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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】モノクローナル抗体およびその使用法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20230830BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20230830BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20230830BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20230830BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20230830BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20230830BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20230830BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20230830BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20230830BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20230830BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20230830BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20230830BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 U
A61P35/02
A61P37/02
A61P19/00
A61P29/00
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2020535637
(86)(22)【出願日】2018-12-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-03-25
(86)【国際出願番号】 RU2018050168
(87)【国際公開番号】W WO2019132738
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】2017145662
(32)【優先日】2017-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】RU
(73)【特許権者】
【識別番号】516261966
【氏名又は名称】ジョイント・ストック・カンパニー “バイオキャド”
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100107386
【弁理士】
【氏名又は名称】泉谷 玲子
(72)【発明者】
【氏名】ブリタノワ,オルガ・ウラジミロフナ
(72)【発明者】
【氏名】イズラエルソン,マーク・アレクサンドロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ルキャノフ,セルゲイ・アナトリエビッチ
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/137453(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/216324(WO,A1)
【文献】Diabetes (2012) Vol.61, pp.1160-1168
【文献】Clinical and Experimental Immunology (2003) Vol.134, pp.92-97
【文献】INTERNATIONAL JOURNAL OF ONCOLOGY (2008) Vol.33, pp.433-441
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/00
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトT細胞受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖領域に特異的に結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって:
1)HCDR1~3のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインであって、ここで
HCDR1は配列番号1のアミノ酸配列を含み、
HCDR2は配列番号2のアミノ酸配列を含み、
HCDR3は配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6の群より選択されるアミノ酸配列を含む
前記重鎖可変ドメイン;
2)LCDR1~3のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインであって、ここで
LCDR1は配列番号7のアミノ酸配列を含み、
LCDR2は配列番号8のアミノ酸配列を含み、
LCDR3は配列番号9のアミノ酸配列を含む
前記軽鎖可変ドメイン
を含む、前記抗体またはその抗原結合断片。
【請求項2】
重鎖可変ドメインが、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19の群より選択されるアミノ酸配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項3】
重鎖可変ドメインが、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19の群より選択されるアミノ酸配列を含む、請求項2記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項4】
軽鎖可変ドメインが、配列番号11に示すアミノ酸配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、請求項1記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項5】
軽鎖可変ドメインが、配列番号11のアミノ酸配列を含む、請求項4記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項6】
1)配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27の群より選択される配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖;
2)配列番号29の配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖
を含む、請求項1記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
【請求項7】
1)配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27の群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖;
2)配列番号29のアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む、請求項6のモノクローナル抗体。
【請求項8】
抗体が全長IgG抗体である、請求項1~7のいずれかに記載のモノクローナル抗体。
【請求項9】
抗体が、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4の群より選択されるヒトアイソタイプである、請求項8記載のモノクローナル抗体。
【請求項10】
ヒトT細胞受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖領域に特異的に結合する、請求項1~9のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸。
【請求項11】
請求項10記載の核酸を含む、発現ベクター。
【請求項12】
請求項1~9のいずれかの抗体またはその抗原結合断片を産生する宿主細胞を得る方法であって、請求項10記載の核酸を含む、請求項11記載のベクターで細胞を形質転換する工程を含む、前記方法。
【請求項13】
請求項10記載の核酸を含む、請求項1~9のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片を得るための宿主細胞。
【請求項14】
請求項1~9のいずれかに記載の抗体を得る方法であって、請求項13記載の宿主細胞を、前記抗体の産生を確実にする条件下で、培地中で培養し、その後、得た抗体を単離し、そして精製する工程を含む、前記方法。
【請求項15】
ヒトT細胞受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖領域によって仲介される疾患または障害の防止または治療のための薬学的組成物であって、請求項1~9のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片の有効量を、1つまたはいくつかの薬学的に許容されうる賦形剤と組み合わせて含む、前記薬学的組成物。
【請求項16】
前記疾患または障害が、強直性脊椎炎、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫の群より選択される、請求項15記載の薬学的組成物。
【請求項17】
TRBV9ファミリーベータ鎖を所持するヒトT細胞受容体によって仲介される疾患または障害の防止または治療のための薬学的組成物であって、請求項1~9のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片の有効量、および有効量の少なくとも1つの他の療法的活性化合物を含む、前記薬学的組成物。
【請求項18】
前記疾患または障害が、強直性脊椎炎、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫の群より選択される、請求項17記載の薬学的組成物。
【請求項19】
他の療法的活性化合物が、小分子、抗体またはステロイドホルモンより選択される、請求項17~18のいずれかに記載の薬学的組成物。
【請求項20】
医薬品の製造のための、請求項1~9のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片、あるいは請求項15記載の薬学的組成物の使用。
【請求項21】
医薬品が、疾患の治療および/または診断への使用のためのものであり、前記疾患が、強直性脊椎炎、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫の群より選択される、請求項20記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジーおよび生体臨床医学の分野、特に抗体またはその抗原結合断片、ならびにその使用に関する。より具体的には、本発明は、ヒトT細胞受容体ファミリーに特異的に結合するモノクローナル抗体に関する。本発明はまた、前記抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸、発現ベクター、前記抗体を調製するための方法、およびヒトT細胞受容体ファミリーに関連する疾患または障害の治療における前記抗体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト自己免疫疾患の治療において、主要な炎症プロセス仲介因子、例えばTNFアルファ、IL1、IL6、IL17、IL23に対する抗体に基づく薬剤の使用が記載されてきている(van der Heijde Dら, Ann Rheum Dis. 2011 Jun;70(6):905-8、Baeten Dら, N Engl J Med. 2015 Dec 24;373(26):2534-48)。免疫調節特性を有するCD3およびCD4受容体複合体に対するモノクローナル抗体は、自己免疫疾患の治療のための臨床試験中である(Kuhn C.およびWeiner L., Immunotherapy 2016 Jul;8(8):889-906; Helling B.ら, Immunology and Cell Biology 2015 Apr;93(4):396-405; Konig M.ら, Front Immunol 2016 Jan 25;7:11)。しかし、こうした薬剤の使用は、炎症の減少にはつながるが、疾患の発展をとめることはなく、そして疾患の原因、すなわち自己反応性Tリンパ球には直接作用しないことが示されてきている(Haroon Nら, Arthritis Rheum. 2013 Oct;65(10):2645-54.、Duarte J.ら, PloS One 2010 May 10;5(5):e10558; Konig M.ら, Front Immunol 2016 Jan 25;7:11)。
【0003】
モノクローナル抗体を用いて強直性脊椎炎(AS、ベフテレフ病)の症候性治療が成功したにもかかわらず、自己免疫反応の選択的でそして長期の抑制を可能にし、そしてASの進行を止める有効な薬剤は、いまだに生成されてきていない。したがって、AS患者生物から、その出現が疾患の発展に関連する自己反応性Tリンパ球クローンを除くことを可能にすることが緊急の課題である。
【0004】
抗原認識T細胞受容体(TCR)、および細胞内タンパク質または病原性生物の表面上のタンパク質のプロセシングされたペプチドである、主要組織適合遺伝子複合体(MHC、HLA)タンパク質の間の相互作用は、自己反応性Tリンパ球クローンの出現に重要な役割を果たすことが知られる。多くの自己免疫疾患は、ヒトにおける特定のHLA遺伝子変異体の存在と関連する。例えば、HLA-B27アレルは、AS、反応性関節炎、およびクローン病と関連する。特定のHLAアレル変異体のキャリアーにおいて自己免疫疾患が発展するリスクは、自己抗原である特定のペプチドのこれらのアレルによる優先的な提示によって説明されることも可能であり、こうした自己抗原に対する免疫反応が自己免疫疾患の発展を誘発する。自己免疫反応を開始するありうる機構の1つは、生物自身のペプチドに相同である、細菌またはウイルス起源のタンパク質由来のペプチドの組織適合遺伝子複合体分子による提示であり、この事実は、交差反応性によって、自己抗原に対する免疫反応を導きうる。
【0005】
先行技術から知られるように、T細胞受容体(TCR)配列は、自己免疫疾患の病因形成に関与するTリンパ球クローンの同定を可能にするマーカーである。構造的に、T細胞受容体のサブユニットは、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであり、そしていくつかの遺伝子セグメントから形成される。TCR可変領域は、TCR抗原結合部位を形成する。これは、これらがクローン特異的である、すなわち別個の抗原に反応するTリンパ球において異なることを意味する。
【0006】
TCR可変ドメイン内の可変(V)遺伝子セグメントのアミノ酸相同性に関して、T細胞受容体は、異なるファミリーに分けられる。IMGT命名法にしたがって、ベータ鎖は26の別個のファミリーに区別され、そしてアルファ鎖は41のファミリーに区別される(Turner SJら, Nature Reviews Immunology 2006, V.6, 883-894)。TCR鎖ファミリーを決定するため、試験アミノ酸配列、およびその情報が、http://www.imgt.orgで、インターネット上で入手可能であるIMGTデータベース(”The international ImMunoGeneTics information system”, Lefranc M-P., Nucl Acids Res 2001; 29:207-209)中に要約される、既知のTCR鎖配列の多数の整列を用いる。IgBlastソフトウェアパッケージを用いて、多数の整列およびTCR鎖ファミリーの決定を行ってもよい。
【0007】
AS患者における自己免疫TCRのコンセンサス変異体が記載されてきており、これは、そのHLAB27アレル状態に関わらず、AS患者において滑液および末梢血中に存在し、そして健康なドナーにおいて同じ分析深度では存在しないことが示されてきている(Faham M.ら, Arthritis Rheumatol. 2017;69(4):774-784; Komech Еら. 12th EJI-EFIS Tatra Immunology Conference; 2016 Sep 3-7; Strbske Pleso, Slovakia. Abstract book p. 39)。これらのTCRは、TRBV9ファミリーのメンバーである(IMGT命名法による)。
【0008】
TRBV9ファミリーベータ鎖を所持するT細胞受容体はまた、セリアック病のような自己免疫疾患の発展にも関連している(Petersen Jら, J Immunol. 2015; 194(12): 6112-22)。また、これらは、エプスタイン-バーウイルス(EBV)によって引き起こされるT細胞リンパ腫を含む、T細胞リンパ腫およびT細胞白血病において、悪性化にさらされているT細胞の表面に見られる(Toyabe Sら, Clin Exp Immunol. 2003; 134(1): 92-97)。
【0009】
本発明に最も類似しているのは、TRBV5-3 TRBV8-1ファミリーに属するヒトT細胞受容体可変ドメインのベータ鎖領域に対するモノクローナル抗体W112および2D1であり、これらは、関節リウマチの診断および治療のためのツールとして、特許出願(WO9006758)に記載された。これらのモノクローナル抗体は、それぞれ、0.3~5%の間のTRBV5-3を所持する末梢Tリンパ球、および0.5~13%のTRBV8-1を所持する末梢Tリンパ球を認識する。関節リウマチの病因形成におけるTリンパ球の関与を示す多くの研究の結果によって、T受容体のベータ鎖領域に特異的なモノクローナル抗体の使用が生じた。特に、Brennanら, Clin Exp Immunol. 1988 Sep; 73(3): 417-423のデータは、健康なドナーと比較した際、関節リウマチを患う患者の滑液試料において、TRBV5およびTRBV8を所持するTリンパ球の割合が上昇していることを立証している。
【0010】
また、WO9405801は、TCR V(ベータ)3.1サブファミリーと相互作用する、ヒトT細胞受容体のVB3.1可変領域のエピトープと相互作用する、関節リウマチの診断および療法のためのモノクローナル抗体を開示する。
【0011】
WO9405801およびWO9006758に記載される、関節リウマチを治療するためのアプローチの主な欠点は、病因形成およびベータ鎖可変セグメントの特定のファミリーの間の関連に、説得力がある証拠が欠如していることである。
【0012】
ラットTRCの第13ファミリーベータ鎖を特異的に認識するモノクローナル抗体もまた記載されてきている。動物モデルによって、これらの抗体の補助により、そのT受容体がVB13ベータ鎖を含むT細胞の小集団(VB13+ T細胞)を予防的に除去することが可能であることが立証されてきており、そしてこうした方法は、I型糖尿病になりやすい系統のラットにおいて、I型糖尿病の発展に対して防御し、そしてまた、ウイルス誘導性糖尿病発展のリスクも有意に減少させることが示されてきている(Zhijun Liuら, Diabetes. 2012 May; 61(5): 1160-1168.)。同時に、そのT受容体が別個のベータ鎖ファミリー(VB16)を含むT細胞を枯渇させても、結果は対照群とは異ならない。VB13に対するモノクローナル抗体の最初の投与であっても、ラット脾臓において、VB13+ T細胞数の60%減少を生じることに注目することが重要である。
【0013】
記載される類似体はすべて、TRBV9ファミリーに属するTCRには結合せず、そしてASおよびTRBV9ファミリーに属するTCRと関連する他の疾患を治療するために適していない。
【0014】
ASおよびセリアック病を治療する際に使用してもよい抗体である、TRBV9ファミリーTCRを所持するT細胞の除去に適したモノクローナル抗体は、記載されてきていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】WO9006758
【文献】WO9405801
【非特許文献】
【0016】
【文献】van der Heijde Dら, Ann Rheum Dis. 2011 Jun;70(6):905-8
【文献】Baeten Dら, N Engl J Med. 2015 Dec 24;373(26):2534-48
【文献】Kuhn C.およびWeiner L., Immunotherapy 2016 Jul;8(8):889-906
【文献】Helling B.ら, Immunology and Cell Biology 2015 Apr;93(4):396-405
【文献】Konig M.ら, Front Immunol 2016 Jan 25;7:11
【文献】Haroon Nら, Arthritis Rheum. 2013 Oct;65(10):2645-54.
【文献】Duarte J.ら, PloS One 2010 May 10;5(5):e10558
【文献】Turner SJら, Nature Reviews Immunology 2006, V.6, 883-894
【文献】Lefranc M-P., Nucl Acids Res 2001; 29:207-209
【文献】Faham M.ら, Arthritis Rheumatol. 2017;69(4):774-784
【文献】Komech Еら. 12th EJI-EFIS Tatra Immunology Conference; 2016 Sep 3-7
【文献】Strbske Pleso, Slovakia. Abstract book p. 39
【文献】Petersen Jら, J Immunol. 2015; 194(12): 6112-22
【文献】Toyabe Sら, Clin Exp Immunol. 2003; 134(1): 92-97
【文献】Brennanら, Clin Exp Immunol. 1988 Sep; 73(3): 417-423
【文献】Zhijun Liuら, Diabetes. 2012 May; 61(5): 1160-1168.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、特に、その病因形成にTRBV9ファミリーTCRが関与する、AS、セリアック病および悪性血液疾患の療法のための、TRBV9ファミリーTCRを所持するT細胞を除去するために使用可能な抗体の生成に関する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、ヒトT受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖領域に特異的に結合する能力を有するモノクローナル抗体およびその抗原結合断片に関する。本発明の抗体を、その病因形成にTRBV9ファミリーに属するTCRが関与する自己免疫および腫瘍性疾患、例えばAS、セリアック病ならびにいくつかのT細胞リンパ腫およびT細胞白血病を治療するための薬剤として用いてもよい。
【0019】
本発明の抗体および抗原結合断片は、
1)その重鎖可変ドメイン(VH)が、3つの超可変領域、HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、ここで
HCDR1(Kabatの番号付けスキームによる)は配列番号1のアミノ酸配列を有し;
HCDR2は配列番号2のアミノ酸配列を有し;
HCDR3は配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6からなる群より選択されるアミノ酸配列を有し;
2)その軽鎖可変ドメイン(VL)が、3つの超可変領域、LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、ここで
LCDR1は配列番号7のアミノ酸配列を有し;
LCDR2は配列番号8のアミノ酸配列を有し;
LCDR3は配列番号9のアミノ酸配列を有する
点で特徴づけられる。
【0020】
別に特に言及しない限り、以後、抗体のCDRを決定するために、周知のKabat番号付けスキームを用いる。
本発明の抗体は、キメラ、ヒト化またはヒト抗体であってもよい。いくつかの態様において、本発明の抗体は、ヒト様定常領域および構造構成要素を含有するが、ラット様可変ドメインを有する。
【0021】
いくつかの態様において、抗体軽鎖可変ドメインは、配列番号11のアミノ酸配列を有し、そして対象抗体の重鎖可変ドメインは、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する。
【0022】
やはり提供するのは、その軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列が、配列番号11に示す配列に実質的に類似である(例えば少なくとも90%同一である)抗体である。
やはり提供するのは、その重鎖可変ドメインのアミノ酸配列が、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19からなる群より選択される配列に実質的に類似である(例えば少なくとも90%同一である)抗体である。
【0023】
いくつかの態様において、本発明の抗体は、そのアミノ酸配列が配列番号29に実質的に類似である軽鎖、およびそのアミノ酸配列が、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27からなる群より選択されるものに実質的に類似である重鎖を含む。
【0024】
いくつかの態様において、本発明のモノクローナル抗体は、全長ヒトIgG抗体、例えばIgG1またはIgG2またはIgG3またはIgG4である。
やはり提供するのは、本発明の抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメインをコードする核酸、本発明の抗体の重鎖および軽鎖をコードする核酸、ならびにその機能的断片である。
【0025】
やはり提供するのは、本発明の核酸および選択した宿主細胞における該核酸の発現に必要な制御要素を含む発現カセットおよび発現ベクターである。ベクターまたは発現カセットは、染色体外要素として宿主細胞中に存在してもよいし、または前記発現カセットまたはベクターの細胞内への導入(トランスフェクションによる)の結果として、細胞ゲノム内に組み込まれていてもよい。
【0026】
さらに提供するのは、本発明の核酸、ベクターまたは発現カセットを含む細胞および安定細胞株、ならびにその調製のための方法である。
やはり提供するのは、上記抗体またはその抗原結合断片を産生するための方法であって、上述の宿主細胞を、前記抗体の産生を確実にする条件下で、培地中で培養する工程を含む、前記方法である。いくつかの態様において、方法には、生じた抗体の続く単離および精製が含まれる。
【0027】
やはり提供するのは、ヒトT受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖領域によって仲介される疾患または障害を防止するかまたは治療するための薬学的組成物であって、上記抗体またはその抗原結合断片を、1つまたはそれより多い薬学的に許容されうる賦形剤と組み合わせて含む、前記薬学的組成物である。
【0028】
1つの態様において、薬学的組成物は:強直性脊椎炎、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫の群より選択される疾患または障害を防止するかまたは治療することを意図される。
【0029】
やはり提供するのは、TRBV9ファミリーベータ鎖を所持するヒトT細胞受容体によって仲介される疾患または障害を防止するかまたは治療するための薬学的組み合わせであって、上記抗体またはその抗原結合断片および少なくとも1つの他の療法的活性化合物を含む、前記薬学的組み合わせである。
【0030】
1つの態様において、薬学的組み合わせは:強直性脊椎炎、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫の群より選択される疾患または障害を防止するかまたは治療することを意図される。
【0031】
1つの態様において、薬学的組み合わせは、小分子、抗体またはステロイドホルモンより選択される、別の療法的活性化合物、例えばコルチコステロイドを含む。
やはり提供するのは、そのベータ鎖がTRBV9ファミリーに属するT細胞受容体の生物学的活性を、こうした阻害を必要とする被験体において阻害する方法であって、被験体に、上述の抗体またはその抗原結合断片の有効量を投与する工程を含む、前記方法である。
【0032】
やはり提供するのは、TRBV9ファミリーベータ鎖を所持するヒトT細胞受容体によって仲介される疾患または障害を治療するための方法であって、こうした治療の必要がある被験体に、療法的に有効な量で、上記抗体またはその抗原結合断片、あるいは前記薬学的組成物を投与する工程を含む、前記方法である。
【0033】
疾患または障害を治療するための方法の態様の1つにおいて、疾患または障害は:強直性脊椎炎、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫の群より選択される。
やはり提供するのは、TRBV9ファミリーベータ鎖を所持するヒトT細胞受容体によって仲介される疾患または障害の、こうした治療を必要とする被験体における治療のための、上述の抗体またはその抗原結合断片、あるいは上述の薬学的組成物の使用である。
【0034】
使用の態様の1つにおいて、疾患は:強直性脊椎炎、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫の群より選択される。
本発明の技術的結果は、そのベータ鎖がTRBV9ファミリーに属するTCRに特異的に結合する新規抗体を生成することであり、そしてこれを用いて、その病因形成に、そのベータ鎖がTRBV9ファミリーに属するTCRが関与する、自己免疫および腫瘍性疾患を治療してもよい。さらに、技術的結果は、ASおよび/またはセリアック病の治療の有効性を増加させることであり、この増加は、自己免疫Tリンパ球に直接作用可能であり、そしてASにおける長期の寛解を達成可能な抗体を産生することによって提供される。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1図1は、eFluor 405で標識された抗CD3モノクローナル抗体(縦軸)、およびFITCで標識された、TRBV9に対するモノクローナル抗体(横軸)を用いた、単核血液分画細胞の分布の2パラメータヒストグラムを示す:抗TRBV9-1(図1)。抗TRBV9モノクローナル抗体の各変異体を、2つの濃度:試験あたり270ng(上部グラフ)または27ng(下部グラフ)で用いた。小さい四角形は、CD3+TRBV9+の特異的集団を示す。
図2図2は、eFluor 405で標識された抗CD3モノクローナル抗体(縦軸)、およびFITCで標識された、TRBV9に対するモノクローナル抗体(横軸)を用いた、単核血液分画細胞の分布の2パラメータヒストグラムを示す:抗TRBV9-2(図2)。抗TRBV9モノクローナル抗体の各変異体を、2つの濃度:試験あたり270ng(上部グラフ)または27ng(下部グラフ)で用いた。小さい四角形は、CD3+TRBV9+の特異的集団を示す。
図3図3は、eFluor 405で標識された抗CD3モノクローナル抗体(縦軸)、およびFITCで標識された、TRBV9に対するモノクローナル抗体(横軸)を用いた、単核血液分画細胞の分布の2パラメータヒストグラムを示す:抗TRBV9-3(図3)。抗TRBV9モノクローナル抗体の各変異体を、2つの濃度:試験あたり270ng(上部グラフ)または27ng(下部グラフ)で用いた。小さい四角形は、CD3+TRBV9+の特異的集団を示す。
図4図4は、eFluor 405で標識された抗CD3モノクローナル抗体(縦軸)、およびFITCで標識された、TRBV9に対するモノクローナル抗体(横軸)を用いた、単核血液分画細胞の分布の2パラメータヒストグラムを示す:抗TRBV9-4(図4)。抗TRBV9モノクローナル抗体の各変異体を、2つの濃度:試験あたり270ng(上部グラフ)または27ng(下部グラフ)で用いた。小さい四角形は、CD3+TRBV9+の特異的集団を示す。
図5図5は、細胞傷害性試験:抗TRBV9-2(試験)およびレミケード(対照)とインキュベーションした後の、eFluor 405で標識された抗CD3モノクローナル抗体(縦軸)、およびFITCで標識された、TRBV9に対するモノクローナル抗体(横軸)を用いた、単核血液分画細胞の分布の2パラメータヒストグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明は、ヒトT受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖領域に特異的に結合する能力を有する、単離モノクローナル抗体およびその機能的断片に関する。やはり提供するのは、本発明の抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸、本発明の核酸および選択した宿主細胞における該核酸の発現に必要な制御要素を含む発現カセットおよび発現ベクターである。さらに提供するのは、本発明の核酸、ベクターまたは発現カセットを含む細胞および安定細胞株である。やはり提供するのは、モノクローナル抗体またはその機能的断片を産生するための方法、1つまたはそれより多い薬学的に許容されうる賦形剤、希釈剤またはキャリアーと組み合わせて、本発明の抗体を有効量で含む薬学的組成物および薬学的組み合わせ、ならびに本発明の抗体を用いたASおよび他の疾患の診断および療法のための方法である。
【0037】
定義
本発明は、いくつかの用語を最初に定義すると、より容易に理解されるであろう。
本明細書に提供する材料および方法は多様でありうるため、特定の組成物および方法工程に限定されないことが理解される。本明細書において、そして付随する請求項において、背景が明らかに別に指示しない限り、単数形には対応する複数の参照対象が含まれることに注意しなければならない。
【0038】
ヒト「T細胞受容体」はまた、「TCR」、「T受容体」とも称され、Tリンパ球表面上に見られるヘテロ二量体タンパク質複合体である。この受容体は、Tリンパ球上にのみ存在する。TCRの主な機能は、主要組織適合遺伝子複合体(HLA)の分子に結合した、プロセシングされた抗原を特異的に認識することである。
【0039】
ヒトTCRは、2つのサブユニット、αおよびベータ鎖、またはγおよびδ鎖からなり、これらの鎖はジスルフィド結合を通じて連結され、そして細胞膜上にドッキングされる。TCR鎖は各々、N末端可変(V)ドメイン、連結ドメイン、およびTリンパ球形質膜中に受容体を係留する膜貫通ドメインに連結された定常(C)ドメインを有する。アルファおよびベータ鎖の定常ドメインの長さは、それぞれ、91および129アミノ酸残基である。アルファ鎖の連結および膜貫通ドメインの長さは30および17アミノ酸残基(AAR)であり、そしてベータ鎖の長さは21および22 AARである。T受容体可変ドメインの長さは、104~125 AARで多様である。
【0040】
少ない割合のTリンパ球はγ/δ型受容体を有する。これらはα/β受容体と類似に配置されるが、一次構造が異なり、そしていくつかの機能特徴を有する。これらははるかにより低い可変性(限定されたクローン特異性)を示し、「非古典的」(非MHC)抗原提示分子を含む複合体中の抗原またはさらに遊離抗原を認識する。
【0041】
T受容体は、その相補性を決定する6つの領域(CDR):3つのアルファ鎖領域および3つのベータ鎖領域を通じて、MHC/抗原複合体と反応する。これらのCDRは、超可変領域、T細胞受容体の可変ドメインのループ、VアルファおよびVベータである。
【0042】
用語「TRBV9」または「TRBV9ファミリー」は、IMGT命名法にしたがって区別されるように、T細胞受容体のベータ鎖の9番目のファミリーを指し、その可変ドメインのアミノ酸配列が、CDR1(アミノ酸配列はS-G-D-L-Sである)およびCDR2(アミノ酸配列はY-Y-N-G-E-Eである)のユニークなモチーフを含むことで特徴づけられる。用語「TRBV9ファミリーTCR」は、そのベータ鎖がTRBV9ファミリーに属するT細胞受容体を指す。
【0043】
Tリンパ球またはTCRと関連した用語「病理学的」は、こうしたTCRまたはTCR所持Tリンパ球が、疾患または病理と関連し、そして/または疾患を引き起こし、そして/または疾患の発展に寄与することを意味する。
【0044】
TCRと関連した用語「自己免疫」は、こうしたTCRが自己免疫疾患の発展に関与することを意味する。
用語「抗体」は、本明細書において、ジスルフィド結合によって連結された4つのポリペプチド鎖(2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖)からなる免疫グロブリン分子を指すよう意図される。軽鎖は、カッパまたはラムダと分類される。重鎖は、ガンマ、ミュー、アルファ、デルタまたはイプシロンと分類され;これらは、それぞれ、IgG、IgM、IgA、IgDおよびIgEのような抗体アイソタイプを決定し、そしてこれらのいくつかは、さらにサブクラス(アイソタイプ)、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2に分けられうる。各重鎖タイプは、特定の定常領域によって特徴づけられる。
【0045】
各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書において、HCVRまたはVHと略される)および重鎖定常領域を含む。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、およびCH3を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書において、LCVRまたはVLと略される)および軽鎖定常領域を含む。軽鎖定常領域は、1つのドメイン、CLを含む。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と称される、より保存された領域によって囲まれる、相補性決定領域(CDR)と称される、超可変性の領域にさらに分けられうる。各VHおよびVLは、アミノ末端からカルボキシ末端に、以下の順序:FR1、CDR1,FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4で配置される、3つのCDRおよび4つのFRで構成される。
【0046】
本出願において、3つの重鎖CDRは「CDRH1、CDRH2およびCDRH3」と称される一方、3つの軽鎖CDRは、「CDRL1、CDRL2およびCDRL3」と称される。CDRは、抗原と特異的に相互作用する残基の大部分を含有する。本発明の抗体のHCVRおよびLCVR内のCDRアミノ残基は、別に言及しない限り、周知のKabat番号付けスキームにしたがって番号付けられ、そして配置される。本出願には、別に言及しない限り、アミノ酸の慣用的な文字コードが含まれる。
【0047】
用語「抗TRBV9抗体」、「TRBV9に対する抗体」、「TRBV9ファミリーベータ鎖に特異的に結合する抗体」および「TRBV9ファミリーベータ鎖に対する抗体」は、本出願の背景において交換可能であり、そしてヒトT細胞受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖のエピトープに特異的に結合する抗体に関する。
【0048】
本出願の目的のための用語「抗体」および「モノクローナル抗体」は、TRBV9ファミリーTCRに対するモノクローナル抗体を指す。本明細書において、「モノクローナル抗体」は、別に言及しない限り、齧歯類、霊長類またはラクダ科(Camelidae)の抗体、好ましくはマウス、マカク、ラクダまたはラマ抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体または完全ヒト抗体に関する。
【0049】
各対の軽/重鎖の可変領域は、抗体の抗原結合部位を形成する。本出願において用いる際、「抗原結合部分」、または「抗原結合領域」、または「抗原結合ドメイン」または「抗原結合部位」は、交換可能であり、抗原と相互作用して、そして抗原に関する抗体特異性およびアフィニティを与えるアミノ酸残基を含む、抗体分子のこうした部分に関する。抗体のこの部分には、抗原結合残基の適切なコンホメーションを維持するために必要な、「フレームワーク」アミノ酸残基が含まれる。
【0050】
用語「ヒト抗体」は、本明細書において、可変および定常ドメインの配列がヒト配列に由来する抗体を指す。本発明のヒト抗体には、例えばCDRにおける、そして特にCDR3における、ヒトには典型的でないアミノ酸残基(例えば、in vitro非定方向性(undirected)または部位特異的突然変異誘発によって導入される突然変異、あるいはin vivo体細胞突然変異)が含まれてもよい。
【0051】
用語「ヒト化」は、抗体に関して用いた際、ヒト様定常領域および構造構成要素の存在によって特徴づけられるが、他の起源の免疫グロブリン、または修飾された抗体の対応する断片に典型的である相補性決定領域(CDR)を有する抗体を指すよう用いられる。
【0052】
本発明の抗体に関する用語「キメラ」は、ヒト様定常領域によって特徴づけられるが、他の起源の可変領域を有する抗体を指すよう用いられる。こうした抗体において、非ヒト起源の(例えばラット起源の)軽鎖および/または重鎖の可変ドメインは、ヒト起源の対応する鎖の定常ドメインに機能可能であるように連結される。
【0053】
用語「機能可能であるように連結される」等は、抗体を記載するために用いられる際、互いに対して物理的に(別に言及しない限り、共有結合的に)そして機能的な関係にある、ポリペプチド配列を指す。最も好ましい態様において、キメラ分子のポリペプチド構成要素の機能は、単離ポリペプチド構成要素の機能特性に比較した際、不変である。用語「機能可能であるように連結される」等は、核酸を記載するために用いられる際、これらが連結される点で、リーディングフレームシフトも、そして停止コドンも存在しないように、核酸が共有結合していることを意味する。当業者には明らかであるように、「機能可能であるように連結された」構成要素(タンパク質、ポリペプチド、リンカー配列、タンパク質ドメイン等)を含むキメラタンパク質をコードするヌクレオチド配列は、前記構成要素をコードする断片からなり、前記断片は、全長キメラタンパク質、例えば本発明のキメラ抗体が、ヌクレオチド配列の翻訳および転写中に産生されるように、共有結合している。
【0054】
本明細書において、用語「単離された」または「得られた」は、分子または細胞が天然に存在するもの以外の環境にある分子または細胞を意味する。
好ましい態様において、本発明の抗体は、組換えであり、すなわち組換えDNA技術を用いて生成される。用語「組換え抗体」には、本明細書において、組換え手段によって調製され、発現され、生成され、または単離されているすべての抗体、例えば宿主細胞内に導入されている組換え発現ベクターを用いて発現された抗体、組換えコンビナトリアルヒト抗体ライブラリーから単離された抗体、ヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックである動物から単離された抗体(例えばTaylor L.D.ら(1992) Nucl. Acids Res. 20:6287-6295を参照されたい)が含まれる。いくつかの態様において、組換えヒト抗体は、in vitro突然変異誘発(またはヒトIg配列に関してトランスジェニックである動物を用いる場合、in vivo体細胞突然変異誘発)に供され、そしてしたがって、組換え抗体のVHおよびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VHおよびVL配列に由来し、そしてこれに関連する一方、in vivoで、ヒト抗体生殖系列レパートリー内に天然には存在しない可能性もある配列である。
【0055】
用語「特異的に結合する」は、本明細書において、特定の結合対の1つのメンバーが、その特異的結合パートナー(単数または複数)以外の分子には有意には結合しない状況を指すよう意図される。該用語はまた、例えば本発明の抗体の抗原結合ドメインが、いくつかの抗原によって所持される特定のエピトープに特異的である場合にも適用可能であり;この場合、抗原結合ドメインを含む特異的抗体は、エピトープを所持する多様な抗原に特異的に結合可能であろう。したがって、本発明のモノクローナル抗体は、ヒトT細胞受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖のエピトープに特異的に結合する一方、他のファミリーのTCRベータ鎖およびTCRアルファ鎖には特異的に結合しない。
【0056】
用語「エピトープ」は、抗体の1つまたはそれより多くの抗原結合領域で、抗体によって認識され、そして結合されることが可能である分子の部分を指す。エピトープは、しばしば、分子の化学的活性表面グループ、例えばアミノ酸または糖側鎖からなり、そして特定の三次元構造特性ならびに特定の電荷特性を有する。
【0057】
本出願において用いる際、用語「エピトープ」は、とりわけ、動物において、好ましくは哺乳動物、例えばマウス、ラットまたはヒトにおいて、抗原性および/または免疫原性活性を有するポリペプチド断片を指す。用語「抗原性エピトープ」は、本明細書において、抗体に特異的に結合可能であり、そして例えば標準的イムノアッセイによって、先行技術から周知の任意の技術によって検出可能であるポリペプチド断片である。抗原エピトープは、必ずしも免疫原性ではないが、免疫原性であってもよい。「免疫原性エピトープ」は、本明細書において、先行技術から知られる任意の方法によって決定されるような、動物において抗体反応を誘発するポリペプチド断片と定義される。「非線形エピトープ」または「コンホメーションエピトープ」は、エピトープ特異的抗体に結合する抗原タンパク質内に、非隣接ポリペプチド(またはアミノ酸)を含む。
【0058】
本発明の抗体またはその機能的断片に関する用語「生物学的特性」または「生物学的特徴」、あるいは用語「活性」または「生物活性」は、本出願において交換可能に用いられ、そしてこれには、限定されるわけではないが、エピトープ/抗原アフィニティおよび特異性、TRBV9ファミリーに属するベータ鎖を含むTCRの活性を中和するかまたはこれに拮抗する能力が含まれる。
【0059】
抗体の他の同定可能な生物学的特性または特徴には、例えば、交差反応性(すなわちターゲットペプチドの非ヒト相同体との、あるいは一般に他のタンパク質または組織との)、および哺乳動物細胞において高レベルのタンパク質発現を保持する能力が含まれる。限定されるわけではないが、ELISA、競合的ELISA、KINEXA表面プラズモン共鳴分析、限定を伴わないin vitroまたはin vivo阻害アッセイ、受容体結合アッセイ、サイトカインまたは増殖因子産生および/または分泌アッセイ、ならびにシグナル伝達、およびヒト、霊長類または任意の他の供給源を含む多様な供給源から得た組織切片の免疫組織化学を含む、当該技術分野に認識される技術を用いて、前述の特性または特徴を観察し、測定し、そして/または評価してもよい。
【0060】
本発明の抗体の活性に関する用語「阻害する」または「中和する」は、本明細書において、例えば、限定されるわけではないが、抗体の生物学的活性、または特性、疾患または状態を含む、阻害しようとするものの進行または重症度に実質的に拮抗するか、これを禁じるか、防止するか、抑制するか、遅延させるか、中断するか、除去するか、停止するか、減少させる能力を指す。
【0061】
本明細書において、用語「突然変異体」または「変異体」は、1つまたはそれより多いアミノ酸が、本発明の抗体またはその断片の天然アミノ酸配列のN末端および/またはC末端および/または該配列の内部で、付加され、そして/または置換され、そして/または欠失され、そして/または挿入されている、本発明に開示する抗体を指す。本明細書において、用語「突然変異体」はまた、突然変異体タンパク質をコードする核酸分子も指す。さらに、用語「突然変異体」は、タンパク質または核酸よりもより短いかまたはより長い任意の変異体を指す。
【0062】
用語「相同性」は、比較しているヌクレオチドまたはアミノ酸配列と他のヌクレオチドまたはアミノ酸配列間の同一性および/または類似性の度合いによって決定される、前記配列の関係を記載するために用いられる。
【0063】
本明細書において、アミノ酸またはヌクレオチド配列は、アミノ酸またはヌクレオチド配列が、比較のために選択した領域内で、特定される配列と少なくとも70%の同一性を有するならば、参照配列と「実質的に類似である」かまたは「実質的に同じである」。したがって、実質的に類似の配列には、例えば、少なくとも75%同一性、例えば少なくとも80%同一性、少なくとも85%同一性、少なくとも90%同一性(例えば、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%同一性)を有するものが含まれる。互いに同一である2つの配列はまた、実質的に類似である。
【0064】
参照配列に基づいて、配列同一性を決定する。配列分析のためのアルゴリズムは、当該技術分野に知られ、例えば、Yeら Nucleic Acids Res. 2013, W34-40に記載されるIgBLASTがある。本発明の目的のため、ヌクレオチド配列およびアミノ酸配列の間の同一性および類似性のレベルを決定するため、標準的パラメータを伴うギャップ化整列を用いて、National Center for Biotechnology Information(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/igblast/)によって提供されるIgBLASTソフトウェアパッケージの補助で、ヌクレオチドおよびアミノ酸配列を比較してもよい。パーセント同一性を計算するため、参照配列、例えば可変領域の全長を用いる。
【0065】
ポリペプチドを「コードする」ヌクレオチド配列に対する言及は、ポリペプチドが、mRNAの翻訳および転写中にヌクレオチド配列から産生されることを意味する。それによって、mRNAに同一であり、そして典型的には配列リストに用いられるコード鎖、および転写のためのテンプレートとして働く相補鎖の両方が示されてもよい。当業者に明らかであるように、該用語にはまた、同じアミノ酸配列をコードする任意の縮重ヌクレオチド配列もまた含まれる。ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列には、イントロンを含む配列が含まれる。
【0066】
抗体
上述のように、本発明は、ヒトT受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖領域に特異的に結合する能力を有する単離モノクローナル抗体およびその機能的断片に関する。
【0067】
本発明の抗体は
a)その重鎖可変ドメイン(VH)が、3つの超可変領域、HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、ここで
HCDR1(Kabatの番号付けスキームによる)はアミノ酸配列DYLVH(配列番号1)を有し;
HCDR2はアミノ酸配列WINTYTGTPTYADDFEG(配列番号2)を有し;
HCDR3はSWRRGLRGLGFDY(配列番号3)、SWRRGLRGIGFDY(配列番号4)、SWRRGIRGLGFDY(配列番号5)、SWRRGIRGIGFDY(配列番号6)からなる群より選択されるアミノ酸配列を有し;
b)その軽鎖可変ドメイン(VL)が、3つの超可変領域、LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、ここで:
LCDR1はアミノ酸配列KASKSINKYLA(配列番号7)を有し;
LCDR2はアミノ酸配列DGSTLQS(配列番号8)を有し;
LCDR3はアミノ酸配列QQHNEYPPT(配列番号9)を有する
点で特徴づけられる。
【0068】
本発明の抗体は、キメラ、ヒト化またはヒト抗体、あるいはその抗原結合断片であってもよく、そしてベフテレフ病、およびその病因形成にTRBV9ファミリーに属するTCRが関与する他の疾患、例えばセリアック病またはT細胞リンパ腫を治療するための医薬品として用いてもよい。
【0069】
例えば、当該技術分野に周知のハイブリドーマ技術、ならびに組換え技術、ファージディスプレイ技術、合成技術、あるいはこうした技術または当該技術分野に周知の他の技術の組み合わせを用いて、本発明のモノクローナル抗体を得てもよい。用語「モノクローナル抗体」は、本出願で用いた際、その産生法というよりも、例えば任意の真核、原核またはファージクローンを含む、単一のコピーまたはクローンから得られる抗体を指す。
【0070】
ペプチド合成によって、または以下の「核酸」セクションに記載するような組換えDNA技術を用いて、ヒト化およびキメラ抗体を得てもよい。
いくつかの態様において、本発明の抗体はキメラであり、そしてこれらが非ヒト起源の(例えばラットまたはマウスの)軽鎖および重鎖の可変ドメイン、ならびにヒト起源の定常ドメインを有する点で特徴づけられる。いくつかの態様において、本発明の抗体は、これらが、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19の群より選択される重鎖可変ドメインのアミノ酸配列、ならびに配列番号11に示す軽鎖可変ドメインのアミノ酸配列を有する点で特徴づけられる。それによって、好ましい態様において、抗体は、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgE、IgM、IgDの定常領域などの重鎖定常領域を含む。好ましくは、重鎖定常領域はヒトIgG1重鎖定常領域である。さらに、抗体は、軽鎖定常領域または軽鎖カッパ定常領域または軽鎖ラムダ定常領域のいずれかを含んでもよい。好ましくは、抗体は軽鎖カッパ定常領域を含む。
【0071】
本発明の抗TRBV9-1、抗TRBV9-2、抗TRBV9-3または抗TRBV9-4抗体の重鎖アミノ酸配列の例を、それぞれ、配列番号21、23、25および27に示す。抗体軽鎖の例示的なアミノ酸配列を配列番号29に示す。
【0072】
いくつかの態様において、抗体の可変ドメインのフレームワーク領域のアミノ酸配列、またはその部分は、一般的にヒト起源のものであり、そしてしたがって、「ヒト化抗体」である。この「ヒト化」は、患者における療法的使用のため、前記抗体の免疫原性を減少する際に有用であると見なされる。フレームワーク領域中の特定の選択されるアミノ酸残基は、ヒトではなく、ラットのままである。
【0073】
いくつかの態様において、本発明の抗体およびその抗原結合断片には、そのアミノ酸配列が配列番号11のものに実質的に類似である、例えば少なくとも90%同一、よりしばしば少なくとも93%同一、典型的には94%またはそれより高く同一である(好ましくは95%またはそれより高く同一、96%またはそれより高く同一;97%またはそれより高く同一、98%またはそれより高く同一、99%またはそれより高く同一、あるいは99.5%またはそれより高く同一である)軽鎖可変ドメインが含まれる。
【0074】
いくつかの態様において、本発明の抗体およびその抗原結合断片には、その可変ドメインのアミノ酸配列が配列番号15、配列番号17、配列番号19の群より選択されるものに実質的に類似である重鎖可変ドメインが含まれる。例えば、これらは、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19の群より選択されるものに、少なくとも90%同一、よりしばしば少なくとも93%同一、典型的には94%またはそれより高く同一である(好ましくは95%またはそれより高く同一、96%またはそれより高く同一;97%またはそれより高く同一、98%またはそれより高く同一、99%またはそれより高く同一、あるいは99.5%またはそれより高く同一である)アミノ酸配列を有する。
【0075】
いくつかの態様において、本発明の抗体には、配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27からなる群より選択されるものに、少なくとも90%同一(例えば、93%またはそれより高く同一、94%またはそれより高く同一、95%またはそれより高く同一、96%またはそれより高く同一;97%またはそれより高く同一、98%またはそれより高く同一、99%またはそれより高く同一、あるいは99.5%またはそれより高く同一である)アミノ酸配列を有する重鎖、ならびに配列番号29のものに、少なくとも90%同一(例えば、93%またはそれより高く同一、94%またはそれより高く同一、95%またはそれより高く同一、96%またはそれより高く同一;97%またはそれより高く同一、98%またはそれより高く同一、99%またはそれより高く同一、あるいは99.5%またはそれより高く同一である)アミノ酸配列を有する軽鎖が含まれる。
【0076】
先行技術から知られるように、可変ドメインを含む抗体配列に、抗体が抗原に結合する能力を実質的に改変しない突然変異を導入してもよい。本発明の抗体はまた、抗体がTCRのTRBV9ファミリーベータ鎖に結合する能力の喪失を導かないが、抗体依存性細胞仲介性細胞傷害性の減少、あるいは抗体のアフィニティまたは他の生物学的特性の増加を導きうる、さらなる突然変異もまた含んでもよい。特に、先行技術から周知であるように、抗体配列において、保存的アミノ酸置換を作製してもよい。「保存的置換」は、本出願において用いた際、アミノ酸残基が、類似の側鎖を有する別のアミノ酸残基によって置換される置換を意味する。類似の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは当該技術分野に周知であり、これには、塩基性側鎖(例えばリジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパラギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β-分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、および芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)が含まれる。好ましくは、VLおよび/またはVHドメイン中のCDR3領域には、5を超えない保存的アミノ酸置換、よりしばしば3を超えない保存的置換が含まれる。典型的には、保存的置換は、TRBV9ファミリーベータ鎖のエピトープに結合するために必須であるアミノ酸位では作製されない。
【0077】
本発明の抗体の上記変異体(突然変異体)を、ペプチド合成によって、または以下の「核酸」セクションに記載するような組換えDNA技術を用いて生成してもよい。
やはり提供するのは、本発明の抗体の抗原結合断片である。用語、抗体の「抗原結合断片」(または「抗体の機能的断片」または「抗体の活性断片」)は、本明細書において、抗原に特異的に結合する能力を保持する1つまたはそれより多い抗体断片を指す。全長抗体の断片によって、抗体の抗原結合機能を実行可能であることが示されてきている。用語、抗体の「抗原結合部分」内に含まれる結合断片の例には、(a)VL、VH、CLおよびCH1ドメインからなる一価断片である、Fab断片;(b)ヒンジ領域のジスルフィド架橋によって連結される2つのFab断片を含む二価断片である、F(ab)2断片;(c)VHおよびCH1ドメインからなるFd断片;(d)抗体の単一のアームのVLおよびVHドメインからなるFv断片;(e)VHドメインからなるdAb断片(Wardら(1989) Nature 341:544-546)、および(f)単離相補性決定領域(CDR)が含まれる。さらに、Fv断片の2つのドメインVLおよびVHは、別個の遺伝子によってコードされるが、VLおよびVH領域が対形成して一価分子を形成するように、これらが単一タンパク質鎖として作製されることを可能にする合成リンカーによって、組換え法を用いてこれらのドメインを連結してもよい(一本鎖Fv(scFv)として知られる;例えば、Birdら(1988) Science 242:423-426; Hustonら(1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:5879-5883を参照されたい)。こうした一本鎖抗体もまた、用語、抗体の「抗原結合断片」内に含まれると意図される。これらにはまた、一本鎖抗体の他の型、例えばディアボディも含まれる。ディアボディは、VHおよびVLドメインが、単一のポリペプチド鎖上で発現されるが、同じ鎖上の2つのドメイン間での対形成を可能にするには短すぎるリンカーを用い、それによって、ドメインが、別の鎖の相補ドメインと対形成することを強制し、そして2つの抗原結合部位を生成する、二価二重特異性抗体である(例えばHolliger Р.ら(1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:6444-6448; Poljak R.J.ら(1994) Structure 2:1121-1123を参照されたい)。
【0078】
慣用的な技術、例えば、それぞれ、パパインまたはペプシン消化を用いて、完全抗体から、抗体断片、例えばFabおよびF(ab’)2を得てもよい。さらに、標準的組換えDNA技術を用いて、抗体、抗体断片および免疫接着分子を得てもよい。
【0079】
抗体またはその抗原結合部分は、抗体または抗体断片と1つまたはそれより多いタンパク質またはペプチドの共有または非共有会合によって形成される、より大きな免疫接着分子の一部であってもよい。こうした免疫接着分子の例には、四量体scFv分子を作製するためのストレプトアビジンコア領域の使用(Kipriyanov S.M.ら(1995) Human Antibodies and Hybridomas 6:93-101)、ならびに二価でそしてサイズが減少したscFv生体分子を作製するためのシステイン残基、マーカーペプチドおよびC末端ポリヒスチジンタグの使用(Kipriyanov S.M.ら(1994) Mol. Immunol., 31:1047-1058)が含まれる。抗体断片間の他の化学的結合もまた、当該技術分野の最先端から周知である。
【0080】
本発明の抗体およびその機能的断片は、単離型で存在し、これはすなわち、こうしたタンパク質が、他のタンパク質または他の天然存在生物学的分子、例えばオリゴ糖、核酸、およびその断片等の存在を実質的に含まないことを意味し、この場合の用語「実質的に含まない」は、単離タンパク質を含む前記組成物の70%未満、典型的には60%未満、そしてよりしばしば50%未満が他の天然存在生物学的分子であることを意味する。いくつかの態様において、前記タンパク質は、実質的に精製された型で存在し、用語「実質的に精製された型」は、少なくとも95%に等しい、典型的には少なくとも97%に等しい、そしてよりしばしば少なくとも99%に等しい純度を意味する。
【0081】
組換えまたはハイブリドーマ技術によって得た抗体を精製するための方法は当該技術分野に周知であり、例えばクロマトグラフィ(例えばイオン交換クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィ、特に特異抗原プロテインAまたはプロテインGに関するアフィニティ、およびサイズ分離カラムクロマトグラフィ)、遠心分離、溶解性差異(differential solubility)、またはタンパク質を精製するための任意の他の標準技術によって、精製を実行してもよい。さらに、本発明の技術によって生成される抗体またはその断片を、精製を容易にするために異種ポリペプチド配列(例えばヒスチジンタグ)に融合させてもよい。
【0082】
解離定数(KD)を決定することによる標準分析を用いて、抗体アフィニティを決定してもよい。等式KD=kd/kоn、式中、kdは実験的に計算される抗体-抗原複合体の解離速度定数であり、そしてkоnは実験的に計算される会合速度定数である、を用いて、KDを計算する。
【0083】
好ましい抗体は、約1x10-7Mを超えない;好ましくは約1x10-8Mを超えない;よりしばしば約1x10-9Mを超えない;より好ましくは約1x10-10Mを超えない、そして最も好ましくは約1x10-11Mを超えない、例えば約1x10-12Mを超えないKD値でヒト抗原に結合するものである。
【0084】
好ましい抗体には、CDR3配列によって特徴づけられる抗TRBV9-1、抗TRBV9-2、抗TRBV9-3または抗TRBV9-4が含まれ、そしてこれらは以下の実験セクションに詳細に記載される。
【0085】
本発明の組成物および方法で用いてもよい抗体およびその断片は、生物学的に活性である抗体および断片であり、すなわち、これらは望ましい抗原エピトープに結合し、そして直接または間接的に生物学的効果を示すことが可能である。
【0086】
本発明の抗体およびその機能的断片は、TRBV9ファミリーベータ鎖のエピトープ(領域)に特異的に結合可能である。好ましい態様において、TRBV9ファミリーベータ鎖に対するその特異的結合は、前記ベータ鎖を含むTCRの活性阻害を生じる。典型的には、阻害は好ましくは、少なくとも約20、30、40、50、60,70、80、90、95%またはそれより多い。
【0087】
いくつかの態様において、本発明のTRBV9ファミリーベータ鎖に対する抗体またはその断片は、TRBV9ファミリーベータ鎖を含むTCRを所持するT細胞を除去しうる。いくつかの態様において、本発明の抗体またはその断片は、Tリンパ球の少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、少なくとも約95%、または約100%の除去を提供しうる。
【0088】
核酸
本発明は、ヒト抗体の既知の定常ドメインに機能可能であるように融合した、本発明の可変ドメインを含む、キメラ抗体を産生するために用いてもよい、本発明の抗体の重鎖および軽鎖をコードする核酸分子、その機能的断片および可変ドメインを提供する。
【0089】
好ましい態様において、本発明の核酸は、その可変ドメインが、3つの超可変領域、HCDR1、HCDR2およびHCDR3を含み、ここで
HCDR1(Kabatの番号付けスキームによる)は配列番号1のアミノ酸配列を有し;
HCDR2は配列番号2のアミノ酸配列を有し;
HCDR3は配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6からなる群より選択されるアミノ酸配列を有する
抗体重鎖をコードする。
【0090】
好ましい態様において、本発明の核酸は、その可変ドメインが、3つの超可変領域、LCDR1、LCDR2およびLCDR3を含み、ここで
LCDR1は配列番号7のアミノ酸配列を有し;
LCDR2は配列番号8のアミノ酸配列を有し;
LCDR3は配列番号9のアミノ酸配列を有する
抗体軽鎖をコードする。
【0091】
前記抗体鎖の相同体および突然変異体をコードする核酸分子、その機能的断片およびドメインもまた、本発明の範囲内にある。
いくつかの態様において、核酸は、その可変ドメインが、配列番号11のものに実質的に類似であるアミノ酸配列を含む、抗体軽鎖をコードし;例えば、これらは、少なくとも90%同一、よりしばしば少なくとも93%同一、典型的には94%またはそれより高く同一である(好ましくは95%またはそれより高く同一、96%またはそれより高く同一;97%またはそれより高く同一、98%またはそれより高く同一、99%またはそれより高く同一、あるいは99.5%またはそれより高く同一である)。
【0092】
いくつかの態様において、核酸は、その可変ドメインが、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19からなる群より選択されるものに実質的に類似であるアミノ酸配列を含む、抗体重鎖をコードし;例えば、これらは、こうした配列に、少なくとも90%同一、よりしばしば少なくとも93%同一、典型的には94%またはそれより高く同一である(好ましくは95%またはそれより高く同一、96%またはそれより高く同一;97%またはそれより高く同一、98%またはそれより高く同一、99%またはそれより高く同一、あるいは99.5%またはそれより高く同一である)。
【0093】
いくつかの態様において、核酸は、そのアミノ酸配列が配列番号11に示される可変ドメインを含む抗体軽鎖、およびそのアミノ酸配列が、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19からなる群より選択される可変ドメインを含む抗体重鎖をコードする。
【0094】
いくつかの態様において、核酸は、抗体の対応する定常ドメインをコードする核酸との機能可能である融合に用いてもよい、そのアミノ酸配列が、配列番号11、13、15、19に提示される可変ドメインをコードする。
【0095】
関心対象の核酸分子の例示的な特定の型は、以下の実験セクションにより詳細に開示される。
本明細書において、核酸分子は、DNA分子、例えばゲノムDNA分子またはcDNA分子、あるいはRNA分子、例えばmRNA分子である。いくつかの態様において、本発明の核酸分子は、本発明の抗体または抗体断片をコードするオープンリーディングフレームを含むDNA(またはcDNA)分子であり、そして適切な条件(例えば生理学的細胞内条件)下で、異種発現系における発現に用いられることが可能である。
【0096】
いくつかの態様において、本発明の核酸分子は、遺伝子操作法によって産生される。核酸を産生するための方法は、当該技術分野に周知である。例えば、アミノ酸配列情報またはヌクレオチド配列情報が入手可能であれば、オリゴヌクレオチド合成によって、本発明の単離核酸分子の調製が可能になる。アミノ酸配列情報の場合、縮重コードのため、互いに異なるいくつかの核酸を合成してもよい。所望の宿主のためのコドン変異体を選択する方法が、当該技術分野に周知である。
【0097】
ホスホラミダイト法によって合成オリゴヌクレオチドを調製してもよく、そして生じた構築物を、当該技術分野に周知の方法、例えば高性能液体クロマトグラフィ(HPLC)または例えばSambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第2版(1989) Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NYに記載されるような他の方法にしたがって、そして例えば、米国保健福祉省国立衛生研究所(NIH)の組換えDNA研究指針に記載される指針の下に、精製してもよい。本発明の長い二本鎖DNA分子を以下の方式で:隣接する断片と粘着可能な適切な末端を含む、適切な相補性のいくつかのより小さい断片を合成することによって合成してもよい。DNAリガーゼまたはPCRに基づく方法を用いて、隣接断片を連結してもよい。
【0098】
また、本発明の核酸分子を生物学的供給源からクローニングしてもよい。
本発明はまた、本発明のポリペプチドをコードする核酸と相同であるか、実質的に同じであるか、同一であるか、または該核酸から得られた核酸も含む。
【0099】
本発明の核酸は、天然に存在する環境以外の環境に存在し、例えばこれらは単離され、増加した量で存在し、in vitro系、あるいは天然状態で存在するもの以外の細胞または生物に存在するかまたはこれらにおいて発現される。
【0100】
緊密に関連する核酸配列間のヌクレオチド配列における変化または相違は、通常の複製(replicationまたはduplication)の過程で生じる、配列中のヌクレオチド変化に相当してもよい。特定の目的のために、例えば制御領域中の特定のアミノ酸またはヌクレオチド配列のコドンを変化させるために、他の変化を特異的に設計し、そして配列内に導入してもよい。多様な突然変異誘発技術を用いて、こうした特異的変化をin vitroで行ってもよいし、あるいは変化を誘導するかまたは変化に関して選択する特定の選択条件下に置かれた宿主生物において得てもよい。こうした特異的に生成される配列変異体を、元来の配列の「突然変異体」または「誘導体」と称してもよい。
【0101】
上記核酸から選択されるテンプレート核酸上で、テンプレート配列中の1つまたはそれより多いヌクレオチドの修飾、欠失または付加、あるいはその組み合わせによって、突然変異体または誘導体核酸を得て、テンプレート核酸の変異体を産生してもよい。修飾、付加または欠失を、当該技術分野に知られる任意の方法(例えば、Gustinら, Biotechniques (1993) 14: 22; Barany, Gene (1985) 37: 111-123;およびColicelliら, Mol. Gen. Genet. (1985) 199:537-539, Sambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, (1989), CSH Press, pp. 15.3-15.108を参照されたい)によって実行してもよく、これらには、エラープローンPCR、シャッフリング、オリゴヌクレオチド定方向突然変異誘発、アセンブリーPCR、セクシャルPCR突然変異誘発、in vivo突然変異誘発、カセット突然変異誘発、再帰性集合(recursive ensemble)突然変異誘発、指数関数的集合突然変異誘発、部位特異的突然変異誘発、ランダム突然変異誘発、遺伝子再集合、遺伝子部位飽和突然変異誘発(GSSM)、合成連結再集合(SLR)、またはその組み合わせが含まれる。また、組換え、再帰性配列組換え、ホスホチオエート修飾DNA突然変異誘発、ウラシル含有テンプレート突然変異誘発、ギャップ化二重鎖突然変異誘発、ポイントミスマッチ修復突然変異誘発、修復不全宿主株突然変異誘発、化学的突然変異誘発、放射線原性突然変異誘発、欠失突然変異誘発、制限選択突然変異誘発、制限精製突然変異誘発、人工遺伝子合成、集合突然変異誘発、キメラ核酸多量体生成、およびその組み合わせを含む方法によって、修飾、付加または欠失を行ってもよい。
【0102】
やはり提供するのは、本発明のタンパク質をコードする核酸の縮重変異体である。核酸の縮重変異体には、同じアミノ酸をコードする他のコドンでの、核酸のコドンの置換が含まれる。特に、核酸の縮重変異体を生成して、宿主細胞における発現を増加させる。この態様において、宿主細胞中の遺伝子において、好ましくないかまたはより好ましくない核酸のコドンを、宿主細胞中の遺伝子において、コード配列中で過剰に存在するコドンで置換し、ここで、前記の置換されたコドンは同じアミノ酸をコードする。遺伝子コード最適化は先行技術から周知である。
【0103】
上述の修飾は、抗体またはその機能的断片の特性を実質的に改変しないが、宿主細胞におけるタンパク質フォールディングを促進するか、凝集能を減少させるか、またはタンパク質の他の生化学的特性、例えば半減期を調節してもよい。いくつかの態様において、これらの修飾は、タンパク質の生化学的特性を修飾しない。上記に特定されるすべてのタイプの修飾および突然変異は、核酸レベルで実行される。
【0104】
請求する核酸を、実質的に精製された型で単離し、そして調製してもよい。実質的に精製された型は、核酸が、少なくとも50%純粋、典型的には少なくとも約90%純粋であり、そして典型的には「組換え体」である、すなわち典型的にはその天然宿主生物中に天然に存在する染色体上で関連していない、1つまたはそれより多いヌクレオチドが隣接することを意味する。
【0105】
やはり提供するのは、以下により詳細に論じる、本発明のタンパク質またはその断片を含む融合タンパク質をコードする核酸である。本発明の可変ドメインをコードする核酸を、抗体の軽鎖および重鎖の対応する定常ドメインをコードする核酸に機能可能であるように連結してもよい。抗体の軽鎖および重鎖をコードする核酸を、宿主細胞からの発現産物の輸送を促進するリーダーペプチドをコードする核酸に機能可能であるように連結してもよい。リーダーペプチドは、続いて、ポリペプチドの成熟中に除去される。
【0106】
やはり提供するのは、請求する核酸を含むベクターおよび他の核酸構築物である。用語「ベクター」は、機能可能であるように連結されている別の核酸を輸送することが可能である核酸分子を指す。特定のベクターは、導入された宿主細胞において、自律的に複製可能である一方、他のベクターは、宿主細胞ゲノム内に組み込まれ、そして宿主ゲノムとともに複製されることが可能である。さらに、いくつかのベクターは、機能可能であるように連結されている遺伝子の発現を指示することが可能である。こうしたベクターは、本出願において、「組換え発現ベクター」(または単に「発現ベクター」)と称され;例示的なベクターが先行技術から周知である。適切なベクターには、ウイルスおよび非ウイルスベクター、プラスミド、コスミド、ファージ等が含まれ、好ましくはプラスミドであり、そして本発明の核酸配列のクローニング、増幅、発現、適切な宿主へのトランスファーなどに用いられる。適切なベクターの選択は、当業者には明らかである。全長核酸またはその部分をベクター内に挿入し、典型的にはDNAリガーゼによって、ベクター中の切断された制限酵素部位に付着させる。あるいは、in vivoで相同組換えによって、典型的には所望のヌクレオチド配列に隣接して、ベクターに相同な領域を付着させることによって、所望のヌクレオチド配列を挿入してもよい。オリゴヌクレオチドの連結によって、または例えば相同性領域および所望のヌクレオチド配列の部分の両方を含むプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応によって、相同性領域を付加する。典型的には、ベクターは、染色体外要素として、細胞内に導入された結果、宿主細胞において、その増殖を確実にする複製起点を有する。ベクターは原則として、宿主細胞における核酸の発現およびターゲットポリペプチドの生成を確実にする制御要素もまた含んでもよい。発現ベクターにおいて、前記核酸は、プロモーター、エンハンサー、ターミネーター、オペレーター、リプレッサーおよびインデューサー、ならびにポリペプチドの開始コドンを含んでもよい制御配列に、機能可能であるように連結される。いくつかの態様において、本発明の核酸はさらに、宿主細胞から細胞外空間内への発現産物の単離を確実にするリーダーペプチドに、機能可能であるように連結される。
【0107】
やはり提供するのは、とりわけ、発現カセットまたは系に基づく対象ポリペプチド(例えば、本発明の抗体の軽鎖および重鎖)の産生のために、または対象核酸の複製のために用いられる発現カセットまたは系である。発現カセットは染色体外要素として存在してもよいし、または前記発現カセットの細胞内への導入の結果として細胞ゲノム内に組み込まれてもよい。発現のため、本発明の核酸によってコードされるタンパク質産物は、例えば細菌系、酵母、昆虫、両生類、または哺乳動物細胞を含む、任意の好適な発現系において発現される。発現カセットにおいて、ターゲット核酸は、プロモーター、エンハンサー、終結配列、オペレーター、リプレッサーおよびインデューサー、ならびにポリペプチドの開始コドンを含んでもよい制御配列に機能可能であるように連結される。いくつかの態様において、本発明の核酸はさらに、宿主細胞から細胞外空間内への発現産物の単離を確実にするリーダーペプチドに機能可能であるように連結される。所望の産物を発現可能である発現カセットまたは系を調製するための方法は、当該技術分野に知られる。
【0108】
上記発現系を原核または真核宿主において用いてもよい。宿主細胞、例えば大腸菌(E. coli)、枯草菌(B. subtilis)、S.セレビシエ(S. cerevisiae)、バキュロウイルスベクターと組み合わされた昆虫細胞、またはヒト胚性細胞ではないより高次の生物の細胞、例えば酵母、植物、脊椎動物の細胞、例えばCHO細胞(例えばATCC CRL-9096)、NS0細胞、SP2/0細胞、HEK293細胞、COS細胞(例えばATCC CRL-1650、CRL-1651)およびHeLa(ATCC CCL-2)を、タンパク質の産生に用いてもよい。
【0109】
本発明の抗体を産生するため、宿主細胞を、抗体軽鎖をコードする核酸を含む発現ベクター、および抗体重鎖をコードする核酸を含む発現ベクターで、同時形質転換する。いくつかの態様において、抗体の軽鎖および重鎖の両方をコードする核酸が導入されている単一の発現ベクターを用いる。
【0110】
軽鎖および重鎖の発現のため、軽鎖および重鎖が宿主細胞において発現され、そして好ましくは宿主細胞が培養されている培地内に分泌され、そしてその培地から、抗体が単離可能であるように、重鎖および軽鎖をコードする発現ベクター(単数または複数)を、宿主細胞内に形質転換(同時形質転換)する。用語「形質転換」の多様な解釈は、外因性DNAを原核または真核宿主細胞に導入するために一般的に用いられる広範囲の方法を含むように意図され、例えば、Sambrook, FritschおよびManiatis(監修) Molecular Cloning; A Laboratory Manual, 第2版, Cold Spring Harbor, N.Y.(1989; Ausubel F.M.ら(監修) Current Protocols in Molecular Biology, Green Publishing Associates (1989)に記載されるような、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム沈殿、DEAE-デキストラントランスフェクション等が含まれる。
【0111】
抗体の核酸を含む組換え発現ベクターを宿主細胞内に導入すると、宿主細胞中で抗体を発現するか、または(より好ましくは)宿主細胞を増殖させている培地内に抗体を分泌するために十分な期間、宿主細胞を培養することによって、抗体が産生される。標準的タンパク質精製技術を用いて、培地から抗体を単離してもよい。細胞培養条件は当業者に周知であり、そしてCurrent Protocols in Cell Biology, Bonifacino J.S., Dasso M., Harford J.В., Lippincott-Schwartz J.およびYamada K.M.(監修) John Wiley & Sons, Inc.刊行, 2000に記載される。
【0112】
本発明の核酸の複製および/または発現に適した、上記宿主細胞あるいは他の宿主細胞または生物のいずれかを用いる場合、生じる複製核酸、発現タンパク質またはポリペプチドは、宿主細胞または生物の産物として、本発明の範囲内にある。当該技術分野に知られる適切な技術によって、産物を単離してもよい。
【0113】
本発明のタンパク質を安定発現する細胞株を、当該技術分野に知られる方法(例えば、ゲノム内に組み込まれた遺伝子を含有するトランスフェクション細胞の同定および単離を可能にする、選択可能マーカー、例えばdhfr、gpt、ネオマイシン、ハイグロマイシンの同時トランスフェクション)によって選択してもよい。
【0114】
また、本発明の核酸分子を用いて、生物学的試料における遺伝子発現を決定してもよい。特定のヌクレオチド配列、例えばゲノムDNAまたはRNAの存在に関して細胞を調べる方法は、当該技術分野においてよく確立されている。簡潔には、DNAまたはmRNAを細胞試料から単離する。相補DNA鎖を形成する逆転写酵素を用い、その後、対象DNA配列に特異的なプライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応を行うRT-PCRによって、mRNAを増幅してもよい。あるいは、ゲル電気泳動によって、mRNA試料を分離し、適切なキャリアー、例えばニトロセルロース、ナイロン等にトランスファーし、そして次いで、プローブとしての対象DNAの断片で探査する。他の技術、例えばオリゴヌクレオチド連結アッセイ、in situハイブリダイゼーション、および固相チップ上に固定されたDNAプローブに対するハイブリダイゼーションもまた使用を見出しうる。対象配列にハイブリダイズしているmRNAの検出は、試料における遺伝子発現の指標となる。
【0115】
本発明の抗体の療法的使用
1つの側面において、本発明の抗体またはその活性断片を、表面TRBV9ファミリーTCRを所持する、例えばAS、セリアック病、T細胞リンパ腫において、自己免疫Tリンパ球の活性を示す、病原性Tリンパ球の活性と関連する、障害の治療に用いる。
【0116】
用語「患者」は、本出願で用いた際、限定されるわけではないが、マウス、サル、ヒト、家畜哺乳動物、スポーツ哺乳動物およびペット哺乳動物を含む哺乳動物を指し;好ましくは、該用語はヒトに適用される。特定の態様において、患者は、そのベータ鎖がTRBV9ファミリーに属するTCRの体内の存在によって仲介される疾患または障害、あるいは状態によってさらに特徴づけられる。先行技術から知られるように、そのベータ鎖がTRBV9ファミリーに属するTCRは、ASおよびセリアック病と関連する。さらに、そのベータ鎖がTRBV9ファミリーに属するTCRは、いくつかの血液疾患、例えばエプスタイン-バーウイルスによって引き起こされるT細胞リンパ腫の発展にも関連しうる。
【0117】
本明細書において、1つまたはそれより多い他の療法剤と抗体に言及する用語「同時投与」、「同時投与された」および「組み合わせられた」は、以下を意味するよう意図され、以下を指し、そして以下を含む:
1)本発明の抗体および療法剤のこうした組み合わせの、治療が必要な患者への同時投与であって、こうした構成要素が、前記構成要素を実質的に同時に前記患者に放出する、単一の投薬型内でともに配合されている、前記投与、
2)本発明の抗体および療法剤のこうした組み合わせの、治療を必要とする患者への同時投与であって、こうした構成要素を互いに分けて別個の投薬型に配合し、該投薬型が前記患者によって実質的に同時に摂取された際、前記構成要素が、前記患者に実質的に同時に放出される、前記同時投与;
3)本発明の抗体および療法剤のこうした組み合わせの、治療を必要とする患者への連続投与であって、こうした構成要素が、互いに別々に、別個の投薬型に配合され、この投薬型が、前記患者によって、各投与の間の十分な時間間隔で連続して摂取された際、前記構成要素が、前記患者に実質的に異なる時点で放出される、前記連続投与;および
4)本発明の抗体および療法剤のこうした組み合わせの、治療を必要とする患者への連続投与であって、こうした構成要素が、単一の投薬型に一緒に配合され、ここから、前記構成要素が、制御された方式で放出された際、これらが、前記患者に、同じ時点および/または異なる時点で、同時に、連続しておよび/または重複して放出され、各部分が、同じ経路によってまたは異なる経路によってのいずれかで投与されうる、前記連続投与。
【0118】
本発明の抗体(例えば抗TRBV9-1、抗TRBV9-2、抗TRBV9-3または抗TRBV9-4)を、さらなる療法的治療を伴わずに、すなわち独立療法として投与してもよい。さらに、本発明の抗体による治療は、少なくとも1つのさらなる療法的治療(併用療法)を含んでもよい。本発明のいくつかの態様において、抗体を、その病因形成にTRBV9ベータ鎖を含むTCRが関与する自己免疫または腫瘍性疾患、例えばAC、セリアック病、T細胞リンパ腫、T細胞白血病のために、別の薬物/薬物療法と同時投与してもよいし、またはこれらとともに配合してもよい。
【0119】
投与用量および経路
本発明の抗体を、問題の状態を治療するために有効な量で、すなわち、所望の結果を達成するために必要な用量および期間、投与する。療法的有効量は、治療しようとする特定の状態、患者の年齢、性別および体重、ならびに抗体が単独で投与されるか、あるいは1つまたはそれより多くのさらなる免疫抑制または抗炎症治療技術と組み合わせて実行されるかなどの要因に応じて多様でありうる。
【0120】
投薬措置を調節して、最適な反応を提供してもよい。例えば、単一のボーラスを投与してもよいし、ある期間に渡って、いくつかの別個の用量を投与してもよいし、あるいは療法的状況の緊急の要件によって示されるように、用量を比例的に減少させるかまたは増加させてもよい。投与および投薬の均一性を単純にするため、単位投薬型で非経口組成物を配合することが特に好適である。本明細書において、単位投薬型は、治療しようとする患者/被験体のための単位投薬型として適切な、物理的に別個の単位を指すよう意図され:各単位は、望ましい薬学的キャリアーと組み合わせて、望ましい療法効果を得るように計算された、あらかじめ決定された量の活性化合物を含有する。典型的には、本発明の単位投薬型の明細は、(a)化学療法剤のユニークな特性、および達成しようとする特定の療法的または予防的効果、ならびに(b)被験体における感受性を治療するためのこうした活性化合物の配合技術に本質的な限界によって決定され、そしてこれらに直接依存する。
【0121】
したがって、当業者は、本明細書の開示から、投薬量および投薬措置が、療法分野において周知の方法にしたがって調節されることを認識するであろう。これは、最大許容用量は、容易に確立可能であり、そして患者に対して検出可能な療法的効果を提供する有効量もまた決定可能であり、患者に対する検出可能な療法的効果を達成するための各剤の投与に関する時間的な必要性も同様であることを意味する。したがって、いくつかの用量および投薬措置を、例として本文書に提供するが、これらの例は、いかなる意味でも、本発明を実施する際に、患者に関して必要とされうる投薬量および投薬措置を限定しない。
【0122】
投薬の価値は、軽減しようとする状態のタイプおよび重症度に応じて多様である可能性もあり、そしてこれには、1つまたは多数の用量が含まれてもよいことが注目される。さらに、任意の特定の患者に関して、個々の必要性にしたがった時間に渡って、そして組成物の投与を実行するかまたは管理する医師の裁量で、特定の投薬措置を調節すべきであり、そして本明細書に示す濃度範囲は例としてのみであり、そして具現化された組成物の範囲または実施を制限するようには意図されないことが理解されるものとする。さらに、本発明の組成物での投薬措置は、疾患のタイプ、年齢、体重、性別、患者の健康状態、状態の重症度、投与経路、および使用する特定の抗体を含む、多様な要因に基づいてもよい。したがって、投薬措置は、非常に多様であってもよいが、標準法を用いて、ルーチンに決定してもよい。例えば、臨床効果、例えば毒性効果および/または実験室の値を含んでもよい、薬物動態学的または薬力学的パラメータに基づいて、用量を決定してもよい。したがって、本発明は、当業者によって決定されるような、患者内用量増大を含む。必要な用量および様式の決定は、関連する技術分野に周知であり、そして本文書に開示する着想を知った後、当業者には明らかであろう。
【0123】
適切な投与法の例を上に提供する。
本発明の抗体の適切な用量は、0.1~200mg/kg、好ましくは0.1~100mg/kgの範囲であり、約0.5~50mg/kg、例えば約1~20mg/kgを含むことが意図される。例えば少なくとも0.25mg/kg、例えば少なくとも0.5mg/kgで、少なくとも1mg/kgを含めて、例えば少なくとも1.5mg/kgで、例えば少なくとも2mg/kgで、例えば少なくとも3mg/kgで、少なくとも4mg/kgを含めて、例えば少なくとも5mg/kgで;そして例えば最大で50mg/kgまでで、最大で30mg/kgまでを含めて、例えば最大で20mg/kgまでで、最大で15mg/kgまでを含めて、抗体を投与してもよい。投与は典型的には、適切な時間間隔で、例えば週1回、2週に1回、3週ごとに1回または4週ごとに1回、そして担当医が適切であると判断する限り長く反復され、いくつかの場合、担当医は、必要であれば、用量を増加するかまたは減少してもよい。
【0124】
薬学的組成物
本発明の抗体を、患者への投与に適した薬学的組成物内に取り込んでもよい。本発明の抗体を単独で、あるいは薬学的に許容されうるキャリアー、希釈剤、および/または賦形剤と組み合わせて、単一または多数用量で投与してもよい。投与のための薬学的組成物は、投与の選択した様式に適切であるように設計され、そして薬学的に許容されうる希釈剤、キャリアー、および/または賦形剤、例えば分散剤、緩衝剤、界面活性剤、保存剤、可溶化剤、等張剤、安定化剤等を適切であるように用いてもよい。前記組成物は、例えば、実施者に一般的に知られるように、組成物を得るための多様な技術を提供する、Remington, The Science and Practice of Pharmacy, 第19版, Gennaro監修, Mack Publishing Co., Easton, PA 1995におけるような慣用的方法にしたがって、設計される。
【0125】
「医薬品(薬剤)」は、ヒトおよび動物において、生理学的機能の回復、改善または修飾のために、そして疾患の治療および防止のために、診断、麻酔、避妊、美容術等のために意図される、錠剤、カプセル、粉末、凍結乾燥物、注射剤、注入剤、軟膏および他の既製品型の薬学的組成物としての化合物または化合物の混合物である。当該技術分野において許容される、ペプチド、タンパク質または抗体を投与するための任意の方法を、本発明の抗体に関して、適切に使用してもよい。
【0126】
用語「薬学的に許容されうる」は、哺乳動物、好ましくはヒトにおける投与に適した1つまたはそれより多い適合する液体または固体構成要素を指す。
用語「賦形剤」は、本明細書において、本発明の上記成分以外の任意の成分を記載する。これらは、薬剤産物に、必要な物理化学特性を与えるため、薬剤製造において用いられる無機または有機性の物質である。
【0127】
用語「緩衝液」、「緩衝剤組成物」、「緩衝剤」は、その酸-塩基コンジュゲート構成要素の作用によって、pHの変化に抵抗することが可能であり、そして抗体薬剤が、pHの変化に抵抗することを可能にする、溶液を指す。一般的に、薬学的組成物は、好ましくは、4.0~8.0の範囲のpHを有する。用いる緩衝剤の例には、限定されるわけではないが、酢酸、リン酸、クエン酸、ヒスチジン、コハク酸等の緩衝溶液が含まれる。
【0128】
用語「等張剤」、「浸透圧調節物質」または「浸透圧調節剤」は、本明細書において、液体抗体配合物の浸透圧を増加させうる賦形剤を指す。「等張」薬剤は、ヒト血液のものと等しい浸透圧を有する薬剤である。等張薬剤は、典型的には、約250~350mOsm/kgの浸透圧を有する。用いられる等張剤には、限定されるわけではないが、ポリオール、糖類およびスクロース、アミノ酸、金属塩、例えば塩化ナトリウム等が含まれる。
【0129】
「安定化剤」は、活性剤の物理的および/または化学的安定性を提供する、賦形剤、あるいは2つまたはそれより多い賦形剤の混合物を指す。安定化剤には、アミノ酸、例えば限定されるわけではないが、アルギニン、ヒスチジン、グリシン、リジン、グルタミン、プロリン;界面活性剤、例えば限定されるわけではないが、ポリソルベート20(商品名:Tween 20)、ポリソルベート80(商品名:Tween 80)、ポリエチレン-ポリプロピレングリコールおよびそのコポリマー(商品名:ポロキサマー)、プルロニック(登録商標)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS);酸化防止剤、例えば限定されるわけではないが、メチオニン、アセチルシステイン、アスコルビン酸、モノチオグリセロール、硫酸塩等;キレート剤、例えば限定されるわけではないが、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、クエン酸ナトリウム等が含まれる。
【0130】
特定される保存可能期間中に、保存温度、例えば2~8℃で、活性剤が、その物理的安定性および/または化学的安定性および/または生物学的活性を保持するならば、薬学的組成物は「安定」である。好ましくは、活性剤は、物理的および化学的安定性、ならびに生物学的活性の両方を保持する。加速されたまたは天然の経年変化(aging)状態において、安定性試験の結果に基づいて、保存期間を調節する。
【0131】
本発明のモノクローナル抗体を含む薬学的組成物を、本出願に記載するような病理を示す患者に、経口、静脈内、腹腔内、皮下、肺、経皮、筋内、鼻内、頬側、舌下、または座薬投与を含む、標準的投与法を用いて投与してもよい。
【0132】
本発明の薬学的組成物は、好ましくは、本発明の抗体の「療法的有効量」を含むかまたは「療法的有効量」である。用語「療法的有効量」は、所望の療法的結果を達成するために必要な投薬量および期間で有効である量を指すよう意図される。抗体の療法的有効量は、被験体の疾患状態、年齢、性別および体重、ならびに抗体またはその部分が被験体において望ましい反応を誘発する能力などの要因にしたがって多様であってもよい。療法的有効量はまた、抗体の療法的に有益な効果がいかなる毒性のまたは有害な効果にも勝るものである。「予防的に有効な量」は、望ましい予防的結果を達成するために必要な投薬量および期間で有効な量を指す。典型的には、予防的用量は、疾患前または疾患の早期に個体に処方されるため、予防的に有効な量は、療法的に有効な量より少ない可能性もある。
【0133】
療法的に有効なまたは予防的に有効な量は、患者に療法的利点を提供するために必要である活性剤の毒性用量より低い、少なくとも最小限に療法的に有益な用量である。一方、本発明の抗体の療法的に有効な量は、自己免疫クローンの存在が、望ましくない病的な影響を引き起こすかまたはそれに貢献する場合、あるいはそのベータ鎖がTRBV9ファミリーに属するTCRの減少が、哺乳動物、好ましくはヒトにおいて、有益な療法的効果を引き起こす場合、哺乳動物、好ましくはヒトにおいて、自己免疫クローンの生物学的活性を、例えば、そのベータ鎖がTRBV9ファミリーに属するTCRへの結合を通じて減少させる量である。
【0134】
本発明の抗体の投与経路は、経口、非経口、吸入または局所であってもよい。好ましくは、本発明の抗体は、非経口投与に許容されうる薬学的組成物中に含まれてもよい。用語「非経口」には、本明細書において、静脈内、筋内、皮下、直腸、膣または腹腔内投与が含まれる。静脈内、腹腔内または皮下注射が好ましい投与経路である。こうした注射に許容されうる薬学的キャリアーは、先行技術から周知である。
【0135】
適切な指針に記載されるように、薬学的組成物は、産生、および例えば気密性のバイアル(アンプル)またはシリンジによって提供される、コンテナ中の保存条件下で、無菌であり、そして安定であるべきである。したがって、組成物を調製した後、薬学的組成物を濾過滅菌に供してもよいし、または任意の他の技術によって微生物学的に適切に作製してもよい。静脈内注入のための典型的な組成物には、例えば無菌リンゲル溶液、生理食塩水、デキストロース溶液またはハンクス塩溶液などの液体250~1000ml、および療法的有効用量(例えば1~100mg/mlまたはそれより多い)の抗体濃度が含まれてもよい。用量は、疾患タイプおよび重症度に応じて多様であってもよい。任意の患者の用量は、患者の大きさ、体表面積、年齢、投与しようとする特定の化合物、性別、投与期間および経路、全身健康状態、ならびに他の同時に投与される薬剤を含む多くの要因に応じることが、医学の最先端から周知である。典型的な用量は、例えば0.001~1000μgの範囲であってもよい;が、特に、上述のパラメータを考慮すると、この例示的範囲より低い、そして高い用量が予期される。毎日の非経口投薬措置は、1日あたり、0.1μg/kg~100μg/kg総体重、好ましくは0.3μg/kg~10μg/kg、そしてより好ましくは1μg/kg~1μg/kg、さらにより好ましくは0.5μg/kg~10μg/kgである。患者の健康状態の定期的な評価によって、治療プロセスを監視してもよい。数日またはより長い反復投与のため、患者の状態に応じて、疾患症状の望ましい反応または抑制が生じるまで、治療を反復する。しかし、本明細書に記載されない別の投薬措置もまた適用してもよい。実施者が達成しようと望む試料の薬物動態学的崩壊に応じて、単一ポール(pole)投与、多数ボーラス投与によって、あるいは抗体の連続注入によって、所望の投薬量を投与してもよい。
【0136】
抗体の前記の仮定される特性は、大部分、医師の決定に応じる。適切な用量および措置を選択する際に重要な要因は、望ましい結果である。本明細書で考慮される要因には、治療しようとする特定の疾患、治療を受ける特定の哺乳動物、特定の患者の臨床状態、障害の原因、抗体投与部位、特定の抗体タイプ、投与経路、投与措置および医学業に周知の他の要因が含まれる。
【0137】
本発明の療法剤は、凍結または凍結乾燥され、そして投与前に適切な無菌キャリアー中で再構成されてもよい。凍結乾燥および再構成は、抗体活性のある程度の喪失を生じうる。用量を調節して、この喪失を補償してもよい。一般的に6~8の間のpHが薬学的組成物には好ましい。
【0138】
製造物品(製品)およびキット
本発明のさらなる態様は、その病因形成にTRBV9ファミリーベータ鎖を所持するTCRを伴う自己免疫疾患および関連状態ならびに悪性血液疾患を治療するために用いる製品を含む、製造物品である。こうした疾患には、例えば、AS、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫およびその他が含まれる。
【0139】
製品は、ブリスターおよび/またはパッケージ中にあってもよい、ラベルおよびパッケージ挿入物を含むコンテナである。適切なコンテナには、例えば、バイアル、アンプル、シリンジ等が含まれる。コンテナは、多様な材料、例えばガラスまたはポリマー素材から作製されてもよい。コンテナは、特定の状態の治療に有効な組成物を含み、そして無菌アクセスポートを有してもよい。組成物中の少なくとも1つの活性成分は、本発明の抗体である。ラベルおよびパッケージ挿入物は、薬剤が特定の状態を治療するために用いられるよう意図されることを示す。ラベルおよび/またはパッケージ挿入物は、さらに、患者において抗体組成物を投与するための指示を含有し、これには、こうした療法製品に関する、適応症、投与頻度、用量、経路、禁忌および/または注意が含まれる。1つの態様において、パッケージ挿入物は、組成物が治療のために用いられるよう意図されることを示す。
【0140】
さらに製造物品は、限定なしに、商業的目的のために必要な、または消費者に必要な他の製品、例えば溶媒、希釈剤、フィルター、注射針、およびシリンジも含んでもよい。
本発明はまた、多様な目的のため、例えばTRBV9ファミリーTCRを所持するT細胞を殺す能力の評価のため、細胞からのTRBV9受容体の精製または免疫沈降のために用いてもよいキットにも関する。単離および精製のため、キットは顆粒(例えばセファロース顆粒)にカップリングした抗体を含んでもよい。キットは、コンテナ、ラベルおよびパッケージ挿入物を含む。
【0141】
診断使用
また、本発明の抗体を診断目的で用いてもよい(例えばin vitro、ex vivo)。例えば、患者から得た試料(例えば組織試料または体液試料、例えば炎症性滲出物、血液、腸液、唾液または尿)中のTRBV9ファミリーTCRを含むTリンパ球を検出するかまたはそのレベルを測定するために、抗体を用いてもよい。適切な検出および測定法には、イムノアッセイ、例えばフローサイトメトリー、酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)、化学発光アッセイ、ラジオイムノアッセイ、および免疫組織学が含まれる。本発明にはさらに、本明細書に記載する抗体を含むキット、例えば診断キットが含まれる。
【0142】
本発明をよりよく理解可能とするため、以下の実施例を示す。以下の実施例は例示目的のみのためであり、そしていかなる意味でも、本発明の範囲を限定するとは見なされないものとする。
【0143】
本明細書に引用するすべての刊行物、特許および特許出願は、本明細書に援用される。前述の発明は、多義性の解釈を排除するため、例示および例によってある程度詳細に記載されてきているが、当業者には、本発明に開示する着想に基づいて、付随する態様の本質または範囲から逸脱することなく、特定の改変および修飾を行ってもよいことが非常に明らかであろう。
非限定的に、本発明は以下の態様を含む。
[態様1]
ヒトT細胞受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖領域に特異的に結合するモノクローナル抗体またはその抗原結合断片であって:
1)HCDR1~3のアミノ酸配列を含む重鎖可変ドメインであって、ここで
HCDR1は配列番号1のアミノ酸配列を含み、
HCDR2は配列番号2のアミノ酸配列を含み、
HCDR3は配列番号3、配列番号4、配列番号5、配列番号6の群より選択されるアミノ酸配列を含む
前記重鎖可変ドメイン;
2)LCDR1~3のアミノ酸配列を含む軽鎖可変ドメインであって、ここで
LCDR1は配列番号7のアミノ酸配列を含み、
LCDR2は配列番号8のアミノ酸配列を含み、
LCDR3は配列番号9のアミノ酸配列を含む
前記軽鎖可変ドメイン
を含む、前記抗体またはその抗原結合断片。
[態様2]
重鎖可変ドメインが、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19の群より選択されるアミノ酸配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、態様1記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
[態様3]
重鎖可変ドメインが、配列番号13、配列番号15、配列番号17、配列番号19の群より選択されるアミノ酸配列を含む、態様2記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
[態様4]
軽鎖可変ドメインが、配列番号11に示すアミノ酸配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を含む、態様1記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
[態様5]
軽鎖可変ドメインが、配列番号11のアミノ酸配列を含む、態様4記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
[態様6]
1)配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27の群より選択される配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する重鎖;
2)配列番号29の配列に少なくとも90%同一であるアミノ酸配列を有する軽鎖
を含む、態様1記載のモノクローナル抗体またはその抗原結合断片。
[態様7]
1)配列番号21、配列番号23、配列番号25、配列番号27の群より選択されるアミノ酸配列を含む重鎖;
2)配列番号29のアミノ酸配列を含む軽鎖
を含む、態様6のモノクローナル抗体。
[態様8]
抗体が全長IgG抗体である、態様1~7のいずれかに記載のモノクローナル抗体。
[態様9]
抗体が、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4の群より選択されるヒトアイソタイプに関する、態様8記載のモノクローナル抗体。
[態様10]
ヒトT細胞受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖領域に特異的に結合する、態様1~9のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片をコードする核酸。
[態様11]
態様10記載の核酸を含む、発現ベクター。
[態様12]
態様1~9のいずれかの抗体またはその抗原結合断片を産生する宿主細胞を得る方法であって、態様10記載の核酸を含む、態様1記載のベクターで細胞を形質転換する工程を含む、前記方法。
[態様13]
態様10記載の核酸を含む、態様1~9のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片を得るための宿主細胞。
[態様14]
態様1~9のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片を得る方法であって、態様13記載の宿主細胞を、明記される抗体の産生を確実にする条件下で、培地中で培養し、その後、得た抗体を単離し、そして精製する工程を含む、前記方法。
[態様15]
ヒトT細胞受容体のTRBV9ファミリーベータ鎖領域によって仲介される疾患または障害の防止または治療のための薬学的組成物であって、態様1~9のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片の有効量を、1つまたはいくつかの薬学的に許容されうる賦形剤と組み合わせて含む、前記薬学的組成物。
[態様16]
明記される疾患または障害が、強直性脊椎炎、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫の群より選択される、態様15記載の薬学的組成物。
[態様17]
TRBV9ファミリーベータ鎖を所持するヒトT細胞受容体によって仲介される疾患または障害の防止または治療のための薬学的組成物であって、態様1~9のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片の有効量、および有効量の少なくとも1つの他の療法的活性化合物を含む、前記薬学的組成物。
[態様18]
明記される疾患または障害が、強直性脊椎炎、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫の群より選択される、態様17記載の薬学的組成物。
[態様19]
他の療法的活性化合物が、小分子、抗体またはステロイドホルモンより選択される、態様17~18のいずれかに記載の薬学的組成物。
[態様20]
そのベータ鎖がTRBV9ファミリーに関連するT細胞受容体の生物学的活性を、こうした阻害を必要とする被験体において阻害する方法であって、被験体に、態様1~9のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片の有効量を投与する工程を含む、前記方法。
[態様21]
TRBV9ファミリーベータ鎖を所持するヒトT細胞受容体によって仲介される疾患または障害を治療する方法であって、こうした治療の必要がある被験体に、療法的に有効な量で、態様1~9のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片、あるいは態様15記載の薬学的組成物を投与する工程を含む、前記方法。
[態様22]
態様21記載の疾患または障害を治療する方法であって、疾患または障害が、強直性脊椎炎、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫の群より選択される、前記方法。
[態様23]
TRBV9ファミリーベータ鎖を所持するヒトT細胞受容体によって仲介される疾患または障害に対する、こうした治療を必要とする被験体の治療のための、態様1~9のいずれかに記載の抗体またはその抗原結合断片、あるいは態様15記載の薬学的組成物の使用。
[態様24]
疾患が、強直性脊椎炎、セリアック病、T細胞白血病、T細胞リンパ腫の群より選択される、態様23記載の使用。
【実施例
【0144】
実施例1. 抗体の産生および精製
重複プライマーおよび高忠実度Q5ポリメラーゼ(NEB、米国)を用いて、DNA断片を増幅することによって、抗体重鎖および軽鎖の可変ドメインをコードする核酸(配列番号10、12、14、16、18)を得た。試薬キット(#28104)を用いてQiagen(ドイツ)のカラム上で、得た核酸を精製し、そしてヒト重鎖(IgG1)および軽鎖(カッパ)遺伝子の定常領域を含む、商業的に入手可能なpFuseベクター(Invivogen、米国)内に指向性クローニングした。サンガー法を用いた配列決定によって、クローニングされた断片の配列を確認した。
【0145】
その結果、4つの抗体重鎖変異体のコード配列を含むプラスミドを得た:
HV抗TRBV9-1、そのヌクレオチドおよびアミノ酸配列を、配列番号20および21に示す;
HV抗TRBV9-2、そのヌクレオチドおよびアミノ酸配列を、配列番号22および23に示す;
HV抗TRBV9-3、そのヌクレオチドおよびアミノ酸配列を、配列番号24および25に示す;
HV抗TRBV9-3、そのヌクレオチドおよびアミノ酸配列を、配列番号26および27に示す;
および、1つの抗体軽鎖変異体に関する、LV抗TRBV9(配列番号28および29)。
【0146】
抗体重鎖のヒト化の度合いは72%であり、そして軽鎖の度合いは69%である。
抗体を得るため、プラスミドをHEK293F懸濁細胞株にトランスフェクションした。293fectine試薬(Thermo Fisher scientific、米国 #1234701)をトランスフェクションに用いた。3000万の細胞をFreeStyle培地、各30mlに入れ、抗体重鎖変異体の1つをコードするpFuseプラスミド30μg、および抗体軽鎖をコードするpFuseプラスミド30μg、ならびに239fectine試薬(Thermo Fisher scientific、米国 #12347019)60μlをこれに添加した。免疫グロブリン重鎖および軽鎖を含むプラスミドを、内毒素含量に関して試験した水(Qiagen、米国)中に溶解した。
【0147】
生じた反応混合物を、振盪装置上、37℃で1週間インキュベーションした。1週間後、細胞上清を採取し、これを用いて抗体を単離した。この目的のため、上清を10,000rpmで10回遠心分離し、そして1mlのHiTrap PrGカラム(Thermo Fisher scientific、米国)を用いて、液体分画を精製した。溶出のため、HCl中の0.1Mグリシン緩衝液、pH2.5を用いた。変性条件下で12%PAGEを用いて、単離品質を評価した。NanoDrop2000微量分光光度計上、280Aでの測定によって、定量化を行った。生じた産物を+4℃で保存した。
【0148】
表1は、単離されたタンパク質の特性を示す。
表1 抗体の特性
【0149】
【表1】
【0150】
OctetRed 96装置(ForteBio製)を用いて、抗TRBV9抗体のアフィニティを測定した。AR2Gセンサーの調製および固定に関して、製造者のマニュアルに記載される標準プロトコルにしたがって、アミン反応性第二世代センサー(AR2G)の表面上に、抗原(表1)を非特異的に固定した。作業緩衝液として、0.1% Tween-20および0.1% BSAを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて、30℃で分析を行った。2の増分で、126nM~2nMの濃度で、作業緩衝液を用いて、抗TRBV9抗体の結合アフィニティを分析した。標準法にしたがい、そして1:1相互作用モデルを用いて、Octetデータ分析ソフトウェア(バージョン7.0)を用いて、参照シグナルを減じた後の結合曲線を分析した。結果を表2に要約する。
【0151】
表2. 抗体アフィニティの評価
【0152】
【表2】
【0153】
TRBV7+TRAV38抗原を用いた際には、抗体との相互作用は観察されなかった。TRBV9-2およびTRBV9-4抗体は、最適の特性を示した。
実施例2. TRBV9ファミリーに属するTCRベータ鎖を発現しているTリンパ球を標識するための抗TRBV9モノクローナル抗体の使用。
【0154】
実施例1に記載するように、モノクローナル抗体(重鎖CDR3配列で特徴づけられる、抗TRBV9-1、抗TRBV9-2、抗TRBV9-3、抗TRBV9-4)を産生した。抗体を視覚化するため、製造者のプロトコルにしたがって、フルオレセインイソチオシアネート試薬(Sigma、米国)を用いて、これらをフルオレセインで標識した。495/280nmの波長での吸収スペクトル比によって、抗体分子と反応するフルオロフォアの量を調節した。標識抗体を用いて、ヒト血液の単核分画において、TRBV9ファミリーのTCRベータ鎖を発現しているTリンパ球を検出した。
【0155】
5人の健康なドナーの末梢血を用いて、この分画を得た。EDTA Vacuette試験管中に血液を収集し(各2x9ml)、(Kovalchuk L. V.ら Immunology: Workshop - 2010. - 176 p.)に記載される標準法にしたがって、単核分画を単離した。単離後、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)および2mM EDTAを含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に細胞を移した。Lang N.R.(Stimulation of lymphocytes M.: Medicine, 1976.-288 p.)に記載されるようなトリパンブルー染色法によって、細胞総数およびその生存度を決定した。
【0156】
Tリンパ球を標識するため、0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)および2mM EDTAを補充したPBS緩衝液中に、最終濃度5ng/μlおよび0.5ng/μlの抗TRBV9-1、抗TRBV9-2、抗TRBV9-3、抗TRBV9-4抗体、ならびに製造者によって推奨される濃度のCD3に対するモノクローナル抗体-eFluor405(OKT3クローン、eBioscience)を、各試験において、各々、500,000細胞(試験あたり)を含む単核分画のアリコットに添加した。
【0157】
0.5% BSA、2mM EDTAを補充したPBS 50μlの体積を有する、生じた反応混合物を、室温で30分間インキュベーションし、その後、細胞を、0.5% BSA、2mM EDTAを補充したPBS緩衝剤で洗浄し、そして染色結果をフローサイトメトリー(FACSARIA III、米国、図1~4)によって分析した。モノクローナル抗体の生じた変異体はすべて、CD3+陽性細胞の分画を特異的に認識することが示された。しかし、TRBV9-2変異体が最も安定した染色を示し、5ng/μlおよび0.5ng/μlの抗体濃度両方でCD3陽性分画の2.9%であった。他の抗体変異体(抗TRBV9-2、抗TRBV9-3、抗TRBV9-4)は、同じ濃度で、TRBV9+リンパ球の異なる比率の染色を示した。また、他の変異体を用いた際に存在する、弱く染色される非特異的CD3陰性細胞が存在しないことによって、そしてTRBV9に関して陰性である他のCD3陽性リンパ球から、特異的細胞集団が有意に分離されることによって、抗TRBV9-2の特異性を決定した。
【0158】
したがって、第二の変異体(抗TRBV9-2)は、TRBV9+ Tリンパ球の最も有効でそして非常に特異的な染色を示すことが見出された。この抗体を、0.6ng/μlの濃度で、TRBV9+ Tリンパ球の検出のための診断目的に用いてもよい。
【0159】
抗TRBV9-1、抗TRBV9-2、抗TRBV9-3、抗TRBV9-4抗体の特異性を評価するため、5つの末梢血試料から、上述のように得た単核血液分画を、以下の比を用いて、上述のように抗TRBV9-FITC抗体および抗CD3-eFluor450(eBioscience、米国)で染色した:
5μl(1μg)の抗CD3-eFluor450(eBioscience、米国)および30ng(0.5ng/ml)の抗TRBV9-2 FITCを、単核血液分画の300万の細胞に添加した。反応混合物を室温で30分間インキュベーションし、0.5% BSAを補充したPBS緩衝剤で細胞を洗浄し、そしてCD3+TRBV9+細胞、ならびにCD3+TRBV9-細胞の集団を単離するため、セルソーター(FACSARIA III、米国)上でソーティングした。CD3+TRBV9+集団の再ソーティングによって、ソーティング品質を管理し、この再ソーティングは、ターゲット細胞集団の95%の濃縮を示した。
【0160】
得た細胞分画をRLT緩衝剤(Qiagen、ドイツ)中に入れ、製造者のプロトコルにしたがって、Qiagen RNAeasyミニキット#217004試薬キット(Qiagen)を用いて、RNAを単離した。Britanovaら(J Immunol, 2016, 196(12) 5005-5013)に記載されるプロトコルにしたがって、Mint cDNA合成キット(Eurogen、ロシア)を用いて、単離RNAテンプレート上でcDNAを合成し、T受容体ベータ鎖の断片を増幅した。Illuminaアダプター(米国)を、産生された単位複製配列に連結し、配列決定装置の製造者のプロトコルにしたがって、MiSeq Illuminaプラットフォーム上で、配列決定を行った。インターネット上、https://milaboratory.comで入手可能であるMiGEC、MiXCRおよびVDJツールソフトウェアを用いて、配列決定データを分析した。データ分析は、CD3+TRBV9+分画の90%の配列が、TRBV9ベータ鎖可変セグメント遺伝子ファミリーに属することを示した。同時に、TRBV9可変セグメント配列を含有する断片は、CD3+TRBV9-分画にはまったく見られなかった。したがって、抗TRBV9-1、抗TRBV9-2、抗TRBV9-3、抗TRBV9-4は、TRBV9ファミリーベータ鎖に特異的に結合する。
【0161】
実施例3. 抗体の機能的活性
実施例1に記載するように、モノクローナル抗体(重鎖CDR3配列で特徴づけられる、抗TRBV9-1、抗TRBV9-2、抗TRBV9-3、抗TRBV9-4)を得た。実施例2に記載するように、ヒト血液の単核分画を得た。
【0162】
さらに、ヒトNK細胞単離試薬キット#130-092-657(Miltenyi biotec、米国)を用いて、単核分画の部分から、ナチュラルキラー細胞を単離した。製造者のプロトコルを用いた。標識抗体CD16-FITC、CD56-PE、CD3-VioBlueを用いたサイトメトリー(BD FACS ARIA III、米国)によって、NK細胞単離の品質を評価した。NK細胞の濃縮は85~95%であった。
【0163】
細胞傷害性を評価するため、1x106細胞を含む単核分画アリコットに、最終濃度5μg/mlで、抗体(抗TRBV9-1、抗TRBV9-2、抗TRBV9-3、または抗TRBV9-4)を添加した。抗TRBV9抗体と同じ濃度の抗体レミケードを陰性対照として用いた。対照細胞アリコットには抗体を添加しなかった(陽性対照)。また、105 NK細胞をすべての反応混合物に添加した。最終反応体積は100μlだった。
【0164】
反応混合物を室温で1時間インキュベーションし、次いで細胞を数回洗浄して、抗体を除去し、そしてテーブル上、96ウェル丸底プレートのウェルに分配した。
6日後、細胞をウェルから採取し、そしてフローサイトメトリーを用いた免疫表現型分析に用いた。以下の抗体を用いて、Tリンパ球を検出した:抗CD3-eFluor450(OKT3クローン、eBioscience);抗CD8-PC7(SFCI21Thy2D3クローン、Beckman Coulter、米国);生じる抗体はFitcで標識された抗TRBV9-1、2、3、4である。染色後、細胞を洗浄し、そしてBD FACSARIA III装置上で分析した。CD3+TRBV9+ Tリンパ球は、本発明の抗TRBV9抗体とインキュベーションした試料中ではまったく検出されなかった。対照的に、CD3+TRBV9+二重陽性Tリンパ球は、抗TRBV9抗体を含まない対照試料(「ゼロ対照」)、ならびに療法抗体レミケードを含む対照試料においてなお検出され、この事実は、TRBV9に対する抗体の添加後、TRBV9+ T細胞が特異的に除去されたことを確認した。図5は、フローサイトメトリーの典型的な結果を示す。本発明の抗TRBV9抗体の代わりに、非細胞傷害性抗CD6抗体を用いたさらなる陰性対照においては、「ゼロ対照」に比較した際、ターゲットCD3+CD6+集団には変化は観察されなかった。これは、第6日の非標識抗体によるエピトープのスクリーニングがまったく観察されないことを示し、そして抗TRBV9抗体が、TRBV9ファミリーTCRを所持する細胞を除去する能力を確認する。
【0165】
実施例4. 安定細胞株の操作
軽鎖および重鎖抗体鎖の最適比を含むベクター構築物で、懸濁CHO-S細胞株をトランスフェクションすることによって、抗TRBV9-2モノクローナル抗体を産生する安定細胞株を得た。ClonePixロボットプラットフォーム(Molecular Devices)を用いて、高レベル(100mg/L)を維持するクローン株を得た。Biomek FXロボット自動化系(Beckman Coulter)、およびOctet RED96分析系(Pall Life Sciences)によって、選択したクローンの生産性を分析した。動物由来タンパク質を含有しない血清不含培地を用いて、産生細胞を培養した。HyClone単回使用バイオリアクター(Thermoscientific)200L発酵装置中で、前臨床研究のためのBCD085産物を産生した。
【0166】
実施例5. 本発明の抗体を含む薬学的組成物を得る
薬学的組成物の構成要素を表3に示す。
表3. 薬学的組成物の構成要素の濃度
【0167】
【表3】
【0168】
実施例6. 抗体を含む薬学的組成物を含むキット
抗TRBV9-2抗体組成物を含む投薬型を含むキットを産生するため、実施例5にしたがって調製した薬学的組成物を、無菌条件下で、1mlアンプルまたはシリンジ中に密封し、ラベルを付け、そしてプラスチックまたはボール紙コンテナ内にパッケージングした。
【0169】
また、アンプルコンテナに挿入物も含めた。
実施例7. 本発明の抗体の変異体
Wurchら, Methods in Molecular Biology. 12 (9), 653-657(2004)に記載されるように、PCR産物の「重複伸長」を用いた部位特異的突然変異誘発によって、突然変異体HV抗TRBV9-1配列を得た。PCRには、製造者の指針にしたがって、Q5高忠実度ポリメラーゼ(NEB、米国)を用いた。増幅後、1%アガロースゲル電気泳動およびさらなる抽出によって、得た断片を精製した。重複伸長PCR(95℃12秒間の変性;55℃2分間のアニーリング;72℃1分間の伸長、8回のPCRサイクル)によって、突然変異を含むゲル単離DNA断片を完全な構築物に組み合わせた。この方法は、互いに相補的な領域を有する反応混合物中に存在する断片を、テンプレートおよびプライマーとして用いることを仮定する。増幅された断片の末端に相補的なプライマーを付加した標準PCRによって、全構築物を増幅した。実施例1に記載するように、試薬キット(#28104)を用いて、Qiagen(ドイツ)カラム上で、得た核酸を精製し、そしてpFuseベクター内にクローニングした。サンガー法による配列決定によって、突然変異体DNA配列をチェックした。生じた可変ドメインのヌクレオチドおよびアミノ酸配列を以下のように示す:変異体1-配列番号30および配列番号31中;変異体2-配列番号32および配列番号33中。突然変異体抗体が、TRBV9ファミリーに属するTCRベータ鎖を発現しているTリンパ球に結合する能力を、実施例2に記載するように検証した。導入された置換は、結合特異性に影響を及ぼさないことが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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