(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】サツマイモ由来のイモ蜜又はイモ蜜の上清を含有する口腔ケア組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20230831BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20230831BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20230831BHJP
A61K 36/39 20060101ALI20230831BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20230831BHJP
A23L 19/10 20160101ALI20230831BHJP
A23G 4/12 20060101ALI20230831BHJP
A23G 1/42 20060101ALN20230831BHJP
A23G 3/34 20060101ALN20230831BHJP
A23G 9/36 20060101ALN20230831BHJP
A23L 29/20 20160101ALN20230831BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K8/9789
A61Q11/00
A61K36/39
A61P1/02
A23L19/10
A23G4/12
A23G1/42
A23G3/34 101
A23G9/36
A23L29/20
(21)【出願番号】P 2020171110
(22)【出願日】2020-10-09
【審査請求日】2023-06-07
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】511251249
【氏名又は名称】加賀谷 光夫
(73)【特許権者】
【識別番号】520393646
【氏名又は名称】株式会社唐芋農場
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】山川 理
(72)【発明者】
【氏名】吉元 誠
(72)【発明者】
【氏名】三浦 直
(72)【発明者】
【氏名】木戸 めぐみ
(72)【発明者】
【氏名】原 好秋
【審査官】河島 拓未
(56)【参考文献】
【文献】特許第5981885(JP,B2)
【文献】中国特許出願公開第110302068(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105519632(CN,A)
【文献】特開平10-117746(JP,A)
【文献】特開平10-215835(JP,A)
【文献】特開2006-325574(JP,A)
【文献】特開平6-62881(JP,A)
【文献】EIVERS, J., et al.,Investigating the potential synergistic interactions between whole fruits and vegetables,Proceedings of the Nutrition Society,2018年,Vol.77(OCE2),E42
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
A61K
A61Q
A61P
A23G
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
Science Direct
Mintel GNPD
日経テレコン
Google
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サツマイモ由来のイモ蜜又はイモ蜜の上清を含有することを特徴とする抗う蝕及び/又は抗歯周病のための口腔ケア組成物。
【請求項2】
サツマイモ由来のイモ蜜又はイモ蜜の上清の他に、更に、少なくとも一つの補助成分を含有する事を特徴とする、請求項1に記載の口腔ケア組成物。
【請求項3】
前記補助成分が、界面活性剤、着色剤、発泡剤、抗酸化剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、pH調整剤、保存剤、防腐剤、溶剤、賦形剤、結合剤、粘稠剤、研磨剤、及び増量剤からなる群から選択された少なくとも一つの補助成分であることを特徴とする、請求項2に記載の口腔ケア組成物。
【請求項4】
液体状、粘液体状、発泡体形状、固形状、ゼリー状、ペースト状、粉末状、及び粉粒体状(顆粒状)からなる群から選択された一つの形態を有していることを特徴とする、請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の口腔ケア組成物。
【請求項5】
イモ蜜又はイモ蜜の上清を0.1~100質量%含有する事を特徴とする、請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の口腔ケア組成物。
【請求項6】
サツマイモ由来のイモ蜜又はイモ蜜の上清を含有することを特徴とする抗う蝕剤及び/又は抗歯周病剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口腔ケア組成物に関するものであり、特に詳しくは、サツマイモ由来のイモ蜜又は遠心分離したイモ蜜溶液の上清(以下、単に上清と記載することがある)を含有して構成された抗う蝕、抗歯周病作用を有する口腔ケア組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
う蝕(虫歯)は全世界人口の7割、日本人の9割が患っている生活習慣病である。
我が国においても、厚生労働省と日本歯科医師会により「80歳になっても20本以上自分の歯を保とう」という8020運動が推進される一方で、依然として日本人の歯の喪失原因の約8割をう蝕と歯周病が占めている。さらに、近年、日本人の死亡原因の第3位を占める肺炎の要因として、75歳以上の高齢者の誤嚥性肺炎があげられ、その主要因として歯周病原性細菌を中心とする口腔細菌があげられている。そのため、低年齢、若年の頃からの食生活、行動変容はもとより、う蝕、歯周病の原因となるデンタルプラーク(以下、単にプラーク或いは歯垢と記載することがある)形成を防ぐなど日常生活の中で積極的な予防対策を行うことが、高齢者になっても健康な歯を保ち、健康長寿を延伸するためにも必要とされる。
【0003】
近年、WHO(世界保健機関)は糖類摂取量に関する新しい指針案を発表した。
それによると、肥満及び糖尿病、う蝕等の問題を解消するために砂糖類の摂取量を一日のエネルギー摂取量の5%未満に制限することを薦めている。この指針案に従うと、普通体型の大人が一日に摂取できる砂糖量は約25gで、わずかにティースプーン約6杯分の砂糖で摂取制限となる。現在、砂糖は甘味資源として、世界中で利用されているが、砂糖の過剰摂取はう蝕の原因となることは周知の事実である。このような理由から、本願発明者等は、新規甘味料として、サツマイモを主原料としたイモ蜜を開発してきた。一方、本願発明者等は、これまでに、数多く存在する病原菌の中から、特にう蝕の主な発生原因となるう蝕原性細菌や歯周病の発生原因となる数々の歯周病原性細菌に着目し、う蝕ならびに歯周病発生のメカニズム及びその予防に関して研究を行って来ており、上記した問題点の改善に鋭意努力を継続させてきている。
【0004】
う蝕の発生原因となるう蝕原性細菌としてはミュータンス菌(Streptococcus mutans, 以下、Smと記載することがある)が一般的に良く知られており、当該ミュータンス菌に対するう蝕発生の予防或いはその治療方法としては、これ迄に多くの手段が提案されてきている。
処で、う蝕は、歯の表面に典型的なバイオフィルムであるプラーク(歯垢)として付着した細菌叢のうち、ミュータンス菌がショ糖から菌体外粘性多糖体を産生し、その内部でさらに増殖し、副産物として酸を作り出し、歯の表面部を構成するエナメル質或いは象牙質の主成分であるハイドロキシアパタイト結晶から、カルシウムイオンやリン酸イオンといったミネラルを溶かし出し、歯の表面に穴を開ける事により発生するものである。
【0005】
一方、歯周病は、歯と歯肉との間にある歯周ポケット内に、上記したバイオフィルム関連細菌によりプラーク(歯垢)形成され、それが拡大し、その内部で増殖されたジンジバリス菌(Porphyromonas gingivalis, 以下、単にPgと記載することがある)等に代表される特定の歯周病原性細菌が歯周ポケットを深くし、炎症を起こし、当該炎症が歯周組織全体に拡がって歯周炎となり、最終的には歯槽骨を溶かす歯周病(歯槽膿漏)という感染症に発展する。
【0006】
その為、歯の衛生管理上の基本的思想としては、上記したう蝕菌と称される当該ミュータンス菌の増殖を抑制する方法や或いは当該プラーク(歯垢)が歯の表面上に形成されない様な環境、つまりプラーク形成を阻害させる様な環境を創生する事が主目的となっている。実用的には、歯磨きを入念に行うと共に、歯磨き剤中にミュータンス菌の増殖を抑制する薬剤或いは組成物を混在させるとか、フッ素系化合物を混在させて、歯の表面部にフッ素系化合物による被膜を形成させてプラーク形成を阻害する方法等がとられている。
【0007】
他の方法としては、糖アルコールの一種であるキシリトール等の糖アルコール類は、酸を発生させることが無いことから抗う蝕性を有するものとして知られており、例えば、特開平9-238642号公報(特許文献1)等にう蝕発生予防剤として開示されている。
又、緑茶抽出ポリフェノール類についても、う蝕予防や歯周病予防のための食品や口腔ケア組成物として使用されてきており、例えば、特開平8-81380号公報(特許文献2)、特開平9-110687号公報(特許文献3)或いは特開平11-302142号公報(特許文献4)等に開示されている。
【0008】
歯周病予防の口腔ケア組成物としては、洗口剤や含嗽剤の中に、エタノール、サリチル酸メチル、チモール、ラウリル酸硫酸ナトリウム、ポビドンヨード、グルコン酸クロルヘキシジン等の消毒殺菌剤を含有させた製品が一般的に使用されてきている。例えば、「リステリン」(登録商標)として市販されている洗口剤があり、う蝕予防や歯周病予防に用いられている。
【0009】
一方、サツマイモについては、サツマイモ茎葉抽出物を用いた機能性食品、機能性素材、抗酸化剤、肝保護剤、チロシナーゼ阻害剤、糖吸収抑制剤、中性脂肪吸収抑制剤などが開示されている(特許文献5:国際公開第2006/014028号公報)。また、天然物に由来する糖として、サトウキビの廃糖蜜を利用した抗う蝕剤が開示されている(特許文献6:特開2008-201725号公報)。
更に、イモ蜜に関しては、抗酸化機能や血糖上昇抑制、整腸作用など栄養学的な機能性を有することが開示されている(特許文献7:特開2015-000016)。
【0010】
一方、う蝕・歯周病予防効果のある洗口剤或いは含嗽剤として例えば「リステリン」(登録商標)、イソジンガーグル液(登録商標)、コンクールF(登録商標)として一般的に市販されている製品等は、人体に対して有害な成分を含んでいることからその使用上に大きな制約が存在するという問題も抱えている。また、キシリトールは、その製造法が複雑であり、コストが高騰するという問題を抱えている他に、味覚性、人体に対する安全性からその使用法は著しく限定的であり、実用的且つ効果的なう蝕予防剤としては、不十分なものと考えられる。さらにはサツマイモに関しても口腔ケア組成物の技術分野として、未だ確固たる人体用の口腔ケア組成物は得られていない。
【0011】
従って、口腔ケア組成物の技術分野として、簡易な組成物構造を持ち、人体に対するう蝕予防効果やプラーク(歯垢)発生抑制効果を持ち、あるいは歯周病の発生を確実に予防でき、然もコストが低く、使用環境に制限がなく、人体に対して無害で使用回数にも制限がなく、且つ安価に製造する事が出来る口腔ケア組成物の出現が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平9-238642号公報
【文献】特開平8-81380号公報
【文献】特開平9-110687号公報
【文献】特開平11-302142号公報
【文献】国際公開第2006/014028号公報
【文献】特開2008-201725号公報
【文献】特開2015-000016号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、う蝕(虫歯)や歯周病の発生や増殖を抑制し、予防効果が期待できる新規の天然由来の口腔ケア組成物、その製造方法、及びその原料を提供することである。
また、身近に手に入れられる原料を用いることで、原料製造が簡易で、生産コストがかからず、簡易な組成物構造を持ち、さらに、使用環境に制限がなく、使用回数にも制限がなく、安価に製造する事が出来る口腔ケア組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明者等は、上記した課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、サツマイモ由来のイモ蜜そのものが、う蝕原性細菌のミュータンス菌(Sm)の増殖を効果的に抑制し、歯面プラーク(歯垢)の形成を阻害させるとともに、歯周ポケット内に形成されたプラーク内に存在する歯周病原性細菌のジンジバリス菌(Pg)の増殖をも効果的に抑制することを見出した。また、イモ蜜溶液を遠心分離した上清(以下、単にイモ蜜の上清と記載することがある)、サツマイモ由来のβ―アミラーゼの代わりに糖化酵素として麦芽を用いて製造した麦芽入りイモ蜜でも同様の作用があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、サツマイモ由来のイモ蜜又はイモ蜜の上清を含有する口腔ケア組成物である。とりわけ、抗う蝕及び/又は抗歯周病の為の口腔ケア組成物である。
【0016】
また、本発明は、サツマイモ由来のイモ蜜又はイモ蜜の上清の他に、更に、少なくとも一つの補助成分を含有する口腔ケア組成物である。
【0017】
また、前記補助成分が、界面活性剤、着色剤、発泡剤、抗酸化剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、pH調整剤、保存剤、防腐剤、溶剤、賦形剤、結合剤、粘稠剤、研磨剤、増量剤とで構成されるグループから選択された少なくとも一つの成分である事を特徴とする口腔ケア組成物である。
【0018】
また、前記口腔ケア組成物は、液体状、粘液体状、発泡体形状、固形状、ゼリー状、ペースト状、粉末状、粉粒体状(顆粒状)から選択された一つの形態を有している事を特徴とする口腔ケア組成物である。
【0019】
また、前記口腔ケア組成物は、イモ蜜又はイモ蜜の上清を0.1~100質量%含有する事を特徴とする前記口腔ケア組成物である。
【0020】
さらに、本発明は、サツマイモ由来のイモ蜜又はイモ蜜の上清を含有することを特徴とする抗う蝕剤及び/又は抗歯周病剤である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に用いるサツマイモ由来のイモ蜜、または遠心分離したイモ蜜溶液の上清は、抗う蝕作用を有し、歯周病原性細菌に対して抗菌性を有することから、う蝕(虫歯)予防効果やプラーク(歯垢)発生抑制効果を持ち、あるいは歯周病の発生を予防可能な口腔ケア組成物として有用である。
本発明のイモ蜜、またはその上清は、天然のサツマイモから精製されており、
人間の体にとっても極めて優しく、その使用方法、使用時間、使用回数、使用量などに関しても、実質的な制限はなく、広く安全且つ安心して何時でもどこで任意に使用可能である。また、歯周病原性細菌に対して有効と目される特定の化学成分や化合物のように、複雑な処理工程や複雑な処理条件の下で生成したり、抽出したりする工程や、それらを含めた他の成分を混合させる工程等を経ることがなく、サツマイモ由来のイモ蜜又はその上清を利用することで、極めて高い作業効率性を維持でき、生産コストも大幅に安価に設定する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明に係る口腔ケア組成物に用いるイモ蜜の抗う蝕作用の比較試験結果を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明に係る口腔ケア組成物に用いるイモ蜜の歯周病原性細菌の増殖抑制作用の比較試験結果を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明に係る口腔ケア組成物に用いるイモ蜜のプラーク(歯垢)形成阻害作用の比較試験結果を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明に係る口腔ケア組成物に使用されるイモ蜜の濃度の相違によるプラーク(歯垢)形成阻害作用の影響を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明に係る口腔ケア組成物に使用されるイモ蜜の濃度の相違による歯周病原性細菌Pgの生存率を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明に係る口腔ケア組成物に使用されるイモ蜜の種類の相違による歯周病原性細菌Pgの増殖抑制作用を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明に係る口腔ケア組成物に使用されるイモ蜜が麦芽を糖化酵素として混合した場合のものとで、プラーク(歯垢)形成阻害作用を比較した試験結果を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明に係る口腔ケア組成物に使用されるイモ蜜溶液の上清による歯周病原性細菌Pgの増殖抑制作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明は、サツマイモ由来のイモ蜜又はイモ蜜の上清を含有する口腔ケア組成物である。とりわけ、抗う蝕及び/又は抗歯周病の為の口腔ケア組成物に関する。また、当該口腔ケア組成物の製造方法に関する。以下、本発明を実施するための形態について説明する。本発明は、以下の記載に限定されない。
本発明は、以下の態様〔1〕~〔6〕を含む。
【0024】
〔1〕本発明の第1の態様は、サツマイモ由来のイモ蜜又はイモ蜜の上清を含有することを特徴とする口腔ケア組成物である。
〔1-1〕本発明の第1-1の態様は、サツマイモ由来のイモ蜜又はイモ蜜の上清を含有することを特徴とする抗う蝕及び/又は抗歯周病のための口腔ケア組成物である。
【0025】
〔2〕本発明の第2の態様は、サツマイモ由来のイモ蜜又はイモ蜜の上清の他に、更に、少なくとも一つの補助成分を含有する事を特徴とする、前記態様〔1〕に記載の口腔ケア組成物である。
【0026】
〔3〕本発明の第3の態様は、前記補助成分が、界面活性剤、着色剤、発泡剤、抗酸化剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、pH調整剤、保存剤、防腐剤、溶剤、賦形剤、結合剤、粘稠剤、研磨剤、及び増量剤からなる群から選択された少なくとも一つの補助成分である事を特徴とする、前記態様〔2〕に記載の口腔ケア組成物である。
【0027】
〔4〕本発明の第4の態様は、液体状、粘液体状、発泡体形状、固形状、ゼリー状、ペースト状、粉末状、及び粉粒体状(顆粒状)からなる群から選択された一つの形態を有している事を特徴とする、前記態様〔1〕~〔3〕のいずれか一態様に記載の口腔ケア組成物である。
【0028】
〔5〕本発明の第5の態様は、イモ蜜又はイモ蜜の上清を0.1~100質量%含有する事を特徴とする、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一態様に記載の口腔ケア組成物である。
【0029】
〔6〕本発明の第6の態様は、サツマイモ由来のイモ蜜又はイモ蜜の上清を含有することを特徴とする抗う蝕剤及び/又は抗歯周病剤である。
【0030】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において使用されるイモ蜜の原料であるサツマイモは産地、品種を問わないが、アンノウ、コガネセンガン、又はエイムラサキの品種を用いることが好ましい。例えば高系14号、シロユタカ、ベニハルカ、ムラサキマサリ、アヤコマチ、スイオウ、ジェイレッド、ボールガード等、従来公知の国内外品種を使用する事も可能である。
また、ヤーコン、カイアポ芋等機能性成分を含有するその他の塊根類(イモ)も本発明の口腔ケア組成物に使用しても良い。
【0031】
本発明において使用されるサツマイモは、主として当該サツマイモの本体部分、すなわち塊根部を使用するが、その形状、大きさ、色、品種等に限定されることがないため、商業的価値の低いB品芋(クズ品)を使用する事が可能である。
【0032】
本発明において使用されるサツマイモは、主として当該サツマイモの本体部分、すなわち塊根部を使用するのが好ましいが、当該サツマイモの茎部或いは葉柄部や葉部の何れかの部分を、単独或いはそれらを混在させた状態で当該本体部分に混合させて使用することも可能である。
【0033】
本発明で使用されるイモ蜜は、サツマイモを適宜の方法で加工・精製処理して得られるが、そのイモ蜜を製造する為の加工処理方法は特定されるものではなく、加熱処理、加圧処理、乾燥処理、蒸し処理、煮込み処理、細断処理、圧搾処理、混練り処理、搾取処理、擦過処理等の公知の手段を利用して製造加工され、本発明の口腔ケア組成物に使用される。
【0034】
本発明においては、上記サツマイモをそのまま原料として使用することが好ましいが、収穫後に加熱処理をして冷凍保存したものや、熱風乾燥や減圧加熱乾燥等、従来公知の方法で乾燥粉末化したものを原料として使用してもよい。
【0035】
本発明の口腔ケア組成物に使用されるイモ蜜の製造或いは精製の条件は、本願出願人が所有する特許第5981885号に開示されている方法に基づいているが、例えば、従来公知の製法によりサツマイモ由来以外の糖化酵素を添加して加工処理して製造されたイモ蜜であってもよい。
サツマイモからイモ蜜を製造するに際しては、糖化酵素として何を使用するかが重要な技術要素となるが、当該特許の方法では、サツマイモ由来の成分を糖化酵素として使用する事で高品質のイモ蜜の製造が可能になる。一方、例えば、当該糖化酵素として麦や大豆由来等のサツマイモ由来以外の糖化酵素を使用する事も可能である。
【0036】
本発明において使用されるサツマイモ由来のイモ蜜の上清は、前記品種及び製法により製造されたイモ蜜の上清であれば、その種類は特定されるものではない。
【0037】
本発明において使用されるイモ蜜の上清の抽出方法としては、イモ蜜重量の2倍量の上清の抽出条件下において、イモ蜜重量と同量水を加え、毎分15000回転で3~5分間程度遠心分離するのが好ましい。イモ蜜の2倍量~10倍量の水で抽出することも可能である。
【0038】
当該イモ蜜の上清は、そのまま使用する他に、さらに凍結乾燥、真空乾燥などの方法により乾燥し、顆粒化、粉末化することにより、サツマイモ由来の顆粒、粉末状の口腔ケア組成物とすることも可能である。
【0039】
本発明において使用されるサツマイモ由来のイモ蜜は、ブリックス値Zが65%~85%と天然甘味料としての特長を有する。
【0040】
本発明の当該口腔ケア組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、口腔ケア組成物に配合し得る任意成分を単独で又は2種以上含有してもよい。その候補としては、少なくとも人体に対して安全性が確立されているものであることが望ましい。
【0041】
例えば、ニコチン酸トコフェロール等のビタミンE類、プロテアーゼ、ムタナーゼ、リゾチーム、溶菌酵素などの酵素、グリチルレチン酸、グリチルリチン酸フッ化ナトリウム、クロロフィル、さらにはラクトフェリン等の薬効成分を単独で又は2種以上さらに含有してもよい。
また、例えば、レモングラス、パルマローザ、ヒノキ等の植物抽出エキス、大黄、甘草、当帰、アロエ等の生薬、ビタミンB、C、E等のビタミン類や乳酸菌、ラクトフェリン、オメガ3脂肪酸、ポリフェノール等、天然由来系の公知の口腔ケア用薬効成分を単独で又は2種以上さらに含有してもよい。
又、上記補助成分の含有量は用途、種類及び使用回数等により決定されるが、通常は組成物全量に対して0.001~1質量%、好ましくは0.001~0.1質量%の割合で配合することができる。
【0042】
本発明に用いられる補助成分は、界面活性剤、着色剤、発泡剤、抗酸化剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、pH調整剤、保存剤、防腐剤、溶剤、賦形剤、結合剤、粘稠剤、研磨剤、及び増量剤からなる群から選択された少なくとも一つの成分である。
【0043】
本発明に用いられる界面活性剤としては、人体に影響のないものであれば良く、例えば、ノニオン界面活性剤として、ショ糖脂肪酸エステル、マルトース脂肪酸エステル等の糖脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセライド等が挙げられる。その配合量は、通常、組成物全量に対して0.1~5質量%である。
【0044】
本発明に用いられる着色剤としては、例えば、青色1号、黄色4号、赤色202号、緑3号等の法定色素、群青、強化群青、紺青等の鉱物系色素、酸化チタン等が挙げられる。
【0045】
本発明に用いられる発泡剤として、例えば、炭酸塩、炭酸水素塩、及び炭酸水素塩と炭酸塩の複塩の少なくとも1種(以下、炭酸化合物と表記することもある)と、酸との組み合わせが例示される。炭酸塩としては、特に制限されないが、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等の炭酸のアルカリ金属塩が挙げられる。
炭酸水素塩としては、特に制限されないが、例えば、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等の炭酸水素のアルカリ金属塩が挙げられる。炭酸塩と炭酸水素塩の複塩としては、特に制限されないが、例えば、セスキ炭酸ナトリウム等が挙げられる。これらの炭酸化合物は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、酸としては、特に制限されないが、例えば、クエン酸、酒石酸、フマル酸、リンゴ酸、マレイン酸、グルコン酸、コハク酸等の有機酸;リン酸、スルファミン酸等の無機酸等が挙げられる。これらの酸は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
本発明に用いられる抗酸化剤としては、例えば、ローズマリー抽出物、ステビア抽出物、ヒマワリ種子抽出物、没食子酸プロピル、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、L-システイン塩酸塩、フィチン酸、ハイドロキノン及びその配糖体、ノルジヒドログアヤレチン酸、グアヤク脂、ポリフェノール、トコフェロール酢酸エステル、マツエキス、アスコルビン酸等が挙げられる。
【0047】
本発明に用いられる湿潤剤としては、例えば、ソルビット、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、1,3―ブチレングリコール、ポリプロピレングリコール、キシリット、マルチット、ラクチット、ポリオキシエチレングリコール等が挙げられ、単独または2種以上を組み合わせて配合することが可能である。
【0048】
本発明に用いられる甘味剤としては、例えば、サッカリンナトリウム、アセスルファームカリウム、ステビオサイド、ネオヘスペリジルジヒドロカルコン、ペリラルチン、タウマチン、アスパラチルフェニルアラニルメチルエステル、p-メトキシシンナミックアルデヒド等が挙げられる。その配合量は、通常、組成物全量に対して0.01~1質量%である。
【0049】
本発明に用いられる香味剤としては、例えば、メントール、カルボン酸、アネトール、オイゲノール、サリチル酸メチル、リモネン、オシメン、n-デシルアルコール、シトロネール、α-テルピネオール、メチルアセタート、シトロネニルアセタート、メチルオイゲノール、シネオール、リナロール、エチルリナロール、チモール、スペアミント油、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、セージ油、ローズマリー油、珪皮油、シソ油、冬緑油、丁子油、ユーカリ油、ピメント油、d-カンフル、d-ボルネオール、ウイキョウ油、ケイヒ油、シンナムアルデヒド、ハッカ油、バニリン等が挙げられる。その配合量は、単独または2種以上を組み合わせて、通常、組成物全量に対して例えば0.001~5質量%である。
【0050】
本発明に用いられるpH調整剤としては、例えば、クエン酸、リン酸、リンゴ酸、ピロリン酸、乳酸、酒石酸、グリセロリン酸、酢酸、硝酸、またはこれらの化学的に可能な塩や水酸化ナトリウム等が挙げられる。これらは、組成物のpHが4~8、好ましくは5~7の範囲となるよう、単独または2種以上を組み合わせて配合することができる。pH調整剤の配合量は、例えば0.01~2質量%であってよい。
【0051】
本発明に用いられる保存剤としては、例えば、パラベン類(メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等)、安息香酸、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ベンジル、パラオキシ安息香酸メチル、フェノキシエタノール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウムなどが挙げられる。
【0052】
本発明に用いられる防腐剤としては、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン等のパラベン類、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン等が挙げられる。
【0053】
本発明に用いられる溶剤としては、例えば、エタノール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキシレングリコールなどが挙げられる。
【0054】
本発明に用いられる賦形剤としては、例えば、還元パラチノース、パラチノース、ソルビトール、還元麦芽糖水飴、エリスリトール、トレハロース、マンニット、キシリトール、結晶セルロース、ガムベース、ゼラチン、アラビアガムなどが挙げられ、1種単独または2種以上を適宜組み合わせて用いることが可能である。これらは剤形により配合量は異なるが、その配合量は、通常、組成物全量に対して5~95質量%である。
【0055】
本発明に用いられる結合剤としては、例えば、セルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、キサンタンガムなどが挙げられ、1種単独または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。その配合量は、通常、組成物全量に対して0.5~5質量%である。
【0056】
本発明に用いられる粘調剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルヒドロキシセルロースナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カチオン化ヒドロキシエチルセルロース、結晶セルロースなどのセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウムなどのアルカリ金属アルギネート、アルギン酸プロピレングリコールエステル、キサンタンガム、トラガントガム、カラヤガム、アラビアガム、カラギーナンなどのガム類、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドンなどの合成粘調剤、シリカゲル、アルミニウムシリカゲル、ビーガム、ラポナイトなどの無機粘調剤などが挙げられる。
【0057】
本発明に用いられる研磨剤としては、例えば、リン酸水素カルシウム、ピロリン酸カルシウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、アルミノシリケート、水酸化アルミニウム、ゼオライト、カオリンなどが挙げられる。これらを1種単独または2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。その配合量は、通常、組成物全量に対して1~40質量%である。
【0058】
本発明の口腔ケア用組成物において、サツマイモ由来のイモ蜜又は上清と、当該補助成分とを混合して使用する場合において、当該両成分の混合割合は特に限定されるものではないが、例えば、当該補助成分は、当該サツマイモ由来のイモ蜜の0.001~1.5質量%であることが好ましい。
【0059】
本発明に用いられる当該イモ蜜と当該補助成分とをそれぞれ必要な量を個別に準備した後、当該双方の成分を適宜の混合手段を使用して、攪拌・混合処理を実行し、当該両成分が相互に均一に混ぜ合わされるように処理する事が望ましい。
当該混合処理の装置或いは当該混合処理における混合条件、例えば、混合手順、混合処理時の温度条件、攪拌条件、加圧条件、混合処理時間等は必要に応じて適宜選択して処理する事が望ましい。
【0060】
本発明の口腔ケア用組成物は、液体状、粘液体状、発泡体形状、固形状、ゼリー状、ペースト状、粉末状、及び粉粒体状(顆粒状)からなる群から選択された一つの形態を有している。
【0061】
本発明の口腔ケア組成物として機能するより具体的な商品化の形態としては、特に限定されるものではないが、イモ蜜の場合、例えば、蜜状等の食品或いは歯磨剤、含嗽剤、洗口剤、若しくは飴、ガム、飲料ゼリー、ドリンク、サプリメント、スプレー剤、チョコレート、又はアイスクリームの形態が好ましい具体例として挙げられる。
【0062】
本発明の口腔ケア組成物として機能するより具体的な商品化の形態としては、特に限定されるものではないが、イモ蜜の上清の場合、例えば、スプレータイプの噴霧洗口剤、含嗽剤、ドリンク、又は顆粒や粉末タイプのサプリメントの形態が好ましい具体例として挙げられる。
【0063】
本発明の口腔ケア組成物における最終的な使用形態として、粉末状態或いは顆粒状態とする場合には、凍結乾燥、噴霧乾燥等、従来公知の方法を用いることができる。特に限定はされないが、一例をあげると、本発明の口腔ケア組成物を-20℃~-30℃で数時間凍結し、その後、当該凍結した試料を真空装置に掛けて-50℃で24時間真空状態にし、その後、凍結乾燥装置内で水分のみを蒸発させる。その後、常温、大気圧に戻す事によって乾燥した粉末状態或いは顆粒状態の製品を得る事が可能となる。
【0064】
本発明に用いるサツマイモ由来のイモ蜜又はイモ蜜の上清を、天然甘味料又は添加物として既存の食品に添加混合することにより、う蝕・歯周病予防の食品とすることも可能である。例えば、当該食品としては、菓子類、麺類、畜肉魚肉加工品、乳製品、パンなどの各種一般加工品のほか、飲料、調味料、酒類、さらには液体状、蜜状、粉末状、顆粒状、丸剤状、錠剤状、ソフトカプセル状、ハードカプセル状、ゼリー状またはペースト状の栄養補助食品、特定保健用食品、機能性食品、健康食品、介護や嚥下障害用の治療食品などが挙げられる。
【0065】
本発明の口腔ケア組成物の対象としては、ヒトを含む哺乳動物(例えばイヌ等)が挙げられ、特にヒトが好ましい。
【0066】
次に、本発明に係る当該口腔ケア組成物として機能する口腔ケア用組成物の製造方法は、特に特定されるものではないが、その一具体例として、例えば、サツマイモからサツマイモ由来のイモ蜜を製造する第1工程と、当該サツマイモ由来のイモ蜜に混合する為の1種又は2種以上の補助成分を選択する第2工程と、当該第1の工程で得られた当該イモ蜜と当該第2の工程で選択された当該補助成分とを適宜の手段で混合処理する第3の工程とから構成されている事を特徴とする口腔ケア組成物の製造方法である。
【0067】
本発明の口腔ケア組成物の製造方法においては、当該第3の工程における、各構成素材の混合割合、混合操作方法、混合時の加熱、加圧、回転数、処理時間、追加される第3成分の特性や混合量等の各条件は特に限定されるものではく、当該口腔ケア用組成物の成分組成や最終製品における形状は性状に応じて適宜の装置或いは加工処理条件が選択される。
更に、本発明に係る別の態様である当該口腔ケア組成物の製造方法においては、上記した第3の工程に引き続き、当該口腔ケア組成物の最終製品における形状或いは性状、例えば、当該口腔ケア組成物の最終製品が液体状か固形状か、或いはペースト状か粒状体か等の状況に応じて、各種の成形加工工程、造粒或いは顆粒形成工程更には、包装工程や適宜容器への収納工程等の1個乃至複数個の追加工程が付加される。
【0068】
本発明の口腔ケア組成物として、例えば、ガム、飴、ゼリー、ドリンク、サプリメント、蜜状等の食品或いは歯磨剤若しくは含嗽剤もしくは洗口剤あるいはスプレー液などが挙げられる。
【0069】
本発明の「サツマイモ由来のイモ蜜又はイモ蜜の上清を含有することを特徴とする抗う蝕剤及び/又は抗歯周病剤」とは、サツマイモ由来のイモ蜜又はイモ蜜の上清を、抗う蝕及び/又は抗歯周病のための使用を意味し、口腔ケア用組成物を包含するものである。
【実施例】
【0070】
以下に実施例を示し、本発明の詳細を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0071】
<実施例1> サツマイモ由来のイモ蜜の製造
本願出願人が所有する特許第5981885号に開示されている方法に基づき、アンノウ、コガネセンガン、エイムラサキの3品種のサツマイモを各々160Kg使用し、これを約1時間程蒸煮した後、75Lの水を加水してスラリー状にする。その後、当該液状体に、ベニハルカから得られたβ―アミラーゼを添加し、65℃、30分間加熱処理し、得られた溶解液を加圧して搾汁し、各々のイモ蜜の原料を得た後、さらに2時間程加熱濃縮して、アンノウ(実施例1-A)、コガネセンガン(実施例1-B)及びエイムラサキ(実施例1-C)から、各々50Kg、55Kg、及び50Kgのイモ蜜を得た。
実施例1-Aのイモ蜜は商品名:「安納」、実施例1-Bのイモ蜜は商品名:「薩摩」、実施例1-Cのイモ蜜は商品名:「紫」として、株式会社唐芋農場より販売されている。本願において、「実施例1-A」、「実施例1-B」、「実施例1-C」と表記する場合、各々の品種から製造されたイモ蜜を示す場合もある。
【0072】
<実施例2> サツマイモ由来のイモ蜜の上清の製造
実施例1で得られたイモ蜜(エイムラサキ、実施例1-C)3gを等量の水で50%に希釈したものを、株式会社トミー精工製;MX-305遠心分離機を用いて、試験管で毎分15000回転、5分間遠心分離した後、沈殿物を除去しクリアな上清を5.4g得た。
【0073】
<実施例3> 麦芽入りイモ蜜の製造
コガネセンガン160Kgを使用し、これを約100℃の高温蒸気噴霧状態で1時間程蒸煮した後、75Lの水を加水してスラリー状にする。その後、当該液状体に糖化酵素として麦芽(サントリーモルティング株式会社製;水飴用麦芽4/10粉砕)1.6Kgを添加し、60℃、30分間加熱処理し、得られた溶解液を加圧して搾汁し、イモ蜜の原料を得た後、さらに2時間程加熱濃縮して、糖化酵素として麦芽を用いたイモ蜜(実施例3)を60Kg得た。
【0074】
<試験例1> サツマイモ由来のイモ蜜の抗う蝕作用
前記実施例で得られた実施例1-A及び実施例1-Cのイモ蜜を使用し、比較対象として、当該イモ蜜を含まない無添加試料を作製して、抗う蝕作用を確認した。
ブレインハートインフュージョン(以下、BHIと略す)培地に対して1%濃度のショ糖液を10mL添加し且つこれに120000個のミュータンス菌(Sm)を添加して「基礎サンプルS」を作製した。
この基礎サンプルSに、何も添加しないもの(無添加サンプル)(1)、当該実施例1-Aのイモ蜜を1.0g添加したサンプル(2)、及び実施例1-Cのイモ蜜を1.0g添加したサンプル(3)とをそれぞれ作製し、各サンプルについて、37℃、48時間の培養処理を行った後、当該培養液を捨て、その後、10mLの蒸留水をそれに添加した後、攪拌処理を実行後、当該攪拌液を廃棄した後、クリスタルバイオレット染色を行い、当該各サンプル内にプラーク(歯垢)が形成されているか否かを検査した。その結果を
図1に示した。
【0075】
当該抗う蝕作用の比較実験の結果、無添加状のサンプル(1)においては、大量の白濁状物が発生し濃紺色に染まり、プラーク(歯垢)が発生する事が示された。これに対して、本発明に係るイモ蜜を使用した当該サンプル(2)及び(3)では、当該白濁は殆ど見られずプラーク(歯垢)が発生していないこと事が示された。よって、本発明に係るイモ蜜を使用した口腔ケア組成物は、プラーク(歯垢)形成を阻害する抗う蝕作用を有する事が理解される。
【0076】
<試験例2> サツマイモ由来のイモ蜜の歯周病原性細菌の増殖抑制作用
前記実施例で得られた実施例1-A、実施例1―B、実施例1-Cのイモ蜜及びTBS培地に歯周病原性菌ジンジバリス菌(Pg)の発育に必要なへミン及びメナジオンを添加した液体培地1mLに対し、同培地で前培養したPgを80μL植菌し、「基礎サンプルP」を準備した。当該基礎サンプルPに対し、実施例1-Aのイモ蜜を10%添加して作られた培地(サンプル4)、実施例1-Bのイモ蜜を10%添加して作られた培地(サンプル5)、実施例1-Cのイモ蜜を10%添加して作られた培地(サンプル6)、並びに当該基礎サンプルPに対し何も添加しない状態のままの培地つまり通常培地(サンプル7)とを個別に調整作製した。
その後、各サンプルを37℃、2日間嫌気培養処理を行った後、各サンプルについて概観観察写真を撮影した。その結果を
図2に示した。
その結果、当該サンプル(4)~サンプル(6)における当該培地の液体はクリアーとなっており、そのいずれのサンプルにおいても当該歯周病原性細菌Pgは生育・増殖が視認されなかった。一方、対照の通常培地(サンプル7)においては、白濁状の濁りが存在しており、当該歯周病原性細菌Pgが生育・増殖している事が確認された。
この結果から、本発明に係る当該サツマイモ由来のイモ蜜を使用した口腔ケア組成物は、歯周病原性細菌の増殖を抑制し、歯周病予防効果を有することが期待される。
【0077】
<試験例3> サツマイモ由来のイモ蜜の歯垢形成阻害作用
通常の2倍濃度のBHI培地に対して1%濃度のショ糖(白砂糖)を含侵させ、且つ0.1mLのミュータンス菌液(約1000個の菌体)を添加した基礎サンプル(サンプル8)を作製した。
次いで、当該基礎サンプル(サンプル8)に対して当該ショ糖(白砂糖)を一切含侵させない別のサンプル(サンプル9)を作製すると共に、当該基礎サンプル(サンプル8)において、当該1%濃度のショ糖(白砂糖)に替えて、実施例1-Aのイモ蜜を10%添加したサンプル(10)、実施例1-Bのイモ蜜を10%添加したサンプル(11)、実施例1―Cのイモ蜜を10%添加したサンプル(12)とを個別に作製し、各サンプルに、それぞれ、37℃、48時間の培養処理を行った。その後、当該培養液の上澄み液を捨て、その後、0.2mLの蒸留水で各サンプルを2回洗浄し、その後、各サンプルのそれぞれに0.1%のクリスタルバイオレットを0.2mLずつ添加し、20分間攪拌染色処理操作を行った後に、染色液を廃棄し、その残りを0.2mLの蒸留水で2回洗浄した後、99.5%のエタノール0.2mLで色素を溶出させ、吸光度(570nm)測定を行った。
その結果に基づいて、プラーク(歯垢)形成阻害率(%)を算出した。その結果を
図3に示した。
【0078】
プラーク形成阻害率(%)=[A570(ショ糖無添加)-A570(試料添加)]/A570(ショ糖無添加)×100
A570:エタノールで溶出したクリスタルバイオレットの570nmにおける吸光度である。
【0079】
その結果、ショ糖が存在する場合(サンプル8)には、当該ショ糖がう蝕原性細菌の餌となり、プラーク(歯垢)が急速に成長するが、ショ糖が存在しない場合(サンプル9)には、殆ど当該プラーク(歯垢)が形成されないことが示された。また、イモ蜜を使用する場合(サンプル10~12)には、(サンプル9)と同様に、ほとんどプラーク(歯垢)が形成されないことが示された。当該イモ蜜はプラーク(歯垢)形成阻害効果を発揮するものであることが示された。
【0080】
<試験例4> サツマイモ由来のイモ蜜の濃度に対する歯垢形成阻害作用の影響
試験例3で使用した実施例1-A及び実施例1-Bのイモ蜜について、各々の使用時のイモ蜜の濃度による当該プラーク(歯垢)形成阻害率の変化(影響)について検討した。その結果を
図4に示した。
【0081】
その結果、何れのイモ蜜に関しても、イモ蜜の使用濃度が0.1%~10%の間での使用に関し、使用濃度が高い場合にはプラーク(歯垢)形成阻害作用が高く、濃度依存的であることが確認できた。
【0082】
<試験例5-1> イモ蜜の濃度による歯周病原性細菌Pgの生存率(1)
実施例1-Cのイモ蜜に関して、使用時のイモ蜜の濃度によって、歯周病原性細菌Pgの生存率が如何なる状態で変化するかを分析し検討した。結果を
図5に示した。
【0083】
その結果、当該イモ蜜が使用されない場合には、歯周病原性細菌Pgは全く死滅せず殆ど生き残り増殖するが、イモ蜜の使用濃度が0.1%~10%の間での使用に関しては、確実に当該歯周病原性細菌の生存率は低下する事が示された。
特に、当該イモ蜜の使用量が10%である場合には、当該歯周病原性細菌Pgは確実に死滅する事が示され、当該イモ蜜の使用量が0.1%~5%間の条件であれば当該歯周病原性細菌Pgの生存率を40%以下に抑え込むことが可能である事が示された。
【0084】
<試験例5-2>イモ蜜種類による歯周病原性細菌Pgの増殖抑制作用(2)
実施例1-Aのイモ蜜、実施例1-Bのイモ蜜、及び実施例1-Cのイモ蜜の濃度を10%にして、歯周病原性細菌Pgの増殖抑制効果を比較検討した。結果を
図6に示した。
【0085】
その結果、イモ蜜を一切使用しない場合には、歯周病原性細菌Pgの増殖抑制効果は全く見られないが、各イモ蜜を10%混入させた場合には、それぞれ約100%に近い増殖抑制効果が発揮されている事が示された。
【0086】
<試験例6> サツマイモ由来の麦芽入りイモ蜜の歯垢形成阻害作用
前記実施例3で得られた麦芽入りイモ蜜及び実施例1-Bのイモ蜜を用い、比較対象として当該イモ蜜を含まない無添加試料を作製して、抗う蝕作用を確認した。BHI培地に対して1%濃度のショ糖(白砂糖)を含侵させ、且つ0.1mLのミュータンス菌液(約1000個の菌体)を添加した基礎サンプルを作製した。次いで、当該基礎サンプルに対して当該ショ糖(白砂糖)を一切含侵させない別の無添加サンプルを作製すると共に、当該基礎サンプルにおいて、当該1%濃度のショ糖(白砂糖)に替えて、実施例3の麦芽入りイモ蜜を10%添加したサンプル、実施例1-Bのイモ蜜を10%添加したサンプルを個別に作製し、各サンプルそれぞれに、37℃、48時間の培養処理を行った。その後、当該培養液の上澄み液を捨て、その後、0.2mLの蒸留水で各サンプルを2回洗浄し、その後、各サンプルのそれぞれに0.1%のクリスタルバイオレットを0.2mLずつ添加し、20分間攪拌染色処理操作を行った後に、染色液を廃棄し、その残りを0.2mLの蒸留水で2回洗浄した後、99.5%のエタノール0.2mLで色素を溶出させ、吸光度(570nm)測定を行った。
その結果に基づいて、プラーク(歯垢)形成阻害率(%)を算出した。その結果を
図7に示した。
【0087】
その結果、ショ糖が存在する場合には、当該ショ糖がう蝕原性細菌の餌となりプラーク(歯垢)が急速に成長するが、ショ糖が存在しない場合には、殆ど当該プラーク(歯垢)が形成されないことが確認された。また、実施例3の麦芽入りイモ蜜においても実施例1-Bのイモ蜜同様に、ほとんどプラーク(歯垢)が形成されないことが示された。当該イモ蜜はプラーク(歯垢)形成阻害効果を発揮するものであることが示された。
【0088】
<試験例7> サツマイモ由来のイモ蜜溶液の上清の歯周病原性細菌Pgの増殖抑制作用
実施例1-Cのイモ蜜溶液の上清に関して、使用時の上清の濃度によって、歯周病原性細菌Pgの生存率が如何なる状態で変化するかを分析し検討した。結果を
図8に示した。
【0089】
その結果、当該イモ蜜溶液の上清が使用されない場合には、歯周病原性細菌Pgは全く死滅せず殆ど生き残り増殖するが、上清の使用濃度が5%~10%の間での使用に関しては、確実に当該歯周病原性細菌Pgの生存率は低下する事が示された。
特に、当該上清の使用量が10%である場合には、当該歯周病原性細菌Pgはほぼ確実に死滅する事が示され、イモ蜜本体が示す増殖抑制と同様の効果が示された。
【0090】
<口腔ケア組成物の処方例>
以下に、本発明の口腔ケア組成物の形態に関する具体例を説明する。
【0091】
<イモ蜜飴>
成分 配合量
イモ蜜 70~80質量%
麦芽水飴 20~30質量%
【0092】
<イモ蜜チョコレート>
成分 配合量
イモ蜜 10~30質量%
カカオマス 40~60質量%
カカオバター 20~30質量%
ミルクパウダー 0~20質量%
増量剤 5~10質量%
【0093】
<イモ蜜ガム>
成分 配合量
イモ蜜 40~50質量%
ガムベース(チクル等植物性樹脂) 40~50質量%
イモ蜜粉末 2~5質量%
【0094】
<イモ蜜飲料ゼリー>
成分 配合量
イモ蜜 30~40質量%
水 40~60質量%
ゲル化剤(DJ-100) 0.8質量%
ビタミンC 0.4質量%
【0095】
<イモ蜜アイスクリーム>
成分 配合量
イモ蜜 30~40質量%
牛乳 40~60質量%
クリーム 5~8質量%
脱脂粉乳 3~5質量%
安定剤(増粘多糖類) 0.3~0.5質量%
【0096】
<産業上の利用の可能性>
本発明に用いるサツマイモ由来のイモ蜜、またはイモ蜜溶液を遠心分離したイモ蜜の上清は、抗う蝕原性を有し、歯周病原性細菌に対して抗菌性を有することから、う蝕(虫歯)予防効果やプラーク(歯垢)発生抑制効果を持ち、あるいは歯周病の発生を予防可能な口腔ケア組成物として有用である。
本発明のイモ蜜、またはその上清は、天然のサツマイモから精製されており、
人間の体にとっても極めて優しく、その使用方法、使用時間、使用回数、使用量などに関しても、実質的な制限はなく、広く安全且つ安心して何時でもどこで任意に使用可能である。また、歯周病原性細菌に対して有効と目される特定の化学成分や化合物のように、複雑な処理工程や複雑な処理条件の下で生成したり、抽出したりする工程や、それらを含めた他の成分を混合させる工程等を経ることがなく、本発明に用いるサツマイモ由来のイモ蜜又はその上清は、極めて高い作業効率性を維持でき、生産コストも大幅に安価に設定する事が可能となる。
【0097】
本発明の口腔ケア組成物は、既存の化学薬品や人工甘味料と比べて人体に無害で且つ副作用の心配がなく、う蝕(虫歯)、歯周病予防機能を発揮する天然物由来の口腔ケア組成物であり、広範囲な分野で容易にかつ簡便に然も何らかの使用制限を受けること無く、口腔ケア用途に使用可能である。
当該本発明に係る当該口腔ケア組成物においては、う蝕と歯周病の予防或いは治療といったトータル的に口腔ケアが可能となる。
更に, 当該本発明に係る当該口腔ケア組成物においては、その味覚性に優れており、又、価格的にも安価であることから、その使用環境は幅広く設定され、然も大量に消費される可能性を持った口腔ケア用商品である。
一方、本発明に係る当該口腔ケア組成物に使用されるサツマイモは、産地や品種、形状、大きさ、色等に制限されることなく、現在公知となっている殆どのサツマイモを活用する事が可能であり、その結果、国内のサツマイモ産業並びに地場産業の活性化にも大いに寄与する事になる。
又、同時に、本発明に係る当該口腔ケア組成物においては, 当該サツマイモに含まれるポリフェノールや食物繊維、カロテン等の成分が、活性酸素による人体の老齢化や癌、糖尿病、高血圧等の疾患の発生を合わせて抑制する事が期待される健康食品としても活用可能である。