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特許7340179導体の製造方法、配線基板の製造方法及び導体形成用組成物
<図1>
  • 特許-導体の製造方法、配線基板の製造方法及び導体形成用組成物 図1
  • 特許-導体の製造方法、配線基板の製造方法及び導体形成用組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】導体の製造方法、配線基板の製造方法及び導体形成用組成物
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20230831BHJP
   H05K 3/10 20060101ALI20230831BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H05K3/10 C
H05K3/18 H
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2020521150
(86)(22)【出願日】2019-05-09
(86)【国際出願番号】 JP2019018573
(87)【国際公開番号】W WO2019225340
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2018099681
(32)【優先日】2018-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599016431
【氏名又は名称】学校法人 芝浦工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大石 知司
(72)【発明者】
【氏名】吉田 育史
(72)【発明者】
【氏名】平山 克郎
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-119431(JP,A)
【文献】特開2014-031577(JP,A)
【文献】特開2008-294060(JP,A)
【文献】国際公開第2017/135330(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H05K 3/10
H05K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル錯体と、前記ニッケル錯体を溶解しうる溶媒とを含む組成物を基板に付与して組成物層を形成する工程と、前記組成物層に光照射を行ってニッケルを析出させる工程と、を含み、前記ニッケル錯体が、炭素数が20以上であるカウンターアニオンと有機溶媒に可溶な塩を形成している、導体の製造方法。
【請求項2】
前記析出したニッケルの上に金属めっきを施す工程をさらに含む、請求項1に記載の導体の製造方法。
【請求項3】
前記光照射がCOレーザ、Erレーザ、キセノンランプ及びエキシマランプからなる群より選択される少なくとも1種を用いて行われる、請求項1又は請求項2に記載の導体の製造方法。
【請求項4】
前記光照射がパターン状に行われる、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の導体の製造方法。
【請求項5】
大気中で行われる、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の導体の製造方法。
【請求項6】
前記ニッケル錯体が配位子としてアミン化合物を含む、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の導体の製造方法。
【請求項7】
前記ニッケル錯体が配位子としてアミノアルコールを含む、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の導体の製造方法。
【請求項8】
前記カウンターアニオンがテトラフェニルホウ酸イオンである、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載の導体の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒が有機溶媒である、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の導体の製造方法。
【請求項10】
基板と、前記基板上に配置されるニッケル配線とを備える配線基板の製造方法であり、ニッケル錯体と、前記ニッケル錯体を溶解しうる溶媒とを含む組成物を前記基板に付与して組成物層を形成する工程と、前記組成物層に光照射を行ってニッケルを析出させる工程と、を含み、前記ニッケル錯体が、炭素数が20以上であるカウンターアニオンと有機溶媒に可溶な塩を形成している、配線基板の製造方法。
【請求項11】
前記析出したニッケルの上に金属めっきを施す工程をさらに含む、請求項10に記載の配線基板の製造方法。
【請求項12】
前記光照射がCOレーザ、Erレーザ、キセノンランプ及びエキシマランプからなる群より選択される少なくとも1種を用いて行われる、請求項10又は請求項11に記載の配線基板の製造方法。
【請求項13】
前記光照射がパターン状に行われる、請求項10~請求項12のいずれか1項に記載の配線基板の製造方法。
【請求項14】
大気中で行われる、請求項10~請求項13のいずれか1項に記載の配線基板の製造方法。
【請求項15】
前記ニッケル錯体が配位子としてアミン化合物を含む、請求項10~請求項14のいずれか1項に記載の配線基板の製造方法。
【請求項16】
前記ニッケル錯体が配位子としてアミノアルコールを含む、請求項10~請求項15のいずれか1項に記載の配線基板の製造方法。
【請求項17】
前記カウンターアニオンがテトラフェニルホウ酸イオンである、請求項10~請求項16のいずれか1項に記載の配線基板の製造方法。
【請求項18】
前記溶媒が有機溶媒である、請求項10~請求項17のいずれか1項に記載の配線基板の製造方法。
【請求項19】
ニッケル錯体と、前記ニッケル錯体を溶解しうる溶媒とを含み、前記ニッケル錯体が、炭素数が20以上であるカウンターアニオンと有機溶媒に可溶な塩を形成している、導体形成用組成物。
【請求項20】
前記ニッケル錯体が配位子としてアミン化合物を含む、請求項19に記載の導体形成用組成物。
【請求項21】
前記ニッケル錯体が配位子としてアミノアルコールを含む、請求項19又は請求項20に記載の導体形成用組成物。
【請求項22】
前記カウンターアニオンがテトラフェニルホウ酸イオンである、請求項19~請求項21のいずれか1項に記載の導体形成用組成物。
【請求項23】
前記溶媒が有機溶媒である、請求項19~請求項22のいずれか1項に記載の導体形成用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体の製造方法、配線基板の製造方法及び導体形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種電子デバイス、電気機器類などの素子及び配線を印刷法により形成する、プリンタブルエレクトロニクスと呼ばれる技術が注目されている。真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法等による従来の方法は大掛かりな設備を必要とし、これが製品の高コスト化の大きな要因となっている。また、これらの方法では一般に配線となる部分を残し、その他の部分をエッチング等により除去する工程を伴うため、材料利用の非効率、廃棄物の処分などの問題点が存在する。これに対してプリンタブルエレクトロニクスでは、配線材料を含む塗布液を基板に印刷し、これを熱処理して配線を形成する。このため、高価な装置を必要としない、配線形成に伴う廃棄物が生じないなどの利点を有する。
【0003】
一方、配線材料としては金、銀等の貴金属に代わってより低価格でマイグレーションの発生もない銅、ニッケル等の金属の使用が検討されている。しかしながら、これらの金属は酸化され易い性質を有しているため、配線形成を不活性ガス雰囲気下で行う等の酸化防止のための対策が必要であり、これが低コスト化を妨げる要因の一つとなっている。
【0004】
金属の酸化を抑制する方法としては、金属粒子の表面を有機物又は無機物で被覆する方法が種々検討されている。例えば、特許文献1には亜酸化銅を含む被覆層と、長鎖脂肪族アミンを含む被覆層とを備える銅微粒子を用いて回路を形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-1443号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されている方法では、被覆を有する銅微粒子を作製する必要があり低コスト化の観点から改善の余地がある。そこで、より簡便な手法で金属の酸化を抑制しながら導体を形成しうる技術の開発が求められている。
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、酸化を抑制しながら導体を形成可能な導体の製造方法、配線基板の製造方法及び導体形成用組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>ニッケル錯体と、前記ニッケル錯体を溶解しうる溶媒とを含む組成物を基板に付与して組成物層を形成する工程と、前記組成物層に光照射を行ってニッケルを析出させる工程と、を含む導体の製造方法。
<2>前記析出したニッケルの上に金属めっきを施す工程をさらに含む、<1>に記載の導体の製造方法。
<3>前記光照射がCOレーザ、Erレーザ、キセノンランプ及びエキシマランプからなる群より選択される少なくとも1種を用いて行われる、<1>又は<2>に記載の導体の製造方法。
<4>前記光照射がパターン状に行われる、<1>~<3>のいずれか1項に記載の導体の製造方法。
<5>大気中で行われる、<1>~<4>のいずれか1項に記載の導体の製造方法。
<6>前記ニッケル錯体が配位子としてアミン化合物を含む、<1>~<5>のいずれか1項に記載の導体の製造方法。
<7>前記ニッケル錯体が配位子としてアミノアルコールを含む、<1>~<6>のいずれか1項に記載の導体の製造方法。
<8>前記ニッケル錯体がカウンターアニオンと有機溶媒に可溶な塩を形成している、<1>~<7>のいずれか1項に記載の導体の製造方法。
<9>前記溶媒が有機溶媒である、<1>~<8>のいずれか1項に記載の導体の製造方法。
<10>基板と、前記基板上に配置されるニッケル配線とを備える配線基板の製造方法であり、ニッケル錯体と、前記ニッケル錯体を溶解しうる溶媒とを含む組成物を前記基板に付与して組成物層を形成する工程と、前記組成物層に光照射を行ってニッケルを析出させる工程と、を含む配線基板の製造方法。
<11>前記析出したニッケルの上に金属めっきを施す工程をさらに含む、<10>に記載の配線基板の製造方法。
<12>前記光照射がCOレーザ、Erレーザ、キセノンランプ及びエキシマランプからなる群より選択される少なくとも1種を用いて行われる、<10>又は<11>に記載の配線基板の製造方法。
<13>前記光照射がパターン状に行われる、<10>~<12>のいずれか1項に記載の配線基板の製造方法。
<14>大気中で行われる、<10>~<13>のいずれか1項に記載の配線基板の製造方法。
<15>前記ニッケル錯体が配位子としてアミン化合物を含む、<10>~<14>のいずれか1項に記載の配線基板の製造方法。
<16>前記ニッケル錯体が配位子としてアミノアルコールを含む、<10>~<15>のいずれか1項に記載の配線基板の製造方法。
<17>前記ニッケル錯体がカウンターアニオンと有機溶媒に可溶な塩を形成している、<10>~<16>のいずれか1項に記載の配線基板の製造方法。
<18>前記溶媒が有機溶媒である、<10>~<17>のいずれか1項に記載の配線基板の製造方法。
<19>ニッケル錯体と、前記ニッケル錯体を溶解しうる溶媒とを含む導体形成用組成物。
<20>前記ニッケル錯体が配位子としてアミン化合物を含む、<19>に記載の導体形成用組成物。
<21>前記ニッケル錯体が配位子としてアミノアルコールを含む、<19>又は<20>に記載の導体形成用組成物。
<22>前記ニッケル錯体がカウンターアニオンと有機溶媒に可溶な塩を形成している、<19>~<21>のいずれか1項に記載の導体形成用組成物。
<23>前記溶媒が有機溶媒である、<19>~<22>のいずれか1項に記載の導体形成用組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸化を抑制しながら導体を形成可能な導体の製造方法、配線基板の製造方法及び導体形成用組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】析出したニッケルの上に無電解銅めっきを実施したときの状態を示す写真(左:デジタルマイクロスコープで撮影、右:レーザ顕微鏡で撮影)である。
図2】析出したニッケルの上に無電解ニッケルめっきを実施したときの状態を示す写真(左:デジタルマイクロスコープで撮影、右:レーザ顕微鏡で撮影)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
【0012】
<導体の製造方法>
本開示の導体の製造方法は、ニッケル錯体と、前記ニッケル錯体を溶解しうる溶媒とを含む組成物を基板に付与して組成物層を形成する工程と、前記組成物層に光照射を行ってニッケルを析出させる工程と、を含む。
【0013】
上記方法では、基板上に形成された組成物層に光照射を行うことでニッケルが析出する。具体的には、光照射を行うと照射部が瞬間的に熱せられ、この熱によってニッケル錯体の配位子の結合が切断され、ニッケルイオンが還元されてニッケルが析出する。このとき、ニッケル錯体を構成していた配位子は熱によりCO、HO、N等に分解され、気体となって除去されるため、高純度な導体が得られる。導体の形状は特に制限されず、膜状であってもパターン状であってもその他の形状であってもよい。
【0014】
上記方法では、析出により生じたニッケルのナノ粒子同士が溶融して成長し、光照射領域に導体が形成されると考えられる。また、この反応が極めて短時間のうちに進行するために、酸素と反応する前にニッケルが析出して導体が形成されると考えられる。このため、一連の工程を大気中で実施することが可能となる。
【0015】
さらに、析出したニッケルのナノ粒子は、いわゆるサイズ効果によりニッケルの融点よりも低い温度で溶融するため、低エネルギーで導体を形成することができる。また、光照射された領域外の組成物層は、ニッケル錯体を溶解しうる溶剤等を用いて容易に除去することができるため、低コスト化の点でも有利である。また、ニッケル錯体を溶解しうる溶媒を組成物に用いることで、金属粒子を用いる場合のように凝集、酸化等の問題が生じず保存安定性に優れている。
【0016】
(ニッケル錯体)
上記方法で使用するニッケル錯体は、配位子とニッケル原子とを含むものであれば特に制限されないが、安定性の観点からは窒素原子を含有する配位子を含むものが好ましく、配位子としてアミン化合物を含むものがより好ましい。ニッケル錯体は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0017】
ニッケル錯体を構成する配位子としてのアミン化合物としては、メチルアミン、エチルアミン等のモノアルキルアミン化合物、ジエチルアミン等のジアルキルアミン化合物、トリエチルアミン等のトリアルキルアミン化合物、エチレンジアミン等のアルキレンジアミン化合物、アミノアルコールなどが挙げられる。
【0018】
ある実施態様では、ニッケル錯体はアルキレンジアミン化合物の2分子がニッケル原子に配位したものであってもよく、エチレンジアミンの2分子がニッケル原子に配位したもの(ビス(エチレンジアミン)ニッケル(II))であってもよい。なお、このニッケル錯体は水又はアルコール溶媒に可溶である。
【0019】
ある実施態様では、ニッケル錯体は配位子としてアミノアルコールを含むものであってもよい。配位子としてアミノアルコールを含むニッケル錯体は、水と有機溶媒の両方に可溶である。
【0020】
ニッケル錯体を有機溶媒に可溶にすることで、ニッケル錯体を含む組成物の溶媒として有機溶媒を用いることが可能になる。その結果、水系溶媒を用いると表面張力によって均一な組成物層の形成が困難な基板の上にもニッケルの導体を形成することができる。このため、撥水性の基板上に導体を形成する場合に好適である。
【0021】
溶媒に対する溶解性の観点からは、ニッケル原子に配位するアミノアルコールの分子の数は4~6であることが好ましい。ニッケル原子に配位するアミノアルコールの分子の数が大きいほど溶媒に対する溶解性が上昇する傾向にある。
【0022】
アミノアルコールは、アルカン骨格にアミノ基とヒドロキシ基が結合した化合物であり、アルカン骨格中のアミノ基とヒドロキシ基の位置は特に制限されない。アミノアルコールとして具体的には、2-アミノエタノール、2-アミノ-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、メタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、プロパノールアミン等が挙げられる。
【0023】
ある実施態様では、ニッケル錯体はカウンターアニオンと塩を形成していてもよい。ニッケル錯体と塩を形成するカウンターアニオンの種類を選択することで、ニッケル錯体を有機溶媒に可溶にすることができる。例えば、上述した水又はアルコール溶媒に可溶であるエチレンジアミンのニッケル錯体を、非極性の有機溶媒に可溶にすることができる。
【0024】
ニッケル錯体と塩を形成しうるカウンターアニオンは、有機溶媒への溶解性を高める観点からは分子量が大きいものほど好ましい。
【0025】
ある実施態様では、カウンターアニオンは分子中に炭化水素基を有する化合物であってもよく、炭化水素基とハロゲン原子とを有する化合物であってもよい。炭化水素基としてはアルキル基、アリール基等が挙げられる。炭化水素基の炭素数は特に制限されないが、たとえば、カウンターアニオン(2分子で塩を形成する場合はその合計)の炭素数が20以上であってもよく、40以上であってもよい。分子中に炭化水素基とハロゲン原子とを有するカウンターアニオンとして具体的には、テトラフェニルホウ酸イオンが挙げられる。
【0026】
ある実施態様では、ニッケル錯体とカウンターアニオンを含む塩は、ニッケル錯体1分子と、カウンターアニオン2分子とを含む塩であってもよい。
【0027】
組成物中のニッケル錯体の含有率は特に制限されないが、例えば組成物全体の5質量%~90質量%の範囲内であってよく、10質量%~80質量%の範囲内であることが好ましい。
【0028】
(溶媒)
組成物に含まれる溶媒は、ニッケル錯体又はその塩を溶解しうるものであれば、特に制限されない。溶媒は、水であっても有機溶媒であってもよい。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、アミノエタノール等のアルコール系溶剤、シクロヘキサノン等のケトン系溶剤、ジメチルホルムアミド等のアミド系溶剤、テルピネオール等のテルペン系溶剤、エステル系溶剤などが挙げられる。基板に対する影響の少なさ、環境への親和性等の観点からは、極性有機溶媒が好ましく、アルコール系溶剤がより好ましい。溶媒は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0029】
溶媒の沸点は特に制限されないが、大気圧における沸点が150℃未満であってもよく、130℃未満であってもよく、100℃以下であってもよい。
【0030】
組成物は、ニッケル錯体と溶媒以外の成分を必要に応じて含んでもよい。このような成分としては、粘度調整剤、着色剤等が挙げられる。
【0031】
上記方法で使用する基板は特に制限されず、電子部品装置の配線基板として一般的なものを使用できる。例えば、半導体基板、ガラス基板、セラミック基板、樹脂基板、これらの複合体等が挙げられる。さらには、セルロースナノファイバを利用したペーパーデバイスに用いる基板等が挙げられる。上記方法では導体の形成が光照射により行われるため、焼成等の熱処理に適しない材料からなる基板であっても導体を形成することができる。
【0032】
基板上に組成物層を形成する方法は、特に制限されない。例えば、スピンコート法、印刷法等が挙げられる。組成物層は基板上に一様に形成しても、パターン状に形成してもよい。光照射される際の組成物層は、溶媒を含んでいても、溶媒を含んでいない(溶媒が揮発している)状態であってもよい。
【0033】
上記方法で光照射に使用する光は、紫外線、可視光線、赤外線及び近赤外線から選択されることが好ましく、ニッケル錯体の分解とニッケルの析出を生じさせるものであれば特に制限されない。光源は、大気中で良好な導体を形成する観点からは赤外線レーザ及び近赤外線レーザが好ましく、COレーザ及びErレーザ(より具体的には、YAG及びYVO)がより好ましい。また、キセノンランプ及びエキシマランプを用いてもよい。光照射は組成物層に対して一様に実施しても、パターン状に実施してもよい。
【0034】
上記方法は、光照射によりニッケルが析出した部分以外の組成物層を除去する工程を含んでもよい。例えば、組成物層に含まれるニッケル錯体を溶解しうる溶剤を用いて組成物層を除去してもよい。
【0035】
上記方法で得られるニッケルの導体は、さらに金属めっき等の処理を施してもよい。金属めっきを施すことで、導体の厚みを増すことができる。金属めっきに用いる金属は特に制限されず、銅、ニッケル、スズ、金、銀、これらの合金等が挙げられる。また、ニッケルを金属めっきの材料として用いてもよい。金属めっきを行う方法は特に制限されず、無電解めっきでも電解めっきでもよい。めっきの方法は、特に制限されるものではない。例えば、電解めっき浴の組成としては硫酸系めっき浴、有機酸系めっき浴等が挙げられる。
【0036】
上記方法で得られるニッケルの導体は、金属めっきで金属を析出させるための触媒膜(下地)として用いるものであっても、ニッケル単独で導体として用いるものであってもよい。
【0037】
金属めっきによりニッケルの導体の上に形成される膜の厚みは特に制限されず、例えば、1μm~100μmの範囲から選択してもよい。金属めっきにより形成される膜の厚みは、金属めっきを実施する条件により制御できる。
【0038】
上記方法では光照射によりパターン幅の均一性に優れる導体を形成することができるため、パターン状の導体を形成するのに適している。上記方法では、従来の手法より細かなパターンを形成することが可能となり、より高い性能を備える素子(回路)や配線を提供することが可能となる。
【0039】
パターン状の導体を形成する方法としては、組成物層にレーザをパターン状に直接照射して照射領域にニッケルの導体を形成する方法(ダイレクトパターニング)でも、パターン状に組成物層を形成し、次いで全面にレーザを照射してニッケルに導体を形成する方法でもよい。これらの方法では不要な導体を除去するためのエッチングのプロセスを必要とせず、エッチング廃液などが生じないため環境にも優しい。パターン状に組成物層を形成する方法としては、スクリーン印刷、オフセット印刷などの配線形成に一般に使用される印刷法のほか、さらに微細な配線を形成可能なマイクロコンタクトプリンティングが挙げられる。
【0040】
マイクロコンタクトプリンティングによりパターン状の導体を形成する方法としては、例えば、PDMS(ポリジメチルシロキサン)からなるスタンパーに付着させた組成物を基板に転写してパターン状の組成物層を形成し、光照射によりニッケルを析出させる方法が挙げられる。
【0041】
上記方法により形成される導体は、種々の用途に用いることができる。例えば、電子機器類に用いられる配線基板の素子又は配線を形成する方法として好適に用いることができる。また、低エネルギーで導体を形成できるため、樹脂フィルム、ガラス薄板、ペーパーデバイス等の従来の方法では導体の形成が困難であった基板への導体形成にも好適に用いることができる。
【0042】
上記方法の応用例のひとつとして、ガラスからなるインターポーザ(ガラスインターポーザ)への貫通電極の形成が挙げられる。インターポーザは基板と半導体素子との間に配置される部材であり、基板と半導体素子を電気的に接続する貫通電極を備える。インターポーザの材質としては樹脂、シリコン等が一般に用いられる。ガラスインターポーザは樹脂、シリコン等からなるインターポーザに比べて熱膨張係数、耐熱性、絶縁性、製造コスト等の面で有利である一方、貫通電極の形成工程に耐えうるほどに強度が十分でないという問題がある。
【0043】
上記方法によれば、ガラス薄板を損なうことなく貫通電極を形成することができる。ガラスインターポーザへの貫通電極の形成は、例えば、ガラス薄板にレーザ加工により貫通孔を形成し、次いで貫通孔の内部に導体形成用の組成物を付与し、光照射によりニッケルを析出させることで行うことができる。
【0044】
さらに、上記方法の応用例のひとつとして、チップ部品の外部電極又は内部電極の形成が挙げられる。
チップ部品の外部電極は、例えば、内部電極が形成されたセラミック積層体を準備し、セラミック積層体の外部電極を形成すべき部分に導体形成用組成物を付与し、光照射によりニッケルを析出させた後、金属めっきを実施することにより形成することができる。
チップ部品の内部電極は、例えば、セラミックグリーンシートの内部電極を形成すべき部分に導体形成用組成物を付与し、光照射によりニッケルを析出させた後、金属めっきを実施することにより形成することができる。なお、内部電極の形成されたセラミックグリーンシートを積層し、焼成した後に外部電極を形成することによりチップ部品を作製することができる。
【0045】
<配線基板の製造方法>
本開示の配線基板の製造方法は、基板と、前記基板上に配置されるニッケル配線とを備える配線基板の製造方法であって、ニッケル錯体と、前記ニッケル錯体を溶解しうる溶媒とを含む組成物を基板に付与して組成物層を形成する工程と、前記組成物層に光照射を行ってニッケルを析出させる工程と、を含む。
【0046】
上記方法で使用される材料、組成物層の形成方法、光照射条件その他の項目の詳細及び好ましい態様は、上述した導体の製造方法におけるものと同様である。
【0047】
<導体形成用組成物>
本開示の導体形成用組成物は、ニッケル錯体と、前記ニッケル錯体を溶解しうる溶媒とを含む。
【0048】
上記組成物を用いることで、ニッケルの酸化を抑えながらニッケルの導体を形成することができる。上記組成物の詳細及び好ましい態様は、上述した導体の製造方法に用いる組成物の詳細及び好ましい態様と同様である。
【実施例
【0049】
以下、上述した導体の製造方法について実施例を参照してより詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0050】
(1-1)組成物1の調製
ギ酸ニッケル(II)二水和物0.368g(2mmol)をエタノール3.76gに加えた。次いで、エチレンジアミン(EDA)0.24g(6mmol)を撹拌しながら加え、さらに30分間撹拌して、紫色のニッケル錯体溶液を得た。得られた溶液を組成物1とした。
【0051】
(1-2)組成物2の調製
上記(1-1)にて得たニッケル錯体の溶液に、カウンターアニオンの前駆体としてテトラフェニルホウ酸ナトリウム(TPB)0.773g(2.26mmol)を10.0gの水に溶解させたものを加えると、直後に白色の沈殿が生じた。この沈殿を自然ろ過にて回収し、その後デシケーターにて乾燥させることで、ニッケル錯体とテトラフェニルホウ酸イオンの塩を得た。得られたニッケル錯体とテトラフェニルホウ酸イオンの塩0.04gと、1-プロパノール0.5g及び2-アミノエタノール0.5gを混合し、30分常温(25℃)で撹拌して、ニッケル錯体とテトラフェニルホウ酸イオンの塩の溶液(淡黄色)を得た。得られた溶液を組成物2とした。
【0052】
(1-3)組成物3の調製
ギ酸ニッケル(II)二水和物0.827g(445mmol)を、2-アミノ-1-メチル-1-プロパノール(AMP)2.40gとメタノール4.50gの混合液に加え、24時間撹拌して、青色のニッケル錯体溶液を得た。得られた溶液を組成物3とした。
【0053】
(1-4)アルミナ基板への導体形成
調製した組成物1~3を用いて、スピンコート法(2000rpm、30秒)により、アルミナ基板上に組成物層を形成した。次いで、組成物層にCOレーザをパターン状に照射(焦点距離:155mm、出力:3.2W、スキャンスピード:20mm/秒、パターン幅:200μm)して、ニッケルを析出させた。光照射後、ニッケルが析出しなかった部分の組成物層をアセトンでエッチングすることで取り除いた。以上の工程は、大気中で実施した。
【0054】
(1-5)X線回折測定
上記(1-4)において光照射した領域のX線回折(XRD)測定を行ったところ、ニッケルに由来するピークが明瞭に観察された一方、酸化ニッケルに由来するピークは観察されなかった。この結果から、析出物が高純度のニッケルであることが確認できた。
【0055】
(1-6)無電解めっき
上記(1-5)において、組成物2を用いてニッケルをパターン状に析出させたアルミナ基板に対し、無電解めっき(銅及びニッケル)を実施した。その結果、めっき時間の経過とともにニッケルの上に銅又はニッケルが析出して、パターンの線幅を一定に維持しながら膜厚が増していく様子が確認できた。
無電解めっきの開始から30分後の導体の膜厚をレーザ顕微鏡により測定したところ、1.83μm(銅)、5.81μm(ニッケル)であった。
【0056】
(1-7)電解めっき
上記(1-5)において、組成物2を用いてニッケルをパターン状に析出させたアルミナ基板に対し、電解めっき(銅及びニッケル)を実施したところ、ニッケルの上に銅又はニッケルが析出して膜厚が増していく様子が確認できた。
電解めっきの開始から10分後の導体の膜厚をレーザ顕微鏡により測定したところ、1.5μm(銅)、1.8μm(ニッケル)であった。
電解銅めっき浴としては、10g/L~100g/Lのピロリン酸銅、80g/L~300g/Lのピロリン酸カリウム、0ml/L~10ml/Lの28%アンモニア水を含み、pHが7.5~10.0であるものを用いた。浴温は15℃~60℃とし、電流密度は0.05A/dm~2.00A/dmとした。
電解ニッケルめっき浴としては、250g/L~450g/Lの硫酸ニッケル、35g/L~55g/Lのホウ酸、30g/L~60g/Lの塩化ニッケルを含み、pHが3.5~5.0であるものを用いた。浴温は40~75℃とし、電流密度は0.05A/dm~2.00A/dmとした。
【0057】
(1-8)ガラス基板への導体形成
ガラス基板の表面と導体との密着性を発現させるための処理を行った。具体的には、粒径約100nmのコロイダルシリカ分散液をエタノールで希釈したもの(40質量%)の皮膜をガラス基板上にスピンコート法にて形成し、100℃で10分間乾燥した。次いで、テトラエトキシシラン(TEOS)のゾル溶液(10質量%)の皮膜をスピンコート法にてコロイダルシリカ皮膜の上に形成し、500℃で30分間焼結した。処理後のガラス基板に対し、アルミナ基板と同様にして導体を形成した。形成した胴体は、ガラス基板に対する密着性に優れていた。
【0058】
以上の結果から、本開示の方法によれば酸化を抑えながらニッケルの導体を形成できることがわかった。
【0059】
日本国特許出願第2018-099681号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に援用されて取り込まれる。
図1
図2