(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】工業用プラントの冷却回路中の有機成分を分解するための方法、及び工業的プラントのための冷却回路
(51)【国際特許分類】
C02F 3/30 20230101AFI20230830BHJP
C02F 1/50 20230101ALI20230830BHJP
C02F 3/00 20230101ALI20230830BHJP
C02F 1/02 20230101ALI20230830BHJP
F28G 9/00 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
C02F3/30
C02F1/50 520K
C02F1/50 510A
C02F1/50 531R
C02F1/50 531Q
C02F3/00 D
C02F1/02 C
F28G9/00 L
(21)【出願番号】P 2021568233
(86)(22)【出願日】2020-05-18
(86)【国際出願番号】 EP2020063864
(87)【国際公開番号】W WO2020229704
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-12-21
(31)【優先権主張番号】102019207195.3
(32)【優先日】2019-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102020002812.8
(32)【優先日】2020-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390035426
【氏名又は名称】エス・エム・エス・グループ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】アンテ・アンゲラ
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-083135(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102491532(CN,A)
【文献】特開2003-166798(JP,A)
【文献】特開2006-271808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 3/28- 3/34
C02F 1/50
C02F 3/00
C02F 1/02- 1/18
F28G 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
工業用プラント(2
)の冷却回路(1)中の有機成分を分解する方法であって、次のステップ:
冷却回路(1)中にバクテリアを添加するステップ、但し、前記バクテリアは、冷却回路(1)中に存在する有機成分を分解するのに適したものである、及び
冷却回路(1)の冷却塔(4)中に発生したエアロゾルを殺菌するステップ、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記殺菌が、局所的に作用する化学的殺菌剤の添加を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
冷却塔の通過の後に、冷媒回路(1)から過剰の化学的殺菌剤を除去するステップを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
冷却塔(4)中に発生したエアロゾルの加熱及び殺菌のために、≧70℃の温度を有する蒸気を冷却回路(1)の冷却塔(4)中に通すステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
異なる環境要
求を有するバクテリアを冷却回路(1)に加える、請求項1~4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
嫌気性、無酸素性及び/または好気性環境要求を有するバクテリアを冷却回路(1)に加える、請求項1~4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
栄養
素を、冷却回路(1)に加えるステップを更に含む、請求項1~
6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
添加されたバクテリアのための栄養素を、冷却回路(1)に加えるステップを更に含む、請求項1~6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
添加されるバクテリアと、添加される栄養素との間の比率を経時的に適応させるステッ
プを含む、請求項
7または8に記載の方法。
【請求項10】
該方法の使用時間にわたっての、添加されるバクテリアの減少、及び添加される栄養素の増加を含む、請求項7または8に記載の方法。
【請求項11】
バクテリア及び/または殺菌剤を添加するステップが、規則的または非規則的な間隔で繰り返される、請求項1~
10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
繰り返しの間隔を、該方法の使用時間の経過とともに長くする、請求項5
または6に記載の方法。
【請求項13】
冷却回路(1)からサンプルを採取し、そしてレジオネラ属菌の濃度を決定するステップを含む、請求項1~
12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
サンプルの採取が定期的にまたは不定期的に繰り返さ
れる、請求項
13に記載の方法。
【請求項15】
サンプルの各採取間の間隔は、該方法の使用時間の経過にともなって長くする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
冬季に開始される、請求項1~
15のいずれか一つに記載の方法。
【請求項17】
バクテリア及び/または栄養素がグラニュールの形態で提供され、この際、グラニュールは、冷却回路(1)に添加する前に、水中に溶解する、請求項1~
16のいずれか一つに記載の方法。
【請求項18】
グラニュールが、凍結乾燥されたバクテリアを含む、請求項
17に記載の方法。
【請求項19】
工業用プラント(2)が冶金工業のプラントである、請求項1~18のいずれか一つに記載の方法。
【請求項20】
工業用プラント(2)への熱工学的結合部(3)、及び
冷却回路(1)中の冷媒(8)を冷却するための冷却塔(4)、
を含む、工業用プラント(2
)のための冷却回路(1)であって、
前記冷却回路(1)が、有機成分を分解するためのバクテリアを含み、及び
前記冷却塔(4)が、冷却塔(4)中に生じるエアロゾルの殺菌のための装置を有する、ことを特徴とする前記冷却回路(1)。
【請求項21】
冷却塔(4)中に生じたエアロゾルの殺菌のための装置が、化学的殺菌剤のための分配装置として構成される、請求項
20に記載の冷却回路(1)。
【請求項22】
過剰の化学的殺菌剤を除去するための装置が、冷却回路(1)中に、冷却塔通過後に配置される、請求項
21に記載の冷却回路(1)。
【請求項23】
冷却塔(4)中に生じるエアロゾルの殺菌のための装置が、≧70℃の温度を有する蒸気を発生するための蒸気発生ユニット(9)として構成される、請求項
20に記載の冷却回路(1)。
【請求項24】
冷却回路(1)にバクテリア及び/または栄養素を供給するための少なくとも一つの計量供給装置(10)を更に含む、請求項1~
23のいずれか一つに記載の冷却回路(1)。
【請求項25】
沈降槽(5)、清澄槽(6)及び/またはフィルター(7)を更に含む、請求項1~
24のいずれか一つに記載の冷却回路(1)。
【請求項26】
請求項1~
19のいずれか一つに記載の方法を実施するように冷却回路(1)が構成されている、請求項
20~
25のいずれか一つに記載の冷却回路(1)。
【請求項27】
工業用プラント(2)が冶金工業のプラントである、請求項20~26のいずれか一つ記載の冷却回路(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用プラント、特に冶金工業のプラントの冷却回路中の有機成分を分解するための方法に関する。本発明は更に、工業用プラント、特に冶金工業のプラントのための冷却回路に関する。
【背景技術】
【0002】
工業用プラントの冷却回路中の有機成分は、例えばスラッジの生成が増加することで堆積物を生じさせ、この際、この堆積物は、規則的な間隔で冷却回路から除去し、そして別個に処理する必要がある。それによって、冷却回路の運転操業コストが大きく増大する。
【0003】
更に、工業用プラントの冷却回路の冷却塔中で発生するエアロゾルは、レジオネラ汚染を促進する虞があることが判明している。それ故、ドイツ連邦共和国の連邦イミッシオン防止法の第42条例には、所定の限界値を超えてレジオネラ属菌が発生した場合の措置の開始が明示的に規定されている。技術水準からは、例えば、レジオネラ属菌の濃度が高まった場合に、レジオネラ属菌の濃度を所定の限界値未満まで減少させる殺生物剤を冷却回路に添加することが知られている。
【0004】
しかしながら、レジオネラ属菌は、冷却回路中の付着物、堆積物及び菌膜中で増殖し、そして再び冷却回路中に放出され得ることが明らかになっている。従って、殺生物剤の定期的な添加が必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の技術水準から出発して、本発明は、冷却回路中の堆積物を最小化し、そしてそれと同時に、所定の限界値未満のレジオネラ属菌濃度を保証するという課題に基づくものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は、本発明に従い、工業用プラント、特に冶金工業のプラントの冷却回路中の有機成分を分解する方法であって、次のステップ:
冷却回路中にバクテリアを添加するステップ、但し、前記バクテリアは、冷却回路中に存在する有機成分を分解するのに適したものである、及び
冷却回路の冷却塔中に発生したエアロゾルを殺菌するステップ、
を含む方法によって解決される。
【0007】
第一のプロセスステップは、バクテリアを、具体的には回路中を循環する冷媒中に添加することを意味する。本発明は、冷却回路中に含まれる有機成分を分解することによって、冷却回路中の堆積物を最小化できるという知見に基づくものである。有機成分、特に油脂は、冷却回路中で固形の粒子と結合し、そうして堆積物を形成する。有機成分が分解されると、冷却回路中に含まれる固形粒子が結合されず、それによって生じる堆積物の量が大きく減少される。
【0008】
液体中の有機成分を分解するためのバクテリアは、例えば浄水所から知られている。しかし、バクテリアは、生物群集の形成のために特定の環境条件を必要とする。本発明の意味での生物群集は、限定された生息空間(ビオトープ)中での生物の群集であり、ここで生物群集及びビオトープが一緒になって生態系を形成する。しかし、この生態系は、同時にレジオネラ属菌の発達に有利に働く、というのも、レジオネラ属菌は、前記のバクテリアと同様の環境条件を好むからである。加えられたバクテリアによる生物群集の発達は、おおよそ2~6週間かかる。
【0009】
しかし、レジオネラ属菌を減少するために冷却回路に殺生物剤を添加する技術水準から既知の方法は、同時に、バクテリアの生態系も同時に破壊するであろう。
【0010】
それ故、本発明によれば、場合により発生するレジオネラ属菌、特にレジオネラ・ニューモフィラは、殺生物剤の添加によって対処するのではなく、冷却回路の冷却塔中で生じるエアロゾルの局所的に限定された殺菌によって対処される。本発明は、レジオネラ属菌が、肺に侵入し、及び経口で吸収された時に病原性である時にのみ、感染性であるという事実に基づく。それ故、冷却回路中でのレジオネラ属菌の濃度の増加は、重大ではない。冷却回路の冷媒が噴射されてエアロゾルが形成される冷却塔の領域においてのみ、レジオネラ属類の濃度が重大となる。
【0011】
それ故、本発明の方法によれば、冷却回路中の有機成分は、バクテリアを加えることで分解され、そして場合により生じるレジオネラ属菌は、冷却回路の冷却塔中で死滅させる。冷却塔中でのレジオネラ属菌の死滅によって、冷却回路全体中のレジオネラ属菌濃度が同時に減少する、というのも、冷却回路の冷媒は、それ故、レジオネラ属菌もまた、必然的に冷却塔を通過するからである。
【0012】
冷却回路中に使用される冷媒は好ましくは水である。しかし、加えられたバクテリアによる生物群集の発達を妨げるものでなければ、他の冷媒も使用することができる。
【0013】
本発明による方法は、既存の冷却回路にも使用することができる。始動段階において、冷却回路中に存在する有機成分、特に存在する堆積物及び付着物をバクテリアによって分解する。これは、堆積物及び付着物中に含まれる有機成分の代謝によって起こる。
【0014】
バクテリアの添加は、特別な装置を必要としないので、本発明による方法を既存の冷却回路に使用するためには、冷却塔中に生じるエアロゾルの殺菌だけを実施すればよい。
【0015】
本発明の一変形によれば、冷却回路の冷却塔中に生じるエアロゾルの殺菌は、局所的に作用する化学的殺菌剤の添加を含む。化学的殺菌剤は、例えば、冷却塔中に入る時に冷却回路に添加される。これは、エアロゾルの生成の前に、その最中にまたはその直後に行うことができる。局所的に作用する殺菌剤の例は、オゾン、過酸化水素または過酢酸である。
【0016】
本発明の一変形によれば、該方法は、冷却塔を通過した後に、過剰の化学的殺菌剤を冷媒回路から除去するステップを含む。それ故、添加されるバクテリアに対し冷媒が負の影響を及ぼすことができないように、冷媒が冷却塔を通過した後は、場合により未だに冷媒中に含まれる殺菌剤は除去される。
【0017】
本発明の一変形では、冷却塔中に生じるエアロゾル中のレジオネラ属菌の死滅のために、≧70℃の温度を有する蒸気を、冷却回路の冷却塔に通す。これは、添加されたバクテリアによって発達した生態系に対して負の影響を持たない。
【0018】
レジオネラ属菌の死滅は、レジオネラ属菌を≧70℃の温度に加熱することに基づく。冷却回路の冷媒をこのような高い温度加熱することは、冷却回路の機能と矛盾するだろう。液体冷媒と組み合わせた乾性加熱の使用も同様に除外される。しかし、レジオネラ属菌を他の手段によって、例えば少なくとも400J/m2のUV光の照射によって死滅させることも理論的には可能であろうが、表面全体が十分に照射されること及びエアロゾルの液滴中へのUV放射線の侵入深さが十分であることを保証する必要がある。それ故、現在の技術水準では、蒸気の使用が唯一意味のある解決策のように思われる。しかし、冷却塔中に生じるエアロゾルを少なくとも70℃に加熱するための他の手段は、排除されない。
【0019】
本発明の好ましい一変形によれば、様々な環境要件を有するバクテリア、特に嫌気性、無酸素性及び/または好気性バクテリアが冷却回路に加えられる。それによって、冷却回路の異なる領域、例えば沈降槽、清澄槽、フィルターなどにおいて、各々の環境に対して然るべきバクテリアが分布して、生物群集を発達させることができる。
【0020】
本発明による方法の特に好ましい一変形では、栄養素、特に、添加されたバクテリアのための栄養素が冷却回路に更に加えられる。添加された栄養素は、バクテリアによる生物群集の形成を促進し、それらの長期存在に更に有利に働く。
【0021】
添加されたバクテリアと、添加された栄養素との本発明による混合物は、例えば1%のバクテリアと99%の栄養素とを含む。
【0022】
本発明の有利な一変形によれば、該方法は、添加されるバクテリアと、添加される栄養素との間の比率を経時的に適応させるステップ、特に該方法の使用時間にわたって、添加されるバクテリアを減少させ、添加される栄養素を増加させるステップを含む。冷却回路中での生物群集の初期発達のためには、比較的高いバクテリア濃度が有利であり、他方で、既に発達した生物群集は、バクテリアをそれほど多量に添加する必要なしに、高められた栄養素濃度によって保持することができる。それ故、添加されるバクテリアの濃度は、使用時間が経過するにつれて1%未満にまで減少し、ここで同時に、99%超の栄養素が供給される。
【0023】
本発明の合目的的な一変形では、バクテリア及び/または殺菌剤を添加するステップが、規則的または非規則的な間隔で繰り返される。この際、これらのステップは、必ずしも一緒にまたは直接連続して実施する必要はなく、異なる時点で、特に異なる間隔で実施することもできる。バクテリア及び場合により栄養素の添加は、バクテリアによって発達した生物群集の状態に依存し、生物群集の状態に合わせて実施され、他方で、殺菌は、冷媒中のレジオネラ属菌の濃度に依存し、レジオネラ属菌の濃度が所定の限界値を超えた時のみ実施する必要がある。
【0024】
本発明による一変形によれば、繰り返しの間隔は、該方法の使用時間の経過とともに長くする。バクテリア及び/または栄養素の各添加の間の間隔は、安定した生物群集が発達した場合には、プロセス時間の経過と共に拡大することができる。冷却回路中の有機成分は、発達した生物群集によって連続的に分解されるので、レジオネラ属菌の繁殖地である冷却回路中の堆積物及び付着物はこれと同時に減少する。それ故、プロセス時間の経過と共にレジオネラ属菌の濃度が大きく減少することを前提とすることができ、その結果、繰り返される殺菌の間の間隔を拡大することができる。
【0025】
本発明の一変形では、該方法は、冷却回路からサンプルを採取し、そしてレジオネラ属菌の濃度を決定するステップを含む。合目的的には、サンプルの採取は定期的にまたは不定期的に繰り返され、この際、サンプルの各採取間の間隔は、該方法の使用時間の経過に伴って長くするのが好ましい。所定の限界値を超えるレジオネラ属菌の濃度が確認された場合は、所定の限界値をもはや超過しないようにレジオネラ属菌の濃度を低めるために、殺菌ステップを行うことができる。
【0026】
有利な一変形では、本発明による方法は冬季に開始される。特に、本発明による方法の初期段階では、繰り返される各殺菌間の間隔は比較的短い。例えば、≧70℃の温度の蒸気を、冷却回路の冷却塔に通すことによって、冷却回路の冷却性能に負の影響が生じるので、本発明による方法を、通常の比較的低い環境温度を有する冬季に開始することが有利である。なぜならば、これらの期間では、冷却回路の完全な冷却性能は必要とされないからである。
【0027】
本発明の好ましい一変形によれば、バクテリアの添加の前に冷却塔を洗浄及び/または殺菌し、それにより、レジオネラ属菌の場合により存在する繁殖地を除去し、及び/または場合により存在するレジオネラ属菌を死滅させる。それにより、その後には、冷却回路の冷媒中に含まれるレジオネラ属菌だけを対処できるようになる。
【0028】
本発明の有利な一変形では、バクテリア及び/または栄養素はグラニュールの形態で提供され、この際、グラニュールは、冷却回路に添加する前に、水中に溶解する。このグラニュールは、バクテリア及び/または栄養素を濃縮された形で含むために、貯蔵の必要性が減少する。合目的的には、前記グラニュールは、冷却回路中の冷媒と同程度の温度の水中に溶解し、それにより、冷却回路中へのバクテリア及び/または栄養素の分布が改善する。
【0029】
有利な一変形では、前記グラニュールは、凍結乾燥されたバクテリアを含む。凍結乾燥されたバクテリアは、明らかにより長持ちし、その結果、前記グラニュールは、より長い期間にわたって貯蔵することもできる。
【0030】
更に、上記の課題は、本発明では、
工業用プラントへの熱工学的結合、及び
冷却回路中の冷媒を冷却するための冷却塔、
を含む、工業用プラント、特に冶金工業用のプラントのための冷却回路であって、
前記冷却回路が、有機成分を分解するためのバクテリアを含み、及び前記冷却塔が、冷却塔中に生じるエアロゾルの殺菌のための装置を有することを特徴とする前記冷却塔によって解決される。
【0031】
冷却回路中の、特に冷却回路の冷媒中のバクテリアによって、冷却回路の一つ以上の領域において生物群集が発達することができ、そうして有機成分が冷却回路中で分解される。それによって、堆積物及び付着物の発生が大幅に減少する。所定の限界値を超えたレジオネラ属菌の濃度を同時に防止するため、該冷却塔は殺菌装置を有する。レジオネラ属菌の濃度が限界値を超えて上昇する場合は、冷却塔中に生じたエアロゾルを殺菌することができ、それによって、バクテリアによって発達した一つ以上の生物群集に影響を及ぼすことなく、冷却回路全体中のレジオネラ属菌の濃度を低めることができる。
【0032】
本発明の一変形では、冷却塔中に生じたエアロゾルの殺菌のための装置は、化学的殺菌剤のための分配装置として構成される。特に、局所的に作用する化学的殺菌剤、例えばオゾン、過酸化水素または過酢酸が供給される。
【0033】
本発明の一変形によれば、過剰の化学的殺菌剤を除去するための装置が、冷却塔流路後に冷却回路中に配置される。それによって、添加された化学的殺菌剤が、他の冷媒回路においてバクテリアに負の影響を及ぼさないことが保証される。
【0034】
本発明の好ましい一変形によれば、冷却塔中に生じるエアロゾルの殺菌のための装置は、≧70℃の温度を有する蒸気を発生するための蒸気発生ユニットとして構成される。
【0035】
本発明の一変形では、該冷却回路は、バクテリア及び/または栄養素を冷却回路中に供給するための少なくとも一つの計量供給装置を含む。この計量供給装置を用いることにより、バクテリア及び/または栄養素の供給を自動化することができる。特に、バクテリア及び/または栄養素の供給を、計量供給装置を用いて、冷却回路の操業期間にわたって適応させることができ、特に自動化することができる。
【0036】
合目的的な一変形によれば、該冷却回路は、沈降槽、清澄槽及び/またはフィルターを更に含む。
【0037】
好ましい本発明による一変形では、冷却回路は、本発明による方法を実施できるように構成される。
【0038】
本発明は、直接的冷却回路にも、間接的冷却回路にも使用できる。直接的冷却回路では、冷却回路は、工業用プラントと直接接し、他方で、間接的冷却回路では、工業用プラントと冷却回路との間に熱交換器が配置される。
【0039】
本発明は、一般的に、冷却塔を有する開放系冷却回路に関する。しかし、原理的には、該冷却塔は、蒸発冷却装置または湿式スクラバーに置き換えることもでき、この際、本発明によれば、これらにも同様に殺菌装置が装備される。
【0040】
本発明はまた、冶金工業のプラントには限定されず、原理的には、例えば発電所におけるエネルギー生成の場合のような、他の工業分野にも使用することができる。
【0041】
冷却回路への殺生物剤の添加は本発明では排除される。なぜならば、殺生物剤は、バクテリアによって発達した生物群集を破壊するであろうからである。
【0042】
以下には、本発明を、図面に示した例示的な実施例に基づいて更に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1は、本発明による冷却回路の概略図である。
【実施例】
【0044】
図1に示す工業用プラント2のための本発明による冷却回路1は、工業用プラント2への熱工学的結合部3、冷却塔4、沈降槽5、清澄槽6及び二つのフィルター7を含む。冷媒8、好ましくは水が冷却回路1中を流れる。
【0045】
本発明によれば、冷却回路1の冷却塔4は、冷却塔4中に生じるエアロゾルの殺菌のための装置を含む。この殺菌装置は、
図1の実施例では、≧70℃の温度を有する蒸気を発生させるために蒸気発生ユニット9として構成されている。更に、該冷却回路1は、バクテリア及び/または栄養素を冷却回路1に供給するための二つの計量供給装置10を含む。
【0046】
工業用プラント2中に生じる熱は、本発明による冷却回路1を介して排出されるようになっている。この目的のためには、熱を、工業用プラント2の熱結合部3を介して冷却回路1に、特に冷却回路1内にある冷媒8に伝達する。この際、この熱伝達は、直接または間接的に行うことができる。
【0047】
その後、冷媒8は、沈降槽5、清澄槽6及び二つのフィルター7において浄化され、次いで、冷却塔4中で冷却される。この冷却された冷媒8は、その後、再び熱結合部3に供給することができるか、または水の場合には、例えば環境へ放つことができる。
【0048】
冷却回路1中の有機成分によって、特に沈降槽5及び清澄槽6において、堆積物11が例えばスラッジの形で形成する。これらの堆積物は、堆積槽5及び清澄槽6から手間をかけて除去し、次いで別個に処理する必要があり、これには、相応に高コストが伴う。
【0049】
それ故、本発明では、バクテリアが冷却回路1に、特に冷媒8に加えられ、この際、このバクテリアは、冷却回路1中に存在する有機成分を分解するのに適したものであることが企図される。有機成分は特に油脂であり、これらは、冷却回路1中の固形粒子と結合し、それによって堆積物11を生じさせる。添加されたバクテリアは、好ましくは、異なる環境要求、例えば嫌気性、無酸素性及び/または好気性の要求を有し、そのため、これらは、冷却回路1の異なる領域において蔓延し、生物群集を発達することができる。例えば、沈降穴6は嫌気性であり、清澄槽6は好気性で有り、フィルター7は無酸素性好気性であり、そして冷却塔4は好気性である。
【0050】
本発明の有利な一変形によれば、添加されたバクテリアのための栄養素を、冷却回路1に、特に冷媒8に更に加えることができる。これらの栄養素は、バクテリアの成長、それ故、対応する生物群集の発達を促進する。
【0051】
添加されたバクテリアと、添加された栄養素との比率は経時的に適応することができ、特に、添加バクテリアは減少し、添加栄養素は増加する。
【0052】
バクテリア及び/または栄養素の添加は、規則的または非規則的な間隔で繰り返すことができ、この際、各繰り返し間の間隔は、好ましくは、使用時間の経過と共に長くする。
【0053】
添加されたバクテリアによって、冷却回路1中の有機成分が大幅に減少し、これは、本質的により少ない堆積物11の形成をもたらす。
【0054】
冷却回路1中のレジオネラ属菌の濃度は、所定の限界値未満に維持することができるように、冷却回路1の冷却塔4は、蒸気発生ユニット9として構成された殺菌装置を含む。蒸気発生ユニット9を用いることにより、≧70℃の温度を有する蒸気、好ましくは水蒸気を、冷却塔中に通すことができる。それによって、冷却塔4によって形成されたエアロゾル中に含まれるレジオネラ属菌は効果的に死滅せしめられ、そうして、冷却回路1中のレジオネラ属菌の濃度を減少させることができる。
【0055】
合目的的には、規則的または非規則的な間隔で、サンプルを、冷却回路1から、特に冷媒8から採取し、そしてレジオネラ属菌の濃度を決定する。レジオネラ属菌濃度が所定の限界値を超えた場合には、蒸気発生ユニット9を用いて、70℃以上の温度の蒸気を冷却塔4中に通して、発生したエアロゾル中のレジオネラ属菌を死滅させる。
【0056】
冷却回路1の操業時間が増すにつれ、サンプル採取間の間隔を大きくすることができる。なぜならば、堆積物の量が少なくなるために、レジオネラ属菌の繁殖地が減少するからである。
【0057】
合目的的には、蒸気発生装置1は、冷却塔4の下部領域に配置され、その結果、発生した蒸気が上昇できるようになり、他方で、冷却塔4中で生じたエアロゾルは下降する。これらの対向する流れによって、良好な熱交換が起こる。
【0058】
バクテリア及び/または栄養素は、好ましくはグラニュールの形態で提供され、ここで、このグラニュールは、冷却回路1中に添加される前に水中に溶解する。このグラニュールは、バクテリア及び/または栄養素を濃縮された形で含むために、貯蔵の必要性が減少する。合目的的には、前記グラニュールは、冷却回路1中の冷媒8と同程度の温度の水中に溶解し、それにより、冷却回路1中へのバクテリア及び/または栄養素の分布が改善する。前記グラニュールは、有利には、凍結乾燥されたバクテリアを含む。凍結乾燥されたバクテリアは、明らかにより長持ちし、その結果、前記グラニュールは、より長い期間にわたって貯蔵することもできる。
本願は特許請求の範囲に記載の発明に係るものであるが、本願の開示は以下も包含する:
1. 工業用プラント(2)、特に冶金工業のプラントの冷却回路(1)中の有機成分を分解する方法であって、次のステップ:
冷却回路(1)中にバクテリアを添加するステップ、但し、前記バクテリアは、冷却回路(1)中に存在する有機成分を分解するのに適したものである、及び
冷却回路(1)の冷却塔(4)中に発生したエアロゾルを殺菌するステップ、
を含む、前記方法。
2. 前記殺菌が、局所的に作用する化学的殺菌剤の添加を含む、前記1.に記載の方法。
3. 冷却塔の通過の後に、冷媒回路(1)から過剰の化学的殺菌剤を除去するステップを含む、前記2.に記載の方法。
4. 冷却塔(4)中に発生したエアロゾルの加熱及び殺菌のために、≧70℃の温度を有する蒸気を冷却回路(1)の冷却塔(4)中に通すステップを含む、前記1.に記載の方法。
5. 異なる環境要求、特に嫌気性、無酸素性及び/または好気性要求を有するバクテリアを冷却回路(1)に加える、前記1.~4.のいずれか一つに記載の方法。
6. 栄養素、特に添加されたバクテリアのための栄養素を、冷却回路(1)に加えるステップを更に含む、前記1.~5.のいずれか一つに記載の方法。
7. 添加されるバクテリアと、添加される栄養素との間の比率を経時的に適応させるステップ、特に該方法の使用時間にわたっての、添加されるバクテリアの減少、及び添加される栄養素の増加を含む、前記6.に記載の方法。
8. バクテリア及び/または殺菌剤を添加するステップが、規則的または非規則的な間隔で繰り返される、前記1.~7.のいずれか一つに記載の方法。
9. 繰り返しの間隔を、該方法の使用時間の経過とともに長くする、前記5.に記載の方法。
10. 冷却回路(1)からサンプルを採取し、そしてレジオネラ属菌の濃度を決定するステップを含む、前記1.~9.のいずれか一つに記載の方法。
11. サンプルの採取が定期的にまたは不定期的に繰り返され、この際、サンプルの各採取間の間隔は、好ましくは、該方法の使用時間の経過にともなって長くする、前記10.に記載の方法。
12. 冬季に開始される、前記1.~11.のいずれか一つに記載の方法。
13. バクテリア及び/または栄養素がグラニュールの形態で提供され、この際、グラニュールは、冷却回路(1)に添加する前に、水中に溶解する、前記1.~12.のいずれか一つに記載の方法。
14. グラニュールが、凍結乾燥されたバクテリアを含む、前記13.に記載の方法。
15. 工業用プラント(2)への熱工学的結合部(3)、及び
冷却回路(1)中の冷媒(8)を冷却するための冷却塔(4)、
を含む、工業用プラント(2)、特に冶金工業のプラントのための冷却回路(1)であって、
前記冷却回路(1)が、有機成分を分解するためのバクテリアを含み、及び
前記冷却塔(4)が、冷却塔(4)中に生じるエアロゾルの殺菌のための装置を有する、ことを特徴とする前記冷却回路(1)。
16. 冷却塔(4)中に生じたエアロゾルの殺菌のための装置が、化学的殺菌剤のための分配装置として構成される、前記15.に記載の冷却回路(1)。
17. 過剰の化学的殺菌剤を除去するための装置が、冷却回路(1)中に、冷却塔通過後に配置される、前記16.に記載の冷却回路(1)。
18. 冷却塔(4)中に生じるエアロゾルの殺菌のための装置が、≧70℃の温度を有する蒸気を発生するための蒸気発生ユニット(9)として構成される、前記15.に記載の冷却回路(1)。
19. 冷却回路(1)にバクテリア及び/または栄養素を供給するための少なくとも一つの計量供給装置(10)を更に含む、前記1.~18.のいずれか一つに記載の冷却回路(1)。
20. 沈降槽(5)、清澄槽(6)及び/またはフィルター(7)を更に含む、前記1.~19.のいずれか一つに記載の冷却回路(1)。
21. 前記1.~14.のいずれか一つに記載の方法を実施するように冷却回路(1)が構成されている、前記15.~20.のいずれか一つに記載の冷却回路(1)。
【符号の説明】
【0059】
1.冷却回路
2.工業用プラント
3.熱結合部
4.冷却塔
5.沈降槽
6.清澄槽
7.フィルター
8.冷媒
9.蒸気発生装置
10.計量供給装置
11.堆積物