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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-29
(45)【発行日】2023-09-06
(54)【発明の名称】グラビア印刷インキ用のワニス組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/102 20140101AFI20230830BHJP
   C09D 11/033 20140101ALI20230830BHJP
【FI】
C09D11/102
C09D11/033
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023101335
(22)【出願日】2023-06-21
【審査請求日】2023-06-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】中村 真
(72)【発明者】
【氏名】高橋 賢一
(72)【発明者】
【氏名】淺井 暁子
(72)【発明者】
【氏名】木村 千也
【審査官】橋本 栄和
(56)【参考文献】
【文献】特許第7317193(JP,B1)
【文献】特開2022-157067(JP,A)
【文献】特開2022-123821(JP,A)
【文献】特開2022-122860(JP,A)
【文献】特開2022-21338(JP,A)
【文献】国際公開第2022/004082(WO,A1)
【文献】特開2022-123371(JP,A)
【文献】特開2020-147720(JP,A)
【文献】国際公開第2018/199085(WO,A1)
【文献】特開2018-184584(JP,A)
【文献】特開2018-12778(JP,A)
【文献】特開2017-39836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00- 11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成要素として、酢酸エステル系有機溶剤と、ポリウレアウレタン樹脂とを含有してなり、前記ポリウレアウレタン樹脂以外の樹脂と併用可能なグラビア印刷インキ用のワニス組成物であって、
該組成物中に占める前記酢酸エステル系有機溶剤の割合が60質量%以上で、且つ、前記ポリウレアウレタン樹脂が、以下のa)~e)で定義される構造を全て有することを特徴とするグラビア印刷インキ用のワニス組成物。
a)ポリマー鎖中に、下記の式(1)又は(2)で示されるいずれかの構造の水酸基を有してなり、
b)水酸基の一部が、下記の式(3)又は(4)で示されるいずれかのシリル化された構造であることで、水酸基の含有量が、ポリウレアウレタン樹脂単体での水酸基価に換算して45mgKOH/g~80mgKOH/gの範囲内に調整されており、
c)ウレタン結合の他にウレア結合を有し、該ウレア結合は、脂肪族イソシアネート由来の構造であり、その樹脂中での存在比率がモル比としてウレタン結合/ウレア結合=10/1~10/3であり、
d)ダイマー酸由来の化学構造に起因するバイオマス成分を質量比で30%以上含有してなり、
e)樹脂の重さの9質量%以上が、原材料の二酸化炭素由来の構造からなる
[式(1)~(4)中のPはいずれもポリマー鎖との結合部を示しており、式(3)又は(4)中のRは、それぞれ独立に水素又はメチル基を示す。]
【請求項2】
前記ポリウレアウレタン樹脂が、下記の式(5)又は(6)で示される化合物のいずれか一つ以上を原材料としてなる、該原材料に由来した化学構造をポリマー鎖中に有してなる請求項1に記載のグラビア印刷インキ用のワニス組成物。
【請求項3】
前記ウレア結合が、イソホロンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート及び水添加キシリレンジイソシアネートからなる群のいずれか1つ以上のイソシアネート化合物に由来したものであり、且つ、25℃における溶液粘度が500mPa・s~5000mPa・sである請求項1又は2に記載のグラビア印刷インキ用のワニス組成物。
【請求項4】
前記ウレア結合が、さらに、イソシアヌレート型又はビウレット型又はアダクト型の3官能以上の脂肪族ポリイソシアネート化合物に由来のウレア結合を含む請求項3に記載のグラビア印刷インキ用のワニス組成物。
【請求項5】
前記酢酸エステル系有機溶剤の割合が、90質量%以上である請求項1又は2に記載のグラビア印刷インキ用のワニス組成物。
【請求項6】
さらに、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体又は塩素化ポリプロピレン、又は、アセチル基、プロピオニル基及びヒドロキシ基を有するセルロース樹脂の少なくともいずれかの樹脂を含む請求項1又は2に記載のグラビア印刷インキ用のワニス組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラビア印刷インキの製造に好適なインキワニスであるポリウレタン樹脂系のワニス組成物(樹脂含有組成物)に関する。さらに詳しくは、本発明のポリウレタン樹脂系のワニス組成物は、グラビア印刷インキの製造の際に有用な機能を付与する目的で用いられる他の樹脂との相溶性に優れるので、従来のインキワニスと同様にこれらの樹脂を併用することができ、グラビア印刷インキの製造に使用した場合に、硬化性に優れ、基材に固着して接着性に優れる印刷画像(インキ皮膜)の提供が実現され、加えて二酸化炭素を原材料とした新しいタイプのポリウレアウレタン樹脂の利用を可能にした、環境対応性にも優れたグラビア印刷インキ用のワニス組成物を提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタン樹脂は、ジイソシアネート化合物とポリオール化合物及び低分子量のジオールなどの鎖伸長剤といった原材料を用いた重付加反応により得られるポリマーの総称である。これらの原材料の組み合わせにより多種多様なバリエーションを有しており、グラビア印刷インキ用バインダーとして最も多く使用されている。インキバインダー用のポリウレタン樹脂は、末端の官能基やポリマー鎖中に極性基を有する設計により、多くの基材に良好に接着し且つ優れた皮膜物性を有する。ウレタン樹脂を使用したインキは、接着性、ラミネート強度、ボイル処理等の耐熱水性にも優れ、且つ、印刷物の残留溶剤が少ないという特徴を有している。
【0003】
近年の印刷インキの開発においては環境問題に積極的に取り組むメーカーが多くなり、環境保全性に優れた材料を用いて製品を構成する動きがある。特に、枯渇性資源でない産業資源として、化石資源を除く生物由来資源の(バイオマス)が注目されている。植物は太陽光をエネルギーとした光合成により大気中のCOを吸収して成長するので、植物由来原料を製品化した製品(バイオマスプラスチックや、合成繊維、印刷インキ等)は、植物の成長過程における光合成によるCOの吸収量と、植物の焼却によるCOの排出量が相殺され、大気中のCOの増減に影響を与えないと考えられ(カーボンニュートラル)、その開発が期待されている。植物由来原料を使用した製品の中でも、バイオマスマーク認定商品は、安全で、循環型社会の形成に貢献し、地球温暖化防止に役立つという背景から、その開発と利用が望まれている。このような視点から、バイオマス度の高い原材料を使用したポリウレタン樹脂を印刷インキ用バインダーとして使用することに関する多くの発明がなされている。
【0004】
これらのバイオマス系のポリウレタン樹脂は、従来から使用されている化石原料由来のポリウレタン樹脂と同じ化学構造をバイオマス材料に置き換えることで、従来品の代替として使用され始めている。例えば、特許文献1に記載の技術では、ポリウレタン樹脂の合成に使用されるポリエステルポリオールをバイオマス由来の成分に置き換えて製造している。しかしながら、このようなバイオマス由来の材料は種類が限られており、樹脂の構造設計の自由度が低く、新たな性能を付与することが困難なことが大きな課題となっている。例えば、特許文献2に記載の技術ではバイオマス由来のダイマー酸等を使用しており、特許文献3に記載の技術では、植物由来の1,2-プロパジオールを使用しているが、いずれも従来の化石原料由来のポリウレタン樹脂とほぼ同等の性能を有するに留まっている。
【0005】
ポリウレタン樹脂にバイオマス化が求められる一方で、近年は、リサイクルの観点から包装体の環境対応も進んでいる。例えば、アルミ箔を使用せず、透明シリカ蒸着及び酸化アルミナ蒸着フィルムを使用するケースが増えるなど基材の構成が変化しつつあり、印刷インキに要求される性能は多様化してきている。そのため、ポリウレタン樹脂だけの性能ではなく、他のポリマーを併用する必要があり、例えば、特許文献4に記載の技術では、広範囲なフィルムに、優れた接着性、耐ブロッキング性、ラミネート強度及びボイルレトルト適性を有する軟包装用ラミネートインキ組成物の提供を目的として、バインダー樹脂に、ポリウレタン樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を併用することが提案されている。
【0006】
このような状況において、従来のバイオマス系のポリウレタン樹脂とは異なる環境対応型のポリウレタン樹脂が求められている。近年、新しい環境対応型のポリウレタン樹脂として、バイオマス材料が指向するカーボンニュートラルではなく、カーボンリサイクルの考え方で、二酸化炭素を直接使用したポリウレタン樹脂の開発が報告されている。具体的には、エポキシ化合物と二酸化炭素を反応させて得られる環状カーボネート化合物と、アミン化合物の付加反応により得られるポリウレタン系の樹脂である。この二酸化炭素を原料に利用したポリウレタン樹脂は、石油由来のポリウレタン樹脂とは異なり、側鎖に水酸基を有する化学構造をもつため、従来のポリウレタン樹脂とは異なる特性を有している。例えば、優れたガス遮断機能を持つフィルムの提供を目的とする特許文献5に記載の技術では、ガスバリア性を有する層の形成に使用している。また、特許文献6に記載の技術では、特に金属や他の樹脂等に対する接着性が良好であり、二酸化炭素由来の構造部分の含有率が比較的高く維持されながらも柔軟性に優れたポリヒドロキシウレタン樹脂を提案しており、接着剤としての開発も成されている。特許文献7に記載の技術では、グラビア印刷インキなどの印刷インキに用いる印刷インキ用バインダーの提供を目的とした開発がなされている。ポリヒドロキシウレタン樹脂を印刷インキ用バインダーとして良好な状態で使用することができれば、形成したインキ皮膜層の蒸着フィルムなどへの接着性向上が期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2021-130826号公報
【文献】特許第6458089号公報
【文献】特許第6637205号公報
【文献】特許第4882206号公報
【文献】特許第5604329号公報
【文献】特許第6341888号公報
【文献】特許第5087063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献4で提案されている、バインダー樹脂とする場合に、ポリウレタン樹脂と塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体を併用する技術を、ポリヒドロキシウレタン樹脂に適用した場合は、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体との相溶解性が悪いという問題がある。また、印刷インキに使用される酢酸エチルなどの非極性溶剤への溶解性が劣り、アルコールの添加が必要になるなど、2液型のグラビア印刷インキとして使用するには、技術的に不十分であるという問題もあった。
【0009】
上記した課題に対して本発明者らは、この二酸化炭素を原材料に使用して合成されるポリウレタン系ポリマー(ポリヒドロキシウレタン樹脂)を改良し、酢酸エチルなどの非極性溶剤への溶解性を向上させ、且つ、近年の印刷インキに配合される塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体(以下、塩酢ビ樹脂と呼ぶ場合もある)などの他の樹脂との相溶性も付与することができれば、新しい環境対応のグラビア印刷インキ用のバインダーとして実用化することが期待できるとの認識をもった。
【0010】
従って、本発明の目的は、一般的なグラビア印刷インキの配合中で問題なく良好な状態で使用することができ、また、近年の基材の変化に対応できる、新しいタイプのポリウレタン系環境対応型のワニス組成物を提供することである。本発明の目的は、特に、二酸化炭素を原材料として使用することで、温暖化ガスの削減に寄与することができる近年開発された新しいポリウレタン樹脂を、グラビア印刷インキ用のワニス組成物に適用可能になるように改良して、従来技術の欠点であった酢酸エチルなどのエステル系溶剤への溶解性の向上と、印刷インキへの有用な配合成分である他の樹脂との相溶性の向上を実現することである。そして、本発明の目的は、これらの改良に加え、新しいタイプのポリウレタン樹脂の構造中に水酸基をもつことによる利点である、基材への良好な接着性やラミネート強度に優れるといった特徴が保持された有用なインキワニス用の樹脂組成物を提供することである。本発明の具体的な目的は、新しいタイプのポリウレタン樹脂の構造中に有する水酸基の量をコントロールすることで、上記に挙げた課題を解決したグラビア印刷インキの調製に好適に利用できる環境対応型の実用価値の高い技術を開発することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的は、下記の本発明によって達成される。すなわち、本発明は、下記のグラビア印刷インキ用のワニス組成物を提供する。
[1]構成要素として、酢酸エステル系有機溶剤と、ポリウレアウレタン樹脂とを含有してなり、前記ポリウレアウレタン樹脂以外の樹脂と併用されるグラビア印刷インキ用のワニス組成物であって、
該組成物中に占める前記酢酸エステル系有機溶剤の割合が60質量%以上で、且つ、前記ポリウレアウレタン樹脂が、以下のa)~e)で定義される構造を全て有することを特徴とするグラビア印刷インキ用のワニス組成物。
a)ポリマー鎖中に、下記の式(1)又は(2)で示されるいずれかの構造の水酸基を有してなり、
b)水酸基の一部が、下記の式(3)又は(4)で示されるいずれかのシリル化された構造であることで、水酸基の含有量が、ポリウレアウレタン樹脂単体での水酸基価に換算して45mgKOH/g~80mgKOH/gの範囲内に調整されており、
c)ウレタン結合の他にウレア結合を有し、該ウレア結合は、脂肪族イソシアネート由来の構造であり、その樹脂中での存在比率がモル比としてウレタン結合/ウレア結合=10/1~10/3であり、
d)ダイマー酸由来の化学構造に起因するバイオマス成分を質量比で30%以上含有してなり、
e)樹脂の重さの9質量%以上が、原材料の二酸化炭素由来の構造からなる
[式(1)~(4)中のPはいずれもポリマー鎖との結合部を示しており、式(3)又は(4)中のRは、それぞれ独立に水素又はメチル基を示す。]
【0012】
上記したグラビア印刷インキ用のワニス組成物の好ましい形態としては、下記の構成が挙げられる。
[2]前記ポリウレアウレタン樹脂が、下記の式(5)又は(6)で示される化合物のいずれか一つ以上を原材料としてなる、該原材料に由来した化学構造をポリマー鎖中に有してなる上記[1]に記載のグラビア印刷インキ用のワニス組成物。
【0013】
[3]前記ウレア結合が、イソホロンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート及び水添加キシリレンジイソシアネートからなる群のいずれか1つ以上のイソシアネート化合物に由来したものであり、且つ、25℃における溶液粘度が500mPa・s~5000mPa・sである上記[1]又は[2]に記載のグラビア印刷インキ用のワニス組成物。
[4]前記ウレア結合が、さらに、イソシアヌレート型又はビウレット型又はアダクト型の3官能以上の脂肪族ポリイソシアネート化合物に由来のウレア結合を含む上記[1]~[3]のいずれかに記載のグラビア印刷インキ用のワニス組成物。
【0014】
[5]前記酢酸エステル系有機溶剤の割合が、90質量%以上である上記[1]~[4]のいずれかに記載のグラビア印刷インキ用のワニス組成物。
[6]さらに、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体又は塩素化ポリプロピレン、又は、アセチル基、プロピオニル基及びヒドロキシ基を有するセルロース樹脂の少なくともいずれかの樹脂を含む上記[1]~[5]のいずれかに記載のグラビア印刷インキ用のワニス組成物。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、一般的なグラビア印刷インキの配合中で問題なく良好な状態で使用することができ、また、近年の基材の変化に対応できる、新しいタイプのポリウレタン樹脂を必須成分とした環境対応型のグラビア印刷インキ用のワニス組成物が提供される。本発明によれば、特に、二酸化炭素を原材料に使用することで、温暖化ガスの削減に寄与する新しいタイプのポリウレタン樹脂の構造中に有する水酸基をコントロールすることで、ワニス組成物として適用できるように改良がされて、従来技術の欠点であった酢酸エチルなどのエステル系溶剤への溶解性の向上が図られ、且つ、印刷インキへ配合される他の有用な樹脂成分との相溶性を向上させることが実現される。また、本発明によれば、新しいタイプのポリウレタン樹脂における構造中に水酸基をもつことで得られる利点である、基材への良好な接着性やラミネート強度に優れるといった特徴が保持された、環境対応型の実用価値の高いグラビア印刷インキ用のワニス組成物の提供が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、発明を実施するための好ましい形態を挙げて本発明をさらに詳しく説明する。本発明のワニス組成物における必須の構成要素は、酢酸エステル系有機溶剤と特有のポリウレアウレタン樹脂であり、該ポリウレアウレタン樹脂以外の樹脂と併用可能なグラビア印刷インキ用のワニス組成物である。本発明のワニス組成物は、グラビア印刷インキの製造に用いられている酢酸エステル系有機溶剤以外のその他の有機溶剤を含有してもよく、さらに、必要に応じて上記構成要素に適宜に添加剤を加えることもできる。例えば、その他の有機溶剤として、メチルエチルケトン(MEK)や、イソプロピルアルコール(IPA)等の低級アルコールを含有してもよい。以下、本発明のグラビア印刷インキ用のワニス組成物(以下、単にワニス組成物と呼ぶ)の構成成分等について説明する。
【0017】
〔ポリウレアウレタン樹脂〕
まず、本発明のワニス組成物を特徴づける必須成分であるポリウレアウレタン樹脂について説明する。ポリウレアウレタン樹脂は、以下に説明する「第1工程」及び「第2工程」の2段階の反応により製造される。第1工程では、分子中に少なくとも1個以上の5員環環状カーボネート基を有する化合物(以下5員環環状カーボネート化合物又は環状カーボネート化合物と呼ぶ)と、1分子中に少なくとも1個以上のアミノ基を有する化合物との重付加反応により、a)で定義されている通り、ポリマー鎖中に、式(1)又は(2)で示されるいずれかの構造の水酸基を有したヒドロキシポリウレタン樹脂を製造する。この第1工程においては、該工程で製造された水酸基を有するポリウレタン樹脂の分子の末端がアミノ基となるように、環状カーボネート化合物と、アミノ基を有する化合物のモル比を調整して重付加反応を行う。次に、第2工程として、先の第1工程で得られた樹脂にイソシアネート系の化合物を加えて、アミノ基とイソシアネート基の付加反応により、ウレア結合を導入し、高分子量化する工程を経てポリウレアウレタン樹脂を調製する。なお、本発明のワニス組成物を構成する必須成分であるポリウレアウレタン樹脂は、b)で定義されている通り、ヒドロキシポリウレタン樹脂の水酸基の一部が、本発明で規定する式(3)又は(4)で示されるいずれかのシリル化された構造であることで、水酸基の含有量が、ポリウレアウレタン樹脂単体での水酸基価に換算して45~80mgKOH/gの範囲内に調整されたものであることを要す。この点については後述する。
【0018】
第1工程で行われる反応は、以下の式で表される反応であり、5員環環状カーボネート化合物と、アミノ基を有する化合物をモノマー単位として、これらの化合物による重付加反応である。この重付加反応により、以下の式に示されるように、ウレタン結合が一つと水酸基が一つ生成し、2官能以上の化合物を使用することでポリマーとなり、ポリマー側鎖に水酸基を有するヒドロキシポリウレタン樹脂が得られる。
【0019】
上記した反応においては、先に示したように5員環環状カーボネートの開裂が2種類あるため、得られるポリウレタン樹脂中の水酸基部分の構造は、先に示した式(1)及び式(2)の2種類がランダムに存在するものとなる。
【0020】
上記のようにして得ることができるポリウレアウレタン樹脂は、二酸化炭素由来の構造を含むことを特徴の一つとしている。具体的には、第1工程での反応に使用する5員環環状カーボネート化合物を、エポキシ化合物と二酸化炭素から合成することで、得られた樹脂は、そのウレタン結合中の-O-CO-構造部が二酸化炭素由来の成分となる。その構造中に二酸化炭素が固定化されたポリウレタン樹脂は、環境問題に対応する材料として有用である。5員環環状カーボネート化合物の具体的な製造方法については、先に従来技術として挙げた特許文献5、6、7に記載されている。本発明で使用した5員環環状カーボネート化合物は、二酸化炭素を反応原料に用い、上記に挙げた文献に記載されているのと同様の反応条件、反応溶剤、触媒を使用して製造した、例えば、下記の反応式に示したような二酸化炭素由来の環状カーボネート化合物である。
【0021】
【0022】
<第1工程で使用する反応成分-5員環環状カーボネート化合物>
本発明のワニス組成物を構成するポリウレアウレタン樹脂を製造する際に使用される5員環環状カーボネート化合物は、1分子中に1個以上の5員環環状カーボネート基を有するものであれば、いずれも使用可能である。例えば、ベンゼン骨格、芳香族多環骨格、縮合多環芳香族骨格を持つ化合物や、脂肪族系や脂環式系の化合物をいずれも使用することはできる。しかし、本発明が目的の一つとしている環境対応型のインキワニスを得るためには、ビスフェノールAなどの不純物を含まない原材料を使用して5員環環状カーボネート化合物を調製することが好ましい。仮に、ビスフェノール型の原材料を使用しても、不純物又は分解物としてビスフェノールAが組成物中に混入しないのであれば使用可能である。上記混入の危険性をなくすためには、本発明のワニス組成物を特徴づけるポリウレアウレタン樹脂は、ビスフェノールA由来の化学構造を含まないようにすることが好ましい。
【0023】
確実に、ビスフェノールA由来の化学構造を含まないポリウレアウレタン樹脂とするためには、例えば、第1工程での反応に使用する5員環環状カーボネート化合物に、以下に挙げたような構造の5員環環状カーボネート化合物を使用するとよい。
【0024】
下記に挙げた式中にあるRは、独立にH又はCHを示す。
【0025】
【0026】
本発明を構成するポリウレアウレタン樹脂を製造する際に使用する5員環環状カーボネート化合物としては、例えば、下記に示したような芳香環を有する構造の化合物を用いることも可能である。しかし、本発明者らの検討によれば、下記に述べるように、本発明が目的とするグラビア印刷インキ用のワニスを構成する樹脂としては最適なものとは言い難い。すなわち、本発明者らの検討によれば、下記に示したような芳香環を有する5員環環状カーボネート化合物由来の構造を有する樹脂の場合は、固形分が30%程度であれば非極性溶剤である酢酸エチルに良好に溶解するが、固形分が20%よりも少なくなると溶解性が劣る傾向がある。具体的には、実質的なグラビア印刷インキ用のインキワニスに適用した場合に、併用する樹脂との相溶性が十分ではなかったり、酢酸エチルで希釈をしていくと分離するといったことが生じる場合があるので、あまり好ましくない。
【0027】
【0028】
<第1工程で使用する反応成分-アミン化合物>
本発明のワニス組成物を構成するポリウレアウレタン樹脂を製造する際に使用されるアミン化合物としては、従来公知のいずれのものも使用できる。好ましいものとしては、例えば、エチレンジアミン、1,3-ジアミノプロパン、1,4-ジアミノブタン、1,6-ジアミノヘキサン(ヘキサメチレンジアミン)、1,8-ジアミノオクタン、1,10-ジアミノデカン、1,12-ジアミノドデカン、後述するようなダイマー酸由来のジアミンなどの鎖状脂肪族ポリアミンや、ノルボルナンジアミン、1,3-(ビスアミノメチル)シクロヘキサンなどの環状脂肪族ポリアミン、キシリレンジアミンなどの芳香環を持つ脂肪族ポリアミンが挙げられる。本発明のワニス組成物を構成するポリウレアウレタン樹脂は、d)の要件として、「ダイマー酸由来の化学構造に起因するバイオマス成分を質量比で30%以上含有してなる」ことを必須とするため、ダイマー酸由来のジアミンを用いることが好ましい。市販されているダイマー酸由来のジアミンとしては、例えば、プリアミン1074(商品名、クローダジャパン社製)などが挙げられる。それ以外のアミンとして特に好ましくは、鎖状のジアミンである、例えば、1,6-ジアミノヘキサンや1,8-ジアミノオクタンが挙げられる。本発明者等の検討によれば、これらの化合物を用いることで、より安定して顕著な効果を得ることができる。
【0029】
<定義e)の樹脂中に占める二酸化炭素由来の構造の量>
本発明のワニス組成物を構成するポリウレアウレタン樹脂は、上記で説明した5員環環状カーボネート化合物とアミン化合物の2種類の化合物重付加反応で得られる骨格を含むため、ポリマー鎖中に実質的に二酸化炭素が組み込まれた構造となる。二酸化炭素由来構造の存在量は2種類の化合物の組み合わせで決まり、インキワニスとしての要求物性を損なわない範囲で高ければ高いほど好ましい。一方、二酸化炭素由来のウレタン結合を1モル導入すれば1モルの水酸基が発生するため、使用する有機溶剤への溶解性や他の樹脂との相溶性への影響を考慮してポリウレアウレタン樹脂を設計することが好ましい。本発明のワニス組成物では、温暖化ガスの削減に寄与する技術とする目的で、定義e)として、樹脂の重さの9質量%以上が原材料の二酸化炭素由来の構造をもつポリウレアウレタン樹脂を必須の構成要素とすることを規定した。
【0030】
<定義d)のダイマー酸由来の化学構造に起因するバイオマス成分>
本発明のワニス組成物を構成するポリウレアウレタン樹脂は、定義d)で規定したように、ダイマー酸由来の化学構造に起因するバイオマス成分を質量比で30%以上含有してなるものである。ポリウレアウレタン樹脂を定義づける要素の一つであるd)の、「ダイマー酸由来の化学構造に起因するバイオマス成分」とは、先に説明した第1工程における重付加反応で用いるアミン化合物の一つに、植物由来のダイマー酸由来のジアミンを使用することで得られる構造をもつ成分を意味する。このジアミンは、ダイマー酸を経由して製造されたものであり、一般的に入手が可能である。上記で使用するジアミンの製造方法は、オレイン酸やリノール酸等の不飽和脂肪酸を二量化して得られるジカルボン酸であるダイマー酸を得て、次に、ダイマー酸のカルボキシ基をアミノ基に変換することでジアミンとする。二量化工程において複数の構造が得られることより、ダイマー酸は混合物である。また、本発明では、ダイマー酸のカルボキシ基をアミノ基に変換した後、水添化して不飽和結合をなくしたものも使用できる。また、ダイマー酸の調製に使用する不飽和脂肪酸の炭素数は特に限定されないが、好ましい不飽和脂肪酸は、炭素数が18のオレイン酸又はリノール酸である。これらの不飽和脂肪酸は植物由来の脂肪酸として得ることができるので、ダイマー酸由来の化学構造に起因するバイオマス成分は、容易に得られる。本発明のワニス組成物は、定義d)として規定した特性をもつポリウレアウレタン樹脂を必須成分として用いるので、この点でも地球環境保護の観点から好ましい。
【0031】
本発明のワニス組成物を構成するポリウレアウレタン樹脂の構造に、d)で定義したダイマー酸由来の構造を導入するメリットとしては、バイオマス度を上げる他、樹脂を柔らかくする作用があり、ワニス組成物を構成する樹脂の溶解性の向上が挙げられる。本発明の重要な課題の一つは、水酸基を有するポリウレタン樹脂における、汎用の非極性溶剤である酢酸エステル系有機溶剤への溶解性の向上と、グラビア印刷インキに添加される他の樹脂成分との相溶性の向上である。これに対して、本発明者らの検討によれば、ダイマー酸由来の構造を有するポリウレアウレタン樹脂は、本発明のワニス組成物の構成要素とした場合に汎用の有機溶剤への溶解性向上に寄与する。さらに、ダイマー酸は、バイオマス由来の材料で製造できることから、本発明が目的の一つとしている環境対応型のグラビア印刷インキの提供において良好である。本発明で規定したインキワニス用のポリウレアウレタン樹脂の成分として好適である。
【0032】
(ダイマー酸由来成分の量)
ポリウレアウレタン樹脂へのダイマー酸由来の構造の導入量は、インキワニスとしての要求物性を損なわない範囲で高ければ高いほど好ましい。印刷インキ中での実際の使用においては他の成分が配合されるため、インキワニスとしてのバイオマス度だけでは印刷物としてのバイオマス度を定義づけることはできない。本発明のワニス組成物の必須成分であるポリウレアウレタン樹脂においては、ダイマー酸由来のバイオマス成分を質量比で30%以上含有してなるものを使用することが好ましい。より好ましくは35%以上である。
【0033】
本発明において、バイオマス度(顔料を含まない)とは、樹脂固形成分に含まれるバイオマス成分由来の固形分の割合をいい、次の式(A)で表される。本発明のワニス組成物で必須成分とするポリウレアウレタン樹脂の中間体として用いる、先述したようにして調製したヒドロキシポリウレタンは、ダイマー酸由来のジアミンを原料にしていることから、下記式(A)を用いてバイオマス度を算出すると、質量比で30%以上含有したものになる。
バイオマス度(%)=(バイオマス由来樹脂固形分/樹脂固形分)×100 (A)
【0034】
<定義c)のウレア結合の存在比率>
本発明のワニス組成物を構成する必須成分のポリウレアウレタン樹脂の特徴は、c)で定義されている通り、ウレタン結合の他にウレア結合を有し、該ウレア結合は、脂肪族イソシアネート由来の構造であり、その樹脂中での存在比率がモル比として、ウレタン結合/ウレア結合=10/1~10/3であることを要す。先に説明したように、ポリウレアウレタン樹脂は、第1工程及び第2工程を経て得られる。第1工程においては、ポリウレタンのオリゴマーを合成し、分子の末端がアミノ基となるように5員環環状カーボネート化合物とアミノ基を有する化合物のモル比を調整して製造する。残存するアミノ基の量は、第2工程における伸長反応によりウレア結合に変換される。本発明者らの検討によれば、樹脂の構造中に存在するウレア結合は、凝集力が強く、樹脂の強度を向上させ、印刷塗膜の強度や表面タックの低減に寄与する。一方で、凝集力の強さにより、有機溶剤への溶解性を低下させる。この点に対して、本発明者らは鋭意検討した結果、第1工程で得られるウレタン結合との比率を調整することが重要であることを見出した。具体的には、最終的なポリウレアウレタン樹脂中での存在比率がモル比で、ウレタン結合/ウレア結合=10/1~10/3の範囲となるように、さらには10/2~10/3の範囲となるように調整されたポリウレアウレタン樹脂を用いることが好ましい。上記範囲となるようにウレタン結合とウレア結合の存在比率が調整されたポリウレアウレタン樹脂を用いることで、ワニス組成物としての特性と形成した印刷塗膜(固着皮膜)の特性をバランスすることが実現可能になる。
【0035】
<ポリウレアウレタン樹脂を得る際の反応及び希釈に使用する有機溶剤>
先に述べた第1工程及び第2工程の反応は、いずれも反応溶剤を使用して行われる。樹脂の設計に応じて溶解が可能な各種溶剤を適宜に使用して合成することが可能であり、例えば、下記に挙げるような有機溶剤を使用することができる。具体的には、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミドなどの、炭化水素系溶剤や、エステル系溶剤や、エーテル系溶剤などや、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール系溶剤が挙げられる。これらの溶剤を反応溶剤に使用して合成した後に溶剤を留去し、その後に本発明のワニス組成物で必須としている酢酸エステル系有機溶剤に再分散して希釈する手法も取り得る。しかし、製造コストの観点からは、合成した樹脂溶液をそのまま使用できることが好ましい。したがって、本発明のワニス組成物の構成要素でもある、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピルなどの酢酸エステル系有機溶剤を、樹脂の製造の際の反応溶剤に適用することが好ましい。アルコール系溶剤は、第1工程の一部である水酸基のシリル化工程を考慮し、反応溶剤には使用しない方が好ましい。なお、シリル化工程については後述する。
【0036】
<定義a)、定義b)及び水酸基価について>
本発明のワニス組成物を構成する必須成分であるポリウレアウレタン樹脂は、定義a)にある通り、前記した式(1)又は(2)で示されるいずれかの構造の水酸基を有している。一方、水酸基は、本発明のワニス組成物の構成要素である酢酸エステル系有機溶剤(非極性溶剤)への溶解性向上への阻害要因となることから、その量を制御することが重要になる。先に説明した第1工程における重付加反応において生成する水酸基の量は、モノマーの分子量に依存する。しかし、反応に使用するモノマー選択の調整のみで、生成する水酸基の量を大きく制御することはできない。特に、本発明のワニス組成物では、ポリウレアウレタン樹脂を酢酸エステル系溶剤に溶解させることを必須条件としているので、重要な問題になる。かかる課題に対して、本発明者らは、第1工程で生成した水酸基の一部をシリル化してキャップすることで、樹脂中における水酸基の量を適宜にコントロールした状態に低下させることができ、その結果、本発明のワニス組成物を使用してなるグラビア印刷インキが、インキとしての性能をバランスさせる範囲に調整された良好なものになることを見出して本発明に至った。
【0037】
具体的には、本発明のワニス組成物を構成するポリウレアウレタン樹脂は、定義a)にある通り、ポリマー鎖中に、下記の式(1)又は(2)で示されるいずれかの構造の水酸基を有してなり、さらに、定義b)にある通り、水酸基の一部が、下記の式(3)又は(4)で示されるいずれかのシリル化された構造であることで、水酸基の含有量が、ポリウレアウレタン樹脂単体での水酸基価に換算して45mgKOH/g~80mgKOH/gの範囲内に調整されているものであることを要す。
【0038】
[式(1)~(4)中のPはいずれもポリマー鎖との結合部を示しており、式(3)又は(4)中のRは、それぞれ独立に水素又はメチル基を示す。]
【0039】
上記したように、本発明のワニス組成物を構成するポリウレアウレタン樹脂は、先に説明した第1工程で生成されたポリウレタン樹脂中の水酸基の一部がシリル化されてキャップされて、下記に説明するように水酸基価が特定の範囲に調整された構造のものであることを要す。具体的には、第2工程後における樹脂の水酸基の含有量が、ポリウレアウレタン樹脂単体での水酸基価に換算して45mgKOH/g~80mgKOH/gの範囲内に調整されたものであることを要す。本発明では、必須成分であるポリウレアウレタン樹脂をこのような構成するため、先述した第1工程において水酸基のシリル化工程を実施する。水酸基のシリル化については、ポリウレタン樹脂の合成中でも合成後でも可能であるので、特にその製造方法は制限されるものではない。例えば、特許第7066664号に記載の条件で実施することができる。本発明で目的とする、ポリヒドロキシウレタン樹脂における、非極性溶剤である酢酸エステル系有機溶剤に対する溶解性向上を達成するためには、シリル化量が高過ぎると溶解性が悪くなり、低すぎても溶解性の改善が十分に行われない。本発明者らの検討によれば、シリル化の反応工程で行う「水酸基のシリル化率(OH変性率)」(以下、シリル化率とも呼ぶ)は、ポリヒドロキシウレタン樹脂の水酸基のシリル化率を、例えば、0.3~0.7(30~70%)程度にすることが適当である。本発明では、このようなシリル化率となるようにするため、b)で定義したように、シリル化後の樹脂の水酸基価が45mgKOH/g以上、80mgKOH/g以下の範囲内になるようにすることを必須の要件とした。樹脂の骨格によっても異なるが、50mgKOH/g~70mgKOH/gとすることがより好ましい。また、本発明者らの検討によれば、本発明のワニス組成物を構成するポリウレアウレタン樹脂の水酸基の量を、b)で定義した水酸基価の範囲内としたことにより、ポリヒドロキシウレタン樹脂が本来有する特性である、基材との接着性や優れたラミネート強度を保持させることも可能な、グラビア印刷インキの実現が可能になる。
【0040】
上記したように、本発明では、第1工程で生成されたポリウレタン樹脂中の水酸基の一部をシリル化することで、本発明のワニス組成物を構成するポリウレアウレタン樹脂の水酸基の量を、b)で定義した範囲内になるように調整している。第1工程後に行う次の第2工程において、アミノ基末端のポリヒドロキシウレタン樹脂に対して、イソシアネートにより伸長を行う。この第2工程では樹脂中の水酸基の量は減少しない。すなわち、第2工程において、アミノ基と水酸基はいずれもイソシアネート化合物と反応する官能基であるが、水酸基よりもアミノ基の方が求核性能が高いので、アミノ基が優先的に反応する。このため、イソシアネート化合物を反応させても水酸基は残存するため、本発明のワニス組成物によれば、ポリヒドロキシウレタン樹脂の特性である、基材との接着性や優れたラミネート強度を保持させることが可能となっている。
【0041】
(第2工程で使用するイソシアネート)
本発明のワニス組成物を構成する必須成分であるポリウレアウレタン樹脂のウレア結合の構造は、下記に挙げるように、従来公知のジイソシアネートなどのポリイソシアネート由来の構造である。第2工程で用いるポリイソシアネートとしては、例えば、2官能の、芳香族ジイソシアネートや、脂肪族ジイソシアネート(本発明では、脂環式のジイソシアネートも含む意味で使用している)、さらには、末端がイソシアネートとなるように反応させて得られるポリウレタンプレポリマー由来の構造などが挙げられる。溶解性の観点からは脂肪族ジイソシアネート由来の構造が好ましい。脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、メチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート及び1,10-デカメチレンジイソシアネートなどや、例えば、1,4-シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添MDI、水添XDIなどの脂環式のジイソシアネートに由来した構造が挙げられる。
【0042】
本発明を構成するポリウレアウレタン樹脂のウレア結合としては、ウレア結合の導入形態として、3つ以上のイソシアネート基を有する多官能化合物を用いてなる、多官能化合物由来の構造のものも好ましい形態である。本発明のワニス組成物を適用するポリウレタンウレア樹脂は、グラビア印刷インキとして使用するものであるため、25℃における粘度が、500mPa・s~5000mPa・sであることが好ましい。これに対して、本発明のワニス組成物は、ポリウレアウレタン樹脂を、必須成分である酢酸エステル系有機溶剤に溶解するように設計する必要があり、その凝集力を低く設計しているため、溶液の粘度が低くなり易い。このため、本発明のワニス組成物では、好ましい形態として、3官能以上の脂肪族ポリイソシアネート基(本発明では、脂環式のポリイソシアネートも含む意味で使用している)を有するポリイソシアネート化合物を併用して、1分子あたりの分子量が高いポリマー鎖をポリマー溶液中に存在させるようにすることで、粘度を適切な範囲に調整することが挙げられる。本発明者らの検討によれば、例えば、上記構成とする場合の2官能と3官能のイソシアネート化合物の配合比率は、2官能イソシアネート化合物:3官能イソシアネート化合物=100:0~65:35モル%とすることが好ましく、さらには、2官能イソシアネート化合物:3官能イソシアネート化合物=80:20~70:30モル%程度とすることがより好ましい。
【0043】
上記の構成とする場合に必要になる3官能以上のイソシアネート化合物としては、例えば、イソシアヌレート型や、ビウレット型や、アダクト型のイソシアネート化合物などが挙げられる。
【0044】
〔ワニス組成物の粘度〕
上記で説明したように、第2工程で得られたポリウレタンウレア樹脂を、グラビア印刷インキ用のワニス組成物として使用するためには、25℃における粘度が500mPa・s~5000mPa・s程度であることが好ましい。グラビア印刷インキは、粘度を調整することで、適切な膜厚に塗布し、設計された色彩や隠ぺい力を発揮するため、インキワニスとして用いる樹脂溶液の粘度は、インキの粘度に直接影響を与える重要なファクターとなる。粘度が上記範囲よりも低い場合は、インキとしての粘度が実用領域を下回り、インキの設計が困難となる。一方、粘度が上記範囲よりも高すぎる場合は、インキ中での樹脂濃度を下げる必要があり、顔料との配合バランスが崩れ、印刷面の塗膜強度や色調に影響を与えることとなる。本発明者らの検討によれば、25℃における粘度が1000mPa・s以上であることがより好ましい。
【0045】
〔任意成分である添加剤〕
本発明のグラビア印刷インキ用のワニス組成物には、先に挙げた必須の成分のほかに、必要に応じて、皮膜補強機能や皮膜可塑化機能や皮膜形成補助機能等の付与を目的として、下記に挙げるような各種の添加剤をさらに含有させてもよい。添加剤としては、例えば、顔料誘導体、分散剤、キレート剤、ワックス、脂肪酸アミド、可塑剤、湿潤剤、レベリング剤、消泡剤、帯電防止剤、粘度調整剤、トラッピング剤、ブロッキング防止剤、架橋剤及びシランカップリング剤等を挙げることができる。
【実施例
【0046】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0047】
[製造例1](環状カーボネート化合物Iの作製)
撹拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器に、エポキシ当量138g/eqのネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル(商品名:「デナコールEX-211」、ナガセケムテックス社製)100部、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)100部、及び、ヨウ化ナトリウム(和光純薬社製)20部を入れて均一に溶解した。撹拌下、炭酸ガス(COガス)を0.5L/minの速度で導入しながら、100℃で、10時間反応した。反応終了後、酢酸エチル400部及び水800部を加え1時間撹拌した。その後、酢酸エチル相を回収し、エバポレーターにて溶剤除去を行って粘稠液体状の化合物を得た。
【0048】
赤外分光光度計(商品名:「FT-720」、堀場製作所社製、以下、FT-IRと呼ぶ)を使用して得られた粉末をIR分析したところ、910cm-1付近の、原材料中のエポキシ基由来の吸収ピークが消失し、新たに、1800cm-1付近にカーボネート基(カルボニル基)由来の吸収ピークが生じていることが分かった。得られた化合物(反応物)が、エポキシ基と二酸化炭素との反応により形成された環状構造のカーボネート基を有する、下記式で表される5員環環状カーボネート化合物(化合物I)と確認された。上記で得た化合物Iの二酸化炭素含有量は、計算値で24.1%である。
【0049】
【0050】
[製造例2](環状カーボネート化合物IIの作製)
撹拌機、温度計、ガス導入管及び還流冷却器を備えた反応容器に、エポキシ当量120g/eqの1,6ヘキサンジオールジグリシジルエーテル(商品名:「エポゴーセーHD(D)」、四日市合成社製)100部、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)100部、及び、ヨウ化ナトリウム(和光純薬社製)20部を入れて均一に溶解した。撹拌下、炭酸ガス(COガス)を0.5L/minの速度で導入しながら、100℃で10時間反応した。反応終了後、酢酸エチル400部及び水800部を加え1時間撹拌した。その後、酢酸エチル相を回収し、エバポレーターにて溶剤除去を行い、粘稠液体状の化合物を得た。
【0051】
FT-IRを使用して得られた粉末をIR分析したところ、910cm-1付近の原材料のエポキシ基由来の吸収ピークが消失し、新たに1800cm-1付近にカーボネート基(カルボニル基)由来の吸収ピークが生じていることが分かった。このため、得られた化合物が、エポキシ基と二酸化炭素との反応により形成された環状構造のカーボネート基を有する、下記式で表される5員環環状カーボネート化合物(化合物II)と確認された。上記で得た化合物IIの二酸化炭素含有量は、26.8%である(計算値)。
【0052】
【0053】
[実施例1](本発明のワニス組成物の作製)
撹拌装置及び大気開放口のある還流器及び窒素の導入管を備えた反応容器内に、製造例1で得た5員環環状カーボネート化合物Iを100部と、ヘキサメチレンジアミン(東京化成工業社製)を20.7部、プリアミン1074(商品名、クローダジャパン社製)を96.3部、さらに反応溶剤として酢酸エチル63.8部を加えて、約80℃のリフラックス条件下で5時間の反応を行った。反応後の樹脂溶液について、FT-IRにて分析したところ、1800cm-1付近に観察されていた5員環環状カーボネート化合物Iのカルボニル基由来の吸収が完全に消失しており、新たに1760cm-1付近にウレタン結合のカルボニル基由来の吸収が確認された。このものは末端がNHのヒドロキシポリウレタンのプレポリマーである。
【0054】
次に、反応液を冷却せずに、ヘキサメチルジシラザン(製品名:SZ-31、信越化学工業社製)22.2部を30分かけて滴下して、ヒドロキシポリウレタンのプレポリマーの水酸基の一部をシリル化した。滴下30分経過後にFT-IRを測定して、N-Si由来の933cm-1付近のピークが消失していることを確認して反応を終了した。反応終了後の樹脂を含む溶液に、希釈溶剤として酢酸エチル319.0部を加え、室温まで冷却した。次いで、冷却後の樹脂含有溶液を撹拌しながら、イソホロンジイソシアネート(エボニックジャパン社製)18.3部をゆっくりと滴下して、末端のNHとイソシアネート基を反応させてポリウレアウレタン樹脂を含む溶液を得た。滴下後にFT-IRを測定し、イソシアネート基由来の2260cm-1付近のピークが消失していることを確認して反応を終了した。
【0055】
得られたポリウレアウレタン樹脂の分子量を、DMFを移動相に使用してGPC測定を行ったところ、重量平均分子量は44000(ポリスチレン換算値として)であった。GPC測定は、装置GPC-8820(商品名、東ソー社製)で、4本のカラム(商品名:「Super AW2500、AW3000、AW4000、AW5000」、東ソー社製)を用い行った。また、JIS-K 1557-1に従って測定したポリウレアウレタン樹脂の水酸基価は、58mgKOH/gであった(固形分換算値、以下も同様)。上記のポリウレアウレタン樹脂は、構成するウレタン結合とウレア結合のモル比が10/3となるように設計されている。表1に実施例のワニス組成物を特徴づけるポリウレアウレタン樹脂の概略と、ワニス組成物中における酢酸エステル系有機溶剤である酢酸エチルの割合をまとめて示した。
【0056】
[実施例2]
製造例1で得た環状カーボネート化合物Iを100部と、ヘキサメチレンジアミン(東京化成工業社製)を19.2部、プリアミン1074(クローダジャパン社製)を88.9部、さらに反応溶剤として酢酸エチル60.0部を用いた。それ以外は実施例1と同様の反応をさせて、末端がNHのヒドロキシウレタンのプレポリマーを得た。
【0057】
次に、実施例1で使用したと同様のヘキサメチルジシラザンを22.2部用いて、実施例1と同様の操作で滴下して反応させて、ヒドロキシポリウレタンのプレポリマーの水酸基の一部をシリル化した。反応終了後の樹脂を含む溶液に、希釈溶剤として酢酸エチル300.1部を加え、室温まで冷却した。次いで、冷却後の溶液を撹拌しながら、実施例1で使用したと同様のイソホロンジイソシアネートを、12.2部ゆっくり滴下して、末端のNHとイソシアネート基を反応させてポリウレアウレタン樹脂を含む溶液を得た。
【0058】
FT-IRを測定し、N-Si由来の933cm-1付近のピークが消失していることを確認してシリル化の反応を終了した。また、FT-IRを測定し、イソホロンジイソシアネートの滴下後にイソシアネート基由来の2260cm-1付近のピークが消失していることを確認して、その反応を終了した。上記で得られたポリウレアウレタン樹脂の分子量及び水酸基価について、実施例1と同様の方法で測定した。その結果、重量平均分子量は55000であり、水酸基価は65mgKOH/gであった。上記のポリウレアウレタン樹脂を構成するウレタン結合とウレア結合のモル比は、10/2である。
【0059】
[実施例3]
製造例1で得た5員環環状カーボネート化合物Iを100部と、実施例1で使用したと同様の、ヘキサメチレンジアミンを17.6部と、プリアミン1074を81.5部、さらに、反応溶剤として酢酸エチル56.2部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、末端NHのポリヒドロキシウレタンのプレポリマーを得た。次に、実施例1で使用したと同様のヘキサメチルジシラザンを22.2部用い、実施例1で行ったと同様な操作で滴下して水酸基の一部をシリル化反応させた。そして、反応終了後の樹脂溶液に、酢酸エチル281.2部を加えて希釈して、室温まで冷却した。次いで、冷却後の溶液を撹拌しながら、イソホロンジイソシアネート6.1部をゆっくり滴下した。
【0060】
滴下終了後にFT-IRを測定し、N-Si由来の933cm-1付近のピークが消失していることを確認し、また、イソシアネート基由来の2260cm-1付近のピークが消失していることを確認して、それぞれの反応を終了した。得られたポリウレアウレタン樹脂の分子量及び水酸基価を実施例1と同様の方法で測定した。その結果、重量平均分子量が59000であり、また、水酸基価は69mgKOH/gであった。上記のポリウレアウレタン樹脂を構成するウレタン結合とウレア結合のモル比は、10/1である。
【0061】
[実施例4]
製造例1で得た5員環環状カーボネート化合物Iを100部と、実施例1で使用したと同様の、ヘキサメチレンジアミンを19.2部と、プリアミン1074を88.9部、さらに、反応溶剤として酢酸エチル59.0部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、末端NHのポリヒドロキシウレタンのプレポリマーを得た。次に、実施例1で使用したと同様のヘキサメチルジシラザンを17.7部用い、実施例1で行ったと同様の操作で滴下して水酸基の一部をシリル化反応させた。そして、反応終了後の樹脂溶液に、酢酸エチル295.2部を加えて希釈して、室温まで冷却した。次いで、冷却後の溶液を撹拌しながら、イソホロンジイソシアネート12.2部をゆっくり滴下した。
【0062】
滴下終了後にFT-IRを測定し、N-Si由来の933cm-1付近のピークが消失していること、また、イソシアネート基由来の2260cm-1付近のピークが消失していることを確認して、それぞれ反応を終了した。得られたポリウレアウレタン樹脂の分子量及び水酸基価を実施例1と同様の方法で測定した。その結果、重量平均分子量が53000であり、また、水酸基価は80mgKOH/gであった。上記のポリウレアウレタン樹脂を構成するウレタン結合とウレア結合のモル比は、10/2である。
【0063】
[実施例5]
製造例1で得た5員環環状カーボネート化合物Iを100部と、実施例1で使用したと同様の、ヘキサメチレンジアミンを19.2部と、プリアミン1074を88.9部、さらに、反応溶剤として酢酸エチル61.0部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、末端NHのポリヒドロキシウレタンのプレポリマーを得た。次に、実施例1で使用したと同様のヘキサメチルジシラザンを26.6部用い、実施例1で行ったと同様の操作で滴下して水酸基の一部をシリル化反応させた。そして、反応終了後の樹脂溶液に、酢酸エチル305.1部を加えて希釈して、室温まで冷却した。次いで、冷却後の溶液を撹拌しながら、イソホロンジイソシアネート12.2部をゆっくり滴下した。
【0064】
滴下終了後にFT-IRを測定し、N-Si由来の933cm-1付近のピークが消失していることを確認し、また、イソシアネート基由来の2260cm-1付近のピークが消失していることを確認して、それぞれ反応を終了した。得られたポリウレアウレタン樹脂の分子量及び水酸基価を実施例1と同様の方法で測定した。その結果、重量平均分子量が51000であり、また、水酸基価は53mgKOH/gであった。上記のポリウレアウレタン樹脂を構成するウレタン結合とウレア結合のモル比は、10/2である。
【0065】
[実施例6]
製造例1で得た5員環環状カーボネート化合物Iを100部と、実施例1で使用したと同様の、ヘキサメチレンジアミンを19.2部と、プリアミン1074を88.9部、さらに、反応溶剤として酢酸エチル62.2部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、末端NHのポリヒドロキシウレタンのプレポリマーを得た。次に、実施例1で使用したと同様のヘキサメチルジシラザンを22.2部用い、実施例1で行ったと同様の操作で滴下して水酸基の一部をシリル化反応させた。そして、反応終了後の樹脂溶液に、酢酸エチル310.8部を加えて希釈して、室温まで冷却した。次いで、冷却後の溶液を撹拌しながら、HDIアダクト型のイソシアネート(製品名:セイカボンドC-75N、大日精化工業社製)を16.3部と、イソホロンジイソシアネート8.5部をゆっくり滴下した。すなわち、2官能イソシアネート化合物:3官能イソシアネート化合物=70:30モル%程度である。
【0066】
滴下終了後にFT-IRを測定し、N-Si由来の933cm-1付近のピークが消失していることを確認し、また、イソシアネート基由来の2260cm-1付近のピークが消失していることを確認して、それぞれ反応を終了した。得られたポリウレアウレタン樹脂の分子量及び水酸基価を実施例1と同様の方法で測定した。その結果、重量平均分子量が54000であり、また、水酸基価は61mgKOH/gであった。上記のポリウレアウレタン樹脂を構成するウレタン結合とウレア結合のモル比は、10/2である。
【0067】
[実施例7]
製造例1で得た5員環環状カーボネート化合物Iを100部と、実施例1で使用したと同様の、ヘキサメチレンジアミンを16.0部と、プリアミン1074を103.7部、さらに、反応溶剤として酢酸エチル62.9部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、末端NHのポリヒドロキシウレタンのプレポリマーを得た。次に、実施例1で使用したと同様のヘキサメチルジシラザンを22.2部用い、実施例1で行ったと同様の操作で滴下して水酸基の一部をシリル化反応させた。そして、反応終了後の樹脂溶液に、酢酸エチル314.7部を加えて希釈して、室温まで冷却した。次いで、冷却後の溶液を撹拌しながら、イソホロンジイソシアネート12.2部をゆっくり滴下した。
【0068】
滴下終了後にFT-IRを測定し、N-Si由来の933cm-1付近のピークが消失していることを確認し、また、イソシアネート基由来の2260cm-1付近のピークが消失していることを確認して、それぞれ反応を終了した。得られたポリウレアウレタン樹脂の分子量及び水酸基価を実施例1と同様の方法で測定した。その結果、重量平均分子量が55000であり、また、水酸基価は60mgKOH/gであった。上記のポリウレアウレタン樹脂を構成するウレタン結合とウレア結合のモル比は、10/2である。
【0069】
[実施例8]
製造例1で得た5員環環状カーボネート化合物Iを70.0部、製造例2で得た5員環環状カーボネート化合物Iを27.0部、実施例1で使用したと同様のヘキサメチレンジアミンを19.2部、プリアミン1074を88.9部、さらに、反応溶剤として酢酸エチル59.3部を用いたこと以外は実施例1と同様にして、末端NHのポリヒドロキシウレタンのプレポリマーを得た。次に、実施例1で使用したと同様のヘキサメチルジシラザンを22.2部用い、実施例1で行ったと同様の操作で滴下して水酸基の一部をシリル化反応させた。そして、反応終了後の樹脂溶液に、酢酸エチル296.4部を加えて希釈して、室温まで冷却した。次いで、冷却後の溶液を撹拌しながら、イソホロンジイソシアネート12.2部をゆっくり滴下した。
【0070】
滴下終了後にFT-IRを測定し、N-Si由来の933cm-1付近のピークが消失していることを確認し、また、イソシアネート基由来の2260cm-1付近のピークが消失していることを確認して、それぞれ反応を終了した。得られたポリウレアウレタン樹脂の分子量及び水酸基価を実施例1と同様の方法で測定した。その結果、重量平均分子量が57000であり、また、水酸基価は65mgKOH/gであった。上記のポリウレアウレタン樹脂を構成するウレタン結合とウレア結合のモル比は、10/2である。
【0071】
【0072】
[比較例1]
製造例1で得た5員環環状カーボネート化合物Iを100部と、ヘキサメチレンジアミン(東京化成工業社製)25.6部、プリアミン1074(クローダジャパン社製)を118.7部、さらに反応溶剤として酢酸エチル77.3部を用いた。それ以外は実施例1と同様に反応させて末端NHのヒドロキシウレタンのプレポリマーを得た。次に、実施例1で使用したと同様のヘキサメチルジシラザン25.6部を実施例1と同様の操作で滴下して反応させて、ヒドロキシポリウレタンのプレポリマーの水酸基の一部をシリル化した。反応終了後の樹脂を含む溶液に、希釈溶剤として酢酸エチル386.7部を加えて希釈して、室温まで冷却した。次いで、冷却後の溶液を撹拌しながら、実施例1で使用したと同様のイソホロンジイソシアネートを、28.0部をゆっくり滴下して、末端のNHとイソシアネート基を反応させてポリウレアウレタン樹脂を含む溶液を得た。
【0073】
滴下終了後にFT-IRを測定し、N-Si由来の933cm-1付近のピークが消失していることを確認し、また、イソシアネート基由来の2260cm-1付近のピークが消失していることを確認して、それぞれ反応を終了した。得られたポリウレアウレタン樹脂の分子量及び水酸基価について、実施例1と同様の方法で測定した。その結果、重量平均分子量35000であり、また、水酸基価は57mgKOH/gであった。上記のポリウレアウレタン樹脂を構成するウレタン結合とウレア結合のモル比は、10/4であり、本発明で規定するよりも構造中のウレア結合のモル比が高い。
【0074】
[比較例2]
製造例1で得た5員環環状カーボネート化合物Iを100部と、実施例1で使用したと同様の、ヘキサメチレンジアミンを19.2部、プリアミン1074を88.9部、さらに反応溶剤として酢酸エチルを、58.0部を用いた。それ以外は実施例1と同様に反応させて、末端NHのヒドロキシウレタンのプレポリマーを得た。次に、実施例1で使用したと同様のヘキサメチルジシラザンを13.3部、実施例1と同様の操作で滴下して反応させて、ヒドロキシポリウレタンのプレポリマーの水酸基の一部をシリル化した。反応終了後の樹脂を含む溶液に、酢酸エチルを290.2部加えて希釈して、室温まで冷却した。次いで、冷却後の溶液を撹拌しながら、イソホロンジイソシアネート12.2部を、ゆっくり滴下して、末端のNHとイソシアネート基を反応させてポリウレアウレタン樹脂を含む溶液を得た。
【0075】
滴下終了後、FT-IRを測定し、N-Si由来の933cm-1付近のピークが消失していることを確認し、また、イソシアネート基由来の2260cm-1付近のピークが消失していることを確認して、それぞれ反応を終了した。得られたポリウレタンの分子量及び水酸基価は実施例1と同様の方法で測定した。その結果、重量平均分子量が56000であった。また、水酸基価は115mgKOH/gであり、本発明で規定するよりも水酸基価の値が高い。上記のポリウレアウレタン樹脂を構成するウレタン結合とウレア結合のモル比は、10/2である。
【0076】
[比較例3]
製造例1で得た5員環環状カーボネート化合物Iを100部と、実施例1で使用したと同様の、ヘキサメチレンジアミンを19.2部、プリアミン1074を88.9部、さらに反応溶剤として酢酸エチルを、62.0部を用いた。それ以外は実施例1と同様に反応させて、末端NHのヒドロキシウレタンのプレポリマーを得た。次に、実施例1で使用したと同様のヘキサメチルジシラザンを31.0部、実施例1と同様の操作で滴下して反応させて、ヒドロキシポリウレタンのプレポリマーの水酸基の一部をシリル化した。反応終了後の樹脂を含む溶液に、酢酸エチルを310.0部加えて希釈して、室温まで冷却した。次いで、冷却後の溶液を撹拌しながら、イソホロンジイソシアネート12.2部を、ゆっくり滴下して、末端のNHとイソシアネート基を反応させてポリウレアウレタン樹脂を含む溶液を得た。
【0077】
滴下終了後、FT-IRを測定し、N-Si由来の933cm-1付近のピークが消失していることを確認し、また、イソシアネート基由来の2260cm-1付近のピークが消失していることを確認して、それぞれ反応を終了した。得られたポリウレタンの分子量及び水酸基価は実施例1と同様の方法で測定した。その結果、重量平均分子量は51000であった。また、水酸基価は41mgKOH/gであり、本発明で規定するよりも水酸基価の値が低い。上記のポリウレアウレタン樹脂を構成するウレタン結合とウレア結合のモル比は、10/2である。
【0078】
[比較例4]
製造例1で得た5員環環状カーボネート化合物Iを100部と、実施例1で使用したと同様の、ヘキサメチレンジアミンを16.0部、プリアミン1074を74.1部、さらに、反応溶剤として酢酸エチルを52.5部用いたこと以外は実施例1と同様に反応させて、末端NHのヒドロキシウレタンのプレポリマーを得た。次に、実施例1で使用したと同様のヘキサメチルジシラザン22.2部を、実施例1と同様の操作で滴下して反応させて、ヒドロキシポリウレタンのプレポリマーの水酸基の一部をシリル化した。
【0079】
FT-IRを測定し、N-Si由来の933cm-1付近のピークが消失していることを確認した反応終了後の樹脂を含む溶液に、酢酸エチルを262.3部加えて希釈して、室温まで冷却して反応を終了とした。得られたポリウレタンの分子量及び水酸基価は実施例1と同様の方法で測定した。その結果、重量平均分子量は70000であり、また、水酸基価は73mgKOH/gであった。本例を構成する樹脂は、ウレア結合を有さない構造の樹脂である。
【0080】
表2に比較例のポリウレタン樹脂を含む組成物の概略をまとめて示した。
【0081】
<評価>
上記で得た本発明の実施例1~8のワニス組成物と、ワニス組成物を使用して調製した印刷インキについて、下記の方法及び基準で評価を行った。評価結果をまとめて表3に示した。また、比較例1~4の樹脂含有組成物についても実施例で行ったのと同様にして評価を行い、表4に結果をまとめて示した。
【0082】
(1)粘度についての評価:
実施例1~8の樹脂溶液(固形分40%)、比較例1~4の樹脂溶液(固形分40%)をそれぞれ10部に、酢酸エチル3部を加え、室温で1時間撹拌混合した。その後、1晩25℃の恒温槽にて保管して、固形分30%の粘度測定用の試料をそれぞれに用意した。用意したそれぞれの試料について、B型粘度計(東京計器社製)を用いて、3番ローター、60rpmの条件にて粘度を測定した。得られた測定値を用いて下記の基準で、4段階の評価をした。本発明が目的とするグラビア印刷インキ用のワニス組成物としては、上記した測定で粘度が1000mPa・s以上であることが特に好ましい。
【0083】
(評価基準)
◎: 1000mPa・s以上
○: 1000未満~500mPa・s以上
△: 500mPa・s未満
×: 混ざらない
【0084】
(2)酢酸エチルに対する希釈性についての評価:
実施例1~8の樹脂溶液(固形分40%)、比較例1~4の樹脂溶液(固形分40%)をそれぞれ10部に、希釈溶剤として酢酸エチル10部を加えて1時間撹拌混合して、固形分20%の溶液を得、希釈性についての試験用試料-1を用意した。同様にして、実施例1~8の樹脂溶液(固形分40%)、比較例1~4の樹脂溶液(固形分40%)をそれぞれ10部に、希釈溶剤として酢酸エチル30部を加えて1時間撹拌混合して、固形分10%の溶液を得、希釈性についての試験用試料-2を用意した。用意した試験用試料-1と試験用試料-2を静置して、1晩放置した。そして、放置後の、試験用試料-1と試験用試料-2を目視観察して、それぞれの試験用試料の状態を確認して、希釈性について下記の基準で3段階の評価をした。インキワニスとしては、均一経時で分離が生じないことが要望される。
【0085】
(評価基準)
〇:均一経時(一晩放置後)における分離がない
△:混合するが経時で沈降
×:混ざらない(静置して1分後に沈降)
【0086】
(3-1)他の樹脂との相溶性の評価-1:
上記(2)の評価項目において結果が「〇」であった、実施例1~8の樹脂溶液(固形分40%)、比較例3、4の樹脂溶液(固形分40%)をそれぞれ10部に、併用する他の樹脂として、市販されている塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合樹脂ワニス(商品名:ソルバイン、日信化学工業社製)を1部と、希釈溶剤として酢酸エチルを12部加え、室温で1時間撹拌混合して試験用試料をそれぞれ調製した。調製時における試験溶液と、調製後に静置して1晩放置した試験用試料について、他の樹脂に対する溶解性について目視観察して、それぞれの試験溶液の状態を確認した。そして、下記の基準で3段階の評価をして、結果を表3及び表4中にまとめて示した。
【0087】
(評価基準)
〇:均一経時(一晩放置後)において分離がない
△:混合するが経時で沈降
×:混ざらない(静置して1分後に沈降)
【0088】
(3-2)他の樹脂との相溶性の評価-2:
評価-1で用いたソルバイン1部に替えて、下記に挙げる成分をそれぞれに1部入れたこと以外は、先に調製した試験用試料と同様にして、併用した他の樹脂成分との相溶性を確認した。すなわち、基本構成として、実施例1~8の樹脂溶液(固形分40%)、比較例1~4の樹脂溶液(固形分40%)をそれぞれ10部と、下記に列挙した(あ)~(う)の併用する対象の成分を1部、希釈溶剤として酢酸エチルを12部加え、室温で1時間撹拌して各試験用試料を調製した。調製の際における試験用試料溶液の状態と、調製した試験用試料を1晩放置した後の溶液の状態を目視で観察して、併用する成分との相溶性について(1)で行ったと同様の基準で3段階の評価をした。そして、結果を表3及び表4中にまとめて示した。
【0089】
(併用させる他の樹脂成分)
(あ)塩素化ポリプロピレン(塩素化PP)
(い)構造中に、アセチル基を13.5%、プロピオニル基を38%、及び、ヒドロキシ基を1.3%有するセルロース樹脂A(固形分20%)
(う)構造中に、アセチル基2.5%、プロピオニル基46%、及び、ヒドロキシ基1.8%を有するセルロース樹脂B(固形分20%)
【0090】
(4)塗膜表面タックについての評価:
上記(3-1)及び(3-2)の評価項目において結果が「〇」であった、実施例1~8の樹脂溶液(固形分40%)、比較例4の樹脂溶液(固形分40%)をそれぞれ10部に、希釈溶剤として酢酸エチル30部、先の(2)の相溶性の評価-2で用いた(う)セルロース樹脂Bを2部加えて、1時間撹拌混合して樹脂溶液をそれぞれに調製した。得られた各樹脂溶液を用いて、コロナ放電処理済のPETフィルム(商品名:「ルミラーT60」、東レ社製、厚さ100μm)に、上記で得られた各試験用試料を、バーコーターを用いて樹脂の厚みが5g/mとなるように塗布し、さらに、120℃に加温したオーブンで10分乾燥させることで、PETフィルムと樹脂層からなる積層体を形成した。そして、得られた積層体の塗工面同士を5秒間貼り合わせ剥がすことで評価した。下記の評価基準で、3段階の評価をして結果を表3及び表4中にまとめて示した。
【0091】
(評価基準)
〇:樹脂層を剥がすことができ、跡も残らない
△:樹脂層を剥がせるが、塗工面に跡が残る
×:塗工面同士が貼り付く
【0092】
≪インキの調製例とその使用例≫
(併用する、塩酢ビ樹脂含有のワニス及び塩素化PP樹脂含有のワニスの作製)
水酸基価が154mgKOH/gであり、塩化ビニル:酢酸ビニル:ビニルアルコール=88:1:11(モル比)である塩酢ビ樹脂20部と、希釈溶剤として酢酸エチル80部を加えて室温で2時間撹拌した。目視で固形状態の塩酢ビ樹脂が完全に溶解したことを確認して、グラビア印刷インキの調製の際に、本発明のワニス組成物と併用させるための塩酢ビ樹脂ワニスを作製した。また、上記と同様にして、塩素含有量41%の塩素化ポリプロピレン(塩素化PP)20部と、希釈溶剤として酢酸エチル80部を加えて室温で2時間撹拌した。そして、目視で固形状態の塩素化PPが完全に溶解したことを確認して、インキの調製の際に用いる塩素化PP樹脂ワニスを作製した。
【0093】
(印刷インキの調製)
ワニス組成物として、実施例1~8の樹脂溶液(固形分40%)、比較例4の樹脂溶液(固形分40%)をそれぞれに用い、先に作製した塩酢ビ樹脂ワニス及び塩素化PP樹脂ワニスを併用し、白色顔料を用いて、下記のようにして白色インキを調製した。なお、比較例1~3の樹脂溶液はいずれも白色顔料の分散が不良となり印刷インキとして使用できないため、印刷インキの調製試験から除外した。白色インキは、下記のようにしてそれぞれ調製した。
【0094】
実施例1~8の樹脂溶液(固形分40%)及び比較例4の樹脂溶液(固形分40%)をそれぞれ23部用い、顔料のチタン白(ルチル型)を32部、先に調製した塩酢ビ樹脂ワニス(固形分20%)を14部、塩素化PP樹脂ワニス(20%)を1部、希釈溶剤として酢酸エチル30部からなる組成の混合物をそれぞれペイントシェーカーで練肉して、白色インキをそれぞれに調製した。上記のようにしてそれぞれ調製した白色インキ100部に対し、固形分30%のイソホロンジイソシアネート(IPDI)アダクト体を3部添加し、十分に撹拌混合した後、グラビア印刷で使用されているインキと同様に、ザーンカップ#3を用い16秒になるように白色インキの粘度を調整した。IPDIは、ワニスの粘度を調整するための添加剤である。なお、粘度調整の際の希釈溶剤には、MEK/酢酸エチル/IPA=4/4/2を用いた。上記のようにして得られた印刷用の白インキを使用して印刷試験を実施した。なお、比較例4の樹脂溶液から得られた白色インキは、乾燥後のインキ面のタックが大きく、ドライラミネート剤の塗工が困難であり、実用に適さなかったため印刷試験からは除外した。
【0095】
(印刷適正試験の方法)
実施例1~8の樹脂溶液(固形分40%)をワニス組成物として使用して上記のようにして得た、印刷用の白インキを用いてインキ層を形成して印刷適正についての試験を行った。具体的には、基材として、コロナ放電処理済のPETフィルム(商品名:「エステルE5102」、東洋紡社製、厚さ12μm)を用い、バーコーターでインキ層が乾燥塗布量で1g/mになるように印刷用白インキをそれぞれ塗布し、その後、70℃のオーブンで乾燥することで、フィルム(基材)とインキ層(印刷皮膜)からなる積層体を形成した。さらに、上記で得られた積層体のそれぞれに対して、ドライラミネート用接着剤(商品名:「セイカボンドE263/C-75N」、大日精化工業社製)を、乾燥塗布量で3g/mとなるようにグラビア印刷法にて塗布・乾燥し、厚さ60μmのCPPフィルム(商品名:「トレファンZK207」、東レフィルム加工社製)を用いて熱圧着した。その後、40℃で48時間エージングを行い、ラミネート積層体を得た。なお、上記したようにして印刷用の白インキをバーコーターで塗布して形成した皮膜は、白インキを用いてグラビア印刷で形成した皮膜と大きな違いはない。本発明の印刷適正試験では、基本的には、白インキをバーコーターで塗布して得たフィルム(基材)とインキ層(印刷皮膜)からなる積層体を試験試料として用いた。
【0096】
(5)印刷適正についての評価:
[接着性]
ラミネート加工を実施する前の積層体のインキ層(印刷皮膜)面にセロハンテープ剥離試験を行い、印刷皮膜の外観を目視で観察して、下記の基準で4段階の評価をした。そして、結果を表3及び表4中にまとめて示した。
【0097】
(評価基準)
◎:印刷皮膜が全く剥がれない
○:印刷皮膜の20%未満が剥がれた
△:印刷皮膜の20%以上~50%未満が剥がれた
×:印刷皮膜の50%以上が剥がれた
【0098】
[ボイル適性]
印刷皮膜面にラミネート加工を施したラミネート積層体を90℃の熱水で30分加熱した後、外観変化を目視で観察して、下記の基準で4段階の評価をした。そして、結果を表3及び表4中にまとめて示した。
【0099】
(評価基準)
◎:全くラミ浮きがない
○:ピンホール状にラミ浮きがでる
△:すじ状にデラミネーションが生じる
×:全面にデラミネーションが生じる
【0100】
[ラミネート強度]
印刷皮膜面にラミネート加工を施したラミネート積層体を90℃の熱水で30分加熱した後、15mm巾に切断して測定用の試料とした。そして、この測定用試料を用い、剥離試験機にて180°剥離強度(N/15mm)を測定し、加熱処理前のラミネート積層体の強度と比較して、下記の3段階の基準で評価して、結果を表3及び表4中にまとめて示した。下記の「材破」は、剥離した場合に基材が破壊して測定不能状態になったことを意味しており、ラミネート強度が強いことを意味している。
【0101】
(評価基準)
〇:剥離強度が2N以上もしくは材破
△:剥離強度が1.5N以上~2N未満
×:剥離強度が1.5N未満
【0102】
(6)環境対応性についての評価:
インキ層(印刷皮膜)を形成しているインキの二酸化炭素(CO)の固定化の有無で、二酸化炭素が固定されているインキを○とし、二酸化炭素の固定がされていないインキを×と判定した。
【0103】
【0104】
【0105】
表3に示した実施例1-8の樹脂溶液(ワニス組成物)と、表4に示した比較例1-4の樹脂溶液(ワニス組成物)の評価結果から、下記のことが確認された。実施例を構成する本発明で規定した樹脂は、非極性溶剤である酢酸エチル(酢酸エステル系有機溶剤)での希釈性が向上する良好な結果を示すものであり、非極性溶剤への溶解性が向上したものであることが確認できた。さらに、実施例を構成する本発明で規定した樹脂は、溶液粘度も良好であり、印刷インキの構成成分として使用可能な粘度を有しており、安定的な印刷適正を示す結果を得ることができた。また、実施例を構成する本発明で規定した樹脂を含むワニス組成物は、印刷インキの調製の際に併用することで、例えば、耐内容物性の向上などに期待が持てる塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等の他の樹脂との相溶性も格段に向上し、様々な樹脂と良好な状態に相溶することが確認され、印刷適正の試験についても評価は良好であることが確認された。
【0106】
一方、表4に示したように、比較例を構成する本発明で規定する要件を満たさない樹脂の場合は、試験項目によって評価も異なり、安定的に良好な結果を得ることができなかった。特に、表4に示したように比較例を構成する樹脂の多くは、酢酸エチル希釈性が悪く、2液型のグラビアインキとして使用するのには不十分であった。また、比較例を構成する樹脂の場合は、酢酸エチルによる希釈性が良好であっても、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等の他の樹脂との相溶性が悪い場合や、希釈した際の粘度が適切でないといった問題があることが確認された。これに対し、本発明の実施例を構成する樹脂は、表3に示した通り、いずれも汎用の溶剤である酢酸エチルによる希釈性が2液型のグラビアインキとして使用する場合においても問題なく向上し、また、併用することが要望される様々な他の樹脂に対しても相溶する顕著な効果が得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0107】
本発明の活用例は、印刷インキに多用されている汎用溶剤でもある酢酸エチルなどの酢酸エステル系有機溶剤への溶解性が向上し、且つ、近年、印刷インキに配合される有用成分である塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等の他の樹脂と併用した場合の相溶性にも優れた、特に、グラビア印刷インキ用として有用なワニス組成物の提供である。本発明のワニス組成物は、特有の構成のヒドロキシポリウレタン樹脂をワニス組成物の構成要素に用いたものでありながら、従来のヒドロキシポリウレタンと同様の印刷インキ特性を有しており、従来の想定用途の応用に期待できる有用なものである。さらに、本発明のワニス組成物は、地球環境の観点からも、樹脂の構成材料に二酸化炭素を取り入れることにより温暖化ガスの削減に寄与できる環境対応製品としても有用な、実用価値の高いグラビア印刷インキ用のバインダーの提供を可能にするものである。
【要約】
【課題】一般的なグラビア印刷インキの配合中で使用でき、基材の変化にも対応できるポリウレタン系環境対応型のワニス組成物の提供。
【解決手段】酢酸エステル系溶剤とポリウレアウレタン樹脂を含み、該樹脂以外の樹脂と併用されるグラビア印刷インキ用ワニス組成物であり、組成物中に占める酢酸エステル系溶剤の割合が60%以上で、ポリウレアウレタン樹脂がa)~e)で定義される構造を有するグラビア印刷インキ用のワニス組成物。
a)ポリマー鎖に式(1)又は(2)で示される水酸基を有し
b)水酸基の一部がシリル化されたことで、水酸基の量が樹脂単体での水酸基価に換算して45~80mgKOH/gに調整され
c)イソシアネート由来のウレア結合を、モル比でウレタン結合/ウレア結合=10/1~10/3で有し
d)ダイマー酸由来の構造に起因するバイオマス成分を質量比で30%以上含有し
e)樹脂の重さの9%以上が原材料の二酸化炭素由来の構造である
【選択図】なし