(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】有機塩とこれを備えるヒドロキシラジカルセンサ及び検出メディア
(51)【国際特許分類】
C07C 63/28 20060101AFI20230830BHJP
C07C 211/07 20060101ALI20230830BHJP
G01N 21/78 20060101ALI20230830BHJP
G01N 33/497 20060101ALI20230830BHJP
G01N 21/64 20060101ALN20230830BHJP
【FI】
C07C63/28 CSP
C07C211/07
G01N21/78 C
G01N33/497 Z
G01N21/64 Z
(21)【出願番号】P 2020525304
(86)(22)【出願日】2019-04-18
(86)【国際出願番号】 JP2019016712
(87)【国際公開番号】W WO2019244464
(87)【国際公開日】2019-12-26
【審査請求日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2018119343
(32)【優先日】2018-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業 センター・オブ・イノベーションプログラム「人間力活性化によるスーパー日本人の育成拠点」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000005821
【氏名又は名称】パナソニックホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】細川 鉄平
(72)【発明者】
【氏名】藤内 謙光
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-068455(JP,A)
【文献】米国特許第02810696(US,A)
【文献】国際公開第97/028687(WO,A1)
【文献】特開2018-040639(JP,A)
【文献】特開2012-098114(JP,A)
【文献】SAHOO,P. et al.,Combinatorial Library of Primaryalkylammonium Dicarboxylate Gelators: A Supramolecular Synthon Appro,Langmuir,2009年,Vol.25, No.15,p.8742-8750,ISSN 0743-7463
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
G01N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テレフタル酸と、1種以上の第一級アルキルアミンと、を含み、
前記第一級アルキルアミンを構成するアルキル基の炭素数が6以上17以下であ
り、
前記アルキル基がノルマルアルキル基である有機塩。
【請求項2】
前記アルキル基の炭素数が8以上である請求項
1に記載の有機塩。
【請求項3】
前記アルキル基の炭素数が12以下である請求項1
又は2に記載の有機塩。
【請求項4】
前記第一級アルキルアミンの分子と前記テレフタル酸の分子とを含む超分子結晶構造を有する請求項1から
3のいずれか1項に記載の有機塩。
【請求項5】
前記超分子結晶構造が、前記第一級アルキルアミンの分子と前記テレフタル酸の分子との間に空隙を有する請求項
4に記載の有機塩。
【請求項6】
気体に含まれるヒドロキシラジカルの検出用である請求項1から
5のいずれか1項に記載の有機塩。
【請求項7】
気体に含まれるヒドロキシラジカルを検出するヒドロキシラジカルセンサであって、
請求項1から
6のいずれか1項に記載の有機塩を含み、前記有機塩が前記気体に接触可能な構造を有する曝露部と、
前記曝露部の前記有機塩に紫外光を照射する光源と、
前記紫外光の照射によって生じる前記有機塩の蛍光を検出する光検出器と、を備え、
前記光検出器により検出した前記蛍光に基づいて前記気体に含まれるヒドロキシラジカルを検出する、ヒドロキシラジカルセンサ。
【請求項8】
検出メディアとして前記曝露部が脱着可能である請求項
7に記載のヒドロキシラジカルセンサ。
【請求項9】
気体に含まれるヒドロキシラジカルの検出に用いる検出メディアであって、
請求項1から
6のいずれか1項に記載の有機塩を含み、
前記有機塩が前記気体に接触可能な構造を有する、検出メディア。
【請求項10】
気体に含まれるヒドロキシラジカルを検出する方法であって、
請求項1から6のいずれか1項に記載の有機塩に対して光源から紫外光を照射し、
前記紫外光の照射によって生じる前記有機塩の蛍光を光検出器によって検出し、
前記光検出器により検出した前記蛍光に基づいて前記気体に含まれるヒドロキシラジカルを検出する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機塩と、これを備えるヒドロキシラジカルセンサ及び検出メディアとに関する。
【背景技術】
【0002】
地球上の生物にとって、酸素は必須である。しかし、生体に取り込まれた酸素分子は、細胞内の還元反応により活性酸素種に変化する。活性酸素種は、例えば、スーパーオキシド(O2・-)、過酸化水素(H2O2)、及びヒドロキシラジカル(HO・)である。活性酸素種は、核酸、蛋白質、脂質、及び糖といった細胞の構成成分を酸化する。なかでもヒドロキシラジカルは、最も高い酸化能を有し、細胞に損傷を与えやすい。生体内のヒドロキシラジカルは、主として、Fe2+による過酸化水素の分解反応(フェントン反応)により生じる。近年、生体のストレスレベルに依存して、生体内におけるヒドロキシラジカルの生成量が変化すると考えられている。ヒドロキシラジカルの検出によって、例えば、生体のストレスレベルの判定が可能となる。
【0003】
非特許文献1には、電子スピン共鳴(ESR)法に基づくヒドロキシラジカルの検出法が開示されている。非特許文献1の検出法では、5,5-ジメチル-1-ピロリン-N-オキシド(DMPO)といったスピントラップ剤が使用される。より具体的には、トラップされたヒドロキシラジカルの付加物であるDMPO-OHをESRスペクトロメトリーにより解析して、ヒドロキシラジカルが検出される。
【0004】
特許文献1には、レーザー誘起蛍光(LIF)法に基づくヒドロキシラジカルの検出法が開示されている。特許文献1の検出法では、生体の体表から拡散する体表ガスに含まれるヒドロキシラジカルが検出される。より具体的には、レーザー光を生体に照射して体表ガス中のヒドロキシラジカルを励起させ、励起したヒドロキシラジカルが基底状態に戻る際の蛍光が検出される。
【0005】
特許文献2には、p-ニトロジメチルアニリン法に基づくヒドロキシラジカルの検出法が開示されている。特許文献3には、メチオナール法に基づくヒドロキシラジカルの検出法が開示されている。特許文献2,3の検出法では、活性酸素種を含む検体に対する前処理が必要である。前処理では、ヒドロキシラジカル以外の活性酸素種が除去される。
【0006】
特許文献4には、液中で生成したヒドロキシラジカルをテレフタル酸溶液を用いて検出する方法が開示されている。特許文献4の検出法では、ヒドロキシラジカルを捕捉したテレフタル酸が発する蛍光が利用されている。
【0007】
特許文献5には、固体表面、及び気相内におけるヒドロキシラジカルを、テレフタル酸又はその塩を高分子ゲルの基材内に担持させた組成物を用いて検出する方法が開示されている。テレフタル酸の塩として、テレフタル酸二ナトリウムが特許文献5に開示されている。特許文献5の検出法では、ヒドロキシラジカルを捕捉したテレフタル酸が発光する蛍光が利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-205061号公報
【文献】特開平5-336997号公報
【文献】特開平5-336998号公報
【文献】特許第5740138号
【文献】特開2018-40639号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】藤井博匡、「生体内で生成するフリーラジカル種とその検出について」、株式会社住化分析センター技術広報誌(SCAS NEWS)2010-I号(Vol. 31)、pp.3-6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本開示は、ヒドロキシラジカルのより簡便な検出を可能にするとともに、生体内で生じたヒドロキシラジカルの検出をも可能にする有機塩と、当該有機塩を用いたヒドロキシラジカルセンサとを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、
テレフタル酸と、1種以上の第一級アルキルアミンと、を含み、
前記第一級アルキルアミンを構成するアルキル基の炭素数が6以上17以下である有機塩、
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本開示の有機塩は、ヒドロキシラジカルのより簡便な検出を可能にするとともに、生体内で生じたヒドロキシラジカルの検出をも可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、テレフタル酸の結晶構造を説明するための模式図である。
【
図2】
図2は、本開示の有機塩が含みうる第一級アルキルアミンの例を示す図である。
【
図3】
図3は、本開示のヒドロキシラジカルセンサの一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、本開示のヒドロキシラジカルセンサによってヒドロキシラジカルを検出する方法の一例を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、本開示の検出メディアの一例を模式的に示す斜視図である。
【
図6】
図6は、実施例1で作製されたテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩の結晶構造を示す模式図である。
【
図7】
図7は、実施例及び比較例で作製された有機塩の評価に使用した試料ホルダを模式的に示す三面図である。
【
図8】
図8は、実施例及び比較例で作製された有機塩の評価に使用した光学系を示す模式図である。
【
図9】
図9は、実施例及び比較例で作製された有機塩の評価に使用した試料ホルダ収容チャンバを示す模式図である。
【
図10】
図10は、実施例及び比較例で作製された有機塩の評価に使用した紫外線照射チャンバを示す模式図である。
【
図11】
図11は、実施例1で作製されたテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBを示すグラフである。
【
図12】
図12は、実施例1で作製されたテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩の質量分析結果(曝露前)を示す図である。
【
図13】
図13は、実施例1で作製されたテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩の質量分析結果(曝露後)を示す図である。
【
図14】
図14は、実施例1で作製されたテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩の蛍光スペクトル(体表ガスへの曝露前後)を示すグラフである。
【
図15】
図15は、実施例2で作製されたテレフタル酸Bis(n-ノニルアミン)塩の結晶構造を示す模式図である。
【
図16】
図16は、実施例2で作製されたテレフタル酸Bis(n-ノニルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBを示すグラフである。
【
図17】
図17は、実施例3で作製されたテレフタル酸Bis(n-ウンデシルアミン)塩の結晶構造を示す模式図である。
【
図18】
図18は、実施例3で作製されたテレフタル酸Bis(n-ウンデシルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBを示すグラフである。
【
図19】
図19は、実施例4で作製されたテレフタル酸Bis(n-ドデシルアミン)塩の結晶構造を示す模式図である。
【
図20】
図20は、実施例4で作製されたテレフタル酸Bis(n-ドデシルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBを示すグラフである。
【
図21】
図21は、実施例5で作製されたテレフタル酸Bis(n-ヘキシルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBを示すグラフである。
【
図22】
図22は、実施例6で作製されたテレフタル酸Bis(n-ヘプチルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBを示すグラフである。
【
図23】
図23は、実施例7で作製されたテレフタル酸n-オクチルアミン・n-ノニルアミン混合塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBを示すグラフである。
【
図24A】
図24Aは、比較例1で準備したテレフタル酸の結晶構造を示す模式図である。
【
図24B】
図24Bは、比較例1で準備したテレフタル酸の結晶構造を示す模式図である。
【
図25】
図25は、比較例1で準備したテレフタル酸の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBを示すグラフである。
【
図26】
図26は、比較例2で作製されたテレフタル酸Bis(n-メチルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBを示すグラフである。
【
図27】
図27は、比較例3で作製されたテレフタル酸Bis(n-エチルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBを示すグラフである。
【
図28】
図28は、比較例4で作製されたテレフタル酸Bis(n-プロピルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBを示すグラフである。
【
図29】
図29は、比較例5で作製されたテレフタル酸Bis(n-ブチルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBを示すグラフである。
【
図30】
図30は、比較例6で作製されたテレフタル酸Bis(n-ペンチルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBを示すグラフである。
【
図31】
図31は、比較例7で作製されたテレフタル酸Bis(n-オクタデシルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBを示すグラフである。
【
図32】
図32は、実施例1から6及び比較例2から7で作製された有機塩における、第一級アルキルアミンを構成するアルキル基の炭素数と、蛍光スペクトルのピーク強度の増加率との関係を示すグラフである。
【
図33】
図33は、実施例1から6及び比較例2から7で作製された有機塩における、第一級アルキルアミンを構成するアルキル基の炭素数と、蛍光スペクトルにおける波長490nmの強度の増加率との関係を示すグラフである。
【
図34】
図34は、実施例8で作製された検出メディアにおいて、体表ガスへの曝露前後における有機塩の蛍光スペクトルの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(本開示の基礎となる知見)
ESR法に基づく検出法では、スピントラップ剤の生体への投与が必要である。また、ESR法又はLIF法に基づく検出法では、高価かつ大型の測定解析装置が必要であるとともに、熟練された技能がヒドロキシラジカルの検出に要求される。特許文献2から4の検出法では、液中に存在するヒドロキシラジカルの検出が前提である。このため、特許文献2から4の検出法では、生体内で生じたヒドロキシラジカルの検出は、事実上困難である。特許文献5の検出法では、テレフタル酸を担持する基材として高分子ゲルが使用される。特許文献5の検出法では、ゲルに含まれる水分の蒸発等による組成の変動に起因して、ヒドロキシラジカルの検出能の低下が懸念される。
【0015】
溶液中及びゲル中のテレフタル酸は、ヒドロキシラジカルの捕捉剤(スカベンジャー)となりうる物質である。以下の化学式に示されるように、ヒドロキシラジカルの捕捉によって、テレフタル酸はヒドロキシテレフタル酸に変化する。テレフタル酸とヒドロキシテレフタル酸との間では、放射される蛍光の特性が異なっている。この特性の相違が、ヒドロキシラジカルの検出に利用可能である。
【化1】
【0016】
本発明者らは、固体のテレフタル酸によるヒドロキシラジカルの検出可能性を検討した。固体によるヒドロキシラジカルの検出が可能となれば、生体内で生じたヒドロキシラジカルの検出を視野に入れることができる。この場合、体表ガスといった生体に由来する気体に含まれるヒドロキシラジカルの検出が可能になるためである。また、固体の蛍光特性に基づく検出は、生体に対して非侵襲的であるとともに、高価かつ大型の装置を用いることなく実施できる。即ち、ヒドロキシラジカルのより簡便な検出が可能になる。
【0017】
しかし、本発明者らの検討によれば、固体のテレフタル酸によるヒドロキシラジカルの検出は不可能である。ヒドロキシラジカルを含む気体に固体のテレフタル酸を曝露しても、テレフタル酸の蛍光特性は変化しない。これは、π-πスタッキング相互作用に基づく非常に緻密な結晶構造を固体のテレフタル酸が有しているためと推定される。
図1は、テレフタル酸の結晶構造101を説明するための模式図である。
図1に示されるように、固体のテレフタル酸は、ヒドロキシラジカルを捕捉できる空隙を結晶構造内に有していないと考えられる。
【0018】
更なる検討に基づき本発明者らは、単純なテレフタル酸ではなく、テレフタル酸と、1種以上の第一級アルキルアミンとを含む有機塩を見出した。この有機塩によれば、固体でありながらも、ヒドロキシラジカルの検出が可能になる。これは、第一級アルキルアミンによって、ヒドロキシラジカルを捕捉可能な空隙がテレフタル酸の結晶構造に生じるためと推定される。ただし、第一級アルキルアミンを構成するアルキル基の炭素数は6以上17以下である。炭素数が5以下の場合、おそらくは上記空隙が生じないために、ヒドロキシラジカルの検出は困難である。炭素数が18以上の場合、単位重量の有機塩に占める、ヒドロキシラジカルの捕捉剤であるテレフタル酸の割合が小さくなる。また、炭素数が18以上になると、ヒドロキシラジカルが親水性であるにもかかわらず、有機塩の疎水性が非常に強くなる。このため、炭素数が18以上の場合、おそらくはヒドロキシラジカルの取り込みが制限されることで、ヒドロキシラジカルの検出が困難となる。
【0019】
本開示の有機塩は、ヒドロキシラジカルのより簡便な検出を可能にするとともに、生体内で生じたヒドロキシラジカルの検出をも可能にする物質である。本開示の有機塩によれば、例えば、ヒドロキシラジカルのより簡便な検出が可能であるとともに、生体内で生じたヒドロキシラジカルの検出が可能なヒドロキシラジカルセンサを構築できる。
【0020】
(開示の態様)
本開示の第1態様の有機塩は、テレフタル酸と、1種以上の第一級アルキルアミンと、を含み、前記第一級アルキルアミンを構成するアルキル基の炭素数が6以上17以下である。
【0021】
本開示の第2態様において、例えば、第1態様の有機塩では、前記アルキル基がノルマルアルキル基であってもよい。第2態様の有機塩では、例えば、潮解性が抑制される。このため第2態様の有機塩は、例えば、ヒドロキシラジカルセンサの構築に有利である。
【0022】
本開示の第3態様において、例えば、第1又は第2態様の有機塩では、前記アルキル基の炭素数が8以上であってもよい。第3態様の有機塩では、例えば、潮解性が抑制される。また、第3態様の有機塩では、例えば、ヒドロキシラジカルの検出感度が向上する。このため第3態様の有機塩は、例えば、ヒドロキシラジカルセンサの構築に有利である。
【0023】
本開示の第4態様において、例えば、第1から第3のいずれかの態様の有機塩では、前記アルキル基の炭素数が12以下であってもよい。第4態様の有機塩では、例えば、ヒドロキシラジカルの検出感度が向上する。このため第4態様の有機塩は、例えば、ヒドロキシラジカルセンサの構築に有利である。
【0024】
本開示の第5態様において、例えば、第1から第4のいずれかの態様の有機塩は、前記第一級アルキルアミンの分子と前記テレフタル酸の分子とを含む超分子結晶構造を有していてもよい。第5態様の有機塩では、例えば、ヒドロキシラジカルの検出感度が向上する。このため第5態様の有機塩は、例えば、ヒドロキシラジカルセンサの構築に有利である。
【0025】
本開示の第6態様において、例えば、第5態様の有機塩は、前記第一級アルキルアミンの分子と前記テレフタル酸の分子との間に空隙を有していてもよい。第6態様の有機塩では、例えば、ヒドロキシラジカルの検出感度が向上する。このため第6態様の有機塩は、例えば、ヒドロキシラジカルセンサの構築に有利である。
【0026】
本開示の第7態様において、例えば、第1から第6態様のいずれかの態様の有機塩は、気体に含まれるヒドロキシラジカルの検出用である。
【0027】
本開示の第8態様のヒドロキシラジカルセンサは、気体に含まれるヒドロキシラジカルを検出するヒドロキシラジカルセンサであって;第1から第7のいずれかの態様の有機塩を含み、前記有機塩が前記気体に接触可能な構造を有する曝露部と;前記曝露部の前記有機塩に紫外光を照射する光源と;前記紫外光の照射によって生じる前記有機塩の蛍光を検出する光検出器と;を備え、前記光検出器により検出した前記蛍光に基づいて前記気体に含まれるヒドロキシラジカルを検出する。
【0028】
本開示の第9態様において、例えば、第8態様のヒドロキシラジカルセンサでは、前記曝露部が検出メディアとして脱着可能であってもよい。第9態様では、例えば、ヒドロキシラジカルセンサにおける有機塩の交換が容易となる。また、第9態様では、例えば、曝露部である検出メディアを所定の時間、生体に接触させることにより、ごく微量である生体内で生じたヒドロキシラジカルの検出精度を向上できる。
【0029】
本開示の第10態様の検出メディアは、気体に含まれるヒドロキシラジカルの検出に用いる検出メディアであって、第1から第7のいずれかの態様の有機塩を含み、前記有機塩が前記気体に接触可能な構造を有する。第10態様の検出メディアは、例えば、第9態様のヒドロキシラジカルセンサに使用できる。
【0030】
(本開示の実施形態)
[有機塩]
本開示の有機塩について説明する。
【0031】
本開示の有機塩は、テレフタル酸と、1種以上の第一級アルキルアミンとを含む。本開示の有機塩に含まれる第一級アルキルアミンの種類は、例えば1から5であり、1から3であっても、1又は2であってもよい。
【0032】
本開示の有機塩において、テレフタル酸及び第一級アルキルアミンは、例えば、イオン結合により互いに結合している。本開示の有機塩におけるテレフタル酸及び第一級アルキルアミンの組成比は、各々の価数に基づけば、通常、1:2である。ただし、本開示の有機塩は、上記組成比1:2に比べて過剰に、又は不足して第一級アルキルアミンを含んでいてもよい。本開示の有機塩におけるテレフタル酸及び第一級アルキルアミンの組成比は、例えば、1:0.5~1:4の範囲にあってもよい。
【0033】
本開示の有機塩は、通常、テレフタル酸及び第一級アルキルアミンを含む結晶構造を有する結晶性有機塩である。本開示の有機塩は、第一級アルキルアミンの分子と、テレフタル酸の分子とを含む超分子結晶構造を有していてもよい。この場合、本開示の有機塩は超分子結晶体である。本明細書において超分子とは、2種以上の分子の非共有結合による規則的な配列構造を意味している。非共有結合は、例えば、イオン結合、水素結合、及びπ-π相互作用である。
【0034】
本開示の有機塩は、通常、常温(25℃)において固体である。ただし、本開示の有機塩は潮解性を有することがある。本明細書において潮解性とは、水蒸気に対する潮解性を意味している。固体である本開示の有機塩は、高い安定性及び保存性を有しうる。また、固体である本開示の有機塩では、例えば、ヒドロキシラジカルが固相に捕捉された状態を達成できる。この状態によれば、例えば、捕捉したヒドロキシラジカルの長時間にわたる安定した保持が可能となる。このため、固体である本開示の有機塩によれば:後述の検出メディアへの応用が可能となる;捕捉後、一定時間が経過した後でのヒドロキシラジカルの検出が可能となる;及び、長時間にわたってヒドロキシラジカルを捕捉させることで、ヒドロキシラジカルの測定精度が向上する;といった効果が期待される。
【0035】
本開示の有機塩は、ヒドロキシラジカルを捕捉できる空隙を結晶構造に有している。空隙は、結晶構造の表面に存在していても、結晶構造の内部に存在していてもよい。結晶構造の内部に存在する空隙は、例えば、超分子結晶構造における第一級アルキルアミンの分子とテレフタル酸の分子との間に存在する分子間の空隙である。空隙は、通常、1nm以下のサイズを有している。空隙のサイズは、0.2nmから0.5nm程度でありうる。結晶構造における空隙の存在及びそのサイズは、例えば、有機塩に対するX線結晶構造解析により確認できる。
【0036】
第一級アルキルアミンを構成するアルキル基の炭素数は6以上である。アルキル基は、分岐を有していてもよい。アルキル基は、分岐を有さないノルマルアルキル基であってもよい。アルキル基がノルマルアルキル基である場合、有機塩の潮解性が抑制される。潮解性の抑制により、例えば、有機塩の上述した効果がより確実に達成される。アルキル基の炭素数は8以上であってもよい。アルキル基の炭素数が8以上である場合、有機塩の潮解性が抑制される。潮解性の抑制は、同一方向に直線的に伸張したアルキル鎖に基づく疎水性ブロックの形成に起因すると推定される。また、アルキル基の炭素数が8以上である場合、有機塩におけるヒドロキシラジカルの捕捉性が向上する。捕捉性の向上は、同一方向に直線的に伸張したアルキル基に基づく分子間の空隙の形成に起因すると推定される。アルキル基の炭素数の上限は17以下である。アルキル基の炭素数は12以下であってもよい。アルキル基の炭素数が12以下である場合、有機塩におけるヒドロキシラジカルの捕捉性が向上する。典型的な有機塩の一例では、アルキル基を構成する炭素原子に結合した水素原子は置換されていない。ただし、アルキル基を構成する炭素原子に結合した水素原子の少なくとも1つが置換されていてもよい。上記水素原子を置換する置換基は、例えば、フッ素原子である。
【0037】
第一級アルキルアミンの具体例が
図2に示される。
図2に示される第一級アルキルアミンは、ノルマルアルキル基(n-アルキル基)を有する。
図2の第一級アルキルアミンは、(a)から(g)の順に、n-ヘキシルアミン、n-ヘプチルアミン、n-オクチルアミン、n-ノニルアミン、n-デシルアミン、n-ウンデシルアミン、及びn-ドデシルアミンである。
【0038】
本開示の有機塩は、テレフタル酸及び第一級アルキルアミン以外の分子を含んでいてもよい。
【0039】
本開示の有機塩は、例えば、粉末、ペレット、フィルム、又は膜の形態をとりうる。ただし、本開示の有機塩の形態は上記例に限定されない。
【0040】
本開示の有機塩は、例えば、ヒドロキシラジカルの検出に利用できる。即ち、本開示の有機塩は、ヒドロキシラジカルの検出用の有機塩であってもよい。ただし、本開示の有機塩の用途は、ヒドロキシラジカルの検出に限定されない。
【0041】
本開示の有機塩は、例えば、テレフタル酸を溶剤に混合して得た混合液に第一級アルキルアミンが加えられた後、溶剤を留去して得ることができる。溶剤は、例えば、メタノール及びエタノールといったアルコール類である。
【0042】
得られた有機塩は、例えば、溶液、分散液、又はスラリーとされた後、成形過程に供されてもよい。成形過程により、有機塩を含む成形体の形成も可能である。例えば、有機塩の溶液、分散液、又はスラリーを噴霧乾燥することで、粉末である有機塩、又は有機塩を含む成形体である粉末を形成できる。また、有機塩の溶液、分散液、又はスラリーを基板に塗布して得られた塗布膜を乾燥させることで、膜又はフィルムである有機塩、又は有機塩を含む成形体である膜又はフィルムを形成できる。基板への塗布には、スピンコート、ディスペンサー、インクジェット、及び3Dプリントといった各種の手法が使用可能である。成形体は、有機塩以外の他の材料を含んでいてもよい。他の材料は、例えば、有機塩のバインダーである。一例として溶液、分散液、又はスラリーが有機塩のバインダーを含む場合、形成された成形体は当該バインダーを含みうる。
【0043】
[ヒドロキシラジカルセンサ]
本開示のヒドロキシラジカルセンサの一例が
図3に示される。
図3のヒドロキシラジカルセンサ11は、気体に含まれるヒドロキシラジカルを検出する。ヒドロキシラジカルセンサ11は、曝露部12と、光源13と、光検出器14とを備える。曝露部12は、本開示の有機塩を含む。曝露部12は、ヒドロキシラジカル15を含む気体に有機塩が接触可能な構造を有する。光源13は、曝露部12の有機塩に紫外光を照射する。光検出器14は、紫外光の照射によって生じる有機塩の蛍光を検出する。ヒドロキシラジカルセンサ11は、光検出器14により検出した蛍光に基づいて、気体に含まれるヒドロキシラジカルを検出する。そのために
図3のヒドロキシラジカルセンサ11は、光検出器14に接続された処理部16をさらに備えている。処理部16は、例えば、半導体チップ、及び/又は演算装置により構成される。
【0044】
より具体的には、ヒドロキシラジカルセンサ11は、曝露部12の有機塩から発せられる蛍光の変化に基づいてヒドロキシラジカルを検出しうる。蛍光の変化は、例えば、ヒドロキシラジカルを捕捉する前の有機塩から発せられる蛍光スペクトルAと、ヒドロキシラジカルを捕捉した後の有機塩から発せられる蛍光スペクトルBとの差分である。蛍光の変化は、蛍光スペクトルAと蛍光スペクトルBとの間のピーク強度の変化であってもよい。また、蛍光の変化は、蛍光スペクトルAと蛍光スペクトルBとの間における特定の波長を有する光の強度の変化であってもよい。ヒドロキシラジカルを捕捉した本開示の有機塩は、具体的な組成に応じて、385nmから650nmの波長範囲、典型的には波長490nm、において蛍光スペクトルの変化を示しうる。即ち、385nmから650nmの波長範囲、典型的には波長490nm、に位置する光の強度の変化を検出することにより、ヒドロキシラジカルが検出されてもよい。光の強度の変化は、典型的には、強度の増大である。また、ヒドロキシラジカルセンサ11は、蛍光の変化の程度と、ヒドロキシラジカルの量又は濃度との相関データを参照することで、曝露部12の有機塩から発せられる蛍光スペクトルの変化に基づいて、気体に含まれるヒドロキシラジカルの量又は濃度を検出可能である。そのためにヒドロキシラジカルセンサ11は、相関データを収容した記憶部をさらに備えていてもよい。相関データは、サーバーといったセンサ外部の記憶装置に収容されていてもよい。
【0045】
光源13が照射する紫外光の波長は、例えば、300nmから400nmの範囲にある。光源13には、上記範囲の波長を有する紫外光を照射可能な任意の光源が選択可能である。
【0046】
光検出器14は、例えば、分光器である。分光器である光検出器14によれば、蛍光の分光スペクトルが比較的簡便に得られる。
【0047】
図3のヒドロキシラジカルセンサ11の曝露部12において、有機塩は、例えば、以下の(1)から(4)のいずれかの形態を有していてもよい。
(1)表面に凹部を有する基板を曝露部12が備えており、基板の凹部に有機塩の粉末が充填されている。基板は、例えば、ガラス、石英、ケイ素、ケイ素酸化物、金属、金属酸化物、化合物半導体、樹脂、又はこれらの複合材料から構成される。樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレンといったフッ素樹脂、及びポリメタクリル酸メチルといったアクリル樹脂である。
(2)有機塩の粉末を固めたペレット。バインダーによって粉末が固められていてもよい。
(3)曝露部12が基板を備えており、有機塩のフィルム又は膜が基板の表面に配置されている。基板を構成する材料は、(1)と同じである。有機塩のフィルム又は膜の形成方法は、上述のとおりである。
【0048】
光検出器14及び処理部16には、公知の部材が使用可能である。
【0049】
図3のヒドロキシラジカルセンサ11は、あくまでも一例である。本開示のヒドロキシラジカルセンサは、ヒドロキシラジカルを検出可能である限り、任意の構成を有しうる。また、本開示のヒドロキシラジカルセンサは、ヒドロキシラジカルを検出可能である限り、上述した以外の任意の部材を備えていてもよい。
【0050】
本開示のヒドロキシラジカルセンサでは、例えば、
図4に示されるフローチャートに従ってヒドロキシラジカルを検出する。最初に、曝露部12の有機塩に光源13から紫外光を照射し、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露する前の有機塩の蛍光スペクトルAを測定する(蛍光A測定工程:工程1)。次に、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露部12の有機塩を曝露する(曝露工程:工程2)。次に、曝露工程を経た有機塩に光源13から紫外光を照射し、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露した後の有機塩の蛍光スペクトルBを測定する(蛍光B測定工程:工程3)。次に、蛍光スペクトルAと蛍光スペクトルBとの間の変化を処理部16により評価する(評価工程:工程4)。工程4により評価した結果を、数値データ、グラフ、又は分布図といった表示により、処理部16の表示部に表示する(表示工程:工程5)。以上の工程により、ヒドロキシラジカルの検出が可能である。表示部に表示される結果は、例えば、気体に含まれるヒドロキシラジカルの量、及び/又は濃度である。
【0051】
本開示のヒドロキシラジカルセンサによれば、例えば、非侵襲的手法により、生体内のヒドロキシラジカルが検出可能である。そのためには、例えば、生体の体表ガスに曝露部12が曝露される。後述のように、生体の体表に接触可能な検出メディアが使用されてもよい。
【0052】
生体は、例えば、人間、動物、植物である。ただし、生体は上記例に限定されない。
【0053】
非侵襲的手法により生体内のヒドロキシラジカルが検出可能であることに基づき、本開示のヒドロキシラジカルセンサには、例えば、以下の応用が考えられる。
(1)種々の酸化ストレス疾患に関連する未病の予防、早期診断、早期治療、治療効果の判定への応用。この応用は、例えば、検診、外来、ベッドサイドといった医療現場において幅広く実施可能である。
(2)従来の酸化ストレスマーカーの代替。従来の酸化ストレスマーカーでは、ヒドロキシラジカルによる化学的修飾を利用してヒドロキシラジカルが検出されている。
(3)生体内におけるヒドロキシラジカル生成のモニタリング。モニタリングは、治療効果の判定、及び救急救命といった種々の臨床現場に活用できる可能性がある。モニタリングの対象となる疾患は、例えば、慢性疲労症候群、脳梗塞、心筋梗塞、及び狭心症といった虚血性及び再灌流性障害である。
(4)健康の維持増進への応用。例えば、栄養状態、身体活動量、睡眠、余暇、及び生活習慣といった種々の項目の指導又は管理への応用。
(5)運動により生じるヒドロキシラジカルの検出に基づくスポーツ医学への応用。
【0054】
本開示のヒドロキシラジカルセンサは、生体内のヒドロキシラジカルの検出に限られず、気体に含まれるヒドロキシラジカルを検出する種々の用途に使用できる。用途の一例は、プラズマプロセス、又は紫外光プロセスから気体中に放出されるヒドロキシラジカルの検出である。この検出により、例えば、プラズマプロセス及び紫外光プロセスのより精密な制御が可能となる。
【0055】
本開示のヒドロキシラジカルセンサでは、検出メディアとして曝露部12が脱着可能であってもよい。この場合、例えば、ヒドロキシラジカルセンサにおける有機塩の交換が容易となる。また、この場合、例えば、曝露部である検出メディアを所定の時間、生体に接触させることによって、ごく微量である生体内で生じたヒドロキシラジカルの検出精度が向上可能である。検出メディアは、例えば、本開示の検出メディアである。
【0056】
[検出メディア]
図5は、本開示の検出メディアの一例を示す斜視図である。
図5に示される検出メディア33は、本体部34Aと、蓋部34Bと、本体部34Aの底面35に戴置された有機塩1とを備えている。本体部34Aと蓋部34Bとは、螺合による結合が可能である。蓋部34Bは貫通孔36を有している。本体部34Aと蓋部34Bとが螺合された状態で、貫通孔36を介して検出メディア33の内部に気体が流通可能である。即ち、検出メディア33は、貫通孔36を介して流通した気体に有機塩1が接触可能な構造を有している。有機塩1は、例えば、有機塩1のペレットである。ただし、検出メディア33が備える有機塩1の形態はペレットに限定されない。
【0057】
本体部34A及び蓋部34Bを構成する材料は、例えば、金属、樹脂である。金属は、例えば、アルミニウム、ステンレスである。樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレンといったフッ素樹脂である。ただし、本体部34A及び蓋部34Bを構成する材料は、上記例に限定されない。
【0058】
検出メディア33は、そのままで使用可能である。ただし、検出メディア33の使用態様は限定されない。検出メディア33は、例えば、腕時計のバンドを模した装着帯に固定された状態で使用することも可能である。
【0059】
本開示の検出メディアは、本開示の有機塩を含み、検出対象であるヒドロキシラジカルを含む気体に有機塩が接触可能な構造を有する限り、任意の構成を有していてもよい。また、本開示の検出メディアは、本開示の有機塩を含み、検出対象であるヒドロキシラジカルを含む気体に有機塩が接触可能な構造を有する限り、任意の部材を有していてもよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例に基づき、本開示の有機塩及びヒドロキシラジカルセンサをより具体的に説明する。本開示の有機塩及びヒドロキシラジカルセンサは、以下の実施例に具体的に示された態様に限定されない。
【0061】
(実施例1)
[有機塩の合成]
実施例1では、以下の手順により、テレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩が有機塩として合成された。最初に、テレフタル酸1.00g(6.02mmol)をメタノールに混合して、テレフタル酸及びメタノールの混合液100mLが得られた。次に、室温下、n-オクチルアミン1.95g(15.05mmol)が混合液に注加された。続いて、混合液が室温で撹拌された後、減圧下にメタノールが留去された。次に、得られた残渣にジエチルエーテルが加えられ、全体が室温で撹拌された後、減圧濾過及び乾燥により、テレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩2.49g(5.86mmol)が得られた。
【0062】
[テレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩の結晶構造の評価]
X線結晶構造解析により、作製されたテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩の結晶構造が評価された。評価により確認された結晶構造が
図6に示される。
図6に示されるように、テレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩では、以下の結晶構造が確認された。
(1)テレフタル酸の分子と、n-オクチルアミンの分子とによる超分子結晶構造が構築されていた。組成比は、1:2であった。
(2)個々のn-オクチルアミン分子が有するn-オクチル鎖は直線的に延びていた。また、複数のn-オクチルアミン分子が有するn-オクチル鎖は互いに平行に配列していた。
(3)互いに配列した複数のn-オクチル鎖によって疎水性ブロックが形成されていた。
(4)テレフタル酸の分子とn-オクチルアミンの分子との間に、1nm以下のサイズを有する複数の空隙が存在していた。
【0063】
[テレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩のヒドロキシラジカル検出能の評価]
以下の手順に従い、作製されたテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩のヒドロキシラジカル検出能が評価された。
【0064】
<試料ホルダへの充填>
図7に示される試料ホルダ31が準備された。
図7は、実施例及び比較例で作製された有機塩の評価に使用した試料ホルダを模式的に示す三面図である。試料ホルダ31は、ポリテトラフルオロエチレン製の斜四角柱であった。ただし、斜四角柱の4つの側面のうち、相対的に大きな面積を有する対向する2つの側面と、斜四角柱の底面とが成す角度は、各々、直角から11度ずれた角度に設定されていた。斜四角柱の上面には、6つの凹部32が設けられていた。各々の凹部32は、3mm×3mmの正方形状の開口と、1mmの深さとを有していた。準備された試料ホルダ31の各凹部32に、作製されたテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩が充填された。充填量は、各凹部32について3.5~4mgであった。
【0065】
<蛍光スペクトルAの測定>
図8に示される光学系21が準備された。
図8は、実施例及び比較例で作製された有機塩の評価に使用した光学系を示す模式図である。光学系21は、光源22、電源23、バンドパスフィルタ24、分光器25、ロングパスフィルタ26、及びプローブ27を備えていた。光源22は、紫外光の光源である。光源22には、株式会社杉藤より入手可能な紫外光LED光源(LED-UV(12))が使用された。光源22の電源23には、株式会社杉藤より入手可能なLED電源(JOL-1205AICT)が使用された。バンドパスフィルタ24は、波長360nmから370nmの範囲にある紫外光のみを有機塩に照射するために使用された。バンドパスフィルタ24には、シグマ光機株式会社製、YIF-BP360-370Sが使用された。プローブ27は、試料ホルダ31に充填された有機塩に紫外光を照射するとともに、紫外光の照射によって有機塩から発せられる蛍光を分光器25に導くために使用された。プローブ27には、反射/後方散乱プローブ(オーシャンオプティクス社製、R400-7-UV-VIS)が使用された。プローブ27の先端と、試料ホルダ31に充填された有機塩との距離は、3mmに設定された。分光器25には、ビー・エー・エス株式会社製、SEC2000-UV/VIスペクトロメーターシステムが使用された。ロングパスフィルタ(短波長カットフィルタ)26は、波長385nm未満の光を分光器25に導入しないために使用された。ロングパスフィルタ26には、朝日分光株式会社製、LUX385が使用された。
【0066】
準備した光学系21を用いて、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露する前のテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩の蛍光スペクトルAが測定された。蛍光スペクトルAの測定は、試料ホルダ31の各凹部に充填された各々のテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩に対して実施された。測定により得られた蛍光スペクトルAの平均スペクトルが、後述する蛍光スペクトルBとの対比に使用された。
【0067】
<ヒドロキシラジカルを含む気体への曝露>
図9に示される試料ホルダ収容チャンバ41が準備された。
図9は、実施例及び比較例で作製された有機塩の評価に使用した試料ホルダ収容チャンバを示す模式図である。チャンバ41は、開口42Aを上面に有していた。開口42Aには、開口42Aを覆うようにサファイヤ基板42Bが配置された。サファイヤ基板42Bは、オゾンランプ45(
図10参照)から照射される波長254nm及び波長185nmの紫外光を透過可能である。また、開口42Aを覆うサファイヤ基板42Bによって、チャンバ41は密閉状態になりうる。チャンバ41は、絶対圧にして1から数Torrの減圧に耐える構造を有していた。チャンバ41は、チャンバ41の壁面を貫通するノズル43A及び43Bを備えていた。ノズル43A,43Bによって、チャンバ41の内部への窒素又は加湿窒素の充填、及びこれらの常時流入及び排出が可能となる。
【0068】
準備されたチャンバ41の内部にジャッキ44が収容された。ジャッキ44は、オゾンランプ45と試料ホルダ31との距離が凡そ24mmとなるように調整された。次に、ジャッキ44の上面に、有機塩が充填された試料ホルダ31が戴置された。オゾンランプ45からの紫外光が有機塩に直接照射されないように、直角から11度ずれた角度に設定された側面をジャッキ44の上面との接触面として試料ホルダ31は戴置された(
図9参照)。
【0069】
次に、
図10に示されるように、チャンバ41が紫外光照射チャンバ46に収容された。
図10は、実施例及び比較例で作製された有機塩の評価に使用した紫外線照射チャンバを示す模式図である。チャンバ46は、絶対圧にして1から数Torrの減圧に耐える構造を有していた。チャンバ46は、チャンバ46の壁面を貫通するノズル47A及び47B、並びにノズル48A及び48Bを備えていた。ノズル48A,48Bによって、チャンバ46の内部への窒素の充填、及び窒素の常時流入及び排出が可能となる。ノズル47A,47Bは、それぞれ、チャンバ41のノズル43A,43Bと配管49A,49Bにより接続された。次に、チャンバ41の開口42Aを覆うように、かつ開口42Aを介してチャンバ41内に紫外光を照射可能であるようにオゾンランプ45が配置された。オゾンランプ45には、極光電機株式会社製、GL-4Zが使用された。オゾンランプ45は、波長254nm及び波長185nmの紫外光を照射可能である。
【0070】
次に、チャンバ41及びチャンバ46の内部が窒素により置換された。窒素による置換は、ヒドロキシラジカル以外の活性酸素種の発生を防止するために実施された。より具体的には、チャンバ41及びチャンバ46の内部を減圧した後、窒素を充填することを複数回繰り返した。その後、チャンバ41内の相対湿度が90~93%となるように、チャンバ41内への加湿窒素の充填量が制御された。チャンバ41内の温度は18~23℃に制御された。
【0071】
チャンバ41内の温度及び相対湿度が確立された後、オゾンランプ45によってチャンバ41内に紫外光を2時間照射した。オゾンランプ45から照射される波長185nmの真空紫外線(VUV)によって水のOH結合が切断されることで、ヒドロキシラジカルが生成する(以下の式(1)を参照)。式(1)は、例えば、株式会社エヌ・ティー・エスの刊行する「OHラジカル類の生成と応用技術」の第83頁に記載されている。このようにして、試料ホルダ31に充填された有機塩は、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露された。
H2O+VUV185nm → HO・+H ・・・(1)
【0072】
<蛍光スペクトルBの測定>
ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露した後のテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩の蛍光スペクトルBが、蛍光スペクトルAの測定と同様にして、測定された。蛍光スペクトルBの測定は、試料ホルダ31の各凹部に充填された各々のテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩に対して実施された。測定により得られた蛍光スペクトルBの平均スペクトルが、蛍光スペクトルAとの対比に使用された。以降の各図に示す蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBは、いずれも、数学的に求められた平均スペクトルである。テレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBが
図11に示される。
図11に示されるように、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露されたテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩では、紫外光の照射により生じる蛍光について、曝露前に比べて、385nmから650nmの幅広い波長域における強度の増加、及び波長490nmに位置する強度の増大が確認された。即ち、テレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩がヒドロキシラジカルの検出能を有していることが確認された。
【0073】
比較のため、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露することなく、温度20℃及び相対湿度91~93%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩の蛍光スペクトルが、蛍光スペクトルAの測定と同様にして測定された。測定された蛍光スペクトルには、蛍光スペクトルAからの変化が確認されなかった。
【0074】
ヒドロキシラジカルを含む気体への曝露の前後における各々のテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩に対して質量分析が実施された。質量分析に使用された装置、及び質量分析の測定条件は、次のとおりである。
装置:Thermo Fisher Scientfic製、LTQ Orbitrap XL
イオン化法:エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、陰イオンモード
測定条件:メタノール溶液を用いたインフュージョン測定
スプレー電圧3kV
標準溶液流量5μL/分
【0075】
ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露する前のテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩の質量分析結果が
図12に示される。ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露した後のテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩の質量分析結果が
図13に示される。
図12及び
図13に示されるように、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露した後の質量分析では、曝露する前の質量分析では確認されなかった「m/z=181.0143」が確認された。「m/z=181.0143」は、ヒドロキシテレフタル酸に相当する。即ち、ヒドロキシラジカルを含む気体への曝露による、テレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩のテレフタル酸分子のヒドロキシル化が確認された。
【0076】
[テレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩の潮解性の評価]
温度18~20℃及び相対湿度100%に制御された雰囲気にテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩が2時間放置された。放置後のテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩には、潮解が確認されなかった。なお、潮解の有無は目視により評価された。
【0077】
[体表ガスへの曝露実験]
3つの凹部32を有し、かつ各々の凹部32が2mm×2mmの正方形状の開口を有する以外は、
図7に示される試料ホルダ31と同様の構成を有する試料ホルダが準備された。準備された試料ホルダの各凹部32に、作製されたテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩が充填された。充填量は、各凹部32について1.5~1.7mgであった。
【0078】
次に、テレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩が充填された試料ホルダが、厚さ方向の通気性を有するエチレン-テトラフルオロエチレン(ETFE)のメッシュを介して、被験者である人の前腕の表面に接触させたまま2時間放置された。試料ホルダは、凹部32の開口面が前腕の表面側となるように前腕に接触させた。また、試料ホルダは、医療用テープを用いて前腕に固定した。
【0079】
2時間の放置前後におけるテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩の蛍光スペクトルが、蛍光スペクトルAと同様にして測定された。蛍光スペクトルの測定結果が
図14に示される。
図14に示されるように、体表ガスに曝露されたテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩では、紫外光の照射により生じる蛍光について、放置前に比べて、385nmから620nmの幅広い波長域における強度の増加、及び波長490nmに位置する強度の増大が確認された。即ち、体表ガスに含まれるヒドロキシラジカルの検出能をテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩が有していることが確認された。
【0080】
(実施例2)
n-オクチルアミンの代わりにn-ノニルアミン1.90g(15.05mmol)が用いられた。上記条件以外は実施例1と同様にして、テレフタル酸(n-ノニルアミン)塩2.67g(5.90mmol)が得られた。
【0081】
作製されたテレフタル酸(n-ノニルアミン)塩の結晶構造が、実施例1と同様のX線結晶構造解析により評価された。評価により確認された結晶構造が
図15に示される。
図15に示されるように、テレフタル酸(n-ノニルアミン)塩では、以下の結晶構造が確認された。
(1)テレフタル酸の分子と、n-ノニルアミンの分子とによる超分子結晶構造が構築されていた。組成比は、1:2であった。
(2)個々のn-ノニルアミン分子が有するn-ノニル鎖は直線的に延びていた。また、複数のn-ノニルアミン分子が有するn-ノニル鎖は互いに平行に配列していた。
(3)互いに配列した複数のn-ノニル鎖によって疎水性ブロックが形成されていた。
(4)テレフタル酸の分子とn-ノニルアミンの分子との間に、1nm以下のサイズを有する複数の空隙が存在していた。
【0082】
作製されたテレフタル酸Bis(n-ノニルアミン)塩のヒドロキシラジカル検出能が、実施例1と同様の手法により評価された。テレフタル酸Bis(n-ノニルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBが
図16に示される。
図16に示されるように、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露されたテレフタル酸Bis(n-ノニルアミン)塩では、紫外光の照射により生じる蛍光について、曝露前に比べて、385nmから625nmの幅広い波長域における強度の増加、及び波長490nmに位置する強度の増大が確認された。即ち、テレフタル酸Bis(n-ノニルアミン)塩がヒドロキシラジカルの検出能を有していることが確認された。
【0083】
比較のため、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露することなく、温度19℃及び相対湿度92~93%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-ノニルアミン)塩の蛍光スペクトルが、蛍光スペクトルAの測定と同様にして測定された。測定された蛍光スペクトルには、蛍光スペクトルAからの変化が確認されなかった。
【0084】
作製されたテレフタル酸Bis(n-ノニルアミン)塩の潮解性が、実施例1と同様の手法により評価された。温度18~20℃及び相対湿度100%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-ノニルアミン)塩には、潮解が確認されなかった。
【0085】
(実施例3)
テレフタル酸の量が2.00g(12.04mmol)に変更され、形成するテレフタル酸及びメタノールの混合液の量が150mLに変更された。また、n-オクチルアミンの代わりにn-ウンデシルアミン4.54g(26.49mmol)が用いられた。上記条件以外は実施例1と同様にして、テレフタル酸(n-ウンデシルアミン)塩5.97g(11.73mmol)が得られた。
【0086】
作製されたテレフタル酸(n-ウンデシルアミン)塩の結晶構造が、実施例1と同様のX線結晶構造解析により評価された。評価により確認された結晶構造が
図17に示される。
図17に示されるように、テレフタル酸(n-ウンデシルアミン)塩では、以下の結晶構造が確認された。
(1)テレフタル酸の分子と、n-ウンデシルアミンの分子とによる超分子結晶構造が構築されていた。組成比は、1:2であった。
(2)個々のn-ウンデシルアミン分子が有するn-ウンデシル鎖は直線的に延びていた。また、複数のn-ウンデシルアミン分子が有するn-ウンデシル鎖は互いに平行に配列していた。
(3)互いに配列した複数のn-ウンデシル鎖によって疎水性ブロックが形成されていた。
(4)テレフタル酸の分子とn-ウンデシルアミンの分子との間に、1nm以下のサイズを有する複数の空隙が存在していた。
【0087】
作製されたテレフタル酸Bis(n-ウンデシルアミン)塩のヒドロキシラジカル検出能が、実施例1と同様の手法により評価された。テレフタル酸Bis(n-ウンデシルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBが
図18に示される。
図18に示されるように、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露されたテレフタル酸Bis(n-ウンデシルアミン)塩では、紫外光の照射により生じる蛍光について、曝露前に比べて、385nmから615nmの幅広い波長域における強度の増加、及び波長490nmに位置する強度の増大が確認された。即ち、テレフタル酸Bis(n-ウンデシルアミン)塩がヒドロキシラジカルの検出能を有していることが確認された。
【0088】
比較のため、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露することなく、温度20℃及び相対湿度90~92%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-ウンデシルアミン)塩の蛍光スペクトルが、蛍光スペクトルAの測定と同様にして測定された。測定された蛍光スペクトルには、蛍光スペクトルAからの変化が確認されなかった。
【0089】
作製されたテレフタル酸Bis(n-ウンデシルアミン)塩の潮解性が、実施例1と同様の手法により評価された。温度18~20℃及び相対湿度100%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-ウンデシルアミン)塩には、潮解が確認されなかった。
【0090】
(実施例4)
n-オクチルアミンの代わりにn-ドデシルアミン2.79g(15.05mmol)が用いられた。上記条件以外は実施例1と同様にして、テレフタル酸(n-ドデシルアミン)塩3.06g(5.70mmol)が得られた。
【0091】
作製されたテレフタル酸(n-ドデシルアミン)塩の結晶構造が、実施例1と同様のX線結晶構造解析により評価された。評価により確認された結晶構造が
図19に示される。
図19に示されるように、テレフタル酸(n-ドデシルアミン)塩では、以下の結晶構造が確認された。
(1)テレフタル酸の分子と、n-ドデシルアミンの分子とによる超分子結晶構造が構築されていた。組成比は、1:2であった。
(2)個々のn-ドデシルアミン分子が有するn-ドデシル鎖は直線的に延びていた。また、複数のn-ドデシルアミン分子が有するn-ドデシル鎖は互いに平行に配列していた。
(3)互いに配列した複数のn-ドデシル鎖によって疎水性ブロックが形成されていた。
(4)テレフタル酸の分子とn-ドデシルアミンの分子との間に、1nm以下のサイズを有する複数の空隙が存在していた。
【0092】
作製されたテレフタル酸Bis(n-ドデシルアミン)塩のヒドロキシラジカル検出能が、実施例1と同様の手法により評価された。テレフタル酸Bis(n-ドデシルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBが
図20に示される。
図20に示されるように、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露されたテレフタル酸Bis(n-ドデシルアミン)塩では、紫外光の照射により生じる蛍光について、曝露前に比べて、425nmから610nmの幅広い波長域における強度の増加、及び波長490nmに位置する強度の増大が確認された。即ち、テレフタル酸Bis(n-ドデシルアミン)塩がヒドロキシラジカルの検出能を有していることが確認された。
【0093】
比較のため、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露することなく、温度21℃及び相対湿度92%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-ドデシルアミン)塩の蛍光スペクトルが、蛍光スペクトルAの測定と同様にして測定された。測定された蛍光スペクトルには、蛍光スペクトルAからの変化が確認されなかった。
【0094】
作製されたテレフタル酸Bis(n-ドデシルアミン)塩の潮解性が、実施例1と同様の手法により評価された。温度18~20℃及び相対湿度100%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-ドデシルアミン)塩には、潮解が確認されなかった。
【0095】
(実施例5)
形成するテレフタル酸及びメタノールの混合液の量が200mLに変更され、n-オクチルアミンの代わりにn-ヘキシルアミン1.52g(15.05mmol)が用いられた。上記条件以外は実施例1と同様にして、テレフタル酸(n-ヘキシルアミン)塩2.17g(5.88mmol)が得られた。
【0096】
作製されたテレフタル酸Bis(n-ヘキシルアミン)塩のヒドロキシラジカル検出能が、実施例1と同様の手法により評価された。テレフタル酸Bis(n-ヘキシルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBが
図21に示される。
図21に示されるように、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露されたテレフタル酸Bis(n-ヘキシルアミン)塩では、紫外光の照射により生じる蛍光について、曝露前に比べて、385nmから650nmの幅広い波長域における強度の増加、及び波長490nmに位置する強度の増大が確認された。即ち、テレフタル酸Bis(n-ヘキシルアミン)塩がヒドロキシラジカルの検出能を有していることが確認された。
【0097】
比較のため、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露することなく、温度21℃及び相対湿度90~91%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-ヘキシルアミン)塩の蛍光スペクトルが、蛍光スペクトルAの測定と同様にして測定された。測定された蛍光スペクトルには、蛍光スペクトルAからの変化が確認されなかった。
【0098】
作製されたテレフタル酸Bis(n-ヘキシルアミン)塩の潮解性が、実施例1と同様の手法により評価された。温度18~20℃及び相対湿度100%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-ヘキシルアミン)塩には、潮解が確認された。
【0099】
(実施例6)
形成するテレフタル酸及びメタノールの混合液の量が150mLに変更され、n-オクチルアミンの代わりにn-ヘプチルアミン1.73g(15.05mmol)が用いられた。上記条件以外は実施例1と同様にして、テレフタル酸(n-ヘプチルアミン)塩2.22g(5.60mmol)が得られた。
【0100】
作製されたテレフタル酸Bis(n-ヘプチルアミン)塩のヒドロキシラジカル検出能が、実施例1と同様の手法により評価された。テレフタル酸Bis(n-ヘプチルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBが
図22に示される。
図22に示されるように、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露されたテレフタル酸Bis(n-ヘプチルアミン)塩では、紫外光の照射により生じる蛍光について、曝露前に比べて、385nmから650nmの幅広い波長域における強度の増加、及び波長490nmに位置する強度の増大が確認された。即ち、テレフタル酸Bis(n-ヘプチルアミン)塩がヒドロキシラジカルの検出能を有していることが確認された。
【0101】
比較のため、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露することなく、温度18~23℃及び相対湿度90~93%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-ヘプチルアミン)塩の蛍光スペクトルが、蛍光スペクトルAの測定と同様にして測定された。測定された蛍光スペクトルには、蛍光スペクトルAからの変化が確認されなかった。
【0102】
作製されたテレフタル酸Bis(n-ヘプチルアミン)塩の潮解性が、実施例1と同様の手法により評価された。温度18~20℃及び相対湿度100%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-ヘプチルアミン)塩には、潮解が確認された。
【0103】
(実施例7)
テレフタル酸の量が0.54g(3.27mmol)に変更され、形成するテレフタル酸及びメタノールの混合液の量が50mLに変更された。また、単独のn-オクチルアミンの代わりにn-オクチルアミン0.47g(3.60mmol)及びn-ノニルアミン0.52g(3.60mmol)の混合物が用いられた。上記条件以外は実施例1と同様にして、テレフタル酸n-オクチルアミン・n-ノニルアミン混合塩1.23g(2.80mmol)が得られた。
【0104】
作製されたテレフタル酸n-オクチルアミン・n-ノニルアミン混合塩のヒドロキシラジカル検出能が、実施例1と同様の手法により評価された。テレフタル酸n-オクチルアミン・n-ノニルアミン混合塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBが
図23に示される。
図23に示されるように、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露されたテレフタル酸n-オクチルアミン・n-ノニルアミン混合塩では、紫外光の照射により生じる蛍光について、曝露前に比べて、385nmから630nmの幅広い波長域における強度の増加、及び波長490nmに位置する強度の増大が確認された。即ち、テレフタル酸n-オクチルアミン・n-ノニルアミン混合塩がヒドロキシラジカルの検出能を有していることが確認された。
【0105】
比較のため、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露することなく、温度22℃及び相対湿度93%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸n-オクチルアミン・n-ノニルアミン混合塩の蛍光スペクトルが、蛍光スペクトルAの測定と同様にして測定された。測定された蛍光スペクトルには、蛍光スペクトルAからの変化が確認されなかった。
【0106】
作製されたテレフタル酸n-オクチルアミン・n-ノニルアミン混合塩の潮解性が、実施例1と同様の手法により評価された。温度18~20℃及び相対湿度100%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸n-オクチルアミン・n-ノニルアミン混合塩には、潮解が確認されなかった。
【0107】
(比較例1)
比較例1では、テレフタル酸が準備された。準備されたテレフタル酸の結晶構造が、実施例1と同様のX線結晶構造解析により評価された。評価により確認された結晶構造が
図24A及び
図24Bに示される。
図24A及び
図24Bに示されるように、π-πスタッキング相互作用に基づくテレフタル酸の緻密な結晶構造が確認された。隣接するテレフタル酸の分子の間には、1nm以下のサイズを有する空隙が確認されなかった。
【0108】
準備されたテレフタル酸のヒドロキシラジカル検出能が、実施例1と同様の手法により評価された。テレフタル酸の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBが
図25に示される。
図25に示されるように、ヒドロキシラジカルを含む気体への曝露によっても、テレフタル酸が発する蛍光スペクトルは変化しなかった。即ち、固体のテレフタル酸がヒドロキシラジカルの検出能を有していないことが確認された。
【0109】
(比較例2)
形成するテレフタル酸及びメタノールの混合液の量が200mLに変更され、n-オクチルアミンの代わりに濃度40重量%のn-メチルアミン水溶液1.17g(15.07mmol)が用いられた。上記条件以外は実施例1と同様にして、テレフタル酸Bis(n-メチルアミン)塩1.36g(5.96mmol)が得られた。
【0110】
作製されたテレフタル酸Bis(n-メチルアミン)塩のヒドロキシラジカル検出能が、実施例1と同様の手法により評価された。テレフタル酸Bis(n-メチルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBが
図26に示される。
図26に示されるように、ヒドロキシラジカルを含む気体への曝露によっても、テレフタル酸Bis(n-メチルアミン)塩が発する蛍光スペクトルはほとんど変化しなかった。即ち、テレフタル酸Bis(n-メチルアミン)塩がヒドロキシラジカルの検出能を有していないことが確認された。
【0111】
比較のため、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露することなく、温度20℃及び相対湿度93%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-メチルアミン)塩の蛍光スペクトルが、蛍光スペクトルAの測定と同様にして測定された。測定された蛍光スペクトルには、蛍光スペクトルAからの変化が確認されなかった。
【0112】
作製されたテレフタル酸Bis(n-メチルアミン)塩の潮解性が、実施例1と同様の手法により評価された。温度18~20℃及び相対湿度100%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-メチルアミン)には、潮解が確認された。
【0113】
(比較例3)
形成するテレフタル酸及びメタノールの混合液の量が200mLに変更され、n-オクチルアミンの代わりに濃度70重量%のn-エチルアミン水溶液0.97g(15.05mmol)が用いられた。上記条件以外は実施例1と同様にして、テレフタル酸Bis(n-エチルアミン)塩1.53g(5.97mmol)が得られた。
【0114】
作製されたテレフタル酸Bis(n-エチルアミン)塩のヒドロキシラジカル検出能が、実施例1と同様の手法により評価された。テレフタル酸Bis(n-エチルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBが
図27に示される。
図27に示されるように、ヒドロキシラジカルを含む気体への曝露によっても、テレフタル酸Bis(n-エチルアミン)塩が発する蛍光スペクトルはほとんど変化しなかった。即ち、テレフタル酸Bis(n-エチルアミン)塩がヒドロキシラジカルの検出能を有していないことが確認された。
【0115】
比較のため、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露することなく、温度19℃及び相対湿度92%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-エチルアミン)塩の蛍光スペクトルが、蛍光スペクトルAの測定と同様にして測定された。測定された蛍光スペクトルには、蛍光スペクトルAからの変化が確認されなかった。
【0116】
作製されたテレフタル酸Bis(n-エチルアミン)塩の潮解性が、実施例1と同様の手法により評価された。温度18~20℃及び相対湿度100%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-エチルアミン)には、潮解が確認された。
【0117】
(比較例4)
n-オクチルアミンの代わりにn-プロピルアミン0.89g(15.05mmol)が用いられた。上記条件以外は実施例1と同様にして、テレフタル酸Bis(n-プロピルアミン)塩1.68g(5.91mmol)が得られた。
【0118】
作製されたテレフタル酸Bis(n-プロピルアミン)塩のヒドロキシラジカル検出能が、実施例1と同様の手法により評価された。テレフタル酸Bis(n-プロピルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBが
図28に示される。
図28に示されるように、ヒドロキシラジカルを含む気体への曝露によっても、テレフタル酸Bis(n-プロピルアミン)塩が発する蛍光スペクトルはほとんど変化しなかった。また、波長490nmに位置する強度は低下した。即ち、テレフタル酸Bis(n-プロピルアミン)塩がヒドロキシラジカルの検出能を有していないことが確認された。
【0119】
比較のため、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露することなく、温度23℃及び相対湿度90~92%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-プロピルアミン)塩の蛍光スペクトルが、蛍光スペクトルAの測定と同様にして測定された。測定された蛍光スペクトルには、蛍光スペクトルAからの変化が確認されなかった。
【0120】
作製されたテレフタル酸Bis(n-プロピルアミン)塩の潮解性が、実施例1と同様の手法により評価された。温度18~20℃及び相対湿度100%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-プロピルアミン)には、潮解が確認された。
【0121】
(比較例5)
形成するテレフタル酸及びメタノールの混合液の量が200mLに変更され、n-オクチルアミンの代わりにn-ブチルアミン1.95g(15.05mmol)が用いられた。上記条件以外は実施例1と同様にして、テレフタル酸Bis(n-ブチルアミン)塩2.49g(5.86mmol)が得られた。
【0122】
作製されたテレフタル酸Bis(n-ブチルアミン)塩のヒドロキシラジカル検出能が、実施例1と同様の手法により評価された。テレフタル酸Bis(n-ブチルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBが
図29に示される。
図29に示されるように、ヒドロキシラジカルを含む気体への曝露によっても、テレフタル酸Bis(n-ブチルアミン)塩が発する蛍光スペクトルはほとんど変化しなかった。即ち、テレフタル酸Bis(n-ブチルアミン)塩がヒドロキシラジカルの検出能を有していないことが確認された。
【0123】
比較のため、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露することなく、温度21℃及び相対湿度91%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-ブチルアミン)塩の蛍光スペクトルが、蛍光スペクトルAの測定と同様にして測定された。測定された蛍光スペクトルには、蛍光スペクトルAからの変化が確認されなかった。
【0124】
作製されたテレフタル酸Bis(n-ブチルアミン)塩の潮解性が、実施例1と同様の手法により評価された。温度18~20℃及び相対湿度100%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-ブチルアミン)には、潮解が確認された。
【0125】
(比較例6)
テレフタル酸の量が2.00g(12.04mmol)に変更され、形成するテレフタル酸及びメタノールの混合液の量が500mLに変更された。また、n-オクチルアミンの代わりにn-ペンチルアミン2.52g(28.89mmol)が用いられた。上記条件以外は実施例1と同様にして、テレフタル酸Bis(n-ペンチルアミン)塩3.72g(10.93mmol)が得られた。
【0126】
作製されたテレフタル酸Bis(n-ペンチルアミン)塩のヒドロキシラジカル検出能が、実施例1と同様の手法により評価された。テレフタル酸Bis(n-ペンチルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBが
図30に示される。
図30に示されるように、ヒドロキシラジカルを含む気体への曝露によっても、テレフタル酸Bis(n-ペンチルアミン)塩が発する蛍光スペクトルはほとんど変化しなかった。即ち、テレフタル酸Bis(n-ペンチルアミン)塩がヒドロキシラジカルの検出能を有していないことが確認された。
【0127】
比較のため、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露することなく、温度21℃及び相対湿度91~93%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-ペンチルアミン)塩の蛍光スペクトルが、蛍光スペクトルAの測定と同様にして測定された。測定された蛍光スペクトルには、蛍光スペクトルAからの変化が確認されなかった。
【0128】
作製されたテレフタル酸Bis(n-ペンチルアミン)塩の潮解性が、実施例1と同様の手法により評価された。温度18~20℃及び相対湿度100%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-ペンチルアミン)には、潮解が確認された。
【0129】
(比較例7)
テレフタル酸の量が0.50g(3.01mmol)に変更され、n-オクチルアミンの代わりにn-オクタデシルアミン1.78g(6.62mmol)が用いられた。上記条件以外は実施例1と同様にして、テレフタル酸Bis(n-オクタデシルアミン)塩1.82g(2.59mmol)が得られた。
【0130】
作製されたテレフタル酸Bis(n-オクタデシルアミン)塩のヒドロキシラジカル検出能が、実施例1と同様の手法により評価された。テレフタル酸Bis(n-オクタデシルアミン)塩の蛍光スペクトルA及び蛍光スペクトルBが
図31に示される。
図31に示されるように、ヒドロキシラジカルを含む気体への曝露によって、テレフタル酸Bis(n-オクタデシルアミン)塩が発する蛍光スペクトルの強度は減少した。即ち、テレフタル酸Bis(n-オクタデシルアミン)塩がヒドロキシラジカルの検出能を有していないことが確認された。
【0131】
比較のため、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露することなく、温度22℃及び相対湿度91%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-オクタデシルアミン)塩の蛍光スペクトルが、蛍光スペクトルAの測定と同様にして測定された。測定された蛍光スペクトルには、蛍光スペクトルAからの変化が確認されなかった。
【0132】
作製されたテレフタル酸Bis(n-オクタデシルアミン)塩の潮解性が、実施例1と同様の手法により評価された。温度18~20℃及び相対湿度100%に制御された雰囲気に2時間放置されたテレフタル酸Bis(n-オクタデシルアミン)には、潮解が確認されなかった。
【0133】
実施例1から6及び比較例2から7で作製された各有機塩について、ヒドロキシラジカルを含む気体に曝露する前の蛍光スペクトルAにおけるピーク波長、ピーク強度、及び波長490nmの強度、並びにヒドロキシラジカルを含む気体に曝露した後の蛍光スペクトルBにおけるピーク波長、ピーク強度、及び波長490nmの強度が、以下の表1にまとめて示される。また、ヒドロキシラジカルを含む気体への曝露の前後におけるピーク強度の増加率及び波長490nmの強度の増加率、並びに潮解性の評価結果が、併せて表1に示される。さらに、第一級アルキルアミンを構成するアルキル基の炭素数と、ピーク強度の増加率との関係が
図32に示される。また、第一級アルキルアミンを構成するアルキル基の炭素数と、波長490nmの強度の増加率との関係が
図33に示される。
図32及び
図33に示されるように、第一級アルキルアミンを構成するアルキル基の炭素数が6以上17以下の場合に、ヒドロキシラジカル検出能が発現することが確認された。また、表1に示されるように、第一級アルキルアミンを構成するアルキル基の炭素数が8以上の場合に、潮解性の抑制が確認された。
【0134】
【0135】
(実施例8)
[体表ガスへの曝露実験2]
図5に示される構成を有する検出メディア33が準備された。本体部34A及び蓋部34Bは、ポリテトラフルオロエチレン製とした。有機塩1には、実施例1で作製されたテレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩のペレットが使用された。ペレットは、テレフタル酸Bis(n-オクチルアミン)塩5mgをアルミニウム製オープン型試料容器(株式会社日立ハイテクサイエンス、GAA-0068)に充填した後、プレス機によりプレスして作製された。
【0136】
次に、準備された検出メディア33が、腕時計のバンドを模した装着帯に取り付けられ、被験者である人の手首の表面に接触した状態で2時間放置された。検出メディア33は、貫通孔36の開口が人の手首に接するように装着帯に取り付けられた。
【0137】
放置前後の有機塩1の蛍光スペクトルが、実施例1と同様にして測定された。蛍光スペクトルの測定結果が
図34に示される。
図34に示されるように、体表ガスに曝露された有機塩1では、紫外光の照射により生じる蛍光について、放置前に比べて、385nmから620nmの幅広い波長域における強度の増加、及び波長490nmに位置する強度の増大が確認された。即ち、体表ガスに含まれるヒドロキシラジカルを検出メディア33により検出可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本開示の有機塩は、例えば、気体に含まれるヒドロキシラジカルの検出に利用可能である。本開示の有機塩は、例えば、気体に含まれるヒドロキシラジカルを検出するヒドロキシラジカルセンサに応用できる。