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  • 特許-岩石の直交異方弾性の特定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】岩石の直交異方弾性の特定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/08 20060101AFI20230831BHJP
   G01N 3/00 20060101ALI20230831BHJP
   G01N 33/24 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
G01N3/08
G01N3/00 D
G01N33/24 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2020006684
(22)【出願日】2020-01-20
(65)【公開番号】P2021113748
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】504190548
【氏名又は名称】国立大学法人埼玉大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078695
【弁理士】
【氏名又は名称】久保 司
(72)【発明者】
【氏名】富樫 陽太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 晴海
(72)【発明者】
【氏名】菊本 統
(72)【発明者】
【氏名】谷 和夫
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-102472(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0109603(US,A1)
【文献】新 孝一,堆積軟岩の異方性とその圧力依存性の測定,Journal of MMIJ,2009年,Vol.125,p.429-436
【文献】平間 邦興 外3名,結晶片岩の力学的異方性について,大林組技術研究所報,1988年,No.37,p.53-57
【文献】B. Amadei,Importance of Anisotropy When Estimating and Measuring In Situ Stresses in Rock,Int. J. Rock Mech. Min. Sci. & Geomech. Abstr,1996年,Vol.33, No.3,p.293-325
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/08
G01N 3/00
G01N 33/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの岩石ブロックから3つの円柱供試体をそれぞれ直交する方向(x,y,z)に採取し、続いて、それぞれの供試体の軸方向(xとyとz)から一軸圧縮(あるいは伸長)し、各ひずみテンソルを測定し、続く分析のため、計測間隔を十分に細かくして応力ひずみ曲線を得、同じ軸応力における3本の供試体でそれぞれ得たひずみテンソルを成分ごとに足し合わせて得た値を対角化し、それぞれの供試体で得た軸応力とひずみテンソルの比から直交異方弾性の弾性パラメータ9つを特定することを特徴した岩石の直交異方弾性の特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩盤の直交異方弾性を高効率かつ高精度に特定する岩石の一軸試験による直交異方弾性の特定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トンネルをはじめとする岩盤構造物は自然災害に対して安定とされてきたが、大型地震や集中豪 雨など、近年の激甚化する災害により大きな変状を伴って被災する事例が少なくない。
【0003】
このような 被害を軽減していくには、岩盤の複雑な力学的性質の理解を深め、正確に把握することが必須の課題である。
【0004】
岩盤の力学特性を複雑にする要因の一つは内在する堆積構造や節理などの割れ目であり、これら の方向に応じて岩盤は異方的な力学挙動を示す。
【0005】
昨今の災害に対応して重要な岩盤構造物の安定性を評価していくには、このような力学的異方性の正確な調査が肝要であり、特に構造物の変位と 直接に関係する変形異方性(異方性の主軸と弾性パラメータ)の特定が極めて重要である。
【0006】
下記非特許文献にも示すように、岩盤の変形異方性は従来、方向を変えて採取した多数の供試体を用いて多数回の試験を行うことで特定してきた。
【文献】資源と素材 1995年、 111 巻、 5 号、 p. 289-294 「直交異方性岩石の弾性主軸方向およびコンプライアンス係数の評価に関する一方法」 杉本 文男、川辺 金光、山下 秀、本郷 公 著
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、前記方法ではコストが高くや労力が非効率なだけでなく、試料の採取方向に異方性の主軸が含まれる保証が無いため、異方性の特定精度が低かった。特に、岩盤の変形挙動を把握するのに必要な最も適切な直交異方弾性は、パラメータ数が非常に多く、従来方法では膨大な数の試験の必要があり、特定が極めて困難だった。
【0008】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消し、従来方法に比べ格段に少ない試験数で直交異方弾性を特定できることに加え、従来方法では特定不可能だった直交異方弾性の3主軸を特定できる高い精度をもった岩石の直交異方弾性の特定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため本発明は、同一の岩石ブロックから3つの円柱供試体をそれぞれ直交する方向(x,y,z)に採取し、続いて、それぞれの供試体の軸方向(xとyとz)から一軸圧縮(あるいは伸長)し、各ひずみテンソルを測定し、続く分析のため、計測間隔を十分に細かくして応力ひずみ曲線を得ることを要旨とするものである。
【0010】
請求項1記載の本発明によれば、岩盤力学分野において標準的な円柱供試体を用いた3回の一軸試験により直交異方弾性の3主軸方向と9つの弾性パラメータを特定することができる。
【発明の効果】
【0011】
以上述べたように、本発明の岩石の直交異方弾性の特定方法は、従来方法に比べ格段に少ない試験数で直交異方弾性を特定できることに加え、従来方法では特定不可能だった直交異方弾性の3主軸を特定できる高い精度をもったものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明による直交異方弾性の特定方法のフロー図である。
図2】本発明による直交異方弾性の特定方法の1実施形態を示す説明図である。
図3】貼り方を示す説明図である。
図4】角柱供試体を用いる例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0014】
岩盤の変形挙動を記述するための直交異方弾性の構成則は次のとおりである。
ε=Cσ (1)
【0015】
ここに、εとσを直交異方弾性の主軸方向(X,Y,Z)におけるひずみテンソルと応力テンソルを対称な2階のテンソルとすれば,独立な成分の数はそれぞれ6であり以下のように表せる。

Cをコンプライアンステンソルの成分で構成した行列とすれば、直交異方弾性の各主軸方向lにおけるヤング率E1、また、主軸方向が直交するlm面におけるポアソン比Vlmとせん断剛性率Glmとの関係はl,m=X,Y,Zとして次式である。
【0016】
このように、直交異方弾性は主軸方向(X,Y,Z)と9つの弾性パラメータで完全に記述される。
【0017】
本発明による直交異方弾性の特定方法のフローを図1に示す。供試体番号→供試体番号→a:供試体へのひずみゲージの配置と試験の準備→b:供試体の軸圧縮→c:3つの標本応答による異方性の主軸方向の決定→d:3つの標本応答による9つの異方弾性パラメータの決定。
【0018】
(a)同一の岩石ブロックから3つの円柱供試体をそれぞれ直交する方向(x,y,z)に採取する(図2)。なお、(X,Y,Z)座標系は直交異方弾性の主軸である。
【0019】
それぞれの供試体には、ひずみゲージを6枚以上貼付し、(x,y,z)座標系におけるひずみテンソルを測定できるようにする(一例として図3に貼り方を示す)。
【0020】
三軸試験を行う場合は、図3のひずみゲージの貼り方でひずみテンソルを測定すれば、等方圧密時の三主ひずみ方向から直交異方弾性体の(θx,θy,θz)が特定可能である。また、等方圧を供試体に作用できない一軸試験を用いる場合でも、同じ岩石ブロックからそれぞれ直交方向に採取した三つの供試体の同一の軸応力での試験結果を足せば、理論的に等方圧の作用と同等のひずみ応答 が得られるので、(θx,θy,θz)が特定できる。
【0021】
続いて、(b)それぞれの供試体の軸方向(xとyとz)から一軸圧縮(あるいは伸長)し、各ひずみテンソルを測定する。
【0022】
一軸圧縮時には、特許6222659号公報に示す端面摩擦を除去できるキャップなどを用い、供試体の端面の摩擦を極力除去する。続く分析のため、計測間隔を十分に細かくして応力ひずみ曲線を得る。
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
Rはサンプリング方向(x,y,z)を異方性の主軸(X,Y,Z)に変換する行列であり、x軸、y軸、z軸まわりにそれぞれθ、θ、θだけ座標を回転すれば、(x,y,z)と(X,Y,Z)座標系が一致するとすれば、
【0027】
ここに、
【0028】
なお、各列ベクトルは(X,Y,Z)のそれぞれの単位方向ベクトルである。
【0029】
続いて、(d)それぞれの供試体で得た軸応力とひずみテンソルの比から直交異方性の弾性パラメータ9つを特定する。
【0030】
【0031】
【0032】
最後に、式(4)のコンプライアンステンソルの成分を式(1)で示した9つの弾性パラメータに変換する。
【0033】
前記のように、9つの特定直交異方弾性の弾性パラメータを成分とするベクトルCを最小二乗法で求めるとすれば、A、kをそれぞれ、異方性の主軸、応力とひずみの情報をもつ行列とベクトルとして以下の関係を導ける。
Aの成分は(θx,θy,θz)の関数で表されるのでaより既知である。現状で、ひずみテンソルの計測を前提として、異なる方向に採取した3本の円柱供試体を軸圧縮した結果をkに代入すれば、直交異方弾性が特定できる。
【0034】
なお、3本の円柱供試体を用いた一軸試験の代わりに、図4のように角柱供試体を用いれば一つの供試体を用いて三方向から載荷することで、直交異方弾性のパラメータを同じ要領で求められる。
【0035】
ただし、この場合にはひずみテンソルの算出に載荷面にひずみゲージを設置する必要があるので、図4のように発泡ゴムなどの剛性の小さい材料を緩衝材として載荷面と供試体の間に設置する必要がある。
図1
図2
図3
図4