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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】樹脂多孔質体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/28 20060101AFI20230831BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20230831BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C08J9/28 CEX
C08L29/04 S
C08K3/22
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020003918
(22)【出願日】2020-01-14
(65)【公開番号】P2021109937
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【弁理士】
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】松延 広平
(72)【発明者】
【氏名】水口 暁夫
(72)【発明者】
【氏名】宇山 浩
(72)【発明者】
【氏名】吉沢 千秋
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-309959(JP,A)
【文献】特開2001-260520(JP,A)
【文献】国際公開第2014/106954(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水溶性高分子の良溶媒および前記非水溶性高分子の貧溶媒を含有する混合溶媒中に、前記非水溶性高分子が溶解し、かつ絶縁粒子が分散した塗工液を調製する工程と、
前記塗工液を、基材上に塗工する工程と、
前記塗工された塗工液から、前記混合溶媒を気化させて除去する工程と、
を包含し、
前記貧溶媒の沸点が、前記良溶媒の沸点よりも高く、
前記非水溶性高分子が、エチレン-ビニルアルコール共重合体であり、
前記塗工液中の前記絶縁粒子の含有量が、前記非水溶性高分子100質量部に対し、100質量部以上700質量部以下であり、
前記混合溶媒を気化させて除去することによって、空孔を形成して多孔質体を得る、
樹脂多孔質体の製造方法。
【請求項2】
前記絶縁粒子が、ベーマイト粒子またはアルミナ粒子である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記絶縁粒子のアスペクト比が、10以上40以下である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記塗工液中の前記絶縁粒子の含有量が、前記非水溶性高分子100質量部に対し、400質量部以上700質量部以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂多孔質体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水溶性高分子を用いた樹脂多孔質体は、軽量性、緩衝性、断熱性、吸音性、分離性、吸着性等の様々な特性を示し得る。そのため、非水溶性高分子を用いた樹脂多孔質体は、梱包材料、建築資材、吸音材料、掃除用品、化粧用品、分離膜、吸着材、精製用担体、触媒担体、培養担体等の多岐に渡る用途に使用されている。
【0003】
製造コスト等の観点から、非水溶性高分子を用いた樹脂多孔質体の製造方法は簡便であることが望まれている。そこで、非水溶性高分子であるポリフッ化ビニリデンの多孔質体を簡便に製造できる方法として、特許文献1には、ポリフッ化ビニリデンを、その良溶媒とその貧溶媒との混合溶媒に加熱下で溶解させて溶液を調製すること、当該溶液を冷却して成形体を得ること、当該成形体を別の溶媒に浸漬させて上記混合溶媒を別の溶媒と置換すること、および当該別の溶媒を乾燥して除去することを含む、ポリフッ化ビニリデンの多孔質体の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-236292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが鋭意検討した結果、上記従来技術の製造方法には、簡便に樹脂多孔質体を製造することにおいて、改善の余地があることを見出した。また、樹脂多孔質体の表面に、空孔を有しないスキン層(皮張り層)が形成され易いことを見出した。樹脂多孔質体がスキン層を有する場合には、流体を透過することができず、樹脂多孔質体の用途が限定されるという不利益がある。
【0006】
そこで本発明の目的は、簡便性に優れ、かつスキン層の形成を抑制可能な、非水溶性高分子を用いた樹脂多孔質体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示される樹脂多孔質体の製造方法は、非水溶性高分子の良溶媒および前記非水溶性高分子の貧溶媒を含有する混合溶媒中に、前記非水溶性高分子が溶解し、かつ絶縁粒子が分散した塗工液を調製する工程と、前記塗工液を、基材上に塗工する工程と、前記塗工された塗工液から、前記混合溶媒を気化させて除去する工程と、を包含する。前記貧溶媒の沸点が、前記良溶媒の沸点よりも高い。前記混合溶媒を気化させて除去することによって、空孔を形成して多孔質体を得る。
【0008】
このような構成によれば、簡便性に優れ、かつスキン層の形成を抑制可能な、非水溶性高分子を用いた樹脂多孔質体の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】比較例1で得られた薄膜の断面のSEM写真である。
図2】実施例7で得られた薄膜の断面のSEM写真である。
図3】実施例11で得られた薄膜の断面のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の樹脂多孔質体の製造方法は、非水溶性高分子の良溶媒および当該非水溶性高分子の貧溶媒を含有する混合溶媒中に、当該非水溶性高分子が溶解し、かつ絶縁粒子が分散した塗工液を調製する工程(以下、「塗工液調製工程」ともいう)と、当該塗工液を、基材上に塗工する工程(以下、「塗工液塗工工程」ともいう)と、当該塗工された塗工液から、当該混合溶媒を気化させて除去する工程(以下、「混合溶媒除去工程」ともいう)と、を包含する。ここで、当該貧溶媒の沸点は、当該良溶媒の沸点よりも高い。当該混合溶媒を気化させて除去することによって、空孔を形成して多孔質体を得る。
【0011】
まず、塗工液調製工程について説明する。本発明において「非水溶性高分子の良溶媒」とは、非水溶性高分子に対し、25℃において1質量%以上の溶解性を示す溶媒のことをいう。良溶媒は、非水溶性高分子に対し、25℃において、2.5質量%以上の溶解性を示すことが好ましく、5質量%以上の溶解性を示すことがより好ましく、7.5質量%以上の溶解性を示すことがさらに好ましく、10質量%以上の溶解性を示すことが最も好ましい。なお、本発明に使用される良溶媒の種類は、非水溶性高分子の種類に応じて適宜選択される。良溶媒は、単独の溶媒であってもよく、2種以上の溶媒が混合された混合溶媒であってもよい。
【0012】
本発明において「非水溶性高分子の貧溶媒」とは、非水溶性高分子に対し、25℃において1質量%未満の溶解性を示す溶媒のことをいう。貧溶媒は、非水溶性高分子に対し、25℃において、0.5質量%以下の溶解性を示すことが好ましく、0.2質量%以下の溶解性を示すことがより好ましく、0.1質量%以下の溶解性を示すことがさらに好ましく、0.05質量%以下の溶解性を示すことが最も好ましい。本発明に使用される貧溶媒の種類は、非水溶性高分子の種類に応じて適宜選択される。貧溶媒は、単独の溶媒であってもよく、2種以上の溶媒が混合された混合溶媒であってもよい。
【0013】
特定の高分子化合物に対し、特定の溶媒が良溶媒であるか貧溶媒であるかの判断には、ハンセン溶解度パラメータ(HSP)を利用することができる。例えば、当該高分子化合物のHSPの分散項、分極項、および水素結合項をそれぞれδD1、δP1、δH1とし、当該溶媒のHSPの分散項、分極項、および水素結合項をそれぞれδD2、δP2、δH2とした場合に、下記式で表される高分子化合物と溶媒とのHSPの距離Ra(MPa1/2)の値が小さいほど、高分子化合物の溶解度が高くなる傾向にある。
Ra=4(δD1-δD2+(δP1-δP2+(δH1-δH2
【0014】
また、上記特定の高分子化合物の相互作用半径をRとした場合に、Ra/Rの比が1未満だと可溶、Ra/Rの比が0だと部分的に可溶、およびRa/Rの比が1を超えると不溶であると予測される。
【0015】
あるいは、サンプル瓶等の中で特定の高分子化合物と特定の溶媒とを混合する試験を行うことにより、当該溶媒が、当該高分子化合物に対して良溶媒であるか貧溶媒であるかを容易に判別することができる。
【0016】
上記良溶媒と上記貧溶媒とは、混合され、均一な溶媒として使用される。したがって、上記良溶媒および上記貧溶媒は互いに相溶性を有する。本発明においては、使用される貧溶媒の沸点は、使用される良溶媒の沸点よりも高い。空孔率が比較的高く、均質な多孔質体が得られ易いことから、貧溶媒の沸点は、良溶媒の沸点よりも10℃以上高いことが好ましく、90℃以上高いことがより好ましい。貧溶媒の沸点は、乾燥速度の観点から、300℃未満であることが好ましい。
【0017】
本発明において「非水溶性高分子」とは、25℃における水に対する溶解度が1質量%未満である高分子のことをいう。非水溶性高分子の25℃における水に対する溶解度は、0.5質量%以下が好ましく、0.2質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下がさらに好ましい。
【0018】
溶液調製工程で用いられる「非水溶性高分子」は、多孔質の成形体を構成する非水溶性と同じ高分子である。非水溶性高分子としては、良溶媒と貧溶媒とが存在するものが使用される。使用される非水溶性高分子の種類は、良溶媒と貧溶媒とが存在するものである限り特に制限はない。非水溶性高分子の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂;ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂;ポリメチル(メタ)アクリレート、ポリエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系樹脂;ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体等のスチレン系樹脂;エチルセルロース、酢酸セルロース、セルロースプロピオネート等の非水溶性セルロース誘導体;ポリ塩化ビニル、エチレン-塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂;エチレン-ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。水溶性高分子を修飾して非水溶化したポリマー等も使用可能である。なかでも、非水溶性高分子の多孔質体の有用性およびその簡便な製造方法の有用性の観点から、非水溶性高分子は、脂肪族高分子化合物(すなわち、芳香環を有しない高分子化合物)であることが好ましい。空孔率が比較的高く、均質な多孔質体が得られ易いことから、非水溶性高分子は、付加重合型の高分子化合物(すなわち、エチレン性不飽和二重結合を有するモノマーの当該エチレン性不飽和二重結合の重合によって生成する高分子化合物;例、ビニル系重合体、ビニリデン系重合体)であることが好ましい。三次元ネットワーク状の多孔質構造を有する多孔質体の有用性、およびその簡便な製造方法の有用性の観点から、非水溶性高分子は、エチレン-ビニルアルコール共重合体であることが好ましい。
【0019】
非水溶性高分子の平均重合度は、特に限定はないが、好ましくは70以上500,000以下であり、より好ましくは100以上200,000以下である。なお、非水溶性高分子の平均重合度は、公知方法(例、NMR測定)等により求めることができる。
【0020】
以下、特定の非水溶性高分子を例に挙げて、好適な良溶媒および好適な貧溶媒について具体的に説明する。以下の非水溶性高分子に対して、以下説明する良溶媒と貧溶媒を使用することにより、本発明の製造方法を有利に実施することができる。
【0021】
1.非水溶性高分子がエチレン-ビニルアルコール共重合体である場合
エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)は、モノマー単位として、エチレン単位およびビニルアルコール単位を含有する共重合体である。EVOH中のエチレン単位の含有量は、特に制限はないが、好ましくは10モル%以上であり、より好ましくは15モル%以上であり、さらに好ましくは20モル%以上であり、特に好ましくは25モル%以上である。また、EVOH中のエチレン単位の含有量は、好ましくは60モル%以下であり、より好ましくは50モル%以下であり、さらに好ましくは45モル%以下である。EVOHのけん化度は、特に制限はないが、好ましくは80モル%以上であり、より好ましくは90モル%以上であり、さらに好ましくは95モル%以上である。けん化度の上限は、けん化に関する技術的限界により定まり、例えば、99.99モル%である。なお、EVOHのエチレン単位の含有量およびけん化度は、公知方法(例、H-NMR測定等)により求めることができる。
【0022】
また、EVOHは、通常、エチレンとビニルエステルとの共重合体を、アルカリ触媒等を用いてけん化して製造される。そのため、EVOHは、ビニルエステル単位を含有し得る。当該単位のビニルエステルは、典型的には酢酸ビニルであり、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル等であってよい。EVOHは、本発明の効果を顕著に損なわない範囲で、エチレン単位、ビニルアルコール単位、およびビニルエステル単位以外の他のモノマー単位を含有していてもよい。
【0023】
EVOHの好適な良溶媒としては、水とアルコールとの混合溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられる。混合溶媒に用いられるアルコールとしては、プロピルアルコールが好ましい。プロピルアルコールは、n-プロピルアルコールおよびイソプロピルアルコールのいずれであってもよい。したがって、特に好適な良溶媒は、水とプロピルアルコールとの混合溶媒、またはDMSOである。
【0024】
EVOHの好適な貧溶媒としては、水、アルコール、γ-ブチロラクトン等の環状エステル類;炭酸プロピレン等の環状カーボネート類;スルホラン等の環状スルホン類;プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、2-エトキシエタノール等のエーテル基含有モノオール類、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のジオール類などが挙げられる。なかでも、環状エステル類、環状カーボネート類、環状スルホン類、またはエーテル基含有モノオール類が好ましく、γ-ブチロラクトン、炭酸プロピレン、スルホラン、またはエーテル基含有モノオール類がより好ましく、γ-ブチロラクトン、またはスルホランがさらに好ましい。貧溶媒の溶解パラメータ(ヒルデブラント(Hildebrand)のSP値)δが、EVOHの溶解パラメータδよりも1.6MPa1/2以上大きいことが好ましい。
【0025】
なお、EVOHでは、水およびアルコールは、EVOHの貧溶媒であるが、水とアルコール(特にプロピルアルコール)との混合溶媒は良溶媒である。ここで、水とアルコールとの混合溶媒は、水が減量された良溶媒の、水とアルコールとの混合溶媒と、これよりも沸点が高い貧溶媒の水との混合溶媒みなすことができるため、EVOHの溶液の調製に、水とアルコールとの混合溶媒を単独で用いることができる。よって、本発明において、特定の非水溶性高分子に対し、2種類以上の貧溶媒を混合した溶媒が良溶媒になる場合には、溶液調製のための非水溶性高分子の良溶媒および非水溶性高分子の貧溶媒を含有する混合溶媒として、この2種以上の貧溶媒の混合溶媒を単独で用いることができる。
【0026】
2.非水溶性高分子が酢酸セルロースである場合
酢酸セルロースの好適な良溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の含窒素極性溶媒(特に含窒素非プロトン性極性溶媒);蟻酸メチル、酢酸メチル等のエステル類;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等の環状エーテル類;メチルグリコール、メチルグリコールアセテート等のグリコール誘導体;塩化メチレン、クロロホルム、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素;炭酸プロピレン等の環状カーボネート類;DMSO等の含硫黄極性溶媒(特に含硫黄非プロトン性極性溶媒)などが挙げられる。なかでも、含硫黄非プロトン性極性溶媒が好ましく、DMSOがより好ましい。
【0027】
酢酸セルロースの好適な貧溶媒としては、1-ヘキサノール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール等のアルコール類が挙げられる。アルコール類としては、炭素数4~6の1価または2価のアルコール類が好ましい。
【0028】
3.非水溶性高分子がポリフッ化ビニリデンである場合
ポリフッ化ビニリデンの好適な良溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の含窒素極性溶媒(特に含窒素非プロトン性極性溶媒);DMSO等の含硫黄極性溶媒(特に含硫黄非プロトン性極性溶媒)などが挙げられる。なかでも、含窒素非プロトン性極性溶媒が好ましく、N,N-ジメチルホルムアミドがより好ましい。
【0029】
ポリフッ化ビニリデンの好適な貧溶媒としては、1-ヘキサノール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、グリセリン等のアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等の環状エーテル類等が挙げられる。なかでも、アルコール類が好ましく、炭素数3~6の2価または3価のアルコール類がより好ましい。
【0030】
非水溶性高分子、良溶媒、および貧溶媒の使用量は、使用するこれらの種類に応じて適宜選択するとよい。非水溶性高分子の混合量は、良溶媒100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上である。また、非水溶性高分子の混合量は、良溶媒100質量部に対して、40質量部以下、より好ましくは上35質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下である。貧溶媒の混合量は、良溶媒100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上、さらに好ましくは30質量部以上である。また、貧溶媒の混合量は、良溶媒100質量部に対して、好ましくは400質量部以下、より好ましく200質量部以下、さらに好ましくは100質量部以下である。これらの量を変化させることで、得られる多孔質体の孔の状態(例、空孔率、空孔径など)を制御することができる。
【0031】
絶縁粒子は、混合溶媒には溶解せずに混合溶媒中で分散する。絶縁粒子としては、無機粒子、有機粒子、有機無機複合粒子のいずれも用いることができる。有機粒子を構成する有機材料の例としては、ポリオレフィン、(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリイミド、フェノール樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。無機粒子を構成する無機材料の例としては、アルミナ(Al)、マグネシア(MgO)、シリカ(SiO)、チタニア(TiO)等の無機酸化物;窒化アルミニウム、窒化ケイ素等の窒化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物;マイカ、タルク、ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン等の粘土鉱物;ガラス繊維等が挙げられる。有機無機複合粒子の例としては、上記の無機粒子が上記の有機材料でコートされた粒子などが挙げられる。絶縁粒子としては、塗工液中での分散性が高いことから、アルミナ粒子およびベーマイト粒子が好ましい。
【0032】
絶縁粒子の形状は、特に限定されず、球状、板状、鱗片状、針状、キューブ状、不定形等であってよい。絶縁粒子の形状によって、スキン層の形成抑制効果の大きさの程度が変わり得る。また、絶縁粒子の形状は、得られる樹脂多孔質体の空孔度に影響を及ぼす。絶縁粒子のアスペクト比(すなわち、短経に対する長径の比)が大きい方が、空孔度が大きくなる傾向にある。よって、空孔度が高い樹脂多孔質体が得られることから、絶縁粒子のアスペクト比は、10以上が好ましく、20以上がより好ましい。絶縁粒子のアスペクト比の上限は特に限定されない。絶縁粒子のアスペクト比は、例えば40以下である。なお、絶縁粒子のアスペクト比は、絶縁粒子の電子顕微鏡画像を取得し、画像内の任意に選ばれた20個以上の粒子について短経に対する長径の比を算出し、その平均値として求めることができる。
【0033】
絶縁粒子の平均粒子径は、特に限定されない。絶縁粒子の平均粒子径が小さいと、スキン層の形成抑制効果が小さくなる傾向にある。そのため、絶縁粒子の平均粒子径は、0.5μm以上が好ましく、0.7μm以上がより好ましく、2μm以上がさらに好ましく、3μm以上が最も好ましい。一方、絶縁粒子の平均粒子径が大きいと、塗工液中で沈降し易くなって分散安定性が低下する傾向にある。そのため、絶縁粒子の平均粒子径は、15μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、7μm以下がさらに好ましく、6μm以下が最も好ましい。なお、本明細書において「平均粒子径」とは、レーザ回折・散乱法により測定される粒度分布おいて、累積度数が体積百分率で50%となる粒子径(D50;メジアン径、中心粒子径とも呼ばれる)のことをいう。
【0034】
塗工液中の絶縁粒子の含有量は、特に限定されない。絶縁粒子の含有量が小さいと、スキン層の形成抑制効果が小さくなる傾向にある。そのため、塗工液中の絶縁粒子の含有量は、非水溶性高分子100質量部に対し、好ましくは50質量部以上であり、より好ましくは100質量部以上であり、さらに好ましくは200質量部以上であり、最も好ましくは400質量部以上である。一方、絶縁粒子の含有量が多くなると、塗工液中で分散安定性が低下する傾向にある。また、絶縁粒子の含有量が多くなると、得られる多孔質膜にクラックが発生し易くなる。そのため、塗工液中の絶縁粒子の含有量は、非水溶性高分子100質量部に対し、好ましくは700質量部以下であり、より好ましくは600質量部以下である。
【0035】
なお、絶縁粒子の平均粒子径が小さい場合に高いスキン層の形成抑制効果を得るためには、絶縁粒子の配合量を大きくするとよい。絶縁粒子の含有量が小さい場合に高いスキン層の形成抑制効果を得るためには、絶縁粒子の平均粒子径を大きくするとよい。特に高いスキン層の形成抑制効果が得られることから、絶縁粒子の平均粒子径をA(μm)とし、塗工液中の非水溶性高分子100質量部に対する絶縁粒子の含有量の含有量をB質量部とした場合に、AとBとの積(すなわち、A×B)の値が、200以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましい。
【0036】
塗工液は、本発明の効果を著しく損なわない範囲内で、上記以外の成分をさらに含有していてもよい。
【0037】
塗工液の調製方法には特に制限はない。非水溶性高分子と良溶媒と貧溶媒と絶縁粒子とを撹拌機を用いて混合して、非水溶性高分子を溶解させると共に絶縁粒子を分散させてもよい。
【0038】
好適な塗工液の調製方法では、まず、公知方法に従って非水溶性高分子を良溶媒および貧溶媒の混合溶媒に溶解させた溶液を調製する。この溶液を調製する際には、非水溶性高分子を良溶媒に溶解させて、そこに貧溶媒を添加して均一に混合してもよい。非水溶性高分子を、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒に添加して、非水溶性高分子を溶解させてもよい。この溶液の調製には、公知の撹拌装置、混合装置等を用いることができる。この溶液の調製の際には、超音波照射、加熱等を行ってもよい。加熱温度としては、例えば40℃以上100℃以下である。加熱により非水溶性高分子の溶液を調製した後、良溶媒と貧溶媒とが分離しない範囲で冷却してよい。また、この冷却は、非水溶性高分子が析出しない範囲で行うことが好ましい。析出した非水溶性高分子が不純物となり得るためである。
【0039】
次いで、絶縁粒子を、公知方法に従って当該溶媒中に分散させることにより塗工液を調製する。具体的に例えば、公知の分散装置(例、ホモジナイザー、ホモディスパー、プラネタリーミキサー、超音波分散機、顔料分散機、ボールミル等)を用いて、非水溶性高分子の溶液と絶縁粒子との混合と分散とを行うことによって塗工液を調製する。
【0040】
次に塗工液塗工工程について説明する。当該塗工液塗工工程において用いられる基材は、基材として機能し得る限り特に限定されない。通常、基材には、上記塗工液に含まれる溶媒に対して耐性を有するものが用いられる。
【0041】
基材は、最終的に多孔質体から剥離して用いられるものであってもよいし、剥離せずに用いられるものであってもよい。基材の形状は、特に限定されず、平面を有するものが好ましい。形状の例としては、シート状、フィルム状、箔状、板状等が挙げられる。基材の構成材料としては、樹脂、ガラス、金属等が挙げられる。
【0042】
上記樹脂の例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。
【0043】
上記金属の例としては、アルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス鋼等が挙げられる。また、ガラス繊維強化エポキシ樹脂等の繊維強化樹脂などの複数の材料を用いたものを基材として用いることができる。
【0044】
また、基材は、複層構造を有していてもよい。例えば、基材は、フッ素樹脂を含む剥離層を有していてもよい。例えば、基材は、樹脂層を有する紙等であってよい。
【0045】
基材が剥離せずに用いられる場合、得られる多孔質体の機能層としての役割を有するものであってもよい。例えば、基材は、補強材、支持材等の機能を有していてもよい。また、基材は、二次電池の電極(特に二次電池の電極の活物質層)であってもよい。このとき、樹脂多孔質体の製造方法を、二次電池の電極一体型セパレータの製造方法とすることができる。
【0046】
塗工方法は特に制限されず、基材の種類に応じて適宜選択すればよい。塗工方法の例としては、ダイコーティング法、グラビアコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、ブレードコーティング法、スプレーコーティング法、キャスティング法等が挙げられる。塗工厚みは特に制限されず、多孔質体の用途に応じて適宜設定すればよく、例えば、1μm以上500μm以下であり、好ましくは10μm以上300μm以下である。
【0047】
当該塗工液塗工工程の実施によって、基材上に塗工液の塗膜が形成される。なお、塗膜の粘度の調製等を目的として、塗工液に含まれる良溶媒および貧溶媒が残留する範囲内で予備乾燥を行ってもよい。
【0048】
次に、混合溶媒除去工程について説明する。当該混合溶媒除去工程においては、良溶媒および貧溶媒を気化(特に、揮発)させて除去する。この混合溶媒除去工程において、非水溶性高分子の多孔質状の骨格が形成される。この混合溶媒除去工程では、混合溶媒を除去する操作によって、具体的には貧溶媒の気化によって、空孔を形成して、樹脂多孔質体を得る。典型的には、例えば、非水溶性高分子と、貧溶媒が高濃度化した混合溶媒とを相分離させることによって、空孔を形成する。具体的には、貧溶媒は、良溶媒よりも沸点が高いため、当該工程では、貧溶媒よりも良溶媒が優先的に気化する。良溶媒が減少していくと、混合溶媒中の貧溶媒の濃度が増加する。非水溶性高分子の貧溶媒に対する溶解度が、良溶媒に対する溶解度よりも小さいため、非水溶性高分子と、貧溶媒が高濃度化した混合溶媒とが相分離して、非水溶性高分子の多孔質状の骨格が形成される。この相分離は、スピノーダル分解であってよい。最終的には、良溶媒が除去されて非水溶性高分子が析出し、高沸点の貧溶媒が気化により除去されて空孔が生成する。このようにして、非水溶性高分子の多孔質体が生成する。なお、非水溶性高分子と、貧溶媒が高濃度化した混合溶媒とを相分離させるには、良溶媒の種類と使用量および貧溶媒の種類と使用量を適切に選択するとよい。
【0049】
良溶媒および貧溶媒の混合溶媒を気化させる方法は、特に制限はなく、例えば、加熱による方法、減圧下に置く方法、減圧下で加熱する方法、風乾による方法などが挙げられる。これらの方法は公知の乾燥方法と同様にして実施することができる。操作の実施の容易さの観点から、加熱による方法が好ましい。加熱温度は、特に制限はないが、混合溶媒が沸騰せず、かつ非水溶性高分子および貧溶媒が分解しない温度であることが好ましい。具体的には、加熱温度は、例えば25℃以上、好ましくは50℃以上、より好ましくは70℃以上である。また、加熱温度は、例えば180℃以下、好ましくは150℃以下、より好ましくは125℃以下である。加熱時間は、溶媒の種類や加熱温度に応じて適宜決定すればよい。良溶媒および貧溶媒を気化させる間は、非水溶性高分子の溶液を静置することが好ましい。
【0050】
ここで、混合溶媒除去工程においては、塗工液の塗膜の表面が露出しているため、当該表面が乾燥界面となる。塗工液が絶縁粒子を含有しない場合は、塗工液の塗膜の表層部では、塗膜内部と比べて溶液の気化速度が大きくなり、これにより溶液の塗膜の表層部と内部とで組成にズレが生じる。その結果、塗膜の表層部では多孔質化が起こらず、スキン層が形成される。しかしながら、本発明では、塗工液が絶縁粒子を含有しており、この絶縁粒子によって、塗膜の表層部と内部との組成ズレの発生が抑制される。その結果、塗膜の表層部においても多孔質化が起こり、スキン層の形成が抑制される。この組成ズレの発生の抑制効果は、絶縁粒子と良溶媒との相互作用によって塗膜中の良溶媒の移動速度が変化し、良溶媒の乾燥性が変化することによるものと考えられる。これに加えて、絶縁粒子と非水溶性高分子との相互作用が多孔質状の骨格形成に関与し、スキン層の形成抑制に寄与していると考えられる。さらに、絶縁粒子が存在するために塗膜中の非水溶性高分子の存在比率が低下して、塗膜の表層部における非水溶性高分子の偏析が抑制されることも、スキン層の形成抑制に寄与していると考えられる。
【0051】
以上のようにして、樹脂多孔質体を得ることができる。樹脂多孔質体は、スキン層の形成が抑制されているため、一方の主面から他方の主面まで孔が連通した三次元ネットワーク状の多孔構造を有する。
【0052】
本発明においては、塗工液が絶縁粒子を含有することにより、得られる多孔質体の多孔度が高くなる。これは、絶縁粒子が相分離の核となり、相分離が促進されるためと考えられる。また、絶縁粒子の形状、特に、絶縁粒子のアスペクト比が空孔度に影響を及ぼすが、これは、形状、特にアスペクト比が変化すると、相分離の核となる点の数が変わるためであると考えられる。本発明の製造方法によって得られる樹脂多孔質体は、空孔度が、例えば40%以上、特に50%以上、さらには60%以上、さらにまた70%以上)90%以下(特に85%未満)のものが得られ得る。なお、空孔率は、公知方法に従い、真密度と見かけ密度を用いて算出することができる。
【0053】
本発明によれば、非水溶性高分子と絶縁粒子を含む塗工液の調製、塗工および乾燥という容易な操作により、樹脂多孔質体を製造することができる。本発明では、従来技術のように、冷却して成形体を析出させる操作および溶媒を置換する操作を行う必要がない。したがって、本発明の樹脂多孔質体の製造方法は、簡便性に優れる。また、樹脂多孔質体の表層部におけるスキン層の形成が抑制されている。したがって、樹脂多孔質体は、幅広い用途に使用可能である。
【0054】
樹脂多孔質体の用途の例としては、梱包材料、建築資材、吸音材料、掃除用品、化粧用品、分離膜、吸着材、精製用担体、触媒担体、培養担体等が挙げられる。また、スキン層がないために電解液を透過可能であることを利用して、樹脂多孔質体を、二次電池用のセパレータとして使用することができる。樹脂多孔質体を、セパレータ用途に適用する場合には、活物質層の上に直接セパレータを形成できるため、セパレータの製造面において有利である。
【0055】
したがって、上記の製造方法は、非水溶性高分子の良溶媒および当該非水溶性高分子の貧溶媒を含有する混合溶媒に、当該非水溶性高分子が溶解し、かつ絶縁粒子が分散した塗工液を調製する工程と、当該塗工液を、電極の活物質層上に塗工する工程と、当該塗工された塗工液から、当該混合溶媒を気化させて除去する工程とを包含し、当該貧溶媒の沸点が、当該良溶媒の沸点よりも高く、当該混合溶媒を気化させて除去することによって、空孔を形成して多孔質体を得る、二次電池の電極一体型セパレータの製造方法として応用することができる。
【0056】
電極が正極である場合には、活物質層(すなわち、正極活物質層)は、正極活物質を含み得る。正極活物質としては、例えばリチウム遷移金属酸化物(例、LiNi1/3Co1/3Mn1/3、LiNiO、LiCoO、LiFeO、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等)、リチウム遷移金属リン酸化合物(例、LiFePO等)等が挙げられる。正極活物質層は、活物質以外の成分、例えば導電材、バインダ、リン酸リチウム等を含み得る。導電材としては、例えばアセチレンブラック(AB)等のカーボンブラックやその他(例、グラファイト等)の炭素材料を好適に使用し得る。バインダとしては、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を使用し得る。
【0057】
電極が負極である場合には、活物質層(すなわち、負極活物質層)は、負極活物質を含み得る。負極活物質としては、例えば黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等の炭素材料などが挙げられる。負極活物質層は、活物質以外の成分、例えばバインダや増粘剤等を含み得る。バインダとしては、例えばスチレンブタジエンラバー(SBR)等を使用し得る。増粘剤としては、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)等を使用し得る。
【0058】
活物質層は、典型的には集電体上に形成される。集電体の例としては、アルミニウム箔、銅箔等が挙げられる。
【0059】
この二次電池用の電極一体型セパレータの製造方法は、二次電池の電極一体型セパレータを、極めて容易に製造することができるという点で非常に優れている。
【実施例
【0060】
以下、本発明に関する実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0061】
比較例1
サンプル瓶に、エチレン-ビニルアルコール共重合体(クラレ社製「エバール L171B」:エチレン含有率27モル%、以下「EVOH」と記す)1gを秤量した。これに、良溶媒として水とn-プロピルアルコール(nPA)とを体積比7:3で含有する混合溶媒5mLと、貧溶媒としてγ-ブチロラクトン(GBL)2.1mLとを添加した。サンプル瓶を80℃~90℃に加熱し、EVOHがこれらの溶媒に完全に溶解するまで撹拌して、EVOHが溶解した塗工液を得た。次いで、得られた塗工液を25℃まで冷却した。この塗工液を、基材としてのアルミニウム板上にキャスティングにより塗布した。このとき、塗布厚みは100μmであった。これを120℃に設定した熱風乾燥炉に入れて加熱し、良溶媒および貧溶媒を気化させて除去した。このようにして、アルミニウム板上に薄膜を得た。
【0062】
実施例1~12
サンプル瓶に、エチレン-ビニルアルコール共重合体(クラレ社製「エバール L171B」:エチレン含有率27モル%、以下「EVOH」と記す)1gを秤量した。これに、良溶媒として水とn-プロピルアルコール(nPA)とを体積比7:3で含有する混合溶媒5mLと、貧溶媒としてγ-ブチロラクトン(GBL)2.1mLとを添加した。サンプル瓶を80℃~90℃に加熱し、EVOHがこれらの溶媒に完全に溶解するまで撹拌して、EVOH溶液を得た。EVOH溶液を25℃に冷却した後、EVOH溶液に、表1に記載の絶縁粒子を表1に示す量加えた。得られた混合物を、高速分散機ホモディスパーを用いて回転速度1000rpmで20分間撹拌して、EVOHが溶解すると共に絶縁粒子が分散した塗工液を得た。得られた塗工液を、基材としてのアルミニウム板上にキャスティングにより塗布した。このとき、塗布厚みは100μmであった。これを120℃に設定した熱風乾燥炉に入れて加熱し、良溶媒および貧溶媒を気化させて除去した。このようにして、アルミニウム板上に薄膜を得た。
【0063】
〔SEM観察による評価〕
一部の実施例および比較例に対し、得られた薄膜の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察し、薄膜が多孔性であることを確認した。また、薄膜の表層部におけるスキン層の形成の有無を確認した。参考として、比較例1で得られた薄膜の断面のSEM写真を図1に、実施例7で得られた薄膜の断面のSEM写真を図2に、実施例11で得られた薄膜の断面のSEM写真を図3に示す。図1に示されるように、比較例1で得られた薄膜は多孔質であるものの、その表層部に孔のないスキン層が形成されているのが確認できる。一方、図2および図3より、実施例7および11で得られた薄膜は、表層部にも孔を有し、全体が多孔質であることがわかる。
【0064】
〔空孔率の測定〕
各実施例および比較例で得られた薄膜を所定のサイズに打ち抜くことによって、サンプルを作製した。このサンプルの重量および膜厚を求めた。サンプルの面積と膜厚より、サンプルの体積を求め、見かけ密度を算出した。薄膜を構成する非水溶性高分子および絶縁粒子の真密度とそれらの含有割合から、薄膜の真密度を算出した。この見かけ密度と真密度を用いて、下記式より空孔率を算出した。結果を表1に示す。
空孔率(%)=(1-見かけ密度/真密度)×100
【0065】
〔液浸透評価〕
各実施例および比較例で得られた薄膜の表面に有機溶媒(エタノールまたは炭酸プロピレン)を滴下して、その染み込み具合を目視で評価した。有機溶媒が薄膜の裏面まで浸透した場合には、スキン層がなく多孔質化されていると判断できる。一方、有機溶媒が浸透しない場合は、スキン層が形成されていると判断できる。
【0066】
【表1】
【0067】
表1の結果より、本発明によれば、スキン層の形成を抑制しつつ、簡便に非水溶性高分子の多孔質体を製造できることがわかる。
図1
図2
図3