(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】抗腫瘍剤及び抗ウイルス剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/14 20060101AFI20230831BHJP
A61K 36/61 20060101ALI20230831BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20230831BHJP
A61P 31/14 20060101ALI20230831BHJP
A61P 31/16 20060101ALI20230831BHJP
A61K 36/899 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
A61K36/14
A61K36/61
A61P35/00
A61P31/14
A61P31/16
A61K36/899
(21)【出願番号】P 2019115725
(22)【出願日】2019-06-21
【審査請求日】2022-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隆司
(72)【発明者】
【氏名】牧村 裕
(72)【発明者】
【氏名】西村 裕志
(72)【発明者】
【氏名】松田 修
(72)【発明者】
【氏名】扇谷 えり子
(72)【発明者】
【氏名】柏本 理緒
(72)【発明者】
【氏名】古屋 貴章
(72)【発明者】
【氏名】若村 修
(72)【発明者】
【氏名】道上 掌
【審査官】参鍋 祐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/024359(WO,A1)
【文献】特開昭53-006411(JP,A)
【文献】特表2002-534391(JP,A)
【文献】特開2000-191520(JP,A)
【文献】特開平03-206043(JP,A)
【文献】特開昭57-106624(JP,A)
【文献】特開2016-050200(JP,A)
【文献】Mingming Guo et al.,AppliedBiochemistry and Biotechnology,vol. 184,2018年,pp. 350-365
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A61K 36/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される部分構造を少なくとも1つ含むリグニン分解物を含む、抗腫瘍剤の製造方法であって、
前記リグニン分解物は、
スギ若しくはユーカリの木粉、
スギ若しくはユーカリのアルカリリグニン、又は
ユーカリのセルラーゼ処理後残渣リグニン
に対して、(1)水と、水混和性有機溶媒と、水非混和性有機溶媒を含む溶媒と、(2)酸触媒の存在下で加熱しながらマイクロウェーブ処理を行う工程A、又は
ユーカリのアルカリリグニン、又は
ユーカリのセルラーゼ処理後残渣リグニン
に対して、(1’)重水と、(2)塩化パラトルエンスルホニルの存在下で加熱しながらマイクロウェーブ処理を行う工程A’、及び
マイクロウェーブ処理に、リグニン分解物を水非混和性有機溶媒を使って回収する工程B
を含む方法により生成される、
製造方法:
【化1】
(式中、R
1
はOH又はO-を示す。R
2
及びR
3
は、同一又は相異なり、水素原子、単結合又はOCH
3
を示す。「O-」は、酸素原子(O)が他のベンゼン環又は脂肪族の炭素原子と単結合することを意味する)。
【請求項2】
下記式(1)で表される部分構造を少なくとも1つ含むリグニン分解物を含む、カリシウイルス科もしくはオルソミクソウイルス科のウイルスに有効な、抗ウイルス剤の製造方法であって、
前記リグニン分解物は、
スギ若しくはユーカリの木粉、
スギ若しくはユーカリのアルカリリグニン、又は
ユーカリのセルラーゼ処理後残渣リグニン
に対して、(1)水と、水混和性有機溶媒と、水非混和性有機溶媒を含む溶媒と、(2)酸触媒の存在下で加熱しながらマイクロウェーブ処理を行う工程A、又は
ユーカリのアルカリリグニン、又は
ユーカリのセルラーゼ処理後残渣リグニン
に対して、(1’)重水と、(2)塩化パラトルエンスルホニルの存在下で加熱しながらマイクロウェーブ処理を行う工程A’、及び
マイクロウェーブ処理に、リグニン分解物を水非混和性有機溶媒を使って回収する工程B
を含む方法により生成される、
製造方法:
【化2】
(式中、R
1
はOH又はO-を示す。R
2
及びR
3
は、同一又は相異なり、水素原子、単結合又はOCH
3
を示す。「O-」は、酸素原子(O)が他のベンゼン環又は脂肪族の炭素原子と単結合することを意味する)。
【請求項3】
下記式(1)で表される部分構造を少なくとも1つ含むリグニン分解物を含む、カリシウイルス科もしくはオルソミクソウイルス科のウイルスに有効な、抗ウイルス剤の製造方法であって、
前記リグニン分解物は、
原料であるサトウキビバガス又はネピアグラスを150℃から200℃の間で希硫酸蒸解を行う工程a、
工程aにおいて得られた蒸解物に対してセルラーゼにより糖化処理を行う工程b、
工程bにおいて得られた糖化物に対してエタノール発酵を行い糖をエタノールに変換する工程c、
工程cにおいて得られたエタノール発酵処理物から溶液画分を分画する工程d、
工程dにおいて得られた溶液画分からエタノールを除去した蒸留残液を固液分離する工程e、及び
工程eの固液分離により得られた上清を濃縮する工程f
を含む方法により生成される、
製造方法:
【化3】
(式中、R
1
はOH又はO-を示す。R
2
及びR
3
は、同一又は相異なり、水素原子、単結合又はOCH
3
を示す。「O-」は、酸素原子(O)が他のベンゼン環又は脂肪族の炭素原子と単結合することを意味する)。
【請求項4】
カリシウイルス科のノロウイルス及びオルソミクソウイルス科のインフルエンザウイルス(A型、B型、C型)に有効な、請求項2又は3に記載の
製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍剤及び抗ウイルス剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題の観点からカーボンニュートラルな資源としてバイオマス(動植物から得られる再生可能な有機性資源)が注目されている。例えば、糖質原料やデンプン原料といった食糧にもなる可食性バイオマスを用いたバイオエタノールの製造が挙げられるが、この場合は食糧との競合が問題となっている。一方、非可食性バイオマスは食糧との競合がなく、注目されている。例えば非可食性バイオマスの一つであるリグノセルロースバイオマスには、未利用の間伐材や製材工場での残材、住宅の解体で発生する木材等がある。リグノセルロース系バイオマスの利用は、廃棄物の抑制やエネルギー資源としての利用が期待されており、環境的観点から重要である。
【0003】
リグノセルロースバイオマスは、セルロース、ヘミセルロース、リグニンから構成されている。リグニンはセルロールを繋ぎ合わせる接着分子である。その構造はフェニルプロパン骨格が重合したものであるため、芳香族化合物の資源として注目されている。
【0004】
リグニンの低分子化技術はこれまで製紙業を中心に発達してきた。製紙プロセスにおけるリグニンの低分子化技術としてはクラフト蒸解、サルファイト蒸解、アルカリ蒸解等が挙げられる。クラフト蒸解では、リグニンは主として熱源として利用され、サルファイト蒸解では、リグニンを熱源とする他、スルフォン化したリグニンを分散剤などにも利用してきた。しかし、従来の製紙プロセスより得られるリグニンは変性を受けており、更なる低分子化も難しい。このため従来の製紙プロセスで得られるリグニンは燃料や分散剤等としての利用に限られており、化学工業製品の原料として利用するのは困難である。
【0005】
特許文献1は、リグニンを、炭化水素及びアルコールの混合溶媒中において酸触媒存在下で加熱することによりリグニン分解物を製造しているが、その医薬用途については記載していない。
【0006】
非特許文献1は精製リグニンスルホン酸の抗腫瘍作用を開示し、非特許文献2は笹葉リグニンのアルカリで抽出液中に含まれるフェノール化合物の抗腫瘍効果を開示しているが、非特許文献1、2で抗腫瘍活性が確認されているリグニンスルホン酸とリグニンアルカリ抽出液中のフェノール化合物は、いずれもリグニンの構造が壊れており、リグニンの構造が保持されたリグニン分解物の生理活性は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【非特許文献】
【0008】
【文献】九州大学農学部学芸雑誌, 28(4), pp.215-221 (1974)
【文献】九州大学農学部学芸雑誌, 23(3), pp.103-111 (1968)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、新規な抗腫瘍剤及び抗ウイルス剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下の抗腫瘍剤及び抗ウイルス剤を提供するものである。
項1. OH及び/又はOCH3を置換基として有するベンゼン環を部分構造として含むリグニン由来ユニットを含むリグニン分解物を有効成分とする、抗腫瘍剤。
項2. OH及び/又はOCH3を置換基として有するベンゼン環を含むリグニン由来ユニットを含むリグニン分解物を有効成分とし、カリシウイルス科もしくはオルソミクソウイルス科のウイルスに有効な、抗ウイルス剤。
項3. カリシウイルス科のノロウイルス及びオルソミクソウイルス科のインフルエンザウイルス(A型、B型、C型)に有効な、項2に記載の抗ウイルス剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明の抗腫瘍剤及び抗ウイルス剤は、天然物由来であるリグニン分解物を有効成分として含み、正常細胞に対する毒性が低い利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】LLC細胞の生存率に対する25種MASLの効果。LLCを表示濃度の表示MASLで24時間処理した。 細胞生存率は、水溶性テトラゾリウム塩アッセイを用いて評価した。DMSOのみ処理の対照に対する有意差を、反復測定分散分析 (AVNOVA) を用いて測定した。*p<0.05
【
図2】MASLは腫瘍細胞の生存率を低下させた。LLC、A549、HT1080およびHDFを0.1 mg / mL濃度の表示されたMASLで処理した。 12時間および24時間後に、細胞生存率を水溶性テトラゾリウム塩アッセイを用いて測定した。データは平均±SD (n=4) として表した。 DMSOのみ処理の対照に対する有意差を、反復測定分散分析 (AVNOVA) を用いて測定した。*p<0.05、**p<0.01
【
図3】YM CL1T投与はマウスにおけるLLCの増殖を有意に阻害した。LLC担癌マウスにMASLを腹腔内注射した。対照マウスにはDMSOを注射した。マウスをMASL投与開始後14日で安楽死させた。14日目のA. 腫瘍の大きさ(平均±SD)、B. マウスの体重(平均±SD)を示す。N = 5(対照群およびYM E2T群)またはN = 6(YM CL1T群)。分散分析 (ANOVA) を用いて群間の有意差を検定した。*p<0.05、 **p<0.01、N.S., 有意ではない(not significant)。
【
図4】A型インフルエンザウイルスに対する12種MASLの阻害効果。
【
図5】各リグニン分解物の抗ネコカリシウイルス阻害効果。ネコカリシウイルス F9株 (A) 2000 TCID
50/100 μl、(B)20000 TCID
50/100 μl
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の抗腫瘍剤、抗ウイルス剤の有効成分であるリグニン分解物は、下記式(1)
【0014】
【0015】
(式中、R1はOH又はO-を示す。R2及びR3は、同一又は相異なり、水素原子、単結合又はOCH3を示す。)の部分構造を少なくとも1つ含む。
【0016】
なお、「O-」は、酸素原子(O)が他のベンゼン環又は脂肪族の炭素原子と単結合することを意味する。
【0017】
本発明のリグニン分解物は、混合物であり、1つのリグニン分解物は式(1)の部分構造を平均で、好ましくは1~15個、より好ましくは2~12個、さらに好ましくは3~10個含む。例えばリグニンをアルカリで可溶化したアルカリリグニンは、OH及び/又はOCH3を置換基として有するベンゼン環を平均で15個よりも多く含むので、本発明のリグニン分解物には含まれない。
【0018】
1つのリグニン分解物に含まれる式(1)の部分構造の平均数は、分解反応の反応条件によって決まり、例えばより高い温度、より長い反応時間、より強い酸性条件などにより平均数は小さくなる傾向がある。
【0019】
本発明のリグニン分解物は木材パルプの製造時に副生する高分子物質であるリグニンスルホン酸を含まない。
【0020】
本発明で有効成分として使用するリグニン分解物は、リグニンを溶媒(水と水混和性有機溶媒及び水非混和性有機溶媒からなる群から選ばれる少なくとも1種の有機溶媒)と酸触媒(硫酸、塩酸、硝酸、リン酸等の無機酸;酢酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、酒石酸、コハク酸、メタンスルホン酸などの有機酸)存在下で加熱することにより製造することができる。 酸触媒の使用量は、少なすぎると反応が進行しにくく、また多すぎると反応後の除去が困難である理由から、使用する溶媒に対し0.01質量%~5質量%、好ましくは0.05質量%~2質量%である。好ましい反応温度は、40~230℃、好ましい反応時間は、5分間~100分間である。
【0021】
水混和性有機溶媒としては、アルコール(メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、2-ブタノール、イソブタノール、イソペンタノールなどの直鎖又は分岐を有する脂肪族アルコール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノールなどの脂環式アルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのアルキレングリコールモノアルキルエーテル)、グリコール(エチレングリコール、プロピレングリコールなど)、グリセリン、ケトン(アセトン、メチルエチルケトンなど)、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、DMF,DMSOなどが挙げられる。水非混和性有機溶媒としては、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン、キシレンガソリン、エチルベンゼン、クロルベンゼン、ジクロルベンゼン、石油エーテル、石油ナフサ、石油ベンジン、ミネラルスピリット、リモネンなど)、脂肪族又は脂環式炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ガソリンなど)、塩素化炭化水素(塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタンなど)、酢酸エチル、ジエチルエーテルなどが挙げられる。
【0022】
リグニンとは木化した植物体中に15~35%程度存在する芳香族高分子化合物である。本発明におけるリグニンの原料としては、スギ、ヒノキ、トウヒ、マツ、ユーカリ、ブナ、ヤナギ、タケなどの木材チップ、木粉、麦わら、稲わら、もみ殻、サトウキビの絞りかす、テンサイ残渣、キャッサバ、ナタネ残渣、大豆残渣、トウモロコシの茎葉、アブラヤシの果実殻、タバコの残管、ネピアグラス、エリアンサスなどが挙げられる。
【0023】
リグニン分解物の製造原料のリグニンとしては、リグニンをセルロースから分離していないリグノセルロース系バイオマスそのものを用いてもよいし、バイオマスから分離したリグニンを用いてもよい。リグノセルロース系バイオマスは木材の他、サトウキビバガスやネピアグラスなどの草本系バイオマスを含む。本発明におけるバイオマスから分離したリグニンとは、本発明の工程とは別に予めバイオマスより分離されたリグニンであり、分離方法の違いにより、硫酸リグニン、塩酸リグニン、過ヨウ素酸リグニン、ジオキサンリグニン、アルコールリグニン、チオグリコール酸リグニン、クラフトリグニン、アルカリリグニン、Brauns天然リグニン、摩砕リグニン、セルロース糖化残渣リグニン、水熱リグニン、水蒸気爆砕リグニンなどが挙げられる。本発明のリグニン分解物は、これらのバイオマスより分離された高分子量のリグニンは含まず、例えばアルカリリグニンは、本発明のリグニン分解物には含まれない。
【0024】
本発明のリグニン分解物は硫黄原子を含まないものが好ましい。
【0025】
抗腫瘍剤の投与により治療できる腫瘍としては、例えば悪性腫瘍の場合、頭頚部癌、食道癌、胃癌、結腸癌、直腸癌、肝臓癌、胆嚢・胆管癌、膵臓
癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍、骨・軟部肉腫、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫、皮膚癌、脳腫瘍等が挙げられる。
【0026】
抗ウイルス剤の治療対象となるウイルス感染症の原因ウイルスとしては、ノロウイルス、ネコカリシウイルスなどのカリシウイルス科のウイルス、インフルエンザウイルス(A型、B型、C型)などのあるソミクソウイルス科のウイルスが挙げられる。
【0027】
抗腫瘍剤又は抗ウイルス剤の有効成分であるリグニン分解物の投与量は、腫瘍又はウイルス感染した患者の症状もしくは剤形等により一定ではないが、一般に投与単位形態あたり、経口剤では約1~1000mg、注射剤では約0.1~500mgとするのが望ましい。リグニン分解物の成人1日あたりの投与量は、患者の症状、体重、年齢、性別等によって異なり一概には決定できないが、通常約0.1~5000mg、好ましくは1~1000mgとすればよく、これを1日1回又は2~4回程度に分けて投与するのが好ましい。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を示すが、本発明はこの実施例だけに限定されるものではない。
【0029】
実施例1
(1) リグニン分解物サンプル(No.1~No.25)
No.1(YMC1T)の製造: スギ木粉1 gに硫酸水溶液6 mL(硫酸含有量0.75g、0.07 mL/mL)、エタノール6 mL、トルエン8 mL加え、Biotage社のinitiator+を用いて180 ℃、30分間マイクロウェーブ加熱を行った。反応後上層である有機層を分注後、下層である水層にトルエン約10 mLを加え攪拌し、抽出操作を行った。抽出操作は計3回行い、集めた有機層は硫酸ナトリウムで脱水後、減圧濃縮を行い、サンプルNo.1を得た。
No.2(YMC1E)の製造: No.1の抽出操作で得られた固形物を含む水層に酢酸エチル約10 mLを加え、抽出操作を行った。この操作を3回繰り返し、集めた有機層は硫酸ナトリウムで脱水後、減圧濃縮を行い、サンプルNo.2を得た。
No.3(YMC1A)の製造: No.2の抽出操作で得られた固形物を含む水層を綿濾過し、残渣部分をアセトンで3度抽出を行った。アセトン溶液は減圧濃縮によりサンプルNo.3を得た。
No.4(YME1T)の製造: ユーカリ木粉1 gに硫酸水溶液6 mL(硫酸含有量0.75g、0.07 mL/mL)、エタノール6 mL、トルエン8 mL加え、Biotage社のinitiator+を用いて180 ℃、30分間マイクロウェーブ加熱を行った。反応後上層である有機層を分注後、下層である水層にトルエン約10 mLを加え攪拌し、抽出操作を行った。抽出操作は計3回行い、集めた有機層は硫酸ナトリウムで脱水後濃縮操作を行い、サンプルNo.4を得た。
No.5(YME1E)の製造: No.4の抽出操作で得られた固形物を含む水層に酢酸エチル約10 mLを加え、抽出操作を行った。この操作を3回繰り返し、集めた有機層は硫酸ナトリウムで脱水後濃縮操作を行い、サンプルNo.5を得た。
No.6(YME1A)の製造: No.5の抽出操作で得られた固形物を含む水層を綿濾過し、残渣部分をアセトンで3度抽出を行った。アセトン溶液は減圧濃縮によりサンプルNo.6を得た。
No.7(YMC2T)の製造: スギ木粉1 gに硫酸水溶液6 mL(硫酸含有量0.25g、0.023 mL/mL)、エタノール6 mL、トルエン8 mL加え、Biotage社のinitiator+を用いて180 ℃、30分間マイクロウェーブ加熱を行った。反応後上層である有機層を分注後、下層である水層にトルエン約10 mLを加え攪拌し、抽出操作を行った。抽出操作は計3回行い、集めた有機層は硫酸ナトリウムで脱水後、減圧濃縮を行い、サンプルNo.7を得た。
No.8(YMC2E)の製造: No.7の抽出操作で得られた固形物を含む水層に酢酸エチル約10 mLを加え、抽出操作を行った。この操作を3回繰り返し、集めた有機層は硫酸ナトリウムで脱水後、減圧濃縮を行い、サンプルNo.8を得た。
No.9(YMC2A)の製造: No.8の抽出操作で得られた固形物を含む水層を綿濾過し、残渣部分をアセトンで3度抽出を行った。アセトン溶液は減圧濃縮によりサンプルNo.9を得た。
No.10(YME2T)の製造: ユーカリ木粉1gに硫酸水溶液6 mL(硫酸含有量0.25g、0.023 mL/mL)、エタノール6 mL、トルエン8 mL加え、Biotage社のinitiator+を用いて180 ℃、30分間マイクロウェーブ加熱を行った。反応後上層である有機層を分注後、下層である水層にトルエン約10 mLを加え攪拌し、抽出操作を行った。抽出操作は計3回行い、集めた有機層は硫酸ナトリウムで脱水後濃縮操作を行い、サンプルNo.10を得た。
No.11(YME2E)の製造: No.10の抽出操作で得られた固形物を含む水層に酢酸エチル約10 mLを加え、抽出操作を行った。この操作を3回繰り返し、集めた有機層は硫酸ナトリウムで脱水後濃縮操作を行い、サンプルNo.11を得た。
No.12(YME2A)の製造: No.11の抽出操作で得られた固形物を含む水層を綿濾過し、残渣部分をアセトンで3度抽出を行った。アセトン溶液は減圧濃縮によりサンプルNo.12を得た。
No.13(YMCL1T)の製造: スギアルカリリグニン(スギチップを23 %水酸化ナトリウムで170 ℃、Hf1500で蒸解して得られた黒液からの酸沈殿物。詳細は別項)5 gに硫酸水溶液60 mL(硫酸含有量7.5 g、0.07 mL/mL)、メタノール60 mL、トルエン80 mL加え、Milestone社のStartSYNTHを用いて180 ℃、30分間マイクロウェーブ加熱を行った。反応後トルエンを加え抽出操作を行った。抽出操作は計3回行い、集めた有機層は硫酸ナトリウムで脱水後濃縮操作を行い、サンプルNo.13を得た。
アルカリリグニンの製造: スギチップを170 ℃、Hf 1500 の条件で水酸化ナトリウムを用いてアルカリ蒸解し、得られた黒液を中和・濾過後、不溶部を回収して水に懸濁した後、硫酸で酸性化して生じた沈殿を濾過により分離し、アルカリリグニンとした。
No.14(YMCL1E)の製造: No.13の抽出操作で得られた固形物を含む水層に酢酸エチル抽出操作を行った。この操作を3回繰り返し、集めた有機層は硫酸ナトリウムで脱水後濃縮操作を行い、サンプルNo.14を得た。
No.15(YMCL1A)の製造: No.14の抽出操作で得られた固形物を含む水層を綿濾過し、残渣部分をアセトンで3度抽出を行った。アセトン溶液は減圧濃縮によりサンプルNo.15を得た。
No.16(YMCL2T)の製造: スギアルカリリグニン(スギチップを23 %水酸化ナトリウムで170 ℃、Hf1500で蒸解して得られた黒液からの酸沈殿物。詳細は別項)5 gに硫酸水溶液60 mL(硫酸含有量7.5 g、0.07 mL/mL)、エタノール60 mL、トルエン80 mL加え、Milestone社のStartSYNTHを用いて180 ℃、30分間マイクロウェーブ加熱を行った。反応後トルエンを加え抽出操作を行った。抽出操作は計3回行い、集めた有機層は硫酸ナトリウムで脱水後濃縮操作を行い、サンプルNo.16を得た。
No.17(YMCL2E)の製造: No.13の抽出操作で得られた固形物を含む水層に酢酸エチル抽出操作を行った。この操作を3回繰り返し、集めた有機層は硫酸ナトリウムで脱水後濃縮操作を行い、サンプルNo.17を得た。
No.18(YMCL2A)の製造: No.17の抽出操作で得られた固形物を含む水層を綿濾過し、残渣部分をアセトンで3度抽出を行った。アセトン溶液は減圧濃縮によりサンプルNo.18を得た。
No.19(MYE1)の製造: ボールミル処理をしたユーカリ木粉3gに酢酸1 %過酢酸溶液20 mLを加え、Biotage社のinitiator+を用いて50 ℃、10分間マイクロウェーブ加熱を行った。反応後アセトン20 mLを加えて抽出操作を行った。抽出操作は計3回行い、集めたアセトン画分の減圧濃縮を行い、サンプルNo.19を得た。
No.20(MYE2)の製造: ボールミル処理をしたユーカリ木粉3 gに酢酸1 %過酢酸溶液20 mLを加え、Biotage社のinitiator+を用いて100 ℃、10分間マイクロウェーブ加熱を行った。反応後アセトン20 mLを加えて抽出操作を行った。抽出操作は計3回行い、集めたアセトン画分の減圧濃縮を行い、サンプルNo.20を得た。
No.21(MYE3)の製造: ボールミル処理をしたユーカリ木粉に酢酸1 %過酢酸溶液20 mLを加え、Biotage社のinitiator+を用いて140 ℃、10分間マイクロウェーブ加熱を行った。反応後アセトン20 mLを加えて抽出操作を行った。抽出操作は計3回行い、集めたアセトン画分の減圧濃縮を行い、サンプルNo.21を得た。
No.22(MKEL1)の製造: ユーカリアルカリリグニン0.3 gに塩化パラトルエンスルホニル318 mgと重水15 mLを加え、Biotage社のinitiator、もしくはinitiator+を用いて160 ℃、30分間マイクロウェーブ加熱を行った。反応後は濾過後、メタノールと酢酸エチルで洗浄後、炭酸水素ナトリウムでpH=3に調製し酢酸エチル抽出を行った。抽出操作は計3回行い、集めた有機層は硫酸ナトリウムで脱水後、減圧濃縮を行い、サンプルNo.22を得た。
No.23(MKEL2)の製造: ユーカリセルラーゼ処理後残渣リグニン0.3 gに塩化パラトルエンスルホニル318 mgと重水15 mLを加え、Milestone社のStartSYNTHを用いて160 ℃、60分間マイクロウェーブ加熱を行った。反応後は濾過後、メタノールと酢酸エチルで洗浄後、炭酸水素ナトリウムでpH=3に調製し酢酸エチル抽出を行った。抽出操作は計3回行い、集めた有機層は硫酸ナトリウムで脱水後、減圧濃縮を行い、サンプルNo.23を得た。
No.24(SSE1-4)の製造:
サトウキビバガスを原料として150℃から200℃の間で希硫酸蒸解を行い、得られた蒸解物はセルラーゼにより糖化処理を行った。糖化バガスはエタノール発酵により糖をエタノールに変換した後にメッシュ0.4mmの振動篩処理により溶液画分を分画した。エタノール溶液は蒸溜操作によりエタノールを分離し、残った蒸留廃液は遠心分離により固液を分離した。得られた上清は減圧濃縮を行うことによりサンプルNo.24を得た。
No.25(SSE2-4)の製造: ネピアグラスを原料として150℃から200℃の間で希硫酸蒸解を行い、得られた蒸解物はセルラーゼにより糖化処理を行った。糖化ネピアグラスはエタノール発酵により糖をエタノールに変換した後にメッシュ0.4mmの振動篩処理により溶液画分を分画した。エタノール溶液は蒸溜操作によりエタノールを分離し、残った蒸留廃液は遠心分離により固液を分離した。得られた上清は減圧濃縮を行うことによりサンプルNo.25を得た。
【0030】
(2) 細胞株と培養条件
ルイス肺癌細胞株(LLC)をRIKEN BRC (RCB0558)から入手した。ヒト肺胞癌細胞株A549、ヒト線維肉腫細胞株HT1080をATCC (Numbers CCL-185 and CCL-121)から購入した。aHDFs (健常成人皮膚繊維芽細胞)をScienCell Research Laboratories (cat no.2320)から購入した。全ての細胞は10%胎児ウシ血清(FBS; Equitech-Bio), 100 U/mL ペニシリン, 100 μg/mL ストレプトマイシン及び100 mM非必須アミノ酸を含むDMEM培地で37℃、5% CO2/95%加湿空気で培養した。細胞は継代前にトリプシン処理した。
【0031】
(3) 細胞生存率アッセイ
細胞生存率は水溶性テトラゾリウム塩アッセイで測定した。細胞として、LLC、A549、HT1080、HDFsの4種を使用した。4種のいずれかの細胞をウェルあたり1 x 10
3 細胞の密度で96-ウェルプレートに播種し、翌日、リグニン分解物を各ウェルに加えた。リグニン分解物としてNo.1~No.25を全て使用した実験では、細胞としてLLCを用い、リグニン分解物の濃度を0.05mg/mL、0.1mg/mL、0.2mg/mLの3種類で試験した(
図1)。リグニン分解物としてNo.10(YME2T)、No.13(YMCL1T)、No.16(YMCL2T)を使用した実験では、LLC、A549、HT1080、HDFsの4種の細胞を使用した(
図2)。リグニン分解物の濃度を0.1 mg/mLで試験した。リグニン分解物の添加の12時間又は24時間培養後、ウェルに2-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)-3-(4-ニトロフェニル)-5-(2,4-ジスルホフェニル)-2H-テトラゾリウム モノナトリウム 塩 (WST-8) 溶液 (ナカライテスク)を加えた。37℃で1時間培養後、培養上清を新しい96-ウェルプレートに移した。各ウェルの吸光度をマイクロプレート リーダー (Emax; Molecular Devices)を用いて測定した。結果を
図1、
図2に示す。
【0032】
(4) LLC 腫瘍マウスモデル
動物実験は、京都府立医大の実験動物委員会から承認され(Code No M29-137)、全ての方法は実験動物の管理と使用に関するNIH指針に従った。7週齢雌C57BL/6マウスを清水実験材料株式会社から購入した。全てのマウスの脇腹に1×10 5のLLC細胞を注入した。
約100 mm3のサイズに腫瘍が増殖した後に、リグニン分解物(YM E2T(■)、YM CL1T(◆))を20 mg/kg体重またはコントロール(○)としてDMSOを20 mg/kg体重で1日おきにマウスに腹腔内注射した。腫瘍体積計算は以下のように行った:腫瘍体積=d2 × D/2(式中、dとDは、各々最も短い直径及び最も長い直径である。)。14日目に体重測定した後、全てのマウスを安楽死させ、腫瘍の大きさを測定した。
【0033】
(5) インフルエンザウイルス感染阻害
A型インフルエンザウイルス(A/Puerto Rico/8/1934 H1N1;PR8株) 104 PFU/100 μlに12種の各リグニン分解物サンプルを2 mg/mlになるように添加し、氷中に10分置いた。この混合液のウイルス感染価をプラークアッセイ法で測定した。プラークアッセイは以下の手順で行った。混合液をPBS(-)で10段階希釈し、各希釈段階のウイルス液を100 μl /well でMadin-Darby Canine Kidney(MDCK:イヌ腎臓尿細管上皮細胞由来)細胞がコンフルエントに撒かれている6-well プレートに添加した。37℃、5% CO2下で1時間ウイルス吸着を行い、0.8%アガロース、2.5μg/ml トリプシン、0.2%アルブミン加DMEM培地を添加し、37℃、5% CO2下で48時間培養後、5%グルタルアルデヒドで固定した。寒天培地除去後クリスタルバイオレットで染色し、出現したプラーク数を数えた。DMSOを含む培地のみをウイルス液に添加したものをコントロールとし、これのプラーク数を1とした場合の各サンプルのプラークの割合を算出した。
【0034】
【0035】
(6) ネコカリシウイルス感染阻害
ネコカリシウイルス F9株 2000 TCID
50/100 μlあるいは20000 TCID
50/100 μlに
図5に示されるリグニン分解物サンプルを1又は0.25 mg/mlの濃度になるように添加し、氷中に10分置いた。この混合液を100 μl /well でCRFK細胞(ネコ腎由来細胞)がコンフルエントに撒かれている96-well プレートに添加した。37℃、5% CO
2下で1時間ウイルス吸着を行い、上清を除いた後2% FBS加DMEM培地を100 μl /well添加し、37℃、5% CO
2下で4日間静置した。細胞生存率を水溶性テトラゾリウム塩アッセイで測定した。ウェルに2-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)-3-(4-ニトロフェニル)-5-(2,4-ジスルホフェニル)-2H-テトラゾリウム モノナトリウム 塩 (WST-8) 溶液 (ナカライテスク)を加え、37℃で1時間反応後、各 ウェルの吸光度をマイクロプレート リーダー (Emax; Molecular Devices)を用いて測定した。結果を
図5に示す。
【0036】
(7) 統計解析
全ての実験データを、平均±標準偏差(SD)で示した。両側スチューデントのt検定及びパラメトリック1元配置又は2元配置分散分析(ANOVA)は、群間の相違を分析するために使用した。The Tukey-Kramer post-hoc テストは群間の特定の相違を決定するために使用した。全ての解析において, P<0.05 を統計的に有意であるとみなした。統計分析はGraphPad Prism 6 (GraphPad Software, Inc.) を用いて行った。
【0037】
(8) 結果
図1に示すように、No.1-25のリグニン分解物は、がん細胞株(LLC)に対し抗腫瘍作用を有する。
【0038】
図2に示すように、No.10(YME2T)、No.13(YMCL1T)、No.16(YMCL2T)のリグニン分解物は、がん細胞株(LLC、A549、HT1080)に対し抗腫瘍作用を有するが、正常細胞(HDFs)に対する細胞毒性は低いことが明らかになった。
【0039】
図3に示すように、No.10(YME2T)、No.13(YMCL1T)のリグニン分解物は、体重増加に関する有意な差はなく(
図3B)、腫瘍体積を減少させる(
図3A)ことが明らかになった。
【0040】
図4、
図5に示されるように、リグニン分解物はインフルエンザウイルス(A型、B型、C型)などのオルソミクソウイルス科のウイルス、ネコカリシウイルス、ノロウイルスなどのカリシウイルス科のウイルスに対する抗ウイルス活性を示すことが明らかになった。