(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 22/00 20060101AFI20230830BHJP
C21D 8/12 20060101ALI20230830BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20230830BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
C23C22/00 A
C21D8/12 B
C21D9/46 501B
H01F1/147 183
(21)【出願番号】P 2021577696
(86)(22)【出願日】2020-06-26
(86)【国際出願番号】 KR2020008385
(87)【国際公開番号】W WO2020263026
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2022-02-25
(31)【優先権主張番号】10-2019-0076503
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコホールディングス インコーポレーティッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム,ヒョン ジョン
(72)【発明者】
【氏名】チェ,ホン‐ゾ
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-066036(JP,A)
【文献】特開平11-269555(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 22/00
C21D 8/12
C21D 9/46
H01F 1/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
方向性電磁鋼板基材、
前記方向性電磁鋼板基材上に位置するスケール層、および
前記スケール層上に位置する金属酸化物層を含み、
前記金属酸化物層は、フォルステライト化合物を含み、
前記金属酸化物層のF含有量が0.1~3重量%であ
り、
前記スケール層の厚さが5~100nmである、ことを特徴とする方向性電磁鋼板。
【請求項2】
前記金属酸化物層は、フォルステライト化合物を含む第1相と、Siで構成される第2相とを含み、
前記第1相は、金属酸化物層100面積%に対して5面積%超過95面積%未満で含まれ、第2相は、金属酸化物層100面積%に対して3面積%超過20面積%未満で含まれることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
前記金属酸化物層上に位置する絶縁コーティング層をさらに含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項4】
前記金属酸化物層は、酸化マグネシウム(MgO)を1.0重量%以下で含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項5】
前記スケール
層は、重量%で、Si:1~80重量%、O:1~80重量%、並びに残部Feおよび不可避不純物からなることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項6】
スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、
前記熱延板に形成されたスケールの一部を除去し、厚さ10nm
~300nmのスケール層を残留させてスケール層が残留する熱延板を製造する段階、
前記スケール層が残留する熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、
前記冷延板を1次再結晶焼鈍して1次再結晶焼鈍された冷延板を製造する段階、
前記1次再結晶焼鈍された冷延板に焼鈍分離剤を塗布する段階、および
前記焼鈍分離剤が塗布された冷延板を2次再結晶焼鈍する段階を含み、
前記焼鈍分離剤は、酸化マグネシウム(MgO)または水酸化マグネシウム(MgOH)とフッ化物を含むことを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムの含有量100重量%に対して、フッ化物を0.5~2重量%含むことを特徴とする請求項6に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記フッ化物は、アンモニウムフルオライド(NH
4F)、CaF
2、NaF、およびMgF
2からなる群のうちの1種以上を含むことを特徴とする請求項6または請求項7に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記スラブは、重量%で、Si:1.0~4.0%、C:0.03~0.09重量%、Al:0.015~0.040%、Mn:0.04~0.15%、N:0.001~0.005%、S:0.01%以下(0%を除く)を含み、残部としてFeおよびその他の不可避不純物からなることを特徴とする請求項6乃至請求項8のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記スケール層を残留させる段階は、回転速度が300~2500rpm、含有される粒子の量を300~800kg/min、粒子のサイズは0.10~0.8cm、基板の移動速度は20~60mpmとして、熱延板をブラスト処理する段階であることを特徴とする請求項6乃至請求項9のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記スケール層を残留させる段階は、スケール層が残留した熱延板の表面粗さを制御する段階をさらに含むことを特徴とする請求項6乃至請求項10のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記熱延板の表面粗さを制御する段階で、粗さを1.0~2.5に制御することを特徴とする請求項11に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記表面粗さを制御する段階は、スケール層が残留した熱延板を、ゴムでコーティングされたブレードの間を通過させる段階を含むことを特徴とする請求項11または請求項12に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記ゴムの弾性度は、1~5であることを特徴とする請求項13に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項15】
前記スケール層を残留させる段階の後に、酸洗する段階をさらに含むことを特徴とする請求項6乃至請求項14のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項16】
前記酸洗する段階は、濃度が5~18重量%の酸溶液に20~120秒間浸漬する段階を含むことを特徴とする請求項15に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項17】
前記冷間圧延する段階の後、スケール層の厚さは、5~100nmであることを特徴とする請求項6乃至請求項16のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項18】
前記1次再結晶焼鈍段階は、温度が600~950℃であることを特徴とする請求項6乃至請求項17のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項19】
前記焼鈍分離剤は、塗布量が1~20g/m
2であることを特徴とする請求項6乃至請求項18のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項20】
前記2次再結晶焼鈍は、
1次昇温区間の温度が650~850℃であり、
2次昇温区間の温度が850~1250℃であり、
それぞれの昇温速度は15℃/hrであることを特徴とする請求項6乃至請求項19のいずれか一項に記載の方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板およびその製造方法に係り。より詳しくは、熱延板の製造後、熱延板の表面に存在するスケールを一部残留させ、酸化被膜を形成した方向性電磁鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁鋼板は、変圧器、モータ、電子機器用素材として用いられる鋼板であって、機械的特性などの加工性が重要視される一般炭素鋼とは異なり、電気的特性を重要視される機能性鋼板である。要求される電気的特性には、鉄損が低いこと、磁束密度、透磁率および占積率が高いことなどがある。
電磁鋼板はさらに、方向性電磁鋼板と、無方向性電磁鋼板とに区分される。方向性電磁鋼板は、2次再結晶と呼ばれる異常結晶粒成長現象を利用してGoss集合組織({110}<001>集合組織)を鋼板全体に形成させた圧延方向の磁気的特性に優れた電磁鋼板である。無方向性電磁鋼板は、圧延板上のすべての方向に磁気的特性が均一な電磁鋼板である。
【0003】
無方向性電磁鋼板の生産工程として、スラブ(Slab)を製造した後、熱間圧延、冷間圧延および最終焼鈍を経て絶縁コーティング層を形成する。
方向性電磁鋼板の生産工程として、スラブ(Slab)を製造した後、熱間圧延、予備焼鈍、冷間圧延、脱炭焼鈍、最終焼鈍を経て絶縁コーティング層を形成する。
【0004】
方向性電磁鋼板の生産工程において、予備焼鈍と冷間圧延工程との間に熱延工程で発生する表面スケール(Scale)を除去して、後に展開される工程の効率を改善する工程が存在するが、これを酸洗工程という。
しかし、酸洗後の鋼板表面はFe元素が多量存在し、この鋼板の表面はO、OH官能基と結合力が大きく、他元素が作用しなくなる。このような表面にO、OH成分で構成された酸化物を含む絶縁コーティング層を形成する時、絶縁コーティング層が均一に形成されない問題および鋼板と絶縁コーティング層との間の密着力が低下する問題が発生していた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的とするところは、方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供することにある。具体的には、熱延板の製造後、熱延板の表面に存在するスケールを一部残留させ、酸化被膜を形成した方向性電磁鋼板およびその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板は、方向性電磁鋼板基材、前記方向性電磁鋼板基材上に位置するスケール層、およびスケール層上に位置する金属酸化物層を含み、前記金属酸化物層は、フォルステライト化合物を含み、前記金属酸化物層のF含有量が0.1~3重量%であることを特徴とする。
【0007】
前記金属酸化物層は、フォルステライト化合物を含む第1相と、Siで構成される第2相とを含み、前記第1相は、金属酸化物層100面積%に対して5面積%超過95面積%未満で含まれ、第2相は、金属酸化物層100面積%に対して3面積%超過20面積%未満で含まれることが好ましい。
前記金属酸化物層上に位置する絶縁コーティング層をさらに含むことができる。
【0008】
前記金属酸化物層は、酸化マグネシウム(MgO)を1.0重量%以下で含むことがよい。具体的には0.5~0.9重量%含むことが好ましい。
スケール層を残留させる段階で、残留した前記スケール層は、重量%で、Si1~80重量%、O:1~80重量%、並びに残部Feおよび不可避不純物からなることができる。
【0009】
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板の製造方法は、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、前記熱延板に形成されたスケールの一部を除去し、厚さ10nm以上のスケール層を残留させてスケール層が残留する熱延板を製造する段階、前記スケール層が残留する熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、前記冷延板を1次再結晶焼鈍して1次再結晶焼鈍された冷延板を製造する段階、前記1次再結晶焼鈍された冷延板に焼鈍分離剤を塗布する段階、および前記焼鈍分離剤が塗布された冷延板を2次再結晶焼鈍する段階を含み、前記焼鈍分離剤は、酸化マグネシウム(MgO)または水酸化マグネシウム(MgOH)とフッ化物を含むことを特徴とする。
【0010】
前記酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムの含有量100重量%に対して、フッ化物を0.5~2重量%含むことができる。具体的には0.1~2重量%、より具体的には0.5~1.5重量%を含むことがよい。
前記フッ化物は、アンモニウムフルオライド(NH4F)、CaF2、NaF、およびMgF2のうちの1種以上を含むことが好ましい。
【0011】
前記スラブは、重量%で、Si:1.0~4.0%、C:0.03~0.09重量%、Al:0.015~0.040%、Mn:0.04~0.15%、N:0.001~0.005%、S:0.01%以下(0%を除く)を含み、残部としてFeおよびその他の不可避不純物からなることができる。
前記スケール層を残留させる段階は、回転速度が300~2500rpm、含有される粒子の量を300~800kg/min、粒子のサイズは0.10~0.8cm、基板の移動速度は20~60mpmとして、熱延板をブラスト処理する段階であることがよい。
前記スケール層を残留させる段階は、スケール層が残留した熱延板の表面粗さを制御する段階をさらに含むことが好ましい。
【0012】
前記熱延板の表面粗さを制御する段階で、粗さを1.0~2.5に制御することがよい。具体的には1.3~2.4、より具体的には2.0~2.3であることがよい。
前記表面粗さを制御する段階は、スケール層が残留した熱延板を、ゴムでコーティングされたブレードの間を通過させる段階を含むことができる。
前記ゴムの弾性度は、1~5であることがよい。
【0013】
前記スケール層を残留させる段階の後に、前記酸洗する段階をさらに含むことができる。
前記酸洗する段階は、濃度が5~18重量%の酸溶液に20~120秒間浸漬する段階を含むことがよい。
前記冷間圧延する段階の後、スケール層の厚さは、5~100nmであることが好ましい。
【0014】
前記1次再結晶焼鈍段階は、温度が600~950℃であることがよい。
前記焼鈍分離剤は、塗布量が1~20g/m2であることが好ましい。
前記2次再結晶焼鈍は、1次昇温区間の温度が650~850℃であり、2次昇温区間の温度が850~1250℃であり、各昇温区間の昇温速度は15℃/hrであることがよい。
前記方向性電磁鋼板の製造方法は、絶縁コーティング層を形成する段階をさらに含むことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によれば、内部スケール層および金属酸化物層からなる方向性電磁鋼板を提供することができる。
また、本発明の一実施形態によれば、金属酸化物層を含む方向性電磁鋼板は、コイルに巻取る際に融着が防止できる。
また、本発明の一実施形態によれば、金属酸化物層は、鋼板との熱膨張差による張力を付与して鉄損を減少させる効果を示すことができる。
また、本発明の一実施形態によれば、金属酸化物層を含む方向性電磁鋼板は、絶縁性を確保することができる。
また、本発明の一実施形態によれば、内部スケール層上にフォルステライト(Mg2SiO4)化合物を含む金属酸化物層を均一に形成させることができる。
また、本発明の一実施形態によれば、金属酸化物層上に絶縁コーティング層を均一に形成させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施例において金属酸化物層およびその上に絶縁コーティング 層までを含む3段層の電磁鋼板を示したものである。
【
図2】本発明の一実施例における酸洗後の鋼板断面の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図3】本発明の比較例における酸洗後の鋼板断面の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図4】本発明の酸洗後の熱延板表面をEPMAで測定した結果である。左側は本発明の一比較例であり、右側は本発明の一実施例である。
【
図5】本発明の一実施例における冷延板焼鈍後の鋼板表面の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図6】本発明の一実施例において製造された金属酸化物層のXRD分析の結果である。
【
図7】本発明の一実施例において製造された金属酸化物層のXRD分析の結果である。
【
図8】本発明の一比較例において製造された金属酸化物層のXRD分析の結果である。
【
図9】本発明の一比較例において製造された金属酸化物層のXRD分析の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
第1、第2および第3などの用語は、多様な部分、成分、領域、層および/またはセクションを説明するために使用されるが、これらに限定されない。これらの用語は、ある部分、成分、領域、層またはセクションを他の部分、成分、領域、層またはセクションと区別するためにのみ使用される。したがって、以下に述べる第1部分、成分、領域、層またはセクションは、本発明の範囲を逸脱しない範囲内で第2部分、成分、領域、層またはセクションと言及される。
【0018】
ここで使用される専門用語は、単に特定の実施例を言及するためのものであり、本発明を限定することを意図しない。ここで使用される単数形態は、文章がこれと明確に反対の意味を示さない限り、複数形態も含む。明細書で使用される「含む」の意味は、特定の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分を具体化し、他の特性、領域、整数、段階、動作、要素および/または成分の存在や付加を除外させるものではない。
ある部分が他の部分の「上に」あると言及した場合、これは直に他の部分の上にあるか、その間に他の部分が伴ってもよい。対照的に、ある部分が他の部分の「真上に」あると言及した場合、その間に他の部分が介在しない。
また、特に言及しない限り、%は重量%を意味し、1ppmは0.0001重量%である。
【0019】
本発明の一実施例において追加元素をさらに含むとの意味は、追加元素の追加量だけ、残部の鉄(Fe)を代替して含むことを意味する。
他に定義しないが、ここに使用される技術用語および科学用語を含むすべての用語は、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が一般に理解する意味と同一の意味を有する。通常使用される辞書に定義された用語は、関連技術文献と現在開示された内容に符合する意味を有すると追加解釈され、定義されない限り、理想的または非常に公式的な意味で解釈されない。
【0020】
以下、本発明の実施例について、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が容易に実施できるように詳しく説明する。しかし、本発明は種々の異なる形態で実現可能であり、ここで説明する実施例に限定されない。
また、本開示のスケール層20は、電磁鋼板の製造過程で生成されたスケール層を意味する。例えば、本発明のスケール層20は、電磁鋼板の製造過程中、熱間圧延段階で生成されたスケール層を意味する。
【0021】
図1には、本発明の一実施例による方向性電磁鋼板100の断面を概略的に示した。
図1を参照して、本発明の一実施例による方向性電磁鋼板の構造を説明する。
図1の方向性電磁鋼板は、単に本発明を例示するためのものであり、本発明がこれに限定されるものではない。したがって、方向性電磁鋼板の構造を多様に変形することができる。
図1に示したとおり、本発明の一実施例による方向性電磁鋼板100は、方向性電磁鋼板基材10の表面から内部方向に存在するスケール層20を含む。このようにスケール層20を含むことによって、金属酸化物層30とスケール層20との間の強固な結合を形成して、金属酸化物層30との密着性を向上させることができる。また、スケール層20自体に絶縁特性が存在して、絶縁特性を付与させることができる。金属酸化物層30は、フォルステライト化合物を含み、前記金属酸化物層は、F含有量が0.1~3重量%であることがよい。
【0022】
以下、各構成元素毎に詳しく説明する。
まず、方向性電磁鋼板基材10は、方向性電磁鋼板で使用される合金成分をすべて使用することができる。一例として、方向性電磁鋼板基材10は、重量%で、Si:1.0~4.0%、C:0.03~0.09重量%、Al:0.015~0.040%、Mn:0.04~0.15%、N:0.001~0.005%、S:0.01%以下(0%を除く)を含み、残部としてFeおよびその他の不可避不純物からなることができる。
スケール層20は、方向性電磁鋼板基材10の表面から内部方向に存在する。スケール層20の厚さは、5~100nmであることがよい。さらに具体的には5~20nmであることが好ましい。スケール層20が薄すぎると、前記のスケール層20の存在によって発生する金属酸化物層30との密着性および絶縁特性の効果を得ることが難しい。また、スケール層20が厚すぎると、むしろ磁性に悪影響を及ぼす虞がある。
【0023】
スケール層20は、重量%で、Si:1~80重量%、およびO:1~80重量%、並びに残部Feおよび不可避不純物を含むことができる。さらに具体的には、スケール層20は、Si:5~40重量%、およびO:5~40重量%、並びに残部Feおよび不可避不純物を含むことがよい。
スケール層20は、Fe含有量が方向性電磁鋼板基材10に比べて少なく、代わりにSi含有量が比較的高くて、OH、O成分と結合力が大きく作用する。したがって、金属酸化物層30を形成する時、金属酸化物層30が均一に形成され、密着力が向上する。また、スケール層20は、O成分の含有量が方向性電磁鋼板基材10に比べて高くて、それ自体で絶縁特性が付与される。
【0024】
図1では、スケール層20の表面(つまり、スケール層20と金属酸化物層30との間の界面)が平らに表現されているが、実質的には非常に粗く形成される。このようなスケール層20は、粗さが1.0~2.5であってもよい。具体的には1.3~2.4、より具体的には2.0~2.3であってもよい。粗さが大きすぎると、磁性に悪影響を及ぼすことがある。逆に、粗さを過度に小さく制御しようとする時、スケール層20がすべて除去される問題が発生する虞がある。したがって、前記の範囲にスケール層20の粗さを制御することが好ましい。
図1の金属酸化物層30は、Fを0.1~3重量%含むことができる。Fは、焼鈍分離剤内に含まれるフッ化物に由来し、このフッ化物は、フォルステライト化合物の形成反応時に中間産物の生成を抑制して金属酸化物層30を均一に形成する役割を果たす。Fが過度に少なく含まれる時、反応が起こらない可能性があり、過度に多く含まれる時、過度の凝固現象によって表面塗布が均一でないことがある。さらに具体的には、Fを0.1~1重量%含むことがよい。この時、Fは、GC-mass spectroscopy方法で測定が可能である。
【0025】
図1の金属酸化物層30は、フォルステライト化合物を含む第1相と、Siを含む第2相とを含み、前記第1相は、金属酸化物層30の100面積%に対して5面積%超過95面積%未満で含まれ、前記第2相は、金属酸化物層30の100面積%に対して3面積%超過20面積%未満で含まれる。
図1の金属酸化物層30は、酸化マグネシウム(MgO)または水酸化マグネシウム(MgOH)を1.0重量%以下で含むことができる。より具体的には0.5~0.9重量%の範囲で含むことができる。金属酸化物層30内にはフォルステライト化合物が反応できない酸化マグネシウムができるたけ少なく含まれる方が、表面成分の均一度の面で有利である。前記のとおり、焼鈍分離剤内にフッ化物を適正量含むことによって、金属酸化物層30内に未反応の酸化マグネシウムを画期的に減少させることができる。
【0026】
図1および2に示したとおり、金属酸化物層30上には絶縁コーティング層40がさらに形成される。本発明の一実施例において、金属酸化物層30が適切に形成されると、絶縁コーティング層40の密着性を向上させることができ、絶縁コーティング層40の厚さを薄く形成しても十分な絶縁性を確保することができる。具体的には、絶縁コーティング層40の厚さは、3~5μmである。
本発明の一実施例による方向性電磁鋼板の製造方法は、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する段階、前記熱延板に形成されたスケールの一部を除去し、10nmの厚さ以上のスケール層を残留させてスケール層が残留する熱延板を製造する段階、前記スケール層が残留する熱延板を冷間圧延して冷延板を製造する段階、前記冷延板を1次再結晶焼鈍して1次再結晶焼鈍された冷延板を製造する段階、前記1次再結晶焼鈍された冷延板に焼鈍分離剤を塗布する段階、および前記焼鈍分離剤が塗布された冷延板を2次再結晶焼鈍する段階を含み、前記焼鈍分離剤は、酸化マグネシウム(MgO)または水酸化マグネシウム(MgOH)とフッ化物を含む。
【0027】
前記酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウムの含有量100重量%に対して、フッ化物を0.5~2重量%含むことができる。具体的には0.1~2重量%、より具体的には0.5~1.5重量%を含むことができる。
前記フッ化物は、アンモニウムフルオライド(NH4F)、CaF2、NaFおよびMgF2のうちの1種以上を含むことができる。
以下、各段階別に具体的に説明する。
まず、スラブの合金成分は特に限定されず、電磁鋼板で使用される合金成分であればすべて使用することができる。一例としては、スラブは、重量%で、Si:1.0~4.0%、C:0.03~0.09%、Al:0.015~0.040%、Mn:0.04~0.15%、N:0.001~0.005%、S:0.01%以下(0%を除く)を含み、残部としてFeおよびその他の不可避不純物からなることができる。
【0028】
まず、スラブを加熱する。スラブの加熱温度は制限されないが、スラブを1300℃以下の温度に加熱すると、スラブの柱状晶組織が粗大に成長することが防止されて、熱間圧延工程で板のクラックが発生するのを防止することができる。したがって、スラブの加熱温度は、1050~1300℃であることが好ましい。
次に、スラブを熱間圧延して熱延板を製造する。熱間圧延温度は制限されず、一実施例として、950℃以下で熱延を終了することができる。
次に、熱延板に形成されたスケールの一部を除去して10nm以上の厚さのスケールを残留させる。具体的には10~300nm、より具体的には30nm~150nmであることがよい。
熱間圧延は高い温度で行われるため、必然的に熱延板の表面にスケールが形成される。このスケールは磁性に悪影響を及ぼし、圧延時にスリップ(slip)が発生させるため、全部除去することが一般的であった。
【0029】
本発明の一実施例では、スケール層を10nmの厚さ以上に意図的に残留させることによって、金属酸化物層との密着性を改善し、追加的な絶縁特性を得ることができた。スケールはFe含有量が鋼板基材に比べて少なく、代わりにSi含有量が比較的高くて、OH、O成分と結合力が大きく作用する。一般的な方法のようにスケールをすべて除去する場合には、表面にFeのみ存在する。Feは、焼鈍分離剤である酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムとの親密度が非常に低いので、酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムがFe表面に効果的に塗布されない。しかし、Siは、Oとの結合力が大きくて、酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムとの親密度も非常に高い。したがって、内部スケールにSiO2が含まれているので、内部スケールを残留させる場合には、酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムが効果的に塗布できる。
【0030】
また、スケールは、それ自体でO成分の含有量が鋼板基材に比べて高くて、それ自体で絶縁特性が付与される。
さらに、熱延板のスケール層を残留させた後、表面に残留するスケール層は、2個以上の相からなる。第1相は、SiO2を含むことができ、第2相は、Al、Ti、Cu、Cr、Ni、Ca、Zn、Na、K、Mo、In、Sb、Ba、Bi、またはMnの中から選択される金属の酸化物のうちの1種以上を含むことができる。
【0031】
スケールを残留させる方法は特に限定されないが、一例として、回転速度は300~2500rpm、含有されている粒子の量は300~800kg/min、粒子ballのサイズは0.1~0.8cm、および基板の移動速度は20~60mpmであるブラスト方法を用いて処理することができる。ブラスト方法とは、微細粒子を速い速度で鋼板と衝突させてスケールを除去する方法である。この時、微細粒子の速度は、0.5~200km/sであることがよい。
これは、スケールを全部除去するブラスト方法に比べて、粒子の量が少ないという条件である。このように前記のブラスト方法によってスケールを適切な厚さに残留させることができる。前記の範囲から外れていれば、スケールがすべて除去されるなど適切な厚さのスケールを残留させることができない。
【0032】
本発明の一実施例において、熱延板に残留するスケールの厚さは、10nm以上である。スケールの厚さは、鋼板全体にわたって不均一である。別途の説明がなければ、スケールの厚さは、鋼板の全体面に対する平均厚さを意味する。スケールの厚さが過度に厚く残存する場合、磁性に悪影響を及ぼす虞がある。したがって、残留するスケールの厚さは、10~300nmであることがよい。さらに具体的には、残留するスケールの厚さは、30~150nmであってもよい。
次に、スケールが残存する熱延板の粗さを制御する。この時、熱延板の粗さとは、熱延板の最表面の粗さ、つまり、スケールの粗さを意味する。スケールが残存する場合、粗さが非常に大きくなり、これは、磁性に悪影響を及ぼす。したがって、スケールを除去することなく、粗さのみを制御することが必要である。
【0033】
本発明の一実施例において、粗さ制御する段階により、熱延板の粗さを1.0~2.5に制御することができる。具体的には1.3~2.4、より具体的には2.0~2.3であってよい。粗さが大きすぎると、磁性に悪影響を及ぼすことがある。逆に、粗さを過度に小さく制御しようとする場合には、スケールがすべて除去される問題が発生する。したがって、前記の範囲に粗さを制御することが好ましい。
粗さの制御方法として、熱延板を、ゴムでコーティングされたブレードの間を通過させる段階を含むことができる。
この時、ゴムの弾性度は、1~5であることがよい。具体的には1~3、より具体的には1~2であることがよい。弾性度が範囲を外れる場合には、所望の範囲への粗さ制御が難しくなる虞がある。
【0034】
熱延板の粗さを制御する段階の後、酸洗する段階をさらに含むことができる。酸洗により熱延板の粗さをさらに制御することができる。酸洗時、酸溶液の濃度が高かったり、浸漬時間が長くなると、スケールがすべて除去される問題が発生する。したがって、温度が65~76℃である16重量%以下の酸溶液に20~120秒間浸漬することが好ましい。
次に、熱延板を冷間圧延して、冷延板を製造する。熱延板の厚さに応じて異なって適用されるが、圧下率70~95%を適用して、最終厚さが0.2~0.65mmとなるように冷間圧延することができる。冷間圧延は、1回の冷間圧延で実施するか、あるいは必要に応じて中間焼鈍を間におく2回以上の冷間圧延を実施することも可能である。
【0035】
冷間圧延過程でスケール層も共に圧延されて厚さが小さくなる。冷間圧延後、スケール層の厚さは、5~100nmになる。さらに具体的には2~20nmになる。
次に、冷間圧延された冷延板を1次再結晶焼鈍する。1次再結晶焼鈍段階でゴス結晶粒の核が生成される1次再結晶が起こる。1次再結晶焼鈍過程で鋼板の脱炭および窒化が行われる。脱炭および窒化のために、水蒸気、水素およびアンモニアの混合ガス雰囲気下で1次再結晶焼鈍することができる。
【0036】
窒化のために、アンモニアガスを用いて鋼板に窒素イオンを導入して主析出物である(Al、Si、Mn)NおよびAlNなどの窒化物を形成するにあたり、脱炭を終えて窒化処理するか、あるいは脱炭と同時に窒化処理を共に行えるように同時に窒化処理を行うか、あるいは窒化処理を先に行ってから脱炭を行う方法のいずれも、本発明の効果を発揮する上で問題はない。
1次再結晶焼鈍は、600~950℃の温度範囲で実施できる。具体的には、750~870℃の温度範囲で実施できる。
【0037】
1次再結晶焼鈍段階で、酸素親和度が高いスケール内のSiは、酸素と反応してSiO2を形成する。また、1次再結晶焼鈍段階で酸素が次第に鋼板内に浸透しながら、Fe系酸化物(Fe2SiO4)なども形成される。つまり、1次再結晶焼鈍段階の後、鋼板表面にはSiO2およびFe系酸化物を含む酸化膜が形成される。
次に、1次再結晶焼鈍が完了した冷延板を2次再結晶焼鈍する。この時、1次再結晶焼鈍が完了した冷延板に焼鈍分離剤を塗布した後、2次再結晶焼鈍することができる。この時、焼鈍分離剤は特に制限せず、酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムを主成分とし、フッ化物をさらに含む焼鈍分離剤を使用することができる。フッ化物は、アンモニウムフルオライド(NH4F)、CaF2、NaFおよびMgF2からなる群の中から選択されたものであることがよい。
【0038】
2次再結晶焼鈍段階では、1次再結晶焼鈍段階で形成されたSiO2およびFe系酸化物を含む酸化膜が焼鈍分離剤である酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムと反応する。このような反応は、金属酸化物層中のフォルステライト化合物を形成する下記の化学式1または化学式2で表すことができる。フォルステライト化合物は、高温焼鈍過程で2次再結晶が安定的に起こるようにするのに役立つことができる。以下、フッ化物がアンモニウムフルオライドである場合を例として説明する。
〔化1〕
2Mg(OH)2+SiO2→Mg2SiO4(フォルステライト)+2H2O
〔化2〕
2MgO+SiO2→Mg2SiO4(フォルステライト)
【0039】
焼鈍分離剤にさらに含まれるフッ化物であるアンモニウムフルオライドは、下記の化学式3、および化学式4の反応により、MgSiO3、Mg3Si4O10(OH)2などの中間産物を防止し、層のすべての物質がフォルステライト(Mg2SiO4)で均一な物質が形成されるようにする。
〔化3〕
Mg3Si4O10(OH)2+MgO→4MgSiO3+H2O
〔化4〕
MgO+MgSiO3→Mg2SiO4
【0040】
焼鈍分離剤において、アンモニウムフルオライドは、酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウム100重量%に対して0.5~2重量%含まれる。具体的には、アンモニウムフルオライドは、酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウム100重量%に対して0.1~2重量%、より具体的には0.5~1.5重量%含まれる。焼鈍分離剤は、スラリー状態で、酸化マグネシウムおよび水酸化マグネシウム100重量%に対して400~1500重量%の水を含むことができる。
焼鈍分離剤の塗布量は、1~20g/m2であることがよい。より具体的には1~15g/m2であることがよい。焼鈍分離剤の塗布量が少なすぎると、金属酸化物層の形成が円滑に行われない虞がある。これに対し、焼鈍分離剤の塗布量が多すぎると、2次再結晶に悪影響を及ぼす虞がある。
【0041】
次に、焼鈍分離剤が塗布された鋼板を2次再結晶焼鈍する。2次再結晶焼鈍の目的は、大きくみると、2次再結晶による{110}<001>集合組織の形成、脱炭時に形成された酸化層と酸化マグネシウムまたは水酸化マグネシウムの反応によるフォルステライト化合物を含む金属酸化物層の形成により、絶縁性付与、磁気特性を阻害する不純物の除去にある。
2次再結晶焼鈍時、1次昇温区間の温度は650~850℃、2次昇温区間の温度は850~1250℃とすればよい。昇温区間での昇温速度は15℃/hrであることがよい。また、1次昇温区間では窒素20~30体積%と水素70~80体積%との混合ガスで維持して、粒子成長抑制剤である窒化物を保護することによって2次再結晶がよく発達するようにし、2次昇温まで完了した後には、100体積%の水素雰囲気で15時間維持した後、炉冷して不純物を除去するようにする。
【0042】
以後、金属酸化物層上に絶縁コーティング層を形成する段階をさらに含むことができる。絶縁を形成する方法として、被膜上にセラミック粉末、溶液、ゾルを噴射してセラミック層を形成することができる。具体的には、プラズマスプレーコーティング(Plasma spray)、高速火炎スプレーコーティング(High velocity oxy fuel)、エアロゾルデポジション(Aerosol deposition)、低温スプレーコーティング(Cold spray)の方法を適用することができる。
セラミックゾルおよび溶液に金属リン酸塩を含むセラミック層形成組成物を塗布してセラミック層を形成する方法を使用することができる。
セラミック層の形成後、必要に応じて磁区微細化を行うことができる。
以下、実施例を通じて本発明をより詳細に説明する。しかし、このような実施例は単に本発明を例示するためのものであり、本発明がこれに限定されるものではない。
【0043】
実験例1-スケール層の残存による比較
実施例1-スケール層を残存させた場合
シリコン(Si)を3.4重量%含み、残部はFeおよびその他の不可避不純物からなるスラブを用意した。
スラブを2.3mmの厚さに熱間圧延して熱延板を製造した。
熱延板を、Shot Blasterを用いて、鋼板の移動速度30mpm、粒子使用量700kg/min、粒子ballのサイズ0.6cm、回転速度2250rpmで処理して、約50nmの厚さのスケール層を残留させた。以後、弾性度約1~2のゴムでコーティングされたブレードの間を通過させて、表面粗さを約2.0~2.3に制御した。以後、約72℃の温度の塩酸溶液(濃度約16重量%)で約120秒間浸漬して酸洗処理した後、洗浄を実施した。
【0044】
図2には、酸洗後の鋼板断面の走査電子顕微鏡(SEM)写真を示した。
図2に示したとおり、スケール層が白色部分で表示され、スケール層が残留することを確認できる。
酸洗された熱延板表面をEPMAで測定した結果、Si含有量が多量存在することを確認できる(
図4の薄膜事前処理)。
その後、冷間圧延して、板の厚さを0.23mmとした。冷間圧延後の冷延板の断面を
図5に示した。
図5に示したとおり、冷間圧延後にもスケール層が15~20nm残存することを確認できた。
【0045】
比較例1-スケール完全除去
シリコン(Si)を3.4重量%含み、残部はFeおよびその他の不可避不純物からなるスラブを用意した。
スラブを2.3mmの厚さに熱間圧延して熱延板を製造した。
熱延板を、Shot Blasterを用いて、鋼板の移動速度30mpm、回転速度2250rpm、使用した粒子量1500kg/min、粒子ballのサイズ0.6cmで処理して、スケール層をすべて除去した。以後、約82℃の温度の塩酸溶液(濃度約16重量%)で約120秒間浸漬して酸洗処理した後、洗浄を実施した。
【0046】
図3には、酸洗後の鋼板断面の走査電子顕微鏡(SEM)写真を示した。
図3に示したとおり、スケール層がすべて除去されたことを確認できた。
酸洗された熱延板表面をEPMAで測定した結果、Si含有量が微量存在することを確認できる(
図4の一般)。
その後、冷間圧延して、板の厚さを0.23mmとした。
【0047】
比較例2-スケール多量存在
シリコン(Si)を3.4重量%含み、残部はFeおよびその他の不可避不純物からなるスラブを用意した。
スラブを2.3mmの厚さに熱間圧延して熱延板を製造した。
熱延板を、Shot Blasterを用いて、鋼板の移動速度30mpm、粒子使用量500kg/min、回転速度2250rpm、粒子ballのサイズ0.6cmで処理して、厚さが約800nmのスケール層を残留させた。以後、約65℃の温度の塩酸溶液(濃度約7重量%)で約60秒間浸漬して酸洗処理した後、洗浄を実施した。
その後、冷間圧延して、板の厚さを0.23mmとした。
【0048】
実験例2-アンモニウムフルオライドの添加による比較
実施例2-アンモニウムフルオライド1重量%使用および2次昇温1000℃
実施例1の冷延板に、次の過程により金属酸化物層を形成した。
実施例1の冷延板を、NH
3ガス雰囲気下、850℃の温度で1次再結晶焼鈍した。
1次再結晶焼鈍が完了した冷延板に水酸化マグネシウムおよびアンモニウムフルオライドを含む焼鈍分離剤を塗布した。アンモニウムフルオライドは、水酸化マグネシウム100重量%に対して1重量%含まれた。水は、水酸化マグネシウム100重量%に対して85重量%含まれた。
その後、焼鈍分離剤が塗布された冷延板を2次再結晶焼鈍した。2次再結晶焼鈍時、1次昇温は温度650℃から温度850℃まで昇温速度15℃/hrで昇温し、2次昇温は温度850℃から温度1000℃まで行われ、昇温速度は15℃/hrであった。また、1次昇温は窒素20体積%、水素80体積%の雰囲気下で進行させ、2次昇温後、100体積%の水素雰囲気下で15時間維持した後、炉冷して不純物を除去した。形成された金属酸化物層をXRD分析して、その結果を
図6に示した。
【0049】
実施例3-アンモニウムフルオライド1重量%使用および2次昇温1200℃
アンモニウムフルオライドを酸化マグネシウム100重量%に対して1重量%を使用し、2次昇温を1200℃まで実施した以外は、実施例2と同様に金属酸化物層を形成した。形成された金属酸化物層をXRD分析して、その結果を
図7に示した。
【0050】
比較例3-アンモニウムフルオライド無添加、2次昇温1000℃
焼鈍分離剤がアンモニウムフルオライドを含有しないことを除けば、実施例2と同様に金属酸化物層を形成した。形成された金属酸化物層をXRD分析して、その結果を
図8に示した。
【0051】
比較例4-アンモニウムフルオライド無添加、2次昇温1200℃
焼鈍分離剤がアンモニウムフルオライドを含有せず、2次昇温温度を1200℃までした以外は、実施例2と同様に金属酸化物層を形成した。形成された金属酸化物層をXRD分析して、その結果を
図9に示した。
【0052】
本発明は実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造可能であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更することなく他の具体的な形態で実施できることを理解するであろう。そのため、以上に述べた実施例はあらゆる面で例示的であり、限定的ではないと理解しなければならない。
【符号の説明】
【0053】
100:方向性電磁鋼板
10:方向性電磁鋼板基材
20:スケール層
30:金属酸化物層
40:絶縁コーティング層