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特許7339938リチウムイオン二次電池の電池群及びリチウムイオン二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の電池群及びリチウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20230830BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20230830BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230830BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230830BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M10/0567
H01M10/052
H01M10/0568
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020197159
(22)【出願日】2020-11-27
(65)【公開番号】P2022085456
(43)【公開日】2022-06-08
【審査請求日】2021-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】立石 満
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 元
(72)【発明者】
【氏名】秋山 直久
(72)【発明者】
【氏名】岡田 貴
【審査官】森 透
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0335822(US,A1)
【文献】特開2019-016483(JP,A)
【文献】特開2020-091977(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163279(WO,A1)
【文献】特開2007-018963(JP,A)
【文献】特開2017-059523(JP,A)
【文献】特開2019-040721(JP,A)
【文献】特開2017-174617(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 10/36-10/39
H01M 10/00-10/04
H01M 10/06-10/34
H01M 50/10-50/198
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FSO3 -を含むFSO含有電解液を備える複数の同種のリチウムイオン二次電池からなる電池群であって、
上記電池群は、電池内部にステンレス鋼からなるSUS異物を含有する異物含有電池を有しており、
上記異物含有電池に含まれている上記SUS異物は、CrF層で覆われており、
上記異物含有電池は、上記FSO含有電解液中に上記SUS異物が溶解した溶解成分を含まない
リチウムイオン二次電池の電池群。
【請求項2】
FSO3 -を含むFSO含有電解液を備えるリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
FSO3 -を含まず、かつ、Fを含む支持塩を有するFSO無し電解液を備えるリチウムイオン二次電池について、この電池の内部にステンレス鋼からなるSUS異物が含まれていた場合には、上記SUS異物の表面に不動態膜に代えてCrF層を形成するCrF層形成処理を行うCrF層形成工程と、
上記CrF層形成工程の後、上記FSO無し電解液を上記FSO含有電解液に変える電解液変更工程と、を備える
リチウムイオン二次電池の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、
前記FSO無し電解液は、前記支持塩としてLiPF6を含み、
前記CrF層形成工程は、正極電位を3.8V(vsLi/Li+)以上に高めて前記CrF層を形成する
リチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、FSO3 -を含む電解液を備える複数の同種のリチウムイオン二次電池からなる電池群、及び、FSO3 -を含む電解液を備えるリチウムイオン二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池(以下、単に「電池」ともいう)の電解液に、フルオロスルホン酸リチウム(LiFSO3)などを加えて、電解液中にフルオロスルホン酸イオン(FSO3 -)を含ませることが知られている。電解液中にFSO3 -を含ませることで、電池の使用(充放電)に伴って電解液が分解されるのを抑制できる、電池の入出力特性を良好にできる、電池を繰り返し使用したときの容量維持率を向上できるなど、電池特性を良好にできる利点が得られる。関連する従来技術として、例えば特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-204791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、FSO3 -が電解液中に含まれている水分と反応してHFSO3が生じると、HFSO3は強酸であるため、電池内部にステンレス鋼からなるSUS異物が混入している場合、SUS異物の表面には不動態膜が形成されているにも拘わらず、HFSO3によりSUS異物全体、即ち、不動態膜及びSUS異物本体が溶解してしまう。そして、この溶解したステンレスが、負極板上に析出してデンドライトを形成すると、負極板と正極板との間で内部短絡を生じるおそれがある。
【0005】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、電解液中にFSO3 -を含みながらも、SUS異物に起因した内部短絡が生じるのを抑制できる、リチウムイオン二次電池の電池群及びリチウムイオン二次電池の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、FSO3 -を含むFSO含有電解液を備える複数の同種のリチウムイオン二次電池からなる電池群であって、上記電池群は、電池内部にステンレス鋼からなるSUS異物を含有する異物含有電池を有しており、上記異物含有電池に含まれている上記SUS異物は、CrF層で覆われており、上記異物含有電池は、上記FSO含有電解液中に上記SUS異物が溶解した溶解成分を含まないリチウムイオン二次電池の電池群である。
【0007】
上述の電池群を構成する各リチウムイオン二次電池は、FSO3 -を含んだFSO含有電解液を有するため、前述のように電池特性が良好である。一方、電池群を構成する各電池のうち、異物含有電池では、含有しているSUS異物(SUS異物本体)がCrF層で覆われているため、電解液中にHFSO3が発生しても、SUS異物が溶解するのを抑制でき、SUS異物に起因した内部短絡が生じるのを抑制できる。従って、上述の電池群を構成する各電池は、電解液中にFSO3 -を含みながらも、SUS異物に起因した内部短絡が生じるのを抑制できる。
【0008】
なお、「FSO含有電解液」としては、例えば、LiPF6、LiBF4、CF3SO3Liなどの支持塩と共に、LiFSO3、NaFSO3、KFSO3、CsFSO3、Mg(FSO32、Ca(FSO32などが溶解して、FSO3 -を含んでいる電解液が挙げられる。
【0009】
また、他の態様は、FSO3 -を含むFSO含有電解液を備えるリチウムイオン二次電池の製造方法であって、FSO3 -を含まず、かつ、Fを含む支持塩を有するFSO無し電解液を備えるリチウムイオン二次電池について、この電池の内部にステンレス鋼からなるSUS異物が含まれていた場合には、上記SUS異物の表面に不動態膜に代えてCrF層を形成するCrF層形成処理を行うCrF層形成工程と、上記CrF層形成工程の後、上記FSO無し電解液を上記FSO含有電解液に変える電解液変更工程と、を備えるリチウムイオン二次電池の製造方法である。
【0010】
上述の電池の製造方法では、まずFSO3 -を含まず、かつ、Fを含む支持塩を有するFSO無し電解液を備える電池を用意し、CrF層形成工程において、この電池にCrF層形成処置を行う。これにより、電池内部にSUS異物が含まれていた場合には、このSUS異物の表面に不動態膜に代えてCrF層が形成される。なお、この段階では、電解液にFSO3 -が含まれていないため、電解液中にHFSO3が発生して、(CrF層が未形成の)SUS異物が溶解することはない。一方、CrF層で覆われたSUS異物は、もはやHFSO3によっても溶解しない。このため、CrF層形成工程後の電解液変更工程で、FSO無し電解液を、FSO3 -を含むFSO含有電解液に変えても、電解液中に発生したHFSO3によってSUS異物が溶解するのを抑制でき、SUS異物に起因した内部短絡が生じるのを抑制できる。
【0011】
なお、「FSO無し電解液」としては、FSO3 -を含まず、かつ、Fを含む支持塩として、例えばLiPF6、LiBF4、CF3SO3Liなどを含む電解液が挙げられる。
電解液変更工程で「FSO無し電解液をFSO含有電解液に変える」具体的な手法としては、例えば、FSO3 -を含む追加用電解液を別途用意しておき、この追加用電解液を、電池内に注液済みのFSO無し電解液に追加注液して、FSO含有電解液に変える手法が挙げられる。また、電池内に注液済みのFSO無し電解液を電池内から取り出して、代わりにFSO含有電解液を注液する手法も挙げられる。
【0012】
更に、上記のリチウムイオン二次電池の製造方法であって、前記FSO無し電解液は、前記支持塩としてLiPF6を含み、前記CrF層形成工程は、正極電位を3.8V(vsLi/Li+)以上に高めて前記CrF層を形成するリチウムイオン二次電池の製造方法とすると良い。
【0013】
上述の電池の製造方法では、FSO無し電解液の支持塩をLIPF6(六フッ化リン酸リチウム)とし、CrF層形成工程において、正極電位を3.8V(vsLi/Li+)以上に高めるだけで、SUS異物(SUS異物本体)の表面にCrF層を形成できる。このため、CrF層の形成を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態に係る電池の斜視図である。
図2】実施形態に係る電池の製造方法のフローチャートである。
図3】CrF層形成処理により、SUS異物の表面に不動態膜に代えてCrF層が形成されるのを模式的に示す説明図である。
図4】試験用のセルの説明図である。
図5】試験用の第1セルを用いて行ったCAの検査時間と電位及び電流との関係を示す測定結果である。
図6】試験用の第2セルを用いて行ったCAの検査時間と電位及び電流との関係を示す測定結果である。
図7】試験用の第3セルを用いて行ったCAの検査時間と電位及び電流との関係を示す測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。図1に本実施形態に係るリチウムイオン二次電池1(以下、単に「電池1」ともいう)の斜視図を示す。この電池1は、ハイブリッドカーやプラグインハイブリッドカー、電気自動車等の車両などに搭載される角型で密閉型のリチウムイオン二次電池である。
この電池1の内部には、後述するCrF層付きSUS異物210(以下、単に「SUS異物210」ともいう)が含まれていることがある。即ち、この電池1を複数集めた電池群100の中には、電池内部にCrF層付きSUS異物210が含まれていない異物無し電池1Aのほかに、電池内部にCrF層付きSUS異物210が含まれている異物含有電池1Bが存在する場合がある。
【0016】
電池1は(異物無し電池1A及び異物含有電池1Bのいずれも)、電池ケース10と、この内部に収容された電極体30と、電池ケース10に支持された正極端子部材40及び負極端子部材50等から構成されている。また、電池ケース10内には、FSO3 -を含むFSO含有電解液20が収容されており、その一部は電極体30内に含浸され、一部は電池ケース10の底部に溜まっている。
【0017】
このうち電池ケース10は、直方体箱状で金属(本実施形態ではアルミニウム)からなり、上側のみが開口した有底角筒状のケース本体部材11と、このケース本体部材11の開口を閉塞する形態で溶接された矩形板状のケース蓋部材13とから構成されている。電池ケース10のケース蓋部材13には、注液孔10hが設けられており、封止部材15によって気密に封止されている。また、ケース蓋部材13には、正極端子部材40及び負極端子部材50が、それぞれケース蓋部材13と電気的に絶縁された状態で固設されている。
【0018】
電極体30は、扁平状をなし、横倒しにした状態で電池ケース10内に収容されている。この電極体30は、帯状の正極板31と帯状の負極板33とを、帯状の一対のセパレータ35を介して互いに重ね、軸線周りに扁平状に捲回したものである。
このうち正極板31は、帯状の正極集電箔(本実施形態ではアルミニウム箔)の両主面上にそれぞれ正極活物質層を有する。この正極活物質層は、正極活物質粒子(本実施形態ではリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子)と、導電粒子(本実施形態ではアセチレンブラック(AB)粒子)と、結着剤(本実施形態ではポリフッ化ビニリデン(PVDF))とからなる。
一方、負極板33は、帯状の負極集電箔(本実施形態では銅箔)の両主面上にそれぞれ負極活物質層を有する。この負極活物質層は、負極活物質粒子(本実施形態では黒鉛粒子)と、結着剤(本実施形態ではスチレンブタジエンゴム(SBR))と、増粘剤(本実施形態ではカルボキシメチルセルロース(CMC))とからなる。
【0019】
FSO含有電解液20は、非水溶媒21に、支持塩22と、FSO含有電解液20中にFSO3 -を含ませるためのFSO添加剤23とが溶解した非水電解液である。本実施形態では、非水溶媒21として、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)及びメチルエチルカーボネート(MEC)を混合した混合溶媒を用いた。また、支持塩22としてLiPF6を用い、FSO添加剤23としてLiFSO3を用いた。支持塩22(LiPF6)の濃度は、1.11~1.30Mの範囲内が好ましく、本実施形態では1.15Mとした。また、FSO添加剤23(LiFSO3)の添加量は、0.15~2.00wt%の範囲内が好ましく、本実施形態では0.75wt%とした。
【0020】
前述の異物含有電池1Bに含まれているCrF層付きSUS異物210は、後述するように、電池1の製造過程で混入したSUS異物200が元になって出来たものである(図3参照)。このCrF層付きSUS異物210は、ステンレス鋼からなるSUS異物本体201と、このSUS異物本体201の表面201mを覆うCrF層205とからなる。このようにSUS異物本体201がCrF層205で覆われていると、FSO3 -がFSO含有電解液20中に僅かに含まれる水分と反応して、HFSO3が発生しても、SUS異物210が溶解するのを抑制でき、SUS異物210の存在に起因した内部短絡が生じるのを抑制できる。
【0021】
なお、CrF層205の存在は、例えば以下の手法により確認できる。即ち、N2雰囲気やAr雰囲気などの酸素非曝露環境下で異物含有電池1Bを解体し、SUS異物210を取り出して有機溶媒で洗浄する。その後、このSUS異物210について、TEM-EELSやTEM-EDSにより断面観察及び組成分析を行うことで、CrF層205の存在を確認する。或いは、AESやXPSで表面の組成分析を行うことにより、CrF層205の存在を確認する手法が挙げられる。
【0022】
前述のように、本実施形態の電池1は、FSO3 -を含んだFSO含有電解液20を有するため、電池特性が良好である。一方、電池群100を構成する各電池1のうち、異物含有電池1Bでは、含有しているSUS異物210がCrF層205で覆われているため、FSO含有電解液20中にHFSO3が発生しても、SUS異物210が溶解するのを抑制でき、SUS異物の存在に起因した内部短絡が生じるのを抑制できる。従って、電池群100を構成する各電池1は、FSO含有電解液20中にFSO3 -を含みながらも、SUS異物の存在に起因した内部短絡が生じるのを抑制できる。
【0023】
次いで、上記の電池1の製造方法について説明する(図2及び図3参照)。まず「組立工程S1」(図2参照)において、リチウムイオン二次電池1Z(以下、単に「電池1Z」ともいう)を組み立てる。具体的には、ケース蓋部材13を用意し、これに正極端子部材40及び負極端子部材50を固設する(図1参照)。その後、正極端子部材40及び負極端子部材50を、別途形成した電極体30の正極板31及び負極板33にそれぞれ溶接する。その後、この電極体30をケース本体部材11内に挿入すると共に、ケース本体部材11の開口をケース蓋部材13で塞ぐ。そして、ケース本体部材11とケース蓋部材13とを溶接して電池ケース10を形成する。
なお、この組立工程S1において、電池内部に、具体的には、電極体30の内部や電池ケース10と電極体30との隙間に、SUS異物200(図3参照)が混入することがある。SUS異物200は、ステンレス鋼からなるSUS異物本体201と、このSUS異物本体201の表面201mを覆うように生じたCrを含む酸化皮膜からなる不動態膜203とからなる。
【0024】
次に、「注液工程S2」(図2参照)において、ケース蓋部材13に設けられた注液孔10hを通じて電池ケース10内に、FSO3 -を含まず、かつ、Fを含む支持塩22を有するFSO無し電解液25を、完成時の電池1の全規定量Vの90%に当たる第1規定量V1(=V×0.9)だけ注液する。このFSO無し電解液25は、前述の非水溶媒21(本実施形態では、EC、DMC及びMECの混合溶媒)に、支持塩22(本実施形態ではLiPF6)のみを溶解させた電解液である。支持塩22(LiPF6)の濃度は、前述のように1.15Mとした。
【0025】
次に、「CrF層形成工程S3」(図2参照)において、上述のFSO無し電解液25を備える電池1Zについて、CrF層形成処理を行う(図3参照)。この電池1Zには、SUS異物200が含まれている(混入した)異物含有電池1ZBと、SUS異物200が含まれていない(混入していない)異物無し電池1ZAとがある。CrF層形成処理は、異物含有電池1ZBについてこの処理を行うと、SUS異物本体201の表面201mに不動態膜203に代えてCrF層205を形成する処理である。
【0026】
具体的には、電池1Zに充電装置を接続して、電池1Zの正極電位が3.8V(vsLi/Li+)以上(本実施形態では3.9V(vsLi/Li+))となるように、電池1Zを定電流定電圧(CCCV)充電する。このように正極電位を高めると、電池1Zのうち異物含有電池1ZBでは、正極板31や正極端子部材40の表面近傍において、支持塩22(LiPF6)に含まれるFと、SUS異物200(不動態膜203或いはSUS異物本体201)に含まれるCrとが反応して、SUS異物本体201の表面201mに不動態膜203に代えてCrF層205が形成される。かくして、SUS異物200はCrF層付きSUS異物210となる。
【0027】
次に、「電解液変更工程S4」(図2参照)において、CrF層形成工程S3を終えた電池1ZのFSO無し電解液25をFSO含有電解液20に変える。
具体的には、予めFSO3 -を含む追加用電解液27を用意しておき、これを注液孔10hを通じて電池ケース10内に、全規定量Vの10%に当たる第2規定量V2(=V×0.1)だけ追加注液する。この追加用電解液27は、前述の非水溶媒21(本実施形態では、EC、DMC及びMECの混合溶媒)に、支持塩22(本実施形態ではLiPF6)とFSO添加剤23(本実施形態ではLiFSO3)を溶解させた電解液である。支持塩22(LiPF6)の濃度は、前述のように1.15Mとした。また、FSO添加剤23(LiFSO3)の添加量は、完成時の電池1のFSO含有電解液20において、前述のように0.75wt%となるように、7.50wt%とした。この追加用電解液27を注液済みのFSO無し電解液25に加えることで、FSO3 -が徐々に拡散して前述のFSO含有電解液20となる。
【0028】
次に、「封止工程S5」(図2参照)において、注液孔10hを封止部材15で溶接により封止する。
次に、「高温エージング工程S6」(図2参照)において、電池1を高温エージングする。本実施形態では、電池1を環境温度60℃の温度下で、端子開放した状態で6時間にわたり放置して、高温エージングした。この高温エージングにより、FSO3 -を起源とした被膜(不図示)が正極活物質物粒子(不図示)の表面に形成される。
その後は、「検査工程S7」(図2参照)において、電池1の品質検査を行う。かくして、電池1が完成する。
【0029】
(試験結果)
次いで、本発明の効果を検証するために行った試験結果について説明する(図4図7参照)。3種類の試験用のセル300(300A,300B,300C)を用意し、各セル300についてCA(クロノアンペロメトリ,chronoamperometry)により電気化学分析を行った。具体的には、各セル300は、いずれも、ポリエチレン製の容器310と、この容器310内に収容された電解液320と、容器310の蓋部材に固設される共に、先端部を電解液320中に浸漬した作用極330、対極340及び参照極350とを備える。このうち作用極330は、ステンレス鋼(具体的にはSUS304)からなる10mm×10mmの矩形板状の作用極本体331と、この作用極本体331に接続されたワイヤ332とからなる。一方、対極340は、金属Liからなる10mm×10mmの矩形板状の対極本体341と、この対極本体341に接続されたワイヤ342とからなる。他方、参照極350は、金属Liのワイヤである。
【0030】
第1セル300Aの電解液320Aは、前述の実施形態のFSO含有電解液20と同様であり、非水溶媒21に支持塩22(LiPF6)及びFSO添加剤23(LiFSO3)が溶解した電解液である。具体的には、この第1セル300Aでは、第1セル300Aを組み立てた後、実施形態の注液工程S2と同様に、まず非水溶媒21に支持塩22(LiPF6)のみを溶解させた電解液を注液した。
【0031】
その後、第1セル300Aを60℃の恒温槽内で2時間放置し、CA測定装置(北斗電工株式会社のポテンショスタット/ガルバノスタットHAB-151A)に接続した。また、ロガーとして、日置電機株式会社のメモリハイロガーLR8431を用意した。そして、第1セル300Aの作用極330の電位を、掃引速度1mV/sで正方向に4.5V(vsLi/Li+)まで掃引して、作用極330と対極340との間に流れる電流を検知した(図5参照)。その後、作用極330の電位を、掃引速度1mV/sで負方向に3.0V(vsLi/Li+)まで掃引した。
【0032】
その後、実施形態の電解液変更工程S4と同様に、非水溶媒21に支持塩22(LiPF6)及びFSO添加剤23(LiFSO3)が溶解した追加用電解液27を、第1セル300A内に追加注液した。その後、作用極330の電位を、再び掃引速度1mV/sで正方向に4.5V(vsLi/Li+)まで掃引し、更に4.5V(vsLi/Li+)を保持した。
図5のCAの測定結果から明らかなように、この第1セル300Aでは、殆ど電流が流れていない。
【0033】
次に、第2セル300Bについて説明する。第2セル300Bの電解液320Bは、非水溶媒21に支持塩22(LiPF6)のみが溶解した電解液である。注液後の第2セル300Bを、第1セル300Aの場合と同様に60℃の恒温槽内で2時間放置した後、CA測定装置に接続した。そして、作用極330の電位を、掃引速度1mV/sで正方向に4.5V(vsLi/Li+)まで掃引し、その後は4.5V(vsLi/Li+)を保持した(図6参照)。
図6のCAの測定結果から明らかなように、この第2セル300Bでは、殆ど電流が流れていない。
【0034】
次に、第3セル300Cについて説明する。第3セル300Cの電解液320C自体は、第1セル300Aの電解液320Aと同じであり、非水溶媒21に支持塩22(LiPF6)及びFSO添加剤23(LiFSO3)が溶解した電解液である。但し、第3セル300Cの作製手法が第1セル300Aとは異なる。即ち、第3セル300Cでは、セル300Cを組み立てた後、初めから非水溶媒21に支持塩22(LiPF6)及びFSO添加剤23(LiFSO3)が溶解した電解液320Cを注液した。
【0035】
その後、この第3セル300Cを、前述のように60℃の恒温槽内で2時間放置し、CA測定装置に接続した。そして、作用極330の電位を、掃引速度1mV/sで正方向に4.1V(vsLi/Li+)まで掃引し、その後は4.1V(vsLi/Li+)を保持した(図7参照)。
図7のCAの測定結果から明らかなように、この第3セル300Cでは、第1セル300A(図5参照)及び第2セル300B(図6参照)とは異なり、検査時間の経過と共に電流が増加している。
【0036】
各セル300A,300B,300Cで上述の結果を生じた理由は、以下であると考えられる。まず第3セル300Cでは、電解液320Cに初めからFSO3 -が含まれている。FSO3 -が電解液320C中に含まれている水分と反応してHFSO3が生じると、HFSO3は強酸であるため、作用極330(ステンレス鋼)の表面には不動態膜が形成されているにも拘わらず、HFSO3により作用極330(ステンレス鋼)が溶解してしまう。このため、CAにおいて電流が流れたと考えられる。従って、この第3セル300CにSUS異物200が含まれていた場合には、作用極330と同様に溶解したと考えられる。
一方、第2セル300Bでは、電解液320BにFSO3 -が含まれていないため、そもそもHFSO3は生じ得ない。このため、作用極330(ステンレス鋼)が溶解しないので、CAにおいて電流は流れない。
【0037】
他方、第1セル300Aでは、初期の電解液は、非水溶媒21に支持塩22(LiPF6)のみが溶解したものである。この電解液を備える第1セル300Aについて、作用極330の電位を4.5V(vsLi/Li+)まで高めると、作用極330(ステンレス鋼)の表面に不動態膜に代えてCrF層が形成される。CrF層で覆われた作用極330(ステンレス鋼)は、もはやHFSO3によっても溶解しない。このため、その後に、FSO添加剤23(LiFSO3)が溶解した電解液を追加して、電解液320AにFSO3 -を含ませても、電解液320A中に発生したHFSO3によって、CrF層で覆われた作用極330(ステンレス鋼)は溶解しない。従って、第1セル300Aでは、最終的な電解液320Aは第3セル300Cの電解液320Cと同じであっても、CAにおいて電流が流れなかったと考えられる。もし、この第1セル300AにSUS異物200が含まれていた場合にも、作用極330と同様、CrF層付きSUS異物210となるため、溶解しないと考えられる。
【0038】
以上で説明したように、電池1の製造方法では、まずFSO3 -を含まず、かつ、Fを含む支持塩22を有するFSO無し電解液25を備える電池1Zを用意し、CrF層形成工程S3において、この電池1ZにCrF層形成処置を行って、SUS異物210の表面201mに不動態膜203に代えてCrF層205を形成する。この段階では、FSO無し電解液25中にFSO3 -が含まれていないため、HFSO3が発生して、CrF層205が未形成のSUS異物200が溶解することはない。一方、CrF層205で覆われたSUS異物本体201(CrF層付きSUS異物210)は、もはやHFSO3によっても溶解しない。このため、CrF層形成工程S3後の電解液変更工程S4で、FSO無し電解液25を、FSO3 -を含むFSO含有電解液20に変えても、HFSO3によってSUS異物210が溶解するのを抑制でき、SUS異物の存在に起因した内部短絡が生じるのを抑制できる。
【0039】
更に、本実施形態では、FSO無し電解液25の支持塩22をLIPF6とし、CrF層形成工程S3において、正極電位を3.8V(vsLi/Li+)以上に高めることにより、SUS異物本体201の表面201mにCrF層205を形成している。このため、CrF層205の形成を容易に行える。
【0040】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0041】
1 リチウムイオン二次電池(電池)
1A 異物無し電池
1B 異物含有電池
1Z (FSO無し電解液を備える)リチウムイオン二次電池(電池)
20 FSO含有電解液
21 非水溶媒
22 支持塩
23 FSO添加剤
25 FSO無し電解液
27 追加用電解液
100 電池群
200 SUS異物
201 SUS異物本体
201m (SUS異物本体の)表面
203 不動態膜
205 CrF層
210 CrF層付きSUS異物(SUS異物)
S1 組立工程
S2 注液工程
S3 CrF層形成工程
S4 電解液変更工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7