるので、インサート成形後において、円盤体10と突出体30の相対移動が抑制され、全体の剛性が高くなる。
【0048】
以上の通り、本実施形態の電機子コア1は、円盤体10と突出体30が別部材となっており、円盤体10を積層鋼板で構成しつつ、突出体30を圧粉鉄心としている。円盤体10によって電機子コア1の全体的な剛性を高めつつも、突出体30を所望形状に自在に成形可能となる。
【0049】
図6(C)に示すように、圧粉鉄心となる突出体30は、磁路の形成が無方向(自在)となるので、電機子軸方向Zに延びる磁路を、基端側において円盤体10側(ここでは電機子周方向S)に屈曲させることができる。一方、電磁鋼板で形成される円盤体10は、平面方向(ここでは電機子周方向S)に沿った磁路を形成しやすい。従って、収容部14に突出体30を収容させることで、突出体30の基端側の内部に形成される磁路と、円盤体10に形成される磁路の方向を連続(一致)させることが可能となり、ロスの少ない磁界を生成できる。
【0050】
更に本実施形態の突出体30は、電機子軸方向Zから視た場合に略台形形状としている。このようにすると、
図1に示すように、リング状の電機子コア1において、周方向に多数の突出体30を緻密に配置できる。結果、トルクに影響を与え得る先端面32の総面積を増やすことが可能となる。また、軸心側が鋭角となる扇型と比較して、内周側(軸心側)に内壁面36Aを確保できる結果、巻き線の巻き付け角度を緩やかにできるので、巻き線の損傷を抑制できる。
【0051】
次に、
図7以降を参照して、本実施形態の電機子100及び電機子コア1の変形例について説明する。なお、
図7以降では、本実施形態と異なる部分について図示及び説明を行い、共通する部分の図示及び説明を省略する。
【0052】
図7(A)に示す突出体30は、周壁36において、電機子軸方向Zに係合可能な係合段部40が形成される。ここでは、突出体30の基端側が、電機子周方向Sに拡張しており、その境界が係合段部40となる。係合段部40は、電機子軸方向Zの先端側に向く係合面を有する。
図7(B)に示すようにインサート成形を行うと、係合段部40と巻き線50(又は樹脂60)が電機子軸方向Zに係合するので、磁力によって突出体30が電機子軸方向Zの先端側に引っ張られても、その移動が抑制される。
【0053】
なお、
図7(C)に示すように、この係合段部40の係合面を、円盤体10に係合させることが好ましい。このようにすると、磁力によって突出体30が電機子軸方向Zの先端側に引っ張られても、係合段部40が円盤体10と係合してその移動が抑制される。なお、
図7(D)に示すように、係合段部40を、一対の円盤体10,11で挟み込むことも可能であり、このようにすると、突出体30の電機子軸方向Zの双方向の移動を規制できる。さらに
図7(E)に示すように、係合段部40(本体よりも拡張する部分)を、周壁36における電機子軸方向Zの途中に突出するように形成することも好ましい。このようにすると、電機子軸方向Zの先端側に向く先端側係合面40Aと、基端側に向く基端側係合面40Bを形成できる。基端側係合面40Bを、円盤体10(または樹脂60)に係合させることで、突出体30の基端側への移動を規制することも可能となる。なお、ここでは周壁36における一対の側壁面36Cに係合段部40を形成する場合を示すが、内壁面36Aまたは外壁面36Bに形成してもよい。
【0054】
また、
図8(A)に示すように、突出体30の周壁36において、電機子軸方向Zに沿って異なる位置、且つ、電機子軸方向Zに重ならない位置に、複数の係合段部40を形成することも好ましい。ここでは内壁面36Aにおいて、基端面34に近い位置となる第一係合段部41が形成され、外壁面36Bにおいて、第一係合段部41よりも先端側にずれた位置に第二係合段部42が形成される。同時に、円盤体10における収容部14のサイズを大きめに設定しておくことで、突出体30が電機子径方向Kにスライド可能にする。
図8(B)に示すように、突出体30を、第一係合段部41が収容部14に干渉しないように挿入して、第二係合段部42と円盤体10の表面10Aを係合させた後、
図8(C)に示すように、突出体30を電機子径方向Kの内側(軸心側)にスライドさせることで、第一係合段部41を円盤体10に係合させる。結果、突出体30と円盤体10を、電機子軸方向Zの双方向に係合させることができる。その後、
図8(D)に示すように、インサート成形によって、樹脂60で一体的に固めることで、突出体30の電機子径方向Kのスライドを規制できる。なお、複数の係合段部40が、電機子軸方向Zに重ならない位置に配置する理由は、プレス成形後の成形体をダイから容易に離型させるためである。
【0055】
図9(A)の突出体30は、基端面34において、電機子軸方向Zに突出する基端側凸部43が形成される。この基端側凸部43は、電機子径方向Kに沿って複数形成されると共に、電機子周方向Sに沿って複数形成される。結果、全体として、いわゆる格子状又はローレット形状の突起となる。
図9(B)に示すように、この突出体30をインサート成形すると、樹脂60と基端面34の接触面積が増大して、両者の結合力を高めることが可能となる。なお、
図9(C)に示すように、基端側凸部43は、成形性を考慮して、角部をR形状(湾曲形状)とすることが好ましい。
【0056】
図10(A)の突出体30は、基端面34において、電機子軸方向Zに突出する基端側凸部43を、電機子径方向Kに沿って複数有している。
図10(B)に示すように、円盤体10の収容部14を有底構造とし、その底面に、予め、基端側凸部43と反対形状となる凹部を形成しておくことで、両者を嵌め合わせることができる。また例えば、
図10(C)に示すように、円盤体10の収容部14において、基端側凸部43に対応する複数の貫通孔を形成しておき、この貫通孔と基端側凸部43を嵌め合わせることも可能である。
【0057】
図11(A)の突出体30は、周壁36において、電機子軸方向Zに延在する周壁側溝部44が形成される。この周壁側溝部44は、プレス成形及び離型の容易性から、周壁36における電機子軸方向Zの途中から始まり、基端面34に達してる。このようにすると、
図11(B)(C)及び(D)に示すように、周壁側溝部44に樹脂を流し込むことが可能となるので、樹脂60と周壁36の接触面積が増大し、両者の結合力を高めることが可能となる。また、周壁側溝部44を周壁36の途中で終了させることで、軸方向の段部も形成され、樹脂60と周壁36を電機子軸方向Zに係合させることができる。なお、ここでは周壁36に溝を形成する場合を例示したが、本発明はこれに限定されない。周壁36において、電機子軸方向Zに延在する列状の周壁側凸部(突起)を形成しても良い。
【0058】
図12(A)の突出体30には、電機子軸方向Zに貫通する貫通孔45が形成される。
図12(B)に示すように、例えば、この貫通孔45にボルトを挿入して、円盤体10と螺合させることで、突出体30を円盤体10に固定できる。なお、本発明は貫通孔45に限られず、基端面34側に雌ねじ孔を形成することで、この突出体30を雄ねじと螺合させるようにして固定することもできる。
【0059】
図13(A)の突出体30は、先端側に拡張部46が形成される。この拡張部46は、本体に対して電機子径方向K及び/又は電機子周方向Sに拡張している。結果、
図13(B)に示すように、突出体30の先端面32をヨークとして機能させることが可能となり、対向子(例えばロータ)と向き合う面積を増大させることが可能となる。
【0060】
図14(A)の突出体30は、周壁36に、電機子軸方向Zに向かうに連れて電機子径方向K及び/又は電機子周方向Sに変位する傾斜面47が形成される。なお、ここでは一対の側壁面36Cそのものが、先端面32から基端面34に向けて電機子周方向Sに広がるようなテーパー形状の傾斜面47となる。このようにすると、
図14(B)に示すように、磁力によって突出体30が電機子軸方向Zの先端側に引っ張られても、樹脂60が、突出体30の傾斜面47と係合してその移動が抑制される。なお、この傾斜面47は、内壁面36Aまたは外壁面36Bに形成してもよく、その場合は電機子径方向Kに変位する傾斜面となる。また、基端面34から先端面32に向けて広がるようなテーパー形状の傾斜面47としても良い。
【0061】
図15(A)及び(B)の円盤体10は、収容部14が、底面14Aを有する有底状態の凹部となる。隔離スリット24は、収容部14まで連通するようになっている。
図15(C)に示すように、突出体30は、基端面34が底面14Aと当接するようにして、収容部14に収容される。
【0062】
なお、上記実施形態では、電機子コア1の円盤体10が、360度の位相で完全につながっている環状のリングとなる場合を例示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、円盤体が部分円弧(部分リング)状となる場合も含む。また、本実施形態では、電機子100がステータとなる場合を例示しているが、ロータとして機能させることもできる。
【0063】
なお、本発明の電機子等は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0064】
1 電機子コア
10 円盤体
10A 表面
10B 裏面
14 収容部
24 隔離スリット
30 突出体
32 先端面
32A 先端側退避面
34 基端面
34A 基端側退避面
36 周壁
36A 内壁面
36B 外壁面
36C 側壁面
38 バリ
40 係合段部
43 基端側凸部
44 周壁側溝部
45 貫通孔
46 拡張部
50 巻き線
60 樹脂
100 電機子
200 金型
210 基準面
220 円盤体保持部
230 天井面
300 ダイ
310 パンチ
K 電機子径方向
S 電機子周方向
Z 電機子軸方向