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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】クライオポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04B 37/08 20060101AFI20230830BHJP
【FI】
F04B37/08
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020541070
(86)(22)【出願日】2019-08-01
(86)【国際出願番号】 JP2019030303
(87)【国際公開番号】W WO2020049917
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2018167178
(32)【優先日】2018-09-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 走
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04736591(US,A)
【文献】特開2018-127927(JP,A)
【文献】特開2012-237263(JP,A)
【文献】特開平05-065874(JP,A)
【文献】米国特許第06122920(US,A)
【文献】米国特許第05228299(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クライオポンプ吸気口を有するクライオポンプハウジングと、
前記クライオポンプハウジングと非接触に前記クライオポンプハウジング内に配置され、シールド冷却温度に冷却される放射シールドと、
前記クライオポンプ吸気口に配置された遮熱ダミーパネルであって、前記シールド冷却温度よりも高いダミーパネル温度となるように、前記放射シールドに熱抵抗部材を介して取り付けられた遮熱ダミーパネルと、を備えることを特徴とするクライオポンプ。
【請求項2】
前記熱抵抗部材は、前記放射シールドの材料より熱伝導率の低い材料または断熱材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のクライオポンプ。
【請求項3】
クライオポンプ吸気口を有するクライオポンプハウジングと、
前記クライオポンプハウジングと非接触に前記クライオポンプハウジング内に配置され、シールド冷却温度に冷却される放射シールドと、
前記クライオポンプ吸気口に配置された遮熱ダミーパネルであって、前記シールド冷却温度よりも高いダミーパネル温度となるように、前記クライオポンプハウジングに熱的に結合された遮熱ダミーパネルと、を備え
前記遮熱ダミーパネルは、前記放射シールドの前端よりも軸方向上方に、または前記放射シールドの前端と軸方向に同じ高さに配置されることを特徴とするクライオポンプ。
【請求項4】
前記クライオポンプハウジングは、前記クライオポンプ吸気口を定める吸気口フランジを備え、
前記遮熱ダミーパネルは、前記吸気口フランジ、前記吸気口フランジが装着される相手フランジ、または前記吸気口フランジと前記相手フランジとの間に挟み込まれるセンターリングに取り付けられていることを特徴とする請求項3に記載のクライオポンプ。
【請求項5】
クライオポンプ吸気口を定める吸気口フランジを備えるクライオポンプハウジングと、
前記クライオポンプハウジングと非接触に前記クライオポンプハウジング内に配置され、シールド冷却温度に冷却される放射シールドと、
前記吸気口フランジが装着される相手フランジに、または前記吸気口フランジと前記相手フランジとの間に挟み込まれるセンターリングに取り付けられ、前記シールド冷却温度よりも高いダミーパネル温度となるように、前記クライオポンプハウジングに熱的に結合された遮熱ダミーパネルと、を備えることを特徴とするクライオポンプ。
【請求項6】
前記遮熱ダミーパネルは、前記クライオポンプの外側に向けられたダミーパネル外面と、前記クライオポンプの内側に向けられたダミーパネル内面と、を備え、
前記ダミーパネル外面の輻射率が前記ダミーパネル内面の輻射率より高いことを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のクライオポンプ。
【請求項7】
前記ダミーパネル外面は、黒色であり、前記ダミーパネル内面は、鏡面であることを特徴とする請求項に記載のクライオポンプ。
【請求項8】
前記ダミーパネル温度は、0℃を超えることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のクライオポンプ。
【請求項9】
前記遮熱ダミーパネルは、前記放射シールドとは異なる材料で形成されていることを特徴とする請求項1からのいずれかに記載のクライオポンプ。
【請求項10】
前記放射シールドよりも低温に冷却されるトップクライオパネルをさらに備え、
前記トップクライオパネルは、前記遮熱ダミーパネルの直下に位置するとともに前記遮熱ダミーパネルと直接対向することを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載のクライオポンプ。
【請求項11】
前記放射シールドよりも低温に冷却されるクライオパネルアセンブリであって、複数のクライオパネルと、軸方向に柱状に配列された複数の伝熱体と、を備え、前記複数のクライオパネルおよび前記複数の伝熱体が軸方向に積み重ねられているクライオパネルアセンブリをさらに備え、
前記遮熱ダミーパネルは、前記クライオパネルアセンブリの軸方向上方に配置されていることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載のクライオポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クライオポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
クライオポンプは、極低温に冷却されたクライオパネルに気体分子を凝縮または吸着により捕捉して排気する真空ポンプである。クライオポンプは半導体回路製造プロセス等に要求される清浄な真空環境を実現するために一般に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-84702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クライオポンプの吸気口には、例えば100K程度の極低温に冷却されるクライオパネルが配置されている。従来のクライオポンプの設計においては、そうした吸気口クライオパネルが必須であると考えられている。しかしながら、本発明者は、このような通説を疑い、異なる設計のクライオポンプも実現可能であることを新たに見出した。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、新規かつ代替的な設計を有するクライオポンプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によると、クライオポンプは、クライオポンプ吸気口を有するクライオポンプハウジングと、前記クライオポンプハウジングと非接触に前記クライオポンプハウジング内に配置され、シールド冷却温度に冷却される放射シールドと、前記クライオポンプ吸気口に配置された遮熱ダミーパネルであって、前記シールド冷却温度よりも高いダミーパネル温度となるように、前記放射シールドに熱抵抗部材を介して取り付けられた遮熱ダミーパネルと、を備える。
【0007】
本発明のある態様によると、クライオポンプ吸気口を有するクライオポンプハウジングと、前記クライオポンプハウジングと非接触に前記クライオポンプハウジング内に配置され、シールド冷却温度に冷却される放射シールドと、前記クライオポンプ吸気口に配置された遮熱ダミーパネルであって、前記シールド冷却温度よりも高いダミーパネル温度となるように、前記クライオポンプハウジングに熱的に結合された遮熱ダミーパネルと、を備える。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新規かつ代替的な設計を有するクライオポンプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ある実施の形態に係るクライオポンプを概略的に示す図である。
図2図1に示されるクライオポンプの概略斜視図である。
図3】他の実施の形態に係るクライオポンプを概略的に示す図である。
図4】更なる他の実施の形態に係るクライオポンプの概略斜視図である。
図5図4に示されるクライオポンプの一部分を概略的に示す部分断面図である。
図6】更なる他の実施の形態に係るクライオポンプの概略斜視図である。
図7図6に示されるクライオポンプの一部分を概略的に示す部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0012】
図1は、ある実施の形態に係るクライオポンプ10を概略的に示す。図2は、図1に示されるクライオポンプ10の概略斜視図である。
【0013】
クライオポンプ10は、例えばイオン注入装置、スパッタリング装置、蒸着装置、またはその他の真空プロセス装置の真空チャンバに取り付けられて、真空チャンバ内部の真空度を所望の真空プロセスに要求されるレベルまで高めるために使用される。クライオポンプ10は、排気されるべき気体を真空チャンバから受け入れるためのクライオポンプ吸気口(以下では単に「吸気口」ともいう)12を有する。吸気口12を通じて気体がクライオポンプ10の内部空間14に進入する。
【0014】
なお以下では、クライオポンプ10の構成要素の位置関係をわかりやすく表すために、「軸方向」、「径方向」との用語を使用することがある。クライオポンプ10の軸方向は吸気口12を通る方向(すなわち、図において中心軸Cに沿う方向)を表し、径方向は吸気口12に沿う方向(中心軸Cに垂直な平面における第1の方向)を表す。便宜上、軸方向に関して吸気口12に相対的に近いことを「上」、相対的に遠いことを「下」と呼ぶことがある。つまり、クライオポンプ10の底部から相対的に遠いことを「上」、相対的に近いことを「下」と呼ぶことがある。径方向に関しては、吸気口12の中心(図において中心軸C)に近いことを「内」、吸気口12の周縁に近いことを「外」と呼ぶことがある。なお、こうした表現はクライオポンプ10が真空チャンバに取り付けられたときの配置とは関係しない。例えば、クライオポンプ10は鉛直方向に吸気口12を下向きにして真空チャンバに取り付けられてもよい。
【0015】
また、軸方向を囲む方向を「周方向」と呼ぶことがある。周方向は、吸気口12に沿う第2の方向(中心軸Cに垂直な平面における第2の方向)であり、径方向に直交する接線方向である。
【0016】
クライオポンプ10は、冷凍機16、放射シールド30、第2段クライオパネルアセンブリ20、及び、クライオポンプハウジング70を備える。放射シールド30は、第1段クライオパネル、高温クライオパネル部または100K部とも称されうる。第2段クライオパネルアセンブリ20は、低温クライオパネル部または10K部とも称されうる。
【0017】
冷凍機16は、例えばギフォード・マクマホン式冷凍機(いわゆるGM冷凍機)などの極低温冷凍機である。冷凍機16は、二段式の冷凍機である。そのため、冷凍機16は、第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24を備える。冷凍機16は、第1冷却ステージ22を第1冷却温度に冷却し、第2冷却ステージ24を第2冷却温度に冷却するよう構成されている。第2冷却温度は第1冷却温度よりも低温である。例えば、第1冷却ステージ22は65K~120K程度、好ましくは80K~100Kに冷却され、第2冷却ステージ24は10K~20K程度に冷却される。第1冷却ステージ22および第2冷却ステージ24はそれぞれ、高温冷却ステージおよび低温冷却ステージと称してもよい。
【0018】
また、冷凍機16は、第2冷却ステージ24を第1冷却ステージ22に構造的に支持するとともに第1冷却ステージ22を冷凍機16の室温部26に構造的に支持する冷凍機構造部21を備える。そのため冷凍機構造部21は、径方向に沿って同軸に延在する第1シリンダ23及び第2シリンダ25を備える。第1シリンダ23は、冷凍機16の室温部26を第1冷却ステージ22に接続する。第2シリンダ25は、第1冷却ステージ22を第2冷却ステージ24に接続する。室温部26、第1シリンダ23、第1冷却ステージ22、第2シリンダ25、及び第2冷却ステージ24は、この順に直線状に一列に並ぶ。
【0019】
第1シリンダ23及び第2シリンダ25それぞれの内部には第1ディスプレーサ及び第2ディスプレーサ(図示せず)が往復動可能に配設されている。第1ディスプレーサ及び第2ディスプレーサにはそれぞれ第1蓄冷器及び第2蓄冷器(図示せず)が組み込まれている。また、室温部26は、第1ディスプレーサ及び第2ディスプレーサを往復動させるための駆動機構(図示せず)を有する。駆動機構は、冷凍機16の内部への作動気体(例えばヘリウム)の供給と排出を周期的に繰り返すよう作動気体の流路を切り替える流路切替機構を含む。
【0020】
冷凍機16は、作動気体の圧縮機(図示せず)に接続されている。冷凍機16は、圧縮機により加圧された作動気体を内部で膨張させて第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24を冷却する。膨張した作動気体は圧縮機に回収され再び加圧される。冷凍機16は、作動気体の給排とこれに同期した第1ディスプレーサ及び第2ディスプレーサの往復動とを含む熱力学的サイクル(例えばGMサイクルなどの冷凍サイクル)を繰り返すことによって寒冷を発生させる。
【0021】
図示されるクライオポンプ10は、いわゆる横型のクライオポンプである。横型のクライオポンプとは一般に、冷凍機16がクライオポンプ10の中心軸Cに交差する(通常は直交する)よう配設されているクライオポンプである。
【0022】
放射シールド30は、第2段クライオパネルアセンブリ20を包囲する。放射シールド30は、クライオポンプ10の外部またはクライオポンプハウジング70からの輻射熱から第2段クライオパネルアセンブリ20を保護するための極低温表面を提供する。放射シールド30は第1冷却ステージ22に熱的に結合されている。よって放射シールド30は第1冷却温度に冷却される。放射シールド30は第2段クライオパネルアセンブリ20との間に隙間を有しており、放射シールド30は第2段クライオパネルアセンブリ20と接触していない。放射シールド30はクライオポンプハウジング70とも接触していない。
【0023】
放射シールド30は、クライオポンプハウジング70の輻射熱から第2段クライオパネルアセンブリ20を保護するために設けられている。放射シールド30は、吸気口12から軸方向に筒状(例えば円筒状)に延在する。放射シールド30は、クライオポンプハウジング70と第2段クライオパネルアセンブリ20との間にあり、第2段クライオパネルアセンブリ20を囲む。放射シールド30は、クライオポンプ10の外部から内部空間14に気体を受け入れるためのシールド主開口34を有する。シールド主開口34は、吸気口12に位置する。
【0024】
放射シールド30は、例えば銅(例えば純銅)などの高熱伝導金属材料で形成されている。また、放射シールド30は、必要に応じて、耐腐食性を向上するために、例えばニッケルを含む金属めっき層が表面に形成されてもよい。
【0025】
放射シールド30は、シールド主開口34を定めるシールド前端36と、シールド主開口34と反対側に位置するシールド底部38と、シールド前端36をシールド底部38に接続するシールド側部40と、を備える。シールド側部40は、軸方向にシールド前端36からシールド主開口34と反対側へと延在し、周方向に第2冷却ステージ24を包囲するよう延在する。
【0026】
シールド側部40は、冷凍機構造部21が挿入されるシールド側部開口44を有する。シールド側部開口44を通じて放射シールド30の外から第2冷却ステージ24及び第2シリンダ25が放射シールド30の中に挿入される。シールド側部開口44は、シールド側部40に形成された取付穴であり、例えば円形である。第1冷却ステージ22は放射シールド30の外に配置されている。
【0027】
シールド側部40は、冷凍機16の取付座46を備える。取付座46は、第1冷却ステージ22を放射シールド30に取り付けるための平坦部分であり、放射シールド30の外から見てわずかに窪んでいる。取付座46は、シールド側部開口44の外周を形成する。第1冷却ステージ22が取付座46に取り付けられることによって、放射シールド30が第1冷却ステージ22に熱的に結合されている。
【0028】
このように放射シールド30を第1冷却ステージ22に直接取り付けることに代えて、ある実施形態においては、放射シールド30は、追加の伝熱部材を介して第1冷却ステージ22に熱的に結合されていてもよい。伝熱部材は、例えば、両端にフランジを有する中空の短筒であってもよい。伝熱部材は、その一端のフランジにより取付座46に固定され、他端のフランジにより第1冷却ステージ22に固定されてもよい。伝熱部材は、冷凍機構造部21を囲んで第1冷却ステージ22から放射シールド30に延在してもよい。シールド側部40は、こうした伝熱部材を含んでもよい。
【0029】
図示される実施形態においては、放射シールド30は一体の筒状に構成されている。これに代えて、放射シールド30は、複数のパーツにより全体として筒状の形状をなすように構成されていてもよい。これら複数のパーツは互いに間隙を有して配設されていてもよい。例えば、放射シールド30は軸方向に2つの部分に分割されていてもよい。
【0030】
クライオポンプ10は、吸気口12に配置された遮熱ダミーパネル32を備える。遮熱ダミーパネル32は、シールド冷却温度(例えば上述の第1冷却温度)よりも高いダミーパネル温度となるように、放射シールド30に熱抵抗部材48を介して取り付けられている。
【0031】
言い換えれば、遮熱ダミーパネル32は、冷凍機16による冷却をできるだけ避けるようにして、吸気口12に配置されている。遮熱ダミーパネル32は、極低温に冷却することが意図されている「クライオパネル」ではない。よって、遮熱ダミーパネル32は、クライオポンプ10の運転中にダミーパネル温度が0℃を超えるように設計されていてもよい。ただし、熱抵抗部材48の設計、及び/または、放射シールド30への遮熱ダミーパネル32の取付方法によっては、クライオポンプ10の運転中にダミーパネル温度が0℃を下回ってもよい。しかし、その場合であっても、ダミーパネル温度は、シールド冷却温度より高い温度に保持される。
【0032】
遮熱ダミーパネル32は、クライオポンプ10の外部の熱源(例えば、クライオポンプ10が取り付けられる真空チャンバ内の熱源)からの輻射熱から第2段クライオパネルアセンブリ20を保護するために、吸気口12(またはシールド主開口34、以下同様)に設けられている。遮熱ダミーパネル32は、冷凍機16によってほとんど又はまったく冷却されないから、気体を凝縮する機能(例えば、水蒸気などの第1種気体を排気する機能)を有しない。
【0033】
遮熱ダミーパネル32は、吸気口12において第2段クライオパネルアセンブリ20に対応する場所、例えば第2段クライオパネルアセンブリ20の直上に配置されている。遮熱ダミーパネル32は、吸気口12の開口面積の中心部分を占有し、放射シールド30との間に環状(例えば円環状)の開放領域51を形成する。
【0034】
遮熱ダミーパネル32は、吸気口12の中心部に配置されている。遮熱ダミーパネル32の中心は、中心軸C上に位置する。ただし、遮熱ダミーパネル32の中心は、中心軸Cからいくらか外れて位置してもよく、その場合にも、遮熱ダミーパネル32は、吸気口12の中心部に配置されているとみなされうる。遮熱ダミーパネル32は、中心軸Cに垂直に配置されている。
【0035】
また、軸方向に関しては、遮熱ダミーパネル32は、シールド前端36よりも若干上方に配置されていてもよい。その場合、第2段クライオパネルアセンブリ20から遮熱ダミーパネル32をより遠くに配置できるので、第2段クライオパネルアセンブリ20からの遮熱ダミーパネル32への熱的作用(すなわち冷却)を低減しうる。あるいは、遮熱ダミーパネル32は、シールド前端36と軸方向にほぼ同じ高さ、またはシールド前端36よりも軸方向に若干下方に配置されてもよい。
【0036】
遮熱ダミーパネル32は、一枚の平板で形成されている。遮熱ダミーパネル32は、ダミーパネル中心部分32aと、ダミーパネル中心部分32aから径方向外側に延びるダミーパネル取付部32bとを有する。軸方向に見たときのダミーパネル中心部分32aの形状は、例えば円盤状である。ダミーパネル中心部分32aの径は、比較的小さく、例えば、第2段クライオパネルアセンブリ20の径より小さい。ダミーパネル中心部分32aは、吸気口12の開口面積の多くとも1/3、または多くとも1/4を占めてもよい。このようにして、開放領域51は、吸気口12の開口面積の少なくとも2/3、または少なくとも3/4を占めてもよい。
【0037】
ダミーパネル中心部分32aは、ダミーパネル取付部32bを介して熱抵抗部材48に取り付けられる。図1および図2に示されるように、ダミーパネル取付部32bは、シールド主開口34の直径に沿って熱抵抗部材48へと直線状に架け渡されている。また、ダミーパネル取付部32bは、開放領域51を周方向に分割している。開放領域51は、複数(例えば2つ)の円弧状領域からなる。ダミーパネル取付部32bはダミーパネル中心部分32aの両側に設けられているが、軸方向に見たとき十字状となるようにダミーパネル中心部分32aから4方向に延びていてもよいし、またはその他の形状を有してもよい。なお、ここでは、遮熱ダミーパネル32のダミーパネル中心部分32aとダミーパネル取付部32bが一体形成されているが、ダミーパネル中心部分32aとダミーパネル取付部32bは別の部材として提供され互いに接合されていてもよい。
【0038】
遮熱ダミーパネル32はクライオパネルではないから、クライオパネルほど高い熱伝導率は必要とされない。したがって、遮熱ダミーパネル32は、銅などの高熱伝導率金属で形成される必要はなく、例えばステンレス鋼またはその他の入手容易な金属材料で形成されてもよい。あるいは、遮熱ダミーパネル32は、真空環境での利用に適する限り、金属材料、樹脂材料(例えばポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂材料)、またはその他の任意の材料で形成されてもよい。また、遮熱ダミーパネル32の一部(例えばダミーパネル中心部分32a)が金属材料で形成され、遮熱ダミーパネル32の他の一部(例えばダミーパネル取付部32b)が樹脂材料で形成されてもよい。
【0039】
熱抵抗部材48は、放射シールド30の材料(上述のように、例えば純銅)より熱伝導率の低い材料または断熱材料で形成されている。放射シールド30と遮熱ダミーパネル32との間の熱伝導を低減することを重視する場合には、熱抵抗部材48は、例えば、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂材料またはその他の樹脂材料で形成されていてもよい。熱抵抗部材48の熱収縮を低減し、遮熱ダミーパネル32をより確実に固定する(例えばボルトの緩みを防ぐ)ことを重視する場合には、熱抵抗部材48は、例えばステンレス鋼などの金属材料で形成されていてもよい。
【0040】
熱抵抗部材48は、遮熱ダミーパネル32のダミーパネル取付部32bに対応して、シールド前端36の内周面に固定されている。図示されるように、ダミーパネル中心部分32aの両側に2本のダミーパネル取付部32bが設けられている場合には、2つの熱抵抗部材48が設けられる。熱抵抗部材48は、ボルトなどの締結部材またはそのほかの適切な手法でシールド前端36に固定される。ダミーパネル取付部32bの先端部が、ボルトなどの締結部材またはそのほかの適切な手法で熱抵抗部材48に固定される。ダミーパネル取付部32bと熱抵抗部材48との接触面積、及び/または、熱抵抗部材48の断面積、及び/または、熱抵抗部材48とシールド前端36との接触面積が小さいほど、放射シールド30と遮熱ダミーパネル32との間の熱伝導を小さくすることができる。
【0041】
このようにして、遮熱ダミーパネル32は、放射シールド30から熱的に絶縁され、または高い熱抵抗を介して接続されている。遮熱ダミーパネル32は、シールド前端36および放射シールド30の他の部位とは非接触となるように吸気口12に配置されている。また、遮熱ダミーパネル32は、第2段クライオパネルアセンブリ20に近接しているが、接触はしていない。
【0042】
遮熱ダミーパネル32は、クライオポンプ10の外側に向けられたダミーパネル外面32cと、クライオポンプ10の内側に向けられたダミーパネル内面32dと、を備える。ダミーパネル外面32cはダミーパネル上面と、また、ダミーパネル内面32dはダミーパネル下面と呼ぶこともできる。
【0043】
ダミーパネル外面32cの輻射率がダミーパネル内面32dの輻射率より高くてもよい。すなわち、ダミーパネル外面32cの反射率がダミーパネル内面32dの反射率より低くてもよい。そのため、ダミーパネル外面32cは、黒色表面を有してもよい。黒色表面は、例えば、黒色塗装、黒色めっき、またはその他の黒色化処理により形成されてもよい。あるいは、ダミーパネル外面32cは、粗面を有してもよい。ダミーパネル外面32cには、例えばサンドブラストまたはその他の粗化処理がなされていてもよい。ダミーパネル内面32dは、鏡面を有してもよい。ダミーパネル内面32dには、研磨またはその他の鏡面処理がなされていてもよい。
【0044】
第1の例として、ダミーパネル外面32cとダミーパネル内面32dの両方が黒色である場合を考える。この場合、ダミーパネル外面32cとダミーパネル内面32dの輻射率はともに1であるとみなされる。クライオポンプ10への入熱のうち遮熱ダミーパネル32への入熱をQ[W]とする。遮熱ダミーパネル32が入熱Qを受けるとき、ダミーパネル外面32cが発する輻射熱Wo[W]は、Wo=(1/(1+1))Q=Q/2となり、ダミーパネル内面32dが発する輻射熱Wi[W]は、Wi=(1/(1+1))Q=Q/2となる。つまり、外向きの輻射熱Woと内向きの輻射熱Wiは等しくなる。輻射熱Woは、ダミーパネル外面32cからクライオポンプ10の外部へと排出される。輻射熱Wiは、ダミーパネル内面32dからクライオポンプ10の内部、すなわち放射シールド30および第2段クライオパネルアセンブリ20に向かうが、冷凍機16によって冷却され、クライオポンプ10から排出される。
【0045】
第2の例として、ダミーパネル外面32cが黒色であり、ダミーパネル内面32dが鏡面である場合を考える。ダミーパネル外面32cの輻射率は1とみなされる。ダミーパネル内面32dの輻射率は例えば0.1と仮定する。この場合、遮熱ダミーパネル32が入熱Qを受けるとき、ダミーパネル外面32cが発する輻射熱Wo[W]は、Wo=(1/(1+0.1))Q=(10/11)Qとなり、ダミーパネル内面32dが発する輻射熱Wi[W]は、Wi=(0.1/(1+0.1))Q=(1/11)Qとなる。
【0046】
したがって、ダミーパネル外面32cの輻射率をダミーパネル内面32dの輻射率より高くすることによって、遮熱ダミーパネル32からクライオポンプ10の外部に向けて排出される熱量を多くすることができる。それとともに、遮熱ダミーパネル32からクライオポンプ10の内部に向かい、冷凍機16によってクライオポンプ10から排出される熱量は、少なくなる。そのため、冷凍機16の消費電力を低減することもできる。
【0047】
第2段クライオパネルアセンブリ20は、クライオポンプ10の内部空間14の中心部に設けられている。第2段クライオパネルアセンブリ20は、上部構造20aと下部構造20bとを備える。第2段クライオパネルアセンブリ20は、軸方向に配列された複数の吸着クライオパネル60を備える。複数の吸着クライオパネル60は軸方向に互いに間隔をあけて配列されている。
【0048】
第2段クライオパネルアセンブリ20の上部構造20aは、複数の上部クライオパネル60aと、複数の伝熱体(伝熱スペーサともいう)62と、を備える。複数の上部クライオパネル60aは、軸方向において遮熱ダミーパネル32と第2冷却ステージ24との間に配置されている。複数の伝熱体62は、軸方向に柱状に配列されている。複数の上部クライオパネル60aおよび複数の伝熱体62は、吸気口12と第2冷却ステージ24との間で軸方向に交互に積み重ねられている。上部クライオパネル60aと伝熱体62の中心はともに中心軸C上に位置する。こうして上部構造20aは、第2冷却ステージ24に対し軸方向上方に配置されている。上部構造20aは、銅(例えば純銅)などの高熱伝導金属材料で形成された伝熱ブロック63を介して第2冷却ステージ24に固定され、第2冷却ステージ24に熱的に結合されている。よって、上部構造20aは第2冷却温度に冷却される。
【0049】
第2段クライオパネルアセンブリ20の下部構造20bは、複数の下部クライオパネル60bと、第2段クライオパネル取付部材64と、を備える。複数の下部クライオパネル60bは、軸方向において第2冷却ステージ24とシールド底部38との間に配置されている。第2段クライオパネル取付部材64は、第2冷却ステージ24から軸方向に下方に向けて延びている。複数の下部クライオパネル60bは、第2段クライオパネル取付部材64を介して第2冷却ステージ24に取り付けられている。こうして、下部構造20bは、第2冷却ステージ24に熱的に結合され、第2冷却温度に冷却される。
【0050】
第2段クライオパネルアセンブリ20においては、少なくとも一部の表面に吸着領域66が形成されている。吸着領域66は非凝縮性気体(例えば水素)を吸着により捕捉するために設けられている。吸着領域66は例えば吸着材(例えば活性炭)をクライオパネル表面に接着することにより形成される。
【0051】
一例として、複数の上部クライオパネル60aのうち軸方向に遮熱ダミーパネル32に最も近接する1つ又は複数の上部クライオパネル60aは、平板(例えば円盤状)であり、中心軸Cに垂直に配置されている。残りの上部クライオパネル60aは、逆円錐台状であり、円形の底面が中心軸Cに垂直に配置されている。
【0052】
上部クライオパネル60aうち遮熱ダミーパネル32に最も近接するもの(すなわち、軸方向に遮熱ダミーパネル32の直下に位置する上部クライオパネル60a、トップクライオパネル61とも呼ばれる)は、遮熱ダミーパネル32より径が大きい。ただし、トップクライオパネル61の径は、遮熱ダミーパネル32の径と等しくてもよいし、それより小さくてもよい。トップクライオパネル61は遮熱ダミーパネル32は直接対向しており、トップクライオパネル61と遮熱ダミーパネル32の間には、他のクライオパネルは存在しない。
【0053】
複数の上部クライオパネル60aは、軸方向に下方に向かうにつれて徐々に径が大きくなっている。また、逆円錐台状の上部クライオパネル60aは、入れ子状に配置されている。より上方の上部クライオパネル60aの下部が、その下方に隣接する上部クライオパネル60aの中の逆円錐台状空間に入り込んでいる。
【0054】
個々の伝熱体62は、円柱形状を有する。伝熱体62は、比較的短い円柱形状とされ、伝熱体62の径より軸方向高さが小さくてもよい。吸着クライオパネル60などのクライオパネルは一般に、銅(例えば純銅)などの高熱伝導金属材料で形成され、必要とされる場合、表面がニッケルなどの金属層で被覆されている。これに対して、伝熱体62は、クライオパネルとは異なる材料で形成されてもよい。伝熱体62は、例えばアルミニウムまたはアルミニウム合金などの、吸着クライオパネル60よりも熱伝導率は低いが密度の小さい金属材料で形成されてもよい。このようにすれば、伝熱体62の熱伝導性と軽量化をある程度両立でき、第2段クライオパネルアセンブリ20の冷却時間の短縮に役立つ。
【0055】
下部クライオパネル60bは、平板であり、例えば円盤状である。下部クライオパネル60bは、上部クライオパネル60aよりも大径である。ただし、下部クライオパネル60bには第2段クライオパネル取付部材64への取付のために、外周の一部分から中心部へと切欠部が形成されていてもよい。
【0056】
なお、第2段クライオパネルアセンブリ20の具体的構成は上述のものに限られない。上部構造20aは、任意の枚数の上部クライオパネル60aを有してもよい。上部クライオパネル60aは、平板、円錐状、またはその他の形状を有してもよい。同様に、下部構造20bは、任意の枚数の下部クライオパネル60bを有してもよい。下部クライオパネル60bは、平板、円錐状、またはその他の形状を有してもよい。
【0057】
吸着領域66は、吸気口12から見えないように、上方に隣接する吸着クライオパネル60の陰となる場所に形成されていてもよい。例えば、吸着領域66は吸着クライオパネル60の下面の全域に形成されている。吸着領域66は、下部クライオパネル60bの上面に形成されていてもよい。また、図1においては簡明化のために図示を省略しているが、吸着領域66は、上部クライオパネル60aの下面(背面)にも形成されている。必要に応じて、吸着領域66は、上部クライオパネル60aの上面に形成されてもよい。
【0058】
吸着領域66においては、多数の活性炭の粒が吸着クライオパネル60の表面に密に並べられた状態で不規則な配列で接着されている。活性炭の粒は例えば円柱形状に成形されている。なお吸着材の形状は円柱形状でなくてもよく、例えば球状やその他の成形された形状、あるいは不定形状であってもよい。吸着材のパネル上での配列は規則的配列であっても不規則な配列であってもよい。
【0059】
また、第2段クライオパネルアセンブリ20の少なくとも一部の表面には凝縮性気体を凝縮により捕捉するための凝縮領域が形成されている。凝縮領域は例えば、クライオパネル表面上で吸着材の欠落した区域であり、クライオパネル基材表面例えば金属面が露出されている。吸着クライオパネル60(例えば、上部クライオパネル60a)の上面、または上面外周部、または下面外周部は、凝縮領域であってもよい。
【0060】
トップクライオパネル61は、上面および下面の両方の全体が凝縮領域であってもよい。すなわち、トップクライオパネル61は、吸着領域66を有しなくてもよい。このように、第2段クライオパネルアセンブリ20において吸着領域66を有しないクライオパネルは、凝縮クライオパネルと称されてもよい。例えば、上部構造20aは、少なくとも1つの凝縮クライオパネル(例えば、トップクライオパネル61)を備えてもよい。
【0061】
上述のように、第2段クライオパネルアセンブリ20は、多数の吸着クライオパネル60(すなわち、複数の上部クライオパネル60aおよび下部クライオパネル60b)を有するので、非凝縮性気体について高い排気性能をもつ。例えば、第2段クライオパネルアセンブリ20は、水素ガスを高い排気速度で排気することができる。
【0062】
複数の吸着クライオパネル60の各々は、クライオポンプ10の外部から視認不能である部位に吸着領域66を備える。よって、第2段クライオパネルアセンブリ20は、吸着領域66の全部またはその大半がクライオポンプ10の外部から完全に見えないように構成されている。クライオポンプ10は、吸着材非露出型のクライオポンプと呼ぶこともできる。
【0063】
クライオポンプハウジング70は、放射シールド30、第2段クライオパネルアセンブリ20、及び冷凍機16を収容するクライオポンプ10の筐体であり、内部空間14の真空気密を保持するよう構成されている真空容器である。クライオポンプハウジング70は、放射シールド30及び冷凍機構造部21を非接触に包含する。クライオポンプハウジング70は、冷凍機16の室温部26に取り付けられている。
【0064】
クライオポンプハウジング70の前端によって、吸気口12が画定されている。クライオポンプハウジング70は、その前端から径方向外側に向けて延びている吸気口フランジ72を備える。吸気口フランジ72は、クライオポンプハウジング70の全周にわたって設けられている。クライオポンプ10は、吸気口フランジ72を用いて真空排気対象の真空チャンバに取り付けられる。
【0065】
上記の構成のクライオポンプ10の動作を以下に説明する。クライオポンプ10の作動に際しては、まずその作動前に他の適当な粗引きポンプで真空チャンバ内部を1Pa程度にまで粗引きする。その後、クライオポンプ10を作動させる。冷凍機16の駆動により第1冷却ステージ22及び第2冷却ステージ24がそれぞれ第1冷却温度及び第2冷却温度に冷却される。よって、これらに熱的に結合されている放射シールド30、第2段クライオパネルアセンブリ20もそれぞれ第1冷却温度及び第2冷却温度に冷却される。
【0066】
真空チャンバからクライオポンプ10に向かって飛来する気体の一部は、吸気口12(例えば遮熱ダミーパネル32の周囲の開放領域51)から内部空間14へと進入する。気体の他の一部は、遮熱ダミーパネル32で反射され、内部空間14に進入しない。
【0067】
上述のように、遮熱ダミーパネル32は熱抵抗部材48を介して放射シールド30に取り付けられているので、遮熱ダミーパネル32は、放射シールド30から熱的に絶縁され、または高い熱抵抗を介して接続されている。そのため、遮熱ダミーパネル32は、クライオポンプ10の運転中に、例えば室温または0℃より高い温度に保持される。遮熱ダミーパネル32は冷凍機16によってほとんど又はまったく冷却されないので、遮熱ダミーパネル32に接触するほとんど又は全ての気体は遮熱ダミーパネル32上に凝縮しない。
【0068】
放射シールド30の表面には、第1冷却温度で蒸気圧が充分に低い(例えば10-8Pa以下の)気体が凝縮する。この気体は、第1種気体と称されてもよい。第1種気体は例えば水蒸気である。こうして、放射シールド30は、第1種気体を排気することができる。第1冷却温度で蒸気圧が充分に低くない気体は、放射シールド30で反射され、その一部は、第2段クライオパネルアセンブリ20へと向かう。
【0069】
内部空間14に進入した気体は、第2段クライオパネルアセンブリ20によって冷却される。吸着クライオパネル60の凝縮領域の表面には、放射シールド30で反射された第1種気体が凝縮する。加えて、吸着クライオパネル60の凝縮領域の表面には、第2冷却温度で蒸気圧が充分に低い(例えば10-8Pa以下の)気体が凝縮する。この気体は、第2種気体と称されてもよい。第2種気体は例えば窒素(N)、アルゴン(Ar)である。こうして、第2段クライオパネルアセンブリ20は、第2種気体を排気することができる。
【0070】
第2冷却温度で蒸気圧が充分に低くない気体は、吸着クライオパネル60の吸着領域66に吸着される。この気体は、第3種気体と称されてもよい。第3種気体は例えば水素(H)である。こうして、第2段クライオパネルアセンブリ20は、第3種気体を排気することができる。したがって、クライオポンプ10は、種々の気体を凝縮または吸着により排気し、真空チャンバの真空度を所望のレベルに到達させることができる。
【0071】
実施の形態に係るクライオポンプ10によると、遮熱ダミーパネル32が吸気口12に配置されている。遮熱ダミーパネル32は、シールド冷却温度よりも高いダミーパネル温度となるように、放射シールド30に熱抵抗部材48を介して取り付けられている。このようにして、遮熱ダミーパネル32は、第2段クライオパネルアセンブリ20を輻射熱から保護する機能を提供することができる。吸気口配置のクライオパネルを必須とする典型的なクライオポンプとは異なり、クライオポンプ10は、新規かつ代替的な設計を有する。
【0072】
熱抵抗部材48は、放射シールド30の材料より熱伝導率の低い材料または断熱材料で形成されている。このようにすれば、高い熱抵抗を介して遮熱ダミーパネル32を放射シールド30に接続し、または、遮熱ダミーパネル32を放射シールド30から熱的に絶縁することが容易である。その結果、ダミーパネル温度をシールド冷却温度に比べて顕著に高くすることができる。
【0073】
また、ダミーパネル外面32cの輻射率をダミーパネル内面32dの輻射率より高くすることによって、遮熱ダミーパネル32からクライオポンプ10の外部に向けて排出される熱量を多くすることができる。それとともに、遮熱ダミーパネル32からクライオポンプ10の内部に向かう熱量を少なくすることができる。
【0074】
ダミーパネル温度は、0℃を超える。そのため、遮熱ダミーパネル32は、第1種気体の排気能力を提供しないことが保証される。水分の凝縮による氷層が遮熱ダミーパネル32の表面(例えばダミーパネル外面32c)を覆うことが回避される。したがって、クライオポンプ10の運転中、氷層が形成されたとしたら起こり得る反射率の増加(輻射率の低下)を抑制できる。
【0075】
遮熱ダミーパネル32は冷却される必要が無いので、従来のクライオポンプにおける吸気口配置のクライオパネルのように、純銅などの高熱伝導率金属で形成される必要はない。また、ニッケルなどのめっき処理も不要である。加えて、同様の理由から、遮熱ダミーパネル32は、クライオパネルに比べて薄くてもよい。したがって、遮熱ダミーパネル32は、例えばステンレス鋼などの容易に入手容易な材料を用いてありふれた加工方法で製作することができ、安価である。
【0076】
また、遮熱ダミーパネル32は冷却される必要が無いので、冷凍機16の消費電力を低減することができる。
【0077】
上述の実施の形態では、遮熱ダミーパネル32は、放射シールド30に熱抵抗部材48を介して取り付けられている。しかし、遮熱ダミーパネル32は、シールド冷却温度よりも高いダミーパネル温度となるように、クライオポンプハウジング70に熱的に結合されていてもよい。そのような実施の形態を以下に述べる。
【0078】
図3は、他の実施の形態に係るクライオポンプ10を概略的に示す。図示されるように、吸気口12に配置される遮熱ダミーパネル32は、吸気口フランジ72に取り付けられている。遮熱ダミーパネル32は、図1および図2に示される実施の形態と同様に、吸気口12の中心部に配置されたダミーパネル中心部分32aと、ダミーパネル中心部分32aから径方向外側に延びるダミーパネル取付部32bとを有する。ダミーパネル取付部32bは、例えば、ボルトなどの締結部材またはそのほかの適切な手法で吸気口フランジ72の内周に固定される。
【0079】
このようにして、遮熱ダミーパネル32は、クライオポンプハウジング70に直接に取り付けられ、クライオポンプハウジング70に熱的に結合されている。そのため、遮熱ダミーパネル32は、クライオポンプ10の運転中、シールド冷却温度よりも高いダミーパネル温度となる。したがって、遮熱ダミーパネル32は、第2段クライオパネルアセンブリ20を輻射熱から保護する機能を提供することができる。
【0080】
遮熱ダミーパネル32は、クライオポンプハウジング70に熱的に結合されているから、シールド冷却温度に比べて顕著に高いダミーパネル温度、例えば0℃より高い温度(とくに、室温)に保持することが容易である。また、図1および図2に示される実施の形態のように熱抵抗部材48を要しないので、遮熱ダミーパネル32の取付構造が簡素となりうる点で有利である。
【0081】
遮熱ダミーパネル32は、他の部材を介して吸気口フランジ72に取り付けられ、クライオポンプハウジング70に熱的に結合されてもよい。遮熱ダミーパネル32は、吸気口フランジ72が装着される相手フランジ、または、吸気口フランジ72と相手フランジとの間に挟み込まれるセンターリングに取り付けられてもよい。そのような実施の形態を以下に述べる。
【0082】
図4は、更なる他の実施の形態に係るクライオポンプ10の概略斜視図である。図5は、図4に示されるクライオポンプ10の一部分を概略的に示す部分断面図である。図5には、図1と同様にクライオポンプ中心軸を含む平面によるクライオポンプ10の断面の一部分を示し、吸気口12に配置された遮熱ダミーパネル32とその周囲の部材が示されている。
【0083】
図4および図5に示される実施の形態では、遮熱ダミーパネル32は、吸気口フランジ72が装着される相手フランジ74に取り付けられている。相手フランジ74は、例えば、クライオポンプ10が取り付けられるゲートバルブの真空フランジであってもよい。相手フランジ74は、クライオポンプ10が取り付けられる真空チャンバの真空フランジであってもよい。吸気口フランジ72と相手フランジ74との間にはセンターリング76が設けられている。知られているように、吸気口フランジ72が相手フランジ74に装着されるとき、センターリング76は、吸気口フランジ72と相手フランジ74との間に挟み込まれる。
【0084】
遮熱ダミーパネル32は、相手フランジ74を介して吸気口フランジ72に取り付けられ、クライオポンプハウジング70に熱的に結合されている。このようにしても、遮熱ダミーパネル32は、クライオポンプ10の運転中、シールド冷却温度よりも高いダミーパネル温度、例えば室温となる。したがって、上述の実施の形態と同様に、遮熱ダミーパネル32は、第2段クライオパネルアセンブリ20を輻射熱から保護する機能を提供することができる。
【0085】
図6は、更なる他の実施の形態に係るクライオポンプ10の概略斜視図である。図7は、図6に示されるクライオポンプ10の一部分を概略的に示す部分断面図である。図6には、図1と同様にクライオポンプ中心軸を含む平面によるクライオポンプ10の断面の一部分を示し、吸気口12に配置された遮熱ダミーパネル32とその周囲の部材が示されている。
【0086】
図6および図7に示される実施の形態では、遮熱ダミーパネル32は、センターリング76に取り付けられている。吸気口フランジ72が相手フランジ74に装着されるとき、センターリング76は、吸気口フランジ72と相手フランジ74との間に挟み込まれる。
【0087】
遮熱ダミーパネル32は、センターリング76を介して吸気口フランジ72に取り付けられ、クライオポンプハウジング70に熱的に結合されている。このようにしても、遮熱ダミーパネル32は、クライオポンプ10の運転中、シールド冷却温度よりも高いダミーパネル温度、例えば室温となる。したがって、上述の実施の形態と同様に、遮熱ダミーパネル32は、第2段クライオパネルアセンブリ20を輻射熱から保護する機能を提供することができる。
【0088】
図4から図7を参照して説明した実施の形態では、遮熱ダミーパネル32は、クライオポンプ10の一部を構成するとみなされうる。遮熱ダミーパネル32が取り付けられた相手フランジ74、または当該相手フランジ74を有するゲートバルブなどの真空装置、またはセンターリング76は、クライオポンプ10の付属品として、クライオポンプ製造業者によってユーザに提供されてもよい。
【0089】
遮熱ダミーパネル32がクライオポンプハウジング70に熱的に結合される実施の形態においても、ダミーパネル外面の輻射率は、ダミーパネル内面の輻射率より高くてもよい。
【0090】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【0091】
上述の実施の形態においては、ダミーパネル温度は、クライオポンプ10の運転中、0℃を超えるように保持され、そのため遮熱ダミーパネル32は、第1種気体の排気能力を提供しない。しかし、ある実施の形態においては、遮熱ダミーパネル32は、シールド冷却温度より高く、第1種気体(例えば水蒸気)の凝縮温度より低いダミーパネル温度に冷却されてもよい。このようにして、従来のクライオポンプにおいて吸気口に配置される第1段のクライオパネルほどではないが、遮熱ダミーパネル32は、第1種気体の排気能力をある程度有してもよい。
【0092】
上述の実施の形態においては、遮熱ダミーパネル32は、一枚の板から円盤状に形成されているが、遮熱ダミーパネル32は他の形状も可能である。例えば、遮熱ダミーパネル32は、例えば矩形またはその他の形状のプレートであってもよい。あるいは、遮熱ダミーパネル32は、同心円状または格子状に形成されたルーバーまたはシェブロンであってもよい。
【0093】
上記の説明においては横型のクライオポンプを例示したが、本発明は、縦型その他のクライオポンプにも適用可能である。なお、縦型のクライオポンプとは、冷凍機16がクライオポンプ10の中心軸Cに沿って配設されているクライオポンプをいう。また、クライオパネルの配置や形状、数などクライオポンプの内部構成は、上述の特定の実施形態には限られない。種々の公知の構成を適宜採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、クライオポンプの分野における利用が可能である。
【符号の説明】
【0095】
10 クライオポンプ、 12 吸気口、 30 放射シールド、 32 遮熱ダミーパネル、 32c ダミーパネル外面、 32d ダミーパネル内面、 48 熱抵抗部材、 70 クライオポンプハウジング、 72 吸気口フランジ、 74 相手フランジ、 76 センターリング。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7