(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法およびその利用
(51)【国際特許分類】
C08J 3/12 20060101AFI20230830BHJP
【FI】
C08J3/12 101
C08J3/12 CFD
(21)【出願番号】P 2021553683
(86)(22)【出願日】2020-10-29
(86)【国際出願番号】 JP2020040643
(87)【国際公開番号】W WO2021085534
(87)【国際公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2019199010
(32)【優先日】2019-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020009334
(32)【優先日】2020-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】西中 智哉
(72)【発明者】
【氏名】出口 直樹
(72)【発明者】
【氏名】服部 準
(72)【発明者】
【氏名】平野 優
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/070492(WO,A1)
【文献】特表2000-502375(JP,A)
【文献】特開平01-203223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ポリヒドロキシアルカン酸およびアルキレンオキサイド系分散剤を含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液を調製する工程、および
(b)前記工程(a)で調製した水性懸濁液を噴霧乾燥する工程、を含
み、
前記アルキレンオキサイド系分散剤が、ポリ(エチレンオキサイド)(PEO)のブロックと、ポリ(プロピレンオキサイド)(PPO)のブロックとから構成され、PEO-PPO-PEOの形態であり、PEO分子量が1500以上であり、かつ、PEO分子量/PPO分子量が0.5~5.0である、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)で調整する水性懸濁液が、バインダーをさらに含む、請求項1に記載の
ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【請求項3】
前記バインダーの2wt%バインダー水溶液のせん断粘度が、1.0Pa・s以下である、請求項2に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【請求項4】
前記分散剤が、下記の式(1)で示される化合物である、請求項1~
3のいずれか1項に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【化1】
(式中、Xは、17~340であり、Yは、8~115であり、Zは、17~340である。)
【請求項5】
前記工程(a)で調製する水性懸濁液におけるポリヒドロキシアルカン酸の濃度が、30重量%以上65重量%以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【請求項6】
前記バインダーは、修飾セルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、デンプン、デキストリン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、キトサンおよびゼラチンからなる群より選択されるいずれかである、請求項2または3に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【請求項7】
ポリヒドロキシアルカン酸およびアルキレンオキサイド系分散剤を含み、かつ、pHが7以下であ
り、
前記アルキレンオキサイド系分散剤が、ポリ(エチレンオキサイド)(PEO)のブロックと、ポリ(プロピレンオキサイド)(PPO)のブロックとから構成され、PEO-PPO-PEOの形態であり、PEO分子量が1500以上であり、かつ、PEO分子量/PPO分子量が0.5~5.0である、噴霧乾燥用水性懸濁液。
【請求項8】
バインダーをさらに含む、請求項
7に記載の噴霧乾燥用水性懸濁液。
【請求項9】
前記バインダーは、修飾セルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、デンプン、デキストリン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、キトサンおよびゼラチンからなる群より選択されるいずれかである、請求項
8に記載の噴霧乾燥用水性懸濁液。
【請求項10】
ポリヒドロキシアルカン酸、アルキレンオキサイド系分散剤およびバインダーを含み、
圧縮度が30%未満であ
り、
前記アルキレンオキサイド系分散剤が、ポリ(エチレンオキサイド)(PEO)のブロックと、ポリ(プロピレンオキサイド)(PPO)のブロックとから構成され、PEO-PPO-PEOの形態であり、PEO分子量が1500以上であり、かつ、PEO分子量/PPO分子量が0.5~5.0である、ポリヒドロキシアルカン酸粉体。
【請求項11】
前記バインダーは、修飾セルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、デンプン、デキストリン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、キトサンおよびゼラチンからなる群より選択されるいずれかである、請求項
10に記載のポリヒドロキシアルカン酸粉体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリヒドロキシアルカン酸(以後、「PHA」と称する場合がある。)は、生分解性を有することが知られている。
【0003】
微生物が生成するPHAは、微生物の菌体内に蓄積されるため、PHAをプラスチックとして利用するためには、微生物の菌体内からPHAを分離・精製する工程が必要となる。PHAを分離・精製する工程では、PHA含有微生物の菌体を破砕もしくはPHA以外の生物由来成分を可溶化した後、得られた水性懸濁液からPHAを取り出す。このとき、例えば、遠心分離、ろ過、乾燥等の分離操作を行う。乾燥操作には、噴霧乾燥機、流動層乾燥機、ドラムドライヤー等が用いられるが、操作が簡便であることから、好ましくは噴霧乾燥機が用いられる。
【0004】
これまで、本発明者は、pH7以下の水性懸濁液中でのPHAの凝集を防止するために、水性懸濁液のpHを7以下に調整する前にポリビニルアルコール(PVA)を分散剤として添加し、その後、得られたpH7以下の水性懸濁液を噴霧乾燥する技術を開発している(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1の技術は優れたものであるが、さらなる改善の余地もある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、高い生産性でPHA(例えば、PHA粉体)を得ることができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、(i)特定の分散剤を用いることにより、水性懸濁液のpHを7以下に調整する際に、PHAの凝集を防ぐことができ、かつ、粉体加工の際の押出機の軸への付着も抑制できる、(ii)バインダーをさらに添加することにより、流動性が改善されたPHAが得られる、との新規知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
したがって、本発明の一態様は、(a)ポリヒドロキシアルカン酸およびアルキレンオキサイド系分散剤を含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液を調製する工程、および(b)前記工程(a)で調製した水性懸濁液を噴霧乾燥する工程、を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法である。また、本発明の別の一態様は、(a)ポリヒドロキシアルカン酸、アルキレンオキサイド系分散剤およびバインダーを含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液を調製する工程、および(b)前記工程(a)で調製した水性懸濁液を噴霧乾燥する工程、を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、高い生産性でPHA(例えば、PHA粉体)を得ることができる製造方法を提供することができる。また、本発明の別の一態様によれば、高い生産性に加えて、優れた流動性を有するPHA(例えば、PHA粉体)を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施例1~7および比較例1~3における、分散剤中のEO量およびEO量/PO量と、せん断粘度と、の関連を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0013】
[本発明の概要]
(発明1)
本発明者は、PHAの製造についてさらに研究を進めるうちに、上述した特許文献1の方法では、得られたPHA粉体を加工する際にPHA粉体が押し出し機内の軸に付着するという新たな問題が生じることを見出した。本発明者は、この原因について解析を進めたところ、分散剤であるPVAに由来するものであると考えられた。一方、PVAを添加しなければ、pH7以下に調整された水性懸濁液中でPHAが凝集し、粘度が増加することにより、噴霧乾燥機への送液が困難となる。
【0014】
そこで、本発明者は、pH7以下の水性懸濁液中でのPHAの凝集を防ぐとともに、乾燥後の粉体加工の際には押出機の軸に付着することがない分散剤を鋭意検討した。その結果、特定の分散剤(具体的には、アルキレンオキサイド系分散剤)を使用することにより、水性懸濁液のpHを7以下に調整する際に、PHAの凝集を防ぐことができ、かつ、粉体加工の際の押出機の軸への付着も抑制できることを見出した。
【0015】
さらに、本発明者は、上記検討の過程で、驚くべきことに、(i)一定量以上のEOを含み、かつ、EO量/PO量が特定の範囲にある分散剤を用いることにより、水性懸濁液の粘度を低く保つことができること、および(ii)低粘度の水性懸濁液を利用することができるため、乾燥工程をより効率的に実施できること、を初めて見出した。
【0016】
従い、特定の分散剤を用いる本発明の一実施形態に係る製造方法によれば、高い生産性でPHA(例えば、PHA粉体)を得ることができるとの効果を奏する。
【0017】
(発明2)
また、本発明者は、さらに研究を進めるうちに、アルキレンオキサイド系分散剤を用いた場合には、噴霧乾燥後のPHA粉体流動性が不良になるとの新たな問題が生じることが分かった。
【0018】
そこで、本発明者は、アルキレンオキサイド系分散剤を用いてPHA粉体の押し出し機内の軸への付着の問題を回避しつつ、噴霧乾燥後のPHA粉体流動性が良好となるような製造方法について鋭意検討した。その結果、PHA水性懸濁液に、アルキレンオキサイド系分散剤とともにバインダーを添加することにより、噴霧乾燥後のPHA粉体流動性が良好となることを見出した。
【0019】
さらに、本発明者は研究を進める中で、PHAの一例として特定のポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH、「PHBH」とも称する。)を用いた場合に、当該PHBHの水性懸濁液の分散安定性が悪くなり、噴霧乾燥器への送液が困難になるという問題があることが分かった。そして、この問題に対しても、PHA水性懸濁液にバインダーを添加することにより解決できることを見出した。
【0020】
従い、アルキレンオキサイド系分散剤とともにバインダーを添加する本発明の一実施形態に係る製造方法によれば、優れた流動性を有するPHA(例えば、PHA粉体)を得ることができるとの効果を奏する。また、特定のPHBHを用いた場合にも、良好な分散安定性を保持するPHA水性懸濁液を得ることができるとの効果を奏する。以下、本発明の一実施形態に係る製造方法の構成について詳説する。
【0021】
[実施形態1]
〔1.PHAの製造方法〕
本発明の一実施形態に係るポリヒドロキシアルカン酸の製造方法(以下、「本製造方法」と称する。)は、(a)ポリヒドロキシアルカン酸およびアルキレンオキサイド系分散剤を含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液を調製する工程、および(b)前記工程(a)で調製した水性懸濁液を噴霧乾燥する工程、を含む。すなわち、本製造方法は、下記の工程(a)および工程(b)を必須の工程として含む方法である。
・工程(a):PHAおよび分散剤を含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液を調製する工程(ここで、分散剤は、アルキレンオキサイド系分散剤である。)
・工程(b):前記工程(a)で調製した水性懸濁液を噴霧乾燥する工程
(工程(a))
本製造方法における工程(a)では、PHAおよび特定の分散剤を含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液を調製する。当該水性懸濁液において、PHAは水性媒体中に分散した状態で存在しており、分散剤は水性媒体に溶解している。以下では、少なくともPHAを含む水性懸濁液を、「PHA水性懸濁液」と略して表記する場合がある。
【0022】
<PHA>
本明細書において、「PHA」とは、ヒドロキシアルカン酸をモノマーユニットとする重合体の総称である。PHAを構成するヒドロキシアルカン酸としては、特に限定されないが、例えば、3-ヒドロキシブタン酸、4-ヒドロキシブタン酸、3-ヒドロキシプロピオン酸、3-ヒドロキシペンタン酸、3-ヒドロキシヘキサン酸、3-ヒドロキシヘプタン酸、3-ヒドロキシオクタン酸等が挙げられる。これらの重合体は、単独重合体でも、2種以上のモノマーユニットを含む共重合体でもよい。
【0023】
より詳しくは、PHAとしては、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(P3HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)(P3HB3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)(P3HB3HO)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)(P3HB3HOD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)(P3HB3HD)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HV3HH)等が挙げられる。中でも、工業的に生産が容易であることから、P3HB、P3HB3HH、P3HB3HV、P3HB4HBが好ましい。
【0024】
また、繰り返し単位の組成比を変えることで、融点、結晶化度を変化させ、結果として、ヤング率、耐熱性等の物性を変化させることができ、かつ、ポリプロピレンとポリエチレンとの間の物性を付与することが可能であること、および上記したように工業的に生産が容易であり、物性的に有用なプラスチックであるという観点から、3-ヒドロキシ酪酸と3-ヒドロキシヘキサン酸の共重合体であるP3HB3HHがより好ましい。
【0025】
本発明の一実施形態において、P3HB3HHの繰り返し単位の組成比は、柔軟性および強度のバランスの観点から、3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比が、80/20~99/1(mol/mol)であることが好ましく、83/17~97/3(mo1/mo1)であることがより好ましく、85/15~97/3(mo1/mo1)であることがさらに好ましい。3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比が、99/1(mol/mol)以下であると、十分な柔軟性が得られ、80/20(mol/mol)以上であると、十分な硬度が得られる。
【0026】
工程(a)は、下記の工程(a1)および工程(a2)を含むことが好ましい。
・工程(a1):PHA水性懸濁液に分散剤を添加する工程(ここで、分散剤は、アルキレンオキサイド系分散剤である。)
・工程(a2):PHA水性懸濁液のpHを7以下に調整する工程
工程(a1)と工程(a2)とを実施する順番は、特に限定されないが、工程(a2)におけるPHAの凝集が抑制され、よりPHAの分散安定性に優れた水性懸濁液が得られる観点で、工程(a1)の後に工程(a2)を実施することが好ましい。
【0027】
工程(a)において、出発原料として用いるPHA水性懸濁液(分散剤が添加されていないPHA水性懸濁液)は、特に限定されないが、例えば、細胞内にPHAを生成する能力を有する微生物を培養する培養工程、および当該培養工程の後、PHA以外の物質を分解および/または除去する精製工程、を含む方法により得ることができる。
【0028】
本製造方法は、工程(a)の前に、PHA水性懸濁液(分散剤が添加されていないPHA水性懸濁液)を得る工程(例えば、上述の培養工程および精製工程を含む工程)を含んでいてもよい。当該工程において用いられる微生物は、細胞内にPHAを生成し得る微生物である限り、特に限定されない。例えば、天然から単離された微生物や菌株の寄託機関(例えば、IFO、ATCC等)に寄託されている微生物、またはそれらから調製し得る変異体や形質転換体等を使用できる。より詳しくは、例えば、カプリアビダス(Cupriavidus)属、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、ラルストニア(Ralstonia)属、シュウドモナス(Pseudomonas)属、バチルス(Bacillus)属、アゾトバクター(Azotobacter)属、ノカルディア(Nocardia)属、アエロモナス(Aeromonas)属の菌等が挙げられる。中でも、アエロモナス属、アルカリゲネス属、ラルストニア属、またはカプリアビダス属に属する微生物が好ましい。特に、アルカリゲネス・リポリティカ(A.lipolytica)、アルカリゲネス・ラトゥス(A.latus)、アエロモナス・キャビエ(A.caviae)、アエロモナス・ハイドロフィラ(A.hydrophila)、カプリアビダス・ネケータ(C.necator)等の菌株がより好ましく、カプリアビダス・ネケータが最も好ましい。
【0029】
また、微生物が、本来PHAの生産能力を有しないものである場合、またはPHAの生産量が低いものである場合には、当該微生物に目的とするPHAの合成酵素遺伝子および/またはその変異体を導入して得られる形質転換体を用いることもできる。このような形質転換体の作製に用いるPHAの合成酵素遺伝子としては特に限定されないが、アエロモナス・キャビエ由来のPHA合成酵素の遺伝子が好ましい。これらの微生物を適切な条件で培養することで、菌体内にPHAを蓄積した微生物菌体を得ることができる。当該微生物菌体の培養方法は特に限定されないが、例えば、特開平05-93049号公報等に記載された方法が用いられる。
【0030】
上記の微生物を培養することにより作製されたPHA含有微生物には、不純物である菌体由来成分が多量に含まれているため、通常、PHA以外の不純物を分解および/または除去するための精製工程を実施され得る。この精製工程においては、特に限定されず、当業者が考え得る物理学的処理、化学的処理、生物学的処理等を適用することができ、例えば、国際公開第2010/067543号に記載の精製方法が好ましく適用できる。
【0031】
上記の精製工程により、最終製品に残留する不純物量が概ね決定されるため、これらの不純物は、できる限り低減させた方が好ましい。当然に、用途によっては、最終製品の物性を損なわない限り不純物が混入しても構わないが、医療用用途等、高純度のPHAが必要とされる場合は、できる限り不純物を低減させることが好ましい。その際の精製度の指標としては、例えば、PHA水性懸濁液中のタンパク質量が挙げられる。当該タンパク質量は、好ましくは、PHA重量当たり30000ppm以下、より好ましくは、15000ppm以下、さらに好ましくは、10000ppm以下、最も好ましくは、7500ppm以下である。精製手段は、特に限定されず、例えば、上記した公知の方法を適用可能である。
【0032】
なお、本製造方法におけるPHA水性懸濁液を構成する溶媒(「溶媒」は、「水性媒体」とも称する。)は、水、または水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。また、当該混合溶媒において、水と相溶性のある有機溶媒の濃度としては、使用する有機溶媒の水への溶解度以下であれば特に限定されない。また、水と相溶性のある有機溶媒としては特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、iso-ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド、アセトアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド、ピリジン、ピペリジン等が挙げられる。中でも、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、iso-ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトニトリル、プロピオニトリル等が、除去しやすい点から好ましい。また、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、アセトン等が、入手容易であることからより好ましい。さらに、メタノール、エタノール、アセトンが、特に好ましい。なお、PHA水性懸濁液を構成する水性媒体は、本発明の本質を損なわない限り、他の溶媒、菌体由来の成分、精製時に発生する化合物等を含んでいても構わない。
【0033】
本製造方法におけるPHA水性懸濁液を構成する水性媒体には、水が含まれていることが好ましい。水性媒体中の水の含有量は、5重量%以上が好ましく、より好ましくは、10重量%以上であり、さらに好ましくは、30重量%以上であり、特に好ましくは、50重量%以上である。
【0034】
本発明の一実施形態において、PHA水性懸濁液のせん断粘度は、特に限定されないが、優れた流動性が達成されるという観点から、せん断速度10 1/sでの粘度が0.01~2Pa・sが好ましく、0.02~1Pa・sがより好ましい。PHA水性懸濁液のせん断粘度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0035】
<アルキレンオキサイド系分散剤>
本製造方法の工程(a)における分散剤は、アルキレンオキサイド系分散剤である。本明細書において、「アルキレンオキサイド系分散剤」を、単に「分散剤」と称することがある。
【0036】
本製造方法の工程(a)における分散剤は、上記のような特定の分散剤であることにより、PHA水性懸濁液のpHを7以下に調整する際に、PHAの凝集を防ぐことができ、かつ、粉体加工の際の押出機の軸への付着も抑制する効果を奏する。
【0037】
本発明の一実施形態において、アルキレンオキサイド系分散剤は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、ポリ(エチレンオキサイド)(PEO)のブロックと、ポリ(プロピレンオキサイド)(PPO)のブロックとから構成され、PEO-PPO-PEOの形態であることが好ましい。
【0038】
本明細書において、「ポリ(エチレンオキサイド)(PEO)のブロック」とは、分散剤の構造中、エチレンオキサイド(EO)が重合して形成された重合体部分を意味する。
【0039】
本明細書において、「ポリ(プロピレンオキサイド)(PPO)のブロック」とは、分散剤の構造中、プロピレンオキサイド(PO)が重合して形成された重合体部分を意味する。
【0040】
本発明の一実施形態において、分散剤中のPEO分子量およびPEO分子量/PPO分子量を特定の範囲とすることにより、水性懸濁液の粘度を低く保ち、高い生産性でPHA(例えば、PHA粉体)を製造することができる。
【0041】
本発明の一実施形態において、分散剤中のPEO分子量およびPEO分子量/PPO分子量の範囲は、以下の組み合わせであることが好ましい。
【0042】
なお、本明細書において、「PEO分子量」を「EO量」と称し、「PPO分子量」を「PO量」と称することもある。
【0043】
すなわち、本発明の一実施形態において、分散剤中のPEO分子量は、1500以上であればよく、好ましくは、1750以上であり、より好ましくは、2000以上である。また、本発明の一実施形態において、分散剤中のPEO分子量の上限は、例えば、30000以下であり、好ましくは、25000以下であり、より好ましくは、20000以下である。
【0044】
本発明の一実施形態において、分散剤中のPEO分子量/PPO分子量は、0.5以上であればよく、好ましくは、0.6以上であり、より好ましくは、0.7以上である。PEO分子量/PPO分子量の上限は、5.0以下であり、好ましくは、4.8以下であり、より好ましくは、4.5以下である。
【0045】
分散剤中のPEO分子量およびPEO分子量/PPO分子量が上記の範囲内であれば、分散剤が親水性を有し、かつ、分散剤添加重量に対する分子数が多くなるため、水性懸濁液の分散性を保ちやすい。
【0046】
本発明の一実施形態において、分散剤は、PEO分子量が1500以上であり、かつ、PEO分子量/PPO分子量が0.5~5.0である。
【0047】
本発明の一実施形態において、分散剤は、分子量が750以上であるPEOブロックを、少なくとも1つ以上有することが好ましく、少なくとも2つ以上有することがより好ましい。また、その上限は特に限定されないが、例えば、4以下であり、好ましくは、3以下である。PEOブロックの数が上記の範囲内であれば、分散剤が親水性を有する。
【0048】
本発明の一実施形態において、分散剤中のPPO分子量は、特に限定されないが、例えば、500以上であり、好ましくは、1500以上である。また、本発明の一実施形態において、分散剤中のPPO分子量の上限は、例えば、6700以下であり、好ましくは、6250以下である。分散剤中のPPO分子量が上記の範囲内であれば、分散剤が疎水性を有する。
【0049】
本発明の一実施形態において、分散剤中のPPOブロックの数は、本発明の効果を奏する限り特に限定されず、1つであってもよいし、複数(例えば、2、3、4)であってもよい。
【0050】
本発明の一実施形態において、分散剤は、例えば、下記の式(1)で示される化合物である。
【0051】
【化1】
上記の式(1)において、Xは、例えば、17~340であり、好ましくは、20~285であり、より好ましくは、22~226である。Xが、340以下であると、分散剤添加重量に対する分子数が多くなるため、水性懸濁液の分散性を保ちやすく、Xが、17以上あると、親水性を有する。Yは、例えば、8~115であり、好ましくは、10~110であり、より好ましくは、24~107である。Yが、115以下であると、水への溶解が容易であり、Yが、8以上あると、疎水性を有する。Zは、例えば、17~340であり、好ましくは、20~285であり、より好ましくは、22~226である。Zが、340以下であると、分散剤添加重量に対する分子数が多くなるため、水性懸濁液の分散性を保ちやすく、Zが、17以上あると、親水性を有する。
【0052】
また、上記の式(1)において、XとZとの和(以下、「X+Z」と称する場合がある。)は、例えば、34~680であり、好ましくは、40~570であり、より好ましくは、44~452である。X+Zが、680以下であると、分散剤添加重量に対する分子数が多くなるため、水性懸濁液の分散性を保ちやすく、Xが、34以上あると、親水性を有する。
【0053】
本発明の一実施形態において、分散剤は、下記の式(1)で示される化合物であることが好ましい。
【0054】
【化2】
(式中、Xは、17~340であり、Yは、8~115であり、Zは、17~340である。)
本製造方法の工程(a)(特に、工程(a1))において使用される分散剤は、特に限定されず、例えば、市販品を用いることができる。市販品としては、例えば、Pluronic 10400(BASF社製)、Pluronic 10500(BASF社製)、Genapol PF80(Clariant社製)、ユニルーブ70DP-600B(日油社製)、ユニルーブ70DP-950B(日油社製)、プロノン208(日油社製)、エパンU105(第一工業製薬社製)、エパンU108(第一工業製薬社製)、エパン750(第一工業製薬社製)等が使用され得る。
【0055】
本製造方法の工程(a)(特に、工程(a1))におけるPHA水性懸濁液に対する分散剤の添加量は、特に限定されないが、水性懸濁液に含まれるPHA100重量部に対して、0.1~20重量部が好ましく、0.5~10重量部がより好ましく、0.75~5重量部がさらに好ましい。分散剤の添加量を上記の範囲とすることにより、PHA水性懸濁液におけるPHAの分散安定性がより向上し、一層噴霧乾燥を効率的に実施できる傾向がある。
【0056】
<その他>
本製造方法の工程(a)に付される前のPHA水性懸濁液(分散剤が添加される前のPHA水性懸濁液)は、通常、上記の精製工程を経ることにより、7を超えるpHを有する。そこで、本製造方法の工程(a)(特に、工程(a2))により、上記PHA水性懸濁液のpHを7以下に調整する。その調整方法は、特に限定されず、例えば、酸を添加する方法等が挙げられる。酸は、特に限定されず、有機酸、無機酸のいずれでもよく、揮発性の有無は問わない。より具体的には、酸としては、例えば、硫酸、塩酸、リン酸、酢酸等が使用できる。
【0057】
上記調整工程において調整するPHA水性懸濁液のpHの上限については、PHAを加熱溶融した時の着色を低減したり、加熱時および/または乾燥時の分子量の安定性を確保する観点から、7以下であり、好ましくは、5以下であり、より好ましくは、4以下である。また、pHの下限については、容器の耐酸性の観点より、好ましくは、1以上であり、より好ましくは、2以上であり、さらに好ましくは、3以上である。PHA水性懸濁液のpHを7以下とすることによって、加熱溶融時の着色が低減され、加熱時および/または乾燥時の分子量低下が抑制されたPHAが得られる。
【0058】
本発明の一実施形態において、ポリヒドロキシアルカン酸および分散剤を含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液であり、前記分散剤が、アルキレンオキサイド系分散剤である水性懸濁液を提供する。
【0059】
本製造方法の工程(a)により得られるPHA水性懸濁液におけるPHAの濃度は、乾燥ユーティリティーの面から経済的に有利であり、生産性が向上するため、30重量%以上が好ましく、40重量%以上がより好ましく、50重量%以上がさらに好ましい。また、PHAの濃度の上限は、最密充填となり、十分な流動性が確保できない可能性があるため、65重量%以下が好ましく、60重量%以下がより好ましい。PHAの濃度を調整する方法は、特に限定されず、水性媒体を添加したり、水性媒体の一部を除去する(例えば、遠心分離した後、上清を取り除く等による)等の方法が挙げられる。PHAの濃度の調整は、工程(a)のいずれの段階で実施してもよいし、工程(a)の前の段階で実施してもよい。
【0060】
本発明の一実施形態において、本製造方法は、工程(a)で調製する水性懸濁液におけるポリヒドロキシアルカン酸の濃度が、30重量%以上65重量%以下である。
【0061】
本製造方法の工程(a)により得られるPHA水性懸濁液におけるPHAの体積メジアン径(以下、単に「PHAの体積メジアン径」と称する。)は、当該PHAの一次粒子の体積メジアン径(以下、「一次粒子径」と称する。)の50倍以下が好ましく、20倍以下がより好ましく、10倍以下がさらに好ましい。PHAの体積メジアン径が一次粒子径の50倍以下であることにより、PHA水性懸濁液がより優れた流動性を示すため、その後の工程(b)を高効率で実施することができ、PHAの生産性が一層向上する傾向がある。
【0062】
本発明の一実施形態において、PHAの体積メジアン径は、例えば、優れた流動性が達成されるという観点から、0.5~5μmが好ましく、1~4.5μmがより好ましく、1~4μmがさらに好ましい。PHAの体積メジアン径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0063】
なお、上記のPHAの体積メジアン径は、PHA水性懸濁液におけるPHAの分散状態の指標とすることができる。上記のPHAの体積メジアン径を調整する方法は、特に限定されず、公知の手段(攪拌等)を適用できる。例えば、酸性条件下に曝される等して分散状態が崩れてしまったPHA水性懸濁液(例えば、工程(a1)の前に工程(a2)を実施する場合等)に対して、当業者が考え得る物理的処理、化学的処理、生物学的処理等を施し、PHA水性懸濁液におけるPHAを再度分散状態(例えば、上記のPHAの体積メジアン径を有する状態)に復帰させることもできる。
【0064】
(工程(b))
本製造方法における工程(b)では、工程(a)で調製したPHA水性懸濁液を噴霧乾燥する。噴霧乾燥の方法としては、例えば、PHA水性懸濁液を微細な液滴の状態として乾燥機内に供給し、当該乾燥機内で熱風と接触させながら乾燥する方法等が挙げられる。PHA水性懸濁液を微細な液滴の状態で乾燥機内に供給する方法(アトマイザー)は、特に限定されず、回転ディスクを用いる方法、ノズルを用いる方法等の公知の方法が挙げられる。乾燥機内における液滴と熱風の接触方式は、特に限定されず、並流式、向流式、これらを併用する方式等が挙げられる。
【0065】
工程(b)における噴霧乾燥の際の乾燥温度は、PHA水性懸濁液の液滴から水性媒体の大半を除去できる温度であればよく、目的とする含水率まで乾燥させることができ、かつ、品質悪化(分子量低下、色調低下等)、溶融等を極力生じさせないような条件で、適宜設定できる。例えば、噴霧乾燥機に吹き込む熱風の温度は、100~300℃の範囲で、適宜選択できる。また、乾燥機内の熱風の風量についても、例えば、乾燥機のサイズ等に応じて、適宜設定できる。
【0066】
本製造方法は、工程(b)の後に、得られたPHA(PHA粉体等)をさらに乾燥させる工程(例えば、減圧乾燥に付す工程等)を含んでいてもよい。また、本製造方法は、その他の工程(例えば、PHA水性懸濁液に各種添加物を添加する工程等)を含んでいてもよい。
【0067】
本製造方法によると、高い生産性でPHAを得ることができる。また、本製造方法によると、特に、乾燥工程のコスト(設備費、ユーティリティ等)を下げることが可能となる。さらに、本製造方法によると、粉体の状態でPHAを取得することが可能であるため、ハンドリング性に優れたPHAを高い効率で得ることができる。
【0068】
〔2.ポリヒドロキシアルカン酸粉体〕
本発明の一実施形態に係るポリヒドロキシアルカン酸粉体(以下、「本PHA粉体」と称する。)は、アルキレンオキサイド系分散剤を含み、かつ、嵩密度が0.3~0.5kg/Lであり、メジアン粒子径が80~200μmである。
【0069】
本実施形態において、「ポリヒドロキシアルカン酸」および「分散剤」については、上記したものが援用される。
【0070】
本PHA粉体の嵩密度は、特に限定されないが、優れた流動性が達成されるという観点から、0.30~0.50kg/Lが好ましく、0.35~0.50kg/Lがより好ましく、0.40~0.50kg/Lがさらに好ましい。本PHA粉体の嵩密度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0071】
本PHA粉体のメジアン粒子径は、特に限定されないが、優れた流動性が達成されるという観点から、80~200μmが好ましく、100~150μmがより好ましい。本PHA粉体のメジアン粒子径は、実施例に記載の方法により測定される。
【0072】
本PHA粉体は、上記の分散剤を含んでいてもよい。PHA粉体中の分散剤の含有量は、特に限定されないが、PHA粉体を構成するPHA100重量部に対して、0.1~20重量部が好ましく、0.5~10重量部がより好ましく、0.75~5重量部がさらに好ましい。分散剤の添加量を上記範囲とすることにより、PHA粉体の生産性がより一層向上する傾向がある。
【0073】
また、本PHA粉体は、本発明の効果を奏する限り、本製造方法の過程で生じた、または除去されなかった種々の成分を含んでいてもよい。
【0074】
本PHA粉体は、紙、フィルム、シート、チューブ、板、棒、容器(例えば、ボトル容器等)、袋、部品等、種々の用途に利用できる。
【0075】
[実施形態2]
〔1.PHAの製造方法〕
実施形態2では、実施形態1と異なる部分のみを記載しており、その他の部分は、実施形態1を援用するものとする。
【0076】
本発明の一実施形態に係るポリヒドロキシアルカン酸の製造方法は、(a)ポリヒドロキシアルカン酸、アルキレンオキサイド系分散剤およびバインダーを含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液を調製する工程、および(b)前記工程(a)で調製した水性懸濁液を噴霧乾燥する工程、を含む。すなわち、本実施形態に係る製造方法は、下記の工程(a)および工程(b)を必須の工程として含む方法である。
・工程(a):PHA、アルキレンオキサイド系分散剤およびバインダーを含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液を調製する工程
・工程(b):前記工程(a)で調製した水性懸濁液を噴霧乾燥する工程
(工程(a))
本実施形態に係る製造方法における工程(a)では、PHA、アルキレンオキサイド系分散剤およびバインダーを含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液を調製する。当該水性懸濁液において、PHAは水性媒体中に分散した状態で存在しており、アルキレンオキサイド系分散剤およびバインダーは水性媒体に溶解している。
【0077】
<PHA>
本項目については、下記以外は、実施形態1を援用するものとする。
【0078】
工程(a)は、下記の工程(a1)および工程(a2)を含むことが好ましい。
・工程(a1):PHA水性懸濁液にアルキレンオキサイド系分散剤およびバインダーを添加する工程
・工程(a2):PHA水性懸濁液のpHを7以下に調整する工程
工程(a1)と工程(a2)とを実施する順番は、特に限定されないが、工程(a2)におけるPHAの凝集が抑制され、よりPHAの分散安定性に優れた水性懸濁液が得られる観点で、工程(a1)の後に工程(a2)を実施することが好ましい。
【0079】
工程(a)において、出発原料として用いるPHA水性懸濁液(アルキレンオキサイド系分散剤およびバインダーが添加されていないPHA水性懸濁液)は、特に限定されないが、例えば、細胞内にPHAを生成する能力を有する微生物を培養する培養工程、および当該培養工程の後、PHA以外の物質を分解および/または除去する精製工程、を含む方法により得ることができる。
【0080】
本実施形態に係る製造方法は、工程(a)の前に、PHA水性懸濁液(アルキレンオキサイド系分散剤およびバインダーが添加されていないPHA水性懸濁液)を得る工程(例えば、上述の培養工程および精製工程を含む工程)を含んでいてもよい。
【0081】
本発明の一実施形態において、PHA水性懸濁液のせん断粘度は、特に限定されないが、優れた流動性が達成されるという観点から、20℃におけるせん断速度100 1/sでの粘度が0.001~0.05Pa・sが好ましく、0.0015~0.03Pa・sがより好ましい。PHA水性懸濁液のせん断粘度は、実施例に記載の方法により測定される。
【0082】
<アルキレンオキサイド系分散剤>
本項目については、実施形態1を援用するものとする。
【0083】
<バインダー>
本実施形態に係る製造方法の工程(a)におけるバインダーは、噴霧乾燥後のPHA粉体流動性が良好とする効果を奏する。
【0084】
本明細書において、「バインダー」とは、造粒時に原料粉粒体の凝集を促進させ、粒状化速度を上げ、収率を向上させ得る物質を意味する。バインダーとしては、本発明の効果を奏するものであれば特に限定されないが、例えば、修飾セルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、デンプン、デキストリン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、キトサン、ゼラチン等が挙げられる。本発明の一実施形態において、バインダーは、水溶性の観点から、好ましくは、修飾セルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、デキストリン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウムであり得る。
【0085】
本明細書において、「修飾セルロース」とは、セルロース中に存在するヒドロキシ基の少なくとも一部が任意の置換基で置換されたセルロースを意味する。なお、「修飾セルロース」は、「セルロース誘導体」と称されることもある。
【0086】
本発明の一実施形態において、修飾セルロースは、好ましくは、セルロース中に存在するヒドロキシ基の一部がメトキシ基および/またはヒドロキシプロポキシ基で置換されたセルロースであり得る。
【0087】
本発明の一実施形態において、修飾セルロースとしては、本発明の効果を奏するものであれば特に限定されないが、例えば、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース、プロピルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、カルボキシエチルセルロース、カルボキシプロピルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、アセチルセルロース、シアノエチルセルロース、セルロース硫酸ナトリウム等が挙げられる。なかでも、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが、水溶性となる置換度範囲の広さの観点から好ましい。上記の修飾セルロースは、1種のみを用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
本実施形態に係る製造方法の工程(a)(特に、工程(a1))において使用されるバインダーは、特に限定されず、例えば、市販品を用いることができる。修飾セルロースの市販品としては、例えば、MCE-15(信越化学社製)、MCE-100(信越化学社製)、MCE-400(信越化学社製)、MCE-4000(信越化学社製)、SFE-400(信越化学社製)、SFE-4000(信越化学社製)、SE-50(信越化学社製)、NE-100(信越化学社製)等が使用され得る。
【0089】
本発明の一実施形態において、バインダーは、環境問題の観点から、生分解性を有する物質であることが好ましい。
【0090】
本実施形態に係る製造方法の工程(a)(特に、工程(a1))におけるPHA水性懸濁液に対するバインダーの添加量は、特に限定されないが、水性懸濁液に含まれるPHA100重量部に対して、0.01~10重量部が好ましく、0.05~5重量部がより好ましく、0.08~3重量部がさらに好ましい。バインダーの添加量を上記の範囲とすることにより、本発明の効果を奏することができる。
【0091】
本発明の一実施形態において、2wt%バインダー水溶液のせん断粘度は、優れた流動性が達成されるという観点から、1.0Pa・s以下が好ましく、0.8Pa・s以下がより好ましく、0.5Pa・s以下がさらに好ましい。下限値は特に設定されないが、0.001Pa・s以上が好ましく、0.005Pa・s以上がより好ましく、0.01Pa・s以上がさらに好ましい。
【0092】
<その他>
本項目については、下記以外は、実施形態1を援用するものとする。
【0093】
本実施形態に係る製造方法の工程(a)に付される前のPHA水性懸濁液(アルキレンオキサイド系分散剤およびバインダーが添加される前のPHA水性懸濁液)は、通常、上記の精製工程を経ることにより、7を超えるpHを有する。
【0094】
本発明の一実施形態において、ポリヒドロキシアルカン酸、アルキレンオキサイド系分散剤およびバインダーを含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液を提供する。
【0095】
[本発明の概要]において記載した通り、本発明者はさらに研究を進める中で、PHAの一例として特定のPHBHを用いた場合に、当該PHBHの水性懸濁液の分散安定性が悪くなり、噴霧乾燥器への送液が困難になるという問題があることが分かった。具体的には、3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比が、80/20~91/9(mol/mol)であるPHBH(以下、「特定のPHBH」と称する。)を用いた場合に、上記の問題が生じることが分かった。そして、この問題に対しても、PHA水性懸濁液にバインダーを添加することにより解決できることを見出した。
【0096】
したがって、本実施形態(すなわち、「PHA、アルキレンオキサイド系分散剤およびバインダーを含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液」)において、PHAが特定のPHBHである場合も、当該水性懸濁液は、優れた流動性を有するPHA(例えば、PHA粉体)を得ることができるとの効果に加えて、良好な分散安定性を保持できるとの効果も奏する。
【0097】
(工程(b))
本項目については、下記以外は、実施形態1を援用するものとする。
【0098】
本実施形態に係る製造方法によると、優れた流動性を有するPHA(例えば、PHA粉体)を得ることができる。また、本実施形態に係る製造方法によると、特定のPHBHを用いた場合にも、良好な分散安定性を保持するPHA水性懸濁液を得ることができる。
【0099】
〔2.ポリヒドロキシアルカン酸粉体〕
本実施形態に係るポリヒドロキシアルカン酸粉体は、ポリヒドロキシアルカン酸、アルキレンオキサイド系分散剤およびバインダーを含む。
【0100】
本実施形態において、「ポリヒドロキシアルカン酸」、「アルキレンオキサイド系分散剤」および「バインダー」については、上記したものが援用される。
【0101】
本実施形態に係るPHA粉体の圧縮度は、例えば、30%未満であり、好ましくは、29.8%以下であり、より好ましくは、29.6%以下であり、さらに好ましくは、29.5%以下である。本実施形態に係るPHA粉体の圧縮度が30%未満であると、良好な紛体流動性が得られる。圧縮度が低いほど、PHA粉体の流動性が良くなるため、下限値は特に限定されないが、例えば、5%以上である。
【0102】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0103】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下である。
<1>(a)ポリヒドロキシアルカン酸およびアルキレンオキサイド系分散剤を含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液を調製する工程、および
(b)前記工程(a)で調製した水性懸濁液を噴霧乾燥する工程、を含む、ポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<2>前記工程(a)で調整する水性懸濁液が、バインダーをさらに含む、請求項1に記載のヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<3>前記バインダーの2wt%バインダー水溶液のせん断粘度が、1.0Pa・s以下である、請求項2に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<4>前記分散剤が、ポリ(エチレンオキサイド)(PEO)のブロックと、ポリ(プロピレンオキサイド)(PPO)のブロックとから構成され、PEO-PPO-PEOの形態である、<1>~<3>のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<5>前記分散剤は、PEO分子量が1500以上であり、かつ、PEO分子量/PPO分子量が0.5~5.0である、<1>~<4>のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<6>前記分散剤が、下記の式(1)で示される化合物である、<1>~<5>のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
【0104】
【化3】
(式中、Xは、17~340であり、Yは、8~115であり、Zは、17~340である。)
<7>前記工程(a)で調製する水性懸濁液におけるポリヒドロキシアルカン酸の濃度が、30重量%以上65重量%以下である、<1>~<6>のいずれかに記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<8>前記バインダーは、修飾セルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、デンプン、デキストリン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、キトサンおよびゼラチンからなる群より選択されるいずれかである、<2>または<3>に記載のポリヒドロキシアルカン酸の製造方法。
<9>ポリヒドロキシアルカン酸およびアルキレンオキサイド系分散剤を含み、かつ、pHが7以下である水性懸濁液。
<10>バインダーをさらに含む、<9>に記載の水性懸濁液。
<11>前記バインダーは、修飾セルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、デンプン、デキストリン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、キトサンおよびゼラチンからなる群より選択されるいずれかである、<10>に記載の水性懸濁液。
<12>ポリヒドロキシアルカン酸およびアルキレンオキサイド系分散剤を含み、かつ、嵩密度が0.3~0.5kg/Lであり、メジアン粒子径が80~200μmであるヒドロキシアルカン酸粉体。
<13>ポリヒドロキシアルカン酸、アルキレンオキサイド系分散剤およびバインダーを含むヒドロキシアルカン酸粉体。
<14>前記バインダーは、修飾セルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、デンプン、デキストリン、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、キトサンおよびゼラチンからなる群より選択されるいずれかである、<13>に記載のヒドロキシアルカン酸粉体。
【実施例】
【0105】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、実施例において、「PHA」としては「PHBH」を用いており、「PHA」を「PHBH」と読み替えることができる。
【0106】
〔測定および評価方法〕
実施例および比較例における測定および評価を、以下の方法で行った。
【0107】
(体積メジアン径)
PHA水性懸濁液中の体積メジアン径は、HORIBA製レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950を用いて測定した。
【0108】
(嵩密度)
JISのK-7365に記載の方法で、体積100ml±0.5ml、内径45mm±5mmの内面を滑らかに仕上げた金属シリンダー(受器)の上部に、下部開口部が20mm~30mmの漏斗にダンパー(例えば、金属製の板)を付けたものがセッティングされた装置を用いて測定を行った。はかりには、0.1gの桁まで計ることのできるものを使用した。
【0109】
具体的な測定方法としては、漏斗とシリンダーの軸が一致するように、垂直に保持した。試験に先立って粉体をよく混合した。漏斗の下部開口部のダンパーを閉じ、その中に粉体を110ml~120ml投入した。速やかにダンパーを引き抜き、材料を受器の中に流下させた。受器が一杯になったら、受器から盛り上がった材料を直線状の板ですり落とした。はかりを用いて、受器の内容物の質量を0.1gの桁まで計った。試験する粉体について、2回の測定を行った。
【0110】
試験した材料の見掛け嵩密度(単位:kg/L)は、次の式で計算した。
【0111】
m/V
ここで、mは、受器の内容物の質量(g)を表し、Vは、受器の体積(ml)(すなわち、100)を表す。2回の測定結果の算術平均値を結果とした。
【0112】
(メジアン粒子径)
本製造方法により得られる噴霧乾燥後のPHA粉体の平均粒径は、以下の方法により測定した。
【0113】
平均粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950(HORIBA社)を用いて測定した。具体的な測定方法としては、イオン交換水20mlに、分散剤として界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウム0.05gを加えて、界面活性剤水溶液を得た。その後、上記界面活性剤水溶液に、測定対象の樹脂粒子群0.2gを加え、上記樹脂粒子群を上記界面活性剤水溶液中に分散させ、測定用の分散液を得た。調製した分散液を、上記レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置に導入し、測定を行った。
【0114】
(PHA水性懸濁液のせん断粘度)
PHA水性懸濁液のせん断粘度は、レオメーターAR-G2(TA Instrument社製)を用いて、同軸2重円筒にて測定した。具体的な測定方法としては、PHA水性懸濁液を20mL円筒に投入し、液温度が15℃になるまで、せん断速度100 1/sの条件下で冷却した。実施例1~7および比較例1~3については、目的の液温度に到達後、せん断速度10 1/sに変え、トルクの時間変化が1%未満になった際の粘度を測定した。また、実施例8~24および比較例4~7については、目的の液温度に到達後、液温度を20℃まで上昇させた後、トルクの時間変化が1%未満になった際のせん断粘度を測定した。
【0115】
(圧縮度)
圧縮度の測定は、R.L.Carrの方法(Carr, R.L., Chem.Eng.,72, 163(1965).)により実施した。圧縮度は、下記式(2)により規定される。
圧縮度=(固め嵩密度-緩め嵩密度)/固め嵩密度×100・・・(2)
(2wt%バインダー水溶液のせん断粘度)
2wt%バインダー水溶液のせん断粘度は、レオメーターAR-G2(TA Instrument社製)を用いて、同軸2重円筒にて測定した。具体的な測定方法としては、PHA水性懸濁液を20mL円筒に投入し、液温度が15℃になるまで、せん断速度100 1/sの条件下で冷却した。目的の液温度に到達後、液温度を20℃まで上昇させた後、トルクの時間変化が1%未満になった際の粘度を測定した。2wt%バインダー水溶液のせん断粘度を下記表1に示す。なお、メチルセルロース(MCE-4000)およびヒドロキシプロピルメチルセルロース(SFE-4000)の2wt%バインダー水溶液のせん断粘度は測定できないほど高かった。
【0116】
【表1】
〔実施例1〕
(菌体培養液の調製)
国際公開第2008/010296号の段落〔0049〕に記載のラルストニア・ユートロファKNK-005株を、同文献の段落〔0050〕~〔0053〕に記載の方法で培養し、PHAを含有する菌体を含む菌体培養液を得た。なお、ラルストニア・ユートロファは、現在では、カプリアビダス・ネケータに分類されている。PHAの繰り返し単位の組成比(3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比)を92/8~99/1(mol/mol)であった。
【0117】
(滅菌処理)
上記で得られた菌体培養液を内温60~80℃で20分間加熱・攪拌処理し、滅菌処理を行った。
【0118】
(高圧破砕処理)
上記で得られた滅菌済みの菌体培養液に、0.2重量%のドデシル硫酸ナトリウムを添加した。さらに、pHが11.0になるように水酸化ナトリウム水溶液を添加した後、50℃で1時間保温した。その後、高圧破砕機(ニロソアビ社製高圧ホモジナイザーモデルPA2K型)を用いて、450~550kgf/cm2の圧力で高圧破砕を行った。
【0119】
(精製処理)
上記で得られた高圧破砕後の破砕液に対して、等量の蒸留水を添加した。これを遠心分離した後、上清を除去して2倍濃縮した。この濃縮したPHAの水性懸濁液に、除去した上清と同量の水酸化ナトリウム水溶液(pH11)を添加して遠心分離し、上清を除去した。そこに再度水を添加して懸濁させ、0.2重量%のドデシル硫酸ナトリウムと、PHAの1/100重量のプロテアーゼ(ノボザイム社、エスペラーゼ)を添加し、pH10で50℃に保持したまま、2時間攪拌した。その後、遠心分離により上清を除去して4倍濃縮した。さらに水を添加して、PHA濃度が52.8重量%になるように調整した。
【0120】
(造粒)
上記で得られたPHA水性懸濁液(固形分濃度52.8重量%)に、分散剤であるエチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体非イオン性分散剤(ポリエチレンオキサイド分子量8000、ポリプロピレンオキサイド分子量2000、商品名プロノン208)を0.95phr(水性懸濁液中に存在するPHA100重量部に対して0.95重量部)添加し、その後、固形分濃度を50%に調整した。この液を120分間撹拌した後、PHA水性懸濁液100gあたりに対して、10重量%硫酸を0.4ml添加した。HORIBA製レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950を用いてPHA水性懸濁液中の体積メジアン径を測定したところ、3.9μmであった。さらに、TA Instrument製AR-G2を用いPHA水性懸濁液のせん断粘度を測定したところ、せん断速度10 1/sでの粘度は0.361Pa・sであり、送液性に優れた懸濁液が得られた。こうして得られたPHA水性懸濁液を、大川原社製のOC-16型噴霧乾燥機を使用し、噴霧乾燥を実施した(熱風温度:150℃、排風温度:105℃)。得られた乾燥PHA粉体のメジアン粒子径は107μmで、嵩密度は0.48kg/Lであった。
【0121】
なお、10重量%硫酸を添加する前の体積メジアン径を測定したところ、2.5μmであった。
【0122】
〔実施例2〕
エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体非イオン性分散剤をポリエチレンオキサイド分子量2167、ポリプロピレンオキサイド分子量3250の分散剤(商品名Pluronic10400)とした以外は実施例1と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は2.7μmであり、水性懸濁液のせん断速度10 1/sでの粘度は0.057Pa・sであった。実施例1と同様の方法で乾燥PHA粉体を得たところ、メジアン粒子径は111μmであり、嵩密度は0.45kg/Lであった。
【0123】
〔実施例3〕
エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体非イオン性分散剤をポリエチレンオキサイド分子量13000、ポリプロピレンオキサイド分子量3250の分散剤(商品名エパンU108)とした以外は実施例1と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は2.4μmであり、水性懸濁液のせん断速度10 1/sでの粘度は0.027Pa・sであった。実施例1と同様の方法で乾燥PHA粉体を得たところ、メジアン粒子径は122μmであり、嵩密度は0.45kg/Lであった。
【0124】
〔実施例4〕
エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体非イオン性分散剤をポリエチレンオキサイド分子量3250、ポリプロピレンオキサイド分子量3250の分散剤(商品名Pluronic10500)とした以外は実施例1と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は2.6μmであり、水性懸濁液のせん断速度10 1/sでの粘度は0.034Pa・sであった。実施例1と同様の方法で乾燥PHA粉体を得たところ、メジアン粒子径は125μmであり、嵩密度は0.46kg/Lであった。
【0125】
〔実施例5〕
エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体非イオン性分散剤をポリエチレンオキサイド分子量6720、ポリプロピレンオキサイド分子量1680の分散剤(商品名Genapol PF80)とした以外は実施例1と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は4.6μmであり、水性懸濁液のせん断速度10 1/sでの粘度は0.951Pa・sであった。実施例1と同様の方法で乾燥PHA粉体を得たところ、メジアン粒子径は115μmであり、嵩密度は0.44kg/Lであった。
【0126】
〔実施例6〕
エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体非イオン性分散剤をポリエチレンオキサイド分子量7000、ポリプロピレンオキサイド分子量3000の分散剤(商品名ユニルーブ70DP-600B)とした以外は実施例1と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は3.9μmであり、水性懸濁液のせん断速度10 1/sでの粘度は0.035Pa・sであった。実施例1と同様の方法で乾燥PHA粉体を得たところ、メジアン粒子径は131μmであり、嵩密度は0.49kg/Lであった。
【0127】
〔実施例7〕
エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体非イオン性分散剤をポリエチレンオキサイド分子量9100、ポリプロピレンオキサイド分子量3900の分散剤(商品名ユニルーブ70DP-950B)とした以外は実施例1と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は2.7μmであり、水性懸濁液のせん断速度10 1/sでの粘度は0.033Pa・sであった。実施例1と同様の方法で乾燥PHA粉体を得たところ、メジアン粒子径は129μmであり、嵩密度は0.48kg/Lであった。
【0128】
〔比較例1〕
エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体非イオン性分散剤をポリエチレンオキサイド分子量1167、ポリプロピレンオキサイド分子量1750の分散剤(商品名Pluronic6400)とした以外は実施例1と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は3.9μmであり、水性懸濁液のせん断速度10 1/sでの粘度は16.810Pa・sであった。水性懸濁液の粘度が高いために、噴霧乾燥は実施できなかった。
【0129】
〔比較例2〕
エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体非イオン性分散剤をポリエチレンオキサイド分子量11333、ポリプロピレンオキサイド分子量2000の分散剤(商品名エパン785)とした以外は実施例1と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は4.9μmであり、水性懸濁液のせん断速度10 1/sでの粘度は4.565Pa・sであった。水性懸濁液の粘度が高いために、噴霧乾燥は実施できなかった。
【0130】
〔比較例3〕
エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体非イオン性分散剤をポリエチレンオキサイド分子量361、ポリプロピレンオキサイド分子量3250の分散剤(商品名Pluronic 10100)とした以外は実施例1と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は7.0μmであり、水性懸濁液のせん断粘度は測定できないほど高かった。水性懸濁液の粘度が高いために、噴霧乾燥は実施できなかった。
【0131】
実施例1~7および比較例1~3の結果を表2に示す。
【0132】
【表2】
〔結果1〕
表2より、実施例1~7では、比較例1~3に比して、低粘度の水性懸濁液であることが示された。また、
図1より、水性懸濁液に含まれる分散剤中のEO量とEO量/PO量とが特定の範囲の場合のみ、水性懸濁液の粘度が低いことが示された。
【0133】
以上より、本製造方法によると、高い生産性でPHA(例えば、PHA粉体)を製造することができることが分かった。
【0134】
〔実施例8〕
精製処理までは実施例1と同じ操作により、固形分濃度が52.8重量%のPHA水性懸濁液を調製した。次いで、PHA水性懸濁液に水を添加して濃度を調整し(固形分濃度(PHAの濃度)32.8重量%)、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体非イオン性分散剤(ポリエチレンオキサイド分子量8000、ポリプロピレンオキサイド分子量2000、商品名プロノン208)を1.0phr(水性懸濁液中に存在するPHA100重量部に対して1重量部)添加し、次いで、バインダーとしてメチルセルロース(商品名MCE-4000)を1.0phr添加し、混合した。その後、前記混合物の固形分濃度を30質量%に調整した。この液を120分間撹拌した後、PHA水性懸濁液100gあたりに対して、10重量%硫酸を0.4ml添加し、PHA水性懸濁液を得た。このPHA水性懸濁液中の体積メジアン径をHORIBA製レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置LA-950を用いて測定したところ、3.0μmであった。さらに、前記PHA水性懸濁液のせん断粘度をTA Instrument製AR-G2を用いて測定したところ、20℃におけるせん断速度100 1/sでのせん断粘度は0.0129Pa・sであった。得られたPHA水性懸濁液を、GEA製のロータリーアトマイザー型噴霧乾燥機(Mobile Minor)にて噴霧乾燥を実施し(熱風温度:140℃、排風温度:85℃、ロータリーアトマイザー回転速度:10000rpm)、PHA粉体を得た。得られたPHA粉体の圧縮度は、21.3%であった。
【0135】
〔実施例9〕
バインダーをメチルセルロース(商品名MCE-400)とした以外は実施例8と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液の20℃におけるせん断速度100 1/sでの粘度は0.0063Pa・sであった。さらに、前記水性懸濁液を実施例1と同様の方法で噴霧乾燥し、PHA粉体を得た。得られたPHA粉体の圧縮度は、27.5%であった。
【0136】
〔実施例10〕
バインダーをメチルセルロース(商品名MCE-100)とした以外は実施例8と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液の20℃におけるせん断速度100 1/sでの粘度は0.0047Pa・sであった。さらに、前記水性懸濁液を実施例1と同様の方法で噴霧乾燥し、PHA粉体を得た。得られたPHA粉体の圧縮度は、29.4%であった。
【0137】
〔実施例11〕
バインダーをヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名SFE-4000)とした以外は実施例8と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液の20℃におけるせん断速度100 1/sでの粘度は0.0107Pa・sであった。さらに、前記水性懸濁液を実施例1と同様の方法で噴霧乾燥し、PHA粉体を得た。得られたPHA粉体の圧縮度は、26.3%であった。
【0138】
〔実施例12〕
バインダーをヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名SFE-400)とした以外は実施例8と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液の20℃におけるせん断速度100 1/sでの粘度は0.0061Pa・sであった。さらに、前記水性懸濁液を実施例1と同様の方法で噴霧乾燥し、PHA粉体を得た。得られたPHA粉体の圧縮度は、26.3%であった。
【0139】
〔実施例13〕
メチルセルロース(商品名MCE-4000)の添加量を0.8phrとした以外は実施例8と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液の20℃におけるせん断速度100 1/sでの粘度は0.0077Pa・sであった。さらに、前記水性懸濁液を実施例1と同様の方法で噴霧乾燥し、PHA粉体を得た。得られたPHA粉体の圧縮度は、25.0%であった。
【0140】
〔実施例14〕
メチルセルロース(商品名MCE-4000)の添加量を0.5phrとした以外は実施例8と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液の20℃におけるせん断速度100 1/sでの粘度は0.0049Pa・sであった。さらに、前記水性懸濁液を実施例1と同様の方法で噴霧乾燥し、PHA粉体を得た。得られたPHA粉体の圧縮度は、24.7%であった。
【0141】
〔実施例15〕
メチルセルロース(商品名MCE-4000)の添加量を0.3phrとした以外は実施例8と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液の20℃におけるせん断速度100 1/sでの粘度は0.0033Pa・sであった。さらに、前記水性懸濁液を実施例1と同様の方法で噴霧乾燥し、PHA粉体を得た。得られたPHA粉体の圧縮度は、25.0%であった。
【0142】
〔実施例16〕
メチルセルロース(商品名MCE-4000)の添加量を0.1phrとした以外は実施例8と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液の20℃におけるせん断速度100 1/sでの粘度は0.0020Pa・sであった。さらに、前記水性懸濁液を実施例1と同様の方法で噴霧乾燥し、PHA粉体を得た。得られたPHA粉体の圧縮度は、25.0%であった。
【0143】
〔比較例4〕
精製処理までは実施例1と同じ操作により、固形分濃度が52.8重量%のPHA水性懸濁液を調製した。次いで、PHA水性懸濁液に水を添加して濃度を調整し(固形分濃度32.8重量%)、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体非イオン性分散剤(ポリエチレンオキサイド分子量8000、ポリプロピレンオキサイド分子量2000、商品名プロノン208)を1.0phr添加し、混合した。その後、前記混合物の固形分濃度を30質量%に調整した。この液を120分間撹拌した後、PHA水性懸濁液100gあたりに対して、10重量%硫酸を0.4ml添加し、PHA水性懸濁液を得た。このPHA水性懸濁液中の体積メジアン径およびせん断粘度を実施例1と同様の方法で測定したところ、20℃におけるせん断速度100 1/sでのせん断粘度は0.0036Pa・sであった。得られたPHA水性懸濁液を、実施例1と同様の方法で噴霧乾燥を実施し、PHA粉体を得た。得られたPHA粉体の圧縮度は、30.0%であった。
【0144】
実施例8~16および比較例4の結果を表3に示す。
【0145】
【表3】
〔結果2〕
表3より、実施例8~16は、比較例4に比して、PHA粉体の圧縮度が低いことが示された。すなわち、実施例8~16では、修飾セルロースを含まない比較例4よりも、粉体流動性が良好であることが分かった。また、実施例8~10より、PHA水性懸濁液の増粘性が高いほど(増粘性の高い修飾セルロースを用いた場合ほど)体流動性が良好であることが分かった。さらに、実施例13~16より、PHA水性懸濁液の増粘性が高いほど(増粘性の高い修飾セルロースを用いた場合ほど)、添加量が少なくても、粉体流動性が良好であることが分かった。
【0146】
〔実施例17〕
PHAの繰り返し単位の組成比(3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比)を80/20~91/9(mol/mol)とした以外は実施例1と同じ操作により、固形分濃度が52%のPHA水性懸濁液を調製した。次いで、PHA水性懸濁液(固形分濃度52重量%)に、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体非イオン性分散剤(ポリエチレンオキサイド分子量8000、ポリプロピレンオキサイド分子量2000、商品名プロノン208)を1.0phr添加し、次いで、メチルセルロース(商品名MCE-15)を0.3phr添加し、混合した。その後、前記混合物の固形分濃度を50質量%に調整した。この液を120分間撹拌した後、PHA水性懸濁液100gあたりに対して、10重量%硫酸を0.4ml添加し、PHA水性懸濁液を得た。得られたPHA水性懸濁液の体積メジアン径は、2.9μmであった。
【0147】
〔実施例18〕
バインダーをメチルセルロース(商品名MCE-100)とした以外は実施例17と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は2.4μmであった。
【0148】
〔実施例19〕
バインダーをメチルセルロース(商品名MCE-400)とした以外は実施例17と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は2.5μmであった。
【0149】
〔実施例20〕
バインダーをメチルセルロース(商品名MCE-4000)とした以外は実施例17と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は2.4μmであった。
【0150】
〔実施例21〕
バインダーをヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名SFE-400)とした以外は実施例17と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は2.5μmであった。
【0151】
〔実施例22〕
バインダーをヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名SFE-4000)とした以外は実施例17と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は2.5μmであった。
【0152】
〔実施例23〕
バインダーをヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名SE-50)とした以外は実施例17と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は2.6μmであった。
【0153】
〔実施例24〕
バインダーをヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名NE-100)とした以外は実施例17と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は2.7μmであった。
【0154】
〔比較例5〕
バインダーをメチルセルロース(商品名MCE-4000)とし、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体非イオン性分散剤(ポリエチレンオキサイド分子量8000、ポリプロピレンオキサイド分子量2000、商品名プロノン208)を添加しなかった以外は実施例17と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は4.8μmであった。
【0155】
〔比較例6〕
バインダーを添加しなかった以外は実施例17と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は13.9μmであった。
【0156】
〔比較例7〕
エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体非イオン性分散剤(ポリエチレンオキサイド分子量8000、ポリプロピレンオキサイド分子量2000、商品名プロノン208)の添加量を1.3phrとし、バインダーを添加しなかった以外は比較例6と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は3.8μmであった。
【0157】
〔参考例1〕
PHAの繰り返し単位の組成比を80/20~91/9(mol/mol)とし、バインダー、分散剤および10重量%硫酸を添加しなかった以外は実施例1と同様の方法で、PHA水性懸濁液を得た。得られた水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径は2.5μmであった。
【0158】
実施例17~24および比較例5~7、ならびに参考例1の結果を表4に示す。
【0159】
【表4】
〔結果3〕
表4より、実施例17~24は、比較例5~7に比して、水性懸濁液中のPHAの体積メジアン径が小さいことが示された。すなわち、実施例17~24では、PHAの繰り返し単位の組成比が80/20~91/9(mol/mol)である場合において、アルキレンオキサイド系分散剤およびバインダーを含むことにより、良好な分散安定性を保持できることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0160】
本製造方法は、高い生産性でPHA(例えば、PHA粉体)を製造することができることから、PHAの製造において有利に使用できる。また、本製造方法により得られたPHA粉体等は、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、衣料、非衣料、包装、自動車、建材、その他の分野に好適に利用することができる。