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特許7340064レーザ加工機の焦点位置の調整方法及びレーザ加工機
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】レーザ加工機の焦点位置の調整方法及びレーザ加工機
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/046 20140101AFI20230830BHJP
   B23K 26/03 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
B23K26/046
B23K26/03
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022080169
(22)【出願日】2022-05-16
【審査請求日】2022-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000154990
【氏名又は名称】株式会社牧野フライス製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】000227205
【氏名又は名称】NECプラットフォームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】矢田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】本田 直晃
(72)【発明者】
【氏名】別府 宗明
(72)【発明者】
【氏名】荒川 祐一
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-218482(JP,A)
【文献】特開2021-065897(JP,A)
【文献】特開2008-073699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ加工機の焦点位置の調整方法であって、
レーザ照射方向と直交する第1の方向に沿って評価対象をレーザ加工し、該レーザ加工機の前記レーザ照射方向の位置は、加工初期位置及び前記加工初期位置から変位した複数の位置とする第1の加工をすることと、
前記第1の加工に連続して行われる第2の加工であって、前記レーザ照射方向と直交し、かつ、前記第1の方向とは異なる第2の方向に沿って前記評価対象をレーザ加工し、該レーザ加工機の前記レーザ照射方向の位置は、前記加工初期位置及び前記加工初期位置から変位した複数の位置とする第2の加工をすることと、
前記第1の加工の加工痕から、前記第1の加工に適した該レーザ加工機の前記レーザ照射方向の位置についての第1の有効位置範囲を求めることと、
前記第2の加工の加工痕から、前記第2の加工に適した該レーザ加工機の前記レーザ照射方向の位置についての第2の有効位置範囲を求めることと、
前記第1の有効位置範囲と前記第2の有効位置範囲とを対比することによって、前記評価対象の加工に適した該レーザ加工機の前記レーザ照射方向の位置について最適位置範囲を特定し、前記最適位置範囲に基づいて前記加工初期位置を調整することと、を含む焦点位置の調整方法。
【請求項2】
前記第1の加工及び前記第2の加工は、前記レーザ加工機の前記レーザ照射方向の位置を変えて複数回行われ、1回の前記第1の加工及び前記第2の加工では前記レーザ照射方向の位置は一定とされ、
レーザ加工の加工痕は線状とされ、複数回の前記第1の加工及び前記第2の加工による複数本の前記加工痕は、前記第1の方向及び前記第2の方向に互いにオフセットされ、かつ、互いに平行となるように加工が行われ、
複数本の前記加工痕を撮像することによって、前記第1の有効位置範囲と前記第2の有効位置範囲とを求める、請求項1に記載の焦点位置の調整方法。
【請求項3】
前記第2の方向は、前記第1の方向に直交する方向とされる、請求項1又は請求項2に記載の焦点位置の調整方法。
【請求項4】
前記評価対象は、被加工物、又は、上面が前記被加工物の上面と面一となるように前記被加工物に隣接配置された試験片とされる、請求項3に記載の焦点位置の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工機の焦点位置の調整方法及びレーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ加工機によってレーザ加工を実施するには、レーザ加工ヘッドに設けた集光レンズの焦点を被加工材の表面に正確に合わせる必要がある。しかしながら、レンズの焦点距離が明示されていたとしても、実際には、機械の組立て誤差、レンズ自体の誤差及び被加工材自体の寸法の誤差といった様々な誤差の累積によって、レンズの焦点距離を調整する必要が生じる。
【0003】
そこで、特許文献1には、機械によるレーザ加工機の焦点合わせ方法が開示されている。具体的には、はじめに、被加工材の上方近傍の位置と裏面との間において焦点を合わせるためにレーザ加工ヘッドの位置を一定間隔で上方移動させ、それぞれの位置において切断加工を実施し、一定の溝幅を有するテストパターンを作成する。次に、被加工材との上下方向の間隙を一定に保った状態でレーザ加工ヘッド先端部に設けられた静電容量センサをテストパターンの切断溝に直交する方向に沿って移動させると共に静電容量を測定し、測定した静電容量が最小となるテストパターンを特定する。最後に、静電容量が最小となるテストパターンを切断したときのレーザ加工ヘッドの上下方向の座標を集光レンズの焦点が被加工材の表面に正確に合焦した位置とする。これによって、一定の溝幅を有するテストパターンを機械で判断することによって正確な焦点合わせが可能になることが示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法は、板金の切断をするためのレーザ加工機に適用するためのものであって、被加工材を切断しない加工には、適用することができない。さらに、レーザ光は一般的にX方向に沿った照射とY方向に沿った照射、すなわち、縦方向に沿った照射と横方向に沿った照射とでは、上下方向には同じ照射位置であっても被加工材の表面におけるレーザの太さ、すなわち幅が異なるため、レーザのスポット形状は楕円形になる場合がある。このため、特許文献1に記載の方法のように一方向だけに沿った切断加工に基づいて焦点合わせしたのでは、他方向のレーザ加工機の焦点位置が調整できず、むしろ、レーザのスポット形状が楕円形になることを助長する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-076384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情を鑑み、レーザ加工においてレーザのスポット形状を円形にすることができるレーザ加工機の焦点位置の調整方法及びレーザ加工機の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の態様によれば、レーザ照射方向と直交する第1の方向に沿って評価対象をレーザ加工し、レーザ加工機のレーザ照射方向の位置は、加工初期位置及び加工初期位置から変位した複数の位置とする第1の加工をすることと、第1の加工に連続して行われる第2の加工であって、レーザ照射方向と直交し、かつ、第1の方向とは異なる第2の方向に沿って評価対象をレーザ加工し、レーザ加工機のレーザ照射方向の位置は、加工初期位置及び加工初期位置から変位した複数の位置とする第2の加工をすることと、第1の加工の加工痕から、第1の加工に適したレーザ加工機のレーザ照射方向の位置についての第1の有効位置範囲を求めることと、第2の加工の加工痕から、第2の加工に適したレーザ加工機のレーザ照射方向の位置についての第2の有効位置範囲を求めることと、第1の有効位置範囲と第2の有効位置範囲とを対比することによって、評価対象の加工に適したレーザ加工機のレーザ照射方向の位置について最適位置範囲を特定し、最適位置範囲に基づいて加工初期位置を調整することと、を含むレーザ加工機の焦点位置の調整方法が提供される。
【0008】
また、本発明の一の態様によれば、テーブルに載置された被加工物にレーザ光を照射するレーザ発振器と、レーザ光をレーザ照射方向と直交する第1の方向に沿って移動させ、かつ、第1の方向と直交する第2の方向に沿って移動させるガルバノミラーと、レーザ発振器のレーザ照射方向の位置を調整する焦点距離調整部と、レーザ発振器と被加工物との間の距離を計測する測長センサと、照射されたレーザ光の加工痕を撮像する撮像装置と、を備えるレーザ加工機が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一の態様に係るレーザ加工機の焦点位置の調整方法によると、第1の加工及び第1の加工に連続する第2の加工は、レーザ照射方向と直交する第1の方向及び第2の方向に沿って評価対象をレーザ加工する。ここでは、レーザ加工機のレーザ照射方向の位置を加工初期位置及び加工初期位置から変位した複数の位置で加工が行われる。このため、複数のレーザ照射方向位置で加工された第1の加工の加工痕から、第1の加工に適したレーザ加工機のレーザ照射方向の位置についての第1の有効位置範囲を求めることができる。また、複数のレーザ照射方向位置で加工された第2の加工の加工痕から、第2の加工に適したレーザ加工機のレーザ照射方向の位置についての第2の有効位置範囲を求めることができる。さらに、第1の有効位置範囲と第2の有効位置範囲とを対比することによって、評価対象の加工に適したレーザ加工機のレーザ照射方向の位置について最適位置範囲を特定することができる。これによって、最適位置範囲に基づいてレーザ加工機の加工初期位置を調整することができ、被加工物のレーザ加工におけるレーザのスポット形状を楕円形から円形にすることができる。
【0010】
また、本発明の一の態様に係るレーザ加工機によると、レーザ発振器からテーブルに載置された被加工物に照射するレーザ光をガルバノミラーによってレーザ照射方向と直交する第1の方向に沿って移動させ、かつ、第1の方向と直交する第2の方向に沿って移動させることができる。このとき、焦点距離調整部によってレーザ発振器のレーザ照射方向の位置を調整することができるため、レーザ照射方向の位置を変化させ、複数の位置から被加工物にレーザ光を照射することができる。また、測長センサによってレーザ発振器と被加工物との間の距離を計測することができるため、レーザ発振器のレーザ照射方向の位置を計測することができる。さらに、撮像装置によって、加工痕を撮像することができるため、レーザ加工におけるレーザのスポット形状とレーザ発振器のレーザ照射方向の位置との関係を求めることができる。このため、焦点距離調整部によってレーザ発振器のレーザ照射方向の位置を調整することができるため、被加工物のレーザ加工におけるレーザのスポット形状を楕円形から円形にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本実施形態に係るレーザ加工機の斜視図を示す。
図2図2は、本実施形態に係るガルバノミラーの斜視図を示す。
図3図3は、レーザ加工機の焦点位置の調整方法を説明するための斜視図であって、(a)は測長センサによる位置計測を示し、(b)はレーザ発振器によるレーザの照射を示し、(c)は撮像装置による加工痕の撮像を示す。
図4図4は、本実施形態に係る複数回のレーザ加工による加工痕の平面図を示す。
図5図5は、本実施形態に係るレーザ加工による加工痕と撮像された加工痕の輝度との関係を示しており、(a)は加工痕の平面図を示し、(b)及び(c)は走査方向に沿った輝度の分布であって、平滑化処理前及び平滑化処理後の輝度の分布を示す。
図6図6は、本実施形態に係る輝度の平滑化処理の説明図を示す。
図7図7は、本実施形態に係る加工痕とX軸方向及びY軸方向の有効位置範囲との関係を示す説明図であり、(a)はX軸方向の有効位置範囲を示し、(b)はY軸方向の有効位置範囲を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、実施形態に係るレーザ加工機を説明する。同様な又は対応する要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。理解を容易にするために、図の縮尺を変更して説明する場合がある。
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施形態を説明する。図1には、本実施形態に係るレーザ加工機100を示す。図中には、レーザ加工機100を工場等の床面のような水平面上に配置したときの装置前後方向、装置左右方向及び装置上下方向を矢印で示す。図中のXは、装置左右方向(X軸方向)を示しており、Yは、装置前後方向(Y軸方向)を示しており、Zは、装置上下方向(Z軸方向)を示す。
【0014】
レーザ加工機100は、床面に固定される基台となるベッド102を有する。ベッド102の上面の機械後方側にはコラム104が立設され、ベッド102の上面には、一対のY軸案内レール106がY軸方向に沿って延設されている。Y軸案内レール106には、評価対象としての被加工物であるワークWを設置するためのテーブル108がY軸方向に沿って往復動可能に取り付けられている。また、コラム104の前面には、一対のZ軸案内レール142がZ軸方向に沿って延設されており、Z軸案内レール142には、焦点距離調整部としてのZ軸スライダ140が、Z軸方向に沿って往復動可能に取り付けられている。さらに、Z軸スライダ140の前方側には一対のX軸案内レール146がX軸方向に沿って延設されており、X軸案内レール146にはヘッドストック144がX軸方向に沿って往復動可能に取り付けられている。
【0015】
ヘッドストック144は、その筐体122の外周形状が直方体状に形成されており、筐体122の下方側には、レーザ照射ヘッド110が取り付けられている。レーザ照射ヘッド110には、レーザ発振器156から、例えば、光ファイバーの導光部材158を介して、レーザ光BL(図2参照)が導入される。
【0016】
ヘッドストック144、テーブル108及びZ軸スライダ140は、それぞれX軸、Y軸及びZ軸の直線送り軸装置(図示省略)によってX軸、Y軸及びZ軸方向に沿って駆動させることができる。これによって、ヘッドストック144を位置決めすることができる。X軸、Y軸及びZ軸の直線送り軸装置は、それぞれの軸方向に延設されたボールねじ152と、ヘッドストック144、テーブル108及びZ軸スライダ140に取り付けられ、各ボールねじに係合するナット(図示省略)、並びに、各ボールねじの一端と連結されたサーボモータ150とを備える。サーボモータ150及びボールねじ152は、図1では、X軸、Y軸及びZ軸方向の各サーボモータ150並びにX軸、Y軸及びZ軸方向の各ボールねじ152を総括して概略的に表す。
【0017】
X軸、Y軸及びZ軸の各サーボモータ150は、制御装置160と接続されている。制御装置160は、読取解釈部162、ガルバノミラー制御部166、位置決め制御部168及びレーザ制御部170を含んで構成されている。制御装置160を構成する読取解釈部162、ガルバノミラー制御部166、位置決め制御部168及びレーザ制御部170は、CPU(中央演算素子)、RAM(ランダムアクセスメモリ)及びROM(リードオンリーメモリ)といったメモリ装置、HDD(ハードディスクドライブ)及びSSD(ソリッドステートドライブ)といった記憶デバイス、出入力ポート、並びに、これらを相互接続する双方向バスを含むコンピュータ装置とされている。また、これらは、関連するソフトウェア、並びに、サーボモータ150、後述するガルバノスキャナのXスキャンモータ112及びYスキャンモータ116を駆動する電源を含んで構成されてもよい。なお、以下の説明では制御装置160は、いわゆるハードウェアによって構成されているとして説明するが、これに限らず、レーザ加工機のためのNC装置やPLCの一部としてソフトウェア的に構成されてもよい。
【0018】
X軸、Y軸、Z軸の各サーボモータ150は、制御装置160の位置決め制御部168と接続されており、制御装置160の読取解釈部162に入力され、実行される加工プログラムから出力された指令に基づき制御される、すなわち作動される。ここでは、位置決め制御部168は、NC装置である。X軸、Y軸及びZ軸方向の各サーボモータ150を作動させることによって、ヘッドストック144が制御される、すなわち位置決めされる。また、レーザ発振器156は、レーザ制御部170と接続されており、レーザ制御部170によってレーザ光BLの出力がオン-オフ制御される。
【0019】
図2に示されるように、ヘッドストック144の筐体122(図1参照)の内側に取り付けられたレーザ照射ヘッド110は、ガルバノスキャナ111を備える。ガルバノスキャナ111は、レーザ光BLを反射させるためのガルバノミラーとしてのXスキャンミラー114及びYスキャンミラー118と、Xスキャンミラー114及びYスキャンミラー118を駆動させるためのXスキャンモータ112及びYスキャンモータ116と、を備える。また、ガルバノスキャナ111は、その下方側にXスキャンミラー114及びYスキャンミラー118によって反射されたレーザ光BLを通過させるためのfθレンズ120を備える。これによって、レーザ照射ヘッド110は、ワークWの表面へ照射するレーザ光BLの照射方向を2方向、ここではX軸方向及びY軸方向に沿って移動させることができる。
【0020】
Xスキャンミラー114は、Xスキャンモータ112によってZ軸に平行な軸線周りに回動させることができる。また、Yスキャンミラー118は、Yスキャンモータ116によってX軸に平行な軸線周りに回動させることができる。レーザ発振器156から導入されたレーザ光BLがfθレンズ120を通過できるように、Xスキャンミラー114及びYスキャンミラー118の反射角度が調整される。さらに、レーザ照射ヘッド110は、図1に示されるように、筐体122の下方側に配置され、fθレンズ120を通過したレーザ光BLを集光する集光レンズ(図示省略)を有し、レーザ光BLをワークWへ照射させるためのノズル124を備える。
【0021】
Xスキャンモータ112及びYスキャンモータ116は、制御装置160のガルバノミラー制御部166と接続されており、その回動はガルバノミラー制御部166によって制御される。このため、光軸Oに対するfθレンズ120へ入射するレーザ光BLiの入射角αx、αyを制御する、すなわち調節する。ここで、入射角αxとは、fθレンズ120に入射するレーザ光BLiのZX平面への投影に沿った直線Lxと光軸Oとがなす角度であり、入射角αyとは、入射するレーザ光BLiのYZ平面への投影に沿った直線Lyと光軸Oとがなす角である。これによって、ワークW表面上のレーザスポットPLSの位置を、レーザ照射ヘッド110の光軸O、すなわちレーザ光BLの照射方向に対して垂直なX軸方向及びY軸方向に沿って連続的に移動させることができる。
【0022】
なお、ここでは、fθレンズ120は、光軸O方向に固定されているとして説明するが、これに限らず、fθレンズは、光軸方向に移動可能とされ、制御装置によってfθレンズの光軸方向の位置が制御されてもよい、すなわち変更可能とされてもよい。また、fθレンズに代えてテレセントリックレンズが用いられてもよい。
【0023】
図1に示されるように、ヘッドストック144の下方側には、ワークWをレーザ加工する、すなわちワークWにレーザ光BL(図2参照)を照射することによって、ワークWに生じる加工痕PL1、PL2(図3参照)を上方から撮像するための撮像装置としてのビジョンカメラ126が配置されている。このため、ワークWの加工痕PL1、PL2を含む部分を撮像することによって、その輝度情報LM(図5参照)を取得することができる。なお、以下の説明では、撮像装置はビジョンカメラ126であるとして説明するが、これに限らず、同軸カメラや高倍率カメラが使用されてもよい。
【0024】
ヘッドストック144の筐体122の下方側には、レーザ照射ヘッド110の先端とワークWの上面とのZ軸方向の距離、すなわちノズル124の下端とワークWの上面とのZ軸方向の距離を計測するための測長センサ128が配置されている。測長センサ128は、装置上下方向の距離を計測できればよく、例えば、レーザ式センサ、超音波センサ、渦電流損式センサ等のセンサが用いられてもよい。
【0025】
焦点位置の調整方法の説明を通じて、本実施形態に係るレーザ加工機100の作用効果を以下に説明する。
【0026】
図3及び図4を用いて、レーザ加工機100の焦点位置の調整方法を説明する。はじめに、図3(a)に示されるように、測長センサ128を用いてレーザ照射ヘッド110の先端とワークWとのZ軸方向の距離HZを計測する。制御装置160は、計測した距離HZに基づいてZ軸スライダ140を上下動させる。これによって、レーザ照射ヘッド110の先端とワークWとの距離HZがレーザ照射ヘッド110の設計上の焦点距離と同一になるように、レーザ照射ヘッド110が上下動される。このように調整された距離HZ、すなわちレーザ照射ヘッド110のノズル124のZ軸方向位置を加工初期位置として設定する。
【0027】
つぎに、図3(b)に示されるように、制御装置160はレーザ発振器156を作動させ、レーザ照射ヘッド110のノズル124からワークWの表面にレーザを照射し、直線状のX方向加工痕PL1及びY方向加工痕PL2を生成する。X方向加工痕PL1とY方向加工痕PL2とは、平面視でL字形状となるように連続的に生成される。ガルバノミラー制御部166は、ガルバノスキャナ111のXスキャンモータ112及びYスキャンモータ116を作動させる。これによって、ノズル124から出力するレーザ光BLをレーザ照射方向であるZ軸方向と直交する第1の方向としてのX軸方向に沿ってワークWに照射する第1の加工を行う。さらに第1の加工に連続して、レーザ光BLをZ軸方向と直交する第2の方向としてのY軸方向に沿ってワークWに照射する第2の加工を行う。1回の連続する第1の加工と第2の加工とは、ノズル124のZ軸方向位置を一定にして行われる。これによって、平面視L字形状の1組のX方向加工痕PL1とY方向加工痕PL2とが生成される。
【0028】
1組のX方向加工痕PL1とY方向加工痕PL2とが生成されると、制御装置160は、ヘッドストック144及びワークWが設置されたテーブル108をX軸方向及びY軸方向に沿って等間隔で移動させる。さらに、制御装置160は、Z軸スライダ140を上下動させることによって、レーザ照射ヘッド110を加工初期位置にから上方側又は下方側へ等間隔で移動させる。このようにワークWに対するレーザ照射ヘッド110のX軸方向及びY軸方向の位置を移動すると共にレーザ照射ヘッド110とワークWとのZ軸方向の距離HZを変更した上で新たに第1の加工と第2の加工とを複数回行う。
【0029】
図4に示されるように、ワークWに対するレーザ照射ヘッド110のX軸方向及びY軸方向の位置を等間隔dで移動させると共にレーザ照射ヘッド110とワークWとのZ軸方向の距離HZを等間隔で変更して生成される複数のL字形状の加工痕PL1、PL2は、互いに平行になるように生成される。ここでは、図4に示されるように、加工初期位置からレーザ光BLを照射して加工痕PL1、PL2を生成する開始位置IPからP方向に沿って移動する加工痕PL1、PL2は、距離HZを加工初期位置から順次増加させた、すなわちワークWから遠ざかる位置からレーザ光BLを照射した加工痕PL1、PL2である。また、開始位置IPからM方向に沿って移動する加工痕PL1、PL2は、距離HZを加工初期位置から順次減少させた、すなわちワークWに近づいた位置からレーザ光BLを照射した加工痕PL1、PL2である。距離HZが増加又は減少するとレーザ光BLの焦点距離から大きく外れていくため、レーザ光BLをワークW表面で収束させることができなくなり、この結果、加工ができなくなる。このため、L字形状の加工痕PL1、PL2は、開始位置IPから遠ざかるにつれて、生成されなくなる。これによって、レーザ照射ヘッド110とワークWとのZ軸方向の距離HZと加工痕PL1、PL2のスポット形状との対応を明らかにすることができる。
【0030】
最後に、図3(c)に示されるように、制御装置160は、ビジョンカメラ126を用いて複数のX方向加工痕PL1を撮像することによって、X方向加工痕PL1の輝度情報LM(図5参照)を取得する。このとき、制御装置160は、テーブル108(図1参照)をY軸方向に沿って移動させることによって、図4に示されるように、複数のX方向加工痕PL1に直交する第1の走査方向SL1に沿って輝度情報LMを取得する。ワークW上に等間隔で生成された複数のX方向加工痕PL1は、レーザ照射ヘッド110とワークWとのZ軸方向の距離HZを等間隔で変更した位置で生成されているため、第1の走査方向SL1に沿って取得された輝度情報LMは、レーザ照射ヘッド110のZ軸方向の位置と対応付けることができる。このため、適切にレーザ光BLが照射されてX方向加工痕PL1が生成されたことによって輝度が低くなっている部分を特定することができる。このように、輝度情報LMに対応付けられたレーザ照射ヘッド110のZ軸方向位置に基づき、第1の加工に適したレーザ加工機100のZ軸方向位置についての第1の有効位置範囲R1を求めることができる。
【0031】
また、制御装置160は、ビジョンカメラ126を用いて複数のY方向加工痕PL2を撮像することによって、Y方向加工痕PL2の輝度情報LMを取得する。このとき、制御装置160は、ヘッドストック144(図1参照)をX軸方向に沿って移動させることによって、複数のY方向加工痕PL2に直交する第2の走査方向SL2に沿って輝度情報LMを取得する。ワークW上に等間隔で生成された複数のY方向加工痕PL2は、レーザ照射ヘッド110とワークWとのZ軸方向の距離HZを等間隔で変更して生成されているため、第2の走査方向SL2に沿って取得された輝度情報LMは、レーザ照射ヘッド110のZ軸方向の位置と対応付けることができる。このため、適切にレーザ光BLが照射されてY方向加工痕PL2が生成されたことによって輝度が低くなっている部分を特定することができる。このように、輝度情報LMに対応付けられたレーザ照射ヘッド110のZ軸方向の位置に基づき、第2の加工に適したレーザ加工機100のZ軸方向位置についての第2の有効位置範囲R2を求めることができる。
【0032】
図5及び図6に示されるように、第1の有効位置範囲R1及び第2の有効位置範囲R2は、ビジョンカメラ126を用いて取得されたX方向加工痕PL1及びY方向加工痕PL2についての輝度情報LMを平滑化することによって求める、すなわち特定することができる。図5(a)に示されるように、複数のX方向加工痕PL1を第1の走査方向SL1に沿って撮像して得られたX方向加工痕PL1の輝度情報LMと第1の走査方向SL1、すなわちY軸方向の位置との関係は、例えば、図5(b)のように表される。ビジョンカメラ126は、適切に加工されたことによって輝度が低下しているX方向加工痕PL1とワークW上面とを交互に撮像するため、適切に加工されたX方向加工痕PL1の周辺では輝度が大きく変動する。このため、これらの輝度情報LMを平滑化処理することによって、図5(c)のように、輝度の高い範囲と低い範囲との対比を明確にすることができる。ここでは、加工条件やワークWの材質等によって設定される輝度の閾値TVを下回る範囲が有効位置範囲VD、この場合は第1の有効位置範囲R1であるとされる。
【0033】
図6に示されるように、平滑化処理は、前後位置の輝度情報LMを平均化した値value[i]をその位置における輝度情報LMとするための処理である。これによって、輝度情報LMの分布を滑らかにして輝度の高い範囲と低い範囲との対比を明確にすることができる。具体的には、平均化した値value[i]は、以下の式(1)によって算出される。
value[i]={α[i-n]+α[i-n+1]+...+α[i-2]+α[i-1]+α[i]+α[i+1]+α[i+2]+...+α[i+n-1]+α[i+n]}/(2×n+1) (1)
ここで、α[i]は、平均化する位置iにおける輝度、nは、平均化の計算に含める前後位置の数を表す。図5(c)に示されるように、輝度の低い範囲である有効位置範囲VD(第1の有効位置範囲R1)とそれ以外との対比が明確に表される。図5(b)及び(c)に表示されていない第2の有効位置範囲R2についても、上述の第1の有効位置範囲R1と同様に特定することができる。
【0034】
図7(a)に示されるように、レーザ照射ヘッド110のZ軸方向の位置の第1の有効位置範囲R1における上限(TOP)及び下限(BOTTOM)と第2の有効位置範囲R2における上限(RIGHT)及び下限(LEFT)とが特定される。これらを対比することによって、第1の有効位置範囲R1と第2の有効位置範囲R2とが重複する最適位置範囲を特定することができる。最適位置範囲の中間点を算出し、加工初期位置とずれている長さだけレーザ照射ヘッド110をZ軸方向に沿って移動させることによってレーザ照射ヘッド110の焦点位置、すなわちZ軸方向の位置を調整することができる。
【0035】
本実施形態に係るレーザ加工機100の焦点位置の調整方法によると、第1の加工及び第1の加工に連続する第2の加工は、Z軸方向と直交するX軸方向及びY軸方向に沿ってワークWをレーザ加工する。加工は、レーザ加工機100のレーザ照射方向の位置を加工初期位置及び加工初期位置から変位した複数の位置で行われる。このため、複数のレーザ照射方向位置で加工されたX方向加工痕PL1から、第1の加工に適したレーザ加工機のレーザ照射方向の位置についての第1の有効位置範囲R1を求めることができる。また、複数のレーザ照射方向位置で加工されたY方向加工痕PL2から、第2の加工に適したレーザ加工機のレーザ照射方向の位置についての第2の有効位置範囲R2を求めることができる。
【0036】
さらに、本実施形態に係るレーザ加工機100の焦点位置の調整方法によると、レーザ光BLのXY方向の歪みによって、第1の有効位置範囲R1と第2の有効位置範囲R2とは異なるため、これらを対比することによって、評価対象の加工に適したレーザ加工機100のZ方向位置についての最適位置範囲を特定することができる。これによって、最適位置範囲に基づいてレーザ加工機100の加工初期位置をレーザ光BLのXY方向の歪みを考慮した上で調整することができ、ワークWのレーザ加工におけるレーザのスポット形状を楕円形から円形にすることができる。
【0037】
また、本実施形態に係るレーザ加工機100の焦点位置の調整方法によると、X方向加工痕PL1とY方向加工痕PL2とは、平面視でL字形状となるように連続的に生成される。これによって、複数の加工痕PL1、PL2を密集して生成できるため、撮像範囲をコンパクトにすることができ、さらに、最適位置範囲を特定するための制御装置160の処理速度を速くすることができる。
【0038】
また、本実施形態に係るレーザ加工機100によると、レーザ発振器156からテーブルに載置されたワークWに照射するレーザ光BLをXスキャンミラー114及びYスキャンミラー118によってレーザ照射方向と直交するX軸方向に沿って移動させ、かつ、X軸方向と直交するY軸方向に沿って移動させることができる。このとき、Z軸スライダ140によってレーザ発振器156のレーザ照射方向の位置を調整することができるため、Z軸方向の位置を変化させ、複数のZ軸方向位置からワークWにレーザ光BLを照射することができる。また、測長センサ128によってレーザ発振器156とワークWとの間の距離を計測することができるため、レーザ発振器156のレーザ照射方向の位置を計測することができる。さらに、ビジョンカメラ126によって、X方向加工痕PL1及びY方向加工痕PL2を撮像することができるため、レーザ加工におけるレーザのスポット形状及びその輝度情報LMとレーザ発振器156のZ軸方向の位置との関係を求めることができる。このため、Z軸スライダ140によってレーザ発振器156のレーザ照射方向の最適位置範囲を設定することができ、最適位置範囲に基づいて加工初期位置を調整することができる。これによって、ワークWのレーザ加工におけるレーザのスポット形状を楕円形から円形にすることができる。
【0039】
さらに、本実施形態に係るレーザ加工機100によると、ビジョンカメラ126の撮像によって、X方向加工痕PL1及びY方向加工痕PL2の輝度情報LMを取得すればよい。このため、X方向加工痕PL1及びY方向加工痕PL2を束として把握さればよく、X方向加工痕PL1及びY方向加工痕PL2の幅や間隔を計測する必要がない。このため、高価なカメラを必要とすることなく、しかも、最適位置範囲を特定するための制御装置160の処理速度を速くすることができる。
【0040】
以上により、本実施形態に係るレーザ加工機100及びその焦点位置の調整方法は、レーザ加工においてレーザ光BLのスポット形状を円形にすることができる。
【0041】
以上、レーザ加工機100及びその焦点位置の調整方法の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されない。当業者であれば、上記の実施形態の様々な変形が可能であることを理解できると考えられる。
【0042】
なお、X方向加工痕PL1及びY方向加工痕PL2は、複数個生成されているとして説明したが、これに限らず、レーザ照射ヘッドをZ軸方向に上下動させながら生成された1組のX方向加工痕及びY方向加工痕を用いてレーザ照射ヘッドの焦点位置が調整されてもよい。
【0043】
さらに、評価対象は、被加工物であるワークWであるとして説明したが、これに限らず、上面がワークの上面と面一となるようにワークに隣接配置された試験片とされてもよい。
【符号の説明】
【0044】
100 レーザ加工機
114 Xスキャンミラー(ガルバノミラー)
118 Yスキャンミラー(ガルバノミラー)
126 ビジョンカメラ(撮像装置)
128 測長センサ
140 Z軸スライダ(焦点距離調整部)
156 レーザ発振器
BL レーザ光
PL1 X方向加工痕(加工痕)
PL2 Y方向加工痕(加工痕)
W ワーク(評価対象、被加工物)
【要約】
【課題】レーザ加工においてレーザのスポット形状を円形にすることができるレーザ加工機の焦点位置の調整方法及びレーザ加工機を提供する。
【解決手段】レーザ加工機100の焦点位置の調整方法は、X軸方向に沿ってワークWをレーザ加工し、レーザ加工機100のレーザ照射方向の位置は、複数の位置とする第1の加工をすることと、第1の加工に連続して行われ、Y軸方向に沿ってワークWをレーザ加工し、レーザ加工機100のレーザ照射方向の位置は複数の位置とする第2の加工をすることと、第1の加工及び第2の加工の加工痕から、第1の加工及び第2の加工に適した第1の有効位置範囲R1及び第2の有効位置範囲R2を求めることと、第1の有効位置範囲R1と第2の有効位置範囲R2とを対比することによって、ワークWの加工に適した最適位置範囲を特定し、最適位置範囲に基づいて加工初期位置を調整することと、を含む。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7