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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】樹脂材料及び金属基板
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/12 20060101AFI20230830BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20230830BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20230830BHJP
   C08L 9/06 20060101ALI20230830BHJP
   C08L 79/00 20060101ALI20230830BHJP
   C08K 9/04 20060101ALI20230830BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20230830BHJP
   C08K 3/24 20060101ALI20230830BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230830BHJP
   C08K 5/5425 20060101ALI20230830BHJP
   C08K 5/5313 20060101ALI20230830BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20230830BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20230830BHJP
   H05K 1/03 20060101ALN20230830BHJP
【FI】
C08L71/12
C08K3/013
C08L9/00
C08L9/06
C08L79/00 B
C08K9/04
C08K3/36
C08K3/24
C08K3/22
C08K5/5425
C08K5/5313
B32B15/08 Q
B32B27/18 B
H05K1/03 610H
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022078606
(22)【出願日】2022-05-12
(65)【公開番号】P2023042530
(43)【公開日】2023-03-27
【審査請求日】2022-05-12
(31)【優先権主張番号】110134126
(32)【優先日】2021-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】501296612
【氏名又は名称】南亞塑膠工業股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】NAN YA PLASTICS CORPORATION
【住所又は居所原語表記】NO.201,TUNG HWA N.RD.,TAIPEI,TAIWAN
(74)【代理人】
【識別番号】110002664
【氏名又は名称】弁理士法人相原国際知財事務所
(72)【発明者】
【氏名】廖 ▲トク▼超
(72)【発明者】
【氏名】張 宏毅
(72)【発明者】
【氏名】陳 其霖
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0166729(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08K
B32B 15/08
B32B 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物及び前記樹脂組成物に分散する無機フィラーを含む樹脂材料であって、
前記樹脂組成物は、
液体ゴム2重量%~40重量%と、
ポリフェニレンエーテル樹脂5重量%~60重量%と、
架橋剤3重量%~40重量%と、
リン系難燃剤5重量%~40重量%と、を含み、
前記液体ゴムは少なくともブタジエンモノマーで合成され、前記ブタジエンモノマーの総量を100mol%として、30mol%~98mol%の前記ブタジエンモノマーは、重合後にビニール基を含む側鎖を有し、
前記ポリフェニレンエーテル樹脂の分子末端に少なくとも1つの改質基を有し、前記改質基は、ビニール基、スチレン基及びメタクリレート基の基からなる群から選択され、
前記架橋剤は、トリアリルシアヌレート(triallyl cyanurate,TAC)、トリアリルイソシアヌレート(triallyl isocyanurate,TAIC)、フタル酸ジアリル(diallyl phthalate)、ジビニルベンゼン(divinylbenzene)、トリアリルトリメリテート(triallyl trimellitate)又はそれらの組み合わせであり、
前記リン系難燃剤の構造は、式(I)で表される、樹脂材料。
【化4】
【請求項2】
前記液体ゴムの分子量は、1500g/mol~6000g/molである、請求項1に記載の樹脂材料。
【請求項3】
前記液体ゴムはブタジエンモノマー及びスチレンモノマーで合成され、
前記液体ゴムの総量を100mol%として、前記スチレンモノマーの前記液体ゴムでの含有量は、10mol%~50mol%である、請求項1に記載の樹脂材料。
【請求項4】
ビスマレイミド樹脂を更に含み、前記樹脂組成物の総重を100重量%として、前記ビスマレイミド樹脂の含有量は、5重量%~30重量%である、請求項1に記載の樹脂材料。
【請求項5】
前記樹脂組成物の総重を100重量部として、前記無機フィラーの含有量は、20重量部~150重量部である、請求項1に記載の樹脂材料。
【請求項6】
前記無機フィラーは、表面処理を行うことにより、アクリル基及びビニール基の中の少なくとも1つを含む、請求項1に記載の樹脂材料。
【請求項7】
前記無機フィラーは、二酸化ケイ素、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、二酸化チタン及び酸化アルミニウムの中の少なくとも1つである、請求項1に記載の樹脂材料。
【請求項8】
アクリル基及びビニール基の中の少なくとも1つを有するシロキサンカップリング剤を更に含む、請求項1に記載の樹脂材料。
【請求項9】
前記樹脂組成物の総重を100重量部として、前記シロキサンカップリング剤の含有量は、0.1重量部~5重量部である、請求項8に記載の樹脂材料。
【請求項10】
ガラス転移温度が150℃~220℃である、請求項1に記載の樹脂材料。
【請求項11】
樹脂材料で製造された基材層と、前記基材層に設置された金属層とを備える、金属基板であって、
前記樹脂材料は、樹脂組成物及び前記樹脂組成物に分散する無機フィラーを含み、
前記樹脂組成物は、
液体ゴム2重量%~40重量%と、
ポリフェニレンエーテル樹脂5重量%~60重量%と、
架橋剤3重量%~40重量%と、
リン系難燃剤5重量%~40重量%と、を含み、
前記液体ゴムは少なくともブタジエンモノマーで合成され、前記ブタジエンモノマーの総量を100mol%として、30mol%~98mol%の前記ブタジエンモノマーは、重合後にビニール基を含む側鎖を有し、
前記ポリフェニレンエーテル樹脂の分子末端に少なくとも1つの改質基を有し、前記改質基は、ビニール基、スチレン基及びメタクリレート基の基からなる群から選択され、
前記架橋剤は、トリアリルシアヌレート(triallyl cyanurate,TAC)、トリアリルイソシアヌレート(triallyl isocyanurate,TAIC)、フタル酸ジアリル(diallyl phthalate)、ジビニルベンゼン(divinylbenzene)、トリアリルトリメリテート(triallyl trimellitate)又はそれらの組み合わせであり、
前記リン系難燃剤の構造は、式(I)で表される、金属基板。
【化5】
【請求項12】
前記樹脂材料の10GHZでの誘電正接は、0.0024未満である、請求項11に記載の金属基板。
【請求項13】
前記樹脂材料の10GHZでの比誘電率は、3.4未満である、請求項11に記載の金属基板。
【請求項14】
剥離強度は、3.0lb/in~6lb/inである、請求項11に記載の金属基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂材料及び金属基板に関し、特に、ハロゲンフリー低誘電樹脂材料及びそれで製造された金属基板に関する。
【背景技術】
【0002】
第5世代移動通信システム(5th generation wireless system,5G)の開発に伴い、5G無線通信規格を満たすために、高周波伝送が現在の開発の主流となっている。したがって、業界は、高周波伝送に適した樹脂材料の開発を進行させ、28GHz~60GHzの周波数範囲での応用を求める。
【0003】
高周波伝送に応用するために、樹脂材料は通常、低い比誘電率(dielectric constant,Dk)と低い誘電正接(dielectric dissipation factor,Df)の特性を持っている。本明細書において、樹脂材料の比誘電率と誘電正接とを合わせて、誘電特性と称す。
【0004】
現有の市販の樹脂材料は、所定比率で液体ゴムを含むことによって、材料における各成分の相容性を向上させると共に、硬化した材料の架橋性を向上させる。しかしながら、液体ゴムの添加量は、高すぎてはいけない。液体ゴムの含有量が高すぎると、樹脂材料の耐熱性が低減することとなり、難燃剤を追加で添加する必要がある。
【0005】
ただし、難燃剤を添加した後に、樹脂材料の誘電特性が低減することはある。即ち、耐熱性及び誘電特性を両立する樹脂材料が市場に出回っていない。
【0006】
故に、成分の改良により、樹脂材料の耐熱性及び誘電特性を両立することによって、上述した欠点を克服することは、本事業にとって重要な課題となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする技術の課題は、従来技術の不足に対し、樹脂材料及び金属基板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用する一つの技術的手段は、樹脂材料を提供する。樹脂材料は、樹脂組成物及び樹脂組成物に分散する無機フィラーを含む。樹脂組成物は、液体ゴム2重量%~40重量%と、ポリフェニレンエーテル樹脂5重量%~60重量%と、架橋剤3重量%~40重量%と、リン系難燃剤5重量%~40重量%と、を含む。リン系難燃剤の構造は、式(I)で表される。
【化1】
【0009】
本発明の一つの実施形態において、液体ゴムの分子量は、1500g/mol~6000g/molである。
【0010】
本発明の一つの実施形態において、液体ゴムは少なくともブタジエンモノマーで合成され、ブタジエンモノマーの総量を100mol%(モル%)として、30mol%~98mol%のブタジエンモノマーは、重合後にビニール基を含む側鎖を有する。
【0011】
本発明の一つの実施形態において、液体ゴムはブタジエンモノマー及びスチレンモノマーで合成され、液体ゴムの総量を100mol%として、スチレンモノマーの液体ゴムでの含有量は、10mol%~50mol%である。
【0012】
本発明の一つの実施形態において、樹脂材料は、ビスマレイミド樹脂を更に含み、樹脂組成物の総重を100重量%として、ビスマレイミド樹脂の含有量は、5重量%~30重量%である。
【0013】
本発明の一つの実施形態において、樹脂組成物の総重を100重量部として、無機フィラーの添加量は、20重量部~150重量部である。
【0014】
本発明の一つの実施形態において、無機フィラーは、表面処理を行うことにより、アクリル基及びビニール基の中の少なくとも1つを含む。
【0015】
一つの実施形態において、無機フィラーは、二酸化ケイ素、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、二酸化チタン及び酸化アルミニウムの中の少なくとも1つである。
【0016】
本発明の一つの実施形態において、樹脂材料は、アクリル基及びビニール基の中の少なくとも1つを有するシロキサンカップリング剤を更に含む。
【0017】
本発明の一つの実施形態において、樹脂組成物の総重を100重量部(parts per hundred resin,phr)として、シロキサンカップリング剤の添加量は、0.1重量部~5重量部である。
【0018】
本発明の一つの実施形態において、樹脂材料のガラス転移温度(glass transition temperature,Tg)は、150℃~220℃である。
【0019】
上記の技術的課題を解決するために、本発明が採用するもう一つの技術的手段は、金属基板を提供することである。金属基板は、樹脂材料で製造された基材層と、基材層に設置された金属層とを備える。樹脂材料は、樹脂組成物及び樹脂組成物に分散する無機フィラーを含む。樹脂組成物は、液体ゴム2重量%~40重量%と、ポリフェニレンエーテル樹脂5重量%~60重量%と、架橋剤3重量%~40重量%と、リン系難燃剤5重量%~40重量%と、を含む。リン系難燃剤の構造は、式(I)で表される。
【化2】
【0020】
本発明の一つの実施形態において、樹脂材料の10GHzでの誘電正接は、0.0024未満である。
【0021】
本発明の一つの実施形態において、樹脂材料の10GHzでの比誘電率は、3.4未満である。
【0022】
本発明の一つの実施形態において、金属基板の剥離強度は、3.0lb/in~6lb/inである。
【発明の効果】
【0023】
本発明の有利な効果として、本発明に係る樹脂材料及び金属基板は、「リン系難燃剤5~40重量%」、「リン系難燃剤の構造は、式(I)で表される」といった技術特徴により、良好な耐熱性及び誘電特性の利点を有する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の特徴及び技術内容がより一層分かるように、以下の本発明に関する詳細な説明を参照されたい。しかし、詳細な説明は参考と説明のために提供するものに過ぎず、本発明の請求の範囲を制限するためのものではない。
【0025】
以下、所定の具体的な実施態様によって「樹脂材料及び金属基板」を説明し、当業者は、本明細書に開示された内容に基づいて本発明の利点と効果を理解することができる。本発明は、他の異なる具体的な実施態様によって実行または適用でき、本明細書における各細部についても、異なる観点と用途に基づいて、本発明の構想から逸脱しない限り、各種の修正と変更を行うことができる。以下の実施形態に基づいて本発明に係る技術内容を更に詳細に説明するが、開示される内容によって本発明の保護範囲を制限することはない。また、本明細書において使用される「または」という用語は、実際の状況に応じて、関連して挙げられる項目におけるいずれか1つまたは複数の組み合わせを含むことがある。
【0026】
[樹脂材料]
本発明において、特定の難燃剤を使用することにより、従来の過量の液体ゴムを添加することによる耐熱性が不良となる問題を解決できる。難燃剤を添加した後でも、樹脂材料の誘電特性が不良(高比誘電率、高誘電正接)となる問題を起こさない。換言すると、樹脂材料に本発明の特定の難燃剤を添加することによって、良好な難燃性及び誘電特性を両立することができる。
【0027】
また、従来の樹脂組成物に比べて、本発明の樹脂組成物には、比較的に高い含有量(好ましくは、20wt%)で難燃剤を含有すると共に、ある程度の誘電特性(3.4未満の比誘電率及び0.0024未満の誘電正接)を維持する。
【0028】
具体的に説明すると、本発明に係る樹脂材料は、樹脂組成物及び樹脂組成物に均一に分散する無機フィラーを含む。以下にて、樹脂材料及び無機フィラーの特性について詳しく説明する。
【0029】
[樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物は、液体ゴム2重量%~40重量%と、ポリフェニレンエーテル樹脂5重量%~60重量%と、架橋剤3重量%~40重量%と、リン系難燃剤5重量%~40重量%と、を含む。リン系難燃剤の構造は、式(I)で表される。
【化3】
【0030】
上述のような特定の成分及び含有量により、本発明の樹脂材料は、高周波伝送分野に用いられる、耐熱性及び誘電特性が良好な高周波基板を製造することができる。高周波基板は、金属層と良好な結合力を有する。樹脂材料及び金属基板の特性試験については後述する。
【0031】
本発明の樹脂材料は液体ゴムを含む。液体ゴムは、高い溶解性という特徴を有するため、各成分の間の相容性を向上させると共に、液体ゴムは、反応性官能基を有するため、樹脂材料を硬化した後の架橋度を向上させることができる。
【0032】
本発明の液体ゴムの分子量は、1500g/mol~6000g/molである場合に、樹脂組成物の流動性が上昇し、樹脂材料の充填性を向上させることができる。液体ゴムの分子量は、1700g/mol~5500g/molであることは好ましく、2000g/mol~4000g/molであることはより好ましい。
【0033】
樹脂組成物の総重を100重量%として、液体ゴムの樹脂組成物での含有量は、1重量%~40重量%である。一つの実施形態において、液体ゴムの樹脂組成物での含有量は、2重量%~35重量%であり、3重量%~32重量%であることは好ましい。
【0034】
一つの実施形態において、液体ゴムは、液体ジエン系ゴムを含む。好ましくは、液体ジエン系ゴムは、高い比率でビニール基を含む側鎖を有する。特に、高い比率で1,2-ビニール基側鎖を含む液体ジエン系ゴムである。
【0035】
液体ゴムが少なくとも1つのビニール基を含む不飽和側鎖(若しくは、ビニール基)を有する場合に、架橋した樹脂組成物の架橋密度及び耐熱性が向上する。具体的に説明すると、液体ゴムは、ブタジエンモノマーで合成される。液体ゴムは、ブタジエンモノマーのみで合成されてもよく、ブタジエンモノマーと他のモノマーで合成されてもよい。換言すると、液体ゴムは、ブタジエンホモポリマー又はブタジエン共重合体であってもよく、好ましくは、ブタジエンホモポリマーである。
【0036】
液体ゴムがブタジエンモノマーで合成される場合に、ブタジエンモノマーの総重を100mol%として、30mol%~98mol%のブタジエンモノマー(重合後)は、ビニール基を含む側鎖を有する。一つの実施形態において、ブタジエンモノマーの総重を100mol%として、40mol%、50mol%、60mol%、70mol%、80mol%又は90mol%のブタジエンモノマー(重合後)は、ビニール基を含む側鎖を有する。
【0037】
一つの実施形態において、液体ゴムは、ブタジエンモノマー及びスチレンモノマーで合成される。液体ゴムの総重を100mol%として、スチレンモノマーの液体ゴムでの含有量は、10mol%~50mol%である。スチレンモノマーの液体ゴムでの含有量が10mol%~50mol%であると、液晶と類似する配列構造を達成することが容易となり、液体ゴムの耐熱性及び相容性を向上することができる。
【0038】
一つの実施形態において、液体ゴムの総重を100mol%として、スチレンモノマーの液体ゴムでの含有量は、15mol%、20mol%、25mol%、30mol%、35mol%、40mol%又は45mol%であってもよい。
【0039】
本発明のポリフェニレンエーテル樹脂の分子量は、100g/mol~20000g/molであり、好ましくは、300g/mol~10000g/molであり、より好ましくは、400g/mol~2500g/molである。ポリフェニレンエーテル樹脂の分子量が20000g/mol未満である場合に、ポリフェニレンエーテル樹脂の溶媒に対する溶解性が高いため、樹脂組成物の製造にとって有利である。
【0040】
一つの実施形態において、樹脂組成物の総重を100重量%として、ポリフェニレンエーテル樹脂の含有量は、10重量%~50重量%であり、好ましくは、20重量%~40重量%であり、より好ましくは、25重量%~35重量%である。
【0041】
一つの例示において、ポリフェニレンエーテル樹脂の分子末端に少なくとも1つの改質基を有する。改質基は、水酸基、アミノ基、ビニール基、スチレン基、メタクリレート基及びエポキシ基などの基からなる群から選択され、好ましくは、スチレン基又はメタクリレート基である。
【0042】
ポリフェニレンエーテル樹脂での改質基は、不飽和結合を提供して、架橋反応の進行が有利となり、それによって、高ガラス転移温度且つ耐熱性が良好な材料を形成することができる。本実施形態において、ポリフェニレンエーテルの分子構造における2つの末端にはそれぞれ、改質基を有すると共に、前記2つの改質基が同一である。また、ポリフェニレンエーテル樹脂は、単一種類のポリフェニレンエーテルを含んでもよく、複数種類のポリフェニレンエーテルを同時に含んでもよい。
【0043】
一つの実施形態において、ポリフェニレンエーテル樹脂は、第1のポリフェニレンエーテル樹脂及び第2のポリフェニレンエーテル樹脂を含んでもよい。第1のポリフェニレンエーテル樹脂及び第2のポリフェニレンエーテル樹脂は独立に、2つの末端にある改質基が水酸基であるポリフェニレンエーテル、2つの末端にある改質基がメタクリレート基であるポリフェニレンエーテル、2つの末端にある改質基がスチレン基であるポリフェニレンエーテル、2つの末端にある改質基がメタクリレート基であるポリフェニレンエーテル、又は2つの末端にある改質基がエポキシ基であるポリフェニレンエーテルであってもよいが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0044】
具体的に説明すると、第1のポリフェニレンエーテル樹脂と第2のポリフェニレンエーテル樹脂との重量比は、0.5~1.5であってもよく、好ましくは0.75~1.25であり、より好ましくは0.85~1.15である。
【0045】
本発明の樹脂組成物は、ビスマレイミド樹脂を更に含む。樹脂組成物の総重を100重量%として、ビスマレイミド樹脂の含有量は、5重量%~30重量%であり、6重量%~20重量%であることは好ましく、7重量%~15重量%であることはより好ましい。
【0046】
一つの実施形態において、ビスマレイミド樹脂は、少なくとも2つの官能基有することによって、低誘電金属基板の剥離強度が向上させることができるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0047】
本発明のビスマレイミド樹脂の重量平均分子量は、500g/mol~4500g/molであり、好ましくは、500g/mol~3500g/molであり、より好ましくは、500g/mol~3000g/molである。
【0048】
本発明の架橋剤は、ポリフェニレンエーテル樹脂と液体ゴムとの架橋度を向上させることができる。本実施形態において、架橋剤は、アリル基(allyl group)を含んでもよい。例えば、架橋剤は、トリアリルシアヌレート(triallyl cyanurate,TAC)、トリアリルイソシアヌレート(triallyl isocyanurate,TAIC)、フタル酸ジアリル(diallyl phthalate)、ジビニルベンゼン(divinylbenzene)、トリアリルトリメリテート(triallyl trimellitate)又はそれらの組み合わせであってもよい。好ましくは、架橋剤は、トリアリルイソシアヌレートであるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0049】
一つの実施形態において、樹脂組成物の総重を100重量%として、架橋剤の含有量は、3重量%~37重量%であり、5重量%~35重量%であることは好ましく、7重量%~30重量%であることはより好ましい。
【0050】
本発明のリン系難燃剤は、以下の方法で製造されてもよいが、リン系難燃剤の製造方法はこれに制限されるものではない。
【0051】
一つの具体的な実施例において、432g(2モル)の9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド(9,10-dihydro-9-oxa-10-phosphaphenanthrene-10-oxide,DOPO)と、251g(1モル)のビス(クロロメチル)ビフェニルと、2400gのトルエンとを、撹拌槽に添加して、170℃の温度で加熱撹拌を16時間続けることによって、反応を進行させて溶液を製造する。溶液が室温に冷却された後に、ヘキサンを添加することで産物を洗濯し、ろ過を行って白色の結晶産物を得て、次に、120℃で白色の結晶産物を乾燥することによって、リン系難燃剤を得られる。
【0052】
式(I)で表されるリン系難燃剤を添加することにより、本発明の樹脂材料は、良好な誘電特性(3.4未満の比誘電率及び0.0024未満の誘電正接)を有する。従来の樹脂材料に比べて、より高い添加量(20重量%を超える)で難燃剤を含有することとなる。
【0053】
一つの実施形態において、樹脂組成物の総重を100重量%として、本発明のリン系難燃剤の含有量は、10重量%~38重量%であり、15重量%~35重量%であることは好ましく、25重量%~32重量%であることはより好ましい。
【0054】
[無機フィラー]
無機フィラーの添加により、樹脂材料の粘度を低減させ、且つ樹脂材料の比誘電率を低減させることができる。一部の種類の無機フィラーは、樹脂材料の熱導電性を向上させることもあるが、上述した説明は概に説明したものであり、本発明はこれに制限されるものではない。
【0055】
本発明において、無機フィラーは、二酸化ケイ素、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、二酸化チタン、酸化アルミニウム又はそれらの組み合わせであってもよいが、本発明はこれに制限されるものではない。一つの好ましい実施形態において、無機フィラーは、二酸化ケイ素と、酸化アルミニウムと、二酸化チタンとを同時に含み、また、二酸化チタンは、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム又はそれらの組み合わせで置換されてもよい。二酸化ケイ素は、溶融シリカ又は結晶シリカであってもよい。好ましくは、二酸化ケイ素は溶融シリカである。
【0056】
一つの好ましい実施形態において、無機フィラーは、表面処理を行うことにより、無機フィラーの表面にアクリル基及びビニール基の中の少なくとも1つを含む。このように、無機フィラーと液体ゴムとを反応することが可能となり、それによって、樹脂組成物が良好な相容性を有し、金属基板の耐熱性に悪影響を与えない。このように、本発明に係る樹脂材料は、高周波基板材料としてより好適である。
【0057】
特筆すべきことは、無機フィラーは、単一又は複数種類の成分で混合されてなるものであってもよい。また、全ての無機フィラーが表面処理を行うことにより、アクリル基及びビニール基の中の少なくとも1つを含むか、若しくは、一部の無機フィラーが表面処理を行うことにより、アクリル基及びビニール基の中の少なくとも1つを含んでもよい。例えば、無機フィラーは、二酸化ケイ素及び酸化アルミニウムを含む時に、一つの実施形態において、二酸化ケイ素が表面処理を行うことによりアクリル基及びビニール基の中の少なくとも1つを含むが、酸化アルミニウムが表面処理を行われていない。しかしながら、上述した例はあくまでも一つの実施形態に過ぎなく、本発明はこれに制限されるものではない。
【0058】
無機フィラーの外観は、球状である。無機フィラーの平均粒子径(D50)は、0.3μm~3μmであると共に、無機フィラーの最大粒子径(D99)は、10μm未満であることによって、無機フィラーを樹脂組成物に均一に分散することにとって有利である。
【0059】
無機フィラーの添加量は、製品の規格に応じて調整することができる。一つの実施形態において、樹脂組成物100重量部に対して、無機フィラーの添加量は、20重量部~150重量部であり、30重量部~120重量部であることは好ましく、40重量部~100重量部であることはより好ましい。しかしながら、上述した例はあくまでも一つの実施形態に過ぎなく、本発明はこれに制限されるものではない。
【0060】
[シロキサンカップリング剤]
樹脂材料は、シロキサンカップリング剤を更に含んでもよい。シロキサンカップリング剤の添加は、繊維布、樹脂組成物及び無機フィラーの間の反応性及び相容性を向上させ、金属基板の剥離強度及び耐熱性を向上させることができる。
【0061】
一つの好ましい実施形態において、シロキサンカップリング剤は、アクリル基及びビニール基の中の少なくとも1つを含む。シロキサンカップリング剤の分子量は、100g/mol~500g/molであり、110g/mol~250g/molであることは好ましく、120g/mol~200g/molであることはより好ましい。
【0062】
樹脂組成物の総重を100重量部として、シロキサンカップリング剤の含有量は、0.1重量部~5重量部であり、好ましくは、0.5重量部~3重量部である。
【0063】
[触媒]
樹脂材料は、触媒を更に含んでもよい。触媒は、樹脂材料の硬化を促進させて高周波基板を形成する、という役割を果たせる。樹脂組成物の総重を100重量部として、触媒の含有量は、0.1重量部~1重量部である。
【0064】
例えば、触媒として、イミダゾール系化合物であってもよく、例えば、トリフェニルイミダゾール(triphenylimidazole)、2-エチル-4-メチルイミダゾール(2-ethyl-4-methylimidazole,2E4MZ)、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール(1-Benzyl-2-phenylimidazole,1B2PZ)、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール(1-cyanoethyl-2-phenylimidazole,2PZ-CN)及び2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンズイミダゾール(2,3-dihydro-1H-pyrrole[1,2-a]benzimidazole,TBZ)が挙げられるが、本発明はこれに制限されるものではない。
【0065】
[特性の測定]
本発明の樹脂材料が高周波基板材料として用いられることを証明するため、本発明において、液体ゴム2重量%~40重量%と、ポリフェニレンエーテル樹脂5重量%~60重量%と、ビスマレイミド樹脂5重量%~30重量%と、架橋剤3重量%~40重量%と、リン系難燃剤5重量%~40重量%とを混合することによって、樹脂組成物を形成した上で、樹脂組成物に無機フィラーを配合した。それによって、実施例1~4及び比較例1~10に係る樹脂材料を形成した。実施例1~4及び比較例1~10における樹脂材料の成分比について、表1に示すとおりである。実施例1~4及び比較例1~10における樹脂材料のガラス転移温度、比誘電率及び誘電正接については、表2に示すとおりである。
【0066】
次に、ガラス繊維布を、実施例1~4及び比較例1~10に係る樹脂材料に浸漬させて、含浸、乾燥及び成形との工程を行った後に、プリプレグ(prepreg)を得た。プリプレグは、その後の加工処理を行い、プリプレグに金属層が設置された後に、実施例1~4及び比較例1~10に係る金属基板を製造した。実施例1~4及び比較例1~10における金属基板の剥離強度及び耐熱性については、表2に示すとおりである。
【0067】
表1に示すように、ポリブタジエンAの分子量は1200であると共に、ポリブタジエンAは85mol%の1,2-ビニール基側鎖を含む。ポリブタジエンBの分子量は2100であると共に、ポリブタジエンBは90mol%以上の1,2-ビニール基側鎖を含む。ブタジエン-スチレン-ジビニールベンゼン化ターポリマーの分子量は5300である。ブタジエン-スチレン共重合体の分子量は8600であると共に、ブタジエン-スチレン共重合体は17mol%~27mol%のスチレンモノマーを含み、40mol%の1,2-ビニール基側鎖を含む。ポリブタジエンCの分子量は3000であると共に、ポリブタジエンCは70mol%~80mol%の1,2-ビニール基側鎖を含む。
【0068】
表2における、樹脂材料/金属基板を評価する方法は、以下の通りである。
(1)ガラス転移温度:動的機械分析装置(Dynamic Mechanical Analyzer,DMA)を用いて樹脂材料のガラス転移温度を測定する。
(2)比誘電率(10GHz):誘電分析装置(Dielectric Analyzer)(品番:HP Agilent E4991A)を用いて、樹脂材料の10GHzの周波数での比誘電率を測定する。
(3)誘電正接(10GHz):誘電分析装置(Dielectric Analyzer)(品番:HP Agilent E4991A)を用いて、樹脂材料の10GHzの周波数での誘電正接を測定する。
(4)剥離強度:試験方法IPC-TM-650-2.4.8に基づいて、金属基板の剥離強度を測定する。
(5)耐熱性:圧力鍋において温度120℃、圧力2atmで金属基板を120分加熱して、288℃のはんだ付け炉に浸し、基板がポップコーンするまでにかかる時間を記録する。ポップコーンするまでにかかる時間は10分間を超えると、「OK」を示す。ポップコーンするまでにかかる時間は10分間より少ないと、「NG」を示す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
表1、表2によれば、本発明のリン系難燃剤を使用すると、樹脂材料に良好な耐熱性及び誘電特性を与える。具体的に説明すると、本発明の樹脂材料の誘電特性は3.4未満であると共に、樹脂材料の誘電正接は0.0024未満であり、比較例1~10(市販のリン系難燃剤を用いる)より優れた誘電特性を有する。
【0072】
実施例1~4によれば、本発明の樹脂材料のガラス転移温度は、150℃~220℃であり、金属基板の剥離強度は、3.2~5.5lb/inである。
【0073】
実施例1~4によれば、異なる含有比で液体ゴムを含有すると、樹脂材料の誘電特性に影響する。樹脂組成物に占める液体ゴムの含有量が3重量%~30重量%である場合、樹脂材料は、良好な誘電特性を有する。樹脂組成物に占める液体ゴムの含有量が15重量%~25重量%である場合、樹脂材料の比誘電率は3.1未満であると共に、樹脂材料の誘電特性は0.0024未満である。
【0074】
実施例5によれば、液体ゴムはブタジエンモノマー及びスチレンモノマーで合成され、スチレンモノマーの液体ゴムでの含有量が10mol%~50mol%である場合、金属基板は、より優れたガラス転移温度を有する。
【0075】
[実施形態による有利な効果]
本発明の有利な効果として、本発明に係る樹脂材料及び金属基板は、「リン系難燃剤5~40重量%」、「リン系難燃剤の構造は、式(I)で表される」といった技術特徴により、良好な耐熱性及び誘電特性の利点を有する。
【0076】
更に説明すると、本発明に係る樹脂材料及び金属基板は、「液体ゴムの分子量は、1500g/mol~6000g/molである」といった技術特徴により、樹脂組成物の流動性を向上し、樹脂材料の充填性を更に向上させることができる。
【0077】
更に説明すると、本発明に係る樹脂材料及び金属基板は、「ブタジエンモノマーの総量を100mol%として、30mol%~98mol%のブタジエンモノマーは、重合後にビニール基を含む側鎖を有する」といった技術特徴により、金属基板の剥離強度及び耐熱性を向上させることができる。
【0078】
更に説明すると、本発明に係る樹脂材料及び金属基板は、「液体ゴムはブタジエンモノマー及びスチレンモノマーで合成され、液体ゴムの総量を100mol%として、スチレンモノマーの液体ゴムでの含有量は、10mol%~50mol%である」といった技術特徴により、金属基板の耐熱性を向上させることができる。
【0079】
更に説明すると、本発明に係る樹脂材料及び金属基板は、「シロキサンカップリング剤は、アクリル基及びビニール基の中の少なくとも1つを有する」といった技術特徴により、金属基板の剥離強度及び耐熱性を向上させることができる。
【0080】
以上に開示された内容は、ただ本発明の好ましい実行可能な実施態様であり、本発明の請求の範囲はこれに制限されない。そのため、本発明の明細書及び図面内容を利用して成される全ての等価な技術変更は、いずれも本発明の請求の範囲に含まれる。