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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-30
(45)【発行日】2023-09-07
(54)【発明の名称】アプタマー製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/7088 20060101AFI20230831BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230831BHJP
   A61K 31/7105 20060101ALI20230831BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20230831BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20230831BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20230831BHJP
   C12N 15/115 20100101ALN20230831BHJP
【FI】
A61K31/7088 ZNA
A61P43/00 105
A61K31/7105
A61K48/00
A61K47/26
A61K9/08
C12N15/115 Z
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020527674
(86)(22)【出願日】2019-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2019025766
(87)【国際公開番号】W WO2020004607
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2018124390
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、「難治性疾患実用化研究事業」「抗FGF2アプタマー(RBM-007)を用いた軟骨無形成症治療薬の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】505254175
【氏名又は名称】株式会社リボミック
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【弁理士】
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【弁理士】
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【弁理士】
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【弁理士】
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(72)【発明者】
【氏名】中村 義一
(72)【発明者】
【氏名】秋田 一雅
(72)【発明者】
【氏名】アリ ユスフ
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/147017(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0053795(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第101317820(CN,A)
【文献】J Biol Macromol., 2017, Vol.100, p.75-88 (ISSN : 0141-8130)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/7088
A61P
A61K 47/00
A61K 9/00
C12N 15/115
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
FGF2に結合するアプタマー又はその塩と、マンニトールとを含有してなる、該アプタマー又はその塩が長期間安定である水性液剤であって、
前記アプタマーが、下式(1):
GGAN ACUAGGGCN UUAAN GUN ACCAGUGUN (1)
(ここで、N 及びN は、それぞれ独立して任意の0から数個の塩基を表し、N 、N 、N 及びN は、独立して任意の一個の塩基を表す)
で表わされるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含むアプタマーであって、以下の(a)又は(b):
(a)該アプタマーに含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている;
のいずれかであり、前記アプタマーの濃度が1~20mg/mLであり、マンニトールの配合割合が水溶液剤全体の2~7.5%(w/v)であり、前記アプタマー又はその塩以外に実質的に電解質を含有しない、水性液剤
【請求項2】
前記アプタマーが、下式(3):
GGAUACUAGGGCAUUAAUGUUACCAGUGUAGUCN62 (3)
(ここで、N及びN62は、それぞれ独立して任意の0から数個の塩基を表す)
で表わされるヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の水性液剤。
【請求項3】
前記アプタマーが、配列番号3、8、9、10又は12で表わされるいずれかのヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の水性液剤。
【請求項4】
アプタマー1mgに対して、マンニトールを1~50mgの割合で含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の水性液剤。
【請求項5】
5℃以下で保存される、請求項1~のいずれか一項に記載の水性液剤。
【請求項6】
4℃で3か月保存後の単量体アプタマーの割合が80%以上である、請求項1~のいずれか一項に記載の水性液剤。
【請求項7】
注射剤である、請求項1~のいずれか一項に記載の水性液剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アプタマー製剤、特に塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF2)に対するアプタマーを有効成分とするアプタマー製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、RNAアプタマーの治療薬、診断薬、試薬への応用が注目されており、いくつかのRNAアプタマーが臨床段階あるいは実用化段階に入っている。2004年12月には、世界初のRNAアプタマー医薬であるMacugen(登録商標)(一般名:ペガプタニブナトリウム)が加齢性黄斑変性症の治療薬として米国で承認され、本邦でも2008年7月に承認された。Macugen(登録商標)は、VEGFに対するアプタマーを活性本体とする。該アプタマーは28個の核酸分子からなる合成オリゴヌクレオチドで構成され、その5’末端にポリエチレングリコール(PEG)誘導体が結合している。
【0003】
Macugen(登録商標)の剤形はプレフィルドシリンジ注射剤で、硝子体内に注射する。無色からわずかに着色した澄明な水性注射液であり、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、等張化剤及びpH調整剤が添加されている。この製剤処方で25±2℃の加速試験において6か月間、5±3℃の長期保存試験においても36か月間にわたって、安定に存在することが示されている(非特許文献1)。
【0004】
一方、本願の出願時点において、Macugen(登録商標)以外にアプタマーを有効成分とする医薬品は存在せず、アプタマー製剤にどのような製剤処方が適切なのかは全く知られていない。
【0005】
出願人は、FGF2に対するアプタマーを有効成分とし、加齢黄斑変性症や軟骨無形成症、また癌性疼痛を適応症とする医薬品を開発中である(特許文献1及び2)。本発明者らは、FGF2アプタマー製剤の開発を進める過程で、Macugen(登録商標)とおよそ同じと考えられる製剤処方や、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を媒体とした製剤処方では、FGF2アプタマーの活性を維持できないという結果を得た。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2011/099576号
【文献】国際公開第2015/147017号
【非特許文献】
【0007】
【文献】医薬品インタビューフォーム 加齢黄斑変性症治療剤 マクジェン(登録商標)硝子体内注射用キット0.3mg 2015年3月(改訂第5版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、アプタマー、特にFGF2に対するアプタマーの活性を長期間にわたって安定に保持し得る製剤処方を提供し、以てアプタマー、特にFGF2アプタマーを有効成分とする医薬製剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、FGF2アプタマーにおける最適な製剤条件を見出すことに成功し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は以下のものを提供する。
[1]FGF2に結合するアプタマー又はその塩と、非電解質である浸透圧調整剤とを含有してなる、該アプタマー又はその塩が長期間安定である水性液剤。
[2]前記アプタマー又はその塩以外に、実質的に電解質を含有しない、[1]に記載の水性液剤。
[3]前記アプタマーが、下式(1):
GGANACUAGGGCNUUAANGUNACCAGUGUN (1)
(ここで、N及びNは、それぞれ独立して任意の0から数個の塩基を表し、N、N、N及びNは、独立して任意の一個の塩基を表す)
で表わされるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含むアプタマーであって、以下の(a)又は(b):
(a)該アプタマーに含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている;
のいずれかである、[1]又は[2]に記載の水性液剤。
[4]前記アプタマーが、下式(3):
GGAUACUAGGGCAUUAAUGUUACCAGUGUAGUCN62 (3)
(ここで、N及びN62は、それぞれ独立して任意の0から数個の塩基を表す)
で表わされるヌクレオチド配列を含む、[1]又は[2]に記載の水性液剤。
[5]前記アプタマーが、配列番号3、8、9、10又は12で表わされるいずれかのヌクレオチド配列を含む、[1]又は[2]に記載の水性液剤。
[6]アプタマーの濃度が1~60mg/mLである、[1]~[5]のいずれかに記載の水性液剤。
[7]浸透圧調整剤の配合割合が、水性液剤全体の2~7.5%(w/v)である、[1]~[6]のいずれかに記載の水性液剤。
[8]浸透圧調整剤がマンニトールである、[1]~[7]のいずれかに記載の水性液剤。
[9]アプタマー1mgに対して、マンニトールを1~50mgの割合で含有する、[8]に記載の水性液剤。
[10]5℃以下で保存される、[1]~[9]のいずれかに記載の水性液剤。
[11]4℃で3か月保存後の単量体アプタマーの割合が80%以上である、[1]~[10]のいずれかに記載の水性液剤。
[12]注射剤である、[1]~[11]のいずれかに記載の水性液剤。
[13]血管新生を伴う疾患、骨・軟骨疾患又は疼痛の予防又は治療用である、[1]~[12]のいずれかに記載の水性液剤。
[14][1]~[12]のいずれかに記載の水性液剤を対象に投与することを含む、血管新生を伴う疾患、骨・軟骨疾患又は疼痛の予防又は治療方法。
[15]、血管新生を伴う疾患、骨・軟骨疾患又は疼痛の予防又は治療における使用のための、[1]~[12]のいずれかに記載の水性液剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有効成分であるFGF2に対するアプタマー又はその塩を、水性液剤の形態で長期間安定に保存することができるので、取扱いが容易なアプタマー製剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、FGF2に対するアプタマー又はその塩を有効成分とし、該アプタマー又はその塩が長期間安定に保持される医薬製剤(以下、「本発明のアプタマー製剤」ともいう)を提供する。ここで「長期間安定」であるとは、ガラス瓶中に当該製剤を封入し4℃で3か月間保存した後の単量体アプタマーの割合が70%以上であることを意味する。単量体アプタマーの割合は、サイズ排除クロマトグラフィーを用いて、以下の条件により単量体と多量体を分離・検出し、(単量体のピーク面積)/(単量体及び多量体のピーク面積の和)×100(%)を算出した値である。
装置:Waters社製 ACQUITY UPLC H-Class Bio
検出器:Waters社製 TUV検出器
カラム:Waters社製 ACQUITY UPLC BEH200 SECカラム
サンプル濃度:0.2mg/mL
注入量:5μL
溶離液:10%アセトニトリル/PBS
流速:0.3mL/分
カラム温度:25℃
本発明のアプタマー製剤は、有効成分としてのFGF2に対するアプタマー又はその塩と、非電解質である浸透圧調整剤とを含有する。
【0013】
アプタマーとは、所定の標的分子に対する結合活性を有する核酸分子をいう。アプタマーは、所定の標的分子に対して結合することにより、該標的分子の活性を阻害し得る。本発明のアプタマー製剤の有効成分であるアプタマーは、FGF2に対して結合活性を有するアプタマーである。好ましい実施態様において、該アプタマーは、FGF2に結合してFGF2とFGF受容体との結合を阻害することができるアプタマーである。すなわち、該アプタマーは、FGF2に対する阻害活性を有する。
【0014】
本発明に用いられるアプタマーはFGF2に結合するアプタマーであり、さらに好ましくはFGF2に結合してFGF2とFGF受容体との結合を阻害することができるアプタマーである。FGF2とFGF受容体との結合を本発明に用いられるアプタマーが阻害するか否かは、例えば実施例1等の表面プラズモン共鳴法を利用した試験により評価することができる。
【0015】
FGF2に対するアプタマーは特に制限されないが、例えば、国際公開第2015/147017号に記載されたアプタマー、具体的には、下式(1):
GGANACUAGGGCNUUAANGUNACCAGUGUN (1)
で表わされるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を含むアプタマーであって、以下の(a)又は(b):
(a)該アプタマーに含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている;
のいずれかである、アプタマーである。
【0016】
上記式(1)中、N及びNは、それぞれ独立して任意の0から数個の塩基を表し、N、N、N及びNは、独立して任意の一個の塩基を表す。本明細書において「塩基」とは、核酸を構成するアデニン(A)、グアニン(G)、シトシン(C)、ウラシル(U)又はチミン(T)のいずれかを意味する。
の塩基数は、式(1)で表わされるヌクレオチド配列を含むアプタマーがFGF2に結合する限り特に限定されないが、例えば、0~約10個、0~9個、0~8個、0~7個、0~6個、0~5個、0~4個、0~3個、0~2個などであってよく、好ましくは0~2個であり得る。
の塩基数についてもNと同様に特に限定されないが、例えば、0~約10個、0~9個、0~8個、0~7個、0~6個、0~5個、0~4個、0~3個などであってよく、好ましくは0~10個、3~9個、又は5~8個である。
【0017】
好ましい実施態様において、上記式(1)中、
は、G、GG、AG、C又はギャップであり、
は、A又はUであり、
は、G、C又はAであり、
は、G、C又はUであり、
は、G又はUであり、
は、UUCN61又はAGUCN62(式中、N61及びN62は、それぞれ独立して任意の0から数個の塩基である)である。ここで、Nが「ギャップ」であるとは、式(1)中にNが存在しないこと、すなわちNが0個の塩基であることを意味する。
61の塩基数は特に限定されないが、例えば、0~約10個、0~7個、0~6個、0~5個、0~4個などであってよく、好ましくは0~5個、1~5個、又は2~4個であり得る。
62の塩基数についても特に限定されないが、例えば、0~約10個、0~7個、0~5個、0~4個、0~3個などであってよく、好ましくは0~5個、0~4個、又は0~3個であり得る。
【0018】
別の好ましい実施態様において、上記式(1)中、
は、G、GG、AG又はギャップであり、
は、A又はUであり、
は、G又はAであり、
は、C又はUであり、
は、G又はUであり、
は、UUCN61又はAGUCN62(式中、N61及びN62は上記と同義である)である。
【0019】
好ましい実施態様において、本発明に用いられるアプタマーは、下式(2)又は(3):
GGGAAACUAGGGCGUUAACGUGACCAGUGUUUCN61 (2)
GGAUACUAGGGCAUUAAUGUUACCAGUGUAGUCN62 (3)
(式中、N、N61及びN62は前記と同義である)
で表されるヌクレオチド配列、より好ましくは、式(3)で表されるヌクレオチド配列を含む。
【0020】
好ましい実施態様において、本発明に用いられるアプタマーは、配列番号1~12のいずれかで表わされるヌクレオチド配列を含む。以下に、配列番号1~12で表わされるヌクレオチド配列(但し、ウラシルはチミンであってもよい)を示す(以下、A、G、C及びUは、それぞれ、ヌクレオチドの塩基がアデニン、グアニン、シトシン及びウラシルであることを示す)。
配列番号1:
GGGAUACUAGGGCAUUAAUGUUACCAGUGUAGUCUCGA
配列番号2:
GGGAAACUAGGGCGUUAACGUGACCAGUGUUUCUCGA
配列番号3:
GGGAUACUAGGGCAUUAAUGUUACCAGUGUAGUCCC
配列番号4:
GGAUACUAGGGCAUUAAUGUUACCAGUGUAGUCC
配列番号5:
GGGGAUACUAGGGCAUUAAUGUUACCAGUGUAGUCCCC
配列番号6:
AGGGAUACUAGGGCAUUAAUGUUACCAGUGUAGUCCC
配列番号7:
GGGAAACUAGGGCGUUAACGUGACCAGUGUUUCCC
配列番号8:
CGGAUACUAGGGCAUUAAUGUUACCAGUGUAGUCCG
配列番号9:
CCGAUACUAGGGCAUUAAUGUUACCAGUGUAGUCGG
配列番号10:
GGGAUACUAGGGCGUUAACGUUACCAGUGUAGUCCC
配列番号11:
GGGAUACUAGGGCCUUAAGGUUACCAGUGUAGUCCC
配列番号12:
GGGAUACUAGGGCAUUUAUGUUACCAGUGUAGUCCC
好ましい一実施態様において、本発明に用いられるアプタマーは、配列番号1、3、4、5、6、8、9、10又は12、より好ましくは、配列番号3、8、9、10又は12で表わされるヌクレオチド配列を含む。
別の好ましい実施態様において、本発明に用いられるアプタマーは、配列番号2又は7で表わされるヌクレオチド配列(上記式(2)に包含される)を含む。
さらに別の好ましい実施態様において、本発明に用いられるアプタマーは、配列番号1、3、4、5、6又は8で表わされるヌクレオチド配列(上記式(3)に包含される)を含む。
【0021】
一実施態様において、本発明に用いられるアプタマーは、上記したいずれかのヌクレオチド配列において、依然としてFGF2に結合する限り、1又は数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入又は付加されたヌクレオチド配列を含んでよく、
(a)該アプタマーに含まれるヌクレオチドにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位がフッ素原子であり、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位がヒドロキシ基である、アプタマー;
(b)該(a)のアプタマーにおいて、
(i)各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されており、
(ii)各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基が、それぞれ独立して、無置換であるか、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されている、アプタマー
であってよい。
【0022】
ここで、上記置換、欠失、挿入又は付加されるヌクレオチド数は、置換、欠失、挿入又は付加後も依然としてFGF2に結合する限り特に限定されないが、例えば1~約10個、好ましくは1~6個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~4個、さらに好ましくは1~3個、最も好ましくは1個又は2個であり得る。ヌクレオチドが置換、欠失、挿入又は付加される部位も、置換、欠失、挿入又は付加後も依然としてFGF2に結合する限り特に限定されないが、上記式(1)、(2)及び(3)中、1種のヌクレオチド(即ち、A、G、C又はU)で特定されている部位においては、1~3か所、好ましくは1又は2か所、より好ましくは1か所においてヌクレオチドが置換、欠失、挿入又は付加される。一方、式(1)、(2)及び(3)中、複数種のヌクレオチドをとり得る部位(即ち、N、N、N、N、N、N、N61又はN62)においては、より多くのヌクレオチド(例えば、1~約10個、好ましくは1~6個、より好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~4個)の置換、欠失、挿入又は付加も許容され得る。例えば、配列番号3で表されるヌクレオチド配列を元の配列とすると、配列番号1は、配列番号3の3’末端のCCがUCGAに置換されたものであり、配列番号4は、配列番号3の両末端がそれぞれ1ヌクレオチドずつ欠失したものであり、配列番号5は、配列番号3の5’末端にG、3’末端にCをそれぞれ付加したものであり、配列番号6は、配列番号3の5’末端にAを付加したものであり、配列番号8は、配列番号3の5’末端のGをCに、3’末端のCをGに、それぞれ置換したものであり、配列番号9は、配列番号3の5’末端のGGをCCに、3’末端のCCをGGに、それぞれ置換したものであり、配列番号10は、配列番号3の14番目のAがGに、19番目のUがCに、それぞれ置換したものであり、配列番号12は、配列番号3の17番目のAがUに置換したものである。
【0023】
本発明に用いられるアプタマーの長さは特に限定されず、通常、約10~約200ヌクレオチドであり得るが、例えば、約20ヌクレオチド以上(例、25ヌクレオチド以上、30ヌクレオチド以上、31ヌクレオチド以上、32ヌクレオチド以上、33ヌクレオチド以上)であり、好ましくは25ヌクレオチド以上であり、より好ましくは30ヌクレオチド以上であり、さらに好ましくは33ヌクレオチド以上であり得る。また、例えば、約100ヌクレオチド以下、通常約80ヌクレオチド以下、好ましくは約70ヌクレオチド以下、より好ましくは約60ヌクレオチド以下、さらに好ましくは約50ヌクレオチド以下、さらに好ましくは約45ヌクレオチド以下(例、44ヌクレオチド以下、43ヌクレオチド以下、42ヌクレオチド以下、41ヌクレオチド以下、40ヌクレオチド以下)であり得る。総ヌクレオチド数が少なければ、化学合成及び大量生産がより容易であり、かつコスト面でのメリットも大きい。また、化学修飾も容易であり、生体内安定性も高く、毒性も低いと考えられる。
よって本発明に用いられるアプタマーの長さとしては、通常約10~約200ヌクレオチドであり得、好ましくは20~80ヌクレオチドであり、より好ましくは25~60ヌクレオチドであり、さらに好ましくは25~50ヌクレオチドであり、最も好ましくは30~45ヌクレオチドである。
【0024】
本発明に用いられるアプタマーはまた、上記式(1)で表わされるヌクレオチド配列を含むアプタマー(アプタマー(A))の複数の連結物、上記式(1)で表わされるヌクレオチド配列において、1又は数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入又は付加されたヌクレオチド配列を含むアプタマー(アプタマー(B))の複数の連結物、並びに1又は複数のアプタマー(A)と1又は複数のアプタマー(B)との連結物、からなる群より選ばれる連結物であり得る。これらの連結物も、FGF2に結合し得る。
ここで連結はタンデム結合にて行われ得る。また、連結に際し、リンカーを利用してもよい。リンカーとしては、ヌクレオチド鎖(例、1~約20ヌクレオチド)、非ヌクレオチド鎖(例、-(CH-リンカー、-(CHCHO)-リンカー、ヘキサエチレングリコールリンカー、TEGリンカー、ペプチドを含むリンカー、-S-S-結合を含むリンカー、-CONH-結合を含むリンカー、-OPO-結合を含むリンカー)が挙げられる。上記複数の連結物における複数とは、2以上であれば特に限定されないが、例えば2個、3個又は4個であり得る。
【0025】
本発明に用いられるアプタマーに含まれる各ヌクレオチドはそれぞれ、同一又は異なって、リボース(例、ピリミジンヌクレオチドのリボース、プリンヌクレオチドのリボース)の2’位においてヒドロキシ基を含むヌクレオチド(即ち、天然のリボヌクレオチド)であるか、あるいはリボースの2’位において、ヒドロキシ基が、任意の原子又は基で置換(修飾)されているヌクレオチド(本明細書において、「修飾ヌクレオチド」と記載する場合がある)であり得る。
【0026】
このような任意の原子又は基としては、例えば、水素原子、フッ素原子又は-O-アルキル基(例、-O-Me基)、-O-アシル基(例、-O-CHO基)、アミノ基(例、-NH基)で置換されているヌクレオチドが挙げられる。本発明に用いられるアプタマーはまた、少なくとも1種(例、1、2、3又は4種)のヌクレオチドが、リボースの2’位において、ヒドロキシ基、又は上述した任意の原子又は基、例えば、水素原子、フッ素原子、ヒドロキシ基及び-O-Me基からなる群より選ばれる少なくとも2種(例、2、3又は4種)の基を含む修飾ヌクレオチドであり得る。
【0027】
本発明に用いられるアプタマーにおいてはまた、全てのピリミジンヌクレオチドが、リボースの2’位がフッ素原子であるヌクレオチドであるか、あるいは該フッ素原子が、同一又は異なって、無置換であるか、上述した任意の原子又は基、好ましくは、水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されているヌクレオチドであり得る。特に本発明に用いられるアプタマーの製造方法として、DuraScribeTM T7 Transcription Kit(Epicentre社製)を用いた製造方法を適用した場合、全てのピリミジンヌクレオチドのリボース2’位がフルオロ化したアプタマーが得られる。フッ素原子がその他の上記原子又は基で置換されているアプタマーは、後述の方法で製造することができる。
【0028】
本発明に用いられるアプタマーにおいてはまた、全てのプリンヌクレオチドが、リボースの2’位がヒドロキシ基であるヌクレオチドであるか、あるいは該ヒドロキシ基が、同一又は異なって、無置換であるか、上述した任意の原子又は基、好ましくは、水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されるヌクレオチドであり得る。ヒドロキシ基がその他の上記原子又は基で置換されているアプタマーは、後述の方法で製造することができる。
【0029】
本発明に用いられるアプタマーにおいてはまた、全てのピリミジンヌクレオチドが、リボースの2’位のフッ素原子が上述した任意の原子又は基、例えば、水素原子、ヒドロキシ基及び-O-Me基からなる群より選ばれる同一の原子又は基で置換されているヌクレオチドであり得る。
本発明に用いられるアプタマーにおいてはまた、全てのプリンヌクレオチドが、リボースの2’位のヒドロキシ基が上述した任意の原子又は基、例えば、水素原子、フッ素原子及び-O-Me基からなる群より選ばれる同一の原子又は基で置換されているヌクレオチドであり得る。
【0030】
好ましい実施態様において、本発明に用いられるアプタマーに含まれる各ピリミジンヌクレオチドはいずれも、リボースの2’位においてフッ素原子を含むヌクレオチドであり、かつ各プリンヌクレオチドはいずれも、リボースの2’位においてヒドロキシ基を含むヌクレオチドである。別の実施態様において、上記各ピリミジンヌクレオチドのリボースの2’位のフッ素原子は、それぞれ独立して水素原子、ヒドロキシ基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換されていてもよく、かつ上記各プリンヌクレオチドのリボースの2’位のヒドロキシ基は、それぞれ独立して水素原子、メトキシ基及びフッ素原子からなる群より選ばれる原子又は基で置換されていてもよい。
【0031】
尚、本明細書においては、アプタマーを構成するヌクレオチドをRNAと仮定して(すなわち糖基をリボースと仮定して)、ヌクレオチド中の糖基への修飾の態様を説明するが、これは、アプタマーを構成するヌクレオチドからDNAが除外されることを意味するものではなく、適宜DNAへの修飾として読み替えられる。例えば、アプタマーを構成するヌクレオチドがDNAである場合、リボースの2’位のヒドロキシル基のXへの置き換えは、デオキシリボースの2’位の水素原子のXへの置き換えとして読み替えられる。
本発明に用いられるアプタマーにおいて、ウラシルをチミンに置換することによって、FGF2に対する結合性、FGF2とFGF受容体との結合阻害活性、アプタマーの安定性、薬物送達性、血液中での安定性等を高めることが可能である。
【0032】
本発明に用いられるアプタマーにおいてはまた、ヌクレオチドにおけるリン酸ジエステル結合の1又は数個、例えば、1~2個、1~3個、1~4個、1~5個のヌクレオチドが任意の置換基で修飾もしくは置換されていてもよい。例えば、リン酸ジエステル結合がホスホロチオエート結合、ホスホロジチオエート結合、アルキルホスホネート結合、ホスホロアミデート結合等に置換されていてもよい。ここで、例えば「ヌクレオチドがホスホロチオエート結合に置換されている」とは、隣接するヌクレオチド間の結合部位にあるリン酸基が硫黄化されている、すなわち、ホスホジエステル結合がホスホロチオエート結合に改変されていることを示す。
【0033】
本発明に用いられるアプタマーにおいてはまた、アプタマーを安定化し、その活性を向上させる目的で、1又は数個、例えば、1~2個、1~3個、1~4個、1~5個のヌクレオチドが架橋化核酸Bridged Nucleic Acid(BNA)又はLocked Nucleic Acid(LNA)で置換されていてもよい。ここで、「架橋化核酸」とは、核酸の自由度を分子内架橋で拘束することにより、相補配列に対する結合親和性を高め、かつヌクレアーゼ耐性を獲得する構造を持つものをいい、例えば、2’,4’-BNA(LNA)、2’-O,4’-C-ethylene-bridged Nucleic Acid(ENA)などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0034】
本発明に用いられるアプタマーは、FGF2に対する結合性、安定性、薬物送達性等を高めるため、各ヌクレオチドの糖残基(例、リボース)が修飾されたものであってもよい。糖残基において修飾される部位としては、例えば、糖残基の2’位、3’位及び/又は4’位の酸素原子を他の原子に置き換えたものなどが挙げられる。修飾の種類としては、例えば、フルオロ化、O-アルキル化(例、O-メチル化、O-エチル化)、O-アリル化、S-アルキル化(例、S-メチル化、S-エチル化)、S-アリル化、アミノ化(例、-NH)が挙げられる。他にも、4’位の酸素を硫黄に置き換えた4’-SRNA、2’位と4’位とをメチレンを介して架橋したLNA(Locked Nucleic Acid)、3’位の水酸基をアミノ基に置き換えた3’-N-ホスホロアミデート核酸などを例として挙げることができる。本発明に用いられるアプタマーは、その製造方法からピリミジンヌクレオチドのリボース2’位の酸素原子が一定の修飾をもって製造される場合があり、例えば、DuraScribeTM T7 Transcription Kit(Epicentre社製)を用いた製造方法を適用した場合、好ましくは全てのピリミジンヌクレオチドのリボース2’位がフルオロ化したアプタマーが製造される。したがって、得られたアプタマーに対しその後このような糖残基の改変を加えることで、塩基配列は同じであるが活性が高められた様々なバリエーションのアプタマーを製造することが可能である。以上のことから、本発明に用いられるアプタマーは、好ましくは少なくとも一つのヌクレオチドの糖残基が修飾されたアプタマーであり得る。このような糖残基の改変は、自体公知の方法により行うことができる(例えば、Sproat et al.,(1991),Nucl.Acid.Res.19,733-738;Cotton et al.,(1991),Nucl.Acid.Res.19,2629-2635;Hobbs et al.,(1973),Biochemistry 12,5138-5145参照)。具体的には、全てのピリミジンヌクレオチドのリボース2’位の水酸基がフルオロ基に置換されたアプタマーをベースに、リボース2’位における水酸基を、水素原子、ヒドロキシル基及びメトキシ基からなる群より選ばれる原子又は基で置換したアプタマーを製造することができる。
【0035】
本発明に用いられるアプタマーはまた、FGF2に対する結合性、多量体化の防止、安定性、薬物送達性等を高めるため、核酸塩基(例、プリン、ピリミジン)が改変(例、化学的置換)されたものであってもよい。このような改変としては、例えば、5位ピリミジン改変、6及び/又は8位プリン改変、環外アミンでの改変、4-チオウリジンでの置換、5-ブロモ又は5-ヨード-ウラシルでの置換が挙げられる。また、ヌクレアーゼ及び加水分解に対して耐性であるように、本発明に用いられるアプタマーに含まれるリン酸基が改変されていてもよい。例えば、P(O)O基が、P(O)S(チオエート)、P(S)S(ジチオエート)、P(O)N(R)R’(アミデート)、P(O)R、P(O)OR、CO又はCH(ホルムアセタール)又は3’-アミン(-NH-CH-CH-)で置換されていてもよい〔ここで各々のR又はR’は独立して、Hであるか、あるいは置換されているか、又は置換されていないアルキル(例、メチル、エチル)である〕。
連結基としては、-O-、-N-又は-S-が例示され、これらの連結基を通じて隣接するヌクレオチドに結合し得る。
改変はまた、キャッピングのような3’及び5’の改変を含んでもよい。
【0036】
改変はさらに、ポリエチレングリコール(PEG)、アミノ酸、ペプチド、inverted dT、核酸、ヌクレオシド、Myristoyl、Lithocolic-oleyl、Docosanyl、Lauroyl、Stearoyl、Palmitoyl、Oleoyl、Linoleoyl、その他脂質、ステロイド、コレステロール、カフェイン、ビタミン、色素、蛍光物質、抗癌剤、毒素、酵素、放射性物質、ビオチンなどを末端に付加することにより行われ得る。このような改変については、例えば、米国特許第5,660,985号、同第5,756,703号を参照のこと。
【0037】
特に、改変がPEGの末端付加によって行われる場合、PEGの分子量は特に限定されないが、好ましくは1000~100000、より好ましくは30000~90000である。PEGは、直鎖状であってもよいし、二つ以上の鎖に分岐したもの(マルチアームPEG)であってもよい。PEGの末端付加は後述するアプタマーの多量体化の防止に有用である。
このようなPEGとしては特に限定されず、当業者であれば市販あるいは公知のPEGを適宜選択して用いることができる(例えば、http://www.peg-drug.com/peg_product/branched.htmlを参照のこと)が、本発明に用いられるアプタマーに適用するPEGの好適例として具体的には、分子量40000の2分岐GS型PEG(SUNBRIGHT GL2-400GS 日油製)、分子量40000の2分岐TS型PEG(SUNBRIGHT GL2-400TS 日油製)、分子量40000の4分岐TS型PEG(SUNBRIGHT GL4-400TS 日油製)、分子量80000の2分岐TS型PEG(SUNBRIGHT GL2-800TS 日油製)、又は分子量80000の4分岐TS型PEG(SUNBRIGHT GL4-800TS 日油製)などが挙げられる。
【0038】
この場合、本発明に用いられるアプタマーは、PEGが末端に直接付加されていてもよいが、その末端にPEGと結合可能な基を有するリンカーなどが付加され、それを介してPEGを本発明に用いられるアプタマーに付加することがより好ましい。
【0039】
PEGと本発明に用いられるアプタマーのリンカーとしては特に限定されず、炭素鎖数や官能基などを結合部位やPEGの種類などに応じて適宜選択することができる。このようなリンカーとしては、例えばアミノ基を有するリンカーが挙げられ、具体的には、5’末端に付加する場合は、ssH Linker(SAFC)又はDMS(O)MT-AMINO-MODIFIER(GLENRESEARCH)が、3’末端に付加する場合は、TFA Amino C-6 lcaa CPG(ChemGenes)などが例示される。このリンカーを選択した場合、PEGには、例えばN-hydroxysuccinimideの活性基を付加した上で、これをリンカー側のアミノ基と反応させることで、本発明に用いられるアプタマーとPEGとをリンカーを介して結合することができる。
【0040】
なおPEGやリンカーとしては、市販のものを好ましく用いることができる。またPEG、リンカー及び本発明に用いられるアプタマーの結合に関する反応条件などは、当業者であれば適宜設定することが可能である。
【0041】
本発明に用いられるアプタマーのより好ましい実施態様として、配列番号3で表されるヌクレオチド配列を含むアプタマーID1:
GL2-400TS-C6-G(M)G(M)G(M)A(M)U(M)A(M)C(M)U(F)A(M)G(M)G(M)GC(M)A(M)U(M)U(F)A(M)A(M)U(M)G(M)U(F)U(M)A(M)C(M)C(M)A(M)GU(F)GU(F)A(M)G(M)U(M)C(M)C(M)C(M)-idT;
配列番号8で表されるヌクレオチド配列を含むアプタマーID2:
GL2-400TS-C6-C(M)G(M)G(M)A(M)U(M)A(M)C(M)U(F)A(M)G(M)G(M)GC(M)A(M)U(M)U(F)A(M)A(M)U(M)G(M)U(F)U(M)A(M)C(M)C(M)A(M)GU(F)GU(F)A(M)G(M)U(M)C(M)C(M)G(M)-idT;
配列番号9で表されるヌクレオチド配列を含むアプタマーID3:
GL2-400TS-C6-C(M)C(M)G(M)A(M)U(M)A(M)C(M)U(F)A(M)G(M)G(M)GC(M)A(M)U(M)U(F)A(M)A(M)U(M)G(M)U(F)U(M)A(M)C(M)C(M)A(M)GU(F)GU(F)A(M)G(M)U(M)C(M)G(M)G(M)-idT;
配列番号10で表されるヌクレオチド配列を含むアプタマーID4:
GL2-400TS-C6-G(M)G(M)G(M)A(M)U(M)A(M)C(M)U(F)A(M)G(M)G(M)GC(M)G(M)U(M)U(F)A(M)A(M)C(M)G(M)U(F)U(M)A(M)C(M)C(M)A(M)GU(F)GU(F)A(M)G(M)U(M)C(M)C(M)C(M)-idT;
配列番号12で表されるヌクレオチド配列を含むアプタマーID5:
GL2-400TS-C6-G(M)G(M)G(M)A(M)U(M)A(M)C(M)U(F)A(M)G(M)G(M)GC(M)A(M)U(M)U(F)U(M)A(M)U(M)G(M)U(F)U(M)A(M)C(M)C(M)A(M)GU(F)GU(F)A(M)G(M)U(M)C(M)C(M)C(M)-idT;及び
配列番号3で表されるヌクレオチド配列を含むアプタマーID6:
idT-G(M)G(M)G(M)A(M)U(M)A(M)C(M)U(F)A(M)G(M)G(M)GC(M)A(M)U(M)U(F)A(M)A(M)U(M)G(M)U(F)U(M)A(M)C(M)C(M)A(M)GU(F)GU(F)A(M)G(M)U(M)C(M)C(M)C(M)-C6-GL2-400TS
(上記各式中、各ヌクレオチドにおける括弧はリボースの2’位の修飾を示し、Fはフッ素原子、Mはメトキシ基を示す。)
これらのアプタマーは、いずれを用いたとしても本発明のアプタマー製剤の構成において安定に存在することができるため、本発明のアプタマー製剤の有効成分として適切である。
【0042】
本発明に用いられるアプタマーは、フリー体であってもよいし、医薬上許容されるその塩であってもよい。そのような塩としては、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩、アミノ酸付加塩等が挙げられる。金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アルミニウム塩、亜鉛塩等が挙げられる。アンモニウム塩としては、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩が挙げられる。有機アミン付加塩としては、トリスヒドロキシアミノメタン等の塩が挙げられる。アミノ酸付加塩としては、リジン、アルギニン、ヒスチジン、トリプトファン、オルニチン等の塩が挙げられる。
【0043】
本発明に用いられるFGF2に対するアプタマーの濃度は特に限定されず、本発明のアプタマー製剤が目的の効能効果を奏する限りどれだけ含まれていても良い。本明細書において「アプタマーの濃度」とは、アプタマー分子を構成する5’→3’リン酸結合で連結される核酸部分の重量の、製剤全体の体積に占める割合(mg/mL)を意味する。該アプタマーの濃度として、例えば、1~60mg/mLが挙げられる。
【0044】
FGF2に対するアプタマーの濃度が20mg/mLを超えると、通常の保存温度である4~5℃においても当該アプタマーの多量体が生じやすくなる傾向にある。FGF2に対するアプタマーは、単量体で存在する場合にFGF2に結合し、FGF2の機能を阻害するとともにその薬効を発揮するが、多量体化しているとビアコアを用いたアッセイにおいてFGF2への結合は認められず、FGF2の機能を阻害しないと考えられる(実施例4参照)。アプタマーの濃度が低い場合は分子間距離が遠く多量体化する傾向は低いが、アプタマー濃度が20mg/mLを超えると、通常の保存温度である4~5℃においても多量体化し、結果としてFGF2への結合活性が全体として低下する傾向にある(実施例5参照)。そのため、本発明のアプタマー製剤におけるFGF2アプタマー濃度の上限は、20mg/mLを超えない濃度であることが望ましい。また、本発明のアプタマー製剤のアプタマー濃度が低い場合、注射剤としての効果が得られない場合がある。そのため、本発明のアプタマー製剤におけるFGF2アプタマー濃度の下限は、注射剤としての効果が得られる濃度であれば特に限定されないものの、例えば1mg/mL以上の濃度であることが望ましい。
【0045】
本発明のアプタマー製剤の剤形は、水性液剤である限り特に限定されないが、好ましくは注射剤である。本発明のアプタマー製剤は水性液剤であるので、有効成分であるFGF2に対するアプタマーは、溶媒中に溶解して存在している。
【0046】
通常、アプタマーはその高次構造の維持に、強電解質である無機塩を必要とすることが良く知られている。現在上市されている唯一のアプタマー医薬品であるMacugen(登録商標)においても、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、等張化剤及びpH調整剤が添加されている。この状態でMacugenは25±2℃の加速試験において6か月間、5±3℃の長期保存試験においても36か月間にわたって安定に存在することが示されている。これらのことから、当業者であればアプタマーの高次構造を保ったまま安定に注射剤中で存在させるためには、無機塩(電解質)が必要であると考えるはずである。
【0047】
しかしながら、後述する実施例で示すとおり、本発明における有効成分である上記FGF2に対するアプタマーは、溶媒としてPBSや生理食塩水を使用すると、強電解質である無機塩の影響で安定性を失い、多量体を形成する傾向にあり、その結果として、FGF2への結合活性を失うことが分かった。そこで、本発明者らは、溶媒として無機塩(電解質)を含まない水を用いたところ、予想外にもFGF2アプタマーの多量体化が抑制され、FGF2アプタマーが単量体で存在する割合が増大することを見出した(実施例3参照)。
【0048】
いかなる理論に拘束されることを望むものではないが、FGF2アプタマーを水中に溶解した場合、実施例1に示されるとおりFGF2アプタマーのTm値が測定できず、また、実施例2に示されるとおりNMRにおけるプロトンシフトが観測できないことから、水中に溶解したFGF2アプタマーは、単量体で伸び切った状態で存在すると想定される。即ち、溶媒として無機塩を含まない水を用いることで、活性構築に必要と思われるアプタマーの高次構造が破壊され、変性して一本鎖状態で存在し、それにより失活(多量体化)を防ぐことができると考えられる。しかも、実施例4及び5に示されるとおり、電解質を含む溶液中に溶解して表面プラズモン共鳴(SPR)アッセイを実施すると、FGF2アプタマーはFGF2に対する結合活性を保持していたことから、水中に溶解したFGF2アプタマーを体内に投与すれば、体液中に存在する電解質の作用によりアプタマー活性に必要な高次構造が再構築され、活性を発揮できることが実証された。
【0049】
このように、電解質を含まない溶媒中に溶解することで、あえてFGF2アプタマーの高次構造を崩壊させて伸び切った状態にすることにより、長期保存中も多量体化を防止し、投与後は生理的な塩濃度にさらされることで、高次構造が再構築されて薬効を発揮する製剤処方が、結果的にはFGF2アプタマーの活性を長期間維持できることが明らかとなった。本発明はこのような溶液中におけるアプタマーの存在様式を詳細に検証することによって完成したものであり、たとえ当業者であっても容易に想到し得ないものである。
【0050】
以上より、本発明のアプタマー製剤に用いられる溶媒としては、無機塩(電解質)を含まない水性溶媒が好ましく、特に好ましくは水である。
【0051】
本発明のアプタマー製剤は、上記したとおり無機塩(電解質)を含まない溶媒を用いるので浸透圧が低く、そのままでは注射剤として使用できない。そのため、本発明のアプタマー製剤は、血漿浸透圧に対する浸透圧比を1以上、好ましくは1~3に調整する目的で、非電解質である浸透圧調整剤(オスモライト)を含むことを特徴とする。
【0052】
本発明のアプタマー製剤に用いられる浸透圧調整剤としては、非電解質であれば特に限定されず、無機イオン類(カリウムイオン、塩化物イオンなど)を除き一般的に用いられる浸透圧調整剤であれば何を用いてもよい。このような浸透圧調整剤としては、多価アルコール(グリセロール、マンニトール、トレハロース、グルコース、スクロース、ソルビトール、イノシトールなど)、アミノ酸類(アラニン、グリシン、グルタミン酸、プロリン、GABA、タウリン、エクトインなど)、メチルアンモニウム類(TMAO、コリン、アセチルコリン、グリシンベタイン、GPC、DMSPなど)、尿素類などが挙げられるが、好ましくは多価アルコールが用いられ、より好ましくはマンニトールが用いられる。
【0053】
浸透圧調整剤の量は特に限定されず、製剤中に含まれるFGF2アプタマーの量、使用する浸透圧調整剤の種類(分子量)、目的とする浸透圧に応じて、当業者であれば適宜変更することができる。例えば浸透圧調整剤としてマンニトールを使用し、生理食塩水に対する浸透圧比を約1とする場合、浸透圧調整剤の注射剤全体における配合割合は2~7.5%(w/v)となる。より具体的には、生理食塩水に対する浸透圧比を1とする場合、上記FGF2アプタマーの濃度が2mg/mlであれば、マンニトールの配合割合は4.9%となり、上記FGF2アプタマーの濃度が20mg/mlであれば、マンニトールの配合割合は3.6%となる。
【0054】
本発明のアプタマー製剤は、有効成分であるFGF2に対するアプタマー又はその塩以外に、実質的に電解質を含有しないことが好ましい。ここで「実質的に含有しない」とは、製剤中のFGF2アプタマーを長期間安定に保存し得る範囲で、少量の電解質を含有してもよいことを意味する。より好ましくは、本発明のアプタマー製剤は、有効成分であるFGF2に対するアプタマー又はその塩以外に電解質を含有しない。
【0055】
本発明のアプタマー製剤には、必要に応じて、医薬上許容される添加剤をさらに含有させることができる。そのような添加剤としては、例えば、安定化剤、保存剤、溶解補助剤、緩衝剤、pH調整剤、無痛化剤等が挙げられ、従来より注射剤用の添加剤として周知慣用の、非電解質である医薬添加物が好ましく用いられ得る。
【0056】
本発明のアプタマー製剤のpHは特に制限されないが、注射剤として使用される場合、中性付近のpHであることが望ましく、例えばpH5~9、好ましくは6~8の範囲内で適宜選択することができる。有効成分であるFGF2に対するアプタマー又はその塩を水に溶解すると、溶液のpHは上記範囲内となるので、本発明のアプタマー製剤には、電解質であるpH調整剤、緩衝剤を敢えて添加する必要はない。
【0057】
本発明のアプタマー製剤には、FGF2アプタマーの活性や安定性に悪影響を及ぼさない限り、他の活性成分を配合してもよい。そのような活性成分としては、血管新生を伴う疾患等の治療薬としてのマクジェン(登録商標)、ルセンティス(登録商標)、アイリーア(登録商標)、アバスチン(登録商標)などのVGEF阻害剤、ステロイドなどの抗炎症剤、骨疾患治療薬等としてのノルディトロピン(登録商標)、ジェノトロピン(登録商標)などのヒト成長ホルモン製剤、モルヒネなどの鎮痛・鎮静剤が含まれていても良い。加齢黄斑変性症などの血管新生を伴う疾患、骨粗鬆症、関節リウマチ、変形性関節症、骨折などの骨・軟骨疾患、疼痛の治療用又は予防用の医薬化合物が挙げられる。
【0058】
本発明のアプタマー製剤は、上記の構成をとることにより、4℃においても3か月以上安定である。ここで「安定である」とは、上述のとおり、ガラス瓶中に当該製剤を封入し4℃で保管した後の、製剤中に存在する単量体アプタマーの割合が70%以上であることを意味する。好ましくは、本発明のアプタマー製剤は、4℃において3か月保存後の製剤中の単量体アプタマーの割合が80%以上である。また、本発明のアプタマー製剤は、白色蛍光灯や近紫外蛍光灯に晒された状態でも安定である。
従って、本発明のアプタマー製剤は、そのままの水性液剤の形態で、好ましくは、充填済みシリンジ剤やカートリッジ剤等の注射剤の剤形で、5℃以下での冷蔵保存により長期間安定に保存することができ、取扱いが極めて容易である。
【0059】
本発明のアプタマー製剤は、例えば、加齢黄斑変性症などの血管新生を伴う疾患、骨粗鬆症、関節リウマチ、変形性関節症、骨折などの骨・軟骨疾患、疼痛の治療用又は予防用の医薬として好ましく用いることができる。
【0060】
本発明のアプタマー製剤は、非経口的に(例えば、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与、局所投与、腹腔内投与、経鼻投与、経肺投与、点眼投与など)投与することができる。本発明のアプタマー製剤の投与量は、FGF2アプタマーの種類・活性、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、通常、成人1日あたり有効成分(アプタマーのオリゴヌクレオチド部分)量として約0.0001~約100mg/kg、例えば約0.0001~約10mg/kg、好ましくは約0.005~約1mg/kgであり得る。
【実施例
【0061】
以下に、実施例を示してより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
実施例1(溶媒中でのFGF2アプタマーの構造解析:Tm値の決定)
アプタマーID1で表されるアプタマーの構造を以下に示す。大文字はRNA、小文字はDNA、idTはinverted dTを示す。なお、各ヌクレオチドにおける括弧は、その2’位の修飾を示し、Fはフッ素原子、MはO-メチル基を示す。C6は-(CH-リンカー、PEG40TS2は分子量40000の2分岐TS型ポリエチレングリコール(SUNBRIGHT GL2-400TS 日油製)である。
アプタマーID1:
GL2-400TS-C6-G(M)G(M)G(M)A(M)U(M)A(M)C(M)U(F)A(M)G(M)G(M)GC(M)A(M)U(M)U(F)A(M)A(M)U(M)G(M)U(F)U(M)A(M)C(M)C(M)A(M)GU(F)GU(F)A(M)G(M)U(M)C(M)C(M)C(M)-idT
【0063】
アプタマーID1で表されるアプタマーを0.1mg/mLとなるように水で、0.06mg/mLとなるようにPBS又は生理食塩水で溶解させた。得られた溶液を95℃で5分間加熱したのち室温まで冷却し、石英ガラス製のキュベットに充填した。温度を20℃から90℃まで変化させながら分光光度計でUV吸収を測定してTm値を決定した。
その結果、PBS中では60.1℃、生理食塩水中では69.6℃であった。一方水中では特定のTm値は観測されなかった。このことからアプタマーID1で表されるアプタマーは通常注射剤の溶媒となり得るPBSや生理食塩水では分子間相互作用により高次構造を形成することが想定された。またアプタマーID1で表されるアプタマーは電解質を含まない水中では分子間、分子内で塩基対を形成せず、高次構造を作らないことが想定された。
【0064】
実施例2(重水中でのFGF2アプタマーの構造解析:NMRスペクトルの測定)
20mgのアプタマーID1で表されるアプタマーをガラス製バイアルに充填し、約1mLの重水に溶解させて測定サンプルとした。Bruker Avance 600 MHz NMR spectrometerを用いて測定した。その結果、8ppmよりも低磁場に観測されるべき塩基対形成に由来するイミノプロトンシグナルが観測されなかった。
このことからアプタマーID1で表されるアプタマーは電解質を含まない水中では分子間、分子内で塩基対を形成せず、高次構造を作らないことが想定された。
【0065】
実施例3(電解質を含む溶液中でのFGF2アプタマーの構造解析:SEC-MALS測定)
アプタマーID1で表されるアプタマーを20mg/mLとなるように生理食塩水で溶解し、37℃で2週間インキュベートして人工的に高次構造を形成するFGF2アプタマー製剤を調製した。これと調製後ただちに冷凍保存して高次構造の形成を最小限にしたサンプルとを0.2mg/mLとなるように生理食塩水でそれぞれ希釈して分析に供した。
サイズ排除クロマトグラフィーにより単量体と多量体を分離しそれぞれの分子量をWyatt Technology社のMALS(Multi Angle Light Scattering)検出器にて測定した。サイズ排除クロマトグラフィーはWaters社製ACQUITY UPLCにてBEH200 SECカラムを用いて実施した。
その結果、単量体と思われるピークの分子量は約64000、多量体からなる高次構造と思われるピークの分子量は約122000と測定された。この結果からアプタマーID1で表されるアプタマーが電解質を含む水中で形成する高次構造は二量体であることが分かった。
【0066】
実施例4(アプタマーの単量体含有率と結合活性との相関)
アプタマーID1で表されるアプタマーを20mg/mL又は2mg/mLとなるようにPBS、生理食塩水又は3.3%のマンニトール水溶液で溶解し、表1に示される保存条件下において様々な単量体含有率をしめすFGF2アプタマー製剤を調製した。ここで、調製した各FGF2アプタマー製剤の単量体含有量はサイズ排除クロマトグラフィーにて決定した。その結果も表1に示す。
調製した各FGF2アプタマー製剤のFGF2タンパク質への結合活性はGE社製のBiacore T200を用いて表面プラズモン共鳴(SPR)により測定した。センサーチップはアミノ基と反応するCM4を用いた。ヒトFGF2は固定化溶液(10mM酢酸ナトリウム、pH6)に溶解し10μg/mLとした。タンパク質側のアミノ基とチップ側のカルボキシル基の反応にはEthyl-3-carbodiimide hydrochlorideとN-hydroxysuccinimideを用いた。反応後、ethanolamineによるブロッキングを行った。FGF2の固定化量は約1000RUとした。アナライト用のアプタマーは5μMに調製した。ランニングバッファーには295mM塩化ナトリウム、5.4mM塩化カリウム、0.8mM塩化マグネシウム、1.8mM塩化カルシウム、20mM Tris、0.05% Tween20,pH7.6)、再生用液として2M塩化ナトリウムを用いた。FGF2はフローセルFC2、又はFC4に固定化し、FC1又はFC3の結果を引くことで最終的なセンサーグラムとした。活性は電解質を含まない溶液にて用事調製した多量体含有量が極めて低いFGF2アプタマー製剤スタンダードに対する相対値として評価した。
各FGF2アプタマー製剤の調製方法、単量体含有率及びFGF2タンパク質への結合活性の測定結果を表1に示す。この結果からFGF2アプタマー製剤の単量体の含有量とFGF2タンパク質への結合活性は相関していることが明らかとなった。
【0067】
【表1】
【0068】
実施例5(FGF2アプタマー製剤の安定性試験)
アプタマーID1で表されるアプタマーを20mg/mL又は2mg/mLとなるように3.3%又は3.6%又は4.9%のマンニトール溶液に溶解して表2に示す様々な温度条件で3カ月間保存したのちサイズ排除クロマトグラフィー及びSPR法により単量体含有率と結合活性を測定した。結果を表2に示す。
この結果から電解質を含まないマンニトール水溶液により調製されたFGF2アプタマー製剤は安定であることが明らかとなった。
【0069】
【表2】
【0070】
実施例6(他のFGF2アプタマー製剤における結果)
アプタマーID2~6で表されるアプタマーを、水(マンニトール水溶液)、生理食塩水又はPBSで適切な濃度に溶解してFGF2アプタマー製剤を調製する。得られる各FGF2アプタマー製剤を様々な温度条件や保存温度で数か月間保存したのち、サイズ排除クロマトグラフィー及びSPR法により単量体含有率と結合活性を測定する。
アプタマーID2:
GL2-400TS-C6-C(M)G(M)G(M)A(M)U(M)A(M)C(M)U(F)A(M)G(M)G(M)GC(M)A(M)U(M)U(F)A(M)A(M)U(M)G(M)U(F)U(M)A(M)C(M)C(M)A(M)GU(F)GU(F)A(M)G(M)U(M)C(M)C(M)G(M)-idT;
アプタマーID3:
GL2-400TS-C6-C(M)C(M)G(M)A(M)U(M)A(M)C(M)U(F)A(M)G(M)G(M)GC(M)A(M)U(M)U(F)A(M)A(M)U(M)G(M)U(F)U(M)A(M)C(M)C(M)A(M)GU(F)GU(F)A(M)G(M)U(M)C(M)G(M)G(M)-idT;
アプタマーID4:
GL2-400TS-C6-G(M)G(M)G(M)A(M)U(M)A(M)C(M)U(F)A(M)G(M)G(M)GC(M)G(M)U(M)U(F)A(M)A(M)C(M)G(M)U(F)U(M)A(M)C(M)C(M)A(M)GU(F)GU(F)A(M)G(M)U(M)C(M)C(M)C(M)idT-;
アプタマーID5:
GL2-400TS-C6-G(M)G(M)G(M)A(M)U(M)A(M)C(M)U(F)A(M)G(M)G(M)GC(M)A(M)U(M)U(F)U(M)A(M)U(M)G(M)U(F)U(M)A(M)C(M)C(M)A(M)GU(F)GU(F)A(M)G(M)U(M)C(M)C(M)C(M)idT-;及び
アプタマーID6:
idT-G(M)G(M)G(M)A(M)U(M)A(M)C(M)U(F)A(M)G(M)G(M)GC(M)A(M)U(M)U(F)A(M)A(M)U(M)G(M)U(F)U(M)A(M)C(M)C(M)A(M)GU(F)GU(F)A(M)G(M)U(M)C(M)C(M)C(M)-C6-GL2-400TS
これらの結果から、その他のFGF2アプタマーにおいても電解質を含まないマンニトール水溶液により調製されたFGF2アプタマー製剤は安定であることが明らかとなる。
【0071】
比較例1(FGF2アプタマー製剤の安定性試験)
アプタマーID1で表されるアプタマーを生理食塩水又はPBS で20mg/mLとなるように溶解してFGF2アプタマー製剤を調製した。得られた各FGF2アプタマー製剤を表3に示す様々な温度条件で3カ月間保存したのちサイズ排除クロマトグラフィーにより単量体含有率を測定した。結果を表3に示す。この結果から電解質を含む生理食塩水やPBSにより調製されたFGF2アプタマー製剤は不安定であることが明らかとなった。
【0072】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明のアプタマー製剤は、FGF2に対するアプタマー又はその塩を、注射剤等の水性液剤の形態で、冷蔵保存によっても長期間安定に保存することができるので、FGF2を阻害することで薬効を発揮し得る疾患(例、加齢黄斑変性症などの血管新生を伴う疾患、骨粗鬆症、関節リウマチ、変形性関節症、骨折などの骨・軟骨疾患、疼痛)に対する治療又は予防剤として、取扱いに優れた製剤を提供できる点で極めて有用である。
本出願は、日本で出願された特願2018-124390(出願日:平成30年6月29日)を基礎としており、その内容はすべて本明細書に包含されるものとする。
【配列表】
0007340264000001.app