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特許7340173黒色アルミニウム顔料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】黒色アルミニウム顔料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/64 20060101AFI20230831BHJP
   C09C 3/06 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C09C1/64
C09C3/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019039186
(22)【出願日】2019-03-05
(65)【公開番号】P2020143195
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】399054321
【氏名又は名称】東洋アルミニウム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592015802
【氏名又は名称】赤穂化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川島 桂
(72)【発明者】
【氏名】長野 圭太
(72)【発明者】
【氏名】瀬戸口 俊一
(72)【発明者】
【氏名】魚住 嘉伸
(72)【発明者】
【氏名】中原 知美
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-545866(JP,A)
【文献】特開平01-311176(JP,A)
【文献】特表2006-509088(JP,A)
【文献】特開2010-185073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/64
C09C 3/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレーク状のアルミニウム粒子と、
前記アルミニウム粒子を被覆する被膜とを備え、
前記被膜は、酸化チタン層および非晶質ケイ素化合物層を含み、かつ前記酸化チタン層および前記非晶質ケイ素化合物層がこの順に積層され、
前記酸化チタン層は、その組成がTiO(0.50≦x≦1.90)を満たし、
前記非晶質ケイ素化合物層は、ケイ素酸化物、ケイ素水酸化物、およびケイ素水和物の少なくとも1つからなる、黒色アルミニウム顔料。
【請求項2】
前記酸化チタン層は、50nm以上1000nm以下の厚さを有する、請求項1に記載の黒色アルミニウム顔料。
【請求項3】
前記非晶質ケイ素化合物層は、10nm以上1000nm以下の厚さを有する、請求項1または請求項2に記載の黒色アルミニウム顔料。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の黒色アルミニウム顔料を製造する方法であって、
アルミニウム粒子を準備する工程と、
前記アルミニウム粒子上に被膜を形成する工程と、を備え、
前記被膜を形成する工程は、酸化チタン層を形成する工程および非晶質ケイ素化合物層を形成する工程を有し、
前記アルミニウム粒子と前記酸化チタン層との間に前記非晶質ケイ素化合物層が介在する場合には、前記酸化チタン層は、加水分解処理により形成された二酸化チタン層を還元処理することにより形成され、
前記アルミニウム粒子と前記酸化チタン層との間に前記非晶質ケイ素化合物層が介在しない場合には、前記酸化チタン層は、ゾルゲル処理により形成された二酸化チタン層を還元処理することにより形成される、黒色アルミニウム顔料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色アルミニウム顔料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、種々の色調を呈する顔料が知られている。たとえば特許文献1(特開2010-185073号公報)には、雲母の表面に低次酸化チタンの単層が形成された二色性の顔料が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-185073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年顔料に対し、様々な意匠性が求められており、その1つとしてメタリック感を有する黒色を呈する顔料(以下、「光輝性黒色顔料」ともいう)がある。光輝性黒色顔料は、塗料、化粧料などにおいて、シャープな意匠性を付与することができる。そこで本発明は、光輝性黒色顔料として利用可能な黒色アルミニウム顔料およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下のとおりである。
〔1〕フレーク状のアルミニウム粒子と、アルミニウム粒子を被覆する被膜とを備え、被膜は、酸化チタン層および非晶質ケイ素化合物層を含み、酸化チタン層は、その組成がTiO(0.50≦x≦1.90)を満たし、非晶質ケイ素化合物層は、ケイ素酸化物、ケイ素水酸化物、およびケイ素水和物の少なくとも1つからなる、黒色アルミニウム顔料。
〔2〕酸化チタン層は、50nm以上1000nm以下の厚さを有する、〔1〕の黒色アルミニウム顔料。
〔3〕アルミニウム粒子上に、酸化チタン層および非晶質ケイ素化合物層がこの順に積層されている、〔2〕の黒色アルミニウム顔料。
〔4〕アルミニウム粒子上に、非晶質ケイ素化合物層および酸化チタン層がこの順に積層されている、〔1〕から〔3〕のいずれかの黒色アルミニウム顔料。
〔5〕酸化チタン層上に、さらに他の前記非晶質ケイ素化合物層が積層されている、〔4〕の黒色アルミニウム顔料。
〔6〕非晶質ケイ素化合物層は、10nm以上1000nm以下の厚さを有する、〔1〕から〔5〕のいずれかの黒色アルミニウム顔料。
〔7〕〔1〕から〔6〕のいずれかに記載の黒色アルミニウム顔料を製造する方法であって、アルミニウム粒子を準備する工程と、アルミニウム粒子上に被膜を形成する工程とを備え、被膜を形成する工程は、酸化チタン層を形成する工程および非晶質ケイ素化合物層を形成する工程を有し、アルミニウム粒子と酸化チタン層との間に非晶質ケイ素化合物層が介在する場合には、酸化チタン層は、加水分解処理により形成された二酸化チタン層を還元処理することにより形成され、アルミニウム粒子と酸化チタン層との間に非晶質ケイ素化合物層が介在しない場合には、酸化チタン層は、ゾルゲル処理により形成された二酸化チタン層を還元処理することにより形成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、光輝性黒色顔料として利用可能な黒色アルミニウム顔料およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係る黒色アルミニウム顔料の模式的な断面図である。
図2】黒色アルミニウム顔料であって、アルミニウム粒子側から酸化チタン層および非晶質ケイ素化合物層がこの順に積層された被膜を有する場合の模式的な断面図である。
図3】黒色アルミニウム顔料であって、アルミニウム粒子側から非晶質ケイ素化合物層および酸化チタン層がこの順に積層された被膜を有する黒色アルミニウム顔料の模式的な断面図である。
図4】黒色アルミニウム顔料であって、アルミニウム粒子側から非晶質ケイ素化合物層、酸化チタン層、および非晶質ケイ素化合物層がこの順に積層された被膜を有する黒色アルミニウム顔料の模式的な断面図である。
図5】実施例1~4の黒色アルミニウム顔料および比較例1のアルミニウム顔料における粉末X線回折の分析結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本実施形態に係る黒色アルミニウム顔料およびその製造方法について、それぞれ詳細に説明する。なお以下の実施形態の説明に用いられる図面において、同一の参照符号は、同一部分又は相当部分を表わす。ただし以下のすべての図面においては、各構成要素を理解しやすくするために寸法関係を適宜調整して示しており、図面に示される各構成要素の縮尺と実際の構成要素の寸法関係とは必ずしも一致しない。また本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0009】
[黒色アルミニウム顔料]
図1図4を参照し、黒色アルミニウム顔料10は、フレーク状のアルミニウム粒子1と、アルミニウム粒子1を被覆する被膜2とを備える。被膜2は、酸化チタン層3および非晶質ケイ素化合物層4を含む。酸化チタン層3は、その組成がTiO(0.50≦x≦1.90)を満たし、非晶質ケイ素化合物層4は、ケイ素酸化物、ケイ素水酸化物、およびケイ素水和物の少なくとも1つからなる。
【0010】
被膜2は、少なくとも1つの酸化チタン層3および少なくとも1つの非晶質ケイ素化合物層4を含む。本発明の効果を奏する限り、各層の位置および各層の数は特に制限されない。たとえば図2では、アルミニウム粒子1側から1つの酸化チタン層3および1つの非晶質ケイ素化合物層4がこの順に積層された被膜2が示されており、図3では、アルミニウム粒子1側から1つの非晶質ケイ素化合物層4および1つの酸化チタン層3がこの順に積層された被膜2が示されており、図4では、アルミニウム粒子1側から1つの非晶質ケイ素化合物層4、1つの酸化チタン層3、および他の1つの非晶質ケイ素化合物層4がこの順に積層された被膜が示されている。また被膜2は、酸化チタン層3および非晶質ケイ素化合物層4以外の他の層を含んでも良い。好適な他の層として、下地層および樹脂層が挙げられる。
【0011】
黒色アルミニウム顔料10は、光輝性黒色顔料として利用可能である。換言すれば、黒色アルミニウム顔料10は、きらきらしたメタリック感を有する黒色を呈することができる。黒色アルミニウム顔料10においては、基材となるアルミニウム粒子1により光輝性が発揮され、酸化チタン層3により黒色が呈される。黒色を呈するとは、目視において黒色と視認される場合だけでなく、目視において青味黒、赤味黒と視認される場合であっても、L値が30以下であれば、その色調は黒色を呈すると判断される。
【0012】
ここでL値とは、ハンター表色系における明度を表す値である。測色は粉末セル法にて行われる。具体的には、(黒色)アルミニウム顔料1gをガラスセルに加えて、25.5g/cm2の面圧を加えて測定サンプルとする。なお測色の条件はD/0°とし、C光源が採用される。
【0013】
黒色アルミニウム顔料10の形状は、主にアルミニウム粒子1の形状に依存する。被膜2はアルミニウム粒子1の形状に沿うようにアルミニウム粒子1の表面全体を略一様に被覆するためである。仮に被膜2の表面に凹凸がある場合であっても、アルミニウム粒子1の大きさと、被膜2の厚さとの関係を考慮すれば、その凹凸によって黒色アルミニウム顔料10の全体的な形状特性が変化することはない。このため、黒色アルミニウム顔料10の形状は、フレーク状、すなわち鱗片形状である。
【0014】
黒色アルミニウム顔料10の平均粒子径(D50)は、1~300μmが好ましく、5~30μmがより好ましい。D50が1μm以上であれば、塗膜(黒色アルミニウム顔料10を含む膜)に良好なメタリック調の仕上がり外観を与えることができ、また高い隠蔽力を発揮することができる。D50が300μm以下であれば、黒色アルミニウム顔料10の塗膜中での分散性が良好となる。D50は、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒子径分布測定装置を用いて測定することができる。ここでD50とは、D50で表される粒子径以下の粒子の占める体積が全体の体積の50%であることを意味する。
【0015】
黒色アルミニウム顔料10の平均厚さは、0.01~5μmが好ましい。この場合、塗膜の耐光性および耐候性を高く維持しつつ、良好な外観を与えることができる。平均厚さは0.015~3μmがより好ましい。平均厚さは、たとえば、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)などを用いて黒色アルミニウム顔料10を観察し、500個以上の平均値を算出することにより求めることができる。
【0016】
〈アルミニウム粒子〉
アルミニウム粒子1は、フレーク状、すなわち鱗片形状のアルミニウム粒子である。このアルミニウム粒子は、純アルミニウムで構成されてもよく、アルミニウム合金で構成されてもよい。純アルミニウムとは、純度99.7質量%以上のアルミニウム(Al)であり、アルミニウム合金とは、Alを主成分とする合金である。具体的なアルミニウム合金としては、1000~8000系のアルミニウム合金、これらのアルミニウム合金に対してAl以外の他の元素が添加されたアルミニウム合金が挙げられる。好ましい他の元素は、シリコン(Si)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、銅(Cu)などである。
【0017】
アルミニウム合金におけるAl以外の成分の全配合量は、アルミニウム合金100質量%に対して50質量%未満であることが好ましい。またたとえばSiの配合割合は、アルミニウム合金100質量%に対して40質量%以下であることが好ましく、Mgの配合割合は10質量%以下であることが好ましい。アルミニウム粒子1に含まれる金属成分については、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析法により定量することができる。
【0018】
アルミニウム粒子1の平均粒子径(D50)は、1~300μmが好ましく、5~30μmがより好ましい。D50が1μm以上であれば、塗膜(黒色アルミニウム顔料10を含む膜)に良好なメタリック調の仕上がり外観を与えることができ、また高い隠蔽力を発揮することができる。D50が300μm以下であれば、黒色アルミニウム顔料10の塗膜中での分散性が良好となる。黒色アルミニウム顔料10が鱗片形状である場合、アルミニウム粒子1のD50は黒色アルミニウム顔料10のD50と概ね一致する。
【0019】
アルミニウム粒子1の平均厚さは、0.01~5μmが好ましい。この場合、塗膜の耐光性および耐候性を高く維持しつつ、良好な外観を与えることができる。平均厚さは0.015~1μmがより好ましい。アルミニウム粒子1の平均厚さは、たとえば黒色アルミニウム顔料10の断面を含む試料(断面試料)に対してSEM観察またはTEM観察を行い、500個の黒色アルミニウム顔料10のアルミニウム粒子1の厚さを測定し、その平均値を算出することにより求めることができる。断面試料としては、黒色アルミニウム顔料10を固定した樹脂塊をスライスしてなる試料が挙げられる。
【0020】
また被膜2によって被覆されていない素のアルミニウム粒子1に対しては、上記の粒子径分布測定装置を用いたレーザー回折散乱法および上記の水面拡散面積法を用いることにより、アルミニウム粒子のD50および平均厚さを算出することができる。
【0021】
〈被膜〉
被膜2は、アルミニウム粒子1を被覆する。上述のように、被膜2は少なくとも1つの酸化チタン層3および少なくとも1つの非晶質ケイ素化合物層4を含み、かつ本発明の効果を奏する限り、各層の位置および各層の数は特に制限されず、また他の層(不図示)を含んでも良い。
【0022】
また図1図4では、被膜2がアルミニウム粒子1の表面の全てを均一に被覆する場合が例示されるが、被膜2の形状はこれに限られない。本発明の効果を奏する限り、アルミニウム粒子1の一部が露出していてもよく、被膜2の厚さが不均一であってもよい。ただし、高い光輝性および均質な黒色を呈する観点からは、被膜2は、アルミニウム粒子1の表面の全てを均一に被覆することが好ましい。
【0023】
被膜2の厚さは、20~2000nmが好ましく、40~1000nmがより好ましい。厚さが20nm未満の場合、酸化チタン層3および非晶質ケイ素化合物層4の厚さが薄くなりすぎることにより、被膜2による後述の効果が不十分となるおそれがある。厚さが2000nmを超える場合、黒色アルミニウム顔料10の単位重量あたりの隠蔽力が低下することにより、商業的価値が低下するおそれがある。また、アルミニウム粒子1による光輝性が十分に発揮できない恐れがある。
【0024】
被膜2の厚さは、黒色アルミニウム顔料10の断面を含む試料(断面試料)に対してSEM観察またはTEM観察を行い、500個の黒色アルミニウム顔料10の被膜2の厚さを測定し、その平均値を算出することにより求めることができる。また被膜2の厚さが不均一な場合には、各黒色アルミニウム顔料10において、任意の10点における厚さを測定し、その平均値を各黒色アルミニウム顔料10の被膜2の厚さとする。このときの10点は、厚さの適切な平均値が算出されるように抽出する必要がある。断面試料としては、黒色アルミニウム顔料10を固定した樹脂塊をスライスしてなる試料が挙げられる。
【0025】
〈酸化チタン層〉
酸化チタン層3は、その組成がTiO(0.50≦x≦1.90)を満たす。これにより、酸化チタン層3自身が黒色を呈することができる。また酸化チタン層3は、アルミニウム粒子1の光輝性を隠蔽しない。つまり酸化チタン層3は、下地を完全に隠蔽することなく黒色を呈する層である。TiOのX値は、1.00≦x≦1.90を満たすことがより好ましく、1.10≦x≦1.90を満たすことがさらに好ましい。
【0026】
酸化チタン層3の組成は、粉末回折X線解析装置を用いて酸化チタン層3を観察し、RIR(Reference Intensity Ration:参照強度比)法を用いて定量分析することにより決定される。たとえば、粉末回折X線解析装置を用いた酸化チタン層3の組成の解析にRIR法を用いた場合に、Ti35およびTi47が確認され、かつ、定量分析からそれぞれの組成割合が15質量%および85質量%の場合、各組成物の酸素量と組成割合から酸化チタン層3で構成されるチタン原子換算あたりの酸素量X値(TiO)を計算する。例えば、Ti35およびTi47のチタン原子換算あたりの酸素量はそれぞれ26.7および28.0となる。そこから、組成割合で酸素量を換算し、酸素原子量15.99で割返すことにより、X値が算出される。この計算式は((26.7)×0.15+(28.0)×0.85)/15.99=1.74となる。なお被膜2内に酸化チタン層3が複数存在する場合、上記方法により算出されるX値は、複数の酸化チタン層3の組成を平均化した値となる。
【0027】
酸化チタン層3の厚さは、50~1000nmが好ましく、100~600nmがより好ましい。厚さが50nm未満の場合、酸化チタン層3による可視光の吸収が不十分となり、その結果、意匠性の高い黒色を呈することが困難となるおそれがある。厚さが1000nmを超える場合、酸化チタン層3による可視光の吸収が過剰となり、アルミニウム粒子1によるメタリック調の光沢が発揮されないおそれがある。
【0028】
酸化チタン層3の厚さは、黒色アルミニウム顔料10の断面試料に対してSEM観察またはTEM観察を行い、100個の黒色アルミニウム顔料10の酸化チタン層3の厚さを測定し、その平均値を算出することにより求めることができる。また任意の1つの酸化チタン層3の厚さが不均一な場合には、該酸化チタン層3において、任意の10点以上の厚さを測定し、その平均値を該酸化チタン層3の厚さとする。なお被膜2中に酸化チタン層3が複数存在する場合、全ての酸化チタン層3の厚さの合計を「酸化チタン層の厚さ」とみなす。
【0029】
また図2図4では、酸化チタン層3はアルミニウム粒子1全体を均一に被覆する場合が例示されるが、酸化チタン層3の形状はこれに限られない。本発明の効果を奏する限り、一部が欠けていてもよく、その厚さが不均一であってもよい。ただし、高い光輝性および均質な黒色を呈する観点からは、酸化チタン層3は均一な厚さを有することが好ましく、またアルミニウム粒子1の全てを均一に被覆する連続的な層であることが好ましい。
【0030】
被膜2内に酸化チタン層3が複数存在する場合、各酸化チタン層3の各組成がTiO(0.50≦x≦1.90)を満たす必要があるが、それぞれの組成は一致しても異なっていてもよい。それぞれの厚さもまた一致しても異なっていてもよい。
【0031】
〈非晶質ケイ素化合物層〉
非晶質ケイ素化合物層4は、ケイ素酸化物、ケイ素水酸化物、およびケイ素水和物の少なくとも1つからなる。非晶質ケイ素化合物層4の組成は、たとえばEDX(Energy Dispersive X-ray spectrometry:エネルギー分散型X線分析)を用いて確認することができる。非晶質ケイ素化合物層4は、耐水性に優れた層である。なお非晶質ケイ素化合物層4の「非晶質」とは、X線回折法による結晶構造分析において酸化ケイ素に由来する明確な回折ピークが検出されない状態にあることをいう。
【0032】
アルミニウム粒子1は耐水性が低いため、これを顔料の基材として用いた場合、黒色アルミニウム顔料10の耐水性を低下させることが懸念される。また、アルミニウム粒子1上への被膜2の形成方法によっては、黒色アルミニウム顔料の製造過程において、アルミニウム粒子1が溶解してしまい、商業的価値を有する顔料とならないおそれがある。
しかし本実施形態に係る黒色アルミニウム顔料10によれば、被膜2中に非晶質ケイ素化合物層4が存在するため、黒色アルミニウム顔料10全体としての耐水性を十分に高く維持することができ、また製造過程における上述のような問題を排除できる。なお、非晶質ケイ素化合物層4がケイ素水酸化物および/またはケイ素水和物を含む場合、これらの含有量は、黒色アルミニウム顔料10の耐水性を損なわない程度に低い。
【0033】
非晶質ケイ素化合物層4の厚さは、10~1000nmが好ましい。この場合、黒色アルミニウム顔料10は十分な耐水性と良好な隠蔽力との両特性を高く維持することができる。ここでの隠蔽力とは、黒色アルミニウム顔料10の単位重量あたりの隠蔽力を意味する。この隠蔽力は、被膜2の厚さが大きくなるにつれて低下することとなる。厚さが10nm未満の場合、耐水性が不十分となるおそれがあり、厚さが1000nmを超える場合、上記隠蔽力が低下するおそれがある。
【0034】
非晶質ケイ素化合物層4の厚さは、黒色アルミニウム顔料10の断面試料に対してSEM観察またはTEM観察を行い、500個の黒色アルミニウム顔料10の非晶質ケイ素化合物層4の厚さを測定し、その平均値を算出することにより求めることができる。また任意の1つの非晶質ケイ素化合物層4の厚さが不均一な場合には、該非晶質ケイ素化合物層4において、任意の10点以上の厚さを測定し、その平均値を該非晶質ケイ素化合物層4の厚さとする。なお被膜2中に非晶質ケイ素化合物層4が複数存在する場合、全ての非晶質ケイ素化合物層4の合計厚さを「非晶質ケイ素化合物層の厚さ」とみなす。
【0035】
また図2図4では、非晶質ケイ素化合物層4はアルミニウム粒子1全体を均一に被覆する場合が例示されるが、非晶質ケイ素化合物層4の形状はこれに限られない。本発明の効果を奏する限り、一部が欠けていてもよく、その厚さが不均一であってもよい。ただし、高い耐水性を有しつつ、高い光輝性および均質な黒色を呈する観点からは、非晶質ケイ素化合物層4は、均一な厚さを有することが好ましく、またアルミニウム粒子1の全てを均一に被覆する連続的な層であることが好ましい。
【0036】
図4に示すように、被膜2内に非晶質ケイ素化合物層4が複数存在する場合、各非晶質ケイ素化合物層4の組成は一致しても異なっていてもよい。それぞれの厚さもまた一致しても異なっていてもよい。
【0037】
〈下地層〉
被膜2に含まれる好ましい他の層として、モリブデン(Mo)および/またはリン(P)の酸化物、水酸化物および水和物の少なくとも1つからなる下地層が挙げられる。たとえば、アルミニウム粒子1の表面に下地層が配置されることにより、アルミニウム粒子1の耐水性をより効果的に補うことができる。また下地層上に他の層が成長する際に、成長の良好な起点となることができる。特に、非晶質ケイ素化合物の良好な成長が可能となる。なお下地層の形状および厚さは、本発明の効果を奏する限り特に制限されず、連続的な層であってもよく、不連続な層であってもよい。
【0038】
〈樹脂層〉
被膜2に含まれる好ましい他の層として、樹脂層が挙げられる。被膜2の最外層として樹脂層を備えることにより、黒色アルミニウム顔料10の耐薬品性が向上する。またこの場合、黒色アルミニウム顔料10を含有する樹脂組成物中において、黒色アルミニウム顔料10と樹脂との密着性が高まるため、樹脂組成物が塗布対象物に塗布されてなる塗膜の物性が向上する。被膜2が樹脂層を含む場合、樹脂層の被覆量は、アルミニウム粒子1に対して0.5~100質量部が好ましく、1~50質量部が好ましい。この場合、黒色アルミニウム顔料10は、メタリック調の光沢と黒色とを呈する機能と、耐薬品性の機能とを高く両立することができる。
【0039】
樹脂層に好適な樹脂としては、2種類以上の重合性モノマーを共重合した共重合樹脂が好適である。重合性モノマーとしては、カルボキシル基および/またはリン酸基を有する反応性モノマー、3官能以上の多官能性アクリルエステルモノマー、ベンゼン核を有する重合性モノマーが挙げられる。なお各モノマーの具体例については後述する。
【0040】
[黒色アルミニウム顔料の製造方法]
黒色アルミニウム顔料10は、アルミニウム粒子を準備する工程(準備工程)と、アルミニウム粒子上に被膜を形成する工程(被膜形成工程)とを備える。被膜形成工程は、酸化チタン層を形成する工程(酸化チタン層形成工程)および非晶質ケイ素化合物層を形成する工程(非晶質ケイ素化合物層形成工程)を有する。
【0041】
〈準備工程〉
本工程では、基材となるアルミニウム粒子1が準備される。フレーク形状のアルミニウム粒子1は、従来公知の方法により作製することができる。たとえば、プラスチックフィルムの表面に蒸着により形成されたアルミニウム薄膜を、プラスチックフィルムの表面から剥離した後に破砕することにより、作製することができる。またたとえば、従来公知のアトマイズ法を用いて得られるアルミニウム粒子を、有機溶媒の存在下でボールミルを用いて粉砕することによっても作製することができる。
【0042】
〈被膜形成工程〉
本工程では、準備されたアルミニウム粒子1上に被膜2が形成される。本工程は、酸化チタン層形成工程および非晶質ケイ素化合物層形成工程を有しており、かつ該酸化チタン層形成工程は、被膜2中における酸化チタン層3および非晶質ケイ素化合物層4の配置状況によって異なる。本工程はさらに、下地層を形成する工程(下地層形成工程)および/または樹脂層を形成する工程(樹脂層形成工程)を備えてもよい。各工程について以下に詳述する。
【0043】
《酸化チタン層形成工程》
本工程では、被覆対象物の表面に酸化チタン層3が形成される。本工程に関し、アルミニウム粒子1と酸化チタン層3との間に非晶質ケイ素化合物層4が介在する場合には、加水分解処理により形成された二酸化チタン層を還元処理することにより酸化チタン層3が形成され、介在しない場合には、ゾルゲル処理により形成された二酸化チタン層を還元処理することにより酸化チタン層3が形成される。以下に、前者の場合(介在する場合)の酸化チタン層3の形成方法を第1の方法として説明し、後者の場合(介在しない場合)の酸化チタン層3の形成方法を第2の方法として説明する。
【0044】
(第1の方法:介在する場合)
第1の方法では、被覆対象物に対し、以下(1)および(2)の各処理がこの順に実施される。なお被覆対象物とは、たとえば、アルミニウム粒子1の表面に非晶質ケイ素化合物層4が形成された粒子である。
【0045】
(1)加水分解処理
本処理では、被覆対象物が分散された水中でチタン塩を加水分解させることにより、被覆対象物の表面に二酸化チタン層が形成される。具体的には、被覆対象物を水中に分散させてスラリーを形成し、該スラリーのpHが1.3~5.0となるように調整した後、塩基性水溶液を用いてpHを一定に保ちつつチタン塩水溶液を投入することにより、該チタン塩を加水分解させる。これにより、被覆対象物の表面に、比較的均一な厚さを有する二酸化チタン層が形成される。この二酸化チタン層は連続した層である。
【0046】
チタン塩としては、四塩化チタン、硫酸チタニルなどが挙げられる。好適な塩基性水溶液としては、水溶性アミン類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの水溶液、およびアンモニア水が挙げられる。
【0047】
(2)還元処理
本処理では、上記加水分解処理により被覆対象物の表面に形成された二酸化チタン層を還元させることにより、二酸化チタン層をTiO(0.50≦x≦1.90)を満たす酸化チタン層3へと変化させる。具体的には、二酸化チタン層が形成された被覆対象物と還元助剤とを混合し、これを還元雰囲気下で焼成する。Xの値は、還元処理における焼成温度、焼成時間、還元雰囲気および還元助剤を適宜変更することにより、調整することができる。
【0048】
焼成温度は、300~650℃が好ましく、400~630℃が好ましい。650℃を越えると、アルミニウム粒子1が溶融するおそれがあり、300℃未満の焼成温度では、還元処理に要する時間が過剰に長くなり、製造効率が低下する。また、アルミニウム粒子1と二酸化チタン層との間に、非晶質ケイ素化合物層4が介在していることを考慮すると、焼成温度は300℃以上500℃未満とすることが好ましい。500℃を超えると、非晶質ケイ素化合物層4に割れ、欠損といった欠陥が発生するおそれがあるためである。
【0049】
焼成時間は、0.5~72時間が好ましく、1~24時間がより好ましい。焼成時間が短すぎると還元が不十分となるおそれがあり、焼成時間が長すぎると製造効率が低下する。また、還元処理環境を窒素、水素、アンモニア、一酸化炭素、一酸化一窒素、一酸化二窒素、硫化水素、二酸化硫黄などの還元成分ガスまたはこれらの混合ガスの雰囲気下または真空下とすることにより、好適な還元雰囲気とすることができる。
【0050】
還元助剤としては、金属チタン、水素化チタン、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウムなどが挙げられる。還元助剤として金属チタンを用いる場合、焼成温度は500~650℃が好ましく、また二酸化チタン100gに対して0.01~2.0molの金属チタンを用いることが好ましい。還元助剤として水素化チタン、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウムなどの水素化物を用いる場合、還元助剤の添加量は、水素化物が分解された時に発生する還元成分ガス(H2)が、二酸化チタン100
gに対して0.001~30.0molとなるように調製されることが好ましく、0.01~10.0molとなるように調製されることが好ましい。
【0051】
以上により、被覆対象物の表面に接するように、酸化チタン層3が形成される。第1の方法は、図3および図4に示すように、アルミニウム粒子1と酸化チタン層3との間に、非晶質ケイ素化合物層4が介在している黒色アルミニウム顔料10を製造する場合に好適である。非晶質ケイ素化合物層4は耐水性に優れるため、被覆対象物、すなわち「非晶質ケイ素化合物層4で被覆されたアルミニウム粒子1」を水中に投入することができるためである。仮に非晶質ケイ素化合物層4で被覆されていないアルミニウム粒子1を用いて加水分解処理を実施した場合、アルミニウム粒子1は水素ガスを発生させながら溶けてしまう。
【0052】
(第2の方法:介在しない場合)
第2の方法では、被覆対象物に対し、以下(3)および(4)の各処理がこの順に実施される。なお被覆対象物とは、たとえばアルミニウム粒子1である。
【0053】
(3)ゾルゲル処理
本処理では、ゾルゲル法を用いて、被覆対象物の表面に二酸化チタンおよび/またはその水和物からなる二酸化チタン層を形成する。具体的には、被覆対象物を親水性有機溶媒に分散させてスラリーを形成し、該スラリーを攪拌させながら、チタンアルコキシドおよび水を加える。これにより、被覆対象物の表面に、比較的均一な厚さを有する二酸化チタン層が形成される。この二酸化チタン層は連続した層である。
【0054】
親水性有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、t-ブチルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、アセトンなどが挙げられる。チタンアルコキシドとしては、イソプロポキシド、ブトキシド、オクトキシド、これらの縮合物、またはこれらのキレート化合物が挙げられる。
【0055】
(4)還元処理
本処理では、上記ゾルゲル処理により被覆対象物の表面に形成された二酸化チタン層を還元させることにより、二酸化チタン層をTiO(0.50≦x≦1.90)を満たす酸化チタン層3へと変化させる。具体的な処理方法は、上記(2)と同様のため、その説明は繰り返さない。
【0056】
以上により、被覆対象物の表面に接するように、酸化チタン層3が形成される。第2の方法は、図2に示すように、アルミニウム粒子1と酸化チタン層3との間に、非晶質ケイ素化合物層4が介在していない黒色アルミニウム顔料10を製造する場合に好適である。第2の方法によれば、簡便に均質な酸化チタン層3を形成することができる。
【0057】
〈非晶質ケイ素化合物層形成工程〉
本工程では、被覆対象物の表面に非晶質ケイ素化合物層4が形成される。非晶質ケイ素化合物層4の形成には、有機ケイ素化合物を親水性有機溶媒中で加水分解した後に脱水縮合させるゾルゲル法が好適に用いられる。
【0058】
有機ケイ素化合物としては、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトライソプロポキシシランおよびそれらの縮合物、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-アミノエチル-3-アミノプロピルメチルジメトキシシランなどが挙げられる。親水性有機溶媒としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、t-ブチルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、アセトンなどが挙げられる。
【0059】
以上により、被覆対象物の表面に接するように、非晶質ケイ素化合物層4が形成される。このようにして形成された非晶質ケイ素化合物層4は、比較的平滑な表面を有する、連続的な層となる。
【0060】
《樹脂層形成工程》
黒色アルミニウム顔料10が備える被膜2の最外層として、樹脂層を形成してもよい。この場合、黒色アルミニウム顔料10の耐薬品性を高めることができる。樹脂層を形成する方法は特に制限されないが、ラジカル重合反応が簡便である。具体的にはまず、被覆対象物を非極性溶媒に分散させ、かつ非極性溶媒中に樹脂の構成単位となる重合性モノマーを加える。次に、重合開始剤を添加して重合性モノマーをラジカル重合させる。これにより、被覆対象物上に、重合性モノマーがラジカル重合してなる樹脂層が形成される。
【0061】
好ましい重合性モノマーとして、上述のとおり、カルボキシル基および/またはリン酸基を有する反応性モノマー、3官能以上の多官能性アクリルエステルモノマー、ベンゼン核を有する重合性モノマーが挙げられる。
【0062】
カルボキシル基および/またはリン酸基を有する反応性モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、2-メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジ-2-メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、トリ-2-メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、2-アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジ-2-アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、トリ-2-アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジフェニル-2-メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジフェニル-2-アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジブチル-2-メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジブチル-2-アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジオクチル-2-メタクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、ジオクチル-2-アクリロイロキシエチルアッシドフォスフェート、2-メタクリロイロキシプロピルアッシドフォスフェート、ビス(2-クロロエチル)ビニルホスホネート、ジアリルジブチルホスホノサクシネートなどが挙げられる。
【0063】
3官能以上の多官能性アクリル酸エステルモノマーとしては、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールプロパンテトラアクリレート、テトラメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールプロパンテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレートなどが挙げられる。これらの多官能アクリル酸エステルモノマーは樹脂の三次元架橋に寄与し、有機溶剤および水に対し、樹脂層を不溶化する効果を有する。
【0064】
ベンゼン核を有する重合性モノマーとしては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、フェニルビニルケトン、フェニルビニルエーテル、ジビニルベンゼンモノオキサイドフェノキシエチルアクリレート、フェノキシ-ポリエチレングリコールアクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピルアクリレートなどが挙げられる。これらのベンゼン核を有する重合性モノマーを共重合させることにより、樹脂層の薬品に対するバリヤー効果が向上し、耐薬品性に特に優れることとなる。
【0065】
重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、イソブチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイドなどのパーオキサイド類、およびアゾビスイソブチロニトリルのようなアゾ化合物が挙げられる。
【0066】
非極性溶媒としては、炭化水素系溶媒が好ましく、具体的には、ミネラルスピリット、石油ベンジン、ソルベントナフサ、イソパラフィン、ノルマルパラフィン、ベンゼン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、クロベンゼン、トリクロベンゼン、パークロエチレン、トリクロエチレンなどが挙げられる。
【0067】
《下地層形成工程》
黒色アルミニウム顔料10が備える被膜2の最内層として、下地層を形成してもよい。アルミニウム粒子1の表面に下地層を形成することにより、アルミニウム粒子1の耐水性を向上させることができ、また、アルミニウム粒子1に対してゾルゲル法により層形成を行う場合、アルミニウム粒子1の表面に下地層が形成されていることにより、ゾルゲル法による層が下地層を起点として成長しやすくなる。下地層は特に、ゾルゲル法により成長する非晶質ケイ素化合物層4の良好な起点となることができる。
【0068】
下地層は、たとえば次のようにして形成される。まず、被覆対象物であるアルミニウム粒子1とモリブデン化合物および/またはリン化合物を含む溶液とを、スラリー状態またはペースト状態で攪拌し、その後加熱することにより、モリブデンおよび/またはリンの酸化物、水酸化物および水和物の少なくとも1つからなる下地層が形成される。
【0069】
黒色アルミニウム顔料10は、上述の各工程を適切な順序で実施することにより、製造することができる。たとえば、図2に示す黒色アルミニウム顔料10は、準備工程、酸化チタン層形成工程、非晶質ケイ素化合物層形成工程をこの順に実施することにより製造することができ、さらに非晶質ケイ素化合物層形成工程の後に、樹脂層形成工程を実施してもよい。この場合の酸化チタン層形成工程は、第2の方法を用いることが好ましい。第1の方法を用いた場合、アルミニウム粒子1の溶解が懸念されるためである。
【0070】
図3に示す黒色アルミニウム顔料10は、準備工程、非晶質ケイ素化合物層形成工程、酸化チタン層形成工程をこの順に実施することにより製造することができ、さらに準備工程と非晶質ケイ素化合物層形成工程の間に、下地層形成工程を実施してもよく、酸化チタン層形成工程の後に、樹脂層形成工程を実施してもよい。この場合の酸化チタン層形成工程は、第1の方法を用いることが好ましい。この場合、水中で酸化チタン層3を形成できるため、親水性有機溶媒を用いる第2の方法と比して製造コストを低減することができる。
【0071】
図4に示す黒色アルミニウム顔料10は、準備工程、非晶質ケイ素化合物層形成工程、酸化チタン層形成工程、非晶質ケイ素化合物層形成工程をこの順に実施することにより製造することができ、さらに準備工程と非晶質ケイ素化合物層形成工程の間に、下地層形成工程を実施してもよく、2回目の非晶質ケイ素化合物形成工程の後に、樹脂層形成工程を実施してもよい。この場合の酸化チタン層形成工程は、上述の理由により、第1の方法を用いることが好ましい。
【0072】
[樹脂組成物]
本実施形態に係る樹脂組成物は、上述の黒色アルミニウム顔料10を含む樹脂組成物である。このような樹脂組成物としては、たとえば、塗料、この塗料により形成される塗膜、インキ、このインキが印刷されてなる印刷物、化粧料などが含まれる。
【0073】
本実施形態に係る樹脂組成物は、有機溶剤型(油性)および水性のいずれにも適用できる。特に図2および図4に示すように、酸化チタン層3よりも外側に非晶質ケイ素化合物層4が存在する場合、水性溶剤に対する高い耐性を有することから、水性塗料に適用できる。以下に樹脂組成物の一例として、塗料および化粧料について詳述する。
【0074】
〈塗料〉
本実施形態に係る塗料は、上述の黒色アルミニウム顔料10を含む塗料である。当該塗料は、黒色アルミニウム顔料10以外にも、他の顔料、添加剤、樹脂および溶剤などを含むことができる。
【0075】
上記他の顔料としては、たとえば、有機着色顔料、無機着色顔料、体質顔料、板状酸化鉄などの着色顔料を挙げることができる。上記添加剤としては、たとえば、顔料分散剤、消泡剤、沈降防止剤、硬化触媒などを挙げることができる。上記樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ビニル樹脂、ケイ素樹脂(無機系バインダー)、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、メラミン樹脂、フッ素樹脂、合成樹脂エマルジョン、ボイル油、塩化ゴム、天然樹脂とアミノ樹脂、フェノール樹脂、ポリイソシアネート樹脂などを挙げることができる。上記溶剤としては、アルコール系、グリコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系、芳香族系、炭化水素系などの有機溶媒、水などを挙げることができる。
【0076】
塗料における黒色アルミニウム顔料10の配合量は、要求される意匠性によって適宜変更されるが、塗料樹脂100質量部に対して0.1~50質量部が好ましく、1~35質量部がより好ましい。この配合量が0.1質量部以上であることにより、装飾効果が良好となる。この配合量が50質量部以下であることにより、塗料の密着性、耐候性、耐食性、密着強度などが良好となる。
【0077】
[化粧料]
本実施形態に係る化粧料は、上述の黒色アルミニウム顔料10を含む化粧料である。このような化粧料が適用される化粧料としては、メーキャップ化粧料(口紅、ファンデーション、頬紅、アイシャドウ、ネイルエナメルなど)、毛髪化粧料(ヘアジェル、ヘアワックス、ヘアトリートメント、シャンプー、ヘアマニキュアジェルなど)、基礎化粧料(下地クリームなど)などが挙げられる。
【0078】
従来から、化粧料に光沢感および光輝感を付与するため、パール顔料、アルミニウム顔料などが用いられている。しかし、パール顔料は隠蔽性に乏しく、アルミニウム顔料はグレー色を呈するため、他の着色顔料を配合して化粧料を構成しても鮮明な黒の色調が得られない傾向があった。さらに、アルミニウム顔料は水と反応しやすいために、水を含有する化粧料に適用できなかった。
【0079】
これに対し、上述の黒色アルミニウム顔料10は、メタリック感を有し、かつ黒色の色調を呈することができる。また、被膜2中に非晶質ケイ素化合物層4を有するため、水を含有する化粧料にも適用できる。特に、図2および図4に示すように、酸化チタン層3よりも外側に非晶質ケイ素化合物層4が存在する場合、水性溶剤に対する高い耐性を有することから、好適に化粧料に適用することができる。
【0080】
本実施形態に係る化粧料は、黒色アルミニウム顔料10以外に、油分、界面活性剤、保湿剤、多価アルコール、水溶性高分子、皮膜形成剤、非水溶性高分子、高分子エマルション、粉末、顔料、染料、レーキ、低級アルコール、紫外線吸収剤、ビタミン類、酸化防止剤、抗菌剤、香料、水などを含むことができる。
【0081】
[作用効果]
本実施形態に係る黒色アルミニウム顔料10によれば、光輝性黒色顔料としての高い商業的利用価値を有することができる。その理由は以下のとおりである。
【0082】
黒色アルミニウム顔料10は、アルミニウム粒子1上に、酸化チタン層3および非晶質ケイ素化合物層4を含む被膜2が形成されている。アルミニウム粒子1と酸化チタン層3との間に非晶質ケイ素化合物層4が介在する場合には、酸化チタン層3は、上述の(1)加水分解処理および(2)還元処理の実施によって容易に形成することができ、アルミニウム粒子1と酸化チタン層3との間に非晶質ケイ素化合物層4が介在しない場合には、酸化チタン層3は、上述の(3)ゾルゲル処理および(4)還元処理の実施によって容易に形成することができる。
【0083】
上記のいずれの場合においても、均質な酸化チタン層3を形成することができ、また基材であるアルミニウム粒子1の意図しない溶解を十分に抑制することができる。これは、各方法において、被膜2中の非晶質ケイ素化合物層4の位置を適切に配置することによる。また、非晶質ケイ素化合物層4は、製造工程中においてアルミニウム粒子1の溶解を抑制するだけでなく、黒色アルミニウム顔料10に対しても、高い耐水性を付与することができる。このため、黒色アルミニウム顔料10は、被膜2の積層構造を適宜変更することにより、油性および水性のいずれの組成物に対しても適用することができる。
【0084】
このように、本実施形態に係る黒色アルミニウム顔料10によれば、高い耐水性を有し、かつ高いメタリック感を発揮し、かつ黒色を呈することができるため、もって、光輝性黒色顔料としての高い商業的利用価値を有することができる。特に上述のように、塗料および化粧料といった樹脂組成物に好適に適用することができる。
【実施例
【0085】
以下に実施例および比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお以下において、実施例の黒色アルミニウム顔料および比較例のアルミニウム顔料を総称して、「(黒色)アルミニウム顔料」と記す場合がある。
【0086】
〈各種特性の測定方法および評価方法〉
《アルミニウム粒子の平均粒子径の測定》
まず、約0.1gのアルミニウム粒子を20gのエタノールに投入し、ガラス棒で分散させた後、スポイトを用いてサンプル採取を行った。サンプル採取後、速やかにレーザー回折式粒度測定器(「マイクロトラックMT3000II」、マイクロトラック・ベル社製)に投入し、装置付属の超音波分散機で分散してから測定を実施した。装置内の循環溶媒は分散媒と同様のエタノールとし、超音波分散の出力は40Wとし、1分間の超音波照射を実施した。そのあと即座に粒度分布の測定を実施した。
【0087】
《各層の厚さの測定》
観察用試験片を作製し、上述の方法に従って各層の厚さを算出した。観察には、TEM(「JEM-ARM200F」、日本電子株式会社製)を用い、観察倍率は50,000~100,000倍とした。観察用試験片は以下のようにして作製された。
【0088】
まず、17.0gの補正用クリヤー(「Naxアドミラ280」、日本ペイント株式会社製)と3.0gのバインダー(「Naxアドミラ901」、日本ペイント株式会社製)とをガラス棒用いてビーカー内で混合させた。続いて混合液に(黒色)アルミニウム顔料を固形分として1.2gを投入し、さらにガラス棒で攪拌した。さらに攪拌脱泡装置を用いて分散させることにより、(黒色)アルミニウム顔料分散塗料を得た。得られた(黒色)アルミニウム顔料分散塗料を、アプリケーター(9mil)を用いてPETフィルム上に塗布し、室温で20分静置した後、80℃で20分乾燥することにより、PETフィルム上に塗膜を形成した。形成された塗膜をPETフィルム上から剥離し、これを集束イオンビーム装置を用いてスライスすることにより、(黒色)アルミニウム顔料の断面を含む観察用試験片が作製された。なお、上記のTEM用の観察用試験片の作成方法は一例であり、その方法については限定されるものではない。
【0089】
《非晶質ケイ素化合物層の組成の確認》
非晶質ケイ素化合物層の組成は、EDX(「EX-23000BU」、日本電子株式会社製)を用いて、(黒色)アルミニウム顔料の表面からSiおよびOのシグナルが同時に検出されることをもって確認した。また非晶質ケイ素化合物層に対し、粉末回折X線解析装置(「UltimaIV」、リガク社製)を用いて、酸化ケイ素由来の回折ピークの有無を確認した。回折ピークが確認されなかった場合に、当該層が非晶質であるとみなした。
【0090】
《酸化チタン層の組成の測定》
粉末回折X線解析装置(「UltimaIV」、リガク社製)および統合粉末X線解析ソフトウェア(「PDXL2.7」、リガク社製)を使用した。管電圧40kV、管電流20mAの条件にて、RIR法を用いて、低次酸化チタンの組成の確認を行った。
【0091】
《色調評価》
(黒色)アルミニウム顔料の色調の評価は、測色色差計(「TC-8600A」、東京電色)を用いて、ハンターLab表色系で行った。測色は粉末セル法にて行い、(黒色)アルミニウム顔料1gをガラスセルに加えて、25.5g/cm2の面圧を加えて測定サンプルとした。なお、測色の条件はD/0°とし、C光源を採用した。
【0092】
《耐水性評価》
まず、イオン交換水90gおよびブチルセロソルブ90gの混合液を調製し、これにアルミニウム顔料を5.0g投入し、ガラス棒にて分散させた。次に、2-ジメチルアミノエタノールを用いて25℃におけるpHを11±0.5に調整した。その後、混合液180gをガス発生測定用の専用容器へ封入し、40℃に保ちつつ、48時間保持した。この間に発生した水素ガスの量を計測する事により、耐水性を評価した。水素ガスは、アルミニウムが腐食して溶解することにより発生するガスである。
【0093】
〈実施例1〉
以下のようにして、アルミニウム粒子上に、非晶質ケイ素酸化物層および酸化チタン層がこの順に積層されたアルミニウム顔料を製造した。
【0094】
《準備工程》
フレーク状のアルミニウム粒子として、東洋アルミニウム株式会社製の「5422NS」(固形分75質量%、D50:19μm)を準備した。攪拌機を備えた3L丸底フラスコにて、過酸化水素水(過酸化水素30質量%)9gをイソプロピルアルコール(以下IPAと略す)1500gに溶解させ、さらに上記アルミニウム粒子133.3g(すなわちアルミニウム分として100g)加え、75℃で1時間攪拌混合してスラリーを得た。
【0095】
《非晶質ケイ素酸化物層積層工程》
上記スラリーにイオン交換水80gを加え、さらにアンモニア水を加えながらスラリーのpH値を9.0程度に調整した。pH調整したスラリーに、テトラエトキシシラン100gを100gのIPAに溶解させた溶液を徐々に滴下し、さらに75℃で2時間攪拌混合した。その後、スラリーをフィルターで固液分離した後、100℃のオーブンにて固形分を乾燥させた。これにより、アルミニウム粒子の表面に非晶質ケイ素酸化物層が形成されたアルミニウム粒子(以下「アルミニウム粒子(A)」と記す)が得られた。
【0096】
《酸化チタン層形成工程》
(加水分解処理)
アルミニウム粒子(A)100gをイオン交換水2000gに投入し、攪拌してスラリーにした。これを攪拌しながらで75℃まで昇温させた。次に、該スラリーに対して、塩化錫・5水和物2gをイオン交換水8gに溶解させた溶液全量を加えた。その後、10%塩酸水溶液を用いてスラリーのpHを1.5に調整した。次に、pH調整後のスラリーに対し、四塩化チタン水溶液(TiO222質量%含有)を1mL/分の速度で添加し、スラリーが薄い緑色を呈するまで添加し続けた。この際、30質量%水酸化ナトリウム水溶液を同時添加することにより、pHの変動を1.4~1.6に抑えた。その後、30質量%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、スラリーのpHが7.0になるまで中和し、次いで40℃まで冷却し、固液分離およびイオン交換水による洗浄を行った。水洗後、80℃のオーブンにて固形分が99%以上になるまで乾燥した。これにより、アルミニウム粒子の表面に、非晶質ケイ素化合物層および二酸化チタン層がこの順に積層されたアルミニウム粒子(以下「アルミニウム粒子(B)」と記す)が得られた。
【0097】
(還元処理)
アルミニウム粒子(B)100gに、還元助剤として水素化ホウ素ナトリウム10.0gを加えて、窒素ガスを100ml/minで導入しながら、600℃で3時間の焼成を行った。焼成後、水洗処理および脱水処理を行った後、70℃で乾燥した。これにより、アルミニウム粒子の表面に、非晶質ケイ素化合物層および酸化チタン層がこの順に積層された黒色アルミニウム顔料が製造された。
【0098】
〈実施例2〉
還元処理において、アルミニウム粒子(B)100gに、水素化ホウ素ナトリウム7.0gを加えた以外は、実施例1と同様の方法により、黒色アルミニウム顔料を製造した。
【0099】
〈実施例3〉
還元処理において、アルミニウム粒子(B)100gに、水素化ホウ素ナトリウム15.0gを加えた以外は、実施例1と同様の方法により、黒色アルミニウム顔料を製造した。
【0100】
〈実施例4〉
還元処理において、窒素ガスに代えて水素:窒素が2:1で混合された混合ガスを用いた以外は、実施例1と同様の方法により、黒色アルミニウム顔料を製造した。
【0101】
〈比較例1〉
還元処理において、アルミニウム粒子(B)100gに、水素化ホウ素ナトリウム4.0gを加えた以外は、実施例1と同様の方法により、アルミニウム顔料を製造した。
【0102】
〈実施例5〉
以下のようにして、アルミニウム粒子上に、酸化チタン層および非晶質ケイ素酸化物層がこの順に積層されたアルミニウム顔料を製造した。
【0103】
《酸化チタン層形成工程》
(ゾルゲル処理)
実施例1と同様の準備工程を経て得られたスラリーに、ブチルチタネートダイマー(「オルガチックスTA-23」、マツモトファインケミカル株式会社製)50gを加えて10分攪拌した。さらに、25質量%アンモニア水50gを450gのIPAに溶解させた溶液を2時間かけて添加し、さらに2時間攪拌を行った。その後スラリーをろ過した後、IPAによる洗浄を繰り返した後に、固形分を回収した。回収した固形分を140℃で3時間乾燥させた。これにより、アルミニウム粒子の表面に二酸化チタン層が形成されたアルミニウム粒子(以下「アルミニウム粒子(C)」と記す)が得られた。
【0104】
(還元処理)
アルミニウム粒子(C)100gに対し、実施例1と同様の方法により還元処理を実施した。以上により、アルミニウム粒子の表面に、酸化チタン層が形成されたアルミニウム粒子(以下「アルミニウム粒子(D)」と記す)が得られた。
【0105】
《非晶質ケイ素化合物層形成工程》
アルミニウム粒子(D)100gをIPA1000gに分散し、75℃で30分攪拌混合する事でスラリーを得た。さらに、得られたスラリーにイオン交換水80gを加え、さらにアンモニア水を加えながらスラリーのpH値を10.0程度に調整した。pH調整したスラリーに、テトラエトキシシラン50gを50gのIPAに溶解させた溶液を徐々に滴下し、さらに75℃で2時間攪拌混合した。その後、スラリーをフィルターで固液分離した後、100℃のオーブンにて乾燥させた。以上により、アルミニウム粒子の表面に、酸化チタン層および非晶質ケイ素化合物層がこの順に積層されたアルミニウム顔料が製造された。
【0106】
〈比較例2〉
非晶質ケイ素化合物層を形成しなかった以外は、実施例5と同様の方法により、アルミニウム顔料を製造した。
【0107】
【表1】
【0108】
〈考察〉
表1に、実施例1~5および比較例1,2の各結果を示す。また、図5に、実施例1~4および比較例1の各アルミニウム顔料における粉末X線回折の分析結果を示す。非晶質ケイ素化合物層の厚さおよび酸化チタン層の厚さの測定、ならびに耐水性評価は、実施例1、実施例5および比較例2に対してのみ実施した。なお表1中の「-」は測定を実施していないことを意味し、「無」は層が存在しないことを意味し、「不能」は水素ガスの発生が著しく、測定が不能であったことを意味する。
【0109】
表1を参照し、酸化チタン層の組成のX値について、実施例1~実施例5はTiO(0.50≦x≦1.90)を満たしており、比較例1はTiO(0.50≦x≦1.90)を満たしていなかった。色調に関し、TiO(0.50≦x≦1.90)を満たす実施例1~5に関し、目視により黒色を呈することが確認された。なお実施例2は目視にて青味を帯びた黒色であり、実施例3は目視にて赤味を帯びた黒色であったが、L値が20以下と低く、黒色と判断できた。これに対し、比較例1では、目視において赤茶色であった。また、顔料のL値も33.1と明度が高く、黒色と判断できるものではなかった。
【0110】
耐水性評価に関し、実施例1の水素ガス発生量は十分に低く、高い耐水性を有することが確認された。特に実施例5では水素ガスが発生しなかった。このことから、黒色アルミニウム顔料において、酸化チタン層よりも外側に非晶質ケイ素化合物層が形成されている場合には、特に高い耐水性を有することが分かった。これは、酸化チタン層よりも内側に形成された非晶質ケイ素化合物層は、酸化チタン層形成時の焼成に伴う欠陥を有する場合があるのに対し、酸化チタン層よりも外側に形成された非晶質ケイ素化合物層はこのような欠陥を有さないために、結果的に顕著に優れた耐水性を発揮できるためと考えられる。なお、非晶質ケイ素化合物層を有さない比較例2のアルミニウム顔料においては、水素が過剰に発生したために、その発生量を測定することができなかった。
【0111】
また図5を参照し、実施例3の酸化チタン層にはTiO0.5が含まれていた。酸化チタンは、酸素欠損が増えるにつれて、酸化チタン中に光が吸収され易くなり、これにより、黒色を呈することが知られている。実施例3の結果から、TiOxのX値が0.50の場合であっても、酸化チタン層は黒色を呈するとみなした。
【0112】
以下に本発明の使用例および製造例を示す。
〈使用例1:黒色ベース塗料〉
組成Aを具備する組成物100質量部に対して、下記シンナーにてスプレー塗装に適した粘度(フォードカップ#4で12~15秒)に希釈した後、スプレー塗装にてベースコート層を形成した。形成されたベースコート層上に、下記クリア塗料を塗布した後、室温で20分間風乾し、次いで130℃で30分間焼付けを行なった。得られた塗膜は隠ぺい力に優れた光輝性の黒色を呈していた。なお黒色アルミニウム顔料には、実施例5の黒色アルミニウム顔料を用いた。
【0113】
(組成A)
アクリディック47-712 64質量部
スーパーベッカミンG821-60 27質量部
黒色アルミニウム顔料 9質量部。
【0114】
(シンナー)
酢酸エチル 50質量部
トルエン 30質量部
n-ブタノール 10質量部
ソルベッソ#150 40質量部。
【0115】
(クリア塗料)
アクリディック44-179 14質量部
スーパーベッカミンL117-60 6質量部
トルエン 4質量部
MIBK 4質量部
ブチルセロソルブ 3質量部。
【0116】
以下製造例1および製造例2の化粧料を製造した。製造された化粧料は、優れたメタリック感と黒色とを呈した。なお黒色アルミニウム顔料には、実施例5の黒色アルミニウム顔料を用いた。
【0117】
〈製造例1:ヘアジェル〉
カルボキシビニルポリマー 5.0質量部
エチルアルコール 2.0質量部
PEG1500 1.0質量部
アミノメチルプロパノール 1.5質量部
メチルパラベン 0.1質量部
黒色アルミニウム顔料 7.0質量部
精製水 83.4質量部。
【0118】
〈製造例2:ネイルエナメル〉
ニトロセルロース(粘度1/2秒) 10.0質量部
アルキッド樹脂 10.0質量部
クエン酸アセトトリブチル 5.0質量部
酢酸エチル 25.0質量部
酢酸ブチル 40.0質量部
エチルアルコール 5.0質量部
黒色アルミニウム顔料 5.0質量部。
【0119】
今回開示された実施形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0120】
1 アルミニウム粒子、2 被膜、3 酸化チタン層、4 非晶質ケイ素化合物層、10 黒色アルミニウム顔料。
図1
図2
図3
図4
図5