IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成メディカル株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図1
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図2
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図3
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図4
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図5
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図6
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図7
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図8
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図9
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図10
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図11
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図12
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図13
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図14
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図15
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図16
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図17
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図18
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図19
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図20
  • 特許-タンパク質含有溶液の評価方法 図21
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】タンパク質含有溶液の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20230830BHJP
   C12Q 1/28 20060101ALI20230830BHJP
   C12Q 1/42 20060101ALI20230830BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20230830BHJP
   B01D 61/24 20060101ALI20230830BHJP
   B01D 65/10 20060101ALI20230830BHJP
   B01D 65/02 20060101ALI20230830BHJP
【FI】
G01N33/543 581A
C12Q1/28
C12Q1/42
B01D61/14 500
B01D61/24
B01D65/10
B01D65/02
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2022531983
(86)(22)【出願日】2021-06-21
(86)【国際出願番号】 JP2021023432
(87)【国際公開番号】W WO2021261451
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-08-12
(31)【優先権主張番号】P 2020108837
(32)【優先日】2020-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】小栗 良太
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-517047(JP,A)
【文献】国際公開第2015/156403(WO,A1)
【文献】特開2017-195897(JP,A)
【文献】Immunogenicity Assessment for Therapeutic Protein Products,Guidance for Industry,米国,U.S. Department of Health and Human Services,2014年08月01日,P1-39
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48 -33/98
C12Q 1/28 ー1/42
B01D 61/14 ー65/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質含有溶液のろ過膜の目詰まりを評価する方法であって、
a)タンパク質含有溶液をろ過膜に通過させる工程、
b)前記工程a)の後に、前記ろ過膜からろ過膜断面を取得する工程、
c)前記工程a)の前に前記タンパク質含有溶液を、前記工程b)の前に前記ろ過膜を、又は前記工程b)の後に前記ろ過膜断面を、前記タンパク質の凝集体に特異的な少なくとも1種の染色剤で処理する工程、及び
d)前記ろ過膜断面における前記タンパク質の凝集体の存在を確認する工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記工程a)の後に、前記ろ過膜を洗浄する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程c)の後に、前記ろ過膜を洗浄する工程をさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
凝集していない前記タンパク質と凝集している前記タンパク質の両方を染色する染色剤を前記ろ過膜に添加する工程をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記ろ過膜断面を固定する工程をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ろ過膜断面が、前記ろ過膜のスライス切片の断面である、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記凝集体に特異的な染色剤が、前記タンパク質の凝集体の凝集部に特異的に結合して蛍光を発する物質を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記凝集体に特異的な染色剤が、ナイルレッド、チオフラビンT、プロテオスタット、及びそれらの誘導体から選択される少なくとも一つである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記凝集体に特異的な染色剤が、蛍光物質又は発光物質で標識された、前記タンパク質の凝集体の凝集部に特異的に結合する結合物質を含む染色剤である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記タンパク質の凝集体の凝集部に特異的に結合する結合物質が、抗体、抗体断片、及びペプチドから選択される少なくとも一つである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記凝集体に特異的な染色剤が、
(A)前記タンパク質の凝集体の凝集部に特異的に結合する一次結合物質、及び
(B)前記一次結合物質に特異的に結合する二次結合物質であって、検出可能な物質を含有する二次結合物質
を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記一次結合物質が、抗体、抗体断片、及びペプチドから選択される少なくとも一つである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記二次結合物質が、蛍光物質で標識された抗体である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記二次結合物質が酵素で修飾された抗体であり、
前記工程c)の後、前記酵素によって分解されると蛍光物質又は発光物質となる基質を前記ろ過膜に添加して、蛍光又は発光を検出する工程をさらに含む、
請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記酵素が、ペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ろ過膜がウイルス除去膜である、請求項1~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記工程c)の後、未反応の前記凝集体に特異的な染色剤を除去する工程をさらに含む、請求項1~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
透析、限外ろ過、又はゲルろ過により、前記未反応の前記凝集体に特異的な染色剤を除去する、請求項17の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質含有溶液の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人の血液由来の血漿分画製剤に加えて、遺伝子組み換え技術などを利用したバイオ医薬品など、タンパク質を有効成分とする製剤の開発が盛んである。これらタンパク質製剤は、原料が生物由来であることから多数の不純物を含んでおり、その製造工程では多段階の精製工程を含む。精製には遠心分離、膜分離、カラムクロマトグラフィーなどの分離手法が用いられるが、中でも膜分離は不純物をサイズごとに分離できる有用な手段である。
【0003】
膜分離を行う際の課題の一つに、ろ過中の膜の目詰まりによるろ過速度低下があげられる。膜の目詰まりのメカニズムには大きく3種類あるとされている。一つ目は完全閉塞という現象であり、大きな粒子が膜の孔を塞いでしまう現象である。二つ目は膜の孔の壁面に粒子が吸着し、その孔を狭めてしまう標準閉塞という現象である。三つ目は、サイズが大きくない粒子が、膜表面に濃縮され、ひいては堆積していくことにより、ろ過の抵抗になってしまう、ケークろ過という現象である(例えば、非特許文献1参照。)。精製工程に携わる技術者は、これらの現象が生じないよう、膜の選定やろ過条件の検討を行い、その工程の効率化を図る必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2014-517047号公報
【文献】国際公開第2015/156403号
【非特許文献】
【0005】
【文献】膜(MEMBRANE),36(5),211-216(2011)
【文献】Guidance for Industry Immunogenicity Assessment for Therapeutic Protein Products(2014、U.S. Department of Health and Human Services Food and Drug Administration)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
タンパク質は、様々なストレスや刺激によって凝集体を形成することがある。タンパク質の凝集体(以下、単に「凝集体」と呼ぶことがある。)が存在すると、膜分離の際に、大きな凝集体が膜の完全閉塞の原因となり得る。精製工程の一つとしてよく用いられるウイルス除去膜によるウイルス除去工程は、目的タンパク質と、それよりもわずかに大きなウイルスを膜で分離する技術である。そのため、目的タンパク質の凝集が生じると、凝集体はウイルス除去膜の孔のサイズ以上となり、ウイルス除去膜の目詰まりを起こし得る。
【0007】
また、凝集体は一般的に変性を伴うことが多く、天然状態ではタンパク質分子の内側に折りたたまれていた疎水アミノ酸残基が、変性したタンパク質では表面に露出する場合がある。そのため、凝集体は、疎水性の膜材料表面に吸着しやすいことが知られており、膜の標準閉塞の原因にもなり得る。
【0008】
凝集体により膜の閉塞が生じることを抑制するために、例えば、ウイルス除去膜の前段で、凝集体を除去する膜で凝集体を含む溶液を処理する対策が有効であり得る。
【0009】
変性や凝集していない天然状態のタンパク質も、疎水的な表面と接すると、疎水性相互作用や、静電相互作用によって、膜の表面に吸着することが知られており、この現象が著しい状況では膜の標準閉塞によるろ過速度低下が生じる。タンパク質の膜の表面への吸着は、溶液のpHや塩の存在に影響されると考えられている。例えば、タンパク質と膜の表面が反対電荷を有する場合、静電相互作用により吸着が生じるが、溶液中に適当な量の塩が存在すると、互いの表面電荷が遮蔽され吸着が緩和される。このように、標準閉塞が起こった場合は、ウイルス除去膜でのろ過工程のpHや塩濃度などを調整することも有効であり得る。
【0010】
特許文献1は、多孔質のポリアミド含有成形体により、ウイルス除去膜でろ過される溶液を事前に処理し、タンパク質の多量体などの生体高分子集合体を溶液から除去することで、ウイルス除去膜の目詰まりを防止する方法を開示している。しかし、特許文献1は、目詰まりには、完全閉塞、標準閉塞、及びケークろ過があることを開示も示唆もしていない。また、特許文献1は、溶液中の生体高分子集合体の存在の有無を事前に確認する方法を開示も示唆もしていない。溶液中に生体高分子集合体が存在しておらず、ウイルス除去膜の目詰まりの原因が凝集体のような生体高分子集合体でなかった場合、多孔質のポリアミド含有成形体で溶液を事前に処理しても、ウイルス除去膜の目詰まりを解消できない場合があり得る。
【0011】
特許文献2は、サイズの異なる金コロイドを用いてウイルス除去膜内の各種サイズの粒子が捕捉される位置を特定する方法を開示している。しかし、特許文献2に係る方法は、ウイルス除去膜中の孔径を特定するために、サイズ既知の金コロイドをウイルス除去膜でろ過後、ウイルス除去膜における金コロイドが捕捉された位置を確認しているのみである。そのため、特許文献2は、凝集体の存在、凝集体の量、凝集体のサイズ、及び凝集体の形状等が未知のタンパク質含有液をウイルス除去膜でろ過後、そのウイルス除去膜が目詰まりした場合に、目詰まりの原因を特定する方法を開示も示唆もしていない。
【0012】
また、凝集体は最終製剤に残留すると、患者に副作用を及ぼすリスクがあることから、各国の規制当局はその分析についてガイドラインを公表している。非特許文献2で例示されているように、医薬品産業においては、サイズ排除クロマトグラフィーが凝集体の分析の主要手段と考えられているが、その定量限界は数μg/mL程度である。しかし、ウイルス除去膜は、これ以下の量の凝集体でも目詰まりを起こし得る。分析超遠心法は最近用いられるようになった技術であるが、タンパク質を検出する原理がサイズ排除クロマトグラフィーと同じく紫外吸光度によるため、分析超遠心法の定量限界はサイズ排除クロマトグラフィーと同程度と考えられる。このように、バイオ医薬品の製造工程において、特にウイルス除去工程に供される段階にあるタンパク質含有溶液中に、タンパク質の凝集体が存在するか否かを確認することは容易でない。
【0013】
したがって、従来、ろ過膜で発生した目詰まり現象の原因を特定することは困難である。そこで、本発明は、タンパク質含有溶液のろ過においてろ過膜の目詰まりが発生した際に、その原因が凝集体であるか否かを特定する方法を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、膜の目詰まり問題が生じた際に、その原因が凝集体であるか否かを知ることができれば、その工程改善に有用な情報が得られると考え、検討を行った。すなわち、目詰まりの原因が凝集体であることが明らかになれば、例えば凝集体を事前に除去する等で解決を図ることができることを本発明者らは見出した。また、目詰まりの原因が凝集体でないことが明らかになれば、別の手段で解決を図ることができることを本発明者らは見出した。膜の目詰まりの原因が不明であると、様々な目詰まりの対策を行い、それぞれの抑止効果を実証する必要がある。しかし、膜の目詰まりの原因が明らかになれば、必要な対策と、その効果が予測可能となり得る。
【0015】
本発明の態様によれば、
タンパク質含有溶液のろ過膜の目詰まりを評価する方法であって、
a)タンパク質含有溶液をろ過膜に通過させる工程、
b)工程a)の後に、ろ過膜からろ過膜断面を取得する工程、
c)工程a)の前にタンパク質含有溶液を、工程b)の前にろ過膜を、又は工程b)の後にろ過膜断面を、タンパク質の凝集体に特異的な少なくとも1種の染色剤で処理する工程、及び
d)ろ過膜断面におけるタンパク質の凝集体の存在を確認する工程、
を含む方法が提供される。
【0016】
本発明の態様によれば、
タンパク質含有溶液のろ過膜の目詰まりを評価する方法であって、
a)タンパク質含有溶液をろ過膜に通過させる工程、
a-1)工程a)においてろ過膜の目詰まりを確認する工程、
b)工程a)の後に、ろ過膜からろ過膜断面を取得する工程、
c)工程a)の前にタンパク質含有溶液を、工程b)の前にろ過膜を、又は工程b)の後にろ過膜断面を、タンパク質の凝集体に特異的な少なくとも1種の染色剤で処理する工程、及び
d)ろ過膜断面における前記タンパク質の凝集体の存在を確認する工程、
を含む方法が提供される。
【0017】
本発明の態様によれば、
タンパク質含有溶液のろ過膜の目詰まりを評価する方法であって、
a)タンパク質含有溶液をろ過膜に通過させる工程、
a-2)工程a)におけるろ過速度を測定する工程、
b’)ろ過速度が低下した場合、ろ過膜からろ過膜断面を取得する工程、
c’)タンパク質の凝集体に特異的な少なくとも1種の染色剤をろ過膜に添加する工程、及び
d)ろ過膜断面におけるタンパク質の凝集体の存在を確認する工程、
を含む方法が提供される。
【0018】
本発明の態様によれば、
タンパク質含有溶液中のタンパク質の凝集体の存在を確認する方法であって、
a)タンパク質含有溶液をろ過膜に通過させる工程、
b)工程a)の後に、ろ過膜からろ過膜断面を取得する工程、
c)工程a)の前にタンパク質含有溶液を、工程b)の前にろ過膜を、又は工程b)の後にろ過膜断面を、タンパク質の凝集体に特異的な少なくとも1種の染色剤で処理する工程、及び
d)ろ過膜断面におけるタンパク質の凝集体の存在を確認する工程、
を含む方法が提供される。
【0019】
上記の方法において、工程a)の後に、ろ過膜を洗浄する工程をさらに含んでいてもよい。
【0020】
上記の方法において、工程c)の後に、ろ過膜を洗浄する工程をさらに含んでいてもよい。
上記の方法において、工程c’)の後に、ろ過膜を洗浄する工程をさらに含んでいてもよい。
【0021】
上記の方法において、凝集していないタンパク質と凝集しているタンパク質の両方を染色する染色剤をろ過膜に添加する工程をさらに含んでいてもよい。
【0022】
上記の方法において、ろ過膜断面を固定する工程をさらに含んでいてもよい。
【0023】
上記の方法において、ろ過膜断面が、ろ過膜のスライス切片の断面であってもよい。
【0024】
上記の方法において、凝集体に特異的な染色剤が、タンパク質の凝集体の凝集部に特異的に結合して蛍光を発する物質を含んでいてもよい。
【0025】
上記の方法において、凝集体に特異的な染色剤が、ナイルレッド、チオフラビンT、プロテオスタット、及びそれらの誘導体から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0026】
上記の方法において、凝集体に特異的な染色剤が、蛍光物質又は発光物質で標識された、タンパク質の凝集体の凝集部に特異的に結合する結合物質を含む染色剤であってもよい。
【0027】
上記の方法において、タンパク質の凝集体の凝集部に特異的に結合する結合物質が、抗体、抗体断片、及びペプチドから選択される少なくとも一つであってもよい。
【0028】
上記の方法において、凝集体に特異的な染色剤が、
(A)タンパク質の凝集体の凝集部に特異的に結合する一次結合物質、及び
(B)一次結合物質に特異的に結合する二次結合物質であって、検出可能な物質を含有する二次結合物質
を含んでいてもよい。
【0029】
上記の方法において、一次結合物質が、抗体、抗体断片、及びペプチドから選択される少なくとも一つであってもよい。
【0030】
上記の方法において、二次結合物質が、蛍光物質で標識された抗体であってもよい。
【0031】
上記の方法において、二次結合物質が酵素で修飾された抗体であり、工程c)の後、酵素によって分解されると蛍光物質又は発光物質となる基質をろ過膜に添加して、蛍光又は発光を検出する工程をさらに含んでいてもよい。
【0032】
上記の方法において、二次結合物質が酵素で修飾された抗体であり、工程c’)の後、酵素によって分解されると蛍光物質又は発光物質となる基質をろ過膜に添加して、蛍光又は発光を検出する工程をさらに含んでいてもよい。
【0033】
上記の方法において、酵素が、ペルオキシダーゼ又はアルカリホスファターゼであってもよい。
【0034】
上記の方法において、ろ過膜がウイルス除去膜であってもよい。
【0035】
上記の方法において、工程c)を工程b)の前に実施してもよい。
【0036】
上記の方法において、工程c’)を工程b’)の前に実施してもよい。
【0037】
上記の方法において、工程c)の後、未反応の凝集体に特異的な染色剤を除去する工程をさらに含んでいてもよい。
【0038】
上記の方法において、工程c’)の後、未反応の凝集体に特異的な染色剤を除去する工程をさらに含んでいてもよい。
【0039】
上記の方法において、透析、限外ろ過、又はゲルろ過により、未反応の凝集体に特異的な染色剤を除去してもよい。
【0040】
上記の方法において、a-1)工程において、ろ過速度を測定することによって、工程a)におけるろ過膜の目詰まりを確認してもよい。
【0041】
上記の方法において、a-1)工程において、圧力を測定することによって、工程a)におけるろ過膜の目詰まりを確認してもよい。
【発明の効果】
【0042】
本発明によれば、タンパク質含有溶液のろ過においてろ過膜の目詰まりが発生した際に、その原因が凝集体であるか否かを特定する方法を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】人為的に調整したタンパク質凝集体の溶液の動的光散乱を測定した結果を示すグラフである。
図2】人為的に調整したタンパク質凝集体の溶液のサイズ排除クロマトグラフィー結果を示すグラフである。
図3】タンパク質凝集体を含む溶液とタンパク質凝集体を含まない溶液をウイルス除去フィルターでろ過した場合の、溶液の処理量とろ過速度との関係を示すグラフである。
図4】未使用のウイルス除去フィルターが、凝集体に特異的な染色剤で染色されないことを示す蛍光顕微鏡観察像である。
図5】凝集体を含まないグロブリン溶液をろ過したウイルス除去フィルターが、凝集体に特異的な染色剤で染色されないことを示す蛍光顕微鏡観察像である。
図6】凝集体を含む溶液をろ過したウイルス除去フィルターが、凝集体に特異的な染色剤で染色されたことを示す蛍光顕微鏡観察像である。
図7図4に示した蛍光顕微鏡観察像の膜厚方向における蛍光強度のラインプロファイルである。横軸は内表面を0、外表面を1とした相対位置を示し、縦軸はその相対位置での輝度を示す。
図8図5に示した蛍光顕微鏡観察像の膜厚方向における蛍光強度のラインプロファイルである。横軸は内表面を0、外表面を1とした相対位置を示し、縦軸はその相対位置での輝度を示す。
図9図6に示した蛍光顕微鏡観察像の膜厚方向における蛍光強度のラインプロファイルである。横軸は内表面を0、外表面を1とした相対位置を示し、縦軸はその相対位置での輝度を示す。
図10】実施例1-1に係る凝集体に特異的な染色剤で染色されたウイルス除去フィルターの蛍光顕微鏡観察像である。
図11】実施例1-2に係る凝集体に特異的な染色剤で染色されたウイルス除去フィルターの蛍光顕微鏡観察像である。
図12図10に示した蛍光顕微鏡観察像の膜厚方向における蛍光強度のラインプロファイルである。横軸は内表面からの距離を示し、縦軸は輝度を示す。
図13図11に示した蛍光顕微鏡観察像の膜厚方向における蛍光強度のラインプロファイルである。横軸は内表面からの距離を示し、縦軸は輝度を示す。
図14】実施例2に係る凝集体に特異的な染色剤で染色されたウイルス除去フィルターの蛍光顕微鏡観察像である。
図15図14に示した蛍光顕微鏡観察像の膜厚方向における蛍光強度のラインプロファイルである。横軸は内表面からの距離を示し、縦軸は輝度を示す。
図16】比較例1-1に係る蛍光標識抗グロブリン抗体で染色されたウイルス除去フィルターの蛍光顕微鏡観察像である。
図17】比較例1-2に係る蛍光標識抗グロブリン抗体で染色されたウイルス除去フィルターの蛍光顕微鏡観察像である。
図18図16に示した蛍光顕微鏡観察像の膜厚方向における蛍光強度のラインプロファイルである。横軸は内表面からの距離を示し、縦軸は輝度を示す。
図19図17に示した蛍光顕微鏡観察像の膜厚方向における蛍光強度のラインプロファイルである。横軸は内表面からの距離を示し、縦軸は輝度を示す。
図20】比較例1-1に係る蛍光標識抗グロブリン抗体で染色されたウイルス除去フィルターの蛍光顕微鏡観察像である。
図21図20に示した蛍光顕微鏡観察像の膜厚方向における蛍光強度のラインプロファイルである。横軸は内表面からの距離を示し、縦軸は輝度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。ただし、図面は模式的なものであり、具体的な寸法等を正確に示したものではない。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0045】
本実施形態に係るタンパク質含有溶液によるろ過膜の目詰まりを評価する方法は
a)タンパク質含有溶液をろ過膜に通過させる工程、
b)工程a)の後に、ろ過膜からろ過膜断面を取得する工程、
c)工程a)の前にタンパク質含有溶液を、工程b)の前にろ過膜を、又は工程b)の後にろ過膜断面を、タンパク質の凝集体に特異的な少なくとも1種の染色剤で処理する工程、及び
d)ろ過膜断面における前記タンパク質の凝集体の存在を確認する工程、
を含む。ここに挙げた工程の順序は、断らない限り特に限定されないが、この記載の順序通り行うことが好ましい。
【0046】
本実施形態に係るタンパク質含有溶液によるろ過膜の目詰まり原因を特定する方法は、
a)タンパク質含有溶液をろ過膜に通過させる工程、
a-2)工程a)におけるろ過速度を測定する工程、
b’)ろ過速度が低下した場合、ろ過膜からろ過膜断面を取得する工程、
c’)タンパク質の凝集体に特異的な少なくとも1種の染色剤をろ過膜に添加する工程、及び
d)ろ過膜断面におけるタンパク質の凝集体の存在を確認する工程
を含む。ここに挙げた工程の順序は特に限定されないが、この記載の順序通り行うことが好ましい。
【0047】
本実施形態において、タンパク質とは特に限定されないが、例えば、アルブミン、グロブリン、又はフィブリノゲンが例示され、より好ましくは抗体タンパク質が例示される。生理活性物質の一例である抗体タンパク質は、生化学における一般的な定義のとおり、脊椎動物の感染防禦機構としてBリンパ球が産生する糖タンパク質分子(ガンマグロブリン又は免疫グロブリンともいう。)である。例えば、実施の形態で精製される抗体タンパク質は、ヒトの医薬品として使用され、投与対象であるヒトの体内にある抗体タンパク質と実質的に同一の構造を有する。
【0048】
抗体タンパク質は、ヒト抗体タンパク質であってもよく、ヒト以外のウシ及びマウス等の哺乳動物由来抗体タンパク質であってもよい。あるいは、抗体タンパク質は、ヒトIgGとのキメラ抗体タンパク質、及びヒト化抗体タンパク質であってもよい。ヒトIgGとのキメラ抗体タンパク質とは、可変領域がマウスなどのヒト以外の生物由来であるが、その他の定常領域がヒト由来の免疫グロブリンに置換された抗体タンパク質である。また、ヒト化抗体タンパク質とは、可変領域のうち、相補性決定領域(complementarity-determining region:CDR)がヒト以外の生物由来であるが、その他のフレームワーク領域(framework region:FR)がヒト由来である抗体タンパク質である。ヒト化抗体タンパク質は、キメラ抗体タンパク質よりも免疫原性がさらに低減される。
【0049】
抗体タンパク質のクラス(アイソタイプ)及びサブクラスは特に限定されない。例えば、抗体タンパク質は、定常領域の構造の違いにより、IgG,IgA,IgM,IgD,及びIgEの5種類のクラスに分類される。しかし、実施の形態に係るろ過方法が精製対象とする抗体タンパク質は、5種類のクラスの何れであってもよい。また、ヒト抗体タンパク質においては、IgGにはIgG1からIgG4の4つのサブクラスがあり、IgAにはIgA1とIgA2の2つのサブクラスがある。しかし、本実施形態に係るろ過方法が精製対象とする抗体タンパク質のサブクラスは、いずれであってもよい。なお、Fc領域にタンパク質を結合したFc融合タンパク質等の抗体関連タンパク質もある。
【0050】
さらに、抗体タンパク質は、由来によっても分類することができる。しかし、本実施形態に係るろ過膜が精製対象とする抗体タンパク質は、天然のヒト抗体タンパク質、遺伝子組換え技術により製造された組換えヒト抗体タンパク質、モノクローナル抗体タンパク質、及びポリクローナル抗体タンパク質の何れであってもよい。これらの抗体タンパク質の中でも、実施の形態に係るろ過方法が精製対象とする抗体タンパク質としては、抗体医薬としての需要や重要性の観点から、ヒトIgG及びモノクローナル抗体が好適であるが、これらに限定されない。
【0051】
本実施形態において、タンパク質含有溶液とは、上述の例のようなタンパク質を含有する溶液であり、これらタンパク質の製造、精製過程においては、いずれも多種の不純物が溶液に多量に含まれることから、膜分離技術を用いた精製が利用される。
【0052】
本実施形態において、タンパク質含有溶液としては、タンパク質が溶液に溶解されていれば特に限定されない。溶液として使用できる緩衝液の種類は特に限定されないが、例えばtris、酢酸、ヒスチジン、グリシン、リン酸、又はクエン酸などを含む溶液である。
【0053】
タンパク質含有溶液には、タンパク質を安定化することなどを目的として、Tween等の界面活性剤、ソルビトール、マルトース、スクロース、及びトレハロース等の糖類、塩化ナトリウム及びスルホン酸塩等の無機塩類、並びにアルギニン及びリジン等のアミノ酸などのような添加剤が含まれていてもよい。
【0054】
本実施形態において、タンパク質含有溶液の濃度としては、タンパク質が溶液に溶解されていれば特に限定されない。タンパク質含有溶液濃度の下限値としては、0.01mg/mL以上が例示され、別の態様として0.05mg/mL以上が例示され、別の態様として0.1mg/mL以上が例示され、別の態様として0.5mg/mL以上が例示され、別の態様として1.0mg/mL以上が例示され、さらに別の態様として5.0mg/mL以上が例示される。タンパク質含有溶液濃度の上限値としては、200mg/mL以下が例示され、別の態様として150mg/mL以下が例示され、別の態様として100mg/mL以下が例示され、別の態様として50mg/mL以下が例示され、別の態様として25mg/mL以下が例示される。
【0055】
本実施形態において、緩衝液の濃度は、上述した溶解物が溶解していれば特に限定されない。緩衝液の濃度の下限値としては、0.1mmol/L以上が例示され、別の態様として1mmol/L以上が例示され、別の態様として10mmol/L以上が例示され、別の態様として50mmol/L以上が例示され、別の態様として100mmol/L以上が例示され、別の態様として300mmol/L以上が例示される。一方で緩衝液を使用しない場合もある。
【0056】
またタンパク質含有溶液に添加する安定剤の濃度は、そのタンパク質溶液のタンパク質安定性などを指標に決定すればよい。好ましくは500mmol/L以下、あるいは300mmol/L以下、さらに好ましくは250mmol/L以下である。タンパク質が十分安定な場合は安定剤を含有しなくてもよい。
【0057】
本実施形態において、タンパク質含有溶液又は緩衝液のpHは、特に限定されない。pHの下限値としては3.5以上が例示され、別の態様として4.5以上が例示され、さらに別の態様として5.0以上が例示され、さらに別の態様として5.5以上が例示され、さらに別の態様として、6.0以上が例示される。pHの上限値としては、10.0以下が例示され、別の態様として9.0以下が例示され、さらに別の態様として8.0以下が例示され、さらに別の態様として8.5以下が例示され、さらに別の態様として8.0以下が例示され、さらに別の態様として7.5以下が例示され、さらに別の態様として7.0以下が例示される。pHの測定方法としては特に限定されないが、例えば水素電極、キンヒドロン電極、アンチモン電極、及びガラス電極を使用した方法が挙げられる。中でもガラス電極を用いた方法が好ましい。
【0058】
本実施形態において、ろ過膜は、上記タンパク質含有溶液からタンパク質を精製する工程に用いられるろ過膜であれば特に限定されない。ろ過膜は不純物をサイズごとに分離する。膜分離技術では、膜の一方の表面から、他方の表面に向けて、タンパク質含有溶液を、膜内部を通過させて膜内部に不純物を捕捉し、また目的物質であるタンパク質を媒質である液体とともに通過させることによって、ウイルス等の不純物を除去する。ろ過膜の形状としては特に限定されないが、中空糸状や平膜状が例示され、中空糸膜が好ましいろ過膜として例示される。また、別の態様として平膜も好ましいろ過膜として例示される。ろ過膜の素材は特に限定されず、再生セルロースなどの非合成高分子性のろ過膜や、合成高分子からなるろ過膜でもよい。例えば、ろ過膜の素材としては、例えば、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン、セルロース、セルロース誘導体又はそれらの混合物が挙げられる。ろ過膜において、これらの素材が積層されていてもよいし、ある素材の上に別の素材がコートされていてもよい。またろ過膜の表面が、グラフト重合やコーティング技術で改質されていてもよい。
【0059】
ろ過膜は通常、膜の一方の表面から、他方の表面までタンパク質含有溶液を通過させるために、フィルターとして成型される。中空糸状の膜であれば、例えば複数本の膜を束ねてハウジングと呼ばれる円筒状ケースに収められ、両端をポリウレタンなどの接着剤で固めて中空糸端を開口させたようなフィルター形状に成型される。平膜状であれば例えばタンパク質含有溶液の導入口をもつ部材と、出口を持つ部材で膜を挟み、両部材の端部を溶着したような形状に成型される。膜を折りたたんでプリーツ状にするなど、適当な形に変形させたろ過膜や、積層させたろ過膜などをフィルターとして用いてもよい。
【0060】
本実施形態において、ろ過膜は特に限定されるものではないが、精製対象物質であるタンパク質のサイズとろ過膜の孔のサイズが非常に近い設計になっており、凝集体の影響を受けやすいという観点から、ウイルス除去フィルターに用いられる膜が好ましい。ウイルス除去フィルターに用いられる膜をウイルス除去膜と呼ぶ。
【0061】
本実施形態において、ウイルス除去膜は、実質的にウイルスと目的タンパク質を分離できる膜であれば特に限定されないが、例として約15nm以上約75nm以下の公称孔サイズを有する膜である。例えば、公称孔サイズ20nmの膜では、150kDaであるタンパク質、例えばモノクローナル抗体を通過させるが、例えばパルボウイルスは通過させない。一方、例えば公称孔サイズ35nm以上の膜を用いると、より大きなタンパク質、例えば340kDaであるフィブリノゲンを通過させ、例えばシミアンウイルス40を除去し得る。
【0062】
本実施形態において、ウイルス除去膜は、例えば、100kD以上1000kD以下の分画分子量を有する。これに関連して、膜の分画分子量(MWCO)は、その90%が膜を通過できる分子及び粒子の公称分画分子量(nominal molecular weight)を指す。
【0063】
本実施形態において、ウイルス除去膜の素材としては、ウイルスを除去することができる素材であれば特に限定されないが、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン、セルロース、セルロース誘導体又はそれらの混合物が挙げられる。
【0064】
a)タンパク質含有溶液をろ過膜に通過させる工程
本実施形態において、タンパク質含有溶液をろ過膜に通過させる具体的な態様は特に限定されないが、例えばろ過膜の一方の表面の側からタンパク質含有溶液を圧送し、ろ過膜を通過させる方法、またはポンプを用いてタンパク質含有溶液をろ過膜に通過させる方法が例示される。また、ろ過膜へ送ったタンパク質含有溶液の全量を通過させる、デッドエンドろ過でもよく、また一部を通過させ、残りをもとの溶液に戻すタンジェンシャルフローろ過を行ってもよい。タンパク質の精製工程は多段階に及ぶことが多いが、ろ過膜の前後の工程と接続され、連続して処理することもできる。
【0065】
タンパク質含有溶液をろ過膜に通過させる前後において、タンパク質含有溶液とは別に緩衝液をろ過膜に通過させてもよい。当該緩衝液はタンパク質含有溶液を構成する緩衝液と同じ性状の緩衝液であってもよいし、異なる性状の緩衝液であってもよいが、同じ性状の緩衝液であることが好ましい。緩衝液の例は、上述したとおりである。タンパク質含有溶液回収の際、ろ過膜に通過させるタンパク質含有溶液をすべて回収してもよい。また、複数のフィルターを並列に並べてろ過を行ってもよいし、途中でろ過膜を交換しながらろ過を行ってもよい。
【0066】
ろ過膜に通過させるタンパク質含有溶液の量は特に限定されないが、下限値として10L/mが例示され、上限値として1000L/mが例示される。
【0067】
上述したように、タンパク質含有溶液をろ過膜に通過させる方法は、圧力をかけてろ過を行う方法でもポンプなどを用いてろ過膜にタンパク質溶液を送液してろ過を行う方法でもよい。圧力をかける場合は常に一定の圧力をかける定圧ろ過が好ましいが、状況に応じて圧力を変更しながら行ってもよい。膜間差圧としてはそのろ過にかけることができる時間等で決定すればよく、また用いるろ過膜で推奨される上限圧力以下で行うことが好ましい。上限圧力を超えると、ろ過膜の構造が圧力により変形し、除去すべきウイルス等の不純物が通過できるようになるなどのおそれがある。ポンプなどを用いてろ過を行う場合、好ましくは一定の速度で行う定速ろ過が好ましいが、実際にろ過膜にかかる膜間差厚が一定になるようにポンプの流量を調整しながら行ってもよい。ポンプの設定流量は、圧力をかけてろ過をする場合と同じく限定はなく、膜間差圧がろ過膜の推奨する上限圧力を超えないように設定されることが好ましい。
【0068】
a-1)工程a)においてろ過膜の目詰まりを確認する工程
本実施形態に係る方法は、工程a)においてろ過膜の目詰まりを確認する工程を含み得る。ろ過膜が目詰まりを起こしたか否かを判定するために、タンパク質含有溶液をろ過膜に通過させる際のろ過速度を測定することができる。ろ過速度の指標の例としては、単位時間当たりにろ過膜を通過した液量が挙げられ、その単位はL/m/hourである。さらに加えた圧力を除して単位圧力当たりのろ過速度に換算してもよい。ろ過速度を測定する方法は、特に限定されず、例えばタンパク質含有溶液を一定の圧力で圧送した場合は単位時間当たり通過してきた液量を測定する方法が挙げられる。液量の測定は流量計を用いて測定してもよく、一定時間ごとに採取した液量の重量や容量を測定してもよい。デッドエンドろ過の場合は、導入する液流量と通過液量は等しくなるので導入量を測定してもよい。また、ポンプ等を用いて一定流量をろ過膜に導入する場合は、ろ過膜の両表面間の差圧(膜間差圧)を測定すればよい。ろ過膜が目詰まりを起こすと、同じ流速を通過させるのに、より高い膜間差圧が必要であるために、上述の指標に換算するとろ過速度の低下が確認できる。ろ過膜が目詰まりを起こしたと判定するろ過速度の閾値としては、現実的にろ過が不可能となるろ過速度であれば特に限定されないが、例えば開始直後のろ過速度に対して70%以下、別の態様として50%以下が例示される。例えば、ろ過速度の測定値が、ろ過速度の閾値以下となった場合、ろ過膜が目詰まりを起こしたと判定する。
【0069】
また、ろ過膜が目詰まりを起こしたか否かを判定するために、タンパク質含有溶液をろ過膜に通過させる際のろ過圧を測定することができる。ろ過圧の上昇は、上記の通り膜間差圧を測定することにより、確認することができる。
【0070】
a-2)工程a)におけるろ過速度を測定する工程
本実施形態に係る方法は、工程a)におけるろ過速度を測定する工程を含み得る。ろ過膜が目詰まりを起こしたか否かを判定するために、タンパク質含有溶液をろ過膜に通過させる際のろ過速度を測定する。ろ過速度の指標の例としては、単位時間当たりにろ過膜を通過した液量が挙げられ、その単位はL/m/hourである。さらに加えた圧力を除して単位圧力当たりのろ過速度に換算してもよい。ろ過速度を測定する方法は、特に限定されず、例えばタンパク質含有溶液を一定の圧力で圧送した場合は単位時間当たり通過してきた液量を測定する方法が挙げられる。液量の測定は流量計を用いて測定してもよく、一定時間ごとに採取した液量の重量や容量を測定してもよい。デッドエンドろ過の場合は、導入する液流量と通過液量は等しくなるので導入量を測定してもよい。また、ポンプ等を用いて一定流量をろ過膜に導入する場合は、ろ過膜の両表面間の差圧(膜間差圧)を測定すればよい。ろ過膜が目詰まりを起こすと、同じ流速を通過させるのに、より高い膜間差圧が必要であるために、上述の指標に換算するとろ過速度の低下が確認できる。ろ過膜が目詰まりを起こしたと判定するろ過速度の閾値としては、現実的にろ過が不可能となるろ過速度であれば特に限定されないが、例えば開始直後のろ過速度に対して70%以下、別の態様として50%以下が例示される。例えば、ろ過速度の測定値が、ろ過速度の閾値以下となった場合、ろ過膜が目詰まりを起こしたと判定する。
【0071】
b)工程a)の後に、ろ過膜からろ過膜断面を取得する工程、
工程a)の後、ろ過膜の目詰まりの原因が凝集体によるか否かを確認するために、目詰まりを生じたろ過膜を回収し、そのろ過膜内部における凝集体の存在の有無を確認する。ろ過膜の内部を観察する場合、ろ過膜の断片を取得し、ろ過膜の断面を観察してもよい。ろ過膜の断片を切り出すには、カミソリなどの刃物でろ過膜を切断するなど、特に限定はされないが、可能な限り断面の構造を維持したり、内部に残存する粒子の状態を維持したりするためにも、鋭利な刃物を用いることが好ましい。ろ過膜が中空糸である場合、糸長方向に垂直に中空糸膜を切断し、ろ過膜の断片を取得することができる。ろ過膜が平膜である場合、膜表面に垂直にろ過膜を切断し、ろ過膜の断片を取得することができる。ろ過膜の厚みが非常に小さいなどで、切断が困難な場合は、パラフィンや樹脂などの包埋剤にろ過膜を包埋した上で、ミクロトームなどの器具でろ過膜をスライスしてもよい。スライスする際の厚みは、好ましくは2μm以上20μm以下、より好ましくは4μm以上10μm以下である。また、液体窒素などにより、ろ過膜を極低温に冷却した後に、ろ過膜を割断して、ろ過膜の断片を取得してもよい。
【0072】
b’)ろ過速度が低下した場合、ろ過膜からろ過膜の断面を取得する工程
工程a-2)でろ過速度が低下し、ろ過膜が目詰まりを起こしたと判定した場合、ろ過膜の目詰まりの原因が凝集体によるか否かを確認するために、目詰まりを生じたろ過膜を回収し、そのろ過膜内部における凝集体の存在の有無を確認する。ろ過膜の内部を観察する場合、ろ過膜の断片を取得し、ろ過膜の断面を観察してもよい。ろ過膜の断片を切り出すには、カミソリなどの刃物でろ過膜を切断するなど、特に限定はされないが、可能な限り断面の構造を維持したり、内部に残存する粒子の状態を維持したりするためにも、鋭利な刃物を用いることが好ましい。ろ過膜が中空糸である場合、糸長方向に垂直に中空糸膜を切断し、ろ過膜の断片を取得することができる。ろ過膜が平膜である場合、膜表面に垂直にろ過膜を切断し、ろ過膜の断片を取得することができる。ろ過膜の厚みが非常に小さいなどで、切断が困難な場合は、パラフィンや樹脂などの包埋剤にろ過膜を包埋した上で、ミクロトームなどの器具でろ過膜をスライスしてもよい。スライスする際の厚みは、好ましくは2μm以上20μm以下、より好ましくは4μm以上10μm以下である。また、液体窒素などにより、ろ過膜を極低温に冷却した後に、ろ過膜を割断して、ろ過膜の断片を取得してもよい。
【0073】
c)工程a)の前にタンパク質含有溶液を、工程b)の前にろ過膜を、又は工程b)の後にろ過膜断面を、タンパク質の凝集体に特異的な少なくとも1種の染色剤で処理する工程
ろ過膜内に凝集体が存在するか否かを確認するために、以下の染色処理を行う。例えば、工程a)の前に、タンパク質の凝集体に特異的な染色剤をタンパク質含有溶液中に添加することにより、溶液中のタンパク質の凝集体を染色処理することができる。ろ過膜によるろ過前のタンパク質含有溶液に適宜量の染色剤を添加すればよい。また、工程b)の前に、タンパク質の凝集体に特異的な染色剤をろ過膜に予め添加することにより、ろ過膜に捕捉されたタンパク質の凝集体を染色処理することができる。あるいは、工程b)の後に、タンパク質の凝集体に特異的な染色剤をろ過膜断面に添加することにより、ろ過膜に捕捉されたタンパク質の凝集体を染色処理することができる。ろ過膜の断片取得中に同時に染色剤をろ過膜断面に添加することも、工程b)の後にろ過膜断面を染色剤で処理することに含まれる。
【0074】
c’)タンパク質の凝集体に特異的な少なくとも1種の染色剤をろ過膜に添加する工程
ろ過膜内に凝集体が存在するか否かを確認するために、ろ過膜をタンパク質の凝集体に特異的な染色剤で染色する。工程c’)は、例えば、工程b’)の後に実施される。この場合、工程b’)で取得したろ過膜断片の断面を凝集体に特異的な染色剤で染色し、ろ過膜の断面が染色されているか否かを観察する。あるいは、工程c’)を、工程b’)の前に実施してもよい。この場合、断片を取得する前のろ過膜に、凝集体に特異的な染色剤を添加する。その後、工程b’)を実施してろ過膜の断片を取得し、ろ過膜の断面が染色されているか否かを観察する。
【0075】
c)又はc’)工程において、タンパク質の凝集体に特異的な染色剤は、タンパク質の凝集体を特異的に染色するが、凝集していないタンパク質を染色しない。このような染色剤としては、チオフラビンT、ナイルレッドのような一般的な試薬、又はENZO LIFESCIENCES社より販売されるプロテオスタット凝集体アッセイキットに含まれるDetection reagentが例示される。例えば、WO03/000853号又はWO2011/065980号に記載のタンパク質凝集体特異的染色剤を使用することもできる。これらの染色剤は、凝集体の表面の特異的な疎水領域を凝集部と認識して結合し、蛍光を発する化合物である。使用する染色剤の量や条件は、各製品の反応性などで異なり、またろ過膜に含まれる凝集体の量によっても異なる。それぞれの染色剤の量は、凝集体に対して大過剰となる量であり、かつバックグラウンド蛍光が問題とならない量であることが好ましい。好ましくは、凝集体を含まないネガティブコントロール試料を染色した際のシグナル強度と、凝集体を含むポジティブコントロール試料を染色した際のシグナル強度と、の間で明確な違いが生じるように、染色剤の量や条件を設定する。明確な違いとは、得られた像の輝度を確認し、ポジティブコントロール試料のシグナル強度がネガティブコントロール試料のシグナル強度の例えば5倍以上、好ましくは10倍以上になるように違いであるが、特に限定されない。
【0076】
また、凝集体に特異的な染色剤の別の例として、凝集体に特異的な親和性を有し、凝集体に結合する抗体、抗体断片、又はペプチド等が挙げられる。例えば、Anal. Chem. 2016, 88, 10095-10101に記載のタンパク質凝集体特異的染色剤を使用することもできる。抗体、抗体断片、及びペプチド等はシグナルを発しないので、これらを蛍光物質などで直接標識してもよい。あるいは、凝集体に特異的な親和性を有する抗体、抗体断片、又はペプチド等の一次結合物質に特異的に結合する、蛍光標識抗体等の二次結合物質を用いてもよい。さらに、凝集体に特異的な染色剤の別の例として、アルカリホスファターゼやペルオキシダーゼ等の酵素で標識された抗体が挙げられる。当該酵素をろ過膜断面に添加して凝集体と反応させ、その後、酵素による反応でシグナルを発する物質を添加させることでシグナルを得てもよい。いずれの染色剤を用いた場合であっても、過剰な染色剤をろ過膜から洗浄除去してから、ろ過膜断面を観察することが、余分なシグナルを検出しないために好ましい。また、染色剤とろ過膜断面との非特異的な反応を抑制するために、染色前にブロッキング剤によって、露出したろ過膜断面を覆うことで、染色剤がろ過膜断面へ吸着してろ過膜を非特異的に染色することを抑制できる。ブロッキング剤は、ろ過膜断面に吸着してろ過膜断面を覆い隠すことができ、かつ染色剤と反応しなければ任意の物質を用いることができる。例えば、BSAや血清、スキムミルク等のタンパク質や、販売名BlockProやStabilblot等の、タンパク質を含有しない製品、あるいは販売名BlokingOne等の、両者が混合された剤などを用いることができる。特に非タンパク質のブロッキング剤は、ウエスタンブロット等に用いる膜をブロッキングするために開発されたため、同じ高分子膜であるろ過膜のブロッキングに適している場合がある。
【0077】
凝集体の特異的な染色の精度を向上させるために、ろ過後のろ過膜を洗浄し、ろ過膜中の余分なタンパク質などを除去する工程を実施してもよい。洗浄液の例としては、タンパク質を含有しない水や各種緩衝液などが挙げられる。ろ過膜の状態を維持でき、かつ吸着物等をろ過膜に維持できるので、タンパク質含有溶液の溶媒と同じ緩衝液が洗浄液として好ましい。ろ過膜を洗浄する方法は、洗浄液でろ過膜をろ過洗浄する方法でもよいし、ろ過膜を洗浄液に浸漬させて洗浄する方法でもよいし、ろ過膜の断面に直接洗浄液をかけて洗浄する方法でもよい。ろ過膜を洗浄する方法は、特に限定はされないが、ろ過膜の孔内まで洗浄液を通液させて洗浄できることから、ろ過洗浄が好ましい。
【0078】
凝集体の特異的な染色の精度を向上させるために、ろ過後のろ過膜に対して固定処理を施し、内部に残存するタンパク質や粒子を固定してもよい。固定は、一般的な生物学実験の染色技術に用いられる技術が適用可能であり、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド等のアルデヒドを用いる方法、エタノールやアセトンなどの有機溶媒を用いる方法などが挙げられる。固定処理を行う場合は、その後の染色に影響しないよう、固定剤の洗浄を行うことが好ましい。また、アルデヒドを用いた固定処理の場合は、染色前に賦活化処理を行って、固定処理をある程度緩和させ、染色剤との反応性を向上させてもよい。固定処理やその後の洗浄、賦活化で用いる溶媒は限定されず、リン酸緩衝液(PBS)等の一般的な緩衝液を用いることが好ましく、また洗浄効率を上げるために、Tween20やTween80などの界面活性剤を緩衝液に微量添加してもよい。
【0079】
d)ろ過膜断片における凝集体の存在を確認する工程。
凝集体に特異的な染色剤による処理後、ろ過膜の観察断面に、染色剤のシグナルが確認されれば、ろ過膜には凝集体が存在している。したがって、タンパク質含有溶液にタンパク質の凝集体が含まれており、これにより目詰まりが生じたことが目詰まりの原因の可能性があると判断することができる。これに対し、ろ過膜の観察断面に染色剤のシグナルが確認されなかった場合は、ろ過膜にはタンパク質の凝集体は存在しておらず、凝集体による目詰まりはなかったと判断できる。凝集体による目詰まりが生じていると確認されれば、ろ過膜の前段に凝集体を除去する前ろ過処理を行ってもよいし、あるいは、目的タンパク質の安定性を調査し、凝集しにくい緩衝液を選択してもよい。このように、バイオ医薬品の製造におけるろ過工程(特に、ウイルス除去工程)において、凝集体がろ過膜に影響を与えないための対策を選択することで、ろ過膜によるタンパク含有液をろ過する際の目詰まりを防止することができる。一方で目詰まりが確認されているにもかかわらず、目詰まりの原因が凝集体でないことが確認された場合は、ろ過膜細孔壁に吸着した目的タンパク質が原因であると考えられるため、目的タンパク質の吸着を抑制できるような緩衝液の選択や、ろ過膜の素材を変更するなどの対策を選択することができる。
【0080】
凝集体に特異的な染色剤だけでなく、凝集体のみならず、凝集していないタンパク質も含む、タンパク質全体を染色できる染色剤をろ過膜に加えて、タンパク質及びその凝集体を同時に観察してもよい。本工程の追加により、凝集体が含まれない場合に、変性、凝集していないタンパク質がろ過膜に吸着し、孔を狭窄していることが確認できる。タンパク質全体を染色できる染色剤による染色は、工程c)又は工程c’)の前でも後でも同時でもよい。なお、両染色剤は、互いに識別可能であるように選択される。例えば蛍光染色剤を用いる場合、両染色剤の励起波長や蛍光波長が異なるように選択する。タンパク質全体を染色できる染色剤としては、この目的が達成できれば特に限定されず、目的タンパク質に特異的に結合する抗体であって、色素が結合された抗体が挙げられる。また、ろ過膜に吸着しているタンパク質が多い場合、ろ過膜に吸着しているタンパク質が持つ芳香族アミノ酸由来の蛍光を検出してもよい。
【0081】
したがって、本実施形態に係る方法によれば、タンパク質含有液に凝集体が存在することが確認でき、例えばバイオ医薬品の製造工程の効率性を改善することが可能である。
【0082】
ろ過膜が目詰まりをするほどの凝集体がタンパク質含有液に存在するか否かは実際にろ過してみないとわからないため、事前に目的よりも小さいスケールでの本実施形態に係る方法を実施し、その後、大きいスケールでろ過を実施してもよい。事前の試験の場合であれば、凝集体に特異的な染色剤をあらかじめ混合しておいたタンパク質含有溶液をろ過膜でろ過し、その後、ろ過膜の断面を観察してもよい。凝集体に特異的な染色剤をタンパク質含有溶液に混合しても、凝集体が微量な場合はろ過膜断面にシグナルを検出できないが、ろ過膜の目詰まりを起こすほど凝集体がろ過膜内に蓄積されると、ろ過膜断面にシグナルを検出できるようになる。凝集体に特異的な染色剤をタンパク質含有溶液に事前に混合することにより、ろ過後の染色工程の手間を省くことが可能である。ただし、凝集体と反応していない染色剤がろ過膜に残存し得るため、ろ過膜を十分洗浄することが好ましい。染色剤とろ過膜との非特異反応を防止する観点から、染色剤をタンパク質含有溶液に添加した後、透析処理等で凝集体に結合しなかった染色剤をタンパク質含有溶液から除去した後に、タンパク質含有溶液をろ過することが好ましい。
【実施例
【0083】
以下に本実施形態を、実施例及び比較例等に基づき詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、任意の形態で実施することが可能である。
【0084】
1.凝集体を含むタンパク質含有溶液の調製
タンパク質の凝集体が染色剤で特異的に染色できるか否かの確認を行うために、酸処理により人為的にタンパク質凝集体を作製し、モデルろ過実験を行った。
【0085】
ヒト免疫グロブリン製剤(献血ヴェノグロブリンIH5%静注、日本血液製剤機構)を用いて、グロブリン終濃度2%、塩化ナトリウム濃度100mmol/Lの溶液を200mL調製した。この溶液のpHは4.5であり、動的光散乱法に供すると、溶液に含まれる粒子の平均直径は11.8nmであった。室温にて本溶液のpHを1mol/L塩酸水溶液により2.5に低下させ、1時間静置したのち、1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液にてpH4.5に戻し、24時間静置することでグロブリンの凝集体を含有するヒト免疫グロブリン含有溶液(以下、「溶液A」と呼ぶことがある。)を取得した。
【0086】
溶液Aに含まれる粒子の平均直径を、動的光散乱法にて測定したところ、平均直径は74.3nmであった。測定にはMalvern社製、ZetaSizerNanoを用いた。結果を図1に示す。測定時の光量(照射光の減衰条件)、光源からの距離及び総測定時間(積算回数及び1積算回数あたりの測定時間)は装置の自動設定機能を利用した。また、測定温度は25.0℃、測定角度は173°であった。
【0087】
溶液Aをサイズ排除クロマトグラフィー分析に供したところ、得られたチャートのピーク面積から算出される相対面積比で単量体を16.5%、二量体を5.6%、三量体以上の多量体を77.8%含んでいた。なお、本実施例においては、多量体含有溶液を作成し、タンパク質溶液に添加するモデル実験のため、サイズ排除クロマトグラフィー分析で分画した試料に対する平均直径の測定は実施しなかった。サイズ排除クロマトグラフィー法の実施には、高速液体クロマトグラフ(Prominence、島津製作所)と、カラム(TSK gel G3000SWXL、東ソー、排除限界分子量:500,000Da)を用いた。移動相は、0.3mol/L、pH6.9のリン酸バッファーと、0.2mol/Lのアルギニン-HClと、0.1mol/LのNaClを含んでいた。測定温度は25℃、測定時間は20分、流速は1.0mL/分であった。測定結果の一例を図2に示す。図2のピーク1はグロブリンの三量体以上の多量体を表しており、ピーク2はグロブリンの二量体を表しており、ピーク3は単量体を表している。このように溶液Aは、凝集体を含むタンパク質含有溶液であることが確認された。クロマトチャートのピークの面積からそれぞれの単量体及び多量体の割合を算出し、これを相対面積比とした。以下の実施例においても同様であり、単量体及び多量体等の濃度を相対面積比%を用いて示す。
【0088】
2.凝集体を含むタンパク質含有溶液をろ過膜でろ過することによる目詰まり確認
【0089】
2-1 ろ過膜の目詰まりの確認
ヒト免疫グロブリン製剤(献血ヴェノグロブリンIH5%静注、日本血液製剤機構)を用いて、300mLのグロブリン濃度1%、塩化ナトリウム濃度100mmol/Lとなるように注射用蒸留水(大塚製薬)での希釈と塩化ナトリウム添加を行った。この溶液を2分し、一方の溶液には溶液Aを、グロブリンの三量体以上の多量体を0.3%含むように0.29mL添加した。これらの溶液を、ウイルス除去フィルターである、中空糸膜を備えるプラノバ20N(登録商標、旭化成メディカル社製)を用いて98kPaの定圧デッドエンドろ過を行った。用いたフィルターの膜面積は0.001mである。ろ液の重量を計測し、経時的にろ過速度の計算を行った。目詰まりの程度を正確に比較するため、初期のろ過速度と、各計測ポイントでのろ過速度の比を求めた。結果を図3に示す。凝集体を添加しなかったサンプルは目詰まりが生じなかった。これに対し、凝集体を添加したサンプルは目詰まりが生じた。
【0090】
2-2 凝集体に特異的な染色剤を用いた、目詰まりしたろ過における凝集体の存在の確認
【0091】
ろ過後のウイルス除去フィルターを水でろ過洗浄し、フィルター内から中空糸膜を取り出し、4%パラホルムアルデヒドリン酸緩衝液(富士フィルム和光純薬)に浸漬し、固定した。パラホルムアルデヒドを洗浄するために、中空糸膜をPBSに浸漬洗浄させ、5mm程度に切断し、OCTコンパウンド(サクラファインテック)にて、-20℃凍結包埋後、クライオミクロトーム(ライカ、CM1950)にて8μmの中空糸膜の薄切片を得た。水でコンパウンドを洗浄した後、PBSで洗浄し、2%BSAのPBS-T溶液に室温10分浸して、ブロッキングを行った。洗浄後、プロテオスタットタンパク質凝集測定アッセイキット(Enzo life sciences社)に含まれる染色剤の原液を、付属の緩衝液で1000倍希釈し、中空糸膜の切片に加えた。室温にて40分反応させたのち、切片を洗浄し、過剰の染色剤を除去した。各洗浄は0.05%Tween20含有PBS(以下PBS-T)で4回ずつ行った。ブランク実験として、何もろ過していないプラノバ20N(登録商標、旭化成メディカル社製)にて同様の処理を行った切片を用意した。切片の観察はライカ社のシステム(蛍光顕微鏡DMI8、LASXソフトウエア)で行った。蛍光観察には、励起フィルター472/30nm、蛍光フィルター598/25nm、ダイクロイックミラー598nmを用いた。露光時間等の観察条件は、凝集体含有サンプルで十分な輝度を得ることができるような条件に調整し、すべてのサンプル観察を行った。顕微鏡観察像はCMOSモノクロ顕微鏡カメラ(ライカ、DFC9000)で16bitのtiff形式ファイルとして撮像した。得られた各像をImageJ(ver1.52a)で取り込み、輝度のコントラスト調整がないように表示させた観察の結果を図4から図6に示す。何もろ過していないフィルターでは、図4に示すように、バックグラウンド蛍光より大きい蛍光シグナルは観察されなかった。凝集体を添加していないサンプルをろ過したフィルターでは、図5に示すように、バックグラウンド蛍光より大きい蛍光シグナルは観察されなかった。凝集体を添加したサンプルをろ過したフィルターでは、図6に示すように、バックグラウンド蛍光より大きい蛍光シグナルが観察された。したがって、本実施例に係る方法によれば、凝集していないグロブリンには染色剤が反応せず、グロブリンの凝集体のみ検出できることが確認できた。
【0092】
また、ImageJを用いて、それぞれの像に対して4か所ずつ、内表面から外表面にかけての輝度のラインプロファイルを表示させた結果を、図7から図9に示す。何もろ過していないフィルターでは、図7に示すように、輝度が低かった。また、凝集体を添加していないサンプルをろ過したフィルターでは、図8に示すように、輝度が低かった。凝集体を添加したサンプルをろ過したフィルターでは、図9に示すように、輝度が高く、特徴的なピークが現れた。ピークが検出された部位は、凝集体が捕捉された領域であるとみなし得る。以上から、三量体以上の凝集体の存在量が0.3%というわずかであっても、本実施例に係る方法を用いれば、凝集体を検出可能であり、凝集体が存在しない膜から、凝集体が存在する膜を判別可能であることが示された。
【0093】
〔実施例1〕
ヒト免疫グロブリン製剤(献血ヴェノグロブリンIH5%静注、日本血液製剤機構入手元)を用いて、pH4.0であるクエン酸リン酸バッファーにてグロブリン濃度3%に希釈したタンパク質含有溶液を200mL用意した。クエン酸リン酸バッファーとしては、McIlvaine緩衝液(10倍濃度)(ナカライタスク社製)を、終濃度が原液の20倍希釈となるように調整した溶液を使用した。これを2分し一方は塩化ナトリウム濃度が30mmol/Lとなるように(実施例1-1)、もう一方は塩化ナトリウム濃度が190mmol/Lになるように(実施例1-2)、塩化ナトリウムを添加した。膜面積が0.001mである中空糸膜を備えるプラノバ20N(登録商標、旭化成メディカル社製)にて、これら溶液の98kPa定圧デッドエンドろ過を5時間行った。ろ過開始5分後から10分後の単位面積当たり、単位時間当たりのろ過速度を計算し、さらに最後の5分のろ過速度との比(以下、「ろ過速度比」という。)を計算した結果を表1に示す。実施例1-1ではろ過速度比0.87と、ろ過速度の低下はわずかであるのに対し、実施例1-2ではろ過速度比0.71であり、中空糸膜の目詰まりの程度が大きかった。
【0094】
ろ過後の中空糸膜を回収し、前記2-2の手順と同様の手順で膜断面の染色を行い、100倍の油浸対物レンズを用いて観察した膜断面の画像を図10及び図11に示す。また、画像から得られたラインプロファイルのグラフを図12及び図13に示す。図10及び図12に示すように、実施例1-1では、図5と同様にバックグラウンド蛍光と思われるシグナルしか検出されなかった。これに対し、図11に示すように、実施例1-2の蛍光顕微鏡観察像では、特に外表面付近に筋状の強いシグナルを発する部分が観察された。また、図13に示すように、ラインプロファイルにおいて、実施例1-1と比較して、外表面付近の領域で高い強度が確認できた。以上から、目詰まりが生じた実施例1-2で生じたろ過速度の低下の原因は、高い塩化ナトリウム濃度によって生じたIgGの凝集体であることが示された。
【表1】
【0095】
〔実施例2〕
緩衝液のpHを7.0に設定した以外は、実施例1と同様にタンパク質含有溶液を調製し、30mmol/Lとなるように塩化ナトリウムを加え、実施例2に係る溶液とした。実施例2に係る溶液を膜面積0.001mであるプラノバ20N(登録商標、旭化成メディカル社製)にて、98kPa定圧デッドエンドろ過を5時間行った。実施例1と同様に算出された実施例2に係る溶液のろ過速度比は、表1に示す通り0.31であり、中空糸膜に著しい目詰まりが生じた。使用した中空糸膜の膜断面を、実施例1と同様に染色し、観察を行った結果を図14に示す。また、画像から得られたラインプロファイルを図15に示す。蛍光像からはバックグラウンド蛍光より蛍光強度の強い箇所は観察されず、ラインプロファイルを確認しても、強いシグナルは検出されなかった。この結果から、実施例2に係るろ過で生じた目詰まりの原因は、凝集体ではないことが示された。
【0096】
〔比較例1〕
実施例1-1及び実施例1-2で使用されたウイルス除去フィルターと同じフィルターから得られた各切片(それぞれ比較例1-1、1-2)に対し、蛍光物質であるFITCで修飾されたヒト免疫グロブリンに対するヤギポリクローナル抗体を用いて染色を行った。当該抗体は、凝集しているタンパク質と、凝集していないタンパク質と、の両方を染色する。切片に対し、2%BSAのPBS-T溶液に室温10分浸してブロッキングを行った。洗浄後、Dako antibody diluent buffer(アジレント)にて100倍希釈した抗体を切片に加えた。遮光下室温にて60分反応させたのち切片を洗浄し、過剰の染色剤を切片から除去した。各洗浄はPBS-Tにて4回ずつ行った。染色後の切片は励起フィルター480/40nm、蛍光フィルター527/30nm、ダイクロイックミラー505nmを用いた以外は実施例1と同じシステムで蛍光顕微鏡観察を行った。観察の結果を図16及び図17に示す。比較例1-1と比較例1-2の間では大きな違いは見られず、むしろ比較例1-1の方が比較例1-2よりもやや蛍光シグナルが高く、グロブリンの存在量が多い可能性が示された。図18及び図19に、それぞれ、図16及び図17に示した画像の膜厚方向における蛍光強度ラインプロファイルを示す。これらからも蛍光強度に両者の違いが見いだせなかった。以上から、凝集体に特異的でない染色剤では、膜の目詰まりの原因を特定できないことが示された。
【0097】
〔比較例2〕
実施例2で使用されたウイルス除去フィルターと同じフィルターから得られた切片(比較例2)を、比較例1と同じ操作で染色し、観察をした。観察の結果得られた画像を図20に示す。また、図20の画像から得られた膜厚方向の蛍光強度ラインプロファイルを図21に示す。この観察結果では、膜厚方向全体的に蛍光が検出されたが、タンパク質全体を染色しているので、凝集体が存在するか否かは、この結果からは判断することはできなかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21