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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】スペーサの製造方法及びスペーサ
(51)【国際特許分類】
   B29C 45/14 20060101AFI20230831BHJP
   F02F 1/10 20060101ALI20230831BHJP
   F01P 3/02 20060101ALI20230831BHJP
   B29C 33/14 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
B29C45/14
F02F1/10 D
F01P3/02 A
B29C33/14
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019153581
(22)【出願日】2019-08-26
(65)【公開番号】P2021030580
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-07-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】牧野 耕治
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-128256(JP,A)
【文献】特開2008-188831(JP,A)
【文献】特開2011-194604(JP,A)
【文献】特開2008-229999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 45/14
F02F 1/10
F01P 3/02
B29C 33/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲むように設けられた冷却水流路内に配置されるスペーサの製造方法であって、
所定の外的要因が付加されたことを契機に圧縮前の状態に復元し膨大化する多孔質体に加工し、前記多孔質体に凹部を形成する加工工程と、
成形型に設けられた位置決め突起に前記凹部を挿入して前記多孔質体を位置決めした後、溶融樹脂を前記成形型のキャビティ内に射出し成形する成形工程とを備え、
前記位置決め突起は、前記キャビティ内に溶融樹脂を導入する樹脂射出部に対向する位置に設けられていることを特徴とするスペーサの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記凹部は、前記多孔質体を貫通する貫通孔であり、
前記位置決め突起が前記貫通孔に挿通された状態で、前記キャビティに溶融樹脂が射出されることを特徴とするスペーサの製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、
前記位置決め突起は、その先端面が傾斜状に形成され、
前記樹脂射出部から溶融樹脂を前記先端面に向けて射出することを特徴とするスペーサの製造方法。
【請求項4】
請求項1~請求項3のいずれか1項において、
前記位置決め突起は、その先端面が前記樹脂射出部の開口部位の全体と重なるように形成されていることを特徴とするスペーサの製造方法。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項において、
前記キャビティは、前記シリンダボアに対応する円弧状に区画され、
前記位置決め突起は、前記キャビティの頂部に対応するように複数設けられており、
前記凹部は、前記位置決め突起に対応して前記多孔質体に複数設けられていることを特徴とするスペーサの製造方法。
【請求項6】
内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲むように設けられた冷却水流路内に配置され、樹脂からなる成形体と、前記成形体に一体に固着された多孔質体とを備えるスペーサであって、
射出成形時における溶融樹脂の導入部位であるとともに、前記多孔質体と重なる位置に設けられた樹脂導入部を有した成形体と、前記成形体の内面又は外面に設けられるとともに、少なくともその一部が圧縮された状態を保持可能で且つ所定の外的要因が付加されたことを契機に圧縮前の状態に復元し膨大化する特性を有する多孔質体とを備え、
前記多孔質体には、前記多孔質体と前記成形体とをインサート成形する際、前記多孔質体を成形型に位置決めするための位置決め突起が挿入される凹部が設けられ、
前記凹部と前記樹脂導入部とは、前記多孔質体の圧縮方向に重なるように配設されていることを特徴とするスペーサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲むように設けられた冷却水流路内に配置されるスペーサの製造方法及びスペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関のシリンダブロックに設けられた冷却水流路には、冷却水流路を流通する冷却水の流れ(流量、流速等)を規制するためのスペーサが配置される。当該スペーサを冷却水流路に挿入して組付ける際には、挿入荷重をなくして組付け性を向上することが望まれる。そこで、上記のような組付け性を考慮したものとしては、下記特許文献1に開示されているスペーサが挙げられる。また従来、シート状の発泡体と樹脂成形体とを有する複合成形品の製造方法としても、特許文献1が挙げられる。
【0003】
下記特許文献1には、スペーサ本体と、スペーサ本体の内面に取り付けられた発泡体とを備えたスペーサとその製造方法が開示されている。ここに記載されているスペーサは、冷却水流路内に組付けられる際には、発泡体が圧縮状態とされ、組付け後、冷却水等所定の外的要因が付加されると発泡体が圧縮前の状態に復元するように構成されている。また下記特許文献1には、発泡体に透孔を形成しておき、下型の突起に嵌め合わせて発泡体を位置決めした後、溶融樹脂を射出して成形する発泡体と高分子材料とを有する複合成形品を製造する方法が記載されている(特許文献1・図14等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-128256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように発泡体を有したスペーサを成形する際には、発泡体が射出成形時の射出圧を受けても、位置ズレを起こさないように位置決めするために、成形型の突起が嵌め合される透孔を発泡体に設ける必要がある。しかしながら、発泡体に透孔を設けると、その箇所については復元しない領域となるため、発泡体の復元可能な面積が減少する。また特許文献1に開示されているように樹脂射出部に重なるように配される発泡体に向けて溶融樹脂が射出されると、発泡体に溶融樹脂が浸み込み易いため、その部分については復元しない可能性がある。
【0006】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、多孔質体の位置ズレを抑えつつ、多孔質体の復元面積の減少を緩和することができるスペーサの製造方法及びスペーサを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るスペーサの製造方法は、内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲むように設けられた冷却水流路内に配置されるスペーサの製造方法であって、所定の外的要因が付加されたことを契機に圧縮前の状態に復元し膨大化する多孔質体に凹部を形成する加工工程と、成形型に設けられた位置決め突起に前記凹部を挿入して前記多孔質体を位置決めした後、溶融樹脂を前記成形型のキャビティ内に射出し成形する成形工程とを備え、前記位置決め突起は、前記キャビティ内に溶融樹脂を導入する樹脂射出部に対向する位置に設けられていることを特徴とする。
【0008】
また本発明に係るスペーサは、内燃機関のシリンダブロックにシリンダボアを取り囲むように設けられた冷却水流路内に配置され、樹脂からなる成形体と、前記成形体に一体に固着された多孔質体とを備えるスペーサであって、射出成形時における溶融樹脂の導入部位であるとともに、前記多孔質体と重なる位置に設けられた樹脂導入部を有した成形体と、前記成形体の内面又は外面に設けられるとともに、少なくともその一部が圧縮された状態を保持可能で且つ所定の外的要因が付加されたことを契機に圧縮前の状態に復元し膨大化する特性を有する多孔質体とを備え、前記多孔質体には、前記多孔質体と前記成形体とをインサート成形する際、前記多孔質体を成形型に位置決めするための位置決め突起が挿入される凹部が設けられ、前記凹部と前記樹脂導入部とは、前記多孔質体の圧縮方向に重なるように配設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るスペーサの製造方法及びスペーサは、多孔質体の位置ズレを抑えつつ、多孔質体の復元面積の減少を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)は本発明の第1実施形態に係る製造方法により製造されたスペーサの一例を示す模式的斜視図、(b)は同製造方法で用いられる成形型の模式的斜視断面図である。
図2】(a)及び(b)は第1の実施形態に係るスペーサの製造方法を模式的に示した図であり、(a)は圧縮状態の多孔質体を同成形型に配置する工程を示した図、(b)は同多孔質体と樹脂とをインサート成型する工程を示した図である。
図3】(a)は同成形型から脱型して得られたスペーサを示した模式的断面図(図1(a)のX-X線断面図)であり、(b)は同スペーサを冷却水流路内に組付け、多孔質体が膨大化した装着状態を示す模式的断面図である。
図4】(a)は本発明の第2実施形態に係る製造方法により製造されるスペーサの一製造工程を示す模式的断面図、(b)は同製造方法で用いられる成形型の模式的斜視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係る製造方法は、自動車用エンジン等の内燃機関(不図示)のシリンダブロック1にシリンダボア2を取り囲むように設けられた冷却水流路3内に配置されるスペーサ5の製造方法に関する。
本実施形態に係るスペーサ5の製造方法は、少なくとも多孔質体7に凹部70を形成する加工工程と、多孔質体7に樹脂の成形体6を一体に成形する成形工程とを備える。
加工工程では、所定の外的要因が付加されたことを契機に圧縮前の状態に復元し膨大化する多孔質体7に凹部70を形成する。成形工程では、成形型100に設けられた位置決め突起110に多孔質体7の凹部70を挿入して多孔質体7を位置決めした後、溶融樹脂を成形型100のキャビティ102内に射出し成形する。位置決め突起110は、キャビティ102内に溶融樹脂を導入する樹脂射出部120に対向する位置に設けられている。
以下、図面を参照しながら説明する。なお、一部の図では、他図に付している詳細な符号の一部を省略している。
【0012】
<第1実施形態>
まず図1~3を参照しながら、第1実施形態に係るスペーサ5の製造方法について説明する。
第1実施形態に係る製造方法で製造されるスペーサ5は、上述したように自動車用エンジン等の内燃機関のシリンダブロック1に設けられた冷却水流路3内に配置され、内燃機関の作動に伴い昇温するシリンダボア壁20を冷却する冷却水の流れを規制し過冷却を防止するものである(図3(b)参照)。ここではスペーサ5として、冷却水流路3内の適所に部分的に配置される部分スペーサを例として示す。スペーサ5は、合成樹脂からなる成形体6と、成形体6の内面6aに一体にインサート成形される多孔質体7とを備えている。
【0013】
成形体6に用いられる樹脂としては、特に限定されず、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン、ABS、アクリル、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂がよい。さらに合成樹脂としては、種々の添加剤が添加されたものでもよく、また、例えば、炭素繊維やガラス繊維等の強化繊維を含む繊維強化樹脂でもよい。
【0014】
多孔質体7としては、所定の外的要因が付加されたことを契機として圧縮された状態から溝状の冷却水流路3の幅方向a(図3(b)の白抜き矢印・幅方向a参照)に膨大化する特性を有したものが採用される。多孔質体7は、図1(a)に示すように正面視において矩形で可撓性のあるシート状のものが採用される。多孔質体7は、上記の特性を持つものであれば、特に限定されないが、例えば、セルロース系スポンジが用いられる。セルロース系スポンジは、加圧した状態で乾燥させるとセルロース分子間が水素結合して圧縮状態に維持される一方、この状態から水分に晒されると水分子がセルロース分子間の水素結合を解離して圧縮状態から復元する特性を有するため、多孔質体7として、好適である。この場合、前記所定の外的要因は冷却水であり、多孔質体7に冷却水が接することにより、多孔質体7に外的要因が付加されたことになり、多孔質体7は冷却水流路3の幅方向aに膨大化する。
【0015】
<製造方法>
<加工工程>
まずは多孔質体7を加工する加工工程を行う。加工工程では、多孔質体7を準備し所定の形状にカットし、所定の位置に凹部70を形成する。このときの多孔質体7は、すでに圧縮され、その状態が保持された状態に加工されたものを用い、復元する前の状態のものを用いる。図例の多孔質体7は、正面視において矩形状にカットされ、その略中央部位に多孔質体7を貫通する円形の貫通孔が凹部70として形成されている。この凹部70の形成位置は、後述する下型101に形成された位置決め突起110に凹部70が挿通された状態で、樹脂の一体成形が行われることを想定した位置に形成される。凹部70の大きさ、形状は、位置決め突起110の大きさ、形状に合わせて形成される。
【0016】
<成形工程>
次に成形工程を行う。成形工程では、成形型100に設けられた位置決め突起110に多孔質体7の凹部70を挿入して多孔質体7を位置決めした後、溶融樹脂8を樹脂射出部120から成形型100のキャビティ102内に射出し、多孔質体7に樹脂の成形体6を一体に成形する。位置決め突起110は、その突出量が、多孔質体7の凹部70の深さ寸法よりも大きくなるように形成されており、多孔質体7の凹部70に挿入された状態で、その先端面110aが多孔質体7よりも樹脂射出部120側に位置する。位置決め突起110は、キャビティ102内に溶融樹脂を導入する樹脂射出部120に対向する位置に設けられている。また位置決め突起110の先端面110aは、略水平な平坦面とされ、その先端面110aが樹脂射出部120の開口部位の全体と重なるように形成されていることが望ましい。さらに具体的には、図2(b)に示すように位置決め突起110の先端面110aの径寸法d1が樹脂射出部120の径寸法d2より大であることが望ましい(d1>d2)。この場合、位置決め突起110の先端面110aの全面で溶融樹脂8の射出圧を受け、そのあと、溶融樹脂8がキャビティ102内に行き渡るので、溶融樹脂8の流れを案内する機能を積極的に発揮させることができる。
【0017】
成形工程では、成形型100を用いる。図1(b)等に示すように成形型100は下型101と上型103とを有し、型締めしたときにスペーサ5の成形体6を模る円弧状のキャビティ102が区画される。キャビティ102は、凸曲状の下型キャビティ101aと、上型キャビティ103aとで構成されている。下型キャビティ101aの最も突出した円弧状部位、言い換えると下型キャビティ101aの凸曲面の頂部101b(図1(b)参照)には、多孔質体7の凹部70が挿通される位置決め突起110が上型103に向けて突出して形成されている。上型キャビティ103aは、多孔質体7の押え部材となる押えピン130と、キャビティ102内に溶融樹脂8を導入するためのゲートとなる樹脂射出部120とを有している。樹脂射出部120は上述したように位置決め突起110と対向して設けられ、図例のものは樹脂射出部120の直下に位置決め突起110が設けられている。
【0018】
下型101の位置決め突起110に多孔質体7の凹部70を嵌め合せ、多孔質体7を位置決めする(図2(a)参照)。その後、上型103を下型101に型締めし、溶融樹脂8を樹脂射出部120から射出していく(図2(b)参照)。このとき、上型103を下型101に型締めすると、押えピン130は、多孔質体7を介して下型101に当接した状態となり、多孔質体7を押え付けた状態となる。これにより、多孔質体7は下型キャビティ101aの形状に沿って円弧状に変形する。そしてこの状態で、樹脂射出部120より溶融樹脂8をキャビティ102内に射出しインサート成型する。
【0019】
樹脂射出部120から溶融樹脂8を射出する際、多孔質体7は、高圧な射出圧を受けるが、位置決め突起110に凹部70が貫通した状態で保持され且つ押えピン130で下型101に押え付けられているので、多孔質体7は位置ずれすることなく、インサート成型を行うことができる。またこのとき、樹脂射出部120と位置決め突起110とが対向するように配置されている。よって、樹脂射出部120から射出された溶融樹脂8は、位置決め突起110の先端面110aに到達した後、キャビティ102内に充填される(図2(b)の矢印b1~b2参照)。溶融樹脂8はキャビティ102内の全域に行き渡り、その後、保圧状態で冷却し樹脂を固化させ、型開きして脱型する。脱型後、図3(a)に示すように樹脂射出部120から射出されたゲート残り部120aをカットすれば、図3(a)に示すスペーサ5を得ることができる。
【0020】
ここで、ゲート残り部120aをカットした跡には、樹脂導入部60が形成される。この樹脂導入部60は、射出成形時における溶融樹脂8の導入部位であるとともに、多孔質体7と重なる位置に設けられる。したがって、完成品であるスペーサ5には、凹部70と樹脂導入部60とが、多孔質体7の圧縮方向に重なるように配設されている。また図例の成形体6には、位置決め突起110によって形成される成形体凹所61が形成される。
【0021】
以上によれば、樹脂射出部120と位置決め突起110とが対向するように配置されているので、多孔質体7の復元しない領域が重なるようになる。つまり、多孔質体7の位置ズレを防止するため、凹部70を形成することは不可避といえる。これに加えて、樹脂射出部120の直下は、射出圧が高いため、多孔質体7に樹脂が浸み込み、その部分が復元しない領域になってしまう場合があった。しかし、上述のように樹脂射出部120と位置決め突起110とを対向するように配置すれば、不可避的に形成されてしまう多孔質体7の復元しない領域を集約(重ねる)することができるため、多孔質体7は位置決め可能な構造を備えていながら、多孔質体7の復元面積が減少することを緩和することができる。また、製造上又は経済的な理由から、多孔質体7を縮小する必要が生じた場合に、従来は多孔質体7に、位置決め突起110が挿入される箇所と樹脂射出部120が対向する箇所とをそれぞれ別々に確保する必要があった。しかし、本実施形態によれば、位置決め突起110が挿入される箇所と樹脂射出部120が対向する箇所とを集約できるため、要求に応じてさらなる多孔質体7の縮小化を図ることができる。
【0022】
また多孔質体7は、凹部70と位置決め突起110との嵌め合せによって位置決めされた上、押えピン130によって、押え付けられるので、多孔質体7が射出圧等で移動したり、捲れたりしない状態でインサート成型できる。さらに溶融樹脂8が樹脂射出部120から射出された際、その溶融樹脂8は位置決め突起110の先端面110aに到達し、その後、キャビティ102内に広がる(図2(b)の矢印b1~b2参照)。したがって、溶融樹脂8が多孔質体7に到達するまでに、溶融樹脂8の射出圧力を緩和することができ、多孔質体7への溶融樹脂8の浸み込み量を減少させることができる。
【0023】
そして、以上の製造方法で得られるスペーサ5は、図3(a)等に示すとおり、溶融樹脂の導入部位である樹脂導入部60と、位置決め突起110が挿入される凹部70とが重なるように配置されている。すなわち、このスペーサ5の多孔質体7と成形体6とをインサート成形する際には、図1(b)及び図2(b)に示すとおり、樹脂射出部120と位置決め突起110とが対向するようになる。したがって、以上の製造方法で得られるスペーサ5は、成形体6の樹脂導入部60と多孔質体7の凹部70とが圧縮方向に重なっていないスペーサに比べて、多孔質体7全体としての復元面積を増加させることができ、所望どおりに冷却水の流れを規制することができる。
【0024】
<使用状態について>
上述の製造方法によって製造されたスペーサ5は、以下のように使用される。スペーサ5は、冷却水流路3の円弧形状部3aに沿うような円弧形状に形成されている。そして、スペーサ5を冷却水流路3内に配置し組付ける際に、多孔質体7は図3(a)に示すように圧縮された状態であるので、スペーサ5自体が薄板体でコンパクトな状態にある。よって、スペーサ5を冷却水流路3内に組付ける際に、スペーサ5が冷却水流路3の内側壁面30及び外側壁面31に干渉することなく、スムーズに組付けられる。一方、スペーサ5が冷却水流路3内に組付けられた後、多孔質体7は図3(b)に示すように冷却水流路3内を流通する冷却水に触れ、水分を含むことで膨大化する。多孔質体7が膨大化すると、膨大化した多孔質体7の一方面71が内側壁面30に当接する状態となる。すると内側壁面30側の冷却水が堰き止められ、冷却水流路3中、スペーサ5が配された部位は冷却水が流れにくくなり、冷却水流路3内に設置されるスペーサ5によって過冷却等を防止することができる。
【0025】
<第2実施形態>
次に図4(a)及び図4(b)を参照しながら、上述の製造方法の変形例として第2実施形態について説明する。共通する箇所には共通の符号を付し、共通する効果、構成についての説明は省略する。
第2実施形態に係る製造方法では、位置決め突起110の先端面110bが傾斜状に形成されている点が第1実施形態と異なる。また位置決め突起110が円弧状に区画されるキャビティ102の頂部に対応するように複数設けられている点でも異なる。よって、多孔質体7に形成される凹部70は、位置決め突起110の数、形成位置に対応して複数設けられている点も異なる。
【0026】
図4(a)及び図4(b)に示すように、第2実施形態における成形型100、具体的には下型キャビティ101aの凸曲面の頂部101b(図4(b)参照)には、多孔質体7の凹部70が挿通される位置決め突起110が上型103に向けて突出して複数形成されている。複数形成された位置決め突起110,110のうち、樹脂射出部120の直下に設けられている位置決め突起110の先端面110bは、上述のしたとおり傾斜状に形成される。先端面110bの傾斜方向は、キャビティ102が広い方に溶融樹脂8が誘導されるように傾斜している。一方、複数形成された位置決め突起110,110のうち、樹脂射出部120の直下にない位置決め突起110の先端面110aは、第1実施形態と同様に略水平な平坦面に形成される。
【0027】
以上によれば、樹脂射出部120の直下に設けられた位置決め突起110の先端面110bが傾斜状に形成されているので、溶融樹脂8が先端面110bに到達した後、先端面11bの傾斜方向に応じて溶融樹脂8の流れの向きが変わる(図4(a)の矢印c1、c2参照)。したがって、位置決め突起110の先端面110bの傾斜状態(傾斜の向きや傾斜角度等)によって、キャビティ102内における溶融樹脂8の流動方向を調整することができ、スペーサ5(成形体6)の形状に応じて、好ましい樹脂の流れを誘導することができる。
【0028】
また以上によれば、スペーサ5を製造する際、樹脂射出部120から溶融樹脂8が射出されて、キャビティ102内に流動すると、多孔質体7を回転させる方向に射出圧を受けることがある。このような場合でも、位置決め突起110,110が複数設けられており、これに対応して凹部70,70も複数設けられているので、位置決め突起110を中心に多孔質体7が回転してしまうことがない。すなわち、以上によれば、多孔質体7の回転に対しても位置決めできるので、多孔質体7と成形体6とが一体成形されたスペーサ5の品質向上に寄与できる。
【0029】
なお、スペーサ5、成形型100の構成、形状等は、上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、スペーサ5を構成する成形体6に対して多孔質体7を固着させる位置(冷却水流路3の深さ方向の位置、周方向の位置)や多孔質体7の枚数(冷却水流路3の深さ方向の枚数、周方向の枚数)は、冷却水流路3内に配置されるスペーサ5の安定性、或いは、冷却水流路3内を流通する冷却水の冷却機能等、求められる仕様に応じて適宜変更してもよい。また、成形体6の形状は、実施形態では、部分スペーサを示しているが、冷却水流路3の全周に及ぶ全筒状のものでも、半筒状(半割状)のものであってもよい。さらに図示したスペーサ5は、冷却水流路3内の一か所に配置してもよいし、複数箇所に配置してもよく、配置する部分スペーサの数は、冷却水流路3内のスペースや求められる仕様等に応じて適宜設定してもよい。多孔質体7に設けられる凹部70の形状はとくに限定されない。例えば、凹部70は正面視において円形状でなくともよく、四角形状や六角形状でもよい。また、凹部70は貫通孔でなくともよく、有底穴でもよい。この場合、位置決め突起110は、凹部70を介して樹脂射出部120に対向するように設けられる。また、そのときの位置決め突起110の先端面110bが傾斜状に形成されていれば、位置決め突起110の先端面110bと樹脂射出部120との間に多孔質体7が介在していても、位置決め突起110の先端面110bの形状に応じて樹脂の流れを所望する方向へ誘導することができる。
【0030】
多孔質体7も上述の実施形態に限定されない。例えば、多孔質体7としては、気泡の大きさが非常に小さい微粒品、気泡の大きさが小程度の小粒品、気泡の大きさが中程度の中粒品のいずれを用いてもよい。具体的には、気泡の大きさ(径)が0.1~5mm程度のセルロース系スポンジを用いてもよい。これらの気泡の大きさはセルロース系スポンジの作製過程で使用される結晶ぼう硝の粒度によって決定される。また、セルロース系スポンジは、セルロースと補強繊維とからなるものが好ましいが、これに限らず、セルロース単独で構成されるものであってもよい。また、セルロース系スポンジとは、セルロース自体からなるスポンジの他、圧縮状態を保持できる程度にセルロースの水酸基を残したセルロース誘導体、例えば、セルロースエ-テル類、セルロースエステル類等からなるスポンジ、或いは、これらの混合物からなるスポンジのいずれかから選ばれるものであってもよい。また、多孔質体7は、セルロース系スポンジに限定されない。多孔質体7としては、例えば、水膨潤性シート、水可溶性のバインダー或いは所定温度以上の温度で溶解するバインダーによって圧縮状態に維持された多孔質体シート等を用いてもよい。さらに多孔質体7が膨大化する所定の外的要因としては、冷却水流路3内を流通する冷却水に限定されず、エンジンの作動によって加熱されて所定の温度以上に至った冷却水であってもよい。
スペーサ5の構成は図例に限定されず、インサート成形等によって一部に金属製の部材を含んだ構成とされたものでもよい。また図例の多孔質体7は、多孔質体7自体が圧縮されて保持された状態に加工された例を説明しているが、多孔質体7の一部が圧縮されて保持された状態に加工されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0031】
1 シリンダブロック
3 冷却水流路
5 スペーサ
6 成形体
60 樹脂導入部
7 多孔質体
70 凹部(貫通孔)
8 溶融樹脂
100 成形型
102 キャビティ
110 位置決め突起
110a,110b 先端面
120 樹脂射出部

図1
図2
図3
図4