(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】放射線遮蔽方法、放射線遮蔽構造、鉛玉入り粘土
(51)【国際特許分類】
G21F 3/00 20060101AFI20230831BHJP
G21F 1/08 20060101ALI20230831BHJP
G21F 1/10 20060101ALI20230831BHJP
【FI】
G21F3/00 F
G21F1/08
G21F1/10
(21)【出願番号】P 2019174478
(22)【出願日】2019-09-25
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】304035908
【氏名又は名称】株式会社アールエフ
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】丸山 次郎
(72)【発明者】
【氏名】駒村 千弘
(72)【発明者】
【氏名】小平 計美
(72)【発明者】
【氏名】小柳 晶生
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-216298(JP,A)
【文献】特開平02-302697(JP,A)
【文献】特開2003-255081(JP,A)
【文献】特開2011-007510(JP,A)
【文献】特開2015-064312(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0206608(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 3/00
G21F 1/08
G21F 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の鉛球
(ホウ化物がコーティングされた鉛球を除く)を粘土に混ぜて鉛球入り粘土を生成し、
部屋の壁部の室内側に鉛板を隣接して取り付け、
隣接する前記鉛板の間の隙間に前記鉛球入り粘土
を充填し、
前記鉛球入り粘土を硬化させて、前記鉛球入り粘土により前記隙間において放射線を遮蔽する放射線遮蔽
構造の構築方法。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線遮蔽
構造の構築方法において、前記粘土は、エポキシ樹脂のプレポリマーと硬化剤の2剤を混ぜたものである放射線遮蔽
構造の構築方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の放射線遮蔽構造の構築方法において、前記鉛球の直径は0.1~0.5mmである放射線遮蔽構造の構築方法。
【請求項4】
複数の鉛球を
液体粘土に混ぜて
スラリー状の鉛球入り粘土を生成し、
前記鉛玉入り粘土に物品を浸し、前記物品を前記鉛玉入り粘土から取り出すことで、前記鉛球入り粘土を前記物品
の外面の全体に積層し、
前記鉛球入り粘土を硬化させ、前記鉛球入り粘土により前記物品への放射線を遮蔽する放射線遮蔽方法。
【請求項5】
複数の鉛球を
液体粘土に混ぜて
スラリー状の鉛球入り粘土を生成し、
前記鉛球入り粘土を、
内面の開口端部に段差部を有する型枠に流し入れ、
放射線装置室の内壁側に設けられた前記型枠、内の前記鉛球入り粘土により放射線を遮蔽する放射線遮蔽方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載の放射線遮蔽方法において、前記鉛球の直径は0.1~0.5mmである放射線遮蔽方法。
【請求項7】
部屋の壁部の室内側に取り付けられ、互いに隣接し、互いの間に隙間
が生じる鉛板と、
粘土および前記粘土に混ぜられる複数の中実の鉛球
(ホウ化物がコーティングされた鉛球を除く)を含み、前記隙間を埋めており、前記隙間において放射線を遮蔽する鉛球入り粘土と、
を備える放射線遮蔽構造。
【請求項8】
粘土および前記粘土に混ぜられる複数の中実の鉛球を含み、物品の外面全体を
均等な厚さで覆った状態で硬化しており、前記物品への放射線を遮蔽する鉛玉球入り粘土。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線の遮蔽技術に関する。
【背景技術】
【0002】
各種の目的で放射線を射出する放射線装置がある。放射線装置としては、病変の画像診断のために患者にX線を照射するX線撮影装置や、患部の治療のために患部へX線やガンマ線を照射する放射線治療装置、試料の原子構造をX線回折により解析するために試料にX線を照射するX線回折装置等がある。放射線装置が設置される放射線装置室では、放射線を室内で遮蔽する必要がある。
【0003】
放射線の遮蔽方法として、内部が空洞の壁を設け、壁の内部に放射線遮蔽部材を充填する方法がある(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記方法は、壁の制作にコストおよび時間が非常にかかるという問題がある。放射線の遮蔽方法としては、一般的に、放射線を遮蔽する鉛板を室内に設ける方法が知られている。
【0006】
図1は、放射線を遮蔽するための鉛板21,22,100を示す斜視図である。
放射線の遮蔽のために室内に鉛板21,22を用ける場合、鉛板21,22の合わせ目に隙間23ができる。隙間23からの放射線の漏洩を防ぐため、一方の鉛板21、22上に、隙間23を覆うように鉛板100が設置される。鉛板100は、隙間23に対応する放射線の要求遮蔽量に応じて、所定の厚みの鉛板100A~100Cが複数枚積層されて構成される。鉛板100A~100Cは、テープ等により接着される。ベースの鉛板100Aは、積層される鉛板100B、100Cよりも幅がある。鉛板の使用量の軽減のため、上層の鉛板100Cほど短い幅のものが使用される。
【0007】
この方法では、幅の異なる鉛板100A~100Cを複数生産しなければならないという問題がある。
【0008】
図2は、放射線を遮蔽するための鉛板21,22,110を示す斜視図である。
隙間23からの放射線の漏洩を防ぐため、想定される最大の大きさの隙間23に対応する厚みの鉛板110を使用することが考えられる。この場合、鉛板110の重量が必要以上に大きくなり、生産および運搬に大きなデメリットが生じるという問題がある。
【0009】
本発明は、生産および運搬が容易な放射線の遮蔽部材を利用した放射線の遮蔽技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の要旨は以下の通りである。
(1)複数の鉛球を粘土に混ぜて鉛球入り粘土を生成し、
前記鉛球入り粘土を放射線遮蔽壁の隙間に充填し、
前記鉛球入り粘土を硬化させ、前記鉛球入り粘土により前記隙間において放射線を遮蔽する放射線遮蔽方法。
(2)(1)に記載の放射線遮蔽方法において、前記粘土は、エポキシ樹脂のプレポリマーと硬化剤の2剤を混ぜたものである放射線遮蔽方法。
(3)複数の鉛球を粘土に混ぜて鉛球入り粘土を生成し、
前記鉛球入り粘土を壁部上に塗り、
前記鉛球入り粘土を硬化させ、前記鉛球入り粘土により放射線を遮蔽する放射線遮蔽方法。
(4)複数の鉛球を粘土に混ぜて鉛球入り粘土を生成し、
前記鉛球入り粘土を筐体の外面における曲面部を含む領域に積層し、
前記鉛球入り粘土を硬化させ、前記鉛球入り粘土により前記物品への放射線を遮蔽する放射線遮蔽方法。
(5)複数の鉛球を粘土に混ぜて鉛球入り粘土を生成し、
前記鉛球入り粘土を前記物品の前記外面の全体に積層し、
前記鉛球入り粘土を硬化させ、前記鉛球入り粘土により前記物品への放射線を遮蔽する放射線遮蔽方法。
(6)複数の鉛球を粘土に混ぜて鉛球入り粘土を生成し、
前記鉛球入り粘土を型枠に流し入れ、前記鉛球入り粘土により放射線を遮蔽する放射線遮蔽方法。
(7)(3)から(6)のいずれか一つに記載の放射線遮蔽方法において、前記粘土は、液体粘土である放射線遮蔽方法。
(8)(1)から(7)のいずれか一つに記載の放射線遮蔽方法において、前記鉛球の直径は0.1~0.5mmである放射線遮蔽方法。
(9)隙間を有する放射線遮蔽壁と、
粘土および前記粘土に混ぜられる複数の中実の鉛球を含み、前記隙間を埋めており、前記隙間において放射線を遮蔽する鉛球入り粘土と、
を備える放射線遮蔽構造。
(10)粘土および前記粘土に混ぜられる複数の中実の鉛球を含み、放射線遮蔽壁の隙間に充填されて硬化することにより前記隙間において放射線を遮蔽可能な鉛球入り粘土。
(11)粘土および前記粘土に混ぜられる複数の中実の鉛球を含み、物品の外面全体を覆った状態で硬化しており、前記物品への放射線を遮蔽する鉛球入り粘土。
(12)複数の鉛球を粘土に混ぜて鉛球入り粘土を生成し、
前記鉛球入り粘土を箱本体の開口部から前記箱本体に流し入れ、
前記開口部を閉塞部材で塞ぐことで、放射線を遮蔽する遮蔽部材を製造する遮蔽部材製造方法。
(13)粘土および前記粘土に混ぜられる複数の中実の鉛球を含む鉛球入り粘土と、
内部に前記鉛球入り粘土を収容する箱状部材と、を備える放射線遮蔽部材。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】従来例における放射線を遮蔽するための鉛板21,22,100を示す斜視図である。
【
図2】従来例における放射線を遮蔽するための鉛板21,22,110を示す斜視図である。
【
図3】第1実施形態における鉛球入り粘土3を利用した放射線遮蔽構造1を示す図である。
【
図4】第2実施形態における放射線遮蔽構造1Aを示す図である。
【
図5】第3実施形態における放射線遮蔽構造1Bを示す図である。
【
図6】第4実施形態における放射線遮蔽構造1Cを示す図である。
【
図7】第5実施形態における鉛球入り粘土3Dが積層する筐体41の断面図である
【
図8】従来例における筐体41を鉛板120~122で覆う構成の断面図である。
【
図9】第6実施形態における物品42に積層される鉛球入り粘土3Eの断面図である。
【
図10】第7実施形態における放射線遮蔽部材8の断面図である。
【
図11】第8実施形態における放射線遮蔽方法を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(第1実施形態)
図3(B)に示す鉛球入り粘土3は、X線、ガンマ線、ベータ線等の放射線の遮蔽部材として利用できる。鉛球入り粘土3は、
図3(A)に示すように、複数の鉛球31を粘土32に混ぜることで生成される。鉛球31は、中実であり、直径が0.1~0.5mmの範囲内の所定値に大略揃ったものを利用する。鉛球31の直径は0.1~0.5mmであることが好ましい。鉛球31の直径が0.5mm以下であれば、鉛球31を十分に密に配置でき、鉛球入り粘土3の放射線の遮蔽能力を良好にできる。鉛球31の直径が0.1mm以上であれば、市場に流通する鉛球31を利用できる(直径が0.1mmより小さい鉛球31は、特殊なものであるため入手しにくい)。
【0013】
粘土32は、鉛球31を混ぜることができ、壁の隙間や穴に充填できるとともに、該充填後に硬化するものであれば、適宜の材料を利用できる。粘土32は、接着剤、パテとも換言できる。ここでは、粘土32として、エポキシ粘土を用いる例を説明する。粘土32は、エポキシ樹脂のプレポリマーと硬化剤の2剤を混ぜたものである。粘土32は、その他、ゴム材であってもよく、製造工程でゴム(粘土32)に鉛球31を入れてもよい。また、粘土32は、熱可塑性のポリエチレン樹脂等の樹脂であってもよく、ガラス転移点(融点)よりも高温時は柔らかくなり流動性を有し、ガラス転移点より低温度では固化するものであってもよい。粘土32として、適宜の材料を使用できる。本実施形態では、粘土32は、こねることができ、立体的な形状を保持できるものが使用される。
【0014】
粘土32に対する鉛球31の密度は、十分な放射線の遮蔽能力を確保する観点から60%以上であることが好ましい。鉛球31の密度は、鉛球入り粘土3の使用形態に応じて好ましい値に調整すればよい。例えば、鉛球入り粘土3A、3Dを壁部11に塗る場合(第2実施形態)、筐体41に積層する場合(第5実施形態)には、鉛球31の密度は、鉛球入り粘土3A、3Dを壁部11または筐体41に良好に付着する値に調整すればよい。
【0015】
図3(C)は、放射線遮蔽構造1を示す断面図である。
放射線遮蔽構造1は、歯科用X線撮影装置等の放射線装置が設置される放射線装置室の壁構造である。放射線遮蔽構造1では、放射線装置室の壁部11,12の室内側に、X線等の放射線の遮蔽壁として、鉛板21,22がテープによる接着等により設けられている。これにより、放射線遮蔽構造1では、室外への放射線の漏洩防止が図られている。
【0016】
ここで、壁部11,12の入隅においては、鉛板21,22は、互いに直交する姿勢で隣接している。鉛板21,22間には、
図3(C)の紙面垂直方向に沿って、鉛板21,22の合わせ目等による隙間23が生じている。この場合、隙間23から室外へ放射線が漏洩する恐れがある。
【0017】
そこで、作業員は、現場にて、エポキシ樹脂のプレポリマーと硬化剤の2剤を混ぜて粘土32を生成する。そして、作業員は、この粘土21に複数の鉛球31を混ぜて鉛球入り粘土3を生成する。
【0018】
続いて、作業員は、鉛球入り粘土3の硬化前に、鉛球入り粘土3を鉛板21,22の隙間23全域に充填する。作業員は、粘土32に設定された硬化時間、鉛球入り粘土3を放置することで、あるいは鉛球入り粘土3を設定温度まで加熱することで、鉛球入り粘土3を硬化させる。
【0019】
本実施形態では、鉛球入り粘土3により隙間23において放射線を遮蔽でき、隙間23から室外への放射線の漏洩を防止できる。本実施形態では、放射線の遮蔽部材として、鉛球入り粘土3を利用するところ、鉛球入り粘土3は、市販の粘土32および鉛球31を利用できるので、生産が容易である。
【0020】
従来、隙間23の放射線遮蔽部材として、鉛板100,110(
図1、
図2)を設けており、鉛板100,110は、大きくて運搬が大変であった。本実施形態では、隙間23の遮蔽部材として、鉛球入り粘土3を利用するところ、鉛球入り粘土3は、隙間23を充填できればよいので、隙間23の放射線遮蔽部材としての必要体積量を従来よりも大幅に低減できる。
【0021】
また、原材料の粘土32および鉛球31は、形状が不定であるので適当な容器に入れることができ、現場まで運搬しやすい。そして、粘土32は、鉛よりも軽量である。以上のことから、隙間23の遮蔽部材としての鉛球入り粘土3(粘土32および鉛球31)は、現場までの運搬が従来(鉛板100,110)に比べて非常に容易である。
【0022】
本実施形態では、非常に軽量の鉛球入り粘土3を隙間23に充填すればよいので、施工が従来に比べて非常に容易になる。なお、本実施形態において、後述のスラリー状の鉛球入り粘土3Aを利用してもよい。
【0023】
(第2実施形態)
図4(B)は、放射線遮蔽構造1Aを示す図である。
放射線遮蔽構造1Aでは、放射線装置室の壁部11の室内側に鉛球入り粘土3Aが塗布され、該鉛球入り粘土3Aの層により、室外への放射線の漏洩防止が図られている。
【0024】
図4(A)に示すように、鉛球入り粘土3Aは、直径が0.1~0.5mmの範囲内の所定値に大略揃った鉛球31Aを粘土32Aに混ぜることで生成される。粘土32Aは、非水溶性の合成樹脂の微粒子が水中に分散・混合された乳液状の合成樹脂エマルション粘土である。合成樹脂エマルション粘土の可塑性は、第1実施形態のエポキシ粘土の可塑性よりも低い。なお、粘土32Aは、固化する前は流体としての性質を有する液体粘土であればよく、合成樹脂エマルション粘土の他、エポキシ樹脂系、合成樹脂系、アクリル樹脂系、ウレタン樹脂系、シリコン樹脂系、フッ素樹脂系等の液剤(液体粘土)であってもよい。該液剤(液体粘土)は、1液剤でも、主剤に硬化剤を混ぜて使用する2液剤であってもよい。以下の実施形態でも同様である。
【0025】
作業員は、現場にて、例えばバケツ91に粘土32Aと鉛球31Aを入れ、粘土32Aと鉛球31Aをヘラ92等で混ぜることでスラリー状の鉛球入り粘土3Aを生成する。作業員は、
図4(B)に示すように、鉛球入り粘土3Aをヘラ92等で放射線装置室の壁部11の室内側に塗る。作業員は、鉛球入り粘土3Aを放置等により乾燥させることで、鉛球入り粘土3Aを硬化させ、壁部11上に鉛球入り粘土3Aの層を形成する。層の厚みは、放射線の照射量などから、放射線の漏れをどの程度防ぎたいかにより調整すればよく、目的に応じて設定すればよい。
【0026】
本実施形態では、壁部11上の鉛球入り粘土3Aの層により放射線を遮蔽できる。壁部11の室内側全域に鉛球入り粘土3Aを形成することで、放射線遮蔽部材として鉛板21,22の代わりに鉛球入り粘土3Aの層を形成できる。鉛球入り粘土3Aの層の形成は、鉛球入り粘土3Aをヘラ92等で壁部11に塗布するだけでよく、施工が容易である。本実施形態も、鉛球入り粘土3Aの原材料として、市販の粘土32Aおよび鉛球31Aを利用でき、生産が容易という利点や、粘土32Aおよび鉛球31Aを現場まで運搬しやすいという利点がある。なお、放射線を遮蔽するとは、放射線を完全に遮蔽すること以外に、通過する放射線の量を低減させる意味として記載する場合がある。
【0027】
(第3実施形態)
図5は、放射線遮蔽構造1Bを示す図である。
放射線遮蔽構造1Bでは、放射線装置室の壁部11として、側壁であるR状の壁部11Bを含む。鉛板21,22は、丸い曲がりや円状の物の外曲面に取り付けることができず、R状の壁部11Bに取り付けることができない。そのため、従来、R状の壁部11Bに遮蔽部材を設けることは大変であった。
【0028】
本実施形態では、R状の壁部11Bに、放射線の遮蔽部材として鉛球入り粘土3Bを設ける。本実施形態では、鉛球入り粘土3Bは、塗布でき、壁部11Bに容易に設けることができるよう、例えばエポキシ樹脂系の液剤である液体粘土に鉛球をまぜたスラリー状のものを利用する。なお、鉛球入り粘土3Bは、立体的な形状を保持できるエポキシ粘土等に鉛球をまぜたものであってもよく、この場合も、鉛球入り粘土3Bは、壁部11Bの外面形状への追随性が良好なので、やはり容易に壁部11Bに設けることができる。本実施形態では、R状の壁部11Bにおいて、鉛球入り粘土3Bの層により、室外への放射線の漏洩を防止できる。
【0029】
図5は、壁部11Bへの鉛球入り粘土3Bの設置作業の途中の様子を示している。鉛球入り粘土3Bは、鉛球と粘土とが混ざっていれば、適宜のものを利用できる。鉄球は、直径が0.1~0.5mmの範囲内の所定値に大略揃ったものを利用することが好ましい。 平坦な壁部11には、放射線の遮蔽部材として、鉛板21,22を設けてもよいし、鉛球入り粘土3,3A,3Bを設けてもよい。鉛板21,22を設ける場合、鉛板21,22の合わせ目に鉛球入り粘土3を充填してもよい。
【0030】
(第4実施形態)
図6は、放射線遮蔽構造1Cを示す図である。
放射線遮蔽構造1Cでは、天井の壁部11Cがドーム状となっており、該壁部11Cに放射線の遮蔽部材として鉛球入り粘土3Cが設けられている。
図6は、壁部11Cへの鉛球入り粘土3Cの設置作業の途中の様子を示している。鉛球入り粘土3Cは、塗布を容易にできるよう、液体粘土に鉛球をまぜたスラリー状のものを使用する。なお、鉛球入り粘土3Cは、立体的な形状を保持できるエポキシ粘土等に鉛球をまぜたものを使用してもよい。
【0031】
本実施形態でも、ドーム状の壁部11Cにおいては、鉛球入り粘土3Cの層により、室外への放射線の漏洩を防止できる。平坦な壁部11には、放射線の遮蔽部材として、鉛板21,22や鉛球入り粘土3,3A~3Cを設けてもよい。
【0032】
(第5実施形態)
図7は、鉛球入り粘土3Dが積層する筐体41の断面図である。
本実施形態の放射線遮蔽方法(放射線遮蔽構造の製造方法)において、作業員は、まず、複数の鉛球を粘土に混ぜて鉛球入り粘土3Dを生成する。鉛球入り粘土3Dは、液体粘土に鉛球をまぜたスラリー状のものを使用するものとするが、立体的な形状を保持できるエポキシ粘土等に鉛球をまぜたものを使用してもよい。
【0033】
続いて、作業員は、鉛球入り粘土3Dを、筐体41(物品)の外面における曲面部411を含む領域に、塗布により積層する。エポキシ粘土等を使用する鉛球入り粘土3Dを用いる場合、鉛球入り粘土3Dを筐体41の外面に直接取り付けてもよいし、接着剤やテープ等を用いて筐体41の外面に取り付けてもよい。第3、第4実施形態においても、エポキシ粘土等を使用する鉛球入り粘土3B,3Cを利用する場合には同様である。
【0034】
筐体としては、放射線装置室内での使用が想定される機器の筐体41や、放射線を放射する装置の筐体41、例えば原子炉の筐体41を例示できる。なお、鉛球入り粘土3Dは、筐体41の外面において曲面部411を含む領域に積層することが特に有効であるが、筐体41の外面において平坦部のみを含む領域に積層されてもよい。
【0035】
続いて、作業員は、鉛球入り粘土3Dを乾燥等により硬化させ、筐体41上に鉛球入り粘土3Dの層を形成する。本実施形態では、この鉛球入り粘土3Dにより筐体41への放射線を遮蔽する。
【0036】
図8に示すように、従来、筐体41を鉛板120~122で覆う場合、筐体41の外面に鉛板120~122を貼付することとなる。隣り合う鉛板120~122同士の継ぎ目部分では、放射線漏洩防止のため、例えば鉛板120~122の端部同士が重ねられる。例えば、曲面部411上の鉛板122の端部が、両隣の鉛板120、121の端部上に重ねられる。この構成では、曲面部411上の鉛板122は、曲面部411への追従性が悪く、凹凸形状となって曲面部411との間に隙間ができ、放射線の遮蔽能力が低下する。
【0037】
本実施形態では、鉛球入り粘土3Dを放射線遮蔽部材として用いるので、前述したように生産性および運搬性が良好である。そのうえ、鉛球入り粘土3Dは、曲面部411への追従性が良好であるため、鉛板120~122を設置するよりも、鉛球入り粘土3Dを施工したほうが放射線を良好に遮蔽できる。
【0038】
(第6実施形態)
図9(A)は、物品42に積層される鉛球入り粘土3Eの断面図であり、
図9(B)は、物品42に積層される鉛球入り粘土3Eの断面斜視図である。
本実施形態の放射線遮蔽方法において、作業員は、まず、複数の鉛球を粘土に混ぜて鉛球入り粘土3Eを生成する。
【0039】
続いて、作業員は、鉛球入り粘土3Eを物品42の外面全体に積層する。物品42は、本実施形態では、球状のものを例示するが、適宜のものを使用できる。鉛球入り粘土3Eとして、液体粘土に鉛球をまぜたスラリー状のものを使用する場合、容器内の鉛球入り粘土3Eに物品42を浸すことで、物品42の外面全体に鉛球入り粘土3Eを積層できる。鉛球入り粘土3Eとして、立体的な形状を保持できるエポキシ粘土等に鉛球をまぜたものを使用する場合、鉛球入り粘土3Eを、物品42の外面上に、取り付け、貼り付け等により積層する。
【0040】
続いて、作業員は、鉛球入り粘土3Eを乾燥等により硬化させ、物品42の外面全体に鉛球入り粘土3Eの層を形成する。このようにして物品42に積層される鉛球入り粘土3Eは、粘土および粘土に混ぜられる複数の中実の鉛球を含み、物品42の外面全体を覆った状態で硬化している。本実施形態では、この鉛球入り粘土3Eにより物品42への放射線を遮蔽する。
【0041】
本実施形態では、物品42を覆う放射線遮蔽部材として、表面形状への追従性が良好な鉛球入り粘土3Eを利用する。そのため、物品42全面に鉛球入り粘土3Eを密着させて積層させることができ、放射線を良好に遮蔽できる。
【0042】
(第7実施形態)
図10(A)は、放射線遮蔽部材8の断面図である。
放射線遮蔽部材8は、運搬でき、希望の箇所に設置できる。例えば放射線装置室の内壁に沿って積むことで、放射線遮蔽部材8を放射線遮蔽壁として利用できる。また、放射線遮蔽部材8を、放射線遮蔽壁で覆えない部位や、放射線遮蔽壁の隙間を覆うのに利用できる。
【0043】
放射線遮蔽部材8は、粘土および粘土に混ぜられる複数の中実の鉛球を含む鉛球入り粘土3Fと、内部に鉛球入り粘土3Fを収容する箱状部材43と、を備える。鉛球入り粘土3Fとして、例えば、液体粘土を使用したスラリー状のものを用いることができる。箱状部材43は、上端に開口部4311がある箱本体431と、開口部4311を閉塞する閉塞部材432とを備える。
【0044】
本実施形態の放射線遮蔽方法において、作業員は、まず、複数の鉛球を粘土に混ぜて鉛球入り粘土3Fを生成し、
図10(B)に示すように、鉛球入り粘土3Fを箱本体431の開口部4311から箱本体431に流し入れる。そして、作業員は、
図10(A)に示すように、開口部4311を閉塞部材432で塞ぐことで、放射線を遮蔽する放射線遮蔽部材8を製造できる。
【0045】
(第8実施形態)
図11は、放射線遮蔽方法を説明するための断面図である。
作業員は、まず、複数の鉛球を粘土に混ぜて鉛球入り粘土3Gを生成する。球入り粘土3Gとして、例えば、液体粘土を使用したスラリー状のものを用いることができる。
【0046】
続いて、作業員は、鉛球入り粘土3Gを型枠44に流し入れ、鉛球入り粘土3Gにより放射線を遮蔽する。型枠44は、例えば放射線装置室の内壁や、原子炉の外側に設置できる。型枠44は、内部が空洞の壁状のものを指す。鉛球入り粘土3Gと型枠44を含んで放射線遮蔽構造1Gが構成される。
【0047】
本実施形態では、型枠44にスラリー状の球入り粘土3Gを流すことで球入り粘土3Gを設置するので、放射線遮蔽壁に球入り粘土3Gを厚く設置できる。
【0048】
(変形例)
鉛球31,31Aの直径は、0.1mmより小さくてもよいし、0.5mmより大きくてもよく、例えば0.05mmや1mm、2mmや5mmであってもよい。鉛球31の直径は所定値に揃っていなくてもよい。鉛球31Aの直径も、所定値に揃っていなくてもよい。
【0049】
鉛球入り粘土3,3A~3Gの粘土32,32Aとして、水と練り合わせることで硬化が始まる石膏系の粘土を使用したり、乾燥することで硬化する炭酸カルシウム系の粘土を使用したり、ポリエステル樹脂のプレポリマーと硬化剤の2剤を混ぜて生成するポリエステル系の粘土を使用したりしてもよい。鉛球入り粘土3,3A~3Gとして、塗るまたは積層する対象領域のサイズや場所、形状によって、スラリー状の塗りやすいものを利用するか、形状を維持して硬化させる事が出来るものを利用するかを決めればよい。また、鉛球入り粘土3,3A~3Gの固化前の硬さ、および固化後の硬さも、粘土32,32Aの材料によって適宜に設定できる。
【0050】
鉛球入り粘土3,3A~3Gは、放射線の遮蔽能力の向上のために鉛板21,22等の適宜の放射線遮蔽壁上に設けられてもよい。鉛球入り粘土3,3A~3Gは、放射線装置室の壁部11,11B,11Cの外側に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0051】
3,3A~3G…鉛球入り粘土、11,11B,11C…壁部、21,22…鉛板(放射線遮蔽壁)、23…隙間、31,31A…鉛球、41…筐体、42…物品、43…箱状部材、44…型枠、411…曲面部、431…箱本体、4311…開口部。