(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】ガラス膜付き部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 24/04 20060101AFI20230831BHJP
C03C 17/04 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C23C24/04
C03C17/04 Z
(21)【出願番号】P 2019237305
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】392020705
【氏名又は名称】テクノクオーツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】湯本 敦史
(72)【発明者】
【氏名】加藤 征秀
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-346946(JP,A)
【文献】特開2018-207054(JP,A)
【文献】湯本敦史,超音速フリージェットPVDによるナノ結晶厚膜の形成,表面技術,日本,一般社団法人 表面技術協会,2018年,69巻(2018)11号,第511-515頁(第35-39頁)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/04
C23C 24/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガラスに不活性ガス雰囲気中で波長400nm以上のレーザー光を照射することと、前記照射により生成する前記原料ガラスの粒子を超音速ガス流により加速させて基材に到達させることと、を並行して行う工程を有
し、前記原料ガラスの表面の少なくともレーザー光が照射される部分が粗化されている、ガラス膜付き部材の製造方法。
【請求項2】
前記レーザー光の波長は可視光域である、請求項1に記載のガラス膜付き部材の製造方法。
【請求項3】
前記レーザー光の波長は532nmである、請求項1又は請求項2に記載のガラス膜付き部材の製造方法。
【請求項4】
前記原料ガラスへのレーザー光の照射と、前記粒子の基材への到達とが気圧の異なる空間でそれぞれ行われ、前記原料ガラスにレーザー光を照射する空間の気圧が前記粒子を基材に到達させる空間の気圧よりも大きい、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のガラス膜付き部材の製造方法。
【請求項5】
前記粒子を含むガスの流速が超音速ノズルを用いて加速され、前記ガスが前記基材に超音速で到達する、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のガラス膜付き部材の製造方法。
【請求項6】
前記粒子を含むガスの温度は80℃以上である、請求項5に記載のガラス膜付き部材の製造方法。
【請求項7】
前記基材上に到達した前記粒子により形成されるガラス膜の厚みが5μm以上である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載のガラス膜付き部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス膜付き部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスは化学的安定性と電気的特性に優れていることから、半導体部品を製造する装置の部材などとして広く利用されている。その一方で加工性に難があり、複雑な形状の部材を得るのが困難である、材料の調達コストが高いなどの問題がある。そこで、別の基材の表面にガラス膜を形成したものを部材として利用することが検討されている。さらに、金属や磁石の表面にガラス膜を形成して電気や磁力を遮断する技術に対する需要もある。
【0003】
ガラス膜の形成方法としては、スパッタリング、真空蒸着等の物理的蒸着法(PVD)、化学的蒸着法(CVD)等の気相法、溶融状態の粒子を基材に付着させて膜を形成する溶射法などがある。気相法は一般に薄膜(厚みが1μm以下)を形成するのに適した技術であり、厚膜の形成には不向きである。これに対して溶射法は一般に厚膜の形成にも適している。溶射法をガラス膜の形成に応用する試みとして、例えば、特許文献1には、厚みが0.1mm~1mmのガラス膜をプラズマ溶射法で形成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
溶射法では原料を溶融させたものを基材に吹き付けて膜を形成するが、原料がガラスであると溶融物が昇華(ガス化)しやすく、原料に対して膜として堆積する割合が小さいために製品歩留まりの点で改善の余地があることが本発明者らの検討によりわかった。また、ガラス膜の形成方法を新たに見出すことはガラス膜の形成技術及びこれを用いる産業の発展に寄与するものである。
上記事情に鑑み、本発明は、新規なガラス膜付き部材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>原料ガラスに不活性ガス雰囲気中で波長400nm以上のレーザー光を照射することと、前記照射により生成する前記原料ガラスの粒子を超音速ガス流により加速させて基材に到達させることと、を並行して行う工程を有する、ガラス膜付き部材の製造方法。
<2>前記レーザー光の波長は可視光域である、<1>に記載のガラス膜付き部材の製造方法。
<3>前記レーザー光の波長は532nmである、<1>又は<2>に記載のガラス膜付き部材の製造方法。
<4>前記原料ガラスへのレーザー光の照射と、前記粒子の基材への到達とが気圧の異なる空間でそれぞれ行われ、前記原料ガラスにレーザー光を照射する空間の気圧が前記粒子を基材に到達させる空間の気圧よりも大きい、<1>~<3>のいずれか1項に記載のガラス膜付き部材の製造方法。
<5>前記粒子を含むガスの流速が超音速ノズルを用いて加速され、前記ガスが前記基材に超音速で到達する、<1>~<4>のいずれか1項に記載のガラス膜付き部材の製造方法。
<6>前記粒子を含むガスの温度は80℃以上である、<5>に記載のガラス膜付き部材の製造方法。
<7>前記基材上に到達した前記粒子により形成されるガラス膜の厚みが5μm以上である、<1>~<6>のいずれか1項に記載のガラス膜付き部材の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、新規なガラス膜付き部材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】ガラス膜付き部材の製造方法に用いる装置の構成の一例を概略的に示す図である。
【
図2】実施例で作製したガラス膜の分析結果を示す図である。
【
図3】実施例で作製したガラス膜の分析結果を示す図である。
【
図4】実施例で作製したガラス膜付き基材の断面写真である。
【
図5】実施例で作製したガラス膜付き基材の断面写真である。
【
図6】実施例で作製したガラス膜付き基材の断面写真である。
【
図7】実施例で作製したガラス膜付き基材の断面写真である。
【
図8】実施例で作製したガラス膜付き基材の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
【0010】
<ガラス膜付き部材の製造方法>
本開示のガラス膜付き部材の製造方法は、原料ガラスに不活性ガス雰囲気中で波長400nm以上のレーザー光を照射すること、前記照射により生成する前記原料ガラスの粒子を超音速ガス流により加速させて基材に到達させることと、を並行して行う工程を有する。
【0011】
上記方法は、ガラス膜の形成技術としてこれまで報告されていない新規な方法である。さらに上記方法によれば、従来の気相法では困難であった厚みのある(例えば、厚みが5μm以上である)ガラス膜の形成が可能になる。また、溶着法に比べて原料の損失が少なく、生産性に優れている。
【0012】
上記方法では、不活性ガス雰囲気中で原料ガラスに波長400nm以上のレーザー光を照射する。これにより、原料ガラスが蒸発してナノレベルの微小な粒子が生成すると考えられる。不活性雰囲気中でナノレベルの粒子を生成させる手法については、公知のガス中蒸発法を参照できる。
【0013】
レーザー光の照射により生成した粒子は、超音速(すなわち、マッハ数Mが1より大きい)ガス流により加速させて基材の表面に到達させる。これにより、基材の表面に到達する際の粒子に充分な運動エネルギーが付与されて、ち密なガラス膜が基材上に形成される。
【0014】
上記方法で使用する原料ガラスの種類は、特に制限されない。例えば、二酸化ケイ素(SiO2)を主成分とし、必要に応じてホウ酸(B2O3)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化鉛(PbO)、酸化ナトリウム(Na2O)、酸化カリウム(K2O)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化バリウム(BaO)等を副次成分として含むものが挙げられる。
上記ガラスの中でも、二酸化ケイ素を高純度(例えば、99質量%以上)で含む石英ガラスは、半導体等の工業用途における利用の拡大が期待されている。
【0015】
上記方法で使用する基材の種類は、特に制限されない。例えば、金属、セラミックス、磁石、ガラス、カーボン等の無機材料であってもよく、プラスチック等の有機材料であってもよい。
上記方法は、CVD法等のように基材を高温にしなくても実施できるため、多様な材料を基材として使用することができる。また、基材の冷却に伴う体積収縮に起因するガラス膜の反り、ひび等が発生しにくい。
【0016】
上記方法で使用する原料ガラスは、表面の少なくともレーザー光が照射される部分が粗化されていてもよい。表面が粗化されていることで、レーザー光が原料ガラスを透過することが抑えられ、原料ガラスの蒸発及び粒子の生成を効率よく行うことができる。
原料ガラスの表面を粗化する方法は特に制限されず、物理的方法、化学的方法又はこれらの組み合わせにより行うことができる。
原料ガラスの粗化された表面の粗さの程度は特に制限されず、使用するレーザー光の種類、波長、照射強度等に応じて設定できる。
【0017】
上記方法では、波長400nm以上のレーザー光を使用する。レーザー光の媒体は特に制限されず、固体レーザー、液体レーザー、ガスレーザー等を使用することができる。
レーザー光の波長の上限値は特に制限されない。例えば、CO2レーザーの波長である10.6μm以下であってもよい。
【0018】
作業性及び安全性の観点からは、レーザー光の波長は近赤外域又は可視光域であることが好ましく、可視光域であることがより好ましい。例えば、NdドープYAGレーザーの波長である1064nm、又はこれを変換して得られる532nmを好適に使用できる。
レーザー光の照射強度は、特に制限されない。例えば、10mJ~850mJの範囲内であってもよい。
【0019】
原料ガラスにレーザー光を照射する際の不活性ガス雰囲気は、レーザー光の照射により原料ガラスの粒子が生成する条件であれば特に制限されない。例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素等から1種又は2種以上を、使用する原料ガラスの種類等に応じて選択できる。
不活性ガス雰囲気は、原料ガラスの粒子の生成が妨げられない範囲において、水蒸気及び酸素の少なくとも一方を含んでもよい。例えば、水蒸気及び酸素の合計で全体の10体積%まで含んでもよい。
【0020】
レーザー光の照射により生成した粒子を基材の表面まで到達させる方法は、特に制限されない。例えば、原料ガラスへのレーザー光の照射と、粒子の基材への到達とをそれぞれ気圧の異なる空間で実施し、その気圧差を利用してもよい。
具体的には、原料ガラスへのレーザー光の照射を実施する空間の気圧Aが、粒子を基材に到達させる空間の気圧Bよりも大きい(A>Bの関係を満たす)状態にすることで、レーザー光の照射により生成した粒子を基材の表面まで好適に到達させることができる。
【0021】
気圧Aに対して気圧Bが相対的に小さいほど、粒子を基材の表面まで到達させやすい。例えば、気圧Aに対する気圧Bの比(B/A)は0.45以下であることが好ましく、0.25以下であることがより好ましく、0.15以下であることがさらに好ましい。気圧Aに対する気圧Bの比(B/A)の下限値は特に制限されないが、例えば、0.0037以上であってもよい。
【0022】
上記方法において、原料ガラスの粒子を基材に超音速で到達させる方法は特に制限されない。例えば、原料ガラスの粒子を含む超音速ガス流を基材に到達させてもよい。
原料ガラスの粒子を含む超音速ガス流を基材に到達させる方法としては、超音速ノズル(ラバール・ノズル)を用いて粒子を含むガスの流速を加速させて、このガスを基材に到達させる方法が挙げられる。具体的には、原料ガラスの粒子を含むガス流を、超音速ノズルを通過させる。
【0023】
超音速ノズルは、中程が狭まった管の形状を有しており、内部を通過するガスの流速が加速される装置である。超音速ノズルの形状、大きさ等を調節することで、所望の加速を得ることができる。超音速ノズルの形状、大きさ等は特に制限されず、使用する成膜装置の形状、大きさ、不活性ガスの種類等に応じて設定できる。
超音速ノズルの設計に関しては、例えば、特開2018-141208号公報に記載されている。
【0024】
超音速ノズルを用いたガス流の加速の度合いは、例えば、ノズル出口におけるマッハ数Mが1.5以上であることが好ましく、マッハ数Mが3以上であることがより好ましく、マッハ数Mが4以上であることがさらに好ましい。ノズル出口におけるマッハ数の上限は特に制限されないが、5以下であることが好ましい。
【0025】
超音速ノズルによって加速されるガスの流速は、ガスの温度が高いほど速くなる。したがって、超音速ノズルによる加速の効果を充分に得る観点からは、超音速ノズルを通過するガスの温度は高いほど好ましい。
例えば、超音速ノズルを通過するガスの温度は80℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましく、500℃以上であることがさらに好ましい。上記温度の上限は特に制限されないが、粒子のガス化を抑制する観点からは、1,000℃以下であることが好ましい。ガスの温度は、例えば、超音速ノズルの周囲にノズルヒーター等の加熱手段を設けることで調節することができる。
【0026】
上記方法で基材上に形成されるガラス膜の厚みは特に制限されないが、例えば、5μm~1,000μmの範囲内であってもよい。
【0027】
以下、本発明の方法に使用する装置の一例について図面を参照して説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
図1に示す装置10は、原料ガラス21を収容する第1チャンバ20と、表面にガラス膜を形成するための基材31を収容する第2チャンバ30と、これらを連結するパイプ40とを備えている。
第1チャンバ20は、原料ガラス21を載せるステージ22と、原料ガラス21にレーザー光を照射する照射機構23と、チャンバ内部に不活性ガスを供給するガス供給機構24と、を備えている。
第2チャンバは基材31を固定するステージ32と、内部を減圧する減圧機構33と、を備えている。
パイプ40は、粒子を含むガスの流速を超音速に加速する超音速ノズル41を備えている。
【0029】
第1チャンバ20及び第2チャンバ30の内部は不活性ガスで満たされ、第2チャンバ30の内部の気圧が第1チャンバ20の内部の気圧より低くなるように調節されている。例えば、それぞれ10kPa~90kPa(第1チャンバ)、0.037kPa~43.8kPa(第2チャンバ)となるように調節されている。
【0030】
第1チャンバ20の内部の原料ガラス21にレーザー光を照射すると、原料ガラス21が蒸発して微小な粒子が生成する。生成した粒子を含むガスは、第1チャンバ20から第2チャンバ30へとパイプ40を介して移動する。
【0031】
パイプ40に設けられた超音速ノズル41により加速された粒子を含むガスは、超音速で基材31に到達し、基材31の表面に付着してガラス膜を形成する。超音速ノズル41の周囲にはノズルヒーター42が設けられ、超音速ノズル41を加熱することで、超音速ノズル42による加速効果を高めている。
【0032】
図1に示す装置10は第1チャンバ20が重力方向にみて下に位置し、第2チャンバ30が重力方向にみて上に位置するが、その他の方法で配置されてもよい。例えば、第1チャンバ20が重力方向にみて上に位置し、第2チャンバ30が重力方向にみて下に位置してもよく、双方が横に並んで配置されてもよい。
【0033】
図1に示す照射機構23は、レーザー光を第1チャンバ20の内部に透過させる窓23a、レーザー光の方向に沿って移動可能なレンズ23b、レーザー光を反射して方向を変換するミラー23c及び出力計23dを備えているが、これらの構成に限定されるものではない。また、媒体としてNdドープYAG(波長532nm)を用いているが、これに限定されるものではない。
【0034】
図1に示すガス供給機構24は、バルブ24aとガス流量計24bとを備えているが、これらの構成に限定されるものではない。
【0035】
図1に示す減圧機構33は、バルブ33a、メカニカルブースターポンプ33b及びロータリーポンプ33cを備えているが、これらの構成に限定されるものではない。
【0036】
図1に示すステージ32は、固定されていても移動可能であってもよい。ステージ32が移動可能である場合、移動の方向は特に制限されず、2次元(XY方向)であっても3次元(XYZ方向)であってもよい。ステージ32が移動可能であると、例えば、立体的な基材の表面にガラス膜を形成するうえで有利である。
【0037】
図1に示す装置を構成する各部材は、ガラス製であるか、表面がガラス膜で被覆されてもよい。例えば、装置を構成する第1チャンバ20、第2チャンバ30、パイプ40及び超音速ノズル41の内部を高純度石英ガラス膜で被覆することで、原料ガラスから生成する粒子を含むガスへの異物の混入が抑制され、基材表面により高純度な石英ガラス膜を形成することができる。
【0038】
<ガラス膜付き部材>
本開示のガラス膜付き部材は、上述したガラス膜付き部材の製造方法により製造される。このため、従来の方法では形成が困難であった厚みのある(例えば、厚みが5μm以上である)ガラス膜を備えている。また、溶着法より原料の損失が少ない方法でガラス膜を形成できるため、生産性にも優れている。
【0039】
本開示のガラス膜付き部材の用途は特に制限されない。例えば、半導体部品の製造装置として好適に用いられる。
ガラス膜付き部材は、基材の表面の一部にガラス膜が形成されていても、全体にガラス膜が形成されていてもよい。例えば、容器の形状をした基材の内壁にのみガラス膜が形成されてもよい。あるいは、純度の低いガラスや金属からなる基材の表面の必要な部分にのみ高純度石英ガラス膜を形成することで、ガラス膜付き部材の強度確保、コスト低減等を達成することができる。
ガラス膜付き部材のガラス膜が形成される部分は、平坦であっても非平坦(曲面、凹凸面等)であってもよい。
ガラス膜付き部材のガラス膜が摩耗した場合、摩耗した部分に改めてガラス膜を形成してもよい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0041】
<実施例1>
図1に示す構成の装置を用いて、アルミニウム合金(A5052)からなる基材の表面にガラス膜を形成した。
原料ガラスとしての表面を粗化した合成石英ガラスを配置した第1チャンバ内をヘリウムで満たし、気圧が90kPaとなるように調整した状態で、NdドープYAGパルスレーザー(532nm)を照射強度2.5Wで原料ガラスの表面に照射した。基材が配置されている第2チャンバの内部の気圧は、第1チャンバよりも低い720Paとなるように調整した。
【0042】
レーザー光の照射により生じた粒子を含むガスは、超音速ノズルを備えるパイプを介して基材が配置される第2チャンバに移動し、基材に到達させた。超音速ノズルとしては、ノズル出口におけるガスの流速がマッハ数M=4.2(約5,000m/秒)となるものを使用した。また、超音速ノズルの周囲の温度が550℃となるようにノズルヒーターを用いて調整した。
【0043】
基材に到達した粒子が堆積して厚みが約5μmのガラス膜が表面に形成された基材を装置から取り出し、厚み方向に切断した。
得られた皮膜断面の分析を、透過電子顕微鏡(TEM、株式会社日立ハイテクノロジーズ「H-9500」)を用いた高倍率観察及び電子回折測定により実施した。
【0044】
(高倍率観察の測定条件)
加速電圧:200kV
撮影倍率:2,000,000倍
【0045】
(制限視野電子回折測定の測定条件)
加速電圧:200kV
カメラ長:1.0m
制限視野領域:直径約100nm
【0046】
分析結果を
図2(高倍率観察)及び
図3(電子回折測定)に示す。
図2に示すように、皮膜断面のTEM像はアモルファス特有の一様な組織の状態であった。また、
図3に示すように、電子回折図形において結晶構造に起因するパターンは確認されなかった。
以上の結果から、基材表面に形成された皮膜は非晶質のガラス膜であることが確認された。
【0047】
<実施例2>
図1に示す構成の装置を用いて、ガラス製の基材の表面にガラス膜を形成した。
原料ガラスとしての表面を粗化した合成石英ガラスを配置した第1チャンバ内をヘリウムで満たし、気圧が30kPaとなるように調整した状態で、NdドープYAGパルスレーザー(532nm)を照射強度2.5Wで原料ガラスの表面に照射した。基材が配置されている第2チャンバの内部の気圧は、第1チャンバよりも低い240Paとなるように調整した。
【0048】
レーザー光の照射により生じた粒子を含むガスは、超音速ノズルを備えるパイプを介して基材が配置される第2チャンバに移動し、基材に到達させた。超音速ノズルとしては、ノズル出口におけるガスの流速がマッハ数M=4.2(約5,000m/秒)となるものを使用した。また、超音速ノズルの周囲の温度が550℃となるようにノズルヒーターを用いて調整した。
【0049】
基材に到達した粒子が堆積して厚みが1.5μm程度のガラス膜が表面に形成された基材を装置から取り出し、厚み方向に切断したときの断面の電子顕微鏡像を
図4に示す。
【0050】
<実施例3>
第1チャンバ内の気圧を90kPaに調整したこと、及び第2チャンバ内の気圧を720Paとなるように調整したこと以外は実施例2と同様にして、基材上に厚みが約10μmのガラス膜を形成した。基材を厚み方向に切断したときの断面の電子顕微鏡像を
図5に示す。
【0051】
<実施例4>
アルミニウム製の基材を用いたこと以外は実施例2と同様にして、基材上に厚みが約6μmのガラス膜を形成した。基材を厚み方向に切断したときの断面の電子顕微鏡像を
図6に示す。
【0052】
<実施例5>
アルミニウム製の基材を用いたこと以外は実施例2と同様にして、基材上に厚みが約45μmのガラス膜を形成した。基材を厚み方向に切断したときの断面の電子顕微鏡像を
図7に示す。
【0053】
<実施例6>
第1チャンバ内の気圧を90kPa、第2チャンバ内の気圧を720Paとなるように調整したこと、レーザー光の照射強度を2.0Wとしたこと、及びシリコン製の基材を用いたこと以外は実施例2と同様にして、基材上に厚みが約3.2μmのガラス膜を形成した。基材を厚み方向に切断したときの断面の電子顕微鏡像を
図8に示す。
【符号の説明】
【0054】
10…装置
20…第1チャンバ
21…原料ガラス
22…ステージ
23…照射機構
23a…窓
23b…レンズ
23c…ミラー
23d…出力計
24…ガス供給機構24
24a…バルブ
24b…ガス流量計
30…第2チャンバ
31…基材
32…ステージ
33…減圧機構33
33a…バルブ
33b…メカニカルブースターポンプ
33c…ロータリーポンプ
40…パイプ
41…超音速ノズル41
42…ノズルヒーター42