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特許7340181植物油からバイオ潤滑油を得るプロセス及びバイオ潤滑油
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  • 特許-植物油からバイオ潤滑油を得るプロセス及びバイオ潤滑油 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】植物油からバイオ潤滑油を得るプロセス及びバイオ潤滑油
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/31 20060101AFI20230831BHJP
   C07C 69/708 20060101ALI20230831BHJP
   C07C 67/54 20060101ALI20230831BHJP
   C07C 67/58 20060101ALI20230831BHJP
   C10M 177/00 20060101ALI20230831BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20230831BHJP
【FI】
C07C67/31
C07C69/708 Z
C07C67/54
C07C67/58
C10M177/00
C07B61/00 300
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021517882
(86)(22)【出願日】2019-06-05
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-10-11
(86)【国際出願番号】 BR2019050205
(87)【国際公開番号】W WO2019232604
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-06-02
(31)【優先権主張番号】BR102018011523-5
(32)【優先日】2018-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】BR
(73)【特許権者】
【識別番号】591005349
【氏名又は名称】ペトロレオ ブラジレイロ ソシエダ アノニマ - ペトロブラス
(73)【特許権者】
【識別番号】520478611
【氏名又は名称】ウニヴェルシダード フェデラル ド セアラ-ユーエフシー
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【弁理士】
【氏名又は名称】芝 哲央
(74)【代理人】
【識別番号】100120684
【弁理士】
【氏名又は名称】宮城 三次
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ オリヴェイラ ソウザ,ステファニー
(72)【発明者】
【氏名】アルベス サボヤ,ロサーナ マリア
(72)【発明者】
【氏名】カバルカンティ ダ シルヴァ,ホセ アンドレ
(72)【発明者】
【氏名】カストロ リオス,イタロ
(72)【発明者】
【氏名】タヴァレス ドゥ ルナ,フランシスコ ムリーロ
(72)【発明者】
【氏名】リマ ジラン,ファティマ アンドレア
(72)【発明者】
【氏名】ロウレイロ カバルカンテ ジュニア,セリオ
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特表平04-506962(JP,A)
【文献】国際公開第2016/020941(WO,A2)
【文献】JAOCS,2006年,83(11),959-963
【文献】Catalysis Today,2017年,279,274-285
【文献】JAOCS,2006年,80(8),811-815
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物油からバイオ潤滑油を得るプロセスであって、以下の、
(a)分岐脂肪族アルコールを用いて、前記植物油の加水分解の生成物をエステル化反応させる工程と、
(b)前記工程(a)で得られたエステルをエポキシ化反応させる工程と、
(c)分岐脂肪族アルコールを用いて、前記工程(b)で得られたエポキシ化エステルを求核置換反応させる工程とを含み、
前記植物油がヒマシ油であり、その加水分解の前記生成物がリシノール脂肪酸である、プロセス。
【請求項2】
前記工程(a)及び/又は(c)のいずれか一方において用いられる分岐脂肪族アルコールが、C-Cの炭化水素の直鎖とC-Cの炭化水素の分岐鎖とからなる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
前記工程(a)及び/又は(c)において用いられる分岐脂肪族アルコールが、2-エチルヘキサノールである、請求項2に記載のプロセス。
【請求項4】
植物油加水分解の前記生成物に対して、前記工程(a)でのエステル化反応よりも前に、精製プロセスが行われる、請求項1に記載のプロセス。
【請求項5】
前記工程(a)で、触媒として、80℃~100℃の温度範囲で4時間~8時間の間、ポリスチレン系イオン交換スルホン樹脂が使用され、触媒/植物油の質量比が2.5%と7.5%との間で変わるものが使用され、脂肪酸/アルコールのモル比が1:2と1:4との間で変わるものが使用される、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
前記工程(a)に続いて、以下の、
(a)前記工程(a)で得られた前記生成物を周囲温度まで冷却する工程と、
(a)触媒を除去するために、冷却した前記生成物をろ過する工程と、
(a)余分なアルコールを除去するために、ろ過した前記生成物を蒸留する工程との、1つ又は複数の追加の工程を含む、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
前記工程(b)で、20℃~40℃の温度範囲で8時間~24時間の間、ギ酸と過酸化水素とが使用され、エステル/ギ酸/過酸化水素のモル比が1:1:2と1:2:6との間で変わるものが使用される、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項8】
前記工程(b)に続いて、以下の、
(b)前記工程(b)で得られた前記生成物のデカンテーションによって相を分離させる工程と、
(b)塩によって有機相を中和させ、続いて洗浄する工程と、
(b)余分なギ酸及び未反応の過酸化水素を除去するために、中和され洗浄された前記生成物を蒸留する工程との、1つ又は複数の追加の工程を含む、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記工程(c)で、触媒として、80℃~100℃の温度範囲で2時間~6時間の間、p-トルエンスルホン酸が使用され、触媒/植物油の質量比が5%と15%との間で変わるものが使用され、脂肪酸/アルコールのモル比が1:2と1:4との間で変わるものが使用される、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
前記工程(c)に続いて、以下の、
(c)前記工程(c)で得られた前記生成物のデカンテーションによって相を分離させる工程と、
(c)塩によって有機相を中和させ、続いて洗浄する工程と、
(c)余分なアルコールを除去するために、中和され洗浄された前記生成物を蒸留する工程との、追加の工程を含む、請求項1~のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記工程(c)で得られた反応生成物とカルボン酸無水物との反応の工程(d)を含む、請求項1~10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記工程(d)が、触媒としての水酸化カリウムと、酢酸、プロパン酸及びブタン酸無水物から選ばれるカルボン酸無水物とを、80℃~100℃の温度範囲で10時間~14時間の間使用し、触媒/エステルの質量比が1%と5%との間で変わるものを使用し、エステル/酢酸無水物のモル比が1:1と1:2との間で変わるものを使用して行われる、請求項11に記載のプロセス。
【請求項13】
前記工程(d)に続いて、以下の、
(d)前記工程(d)で得られた前記生成物を有機溶媒で希釈する工程と、
(d)pHを5~6に調整して、続いて洗浄する工程と、
(d)前記(d)で得られた前記生成物を乾燥させる工程と、
(d)余分な無水物を除去するために、乾燥後の前記生成物を蒸留する工程との、1つ又は複数の追加の工程を含む、請求項11又は12に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物油の構造を化学修飾することによってバイオ潤滑油を得るプロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
油の頻繁な価格変動や化石由来の生成物が招く環境被害によって、新たな原材料から作られる生成物の開発が活発となっている。
【0003】
油以外の材料の1つとして、バイオ潤滑油が登場している。バイオ潤滑油という用語は、一般に、生分解可能で環境や人間に対して毒性のない潤滑油に対して使用される。これらは、例えば、特にヒマシ油、大豆油及びヒマワリ油といった植物油から得られる。
【0004】
バイオ潤滑油の多くが、植物油の化学修飾によって得られるエステルである。植物油は、飽和化合物、一不飽和化合物、及び多価不飽和化合物によって形成されるトリグリセリドによって構成される。しかしながら、不飽和の存在は、概して、植物油誘導体が、それらの組成及び構成に見られる二重結合の数によって、酸化の影響をより受け易いことを意味する。
【0005】
このように、植物油から得られるバイオ潤滑油は、生分解可能であり原材料の潤滑効率性に有利ではあるが、限定された熱安定性及び酸化安定性を示している。
【0006】
この問題を解決するには、植物油の構造の化学修飾が必要である。
【0007】
非特許文献1は、潤滑油の領域において使用しうる新たな生成物の合成についての研究である。使用される原材料は、ヒマワリ油からのメチルエステルからなる。この研究では、まず、油のメチルエステルのエポキシ化反応が行われ、続いて、形成されたオキシラン環の開環が行われる。記載されている開環手段の1つは直鎖アルコールを用いた求核置換反応であり、ここでエタノール及びオクタノールが試験されている。
【0008】
しかしながら、得られる生成物は、バイオ潤滑油への使用に望ましくない、-4℃~-13℃の流動温度を示す。
【0009】
特許文献1では、バイオ潤滑油生成の原材料として、ヒマシ油を使用している。生成は、75%~85%のリシノール酸である植物油加水分解の生成物と、炭素数2~8のアルコール成分とのエステル化反応によって行われる。そして、得られたエステルは、カルボン酸無水物と反応する。
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の生成プロセスでは、取り扱いにリスクのある高価な触媒が使用される。
【0011】
本発明は、取り扱いや工業的用途にリスクのない市販の触媒を採用して、その使用目的に望ましい物理的性質及び化学的性質を示すバイオ潤滑油を得るプロセスを提供することを目的とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】伯国特許出願公開第0905200-3号明細書
【非特許文献】
【0013】
【文献】Pages, X, Alfos,C著,”Synthesis of new derivatives from vegetable sunflower oil methyl esters via epoxidation and oxirane opening”, 2001年
【発明の概要】
【0014】
本発明は、植物油からバイオ潤滑油を得るプロセスに関する。本プロセスは、(a)分岐脂肪族アルコールを用いて、植物油加水分解からの生成物をエステル化する工程と、(b)工程(a)のエステルをエポキシ化する工程と、(c)分岐脂肪族アルコールを用いて、工程(b)で得られたエポキシ化エステルを求核置換する工程とを含む。本発明の第2の目的は、記載のプロセスから得られるバイオ潤滑油を提供することである。
【0015】
より具体的には、本発明は、記載のプロセスに従ってリシノール脂肪酸から生成されるバイオ潤滑油を提供することを意図している。本発明におけるバイオ潤滑油は、以下の式:
(式中、Rがヒドロキシルであるか又は式RCOOに基づき、ここでRがC-Cのアルキル基であり、RがC-Cの炭化水素の直鎖とC-Cの炭化水素の分岐鎖とからなる)からの化合物の混合物を備える。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、本発明の目的であるバイオ潤滑油化合物の式を示し、Rはヒドロキシルであるか又は式RCOOに基づき、RはC-Cのアルキル基であり、RはC-Cの炭化水素の直鎖とC-Cの炭化水素の分岐鎖とからなる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、植物油からバイオ潤滑油を得るプロセスに関し、本プロセスは、以下の、(a)分岐脂肪族アルコールを用いて、植物油の加水分解の生成物をエステル化反応させる工程と、(b)工程(a)で得られたエステルをエポキシ化反応させる工程と、(c)分岐脂肪族アルコールを用いて、工程(b)で得られたエポキシ化エステルを求核置換反応させる工程とを含む。
【0018】
本発明のプロセスでは、まず、工程(a)及び/又は(c)のいずれか一方において分岐脂肪族アルコールを使用することを提案する。当該アルコールは、C-Cの炭化水素の直鎖とC-Cの炭化水素の分岐鎖とからなる。好適には、工程(a)及び/又は(c)において2-エチルヘキサノールアルコールが使用される。本発明の好適な方法では、原材料として用いられる植物油はヒマシ油であり、その加水分解の生成物は主にリシノール脂肪酸である。本発明の文脈での「主に」は、加水分解の生成物に85%より多くのリシノール酸が存在することを意味するものとして理解される。より良い収率及びより純度の高い生成物を得るために、植物油加水分解の生成物に対して、工程(a)でのエステル化反応よりも前に、副生成物を除去する精製プロセスが行われる。
【0019】
本明細書に記載のプロセスの工程(a)及び(c)は、安価な市販の酸触媒を用いて行われる。好適には、工程(a)における触媒として、商業的にAmberlyst-15として知られるポリスチレン系イオン交換スルホン樹脂が使用され、工程(c)の求核置換反応の触媒作用ではp-トルエンスルホン酸が使用される。本発明で使用される触媒によれば、90%よりも高い転換が可能であり、最大99%の転換が実現されることから、得られる生成物の分離及びそれ以降の処理の工程が促進される。工程(a)における加水分解の生成物のエステル化反応は、80℃~100℃の温度範囲内で4時間~8時間を超えて行われてもよい。触媒/植物油の質量比が2.5%と7.5%との間で変わるものが使用され、脂肪酸/アルコールのモル比が1:2と1:4との間で変わるものが使用される。本発明を実施する方法において、記載のプロセスは、工程(a)の後に、以下の、(a)工程(a)で得られた生成物を周囲温度まで冷却する工程と、(a)触媒を除去するために、冷却した生成物をろ過する工程と、(a)余分なアルコールを除去するために、ろ過した生成物を蒸留する工程との、1つ又は複数の追加の工程を含む。
【0020】
工程(b)におけるエポキシ化反応は、ギ酸と過酸化水素とを用いて、20℃~40℃の温度範囲で8時間~24時間の間行われてもよい。エステル/ギ酸/過酸化水素のモル比が1:1:2と1:2:6との間で変わるものが使用される。本発明を実施する方法において、記載のプロセスは、工程(b)の後に、以下の、(b)工程(b)で得られた生成物のデカンテーションによって相を分離させる工程と、(b)塩によって有機相を中和させ、続いて洗浄する工程と、(b)余分なギ酸及び未反応の過酸化水素を除去するために、中和され洗浄された生成物を蒸留する工程との、1つ又は複数の追加の工程を含む。
【0021】
続いて、工程(c)における求核置換反応は、エポキシ化反応で形成されたオキシラン環の開環を含み、これは、80℃~100℃の温度範囲で2時間~6時間を超えて行われてもよい。好適には、触媒/植物油の質量比が5%と15%との間で変わるものが使用され、脂肪酸/アルコールのモル比が1:2と1:4との間で変わるものが使用される。実施の方法において、本プロセスは、工程(c)の後に、以下の、(c)工程(c)で得られた生成物のデカンテーションによって相を分離させる工程と、(c)塩によって有機相を中和させ、続いて洗浄する工程と、(c)余分なアルコールを除去するために、中和され洗浄された生成物を蒸留する工程との、1つ又は複数の追加の工程を含む。
【0022】
好適には、有機相を中和する工程では重炭酸ナトリウムの溶液が使用され、工程(b)及び(c)での洗浄には蒸留水が使用される。
【0023】
以下の図は、本プロセスの工程(a)、(b)及び(c)で生じる反応の図であり、リシノール酸が植物油加水分解の生成物として使用され、2-エチルヘキサノールが工程(a)及び(c)でのアルコールとして使用される。
【0024】
本発明のプロセスを通して得られるバイオ潤滑油は、こうした種類の用途に対して望ましい物理的性質及び化学的性質を有する。例えば、本生成物は、低い流動温度(好適には-40℃~-45℃の範囲)、高い酸化安定性(好適には30分~55分の範囲)、高い粘性率(好適には120より高い)、そして低い総酸度値を示す。また、本発明によるバイオ潤滑油は、半減期が最長28日間である高い生分解性も示す。本発明の実施の方法において、本明細書に記載のプロセスは、工程(c)で得られた生成物の構造内に存在するヒドロキシルと、カルボン酸無水物との転換反応についての、後続する工程(d)を含む。工程(d)は、好適には、触媒として水酸化カリウムを用いて行われる。好適なカルボン酸無水物には、酢酸、プロパン酸及びブタン酸無水物がある。
【0025】
工程(d)は、80℃~100℃の温度範囲で10時間~14時間の間行われ、触媒/エステルの質量比が1%と5%との間で変わるものが使用され、エステル/酢酸無水物のモル比が1:1と1:2との間で変わるものが使用される。実施の方法において、記載のプロセスは、工程(d)の後に、以下の、(d)工程(d)で得られた生成物を有機溶媒で希釈する工程と、(d)pHを5~6に調整して、続いて洗浄する工程と、(d)(d)で得られた生成物を乾燥させる工程と、(d)余分な無水物を除去するために、乾燥後の生成物を蒸留する工程との、1つ又は複数の追加の工程を含む。
【0026】
好適には、工程(d)での希釈溶媒としてヘキサンが使用され、工程(d)でのpH調整及び洗浄は塩化ナトリウム溶液を用いて行われる。工程(d)での乾燥は、好適には硫酸ナトリウムを用いて実行される。工程(d)において、工程(c)で形成された生成物の構造内に存在するヒドロキシル基が、アルキルカルボキシル基に転換される。この転換によって、流動温度が-45℃を下回る値まで下がるのに加え、形成されるバイオ潤滑油の熱安定性及び酸化安定性がより改善される。このように、得られる生成物の適用範囲が拡大される。
【0027】
以下の図は、転換反応において酢酸無水物を用いる工程(d)での反応の図である。
【0028】
また、本発明は、記載のプロセスに従って植物油の加水分解の生成物から生成されるバイオ潤滑油にも関する。より具体的には、バイオ潤滑油は、本発明のプロセスに従ってリシノール脂肪酸から生成される。バイオ潤滑油は、以下の式:
(式中、Rがヒドロキシルであるか又は式RCOOに基づき、ここでRがC-Cのアルキル基であり、RがC-Cの炭化水素の直鎖とC-Cの炭化水素の分岐鎖とからなる)からの化合物の混合物を備える。
【0029】
本発明の方法では、バイオ潤滑油を得るプロセスに工程(d)がない場合、すなわち、本明細書に記載のプロセスの工程(c)で得られた生成物の構造内に存在するヒドロキシルの転換が行われない場合、Rはヒドロキシルである。本発明におけるバイオ潤滑油は、粘度指数(VI)が120よりも高く、好適には120~150であり、流動温度が-40℃よりも低く、好適には-40℃~-50℃であり、酸化安定性が30分~60分といった、こうした種類の用途に対して有利な物理的性質及び化学的性質を示す。
【0030】
以下の説明は、本発明の好適な実施によって開始されよう。当業者には明らかであるように、本発明はこうした具体的な実施に限定されるものではない。
【0031】
実施例:
実施例1‐工程(a)
ヒマシ油の加水分解で得られた脂肪酸を用いて、工程(a)からの反応を実現した。エステル化反応では、アルコールである2-エチルヘキサノールを使用した。このために、脂肪酸の試料を計量して(60g)、500-mL容器へと移した。初期物質の計量した質量から、各モル比及び使用される触媒の質量(3gのAmberlyst-15)に対する、アルコールの体積を計算した(130mL)。
【0032】
脂肪酸とアルコールとの化学量論比を計算して、リシノール脂肪酸に対する触媒の質量を導いた。また、反応装置が、揮発性化合物の縮合を促進する還流システムと、4時間~8時間の反応時間の間、温度を80℃~100℃に維持する熱板とを有していた。本システムを、800rpm~1200rpmの範囲内で撹拌した。本システムを、材料の酸化を防止するために、Nの不活性雰囲気下に維持した。反応の最後に、生成物を周囲温度に達するまで冷却して、反応媒体の触媒を除去するために、真空フィルタに通した。次に、試料が40分~80分の間70℃~90℃の温度に保たれるクーゲルロール装置を用いて、形成されたエステルを、余分なアルコールを除去するように蒸留した。ガスクロマトグラフィを用いて得られた転換は90%~95%であり、質量収率は90%よりも高かった。
【0033】
実施例1‐工程(b)
工程(a)での反応から得られたエステルをエポキシ化した。エポキシ化は、原位置で生成された過ギ酸を用いて実現した。反応を開始させるために、70gのエステル(リシノール酸塩)を計量して、500-mL容器へと移した。本システムを、800rpm~1200rpmの範囲内で撹拌した。次に、ギ酸を反応媒体に追加して(6mL)、その後過酸化水素を追加した(46mL)。反応を、20℃~40℃の温度で8時間~24時間観測した。反応混合物を分液漏斗へと移した。相の分離後、有機相(上澄み)を重炭酸ナトリウム5%の溶液で中和して、蒸留水で洗浄した。40分~80分の間40℃~80℃であるクーゲルロール装置を用いて、生成物を、まだ存在するギ酸及び過酸化水素を除去するように蒸留した。プロトン核磁気共鳴から得られた転換は95%~99%であり、質量収率は95%よりも高かった。
【0034】
実施例1‐工程(c)
まず、エポキシ化したリシノール酸塩の試料を計量して(60g)、還流システム内に接続された容器へと移し、800rpm~1200rpmで一定して撹拌した。本プロセスの間、本システムを、Nの不活性雰囲気によって継続して加圧した。2-エチルヘキサノールアルコールの体積(67mL)を計測して、アルコールを、触媒であるp-トルエンスルホン酸(6g)を含む500-mL受容器へと移して、完全に溶解させた。混合物を、ゆっくりと反応媒体に追加した。反応を2時間~6時間観測して、反応の終了後、反応混合物を分液漏斗へと移した。相の分離後、有機相(上澄み)を300mLの重炭酸ナトリウム5%の溶液で中和して、150mLの蒸留水で洗浄した。40分~80分の間80℃~100℃の温度であるクーゲルロール装置を用いて、生成物を、余分なアルコールを除去するように蒸留した。プロトン核磁気共鳴から得られた転換は95%~99%であり、質量収率は90%よりも高かった。
【0035】
実施例1‐工程(d)
工程(c)で得られた生成物の構造内に存在するヒドロキシルを転換する工程において、酢酸無水物を使用した。
【0036】
オキシラン環が開環した後、リシノール酸塩を計量し(60g)、500-mL容器内で酢酸無水物(20mL)と混ぜて、周囲温度において不活性雰囲気下で連続して撹拌した。エステルが酢酸無水物と完全に混ざった後、触媒である水酸化カリウム(KOH)(1g)を追加した。混合物を80℃~100℃の温度に12時間維持して、一定して撹拌した。この工程の後、生成物を精製するプロセスを開始した。精製プロセスには、ヘキサンでの希釈、pHが5~6に調整されるまでの、5質量%の重炭酸ナトリウム(NaHCO)を含む塩化ナトリウム(NaCl)で飽和した水溶液での洗浄、NaClで飽和した水溶液での洗浄、及び硫酸ナトリウム(NaSO)での乾燥が含まれた。洗浄工程の後、30分の間110℃~125℃の温度であるクーゲルロール装置を用いて、生成物を蒸留した。
【0037】
使用される搬送ガスがアルゴンの、無極性DB-5カラムである水素炎イオン化検出器(Varian CP3800)によるガスクロマトグラフィによって、90%~99%の転換が得られ、注入された試料の体積が1μLであった。
【0038】
比較例1
試験は、分岐2-エチルヘキサノールアルコールの、他の直鎖及び循環アルコールと比較して優れた効率性を明示するように、本発明に記載のプロセスの工程(c)における異なるアルコールの効果を比較して、実行された。異なるアルコールによってオキシラン環を開環したことによる反応の後の生成物の物理的性質及び化学的性質の結果を、表1に示す。
【0039】
表1に示すように、最も優れた物理的性質及び化学的性質を示した生成物は、求核置換反応において分岐アルコール(2-エチルヘキサノール)を用いたものだった。
【0040】
この分岐アルコールによって得られる流動温度及び酸化安定性は、他のアルコールによって得られるものと比べて極めて優れている点が強調される。
【0041】
ここまでの、本発明の目的についての説明は、単に1つ又は複数の可能な実施として考えられるべきであり、本明細書に示す具体的な特徴のいずれも、単に理解を促すために記載されたものとして理解されなければならない。従って、いかなる方法によっても、これらを、以下の請求項の範囲に限定される本発明を限定するものとして考えることはできない。
図1