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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】グラフェンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/184 20170101AFI20230831BHJP
   B01J 23/30 20060101ALI20230831BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20230831BHJP
   B01J 23/46 20060101ALI20230831BHJP
   B01J 23/75 20060101ALI20230831BHJP
   B01J 23/888 20060101ALI20230831BHJP
   B01J 37/34 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
C01B32/184
B01J23/30 M
B01J23/42 M
B01J23/46 M
B01J23/75 M
B01J23/888 M
B01J37/34
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019056114
(22)【出願日】2019-03-25
(65)【公開番号】P2020158316
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸山 隆浩
(72)【発明者】
【氏名】カマル プラサド サラマ
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-179963(JP,A)
【文献】特開2018-142519(JP,A)
【文献】特開2009-285644(JP,A)
【文献】特開2006-247758(JP,A)
【文献】特開2012-007199(JP,A)
【文献】特開2017-066506(JP,A)
【文献】国際公開第2017/038590(WO,A1)
【文献】特開2010-037128(JP,A)
【文献】BANERJEE et al.,Applied Surface Science,2013年03月01日,Vol.268,p.588-600
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/184
B01J 23/30
B01J 23/42
B01J 23/46
B01J 23/75
B01J 23/888
B01J 37/34
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cu、Si、Mo、又はSiO2のいずれかで形成された支持層の表面に積層されたC(炭素)を含むアモルファスカーボン層の表面に向けてプラズマ状態の触媒金属を照射する触媒金属照射工程を備え、
前記触媒金属照射工程において、前記支持層、及び前記アモルファスカーボン層を加熱しないことを特徴とするグラフェンの製造方法。
【請求項2】
Cu、Si、Mo、又はSiO2のいずれかで形成された支持層の表面にC(炭素)を含むアモルファスカーボン層を積層した状態にする炭素層積層工程と、
前記アモルファスカーボン層の表面に向けてプラズマ状態の触媒金属を照射する触媒金属照射工程と、
を備え、
前記触媒金属照射工程において、前記支持層、及び前記アモルファスカーボン層を加熱しないことを特徴とするグラフェンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグラフェンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、その優れた電気的特性や光学的特性から配線材料や透明電極等、様々な応用が期待される。現在、グラフェンを形成する際に、触媒金属であるCu(銅)やNi(ニッケル)等を用いるCVD(化学気相成長)が主に使われている。しかし、グラフェンをデバイスに応用する際、触媒金属の表面に形成したグラフェンを所望の基板の表面に転写する工程が必要であるため、生産性の上で大きな問題となっている。例えば、大きな面積のグラフェンの転写は技術的に難易度が高く、転写時にグラフェンが変形してしまうおそれがあり品質が低下し易い。
【0003】
特許文献1に開示されたグラフェンの製造方法は、基材の表面に向けて、ノズルから炭素を含むガスを吹きだしつつ、ノズルにマイクロ波を印加してプラズマを生成すると共に、炭素を含むガスの流速を制御して、このガスを基材の表面に強制的に拡散させることによって、基材の表面にグラフェン膜を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017―66506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のグラフェンの製造方法は、炭素を含むガスと共にマイクロ波を印加する必要があるため、装置の構造が複雑である。また、ガスの流量を制御する必要があるため、ガスの流量の調整に手間がかかる。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、容易にグラフェンを製造するグラフェンの製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1発明のグラフェンの製造方法は、
Cu、Si、Mo、又はSiO2のいずれかで形成された支持層の表面に積層されたC(炭素)を含むアモルファスカーボン層の表面に向けてプラズマ状態の触媒金属を照射する触媒金属照射工程を備え、
前記触媒金属照射工程において、前記支持層、及び前記アモルファスカーボン層を加熱しないことを特徴とする。
【0008】
第2発明のグラフェンの製造方法は、
Cu、Si、Mo、又はSiO2のいずれかで形成された支持層の表面にC(炭素)を含むアモルファスカーボン層を積層した状態にする炭素層積層工程と、
前記アモルファスカーボン層の表面に向けてプラズマ状態の触媒金属を照射する触媒金属照射工程と、
を備え、
前記触媒金属照射工程において、前記支持層、及び前記アモルファスカーボン層を加熱しないことを特徴とする。
【0009】
第1発明及び第2発明のグラフェンの製造方法は、炭素層の表面にプラズマ状態の触媒金属を照射することによって、炭素層からグラフェンを製造することができる。これにより、このグラフェンの製造方法は、従来のグラフェンの製造方法のように、マイクロ波を照射したり、ガスの流量を調整したりする手間がかからないため、容易にグラフェンを製造することができる。また、このグラフェンの製造方法は、熱に弱い材料(合成樹脂等)を支持層として用いることができるため、より様々な素材を支持層として用いることができる。
【0010】
したがって、第1発明及び第2発明のグラフェンの製造方法は容易にグラフェンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例1のグラフェンの製造方法に用いる基板の概略図である。
図2】実施例1のグラフェンの製造方法を実行する蒸着装置の概略図である。
図3】実施例1のグラフェンの製造方法の手順を示す概略図である。
図4】実施例1のグラフェンの製造方法を用い、Co(コバルト)を蒸着したサンプルをラマン散乱分光法で評価した結果を示すグラフである。
図5】(A)はCo(コバルト)を蒸着した基板の表面のTEMの画像であり、(B)は(A)に示された領域における電子回折像であり、(C)は基板の表面に蒸着された粒子状のCo(コバルト)のTEMの画像と、(C)に示す点線の円内における断面プロファイル像である。
図6】実施例1のグラフェンの製造方法を用い、Pt(白金)を蒸着したサンプルをラマン散乱分光法で評価した結果を示すグラフである。
図7】実施例1のグラフェンの製造方法を用い、Ir(イリジウム)を蒸着したサンプルをラマン散乱分光法で評価した結果を示すグラフである。
図8】実施例1のグラフェンの製造方法を用い、Co(コバルト)及びW(タングステン)を同時に蒸着したサンプルをラマン散乱分光法で評価した結果を示すグラフである。
図9】Co(コバルト)及びW(タングステン)を同時に蒸着したサンプルのTEMの画像と、TEM画像の点線の円内における断面プロファイル像である。
図10】Co(コバルト)を蒸着したサンプルの基板の表面に形成された金属粒子のTEMの画像、及びこの金属粒子の模式図である。
図11】(A)は実施例1のグラフェンの製造方法を用い、Co(コバルト)、及びW(タングステン)を同時に蒸着したサンプルをラマン散乱分光法で評価した結果を示すグラフであり、(B)は実施例1のグラフェンの製造方法を用い、Ir(イリジウム)を蒸着したサンプルをラマン散乱分光法で評価した結果を示すグラフであり、(C)は実施例1のグラフェンの製造方法を用い、W(タングステン)を蒸着したサンプルをラマン散乱分光法で評価した結果を示すグラフである。
図12】実施例2のグラフェンの製造方法の手順を示す概略図である。
図13】(a)は実施例2のグラフェンの製造方法を用い、Ir(イリジウム)を蒸着したサンプルの表面のTEMの画像であり、(b)はこのサンプルをラマン散乱分光法で評価した結果を示すグラフである。
図14】(a)は実施例2のグラフェンの製造方法を用い、Ir(イリジウム)を蒸着したサンプルの表面のTEMの画像であり、(b)はこのサンプルをラマン散乱分光法で評価した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0014】
次に、本発明のグラフェンの製造方法を具体化した実施例1、2について、図面を参照しつつ説明する。
【0015】
<実施例1>
実施例1のグラフェンの製造方法は、先ず、支持層である基板10の表面にC(炭素)を含む炭素層であるアモルファスカーボン層11が積層されたものを用意する(図3(A)参照。)。基板10の材質はCu(銅)、Si(ケイ素)、Mo(モリブデン)、又はSiO2(酸化ケイ素)等である。基板10は平板状をなしている。基板10は、図1、3に示すように、複数の孔10Aが貫通して形成されている。基板10はプラズマ状態の金属粒子が付着しても、この金属粒子が有する励起エネルギーを吸収し難い。基板10は、所謂、TEMグリッドである。アモルファスカーボン層11は基板10の複数の孔10Aを塞ぐように基板10の表面に積層される。アモルファスカーボン層11の厚みはおよそ20nm~40nmである。
【0016】
次に、蒸着装置50を用いて、基板10の表面に積層されたC(炭素)を含むアモルファスカーボン層11の表面に向けてプラズマ励起してプラズマ状態となった粒子状の触媒金属(以下、プラズマ状態の触媒金属ともいう)を照射して蒸着する触媒金属照射工程を実行する。
ここで、蒸着装置50は、図2に示すように、チャンバー51、台52、及び複数のパルスアークプラズマガン53を有している。チャンバー51には内部に形成された空間の気体を排出することができる排出口51Aが形成されている。台52は水平方向に広がる平板状をなしており、チャンバー51の内部に形成された空間に配置されている。複数のパルスアークプラズマガン53は公知のもの(アルバック理工製 APS-1)であり、プラズマ状態の触媒金属を放出することができる。パルスアークプラズマガン53はプラズマ状態の触媒金属を周期的に放出することができる。パルスアークプラズマガン53はプラズマ状態の触媒金属を放出する周期や、周期的に放出する回数(パルスの数)を自在に変更することができる。
【0017】
先ず、基板10を蒸着装置50の台52に載置し、チャンバー51の内部に形成された空間の気体を排出口51Aから排出する。そして、チャンバー51の内部に形成された空間の気圧が1×10-5Paに到達したところで、パルスアークプラズマガン53からプラズマ状態の触媒金属Pを基板10の表面のアモルファスカーボン層11の表面に向けて放出し、プラズマ状態の触媒金属をアモルファスカーボン層11の表面に蒸着する(図3(B)参照。)。プラズマ状態の触媒金属はアモルファスカーボン層11の表面に到達すると粒子状の触媒金属Mとなる。こうして、触媒金属照射工程を終了する。
このとき、基板10及びアモルファスカーボン層11の温度は室温(およそ20℃~25℃)である。つまり、触媒金属照射工程において基板10及びアモルファスカーボン層11は加熱しない。触媒金属はCo(コバルト)、Pt(白金)、Ir(イリジウム)、Co(コバルト)、又はW(タングステン)等を用いることができる。
【0018】
粒子状の触媒金属が蒸着されたアモルファスカーボン層11の一部はグラフェンに変化する。これにより、アモルファスカーボン層11はグラフェン含有層11Aに変化する(図3(B)参照。)。このとき、孔10Aを塞ぐ位置のアモルファスカーボン層11の一部は複数が積層された状態のグラフェンに変化する。基板10の表面に積層されたアモルファスカーボン層11はグラフェンに変化し難い。
【0019】
実施例1のグラフェンの製造方法を実行して、触媒金属としてCo(コバルト)を室温のアモルファスカーボン層11の表面に蒸着して4種類のサンプルC1~C4を作製した。基板10の材質はCu(銅)である。各サンプルC1~C4における、Co(コバルト)のパルスアークプラズマガン53における出力電圧(以下、Coの出力電圧ともいう)は、それぞれ70V、100V、140V、170Vである。Co(コバルト)のパルスアークプラズマガン53における、粒子状の触媒金属を蒸着する条件(以下、Coの蒸着条件ともいう)は3.0Hz、3パルスである。
【0020】
各サンプルC1~C4における、孔10Aを覆う位置のアモルファスカーボン層11をラマン散乱分光法で評価した結果を図4に示す。触媒金属蒸着前のサンプルN1及びサンプルC1はGピーク及びG’ピークが現れていない。サンプルC2はGピークが現れ、G’ピークが現れていないことが分かった。サンプルC3,C4はGピーク及びG’ピークが現れており、グラフェンが形成されていることが分かった。サンプルC3,C4のアモルファスカーボン層11はグラフェン含有層11Aに変化している。
【0021】
サンプルC4の孔10Aを覆う位置のアモルファスカーボン層11の表面を観察したTEMの画像、電子回折像、及び粒子状の触媒金属を観察したTEMの画像を図5(A)~(C)に示す。図5(A)は一見すると明確にグラフェンが現れていないように見える。しかし、図5(A)の領域における電子回折像を示す図5(B)にはグラフェンが存在していることを示すリングパターンが現れている。図5(C)には、粒子状の触媒金属M1(Co(コバルト))に隣接するように帯状の像V1が現れている。図5(C)の点線の円内における断面プロファイル像には、およそ0.342nm毎にTEMの画像の電子線が強く現れている。一般的に知られている積層したグラフェンの隣合う間の距離は0.335nmであるため、このことからも図5(C)の点線の円内における帯状の像V1はグラフェンであると考えられる。つまり、Coの出力電圧が140V以上の場合に数層積層したグラフェンが形成される。
【0022】
実施例1のグラフェンの製造方法を実行して、粒子状の触媒金属としてPt(白金)を室温のアモルファスカーボン層11の表面に蒸着して2種類のサンプルP1,P2を作製した。基板10の材質はMo(モリブデン)である。各サンプルP1,P2におけるPtの出力電圧は、それぞれ100V、170Vである。Ptの蒸着条件は3.0Hz、3パルスである。
【0023】
各サンプルP1,P2における、孔10Aを覆う位置のアモルファスカーボン層11をラマン散乱分光法で評価した結果を図6に示す。触媒金属蒸着前のサンプルN2はGピーク及びG’ピークが現れていない。サンプルP1はGピークが現れ、G’ピークが現れていない。サンプルP2はGピーク及びG’ピークが現れており、グラフェンが形成されていることが分かった。つまり、Ptの出力電圧が170V以上の場合に数層積層したグラフェンが形成される。サンプルP2のアモルファスカーボン層11はグラフェン含有層11Aに変化している。
【0024】
実施例1のグラフェンの製造方法を実行して、粒子状の触媒金属としてIr(イリジウム)を室温のアモルファスカーボン層11の表面に蒸着して4種類のサンプルIr1~Ir4を作製した。基板10の材質はMo(モリブデン)である。各サンプルIr1~Ir4におけるIrの出力電圧は、それぞれ70V、100V、140V、170Vである。Irの蒸着条件は3.0Hz、3パルスである。
【0025】
各サンプルIr1~Ir4の孔10Aを覆う位置のアモルファスカーボン層11をラマン散乱分光法で評価した結果を図7に示す。触媒金属蒸着前のサンプルN3はGピーク及びG’ピークが現れていない。各サンプルIr1~Ir4は2回ずつ測定している。サンプルIr1はGピーク及びG’ピークが現れていない。サンプルIr2はGピークが現れ、G’ピークが現れていない。サンプルIr3,Ir4はGピーク及びG’ピークが現れており、グラフェンが形成されていることが分かった。つまり、Irの出力電圧が140V以上の場合に数層積層したグラフェンが形成される。サンプルIr3,Ir4のアモルファスカーボン層11はグラフェン含有層11Aに変化している。
【0026】
実施例1のグラフェンの製造方法を実行して、粒子状の触媒金属としてCo(コバルト)、W(タングステン)を同時に常温のアモルファスカーボン層11の表面に蒸着して4種類のサンプルCW1~CW4を作製した。基板10の材質はMo(モリブデン)である。さらに、比較のために500℃のアモルファスカーボン層11の表面にCo(コバルト)、W(タングステン)を同時に蒸着して1種類のサンプルCW5を作製した。各サンプルCW1~CW5のCoの出力電圧はいずれも70Vである。サンプルCW1~CW4のWの出力電圧は100V、140V、180V、210Vと変化させている。
サンプルCW5のWの出力電圧は180Vである。サンプルCW1~CW5のCoの蒸着条件、及びWの蒸着条件はそれぞれ3.0Hz、3パルスである。
【0027】
サンプルCW1~CW5の孔10Aを覆う位置のアモルファスカーボン層11をラマン散乱分光法で評価した結果を図8に示す。サンプルCW2~CW4はラマン散乱分光法を用いて2回ずつ測定している。サンプルCW1はGピークが現れ、G’ピークが現れていない。サンプルCW2~CW4はGピーク及びG’ピークが現れており、グラフェンが形成されていることが分かった。さらに、サンプルCW5にもGピーク及びG’ピークが現れており、グラフェンが形成されていることが分かった。サンプルCW2~CW5のアモルファスカーボン層11はグラフェン含有層11Aに変化している。
【0028】
実施例1のグラフェンの製造方法を実行して、粒子状の触媒金属としてCo(コバルト)、W(タングステン)を同時にアモルファスカーボン層11の表面に蒸着してさらに別のサンプルCW6を作製した。基板10の材質はMo(モリブデン)である。Coの出力電圧が70Vであり、Wの出力電圧が140Vである。Coの蒸着条件、及びWの蒸着条件はそれぞれ3.0Hz、10パルスである。
このサンプルのTEMの画像を図9に示す。複数の黒い点状の領域M2は粒子状の触媒金属である。図9には、粒子状の触媒金属に隣接するように帯状の像V2が複数現れている。図9の点線の円内における断面プロファイル像には、0.338nm毎にTEMの画像の電子線が強く現れている。このことから帯状の像V2はグラフェンであると考えられる。サンプルCW6のアモルファスカーボン層11はグラフェン含有層11Aに変化している。
【0029】
実施例1のグラフェンの製造方法を実行して、粒子状の触媒金属としてCo(コバルト)をアモルファスカーボン層11の表面に蒸着してさらに別のサンプルC5を作製した。Coの出力電圧は140Vであり、Coの蒸着条件は3Hz、10パルスである。サンプルC5の粒子状の触媒金属のTEMの画像を図10に示す。基板10の材質はMo(モリブデン)である。黒い領域M3は粒子状の触媒金属である。この画像を生成する際に用いたTEMの電子線を使いEDXによる元素分析を行った。この結果、粒子状の触媒金属の内部KがMo(モリブデン)で形成され、内部Kを覆うように表面部SにCo(コバルト)が分布していることが分かった。これは、基板10を形成するMo(モリブデン)が基板10からなんらかの作用によって剥離し、Co(コバルト)と共に粒子状に形成されたものと考えられる。
【0030】
次に、実施例1のグラフェンの製造方法を実行して、粒子状の触媒金属として、Co(コバルト)及びW(タングステン)、Ir(イリジウム)、及びW(タングステン)のそれぞれをアモルファスカーボン層11の表面に蒸着したサンプルを作製した。
【0031】
Co(コバルト)及びW(タングステン)を同時に常温のアモルファスカーボン層11の表面に蒸着してサンプルCW7,CW8を作製した。サンプルCW7,CW8のそれぞれのCoの出力電圧は70VでありWの出力電圧は100Vである。サンプルCW7のCoの蒸着条件、及びWの蒸着条件は3.0Hz、3パルスであり、サンプルCW8のCoの蒸着条件、及びWの蒸着条件は3.0Hz、10パルスである。基板10の材質はMo(モリブデン)である。
【0032】
Ir(イリジウム)を常温のアモルファスカーボン層11の表面に蒸着してサンプルIr5,Ir6を作製した。サンプルIr5,Ir6のIrの出力電圧は100Vである。一方のサンプルのIrの蒸着条件は3.0Hz、3パルスであり、他方のサンプルのIrの蒸着条件は3.0Hz、10パルスである。基板10の材質はMo(モリブデン)である。
【0033】
W(タングステン)を常温のアモルファスカーボン層11の表面に蒸着してサンプルW1,W2を作製した。サンプルW1,W2のWの出力電圧はそれぞれ100V、180Vである。サンプルW1,W2のWの蒸着条件は3.0Hz、3パルスである。基板10の材質はMo(モリブデン)である。
【0034】
図11(A)に示すように、サンプルCW8はラマン散乱分光法で2回測定している。サンプルCW7はGピークが現れ、G’ピークが現れていない。サンプルCW8はGピーク及びG’ピークが現れており、グラフェンが形成されていることが分かった。サンプルCW8のアモルファスカーボン層11はグラフェン含有層11Aに変化している。
【0035】
図11(B)に示すように、サンプルIr5はGピークが現れ、G’ピークが現れていない。サンプルIr6はGピーク及びG’ピークが現れており、グラフェンが形成されていることが分かった。つまり、Irの蒸着条件が3.0Hz、10パルスの場合、Irの出力電圧が100V以上の場合に数層積層したグラフェンが形成される。サンプルIr6のアモルファスカーボン層11はグラフェン含有層11Aに変化している。
【0036】
図11(C)に示すように、サンプルW1,W2はそれぞれラマン散乱分光法で2回測定している。サンプルW1,W2はGピークが現れ、G’ピークが現れていない。つまり、W(タングステン)のみを用いてもグラフェンは形成されない。
【0037】
以上のラマン散乱分光法の測定結果から以下のことが分かった。触媒金属の種類によって、グラフェンを形成することができる蒸着条件(パルスの数)、及び出力電圧の大きさが異なること。Ir(イリジウム)はIrの出力電圧が140Vの場合、蒸着条件が3パルスでグラフェンを形成することができるが、Irの出力電圧が100Vの場合のグラフェンを形成するために必要な蒸着条件は10パルス以上である。W(タングステン)のみを用いるとグラフェンを形成することができない。W(タングステン)は、Co(コバルト)と同時に蒸着した場合、Wの出力電圧が100Vでグラフェンを形成することができる。
【0038】
このように、このグラフェンの製造方法は、アモルファスカーボン層11の表面にプラズマ状態の触媒金属を照射することによって、アモルファスカーボン層11からグラフェンを製造することができる。これにより、このグラフェンの製造方法は、従来のグラフェンの製造方法のように、マイクロ波を照射したり、ガスの流量を調整したりする手間がかからないため、容易にグラフェンを製造することができる。
【0039】
したがって、このグラフェンの製造方法は容易にグラフェンを製造することができる。
【0040】
このグラフェンの製造方法は、触媒金属照射工程において、基板10、及びアモルファスカーボン層11を加熱しない。このため、このグラフェンの製造方法は、熱に弱い材料(合成樹脂等)を基板10として用いることができるため、より様々な素材を基板10として用いることができる。
【0041】
<実施例2>
実施例2のグラフェンの製造方法は、基板としてTEMグリッドを用いない点等が実施例1と相違する。
先ず、支持層である基板30の表面にC(炭素)を含む炭素層であるアモルファスカーボン層31を積層した状態にする炭素層積層工程を実行する(図12(A)、(B)参照。)。基板30の材質はCu(銅)、Si(ケイ素)、Mo(モリブデン)、又はSiO2(酸化ケイ素)等である。基板30は平板状をなしている。アモルファスカーボン層31は炭素で形成された炭素棒に電子線を照射することによって、炭素棒からはじき出されたC(炭素)原子が基板30の表面に積層されて形成される。アモルファスカーボン層31の厚みはおよそ2nm~5nmである。こうして、炭素層積層工程を終了する。
【0042】
次に、アモルファスカーボン層31の表面に支持層である樹脂層32を積層する(図12(C)参照。)。樹脂層32は例えば、PMMA(アクリル樹脂)で形成されたものである。樹脂層32は、例えば、公知のスピンコート法を用いて、アモルファスカーボン層31の表面に積層される。樹脂層32はプラズマ状態の金属粒子が付着しても、この金属粒子が有する励起エネルギーを吸収し難い。
【0043】
次に、樹脂層32が硬化した後、樹脂層32及びアモルファスカーボン層31を基板30から剥離する。このとき、アモルファスカーボン層31が樹脂層32によって支持された状態で、樹脂層32及びアモルファスカーボン層31を基板30から剥離する。
そして、樹脂層32及びアモルファスカーボン層31を支持層である基板40に積層する。具体的には、基板40は、Si(ケイ素)によって形成された第1層40Aと、SiO2(酸化ケイ素)によって形成され、第1層40Aの表面に積層された第2層40Bを有している。樹脂層32及びアモルファスカーボン層31は第2層40Bの表面に積層される。このとき、樹脂層32の露出した面は第2層40Bの表面に当接した状態である。アモルファスカーボン層31は樹脂層32を挟み第2層40Bの反対側に位置した状態である。アモルファスカーボン層31は基板30に積層していた面が表面となり露出した状態である(図12(D)参照。)。つまり、樹脂層32の表面にアモルファスカーボン層31を積層した状態にする炭素層積層工程を実行していることになる。
【0044】
次に、アモルファスカーボン層31の露出した面にプラズマ励起した粒子状の触媒金属を蒸着する。つまり、蒸着装置50を用いて、基板30の表面にプラズマ状態の触媒金属を照射して蒸着する触媒金属照射工程を実行する。この工程は、実施例1と同様の工程である。触媒金属照射工程において基板30及びアモルファスカーボン層31は加熱しない。
粒子状の触媒金属が蒸着されたアモルファスカーボン層31の一部がグラフェンに変化する。こうしてアモルファスカーボン層31はグラフェン含有層31Aに変化する(図12(E)参照。)。
【0045】
次に、基板40から樹脂層32及びグラフェン含有層31Aを剥離して、基板40の第2層40Bにグラフェン含有層31Aの表面が当接するように、樹脂層32及びグラフェン含有層31Aを基板40に積層する(図12(F)参照。)。
そして、アセトン等の有機溶剤を用いて樹脂層32を除去する。こうして、基板40の第2層40Bの表面にグラフェン含有層31Aを積層する(図12(G)参照。)。
【0046】
実施例2のグラフェンの製造方法を実行して、粒子状の触媒金属としてIr(イリジウム)を室温のアモルファスカーボン層31の表面に蒸着したサンプルIr7を作製した。基板30の材質はMo(モリブデン)である。アモルファスカーボン層31の厚みはおよそ5nmである。このサンプルにおけるIrの出力電圧は170Vである。Irの蒸着条件は3.0Hz、10パルスである。
【0047】
このサンプルのTEMの画像、及びラマン散乱分光法で評価した結果を図13に示す。図13(a)に示す領域A~領域Dのそれぞれにおけるラマン散乱分光法の結果を図13(b)に示す。領域AはGピークが現れ、G’ピークが現れていない。領域B~領域DはGピーク及びG’ピークが現れており、グラフェンが形成されていることが分かった。サンプルIr7のアモルファスカーボン層31はグラフェン含有層31Aに変化している。
【0048】
実施例2のグラフェンの製造方法を実行して、粒子状の触媒金属としてIr(イリジウム)を室温のアモルファスカーボン層31の表面に蒸着したサンプルIr8を作製した。基板30の材質はMo(モリブデン)である。アモルファスカーボン層31の厚みはおよそ5nmである。このサンプルにおけるIrの出力電圧は170Vである。Irの蒸着条件は3.0Hz、5パルスである。
【0049】
このサンプルのTEMの画像、及びラマン散乱分光法で評価した結果を図14に示す。図14(a)に示す領域E~領域Jのそれぞれにおけるラマン散乱分光法の結果を図14(b)に示す。領域JはGピークが現れ、G’ピークが現れていない。領域E~領域HはGピーク及びG’ピークが現れており、グラフェンが形成されていることが分かった。サンプルIr8のアモルファスカーボン層31はグラフェン含有層31Aに変化している。
【0050】
このように、このグラフェンの製造方法は、アモルファスカーボン層31の表面にプラズマ状態の触媒金属を照射することによって、アモルファスカーボン層31からグラフェンを製造することができる。これにより、このグラフェンの製造方法は、従来のグラフェンの製造方法のように、マイクロ波を照射したり、ガスの流量を調整したりする手間がかからないため、容易にグラフェンを製造することができる。
【0051】
したがって、このグラフェンの製造方法も容易にグラフェンを製造することができる。
【0052】
このグラフェンの製造方法は、触媒金属照射工程において、基板30、及びアモルファスカーボン層31を加熱しない。このため、このグラフェンの製造方法は、熱に弱い材料(合成樹脂等)を基板30として用いることができるため、より様々な素材を基板30として用いることができる。
【0053】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1、2に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1では、基板に形成された孔の外形が円形であるが、孔の外形が楕円形、長孔、スリット状、又は多角形状等であってもよい。
(2)Co、Pt、Ir、Wに限らず、Fe、Ni、Rh、Ru、Pd、Au、Ag、Cu等の他の材料を触媒金属として用いても良い。
(3)実施例1、2の製造方法は、グラフェンTEMグリッドの作製、グラフェン共振器の作製、グラフェンのプロトン透過膜の作製、グラフェン導電膜の作製等に応用することもできる。
【符号の説明】
【0054】
10,30…基板(支持層)
11,31…アモルファスカーボン層(炭素層)
32…樹脂層(支持層)
図1
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