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特許7340216優れた機械的特性を有する導電性複合材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】優れた機械的特性を有する導電性複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20230831BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20230831BHJP
   C08K 5/19 20060101ALI20230831BHJP
   H01B 1/24 20060101ALI20230831BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20230831BHJP
   B29C 64/106 20170101ALI20230831BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20230831BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20230831BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230831BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K3/04
C08K5/19
H01B1/24 A
H01B13/00 501Z
H01B13/00 503Z
B29C64/106
B33Y80/00
B33Y70/00
B33Y10/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018137635
(22)【出願日】2018-07-23
(65)【公開番号】P2020015781
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】古川 英光
(72)【発明者】
【氏名】川上 勝
(72)【発明者】
【氏名】アハメッド クムクム
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-160952(JP,A)
【文献】特開2013-073836(JP,A)
【文献】特開2015-205978(JP,A)
【文献】特開2007-126624(JP,A)
【文献】特開2017-128720(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0233458(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
H01B 1/00-1/24
H01B 13/00
B29C 64/00-64/124
B33Y 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブ、イオン液体、ポリイオン液体、及びポリマーからなる、導電性複合材料であって、
前記カーボンナノチューブが、前記導電性複合材料全体の質量を基準として5質量%を超える量で含まれ、
前記イオン液体が、前記導電性複合材料全体の質量を基準として30質量%~50質量%の量で含まれ、
前記ポリイオン液体が、前記導電性複合材料全体の質量を基準として10質量%~35質量%の量で含まれ、
前記ポリマーが、前記ポリマーの質量:前記ポリイオン液体の質量の比が4:6~6:4の量で含まれる、
ことを特徴とする、前記導電性複合材料。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブが、多層カーボンナノチューブであることを特徴とする、請求項1に記載の導電性複合材料。
【請求項3】
前記イオン液体が、四級アンモニウムベースのイオン液体であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の導電性複合材料。
【請求項4】
前記ポリイオン液体が、四級アンモニウムベースのポリイオン液体であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の導電性複合材料。
【請求項5】
前記ポリマーが、熱可塑性のポリマーであることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の導電性複合材料。
【請求項6】
前記ポリマーが、疎水性のポリマーであることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の導電性複合材料。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載の導電性複合材料を含む、導電性構造体。
【請求項8】
熱可塑性樹脂からなる基板上に形成された、請求項7に記載の導電性構造体。
【請求項9】
請求項1~5のいずれか1項に記載の導電性複合材料を3D印刷することを特徴とする、導電性構造体の製造方法。
【請求項10】
さらに、熱可塑性樹脂からなる基板を3D印刷により形成し、前記導電性構造体が前記基板の上に形成されるようにすることを特徴とする、請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた機械的特性を有する導電性複合材料に関する。特に、本発明は、3D印刷するのに好適な性質を備えるとともに、3D印刷した物品が良好な機械的性質と導電性とを兼ね備える、導電性複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性及び柔軟性を有するポリマー複合材料は、著しく普及してきており、フレキシブルエレクトロニクスやソフトデジタル装置の分野で様々な用途を創出している。
良好な導電性を達成するための最も一般的な手法の一つは、高い導電性(106~107S/cm)を有するカーボンナノチューブ(CNT)であって、導電性チューブのネットワークを形成するのに有用な高いアスペクト比を備えるものを使用することである。CNTは硬さ、強度及び靭性の組合せから得られる優れた機械的特性を有する。CNTをポリマーに導入すると、カーボンブラックやカーボンファイバーなどの他の導電性フィラーを使用する場合に比べて、はるかに低い配合割合でポリマーマトリクスにその機械的特性を付与することができるため、より効率よく適用することができる。
【0003】
しかしながら、CNTをポリマーマトリクス中に均一に分散させることは、CNTとポリマーとの間の相溶性が低いことから、著しい困難が伴う。この問題を解決するため、CNTとポリマーマトリクスとの間の相溶性を改善するための様々な提案がなされている。
たとえば、非特許文献1には、単層カーボンナノチューブをフッ素系ポリマーに分散させる際、イミダゾリウムベースのイオン液体を助剤として溶媒キャスティングを行い、次いでジメチルポリシロキサン(PDMS)をコーティングして、導電性複合材料に弾性を導入することが開示されている。
また、特許文献1には、高発生力、より広い周波数帯域で安定に作動するアクチュエータの創出を目的として、イオン液体およびポリマーから構成される電解質膜の表面に、導電補助剤、カーボンナノチューブ、イオン液体およびポリマーを含む高分子ゲルから構成される導電性薄膜を電極とする導電性薄膜層を形成したものが開示されている。
【0004】
一方、カーボンブラック/ポリカプトラクトン、グラフェン/ポリ乳酸(PLA)、及び、グラフェン/ABSベース及びCNT並びにグラフェンベースのポリブチレンテレフタレートを用いた、熱溶解積層(FDM)法により形成した3D印刷可能な導電性構造体が開発されている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5332027号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Small 2 (4), 554-560 (2006)
【文献】Applied Materials Today 2017, 9, 21-28
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来技術の導電性複合材料は、特にその機械的特性が十分であるとは言えないものであった。
特に近年、可撓性があって柔らかい導電性材料に対する需要は、伸縮性あるいはフレキシブルエレクトロニクスの分野に適用可能であることから、増大している。
従来の導電性複合材料で3D印刷用とされているものはいずれも、PLA、ABS、PMMAなどの汎用の熱可塑性ポリマーに、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどを混合したものであった。
しかしながら、これら従来技術の材料は、3D印刷に使用するには、導電性と機械的特性の両方の点で、なお十分であるとは言えないものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来技術の問題点を解決するため、本発明では、アンモニウムベースなどのイオン液体(IL)に加えて、新たにポリイオン液体(PIL)を用いることとし、さらに、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)のようなカーボンナノチューブ及びポリメタクリル酸メチル(PMMA)などのポリマーを併用することとして、ILベースの3D印刷可能な複合材料(ナノコンポジット)を得ることを可能としたものである。
新たに使用することとしたPILは、透明であって脆い材料である。一方、PMMAは高い機械的特性を有するものの、その弾性には限界がある。本発明者らは、PMMAなどのポリマーに、ILとともにPILを所定の割合で混合することにより、柔軟性と弾性を兼ね備えた特性を有する、機械的特性の改善された複合材料が得られることを見出し、本発明に到ったものである。
このような複合材料を多層カーボンナノチューブ(MWCNT)のようなカーボンナノチューブと混合することにより、柔軟性を有する導電性の複合材料(ナノコンポジット)であって、その導電性に影響を及ぼすことなく機械的特性を調整することが可能な材料が得られる。
本発明による導電性複合材料は、3D印刷可能な電気化学システム、センサー、あるいは電気的相互接続などの様々な用途に使用可能であると考えられる。
【0009】
すなわち、本発明は、カーボンナノチューブ、イオン液体、ポリイオン液体、及びポリマーを含む、導電性複合材料であって、前記カーボンナノチューブが、前記導電性複合材料全体の質量を基準として5質量%を超える量で含まれ、前記イオン液体が、前記導電性複合材料全体の質量を基準として30質量%~50質量%の量で含まれ、前記ポリイオン液体が、前記導電性複合材料全体の質量を基準として10質量%~35質量%の量で含まれ、前記ポリマーが、前記ポリマーの質量:前記ポリイオン液体の質量の比が4:6~6:4の量で含まれることを特徴とする、前記導電性複合材料である。
【0010】
前記カーボンナノチューブは、好ましくは多層カーボンナノチューブである。
前記イオン液体は、好ましくは四級アンモニウムベースのイオン液体である。
前記ポリイオン液体は、好ましくは四級アンモニウムベースのポリイオン液体である。
前記ポリマーは、好ましくは熱可塑性のポリマーである。
前記ポリマーは、好ましくは疎水性のポリマーである。
【0011】
本発明はまた、上記導電性複合材料を含む導電性構造体である。
この導電性構造体は、熱可塑性樹脂からなる基板上に形成されていてもよい。
【0012】
本発明はさらに、上記導電性複合材料を3D印刷することを含む、導電性構造体の製造方法である。
この製造方法において、さらに、熱可塑性樹脂からなる基板を3D印刷により形成し、前記導電性構造体が前記基板の上に形成されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、優れた機械的特性を有する導電性複合材料が得られる。
本発明による導電性複合材料は、3D印刷するのに好適な性質を備えるとともに、3D印刷した物品が、良好な機械的性質と導電性とを兼ね備えるものである。
本発明の複合材料を使用して、従来技術に比べて優れた導電性と弾性とを有するCNT複合材料フィラメントを製造することが可能となる。
本発明は、添加剤製造および印刷可能なフレキシブルエレクトロニクスの分野において、高度な進歩を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
本発明は、カーボンナノチューブ、イオン液体、ポリイオン液体、及びポリマーを含む、導電性複合材料である。
本発明の導電性複合材料には、カーボンナノチューブが、導電性複合材料全体の質量を基準として5質量%を超える量で、イオン液体が、導電性複合材料全体の質量を基準として30質量%~50質量%の量で、ポリイオン液体が、導電性複合材料全体の質量を基準として10質量%~35質量%の量で、ポリマーが、ポリマーの質量:ポリイオン液体の質量の比が4:6~6:4の量で、それぞれ含まれる。
【0015】
(カーボンナノチューブ)
本発明の導電性複合材料は、カーボンナノチューブを、導電性複合材料全体の質量を基準として5質量%を超える量で含む。
カーボンナノチューブは、多層カーボンナノチューブであるのが好ましい。
カーボンナノチューブとしては、高い導電性(106~107S/cm)を有するものが望ましく、また高いアスペクト比を備えるものが望ましい。
例えば、Nanocyl社製NC7000を好適に使用し得る。
導電性複合材料中のカーボンナノチューブの含有率を増加させることにより、導電性複合材料の導電性を向上させることができる。
一方、例えば、従来のFDM法による3D印刷に使用する場合、印刷装置のノズルに不具合が発生したり、あるいは印刷装置の押出部分でフィラメントが軟化してノズルを通過できなくなったりしないように、本発明の導電性複合材料のカーボンナノチューブの含有量は、導電性複合材料全体の質量を基準として10質量%以下であるのが好ましい。
【0016】
(イオン液体)
本発明の導電性複合材料は、イオン液体を、導電性複合材料全体の質量を基準として30質量%~50質量%の量で含む。
イオン液体は、カチオン部分とアニオン部分とを有する。
好適なイオン液体のカチオン部分としては、四級アンモニウム、イミダゾリウム、ピリジニウム、ホスホリウム、ピロリジニウムなどが挙げられる。カチオン部分が四級アンモニウムである、四級アンモニウムベースのイオン液体であるのが特に好ましい。
また、好適なアニオン部分としては、ヘキサフルオロホスフェート(PF6)、トリフルオロスルホニルイミド(TFSI)、フルオロスルホニルイミド(FSI)などが挙げられる。
本発明で使用するイオン液体(IL)は、疎水性のILであるのが好ましい。上記カチオン部分及びアニオン部分を適切に選択することにより、ILを疎水性ILとすることができる。
本発明では、四級アンモニウムベースなどのイオン液体(IL)を、熱可塑性のポリマーであるPMMAのようなポリマー、及び多層カーボンナノチューブ(MWCNT)などのカーボンナノチューブと組み合わせて使用する。特定の理論に拘束されるものではないが、これにより、ILが、複合材料混合物のための分散剤、ドーパント、柔軟剤及び加工助剤としての重要な役割を果たしているものと考えられる。
導電性複合材料中のイオン液体の含有率を増加させることにより、導電性複合材料の弾性を向上させることができる。
一方、例えば3D印刷に使用する場合、印刷装置のノズルに不具合が発生することなく、しかも柔軟性に優れた材料とするために、本発明の導電性複合材料のイオン液体の含有量は、導電性複合材料全体の質量を基準として30質量%~35質量%であるのが好ましい。
【0017】
(ポリイオン液体)
本発明の導電性複合材料は、ポリイオン液体を、導電性複合材料全体の質量を基準として10質量%~35質量%の量で含む。
ポリイオン液体は、四級アンモニウムベースのポリイオン液体であるのが好ましい。
ポリイオン液体は、重量平均分子量が500,000以上であるのが、フィルムあるいはシート形成性の観点から、また、良好な機械特性を有する複合材料を得る観点から、好ましい。
ポリイオン液体は、本発明で使用するイオン液体と同様のものであって重合可能なものを使用して得ることができる。重合可能な官能基としては、メタクリロイル基、アクリロイル基、ビニル基、アリル基、メタクリレート基、アクリレート基が挙げられる。
本発明の導電性複合材料に含まれるILとPILとが、同様のアニオン性又はカチオン性の部分を有するものであるのが好ましく、アニオン性部分は四級アンモニウムであるのが特に好ましい。
本発明の導電性複合材料を調製する場合、例えば、重合可能な四級アンモニウムベースのポリイオン液体を、CNT及びILを添加したPMMAからなるポリマー複合材料に添加することにより行うことができる。
本発明で使用するポリイオン液体の分子量は、使用するモノマーの種類によって異なるが、例えばジエチルメタクリロイルメチルアンモニウム(DEMM)モノマーを用いてバルク重合を行うと、超高分子量(>1,000,000)のPILを得ることができる。
本発明では、ポリイオン液体を使用することにより、導電性複合材料(ナノコンポジット)の柔軟性と柔らかさを著しく向上させることができる。PILをILとPMMAとの混合物に添加した複合材料は、ILとPMMAとの混合物に比べて、柔らかく弾性を有するものとなる。これは、PILをILに添加することにより、弾性を有する粘性の高い材料が得られ、この材料が剛直で機械的に強いポリマーと接することで、機械的特性に優れた柔軟な複合材料が得られるものと考えられる。
【0018】
(ポリマー)
本発明の導電性複合材料は、ポリマーを、ポリマーの質量:ポリイオン液体の質量の比が4:6~6:4の量で含む。ポリマーの質量:ポリイオン液体の質量の比は、好ましくは1:1である。
ポリマーは、熱可塑性ポリマーであるのが好ましい。
ポリマーはまた、疎水性のポリマーであるのが好ましい。
本発明の導電性複合材料に使用するポリマーは、使用するIL及びPILと良好な相溶性を有するものであるのが望ましい。
本発明の導電性複合材料に使用可能なポリマーとしては、PMMAなどのアクリルポリマーのほか、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)などのフッ素系ポリマー、熱可塑性ポリウレタン、ナイロン、ポリ乳酸(PLA)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)などのスチレンベースポリマー、ポリカプトラクトン(PCL)などが挙げられる。
【0019】
本発明の導電性複合材料を、3D印刷することなどにより、導電性構造体を製造することができる。この導電性構造体は、線状やコイル状など、任意の構造を有するものとすることができる。
また、この導電性構造体を、基板上に、例えば回路を構成する配線として形成することもできる。この場合、基板は、通常用いられるようなものであってもよいが、基板も熱可塑性樹脂を3D印刷することにより形成し、さらに、そのようにして形成した基板の上に、3D印刷により上記導電性構造体が形成されるようにしてもよい。3D印刷可能な熱可塑性樹脂としては、例えば、JSR(株)社製FABRIAL(登録商標)(ファブリアル) Rのような市販の材料を使用することができる。
【実施例
【0020】
以下に実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
(1)試料の調製
(実施例1~4及び比較例1~6)
表1に示すとおりの配合により、実施例1~4及び比較例1~6の試料を調製した。
まず、カーボンナノチューブ(CNT)として、多層カーボンナノチューブであるNanocyl社製NC7000を、イオン液体(IL)として、N,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(DEMM-TFSI)、ポリイオン液体(PIL)用のモノマーとして、重合可能部分としてメタクリロイル基を有するDEMM-TFSI、及びポリマーとしてPMMA(富士フイルム和光純薬(株)製、比重1.188、CAS. No. 9011-14-7)を用意した。
まず、DEMM-TFSIモノマーを重合して、分子量が600,000であるPILを作製した。
次に、得られたPILとPMMAを、PMMAの質量:PILの質量の比が1:1となるように、アセトンに溶解し、次いでILを、さらにCNTを添加した。
混合物を一晩撹拌してCNTをポリマーマトリクス中に十分に分散させた。次いで、混合物をテフロン(登録商標)容器にキャストし、60℃の真空オーブン中に12時間置いた。
ゼラチン粉末状の複合材料を回収し、真空下120℃のホットプレスと、これに続く5MPaまでのプレスを行い、薄型シート状の試料を得た。
【0022】
(2)試料の評価
(実施例1~4及び比較例1~6の評価)
オリエンテック社製の材料試験機(STA-1150)を使用して、試料の機械的特性を測定した。測定用の試料は、薄型シート状の試料から、JIS K6251-8に従ってダンベル形状の測定用試料を切り出したものを使用した。
さらに、NPS社製の抵抗率測定器(Model sigma-5+)を使用して、4探針法により試料の導電率を測定した。
測定はいずれも、室温で行った。
結果を表1に示す。
【0023】
【表1】
【0024】
結果から、本発明によれば、ヤング率(5kPa≦)、最大ひずみ(50%≦)ともに大きい点で、機械的特性に優れ、十分な導電性(0.8S/cm≦)を有する導電性複合材料が得られることが判る(実施例1~4)。
一方、比較例1~3の試料は、機械的特性の点で劣るものであり、また、比較例4~6の試料は、導電性が不十分であった。
【0025】
(3)試料の印刷
(実施例5)
実施例2の試料を、3D印刷により、柔軟性のある熱可塑性ポリマー上に印刷し、フレキシブル回路を作製した。このフレキシブル回路を使用して、LED光源を点灯させることができた。
具体的には、まず、Noztek社製のフィラメント押出機"The Noztek Pro Pellet & Powder Filament Extruder for 3D Printing"を使用して、ノズル直径を1.75mmとして、フィラメントを作製することとした。調製した試料を粉砕し、温度200℃、押出速度毎分約2.5m(初期設定値)でフィラメント押出機を通過させ、これを2回繰り返すことにより、機械的性質の均一性が良好なフィラメント状試料を得た。
次に、市販の可撓性ポリマーマトリクス(JSR(株)社製FABRIAL(登録商標)(ファブリアル) R)の上に、本発明の導電性複合材料による配線を設けることにより、フレキシブル回路を作製した。3D印刷装置として、2つの押出器(extruder)を備えるMakerBot社製Replicator 2を使用し、一方の押出器により本発明の導電性複合材料を、他方の押出器によりFABRIAL(登録商標)(ファブリアル) Rを、それぞれ印刷するようにした。印刷機のノズル直径は0.4mmであり、印刷速度は毎分600mm~1200mmの間で選択し、各印刷層の高さが0.25mmとなるようにした。FABRIAL(登録商標)(ファブリアル) R製の略長方形の回路基板の寸法を、40mm×20mm×1mmとし、この回路基板の上に、高さ1mm(4層)の本発明の導電性複合材料による配線を印刷した。その際、FABRIAL(登録商標)(ファブリアル) Rを印刷する際に、本発明の導電性複合材料による配線を印刷する部分の回路基板高さが0.5mmとなり(換言すれば、その部分の回路基板表面からの深さが0.5mmとなり)、その他の部分の回路基板高さが1mmとなるようにした。このようにすることにより、回路基板と配線との接着が良好となった。
配線は、長さ10mm、幅2mm、高さ1mmで、4kΩ±0.5kΩ程度の抵抗を有していた。回路基板上の配線に低電圧(3~5V)を印加することにより、LED光源を点灯させることができ、回路基板を曲げたり捻ったりしても、点灯状態を維持することができた。