IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 岡山大学の特許一覧 ▶ 医療法人創和会の特許一覧

<>
  • 特許-抗炎症作用を有する新規単クローン抗体 図1
  • 特許-抗炎症作用を有する新規単クローン抗体 図2
  • 特許-抗炎症作用を有する新規単クローン抗体 図3
  • 特許-抗炎症作用を有する新規単クローン抗体 図4
  • 特許-抗炎症作用を有する新規単クローン抗体 図5
  • 特許-抗炎症作用を有する新規単クローン抗体 図6
  • 特許-抗炎症作用を有する新規単クローン抗体 図7
  • 特許-抗炎症作用を有する新規単クローン抗体 図8
  • 特許-抗炎症作用を有する新規単クローン抗体 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】抗炎症作用を有する新規単クローン抗体
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20230831BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20230831BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230831BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20230831BHJP
   C12N 5/18 20060101ALI20230831BHJP
   C07K 16/44 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
A61K39/395 N
A61P29/00
A61P31/04
A61P9/10
C12N5/18 ZNA
C07K16/44
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020522141
(86)(22)【出願日】2019-05-23
(86)【国際出願番号】 JP2019020453
(87)【国際公開番号】W WO2019230558
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2018105841
(32)【優先日】2018-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【微生物の受託番号】NPMD  NITE BP-02690
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】399015780
【氏名又は名称】医療法人創和会
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】西堀 正洋
(72)【発明者】
【氏名】森 秀治
(72)【発明者】
【氏名】森岡 祐太
(72)【発明者】
【氏名】和氣 秀徳
(72)【発明者】
【氏名】友野 靖子
【審査官】長谷川 茜
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-168394(JP,A)
【文献】特開2002-181820(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0039353(US,A1)
【文献】特表2011-518874(JP,A)
【文献】特表2016-508607(JP,A)
【文献】ADACHI J. et al.,Enhanced lipid peroxidation in tourniquet-release mice.,Clinica Chimica Acta,2006年,Vol.371,pp.79-84
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
C07K 16/00-16/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗4-HNE抗体を有効成分として含む、敗血症又は脳梗塞の治療剤。
【請求項2】
有効成分としての抗4-HNE抗体が、配列番号1~6で特定される各アミノ酸配列を含む、請求項に記載の治療剤
【請求項3】
有効成分としての抗4-HNE抗体が、受領番号NITE ABP-02690で特定されるハイブリドーマから産生される単クローン抗体である、請求項1又は2に記載の治療剤
【請求項4】
受領番号NITE ABP-02690で特定される単クローン抗体産生用ハイブリドーマ。
【請求項5】
受領番号NITE ABP-02690で特定されるハイブリドーマから産生される抗4-HNE抗体。
【請求項6】
配列番号7に示すアミノ酸配列からなる重鎖と配列番号8に示すアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗4-HNE抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗炎症作用を有する新規単クローン抗体に関する。
【0002】
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願特願2018-105841号優先権を請求する。
【背景技術】
【0003】
4-ヒドロキシ-2-ノネナール(4-Hydroxy-2-nonenal:4-HNE)は、細胞質内に存在する脂肪酸の酸化によって生じる代表的な酸化ストレス物質である。4-HNEは、生体脂質のアラキドン酸のようなω6系高度不飽和脂肪酸から生成される細胞傷害性アルデヒドであり、ミトコンドリア障害をきたし、神経細胞変性を引き起こすことが知られている(非特許文献1:Mattson MP, Exp Gerontol, 2009, 44 (10), 625-633; 非特許文献2:Keller JN, et al., J Neurosci, 1998, 18 (2), 687-697)。そして、4-HNE又はその修飾体構造物について生体の酸化ストレスの程度を知るバイオマーカーとして利用されてきた。しかしながら、4-HNEやタンパクの4-HNE修飾構造物が細胞外信号としてどのように作用する分子種であるかは解明されていないことが多い。
【0004】
抗炎症剤として、ステロイド性抗炎症薬や非ステロイド性抗炎症薬があり、非ステロイド性抗炎症薬としてはNSAIDsが公知である。NSAIDsはプロスタグランジン(PG)を生合成するシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害する作用を有する。炎症反応を促進するプロスタグランジン類の産生抑制という面では有効であるが、プロスタグランジン類は消化管粘膜保護作用や腎ナトリウム利尿作用を有しているため、これらの作用消失が副作用として問題になる。また、ステロイド性抗炎症薬は強い抗炎症作用を有する。副腎皮質から分泌される糖質コルチコイドというホルモンは、糖質の代謝調節作用、抗炎症作用、抗アレルギー作用など、多様な生体反応に関与しており、これらの生理作用の中で特に抗炎症作用に注目して開発されたステロイド性抗炎症剤も公知である。しかしながら、副腎皮質ステロイドは抗炎症作用の他、高血糖、骨粗鬆症、易感染症などの副作用も多く、投与量の調節など、慎重な患者管理の下に使用されている。
【0005】
NSAIDsやステロイド性抗炎症剤に比べて副作用が少なく、より効果的な抗炎症剤の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Exp Gerontol, 2009, 44 (10), 625-633
【文献】J Neurosci, 1998, 18 (2), 687-697
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、抗4-HNE単クローン抗体により、4-HNEを阻害すると、抗炎症作用を発揮できることを新規に見出し、抗4-HNE単クローン抗体産生用ハイブリドーマを作製し、本発明の抗4-HNE単クローン抗体を作製した。本発明者らは、本発明の抗4-HNE抗体によれば、従来NSAIDsやステロイド性抗炎症剤など、既存の抗炎症薬では効果を示さなかった炎症性疾患に対しても著効を示すことを確認し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0008】
新規抗4-HNE単クローン抗体による。本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、4-HNEを阻害することで抗炎症作用を有することを見出し、抗4-HNE単クローン抗体産生用ハイブリドーマを作製し、本発明の新規抗4-HNE単クローン抗体を作製した。本発明の抗4-HNE抗体によれば、従来NSAIDsやステロイド性抗炎症剤など、既存の抗炎症薬では効果を示さなかった炎症性疾患に対しても著効を示すことを確認し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち本発明は、以下よりなる。
1.抗4-HNE抗体を有効成分として含む、炎症性疾患治療剤。
2.炎症性疾患が、敗血症、脳虚血梗塞、脳梗塞、脳外傷、脳外科手術に伴う脳損傷、脊髄損傷、動脈硬化症、急性呼吸窮迫症候群、急性膵炎、急性肺障害、出血性ショックによる肺障害、多臓器不全、神経因性疼痛、クモ膜下出血後の脳血管攣縮、火傷、多発外傷、特発性間質性肺線維症、てんかん症、けいれん重積病、ウイルス脳炎、インフルエンザ脳症、炎症性腸疾患、川崎病、多発性硬化症、糖尿病性血管合併症、肝炎、気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫、外科手術後臓器障害、放射線治療後臓器障害、腎炎、ネフローゼ症候群、急性腎障害、血液透析、体外循環、人工呼吸、臓器移植後急性・慢性拒絶反応、SLE、関節リウマチ、DIC、自己免疫疾患群、ベーチェット病、心筋炎、心内膜炎、虚血再灌流障害、心筋梗塞、うっ血性心不全、脂肪組織炎症、好中球性皮膚症、スウィート病、スティーブン・ジョンソン症候群、ライ症候群、悪液質、慢性疲労症候群、線維筋痛症から選択される一種又は複数種の疾患である、前項1に記載の炎症性疾患治療剤。
3.有効成分としての抗4-HNE抗体が、4-HNEとのタンパクアダクトに対する抗体である、前項1又は2に記載の炎症性疾患治療剤。
4.有効成分としての抗4-HNE抗体が、配列番号1~6で特定される各アミノ酸配列を含む、前項1~3のいずれかに記載の炎症性疾患治療剤。
5.有効成分としての抗4-HNE抗体が、受領番号NITE ABP-02690で特定されるハイブリドーマから産生される単クローン抗体である、前項1~3のいずれかに記載の炎症性疾患治療剤。
6.受領番号NITE ABP-02690で特定される単クローン抗体産生用ハイブリドーマ。
7.受領番号NITE ABP-02690で特定されるハイブリドーマから産生される抗4-HNE抗体。
8.重鎖領域に配列番号1~3で特定されるアミノ酸配列又は配列番号1~3で特定されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列のいずれか少なくとも1種のアミノ酸配列を含み、及び、軽鎖領域に配列番号4~6で特定されるアミノ酸配列又は配列番号4~6で特定されるアミノ酸配列において、1又は複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列のいずれか少なくとも1種のアミノ酸配列を含む、4-HNEに対する抗原結合活性を有する抗4-HNE抗体。
9.配列番号7に示すアミノ酸配列からなる重鎖と配列番号8に示すアミノ酸配列からなる軽鎖を含む、抗4-HNE抗体。
【0010】
A.有効成分として抗4-HNE抗体を使用する、炎症性疾患の治療方法。
B.炎症性疾患が、敗血症、脳虚血梗塞、脳梗塞、脳外傷、脳外科手術に伴う脳損傷、脊髄損傷、動脈硬化症、急性呼吸窮迫症候群、急性膵炎、急性肺障害、出血性ショックによる肺障害、多臓器不全、神経因性疼痛、クモ膜下出血後の脳血管攣縮、火傷、多発外傷、特発性間質性肺線維症、てんかん症、けいれん重積病、ウイルス脳炎、インフルエンザ脳症、炎症性腸疾患、川崎病、多発性硬化症、糖尿病性血管合併症、肝炎、気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫、外科手術後臓器障害、放射線治療後臓器障害、腎炎、ネフローゼ症候群、急性腎障害、血液透析、体外循環、人工呼吸、臓器移植後急性・慢性拒絶反応、SLE、関節リウマチ、DIC、自己免疫疾患群、ベーチェット病、心筋炎、心内膜炎、虚血再灌流障害、心筋梗塞、うっ血性心不全、脂肪組織炎症、好中球性皮膚症、スウィート病、スティーブン・ジョンソン症候群、ライ症候群、悪液質、慢性疲労症候群、線維筋痛症から選択される一種又は複数種の疾患である、前項Aに記載の治療方法。
C.有効成分としての抗4-HNE抗体が、4-HNEとのタンパクアダクトに対する抗体である、前項A又はBに記載の治療方法。
D.有効成分としての抗4-HNE抗体が、配列番号1~6で特定される各アミノ酸配列を含む、前項A~Cのいずれかに記載の治療方法。
E.有効成分としての抗4-HNE抗体が、受領番号NITE ABP-02690で特定されるハイブリドーマから産生される単クローン抗体である、前項A~Cのいずれかに記載の治療方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗4-HNE抗体を有効成分とする炎症性疾患治療剤によれば、脳梗塞や脳虚血再灌流による各種炎症マーカー発現の改善効果が認められ、さらには敗血症モデル動物における延命・救命効果が認められた。即ち本発明の抗4-HNE抗体によれば、従来NSAIDsやステロイド性抗炎症剤など、既存の抗炎症薬では効果を示さなかった炎症性疾患に対しても著効を示すことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の抗4-HNE抗体を作製するためのタンパクアダクトに関し、タンパク質と4-HNEとを非酵素的に反応させて作製したタンパクアダクトの結合様式を示す図である。
図2】MCAOモデルラットを用いた実験プロトコールを示す図である。(実験例2)
図3】MCAOモデルラットでの抗4-HNE抗体投与による脳関門(BBB)のバリア機能に及ぼす効果を確認した結果を示す図である。(実験例2)
図4】MCAOモデルラットでの抗4-HNE抗体投与による脳梗塞面積の違いを確認した結果を示す図である。(実験例2)
図5】MCAOモデルラットでの抗4-HNE抗体投与による炎症の改善効果を確認した結果を示す図である。抗4-HNE抗体投与により、炎症マーカーであるIL-1β、iNOS及びTNF-αのmRNA発現量が抑制された。(実験例3)
図6】MCAOモデルラットでの抗4-HNE抗体投与による炎症の改善効果を確認した結果を示す図である。抗4-HNE抗体投与により、炎症マーカーであるIL-6、IL-8R、COX2、MMP9、MMP2及びVEGF121のmRNA発現量が抑制された。(実験例3)
図7】CLP敗血症モデルマウスでの抗4-HNE抗体投与による延命・救命効果を確認した結果を示す図である。図7Aは、PBSとの比較結果を示し、図7Bは対照抗体としての抗KLH単クローン抗体(IgG1サブクラス)との比較結果を示す。(実験例4)
図8】抗4-HNE抗体(#13-1-1)の重鎖領域を特定するアミノ酸配列を示す図である。(実験例5)
図9】抗4-HNE抗体(#13-1-1)の軽鎖領域を特定するアミノ酸配列を示す図である。(実験例5)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、抗4-HNE抗体を有効成分とする、炎症性疾患治療剤に関する。本発明は、さらに有効成分として抗4-HNE抗体を使用する、炎症性疾患の治療方法にも及ぶ。
【0014】
有効成分としての抗4-HNE抗体は、4-HNEとのタンパクアダクトに対する抗体である。本発明の抗4-HNE抗体は、タンパク質と4-HNEを非酵素的に反応させて作製したタンパクアダクトを4-HNE抗原として作製することができる。本発明は、さらに4-HNEとのタンパクアダクトに対する抗体である抗4-HNE抗体に関する。本明細書において、4-HNEとのタンパクアダクトとは、4-HNEとタンパク質の付加体をいい、4-HNEとタンパク質2つの分子の付加により得られる生成物をいう。本明細書において、タンパクアダクトに含まれるタンパク質は、特に限定されないが、例えばアルブミンが挙げられる。4-HNEはアルブミン等のタンパク質に含まれるリジン又はアルギニンの一級及び二級アミノ基と反応し、抗原としてのタンパクアダクトを形成する(図1参照)。本発明は、さらに4-HNEとのタンパクアダクトに対する抗体である抗4-HNE抗体に関する。
【0015】
本発明は、さらに4-HNEとタンパクアダクトに対する抗体である抗4-HNE抗体に関する。本明細書において抗4-HNE抗体とは、最も広い意味で使用され、4-HNEに対する抗原結合活性を示す限りは単クローン抗体、ポリクローナル抗体及び/又は多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)であってもよく、抗体断片であってもよい。抗体断片としては、例えばFv、Fab、Fab'、Fab'-SH、F(ab')2;ダイアボディ;線状抗体;単鎖抗体分子(例えば、scFv)が挙げられる。さらに、本発明の抗4-HNE抗体は、前記各抗体断片などの種々の抗体の組み合わせからなる抗体構造であってもよい。
【0016】
抗体のクラスは、抗体の重鎖(H鎖)に備わる定常ドメイン又は定常領域のタイプのことをいい、例えばIgA、IgD、IgE、IgG及びIgMが挙げられる。本明細書における抗体のクラスは特に限定されないが、IgGが最も好適である。IgGのサブクラスとしては、例えばIgG1、IgG2、IgG3、IgG4などが挙げられる。
【0017】
本明細書の抗4-HNE抗体は、ヒト抗体又はヒト化抗体であってもよい。ヒト抗体は、ヒト又はヒト細胞によって産生された抗体、又はヒト抗体レパートリーもしくは他のヒト抗体コード配列を用いる非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を備える抗体をいう。ヒト化抗体はキメラ抗体であってもよい。
【0018】
本発明の抗4-HNE抗体は、重鎖可変領域1(CDR H1)、重鎖可変領域2(CDR H2)、重鎖可変領域3(CDR H3)、軽鎖可変領域1(CDR L1)、軽鎖可変領域2(CDR L2)、及び軽鎖可変領域3(CDR L3)を有し、4-HNEに対する抗原結合活性を示す抗体として特定することができる。重鎖可変領域1~3及び軽鎖可変領域1~3を特定する各アミノ酸配列は、4-HNEに対する抗原結合活性を示すアミノ酸配列の組み合わせであればよく特に限定されないが、例えば配列番号1~6に示す各アミノ酸配列を例示することができる。具体的には、重鎖領域に配列番号1~3で特定されるいずれか少なくとも1種のアミノ酸配列を含み、及び軽鎖領域に配列番号4~6で特定されるいずれか少なくとも1種をアミノ酸配列含むのが好適である。配列番号1~6に示す各アミノ酸配列情報も本発明の権利範囲に包含される。配列番号1~6に示す各アミノ酸配列の他、各1~複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列が本発明の抗4-HNE抗体の重鎖又は軽鎖に含まれ、4-HNEに対するに対する抗原結合活性を示す限りは、各1~複数個のアミノ酸が置換、欠失、付加、又は挿入されたアミノ酸配列情報も本発明の権利範囲に包含される。
【0019】
・DFYMY(配列番号1)
・FIRNKANGYTTEYNPSVKG(配列番号2)
・GYYGYNYNWFAY(配列番号3)
・RASQSVGINVD(配列番号4)
・GASNRHT(配列番号5)
・LQYASIPYT(配列番号6)
【0020】
より具体的には、本発明の抗4-HNE抗体は図8(配列番号7)に示す重鎖を構成するアミノ酸配列と、図9(配列番号8)に示す軽鎖を構成するアミノ酸配列を含んでいるのが好適である。配列番号7に示すアミノ酸配列には配列番号1~3で特定される各重鎖可変領域を含み、配列番号8に示すアミノ酸配列には配列番号4~6で特定される各軽鎖可変領域を含む。本発明は、上記各説明したアミノ酸配列情報も権利範囲に包含される。
【0021】
本発明の抗4-HNE抗体は、4-HNEに対する抗原結合活性を示す限りは、その作製方法は特に限定されない。特に、本発明の抗4-HNE抗体は、上記特定するアミノ酸配列を有し、4-HNEに対する抗原結合活性を示す限りは、その作製方法は特に限定されない。例えば以下の如く、抗体を産生するハイブリドーマ細胞から作製してもよいし、例えば遺伝子組換えの手法により作製してもよい。
【0022】
本発明の抗4-HNE抗体を抗体産生細胞から作製する場合は、上述のタンパクアダクトを4-HNE抗原とし、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法によって作製することができる。例えばラット等の哺乳動物に抗原を免疫して作製することができる。上記4-HNE抗原を使用して、本発明で使用する哺乳動物、例えばラット由来の単クローン抗体産生ハイブリドーマを作製するには、常法に従い作製することができる。当該4-HNE抗原でラットを免疫し、当該動物からリンパ細胞を採取し、常法に従いミエローマ細胞と融合させハイブリドーマを取得することによって、抗4-HNE単クローン抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。
【0023】
上記4-HNE抗原とフロイント完全アジュバント又はフロイント不完全アジュバントとを混合したものを免疫原として用いてラットを免疫することができる。免疫の際の免疫原の投与法は、自体公知の方法、例えば皮下注射、腹腔内注射、静脈内注射、筋肉内注射のいずれでもよいが、皮下注射又は腹腔内注射が好ましい。免疫は、1回又は適当な間隔で複数回、好ましくは1週間ないし5週間の間隔で複数回行なってもよい。次いで、常法に従い、免疫した動物からリンパ節を採取して、それから無菌的に得られたリンパ節細胞とミエローマ細胞とを細胞融合させ、ELISA法などで4-HNEへの結合性を確認し、目的の抗体産生ハイブリドーマのクローニング操作を繰り返すことにより、単クローンな抗体産生細胞を得ることができる。ヒト化抗体の作製方法は、自体公知の方法、又は今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。
【0024】
上記に例示する方法で作製した単クローン抗体として、具体的にはラットハイブリドーマ(Rathybridoma #13-1-1)から産生される単クローン抗体(#13-1-1)が挙げられる。上述のラットハイブリドーマは、ラットハイブリドーマ(Rat hybridoma #13-1-1)として独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)日本国 〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室に2018年4月18日に国内受託された。Rat hybridoma #13-1-1の国際寄託への微生物移管請求が2019年5月20日に受領され、受領番号NITE ABP-02690が付与された。
【0025】
本発明は、受領番号NITE ABP-02690で特定されるハイブリドーマから産生される単クローン抗体に及び、当該単クローン抗体産生用ハイブリドーマにも及ぶ。
【0026】
本発明の抗4-HNE抗体を遺伝子組換えの手法により作製する場合も、自体公知の方法又は今後開発されるあらゆる方法を適用することができる。例えば、配列番号1~6で特定される重鎖又は軽鎖の各可変領域の配列に基づいて塩基配列の情報を得、常法に従いcDNAを作製し、抗体を産生することができる。遺伝子組換えによる抗体の作製方法は、例えば抗体は、国際公開WO2017/061354号に記載の方法により作製することができる。その他、配列番号7及び8に示すアミノ酸配列情報に基づく作製可能な方法であれば、遺伝子組換えの手法の他、ファージディスプレー法や合成方法等、いずれの方法により作製された抗4-HNE抗体であっても、本発明の権利範囲に含まれる。配列番号7及び8に示すアミノ酸配の他、重鎖及び/又は軽鎖には、シグナルペプチドを構成するアミノ酸配列が含まれていてもよい。
【0027】
本明細書においていう「炎症性疾患」とは、例えば敗血症、脳虚血梗塞、脳梗塞、脳外傷、脳外科手術に伴う脳損傷、脊髄損傷、動脈硬化症、急性呼吸窮迫症候群、急性膵炎、急性肺障害、出血性ショックによる肺障害、多臓器不全、神経因性疼痛、クモ膜下出血後の脳血管攣縮、火傷、多発外傷、特発性間質性肺線維症、てんかん症、けいれん重積病、ウイルス脳炎、インフルエンザ脳症、炎症性腸疾患、川崎病、多発性硬化症、糖尿病性血管合併症、肝炎、気管支喘息、慢性気管支炎、肺気腫、外科手術後臓器障害、放射線治療後臓器障害、腎炎、ネフローゼ症候群、急性腎障害、血液透析、体外循環、人工呼吸、臓器移植後急性・慢性拒絶反応、SLE、関節リウマチ、DIC、自己免疫疾患群、ベーチェット病、心筋炎、心内膜炎、虚血再灌流障害、心筋梗塞、うっ血性心不全、脂肪組織炎症、好中球性皮膚症、スウィート病、スティーブン・ジョンソン症候群、ライ症候群、悪液質、慢性疲労症候群、線維筋痛症から選択される一種又は複数種の疾患に伴う炎症性疾患が挙げられる。特に敗血症、脳虚血梗塞、脳梗塞に伴う炎症性疾患に対して有効に作用する。
【0028】
本発明の「抗4-HNE抗体を有効成分とする炎症性疾患治療剤」は、局所的に投与してもよいし、全身的に投与してもよい。本発明に従って使用される抗体の製剤は、任意選択で医薬上許容される担体、賦形剤又は安定化剤とともに、所望の純度を有する抗体を混合することにより保存のために凍結乾燥製剤又は水溶性の形態で調製される。非経口投与用の製剤は、滅菌した水性の、又は非水性の溶液、懸濁液及び乳濁液を含んでいてもよい。非水性希釈剤の例として、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えば、オリーブ油及び有機エステル組成物、例えば、エチルオレエートであり、これらは注射用に適している。水性担体には、水、アルコール性水性溶液、乳濁液、懸濁液、食塩水及び緩衝化媒体が含まれていてもよい。非経口的担体には、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、リンゲル乳酸及び結合油が含まれていてもよい。静脈内担体には、例えば、液体用補充物、栄養剤(単糖類、オリゴ糖、多糖類、澱粉、澱粉部分分解物を含む)及び電解質(例えば、リンゲルデキストロースに基づくもの)が含まれていてもよい。本発明の「抗4-HNE抗体を有効成分とする炎症性疾患治療剤」はさらに、保存剤及び他の添加剤、例えば抗微生物化合物、抗酸化剤、キレート剤及び不活性ガスなどを含むことができる。
【0029】
本発明の「抗4-HNE抗体を有効成分とする炎症性疾患治療剤」は、治療されるべき特定の適応のために、必要に応じて2以上の活性化合物を含んでよく、好ましくは、互いに悪影響を及ぼさない相補的な活性を有するものである。例えば、他の特異性を有する抗体を提供することが望ましいことがある。
【0030】
本発明の「抗4-HNE抗体を有効成分とする炎症性疾患治療剤」は、治療上有効量の抗4-HNE抗体を含む。治療上有効量とは、必要な用量及び期間で、所望の治療結果を達成するのに有効な量をいう。治療上有効量は、個体の疾患状態、年齢、性別及び体重や、個体において所望の反応を導く医薬の能力などの要因によって変動し得る。
【0031】
本発明の治療剤は、単回又は分割量を24、12、8、6、4若しくは2時間ごとに又は任意の組合せで使用して、治療の開始後、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39又は40日目に少なくとも1回、あるいはまた1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20週目に少なくとも1回、又はその任意の組合せで、一日当たり、約0.1~100mg/kg、例えば0.5、0.9、1.0、1.1、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、40、45、50、60、70、80、90又は100mg/kgの抗体量を一日当たりの用量として使用することができる。
【0032】
本発明は「抗4-HNE抗体を有効成分とする炎症性疾患治療剤」を提供する。当該治療剤を含む製品には、容器とラベルを含むことができる。適した容器としては、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ及び試験管などが挙げられる。容器は、ガラスやプラスチックなど様々な物質から成型されてよい。容器は、病態の治療に有効な組成物を保持し、滅菌アクセスポート(例えば、容器は、皮下注射針による穿刺可能なストッパーを有する注入可能な溶液バッグ又はバイアルであってよい)を有してよい。製品はさらに、リン酸緩衝生理食塩水、リンガー溶液、デキストロース溶液などの医薬上許容されるバッファーを含む第二の容器を含んでよい。製品は、商業上及びユーザーの点から見て好ましい他の物質をさらに含んでいてもよく、これには、他のバッファー、希釈剤、フィルター、ニードル、シリンジ及び使用方法を記載した添付文書が挙げられる。
【実施例
【0033】
以下、実施例及び実験例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は、下記実施例等によりなんら制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0034】
(実施例1)抗4-HNE(4-Hydroxy-2-nonenal)抗体の作製
(1)4-HNEとのタンパクアダクトの作製
本発明の抗4-HNE(4-Hydroxy-2-nonenal)抗体を作製するための4-HNEとのタンパクアダクトを作製した。0.2 M リン酸緩衝液(pH7.4)で希釈した4-HNE(50 mM)と0.2 M リン酸緩衝液(pH7.4)で溶解したウシ血清アルブミン(BSA)12.5 mg/mLを等量混和した。混合液を7日間、無菌下に37℃でインキュベートし、タンパクアダクト溶液を作製した。混合液を透析膜に入れ、混合液の100倍体積の透析液で3回透析し、残存する4-HNEを除去した。透析後に再びフィルター滅菌し、4℃で保存した。以下、作製したタンパクアダクト溶液を4-HNE抗原溶液という。
【0035】
(2)ラットの免疫
上記(1)で作製した4-HNE抗原溶液(BSA)1 mg/mLを2 mLガラス製注射筒にとり、別の2 mLガラス製注射筒に等容量のフロイント完全アジュバンドをとった。これら注射筒を連結管により連結した。上記4-HNE抗原溶液とアジュバンドを、当該連結管を通じて徐々に混和することによって、エマルションを得た。セボフルレンにより麻酔したラットの後肢足蹠に、得られたエマルションを0.1 mLずつ、計0.2 mL注射投与した。2週間後、頚静脈から試験採血し、抗体価の上昇を確認すると同時に、腫大した腸骨リンパ節を無菌的に取り出した。得られた2個のリンパ節から、約6×107個の細胞を回収することができた。
【0036】
(3)細胞融合とクローニング
上記腸骨リンパ節細胞とマウスミエローマSP2/O-Ag14(SP2)細胞を、電気融合法を用いて融合させ、融合細胞(ハブリドーマ)を作製した。得られたハブリドーマを96穴マイクロプレートに播種した。1週間後、4-HNE-BSAを固相化し、最初のELISAスクリーニングを行ない、陽性ウェルについて、ウェスタンブロット法により二次スクリーニングを行なった。陽性を示すウェルの細胞を24穴マイクロプレートに移し、細胞をほぼコンフルエントな状態である約2×105個/ウェルまで殖やした。次いで、0.5 mLの凍結培地(GIT培地にウシ胎児血清を10%とジメチルスルホキシドを10%添加したもの)を用いて、当該細胞を液体窒素中で凍結保存した。この凍結保存細胞を解凍した後、96穴マイクロプレートでクローニングした。クローニングにより得られたハイブリドーマは、ラットハイブリドーマ(Rat hybridoma #13-1-1)として独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(NPMD)日本国 〒292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室に2018年4月18日に国内受託された。Rat hybridoma #13-1-1の国際寄託への微生物移管請求が2019年5月20日に受領され、受領番号NITE ABP-02690が付与された。
【0037】
上述のラットハイブリドーマ(Rat hybridoma #13-1-1)から産生される単クローン抗体を、以降の実施例・実験例で使用する本発明の抗4-HNE抗体(#13-1-1)とした。
【0038】
(実験例1)抗4-HNE抗体の特異性
本実験例では、実施例1で作製した抗4-HNE単クローン抗体(#13-1-1)の抗原特異性を確認した。
実施例1のタンパクアダクト作製方法に従い、0.2 M リン酸緩衝液(pH7.4)で希釈した4-HNE(50 mM)、グルコース(D-glucose、250 mM)、グリセルアルデヒド(Glyceraldehyde、50 mM)、グリコールアルデヒド(Glycolaldehyde、50 mM)、メチルグリオキサール(Methylglyoxal、50 mM)、グリオキサール(Methylglyoxal、50 mM)、クロトンアルデヒド(CRA、50 mM)、マロンジアルデヒド(MDA、50 mM)と0.2 M リン酸緩衝液(pH7.4)で溶解したウシ(BSA)、ラット(Rat-SA)、ウサギ(Rabbit-SA)又はヒト血清アルブミン(HSA)12.5 mg/mLを等量混和し、各混合液を作製した。各混合液を、グルコースの場合は3週間、その他のアルデヒドの場合は7日間、無菌下に37℃でインキュベートした。各混合液を透析膜に入れ、混合液の100倍体積の透析液で3回透析し、残存するアルデヒドを除去し、基質アルブミンとタンパク修飾物質の混合溶液を調製した。透析後に再び各混合溶液をフィルター滅菌し、4℃で保存した。
【0039】
基質アルブミンとタンパク修飾物質の各混合溶液を96穴マイクロプレートに固相化し、本発明の抗4-HNE抗体(#13-1-1)に対する特異性をELISA法にて確認した。その結果を表1に示した。
【0040】
【表1】
【0041】
表の横の項目は使用した血清アルブミンの種を示し、縦項目はタンパクの修飾体作製に用いたアルデヒドの種類を示した。抗4-HNE抗体(#13-1-1)は、 4-HNEによる修飾体のみを認識した。またウシ血清アルブミンとの混合溶液のみならず、ラット血清アルブミン、ウサギ血清アルブミン及びヒト血清アルブミンとの混合溶液とも反応を示した。
【0042】
(実験例2)MCAOモデルラットにおける脳梗塞の改善
図2に示すプロトコールに従い、ラット(Wister rat)の中大脳動脈を2時間閉塞・再灌流したモデル(MCAO)を用いて、再灌流直後に抗4-HNE抗体(#13-1-1)1 mg/kgと2%エバンスブルー2 mL/kgを尾静脈投与した。コントロール抗体として抗4-HNE抗体(#13-1-1)の代わりに抗KLH単クローン抗体(IgG1サブクラス)を投与した。
【0043】
(1)血液脳関門(BBB)のバリア機能の確認
MCAOモデルラットに再灌流後3時間の時点でエバンスブルーを静脈内投与し、再灌流6時間経過後に生理食塩水で全身還流した後に脳を摘出し、脳組織を2 mm厚でスライスし、溢出したエバンスブルーを定量し、血液脳関門(BBB)のバリア機能を確認した。エバンスブルーが漏出した面積を測定した結果、抗KLH単クローン抗体(IgG1サブクラス)投与の場合に比べて抗4-HNE抗体(#13-1-1)投与の場合にエバンスブルーの漏出面積が少ないことが確認された(図3)。
【0044】
(2)脳梗塞面積
MCAOモデルラットの再灌流24時間経過後、摘出した脳を2 mm厚の冠状断切片とし、0.1 Mリン酸緩衝液(pH 7.4)で溶解した2%Triphenyltetrazolium chloride(TTC)液中で37℃、30分、緩やかに振盪しながらインキュベートした。次いで脳切片は、10%ホルマリン液で固定した。TTC染色では、ミトコンドリア活性のある部分は赤色に発色し、染色されていない箇所はミトコンドリア活性がなく、梗塞部位と判断できる。白色に染色した領域を脳梗塞領域としてその体積を測定した。その結果を図4に示した。抗4-HNE抗体(#13-1-1)の投与により、梗塞部位の体積が減少することが確認され、脳梗塞の改善効果が確認された。
【0045】
(実験例3)MCAOモデルラットにおける炎症の改善
実験例2と同手法により作製したMCAOモデルラットについて、実験例2と同様に抗4-HNE抗体(#13-1-1)を投与した場合の各種炎症関連分子の発現に及ぼす作用を確認した。再灌流24時間経過後に大脳皮質30mgを採取し、各種炎症関連分子の発現変化を確認した。
【0046】
炎症関連分子であるインターロイキン1β(IL-1β)、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)及びTNF-αのmRNA発現量をRT-PCRにて解析した。正常(Normal)、偽手術(sham)及びMCAOモデル(抗KLH単クローン抗体(IgG1サブクラス)投与、抗4-HNE抗体投与)について確認したところ、IL-1β、iNOS及びTNF-αのmRNA発現量は抗4-HNE抗体投与群で、Normal又はshamと同程度に抑制されたことが確認された(図5)。
【0047】
IL-6、IL-8R、COX2、マトリックスメタロプロテアーゼ9(MMP9)、MMP2、血管内皮細胞成長因子(VEGF)-A121のmRNA発現量をRT-PCRにて解析した。MCAOモデルでのコントロールとして抗KLH単クローン抗体(IgG1サブクラス)を投与した。その結果、IL-6、IL-8R、COX2、MMP9、MMP2及びVEGF-A121の発現は、コントロールに比べて抗4-HNE抗体の投与により軽減されることが確認された(図6)。
【0048】
(実験例4)CLPマウス敗血症モデルにおける治療効果
本実験例では、盲腸結紮腹膜炎(cecal ligation and puncture: CLP)敗血症モデルでの抗4-HNE抗体(#13-1-1)による治療効果を確認した。マウスの腹腔内より盲腸を取り出して、盲腸根部を縫合糸により結紮し、18ゲージ注射針を用いて盲腸壁層に穿刺してCLP敗血症モデルを作製した。CLP処理と同時にリン酸緩衝液(Phosphate Buffered Saline:1×PBS(-))200μL、抗4-HNE抗体(#13-1-1)1 mg/kg又は対照抗体として抗KLH単クローン抗体(IgG1サブクラス) 1 mg/kgを尾静脈投与した。180時間目までの生存率を確認したところ、PBSや抗KLH単クローン抗体(IgG1サブクラス)投与群に比べて、抗4-HNE抗体投与群で明らかに生存率の改善が認められた(図7A、B)。
【0049】
(実験例5)抗4-HNE抗体(#13-1-1)の配列情報解析
実施例1で作製したラットハイブリドーマ(Rat hybridoma #13-1-1)について、RNAを抽出し、産生抗体の重鎖及び軽鎖可変領域部分の遺伝子をRT-PCRにより増幅、取得した。得られた断片の配列を解析し、抗体可変領域の構造を特定した。さらに重鎖可変領域及び軽鎖可変領域内の超可変領域(CDR)を同定した。その結果、本発明の抗4-HNE抗体(#13-1-1)は、以下に示すアミノ酸配列で特定される重鎖可変領域1~3及び軽鎖可変領域1~3を含む抗体であることが確認された。
・重鎖可変領域1(CDR H1):DFYMY(配列番号1)
・重鎖可変領域2(CDR H2):FIRNKANGYTTEYNPSVKG(配列番号2)
・重鎖可変領域3(CDR H3):GYYGYNYNWFAY(配列番号3)
・軽鎖可変領域1(CDR L1):RASQSVGINVD(配列番号4)
・軽鎖可変領域2(CDR L2):GASNRHT(配列番号5)
・軽鎖可変領域3(CDR L3):LQYASIPYT(配列番号6)
【0050】
さらに、本発明の抗4-HNE抗体(#13-1-1)の重鎖領域は図8(配列番号7)に示すアミノ酸配列を有し、軽鎖領域は図9(配列番号8)に示すアミノ酸配列を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
以上詳述したように、本発明の抗4-HNE抗体を有効成分とする炎症性疾患治療剤によれば、脳梗塞や脳虚血再灌流による各種炎症マーカー発現の改善効果が認められ、さらには敗血症モデル動物における延命・救命効果が認められた。即ち本発明の抗4-HNE抗体を有効成分とする炎症性疾患治療剤によれば、従来NSAIDsやステロイド性抗炎症剤など、既存の抗炎症薬では効果を示さなかった炎症性疾患に対しても著効を示すことが確認された。上記結果により、重篤な患者においても本発明の抗4-HNE抗体を有効成分とする炎症性疾患治療剤の投与により所望の治療効果が得られ、産業上の利用価値があると考えられた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【配列表】
0007340192000001.app