(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】温度校正方法
(51)【国際特許分類】
G01K 15/00 20060101AFI20230830BHJP
【FI】
G01K15/00
(21)【出願番号】P 2021086036
(22)【出願日】2021-05-21
【審査請求日】2023-04-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390024729
【氏名又は名称】SEMITEC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100101834
【氏名又は名称】和泉 順一
(72)【発明者】
【氏名】圓山 重直
(72)【発明者】
【氏名】岡部 孝裕
(72)【発明者】
【氏名】井関 祐也
(72)【発明者】
【氏名】野中 崇
(72)【発明者】
【氏名】古川 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】細川 靖
(72)【発明者】
【氏名】折戸 学
【審査官】平野 真樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-248277(JP,A)
【文献】特開2016-191566(JP,A)
【文献】特開2012-013496(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0123822(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準温度センサ及び被校正温度センサの配置部が形成された温度校正ブロック
と、前記温度校正ブロックと熱的に結合される温度制御手段とを備える温度校正装置による温度校正方法であって、前記温度校正ブロックの漸次的な温度変化の移行過程における温度状態を校正温度とすることを特徴とする温度校正方法。
【請求項2】
前記温度校正装置は、前記温度校正ブロックを囲むように真空領域を有し、前記温度校正ブロックを収容する収容部が設けられた真空断熱容器と、前記温度校正ブロックと熱的に結合される
前記温度制御手段としてのペルチェモジュールと、を具備することを特徴とする請求項1に記載の温度校正方法。
【請求項3】
前記真空領域には、断熱材が配設されていることを特徴とする請求項2に記載の温度校正方法。
【請求項4】
前記断熱材の素材は、可撓性を有し輻射層を備えていて、複数層重ねられて断熱材が構成されていることを特徴とする請求項3に記載の温度校正方法。
【請求項5】
前記温度校正ブロックは、略円筒状の径寸法の異なる複数のコアを備えていて、外側のコアの内径内に内側のコアが挿嵌されて構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の温度校正方法。
【請求項6】
前記内側のコアの外周部には、軸方向に挿入溝が形成されており、この挿入溝と外側のコアの内周壁とによって、前記被校正温度センサの配置部が形成されていることを特徴とする請求項5に記載の温度校正方法。
【請求項7】
前記被校正温度センサの配置部は複数形成されており、前記配置部の挿入口の大きさが異なっていることを特徴とする請求項6に記載の温度校正方法。
【請求項8】
前記コアの上端部には配線導出溝が形成されていることを特徴とする請求項5乃至請求項7のいずれか一項に記載の温度校正方法。
【請求項9】
前記温度校正ブロックの配置部に基準温度センサ及び被校正温度センサが配置された状態において、基準温度センサの測温部及び被校正温度センサの測温部は、軸方向において略同位置となることを特徴とする請求項1乃至
請求項8のいずれか一項に記載の温度校正方法。
【請求項10】
前記ペルチェモジュールは、略中央部に貫通孔が形成されていることを特徴とする
請求項2乃至請求項4のいずれか一項に記載の温度校正方法。
【請求項11】
前記ペルチェモジュールは、ペルチェホルダによって保持され、ペルチェモジュールからの熱はペルチェホルダを介して前記温度校正ブロックへ伝熱されることを特徴とする
請求項2に記載の温度校正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度校正装置による温度校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品又は薬剤の製造のように安全性が重視される分野を含み、ほとんどの産業分野における製造工程では、温度を正確に制御する必要がある。また、最終的な製品品質に影響を与えかねない品質管理システムにおいても温度計測の正確性が重要となっている。
したがって、温度を制御したり計測したりするために用いられる温度センサを校正する必要がある。
【0003】
従来、温度センサとしての基準温度計及び被校正温度計によって温度を比較校正する温度校正装置が提案されている。この従来の温度校正装置は、基準温度計及び被校正温度計を、熱平衡状態の一定温度に保持された温度校正ブロックに配置して被校正温度計の温度を校正するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-78039号公報
【文献】特開2007-232651号公報
【文献】特開2016-191566号公報
【文献】実開平4-18329号公報
【文献】特許第4714850号公報
【文献】特開2005-147935号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のような従来の温度校正方法では、温度校正ブロックを一定温度に保持する手段としては、液化ガス、冷凍機や電気ヒータ等が用いられており、温度校正ブロック内が熱平衡状態となるまでには、一般的に長い時間を要する。さらに、一定温度を保持するため、装置の構成が複雑化する虞がある。また、温度校正ブロックを一定及び一様の温度に保持する均熱化が難しいため、温度の校正精度は十分ではなく、温度の校正が効率的に行われないという問題が生じる。
【0006】
本発明の実施形態は、温度の多点校正を短時間で効率的に行うことができるとともに温度の多点を校正することで校正温度範囲の校正精度を向上することが可能な温度校正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態による温度校正方法は、基準温度センサ及び被校正温度センサの配置部が形成された温度校正ブロックと、前記温度校正ブロックと熱的に結合される温度制御手段とを備える温度校正装置による温度校正方法であって、前記温度校正ブロックの漸次的な温度変化の移行過程における温度状態を校正温度とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施形態によれば、温度の校正を短時間で効率的に行うことができるとともに温度の校正精度を向上することが可能な温度校正方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る温度校正装置を示す構成図である。
【
図2】被校正温度センサを示し、(a)は斜視図、(b)は断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る温度校正方法の概念を従来との比較において説明するためのグラフである。
【
図4】同温度校正方法の概念を説明するためのグラフである。
【
図6】同温度校正方法における被校正温度センサの温度校正データを示すグラフである。
【
図7】本発明の実施形態に係る温度校正装置を示す斜視図である。
【
図9】同温度校正装置における温度校正ブロック及びペルチェモジュールを取り出して示す斜視図である。
【
図10】同温度校正装置における温度校正ブロック及びペルチェモジュールを取り出して示す分解斜視図であ
る。
【
図11】同温度校正装置における温度校正ブロックを示す分解斜視図である。
【
図12】同温度校正装置を示す縦断面図及び上面図である。
【
図13】(a)は
図12中、A-A線に沿い、(b)は
図12中、B-B線に沿い、(c)は
図12中、C-C線に沿う断面図である。
【
図14】同温度校正装置における温度校正ブロックのコアを示す正面図及び上面図である。
【
図15】同温度校正装置におけるペルチェホルダ(下ホルダ)を示す正面図及び上面図である。
【
図16】同じく、ペルチェホルダ(上ホルダ)を示す正面図及び上面図である。
【
図18】同温度校正装置における温度校正ブロックの温度分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る温度校正方法について
図1乃至
図6を参照して説明する。
図1は、温度校正装置を示す構成図であり、
図2は、被校正温度センサを示す斜視図及び断面図であり、
図3及び
図4は、温度校正方法の概念を説明するためのグラフである。
図5は、温度校正方法を示すフロー図であり、
図6は、被校正温度センサの温度校正データを示すグラフである。なお、
図2では、各部を認識可能な大きさとするために、各部の縮尺を適宜変更している。
本実施形態の温度校正方法は、基準温度センサとしての基準温度計及び被校正温度センサとしてのサーミスタによって温度を比較校正するものである。
【0011】
図1に示すように温度校正装置10は、温度校正ブロック2と、温度制御手段3とを備えている。また、温度校正装置10には制御処理手段101が接続されている。
【0012】
温度校正ブロック2は、高熱伝導率を有して熱伝導性が良好な材料から形成され、基準温度センサとしての基準温度計及び被校正温度センサとしてのサーミスタの配置部が形成されていて、基準温度計及びサーミスタが配置されるブロックである。
【0013】
温度制御手段3は、温度校正ブロック2と熱的に結合されており、温度校正ブロック2の温度を制御するものであり、例えば、ペルチェモジュールやヒータ等が用いられる。
【0014】
制御処理手段101は、入力部及び出力部を有していて、温度校正ブロック2の温度を監視して制御したり、基準温度計及びサーミスタのデータを取得したりして、温度校正装置10全体の制御を実行する。
【0015】
図2に示すように被校正温度センサは、薄膜サーミスタTである。薄膜サーミスタTは、素子基板T
11と、この基板T
11上に形成された導電層T
12と、薄膜素子層T
13と、保護絶縁層T
14とを備えている。
【0016】
素子基板T11は、略長方形状をなしていて、絶縁性のアルミナ材料で形成されている。なお、基板T11を形成する材料は、窒化アルミニウム、ジルコニア等のセラミックス又は半導体のシリコン、ゲルマニウム等の材料を用いてもよい。基板T11は極薄で厚さ寸法が50μm~150μm、好ましくは100μm以下に形成されている。
このような極薄の基板T11を薄膜サーミスタに用いることで、熱容量が小さくなり高感度で、かつ熱応答性の優れた感温素子の実現が可能となっている。
【0017】
導電層T12は、配線パターンを構成するものであり、基板T11上に形成されている。導電層T12は、金属薄膜をスパッタリング法によって成膜して形成されものである。また、基板T11の両端部には、導電層T12と一体的に、導電層T12と電気的に接続された一対の電極部T12aが形成されている。
【0018】
薄膜素子層T
13は、サーミスタ組成物であり、負の温度係数を有する酸化物半導体から構成されている。薄膜素子層T
13は、前記導電層T
12の上に、スパッタリング法等によって成膜して導電層T
12と電気的に接続されている。なお、薄膜素子層は、正の温度係数を有する酸化物半導体から構成してもよい。保護絶縁層T
14は、薄膜素子層T
13及び導電層T
12を被覆するように形成されている。保護絶縁層T
14は、ホウケイ酸ガラスによって形成された保護ガラス層である。また、前記電極部T
12aには、金属製のリード線T
12bが溶接によって接合されて電気的に接続されている。
次に、
図3及び
図4を参照して温度校正方法の概念について説明する。
【0019】
図3において、横軸は時間(h)を示し、縦軸は温度校正ブロックの温度(℃)を示している。また、図中、左側は従来の温度校正方法を示し、右側は本実施形態の温度校正方法を示している。
【0020】
まず、従来の温度校正方法は、温度校正ブロックの熱平衡状態で校正を行う定常比較法である。具体的には、温度校正ブロックの温度を例えば、30℃、35℃、40℃・・・に設定し、設定した一定の温度状態、つまり、熱平衡状態になるまで待機して校正を行うものである。したがって、定常比較法では、5℃ごとに30℃から60℃まで、7点で校正を行う場合、約20時間の時間を要することとなる。このように多点の校正には時間がかかるので一般的な温度校正は2点から6点校正が一般的に実施されている。
【0021】
一方、本実施形態の温度校正方法は、温度校正ブロックが熱平衡状態に至ることなく、漸次的な温度変化の移行過程における温度状態で校正を行う非定常比較法である。したがって、温度校正ブロックの温度が熱平衡状態になるまで待機する必要はなく、温度校正ブロックを漸次的に異なる校正温度に制御して、短時間で校正を行うことが可能となる。なお、図においては、温度校正ブロックを自然冷却した場合の漸次的な温度変化の移行過程の温度カーブを示している。漸次的な温度変化の移行過程における温度状態で校正を行うことで10点以上の多点の校正が容易に実現できる。
【0022】
本発明の漸次的な温度変化の移行過程における温度状態である図の温度カーブは60℃~30℃に冷却するときの時間は約30時間であり、1時間で1℃変化している。熱平衡状態ではないが校正する熱時定数の小さい温度センサに対しては熱平衡状態と同等の熱的な安定状態とみなすことができることを確認している。
【0023】
図4において、横軸は時間を示し、縦軸は温度校正ブロックの温度(℃)を示しており、温度校正ブロックの漸次的な温度変化、つまり、昇温の場合又は降温の場合の温度の移行過程を示している。本実施形態の温度校正方法は、このように昇温の場合又は降温の場合の移行過程の温度を校正温度として校正を実行する。この温度校正ブロックの昇温状態又は降温状態は、温度制御手段3によって制御することが好ましいが、自然冷却によって降温状態とする場合であってもよい。
次に、温度校正方法の一例について
図5を参照し説明する。
【0024】
温度校正ブロック2の配置部に基準温度計及び被校正温度センサとして薄膜サーミスタTを配置する(S1)。温度制御手段3の設定により温度校正ブロック2を所定の温度に昇温する(S2)。温度校正ブロック2は設定された所定の温度に昇温していく。この温度校正ブロック2が所定の温度に到達する(熱平衡状態)前における漸次的な温度上昇の移行過程における温度状態を校正温度とする。校正温度は多数の温度点(多点)をとらえて校正することが可能である(S3)。これは、薄膜サーミスタTは、熱時定数が小さく、熱応答性に優れていて、分解能が高いことに起因している。つまり、分解能に対応した多数の温度点での校正が可能となる。
【0025】
次いで、基準温度計と被校正温度センサの薄膜サーミスタTとの関係、つまり、基準温度計の温度と薄膜サーミスタTの抵抗値との相関関係のデータを取得し(S4)、基準温度計の温度と被校正温度センサの薄膜サーミスタTの抵抗値の校正曲線を作成し温度校正を行う(S5)。
【0026】
なお、本例は、温度制御手段3の設定により温度校正ブロック2を昇温状態にする場合について説明したが、温度制御手段3の設定により温度校正ブロック2を降温状態にする場合であっても勿論適用可能である。
【0027】
続いて、多数の温度点をとらえて校正する場合の校正データの一例について
図6を参照して説明する。
図6は温度校正ブロック(基準温度計)の40℃付近の詳細なデータを示すものであり、横軸は温度(℃)、縦軸は薄膜サーミスタTの抵抗値(Ω)を示している。校正データは、薄膜サーミスタTについて4回繰り返し測定した結果を示している。39.99℃~40.01℃の校正データであり、この温度範囲において40の温度点での校正が可能であることを示している。4回の繰り返し測定した結果では、各回の比較において微差に過ぎないことが分かる。
【0028】
なお、本実施形態の非定常比較法による温度校正方法では、温度制御手段3の制御により1時間で1℃の温度変化が可能であり、この場合4000の温度点での校正が可能である。したがって、多数の温度点をとらえて連続的に校正することができ、校正精度を著しく向上することができる。また、例えば、サーミスタを用いる電子体温計では、温度範囲を32℃~42℃として40000の温度点での校正が可能である。
以上のように本実施形態によれば、温度の校正を短時間で効率的に行うことができるとともに温度の校正精度を向上することができる。
【0029】
加えて、被校正温度センサとしてのサーミスタを顧客に提供する場合、サーミスタとともに、多数の温度点、例えば少なくとも20以上の温度点での温度校正データを付属して、温度校正データ付きサーミスタとして提供することにより、顧客の有効利用に資することができる。
【0030】
次に、本実施形態による温度校正方法を好適に実現する温度校正装置について
図7乃至
図18を参照して説明する。
図7及び
図8は、温度校正装置を示す斜視図及び分解斜視図であり、
図9及び
図10は、温度校正ブロック及びペルチェモジュールを取り出して示す斜視図及び分解斜視図であり、
図11は、温度校正ブロックを示す分解斜視図である。
図12は、温度校正装置を示す縦断面図及び上面図であり、
図13は、温度校正装置を示す横断面図である。
図14は、温度校正ブロックのコアを示す正面図及び上面図であり、
図15及び
図16は、ペルチェホルダを示す正面図及び上面図であり、
図17は、断熱材を模式的に示す断面図である。また、
図18は、温度校正ブロックの温度分布を示すグラフである。
なお、各図においてはリード線等の配線関係の図示は省略している。また、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略している場合がある。
【0031】
まず、
図7乃至
図11を参照して温度校正装置の基本的な構成について説明する。本実施形態の温度校正装置は、基準温度センサとしての基準温度計及び被校正温度センサとしてのサーミスタによって温度を比較校正するものである。基準温度計5は、国際温度目盛が定める方法に従い校正された白金抵抗温度計を用いている(
図12参照)。また、サーミスタは、例えば薄膜サーミスタである。
【0032】
図7及び
図8に示すように温度校正装置10は、真空断熱容器1と、この真空断熱容器1の中に収容される温度校正ブロック2と、温度制御手段としてのペルチェモジュール3とを備えている。温度校正装置10は、略円筒状をなしていて径寸法がφ150mmであり、高さ寸法が360mm程度の大きさである。
【0033】
真空断熱容器1は、温度校正装置10の外観を構成するものであり、ステンレス鋼の薄肉材料により略円筒状に形成されていて、外円筒部11及び内円筒部12を有している。
【0034】
外円筒部11は、外周側壁11aと、この外周側壁11aの底面を形成する円形状の底壁11bと、外周側壁11aの上面を形成するリング状の上壁11cとによって構成されている。内円筒部12は、有底筒状であり、外周側壁12aと、外周側壁12aの底面を形成する円形状の底壁12bとによって構成され、上部に円形状の開口部12cが形成されている。この内円筒部12は、開口部12cの縁部が外円筒部11のリング状の上壁11cに溶接等によって接合されている。
【0035】
したがって、外円筒部11と内円筒部12とによって、内円筒部12の外周側には、密閉的な空間領域、つまり、真空領域Vaが形成されるようになっている。外円筒部11の上部側には真空ポンプが接続される接続口としての真空フランジ11dが形成されている。この真空フランジ11dに真空ポンプを接続して、真空ポンプを動作させることにより真空領域Vaを真空状態とすることができる。なお、真空領域Vaには、後述する断熱材が配設されるようになっている。
【0036】
内円筒部12には、温度校正ブロック2と、この温度校正ブロック2と熱的に結合されるペルチェモジュール3とが連結された状態で挿入される。具体的には、温度校正ブロック2とペルチェモジュール3とが連結された部材230は、内円筒部12の開口部12cから底壁12bへ向かって挿入され配置される。
【0037】
また、部材230には、天板13が連結され固定されるようになっている。したがって、温度校正ブロック2、ペルチェモジュール3及び天板13は、ねじ等の固定手段によって一体的に連結され、また、熱的に結合されるようになっている。
【0038】
天板13は、略円形状であり、アルミニウム合金等の熱伝導性が良好な材料で形成されていて、真空断熱容器1の上面に配置される。また、天板13には、略コ字状に形成された一対の取出しハンドル13aが設けられており、さらに、後述する配線の導出孔等が形成されている。
【0039】
したがって、内円筒部12は、真空断熱容器1における温度校正ブロック2を収容する収容部を構成しており、取出しハンドル13aを操作することにより、温度校正ブロック2を内円筒部12である収容部に挿入して収容したり、収容部から取り出したりすることができる。
【0040】
図9乃至
図11を併せて参照して示すように温度校正ブロック2は、高熱伝導率を有して熱伝導性が良好な材料から形成され、基準温度センサとしての基準温度計及び被校正温度センサとしてのサーミスタが配置されて、一定の温度に保持されるブロックである。
【0041】
具体的には、
図11に代表して示すように温度校正ブロック2は、複数のコア、すなわち、第1の金属コア21、第2の金属コア22、第3の金属コア23及び第4の金属コア24を備えている。各金属コア21~24は、銅やアルミニウム等の熱伝導性が良好な材料によって径寸法の異なる略円筒状に形成されていて、第1の金属コア21の内径内に第2の金属コア22が挿嵌され、第2の金属コア22の内径内に第3の金属コア23が挿嵌され、第3の金属コア23の内径内に第4の金属コア24が挿嵌されて温度校正ブロック2が構成される。つまり、温度校正ブロック2は、略円筒状の径寸法の異なる複数のコアを備えていて、外側のコアの内径内に内側のコアが挿嵌されている構成である。
【0042】
ペルチェモジュール3は、熱電素子であるペルチェ素子を有するモジュールである。ペルチェ素子はペルチェ効果を利用するものであり、直流電流を流すことにより一方の面が吸熱面となり、他方の面が放熱面となる半導体素子である。電流の向きを逆転させることにより吸熱面と放熱面とが反転する。ペルチェモジュール3は、丸型であり略中央部に円形状の貫通孔3aを有し、図示しないリード線が導出されている。
【0043】
このようなペルチェモジュール3は、ペルチェホルダである下ホルダ31及び上ホルダ32に挟持され保持されて温度校正ブロック2側に取り付けられる。下ホルダ31及び上ホルダ32は、熱伝導性が良好な例えば、アルミニウム材料から形成されていて、フランジ部を有して短円筒状をなしている。
【0044】
下ホルダ31は、上面がペルチェモジュール3の面と略同一形状をなし、略中央部に円形状の貫通孔31aが形成され、下面側にはフランジ部31bが形成されている。また、フランジ部31bには、下ホルダ31を温度校正ブロック2側に取り付けて結合するためのねじ孔や貫通孔が形成されている。
【0045】
上ホルダ32は、下面がペルチェモジュール3の面と略同一形状をなし、略中央部に円形状の貫通孔32aが形成され、上面側にはフランジ部32bが形成されている。また、フランジ部32bには、上ホルダ32と下ホルダ31との間にペルチェモジュール3を挟んで、上ホルダ32を温度校正ブロック2側に取り付けて結合するための取付けねじSLが貫通する貫通孔が形成されている。
なお、下ホルダ31の上面及び下面には、伝熱体Htを設けるのが好ましい。具体的には、伝熱体Htは変性シリコーン等の伝熱グリスであり、この伝熱グリスに熱伝導率の高い金属や金属酸化物のフィラーを混入したものであることが望ましい。これによりペルチェモジュール3と下ホルダ31との接合面が形成され、ペルチェモジュール3の熱を下ホルダ31から温度校正ブロック2へと効率的に伝熱することができる。
【0046】
再び、
図7及び
図8に代表して示すように温度校正ブロック2、ペルチェモジュール3及び天板13は、機械的に連結され熱的に結合されている。したがって、温度校正ブロック2は、既述のように取出しハンドル13aを把持して操作することにより、真空断熱容器1の収容部に挿入して収容したり、収容部から取り出したりすることができる。また、ペルチェモジュール3から発生する熱は、下ホルダ31を介して温度校正ブロック2の上面側へ伝熱され、一方、上ホルダ32を介して天板13側へ放熱される。
【0047】
さらに、温度校正ブロック2は、真空断熱容器1の真空領域Vaに囲まれるように真空断熱容器1に収容されるので、温度校正ブロック2は高い断熱状態に保持されるようになる。
次に、
図12乃至
図18を参照して温度校正装置の詳細な構成について説明する。
【0048】
図12及び
図13に示すように真空断熱容器1の内円筒部12は、温度校正ブロック2を収容する収容部を構成しており、この収容部(内円筒部12)の外周囲には、真空領域Vaが形成されている。また、真空領域Va内、詳しくは内円筒部12の外周囲と外円筒部11の内周囲との間には、収容部の内円筒部12を覆うように断熱材4が配設されている。
【0049】
断熱材4は、高性能の輻射シールドの機能を有し、この断熱材4の素材は、
図17に示すように例えば、不織布の基材層41に、両面にアルミニウムが蒸着された反射層42を有する輻射層43が積層されて構成されている。輻射層43は樹脂層であり、ポリエステル樹脂等で形成されている。因みに、基材層41の厚さ寸法は7μm~11μm、輻射層43の厚さ寸法は9μm~15μmであり、層厚寸法は16μm~26μm程度である。
【0050】
この素材は可撓性を有するシート状であってテープ状のものであり、真空領域Vaに適合するように形状等を形成し、複数層、具体的には10層~20層重ねられて内円筒部12を巻回して覆うように配設されている。なお、輻射シールドの機能を効果的に発揮するためには、輻射層43側が内円筒部12側に対向するように配置するのが好ましい。
【0051】
天板13は、真空断熱容器1の上面に接触して配置されている。天板13の略中央部には、基準温度計5の挿入孔13bやサーミスタの配線を取り出す配線導出孔13cが形成されている。なお、基準温度計5の挿入孔13bは、後述するペルチェモジュール3の温度を制御するサーミスタの配線導出孔としても兼用されている。
【0052】
図14を併せて参照して示すように温度校正ブロック2は、第1の金属コア21、第2の金属コア22、第3の金属コア23及び第4の金属コア24から構成されている。これら金属コア21、22、23、24は略円筒状であり、基準温度センサとしての基準温度計5及び被校正温度センサとしてのサーミスタの軸方向に長い配置部25が形成されている。
【0053】
第1の金属コア21は、有底の中空円筒状であり、上端部には対向して面積が小さく狭隘な一対の配線導出溝211が形成され、底部には第4の金属コア24の位置決め用凹部212が形成されている。配線導出溝211は、主として被校正温度センサとしてのサーミスタのリード線等の配線を取り出す通路として用いられる。
【0054】
第2の金属コア22は、中空円筒状であり、円環状の上端部には対向して面積が小さく狭隘な一対の配線導出溝221が形成され、外周部には軸方向に上部から底部に亘って複数の挿入溝222が形成されている。具体的には、挿入溝222は円周上45度の等間隔を空けて8つ形成されている。この第2の金属コア22の外周の径寸法は、第1の金属コア21の内周の径寸法と略同等であり、第2の金属コア22は第1の金属コア21の内周内に緊密に接触して挿嵌されるようになっている。したがって、第2の金属コア22の挿入溝222と第1の金属コア21の内周壁とによってサーミスタの配置部251が形成される(
図13(c)参照)。
【0055】
第3の金属コア23は、同様に中空円筒状であり、円環状の上端部には対向して一対の配線導出溝231が形成され、外周部には軸方向に上部から底部に亘って複数の挿入溝232が形成されている。挿入溝232は円周上45度の等間隔を空けて8つ形成されている。この第3の金属コア23の外周の径寸法は、第2の金属コア22の内周の径寸法と略同等であり、第3の金属コア23は第2の金属コア22の内周内に緊密に接触して挿嵌されるようになっている。したがって、第3の金属コア23の挿入溝232と第2の金属コア22の内周壁とによってサーミスタの配置部252が形成される。
【0056】
第4の金属コア24は、概略としては中実円筒状であり、中央部に上端部から底部に亘って挿入孔240が形成されており、また、外周部には軸方向に上部から底部に亘って複数の挿入溝242が形成されている。挿入孔240は、基準温度計5の配置部250として機能する。挿入溝242は円周上90度の等間隔を空けて4つ形成されている。この第4の金属コア24の外周の径寸法は、第3の金属コア23の内周の径寸法と略同等であり、第4の金属コア24は第3の金属コア23の内周内に緊密に接触して挿嵌されるようになっている。したがって、第4の金属コア24の挿入溝242と第3の金属コア23の内周壁とによってサーミスタの配置部253が形成される。また、第4の金属コア24の底部には凸部243が形成されており、前記第1の金属コア21の位置決め用凹部212に嵌合して位置が定まるようになっている。
【0057】
以上のような構成において、第1の金属コア21、第2の金属コア22、第3の金属コア23及び第4の金属コア24の複数のコアの相対的な関係は、外側の中空円筒状のコアの内周壁に、内側の円筒状のコアの外周壁が接し、内側のコアの挿入溝と外側のコアの内周壁とによって被校正温度センサの配置部25が形成される関係にある。
【0058】
また、
図13(c)に代表して示すように各サーミスタの配置部251、252及び253は、その挿入口の大きさが異なっている。したがって、サイズや種類の異なるサーミスタ等の被校正温度センサを配置することが可能となる。
【0059】
さらに、第4の金属コア24の挿入孔240は、ペルチェモジュール3の下ホルダ31の貫通孔31a、ペルチェモジュール3の貫通孔3a、上ホルダ32の貫通孔32a及び天板13の挿入孔13bと連続して貫通状態となっていて、基準温度計5を天板13の挿入孔13bから第4の金属コア24の挿入孔240へ配置できるようになっている。
【0060】
さらにまた、各配線導出溝211、221及び231から被校正温度センサとしてのサーミスタのリード線等の配線が外部へ取り出されるので、配線を通じてサーミスタから温度校正ブロック2に熱が侵入するのを抑制することができる。
【0061】
ペルチェモジュール3は、既述のように下ホルダ31及び上ホルダ32に挟持されて温度校正ブロック2側に取り付けられる。
図15に示すように下ホルダ31のフランジ部31bには、対向して一対の外側へ開放する切欠き31cが形成されている。この切欠き31cは、被校正温度センサとしてのサーミスタの配線が通る通路として機能する。また、下ホルダ31には、ペルチェモジュール3の図示しない温度制御用サーミスタが配置される配置孔31dが形成されている。配置孔31dは外周から中央部へ向かって貫通孔31aまで形成されている。温度制御用サーミスタは、ペルチェモジュール3の温度を感知し所定の温度に制御する機能を有している。
【0062】
図16に示すように上ホルダ32のフランジ部32bには、同様にサーミスタの配線が通る通路として、対向して一対の外側へ開放する切欠き32cが形成されている。
【0063】
次に、温度校正装置10の使用手順(温度校正方法)について、主として
図12を参照して説明する。まず、前提として真空断熱容器1の真空領域Vaは真空状態となっているものとする。また、温度校正装置10には、温度校正装置10から導出される配線が接続され、温度校正装置10の制御を実行するマイクロコンピュータ等の制御処理手段が接続されている。
(1)天板13の取出しハンドル13a把持して操作し、温度校正ブロック2を真空断熱容器1の収容部から取り出す。
【0064】
(2)温度校正ブロック2とペルチェホルダ(下ホルダ31及び上ホルダ32)とを分離し、温度校正ブロック2に被校正温度センサのサーミスタ及び基準温度計5を配置する。具体的には、被校正温度センサのサーミスタをサーミスタの配置部25に挿入して配置するとともに、基準温度計5を配置部250に挿入して配置する。この場合、基準温度計5の測温部とサーミスタの測温部とは、軸方向(垂直方向)において略同位置に位置され、各金属コア21、22、23及び24の底部近傍であることが望ましい。また、配置部25及び配置部250に、絶縁性及び良好な熱伝導性を有するシリコーンオイル等の液体を入れ、その中に被校正温度センサ及び基準温度計5を挿入することにより、配置部25及び配置部250の内部温度を均一にして温度校正の精度を向上させることができる。
(3)温度校正ブロック2にペルチェホルダを固定し、再び温度校正ブロック2を真空断熱容器1の収容部に収容する。
(4)ペルチェモジュール3を加熱し、所定の温度まで昇温する。
【0065】
(5)ペルチェモジュール3の加熱により、温度校正ブロック2が所定の温度に到達する(熱平衡状態)前における漸次的な温度上昇の移行過程における温度状態で準平衡状態を校正温度として、多数の温度点をとらえる。
【0066】
(6)温度校正ブロック2(基準温度計5)と被校正温度センサのサーミスタとの関係、つまり、基準温度計5の温度(校正温度)とサーミスタの抵抗値との相関関係のデータを取得する。なお、その後、ペルチェモジュール3の加熱温度を再度制御し、温度校正ブロック2を例えば、段階的に異なる校正温度に制御してもよい。
【0067】
(7)前記(6)の操作を繰り返し実行し、基準温度計5の温度と被校正温度センサのサーミスタの抵抗値のテーブル表、すなわち、校正曲線を作成し温度校正を行う。
以上のように本実施形態によれば、簡単な構成で、温度の校正精度を向上できるとともに効率的な温度の校正を行うことが可能となる。
【0068】
具体的には、ペルチェモジュール3を用いているので、ペルチェモジュール3からの熱は、下ホルダ31を経由して温度校正ブロック2の上面に伝熱され、簡単な構成により温度校正ブロック2の校正可能な温度分布にする制御を短時間で達成することができる。また、校正温度が環境温度より低い場合や高い場合でも温度校正ブロック2内部の温度分布を著しく小さくすることができる。
【0069】
さらに、温度校正ブロック2は、真空断熱容器1の真空領域Vaに囲まれるようになっているので、真空の断熱性と断熱材4による断熱性との相乗効果により、高い断熱性が確保され、温度校正ブロック2を校正可能な温度分布にする制御を短時間で達成することが可能となる。
【0070】
基準温度計5及び被校正温度センサのサーミスタは、軸方向については軸方向に長い配置部25により、半径方向については真空領域Vaによって温度校正ブロック2の外周の熱伝達率は非常に小さく抑えられて、温度校正ブロック2のビオ数は著しく小さくなっている。そのために、温度校正ブロック2の内部の温度分布は非常に均質に保たれることから、被校正温度センサの温度校正を正確に実施することができる。
【0071】
図18に示すようにペルチェモジュール3の制御を開始してから短時間で温度校正ブロック2の上部と下部の温度を準平衡状態にすることができ、短時間で温度校正を行うことが可能となる。
加えて、温度校正ブロック2を段階的に異なる校正温度に制御することができるので、複数温度の温度校正が1回の温度校正の操作で連続的に実施可能となる。
【0072】
なお、上記温度校正装置ついて、例えば、ペルチェモジュールは丸型のものに限らない。角型のものを用いてもよい。また、常温近傍では上述の実施形態の方法で温度校正が可能であるが、より低温の温度校正では、天板を氷やドライアイス、冷媒、液体窒素などで冷却することにより、温度校正ブロックを低温にして低温の温度校正が可能となる。
【0073】
さらに、温度校正ブロックを構成するコアは、金属材料が好ましいが、所定の熱伝導率が確保できれば樹脂であってもよい。樹脂に熱伝導率の高いフィラーを混入したものが適用できる。
【0074】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。また、上記実施形態は、一例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0075】
1・・・・・・真空断熱容器
2・・・・・・温度校正ブロック
3・・・・・・温度制御手段(ペルチェモジュール)
3a・・・・・貫通孔
4・・・・・・断熱材
43・・・・・輻射層
5・・・・・・基準温度計
10・・・・・温度校正装置
101・・・・制御処理手段
11・・・・・外円筒部
12・・・・・内円筒部(収容部)
13・・・・・天板
21・・・・・第1の金属コア
22・・・・・第2の金属コア
23・・・・・第3の金属コア
24・・・・・第4の金属コア
25・・・・・配置部
31・・・・・ペルチェホルダ(下ホルダ)
32・・・・・ペルチェホルダ(上ホルダ)
211、221、231・・・配線導出溝
222、232、242・・・挿入溝
T・・・・・・被校正温度センサ(薄膜サーミスタ)
Va・・・・・真空領域